編集 荒船次郎 東京大学名誉教授
江沢 洋 学習院大学名誉教授
中村孔 一 明治大学教授
米沢富美子 慶應義塾大学名誉教授
は
じ
め
に
原 子 や そ れ が結 び つ い て つ くら れ る分 子 が 物 質...
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編集 荒船次郎 東京大学名誉教授
江沢 洋 学習院大学名誉教授
中村孔 一 明治大学教授
米沢富美子 慶應義塾大学名誉教授
は
じ
め
に
原 子 や そ れ が結 び つ い て つ くら れ る分 子 が 物 質 の 基 本 的 構 成 要 素 で あ る こ と は 現 在 で は 広 く知 ら れ て い る.20世
紀 は じめ,原
子が 原子核 とそれ を取 りま
い て 走 り回 って い る電 子 群 とか ら成 り立 っ て い る こ とが わ か り,つ い で1920 年 代 に誕 生 し た量 子 力 学 に よ っ て定 量 的 な研 究 が 行 わ れ る よ うに な っ た.1930 年 代 に お い て は原 子核 の 構 造 ・性 質 や 原 子 が 結 びつ い て 分 子 をつ くる化 学 結 合 の 本 質 の 解 明 を含 め,原
子 物 理 学 は ま さ に 物 理 学 の 最 先 端 分 野 で あ っ た.当
時,学 問 を 目指 す 多 くの 若 者 た ちの あ こ が れ の 的 で あ っ た と い っ て も過 言 で は な い.し か し,そ の 後 理 論 研 究,お
よ び加 速 器 な ど の実 験 技 術 の 進 歩 に よ り,
物 理 学 の 先 端 が 原 子 核 か ら さ らに は素 粒 子 へ と進 む につ れ て,研
究 者 の 多 くは
こ れ らの 新 しい 分 野 へ と集 中 し,原 子 や 分 子 の 研 究 は と り残 さ れ た 感 が あ る. と くに わ が 国 の 諸 大 学 に お い て は 原 子 物 理 学 は そ れ ほ ど重 視 され て い る よ うに は 見受 け られ な い.し か し,原 子物 理 学 で はや る こ とが ほ とん ど残 っ て い な い とい う こ とで は な い. 話 を単 一 の 原 子 に 限 っ て も,長 年 研 究 され か な り くわ し くわ か っ た と思 わ れ て い るの は,基 底 状 態 また は そ れ に近 い 状 態 につ い て の こ とで あ る.電 子群 の 多重 励 起 状 態 や 多価 イ オ ン,さ
らに は 強 い 電 磁 場 内 の 原 子 の挙 動 な どに つ い て
は ま だ研 究 が 始 ま っ た ば か りで あ る.原 子 分 子 が 自然 界 に お い て 「最 も基 本 的 な粒 子 」で は な い とい っ て も,私 た ち の まわ りで,ま た 私 た ち の 体 内 で 進 行 し て い る諸 現 象 の 多 くは 素 粒 子 論 に まで 立 ち入 る こ とな く,自 然 界 が 原 子 分 子 の 集 合 体 で あ る とす る立 場 か ら理 解 され る もの で,そ
の 意 味 で原 子分 子 は今 もな
お 物 質 の 基 本 的 構 成 要 素 な の で あ る.し た が って,学
問 や 技 術 の 多 くの研 究 分
野 で 原 子 分 子 物 理 学 の 知 識 を必 要 と して い る もの は決 して 少 な くな い.た
とえ
ば,天 体 物 理 学,放
電科 学,放 射 線科 学 な どで は 半世 紀 以 上 前 か ら原 子 分 子 の
知 識 を基 礎 に置 い て い た し,最 近 で は 核 融 合 プ ラ ズマ の 研 究 で も この 分 野 の 知 識 が 欠 くこ との で きな い もの とな っ て い る.さ て い る レー ザ ー 科 学 も,も
らに,広 範 囲 な 応 用 と結 び つ い
とは 原 子 分 子 物 理 学 か ら 出 た も の で あ る し,逆 に
レー ザ ー 技 術 の め ざ ま しい 進 歩 が 原 子 分 子 物 理 自身 を は じめ とす る科 学 研 究 に 画 期 的 な 貢 献 を して きた.ま
た,高 分 解 分 光,分
子 線 共 鳴,あ
る い は1個
ない
し少 数 個 の 原 子 を空 間 の 小 さ な領 域 に 閉 じ こめ て あ い ま い さ を極 度 に減 ら し た 精 密 測 定 を行 うな ど高 精 度 測 定,先
端 技 術 へ の 貢 献 が つ ぎつ ぎに 報 告 され て い
る.こ の よ うに物 理 学 の 基 礎 の1つ
と して,ま
た 多 くの 応 用 分 野 の 基 礎 と し て
重 要 で あ る とこ ろ か ら,欧 米 各 国 の 著 名 な 大 学 の 物 理 学 教 室 で は原 子 物 理 学 を 重 点 課 題 の1つ
と して 研 究 し,そ の 成 果 を教 育 の カ リキ ュ ラム に反 映 させ て い
る と こ ろが 少 な くな い. こ の よ う に長 い 間 研 究 が 続 け ら れ て きた 原 子(お よ び分 子)物 理 学 で は あ る が,上
記 の よ うな 諸 分 野 か らの 要 請 に対 して 十 分 な知 識 を提 供 す る に は ま だ ま
だ不 足 して い る.そ の 理 由 は研 究 対 象 で あ る原 子 や そ の 集 団 が きわ め て 多種 多 様 で あ る こ と,扱 うエ ネ ル ギー 範 囲 がmeV*1く
らい の 低 い値 か ら大 き な加 速
器 で 加 速 され る イ オ ン の エ ネ ル ギー ま で10桁
を 超 え る 広 が りに な っ て い る こ
と,そ れ に 応 じて 主 要 な現 象 の 種 類 や 性 格 が ま っ た く変 わ っ て し ま う こ とな ど に あ る.さ
らに,近 年 に な っ て,昔
は 考 え ら れ な か った 粒 子 系や 状 態 が 現 実 に
つ く られ る よ う に な っ た こ と も新 し い 研 究 を 必 要 と して い る理 由 に な っ て い る.す で に 述 べ たが,原 子 や 分 子 の 高 い 励 起 状 態,と 高 次 電 離 した 多価 イ オ ン,さ
くに 多重 励 起 状 態,ま
た
らに きわ め て強 い 電磁 場 中の 原 子 や 分 子 な どが そ
の 例 で あ る.ま た,通 常 の 原 子 核 や 電 子 以 外 の 粒 子,た
と え ば 陽 電 子,反
陽
子,π 中 間 子 や μ粒 子 な ど を構 成 要 素 と して含 む 特 殊 な 原子 や 分 子 の 構 造 ・性 質 も重 要 で あ る.物 理 学 の 対 象 の 中 で も原 子 系 が 最 も精 密 測 定 に 適 して い る こ とか ら,こ れ を対 象 と して 物 理 学 の 基礎 的 諸 法 則 の 検 証 をす る こ とが い ま まで も行 わ れ て き た し,今 後 も行 わ れ るで あ ろ う. 原 子 分 子 に つ い て は 多 くの 量 子 力 学 の 教 科 書 に 水 素 原 子 や ゼ ー マ ン 効 果 *1 eV=電
子 ボ ル ト(electron
獲 得 す る エ ネ ル ギ ー で,お
volt) .電
子 が1Vの
よ そ1.602177×10-19Jで
電 位 差 を もつ2点 あ る.
間 で加 速 さ れ た と き に
(Zeeman
effect),周 期 律,と
き に は分 子 の 振 動 ・回転 な ど い くつ か の 話 題 が 書
か れ て い る.し か し,そ れ か ら先 の こ とは ほ とん ど書 か れ て い な い よ うで あ る.そ
こ に本 書 の よ う な専 門 書 が 登 場 す る理 由 が あ る.た だ し,前 述 の よ うに
原 子 分 子 に お け る問 題 の 多様 性 の た め に,主 要 な話 題 だ け に して もそ の す べ て を1冊 の 本 で詳 細 に 述 べ る こ と は 困難 で あ り,ま た筆 者 ひ と りで で き る こ とで もな い.し
た が っ て,で
き るだ け 多 くの 話 題 を取 り入 れ て は あ るが,そ
の なか
に は ご く簡 単 に触 れ るだ け に な っ て し まっ た もの もあ る こ と をお 許 しい た だ き た い.ま
た,こ れ も前 に 述 べ た よ うに,原 子 分 子 の 知 識 は 多 くの 他 分 野 の 研 究
に も必要 とさ れ て い るが,そ
れ に対 して 適 当 な参 考 書 が(少 な く も 日本 語 で 書
か れ た もの は)見 あ た ら な い.本 書 は シ リー ズの 方 針 に 沿 っ て 専 門書 と して 書 か れ て い るが,ま
た で き る か ぎ り説 明 を平 易 に して 広 い範 囲 の 読 者 に 利 用 して
い た だ くこ とを考 え た つ も りで あ る.た だ し,量 子 力 学 に つ い て の 初 等 的 知 識 は 前 提 と し た. な お,原 子 分 子 の 分 子 と して は 原 子 物 理 学 の 延 長 と して議 論 で き る程 度 の 少 数 原 子 系 ま で を 考 え て お り,他 に もい くつ か の 成 書(主 と して 化 学 分 野 の研 究 者 に よ る)に あ る分 子 の 電 子 状 態 に つ い て は 深 くは 立 ち入 ら な い こ と に し た. ま た原 子分 子 物 理 学 と して は 各 種 の 原 子 分 子 過 程(衝 突 ・反 応 や 電 磁 波 との 相 互 作 用 な ど)に つ い て の議 論 が 重 要 な 部 分 を 占め て い る.し か し,そ こ ま で を 一 冊 に含 め る こ とは到 底 で き な い の で ,原 子分 子 に よ る光 の 吸収 ・放 出 以 外 の 原 子 分 子 過 程 につ い て は 本 書 の姉 妹 編 と して別 に 書 くこ とに した. 本 文 中 で[1][2]な
ど と書 か れ た参 考 文 献 の 一 覧 表 は 巻 末 に掲 載 して あ る.
本 書 は も と も と筆 者 が 東 京 大 学 の 大 学 院 で定 期 的 に 実 施 して きた 半 年 の 講 義 の ノー トの 前 半 を も とに し て,講 義 で話 せ な か っ た こ とや 最 近 の進 歩 の一 端 を 加 え て で きた も の で あ る.初 期,ま
たは 中間段 階の 原稿 の全体 を戸嶋信 幸 氏
(筑 波 大 学)に 通 し て 見 て い た だ い た ほ か,石 黒 英 一 氏,井 武 氏,香
口道 生 氏,金
子尚
川 貴 司 氏 に も数 章 に わ た って 点 検 して い た だ き,そ れ ぞ れ 多 くの有 益
な ご助 言 を い た だ い た.さ
らに こ の 物 理 学 大 系 の 編 集 者 と くに 江 沢 洋 氏,中
村 孔 一 氏 か ち も 多 くの ご 注 意 を い た だ き,も
との 原 稿 よ り も読 みや す い もの に
な っ たか と思 う.J.
よび 渡 辺 信 一 氏か らは,と
Berkowitz氏(ANL)お
書 の ため に 図 版 を用 意 して い た だ い た.こ
くに 本
れ らの 方 々 に,こ の紙 面 を借 りて 厚
く御 礼 申 し上 げ る.本 書 は 内容 が 多岐 に わ た り,最 終 原稿 で も な お不 備 の個 所 が 残 っ て い る こ と を恐 れ る.読 者 諸 賢 か ら ご教 示 い た だ け れ ば 幸 甚 で あ る.
本 書 の 執 筆 を引 き受 け た あ と,予 定 し て い な か っ た諸 事 に よ り原 稿 完 成 が か な り遅 れ て し ま っ た.そ の 間,ほ
ど よ い 間 隔 で 催 促 ・激 励 しな が ら辛 抱 強 く
待 っ て くだ さ り,ま た 原 稿 の 不 備 を 丹 念 に拾 い 出 して 問 題 点 を指 摘 して くだ さ っ た朝 倉 書 店 編 集 部 の み な さん に 大 変 お 世 話 に な っ た こ と を付 け加 え て 謝 意 を表 す る. 2000年4月 高 柳 和 夫
目
1 序
次
論
1
Ⅰ 原 2 水 素
様
原
子
子
2.1 水 素 原 子,水
11
素 様 イ オ ン―
非 相 対 論 的 取 り扱 い
2.2 水 素 様 軌 道 関 数
18
2.3 原 子 単 位 2.4 電 子 の ス ピ ン,デ
11
22 ィ ラ ッ ク方程 式
24
2.4.1
電 子 の ス ピ ン
24
2.4.2
自由 電 子 に対 す る デ ィ ラ ッ ク方 程 式
27
2.4.3
外 場 が あ る と きの デ ィ ラ ッ ク方 程 式
29
2.4.4
デ ィ ラ ッ ク理 論 に お け る水 素 様 原 子
34
2.5 水 素 様 原 子 の エ ネ ル ギ ー に 対 す る そ の 他 の 補 正
36
2.5.1
原 子核 の 質 量 へ の依 存 性
36
2.5.2
量 子 電 磁 力学 に よ る補 正
37
2.5.3
原 子 核 の 広 が り,構
造 の 効 果,超
微細構 造
39
3 ヘ リ ウ ム 様 原 子
43
3.1 重 心 運 動 の 分 離
43
3.2 パ ラ ヘ リ ウ ム と オ ー ソヘ リ ウ ム
45
3.3 摂 動 論 に よ る 扱 い
49
3.3.1
摂 動 論 の あ ら ま し
49
3.3.2
ヘ リウ ム 原 子 へ の 適 用
53
3.4 変 分 法 に よ る 扱 い
57
3.4.1
変 分 法 の あ ら ま し
57
3.4.2
ヘ リウム 様 原 子 の 簡 単 な変 分 関数
60
3.4.3
電 子 間 距 離r12を
63
含む試行関数
3.5 ハ ー ト リー の 方 法 と ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク の 方 法
68
3.6 相 対 論,量
74
子電磁 力学の効果
3.7 ヘ リ ウ ム 様 原 子 の エ ネ ル ギ ー 準 位 の 例
77
3.8 H-イ
81
オ ン
4 電 磁 場 中 の 原 子,光
の 放 出 ・吸 収
83
4.1 静 電 場 の な か の 原 子
83
4.1.1
一 様 な 静 電 場 の なか の 球 対 称 原 子
83
4.1.2
一般 静電場 中の原子
89
4.1.3
水 素 様 原 子 の シ ュ タ ル ク効 果
91
4.1.4
電 場 に よ る電 離
93
4.2 静 磁 場 の な か の 原 子
94
4.2.1
ゼ ー マ ン効 果
94
4.2.2
パ ッ シ ェ ン-バ ッ ク効 果
102
4.2.3
きわ め て 強 い磁 場 中の 原 子
104
4.3 振 動 電 場 中 の 原 子,光
の 散 乱 ・屈 折
107
4.3.1
振 動 電 場 に よ る原 子 の分 極
4.3.2
レ イ リー 散 乱,ト
4.3.3
光 の 屈 折
115
4.3.4
振動 子強度
116
4.4 原 子 に よ る 光 の 放 出 ・吸 収
119
ム ソ ン 散 乱,コ
4.4.1
半 古典 論 に よ る吸 収 率 の 導 出
4.4.2
ア イ ン シ ュ タ イ ン の 係 数A,
4.4.3
光 学 的 許 容 遷 移,選
4.4.4
水 素 様 原 子,ヘ
4.4.5
光 学的禁止遷移
Bと
107 ン プ トン 散 乱
110
119 そ の 関係 式
択則
リウ ム様 原 子 の 許 容 遷 移
124 129 133 139
4.4.6
ス ペ ク トル 線 の 形 と 広 が り
145
4.4.7
放 射 の 伝 達,レ
149
4.4.8
多光 子過 程
5 一
般
の 原
子
ー ザ ー
155
158
5.1 原 子 構 造 の 概 要
158
5.1.1
基 底 状 態 の 電 子 配 置,周
5.1.2
励 起 状 態,特
性X線
5.2 角 運 動 量 の 合 成,多
期 律
重項構造
158 165 170
5.2.1
角 運 動 量
170
5.2.2
多重 項 構 造
173
5.2.3
角 運動量合 成の係数
181
5.3 電 子 状 態 の エ ネ ル ギ ー と波 動 関 数
189
5.3.1
電 子 状 態 の エ ネ ル ギー の 計 算
189
5.3.2
波動関数 の計算
194
5.3.3
相 対 論 の効 果
200
5.4 高 励 起 原 子
203
5.4.1
高 励 起 原 子 の 所 在 と特 徴
203
5.4.2
低 速 電 子 散 乱 との 関 連
208
5.4.3
電 場 中の 高 励 起 原 子
211
5.4.4
高励 起 原 子 の 生 成 と検 出
215
5.5 多 重 励 起 状 態
217
5.5.1
多 重 励 起 状 態 の 存 在 と特 徴
217
5.5.2
超 球 座 標 の 導 入
221
5.5.3
2電 子 励 起 状 態 の 分 類
224
5.6
トー マ ス-フ ェ ル ミの 方 法 と 密 度 汎 関 数 理 論
228
6 光 電 離 と 放 射 再 結 合
232
6.1 連 続 エ ネ ル ギ ー 状 態 の 波 動 関 数
233
6.1.1
中性 原 子 が つ くる場 の なか の 自由 電 子
233
6.1.2
イ オ ンが つ くる場 の なか の 電 子
236
6.1.3
平面 波の規格化
237
電
238
6.2 光
離
6.2.1
光電 離の断面積
238
6.2.2
自動 電 離 状 態 の 寄 与
245
6.2.3
多 重 電 離
249
6.2.4
負 イ オ ン か らの 光 脱 離
252
6.3 放 射 再 結 合
253
6.3.1
再 結 合 過 程 の い ろ い ろ
253
6.3.2
放 射 再 結 合 断 面 積 の導 出
254
6.3.3 再 結 合 係 数 6.4
256
自 由-自 由 遷 移
259
6.5 振 動 子 強 度
260
6.5.1
振 動子強度 の総和則
260
6.5.2
振 動 子 強 度 の 応 用
264
6.5.3
振 動 子 強 度 分 布 の 例
266
話 題1
運 動 量 空 間 に お け る 波 動 関 数 と(e, 2e)実 験
269
話 題2
原 子 の 変 わ り種
272
Ⅱ 分
子
7 二 原 子 分 子 の 電 子 状 態
279
7.1 核 運 動 の 分 離
279
7.1.1
ボ ル ン-オ ッペ ン ハ イ マ ー 近 似
279
7.1.2
ビ リア ル定 理
281
7.2 水 素 分 子 イ オ ン と 水 素 分 子
285
7.2.1
水 素 分 子 イ オ ン
285
7.2.2
LCAO近
288
7.2.3
水 素 分 子―
7.2.4
水 素 分 子―MO法
似 ハ イ トラ ー-ロ ン ド ン理 論
292 296
7.2.5
「軌 道 」概 念 を 超 え た 扱 い
7.3 一 般 の 二 原 子 分 子
298 302
7.3.1
等核二原子分 子
302
7.3.2
異核二原子分 子
308
8 二 原 子 分 子 の 振 動 ・回 転
315
8.1 振 動 と 回 転
315
8.2 電 子 系 の 角 運 動 量 と 分 子 回 転 の 結 合
320
8.3 核 ス ピ ン の 分 子 回 転 へ の 影 響
326
9 多 原
329
子
分 子
9.1 多 原 子 分 子 の 電 子 状 態
329
9.1.1
電 子 対 結 合 の 理 論,原
9.1.2
簡 単 な 分 子 の 例,混
9.1.3
分 子軌 道 の 対 称 性
336
9.1.4
π電
346
子
系
子価
329
成軌道
332
9.2 多 原 子 分 子 の 振 動 ・回 転
353
9.2.1
基 準 振 動
353
9.2.2
振動 の非調和性
357
9.2.3
反転 二 重 項
359
9.2.4
多 原 子 分 子 の 回転
362
10 電 磁 場 と 分 子 の 相 互 作 用,分 10.1 静 電 場,静
子 ス ペ ク トル
磁 場 中の 分 子
367 367
10.1.1
分 子 の 電 気 的 お よ び 磁 気 的 モ ー メ ン ト
367
10.1.2
一 様 電 場,磁
371
場 中の分子
10.2 分 子 に お け る 放 射 過 程
375
10.2.1
振 動 ・回 転 遷 移
375
10.2.2
電 子 遷 移
379
10.2.3
分 子の光電離
388
10.2.4
光 解 離,前
10.2.5
ラ ン ダ ウ-ゼ ー ナ ー の 公 式 とそ の 改 良
393
10.2.6
ラ マ ン効 果
397
11 原 子 間 力,分 11.1
期解 離
子間力
原 子 間,分
390
401
子間の相互作用
401
11.1.1
近 距離での相互作用
401
11.1.2
分 子 間 力 と 気 体 の 諸性 質
403
11.2
中 ・遠 距 離 で の 分 子 間 力
406
11.2.1
静
電
力
406
11.2.2
分
極
力
407
11.2.3
分
散
力
409
11.2.4
相 対 論 の効 果
412
参 考 文 献
414
あ
418
索
と が き 引
421
1 序
論
原 子 分 子 に つ い て の歴 史 的 な話 を ご く簡 単 に述 べ て序 論 に代 え た い. 古 代 ギ リ シ ャに お い て,多 が,ご
くの学 者 た ち は 物 質 は 連 続 的 な もの と考 え て い た
く一 部 の 人 は 物 質 を細 分 して い く と究 極 の 構 成 単 位(原 子)に 到 達 す る
と考え た.そ の よ うな考 え を も っ た 人 の代 表 と してDemokritosの
名が あげ ら
れ る.し か し,当 時 こ の考 え を裏 づ け る事 実 が 見 つ か っ て い た わ け で は な く, 少 数 派 の 考 え と し て 大 勢 に 押 しつ ぶ され,再
び 「原 子 」が 物 理 学 や 化 学 の 話 題
と し て 真 剣 に と り あ げ られ る よ う に な る ま で2000年
もの 歳 月 を要 した の で
あ った. 17世 紀 はI. Newtonが る が,同
力 学 を集 大 成 し,物 理 学 の 基 礎 をつ くった 時 期 で あ
じ世 紀 に 気 体 の性 質 につ い て の一 連 の 研 究 が 進 み,そ
お け る近 代 的 実 験 の は じ ま り とい わ れ て い る.R.
Boyleが
れ らは 物 理 学 に
気 体 の 体 積 と圧 力
につ い て の ボ イル の 法 則 を発 見 した の もこ の 時 期 で あ る.こ の 法 則 は 次 の 世 紀 に な って,気 体 を粒 子 の 集 団 と見 る立 場 か ら理 論 的 に 説 明 さ れ た.こ れ を は じ め と して,物
質 が 原 子 の 集 ま りで あ る とす れ ば 理 解 しや す い事 実 が 次 第 に 見 つ
か って きた.18世
紀 に は 気 体 を発 生 させ 捕 集 し分 析 す る方 法 が 見 い だ さ れ,
気 体 化 学 が 盛 ん に な っ た.と
くに フ ラ ン ス のA. L. Lavoisierは,定
量 的測定
法 を導 入 して化 学 反 応 に お け る質 量 保 存 則 を見 い だ し た の を は じめ 多 くの 功 績 が あ っ た.彼 が 導 入 した 単 体 の 概 念 が 英 国 のJ. Daltonに 発 展 され,い
わ ゆ る ドル トン の 原 子 論 と な っ た.19世
よ っ て受 け 継 が れ,
紀 初 頭 の こ と で あ る.
彼 自身,気 体 分 圧 の 法 則 や 倍 数 比 例 の法 則 を見 い だ して い る.彼 の考 えに よ れ ば,単
体 は 同 一 種 の 原 子 の 集 ま りで あ り,化 合 物 は2種 以 上 の単 体 原 子 が 一 定
の 割 合 で 結 合 して で きた化 合 物 原 子 の集 ま りで あ る.こ の よ うな考 えか ら,物 質 ご との 究 極 粒 子 の 重 量 比 が 重 要 で あ る と し て 原 子 量 の 概 念 を提 唱 し た.一
方,フ
ラ ン ス のJ. L. Gay-Lussacは,反
応 す る気 体 の体 積 に 着 目 し,気 体 ど
う しが 反 応 す る と きの体 積 は 一 般 に小 さ な整 数 比 に な る こ と,生 成 物 が気 体 で あ る とき は そ の体 積 も反 応 気 体 の体 積 と簡 単 な 比 を 与 え る こ と を見 い だ し た. こ こに 出 て く る整 数 比 の値 は ドル トン の 原 子 論 とは 矛 盾 す る もの が あ っ た.こ の不 一 致 は イ タ リア のA. 解 消 す る.す
Avogadroの,い
わ ゆ る ア ボ ガ ドロ の 仮 説 に よ っ て
な わ ち,単 体 の 基 本 粒 子 はDaltonが
考 え た よ う な 原 子 で な く,
た とえ ば水 素 や 酸 素 な ら2原 子 が 結 合 してつ くられ る分 子 と呼 ば れ る もの で あ る とす るな ど,今
日私 た ちが 知 って い る よ うな 原 子 と分 子 の 区 別 を導 入 し,さ
ら に 同温 同圧 同 体 積 内 の 気 体 は すべ て 同 数 の 分 子 を含 む とす る こ とに よ って 矛 盾 の な い説 明 が 可 能 とな っ た の で あ る.し か し,イ タ リア の雑 誌 に 掲 載 され た 彼 の 論 文 が 広 く認 め られ る よ うに な っ た の は 半 世 紀 もた っ てか らの こ とで あ っ た. 19世 紀 は 熱 学,電
磁 気 学,光
学 な ど物 理 学 の 各 分 野 が め ざ ま し い 発 展 を遂
げ た 時期 で あ る が,分 光 学 も物 質 研 究 の 手段 と して 重 要 で あ る こ とが 認 識 され そ の進 歩 が 著 しか っ た.Rb, 発 見 され て い る.と
Csな
くに1885年
どの 元 素 も スペ ク トル分 析 に よ っ て初 め て
に ス イ スのJ. J. Balmerは
水 素 原 子 のス ペ ク
トル の 可 視 部 に 規 則 的 な 系 列 が あ る こ と を 発 見(バ ル マ ー 系 列),の Bohrに
ち にN.
よ っ て 原 子 模 型 が つ く られ る と きに重 要 な 手 が か り とな っ た.
1870年 こ ろ ま で に す で に60種
を超 え る元 素 が知 ら れ て い た が,こ
れ ら を原
子 量 の順 に並 べ る とい ろ い ろ な性 質(た と えば,化 学 結 合 をつ くる 手 の 数― 原 子 価)の 似 た もの が 繰 り返 し現 れ る こ と も知 られ て い た .ロ シ ア のD. Mendeleevは,ま
を残 して 既 知 の 元 素 を並 べ る こ と に よ り,今 完 成 させ た.逆
J.
だ発 見 さ れ て い な い 元 素 が あ るだ ろ う と考 え,適 当 な 空 席 日の 周 期 律 表 の 原 形 とな る も の を
に この 表 を用 い て 未 知 の 元素 の 存 在 とそ の性 質 を予 言 し た.
19世 紀 後 半 に な る と,低 圧 放 電 管 の な か の 陰 極 か ら放 出 され る放 射 線(陰 極 線)が 負 の 電 気 を帯 び た粒 子 で あ る こ とを示 唆 す る実 験 が何 人 もの 手 で 行 わ れ た が,ま
だ 陰 極 線 は 電 磁 波 で あ る と信 ず る人 もい た.1897年
のJ. J. Thomsonは
に な って,英
国
陰 極 線 が磁 場 だ け で な く電場 に よ っ て も曲 げら れ る こ と,
陰極 に 用 い る金 属 の 種類 や 放 出 手 段 が 加 熱 か 光 照 射 か に よ らず 同 じ比 電 荷(電 荷 と質 量 の 比)を 与 え る こ と な どか ら,陰 極 線 の 本 体 が 負 の 電 荷 を も ち,物 質
中 に 普 遍 的 に 存 在 す る粒 子 で あ る こ と を結 論 した.こ れ が 電 子 で あ る.そ れ ま で 原 子 が 物 質 を構 成 す る最 小 の 基 本 単 位 で あ り,な か で も水 素 原 子 は最 も軽 い 粒 子 と考 え ら れ て い た が,電
子 は そ れ に くらべ て1000分
の1以 下 の は る か に
軽 い 粒 子 で あ る こ とが わ か り,原 子 も内 部 構 造 を もつ こ と を予 想 させ た.こ
う
して 原 子 構 造 の研 究 が始 ま る こ とに な っ た. 通 常 の 物 質 は 電 気 的 に 中性 で あ るか ら,も
し電 子 が 物 質 構 成 要 素 の1つ で あ
る とし た ら,そ の 電 荷 を打 ち 消 す だ け の 正 の 電 荷 もあ る は ず で あ る.し か し, 正 の 電 荷 を もつ 実 体 が どの よ うな もの で あ るか を示 唆 す る 明確 な事 実 は まだ 知 られ て い な か っ た.J.
J. Thomsonの
原 子 模 型 や 長 岡 半 太 郎 の 原 子 模 型 な どが
提 案 され た あ と,ア ル フ ァ線 散 乱 の 実 験 結 果 を説 明 す る た め にE. が1つ の 原 子模 型 を提 出 した.サ
Rutherford
イ ズ は小 さ い が質 量 は電 子 よ りは るか に 大 き
く,し か も正 の 電 荷 を もつ 原 子核 の ま わ り を,軽 い 電 子 が クー ロ ン力 に よ っ て 引 き と どめ られ な が ら周 回運 動 をす る とい う もの で あ る.太 陽 の ま わ り を惑 星 が 回 るの に似 て い る.1911年
の こ とで あ る.2年
後,こ
の モ デ ル を も とに 分 光
学 の 知 識 と結 びつ け て ボ ー ア の 原 子 模 型 が つ くられ た. とこ ろ で,正 電 荷 の ま わ りを負 の 電 荷 を もつ 電 子 が 軌 道 運 動 す る と,電 磁 波 を放 出 して エ ネ ル ギー を失 うか ら,次 第 に 原 子 核 に 向 か っ て 落 ち込 ん で し ま う.こ れ は 古 典 力 学 ・電 磁 気 学 で は避 け られ な い こ とで あ る.こ れ を 回避 す る ため にBohrは2つ
の こ と を仮 定 した.ま ず,定 常 状 態 の 存 在 を仮 定 し た.す
な わ ち,彼 が 与 え た あ る条 件(量 子 条 件)に か な っ て い る状 態 だ け が 定 常 的 で あ り う る こ と,次 に エ ネ ルギー が 高 い定 常 状 態 にお か れ た 原 子 は一 定 の 確 率 で それ よ り低 い定 常 状 態 へ と遷 移 し,そ の 際 エ ネ ル ギー 差 に 相 当 した 光 子 を1つ 放 出す る と い う もの で あ る.こ こ で光 子 に つ い て補 足 して お か な け れ ば な らな い.1900年
にM.
Planckは,物
体 の熱 放 射 の理 論 に 関 連 し て い わ ゆ る量 子 仮
説 を提 出 し た.す な わ ち,物 質 が 振 動 数ν の 電 磁 波 を放 出 ま た は 吸 収 す る と きはν に 比例 す る エ ネ ル ギ ー 素量hν を単 位 と して行 う とす る も の で あ る.h は プ ラ ン ク の 定 数 と呼 ば れ,お
よ そ6.626076×10-34J・sの
値 を もつ.A.
Ein
steinは こ れ を さ らに 広 げ て,電 磁 波 は す べ てhν と い うエ ネ ル ギー の か た ま り と,hν/c(cは
真 空 中 の 光 の 速 さ)と い う運 動 量 を も つ 粒 子(光 量 子 と呼 ん
だ.現 在 の 光 子 に 相 当)の よ うに 振 る 舞 い,空 間 を伝 播 す る と考 え た.こ の 光
量 子 説 は 光 電 効 果 を よ く 説 明 す る.ま effect)が
発 見 さ れ る と,こ
た 後 に コ ン プ ト ン 効 果(Compton
れ が 光 子 と 電 子 の2粒
子 衝 突 現 象 と して 理 解 で き
る こ と か ら光 の 粒 子 性 の 存 在 は 疑 い の な い も の と な っ た. 前 述 の ボ ー ア の 原 子 模 型 で も 光 の こ の 性 質 を 考 慮 に 入 れ て い る.す
な わ ち,
2つ の 許 さ れ る 状 態 間 で ジ ャ ン プ が 起 こ る と(原 子 分 子 物 理 で は こ れ を 一 般 に 状 態 間 の 遷 移,transitionと す る こ と に な る が,こ し,こ
呼 ぶ),そ
れ をhν
の よ う に し て1つ
の エ ネ ル ギー 差 を光 で 放 出 ま た は 吸 収
と お く こ と に よ り波 動 と し て の 振 動 数 が 確 定
の 原 子 の 与 え る 光 の ス ペ ク トル が 求 め ら れ る.Bohr
が こ う し て 得 た 水 素 原 子 の ス ペ ク ト ル は さ き にBalmerが 定 量 的 に よ く合 致 し,原
子 構 造 を 理 解 す る 有 力 な 手 が かり と な っ た.Bohrが
考 え た モ デ ル で は 前 述 の よ う に も う1つ
量 子 条 件 と い う もの が あ っ て,自
で 許 さ れ て い る 軌 道 運 動 を 選 別 し て い る.そ 運 動 量 がh/2π
実 験 で得 た経 験 式 と
の 条 件 と い うの は,軌
の 整 数 倍 に 限 る と い う も の で あ る.こ
頻 繁 に 理 論 式 の な か に 出 て く る の で 通 常 こ れ をhと 値 は お よ そ1.054572×10-34J・sで
あ る.彼
上 述 の 条 件 に か な う軌 道 を 求 め る と,そ
の あ とh/2π
然界
道 運 動 の角 と い う量 が
い う 一 文 字 で 表 す.そ
の
は 最 も 簡 単 な 円 軌 道 を 考 え た が,
の エ ネ ル ギー は
(1.1) と な る.た
だ し,Ze, -eは
者 の 換 算 質 量,ε0は
国 際 単 位 系 で の 原 子 核 お よ び 電 子 の 電 荷,μ
真 空 の 誘 電 率 で あ る*1.ま
も っ て い き 静 止 さ せ た と き の エ ネ ル ギ ー を0と 値 が と び と び で あ る こ と の 他 にn=1の し な い こ と が 注 目 さ れ る.nの
た,電
は両
子 を 核 か ら十 分 遠 く に
し て い る.許
され る エ ネ ル ギー
状 態 よ り も低 い エ ネ ル ギ ー状 態 が 存 在
異 な る状 態 間 の遷 移 に よ り
(1.2) で 与 え ら れ る 一 群 の 振 動数νnn'が ペ ク トル に 対 応 す る .前 >n'=2に
相 当)と
得 ら れ,Z=1と
述 の よ う に,こ
す れば これが水素 原子 の ス
の モ デ ル は バ ル マ ー 系 列 の 観 測 値(n
よ く合 致 し た.
*1 本 書 で は 主 に 国 際 単 位 系(SI)を
用い る .原子 分子 物理 の 文 献 で はcgsガ ウ ス単 位 系 を用 い る も の が 多 い.(1.1)を 従 来 のcgs系 の 式 に す る に は,cgs系 で の 素 電 荷 をe'と して e2/4π ε0をe'2に 置 き 換 え れ ば よ い .な お(2.1)式 の 脚 注 参 照.
ス ペ ク トル 線 の 振 動 数,ま ber,
1cmに
た は 分 光 学 で よ く用 い ら れ る 波 数(wave
波 長 が 何 個 含 ま れ る か と い う 数)*2は(1.2)の
に 対 応 し た 量(水 素 様 原 子 な ら 「定数/n2」 こ の 状 態 に 応 じ た 量 は し ば し ば 項(term)と
num
よ う に2つ
の状 態
の 形 に な っ て い る)の 差 で 表 さ れ る. 呼 ば れ た.こ
の 用 語 に よれ ば ス ペ
ク トル 線 の 振 動 数 は 「項 の 差 」で 与 え ら れ る と い え る.項
と い う言 葉 は エ ネ ル
ギ ー 準 位(energy
level,許
さ れ る 各 状 態 に 応 じ た 原 子 の エ ネ ル ギ ー 値)の
に 用 い る こ と が あ る.n番 状 態1,2,3(1が
目 の 状 態 に 与 え ら れ る 項 をTnと
こ の な か で 最 高 の エ ネ ル ギ ー,3が
間 で 光 放 出 に よ る 遷 移 が 可 能 と す る と,そ
の 関 係 が あ る は ず で あ る.こ
意味
書 く と き,3つ
の
最 低 エ ネ ル ギー と す る)の
の 振 動数νnn'の
間には
の よ う に ス ペ ク トル 線 の 振 動 数 の 間 に 簡 単 な 結 合
則 が 成 り立 つ こ と は リ ッツ の 結 合 則(Ritz
combination
principle)と
して 知 ら
れ て い る. Bohrは
最 も 簡 単 な 円 軌 道 に つ い て 考 え た が,ク
ー ロ ン 引 力 の下 で の 閉 じた
軌 道 運 動 は ケ プ ラ ー 運 動 と し て 知 ら れ て い る よ う に 一 般 に は 楕 円 運 動 に な る. そ こ でBohrの
理 論 を 楕 円 軌 道 に 拡 張 し よ う と す る 試 み が,A.
な ど 多 く の 人 に よ っ て な さ れ た.円 で 決 ま っ た の に 対 し,拡
運 動 で は 許 さ れ る 軌 道 が た だ1つ
張 さ れ た 理 論 で は3つ
こ れ ら の 数 は 量 子 数(quantum そ こ で 次 の 問 題 は,な
number)と
ぜBohrが
Sommerfeld の数n
の 数 の 組 で 軌 道 が 指 定 さ れ る.
呼 ば れ る.
与 え た 量 子 条 件(あ
る い は そ れ をSommer
feldが
拡 張 し て 得 た 諸 条 件)に か な う 状 態 だ け が 存 在 す る の か と い う こ と に な
る.こ
れ に 対 す る 解 答 は10数
に な っ た.ま
ずL.
de
年 後 に量 子 力 学 の 誕生 に よ っ て 与 え られ る こ と
Broglieが
物 質 波 の 可 能 性 を提 唱 し た(1924).前
で に 電 磁 波 で あ る と し て 決 着 が つ い た か に 見 え た 光 が,粒 も っ て い る こ と がPlanckの し て き た の を ふ ま え,逆 な ど の 物 質 粒 子 も,波
量 子 仮 説 やEinsteinの
世 紀 ま
子 的 な性 格 も併 せ
光 量 子 説 を通 じて は っ き り
に い ま ま で 粒 子 と し て しか 考 え ら れ て い な か っ た 電 子
動 性 を 併 せ も っ て い る の で は な い か と い う の で あ る.そ
の 場 合 の 手 が か り と し て は,Einsteinが *2 運 動 量 ベ ク トルpをhで
光 子 に 対 し て 与 え た エ ネ ル ギ ーE,
割 った 波 数 ベ ク トル(wave
「波 数」 と呼 ば れ るこ とが あ るが,こ のkの
number
vector)p/h=kも
単に
大 きさ は 「1/波長 」で な くその2π 倍 で あ る.
運 動 量pを
波 動 の 波 長 λ,振 動 数ν と結 びつ け る関 係 式
(1.3) が用 い られ た.こ
の考 え を ボー ア の 原 子模 型 に お け る電 子 の 円 軌 道 に あ て は め
て み よ う.円 周 に 沿 って の 運 動 に 波 動 性 が 伴 う と して 波 長 λが 導 入 さ れ る. 波 動 に つ い て の 古 典 物 理 の 知 識 を活用 す る と,周 期 的 運 動 が 定 常 的 に 存在 す る た め に は,軌 道 に 沿 っ て の 波 動 の位 相 は一 回 り した あ とで 前 と同 じ値 に戻 っ て い な け れ ば な ら な い.す
な わ ち,半 径aの
円 軌 道 の 場 合,円
周2πaが 波 長 λ
の 整 数 倍 で あ る と し な け れ ば な らな い.こ れ か ら 軌 道 に 沿 って の 運 動 量pが (1.3)に よ っ て決 ま り,角 運 動 量 は
以 外 に は 許 さ れ な い.こ わ ちBohrの とL.
れ はBohrが
導 入 し た 量 子 条 件 に ほ か な ら な い.す
条 件 は 定 常 波 存 在 の 条 件 に な っ て い る.1927年
H. Germer,
属 薄 膜,雲
G. P. Thomson,菊
にC.
J. Davisson
池 正 士 に よ っ て そ れ ぞ れNi単
母 薄 膜 に よ る 電 子 線 の 散 乱 でX線
な
結 晶,金
の 場 合 と 同 様 の 回 折 像 が 得 ら れ,
物 質 波 の 存 在 が 実 証 さ れ た. 物 質 粒 子 も 波 動 性 を も つ と し た ら,そ (波 動 関 数)が は ず で あ る.de の はE. 数 は,iを
存 在 す る で あ ろ う し,そ Broglieの
Schrodingerで
間 の 関数
の 関 数 が 満 足 す べ き 波 動 方程 式 が あ る
考 え を 発 展 させ て そ の よ う な 方 程 式 を 見 つ け 出 し た
あ る(1926年).一
虚 数 単 位 と し て
,3次
般 にx方
向 に進 む 自由 粒 子 の波 動 関
の よ う な 関 数 に 振幅 が か か っ た
も の で 表 さ れ る と 考 え ち れ る か ら,こ る と
の 波 動 性 を 記 述 す る 位 置,時
れ にEinsteinの
関 係 式(1.3)を
元 に 一 般 化 す る と
代 入す と な る.
自 由 粒 子 の 運 動 を 表 す 波 動 関 数 Ψ が こ の よ う な 関 数 で あ る と す る と,運 pと
エ ネ ル ギ ーEの
関 係E=p2/2m(mは
動量
粒 子 の 質 量)を 用 い,
(1.4) の よ う な 波 動 方 程 式 が 成 り 立 つ こ と に な る*3.こ 式p2/2m-E=0を
Ψ に 作 用 さ せ,Ψ
れ は エ ネ ル ギ ー ・運 動 量 関 係
が 上 記 の よ う な 平 面 波 で あ る か ぎ り運
*3 ベ ク トルは 太 文 字 で 表 す .∇ はナ ブ ラ記 号 で,rの3成 成 分 とす るベ ク トル 演算 子 で,∇2=△
分(x,y,z)に よ る微 分 演算 子 を は ラプ ラス演 算 子 で あ る.
動 量 とエ ネ ル ギー を それ ぞれ
(1.5) (1.6) の よ う な微 分 演 算 子 に 置 き換 え る こ とが で き る と して 書 き換 え て 得 ら れ る. (1.4)の 形 に して お く と特 定 の 運 動 量,エ
ネ ル ギー の値 に 限 らず,平
面 波 を重
ね 合 わ せ た形 の 波 動 関 数 に つ い て も成 り立 つ こ とが 注 目 され る. 波 動 関 数 Ψ の 物 理 的 解 釈 に つ い て は い ろ い ろ な 議 論 が あ っ た が,結 │Ψ(r,t)│2drが 時 刻tに 要 素drの
お いて,位
置ベ ク トルrの
点 の 近 傍 に あ る小 さ な体 積
中 に粒 子 を見 い だす 確 率 で あ る と理 解 さ れ る よ うに な っ た.そ
る と1個 の 粒 子 を考 え る と きは,粒
局,
うな
子 は全 空 間 の ど こか に あ る は ず で あ る か
ら,上 記 の 確 率 を全 空 間 で 積 分 した もの は1に
な る とい う要 請 が 出 て くる.す
なわ ち
(1.7) と い う 規 格 化(normalization)の
条 件 で あ る.と
た っ て 無 限 の 広 が り を も つ 波 で(1.7)の
よ う な 条 件 を 満 足 し な い が,多
面 波 を 適 当 に 重 ね 合 わ せ る こ とに よ っ て,空 る よ う な 波 束(wave
packet)を
こ ろで平 面 波 は全 空 間 にわ 数 の平
間 的 に 限 られ た領 域 に 集 中 して い
つ く る こ と が で き る.自
由 粒 子 の運 動 を表 す
波束 は
(1.8) の よ うな 形 に な る.F(p)は
運 動 量 空 間 で の 波 動 関 数 で あ る.
自 由粒 子 に対 す る波 動 方 程 式 が(1.4)で
よ い と して 外 力 の 下 で の 運 動 を支 配
す る方 程 式 は ど う な る で あ ろ うか.中 心 力場 の なか の1個 て 考 え,V(r)を
ポ テ ン シ ャ ル(rは
ネ ル ギー がE=p2/2m+V(r)に
の粒 子 の 運 動 につ い
力 の 中心 か らの 距 離)と す れ ば,力 学 的 エ
な る こ と を考 慮 し,(1.4)に
相 当 す る もの と
して
(1.9) が 導 入 さ れ た.と
くに エ ネ ル ギーEが
明 確 に 決 ま って い る定 常 状 態 に あ る系
に つ い て は,
(1.10) と お く こ とに よ り,時
間 を含 ま な い方 程 式
(1.11) に 還 元 す る こ と が で き る.(1.9)(1.11)は dinger
equation)と
シ ュ レ ー デ ィ ン ガ ー 方 程 式(Schro
呼 ば れ る.
力 が 働 い て い る と き の 式 が(1.9)(1.11)の
よ う な も の で よ い か ど う か は,具
体 的 な 問 題 に こ れ ら の 方 程 式 を 適 用 し,実
験 結 果 と比 較 す る こ と に よ っ て 判 断
さ れ る.次
章 で 述 べ る よ う に,Schrodingerが(1.11)を
に 適 用 し た 結 果,許
水 素 原 子 の定 常状 態
さ れ る エ ネ ル ギ ー と し て(1.1)が
事 実 と も合 う こ と が 確 認 さ れ,波
動 力 学(wave
得 ら れ,し
mechanics)と
たが って実験 呼 ば れ る新 しい
力 学 が 注 目 さ れ る よ う に な っ た.歴
史 的 に は こ の 前 年(1925年),W.
bergた
mechanics)と
ち に よ っ て 行 列 力 学(matrix
学 が 提 唱 さ れ て い た が,こ ま も な く証 明 さ れ,今
の 一 見 異 な っ た2つ
Heisen
呼 ば れ る ま っ た く別 の 新 力
の 力 学 が 実 は 等 価 で あ る こ とが
日広 く用 い ら れ て い る 量 子 力 学 の 出 発 点 と な っ た.
さ て,エ
ネ ル ギ ー の 高 い 状 態 に あ る 電 子 は 光 を放 出 し て 低 い 状 態 へ と 飛 び 移
る か ら,放
っ て お け ば 電 子 は 最 低 エ ネ ル ギ ー 状 態(基 底 状 態,ground
に 落 ち 着 くで あ ろ う.多
数 の 電 子 を も つ 原 子 の 場 合 もす べ て の 電 子 が 同 一 の 最
低 エ ネ ル ギ ー 状 態 に 集 中 す る の で あ ろ う か.こ Pauliが
れ に つ い て は1924年
ス ペ ク トル の 研 究 か ら い わ ゆ る 排 他 律(exclusion
原 理 と も い う)を 発 見 し て い る.す
な わ ち,量
無 制 限 に 電 子 が 入 れ る の で は な く,指 子 は 別 の(も
state)
にW.
principle,パ
ウ リの
子 条件 で決 ま る 各 運 動 状 態 に は
定 さ れ た 割 当 数 以 上 に な っ た ら残 りの 電
っ と エ ネ ル ギ ー の 高 い)状 態 へ 入 れ ら れ な け れ ば な ら な い と い う
も の で あ る.と
く にSommerfeldに
子 数 の 組 で 決 ま る1つ
よ っ て 展 開 さ れ た 理 論 に お い て3つ
の 状 態 に は 電 子 が2個
ま で 入 れ る とす る と,元
性 な ど が う ま く説 明 で き る こ と が わ か っ た.3つ 2個 の 電 子 が 入 る と い う こ と は,も こ の よ う に 第4の
の量
素 の 周期
の量子数 で決 め られた状 態に
う1つ
の 量 子 数 の 存 在 を 示 唆 し て い る が,
量 子 数 が あ る こ と は,原
子 を磁 場 の な か に 入 れ た と きの ス ペ
ク トル の 変 化,い
わ ゆ るゼ ー マ ン効 果 の研 究 か らす で に知 られ て い た と こ ろ で
あ る(P. Zeeman, し,第4の
1896).は
じめ の3つ
の 量 子 数 が 空 間軌 道 を指 定 す るの に対
量 子 数 は 電 子 の 自転(ス ピ ン,spin)の
向 き を指 定 す る もの で あ る.
シ ュ レー デ ィ ン ガー 方 程 式(1.9)で
は そ の よ う な新 しい 自 由 度 が 反 映 さ れ て い
な い が,P.
に 発 表 し た,相 対 性 理 論 の 要 請 に か な う波
A. M.
動 方 程 式 は,ま 書 で は,主
Diracが1928年
さ に そ の よ うな 自由 度 を取 り込 ん で い る もの に な っ て い る.本
と して簡 単 な シュ レー デ ィ ン ガ ー 方程 式 に も とづ い て 議 論 を進 め る
が,相 対 論 的 補 正 が 重 要 とな る よ うな場 合 に つ い て は デ ィ ラ ッ ク理 論 に触 れ る こ とに す る. 序 論 を閉 じる前 に実 験 方 法 に つ いて 少 し述 べ て お く.原 子分 子 物 理 学 に お い て 用 い られ る実 験 方 法 は 多種 多様 で あ る が,こ い て述 べ る.1つ
こで は2つ
の主要 なタイプにつ
は原 子 分 子 に よ る光 の 吸 収 ・放 出 を 利 用 す る もの で あ る.ど
の よ う な波 長 の 光 が 吸 収 さ れ た り放 出 さ れ た りす るか を見 る の は,19世 来 盛 ん に研 究 され て きた 分 光 学 の仕 事 で あ る が,さ
紀以
らに 放 出 ・吸 収 さ れ る光 の
強 度 が 波 長 に よ っ て ど う変 わ る か を 調 べ る こ と に よ り,原 子 や 分 子 に つ い て い っ そ う立 ち入 っ た知 識 を得 る こ とが で き る.も させ る方 法 で あ る.よ
う1つ は粒 子 との 衝 突 を起 こ
く用 い られ るや り方 は,同 一種 類 の 粒 子 の 流 れ を用 意 し
(こ れ を粒 子 線 ま た は粒 子 ビー ム と呼 ぶ),そ
の流 れ の なか に 対 象 とす る原 子 や
分 子 を置 く方 法 で あ る.入 射 粒 子 の う ち標 的 原 子や 分 子 と衝 突 した もの は,運 動 方 向 が 変 わ り,し ば しば エ ネ ル ギー も明 確 に変 化 す る.こ れ を調 べ る こ とに よ り対 象 とす る原 子 や 分 子 の 構 造 ・性 質 や これ ら標 的 と入 射 粒 子 との 相 互 作 用 に つ いて の 知 識 を獲 得 す る もの で あ る. この よ う に粒 子 ビー ム を用 い た初 期 の 実 験 の1つ G. Hertzに
で1914年
にJ. Franckと
よ って 行 わ れ た もの を紹 介 して お きた い.そ れ は 水 銀 蒸 気 を入 れ
た容 器 の なか で 陰極 か ら飛 び 出す 電 子 の 流 れ をつ く り,陽 極 に到 達 し た もの を 電 流 と して 測 定 す る 実 験 で あ る.陰 極 か ら少 し離 れ て 第1の
グ リッ ドG1を お
き,陰 極 とG1の 間 に加 速 電 圧 をか け て 電 子 を加 速 す る.一 方,陽 に 第2の
グ リ ッ ドG2を お く.G1とG2は
か な減 速 電 圧0.5Vを
等 電 位 と し,G2と
極 の す ぐ前
陽極 の間には わず
か け て お く.す る とグ リ ッ ドG2を 通 過 す る と き0.5eV
以 下 の エ ネ ル ギー しか もた な い 電 子 は 陽極 に 到 達 で きな い.こ
う して お い て 陰
極 とG1の
間 の 加 速 電 圧 を0か
加 して い くが,5Vの
ら順 次 増 や して い く と,陽 極 に達 す る電 流 も増
ち ょっ と下 で 急 激 に 電 流 が 減 少 す る こ とが わ か った.さ
ら に加 速 電 圧 を増 して い く と再 び 電 流 が 増 え始 め る が,ま る電 圧 増 加 に な っ た とこ ろ で 急 激 に2回 近 い 加 速 電 圧 の と こ ろで3度
目 の 電 流 減 少 を示 した.さ
目の減 少 が 見 られ た.こ
され る.す な わ ち,水 銀 原 子 は 基 底 状 態 の 上5eV足 正 確 に は4.9eV)に
た10Vに
最 初 の励 起 状 態 が あ って,グ
少 し欠 け ら に15V
の結 果 は 次 の よ うに解 釈 らず の と こ ろ(も う少 し
リッ ドに達 す る 前 に こ の値 を
超 え る エ ネ ル ギー を得 た 電 子 は あ る確 率 で水 銀 原 子 を励 起 状 態 に た た き上 げ, エ ネ ル ギー を それ だ け 失 う.こ の 電 子 は,そ の 後 さ らに加 速 さ れ て0.5eV以 上 の エ ネ ル ギー を 回復 し な いか ぎ り陽 極 に は到 達 で きな い.電 流 の 急 激 な減 少 は そ の た め で あ る と い う の で あ る.2回 V, 15Vを
目,3回
超 え,加 速 さ れ た 電 子 が2回,3回
を失 う こ とに 対 応 して い る.こ
目 の 減 少 は,加 速 電 圧 が10
水 銀 原 子 と衝 突 して エ ネ ル ギー
う してFranck-Hertzの
実 験 は ボー ア の 原 子
モ デ ル が 示 す よ うに 原 子 の もつ エ ネ ル ギー 値 が と び とび に な って い る こ と を実 証 し た.な お,J.
Franckは
他 の 研 究 者 の 協 力 を得 て もっ と高 い エ ネ ル ギー の
励 起 状 態 が 存 在 す る こ と も似 た よ うな 実 験 で示 して い る.
2 水 素 様 原 子
2.1 水 素 原 子,水
素 様 イ オ ン―
非 相 対 論 的 取 り扱 い
自然 界 に 存 在 す る最 も簡 単 な原 子 は 水 素 原 子 で あ る.ま た,宇 宙 に あ る原 子 の な か で最 も数 が 多 い の も水 素 原 子 で あ る.し た が って 水 素 原 子 は 簡 単 で は あ る が,ま
た大 変 重 要 な もの で あ る.水 素 の よ うに 電 子 が1個
の 原 子 と,2個
以
上 の 電 子 を もつ 原 子 とで は 大 き な違 い が あ り,理 論 的 取 り扱 い も変 わ る.し
た
が っ て,水 素 原 子 が わ か って しま え ば 他 の 原 子 も同 じこ と と して しま うわ け に は い か な い.そ れ で も多 電 子 原 子 を論 ず る と きに は 水 素 原 子 の理 論 が 何 か と参 考 に な る.そ れ で 水 素 原 子 に つ い て は 多 くの 量 子 力 学 の 教 科 書 で か な りペ ー ジ を さ い て 説 明 して い る.こ
こで もそ の あ ら ま し を述 べ て 量 子 力 学 の 復 習 と一 般
の 原 子 の 構 造 を論 ず る準 備 とす る. 通 常 の 水 素(hydrogen)で 素 で も重 水 素(deuterium)の 三 重 水 素(tritium)で 子 が1個
は 原 子 核 は 陽 子(proton)で
じ水
核 は 質 量 が 陽 子 の ほ ぼ 倍 の 重 陽 子(deuteron),
は ほ ぼ3倍
で あ れ ばHeの1価
あ る.し か し,同
の 三 重 陽 子(ト リ トン,triton)で
イ オ ンHe+,
く同様 の 理 論 で 扱 え るか ら,こ
Liの2価
イ オ ンLi++な
こ で は 一 般 的 に核 は 質 量M,電
の 整 数)の 粒 子 とす る.系 の エ ネ ル ギ ー は,2粒
あ る し,電 どもまった
荷Ze
(Zは 正
子 の 運 動 エ ネ ル ギー と2粒 子
間 の クー ロ ン 引 力 の ポ テ ン シ ャ ル の 和 で あ る から,(1.11)を2粒
子 系 に拡 張
すると
(2.1)*1 た だ し,∇n, ∇eは
そ れ ぞ れ 核 と 電 子 の 位 置 ベ ク トルrn,
reの 成 分 に 関 す る 微 分
演 算 子(ナ る.こ
ブ ラ 記 号,p.6脚
こ でrn,reの
注 参 照),meは
電 子 の 質 量,ま
か わ り に 系 の 重 心 位 置 ベ ク ト ルRと
た
で あ
相 対 位 置 ベ ク ト ルr
を
(2.2) の よ う に導 入 す る と,運 動 エ ネ ル ギー の部 分 が
(2.3) (2.4) の よ う に 重 心 運 動 の エ ネ ル ギ ー と相 対 運 動 の エ ネ ル ギ ー に 分 離 で き る こ とが わ か る.た
だ し∇R,∇
う し て(2.1)は
は そ れ ぞ れR,rの
次 の よ う な2つ
成 分 に 関 す る ナ ブ ラ 演 算 子 で あ る.こ
の 独 立 な 方 程 式 に 分 解 さ れ る.
(2.5) (2.6) (2.7) 最 初 の 式 は重 心 運 動 の 方程 式 で,ポ テ ン シ ャ ルが 入 って い な い か ら,原 子 の重 心 が 自由 粒 子 の よ うに 振 る舞 う こ と を表 し て い る.そ の エ ネ ル ギー がEgで る.さ
あ
しあ た り重 心 運 動 に は 関 心 が な い か ら,以 下 で は 内部 運 動 を記 述 す る 第
2の 式 だ け を論 ず る こ とに し,ψiを 改 め て ψ と書 き,そ の と き の エ ネ ル ギー EiをEと
書 くこ とにす る.こ の 式 は 空 間 に 固 定 され た 中 心 力 場 の 中 の1つ
粒 子 の 運 動 の 波 動 方 程 式 の 形 に な っ て い るが,た
の
だ 粒 子 の質 量 が(2.4)で 与 え
られ る よ う に 換 算 質 量 μ に な っ て い る と こ ろ に2粒 子 系 の 問 題 で あ る こ とが 見 え て い る. こ の あ とは,中
心 力 場 一 般 に つ い て 共 通 の 解 法 に な る が,位
*1 (1 .1)の 脚 注 で 述 べ た よ う にcgsガ え る と,(2.1)は
従 来 のcgs系
ウ ス 系 で の 素 電 荷 をe'と
で の 式 に な る.た
だ し,単
し て
ギ ー に な る か ら,エ cgs系
ネ ル ギ ー ×長 さ の 次 元 を も つ.エ
そ れ ぞ れ 単 位 が 変 わ る か ら
で のe'2の
数 値 が 出 る.
のSI系
をe'2に
置 き換
位 系 を 変 更 す る と き はh, me,
な ど他 の 諸 量 の 数 値 も 同 時 に 変 わ る こ と は い う ま で も な い. か らcmに
置 ベ ク トルr
ネ ル ギ ー はJか
はrで
らergに,長
で の 数 値 に109を
r
割 って エ ネル さ はm
か け て は じめ て
の 成 分(x,y,z)の
か わ り に 極 座 標(r,θ,φ)を
動 を 分 離 す る.ラ
プ ラ ス 演 算 子∇2は
用 い て 動 径 方 向 と角 度 方 向 の 運
(2.8) と書 け る.こ こ に 出 て きた角 度 に 関 す る微 分 演 算 子 をΩ と書 こ う.
(2.9) 方 程 式(2.6)は
(2.10) とお くこ と に よ り変 数 分 離 で きて
(2.11) (2.12) と な る.こ
こ で(2.11)の
続 で あ る と す る と,変
解Y(θ,φ)が
球 面上 のすべ ての点 で正 則 かつ一 価連
数 分 離 の パ ラ メ タ ー λの と り う る 値 が
(2.13) に 限 る こ と が 導 か れ,そ harmonic
れ に 対 応 す る 解Y(θ,φ)が
球 面 調 和 関 数(spherical
functions)
にな
る こ と は 応 用 数 学 で よ く知 ら れ て い る と お りで あ る.さ
らに
(2.14) の よ うに 規 格 化 す る と,
(2.15) と な る.た
だ し,
function)で
あ り,ま
関 数Y(θ,φ)や
は ル ジ ャ ン ド ル の 陪 関 数(associated た 位 相 因 子
Legendre
は 文 献 に よ り と り方 が 若 干 異 な る の で
そ れ に 関 係 し た公 式 な ど を計 算 に 利 用 す る と き は事 前 に 十 分
確 か め て お く こ と が 必 要 で あ る(2.2節
参 照).
さ て,古 典 力 学 で の角 運 動 量 は位 置 ベ ク トルrと 与 え られ る こ とが わか っ て い るが,こ
運 動 量pの
ベ ク トル 積 で
こ で(1.5)を 利 用 して 量 子 力 学 で の 角 運
動 量 に書 き換 え,そ れ を成 分 に 分 け て 書 く と
(2.16)
と な る.hが
角 運 動 量 の 次 元 を もつ た め,lは
無 次 元 量 に な る.こ れ ら は 直 接
確 か め られ る よ うに 量 子 力 学 に お け る角 運 動 量 特 有 の 交換 関 係 を満 た す*2.
(2.17) さ らに
(2.18) で あ る こ と も 直 接 計 算 に よ っ て 確 か め ら れ る か ら,(2.11),(2.13)に
よ り次 の
関 係 式 が 導 か れ る.
(2.19) ま た(2.16)のlzを
極 座 標 で 書 け ば
とな るか ら
(2.20a)
(2.20b) 量 子 力 学 で は,Aψ=aψ 作 用 さ せ た と き,同
の よ う に 物 理 量 を 表 す あ る 演 算 子Aを じ関 数 ψ の 定 数 倍 が 得 ら れ た ら,そ
ψ で 表 さ れ る 状 態 に お い て そ の 定 数 値aを Aの
固 有 値(eigenvalue),ψ
+1)は
と る と 解 釈 す る.こ
*2 一 般 に2つ mutator)と
分 を 表 す こ と が わ か る.こ
軌 道 角 運 動 量 の 大 き さ を 表 す も の で あ る が,伝
(azimuthal
quantum
の 演 算 子A 呼ぶ.
number)と
,Bか
呼 ば れ る.ま
ら つ く ら れ る
の と き,aは
呼 ば れ る.こ
の解
角 度 部 分 に も つ 状 態 に お い て,h2l(l
角 運 動 量 の 大 き さ の 平 方,mhがz成
う にlは
の物理 量 は その関数
は 固 有 関 数(eigenfunction)と
釈 に よ れ ば 上 記 の 関 係 か ら,Ylm(θ,φ)を
波動 関 数 ψに
たmは
の よ
統 的 に方 位 量 子 数
原 子 を磁 場 の な か に 入
をA,Bの
交 換 子(com
れ た と き の エ ネ ル ギ ー 準 位 を 区 別 す る 量 子 数 と な る こ とか ら 磁 気 量 子 数(mag netic quantum
number)と
呼 ば れ る.
次 に(2.13)を
動 径 方 向 の 方 程 式(2.12)に
代 入 し,さ
らに
(2.21) と お く と,
(2.22) (2.23) が 得 ら れ る.(2.22)はVeffを て い る.(2.23)の
第2項
ポ テ ン シ ャ ル とす る 一 次 元 の 波 動 方 程 式 に な っ は
(角 運 動 量)2/ 2μr2
の 形 を して お り,古 典 力 学 で お な じみ の 遠 心 力 ポ テ ン シ ャ ル に な って い る こ と が わ か る.そ ギーEが
こ で次 に は い よ い よ方 程 式(2.22)を
解 くこ とに な るが,エ
ネル
負 の範 囲 で は あ る とび とび の値 の とこ ろ で だ け 物 理 的 に 許 さ れ る解,
す な わ ち,い た る と こ ろ連 続 微 分 可 能 で
(2.24) とな る よ う な解(実 数 と して よい)が 存 在 し,ク ー ロ ン 引 力 場 に 束 縛 され た 電 子 の 運 動 を表 す.E>0の
と きは 別 巻 で 扱 う散 乱 状 態 に対 応 し,常 に 物 理 的 に
受 け 入 れ られ る状 態 を表 す こ と に な る.す な わ ち エ ネ ル ギー が 正 の 範 囲 は とび とび で な くす べ て の 値 が 受 け 入 れ 可 能 で 連 続 固有 値 とな る.本 書 で は 光 電 離 に 関連 して 第6章 で この よ うな 状 態 の 波 動 関 数 を扱 う.そ れ ま で は 束 縛 状 態 だ け に 注 目す る こ と とす る. 束 縛 状 態 を考 え る と き,無 限 遠 ま で の 積 分 に な っ て い る規 格 化 条 件(2.24) を満 たす た め に は,関 数u(r)は ら な い.他 方,原
遠 方 で 速 や か に0に 近 づ く もの で な け れ ば な
点 付 近 で の 様 子 を見 る と,ま ず 角 運 動 量 が0で
(2.22)でl(l+1)/r2を
な い と きは
含 む 項 が 主 要 項 に な り,こ れ が2階 微 分 の 項 と消 し合
うこ とに な る.こ の こ とか ら,uが
原 点 付 近 でrsに
比 例 す る と し てs=l+1
ま た は-lで
あ る こ と が わ か る.と
ば な ら な い か ら,s=-lは
こ ろ がu(r)=rR(r)は
許 さ れ な い.次
にl=0の
に 原 点 付 近 で 大 き な 値 を も つ も の は-1/rに 再 びuが
原 点 付 近 でrsに
て,s=0ま
た は1と
限 大 に なるが,原点 は 発 散 し な い.そ
を 含む領
と きR(r)は
域 で波動
Diracの
に な ら な く な っ て し ま う.以 も 原 点 付 近 でrl+1に
微 分 の 項 か らs(s-1)が
原 点 付 近 で1/rに
の こ と だ け を 見 る とs=0で
デ ル タ 関 数*3δ(r)が
と き は微 分 を含 む 項 の 他
は1/r
点 で 特 異 性 を もつ
出 て き て し ま い 上 に よ り,動
も よ さ そ う で あ る が,実
作 用 さ せ る と,原
出
比 例 して 無
関 数 の 平 方 を積 分 した も の
に 比 例 す る 関 数 に ラ プ ラ ス 演 算 子∇2を
なけれ
比 例 す る クー ロ ン 場 し か な い.
比 例 す る と す る と2階
な る.s=0の
原 点 で0で
が(2.6)の
径 関 数u(r)はlの
解
どの値 に お い て
比 例 す る こ と に な る.
動 径 方 程 式(2.22)を
具 体 的 に解 くこ と は 多 くの 量 子 力 学 の 本 に 出 て い る こ
と な の で こ こ で は や ら な い.結
論 を 書 け ば 得 ら れ る 関 数 は,(2.24)で
規格 化
して
(2.25)
(2.26) と な る.こ nornial)
こ でLqp(x)は
(§2.2参
照),ま
ラ ゲ ー ル の 陪
多 項 式(associated
Laguerre
poly
た
(2.27) (2.28) で あ る.a0は で あ り,ボ *3 Diracが
ボ ー ア の 原 子 模 型 で 水 素 原 子 の 最 低 エ ネ ル ギー の 円 軌 道 の 半 径 ー ア 半 径(Bohr
導 入 し た 特 異 な 関 数 δ(x)は
を 含 む 任 意 の 区 間(a,b)で 連 続 な任意 の 関 数f(x)に る.ま
radius)と
た,
の 積 分 で 対 し て で あ る.
呼 ば れ る.一
,x=0以
方,(2.25)に
外 の す べ て のxで
対 応 す るエ ネ
δ(x)=0で
あ り,x=0
と な る よ う に 定 義 さ れ て い る.x=0で で あ る.
であ
ル ギー値 は
(2.29) と な り,Bohrが
得 て い た 公 式(1.1)と
決 め て い るnは 水 素,三
主 量 子 数(principal
重 水 素 で はZ=1は
一 致 し,lに
quantum
共 通 だ がMが
number)と
陽 子,三
重 陽 子 の ス ピ ン,磁
に 違 い が あ り,後
の 他,こ
気 モ ー メ ン ト,電
素,重
ネル ギー準
の3種
の水 素 で は
気 四 極 モ ー メ ン トな ど
素 様 原 子 に お け る 電 子 の 運 動 は3つ
の う ち,nとlが
き さ も 決 ま る.残
呼 ば れ る.水
に 述 べ る 超 微 細 構 造 に お い て も 差 を 生 ず る.
以 上 の よ う に,水 定 さ れ る.こ
ネル ギー を
大 き く 異 な る た め,エ
位 も そ れ に 応 じ て 変 わ る こ と は い う ま で も な い.そ 陽 子,重
よら な い.エ
るmは
の 量 子 数n, l,
与 え ら れ る と動 径 関 数 が 決 ま り,角
mで
指
運動量 の大
空 間 に お け る 波 動 関 数 の 向 き を 指 定 す る も の で,電
場 や 磁 場 が 存 在 す るな ど して 空 間 に特 別 な方 向 が で きて い る場 合 を除 き重要 で な い.さ
て,関
数(2.10),言
い 換 え る と(2.25)と(2.15)の
積 は,古
典 力学 に
お け る 軌 道 運 動 に 相 当 す る 量 子 力 学 的 運 動 を 表 す 波 動 関 数 で あ る と こ ろ か ら, 軌 道 関 数(orbital
function)ま
の 数 値 で 指 定 さ れ る が,こ ば れ る.こ
た は 単 に 軌 道(orbital)と
れ を簡 略 に し て し ば し ば1s軌
こ で1, 2な ど の 数 字 はnの
代 表 す る.一
般 にl=0,1,2,3に
値 を 意 味 し,s,
い う 言 葉 か ら 出 た も の で あ る が,い
わ れ て,単
道,2p軌
pな
フ ァ ベ ッ ト でfに
お,も
続 く文 字g,
l
道 な ど と呼
どの 記 号 はlの
値 を
principal,
diffuse,
っ と 大 き なlの h, i, kな
ど(jは
と
funda
まで は そ の よ う な意 味づ け は 失
に 角 運 動 量 の 大 き さ を 表 す 記 号 と な っ て い る か ら,機
て お く他 は な い.な
道 はn,
対 応 し てs, p, d, fの 文 字 が 用 い ら れ る.も
も と こ れ ら は ス ペ クト ル の 特 徴 を 表 すsharp, mentalと
呼 ば れ る.軌
値(4,5,6,7,…)に
械 的に暗記 し 対 して は ア ル
除 く)を 用 い る こ と に な っ て い る
が,あ
ま り 大 き なlに
な る と記 号 か ら数 値 を 思 い 出 す の に 手 間 が か か る の で,
l>5で
は こ の 記 号 は あ ま り お 目 に か か ら な い.
本 節 で は 極 座 標 を 用 い て 水 素 様 原 子 の 波 動 方 程 式 を解 くや り方 の あ ら ま し を 述 べ た.し
か し こ れ が 唯 一 の 解 き 方 で は な く,放
か ら 知 ら れ て い る.電
物 線 座 標 を 用 い る解 法 も 古 く
場 が か か っ た と き の シ ュ タ ル ク効 果(Stark
effect)の
計
算 な ど,特 定 方 向 に外 場 が か か っ た 問 題 を扱 う に は あ らか じめ そ の 方 向 をz 軸 に 選 び,以 下 の よ う な放 物 線 座 標 ξ,η,φで孤 立 した 原 子 の 問 題 を 扱 って お くの が 便 利 で あ る.
(2.30) (2.31) ラ プ ラス 演 算 子 は
(2.32) と な り,シ
ュ レー デ ィ ン ガー 方 程 式 は波 動 関数 を
(2.33) の 形 に お い て 分 離 さ れ る(§4.1.3参
照).
2.2 水 素 様 軌 道 関 数
水 素 様 原 子 の 軌 道 関 数 は(2.15)(2.25)の つ い て 若 干 の 補 足 を し て お く.く き た い.ま
ず,角
積 で 与 え ら れ る.こ
れ らの関数 に
わ し くは応 用 数 学 な ど の参 考 書 を見 て い た だ
度 部 分 は(2.15)で
表 さ れ る.こ
ル の 陪 関 数 は ル ジ ャ ン ドル の 多 項 式Pl(x)か
の公 式 に現 れ るル ジャン ド
ら 導 か れ,次
式 で 定 義 さ れ る.
(2.34) (2.35) l≦3で
の 具 体 的 な 形 を 示 せ ば,x=cosθ
と して
す で に 注 意 し て お い た よ う に,球 の 選 び 方 に 違 い が あ り,各
面 調 和 関 数(2.15)で
は 文 献 に よ り位 相 因 子
自 が 用 い て い る 諸 公 式 が ど の 定 義 に も とづ い て い る
か に い つ も 注 意 を 払 う 必 要 が あ る.(2.15)を で あ る の に 対 し,m0の 方 向 に あ る と き,他 方 の 電 子 はx0と
に 伸 び た 関 数 に な っ て い る.そ
す れ ば,そ こ で,こ
電 子 の 接 近 の 機 会 が 大 幅 に 減 り,エ で あ ろ う.ス
れ ぞ れ 主 と し て+x,−x方
れら に1個
ず つ 電 子 を 入 れ る な ら,2
ネ ルギー が 下 が っ て よ り正 し い 値 に 近 づ く
ピ ン を 考 慮 す る と,2電
子 の ス ピ ンが 逆 向 きで あ る 状 態 の ス レー
タ ー 行 列 式(§3.2)は,規
格 化 因 子 を省 略 して
の2通
ず れ も単 独 で は ス ピ ン一 重 項 に な っ て い な い.そ
り考 えら れ る.い
で,2つ
向
こ
の 行 列 式 の 差 を と って み る と
(3.51) に比例 す る関 数 とな って 一 重 項 に な って い る.第1因 1sに2電
子 を入 れ た 状 態 と2pxに2電
子 を見 る と,こ の 関 数 は
子 を 入 れ た 状 態 の 混 合 に な っ て い る.
た だ し,こ の ま ま で は 全 軌 道 角 運 動 量 が0に
な って い な い.1Sに
す る に はx
方 向 と対 等 にy, z方 向 で も同 じ形 の 関 数 をつ くって 加 え 合 わ せ る の が よ い. そ うす る と
定数 ス ピ ン一 重 項 関 数 と な る.2px, で,上
式 の{}内
る.(3.52)は 格(上
2py, 2pz関
数 が そ れ ぞ れxf(r),yf(r),zf(r)の
はf(r1)f(r2)(r1・r2)と
電 子 配 置(1s)21Sと2p21Sの
の 例 で は1S)の
を 取 り 入 れ,よ
(3.52)
形 を してい るの
な って ス カ ラー 量 に な る こ と が わ か 混 合 状 態 で あ る.こ
の よ う に 同 じ性
適 当 な 配 置 を まぜ 合 わせ る こ とに よ っ て 電 子 相 関 の 効 果
り精 度 の よ い 波 動 関 数 を つ く る こ と が で き る.上
式 で は,c'
を変 分 パ ラ メ タ ー と し て エ ネ ル ギ ー 期 待 値 を 極 小 に す る よ う に 決 め れ ば よ い.
電 子 が2個
と も励 起 軌 道 に 入 っ て い る2p2配 置 を まぜ る とエ ネ ル ギ ー が 上 が っ
て し ま うの で は な い か とい うの は 間 違 っ た 予 想 で あ る.上 式 でc'=0と ば,前
に述 べ た簡 単 な 試 行 関 数 に 帰 着 す る の で,も
い の な らc'=0と
すれ
し そ の方 が エ ネ ル ギー が低
い う結 果 が 出 るは ず で あ る.実 際 に は そ うは な らな い.も
と
も と各 電 子 が 感 ず る 場 は 核 の他 に も う1つ の電 子 が あ る た め に 中心 力 場 で は な い .し た が って,個
々 の 電 子 の角 運 動 量 は保 存 され な い.た
軌 道 角 運 動 量 がl1=1に
な っ た とす る と,同 時 に 電 子2もl2=1の
こ れ ら2つ の 角 運 動 量 の ベ ク トル和 が0に て,(2p)2な
とえば1の
電子の
状 態 に な り,
な って い る は ず で あ る.し
たが っ
どの 電 子 配 置 が ま じっ て くるの は不 思 議 で は な い.
こ の よ う に 適 当 な 電 子 配 置 を 表 す 関 数 の 一 次 結 合 の 形 の 試 行 関 数 を と り,係 数 を変 分 法 で 決 め る や り方 は 配 置 混 合 法(configuration た は 配 置 間 相 互 作 用 法(configuration
interaction
mixing method,略
method),ま し てCI法)と
呼 ば れ て 広 く 用 い られ て い る 計 算 法 で あ る.
3.4.3 電 子 間 距 離r12を 含 む試 行 関 数 軌 道 関 数 に 電 子 をあ て は め る とい う考 え方 に と らわ れ な け れ ば,変 分 法 の 試 行 関数 の 枠 は さ らに広 が る.た
とえ ばΨtが 電 子1,
2の 間 の 距離r12に 直 接 依
存 す る よ うな もの で あ って も よい.簡 単 な例 と して
(3.53)
ス ピン一 重 項 関 数 と とれ ば,cが
適 当 な正 数 とな り,r12が 小 さい よ り大 きい 方 が 確 率 が 大 き い
こ とに な っ て 電 子 相 関 が 明 瞭 な 形 で 取 り入 れ られ る. Heの
基 底 状 態 の よ うに1S状
に 対 して 不 変 で あ る.つ
態 で あ れ ば,波 動 関 数 は 球 対 称 で 座 標 軸 回 転
ま り,Ψ
は 原 子 全 体 の 向 き に よ ら な い.そ
こ で変 数
と して はr1, r2, r12また は そ れ ら を組 み 合 わせ た
(3.54) を 用 い る こ と が で き る.s, ム で は2電
uは
常 に 正 だ がtは
子 の 位 置 座 標 を と りか え て も Ψ は 不 変 だ か ら,tの
オ ー ソ ヘ リ ウ ム で は 奇 関 数 に な る.2電 よ う に し てds, るr1の
負 に も な り う る.パ
dt, duで
極 座 標 をr1,χ,φ
と す る.次
偶 関 数 と な り,
子 の 座 標 空 間 の 体 積 要 素dτ
表 さ れ る([1],[5]).ま にr1を
ず,空
ラヘ リウ
は以下 の
間 固 定 の 座 標 軸 に対 す
極 軸 に 選 ん でr2の
極 座 標 をr2,θ,
ψ と す る.4つ
の 角 の う ち θ はr1, r2の 間 の 角 で,残
き を 表 す オ イ ラ ー 角(Euler 1S状 態 で は
,3つ
angle)に
りの3つ
な っ て い る.Ψ
が原 子全体 の 向
が これ らの 角 に よ ら な い
の 角 につ い て 積 分 し て し ま っ て8π2が
出 る.θ
につ い て の 積
分 は
の 関 係 に よ りr12に つ い て の 積 分 に 移 せ る.結
と な る.こ
れ をs,
t, uで
局
表 す と
基 底 状 態 で は 波 動 関 数 がtの 偶 関 数 だ か ら積 分 範 囲 を
として
(3.55) と お け る.そ
こで エ ネ ル ギ ー 期 待 値
(3.56) を極 小 に す る.分 母 分 子 に 共 通 な2π2は 省 い て よ い.He様 原子 の基底状 態 は 1Sで 縮 退 が な い の で ,Ψtと して は実 数 の 範 囲 で考 え て よ い.ま た 以 下 の 式 を 簡 単 に す る ため,原
子 単 位 を用 い る と
(3.57) こ のHの
う ち,運
動 エ ネ ル ギ ー の 部 分 はGreenの
定理 に よ り
と 書 き 直 さ れ,Ψtがr1, r2, r12だ
け の 関数 とい う こ と を使 う と
同 様 に(∇2Ψt)2が 求 め ら れ る.こ
れ ら の 和 をs, t, uで
表す と
(3.58) ま た ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギー で は
で あ るか ら
(3.59)
と な る.
具 体 的 な変 分 関 数 と して よ く用 い られ るの は
(3.60)
の 形 で あ る.パ と に 着 目 し,指
ラ メ ター1つ
の 関 数(3.45)が
数 関 数
か な りよ い 結 果 を与 え て い る こ
を 入 れ,あ
と は べ き 級 数 展 開(実 際 の 計
算 で は 有 限 項 で 打 ち 切 る)の 形 を と っ て い る.(1/2)kが(3.45)のZ'に る も の で,い
わ ば 有 効 核 電 荷 と呼 べ る も の で あ る.kお
変 分 パ ラ メ タ ー と し て(3.59)の Pで
は,パ
ラ ヘ リ ウ ム と し てtの
相 当す
よ び 多 数 の 係 数Cを
エ ネ ル ギ ー 期 待 値 の 極 小 値 を 求 め る.上
式 の
偶 数 乗 だ け を 用 い て い る.(3.60)を(3.59)
に代入 す る と
(3.61) の 形 に な る.た
だ し
L, M,
Nは
にkに
い ず れ も 係 数Cに
も 依 存 す る.極
関 し て2次
式 で あ る.一
方Eは(3.61)の
よ う
値 は
(3.62) か ら求 め られ る.第2式
から
(3.63) こ れ を(3.61)に
代 入す る と
(3.64) こ れ を す べ て のCに
関 し て 極 小 に す れ ば よ い .(3.64)をCの1つ
0と お き(3.63)(3.64)を
で 微 分 して
用 いる と
(3.65) これ は 多数 のCに
つ い て の 連 立 一 次 方 程 式 に な っ て い る.実 際 の 計 算 で はk
に 適 当 な値 を与 え,(3.65)の
係 数 で で き る永 年 方 程 式 を解 き,最 低 固 有 値E
を求 め,そ
れ に 対 応 す る各Cの
され たkの
値 が 求 めら れ,こ
値 が 決 ま る.こ れ ら を用 い て(3.63)か
ら改 善
の 手 続 き を 繰 り返 す こ と で最 終 的 なk, C, Eが
得 られ る. 以 上 述 べ て き た よ う な,軌 raasに
た.1929年 20年
道 関 数 と い う枠 を 超 え た 変 分 計 算 はE.
よ っ て 始 め ら れ,r12をΨtに にHylleraasが
余 り た っ てS.
は,パ
用 い た の は パ ラ メ タ ー6個
Chandrasekhar,
ラ メ タ ー10個,さら
(3.60)を
D. Elbert,
の 試 行 関 数 で あ っ た が,
G. Herzbergの
にChandrasekharとHerzberg
パ ラ メ タ ー で 変 分 計 算 を し た .こ
A. Hylle
含 め る こ とが 効 果 的 で あ る こ とが 示 され
論 文(1953)で (1955)は14個
れ ら は い ず れ もHylleraas型
有 限 項 に し た もの を 用 い て い る.具
体 的には
の
の 試行 関数
(3.66) で,Hylleraasの1929年 ち は1953年 shita(木
の 論 文 で は ζu2の 項 ま で を 採 用,Chandrasekharた
の 論 文 で はx9t2u2ま
下 東 一 郎)(1957)は
で,1955年
に は(3.66)全
部 を 用 い た.Kino
試 行 関 数 を さ ら に 柔 軟 に す る た め,s,
き も 含 め る こ と と し た.た
だ し,0≦t≦u≦sの
uの
負のべ
関 係 に 留 意 し,(3.66)の
括弧
のなか を
の 形 の 項 の 一 次 結 合 と し た.39項
までの試行 関数 を用 いて非相 対論 の範 囲 で
最 も正 確 と思 わ れ る エ ネ ル ギー と して
を 得 た.比
較 の た め,前
(3.46)(3.47)にZ=2を
に 述 べ た 簡 単 な 変 分 関 数(3.45)か
ら 出 た
入れてみ る と [変 分 関 数(3.45)]
と な り,1.5eVくら
い の 差 が あ る こ と が わ か る.木
た よ り の 補 正((3.3)の
末 項.E[He(11S)]へ
び 相 対 論 に よ る 補 正(後 ギ ー(IEと略
記)を
節 で 述 べ る),ラ
下 は上 記の値 に質 量 のか
は0.0000218a.u.が ム シ フ ト を 加 え,Heの
加 わ る)お
よ
電 離 エ ネル
計算 し
[Kinoshita] を 得 た.cm-1は
分 光 学 者 が し ば しば 用 い る エ ネ ル ギ ー の 単 位 で,1cmに
波 長 が い くつ 含 ま れ る か と い う 数,つ
ま り波 数 に な っ て い る.電
光の
子 ボ ル トに 換
算す る と
(3.67) と な る.上
記 のIE(He)は
す ぐあ と で 示 す 実 験 値 と6桁
こ の 場合,相
対 論 の 補 正 はIEの
-1 .23cm-1ほ
ど 入 っ て い て,小
な か に-0.56cm-1,ラ さ い 量 で は あ る が,こ
の 精 度 で 合 っ て い る. ム シ フ トの 補 正 は れら を 無 視 す る と6桁
ま で の 精 度 は 得 ら れ な い. 続 い てPekeris1)は
最 高1078次
元 ま で の 大 き な 規 模 の 永 年 方 程 式 を 解 き,
非 相 対 論 的 エ ネ ル ギー と して 1) C
. L.
Pekeris,
Phys. Rev. 112,
1649
(1958);
115,
1216
(1959).
を得 た.こ
れ に 諸補 正 を加 え
とな っ た.比 較 され た実 験 値 は
で,ほ
ぼ7桁
ま で の 一 致 で あ る.
木 下3)は ま た 試 行 関 数 を80項 積 り も行 い,非
ま で 拡 大 し,エ
ネ ル ギー の 上 下 界 や 誤 差 の 見
相 対 論 的 エ ネ ル ギ ー と し て-2.9037247a.u.付
近,諸
補 正 を含
め た 電 離 エ ネ ル ギ ー と して
を 得 た.ま て1/2,
た,Schwartz4)はHylleraas型
3/2な
試 行 関 数(3.60)で,sだ
ど 半 整 数 乗 の べ き を 含 め,164項
タ ーkは3.5に
け につ い
ま で の 関 数 を 用 い て(パ
ラ メ
固 定)外 挿 に よ り
を 得 て い る.
こ の よ う にHeの
基 底 状 態 に つ い て は きわ め て精 度 の 高 い 数 値 が得 られ て お
り,実 験 値 との よい 一 致 は,単 に こ の 原 子 の エ ネ ル ギー が よ くわ か っ た とい う だ け で な く,基 礎 に な っ て い る非 相 対 論 的 波 動 方 程 式,そ
れ に相 対 論 な どの 諸
補 正 の 見 積 り方 法 が ほ ぼ 正 しい こ とを示 す もの で,そ の 意義 は 大 きい. しか し,電 子 の数 が 多 くな る と,Hylleraas型
の 関数 を用 い て 変 分 計 算 をす
る こ とは 変 数 の増 加 と と もに 急 速 に 困難 に な る.そ こ で 次 節 で 述 べ る よ うな平 均 場 近 似 が 広 く用 いら れ る こ とに な る の で あ る.
3.5
ハ ー ト リ ー の 方 法 と ハ ー ト リ ー-フ
前 節 で ち ょ っ と触 れ た ハ ー ト リー の 方 法 は,量 R. Hartreeが
2) G 3) T 4) C
子 力 学 が で き て 間 も な くD.
導 入 し た 近 似 法 で,「 つ じ つ ま の 合 っ た 場 」(Self-Consistent
. Herzberg,
Proc.
. Kinoshita,
Phys.
. Schwartz,
ォ ックの 方 法
Phys.
Roy. Rev. Rev.
Soc. 115, 128,
A248, 366 1146
328 (1959). (1962).
(1958).
Field,略
してSCF,自
己無 撞 着 場 とい う こ と もあ る)の 方 法 と呼 ば れ て い る.
の ち に変 分 法 に よ っ て基 礎 づ けら れ,さ 張 がV. Fockに
らに波 動 関数 の 反 対 称 性 を考 慮 した拡
よ っ て行 わ れ,ハ ー トリー-フ ォ ッ ク の 方 法 と して 原 子 だ け で
な く分 子 の 電 子 状 態 の計 算 に も広 く用 い られ て い る. い ず れ も個 々 の 電 子 が 他 の 電 子 の つ くる平 均 的 な場 の なか で 運 動 し,1つ
の
軌 道 関 数 に よ って そ の 運 動 状 態 が 記 述 され る とす る.い わ ゆ るorbital近 似 で あ る.Hartreeの
方 法 で は 原 子 全 体 の 波動 関 数 は
(3.68) の よ うに各 電 子 の 軌 道 関 数 の 積 で与え られ る とす る.各 軌 道 関 数 は あら か じめ 関数 形 を決 め て お くの で は な く,変 分 法 に よ っ て ψi(i=1, 2,…,N)の
満 たす
べ き方 程 式 を導 き,そ れ を解 い て決 定 され る.す な わ ち
(3.69) を極 小 に す る よ うに(3.68)の
各 軌 道 関 数 を決 め る.こ の 式 の 分 母 を1に 保 ち
な が ら分 子 を極 小 に す る とす れ ば 条 件 付 きの 変 分 に な り,未 定 係 数 法 を使 え ば よ い.こ
こ で は 直接 分数 の 極 値 を求 め る.
(3.70) こ の 方 法 で 得 ら れ る 最 善 のΨ と,(3.69)に (3.70)は
を 用 い て 計 算 さ れ る エ ネ ル ギ ー 値 をEと
よ り
す る
が 成 り 立 つ は ず で あ る か ら,
以 下 の よ う に な る.
(3.71) こ の あ と の 式 を 簡 単 に す る た め,話 を 代 入 す る.た
をHeに
限 定 し,こ
こ に
だ し,ψ1, ψ2は 規 格 化 さ れ て い る も の とす る.さ
らに 簡 単 の た
め 原 子 単 位 を 用 い る こ と と し,ψ1, ψ2の 変 数r1, r2を そ れ ぞ れ1, 2と略 ハ ミ ル トニ ア ン の う ち1電 +1/r12で
子 だ け に 関 係 し た 部 分 をh1, h2と
あ る か ら,関数ψ1を
わ る とす る と
δψ1だ け 変え,そ
記 す る.
す る とH=h1+h2
れ に 伴 っ て ψ1*が δψ1*だ け 変
(3.72) と な る.h1は
エ ル ミー ト演 算 子 で,
で あ る か ら,上
の 式 の 左 辺 第1,2行
な っ て い る.ψ1の
実 数 部 分,虚
立 と 見 な さ れ,(3.72)に
目 と 第3,4行
目 は互 い に 共 役 複 素 量 に
数 部 分 は 独 立 に 変 え ら れ る か ら δψ1,δψ1*は 独
よ り そ れ ぞ れ の 係 数 が0と
な る.す
なわち
(3.73a) ただ し
(3.74a) 同 様 に,ψ2(2)を
変 え る こ とに よ り
(3.73b) (3.74b) が 得 ら れ る.(3.73)か の 他 に 電 子2か お り,逆
にψ2は
な っ て い る.こ
ら わ か る よ う に,ψ1は
核 が つ く り 出 す クー ロ ン 引 力 場
ら の 平 均 的 斥 力 場 が あ る と し た と き の1電
子 問題 の解 に な って
核 の 引 力 と ψ1(1)に よ る 平 均 的 斥 力 と を 考 え た と き の 解 に の よ う に 互 い に(平 均 し た 場 に つ い て で は あ る が)相 手 の つ く
る場 の な か で の 運 動 を表 す 軌 道 に 入 っ て い る と い う意 味 で つ じつ まが合 って い る.こ
れ がHartreeが
(3.73)を し,そ
は じめ に 考 え た 近 似 計 算 法 の 方 針 で あ っ た.
解 く に は,あ
れ を(3.73)の1/r12を
解 ψ1,ψ2は,は
ら か じ め 何 ら か の 考 え に よ り近 似 的 な ψ1,ψ2を 推 定 含 む 積 分 に 代 入 し て 得ら れ る 式 を解 く.得ら
じ め に 推 定 し た ψ1, ψ2とは 一 般 に 異 な る で あ ろ う.新
れ た
し い ψ1,
ψ2を 再 び1/r12の
あ る積 分 に 入 れ2本
の 式 を 解 き な お す.こ
の よ う な手 続 き を
繰 り返 せ ば や が て 解 と そ れ に 対 応 す る 固 有 値 ε1,ε2が 収 束 し,つ
じつ ま の合 っ
たψ1, ψ2の 組 が 得 ら れ る. ヘ リ ウ ム 様 原 子 の 基 底 状 態 なら,2電
子 は ス ピ ン 逆 向 き で 同 じ1s的
な軌 道
に 入 る と 思 わ れ る か ら,ψ1, ψ2の 関 数 形 は 同 じ と 考 え ら れ,(3.73a)と(3.73 b)は
電 子 の 番 号1と2を
と りか え た だ け で 実 質 的 に 同 じ もの に な る .そ
こで
(3.75) を 繰 り 返 し 解 け ば よ い. 一 般 の 場 合 に戻 り ,ψ1, ψ2が 規 格 化 さ れ て い る と す る と, を(3.69)に
代 入 して
(3.76) と な る が,こ
れ と(3.74)と
か ら
(3.77) で あ る こ と が わ か る.こ
れ らの 和 は
(3.78) と な り,各 ル ギ ーEに
軌 道 に あ る 電 子 の エ ネ ル ギ ー(orbital 等 し く な い.前
energy)の
和 は 原 子 の全 エ ネ
記 の 式 か らす ぐ に わ か る よ う に,電
子間 の斥 力の
エ ネ ル ギ ー が ε1,ε2の な か に 重 複 し て 入 っ て い る た め で あ る . も し 電 子2がψ2に
い る ま ま で 電 子1を
原 子 か ら 除 く こ と が で き る と す る と,
残 され た イ オ ンの エ ネ ル ギー は
(3.79) で あ る.E+−Eは
電 子2の
軌 道 が 変 わ ら な い と い う 仮 想 的 な 条 件 下 で 電 子1
を 原 子 か ら 取 り 除 く の に 要 す る エ ネ ル ギ ー,す
な わ ち電 離 エ ネ ル ギー で あ る.
と こ ろ が,(3.76)(3.79)に
ε1の 符 号 を 変 え た も の に 等 し
よ り こ れ は(3.77)の
い こ とが わ か る.こ の 関 係 をKoopmansの
定 理 と い う.現 実 に は1つ
の電 子
を取 り除 く と残 りの 電 子 の 軌 道 は新 し い環 境 に 即 して 変 形 す るか ら-ε1は 正 確 な電 離 エ ネ ル ギー で は な く,そ の1つ な お,1電
の近 似 値 に な っ て い る.
子 軌 道 関数 は 球 対 称(s軌 道)と は 限 ら な い.そ
子 の 感 ず る平 均 場 も球 対 称 で な くな るから,(3.73)を
うす る と相 手 の 電
解 くの が た い へ ん厄 介
に な る.そ こ で相 手 の 電 子 の つ く り出す 平 均 場 が球 対 称 で な い と き は,通 常 こ れ を向 きで 平 均 して球 対 称 に して しま う.こ うす る と中心 力 場 の な か の1電 子 問題 とな っ て,扱 い や す い.そ の 結 果 得 られ る ψ は水 素 様 原 子 と同 じ く
(3.80) の 形 に な る で あ ろ う.こ 外 に も つ0点
の よ う に し て 求 め ら れ た 動 径 関数u(r)がr=0,∞
の 数 をn-l-1と
お い て 主 量 子数nを
…)を 用 い て 水 素 の 場 合 と 同 様 に1s軌
道(n=1
決 め る.こ
, l=0),3p軌
以
のn(=1,
2, 3,
道(n=3, l=1)
な ど と呼 ぶ の で あ る. ヘ リ ウ ム 様 原 子 で は 電 子 は2個
し か な い の で,ス
ば 同 じ空 間 軌 道 に 入 っ て も 差 し 支 え な い が,3電 す る と き は3個
ピン の 向 きが 逆 で さ え あ れ
子 以 上 の 系 に こ の 方 法 を拡 張
の 電 子 が 同 じ 軌 道 に 入 る こ と が な い よ う に の 各 軌 道 を 決 め な け れ ば な ら な い.こ
の 排 他 律 が 一 応 は 考 慮 さ れ る の で あ る が,も 数 は2電
れ に よってパ ウ リ
っ と基 本 的 に は,電
子 の 入 れ 換 え に 対 し て 反 対 称 で な け れ ば な ら な い.そ
い れ た う え で,Hartreeと
子系の波動 関 の こ とを考 慮 に
同 様 に つ じつ ま の 合 っ た 軌 道 群 を 求 め る の がFock
の や り方 で あ る. そ こ で ひ き 続 きHe様
原 子 に 限 る こ と と し,ハ
ー ト リ ー-フ ォ ッ ク の 方 法 と
呼 ば れ て い る こ の 方 法 の あ ら ま し を 説 明 し よ う.(3.8)で 式 の 形 に 書 か れ た 波 動 関 数,す
導 入 し た よ う な行 列
な わ ち ス レー ター 行 列 式 か ら 出 発 す る.
(3.81) ハ ミル トニ ア ン の期 待 値 を求 め る と
(3.82)
の よ うに4つ の 部 分 か ら成 る.こ
こでdτ は 空 間座 標 に つ い て の 積 分 とス ピ ン
座 標 に つ い て の 和 を と る こ と を意 味 す る もの とす る.ま た,原 子 単 位 を用 い る こ とに す れ ば
(3.83a)
(3.83b) (3.83c) と な る.そ
こで
(3.84) の 条 件 下 に(3.82)を 極 小 に す る こ と を考 え る.今 回 は 未 定 係 数 法 を用 い る こ と に し,
(3.85) を 極 小 に す る.ε(i, j)が
未 定 係 数 で あ る.ま
ず,φ1→
φ1+δ φ1と し,δ φ*1,
δφ1を 独 立 と 見 る とハ ー ト リー の 方 法 の 場 合 と 同 様 に し て
(3.86a) が 得 ら れ る.同 ら れ る.こ
様 に φ2→
れ を(3.86b)と
ぜ い 絶 対 値1の
φ2+δ φ2と して,上 呼ぶ こ と に す る.い
式 の1, ま,Ψ
2を
と りか え た 式 が 得
を 変 え る こ と な く(せ い
位 相 因 子 が 変 わ る く ら い で)φ1, φ2に 適 当 な 一 次 変 換 を施 し て
を対角 形 に し た と し,新
し い ス ピ ン 軌 道 関 数 を 改 め て φ1,φ2,そ
書 く こ と に す る と,
の 空 間 部 分 を ψ1,ψ2と
(3.87a) お よ び,こ
こ で1と2を
入 れ 換 え た 式(こ
れ を(3.87b)と
呼 ぶ)が 得 ら れ る.
こ れ が ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク の 方 法 に お け る 方 程 式 の 正 準 形 で,こ さ せ て 解 く こ と に な る.な
お,上
れ ら を連 立
式 で ア ン ダ ー ラ イ ン を し た 箇 所 は φ1と φ2が
同 じ 向 き の ス ピ ン の と き だ け 現 れ る.こ
の 項 は 同 じ向 き の ス ピ ン を も つ 電 子 ど
う し が 空 間 的 に 互 い に 避 け 合 う こ と を 表 す 非 局 所 的 相 互 作 用 に 相 当 し,こ 省 略 す る と 前 に 述 べ た ハ ー ト リー の 式 に 戻 る.電 が,こ
れ は ク ー ロ ン 斥 力 の た め で は な く,電
か ら 出 て き た 見 か け の 力 で あ る.こ
れ を
子 が 互 い に避 け合 う とい っ た
子 が フ ェ ル ミ粒 子 で あ る こ と だ け
の 力 が あ る と,解
くべ き式 は 連 立 微 積 分 方
程 式 に な っ て ハ ー ト リー 近 似 よ り も解 くの が 厄 介 に な る が,逐
次 近似で解の収
束 を 得 る こ と に は 変 わ りな い. ハ ー ト リー の 方 法 も,ハ
ー ト リー-フ ォ ッ ク の 方 法 も,系
の エ ネ ル ギ ー を極
小 に す る と い う 変 分 原 理 か ら 波 動 関 数 を 求 め て い る の で,エ
ネルギーはか な り
精 度 よ く決 め ら れ る の に 対 し て,得ら
れ る波 動 関 数 Ψ の 精 度 も同 じ くら い よ
い と は 限 ら な い こ と に 注 意 す る 必 要 が あ る .ま
た,ハ
ー ト リー-フ ォ ッ ク の 方
法 も 自 分 以 外 の 電 子 の 位 置 に つ い て 平 均 して い る の で,電 い.こ
れ を 改 善 す る に は 配 置 混 合(配
置 間 相 互 作 用)な
子 相 関 が 入 って い な
ど の 手 続 きが 要 求 され
る. ハ ー ト リー-フ
ォ ッ ク の 方 法 に つ い て の こ れ か ら 先 の 議 論 は §5.3.2で
一般の
多 電 子 原 子 に つ い て 述 べ る と き に 行 う こ と に す る.
3.6 相 対 論,量
子 電磁 力 学 の効 果
水 素 様 原 子 で 相 対 論 の 効 果 を取 り入 れ る に は シ ュ レー デ ィ ン ガ ー 方 程 式 を デ ィ ラ ッ ク方 程 式 に 置 き換 え れ ば よ か っ た.2個
以 上 の 多 電 子 系 に な る と,1
本 の ま とま っ た 式 に相 対 論 が 取 り入 れ られ て い て,そ れ を解 け ば十 分 とい うよ うな もの は存 在 し な い.そ
こで ハ ミル トニ ア ンの1電
子部分 だけをデ ィラ ック
理 論 の と きの よ うに 置 き換 え,電 子 間 の相 互 作 用 に は クー ロ ン力 だ け を考 え て
(3.88) と い う式 を 解 くこ とが 多 い.そ の 際,デ
ィ ラ ッ ク理 論 で は 電 子 の 負 の エ ネ ル
ギー 状 態 が 存 在 す る とい う事 情 が あ っ た.1電
子 の と きは 負 の エ ネ ル ギー 状 態
は す べ て 電 子 で埋 ま っ て い るの が 真 空 で あ る と して,正 の エ ネ ルギー を もつ 電 子 が 負 の エ ネ ル ギー 状 態 に飛 び 込 む 可 能 性 を抑 え た(1電 子 問 題 に 無 数 の 電 子 の 存 在 を持 ち込 む 矛 盾 につ い て は こ こ で は 立 ち入 らな い).そ 光 の 放 出 を し ば ら く無 視 して お け ば,電 ギー 状 態 へ 飛 び移 る こ とは な か っ た.と
う しな い ま で も,
子 が 正 エ ネ ル ギ ー 状 態 か ら負 エ ネ ル こ ろが2電
子 系 に な る と,光 を 出 さ ず
全 エ ネ ル ギー を変 えず に,ク ー ロ ン力 に よ って1つ
の 電 子 が 負 エ ネ ル ギー に な
り,他 方 の 電 子 が そ の 分 だ け 高 い エ ネ ル ギ ー に 上 が り,そ れ が 十分 高 け れ ば電 離 し て し ま う こ とが 可 能 で あ る.し たが って,安 定 な 束 縛 状 態 がつ くられ な く な る.こ れ を防 ぐに は,た
とえ ば 正 エ ネ ル ギー 状 態 だ け を取 り出 す射 影 演 算 子
Λ+を 導 入 し て,電 子 間相 互 作 用 を
の よ う に2つ
の電 子 の エ ネ ル ギ ー が と もに 正 に と ど ま る よ うに枠 を はめ て問 題
を 解 け ば よ い.と
に か く(3.88)を
ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク 流 に 解 く の が 普 通 で,
こ の や り 方 を デ ィ ラ ッ ク-フ ォ ッ ク 法 と い う.す
な わ ち,個
々 の 電 子 を あ る4
成 分 軌 道 関 数 φ1,φ2に あ て は め て そ の 積 を 反 対 称 化 し た も の*1
を2電 子 系 の 波 動 関 数 と考 え,(3.88)の
括 弧[]内
に あ る こ の 場 合 の ハ ミル
トニ ア ン の期 待 値 を計 算 し,そ れ が 極 値 を と る よ うに2つ
の軌 道 関数 の 形 を決
め る とい う処 方 箋 で あ る.非 相 対 論 的 な取 り扱 い と同 じ く,連 立微 積 分 方 程 式 を逐 次 近 似 で解 く こ とに な る.そ の と き各 段 階 で得 られ た1電 子 関数 の うち正 エ ネ ル ギー の 部 分 だ け を近 似 の 次 の ス テ ップ に 持 ち 込 む こ と に よ って 前 述 の *1 Aは あ る.
反対 称 化 を意 味 し
,(1),(2)な
ど と書 い た の は 電 子1,
2の 座 標 を代 表 させ た もの で
Λ+を 用 い た と同様 の 効 果 を もた らす こ とが で き る. 実 際 に は,電 子 間 の 相 互 作 用 は クー ロ ン力 だ け で は な い.正
し くは電 子 ・光
子 系 の 相 対 論 的 量 子 論 で あ る量 子 電 磁 力 学(QED)に
よ っ て計 算 しな け れ ば な
ら ない.計
の種 の 計 算 に は 電磁 場 の
算 の 中味 に は本 書 で は立 ち 入 らな い が,こ
ポ テ ン シ ャ ル の 任 意 性 を避 け る た め に ゲ ー ジ を決 め て お か な け れ ば な ら な い. 原 理 的 に は最 終 的 結 果 は ゲ ー ジの と り方 に よ らな い は ず で あ るが,近 似 計 算 で は と り方 に よ る差 が 現 れ る.こ こ で は(2.101)の
クー ロ ン ゲ ー ジ を とる こ と に
す る. さ て,ク ー ロ ン 力 以 外 の 相 互 作 用 で あ るが,G.
Breit (1929)は2つ
の電子が
光 子 をや りと りす る こ とに よ っ て生 ず るエ ネ ル ギー を計 算 した.や 光 子 の 波数 をkと
と な る.kr12が
り と りす る
す る と き,こ の 相 互 作 用 は
小 さ い と し てk→0の
と きの 値 を とる と
(3.89) と な る.r12はr12方
向 の 単 位 ベ ク トル.第1項
延 相 互 作 用(retardation 互 作 用(Breit
interaction)と
interaction)で
あ る.ク
は 磁 気 相 互 作 用,第2項
呼 ば れ,そ
の 和(3.89)が
は遅
ブ ラ イ ト相
ー ロ ン力 だ け の と き と 同 様 に
(3.90) を相 互 作 用 と し て ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク的 な計 算 をす れ ば よい.な 相 互 作 用 は近 似 で,そ
おブ ラ イ ト
れ を1次 摂 動 と して 相 対 論 的 補 正 を 出 す の に は よ い が,
これ を用 い て 高 次 の 補 正 を 出す とま った く正 確 さ を欠 くも の に な る. こ の あ と,1電 QED効
子 問 題 で す で に 述 べ た 自 己 エ ネ ル ギー や 真 空 偏 極 な ど の
果 お よ び,原
補 正 を加 え,さ
子 核 が 点 電 荷 で は な くて 有 限 な 広 が りを もつ こ とに よ る
ら に(3.89)を
導 くと きk→0と
し た か ら,有
限 なkを
もつ 光
子 をや り と りす る こ とに よ る補 正 も加 えて 相 対 論 的 な 原 子 の エ ネ ル ギー 準 位 が 計 算 さ れ る.た だ し一 般 の 多 電 子 系 に お い て もQED補 る 式 や,そ
正 は 水 素 様 原 子 に対 す
の 数 値 解 を も と に して 見 積 も ら れ るの が 普 通 で あ る(Hgに
ブ ラ イ ト相 互 作 用,QED補
正 の 数 値 例 が 表5.8に
あ る).
おける
3.7 ヘ リ ウ ム 様 原 子 の エ ネ ル ギ ー 準 位 の 例
図3.1a,
bに ヘ リ ウ ム の 中 性 原 子 お よ び ネ オ ン の8価
ル ギ ー 準 位 を 示 す.ヘ
リ ウ ム 様 原 子 の 特 徴 の1つ
イオ ンの若 干 のエ ネ
は 電 離 エ ネ ル ギー が 大 変 大 き
い こ と で あ る が,ま
た 最 低 の 励 起 状 態 の エ ネ ル ギ ー も非 常 に 大 き い.ヘ
で い え ば,20eV近
く ま で1つ
1s,2s軌
道 に1つ
(1s)(2s)3S状 1S状
も励 起 状 態 が 存 在 し な い.最
ず つ 電 子 を 入 れ,し
態 で あ る.同
と が 多 い.す
な わ ち,ス
る.こ
の よ う な 関 数 は2電
−f(r2
, r1)な ら ばf(r,
.そ
あ って も ス ピ ン が 逆 向 き の
の理 由は以 下 の よ うに説 明 され るこ
ピ ン が 平 行 な ら 原 子 の 波 動 関 数 は2電
の 交 換 に 関 し て 対 称 と な り,必
子 の ス ピ ン座 標
然 的 に 位 置 座 標 の 交 換 に 関 し て は 反 対 称 とな
子 の 位 置 が 合 致 し た と き0で
r)=0).し
初 に現 れ るの は
か も そ れ ら の ス ピ ン を 同 じ向 き に し た
じ 電 子 配 置(1s)(2s)で
態 の 方 が 少 しエ ネ ル ギー が 高 い
リウ ム
た が っ て2電
あ る(f(r1, r2)=
子 が 接 近 し て クー ロ ン 斥 力 を
強 く感 じ る こ と が 対 称 性 に よ っ て 避 け ら れ て い る と い う の で あ る.し MessmerとBirss5)はHeの1s2p1P, の 期 待 値 を 計 算 し,三 て い る.三
重 項 の 方 が エ ネ ル ギ ー 準 位 が 下 に な る の は,こ
, 3S, 1s3p1P,
の場合 電子が核 の近
力 を い っ そ う 強 く 感 ず る か ら だ と い う.Heの1s2s
3P, 1s4p1P,
う し て み る と,単 き,反
精 度 の 高 い 波 動 関 数 を 用 い てr-121
重 項 の 方 が 一 重 項 よ り大 き な 値 を 与 え る こ と を 見 い だ し
く に 来 る こ と が 多 く,引 1S
3Pで
か し,
3Pで
も 同 様 な 状 況 に あ る こ と が わ か っ て い る.こ
純 明 快 な 説 明 は 時 と し て 誤 っ た 判 断 へ 導 きや す い こ と に 気 づ
省 さ せ ら れ る.
ま た,配
置(1s)(2s)よ
軌 道 と2p軌
り も(1s)(2p)の
道 は 同 じ エ ネ ルギー
方 が エ ネ ル ギ ー が 高 い.水
で あ っ た が,2電
子 系 で は も う1つ
素 で は2s の電子 が
あ っ て そ れ が 核 の す ぐ近 く に あ る こ と を 考 慮 し な け れ ば な ら な い の で あ る.す な わ ち,核
の す ぐ そ ば ま で 行 け ば 核 の2単
あ る が,少
し 外 で は1s電
て し ま う.そ
5) R
. P. Messmer
れ で1s軌
and
位 の 電荷 の つ く り出 す 強 い 引 力場 が
子 に よ る 遮 蔽 の た め に 核 電 荷 は1単
位の ように見 え
道 の 内 ま で 入 り込 ん で 強 い 引 力 場 を 感 ず る か,外
F. W.
Birss, J.
Phys.
Chem.
73,
2085
(1969).
の弱
図3.1a
図3.1b
Heの
Ne8+の
エ ネ ル ギ ー 準 位(実 測 値)
エ ネ ル ギー 準 位(計 算 値)
い 引 力 場 しか 感 じ と れ な い か で エ ネ ル ギ ー の 差 が 生 ず る.s軌 る がp軌
道 で はl=1で
シ ャ ル が 現 れ,電 図3.1aで
子 が 核 の 位 置 に 近 づ くの を 妨 げ て い る の で あ る. で し か 示 し て な い が,こ
で の 間 に(1s)(nl)の
励 起 状 態 が 存 在 す る.こ にn1Sと
あ
動径 方 向の 運動 に対 す る波動 方 程 式 に遠心 力 ポテ ン
は(1S)(3S)1Sま
ギ ー24.59eVま
道 はl=0で
かn3Pの
の 上 に は電 離 エ ネ ル
よ う な 電 子 配 置 に 対 応 し た 無 数 の1電
の よ う な1電
子 励 起 状 態 に 対 して は状 態 を指 定 す る の
よ う な 簡 単 な 記 号 が 用 い ち れ る こ と が あ る.い
な く て も(1s)(ns)と
か(1s)(np)と
か る か ら で あ る.と
こ ろ で,こ
入 っ て い る 電 子 は,核
ちい ち書か
い う電 子 配 置 か ら出 た もの で あ る こ とが わ の よ う に 電 子1つ
い る 状 態 を リ ュ ー ドベ リ状 態(Rydberg リ ュ ー ドベ リ原 子(Rydberg
子
atom)と
だ け が 高 い励 起 軌 道 に 入 っ て
state),そ 呼 ぶ.十
の よ う な状 態 に あ る 原 子 を
分 高 い 主 量 子 数 を もつ 軌 道 に
か ら の 平 均 距 離 が き わ め て 大 き い か ら,残
点 電 荷 の よ う に 見 る こ と が で き る で あ ろ う.し
りの イ オ ン は
た が って そ の よ うな 原 子 の エ ネ
ル ギ ー は(中 性 原 子 と し て)近 似 的 に
(3.91) の 形 に 書 け るで あ ろ う.Ecoreは ((2.29)(2.43)参
照.た
コ ア(core,残
留 イ オ ン)の エ ネ ル ギー で あ る
だ し,簡 単 の た め 核 の 質 量 が 有 限 で あ る 効 果 を無 視 し
て い る).こ の 近 似 で は外 の 電 子 を水 素 の と き と同 じ と見 た の で あ る.し か し さ ら に よ く考 え る と,外 側 の 電 子 の 軌 道 角 運 動 量 量 子 数lが 小 さい と き,と わ けl=0のS状
り
態 の と き に は 遠 心 力 ポ テ ン シ ャ ル が な い の で わ ず か な が ら核
の近 く まで 波 動 関 数 が 広 が っ て い る.そ の ため コア の 電 子 と入 れ 換 わ る交 換 効 果 が あ ろ う し,コ ア の 電 子 に よ る核 電 荷 の 遮 蔽 も完 全 とは 限 らな い.仮
にこれ
らの効 果 が 十 分 に 小 さ い と して 無 視 した と して も,ま だ 他 に考 え な け れ ば な ら な い こ とが あ る.す な わ ち,外 の電 子 の つ くる 電場 に よ っ て コア の 電 子 の 波 動 関 数 が ゆ が み,分 極 が起 こ る.電 気 双 極 子 モー メ ン トが つ くられ て そ れ が 外 の 電 子 と相 互 作 用 をす る.い わ ゆ る分 極 力(polarization
force)で あ る.こ の 力
の ポ テ ン シャ ル は 遠 方 で
(3.92)
の 形 を して い る.α は 分 極 率(polarizability)と 呼 ば れ る も の で,電 場 が あ ま り強 くな い範 囲 で 誘 起 され る双 極 子 モー メ ン トが 電 場 の 強 さ に比 例 す るそ の 比 例 係 数 の こ とで あ る.さ
らに,コ ア の 電 子 が球 対 称 で な い低 い エ ネ ル ギ ー の励
起 軌 道 に あ る と き は コア は 電 気 四 極 モー メ ン トを もつ こ とが あ り,こ れ がr-3 に 比例 す る非 球 対 称 ポ テ ン シ ャル 場 を外 の電 子 に 提 供 す る.そ こ で0次 の 波動 関 数 と し て 水 素 原 子 の 関 数 を用 い,r-4ま
た はr-3に
比 例 す る 上 述 のポ テ ン
シ ャ ル の 期 待 値 を求 め る こ とに よ り,単 純 に 予 想 さ れ た エ ネ ル ギー(3.91)に 対 す る補 正 を推 定 す る こ とが で き る.水 素 の 波 動 関 数 を用 い た と きのr-3の 期 待 値 は す で に §2.2で 示 し た.r-4の
期待値 は
(3.93)
で あ る.ど
ち ら もlを
有 限 な 値 に 固 定 し,nだ
n3に 反 比 例 す る こ とが わ か る.し
の 形 に な る.そ
け を十 分 に 大 き く して い く と
たが っ て エ ネ ル ギー の補 正 は
こ で系 の エ ネ ル ギー は
(3.94) と 書 け る.た 数nに
だ し,
は 水 素 様 原 子 の エ ネ ル ギー の 式 で 主 量 子
対 す る 補 正 の 役 割 を 果 た し て い る の で,量
呼 ば れ る*1.こ
の よ う にlを
エ ネ ル ギ ー の 式 でnを
固 定 してnを
定 数 値(整
子 欠 損(quantum
大 き く し て い く と き,水
数 と は 限 ら な い)だ
れ た ス ペ ク トル を よ く再 現 で き る こ と は,ア
素様 原子の
け シ フ ト させ る と実 測 さ
ル カ リ原 子 な ど の 高 励 起 状 態 か ら
の 発 光 ス ペ ク トル を 解 析 し てJ. R. Rydbergが1890年 あ る.
defect)と
に 見 い だ した 経 験 則 で
を 有 効 量 子 数 と 呼 ぶ こ と が あ る.ち
な み に(3.94)のRy
に 相 当 す る 定 数 は ボ ー ア の 原 子 模 型 に よ っ て そ の 意 味 が 明 確 に な り,(2.43) *1 量 子 欠 損 と い う 名 称 は 前 期 量 子 論 の 時 代 にE
.Schrodinger
彼 はNaの δ(l=0)に 相 当 す る量 を 計 算 し て い る.A. Phys. 65, 221 (1997)参 照.
(1921)に
R. P. Rau
and
よ っ て 導 入 さ れ た. M. Inokuti, Am.
J.
の よ う に 物 理 学 の 基 本 定 数 を 用 い て 書 か れ る よ う に な っ た も の で あ る.Ryが Rydberg定
数 と呼 ば れ る の も 上 記 の よ う な 歴 史 的 事 情 に よ る も の で あ る.
以 上,1電
子 励 起 状 態 だ け を 見 て き た が,も
し2電
子 が と もに 励 起 軌 道 に あ
る と き は ど の よ う な エ ネ ル ギ ー 準 位 が 得 ら れ る の だ ろ うか.こ 励 起 状 態 に つ い て は 後 に 改 め て 述 べ る が,図3.1
上 の 大 き な エ ネ ル ギ ー を もつ 電 子 が1つ
れ が 自 動 電 離(autoionization)で
あ
れ らの状 態 は ヘ
り も は る か に 高 い エ ネ ル ギ ー を も つ か ら,
も し一 方 の 電 子 の エ ネ ル ギ ー が 他 方 に 渡 る な ら ば,原 し,30eV以
子
aで 見 る とお よ そ58eVの
た りか ら 上 に そ の よ う な 状 態 が 存 在 し て い る こ と が わ か る.こ リ ウ ム の 電 離 エ ネ ル ギ ー24.59eVよ
の よ う な2電
子 は た ち どころ に電離 飛 び 出 す こ と に な る.こ
あ る.
図3.1 bで は 比較 の た め の ネ オ ン のヘ リウ ム 様 イ オ ン につ い て い くつ か の 準 位 を示 した.2電
子 励 起 状 態 は 省 い て あ る.核 電 荷 が 大 き く,引 力 場 が 強 い た
め に 縦 軸 の エ ネ ル ギー の値 が 大 き くな っ て い る こ とが わ か る.
3.8
H-イ
オ
ン
元 素 の な か に は 通 常 の 中性 原 子 が も う1つ 余 分 の 電 子 をつ か ま えて 負 イ オ ン をつ く る もの が あ る.水 素 も 負 イ オ ン をつ く る.H-は
あ ま り高 温 で な い 星 の
大 気 中 で つ く られ て,可 視 か ら赤 外 域 に か け て の光 を よ く吸 収 す る.余 分 の 電 子 の結 合 エ ネ ル ギ ー(こ れ を電 子 親 和 力,electron
affinityと い う)が 小 さい た
め こ の あ た りの 波 長 域 の 光 で 容 易 に 原 子 か ら 離 れ る の で あ る(光 脱 離, photodetachment).ま
た トカマ ク な どの 核 融 合 研 究 装 置 で,プ
ラ ズマ を加 熱
す るた め に 中性 粒 子 の エ ネ ル ギー の 高 い もの を注 入 す る方 法 が あ り,燃 料 の1 つ で あ る 重 水 素Dが
しば し ば用 い られ る,中 性 粒 子 を直 接 加 速 す る の は 困 難
で あ るか ら,イ オ ン を加 速 した あ とで 中性 化 す る の が 通 例 で あ る.そ の 場 合, 負 イ オ ン なら ば 簡 単 に余 分 の電 子 を放 出 して 中性 に な っ て くれ るの で大 変 都合 が よ い. と こ ろ で 水 素 の 負 イ オ ン は ヘ リ ウ ム 様 イ オ ン で あ る.パ な 変 分 関 数 を 用 い た と き のHe様 (3.46)(3.47)式
で 答 が 出 て い る.こ
ラ メ タ ー1つ
の簡 単
原 子 の 基 底 状 態 の エ ネ ル ギー に 対 して は こ でZ=1と
お く と水 素 の 負 イ オ ン の エ ネ
ル ギ ー が 出 る.数
字 を 入 れ て み る と
と な り,
中 性 水 素 原 子 の エ ネ ル ギ ー-1/2a.u.よ れ た と し て も す ぐにH+e-に
あ る.安
い う こ と はH-は
分 解 し て し ま う こ と に な る.し
水 素 の 負 イ オ ン が 存 在 す る.た (〓0.0277a.u.)で
り も 高 い.と
だ し,水
か し,現
つ くら 実 に は
素 の 電 子 親 和 力 は わ ず か0.75415eV
定 な 負 イ オ ン の 存 在 が 示 さ れ な か っ た の は 用 い た軌
道 関 数 が 簡 単 す ぎ て 十 分 な 柔 軟性 を も た な か っ た た め と考 え ら れ る か も しれ な い が,実
は 関 数 形 を あ ら か じ め 決 め な い ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク の 方 法 で 計 算 し
て もや は りH-は
安 定 に な っ て くれ な い の で あ る.
変 分 法 な ら ばHylleraasな 行 関 数 を 用 い る か,複
どが 用 い た よ うに 電 子 相 関 を直 接 含 む 変 分 の 試
数 の 電 子 配 置 の 混 合 に よ って安 定 な水 素 の 負 イ オ ン を 説
明 す る こ と が で き る.は (1929)で,パ
じ め てH-の
ラ メ タ ー は3つ
で あ っ た.も
タ ー を 増 や し た も の が 現 れ,た 関 数P
(s, t, u)に
と え ば,R.
A. Bethe
っ とあ との計 算 では さ らにパ ラ メ E. Williamson
(1942)は(3.60)の
対 して
と お い て パ ラ メ ターx1か a.u.を 得 て い る.こ
らx5ま
で を 決 め,エ
ネ ル ギ ー と し て-0.5264644
れ は 安 定 な 水 素 の 負 イ オ ン を 与 え る だ け で な く,444の
ラ メ タ ー を 用 い たPekeris6)の
H-の
変 分 計 算 に 成 功 し た の はH.
値-0.5277510a.u.に
電 子 親 和 力 が 小 さ い こ とか ら,さ
パ
も か な り接 近 し て い る.
ら に1個
の 電 子 を 付 け 加 え たH--
は存 在 しな い こ とが 予 想 され る が,た
しか に そ の よ う な負 イ オ ン が な い こ とが
証 明 され て い る.す な わ ち,Lieb7)に
よ れ ば,核
負 電 荷 の 粒 子 数NはNNmBmn(ν)と k(ν)l+l'で
and Short
は 積 分 は0に
な
子 積 分 に 寄 与 す る の は 有 限 項 で あ る.
数 を 用 い る と(5.43)は
次 式 で 計 算 さ れ る.
(5.44) ま た,先 に 述べ た ウ ィ グナー の3j記 号 を用 い る と,き れ い な 形 の 公 式
(5.45) が 得 られ る.必 要 に 応 じて 公 式
(5.46) を 用 い てY*を
含 む 表 式 に 適 用 で き る.
残 る 動 径 関 数 の 積 分 はn1l1,n2l2,…
を1,2,…
と略 記 し て
(5.47) の 形 で あ る が,と
くに Rk(12;
12)をFk(n1l1;
n2l2)
Rk(12;
21)をGk(n1l1; n2l2)
と書 く習慣 が あ る.こ れ を用 い る とク ー ロン積 分 と呼 ば れ る2電 子 積 分 の対 角 項は
(5.48) ただ し
(5.49) とな り,ま た 交 換 積 分 と呼 ば れ る もの は
(5.50) (5.51) で 与 え られ る.こ
れ ら を 用 い る と電 子 系 の エ ネ ル ギ ー は
(5.52) こ こ でHⅱ
は1電 子 積 分(5.39)(5.40)の
和 で あ る.こ
の よ う に し て,あ
とは
必 要 な 動 径 関数 が 与 え られ た ら解 析 的 また は 数 値 的 に積 分 を実 行 して上 式 に よ り原 子 の エ ネ ル ギー が 求 め られ る.
5.3.2
波 動 関 数 の計 算
軌 道 関 数 が わ か って い な い と き,そ れ を求 め るの に広 く用 い られ て い る の は 2電 子 系 に つ い て す で に 述 べ た ハ ー ト リー-フ ォ ッ クの 方 法 で あ る.ス
レー
ター 行 列 式 の 形 の 波動 関数 を仮 定 し,変 分 法 を適 用 して ス ピン 軌 道 関 数 に対 す る連 立 微 積 分 方 程 式 を導 く.2電
子 系 の 場 合 は(3.86)が 得 られ,適
に よ っ て右 辺 を単 純 化 した の が(3.87)で の 方 程 式 の正 準 形(canonical 次 の よ う なN本
form)で
当 な変換
あ っ た.こ れ が ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク あ る.同
じ こ と をN電
子 系 で行 え ば,
の 連 立 微 積 分 方 程 式 が 得 られ る(ψ(r)は ス ピ ン 軌 道 φ(ξ)の
空 間 軌 道 部 分 で あ る).
(5.53) こ こ でi=1,
2, 3,…,N,ψi(r)は
規 格 化 さ れ た 関 数 で あ る.jに
占 有 さ れ て い る ス ピ ン 軌 道 に つ い て の 和 で あ る.こ にj=iと
つ いて の和 は
うす る と ク ー ロ ン 斥 力 の 項
し て 自分 自 身 と の ク ー ロ ン力 が 入 っ て し ま っ て お か し い と 思 わ れ る
か も し れ な い が,こ に は な ら な い.こ て く る.Nを (unoccupied ら で あ る*1.こ
れ は 交 換 項 の な か のj=iの の 連 立 方 程 式 を 解 く とN通
超 え る 解 が あ る の は,電 orbital,仮
想 軌 道virtual
式 のψiを
り 以 上,無
orbitalと
も い う)も 解 に な っ て い る か な わ ち,上
式 に 左 か ら
ψkに 置 き 換 え た も の の 複 素 共 役 の 式 を つ
く り そ れ に 左 か ら ψi(r1)を か け た も の を ② と し,①-② ψi,ψkが 遠 方 で 十 分 速 や か に0に
数 の ス ピ ン軌 道 が 出
子 に よ っ て 占有 さ れ て い な い 空 の 軌 道
れ ら の 解 は 互 い に 直 交 す る.す
を か け た 式 を ① と し,上
項 と 消 し合 う の で 困 っ た こ と
をr1で
積 分 す る と,
な る こ とに 注 意 して
*1 ただ し ,空 の軌 道 に 対 して得 られ るエ ネ ル ギー は,占 有 軌 道 の 電 子1つ を もっ て きて そ こへ 入れ た と きの エネ ル ギー で は な く,占 有 軌 道の 電 子 配 置 は動 か さ ず,外 か ら別 の電 子 を1個 もっ て きて 空 軌 道 に 入 れ た と き の エ ネ ル ギー な の で,注 意 を要 す る(藤 永 『 分子軌 道法』[14]§5.4,『 入 門分 子 軌道 法 』[15]§13.1).
が 得 られ る.そ も含 め て,互
こ でハ ー ト リー-フ ォ ッ ク方 程 式 の 解 とな る軌 道 は,空
の もの
い に 直 交 す る こ とが わ か る.こ れ らの 関 数 を 規 格 化 す る こ と に
よ っ て規 格 直 交化 され た ス ピ ン軌 道 の完 全 系 が 得 られ,座 標 とス ピ ンの 任 意 の 関 数 を 展 開 す るの に利 用 で き る.た
とえ ば 配 置 混 合 に よ っ て 電 子相 関 を取 り入
れ る と き,ま ぜ る励 起 状 態 の ス レー ター 行 列 式 をつ くる素 材 に 使 え る. (5.53)の な か の交 換 項 の 性 格 を調 べ る ため に そ の 分 母 分 子 に
を
か けて
(5.54) とい う形 に し て-[]を,ψi(r1)を ン シ ャ ル と見 る.言
決 め る波 動 方 程 式 に 現 れ る一 種 の 有 効ポ テ
って み れ ばr1に あ る 電 子1にr2に
あ る電 荷
が 及 ぼ す クー ロ ン ポ テ ン シ ャ ル と見 る こ とが で き る.こ の 有 効 電 荷 分 布 をr2 で 積 分 す る と,も
し ψiが 占有 され て い る軌 道 の1つ
が 含 ま れ る か らj=iの
項 が 残 って 積 分 は-1に
Σ の な か に ψiは含 ま れ な い か ら積 分 は0と うに,ク
ー ロ ン項 の なか のj=iで
な ら ばjの 和 の な か にi
な る.も
な る.こ
し ψiが空 軌 道 な ら
う して,前
に も述 べ た よ
自分 自身 の 電 荷 分 布 か ら の 力 が 入 っ て い る
よ うに 見 え る の を 交 換 項 で 打 ち消 して い る.さ
ら に有 効 電 荷 は δ(msi, msj)を
含 む か ら 自分 と同 じ向 きの ス ピ ン を もつ 電 子 だ け が 関 与 して い る.次 にr2を r1に近 づ け る と,有 効 電荷 分 布 は
と な り,ク
ー ロ ン項 の電 荷 分 布 の うち 問 題 の 電 子 と同 じス ピン の 電 子 が つ く る
電 荷 密 度 を す べ て 消 し て し ま う.言
い 換 え る と,各
電 子 の す ぐまわ りで は 同 じ
向 き の ス ピ ン を もつ 他 の 電 子 が 遠 ざ け ら れ て い る.場 して い る 電 荷 分 布 に ち ょ う ど1単 は パ ウ リ の 排 他 律,さ とか ら の 帰 結 の1つ
位 の 穴 が あ い て い る と い う こ と に な る.こ
ら に も と を た だ せ ば,電 で あ る.こ
所 と と も に ゆ っ く り変 化 れ
子 が フ ェ ル ミ統 計 に し た が う こ
れ を フ ェ ル ミの 穴(Fermi
hole)と
呼 ぶ こ とが
あ る.実 際 の 穴 の 形 な ど は場 合 場合 に よ り異 な るか も しれ な い が,い ず れ にせ よ積 分 して し まえ ば 電 子1個
分 の 穴 で あ るか ら,こ れ を近 似 して 各 電 子 の まわ
りに球 形 の フ ェ ル ミの 穴 が で きて い る と考 え る こ とが あ る.そ の あ た りで 注 目 して い る 電 子 と同 じ向 き の ス ピ ン を もつ 電 子 密 度 を ρ,穴 の 半 径 をRと ば,
で あ るか ら,半 径Rは
ρ-1/3に比 例 す る こ とが わ か る.と
こ ろ で一 様 密 度 の 電 荷 分 布 の 場 合,半 径Rの ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー はR-1に
すれ
比例 す る.つ
穴 が で き る と,そ の 中 心 の ポ テ ま り ρ1/3に比 例 す る.中 央 に 置 か
れ た 電 子 と同 じ負 の 電 荷 の 分 布 に 穴 が あ るの だか らエ ネ ル ギー の 符 号 は 負(斥 力 が 減 っ て エ ネ ル ギー が 下 が る)と な る.こ
う し て 交 換 項 は 近 似 的 に は-ρ1/3
に 比例 す る ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギー の 降下 を与 え る. この こ とか ら近 似 的 に 交 換 項 を局 所 的 ポ テ ン シ ャ ル で代 用 で き な い か とい う こ とが 考 え られ る.交 換 項 は 実 際 は非 局 所 的相 互 作 用 を表 して い て,こ の こ と が ハ ー ト リー-フ ォ ッ クの 式 の解 法 を厄 介 な もの に して い る.こ の 方 程 式 は 原 子 だ け で な く,分 子 や 固体 に も用 い られ,き わ め て 多数 の 電 子 の 系 を扱 う こ と が 多 いか ら,近 似 的 で あ って もは る か に 扱 い や す い局 所ポ テ ン シ ャ ル が 見 つ か れ ば 大 変 便 利 で あ る.Bloch6)は
自由 電 子 気 体 につ いて フ ェ ル ミの 穴 の計 算 を
して い る.原 子 内電 子 は 自由 電 子 気 体 で は ない が,近 似 的 に 自 由電 子 気 体 での 結 果 を使 う こ と にす る と,交 換 項(5.54)は
(5.55) で 置 き換 え ら れ る7).jに 和 で あ る.電
つ い て の 和 は ψiと 同 じ ス ピ ン の 向 き のjに
子 密 度 が 高 く変 化 も は げ し い 原 子 核 周 辺 お よ び,電
め て 低 い 遠 方 で は こ の 近 似 は よ く な い が,そ
つ いての
子 密 度 が きわ
れ 以 外 で は(5.54)を
算 し た も の と そ う 大 き くは 違 っ て い な い.HermanとSkillman8)は
ま と もに 計 この よ う
な 局 所 ポ テ ン シ ャ ル 近 似 で ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク 方 程 式 を 解 き,そ
の 結 果 を数
表 に し て 示 し て い る. さ て ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク の 式 が 与 え ら れ て も,こ 6) F. Bloch 7) J
, Z.
. C. Slater,
Appendix 8) F . Herman
Physik Phys.
22に2通 and
57,
545
Rev. りの や
S. Skillman,
の あ と具 体 的 な 原 子 で エ
(1929). 81,
385
(1951).
(5.55)の
導 出 はSlaterの
本 の 第2巻[5]の
り 方 で 示 さ れ て い る. Atomic
Structure
Calculations
(Prentice-Hall,
1963).
ネルギー
や 波 動 関 数 を 出 す 作 業 は 簡 単 と は い え な い が,本
計 算 の 実 際 的 な 話 は 省 略 す る.具 [5],
Fischer
[7],藤
永[14]な
書 で は こ れ か ら先 の
体 的 な 計 算 法 に つ い て は,た
ど の 本 を 参 照 さ れ た い.た
と え ばSlater
だ,い
ま まで述べ
な か っ た い く つ か の 関 連 す る 話 題 を 列 挙 す る だ け に し よ う. ハ ー ト リ ー-フ ォ ッ ク の 式 は 逐 次 近 似 法 で 解 い て 軌 道 関 数 を 数 値 的 に 求 め る の が 本 来 の や り方 で あ る が,電
子 の 数 が 多 く な り決 め な け れ ば な ら な い 軌 道 関
数 の 数 が 多 くな る と そ の 手 間 は 大 変 な も の に な る.そ 底 関 数(basis
functions)の
一 次 結 合 で 近 似 し,そ
こで 軌 道 関 数 を適 当 な 基
の係数 お よび基 底関数 に含
ま れ る 少 数 の 未 定 定 数 を 変 分 パ ラ メ タ ー と し て 変 分 計 算 を 行 っ て ハ ー ト リー -フ ォ ッ ク 法 の 近 似 解 を 求 め る こ とが 多 い る.基
.こ
底 関 数 と し て よ く用 い ら れ る もの の1つ
も の が あ る(軌 道 関 数 に は な っ て い な い が,し し てSTOと
い う).Slaterが
れ はRoothaanの
方 法 と呼 ば れ
に ス レ ー タ ー 型 関 数 と呼 ば れ る ば し ばSlater
type
orbitals,略
考 え た 関数 は
(5.56a) (Nは の よ う な 形 を し て い る.も
規 格 化 定 数)
(5.56b)
と も とハ ー ト リー-フ ォ ッ ク の 数 値 解 を 近 似 的 に 再
現 す る 表 式 と し て 導 入 さ れ,n*,ζ
の 選 び 方 も提 案 さ れ て い る.主
1, 2, 3の 範 囲 で は 有 効 主 量 子 数n*はnに
等 し く とら れ,ζ
量 子 数nが
は
(5.57) で 与 え られ る.Zは
原 子 番 号,す
な わ ち,原 子 核 の 電 荷 数 で,Sは
問題 に し
て い る軌 道 に い る電 子 に対 して 原 子 内 の他 の 電 子 が 核 電 荷 を遮 蔽 す る程 度 を表 す 数(遮 蔽 定 数,screening 1s,
(2s,
constant)で 2p),
(3s,
3p),
の よ う に グ ル ー プ 分 け し て(sとpは1つ 1グ ル ー プ と す る),考
寄 与,s,
す る.同 p軌
3d,
(4s,
4p),
決 め るに は 軌 道 を 4d,
4f,…
の グ ル ー プ と し,そ
え て い る 電 子 よ り 内 側,同
の 電 子 が そ れ ぞ れ 以 下 の よ う にSに は0と
あ る.Sを
じ グ ル ー プ,外
寄 与 す る と す る.ま
じ グ ル ー プ 内 の 他 の 電 子1個
あ た り1.0,
ず,外
あ た り0.35(1sに
道 に 対 し て は す ぐ 内 側 の グ ル ー プ の 電 子1個
よ り 内 側 は1個
れ 以 外 は単 独 に 側 に あ る他 の 電子 の寄 与 限 り0.30)の
あ た り0.85,そ
d, f軌 道 に 対 し て は 内 側 の す べ て で 電 子1個
れ あ た
り1.0と
し て こ れ ら の 寄 与 を 加 え てSを
以 上 で はn*=n-δ
と お き,4s,
な ど と と る.こ
4pな
の よ う にSlaterが
常n*お
5s, 5pな
ど で は δ=1.0 ー ト
よ うな 形 の 関 数 の 一 次 結 合 で近 似 す る と
じn, lに
も つ と し て き た.し
たは それ
の と り 方 が あ る が,ハ
よ び ζ を は じ め か ら 決 め て し ま わ ず,変
い ま ま で の と こ ろ で は,同 数Rnl(r)を
ら に,nが4ま
ど で は δ=0.3,
決 め たn*,ζ
リ ー-フ ォ ッ ク の 軌 道 関 数 を(5.56)の き は,通
求 め る.さ
分 で 決 め る の で あ る.
属 す る軌 道 関 数 は す べ て 共 通 の 動 径 関
か し 具 体 例,た
と え ばLi原
(1s)2 (2s)を 考 え て み る とす ぐわ か る よ う に,1s軌
子 の 基 底状 態
道 に あ る 電 子 の う ち,2s電
子 と同 じ 向 き の ス ピ ン を もつ も の と反 対 向 き の ス ピ ン を も つ も の で は 軌 道 関 数 を 決 め る ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク の 式 に 電 子 交 換 の 項 が あ る か な い か の 違 い が あ っ て,同 あ る.そ
じ1s軌
道 と い っ て も 関 数 が 同 じ と い う制 限 を つ け る の は 不 自 然 で
こ で 同 じn, lに
属 し て い て も ス ピ ン の 向 き に よ り動 径 関 数 が 違 っ て
よ い と し て そ れ ら の 形 を 決 め る や り方 が 考 え ら れ,非 ク 法(Unrestricted れ に 対 し て,い
Hartree-Fock
method,略
してUHF法)と
ま ま で 述 べ て き た よ う に す べ て のRnlを
限 ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク 法(Restricted
制 限 ハ ー ト リー-フ ォ ッ
Hartree-Fock
呼 ば れ る.こ
共 通 に と るや り方 は 制 method,略
し てRHF
法)と 呼 ば れ る.
ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク法 は 軌 道 とい う考 え や す い描 像 を 与 え て くれ る の で 大 変 有 用 で あ るが,こ
の 方 法 で は 電 子相 関 が 無 視 され て い るか ら,得 られ るエ ネ
ル ギー や 波 動 関 数 の精 度 に は 限 度 が あ る.こ れ を改 善 す る た め に よ く用 い られ る方 法 は ヘ リウ ム 様 原 子 の 章 で触 れ た配 置 混合 法(し ば しば 配 置間 相 互 作 用 法 を意 味 す るCI法
が 略 称 と し て 使 わ れ る)で あ る.異 な っ た 電 子 配 置 に対 応 す
る 多数 の ス レー タ ー行 列 式 の 一 次 結 合 で 全 系 の 波 動 関 数 を表 し,変 分 法 に よっ て 係 数 を決 め る.た
とえ ば 閉 殻 構 造 の 電 子 系 で ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク法 で 基 底
状 態 の 波 動 関 数(1つ の ス レー ター 行 列 式 で 表 さ れ る)を 求 め た ら,そ の 際 同 時 に得 られ る 空 き軌 道群 を利 用 して1電
子 励 起,2電
子 励 起,…
… の配置関数
をつ く り,そ れ らの 一 次 結 合 を 変 分 関 数 と して 係 数 を決 め る.N個 配 置 を考 慮 す る とN次 Nを
まで電子
の 永 年 方 程 式 を解 くこ とで エ ネ ル ギー 値 が 得 られ る.
増 や して い くと そ れ だ け 試行 関 数 の 柔 軟 性 が 広 が る か ら,得 ら れ る エ ネ
ル ギー 値 は次 第 に 減 少 し,ま た は 前 と同 じで,途
中 で増 加 す る こ とは な い.す
な わ ち,有
限次 数 で 打 ち切 っ た と きの 結 果 は 正 しい エ ネ ル ギー 値 の上 界 を与 え
る.式 で 書 く と,N次
の 永 年 方 程 式 の 下 か らi番 目 の エ ネ ル ギー 値 を
とす る と
(5.58) で あ る こ とが 証 明 さ れ る.CI法
は 電 子 配 置 の 数 を増 や して い く と き収 束 が 通
常 あ ま り速 くな い の が 問 題 とさ れ て い る. こ の 方 法 は ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク法 の 答 え を 改 善 す る も の に な っ て は い る が, つ じ つ ま の 合 っ た1電 る.そ
子 軌 道 関 数 を 求 め る と い うSCF法
こ で 一 歩 進 め て,電
子 配 置 で 展 開 し た 展 開 係 数 だ け で な く,個
関 数 も 変 分 の 対 象 とす る こ と が 考 え ら れ る.こ ク 法(Multi-Configuration
か ら は 逸 脱 して い
Hartree-Fock
々の軌道
れ が 多 配 置 ハ ー ト リー-フ ォ ッ
method,略
し てMCHF法)で
あ
る. 変 分 法 と並 ん で 量 子 論 で よ く用 い ら れ る の は 摂 動 論 で あ る.N電 ミル トニ ア ン(Ti, Ciはi番 ン シ ャ ル,Vijはi, j電
子 系 のハ
目 の 電 子 の 運 動 エ ネ ル ギ ー と核 か ら の 引 力 のポ テ 子 の 間 の ク ー ロ ン 斥 力 ポ テ ン シ ャ ル と し て)
を 次 の よ う に 書 き 直 す.た
だ し,Viは
適 当 に選 ば れ た 一 体 ポ テ ン シ ャ ル で あ
る.
(5.59) 第1項
だ け を 用 い る と,電
子 ど う しの 相 関 は入 っ て い な い か ら系 の 波 動 関 数 と
エ ネ ル ギ ー は 容 易 に 求 め ら れ て,こ 動 と し て1次,2次,3次 摂 動 論(Many-Body
れ が 第0次
近 似 に な る.上
と相 関 効 果 が 取 り入 れ ら れ る.Kelly9)に Perturbation
Theory,略
し てMBPT法)10)で
に 進 む に つ れ て さ ま ざ ま な 項 が 出 て く る こ とか ら,各 ム を 導 入 し て 摂 動 展 開 を整 理 し,主
9) H. P .Kelly, さ れ,の
Phys.
Rev.
131, 684 (1963).な
お,多
わ れ る よ う に なっ た もの で あ る. 10) MBPT法 の そ の 後 に つ い て の ざ っ と し たreview(相 -M.
を摂
始 ま る 多体 は,高
次
項 を代 表 す る ダ イヤ グ ラ
要 な 項 を 落 と さ ず 入 れ て 計 算 を 進 め る.し
体 摂 動 論 は,は
ち に 量 子 統 計 力 学 で 用 い ら れ(松 原 武 生,1955),さ
た と え ばA.
式 の 第2項
Martensson-Pendrill, Physica Scripta
じめ 場 の 量 子 論 で 展 開
らに お くれ て 原子 分 子 で も使
対 論 的 計 算 を 狙 っ た も の)と T46,
102 (1993)が
あ る.
して
,
か し予 想 され る よ う に次 数 増 加 と と もに計 算 規 模 は急 速 に 拡 大 し,そ の わ りに は収 束 は 早 くな い. 第3の 方 法 と して 用 い られ る もの に ク ラ ス ター 展 開 法 と呼 ば れ る も の が あ る.ハ ー トリー-フ ォ ッ ク法 な ど で得 ら れ た 電 子 系 の 近 似 波 動 関 数 が 出 発 点 と な る.正
しい波 動 関 数 は 与 え られ た近 似 関数 を初 項 とす る展 開 形 に 書 け て,第
2項 以 下 が さ ま ざ ま な電 子 相 関 を表 す 補 正 項 に な る.こ れ らの うち 重 要 度 の 低 い もの を除 き大 事 な もの を取 り入 れ る こ とで,は
じめ に 与 え た関 数 を改 善 で き
る.多 電 子 系 の 波 動 関数 をそ の よ うな形 に 書 いて 解 析 し,新 法 の 基 礎 を与 え た の はSinanogluで
しい 電 子 相 関 計 算
あ る11).ク ラ ス ター 展 開 法 で は 高 次 効 果
が 自動 的 に含 まれ 収 束 が 早 い12). 以 上 の他,密
度 汎 関 数 法 と呼 ば れ る,基 底 状 態 を対 象 と し た 理 論 が あ る(§
5.6参 照).
5.3.3
相 対 論 の 効 果
い ま ま で は 非 相 対 論 の 枠 内 で話 を進 め て き た.し か し原 子 番 号 が 増 す につ れ て 原 子 内電 子 の 感 ず る力 の 場 が 強 くな り,軌 道 速 度 も増 して くる結 果,相 対 論 の 効 果 が 顕 著 に な って くる.§3.6で ン はDiracの
述 べ た よ うに,ま
ハ ミル トニ ア ン,す な わ ち(2.59b)に
テ ン シ ャル を加 え た もの に 置 き換 え られ,軌
ず1電 子 ハ ミル トニ ア
核 か らの クー ロ ン 引 力 ポ
道 関 数 は4成 分 を もつ よ う に な
る.電 子 間 の クー ロ ン斥 力 の 他 に ブ ラ イ トの 相 互 作 用(§3.6)が 取 り入 れ られ る.た だ し,こ の ブ ラ イ トの相 互 作 用 は通 常 摂 動 論 で 扱 わ れ る.す な わ ち,は じめ こ の相 互 作 用 を除 い て0次 の 波 動 関 数 を求 め た あ と,こ れ を補 正 す るた め に摂 動 と して 導 入 され る. N個
の 電 子 の 系 に お い て,こ
れ ら の 電 子 が 入 る 軌 道 関 数 を
と し,こ れ らに 電 子 を入 れ,反 対 称 化 して 原 子 の 波 動 関 数 とす る.
(5.60) こ れ を用 い て ハ ミル トニ ア ンの 期 待 値 を計 算 し,非 相 対 論 の と き と同様 の 変 分
11) Oktay 12) CI法
Sinanoglu ,MBPT法,ク
計 算 』[16]第2章
, J. Chem.
Phys.
36,
706
(1962);
Rev.
Mod. Phys.
ラ ス タ ー 展 開 法 な ど に つ い て の 解 説 が,大 に あ る.
35, 峰
巌
517
(1963).
『分 子 理 論 と 分 子
法 の 考 え で 軌 道 関数φiに
対 す る 連 立 微 積 分 方 程 式 が 導 か れ る.こ
が ハ ー ト リー-フ ォ ッ ク 法 の 相 対 論 版 で あ り,デ -Fock
method)と
呼 ばれ る
.こ
ギ ー ・真 空 偏 極 な ど のQED効
れ を 解 くの
ィ ラ ッ ク-フ ォ ッ ク 法(Dirac
れ に ブ ラ イ トの 相 互 作 用,さ
ら に 自 己エ ネ ル
果 を 加 え て 原 子 系 の エ ネ ル ギー ・波 動 関 数 が 決
ま る. こ れ ら の 計 算 の 詳 細 に は 本 書 で は 立 ち 入 ら な い.若 げ て お く の で 参 考 に し て い た だ き た い13).こ 要 か を 計 算 例 に つ い て 見 て み よ う.ま 重 項間 遷 移3s21S0→3s3p3P1の
表5.7
干 のreview
articleを
あ
こ で は相 対 論 効 果 が どの く らい 重
ず 表5.7で
はMg様
イ オ ン に お け る異
Mg様
波 長 の 計 算 値 を 実 験 値 と く ら べ て あ る14).
イ オ ン の3s21S0→3s3p3P1遷移
の 波 長(Kim14))
計算値 は実測波長に対す る百分率 で表 してあ る.
これ を見 る と,原 子 番 号 が 小 さ い 間 は 相 対 論 の 効 果 が 小 さ く,電 子 相 関(多 くの 電 子 配 置 を混 合 させ る こ とに よ っ て考 慮 に 入 れ られ る)の 効 果 が 大 き い の に対 し,原 子 番 号 が 大 き くな る と相 対 論効 果 が 大 き くな り,逆 に 電 子 相 関 は相 対 的 に は そ れ ほ ど大 きな寄 与 を して い な い こ とが わか る.た だ し この 計 算 は 等 電 子 系 列 に つ い て行 っ て い るの で,中 性 原 子 と違 い,原 子 番 号 の 大 き な とこ ろ で は 多価 イ オ ン とな り,外 側 の 電 子 に至 る まで 強 い電 場 の なか に 置 か れ て い る か ら上 に 述 べ た傾 向 が と りわ け 強 く現 れ て い るの で あ る. 次 にQED効
果 の 大 き さ を示 す 例 と してHgのK殻
計 算 値 の 内 訳 を 表5.8に 13) L. Armstrong
Rosen Kim, 14) Y
and AIP . -K.
S.
S. Feneuille,
497
L.
Oscillator Gaithersburg.
(1975);
Svanberg
Conference Kim,
示 す15).
, Jr. and
本 物 理 学 会 誌30,
Invited
Strength
eds. Proc. talk for
電 子 の結 合 エ ネ ル ギー の
Adv.
Atom.
Armstrong,
(Plenum, 206,
1983) p.
Y. -K.
presented Astrophysical
Mol.
Jr.,
Kim
at the
129; and
4th
and
Phys.
Atomic W. R.
10,
1 (1974);香川
Physics, R.
Johnson,同
C. Elton
Internat. Laboratory
vol.
前,p.
eds.
Colloq.
on
Physics,
貴 司,日
8, I. Lindgren,
(1990) Atomic 14-17
149;
A. Y. -K.
p. 19. Spectra
and
Sept.
1992,
表5.8
Hg原
子 のK殻
電 子 の 結 合 エ ネ ル ギ ー(Chen,
et al.15))
四捨 五 入 の た め 各 寄 与 の 和 は総 計 と少 し異 な る.
この 計 算 で は 原 子 核 が 有 限 な 大 き さ を もつ 効 果 も取 り入 れ られ て い る.ま ブ ライ ト相 互 作 用 の 見 積 も りに は 光 子 波 数kが0で て い る.別 QED効
の 計 算16)に よ る と,k≠0の
た,
な い もの の 寄 与 も含 ま れ
寄 与 は6.0eV程
度 で あ る と い う.
果 の 計 算 に あ た って は 水 素 様 イ オ ンに 対 す る 公 式 を 流 用 す る た め に 各
電 子 が 感 ず る有 効 核 電 荷 が 必 要 とな り,他 電 子 に よ る遮 蔽 の 見積 も り方 の違 い に よ り1∼2eV程 るべ き実
度 の 差 が 生 ず る よ うで あ る.な お,表5.8の
値 と して は83102eVと
総 計 と く らべ
い う値 が 出 て い る が17),化 学 結 合 効 果 や 表
面 効 果 に よ る正 確 に は わ か っ て い な い 補 正 が 必 要 で,6∼8eVく
ら い値 が 増 え
る と思 わ れ る(Johnson13)). とこ ろ で 相 対 論 効 果 が 大 き くな る と,そ の1つ も強 くな る.そ の結 果,§5.2で 合 方 式 は 適 当 で な くな る.個
角 運 動 量 合 成 を説 明 し た と き に用 い たLS結 々 の 電 子 の 軌 道 角 運 動 量lhと
shが 結 び つ い て1電 子 の 全 角 運 動 量jhを 子 な ら,j=1/2,
3/2の2通
と して ス ピ ン ・軌 道 相 互 作 用
りのjが
つ く る.た
ス ピン角運 動 量
とえ ば3p軌
道 に あ る電
可 能 と な り,エ ネ ル ギー に も差 が 出 る.
こ れ らの 状 態 は 記 号 的 に3p1/2, 3p3/2な ど と書 か れ る.つ い で 原 子 内 の 電 子 の jhが ベ ク トル 的 に合 成 され て 全 系 の角 運 動 量Jhが
求 め られ る.こ れ がjj結
合 方 式 と呼 ば れ る もの で あ る.原 子 番 号 や どの 電 子 殻 に 着 目す るか な どに よ っ て はLS方 ン力,ス
式,jj方
式 の ど ち らか が 明 確 に す ぐれ て い る と は い え ず,クー
ピ ン ・軌 道相 互 作 用 が 同 程 度 の 重 要 性 を もち,こ れ ら を対 等 に 扱 う中
間 結 合 と呼 ば れ る取 り扱 いが 必 要 な こ と もあ る. 15) M 16) J 17) S
. H.
ロ
Chen,
. P. Desclaux, . Manson
et. al., Atom. Data Physica Scripta (Johnson13)に
Nucl. Data 21,
436
(1980).
引 用 さ れ て い る).
Tables
26,
561
(1981).
相 対 論 の効 果 で も う1つ 付 け 加 え て お く と,水 素 様 原 子 で は相 対 論 的 計 算 に よ り波 動 関 数 が 空間 的 に縮 む こ とが 知 れ て い るが,多
電 子 原 子 で も相 対 論 効 果
が と くに大 きい 内 殻 電 子 に お い て 同様 な こ とが 見 られ る.そ の結 果,こ
れ らの
電 子 に よ る原 子核 電 荷 の 遮 蔽 が よ くな っ て,外 側 の電 子 に つ い て は逆 に 軌 道 関 数 が 広 が る こ と に な る.重 い 原 子 の6p殻
で,6p1/2は"内
の 計 算 に く らべ て 著 し く縮 む の に 反 し,6p3/2は"外
殻"的 で,非 相 対 論
殻"的 で 非 相 対 論 の と きか
ら あ ま り変 化 して い な い とい う17)18).
5.4 高 励 起 原 子
5.4.1 高励 起 原 子 の所 在 と特 徴 こ こ で 高 励 起 原 子 とは 基 底 状 態 の 電 子 配 置 か ら1つ の 電 子 が 主 量 子 数nの きわ め て 大 き い軌 道 に 移 っ た励 起 原 子 を い う.一 般 に1つ の 電 子 がnの
大き
い 軌 道 に 励 起 され た状 態 は リュ ー ドベ リ状 態 と呼 ば れ,そ
とく
の な か でnが
に大 き い もの が こ こ で の議 論 の 対 象 と な る.し た が って 高 励 起 リュ ー ドベ リ状 態 に あ る 原 子 とい って も よ い.2電
子 が 励 起 軌 道(必 ず し も大 き なnと
は限ら
な い)に 移 っ た 電 子 配 置 の 方 が エ ネ ル ギー で 見 れ ば は る か に 高 い の が 普 通 で あ る が,こ
れ に つ い て は 次 節 で 述 べ る.中 性 原 子 の1つ
の 電 子 がnの
大 き い軌
道 に 移 る と,核 か らの 平 均 距 離 が他 の 電 子 に 比 べ て は るか に 大 き くな るか ら, 近 似 的 に は 残 りの 原 子(こ の 場 合 は1価 う)は+eの
イ オ ン.原 子 芯 ま た は コ アcoreと
い
点 電 荷 と見 なせ る.す な わ ち,励 起 軌 道 は水 素 原 子 軌 道 に き わ め
て 類 似 した もの で あ ろ う と考 え られ る.一 方,原
子 芯 は1電 子 減 っ て 電 子 間 斥
力 が 少 し減 る の で,核 の 引 力 が 相 対 的 に 強 ま り,各 電 子 の 軌 道 は少 し縮 む で あ ろ う.さ ら に,遠 方 に 行 っ た とは い え無 視 で き な い励 起 軌 道 の 電 子 との相 互 作 用 で,芯 は 電 気 的 に 分 極 す る.し た が っ て励 起 電 子 は球 対 称 の クー ロ ン カ の 他 に 分 極 力 を感 ず る こ とに な る.さ
らに 芯 が 球 対 称 で な くて 四 極 モー メン トな ど
を もつ と き は そ れ との 相 互 作 用 も存 在 す る. 18) 以 上
,§5.3で
は 一 般 原 子 の エ ネ ル ギ ー ・波 動 関 数 に つ い て ざ っ と 見 て き た.具
体 的 な計
算 の た め に は 多 くの コ ン ピ ュ ー ター プ ロ グ ラ ム が 開 発 さ れ て い る.た と え ば 中 性 原 子 の エ ネ ル ギー 計 算 に 用 い ら れ る 多 くの プ ロ グ ラ ム の 所 在 リ ス トが 次 の 文 献 に 載 っ て い る.B. Crasemann,
K. R. Karim
and
M.
H. Chen,
Atom.
Data
Tables, 36, 355 (1987).
図5.9
量子欠損の計算値の例
高 励 起 原 子 は 普 通 の 原 子 と違 う さ ま ざ ま な 特 徴 を もつ.ま ら の 平 均 距 離 は §2.2で
見 た よ う に ほ ぼn2に
上 が っ た 原 子 に な る.方
位 量 子 数lに
比 例 し て 大 き く な る.い
に エ ネ ル ギ ー は,水
-Ry/n2で (3.94)式
あるが
,芯
わば膨れ
よ っ て 若 干 変 わ る が,n=10でr/a0=
1.0∼1.5×102,n=100でr/a0=1.0∼1.5×104程 あ る.次
ず励起 電子の核か
度 に な る.a0は
ボー ア 半 径 で
素 原 子 で原 子核 の 質 量 を無 限大 と した もの は
が 点 電 荷 で な い こ と か ら さ ま ざ ま な 補 正 が 必 要 と な り,
で す で に 見 た よ うに
(5.61) の 形 に な る.Ecoreは あ る.量
コ ア の エ ネ ル ギ ー,δ(l)は
量 子 欠 損,n*は
子 欠 損 が ど の く ら い の 大 き さ を もつ か を 見 る た め に,中
さ れ た 値 の 一 部 を 図5.9に
示 す19).コ
有 効量子数 で 性 原子で計算
ア は 基 底 状 態 に あ る と し て い る が,周
期
律 に よ り そ の 性 質 が 変 わ っ て い くの に 応 じ て 量 子 欠 損 も波 打 っ た 振 る 舞 い を し て い る の が わ か る.い ぼn2に
ず れ に せ よ,nが
反 比 例 し て 小 さ く な り,nの
し て 小 さ く な る.そ
十 分 大 き くな る と電 離 エ ネ ル ギ ー は ほ
値 が1だ
う な る と も と も と 小 さ い 値(少
も つ と思 っ て き た ス ピ ン ・軌 道 相 互 作 用,超 19) C . E. Theodosiou, Tables
35,
473 (1986).
関 連 文 献 にC. が あ る.
け 違 う準 位 の 間 隔 はn3に
M.
Inokuti Z≦50の
E. Theodosiou,
and
S. T.
S. T.
Manson
な く と も 軽 い 原 子 で は)を
微 細 構 造,ラ
Manson,
す べ て の 原 子
ム シ フ トな ど との 比
Atomic Data and Nuclear
・ イ オ ン でl=0,
and
反比例
M.
Inokuti, Phys.
1, 2, 3の Rev.
Data δ(l)を A34,
計 算 し た. 943
(1986)
較 が 気 に な る が,こ
れ ら の エ ネ ル ギ ー 補 正 は い ず れ も ほ ぼn3に
さ く な っ て い る(Bethe
and
Salpeter
[1]).ま
反 比 例 して 小
た光 の 放 出 に よ りエ ネ ル ギー の
低 い 状 態 へ 遷 移 す る こ と に よ る 励 起 状 態 の 平 均 寿 命τnlは,lを
固 定 しnを
大
き く して い く と (n大,l固
の よ うに増 加 し,lに
定)
(5.62)
つ い て統 計 的 平均 を とれ ば
(5.63) と な る.こ の よ うに 寿 命 は どん どん 長 くな るの で,そ
れ に 反 比 例 す る準位 の 自
然 幅 は小 さ くな る. これ に 関 連 して,高 励 起 軌 道 の 波 動 関 数 につ い て す こ し述 べ て お こ う.水 素 様 原 子 の場 合,(2.12)を
解 い て 動 径 関数Rnlを
求 め る 際,nが
ル ギーEの
絶 対 値 は ほ とん ど0で あ る.そ
対 値 がEに
くらべ て 十 分 大 き い近 距 離 で の動 径 関数 の 形 はnに
大 きければエネ
うだ とす る と,ポ テ ン シ ャル の 絶 ほ とん ど よ ら
な い こ とに な る.た だ,規 格 化 因 子 は 関 数 が遠 方 で ど こ まで 広 が っ て い るか に
図5.10
水 素 原 子 のA(n=25,l→n',Σl')
よ っ て 変 わ る の で,こ で あ れ ば,あ
の 因 子 を 通 じ てnへ
の 依 存 性 が 現 れ る.一
般 に,n≫l
ま り大 き く な い 距離rで
(5.64) と な り(Bethe
and
Salpeter
子 に よ っ て い る.こ (4.120)で,振
p.18),nへ
れ を 応 用 し て(5.62)を
動 数ν
出 て く る.と
[1],
の 依 存 性 は も っ ぱ らn-3/2の 導 い て み よ う.自
と 双 極 子 モ ー メ ン トの 行 列 要 素 を 通 じ てnへ
こ ろ がlが
and
Tarterの
ご く小 さ い 高 励 起 軌 道 のnが ら な い.次 か ら,そ
と き のA係
表 に よ る).し
る 平 均 寿 命 はn3に
数 はn-3に
比 例,し
数 は(4.119)に見
子 モ ー メ ン トの 行 列 要 素 だ け を 含 む.そ
べ て 著 し く大 き く な り う る .そ
よ っ てn-3/2に
比例 す る
た が って そ れ と逆 数 関 係 に あ 出 て く る.つ
い で な が ら,光
吸
る と お り振 動 数 因 子 を含 ま ず,双
極
こ で 高 励 起 準 位間 の 遷 移 を考 え る と,
始 状 態 終 状 態 と も 空 間 的 に 広 が っ て い る の で,行
の 場 合,吸
離 エ ネ ル ギー が
変 わ っ て も放 出 す る 光 の 振 動 数 は ほ と ん ど 変 わ
比 例 す る と い う(5.62)が
収 ・誘 導 放 出 を 表 すB係
の依 存 性 が
数 を 示 す.§4.4.4
た が っ て,電
に 双 極 子 モ ー メ ン トの 行 列 要 素 は(5.64)に れ を 平 方 し てA係
数
比 較 的 小 さ い と き は 遷 移 は 主 と し て ご く低 い エ ネ ル
ギ ー 準 位 へ 向 か っ て 起 こ る(図5.10にn=25の で 引 用 し たHiskes
然 放 出 のA係
因
の 結 果,吸
列 要 素 は低 準 位 の場 合 に く ら
収 が 効 率 よ く起 こ る こ と に な る.こ
収 ・放 出 さ れ る 光 は 赤 外 線 ・マ イ ク ロ 波 な ど の 領 域 に あ る か ら,高
励 起 原 子 は こ れ ら の 領 域 の 光 の 検 出 に 役 立 つ. 前 述 の よ う に 高 励 起 原 子 は 大 き く膨 れ 上 が っ て い る の で,他 の 頻 度 を 表 す 衝 突 断 面 積 は 著 し く大 き く,衝 子 は 原 子 芯 と の 結 合 が 弱 い の で,わ ら れ や す い.水
た,励
素 の シ ュ タ ル ク 効 果 の 式(4.26)を
見 る と,量
子 数 が 大 き くな
よ り も 電 離エ ネ ルギー が 大 変 小 さ い
ず か の エ ネ ル ギ ー を も ら っ た だ け で 容 易 に 電 離 し て し ま う.水
の 式 を 用 い て 電 離 エ ネ ル ギ ー を 概 算 す る と,n=10で0.136eV, 1.36meVと 数)∼25meVに
な り,後
起電
ず か な外 力 に よ って もそ の運 動 状 態 を変 え
る に つ れ て エ ネ ル ギ ー の 変 化 も 大 き い.何 か ら,わ
の 物 体 との 衝 突
突 を起 こ し や す い.ま
者 は 室 温 に お け る 熱 エ ネ ル ギ ーκT(κ
く ら べ て ず っ と 小 さ い.と
く ら い の 高 励 起 原 子 を つ く っ た と し て も,室
い う こ と は,仮
素原子
n=100で は ボル ツマ ン定 に 実 験 室 でn=100
内 に 充 満 して い る熱 放 射 に よ っ て
た ち ど こ ろ に電 離 され て し ま う と い うこ とで あ る.実 験 す る な ら衝 突 頻 度 が 低 くな る よ う に 高 い 真 空 度 を もち,熱 放 射 が邪 魔 しな い よ うに 冷 や した装 置 の な か で行 う こ とが 必 要 で あ り,通 常n=100よ
りは低 いnの
範囲で研 究が行 わ れ
て い る.こ の よ うに 高 励 起 原 子 は もろ い もの で あ るか ら,自 然 界 に は ほ とん ど 存 在 せ ず 論 じて もあ ま り役 に 立 た な い と思 わ れ るか も しれ な い.し か し広 い宇 宙 の なか に は 高励 起 原 子 に と って 居 心 地 の よ い とこ ろ が あ る.そ れ は実 験 室 で の超 高 真 空 よ りも物 質 密 度 が低 く,星 か らの 距 離 が あ る程 度 大 き くて光 子 密 度 も大 変 低 くな っ て い る星 間 空 間(interstellar space)と 呼 ば れ る場 所 で あ る. また,も も,あ
う少 し密 度 が 高 く,衝 突 に よ る 消 失 が 無 視 で き な い よ う な と こ ろ で とか らあ とか らnの
大 き な 高 励 起 原 子 が つ く り出 さ れ て い る よ う な場
所 が あ れ ば,高 励 起 準 位 か らの 発 光 が観 測 され る.明 る い星 に よ っ て 照 ら さ れ 電 離 して い る星 間 気 体(主 成 分 の 水 素 原 子 が ほ とん ど電 離 して い る とい う こ と か ら,こ の よ う な場 所 をHII領
域 と呼 ぶ)を 電 波 観 測 す る とそ の よ う な スペ ク
トル 線 が 多 く観 測 さ れ る.イ オ ン と電 子 の 再 結 合 に よ っ て生 ず るの で 再 結 合 線 (recombination lines)と
呼 ば れ る.あ
との 章 で見 る よ う に,イ オ ン と 電 子 が
光 を放 出 して 結 合 す る と き電 子 温 度 が 低 け れ ば 高 励 起 状 態 の 原 子 に な りや す い.衝
突 が 無 視 で きな い よ う な と ころ で は,ま ず 同 じnの
の 状 態 へ の移 行 が 最 も起 こ りや す い.エ
ネ ル ギー 差 が ほ と ん ど な い か ら で あ
る.そ の結 果,統 計 的 重 み の 大 きい,nに て くる.こ
う して大 きなlを
も とで の 異 な っ たl
近 い大 きなlを
もつ 励 起 原 子 が 増 え
もつ 状 態 が つ くられ る と選 択 則 に よ って 遷 移 す る
先 のlも 大 き な値 に な る か ら,終 状 態 の 主 量 子 数nはあま な い.電 波 望 遠 鏡 で 観 測 さ れ る再 結 合 線 も1つ 下 か2つ く見 られ る.水 素 の バ ル マ ー 系 列 でn=3→2の 2の 線 をHβ
な ど と呼 び,np→1s遷
で もn=2→1はLyα, +1→nで
も水 素,ヘ . A.
Pis'ma
下 のnへ
移 に よ る ラ イ マ ン系 列(Lyman
Astron.
出 る も の をnβ
算 質 量 の わ ず か な差 に よ る波 長 の ず れ も検 出 され て,少
and Zh.
series)
と い う よ う に,高 励 起 状 態 間 のn
リウ ム,炭 素 な どの再 結 合 線 が 識 別 さ れ る.な お,nの
Konovalenko
の遷 移が 多
スペ ク トル線 をHα, 4→
放 出 され るスペ ク トル 線 をnα 線,n+2→nで
線 な ど と呼 ぶ.換
20) A
3→1はLyβ
り小 さ くは な り え
10,
846
L. G.
Sodin, Nature
(1984).
294,
135
(1981);
A.
A.
なく
大 きな もの
Konovalenko,
で は600∼700程
度 の も の も観 測 さ れ て い る20).
5.4.2 低 速 電 子 散 乱 との 関連 先 に 述 べ た よ うに 高 励 起 軌 道 の動 径 関 数 のrの ほ とん どnに
よ ら な い.同
小 さ な と こ ろ で の 関 数 形 は,
じこ と が エ ネ ル ギ ー が 正 の,し
か し0に ご く近 い
と きの 関 数 に つ い て も い え る.す な わ ち,エ ネ ル ギー が 負 か ら正 に 変 わ る こ と に よ っ てrの
小 さ い と こ ろ で の 動 径 関 数 の 形 は ほ と ん ど変 わ ら な い.と
ころ
が,複 雑 な相 互 作 用 は もっ ぱ らこ の 領 域 に 限 られ て い る.そ の 外 へ 出 る と,あ とは 単 純 な クー ロ ン力 や 分 極 力 な どだ け に な る.遠 方 で の 振 る舞 い は もち ろ ん 束 縛 状 態 か 自 由状 態 か で大 き く異 な るが,こ
の よ う に主 た る相 互 作 用 領 域 で共
通 の 関 数 形 を もつ こ とは エ ネ ル ギー0の す ぐ上 とす ぐ下 の 関 数 に密 接 な関 係 が あ る こ とを 示 唆 す る.こ の 点 を具 体 的 に と りあ げ た の はM.
J. Seatonに
始ま
る21).彼 は コア(正 イ オ ン)に よ る低 速 電 子 の 散 乱 の 程 度 を 表 す 位 相 の ず れ ηl (散 乱 電 子 の 方 位 量 子 数lご
と に決 ま り,エ ネ ル ギ ー の 関 数 で あ る)と 前 述 の
量 子 欠 損 δ(l)の 間 に 簡 単 な 関 係 が 成 り立 つ こ と を見 い だ した.こ と して,正
れ を は じめ
イ オ ンに よ る低 速 電 子 の 散 乱 と原 子 の 高 励 起 状 態 を統 一 的 に 扱 う量
子 欠 損 理 論(quantum
defect theory,略
してQDT)が
展 開 さ れ て きた.詳 細
は 本 書 の姉 妹 編 で あ る 『原 子 分 子 過 程 』に 譲 る と し て,こ
こ で は,そ
の は じめ
の 部 分 の あ らす じだ け を紹 介 す る こ とに す る.高 励 起 電 子 に対 す る水 素 様 原 子 の(2.22)(2.23)に
相 当 す る動 径 方 程 式 か ら 始 め る.簡 単 の た め 原 子 単 位 を用
い る.
εは エ ネ ル ギ ー で あ る.こ こ で の 問 題 は本 当 は1電
子 問題 で は な い.rの
小さ
い と こ ろ で は 電 子 が コア の なか に 入 り込 み,電 子 交 換 効 果 が あ るた め に相 互 作 用 は局 所 的 で な く,ま た球 対 称 と も限 らな いの で あ るが,こ い は せ ず,近
距 離 力 が,あ
う.十 分 大 きな 距離r0の 21) M 504
. J. Seaton, (1958).
Compt.
こで は 一 般 的 な扱
る有 効 ポ テ ン シ ャ ル で 表 され る と し て 話 を進 め よ 外 で は 比 較 的 簡 単 な長 距 離 力 だ け を考 え れ ば よ い よ
Rend.
240,
1317
(1955); Monthly Notices
Roy. Astron.
Soc.
118,
う に な る.簡 単 の た めr>r0で
は クー ロ ン力 だ け と し よ う.分 極 力 な ど他 の
長 距 離 力 が あ る と き もそれ に応 じて 扱 い を修 正 す る こ とで,同 様 の 議論 を進 め る こ とが で き る.
こ の 外 側 の 領 域 で の 解u(r)は 形 に 書 け る.す
よ く知 ら れ た2種
な わ ち 原 点r=0ま
非 正 則 な 関 数g(ε, l, r)を
の クー ロ ン 関 数 の 一 次 結 合 の
で の ば し た と き 正 則 な 関 数f(ε, l, r)と,
用 い て,一
般解 は
(5.65) と な る.μlは f, gと
定 数 で あ る.ま
ず,エ
ネ ル ギ ー が 負 の と き を 考 え る.遠
も指 数 関 数 的 に 増 加 す る 関 数f+と
減 少 す る 関 数f-の
方 で は
ま じ っ た もの に
な る.
た だ し
とお い た.こ
の よ う な 漸 近 形 を も つ 関 数f±
を 用 い る とf, g
は
(5.66) と 書 け る.β
とDは
ε,lに 依 存 す る パ ラ メ タ ー で あ る.と
く に クー ロ ン 場 で
は (ク ー ロ ン 場).
(5.67)
も し原 点 に 至 る まで 純 粋 の クー ロ ン場 で あ る な ら(す な わ ち水 素 様 原 子 の 高 励 起 状 態),原
点 で 正 則 で 無 限 遠 方 で0に
な る もの で な け れ ば な らな い.そ る ため の 条 件 に な る.(5.67)に
な る 解 は,関 数fでf-の
こ でsinβ=0が
係 数 が0に
許 され る束縛 状 態が存 在す
よ り
とな り,こ れ
か らν を 出 し,エ ネ ル ギー εに 戻 す と
の よ うに よ く知 られ た 水 素 原 子 の エ ネ ル ギー 準 位 に な る.コ 内部 領 域 は別 個 に解 か な け れ ば な ら な い.r=0で
ア が あ る と き は,
発 散 しな い解 を求 め,r=r0
で 外 側 の 一 般 解 に な め ら か に つ な ぐ.す
る と(5.65)でμl≠0と
な り,f-の
係
数 は
と な る.こ
れ が0で
と な り,μlが ε>0の
あ る た め にν-l+μl=nr+1,
量 子 欠 損 δ(l)に ほ か な ら な い こ と が わ か る.
と き は,ε=k2/2と
お き,ク
ー ロ ン関 数 の 漸 近 形 は
(5.68)
とな る.位 相 の な か で σlお よび 対 数 を含 む 項 は長 距 離 力 で あ る クー ロ ン力 の 効 果 を表 す もの で あ る.コ ア が あ る と き,内 側 の 解 に な め らか に つ な い だ 外 側 の 解 は こ れ らのf, gの 一 次 結 合 で
(5.69) の よ う に な る.ηl(k)は 果 を 表 す 量 で,位
コア との 相 互 作 用 の う ち クー ロ ン 力 以 外 に よ る散 乱 効
相 の ず れ(phase
先 に 述 べ た よ う に,エ
ネ ル ギ ー0の
領 域 に お け る 電 子 の 波 動 関数u(r)に Seatonは,エ
shift)と 呼 ば れ る.
ネ ルギ ー0の
す ぐ上 とす ぐ下 と で は,引
力 の強い内部
は ほ と ん ど 差 が な い.こ
の こ と か ら,
極 限で
(5.70) の 関 係 が 成 り立 つ こ と を見 い だ し た.こ れ に よ り,高 励 起 状 態 の エ ネ ル ギ ー 準 位 の知 識 か ら低 速 電 子 の コ ア に よ る散 乱 に つ い て の 知 見 を得 る こ とが で き る. こ れ をは じめ と して 高励 起 電 子 の 振 る舞 い と,コ ア に よる低 速 電 子 の 散 乱 と を 統 一 的 に 扱 う理 論 が展 開 さ れ,前 述 の よ うに 量 子 欠 損 理 論 と呼 ば れ て い る. 以上 で は コア は終 始 基 底 状 態 に あ る と して きた が,一 般 に は コア は い ろ い ろ な励 起 状 態 に あ り う る.そ れ ぞ れ に 対 応 して,原 子 全 体 と して の エ ネ ル ギ ー の
図5.11
高 励 起 原 子 の 自動 電 離
異 な る と こ ろ で 連 続 ス ペ ク トル(電 存 在 す る.こ
離)が 始 ま る,別
れ ら 系 列 は 無 関 係 で は な く,1つ
が で き る.図5.11に
は2つ
々 の リ ュ ー ドベ リ系 列 が
の 系 列 か ら他 の 系 列 へ 移 る こ と
の 系 列 の エ ネ ル ギ ー 準 位 を 模 式 的 に 図 示 し た が,
コ ア の 励 起 エ ネ ル ギ ー を も ら う こ と で,A準 状 態 へ 飛 び 移 る こ とが で き る.す
位 に あ る 高 励 起 電 子 はBの
な わ ち 原 子 の 自動 電 離 が 可 能 で あ る.こ
う に 互 い に 結 合 す る 複 数 の 系 列(チ
ャ ネ ル,channelと
電離 の よ
も い う)が 存 在 す る 場
合 に 量 子 欠 損 理 論 を 拡 張 し た も の は 多 チ ャ ネ ル 量 子 欠 損 理 論(multi-channel quantum
defect
theory,略
し てMCQDT)と
上 立 ち 入 ら な い こ と に す る.た
総 称 さ れ る が,本
と え ば 脚 注 のreview
書 で は これ 以
articles22)を 見 て い た だ
き た い.
5.4.3
電 場 中 の 高励 起 原 子
先 に も 述 べ た よ う に,高
励 起 電 子 は 結 合 エ ネ ル ギ ー が き わ め て 小 さ い の で,
小 さ な 外 力 に よ っ て も そ の 運 動 状 態 を大 き く変 え ら れ る.そ 電 場 を か け た と き の 分 極 率 が き わ め て 大 き い.ns状 率 に つ い て はShimamura(島 22) M
. J. Seaton,
chemistry eds. (Reidel, 23) I. Shimamura
in
Rep the
Prog.
Vacuum
1985) 191; , J. Phys.
村 Phys.
46,
167
M.
Aymar, Soc. Japan
(1983);
A.
S. P. McGlynn, et
al., Rev. 40,
239
Mod.
(1976).
よ る詳細 な計算 が あ
R. P. Rau, G. Phys.
の例 と して
態 に あ る水 素 原 子 の 分 極
勲)23),McDowell24)に
Ultraviolet,
の1つ
Photophysics
L. Findley 68,
1015
and
and R.
(1996).
H.
Photo-
Huebner,
る.後
者 では (原 子 単 位)
と い う 公 式 が 得 ら れ て い る が,n=10で ら に よ る,主
量 子 数n=40∼60の
す で に106a.u.に
高 励 起Cs原
ら れた 分 極 率 が109∼1010A3に
(5.71) も な る.van
Raan
子 ビー ム の 静 電 偏 向 実 験 か ら得
達 す る こ とは 上 記 の水 素 で の理 論 計 算 と合 っ て
い る25). 電 場 を か け る と 高 励 起 原 子 が 電 離 す る こ と は §4.1.4で え ばz軸
方 向 に 電 場Fを
か け る と,z軸
す で に 述 べ た.た
と
上 負 の側 で エ ネ ル ギ ー
の と こ ろ に ポ テ ン シ ャ ル の極 大 が で き る.こ れ を近 似 的 に高 励 起 電 子 の エ ネ ル ギー の 式-Ry/2n*2(n*は
量 子 欠 損 を含 む 有 効 量 子 数)に 等 しい とお く と,与
え られ た 準 位 に 対 応 す る電場 の 臨 界 値Fcrは
(5.72) と な り,(2n*)4Fcrは
準 位 に よ ら ず ほ ぼ 一 定 に な る は ず で あ る.実
れ が 確 認 さ れ て い る.た
と え ば,Naのns,
np, nd状
験 的 に もこ
態 で の 実 験26)が そ う で あ
る. し か し,以
上 の 話 は 近 似 的 な も の で あ る.厳
密 に い う と,ト
テ ン シ ャ ル 障 壁 を 突 き抜 け る 可 能 性 が あ る し,各 効 果 で 多 数 の 準 位 に 分 裂 す る か ら,そ れ ば な ら な い.高 ら,§4.1.3で
の うち の どの 準 位 に あ る か を区 別 し なけ
励 起 電 子 の 振 る 舞 い は 近 似 的 に は 水 素 原 子 と同 じで あ るか
が 与 え ら れ て い る 準 位 が 分 裂 す る とn-|m|
当 然,エ
25) A. 26) J
本 に な り,場
ネ ル ギ ー が 高 く な っ た 準 位 か ら は,低
. McDowell, J. F . J. van Raan,
. L. Vialle
量 子 数n,磁
気 量 子 数m
が あ ま り強 く な い 間
比 例 し て エ ネ ル ギ ー 準 位 が 上 昇 ま た は 下 降 す る((4.28)式).
が 起 こ る と思 わ れ る で あ ろ う が,じ
24) K
エ ネ ル ギー 準 位 は シュ タル ク
見 た シ ュ タ ル ク 効 果 の 式 が 使 え る.主
はFn(n1-n2)に
ンネ ル効 果 で ポ
and
Chem. G. H.
T.
Phys. Baum Duong,
65,
J.
つ は 逆 で あ る.そ
2518
and W.
の 理 由 はn1-n2>0の
(1976).
Raith, J. Phys.
く な っ た 準 位 よ り も容 易 に 電 離
B12,
Phys. 1407
B9,
(1979).
L349
(1976).
準
(a)
(b)
図5.12
高励 起 準位 の シ ュ タ ル ク分 裂 とエ ネ ル ギー 曲線 の擬 交 差
位(エ ネ ル ギ ー は増 加)の 電 子 の 波 動 関 数 は 原 子 核 か ら見 て ポ テ ン シ ャ ル 極 大 とは 反 対 側 に 集 中 して い るの に 反 し,n1-n20と
常J