朝倉 国 語教育 講座 5 授 業 と 学 力 評 価
倉 澤 栄 吉 監修 野地 潤家
朝倉 書 店
刊行 の言 葉
昭 和 二 四 (一九 四 九 ) 年 四月 に 学 生 を 迎 え 入 れ て 発 足 し た新 ...
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朝倉 国 語教育 講座 5 授 業 と 学 力 評 価
倉 澤 栄 吉 監修 野地 潤家
朝倉 書 店
刊行 の言 葉
昭 和 二 四 (一九 四 九 ) 年 四月 に 学 生 を 迎 え 入 れ て 発 足 し た新 制 大 学 も 、 既 に半 世 紀 を 超 え る 歳 月 を 閲 し た 。 そ
の間 、 教 育 ・研 究 両 面 に 実 績 を 挙 げ てき た が 、 新 し い世 紀 に 入 って、 組 織 ・運 営 面 に抜 本 的 改 革 が な さ れ る こ と に な った 。 新 制 大 学 と 歩 み を 共 に し て来 た 者 と し て 深 い感 慨 を 覚 え る 。
新 制 大 学 教 育 系 学 部 に は 、 国 語 科 教 育 法 担 当 者 が 配 置 さ れ 、 教 職 科 目 単 位 取 得希 望 者 に ﹁国 語 科 教 育 ﹂ 関 係 の
授 業 を 担 当 し た が、 昭 和 二 八 (一九 五 三 ) 年 四月 、 大 学 院 (当 初 、 修 士 課 程 、 続 い て博 士 課 程 ) が 設 置 さ れ て か ら は 、 国 語 科 教 育 専 攻 の院 生 の指 導 も 担 当 す る こ と に な った 。
新 制 大 学 で国 語 科 教 育 を 担 当 す る 教 官 方 は 、 石 井 庄 司 博 士 ( 東 京 教 育 大 学 教 授 ) のご 先 導 ・ご 高 配 に よ って 、
昭 和 二 五 (一九 五 〇 ) 年 九 月 、 全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 を 創 設 し 、 全 国 を 九 ブ ロ ック ( ① 北 海 道 ・② 東 北 ・③ 関
東 ・④ 東 海 ・⑤ 北 陸 ・⑥ 近 畿 ・⑦ 中 国 ・⑧ 四 国 ・⑨ 九 州 ) に 分 け 、 毎 年 二 回 ( う ち 、 一回 は 東 京 で ) 学 会 を 開 催 す る こと に な った 。 既 に 百 回を 超 え る学 会 が 重 ね ら れ てき た 。
国 語 科 教 育 実 践 界 で は 、 日本 国 語 教 育 学会 を 初 め 、 校 種 (小 ・中 ・高 ) 別 に 、 さ ら に は 研 究 組 織 ご と に研 究 会
が 設 立 さ れ 、 そ れ ぞ れ 活 発 に活 動 が 続 け ら れ た 。 ま た 、 国 立 国 語 研 究 所 ( 初 代 所 長 、 西 尾 実 博 士 )、 文 化 庁 国 語
課 、 国 立 教 育 政 策 研 究 所 な ど で行 な わ れ た 研 究 ・調 査 等 も 、 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に 大 き く 寄 与 す る も の で
あ った 。 20 世 紀 後 半 に お い て、 わ が 国 の 国 語 科 教 育 研 究 の組 織 化 は よ く 整 備 さ れ 、 そ れ ぞ れ 実 績 を 挙 げ て い った
と思わ れる。
朝 倉 書 店 は 、 先 般 来 、 ︿朝 倉 国語 教 育 講 座 ﹀ ( 全 六 巻 ) 刊 行 の企 画 を 立 て ら れ た 。 企 画 に 当 た って は 、 こう し た
企 画 経 験 の豊 富 な 中 西 一弘 教 授 に世 話 人 を お 願 いし 、 各 巻 ご と に編 集 担 当 者 を 依 頼 し 、各 巻 の構 成 、 執 筆 者 への
連 絡 等 を 分 担 し ても ら う こ と に な った 。 こ の よう な 経 緯 か ら 、 日本 国 語 教 育 学 会 西 日本 集 会 の 開催 ・推 進 に協 力 を いた だ いた 方 々に 編 集 ・執 筆 を お 願 いし た 。
全 六 巻 か ら成 る 、 本 講 座 の目 指 す と こ ろ は 、内 容 を 清 新 な も の と し 、 記 述 に 当 た って は 、 正 当 か つ平 易 な も の
た ら し め る こ と 、 ま た 、 そ れ ぞ れ 解 説 ・説 明 に 重 点 を 置 い て いく よう にす る こ と であ る 。 企 画 側 と し て は 、 学
生 ・院 生 の皆 さ ん を 初 め 、 国 語 科 教 育 の 実 践 ・研 究 に 取 り 組 ん で いる 人 た ち 、 関 連 分 野 の 研 究 者 にも 、 一般 の
人 々に も 、 手 に 取 って読 ん で いただ け れ ば と 願 って いる 。 広 く 開 か れ た ﹁講 座 ﹂ で あ り た いと いう 思 いを こ め て いる 。
20世 紀 に あ っては 、 国 語 教 育 講 座 が 数 社 か ら 既 に刊 行 さ れ た。 これ ら の 講 座 が 国 語 科 教 育 実 践 者 ・研 究 者 にそ
れ ぞ れ 役 に立 つ こと も 多 か った と 思 わ れ る 。 講 座 は刊 行 さ れ た 、 そ の時 期 そ の時 期 か ら の羅 針 盤 に も な り 、 相 談 窓 口 に も な った か と 思 わ れ る。
単 行 本 の 中 か ら 自 分 に と って の﹁一 冊 の本 ﹂ を 見 つけ 、 そ こ か ら 摂 取 し う る も の を 見 い出 し 、 自 己 の 実 践 ・研
究 に 十 分 に 生 か し て いく こと が 望 ま れ る 。 同 時 に、 ﹁講 座 ﹂ に接 し て 、 そ の質 量 に押 さ れ る こ と な く 、 活 用 し て
いく 方 途 を 自 ら 発 見 し て いく こ と も 望 ま れ る 。 ﹁講 座 ﹂ と の出 会 い に よ って 、 国 語 科 教 育 へ の視 野 が 開 け 、 何 を
( 垣 内 松 三 ・西 尾 実 ・大 村 は ま ・倉 澤 栄 吉 ) も 刊 行 さ れ 、
ど う 耕 し、 深 め て、 成 果 を ど う 導 き 出 し て いく の か に多 く の示 唆 が 得 ら れ る こと も 夢 では な い。 国 語 科 教 育 界 で は 、 戦 前 ・戦 後 、 著 作 集 ・個 人 全 集
近 現 代 国 語 科 教 育 の み のり の 豊 か さ が 見 ら れ る。 ︿朝 倉 国 語 教 育 講 座 ﹀ 刊 行 に は 、 国 語 科 教 育 実 践 ・研 究 の み の
り であ る と 共 に 、 さ ら に 未 来 に向 け て 、新 し い成 果 を 生 み出 す 母 胎 と も な り 、 指 針 と も な る 、 役 割 を 期 待 す る こ と が でき る 。
監 修 者 倉
地
澤
潤
栄
家
吉
本 講 座 が そ の使 命 ・役 割 を 十 分 に果 た す よ う 願 って、 監 修 者 か ら の 言 葉 と し た い。
野
ま え が き
国 語 科 の 授 業 を ど の よ う に展 開 し て いく か は 、 国 語 教 師 と し て毎 日 の悩 み の種 であ ると いう 点 で 、 日 常 の 重 要
な 問 題 であ る 。 と 同 時 に 、 何 年 経 験 を 重 ね ても 明 確 な も の が 出 て こな いと いう 点 では 、 永 遠 の課 題 であ ると も 言 え る か も し れ な い。
こ れ ま でも いく つか の授 業 構 築 の原 理 、 あ る いは 授 業 展 開 の方 法 が 提 唱 さ れ 、 実 践 さ れ て き た が 、 そ れ ら は 、
﹁読 む こと の学 習 指 導 ﹂ に 限 定 さ れ る も の であ った り 、 理 念 と し て の骨 格 は 持 つが 具 体 の部 分 に は 定 式 が な いと
い った も の であ った り し た 。結 果 と し て 、 す ぐ れ た 実 践 者 は 、 様 々な 原 理 ・方 法 に学 び つ つ、 学 習 者 や学 習 材 に
応 じ て使 い分 け た り 、 作 り 変 え た り し て、 日 々 の実 践 を 充 実 し た も の にし よう と 努 力 し てき た 。 そ う い った 努 力
の蓄 積 の中 か ら 、 新 し い実 践 方 法 や 、 実 践 原 理 が 見 出 さ れ てき た と いう 事 実 も あ る。
今 日 のよ う に価 値 観 が多 様 化 し 、 学 習 者 主 体 の考 え 方 が 求 め ら れ る 状 況 に あ って は 、 そ う い った 努 力 の必 要 性
が 増 し て い ると 同 時 に、 実 践 者 が 自 己 の授 業 の基 底 にあ る 実 践 原 理 を 確 認 し にく く な って いる の で は な いか と 思 わ れる。
本巻 ﹃ 授 業 と 学 力 評 価 ﹄ は 、 ﹁評 価 ﹂ を 、 国 語 科 授 業 を 実 践 的 に展 開 す る た め の 重 要 な フ ァ ク タ ー と と ら え た 上 で 、 国 語 科 授 業 の構 築 の原 理 と 方 法 を 明 ら か にし よう と し たも の であ る 。
前半 ( 第 一∼ 第 五 章 ) は 、 ﹁国 語 科 授 業 の構 築 と 研 究 ﹂ に重 点 を 置 き 、 そ の意 義 ・課 題 、 原 理 ・方 法 等 の理 論
的 な 考 察 に 加 え 、 授 業 研 究 を 歴 史 的 に と ら え る視 点 、 具 体 的 な 実 践方 法 の視 点 、 さ ら に実 践 の蓄 積 と 授 業 力 の育
成 と いう 視 点 等 か ら 、 実 践 に 密 着 し た 考 察 を 行 った 。 そ れ ら は 、 授 業 構 築 の方 法 を 実 践 的 に 示 唆 す る と と も に 、
( 第 六 ∼ 第 九 章 ︶ は 、 ﹁国 語 学 力 評 価 の開 発 ﹂ に 重 点 を 置 き 、 評 価 及 び 評 価 研 究 の 意 義 ・方 法 を 概 括 的 に
授 業 研 究 の意 義 と 方 法 を 明 ら か にす るも のと な って い る。 後半
明 ら か に し た 上 で、 ﹁指 導 と 評 価 の 一体 化 ﹂、 ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価 ﹂ 等 の今 日 的 な 視 点 を 踏 ま え 、 評 価 の在 り 方
に つ いて 、 評 価 場 面 や 評 価 方 法 な ど 具体 的 か つ多 様 な 視 点 か ら 考 察 し た 。 さ ら に 、 教 育 実 習 ・教 育 実 習 指 導 を 視 野 に入 れ つ つ、 評 価 力 と 授 業 力 と の関 係 に つい て も 考 察 し て いる 。
授 業 実 践 は 、 ﹁話 す ﹂、 ﹁聞 く ﹂、 ﹁書 く ﹂、 ﹁読 む ﹂、 ﹁言 語 事 項 ﹂ 等 の領 域 の枠 組 み で語 ら れ る こ と が あ る が 、 本
巻 は そ の領 域 を 越 え て 、 国 語 科 授 業 を ど のよ う に構 想 し 、 展 開 し て いく か に つ い て、 多 様 な 視 点 か ら考 究 す るも
第 五巻 編 者 世
浦
羅
和
博
尚
昭
のと な った 。 国 語 科 授 業 実 践 の確 か な 枠 組 み の構 築 に 寄 与 す る こ と が で き れ ば 、幸 い、 こ の上 な い。 二〇〇 四年 八月
三
目
次
[野 地 潤 家 ] 1
1
第 一章 国語科授 業構築 ・研究 の基 本課題 一 国語科授 業構築 の基本課題
9
[大 西 道 雄 ] 18
二 国語科 授業研究 の基本課題
第 二章 国語科 授業研究 の成果と試 行 一 国語科 授業研究 の目的と方 法 二 誌学 的方法 による授業 研究 三 個体 史的方法 によ る授業 研究 四 臨床 的実験方 法に よる授業研究
第 三章 国 語科授業構 築 の原理と方法 一 国語科授業構 築 の原理と方法 二 ﹁目 標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った 授 業 展 開 のあ り 方 (1) ︱発 問 応 答 型 の授 業 展 開 基 本 モ デ ル に も と づ く 授 業 三 ﹁目 標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った 授 業 展 開 のあ り 方 (2 )
18
19
23
[ 世 羅博 昭 ] 37
29
37
42
︱単 元 的 展 開 に よ る 授 業 展 開 モ デ ル にも と づ く 授 業
第 四章 国語科 授業 の構 築と展 開 一 国 語 科 授 業 の構 築 と 展 開 そ の 1 ︱ 授 業者 ( 発 問 )・学 習 者 ( 応 答 ) を 軸 と す る
二 国語科授 業 の構築 と展開 そ の2 ︱ 単 元 の編 成 と 展 開 を 軸 と す る
第 五章 国語科授業 の構築 ・研究 の集積 と深化 一 国 語科授業 の構築 二 国 語科授業 ・研究 の集積 と深化 の基底 ︱国語教育個 体史 三 国語科 授業 の集 積と研究 の実際
第六章 評価研 究 の意義 と方法 一 評価 の目的と機能 二 評価研究 の枠組 み 三 評価研究 の内容
[小 山 清 ] 55
[三 浦 和 尚 ] 70
[ 渡 辺春 美 ] 89
48
55
89
92
[三 浦 和 尚 ] 106
94
111 107
114
[植 山 俊 宏 ] 126
第七章 学習者 把握を めざ す評価 の開発 一 診断的 評価 の方法 と試行
章 ] 142
[牧 戸
[山 本 茂 喜 ] 174
[千 々岩 弘 一] 160
二 学 習記録 による評価法 と試行
一 評 価実践研 究 の現状 とそ の問 題点
六 教育実 習におけ る授業担当 に備え て
五 総 括 的 評価 と し て の ﹁ペ ー パ ー テ ス ト﹂ のあ り 方
四 ﹁学 習 記 録 ﹂ に よ る指 導 者 の形 成 的 ・総 括 的 評 価 と 学 習 者 の自 己 評 価
201
引
203
三 授 業展 開段 階 にお ける形成的 評価と授業 力 の向 上
二 授 業構想段 階 にお ける診断的評 価と ﹁ 学 習 の手引 き﹂ の作成
[ 世羅博 昭] 189
索
189
第 九章 学力 ・指導力 の評価と 授業力 の向 上
一 到達度 評価 の方 法と試行
第 八章 望ま し い評価方 法 の開発 と試行
二 形成的 評価 の方 法と試行
126
160
194 191
207
209
第 一章 国 語 科 授 業 構 築 ・研 究 の基 本 課 題
一 国語科授業構築 の基本課題
︵一 ︶ 国 語 科 授 業 構 築 への 要 請
こ れ は 、 実 践 者 (授 業 者 ) の願 って や ま な いと こ ろ で あ る 。 単 な る 模 倣 な ど で は な い、
自 ら の国 語 科 授 業 を 本 格 的 な も のと し 、 自 律 的 な も のと し て いく こ と 、 自 ら の 授 業 を 個 性 的 な 生 き生 き と し た も の に し て いく こと︱
自 ら の力 で 生 み出 し 、 構 築 し て いく 授 業 こそ 個 性 的 な 授 業 の名 に値 す る 。
実 践者 ( 授 業 者 ) と し て 、 ﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ を ど のよ う に し て習 得 し 、 そ の修 練 を ど のよ う に 積 み重 ね て いく
( さ ら に は 、 そ の理 論 ) を 構 築 し て いく こと であ る 。
か 。 国 語 科 教 育 へと 志 し 、 国 語 科 教 育 の道 を 歩 ん で いこ う と す る 時 、 た え ず め ざ す べ き は 、 ﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ を し っか り 身 に つけ 、 精 確 で活 力 に富 む 国 語 科 授 業
個 性 的 で独 創 的 な 精 確 で 活 力 に富 む 国 語 科 授 業 の構 築 が 、 学 校 教 育 現 場 に お け る実 践 営 為 の最 も 中 核 と な る 課
題 であ る と す れ ば 、 そ の中 心 課 題 を 堅 持 し て 、 全 力 を 傾 注 し て いく こと が 要 請 さ れ る 。 実 践 者 と し て ﹁国語 科 授
業 力 ﹂ を ど う 習 得 し 修 練 し て いく か 。 ﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ を 駆 使 し て、 国 語 科 授 業 の創 造 を ど う 進 め て いく か 。 す
べ て 国 語 科 教 育 の 実 践 ・研 究 は 、 ﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ の習 得 ・活 用 と いう こ と に 帰 す る で あ ろう 。 ま た 、 国 語 科 教
育 の実 践 ・研 究 のす べ て は 、 国 語 科 授 業 の構 築 ・創 造 に 役 立 て ら れ 、 そ れ に 資 し て いく 。
し か し 、 柔 軟 で生 き 生 き と 縦 横 に 働 く ﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ の 習 得 は 、 容 易 な こと で は な い。 周 到 綿 密 な 配 慮 を 要
( ← 展 開力 ) を 豊 か に 身 に つけ て いな け れ ば な ら な い。
す る 。 国 語 科 授 業 者 と し て 、 常 に国 語 科 教 材 への 洞 察 力 ・透 視 力 を 働 か せ 、 学 習 者 ( 児 童 ・生 徒 ) 把 握 (理 解 ) 力 を 鍛 え 、 一単 元 ・ 一教 材 に即 す る 自 在 な 授 業 構 想 力
思 え ば 、 個 性 的 で独 創 的 な 精 確 で活 力 に 富 む 国 語 科 授 業 の構 築 こそ は 、 国 語 科 教 育 実 践 者 に と って永 遠 の課 題 で あ る 。 そ れ は ﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ の みご と な 結 晶 作 用 に よ って 具 現 さ れ る 。
︵二︶﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ を 発 動 さ せ る に は
﹁国 語 科 授 業 力 ﹂ が 真 に 発 動 し 、 生 き 生 き と 働 く た め に は 、 国 語 科 授 業 に お い てめ ざ す べ き 目 標 ( 指導 事 項)
が 的 確 にと ら え ら れ て いな く て は な ら な い。 目 標 の措 定 ( 設 定 ) が 仮 初 め にな さ れ 、 浮 動 し た り 形 式 化 し た り し
( 理 解)力
( 国 語 学 習 力 の問 題 を 含 ま せ る )
( 学 習 活 動 を 含 む ) を ど う 組 織 し て いく か 。 国 語 科 教 材 へ の
て いる と 、 授 業 内 容 は た ち ま ち散 漫 にな り希 薄 に な る 。目 標 ( 指 導 事 項 ) の真 の発 見 は 、国 語 科 授 業 構 築 のた め 、 最も根幹 の位置を占 める。 目標 ( 指 導 事 項 ) に向 か って 、 国 語 科 授 業 の内 容
解 釈 力 ・洞 察 力 ・透 視 力 、 さ ら に は 国 語 科 教 材 産 出 力 、 学 習 者 把 握 が大きく かかわ るのは、 ここにお いてである。
目標 ( 指 導 事 項 ) に向 か って 、 授 業 内 容 を ど う 構 成 し 組 織 し て 、 ど のよ う に展 開 さ せ て いく か 。 そ こ に 学 習 指
導 の過 程 と 方 法 の問 題 が 登 場 し てく る。 方 法 は 模 倣 さ れ やす く 、 そ れ だ け 形 骸 化 し や す い。 個 性 的 な 方 法 の発 見
は 、 意 欲 的 です ぐ れ た 実 践 者 の た え ず 求 め つづ け て いる と こ ろ で あ る。 適 切 で的 確 な 方 法 の 工 夫 は 、 国 語 科 教 育
のあ り 方 を 示 す 指 針 (理 論 )、 豊 富 な 実 践 体 験 か ら 導 か れ 、 授 業 者 の 熱 意 と 愛 情 に育 てら れ 、 授 業 を 充 実 し た も
のと す る 。
︹目 標 (指 導 事 項 )→内 ←容→← 方 法 ︺ と いう 国 語 科 授 業 過 程 は 、 そ の展 開 過 程 お よ び そ の結 果 ・到 達 状 況 が た え ず
評 価さ れ、検 証 される 。学習 者 ( 児 童 ・生 徒 ) 一人 ひ と り に 即 し て 、 ま た 授 業 者 自 ら の指 導 過 程 に 応 じ て、 省
( 指 導 事 項 )→←内 容→← 方 法→←評 価 ︺ の 展 開 を ど の よ う に 組 み 立 て て いく か が
察 ・考 究 を 中軸 と す る 評 価 が 行 わ れ る。 国 語 科 授 業 過 程 、 つま り ︹目 標
﹁国 語 科 授 業 構 想 力 ﹂ であ り 、 そ れ を 推 進 し 運 用 し て いく のが ﹁国 語 科 授 業 展 開 力 ﹂ ( 狭 義 では 、 国 語 科 授 業 ) で ある。
こう し た 国 語 科 授 業 過 程 に よ る 、 精 確 で活 力 に 富 む 国 語 科 授 業 の構 築 に つ い ては 、 そ のす べ て が 、 あ る いは 選
( 国 語 科 学 習 記 録 ) と し て記 述 さ れ 、 ま と め ら れ る の が 望 ま し い。 こう し た 国 語 科
( 国 語 科 学 習 記 録 ) は 国 語 科 教 育 研 究 の拠 点 と な る 。 そ れ は い つも 有 力 な か け が え の な い資 料 と な る。
ばれた部分 が国語科 授業記録 授業記録
︵三︶ 国 語 科 授 業 の 真 の創 造 を
( 児 童 ・生 徒 ) の国 語 学 習 ( 聞 く こ と ・話 す こ と ・読 む こ と ・書 く こ
国 語 科 授 業 を 真 に 豊 か に 構 築 し、 創 造 し て いく こと は 至 って難 し い。 国 語 科 授 業 の真 の創 造 は 、 国語 科 教 育 実 践 者 に と って永 遠 の課 題 で あ る 。 授 業 者 と し て は 、 一人 ひ と り の学 習 者
と ・言 語 事 項 ) に 即 し て 、 学 習 者 の真 の国 語 学 力 、 真 の言 語 生 活 を 観 察 し 把 握 し て 、 一人 ひ と り の 国 語 学 習 へ の
エネ ル ギ ー を 発 見 し 、 励 ま し て いく こと が望 ま れ る。 学 習 者 一人 ひ と り の持 って いる 、 真 の国 語 学 力 、 特 に そ の
た く ま し い エネ ルギ ーを 見 いだ し て 、 そ れ を 単 元 ご と 、 教 材 ご と の授 業 に 結 晶 さ せ 、 結 実 さ せ て いく こと が 望 ま
し い。 的 確 で周 到 な 、 教 材 研 究 、 学 習者 研 究 を つづ け 、 平 板 でな い、 個 々 の学 習 者 一人 ひ と り に深 く ひ び い て い く 国 語 科 授 業 を 求 め て いく よ う にし た い。
国 語 科 授 業 は 、 個 人 差 に富 む 学 習 者 への 働 き か け であ り 、 学 習 者 た ち の国 語 学 力 ・国 語 能 力 を 結 実 さ せ つ つ、
さ ら に そ れ を 高 め て いく 営 み で あ る。 そ れ は ほ ん と う に や り が い のあ る 営 為 で あ る 。 国 語 科 の授 業 は 、 あ ら ゆ る
教 育 営 為 の根 幹 に位 置 づ け ら れ る 。 そ のよ う な 国 語 科 授 業 が 授 業 と し て、 真 に成 立 し 、 確 立 し て いく こと が な に よ り 大 切 で あ る。
国 語 科 教 育 の課 題 は 、 日本 人 と し て の 生 き 方 、 人 間 形 成 そ のも の に 深 く か か わ る 、 真 実 の授 業 の 探 求 にあ る と い って よ い。 そ れ は 授 業 者 の 脚 下 に あ る 、 ず っし り と 重 い課 題 であ る 。
︵四︶国 語 科 授 業 力 を 伸 ば す に は
国 語 科 授 業 を 真 に創 造 し て いく た め に は 、 授 業 者 と し て授 業 力 を 伸 ば し て いく 修 練 を 自 ら に 課 し て いか な け れ
ば な ら な い。 た と え ば 、 授 業 力 の 一つ、 ﹁話 す こ と ﹂ ( 話 述 力 ) に つ いて み れ ば 、心 が け て熟 達 し て いか な け れ ば な ら な いこ と は 少 な く な い。
︵1︶ 授 業 に お いて 、発 問 を 周 到 的 確 にす る こと が で き る か。 ︵2︶ 導 入 か ら 終 結 ま で 、 適 切 で 懇 切 な 助 言 を し て いく こと が で き る か。
︵3︶ 学 習 のし か た に つ い て、 学 級 全 員 に 、 ま た は学 習 者 一人 ひ と り に、 興 味 深 く わ か り やす く 説 明 が で
き るか 。
(4) 目 的 に 応 じ て 、 話 し 分 け 語 り 分 け る こと が で き 、 た え ず ユー モ アを も ま じ え て 、 学 習 者 徒 ) を 魅 き つけ 、自 在 に話 を 組 み 立 て ら れ る か 。
(5) 児 童 ・生 徒 の 発 言 ( 発 表 ・報 告 ) を 、 よく 聴 き 取 り 、 聴 き 分 け る こ と が でき 、 そ の発 言 告 ) の し か た に つ い て、 適 切 に 助 言 を し て いく こ と が で き る か 。
(6) 話 し合 い に つ いて 指 導 し 、自 ら き ち っと 司 会 を し て いく こと が で き る か 。
( 児 童 ・生
( 発 表 ・報
(7) 音 読 ・朗 読 に心 を 潜 め 、 自 ら す ぐ れ た 音 読 ・朗 読 が で き る よう に 心 が け 、 修 練 を 重 ね て いる か 。
(8) 代 表 的 な 物 語 教 材 に つ い て、 全 文 暗誦 を し て 、 学 習 者 に 聴 か せ る よ う 心 が け 、 努 め て い る か 。
国 語 科 の す ぐ れ た 感 銘 深 い授 業 は 、 多 く の場 合 、前 掲 (1 )∼ (8) の話 法 ・話 し 方 ・聴 き 取 り 方 ・全 文 暗誦 に 支 え ら れ て いる 。
国 語 科 授 業 の真 の創 造 ( 構 築 ) を め ざ す に は 、 ふ だ ん か ら 継 続 し て積 み 上 げ て いか な け れ ば な ら な い こと が 三 つあ る 。
(1) 自 ら の ﹁国 語 科 授 業 記 録 ﹂ を 心 が け 、 工夫 を 加 え つ つ、 積 み上 げ て いく こ と 。
(2) 学 習 者 ( 児 童 ・生 徒 ) 一人 ひ と り に ﹁国 語 科 学 習 記 録 ﹂ を 作 成 さ せ 、 そ れ を 役 立 た せ る こと 。 授 業
者 ( 指 導 者 ) と し て は 、 ﹁国 語 科 学 習 記 録 ﹂ に つ い て評 価 を し 、 指 導 に 全 面 的 に活 か し て いく よ う 努 め ること。
(3) 国 語 科 授 業 の真 の創 造 の た め 、 ﹁努 力 目 標 ﹂ を 明 確 に 設 け 、 そ れ への到 達 を めざ し て 、 あ ら ゆ る努
﹁生 き た呼 吸 ﹂
力 を 惜 し ま ぬ こ と 。 ﹁忙 し さ ﹂ を 理 由 ( 言 いわ け ) に し て、 そ の日 暮 ら し に な ら な い こと 。
︵五︶授 業 者 と し て会 得 す る ﹁実 践 の知 恵 ﹂︱
﹁実 践 の知 恵 ﹂、 そ れ は 授 業 者 と し て 守 る ベ き も のと し て 聞 か さ れ る、 ﹁心 が ま え ﹂ や ﹁心 が け ﹂ を 指 し て いる
の では な い。 ま た 、 授 業 を 組 織 し 展 開 し て いく 、 原 則 と 方 法 に 関 す る 、 単 な る知 識 や 技 術 で も な い。授 業 者 と し て 会 得 し て いく べき ﹁生 き た 呼 吸 ﹂ であ る 。
授 業 者 と し て、 思 わ ぬ 失 敗 を 重 ね な が ら 、 そ の つど 問 題 点 の克 服 を 心 が け 、 授 業 を 深 め て いく た め の工 夫 に努
め 、 本 格 的 な 授 業 への開 眼 を も た ら し、 確 固 た る自 信 を 植 え つけ てく れ る も の こ そ ﹁実 践 の知 恵 ﹂ で あ る。 そ れ は 授 業 者 自 ら が 実 践 者 と し て身 を 挺 し て 行 う 修 練 の結 晶 であ る と い っ てよ い。
( 大 村 はま 先 生 ) が 、 中 学 二年 生 の教 室 で、 翌 日 の 実 地 授 業 のた め、 初 め て生 徒 た
( 各 自 の姓 名 の紹 介 ) を お さ せ にな った 。 時 間 に む だ が な く 、 各 自 の 姓 名 紹 介 は あ ざ や か に
か つて 、 熟 達 さ れ た 授 業 者 ち に接 し 、 自 己 紹 介
進 んだ 。 そ の ﹁秘 訣 ﹂ を お たず ね し た と こ ろ 、 ﹁要 は生 徒 各 自 の 紹 介 の、 教 師 の受 け と め 方 、 ﹁あ いづ ち ﹂ のう ち
方 一つ です よ 。﹂ と 答 え ら れ た 。 そ の 時 、 私 は 思 わ ず な る ほ ど そ う な のか と 、 目を 開 か れ た 。 そ れ は自 己 紹 介 の
指 導 の極 意 の 一つを 示 唆 し てお り 、 そ う いう ﹁呼 吸 ﹂ を 会 得 し て いく こ と で 、 ﹁実 践 の 知 恵 ﹂ は 確 実 に 身 に つく
の だ と 思 っ た 。 あ わ せ て 、 ﹁き び し さ ﹂ を 感 じ な い で は い ら れ な か った 。
( 聞 き 読 む )、
授 業 者 と し て の生 涯 稽 古 の中 で、 自 他 の実 践 か ら 学 び つづ け 、 ﹁生 き た 呼 吸 ﹂ の会 得 を め ざ す こと で 、 ﹁ 実践の 知 恵 ﹂ は実 を 結 ぶと 信 じ た い。
︵六︶探 究 者 ・誘 導 者 と し て の 創 意 と 工 夫
授業 者 ( 指 導 者 ) が 国 語 学 習 に 関 し て探 究 者 と し て の根 本 姿 勢 を 持 ち 、 表 現 ( 話 し 書 く )、 理 解
いず れ も 熟 達 の境 に あ って 、 国 語 科 の授 業 にう ち 込 ん で いる と 、 規 範 あ る いは 模 範 と し て の役 割 を お のず と 果 た
し、学 習者 ( 児 童 ・生 徒 ) た ち は、 話 し ぶり も 、 書 き ぶ り も 、 読 み ぶり も 、 聞 き 方 も 、 自 然 に 感 化 さ れ て いく よ
う に な る 。 そ れ は 授 業 者 (指 導 者 ) の 言 動 を 真 似 た り 、 模 倣 し た り し て いる よ う にも 見 え る が 、 そ の内 面 に は 、
お のず と 感 化 さ れ て、 そう いう 習 得 が な さ れ て い る と も 見 ら れ る 。 国 語 学 習 に お け る 探 究 者 と し て の指 導 者 (授 業 者 ) に は 、 感 化 者 と し て の役 割 が 見 いだ さ れ る。
望 ま し い支 援 を め ざ す と いう 時 、 授 業 者 (指 導 者 ) に 求 め ら れ る の は 、 誘 導 者 と し て の役 割 で あ る 。 学 習 者
( 児 童 ・生 徒 ) 一人 ひ と り に 国 語 を 学 ぶ喜 び を 得 さ せ 、 意 欲 を 高 め 、 表 現 力 ・理 解 力 を 確 か に伸 ば し て いく に は 、
国 語 学 力 に関 す る 診 断 的 把 握 と 、そ れ を ふま え て の的 確 周 到 な 具 体 的 で有 効 な 助 言 を 必 要 と す る。そ の た め に は 、
授業 者 ( 指 導 者 ) に学 習 者 ( 児 童 ・生 徒 ) の到 達 目 標 が 明 確 に 見 え て いな け れ ば な ら な い。 ま た 、 そ の到 達 目 標 へ の方 法 ・手 段 も 見 え て いな け れ ば な ら な い。
学習者 ( 児 童 ・生 徒 ) にと って 必 要 な のは 、 一人 ひと り に 望 ま し い国 語 学 習 への誘 導 が な さ れ て い ると いう こ
と で あ る。 そ こ で は 、 安 心 し て 自 ら の 国 語 学 習 の道 を 歩 む こ と 、 す な わ ち 、 目 標 を め ざ し 、 方 法 を 工 夫 し 、 継 続
し て いく 努 力 を 怠 ら ず 、自 ら の国 語 学 習 活 動 を 着 実 に積 み 重 ね て いく こと が でき る よ う に 誘 導 す る こと が 求 め ら れ る。
( 指導
言 う ま で も な く 、 避 難 のた め の誘 導 で は な い。 無 気 力 で消 極 的 な 態 度 を 、 ま た沈 み が ち な 意 欲 喪 失 の状 態 を 、
ど のよ う に し て 国 語 学 習 に 主 体 的 に う ち 込 ん で いく こ と が でき る よ う に仕 向 け て いく か 。 そ こ に は 授 業 者 者 ) の誘 導 者 と し て の適 切 な 働 き か け が 望 ま れ る 。
( 児 童 ・生 徒 ) 一人 ひ と り へ の働 き か けを 事 前 にど う 用 意 し て お く か。 ま た 、 具 体 的 な 展 開 過 程 にあ って、 一
授 業者 ( 指 導 者 ) と し て、 国 語 科 授 業 を 構 想 し 、 設 計 し 、 具体 化 し て いく 場 合 、 支 援 活 動 と も いう べ き 、 学 習 者
人 ひ と り を どう 誘 導 し て いく の か 。 事 前 に綿 密 な 誘 導 計 画 を 用意 し て いく のが 望 ま し い。 誘 導 計 画 が支 援 計 画 の 中 核 を な し て いる と い ってよ い。
学習者 ( 児 童 ・生 徒 ) 一人 ひと り が 国 語 学 習 に関 し て 、 習 得 を 重 ね 、 お のず と 主 体 的 に自 立 し 、 個 性 を 豊 か に
開 花 さ せ て いく の に、 授 業 者 ( 指 導 者 ) と し て 、 ど れ だ け 指 導 を 要 す る のか 。 誘 導 に は 、 も う これ で い いと いう
期 限 は な い。誘 導 者 と し て の役 割 の完 遂 は 、 探 究 者 ・発 見 者 ・評 価 者 と し て の活 動 の連 繋 の 上 に 見 いだ さ れ る 。
( 指 導 者 ) の探 究 者 と し て の根 本 姿 勢
国 語 科 授 業 に あ って 、 探 究 者 ・誘 導 者 と し て 創 意 と 工 夫 が 十 分 に な さ れ る 時 、 学 習 者 ( 児 童 ・生 徒 ) 一人 ひ と り は 国 語 学 習 に 確 かな 取 り 組 み を し て いく に ち が いな い。 創 意 は 、 授 業 者
か ら 生 み出 さ れ 、 工夫 は 創 意 に よ って 一層 生 彩 のあ る有 効 な も のが 凝 ら さ れ よ う 。
教 師 に求 め ら れ る、 学 習 者 ( 児 童 ・生 徒 ) 一人 ひと り の個 のよ さ 、 可能 性 を 生 か し て いく 支 援 は 、 探 究 者 ・誘 導 者 と し て の創 意 と 工夫 に よ って機 能 し 、豊 か な 成 果を 生 む も のと な る 。
二 国語科 授業研究 の基本課題
︵一︶ 国語科授業 研究の進 め方
国 語 科 授 業 研 究 を ど の よう に 進 め て いく か 。研 究 目 標 (めざ す も の)を 何 に置 く か 、ど こ に 設 け る か に よ って 、 左 の よう に 四 つ (Ⅰ∼Ⅳ ) の進 め 方 を 見 いだ す こ と が でき る 。
Ⅰ 授 業 力 の習 得 と そ の深 化 向 上 を めざ し て の 国 語 科 授 業 研 究 Ⅱ 努 力 目 標 (あ る いは 全 体 的 基 本 的 目 標 ) を め ざ し て の国 語 科 授 業 研 究
Ⅲ 一定 の授 業 理 論 あ る いは 一定 の 指導 過 程 ・指 導 法 を 検 証 し 、 そ の効 率 性 を 高 め て いく た め の国 語 科 授 業研 究 Ⅳ 研 究 仮 説 に も と づ く 実 験 的 試 行 的 な 国 語 科 授 業 研 究
以 下 、 そ れ ぞ れ に つ い て、 国 語 科 授 業 研究 の進 め方 ・あ り 方 に つ いて 、 述 べ る こ と にす る 。
Ⅰ 授 業 力 の習 得 と そ の深 化 向 上 を め ざ し て の 国 語 科 授 業 研究
す ぐ れ た 授 業 実 践 者 に な り 、 授 業 力 を 演 練 し 、 熟 達 し て 、 授 業 運 び が 自 在 に で き る よ う に な り た いと の希 求
(願 い) は 、 教 育 実 践 に た ず さ わ る者 だ れ も が 持 って い る 。 そ の 日 暮 ら し に 堕 し 、 授 業 へ の熱 意 を 喪 失 し てし
ま った 場 合 は 別 と し て、 経 験 豊 か な 実 践 者 と いえ ど も 、 授 業 力 の 深 化 向 上 を 願 って や ま な いも の であ る 。
国 語 科 授 業 力 の習 得 と そ の深 化 向 上 を め ざ す こ と 、 そ れ は そ れ自 体 授 業 実 践 者 の行 う 個 別 的 内 発 的 な 授 業 研 究
と も 言 え る 。 自 己 の授 業 水 準 あ る いは 授 業 の 長短 ・よ し あ し は 、 授 業 者 自 身 に は 見 え に く いも の であ る 。 先 行 理
論 ・先 行 実 践 例 か ら 謙 虚 に 学 び つ つ、 ま た 実 地 に 直 接 観 察 し う る 、 他 の実 践 者 の授 業 そ のも の か ら 啓 発 ・示 唆 を 受 け つ つ、 自 ら の国 語 科 授 業 力 を 育 て て いか な け れ ば な ら な い。
こう し た 国 語
① 授 業 の 準 備 の し か た ︹教 材 研 究 ・学 習 者 研 究 ・授 業 計 画 ︺← ② 授 業 の組 織 ・展 開 のし か た ( 単 元 研 究 ・指 導
過 程 研 究 ・展 開 法 研 究 )← ③ 授 業 の診 断 ・評 価 の し か た ( 学 力 評 価 ・授 業 力 評 価 ・学 習 者 診 断 )︱
科 授 業 構 築 の全 過 程 に即 し て、 授 業 者 自 身 の当 面 す る 切 実 な 課 題 ・問 題 点 を 見 いだ し 、 そ の克 服 ・解 決 ・達 成 を
図 って いく べき で あ る。 国 語 科 授 業 力 の習 得 ・演 練 を めざ す 場 合 、 授 業 展 開 法 の生 き た 呼 吸 を 自 得 し て いく こと
( あ る いは 全 体 的 基 本 的 目 標 ) を め ざ し て の国 語 科 授 業 研 究
は 、 最 も 大 事 な 目 標 の 一つと な ろう 。
Ⅱ 努 力 目 標
自 主 性 ・創 造 性 ・個 別 性 ・集 団 性 な ど 、 学 校 ・学 年 な ど の教 育 営 為 上 の努 力 目 標 を 、 国 語 科 授 業 にど う 取 り 入
れ 、 生 か し 、 反 映 さ せ て いく か が 優 先 的 に扱 わ れ が ち に な る 授 業 研究 であ る 。 掲 げ ら れ た 努 力 目標 と 各 自 が 行 う
実 地 の 授 業 と の 間 に 深 い溝 が 生 じ た り 、違 和 感 が生 起 し た り す る と 、国 語 科 授 業 研究 は つま ず き を 見 せ る こと も 、
歪 みを 持 ってし まう こと も あ る 。 努 力 目 標 に つ い て の共 通 理 解 や授 業 研 究 の進 め 方 に つ い て の合 意 と 支 持 、 協 力
が 得 ら れ ず 、 研 究 推 進 者 が苦 し い立 場 に 置 か れ た り 、 学 校 ・学 年 の共 同 研 究 の歯 車 がう ま く〓 み合 わ ぬ 結 果 を 招
いた り す る こと も あ る 。 要 は 、 国 語 科 授 業 研 究 と し て の具 体 目 標 を し っか り 押 さ え 、 研 究 のた め の努 力 目 標 ( 全
体 的 基 本 的 目 標 ) と の有 機 的 関 連 を 図 って いく こ と であ る 。 国 語 科 授 業 研 究 が 空 転 し な いた め に も 、 こ の こ と は
( 文 学 教 材 ・説 明 文 教 材 な ど )、 書 く こ と
一定 の授 業 理 論 あ る いは 一定 の指 導 過 程 ・指 導 法 を 検 証 し 、 そ の効 率 性 を 高 め て いく た め の 国語 科 授 業 研
肝 要 であ る 。
究 す ぐ れ た 発 想 に よ る 、 ま た す ぐ れ た 理 論 的 構 築 に よ る 、 読 む こと
( 作 文 )、 聞 く こ と ・話 す こと の 学 習 指 導 過 程 、 あ る いは 有 効 性 の高 い学 習 指 導 法 な ど にも と づ いて 、 多 く の国 語
科 授 業 が な さ れ て いる 。 国 語 科 授 業 への 理 論 的 な いし 試 論 的 構 築 ( 提 案 を 含 む ) に対 す る 実 践 的 検 証 や試 行 と し
て の授 業 研 究 であ る。 こう し た 授 業 研 究 は 、 実 地 に 役 立 つ国 語 科 授 業 理 論 の成 立 に寄 与 す ると こ ろ 大 であ る 。 反
面 では 、 国 語 科 授 業 への視 野 ・視 点 を 固 定 さ せ た り 、 一方 的 な も の に し てし ま った り す る 恐 れ も 生 じ てく る 。
こ の授 業 研 究 方 式 は 、 実 践者 の士 気 を 鼓 舞 し 、 問 題 点 に向 か って 鋭 い切 り 込 み を 入 れ て いく こ と が でき 、 共 同
思 考 ・討 議 に よ る 問 題 解 決 を 可 能 に し て いく 。 同 時 に、 実 践 者 一人 ひ と り の国 語 科 授 業 の真 の主 体 性 ・個 性 を ど う 確 保 し て いく か が 十 分 に 考 え ら れ な け れ ば な ら な い。
( 提 案 ) も 、 研 究 仮 説 の 一つと 見 る こ と が で き る 。 し か し 、 そ れ ら
Ⅳ 研 究 仮 説 に も と づ く 実 験 的 試 行 的 な 国語 科 授 業 研 究 前 掲Ⅱ 、Ⅲ に お け る努 力 目 標 や 理 論 的 構 築
は 授 業 研 究 と し ては 、 包 括 的 に多 く のも の を 抱 え 込 ん で お り 、 問 題 点 を し ぼ り 、 集 中 的 に 取 り 組 む こ と の容 易 で
Ⅲ
な い場 合 が多 い。 国 語 科 授 業 成 立 上 、 あ る いは 展 開 上 の重 要 な 問 題群 を 手 堅 く 、 し か も 根 本 的 に解 決 し て いく た
め 、 問 題 の所 在 を 明 ら か に し 、 そ の解 決 への見 通 し を 立 て つ つ、 研 究 仮 説 を 設 け 、 そ れ に も と づ く 国 語 科 授 業 研
究 を 用 意 し 、 仮 説 の確 か め や検 討 を 進 め て いく の で あ る 。 こ の研 究 方 式 は 、 国 語 科 授 業 を 確 か に し 豊 か に充 実 さ
せ て いく 根 本 的 な 土 台 づ く り の作 業 であ る 。 し た が って、 単 な る 思 い つき に発 す る 工 夫 の や や 誇 張 を 伴 った提 案
と は 異 な る の で あ る (以 上 、 ﹁授 業 研 究 年 鑑 ﹂ 一九 七 五 年 版 明 治 図 書 刊 所 収 、 ﹁国 語 科 授 業 研 究 の 主 題 と 方 法 ﹂ に 拠 る 。 の ち 、 ﹁国 語 科 授 業 論 ﹂ 昭 和 五 一年 六 月 一日 共 文 社 刊 に 収 録 し た )。
これら ( 前 掲Ⅰ ∼Ⅳ ) のう ち 、 個 々 の授 業 者 に最 も 深 い関 心 が 持 た れ る のは 、Ⅰ 授 業 力 の習 得 と そ の深 化 向 上
を め ざ し て の国 語 科 授 業 研 究 で あ ろう 。 個 々 の授 業 者 は ま た 、 校 内 の共 同 研 究 や サ ー ク ル の 共 同 研 究 に 参 加 し 、
Ⅱ 努 力 目 標 (あ る いは 全 体 的 基 本 的 目 標 ) を め ざ し て の国 語 科 授 業 研 究 に 取 り 組 む 場 合 も 多 い。 さ ら に 、 個 々 の
( 前 掲Ⅲ ) に取 り 組 む 場 合 も 少 な く な い。 これ ら に 加 え て、
授 業 者 が 一定 の授 業 理 論 、 指 導 過 程 、 指 導 法 に 拠 る 研究 団 体 や サ ー ク ル 、 グ ルー プ に 所 属 し 、 理 論 や方 法 を 検 証 し 、 そ の効 率 性 を 高 め て いく た め の国 語 科 授 業 研 究
研 究 所 ・教 育 研 究 セ ン タ ー ・実 験 校 ・研 究 室 等 に あ って は 、Ⅳ 研 究 仮 説 に も と づ く 実 験 的 試 行 的 な 国 語 科 授 業 研
( 前 掲Ⅰ ∼Ⅳ ) を 、 そ れ ぞ れ 授 業 研 究 と し て確 か な も の に し て いこう と す れ ば 、 授 業 理 論 の動
究 に取 り 組 む こ と が 多 い。 国語 科授業研究
向 にた え ず 目 を 配 り 、 教 授 学 の進 展 にも た え ず 留 意 し な け れ ば な ら な い。 国語 科 授 業 研 究 を 独 り よ が り の 狭 く 浅 いも の に し ては な ら な いか ら で あ る。
国 語 科 授 業 研 究 に 取 り 組 み 、 熟 達 を 期 す る 者 と し て、 教 授 学 ・授 業 理 論 ・学 力 論 ・学 習 者 論 にも 広 い視 野 を 保
つよ う 心 が け 、 各 自 そ れ ぞ れ の国 語 科 授 業 論 を 精 確 な も の に し て いき た いと 願 わ ず に は いら れ な い。
︵二︶ 国 語 科 授 業 研 究 への 姿 勢
授 業 研 究 の 醍 醐 味 は ど こ にあ ろう か 。 周 到 か つ意 欲 的 な 清 新 な 授 業 に接 し つ つ、観 察 に集 中 し 、 そ の授 業 過 程
に 即 し て、 分 析 ・分 節 を 加 え て 、 そ の授 業 を 成 り 立 た せ て いる実 践 様 式 を と ら え 、 そ の実 践 の核 心 に触 れ て、 そ の実 践 主 体 の態 度 と 人 柄 と 技 術 に 迫 り え た 時 、 一入 深 い喜 び を 覚 え る 。
( 展 開 ) し て いる の で 、 た え ず 緊 張 し てと ら え て いか な く て は な ら な いこ と で あ る。 ま た 、 学 習 者 (児
そ れ は 一個 の文 学 作 品 を 、 そ の核 心 に お い てと ら え た 時 の喜 び に似 て いる 。 た だ 違 う のは 、 目 前 の授 業 は た え ず 流動
童 ・生 徒 ) の集 団 的 個 別 的 性 格 と そ の行 動 と を 観 察 し て 、 そ こ に 現 れ る 学 習 過程 ・学 習活 動 の諸 反 応 を も 見 抜 く
こと は 容 易 で はな い。 そ こ で は 、 観 察 ・把 握 ・省 察 のた め の、 ま た解 釈 ・批 判 のた め の修 養 と 熟 達 と が 要 請 さ れ て いる 。
授 業 把 握 の た め の根 本 視 点 は 、 そ の授 業 の成 立 を 、 ① 教 材 、 ② 学 習 者 、 ③ 指 導 者 の 三 極 の作 用 か ら と ら え 、 さ
ら に 授 業 の構 造 を 、 ① 目 的 、 ② 目 標 、 ③ 内 容 、 ④ 方 法 、 ⑤ 評価 と いう 、 ﹁ひと ま と ま り ﹂ と し てと ら え て いく こ
と に あ ろ う 。 と り わ け 、 授 業 の 目標 を 明 確 に と ら え 、 か つ鋭 く 判 断 す る こ と が 大 切 で あ る 。 目 標 の提 示 が 羅 列 目
標 ・形 式 目 標 か ら 焦 点 目 標 ・実 質 目 標 へと 焦 点 づ け ら れ 、 自 覚 的 に 設 定 さ れ て いく のが 望 ま し い。
学 習 内 容 、 学 習 指 導 の方 法 に つ い ても 、 授 業 者 は い つも ﹁こ れ で い い のか ?﹂ と いう 不 安 に 悩 ん で き た 。 既 成
の固 定 化 し た 観 念 的 形 式 的 方 法 に 安 住 す る か 、 でな け れ ば 、 手 さ ぐ り を し つ つ動 揺 す る か 。 新 奇 を 追 う 脆 さ、 あ
そ こ に授 業 研 究 の最 も 大 き い目 標 が 見 いだ さ れ る。
せ り は 、 国 語 科 教 育 界 でも 見 ら れ る 。 ど う 自 己 確 立 を 図 る の か 。 実 地 の 授 業 を 通 し て、 実 践 者 が そ れ ぞ れ 自 己 確 立 を 図 り 、 不 動 の 国語 科 教 育 を め ざ し て進 む︱
授 業 研 究 は 、 協 力 し てそ の典 型 的 な 研 究 方 法 を 求 め る と 共 に 、 ま た 各 自 そ れ ぞ れ に 多 彩 な 研 究 方 法 を 考 案 し 、
試 行 し て いく よ う に し た い。 聞 く こと ・話 す こと ・読 む こと ・書 く こ と︱
ど の領 域 の実 践 も 、 実 践値 の高 い営
為 と し て 具 象 化 し 、 概 念 化 し 、 定 着 さ せ て いく た め に 、 各 授 業 者 の 実 践 精 神 の燃 焼 を 切 に 期 待 し て や ま な い ( ﹁国 語 科 授 業 論 ﹂ 五九 ∼ 六 〇 頁 )。
︵三︶ 国語科授 業研究 のために
(1 ) 授 業 の進 め 方 を 固 定 さ せ て形 骸 化 さ せ な いよ う に 、 た え ず 生 き 生 き と し た 意 欲 的 な 授 業 を 構 想 す る 力 (国 語 科 授 業 構 想 力 ) を 養 って いく よ う に努 め る こと 。
( 読 み物 ) を 手 に す る
(2) 国 語 科 教 材 の研 究 に つ い ては 、 特 に 教 材 化 に つ い て、 進 ん で典 型 的 な 生 き た 教 材 の 発 見 ・発 掘 に つ
い て心 を潜 め て いく こと 。 新 聞 ・雑 誌 ・単 行 本 を 読 む 時 も 、 図 書 室 で 児 童 図 書 時 も 、 す ぐ れ た 教 材 発 見 へ の気 持 ち を 緩 め る こと な く 、 求 め て いく こ と 。
(3) 学 習 者 に つ い て 理解 を 深 め 、 国 語 学 力 を 確 か め 、 着 実 で収 穫 の多 い授 業 が 展 開 し て いく よ う 、 子 ど
も た ち 一人 ひ と り か ら 目 を 離 さ な い こと 。 与 え ら れ た 教 科 書 か ら ば か り 出 発 す る の で はな く 、 学 級 の
子 ど も た ち の 興 味 ・関 心 ・意 欲 ・課 題 ・学 力 か ら 出 発 し 、 授 業 を 組 織 し て いく よう に す る こ と 。
(4 ) 真 に 学 習 し 得 る 者 の み が 真 に教 え 導 く こ と が でき る と す れ ば 、 授 業 者 は 、 す ぐ れ た 言 語 生 活 者 であ
り 、 す ぐ れ た 聞 き 手・ 話 し 手 ・読 み 手 ・書 き 手 であ る こ と が 望 ま れ る。 自 ら 苦 労 し て 身 に つけ 得 た こ と だ け が 学 習 者 への指 導 力 と し て役 立 って いく 。
(5) 自 他 の国 語 科 授 業 を 省 察 し て 、 そ の授 業 営 為 に 働 い て いる 条 理 を 見 いだ し 、 問 題 点 を 取 り 上 げ 、 そ
れ ら を 克 服 し て いく 方 法 を 求 め る よ う に し て いく こ と 。 学 習 者 ・媒 材 と し て の教 材 が 、 そ し て 授 業 の
( 授 業 ) 記 録 を 継 続 し て いく よ う に努 め る こと 。 発 問 法 に つ いても 、 丹 念
展 開 が し っか り 見 え て いる こと 。 そ れ は 個 性 的 な 授 業 の創 造 を し て いく の に欠 く こ と が で き な い。 (6) 自 ら 工夫 し て 、 学 習 指 導
に 準 備 し 、 実 践 し 、 省 察 し 、 そ れ ら を 記 録 し て いく こと に よ り 、 一層 深 め ら れ て いく 。 こう し た 授 業 記 録 は 、 最 も 大 事 な 教 育 文 化 財 であ り 、 明 日 の授 業 の源 泉 と な る 。
(7) 国 語 科 に 関す る 授 業 研 究 の文 献 資 料 ( 単 行 本 ・雑 誌 論 文 ・実 践 報 告 な ど ) に当 た って 、 た え ず 多 く
の 示 唆 を 汲 み 上 げ 、 実 地 の授 業 に生 か し て いく よ う に努 め る こ と (﹁国 語 科 授 業 論 ﹂ 昭 和 五 一年 六 月 共 文 社 刊 七 三 ∼ 七 四頁 )。
こ れ ら (1)∼ (7) は 、 教 職 に 就 こう と す る 若 い人 た ち への ﹁こと ば ﹂と し て述 べ た も の であ った が、 同 時 に 、
私 自 身 へ の ﹁こと ば ﹂ でも あ った 。 こ こ に 述 べ た の は 、 私 が か つて 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に志 を 立 て てか ら 、 三 三年 の経 験 を 重 ね た 時 点 のも ので あ った 。
四) 国語科 授業研究 で努めた いこと
国 語 科 授 業 研 究 を 、 実 践 ・研 究 の面 で 、 み のり 多 いも のと す る た め 、 努 め た いこ と を 、 そ の向 上 ・推 進 ・集 積 の観 点 か ら 述 べ て み た い。
Ⅰ 個 別 的 内 発 的 な 国 語 科 授 業 研 究 の向 上
( ① 授 業 の 準 備 のし か た ︿教 材 研 究 ・学 習 者 研 究 ・授 業 計 画 ﹀← ② 授 業
︿ 単 元 研 究 ・指 導 過 程 研 究 ・展 開 法 研 究 ﹀← ③ 授 業 の診 断 ・評 価 の し か た ︿学 力 評
こ れ は 、 国 語 科 授 業 構 築 の全 過 程 の組 織 ・展 開 の し か た
価 ・授 業 力 評 価 ・学 習 者 診 断 ﹀) に 即 し て、 授 業 者 各 自 の当 面 す る 切 実 な 課 題 ・問 題 を 見 いだ し 、 そ の 克
服 .解 決 ・達 成 を 図 って いく 研 究 であ る 。 授 業 者 一人 ひと り が 日常 的 継 続 的 に 自 ら の国 語 科 授 業 研 究 を ど の
よう に進 め て いく か 、 ま た ど のよ う に身 に つ いた も のと し て いく か が 課 題 であ る 。 ど のよ う な 方 法 によ って 研究 を 進 め て いく か も 切 実 な 課 題 と な る。 Ⅱ 領 域 別 主 題 別 の 国 語 科 授 業 研 究 の推 進
こ れ は 、 文 学 教 材 の授 業 研 究 、 説 明 文 教 材 の授 業 研 究 、 作 文 の授 業 研 究 、 話 す こと の授 業 研 究 な ど 、 国 語
科 教 育 の各 領 域 別 に、 問 題 ・主 題 を 明 確 に 措 定 し て進 め て いく 場 合 で あ る 。 学 校 単 位 、 サ ー ク ル 単 位 、 研 究
団 体 、 研 究 所 、 研 究 会 単 位 で、 領 域 別 ・主 題 別 に授 業 研 究 が組 ま れ る 。 し か し 、 こ の場 合 も 、 そ の 推 進 ・担 当 は 、 前 掲Ⅰ の 個 別 的 内 発 的 な 授 業 研 究 に拠 る こ と が 多 い。 Ⅲ 全 体 的 関 連 的 な 国 語 科 授 業 研究 の集 積
こ れ は 、 国 語 科 授 業 研 究 の年 次 ご と の全 般 的 な 総 括 を 、 ど のよ う に し て いく か の問 題 で あ る。 ま た 、 教 授
学 ・方 法 学 領 域 に お け る 、 数 多 く の授 業 研 究 の成 果 や 提 案 を 、 ど の よう に 受 け と め 、 摂 取 し 、 国 語 科 授 業 研
究 に活 か し て いく よ う にす る か も 問 題 と な る 。 これ ら の こと に 関 し て、 た え ず 視 野 を 広 く し 、 実 践 ・研 究 の
情 報 を 確 保 す る よ う に 努 め た い (﹁国 語 科 教 育 学 研 究 8﹂ 昭 和 五 八 年 六 月 明 治 図 書 刊 二 二 ∼ 二 三頁 )。
︵五︶国 語 科 授 業 研 究 者 に 求 め ら れ る も の
国 語 科 授 業 研 究 に 、方 法 上 、 た え ず 求 め ら れ る の は 、 授 業 者 と し て の省 察 力 であ り 、 記 録 力 であ り 、 討 議 者 と
し て の観 察 力 で あ り 、 記 録 力 で あ る 。 両 者 (授 業 者 ・討 議 者 ) に 求 め ら れ る の は 、 ﹁授 業 透 視 力 ﹂ で あ る 。 理
論 ・実 践 の 両 面 に即 し て、 洞 察 し 、 生 き た 呼 吸 を と ら え 、 本 質 ・実 体 そ のも の を 見 抜 く こ と の でき る透 視 力 で あ
( 児 童 ・生 徒 ) を 的 確 にか つ周 到 に 把 握 す る 力 と 相俟 つも の であ る こ と は 、 改 め て
そ れ は 本 格 的 な 実 践 研 究 を め ざ す 者 にと って 、 悲 願 と も いう べ き も の で あ る 。 国語 科 授
る 。 そ れ が 国 語 教 材 ・学 習 者 いう ま でも な い。 国 語 科 授 業 透 視 力︱
業 研 究 を 一層 充 実 し た も の に す るた め 、 不撓 不 屈 の求 道 者 と し て 、 国 語 科 授 業 透 視 力 を 会 得 し た いと 願 わず に は い ら れ な い。
第 二章 国 語科 授 業 研究 の成 果 と試 行
一 国 語科 授 業 研 究 の目 的 と方 法
国 語 科 授 業 研 究 の目 的 と す る と こ ろ は 、 二 つあ る 。 一つは 、 授 業 方 法 の 改 善 と 授 業 者 の授 業 力 の向 上 であ り 、
いま 一つは 、 授 業 方 法 の創 造 的 開 発 と 授 業 原 理 の探 究 で あ る 。 目 的 と す る と こ ろ に よ って、 方 法 適 用 の 厳 密 性 に
差 異 は あ る が 、 方 法 類 型 と し て は、 ① 誌 学 的 方 法 、 ② 個 体 史 的 方 法 、 ③ 臨 床 的 実 験 的 方 法 の いず れ か が 用 いら れ る 。 実 際 の適 用 に 際 し て は 、 複 合 し て用 いら れ る こと が あ る 。
授 業 改 善 を 目 的 と す る授 業 研 究 は 、 日 々 の 国 語 教 室 に お い て、 授 業 の実 践 過 程 にお け る つま ず き や 目 標 達 成 に
至 ら な い実 践 結 果 に つ いて 、 原 因究 明 を し た り 、 改 善 策 を 討 究 し た り し て、 次 の授 業 実 践 に 生 か す も の で あ る 。 こ こ で 用 いら れ る方 法 に は 、誌 学 的 方 法 、 個 体 史 的 方 法 、臨 床 的 方 法 が あ る。
研 究 の方 法 は 、 研 究 の目 的 に も と づ いて 創 案 さ れ る。 授 業 の方 法 も 、 授 業 の目 的 ・目 標 に 拠 って 策 定 さ れ る。
授 業 方 法 の創 造 的 開 発 と 授 業 原 理 の探 究 を 目 指 す 授 業 研 究 に は 、 ① 誌 学 的 方 法 、② 個 体 史 的 方 法 、 ③ 臨 床 的 実 験
的 方 法 が 用 いら れ る 。 そ れ ら の 方 法 の適 用 に あ た っては 、 理 論 化 に堪 え う る適 用条 件 の厳 密 性 が 要 求 さ れ る 。
授 業 方 法 の創 造 的 開 発 が 求 め ら れ ると いう こと は 、 時 代 や社 会 が 教 育 に 期 待 し て い る新 し い能 力 ・資 質 の育 成
が 教 育 課 題 と し て 提 起 さ れ て いる と いう こと で あ る 。 こ の 課 題 を 達 成 す る た め に は 、 期 待 さ れ る 能 力 ・資 質 を 、
いわ ゆ る 学 力 の レ ベ ルに 具 体 化 し て、 そ の発 達 、 形 成 の過 程 を 明 ら か に す ると と も に、 そ の促 進 の方 法 が 開 発 さ
れ な け れ ば な ら な い。 す な わ ち 、 授 業 方 法 の創 造 的 開 発 で あ る 。 方 法 は 、 目 的 ・目 標 にも と づ いて 要 求 さ れ 、 活
用 さ れ る も の であ る か ら 、方 法 の開 発 は 、 学 力 の構 造 、 形 成 過 程 の解 明 と 連 動 的 に行 わ れ る こと が 、 必 要 な 条 件 にな る 。
以 下 、 授 業 研 究 の目 的 と 方 法 類 型 と を 相 互 に 関 係 づ け な が ら 、 成 果 の代 表 例 に つ いて 説 述 す る と と も に 、 方 法 類 型 の 一つを 取 り 上 げ て 、 筆 者 の試 み を 述 べ る 。
二 誌学 的 方 法 によ る 授 業 研 究
誌 学 的 方 法 に よ る 授 業 研 究 は 、 垣 内 松 三 氏 の ﹁国 語 教 育 誌 学 ﹂ (一九 三 四 ) に よ って体 系 化 さ れ た 方 法 で あ る。
垣 内 氏 は 、 国 語 教 育 誌 学 は 、 国 語 教 育 理 論 の構 築 、 国 語 教 育 科 学 の基 礎 工 作 と し て重 要 な 位 置 を 占 め 、 そ の 中 核 を な す も のは 、 ﹁国 語 教 育 の事 実 を 把 握 す る こ と ﹂ であ る と さ れ る 。
垣 内 氏 は 、 西 尾 実 氏自 身 に よ る詩 の授 業 記 録 、 芦 田 恵 之 助 氏 の授 業 を 青 山 広 志 氏 が 記 録 し た 授 業 記 録 に も と づ いて 、 授 業 事 象 の記 録 の 仕 方 に つ い て検 討 し て い る。 整 理 し て 示 す 。
1 記 録 の主 体 (1) 授業者自 身
(2 ) 傍観 者 ( 参 観 者 ) で 、単 数 あ る いは 複 数 の同 一研 究 圏 の人 2 記 録 の方 法
(1) 授 業 者 自 身 に よ る 記 録= 授 業 後 に お け る内 部 主 観 的 観 照 に よ る 反 省 的 判 断 の記 録
(2) 傍 観 者 に よ る 記 録= 主 観 的 ・客 観 的 観 察 、 教 育 的 測 定 、 児 童 の 反 応 、 解 釈 の記 録
( 教 室 の姿 )、 ② 事 象 論 理 ( 授 業 の筋 )、 ③ 事 象 連 関 ( 陶 冶 の力 ) の三 点 を あ げ て いる 。 これ は 、 授 業 事 象
垣 内 氏 は 、 こ のよ う な 方 法 で 記 録 し た デ ー タ にも と づ いて 、 授 業 事 象 の内 部 構 造 を と ら え る 観 点 と し て、 ① 事 象 状態
の内 部 構 造 を と ら え る観 点 であ る と と も に 、 授 業 機 能 の本 質 的 な あ り 方 を 示 し た も の であ る 。事 象 状 態 は 、 観 察
や 測定 によ って 教 室 事 象 を 対 象 化 で き る よう に す る こ と であ る 。事 象 論 理 は 、 教 室 事 象 が 、 授 業 の目 標 に 向 か っ
て 、問 .答 に よ って展 開 さ れ る筋 道 、関 係 性 を と らえ る こと で あ る 。事 象 連 関 は 、授 業 者 の授 業 力 ( 教育的堪 能)
に よ って、 事 象 論 理 を 目 標 に 向 か って進 展 さ せ る 作 用 で あ り 、 児 童 の変 容 を 促 す ﹁陶冶 の力 ﹂ で あ ると さ れ て い る。
こ のよ う な 授 業 の見 方 、 考 え 方 に は 、 今 日 の授 業 実 践 記 録 にも と づ く 授 業 研 究 のあ り 方 に深 く 示 唆 す るも のが
あ る。 授 業 実 践 の軌 跡 を 記 録 し 、 そ れ に も と づ い て授 業 を 評 価 し 、改 善 を 図 る と いう 授 業 研 究 は 、 現 在 、 学 校 教
育 の現 場 でも っと も 多 く 用 いら れ て いる 方 法 であ る 。 授 業 改 善 を 目指 す 誌 学 的 方 法 に よ る 授 業 研 究 にと って 、 分
析 、 評 価 の手 順 ・方 法 の適 切 、 妥 当 な 適 用 の重 要 性 は いう ま でも な いが 、 分 析 、 評 価 の対 象 と な る 授 業 事 象 再 生 のた め のデ ー タ採 取 、 記 録 のあ り 方 は 、 さ ら に重 い意 味 を も つ。
事 業 事 象 の記 録 の視 点 と 基 本 的方 法 に つ い ては 、 す で に垣 内 松 三 氏 に よ って提 示 さ れ て いる 。 ① 事 象 状 態 、②
事 象 論 理 、 ③ 事 象 連 関 の三 視 点 に よ る見 方 は 、 今 日 では 、 ① 目 標 、 ② 教 材 、 ③ 方 法 、 ④ 評 価 と いう 四 視 点 で 授 業 の 実 践 構 造 を と ら え る よ う に な って いる 。
授 業 研 究 は 、 計 画︱ 実 施︱ 評 価 のサ イ ク ル で行 わ れ る 。 授 業 計 画 は 、 こ の 実 践 構 造 を 視 点 と し て 策 定 さ れ る 。
単 元設定 の理由=①学 習者観、② 教材観 、③ 方法観
単 元名
一般 的 な 計 画 案 の柱 は 、 次 の よ う に立 て ら れ る。
1
準など で策定)
授 業 記 録 は 、 こ の よう な 計 画
い てな さ れ る 場 合 と 、 本 時 分 に つ い てな さ れ る 場 合 と が あ る 。
( 学 習 指 導 案 ) に従 って実 施 さ れ た 授 業 に も と づ い て作 成 さ れ る 。 単 元 全 体 に つ
導 入 ・展 開 ・ま と め ・発 展 の分 節 毎 に 、 ね ら い ・時 間 配 分 ・支 援 上 の留 意 点 と 過 程 的 評 価 の観 点 と 基
本 時 の授 業 計 画= ① 本 時 授 業 の考 え 方 、 ② 本 時 の 目 標 (到 達 目 標 )、 ③ 本 時 の 展 開 計 画 ( 学 習活動 の
単 元評価計 画 ( 評 価 の観 点 と 規 準 )
単 元 展 開計 画 (1次 、 2次 、 3次 な ど の学 習 活 動 と 時 間 配 当 )
単 元 目 標= ① 内 容 価 値 的 目 標 、② 能 力 的 目 標 、 ③ 態 度 的 目 標
3 2 4 6 5
記 録 作 成 に際 し て十 分 に 留 意 さ れ な け れば な ら な い のは 、 目 標 に 対 応 す る 学 習 者 の 学 習 反 応 の採 取 と 記 録 であ
る。 ま た 、 授 業 者 自 身 の授 業 の自 己 評 価 に つ い ても そ の基 準 、 根 拠 と な る 学 習 者 の反 応 デ ー タ を 明 確 に 記 録 し て お く こ と が 要 求 さ れ る。
授 業 にお け る 評 価 は 、 授 業 過 程 に お け る学 習 者 の診 断 、 評 定 を 通 し て 、 授 業 者 自 身 の授 業 のあ り よう を 反 省 的
に自 己 評 価 し 、 学 習 者 への処 遇 の仕 方 を も 含 め て次 の授 業 活 動 に 、 改 善 的 に 生 か す こ と を 目的 に 行 わ れ る も の で あ る 。 こ れ は 、 垣 内 氏 の ﹁内 部 主 観 的 観 照﹂ に よ る授 業 の自 己 評 価 に近 い。
授 業 改 善 を 目 指 し た 授 業 研 究 の方 法 と し て 誌 学 的 方 法 を 採 用 す る場 合 は 、 そ の 目 的 に堪 え う る 授 業 の実 践 デ ー
タ を 収 集 、 整 理 し 、 実 践 構 造 の 把 握 可 能 な 、 各 観 点 か ら の授 業 の全 体 像 を ま と め て お く 必 要 が あ る。 授 業 者 ・学
習 者 そ れ ぞ れ に つ いて 、 授 業 者 の内 部 主 観 的 な 観 照 記 録 、 参 観 者 の客 観 的 な 観 察 記 録 、 授 業 過 程 の 記 録 、 授 業 終
結 後 の記 録 、 学 習 者 の学 習 活 動 記 録 、 テ ス ト 結 果 な ど の授 業 の実 践 デ ー タ を 収 集 、 整 理 す る に は 、 一定 の時 間 が 必 要 であ る 。 授 業 研 究 は 、 記 録 を 整 備 し た 上 で行 う こと にな る 。
誌 学 的 な 方 法 は 、臨 床 的 な 方 法 を 併 用 す る こ と が 多 い。研 究 対 象 と な る 授 業 を 参 観 し 、そ の観 察 記 録 を も と に、
研 究 討 議 に 参 加 す る際 に 主 た る 検 討 の対 象 と さ れ る のは 、 実 践 構 造 を 透 視 す る こ と の可 能 な 実 践 デ ー タ が 整 え ら
れ た 授 業 記 録 であ る 。 授 業 が時 間 的 な 展 開 過 程 と し て成 立 す る も の で あ る だ け に 、 現 場 性 、 臨 床 性 を 無 視 す る わ
け には いか な い。誌 学 的 な 方 法 に よ る授 業 研 究 に お い て欠 け て い る の は 、 こ の現 場 性 、臨 床 性 で あ る 。今 日 で は、
そ れ を 補 う た め に 、 テー プ ・レ コ ー ダ ー や V T R な ど の機 器 に よ って 記 録 さ れ た 音 声 ・映 像 デ ー タ が 必 要 に応 じ て再 生 、活 用 さ れ る よ う に な って いる 。
三 個体史的方法 による授業研究
( 国語 教育実 践
﹁国 語 教 育 個 体 史 研 究 ﹂ は 、 野 地 潤 家 博 士 に よ って創 説 、 確 立 さ れ た 学 説 であ る 。 原 理 論 は 、 ﹃ 国 語 教 育︱ 個 体
史 研 究︱ ﹄ (一九 五 六 光 風 館 ) に お い て 、 体 系 的 に説 述 さ れ て い る 。 そ のも と に な った 実 践 史
の 記 録 ) は 、 ﹃国 語 教 育 個 体 史 研 究 ﹄ (全 三 巻 一九 五 四 白 鳥 社 ) に記 述 さ れ て い る 。 一九 七 八 年 に は 、 ﹃ 国語
教育 実習個体 史﹄ ( 渓 水 社 )が 出 版 さ れ 、 二 〇 〇 二年 七 月 に は、 ﹃昭 和前 期 中 学 校 国 語 学 習 個 体 史 ﹄が 刊 行 さ れ た 。
な お 、最 後 のも のを 除 いて 、前 三著 は 、 ﹃野 地 潤 家 国 語 教 育 著 作 選 集 ﹄ ( 全 一 一巻 別 巻 二 巻 一九 九 八 明 治 図 書 ) に 収 め ら れ て い る。
野 地 博 士 は 、 国 語 教 育 個 体 史 は 、 一国 の国 語 教 育 の事 実 の史 的 記 述 で あ る 一般 国 語 教 育 史 の特 殊 具 現 態 で あ る
と 見 る こ と が でき る と さ れ 、 さ ら に ﹁ 実 践 主 体 が自 己 の実 践 を 通 じ て 描 く 国 語 教 育 個 体 史 は、 そ れ が 誠 実 な 個 体
史 であ れ ば あ るだ け 、 一般 国語 教 育 史 と 無 縁 で は あ り え な い。 いな 、 そ れ は あ ざ や か に 一般 国 語 教 育 史 の生 命 態
を 実 証 す るも の であ る 。﹂ (﹃国 語 教 育︱ 個 体 史 研 究︱ ﹄ 二 五 頁 ) と 述 べ て 、 両 者 の深 い関 係 性 と 国 語 教 育 個 体 史
のも つ重 い意 義 を 説 い て お ら れ る。 こ の国 語 教 育 史 の記 述 のあ り 方 に つ いて は 、 次 のよ う に説 述 さ れ る 。
国 語 教 育 の実 践 主 体 の向 上 が言 語 主 体 と し て の向 上 にあ り 、 そ の具 体 的 方 法 は 、 自 覚 ・把 握 の深 化 集 積 に
あ った よ う に、 国 語 教 育 に お い ても そ の実 践 主 体 によ る 実 践 営 為 の展 開 過 程 が 把 握 さ れ 、 そ れ が 集 積 さ れ て
いな く ては な ら な い。こ れ は 実 践 記 録 の単 な る 断 片 的 集 積 で は な く 、全 体 的 統 合 的 集 積 でな く て は な ら な い。
いま 、 実 践 主 体 に よ る 国 語 教 育 実 践 の営 為 に 関 す る記 録 の全 体 的 統 合 的 集 積 を 、 国 語 教 育 史 と 呼 ぶ と 、 国 語
教 育 の展 開 は ま ず 実 践 主 体 に よ る 国 語 教 育 史 と し て把 握 さ れ 、 記 述 さ れ る 。 こ の個 体 史 的 作 業 が 国 語 教 育 の
基 本 作 業 と し て 定 位 さ れ て、 は じ め て実 践 営 為 の展 開 過 程 ・創 造 過 程 は 統 一的 に定 着 せ し め ら れ 、表 現 さ れ
る。 個 体 史 的 表 現 定 着 を え て、 実 践 営 為 は 国 語 教 育 の事 実 と し てそ の全 一相 を 示 す こと に な る (同 上 書 一 九 ∼ 二〇 頁 )。
こ こ には 、 一般 国 語 教 育 史 の基 礎 工 作 と し て の国 語 教 育 個 体 史 の記 述 に と ど ま ら な い、 国 語 教 育 の向 上 、 発 展
の た め の基 本 作 業 と し て の意 味 が 説 き 明 か さ れ てお り 、 そ れ はま た 、 国 語 科 授 業 研 究 のあ り 方 へ の深 く 切 実 な 啓 示 と な って いる 。
博 士 は 、 国語 教 育 個 体 史 の内 容 と し て、 ① 成 長 史 、 ② 実 践 史 、 ③ 生 活 史 の 三 部 門 を あ げ 、 そ の主 軸 を な す も の
は 、 実 践 史 で あ る と さ れ て い る。 ま た 、 国 語 教 育 の実 践 構 造 を 、 ① 目 的 、 ② 目 標 、 ③ 内 容 、 ④ 方 法 、 ⑤ 成 果 ( 評
価 ) と 見 る立 場 に 立 って 、 実 践 営 為 の記 述 単 位 構 成 の視 点 を 以 下 のよ う に 示 し てお ら れ る 。
①教材 の提示 ②教材 研究 の採 録
③学 習者 のノート、各種 記録 の採 録 ④実 践経過概要 の記述 ⑤自 己 の反省 、自己批 判 ⑥参 考資料 の提 示 ⑦ 関連事項 の補記
野 地 博 士 の国 語 教 育 個 体 史 の 学 説 は 、 学 界 にお い て定 説 化 さ れ ると と も に、 実 践 界 に も 浸 透 し て 、 自 己 の実 践
史 の記 述 に努 め る実 践 者 が 増 加 し てき て いる 。 次 に 紹 介 す る 野 宗 睦 夫 氏 は 、 と り わ け 熱 心 か つ誠 実 に野 地 学 説 を 実 践 し て お ら れ る人 で あ る。
野宗 氏は、す でに、 ﹃ 高 校 国 語 教 育 ∼ 実 践 報 告 ∼ ﹄ (一九 六 四 ひ ろ け い)、 ﹃ 高 校 国 語 教 育 の実 践 課 題﹄ (一九
八 六 渓 水 社 ) の 二著 に 、 広 島 県 内 の公 立 高 校 に お け る 三 十 数 年 間 に わ た る 自 己 の 実 践 史 を 記 述 し て お ら れ る 。
野 宗 氏 は 、 後 者 に お い て、 個 体 史 的 方 法 で授 業 記 録 の分 析 、 考 察 を 行 い、 授 業 方 法 の改 善 を 図 る と と も に 、 理 論 化 体 系 化 を 図 って お ら れ る。
個 体 史 的 方 法 に よ る 授 業 研 究 の特 色 は 、 あ る年 数 に わ た る 実 践 記 録 の集 積 に も と づ い て、 授 業 方 法 の 改 善 や創
造 的 開 発 を 図 ると こ ろ にあ る 。 野 宗 氏 は 、 カ ー ド を 用 いて 、 教 材 研 究 を し た り 授 業 案 を 立 て た り し て 、 授 業 準 備
を し 、 実 践 経 過 は カ ー ド に よ って 記 録 す る と と も に 、 蓄 積 し て いる 。 野 宗 氏 に は 、 こ の カ ー ド にも と づ い た 、
﹁学 習 意 欲 を 高 め る た め に ﹂、 ﹁学 習 意 欲 を 高 め る学 習 指 導 過 程 ﹂、 ﹁グ ル ー プ 学 習 の方 法 ﹂ な ど と い った 授 業 方 法
の基 軸 に な るも の に焦 点 化 し た 研 究 事 例 が多 く あ る 。 具 体 例 と し て、 ﹁学 習 意 欲 を た か め る た め に ∼ 国 語 科 の場
(一九 七 五 )← 一年 生 現 代 国 語= 論 説 文 の 研 究 、 二年 生 現 代 国語= 俳 句
合 ∼ ﹂ に つ い て紹 介 す る 。 こ れ は 、 次 に 掲 げ る 三年 間 の実 践 記 録 にも と づ い て分 析 、 検 討 さ れ て いる 。 昭 和 五十 年
昭 和 五 一年 (一九 七 六 )← 一年 生 古 典 乙Ⅰ= 芦 刈 、 二年 生 現 代 国 語= こ こ ろ 、 現 代 国 語 の年 間実 践 記 録 昭 和 五 二 年 (一九 七 七 )← 二年 生 現 代 国 語= 論 説 文 明 ら か に さ れ た の は 、 以 下 の こ と であ る 。
1 わ か る 授 業 を め ざ す (1) 七 六 年 度 の 一年 生 の古 典 乙Ⅰ の学 習 者 の反 応 に も と づ い て考 察 。
(2 ) 教 材 ・単 元 の ね ら いを は じ め に示 し 、 学 習 者 が 自 分 で体 を 動 か し 、 考 え る 授 業 を 組 織 す る。
すぐ れた教材 を選 ぶ
(3 ) 教 材 研 究 の段 階 で、 学 習 者 の立 場 で 学 習 者 が 分 か って いく 筋 道 を 研 究 し て お く 。 2
(1) 七 六 年 度 二年 生 の ﹁こ こ ろ﹂ の学 習 者 の反 応 に も と づ い て考 察 。
(2 ) す ぐ れ た 作 品 は 、学 習 者 の心 の 中 に 分 け 入 り 、意 欲 を喚 起 す る力 を 持 つ。自 分 の内 面 を 見 つめ さ せ 、 状 況に目を 開く教材を 選ぶ。 3 学 力 を 低 く 考 え な い (1) 七 六 年 度 二年 生 現 代 国 語 の年 間 実 践 記 録 にも と づ く 考 察 。
(2) 学 習 者 の学 力 を 低 く 見 が ち であ る こ と を 改 め 、 思 い切 って 難 し いと 思 わ れ る 課 題 に ぶ つか ら せ る こ と が 、 か え って 学 習 意 欲 を 喚 起 す る こと に な る 。
(3 ) 学 習 者 が 、主 体 的 に課 題を 選 択 し て 取 り 組 みを 進 め る こ と が でき る グ ル ープ 学 習 、発 表 学 習 を 組 織 、 展開す る。 4 学 習 の過 程 を 大 事 にす る
(1) 七 五 年 度 一年 生 ﹁論 説 文 の研 究 ﹂、 七 六 年 度 ﹁俳 句 ﹂ の 実 践 記 録 に も と づ いて 考 察 。
(2) 学 習 作 業 の過 程 を 明 示 し て 、 学 習 者 が 自 力 で 学 習 を 進 め る こと と 、 思 考 の 過 程 が明 確 に自 覚 で き る よう にする。
(3) 学 習 作 業 の手 順 ・方 法 を プ リ ン ト ( 学 習 の手 引 き ) で 提 示 し 、 学 習 活 動 過 程 の把 握 と 自 力 学 習 と を 援助 する。 5 自 主 的 自 発 的 な 学 習 へ の手 だ てを く ふ う す る (1) 七 七 年 度 二年 生 の ﹁論 説 文 ﹂ の実 践 記 録 にも と づ く 考 察 。
(2) 教 材 の読 解 課 題 と 学 習 の進 め方 を プ リ ン ト ( 手 引 き ) で提 示 し 、 主 体 的 な 取 り 組 み を 保 障 す る 。 (3) グ ルー プ 学 習 が 、 実 質 的 に機 能 す る た め のく ふう を す る。 ① 集 団 と し て の意 志 を も って 活 動 でき る よ う な 基 礎 訓 練 を す る 。 ② グ ル ー プ 編 成 の適 正 規 模 は 四 名 であ る 。
③ 責 任 を も って 取 り 組 む こ と が でき る 課 題 を 設 定 し 、 選 択 的 分 担 を さ せ る。
反 復 し て 実 践 さ れ 、 継 続 的 に 蓄 積 さ れ た 実 践 記 録 の分 析 、 検 討 に も と づ い て導 き 出 さ れ た 見 解 であ る か ら 、 そ
の内 実 の価 値 は 重 い。 野 宗 氏 に は 、 こ の ほ か に 、 ﹁読 む こと と 書 く こ と の 関 連 指 導 ﹂、 ﹁小 説 教 材 の指 導 ﹂、 ﹁カ ー
ド 法 に よ る 教 材 研 究 の方 法 ﹂ な ど の授 業 方 法 の改 善 や開 発 を 目 指 し た 研 究 の報 告 が あ る 。 野 宗 氏 は 、 さ ら に 三 十
数 年 にわ た る 実 践 記 録 の集 積 と 分 析 、 考 察 に も と づ い て 、独 自 の高 校 国 語 科 の実 践 体 系 を 提 案 し て お ら れ る 。
[ 学 年 の基 本 的 視 点 ] 一年= さま ざ ま な 生 き 方 や 生 活 に つい て 考 え る 。 二年= 自 分 と自 分 を と り ま く 状 況 と のか か わ り を つか む 。 三年= 過 去 を 継 承 し 、 未 来 を 創 造 す る力 を 養 う 。
こ の視 点 にも と づ いて 、 実 践 体 系 が 次 の よ う に ま と め ら れ て いる 。
[学 年 の基 本 視 点 ( 全 学 年 )] に し た が って 教 材 が 選 択 さ れ 、 単 元 が 構 成 さ れ る 。 そ の教 材 を 通 し て習 得 さ
せ る 能 力 の 二 つ の柱 が 、 想 像 力 と 論 理 的 思 考 力 で あ る 。 こ の 二 つ の能 力 の 習 得 は 、 将 来 の国 語 生 活 へ つな が
る 、 ね ば り 強 く 思 考 す る態 度 と 情 報 生 活 を 営 む 能 力 を 養 う こと に な る。 こ の こと は 、 総 括 的 に 言 え ば 、 言 語 生 活 の展 望 を 持 つ力 の育 成 を 目指 す と いう こと に な る 。
三十 数 年 にわ た る 実 践 的 研 究 の成 果 を ふ ま え て創 案 さ れ た も の で あ る か ら 、 国 語 科 の実 践 体 系 と し て 、 簡 明 で
は あ る が 、 説 得 力 のあ る提 案 にな って い る。 学 年 の基 本 的 視 点 に つ い て は 、 小 ・中 学 校 では 児 童 ・生 徒 の発 達 段
階 に よ って異 な る であ ろう が 、 発 達 段 階 に応 じ た 系 統 化 の筋 道 の立 て方 と し て、 特 に 、 中 学 校 に お い ては 参 考 に な る。
野 宗 氏 の実 践 個 体 史 の記 述 と 個 体 史 的 方 法 に よ る 授 業 研 究 は 、 高 校 の場 合 であ る が 、 こ の方 法 は 、 小 ・中 学 校
にお いて も 十 分 適 用 でき る も のと 考 え る。 特 に 、 授 業 研 究 の方 法 と し て活 用 す る こ と で 、 国 語 教 育 実 践者 と し て
の自 己成 長 と 授 業 力 の向 上 と に資 す る 意 義 は大 き い。 こ の方 法 に よ る 授 業 研 究 は 、授 業 方 法 の創 造 的 開 発 、 国 語
教 育 理 論 の構 築 、 一般 国 語 教 育 史 記 述 の基 礎 工 作 と し て の意 義 を も って お り 、 国 語 教 育 学 の、 実 践 学 と し て の 本 質 を 考 え 合 わ せ る と 、 個 体 史 的 方 法 に よ る授 業 研 究 の意 義 は 、 さ ら に深 く な る。
四 臨 床 的 実 験 方 法 に よ る 授 業 研究
授 業 改 善 を 目指 し た 授 業 研 究 に お い て、 誌 学 的 方 法 と 併 用 さ れ る こと が多 い の が 、 臨 床 的 方 法 であ る 。 垣 内 松
三氏 も ﹁国 語 教 育 誌 学 ﹂ のな か で 、 ﹁臨 室 的 ﹂ と いう 言 葉 を 用 い て お ら れ る が 、 こ こ で使 用 す る ﹁臨 床 ﹂ は 、 医
学 用 語 に 由 来 す る 。 診 断 ・治 療 と いう ニ ュ ア ン スが 含 ま れ て いる 。 校 内 、 校 外 の さ ま ざ ま な レ ベ ル の 授 業 研 究 会
に お い て 、 必 ず と い って も よ いほ ど に 用 いら れ る方 法 であ る 。 近 年 は 、 録 音 ・録 画 の 機 器 が進 歩 し て いる の で 、
授 業 者 の授 業 行 動 、 学 習者 の学 習 反 応 行 為 を 多 面 的 に と ら え 、 必 要 に応 じ て再 生 し て、 研 究 協 議 に活 用 さ れ て い
る 。 授 業 中 に 学 習 者 が 使 用 し た 学 習 の 手 引 き や プ リ ント 類 、 学 習 ノ ー ト の コピ ー 、 分 担 し て手 書 き で 記 録 さ れ 、
手 早 く 印 刷 さ れ た 授 業 記 録 な ど が 配 布 さ れ 、 参 観 者 の観 察 メ モ にも と づ い て討 議 が 進 め ら れ る の が 一般 で あ る 。
授 業 方 法 の開 発 を 目 指 し た臨 床 的 実 験 方 法 に よ る 授 業 研究 は 、 普 通 に は 次 のよ う な 方 法 ・手 順 が と ら れ る 。 授
業 改 善 の た め の臨 床 的 実 践 的 授 業 研 究 で も 、 基 本 的 に は 、 そ の手 順 は 同 じ であ る 。
① 解決す べき課題 の発 見と設定 ↑
② 課題解決 に資す る先 行研究 の探索と仮 説 の樹立 ↑
③検 証 のた め の実験授業 の設計 ↑
④ 実験授業 の実施 ↑
⑤ 検 証 のた め のデ ー タ の採 取 ・整 理 ↑
⑥ 分 析 、考 察 ・検 証 ↑
⑦ 結論 と課題
文 学 教 材 の読 み の個 性 化 を 目 指 す 方 法 の 開 発 に関 す る 臨 床 的 実 験 的 研 究 。
こ こ では 、 筆 者 の試 み た 授 業 方 法 開 発 の た め の授 業 研 究 の事 例 を 報 告 す る こ と と す る 。 ︿1﹀ 研 究 題 目︱ ︿2 ﹀ 研 究 課 題
文 学 教 材 の読 み の力 育 成 の究 極 的 目 標 は 、 個 性 化 さ れ た 読 み の でき る力 であ る 。 そ のた め の授 業 方 法 の開 発 に
は 、 学 習者 一人 ひと り の読 み の傾 向 性 を 明 ら か に し 、 そ の傾 向 性 のも つ特 長 と 問 題 点 と に適 切 に対 応 し 、 個 性 化 を促進す る授業方法 を開発す る。
小 学 校 五 年 生 を 対 象 と し て 、 一般 に 行 わ れ て いる 読 み の授 業 過 程 ( 通 し読 みと読 み深め の二段階)
︿3﹀ 研 究 の仮 説 と 検 証 の方 法 ① 仮 説︱
に お け る 、 一人 ひ と り の読 み の反 応 を 採 取 し 、 そ こ に発 現 し て いる 読 み の構 え と 読 みと り ・読 み 深 め の反 応 を 類
型 化 す る こと で 、 読 み の 傾向 性 を 把 握 す る こ と が でき る であ ろう 。 ま た 、 そ の傾 向 性 と 標 準 化 さ れ た 認 知 スタ イ
ル ・テ スト の結 果 と の対 応 性 を 検 定 す る こと に よ って 、 読 み の傾 向 性 を 客 観 化 でき る で あ ろう 。 こ の読 み の傾 向
の特 長 と 問 題点 と を 、 実 験 的 調 査 の結 果 にも と づ いて 明 ら か にす る こと に よ って、 そ れ ら に対 応 す る授 業 方 法 を 開発す ることが可能 になると考え られ る。 ② 検 証 の方 法
︻ 第 1次 調 査 ︼ 読 み の調 査 材 と し て ﹁す ず か け 通 り 三 丁 目 ﹂ ( あ ま ん き み こ) を 選 定 し 、 そ の物 語 を 構 成 し て
い る十 五 の エピ ソ ー ド ご と に 分 割 し て カ ー ド 化 し て 提 示 し て 、 カ ー ド ご と に 、 そ の部 分 の自 力 で の読 み と り と 次 への 予想 と を 記 入 さ せ 、 反 応 を 類 型 化 す る 。
︻第 2次 調 査 ︼ 第 1次 調 査 の結 果 を 生 か し て 、読 み 深 め のた め の キ ー 発 問 (十 一問 ) を 織 り 込 ん だ 発 問 計 画 を
立 て、 教 師 主 導 に よ る 問 答 法 で 授 業 を 進 め 、 キ ー発 問 ご と に 、 そ の理 解 結 果 を 各 自 で記 録 さ せ る。 そ の際 、 教 師
は 、 キ ー発 問 ご と の 問 答 に よ る 授 業 の終 末 時 に あ え てま と め を せ ず に 、自 力 でま と め た こ と を 記 録 さ せ る よ う に す る 。 第 1次 と 同 様 に 反 応 を 類 型 化 す る 。
︻第 3次 調 査 ︼ ﹁通 し読 み﹂・﹁読 み 深 め ﹂ の そ れ ぞ れ の類 型 化 さ れ た 結 果 と ﹁熟 慮︱ 衝 動 ﹂ 型 、 ﹁分 析︱ 関 連 ﹂ 型 の認 知 ス タ イ ル ・テ スト の結 果 と の相 関度 調 査 を 行 う 。
︻ 授業 方法 の開発︼ 上 述 の第 1次 ∼ 第 3 次 の調 査 結 果 にも と づ い て 、 学 習 者 の読 み の傾 向 性 に対 応 す る 授 業 方
法 を 開 発 す る 。 そ の方 法 は 、 いわ ゆ る適 性 処 遇 の考 え 方 にも と づ いた も のと な る こ と が 想 定 さ れ る が 、 個 別 処 遇
に と ど ま ら な い集 団 過 程 の教 育 的 働 き を 生 か し た 方 法 に よ る個 性 化 の促 進 の手 だ てを 考 案 す る こと が課 題 と な ろ う。
結 果 の分 析 と 考 察
な お 、 本 研究 は 、 一九 九 一年 福 岡 教 育 大 学 附 属 福 岡 小 学 校 に お い て実 施 し た も の で あ る 。 ︿4﹀ 検 証︱
次 の 三種 型 の 発 現 が 認 め ら れ た 。
本 稿 の性 格 上 、 詳 細 な デ ー タ の引 用 と 分 析 は 省 略 す る 。 ① ﹁通 し 読 み ﹂ の過 程 に お け る読 み の傾 向 性︱
ア 対 象 化 型= 読 み 手 が 、 作 品 の内 容 を 、 文 章 の叙 述 の論 理 に 即 し て読 み と り 、 客 観 的 に条 理を 通 し て 理 解 し ようとす る傾向。
イ 同 化 型= 読 み 手 が 、 作 品 の内 容 を 、 既 有 の知 識 、 経 験 な ど にも と づ く 理 解 の枠 組 み に引 き 寄 せ て理 解 し よ う と す る 傾向 。
ウ 事 象 型= 読 み 手 が 、 作 品 の内 容 を 形 づ く って い る事 象 に 心 を 向 け 、 そ れ を 理 解 し よ う と す る 傾 向 。
十 五 分 節 に お け る 三 類 型 の発 現 傾 向 は 、 全 般 的 に対 象 化 型 の反 応 が 多 い。 特 に、 過 程 の前 半 に は 、 対 象 化 型 が
優 位 に 現 れ る 傾 向 を 示 す 。 そ れ に 対 し て後 半 は 、 同化 型 が 増 加 し て いく と いう 反 応 が 現 れ て いる 。 事 象 型 は 、 ほ ぼ 一定 の割 合 で出 現 す る 。
傾 向 性 の三 類 型 のう ち 、 ア ・イ が 読 み の傾 向 性 の基 本 形 で あ る と 考 え ら れ る 。 そ れ に対 し て、 ウ は 、 傾 向 性 の
類 型 であ る と と も に 、 ア ・イ への分 化 、 発 達 す る 個 性 的 な も のが 、 や や 未 分 化 な 状 態 にと ど ま って いる タイ プ と いう 性 格 を も って いる 。
前 半 に 対 象 化 型 、 後 半 に 同 化 型 が 発 現 す る と いう 傾 向 は 、 前 半 で 、 そ れ ま で の理 解 の枠 組 みを 組 み替 え 、 理 解
を 進 め て いく 過 程 で枠 組 み の操 作 に 習 熟 し て いき 、 後 半 に な ると 、 同 化 的 に 反 応 す る よ う にな った と いう 見 方 が 可 能 で あ る。 ② ﹁読 み 深 め ﹂ の過 程 に お け る読 み の傾 向 性
ア 十 一の キ ー 発 問 に つ い て 調 べた 結 果 、 ﹁通 し 読 み ﹂ の場 合 と 同 じ く 、 対 象 化 型 ・同 化 型 ・事 象 型 の三 類 型 の発 現 が 認 め ら れ た 。
イ 被 験 者 一人 ひと り の反 応 に お け る 三 類 型 発 現 の優 位 性 を 調 べ 、 対 象 化 型 優 位 、 同 化 型 優 位 、 事 象 型 優 位 、
三 類 型 の平 均 的 発 現 傾 向 を 示 す 中 間 型 の 四 パ タ ー ンを 得 た 。 全 体 的 発 現 の 傾 向 と し ては 、 対 象 化 型 優 位 と 中 間 型 と が 目 立 った 。
③ ﹁通 し 読 み﹂・﹁読 み深 め﹂ にお け る 読 み の 傾向 性 と 認知 ス タ イ ル と の相 関性 調 査
ア ﹁通 し 読 み ﹂ に お け る 読 み の傾 向 性 と 認 知 ス タ イ ル ﹁熟 慮︱ 衝 動 ﹂ 型 ( 注 1 ) と の相 関性 (ア) 対 象 化 型 と 熟 慮 型 と の間 に 相 関 性 があ る 。
( イ ) 同 化 型 と 衝 動 型 と の間 に相 関 性 があ る 。 (ウ) ﹁熟 慮︱ 衝 動 ﹂ 型 の 中 間 タイ プ と 同 化 型 と の間 に相 関 性 が 認 め ら れ る 。
( 注 記 。 熟 慮 型 の 反 応 と 衝 動 型 の反 応 と の中 間 的 な 反 応 数 値 を 示 す も のを 中 間 タ イ プ と す る 。 な お 、 有 意 度 に つ い ては 、有 意 検 定 を 行 って いる 。)
イ ﹁ 読 み 深 め ﹂ に お け る読 み の傾 向 性 と 認 知 スタ イ ル ﹁分 析︱ 関 連 ﹂ 型 ( 注 2) と の 相 関 性 (ア) 対象化 型と分析 型と の間に相関性 がある。
( イ) 関 連 型 は 、 対 象 化 ・同 化 ・事 象 の平 均 的 発 現 傾 向 を 示 す 中 間 型 と の 間 に 相 関 性 が 認 め ら れ る。
(ウ) ﹁分 析︱ 関連 ﹂ 型 の中 間 タ イ プ のも の は、 ど ち ら か と いう と 、 対 象 化 型 と の間 に 相 関 性 があ る 。
﹁通 し 読 み﹂・﹁読 み 深 め ﹂ の過 程 に 発 現 す る読 み の反 応 には 、 一定 の傾 向 性 が あ り 、 そ れ ら と 標 準 化 さ れ た 認
知 スタ イ ルと の間 に、 有 意 の関 連 性 が あ る こ と が 判 明 し た 。 こ の こと は 、 学 習 者 が 、 一斉 形 態 の読 み の 授 業 過 程
に お い て、 そ れ ぞ れ に個 性 的 に反 応 し て いる こ と を 表 し て い るも の で、 個 性 的 傾 向 性 を も つ学 習 者 を 一律 に 扱 う
こと の問 題 性 を 提 起 し て いる 。 特 に 、 読 み の 過 程 に お い て、 学 級 全 体 と し て では あ る が 、 対 象 化 型 ← 同 化 型 と い
う 変 容 が 生 起 す る 傾 向 性 が 認 め ら れ る と いう こ と は 、 注 目 に値 す る 。 学 習 者 一人 ひと り に そ の 傾 向 が 生 じ て い る と いう こと だ か ら であ る 。 ︿5﹀ 結 論 と 課 題
本 授 業 研 究 の課 題 と し た 、 読 み の 個 性 化 を 目 指 す 授 業 方 法 開 発 のた め の基 礎 デ ー タ の採 取 と 、 学 習 者 一人 ひ と
り お よ び 学 級 集 団 の読 み の 傾 向 性 の 類 型 的 把 握 は 達 成 で き た 。 す な わ ち 、 通 し 読 み過 程 に お け る 一人 ひ と り の読
み の過 程 にお いて も 、 集 団 を 対 象 と し た 一斉 形 態 の授 業 の場 合 でも 、 そ れ ぞ れ に 個 性 的 な 傾 向 性 が 存 在 す る こと
が 明 ら か と な った 。 し か し 同 時 に 、 学 習 者 の読 み の傾 向 に は 、 未 分 化 な も の ( 事象 型)も存在 し、そ の発達を促 す こと も 必 要 であ る こ と も 判 明 し た 。
本 研 究 の成 果 を 生 か し た 、 読 み の個 性 化 を 目 指 す 授 業 の仕 組 み と 方 法 を 以 下 に 示 す 。 (1) 授 業 過 程 を 、 基 本 過 程 と 展 開 過 程 と の 二 段 階 で構 成 す る 。
(2) 基 本 過 程 ・展 開 過 程 の両 過 程 に 、 個 別 活 動 過 程 と 集 団 活 動 過 程 と を 位 置 づ け 、 組 織 す る。
(3) 基 本 過 程 の個 別 活 動 過 程 に は 、 一人 ひ と り の 読 み の傾 向 に 起 因 す る 偏 り や つま ず き に 対 応 でき る 処 遇 を 、
﹁学 習 の手 引 き ﹂ に よ って行 う 。 ま た 、 集 団 活 動 過 程 で は 、 個 別 活 動 過 程 に お け る 一人 ひ と り の読 み の
成 果 を 生 か し た 交 流 活 動 を さ せ る。 交 流 を 通 し て、 集 団 過 程 にお け る 相 対 的 な 自 己 認 識 を 促 し 、 読 み の 個 性 化 の進 展 を 図 る 。
(4 ) 展 開 過 程 に お いて は 、基 本 過 程 と 、内 容 ・テ ー マの面 で関 連 性 ・発 展 性 のあ る 教 材 を 用 いる 。 でき れ ば 、
(テ ー マ)・教 材 ・学 習 の手 引 き と を セ ット に し て提
複 数 教 材 と す る 。 展 開 過 程 の個 別 過 程 で提 示 す る学 習 の手 引 き は 、 読 み の傾 向 性 の特 長 を 促 進 す る よう な 手 だ て を 盛 り 込 んだ も のと す る 。 そ の際 、 課 題
( 以 上 )
示 し 、 自 己 選 択 を さ せ る 。 集 団 活 動 過 程 で は 、 個 別 活 動 過 程 に お け る 一人 ひ と り の読 み の成 果 を 生 か し た 交 流 活 動 を さ せ る 。 そ の活 動 を 通 し て 、 読 み の個 性 化 の促 進 を 図 る 。 こ の授 業 構 想 は 、 さ ら に 具体 化 し て実 践 し 、 検 証 す る こと が 必 要 で あ る 。
( 注 1) 提 示 さ れ た 一つ の絵 と 全 く 同 じ 絵 を 、 そ れ に極 め てよ く 似 てお り な が ら 極 め て 小 さ な 差 異 を も つ五 つ
の絵 と 呈 示 絵 と 全 く 同 じ 一つ の絵 を 含 む 合 計 六 つ の比 較 絵 群 か ら選 択 さ せ るも の であ る 。 誤 答 率 、 反 応 時 間 と を 勘 案 し て判 定 す る 。
( 注 2) 三 つの異 な った 絵 を 並 列 、 呈 示 し 、 そ の 中 か ら 共 通点 を 発 見 し て 二 つを 選 定 す るも の であ る 。 選 定 の 理 由 も 併 せ て記 述 さ せ る 。
・井上 一郎 編 ﹃ 国語 科 の実 践構想 ∼授 業 研究 の方法 と 可能 性∼﹄ 東 洋館 出版 社 二 〇〇 一
引 用 ・参 考 文 献 ( 本 文 中 に出 典 を 明 示 し た も の は省 く ) ・大西 道雄 ﹃ 国 語科 授業 論叙 説﹄ 渓水 社 一九 九 四
・大 西道 雄 ﹁国 語科 授業 研 究 の方法 に関 す る 一考 察 (1)∼垣内 松 三 ﹃ 国 語教 育 誌学﹄ の場合 ∼﹂九 州 国語 教 育懇 話 会 ﹃ 国語 教育 研究 論叢 第 二号﹄ 一九 九 八 所 載 ・垣内 松 三 ﹁ 国 語教 育誌 学﹄ ﹃ 垣内 松 三著作 集 第 五巻﹄ 光 村 図書 一九七 九 所収 ・野宗 睦夫 ﹃ 高 校国 語科 教育 の実 践課 題﹄ 渓水 社 一九八 六 ・野地 潤家 ﹁ 国 語科 授業 論﹄ 共文 社 一九 七 六
常 に根 本 を 間 う
第 三章 国 語科 授 業 構 築 の原 理 と方 法
一 国語科 授業構築 の原理と方法
︵一︶ 国 語 科 教 育 の 目 標 観 の確 立 を︱
わ た く し た ち 国 語 科 教 師 は 、 と か く 、 目 の前 の教 材 に心 を 奪 わ れ て 、 そ の教 材 のど こを 、 ど のよ う に教 え る か
に汲 々と し がち で あ る が、 自 ら の国 語 科 教 育 の 目 標 観 を 確 立 し 、 常 に 、 そ の 目 標 に照 ら し て、 国語 科 の授 業 を 構 築 す る よ う に心 が け な け れ ば な ら な い。 国 語 科 教 育 の目 標 のと ら え 方 に は 、 基 本 的 に 、 対 立 す る 二 つの 立 場 が あ る 。
A. 国 語 科 教 育 の目 標= ① 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 言 語 能 力 を 育 てる 。 B. 国 語 科 教 育 の目 標= ① 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 言 語 能 力 を 育 て る。 ② も の ・こと に対 す る 認 識 の深 化 ・拡 充 を 図 る 。
時 枝 誠 記 は 、 戦 前 教 育 の反 省 に 立 って 、 国 語 科 教 育 は 、 教 材 の ﹁内 容 ﹂ に ﹁惚 れ さ せ る﹂ 教 育 を し て は な ら な
い、聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 言 語 能 力 を 育 て る こ と だ け を 目 標 と す べき であ る と す る 。 文 学 教 育 を 認 め る 立 場 を
と ら な い。 そ れ に 対 し て 、 西 尾 実 は 、 聞 く・ 話 す・ 読 む・ 書 く 言 語 能 力 を 育 て る こ と を 目 標 と す る 点 は 時 枝 と
同 じだ が 、 教 材 のも つ ﹁内 容 ﹂ を 学 ば せ る こ と を 通 し て 、 学 習 者 の認 識 の 深化 ・拡 充 を 図 る こ とも 目 標 と し て掲
げ る 。 文 学 を 読 む こ と を 通 し て 、 も の ・こ と に 対 す る 認 識 の深 化 ・拡 充 を 図 る 、 す な わ ち 、 も の の見 方 ・感 じ 方 ・考 え 方 を 豊 か に す る文 学 教 育 を 認 め る立 場 に 立 つ。
こ のよ う に 、 国 語 科 教 育 の目 標 論 に は 、 基 本 的 に 対 立 す る 二 つ の立 場 が あ る が 、 わ た く し (世 羅 ) は後 者 の立
場 を と る 。 す な わ ち 、 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 言 語 能 力 を 育 て る こ と と 、 も の ・こと に 対 す る 認 識 の深 化 ・拡 充 を 図 る こと と を 国 語 科 教 育 の目 標 と す る 立 場 で あ る 。
︵二︶ ﹁読 む こと ﹂ の 授 業 の類 型
国語 科 教 育 の目 標 のと ら え 方 の違 いは 、 国 語 科 授 業 の 基 本 的 な あ り 方 の違 いに も 関 係 し てく る 。 教 材 と 授 業 と
の 関係 に着 目 し て 、 ﹁読 む こと ﹂ の授 業 を 類 型 化 す る と 、 次 の三 類 型 に整 理 す る こ と が で き る であ ろう 。
A. 教 材 を 教 え る 授 業 B. 教 材 で教 え る 授 業 C. 教 材 を +で 教 え る授 業
A型 の ﹁教 材 を 教 え る授 業 ﹂ は 、 書 き 手 が ど ん な こと を 書 いて いる か、 教 材 の内 容 を 学 習 者 に 読 みと ら せ る こ
と を 第 一と す る 授 業 であ る 。 文 学 的 文 章 の読 み の指 導 に よ く 見 ら れ る 授 業 で 、 場 面 の様 子 や 登 場 人 物 の心 情 、 人
間 の生 き 方 な ど 、 教 材 の内 容 を 教 え る こと が 中 心 と な る 授 業 であ る 。 文 学 教 材 を 読 む 活 動 を 通 し て 、 文 章 を 読 解
す る能 力 を 育 て る こと を ね ら って いな い の で 、こ れ は 国 語 科 の授 業 では な い。内 容 主 義 と 批 判 さ れ る 授 業 で あ る。
B 型 の ﹁教 材 で 教 え る 授 業 ﹂ は 、 教 材 を 手 段 ( 媒 材 ) と し て 、 文 章 を 読 解 す る 能 力 を 育 て る こと を 第 一と す る
授 業 で あ る 。教 材 は 文 章 を 読 解 す る 能 力 を 育 てる た め の手 段 ( 媒 材 )と し て 利 用 さ れ る に過 ぎ な い。 し た が って 、
教 材 の内 容 を 読 み と り 、 そ れ に つ い て認 識 の深 化 ・拡 充 を 図 る 授 業 に は な って いか な い。 説 明 的 文 章 の読 み の指
導 に よ く 見 ら れ る 授 業 であ る。時 枝 誠 記 は 、 こ の B 型 を よ し と す る立 場 で あ る ( ← C 型 を よ し と す る立 場 の人 は 、 こ の B型 の授 業 を 、 技 能 主 義 、 言 語 操 作 主 義 と 言 って批 判 す る )。
C型 の ﹁教 材 を +で 教 え る授 業 ﹂ は 、 A 型 と B 型 と を 止 揚 し た 授 業 で あ る 。 学 習 者 が 教 材 の内 容 を 読 み と って
いく 過 程 で 、 文 章 を 読 解 す る能 力 を も 育 て る授 業 で あ る 。 こ の C型 の授 業 は 、 言 語 能 力 を 育 て る こと と 、 も の .
こ と に 対 す る 認 識 の 深 化 ・拡 充 を 図 る こと を 同 時 に 達 成 す る授 業 で あ る 。 西 尾 実 は 、 こ の C 型 を よ し と す る 立 場 であ る 。
わ た く し も 、 こ のC 型 の 授 業 を よ し と す る立 場 であ る 。 こ の C 型 の授 業 を 実 践 す る た め に は 、 学 習 者 が 教 材 の
内 容 を 読 ん で、 も の ・こと に 対 す る 認 識 の深 化 ・拡 充 を 図 って いく 過 程 に 、 文 章 を 読 解 す る能 力 を 育 て る ︽必 然 の場 ︾ を ど の よう に つく る か が 、 実 践 上 の大 き な 課 題 と な る 。
︵三︶ 国 語 科 単 元 学 習 の基 本 的 な 構 造
現在 、 多 く の知 識 を 教 え 込 む 教 育 か ら 、学 習 者 が 自 ら 課 題 を 発 見 し 、主 体 的 に課 題 を 解 決 し て いく 教 育 へと 発
想 を 転 換 す る こ と が 強 く 求 め ら れ て い る。 こ の実 践 課 題 を 国 語 科 教 育 に お い て解 決 す る た め に は 、 国 語 科 単 元 学 習 法 を 導 入 す る し か な いと 、 わ たく し は 考 え て い る。
国 語 科 単 元学 習 は 、 学 習 者 の 興味 ・関 心 や 問 題 意 識 を ふま え た 学 習 課 題 を 設 定 し 、 そ の学 習 課 題 の解 決 を 目 指
し て 、 学 習 者 が 主 体 的 に 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 学 習 活 動 (=言語 活 動 ) を 展 開 し て いく 過 程 で、 学 習 者 の認 識
を 深 化 ・拡 充 さ せ て いく だ け で な く 、 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 言 語 能 力 、 お よ び 自 己 学 習 力 を 総 合 的 に身 に つけ
さ せ て いく 、 と いう 授 業 構 造 を 基 本 的 に も って いる 。 こ の場 合 、 学 習 者 の 目標 は 、 そ の学 習 課 題 の解 決 を 図 る こ
と にあ り 、 指 導 者 の目 標 は 、 学 習 者 が 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 学 習 活 動 (=言 語 活 動 ) を 展 開 す る 過 程 で 、 学 習
者 の認 識 を 深 化 ・拡 充 さ せ る だ け で な く 、 国 語 科 独 自 の 目 標 であ る 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 言 語 能 力 、 お よ び 自
己 学 習 力 を 身 に つけ さ せ る こ と にあ る 。 こ の よう に、 学 習 者 の 目 標 と 指 導 者 の目 標 と を 区 別 し 、 二重 構 造 を も っ
(=言 語 活 動 ) を 展 開 し て い
た も の と し て 目 標 を と ら え る と 、 国 語 科 単 元 学 習 は 理 解 し や す く な る 。 こ れ を 図 式 化 す ると 、 図 の よう に な る。
学 習者が学習 課題 ( 話 題 ) の解 決 を 目 指 し て 、 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く 学 習 活 動
く 過 程 は 、 学 習 者 の課 題 に 対 す る 認 識 を 深 化 ・拡 充 さ せ て いく 過 程 であ り 、 ま た 、 学 習 者 の言 語 能 力 を 育 て て い
く 過 程 でも あ り 、 学 習 者 に 自 己 学 習 力 を 習得 さ せ て いく 過 程 で も あ る 。 こ れ ら 三 つ のね ら いを 総 合 的 に 達 成 す る
た め に、 国 語 科 単 元 学 習 で は 、 そ の学 習 指 導 過 程 も 、 ︽同 一教 材 に よ る 一斉 学 習 ← 個 別 教 材 に よ る 個 別 あ る いは
グ ルー プ 学 習 ← 全 体 の 場 で の発 表 ・話 し合 い学 習 ← ま と め の 個 別 学 習 ︾と い った よ う に 、多 様 な 学 習 形 態 によ る 、 多 様 な 言 語 活 動 を 取 り 入 れ た 授 業 展 開 が 図 ら れ る。
こ の よう に 、 学 習 者 の目 標 と 指導 者 の 目 標 と を 区 別 し 、 二 重 構 造 を も った も のと し て と ら え て授 業 を 展 開 す れ
ば 、 国 語 科 授 業 が 極 端 な 内 容 主 義 に傾 いた り 、 ま た 逆 に 、極 端 な 技 能 主 義 に陥 った り す る こと は あ り 得 な い。 ぜ
ひ と も 両 者 を 止 揚 し て 、 内 容 を 豊 か に読 み と る と と も に 、 そ の過 程 で 、 言 語 能 力 を 育 て る こと の でき る授 業 を 創 造 し た いも の であ る 。
二 ﹁ 目 標 の 二重 構 造 化﹂ を 図 った 授 業 展 開 のあ り 方 (1) ︱ 発 間 応 答 型 の授 業 展開 基 本 モデ ル にも と づ く 授業
︵一︶ ﹁目標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った 読 解 の 授 業 展 開 モ デ ル
本 格 的 な 国 語 科 単 元 学 習 は 、 だ れ も が す ぐ に 実 践 でき る も の で は な い。 国 語 科 単 元 学 習 の基 本 原 理 であ る ﹁目
標 の 二 重 構 造 化 ﹂ を 図 った 国 語 科 授 業 が 実 践 で き る 基 礎 修 練 を 積 み 重 ね て いく こ と が 必 要 であ る 。 ま ず 、広 く 実
践 さ れ て いる ﹁発 問 応 答 型 の 授 業 ﹂ を 改 善 す る と こ ろ か ら 出 発 し た い。 次 に 挙 げ る 読 解 の授 業 展 開 モ デ ル は 、
﹁目 標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った 授 業 展 開 に な って いる 。 一つ の発 問 を し た と き の授 業 展 開 モ デ ルと し て適 用 し て も よ いし 、 一時 間 単 位 の授 業 展 開 モ デ ルと し て適 用 し ても よ い。
. 仮 説 を 出 し 合う 。
(1) [個 別 学 習 ] 各 自 の考 え 方 (こ の段 階 で は 仮 説 と 言 い た い。 は や く で き た 者 は そ の 理 由 も ) を ノ ー
ト に書 か せ る 。 ← 教 師 は こ の間 、 机 間 指 導 し て助 言 す る と と も に、 解 答 の出 方 を 調 べ 、次 の発 表 の場 の指 名 計 画 を 立 て る。
(2 ) [一斉 学 習 ] 各 自 の考 え 方 (こ の段 階 では 、 結 論 だ け ) を 発 表 さ せ 、 分 類 整 理 さ せ る 。 ← A 説 ・B 説 ・C 説 な ど と 記 号 化 し て 、 板 書 す る 。
Ⅰ
(3 ) [一斉 学 習 ] 各 説 の 支 持 者 数 を 明 ら か に す る 。 こ れ に よ って 、 各 自 の考 え 方 を 相 対 化 さ せ る 。
Ⅱ . 検討 する、
(4) [個 別 学 習 ] 各 自 、 自 説 の根 拠 ・理 由 を 本 文 中 の表 現 を 押 さ え な が ら 、 ノ ー ト に書 か せ る 。 考 え を
整 理 さ せ る た め に、 理 由 は 箇 条 書 き に さ せ る 。 ← 教 師 は こ の間 、 机 間 指 導 し て 助 言 す る と と も に 、 理 由 づ け の実 態 を 調 べ 、 次 の討 議 のた め の指 名 計 画 を 立 て る。
ま と め る 。
書 く そ れ ぞ れ の力 を ど の よ う に鍛 え る 場 が あ る か を 見 通 し てお く こ と が 肝 要 で あ る 。
読 む 力 を 中 心 に 、 話 す 力 ・聞 く 力 ・書 く 力 を 鍛 え る 。 そ の た め には 、事 前 に、 読 む ・聞 く ・話 す ・
本 文 中 の表 現 を 押 さ え て 討 議 さ せ る 過 程 で 、 誤 読 が 明 ら か にな る 。 こ の誤 読 を 検 討 さ せ る 過 程 で 、
② 本 文 中 の表 現 を 押 さ え て、 討 議 ( 自 説 の強 調 ・他 説 の批 判 ) さ せ る 。
書)
① そ れ ぞ れ の 説 ご と に 、 そ の根 拠 ・理 由 を 発 表 さ せ 、 そ の共 通 点 と 相 違 点 を 明 ら か に さ せ る 。 ( ←板
(5) [一斉 学 習 ] そ れ ぞ れ の 説 を 発 表 し て 討 議 さ せ る 。
.
(6 ) [一斉 学 習 ] 教 師 ( あ る い は生 徒 ) が 表 現 を 押 さ え て、 誤 答 の 原 因 が何 であ った か を 整 理 す ると と も に 、 正 答 の根 拠 ・理 由 を 明 ら か に し てま と め さ せ る。
Ⅲ
Ⅳ .自 己評価す る。
( 自 己評価
(7) [個 別 学 習 ] 各 自 、 ノ ー ト に 、 自 分 の考 え の変 容 過 程 を た ど ら せ 、 誤 答 で あ った 者 は 、 そ の 原 因 が
何 であ った か を 整 理 さ せ る 。 ま た 、 正 答 であ った 者 は 考 え の 深 化 し た 過 程 を 確 認 さ せ る
カ ー ド や自 己 評 価 の た め の文 型 を 示 し て自 己 評 価 さ せ る 配 慮 も 必 要 で あ る )。
こ れ が 、 ﹁目 標 の 二 重構 造 化 ﹂ を 図 った読 解 の授 業 展 開 モ デ ル であ る 。 学 習 者 の目 標 は 、 そ の学 習 課 題 ( 発 問)
の解 決 を 図 る こと に あ り 、指 導 者 の 目標 は 、 そ の課 題 の解 決 を 図 る こ と と 、 課 題 の解 決 を 図 る過 程 で、 読 む 力 を
中 心 に 、 話 す 力 ・聞 く 力 ・書 く 力 を 身 に つけ さ せ る こと に あ る 。 指 導 者 は 、指 導 計 画 を 練 る 段 階 で 、 ど の よ う な
学 習 活 動 の場 を 設 定 し 、 そ こ で ど んな 言 語 能 力 を 育 て る か 、 ま た 、 そ の言 語 能 力 を 育 て る た め に 、 ど の よう に 学 習 者 を 手 引 き す れ ば よ い かを 見 通 し て お く こと が 肝 要 であ る 。
︵二︶ ﹁目 標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った 発 問 応 答 型 に よ る 読 解 の授 業 展 開 の実 際
こ こ に 示 し た 授 業 展 開 の基 本 モ デ ルを 応 用 し た 授 業 は 、実 際 に は 、ど のよ う に 展 開 す れ ば よ い の か 。こ こ では 、
小 学 校 五年 生 の教 材 ﹁大 陸 は動 く ﹂ の第 十 一段 落 を 取 り 上 げ て 、 発 問 応 答 型 に よ る 読 解 の授 業 展 開 例 を 示 す こ と とする。
﹁大 陸 は 動 く ﹂
大 陸を動 かす原 動力 は、 何だ ったのだ ろう か。 そ の前 に、 目を海 底 に向 け てみよ う。
太 平 洋 の 真 ん 中 に は 、 ほ ぼ 南 北 に 海 底 山 脈 が え ん え ん と 走 って いる 。 長 さ に し て地 球 の 一周 の 約 三 分 の 一、 高 さ 三
千 メ ー ト ル に 達 す る大 山 脈 で あ る 。 そ の いた だ き に そ っ て 、 た く さ ん の 地 し ん が 起 こ って いる 。 ま た 、 山 脈 の 近 く の
海 底 の 温 度 を 調 べ て み る と 、 他 の 場 所 よ り も は る か に 高 い こ と が 分 か った 。 海 底 山 脈 の 所 で は 、 何 か 大 変 な 出 来 事 が 起 こ って いる に ち が いな い。
こ の 段 落 の指 導 目 標 と し て は 、 ﹁ま た﹂ と いう 接 続 詞 の働 き を と ら え さ せ て 、 内 容 を 的 確 に読 み と る力 を 身 に
つけ さ せ る こ と を 挙 げ る こと が でき る 。 一般 に、 ﹁ま た ﹂ と いう 接 続 詞 に着 目 し て、 ﹁ま た ﹂ の意 味 用 法 (=前 後
の 二 つの内 容 を 並 列 的 に つな ぐ 働 き ) を 明 ら か に し た う え で 、 ど の よ う な 内 容 が 二 つ つな が れ て いる か 、 そ の内
容 を 読 み と って いく と いう 授 業 展 開 を と る こと が多 いで あ ろう 。 す な わ ち 、 本 文 中 の ﹁言 語 表 現 ﹂ に着 目 し て 、
そ の語 の働 き を 明 ら か に さ せ た 後 、 そ の文 章 に 書 か れ て いる ﹁内 容 ﹂ を 読 み と ら せ る と いう 授 業 で あ る。
と こ ろ が 、 目 標 の 二重 構 造 化 論 に も と づ く 国 語 科 授 業 で は 、 ま ず 書 か れ て い る ﹁内 容 ﹂ を 問 う 発 問 を し て 、
﹁内 容 ﹂ を 答 え さ せ て 、 そ の ﹁内 容 ﹂ が 正 し いか ど う かを 検 討 す る 過 程 で、 語 句 や文 法 な ど の言 語 事 項 や 、 内 容
を 的 確 に読 み と る 力 を 育 て る よう に 授 業 を 仕 組 む 。 た と え ば 、次 のよ う な授 業 展 開 を と る の で あ る。
T 1 [発 問 1] 筆 者 は 、 段 落 の最 後 で、 ﹁海 底 山 脈 の所 では 、 何 か 大 変 な 出 来 事 が 起 こ って いる にち が い
な い。﹂ と 述 べ て いま す が 、 海 底 山 脈 の所 で 、 ど ん な 事 実 が 発 見 さ れ た か ら で す か 。 本 文 を ふま え て 、 ど ん な事 実 か を 発 表 し てく だ さ い。
P 1
︵B 説 ) 山 脈 の近 く の海 底 の温 度 を 調 べ て み る と 、 他 の 場 所 よ り も は る か に 高 い こ と が わ か った 。
︵A説 ) た く さ ん の 地 し ん が 起 こ って いる 。 (← 板 書 )
(1) 仮 説 を 出 し 合 う
P 2
( ←板書 )
P 3 ︵ C説 ) た く さ ん の地 し ん が 起 こ って いる こと と 、 山 脈 の近 く の海 底 の温 度 が 他 の場 所 よ り も は る か に 高 い こと で す 。 ( ←板書 )
C 説 は 、 A 説 と B説 の内 容 を 一緒 にし た も の です 。
T 2 [ 発 問 2] A説 ・B説 ・C 説 の内 容 を 比 べ て 、 何 か 気 づ く こと は あ り ま せ ん か 。 P 4
T 3 そ の と お り です ね 。 と こ ろ で 、 A 説 ・B 説 ・C 説 そ れ ぞ れ に賛 成 の人 数 を 数 え ま す 。 A 説 の人 は ?
⋮ ⋮〇 人 で す ね 。 B 説 は ?⋮ ⋮ ○ 人 で す ね 。 C 説 の 人 は ? ⋮ ⋮ ○ 人 で す ね 。 多 数 決 で は 、 ○ 説 で す が 、 ど
の説 が 正 し い で し ょう か 。
(2 ) 検討 する
T 4 ﹁ 発 問 3] 三 つ の説 が 出 ま し た 。 今 か ら 、 ど の説 が正 し い かを 検 討 し て いき ま す 。 発 表 す る と き に は 、
ま ず 、 自 分 の説 は ど の説 で あ る か 、 結 論 を 先 に 言 っ て、 そ の 後 、 文 中 の こと ば を ふま え て、 そ の理 由 を 述 べ てく だ さ い。
P 3 (A説 と B説 を 一緒 に し た の が C説 だ か ら 、 C 説 の P 3 に指 名 す る ) 私 は 、 C 説 です 。 教 科 書 の 五 四
ペー ジ の 一〇 行 目 に ﹁ま た ﹂ と いう こと ば が あ る か ら で す 。 ﹁ま た ﹂ は 二 つ のも のを つな ぐ こ と ば だ か ら 、
発 見 し た 事 実 が 二 つ書 か れ て いる と 考 え ま し た 。 ﹁ま た ﹂ の前 に は 、 た く さ ん の地 し ん が お こ って い る こ
と 、 ﹁ま た ﹂ の後 には 、 海 底 山 脈 の近 く の温 度 が 他 の場 所 よ り も は る か に 高 い こと が 書 か れ て いま す 。
T 5 [ 発 問 4 ] な る ほ ど 。 C説 の人 で 何 か補 う こ と はあ り ま せ ん か 。 ( 反 応 な し ) A説 、 B 説 の人 は 、 今
私 は B説 でし た が 、 今 の P 3 さ ん の意 見 を 聞 いて いて 、 考 え が 変 わ り ま し た 。 ﹁ま た ﹂ と いう こ と ば
の C説 に 対 し て 、 何 か 、 反論 は あ り ま せ んか 。 P 5
私 は 、 は じ め A 説 で し た が 、 考 え が 変 わ り ま し た 。 ﹁ま た﹂ の後 に 書 い て あ る こ と を 見 落 と し て いま
に気 づ き ま せ ん でし た 。 P 6
私 は は じ め B説 で し た 。 P 3さ ん の意 見 を 聞 い て 、 C 説 が 正 し いと 思 いま す が 、 な ぜ 、 P 3 さ ん は
し た 。 P 7
﹁わ か った ﹂ の部 分 を 入 れ な か った の で す か 。
T 6 [ 発 問 5] い い質 問 です ね 。 そ う いえ ば 、 C説 は ﹁わ か った ﹂ を 入 れ て いま せ ん ね 。 P 3く ん の C説
を 支 持 し た 人 の中 に も 、 ﹁わ か った ﹂ を 入 れ て いた 人 が いま し た よ 。 P 3 く ん 、 な ぜ ﹁わ か った ﹂ を 省 い
先 生 の質 問 は 、 ﹁海 底 山 脈 の所 で、 ど ん な 事 実 が 発 見 さ れ た か ら です か 。﹂ でし た 。 ﹁わ か った ﹂ は海
た の です か 。 P 3
底 で 起 こ っ て い る 事 実 で は な い の で 、 入 れ ま せ ん で し た 。 (﹁あ っ 、 そ う か ﹂ の 声 ) T 7 な る ほ ど 。 P 3 く ん は 、 先 生 の 質 問 を よ く 聞 い て いま し た ね 。
(3 ) ま と め る (教 師 のま と め は 省 略 )
(4 ) 自 己評価す る ( 各 自 に 、 学 習 を 振 り 返 って 、 自 己評 価 を ノ ー ト に 書 か せ る よ う 指 示 す る)
ま ず 、 ﹁内 容 ﹂ を 問 う 発 問 を し て ﹁仮 説 ﹂ を 出 さ せ 、 そ の仮 説 を 検 討 す る 過 程 で 、 本 文 中 の ﹁ま た ﹂ に 着 目 さ
せ 、 ﹁ま た ﹂ の働 き を 押 さ え て 、 ﹁ 内 容 ﹂ を 正 し く 読 み と ら せ る と いう 授 業 展 開 を 図 って いる 。 ま た 、内 容 を 正 し
く 読 み と る 過程 で、 問 いに 正 し く 答 え る ﹁応 答 力 ﹂ を 鍛 え る こ と も 目 指 し て いる 。 国 語 科 の授 業 に お い ては 、 た
と え 読 み の授 業 であ って も 、 読 む力 を 鍛 え る だ け で な く 、 聞 く ・話 す ・書 く 力 を 身 に つけ さ せ る こと も 忘 れ て は な ら な い。
三 ﹁目標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った授 業 展開 のあ り 方 ( 2) ︱ 単 元 的 展 開 によ る 授 業 展 開 モデ ル にも と づ く 授 業
︵一︶ ﹁目標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った 単 元 的 展 開 に よ る 授 業 展 開 モデ ル
一斉 学 習 形 態 に よ る発 問 応 答 型 の授 業 であ っても 、 ﹁目 標 の 二 重 構 造 化 ﹂ を 図 った 国 語 科 授 業 を 展 開 す る こと
( 指導事 項)など に
が で き る よ う に な れ ば 、次 の段 階 で は 、教 科 書 教 材 を 生 か し た 単 元 的 展 開 に よ る 国 語 科 授 業 の創 造 を 目 指 し た い。
学 習 者 の実 態 や 学 習 課 題 の解 決 に 必 要 な 教 材 、 教 師 が 身 に つけ さ せ た いと 考 え る指 導 目 標
よ って 、単 元 的 展 開 に よ る国 語 科 授 業 に は 、 さ ま ざ ま な 授 業 展 開 が 考 え ら れ る が 、 次 に挙 げ る のは 、 そ の 一般 的 な授業展 開 モデルである。
Ⅰ . [導 入 段 階 の指 導 / 一斉 学 習 ] 単 元 全 体 の構 想 を 理 解 さ せ る 。 (1) 単 元 の学 習 課 題 を つか む ( ← 聞 く )。 (2) 単 元 の学 習 の進 め方 を 知 る (← 聞 く )。
Ⅱ .[ 展 開 段 階Ⅰ の指 導 / 個 別 ・グ ル ー プ 学 習 ] 学 習 課 題 の 解 決 を 図 ら せ る 。
[グ ル ー プ 学 習 ] 各 自 の収 集 し た 情 報 を 読 み 合 い、 発 表 し 合 って 、 学 習 課 題 の 解 決 を 図 る ( ←読
( ← 読 む ・聞 く ・書 く )。
[ 個 別 学 習 ] 資 料 を 読 ん だ り 、 人 の話 を 聞 いた り し て、 課 題 解 決 に 必 要 な 情 報 を カ ー ド に 整 理 す る
(3) 個 別 あ る いは グ ル ー プ ご と に 、 学 習 課 題 の解 決 を 図 る。 ①
②
む ・話 す ・聞 く ・書 く )。
(4 ) [グ ル ー プ 学 習 ] グ ル ー プ ご と に、 発 表 資 料 を 作 成 す る と と も に 、 発 表 の た め の練 習 を す る ( ←書 く ・話 す ・聞 く )。
Ⅲ . [ 展 開段 階Ⅱ の指 導 / 一斉 学 習 ] 学 習 課 題 の解 決 を 図 ら せ る 。
( ← 話 す ・聞 く・ 読 む )。
( ← 話 す ・聞 く ・書 く )。
(5 ) 個 別 あ る いは グ ルー プ ご と に発 表 す る (6 ) 発 表 を め ぐ って 、 話 し 合 う
( ← 書 く )。
Ⅳ . [ ま と め の段 階 の指 導 / 個 別 学 習 ] 自 己 評 価 さ せ る 。 (7 ) 各 自 、 ノ ー ト に自 己 評 価 を 書 き 入 れ る
(=百語 活 動 ) を 展 開 す る過 程 で、 学 習 者 の学
こ の授 業 展 開 モ デ ル は 、 学 習 者 の興 味 ・関 心 や問 題 意 識 ( ← そ れ は 育 て る も のだ が ) を ふ ま え た 学 習 課 題 を 設 定 し 、 課 題 の解 決 を 目指 し て、 読 む ・書 く ・話 す ・聞 く 学 習 活 動
習 課 題 に対 す る 認 識 の 深 化 ・拡 充 を 図 ると と も に、 読 む ・書 く ・話 す ・聞 く 言 語 能 力 、 お よ び自 己 学 習 力 を 育 て
る こ と を ね ら って いる 。 学 習 者 の 目 標 は 、 学 習 課 題 の 解 決 を 図 る こと にあ り 、 指 導 者 の目 標 は 、 学 習 者 の学 習 課
題 に対 す る認 識 の深 化 ・拡 充 を 図 る こと と と も に 、 読 む ・書 く ・話 す ・聞 く 言 語 能 力 、 お よび 自 己 学 習 力 を 育 て
る こと に あ る。 目 標 の 二 重 構 造 化 論 に も と づ い て単 元 を構 想 す る と 、 単 元 的 展 開 に よ る 国 語 科 授 業 の実 践 が し や す い。
な お 、 実 際 に 単 元 を 構 想 し て実 践 す る と き に は 、 学 習者 一人 ひ と り の学 習速 度 や到 達 度 の違 い、 興 味 ・関 心 や
学 習 スタ イ ル の違 いな ど に 応 じ た 、 ま た 、 そ れ を 生 か し た 授 業 を 展 開 す る こ と が でき る よ う に留 意 す る必 要 が あ
る 。 そ のた め に は 、 学 習 者 一人 ひと り の到 達 す る 目 標 を 異 に す る こと や 、 学 習 者 一人 ひ と り に応 じ た 、 ま た 、 そ
れ を 生 か し た 教 材 の複 数 化 ・個 別 化 、 お よ び そ れ に 伴 う 学 習 指 導 過 程 の複 線 化 を 図 る こ と が 、 必 須 の実 践 的 課 題
と な る 。 学 習 者 全 員 が 同 じ 目 標 に到 達 す る こと を 目 指 し た 授 業 であ っても 、 学 習 者 一人 ひ と り の 興 味 ・関 心 や 学
力 の違 いに 応 じ て 、 複 数 の教 材 を 用 意 し 、 学 習 指 導 過 程 の複 線 化 を 図 る と い った 工 夫 が必 要 であ る 。 ま た 、 学 習
者 全 員 に 同 じ 教 材 を 用 いた 授 業 であ って も 、 学 習 者 一人 ひと り の到 達 す る 目 標 を 異 に し て 、 学 習 指 導 過 程 の 複 線 化 を 図 る と い った 工 夫 が 必 要 で あ る 。
︵二︶ ﹁目 標 の 二重 構 造 化 ﹂ を 図 った 単 元 展 開 に よ る 国 語 科 授 業 の 実 際
現 在 、 教 科 書 教 材 を 取 り 上 げ て、 教 師 主 導 に よ る 発 問 応 答 型 の知 識 詰 め 込 み 教 育 が 批 判 さ れ て 、 学 習 者 が 自 ら
課 題を 発 見 し 、 そ の課 題 の解 決 を 目 指 し て主 体 的 に 学 習 す る 授 業 の創 造 が 求 め ら れ て いる 。 こ の実 践 課 題 に 応 え
る た め に 、 教 科 書 教 材 を 取 り 上 げ な が ら も 、 そ れ を 生 か し て単 元 的 展 開 の 授 業 を 実 践 し た 、 大 村 は ま 氏 の 単 元 ﹁読 書 の し か た ﹂ の実 践 を 取 り 上 げ た い。
大 村 はま 氏 は 、 昭 和 三 十 年 代 に 、 教 科 書 教 材 ﹁読 書 の経 験 ﹂ (清 水 幾 太 郎 ) を 多 く の中 の 一資 料 と し て活 用 し
て 、 中 学 一年 生 に ﹁読 書 のし か た﹂ に つ いて 考 え さ せ る 単 元 的 展 開 に よ る 国 語 科 授 業 を 行 って いる 。 こ の 単 元 的 展 開 に よ る 国語 科 授 業 は 、 整 理 す る と 、 次 のよ う な 展 開 に な って いる 。
.︹ 導 入 段 階 の指 導 ︺ 学 習 者 一人 ひ と り に 、 読 書 に 関 す る疑 問 を 書 いて 提 出 さ せ る 。
(1) ︹個 別 学 習 ︺ 読 書 に関 す る 疑 問 例 を 示 し た 手 引 き プ リ ント を 参 考 にし て 、 学 習 者 一人 ひ と り が 、 読 書 に関 す る 疑 問 を 書 い て提 出 す る。
(2) ︹個 別 学 習 ︺ 学 習 者 一人 ひ と り の提 出 し た 疑 問 を 整 理 し た ﹁読 書 に つ いて の疑 問 集 ﹂ ( プ リ ント )を
Ⅰ
読む。
Ⅱ . ︹展 開 段 階Ⅰ の指 導 ︺ 学 習 者 一人 ひ と り に 、 各 自 の疑 問 の解 決 を 図 る た め に 必 要 な 情 報 を 読 ん だ り 、
聞 いた り し て 、 そ の疑 問 に つ いて 、 他 の 人 が ど ん な意 見 を 持 って いる か を 紹 介 す る 文 章 を 書 か せ る 。
(3) ︹個 別 ・ 一斉 学 習 ︺ 学 習 者 一人 ひ と り の疑 問 の解 決 を 図 る た め に、 教 科 書 教 材 ﹁読 書 のし か た ﹂ だ
け でな く 、 読 書 のし か た に つ いて書 か れ た 文 章 を 読 ん だ り 、 読 書 に つ い て語 った 話 や録 音 を 聞 いた り
し て、 な ん ら か の 形 で出 て いる 答 え を 書 く 。 読 書 に 関 す る 教 材 と し て、 次 の資 料 が 用 いら れ て いる 。
A. 読 ま せ た も の= 清 水 幾 太 郎 ﹁読 書 の経 験 ﹂ (教 科 書 教 材 )、 西 尾 実 ﹁読 書 の方 法 ﹂、 望 月 久 貴 ﹁読 書 の方法﹂
B. 読 ん で聞 か せ た も の= 滑 川 道 夫 ﹁漫 画 の読 み 方 ﹂、 亀 井 勝 一郎 ﹁読 書 の方 法 ﹂、 ﹁読 書 ノ ー ト ﹂ ( 筑 摩書 房 ﹃ 国 語 ﹄)
C. 大 意 を 話 し て 聞 か せ た も の= 坂 田徳 男 ﹁二 十 分 読 書 法 ﹂、 林 髞 ﹁頭 脳 ﹂ の 一節
(4) ︹個 別 学 習 ︺ 集 め た カ ー ド を も と に 、 各 自 の疑 問 に 対 し て 、 ど ん な 人 が ど んな 意 見 を 持 って い る か を紹介す る文章を書 く。
Ⅲ . ︹展 開 段 階Ⅱ の指 導 ︺ 全 体 の場 で、 学 習 者 各 自 の疑 問 に対 す る いろ いろ な 人 の意 見 を 発 表 さ せ る 。
(5) ︹一斉 学 習 ︺ 全 体 の場 で 、学 習 者 各 自 の疑 問 に 対 す る いろ い ろな 人 の意 見 を 発 表 す る 。
.[ ま と め の段 階 の指 導 ] ( 記 録 に な い) ( 注 ) 読 む ・聞 く・ 書 く・ 話 す 言 語 活 動 の部 分 に は 、 傍 線 が 施 し てあ る 。
﹁今 日 か ら 、 教 科 書 の ﹃読 書 の 経 験 ﹄ を 学 習 し ま す 。 そ れ で は 、 本 文 を 読 ん でく だ さ い。﹂ と いう よ う な 導 入 の
仕 方 で は 、 学 習 者 は そ の学 習 に 意 欲 的 に 取 り 組 む こ と は な い。 教 科 書 教 材 を 取 り 上 げ て 学 習 さ せ る 場 合 であ って
も 、 そ の学 習 の導 入 段 階 に 、 学 習 者 が そ の教 材 と 出 会 う 必 然 性 を 創 り 出 す こ と が 、 実 践 上 の大 き な 課 題 と な る 。
大 村 は ま 氏 の実 践 では 、 学 習 者 一人 ひ と り が 、 日 頃 の読 書 生 活 の 中 で抱 いて いる ︿ 読書 に関す る疑問﹀を 出させ
て 、 そ の読 書 に 関 す る各 自 の疑 問 (課 題 ) を 解 決 す る た め に、 教 科 書 教 材 ﹁読 書 の経 験 ﹂ を は じ め 、 読 書 のし か
た に つ い て書 か れ た 文 章 を 読 んだ り 、読 書 に つ いて 語 った 話 や 録 音 を 聞 いた り す る よ う に 授 業 が 仕 組 ま れ て いる 。
こ のよ う に す れ ば 、 学 習 者 一人 ひ と り は 、自 ら の課 題 を 解 決 す る た め と いう 目 的 意 識 ・課 題 意 識 を も って 、 意 欲
的 に 、 教 科 書 教 材 な ど を 読 んだ り 、 録 音 や先 生 の話 を 聞 いた り す る よ う に な る。 教 科 書 教 材 を は じ めと す る 教 材 を 読 む ・聞 く 必 然 性 が み ご と に創 り 出 さ れ て い る。
︿ ゴ ー ル﹀ を 目指 し て、 目
ま た 、 こ の実 践 で は 、 単 元 の 最 終 の段 階 (=展 開 段 階Ⅱ ) に 、 学 習 者 一人 ひと り の課 題 に も と づ いて 調 べた こ
と を 発 表 す る 場 が 設 定 さ れ て いる の で、 学 習 者 は各 自 の調 べ た こと を 発 表 す ると いう
的 的 な 学 習 を 展 開 す る 。 学 習 者 が 自 ら の 課 題 の解 決 を 目 指 し て学 習 を 展 開 す る過 程 で、 大 村 は ま 氏 は 、 読 みと る
力 ・聞 き と る 力 ( ← 段 落 と 段 落 の関 係 を 読 み と る力 、 主 な 段 落 を 把 握 す る 力 、 要 旨 を と ら え る 力 な ど ) を 学 習 者
に 育 て る こ と を 目 指 し て いる 。 実 際 の授 業 では 、自 分 の取 り 上 げ た ︿読 書 に 関す る 疑 問 ﹀ に つ いて 、 い ろ いろ な
Ⅳ
人 が ど のよ う な 意 見 を も って い る か を 紹 介 す る文 章 を 書 く 過 程 で 、 大 村 は ま 氏 は 、 学 習 者 の誤 読 を 見 い出 す と 、
﹁何 々先 生 は そ ん な こと を お っし ゃ って いな い。﹂ と 揺 さ ぶ り を か け て いる 。 学 習 者 が 、 ﹁ど こ で 、 そ の要 旨 を 取
り 違 え た のだ ろ う 。 段 落 と 段 落 と の関 係 を 読 み ま ち が え た のだ ろ う か 、 ど こ が主 な 段 落 だ った のだ ろう か 。﹂ な
ど と 、 正 し く 内 容 を 読 み と ろう と 必 死 に な って繰 り 返 し 読 む 、 そ の過 程 で、 内 容 を 正 しく 読 み と る 力 を 鍛 え る よ
う に授 業 を 仕 組 ん で いる 。 こ のよ う な 授 業 を 展 開す る た め に は 、 指 導 者 は 、 前 も って、 学 習 者 一人 ひ と り を 頭 に
置 き な が ら 各 教 材 を 読 ん で、 学 習 者 一人 ひ と り の つま ず き を 予 想 し た り 、 そ れ に 対 す る援 助 の仕 方 や 手 引 き の仕 方 を 考 え た り し て おく こと が た いせ つで あ る 。
こ の大 村 は ま 氏 の国 語 科 授 業 は 、 学 習 者 一人 ひと り の学 習 課 題 は そ れ ぞ れ 異 な る が 、 用 いる 教 材 と 学 習 指 導 過
程 は 同 じ で あ る 。 学 習 課 題 が 異 な る の で 、 学 習 者 一人 ひと り は 優 劣 を 意 識 し な い で、 自 ら の課 題 解 決 のた め に 意
欲 的 に学 習 に 取 り 組 ん で いく 、 そ の過 程 で 、 文 章 の内 容 を 正 し く 読 み と る 力 や 聞 き と る力 を 育 て る よ う に授 業 が 仕 組 ま れ て い る の で あ る。
以 上 述 べ て き た よう に、 発 問 応 答 型 の国 語 科 授 業 であ ろ う と 、 単 元 的 展 開 に よ る 国 語 科 授 業 であ ろう と 、 ﹁目
標 の 二重 構 造 化 ﹂論 にも と づ く 授 業 展 開 を 図 る と 、学 習 者 一人 ひと り を 国 語 学 習 に意 欲 的 に取 り 組 ま せ る こと と 、
読 む ・書 く ・話 す ・聞 く 言 語 能 力 を 育 て る こと と が 同 時 に達 成 さ れ る 国 語 科 授 業 を 創 造 す る こと が で き る の で あ る。
第 四章 国語 科 授業 の構 築 と展 開
一 国 語 授 業 の構 築 と 展 開 そ の 1 ︱授業者 ( 発 問 )・学 習者 ( 応答)を軸とする
(一) 授 業 の基 本
﹁授 業 は 生 き 物 で す ﹂ と いう こ と ば を 、 印 象 深 く 聞 いた の は 、 私 (小 山 ) が 教 育 実 習 に出 か け た と き で あ った
ろ う か 。 も し そ う だ と す れ ば 、 四 十 余 年 も 前 の話 に な る が 、 私 の実 地 授 業 が 不 出 来 に 終 わ って 、 ひ ど く 意 気 消 沈
し て いた と き 、 ﹁授 業 に は 生 徒 と いう 相 手 が いる のだ か ら 、 学 習 指 導 案 ど お り に運 ば な く て も 、 落 胆 し な く ても
い い で す ﹂ と 、 慰 め ら れ 励 ま さ れ た の で あ った ろ う 。 あ る い は 、 調 べ て き た こ と を滔 々と し ゃ べ り 終 わ っ て、
少 々得 意 に な って いた と き 、 ﹁いく ら 立 派 な こ と を 話 し ても 、 生 徒 が 活 動 し な い教 室 は 、 授 業 と は 言 え ま せ ん ﹂
と 、 た し な め ら れ た のか も し れ な い。 いず れ に し て も 、 そ れ 以 来 、 こ の ﹁授 業 は 生 き 物 です ﹂ と いう こと ば は 、
私 の胸 底 に あ って 、 授 業 が 失 敗 に終 わ った と き 、 こ と の ほ か う ま く 展 開 し た と き 、 お のず と 思 い返 さ れ る の で あ
り 、 生 徒 を 生 き 生 き と 活 動 さ せ る た め に 、 万 全 の準 備 を し て 、 授 業 に 臨 ん だ か ど う か を 問 いか け る の であ る。
そ れ に つけ ても 、 私 は 、 悪 戦 苦 闘 し た 教 育 実 習 に あ って 、 今 で も 二 つ の こと を は っき り 憶 え て いる 。 一つ は 、
小 学 校 一年 生 で、 ﹁動 物 園 ﹂ と いう 教 材 を 扱 った と き 、 途 中 で 、 私 が 思 わ ず ﹁ウ オ ー ﹂ と ライ オ ン の鳴 き 声 を 発
し た と こ ろ 、生 徒 が 口 々に ﹁ウ オ ー ﹂、 ﹁ウ オ ー ﹂ と 言 い出 し 、 教 室 が 騒 然 と な り 、 収 拾 が つか な く な った 場 面 で
あ る 。 失 敗 し た と し ょ ん ぼ り し て いた 私 に 、 田 中 正 範 先 生 は 、 意 外 に も 、 ﹁一時 間 の 中 で、 生 徒 が 生 き 生 き と 活
動 し た 場 が あ って 、 な か な か よ か った ﹂ と 、 ほ め てく だ さ った の であ る。 も う 一つは 、 高 校 三年 生 で、 モ ー パ ッ
サ ン の小 説 ﹁ひ も ﹂ を 扱 った と き 、 ひ も を 拾 った 農 民 の心 理 を 、 二 つの観 点 か ら 明 快 に 分 析 し てみ せた 場 面 であ
る 。 内 心 悦 に 入 って、 批 評 会 で 思 いど お り に 運 ん だ 旨 の発 言 を し た と こ ろ 、 尾 上 充 次 先 生 か ら 、 ﹁指 導 者 が 一方
的 に 話 し 過 ぎ て い て、 到 底 う ま く い った と は 言 え な い﹂ と 、 き つ いお 叱 り を受 け た の であ った 。
小 学 校 ・中 学 校・高 等 学 校 に お い て、日 々営 ま れ る 授 業 が 、大 学 で行 わ れ る 講 義 に 比 べ て、格 段 に 難 し い のは 、
い つに 生 徒 を 生 き 生 き と 活 動 さ せ な け れ ば な ら な いこ と にか か って いる 。 生 徒 を 活 動 さ せ る た め に は 、 生 徒 に思
考 を 促 し発 言 を み ち び く ﹁発 問 ﹂ と 、 そ の 思 考 や発 言 を 目 に見 え る か たち で 位 置 づ け る ﹁板 書 ﹂ と が 、 不 可 欠 に
な ってく る 。 も ち ろ ん 、 大 学 の 講義 と て 、 教 室 に出 か け て いく ま で に は 、 い ろ いろ と 研 究 も し 調 査 も し 、 苦 し み
も 多 い にち が いな いが 、 一度 教 室 に 出 て し ま え ば 、 あ と は 先 生 が 予 定 し て き た 事 柄 を 一方 的 に 話 し ても 、 特 に非
難 さ れ る筋 合 いは な い であ ろう 。 極 端 に 言 え ば 、 講 義 を 受 け と め よ う が受 け と め ま いが 、 そ れ は 大 人 で あ る 聞 き
手 側 の問 題 で あ り 責 任 であ り 、 そ の論 理 は 、 も っと 大 勢 の聴 衆 を 相 手 に行 わ れ る講 演 でも 同 じ であ る 。 講 義 や講
演 が 、 原則 と し て発 問 や 板 書 を 伴 わ ず 、 先 生 の 一方 的 な 話 に終 始 し て いる のは 、 そ のた め であ る 。
と こ ろ が 、 授 業 に お け る 聞 き 手 は 、 未 成 年 者 の子 供 であ り 、 小 学 校 ・中 学 校 ・高 等 学 校 の間 で、 多 少 の違 いが
あ ると し て も 、 一方 的 に話 さ れ た の で は 、 ど ん な に す ば ら し い内 容 であ っても 、 学 力 と し て定 着 さ せ る こ と が 難
し い の で あ る 。 授 業 が 生 徒 の生 き 生 き と し た 活 動 を 絶 対 の条 件 と す る 限 り 、 ど の よ う な 学 習 形 態 であ っても 、 授
業 を 成 立 さ せ るた め に は 、 ﹁発 問 ﹂ と ﹁板 書 ﹂ と が 、 準 備 さ れ な け れ ば な ら な い の であ る 。 も っと 言 え ば 、 ﹁い い
発 問 ﹂ と ﹁い い板 書 ﹂ と が 、 ﹁い い授 業 ﹂ の成 立 を 保 障 し て いる の であ り 、 こ の 二 つさ え 十 全 であ れ ば 、 た と え
﹁授 業 は 生 き 物 ﹂ であ っても 、 恐 れ る こと は な い の であ る 。 し か し 、 授 業 の根 幹 を 支 え る 、 こ の 二 つ の力 を 啓 培
し て いく た め に は 、 相 当 な 習 練 が求 め ら れ る の であ り 、 大 学 を 卒 業 し た と き に 得 た 免 許 状 と 、 日 々惰 性 に 身 を 任
せ た安 閑 と し た 教 師 生 活 と か ら で は 、 満 足 の いく 授 業 展 開 は 、 生 ま れ て こ な い であ ろ う 。
︵二︶ 授業展開 のパ ターン
プ ロ の 国 語 科 教 師 た る者 は 、 日 々取 り 組 ん で い る授 業 が 、 そ の成 否 の ポ イ ン ト を な し て いる 、 ﹁い い発 問 ﹂ と
﹁い い板 書 ﹂ と に よ って、 三 つ の パ タ ー ン に 分 か れ る こと を 、 よ く 心 得 てお か な け れ ば な ら な い。 す な わ ち 、 一
つは 、 わ か り や す く て お も し ろ い ﹁上 ﹂ の授 業 、 も う 一つは 、 わ か り にく く て おも し ろく な い ﹁下 ﹂ の 授 業 であ
り 、 そ の 間 に、 一見 わ か り やす いが おも し ろく な い ﹁並 ﹂ の授 業 が あ る 。 ﹁下 ﹂ の授 業 は 、 論 外 と し ても 、 教 材
に鋭 く 切 り 込 ん で、重 点 化 を 図 る ﹁上 ﹂ の授 業 が 、作 者 の感 動 に 迫 り 、学 力 と し て定 着 を な し と げ る の に対 し て、
初 め か ら 順 々に 、 ま ん べ ん な く 押 さ え て いく ﹁並 ﹂ の 授 業 で は 、 作 品 のあ ら す じ は つか め ても 、 学 力 と し て定 着
し 難 い の であ る 。 と り わ け 国 語 科 の授 業 が 、 考 え 方 や 生 き 方 にま で踏 み込 む こと を 考 え る と き 、 両 者 の 違 い は雲
泥 の差 であ り 、 生 徒 にと ってど ち ら の先 生 に 教 わ る か は 、 一生 を 左 右 す る 重 大 事 に な ってく る 。
﹁上 ﹂ の授 業 と ﹁並 ﹂ の授 業 と の違 いを 、 発 問 と 板 書 と に即 し て言 い換 え て み る と 、 前 者 に あ っ ては 、精 選 さ
れ た 発 問 が 、 強 い関 連 性 の下 に配 列 さ れ 、 必 ず ﹁考 え る 問 い﹂ が 設 定 さ れ 、 そ の問 題 を め ぐ って、 生 徒 の意 見 が
相 次 い で、 授 業 は 活 性 化 さ れ ると 同 時 に、 深 化 し て いく さ ま が実 感 さ れ る に ち が いな い。 板 書 で言 え ば 、 構 造 の
軸 に な る 全 体 の枠 組 み が 先 に し る さ れ 、 そ の 間 を 埋 め て いく か た ち で、 右 に 行 った り 左 に行 った り 、 場 合 に よ っ
て は 何 箇 所 か合 わ せ て書 き 込 ま れ て いく の で あ る。 反 対 に、 後 者 に あ って は 、 小 さ な 発 問 が や た ら に数 多 く 続 い
て いく ば か り で 、 いわ ゆ る 一問 一答 式 に陥 り 、 焦 点 は 定 ま ら ず 、 決 ま って 単 調 で盛 り 上 が り に 欠 け 、底 の浅 い迫
力 に 乏 し いも の にな って し ま う ので あ る。 板 書 で言 え ば 、 右 か ら 左 に流 れ て いく ば か り で 、 一度 書 いた 字 句 に再
び ふ れ る こ と は な く 、 そ の先 何 が書 か れ る のか も 、生 徒 は う か が い知 る こ と が でき な いの で あ る。
﹁上 ﹂ の授 業 を 成 立 さ せ る こ と が で き る か 、 ﹁並 ﹂ の授 業 し か 展 開 さ せ る こと が でき な い か は 、 畢竟 、 教 師 が
そ の教 材 の構 造 を つか め る か 、 つか め な いか にか か って いる 。作 品 の主 題 を 読 み 取 る こと を 、 城 を 攻 め 落 と す こ
と に 例 え て み れ ば 、 城 の構 え が わ か った 教 師 は 、 ま っし ぐ ら に 本 丸 に向 か って突 き 進 む の に 対 し 、 そ う でな い教
師 は 、 いた ず ら に城 壁 の周 囲 を ぐ る ぐ る 回 って いる ば か り で あ る 。 そ し て、 こ のう ち のど ち ら の先 生 に 教 わ る か
が 、 生 徒 に と って、 人 生 を 左 右 し か ね な い重 大 事 で あ る こと は 、 先 にも ふ れ た が 、 生 徒 が 授 業 を 評 価 す る こ と は
難 事 であ り 、 仮 に で き た と し て も 、 ど ち ら か を 好 き に 選 べ る 仕 組 み に な って いな い。 一方 、 教 師 に と って、 こ の
二 つ の違 いに よ って 、 給 料 に差 異 が 生 じ な いと す れ ば 、 黙 って 知 ら ぬ顔 を 決 め 込 む こ と が で き る で あ ろ う が 、 そ
れ では 生 徒 に 申 し わ け が 立 た な いと いう も の で、 ﹁上 ﹂ の授 業 を 目ざ し て、 腕 を 磨 く べ き であ る 。
国 語 科 教 師 が 陥 って いる 重 大 な 誤 り は 、自 分 の授 業 力 が 、 ﹁上 ﹂ で あ る のか ﹁並 ﹂ で あ る のか 、あ る いは 、 ﹁下 ﹂
で あ る の か 、 し っか り と 見 定 め て いな いこ と であ る 。 いく ら 本 当 の力 を 知 る の が 恐 ろ し いと は いえ 、 平 板 で単 調
な 、迫 力 に乏 し い授 業 を 繰 り 返 し てお き な が ら 、た だ 漠 然 と そ ん な に 悪 く も な いと 勝 手 に 思 い込 ん で いた の で は、
上 達 の方 策 は 見 いだ し 難 いと いう も の で あ る 。 いや 、 大 半 の 先 生 は、 自 分 の毎 日 営 ん で いる 授 業 が 、 生 徒 の 心 を
揺 り 動 か し て いな いこ と に、 う す う す 気 づ い て は いる が 、 真 摯 な 努 力 を 数 年 続 け て いけ ば 、 そ のう ち に ﹁上 ﹂ の
授 業 に 到 達 で き ると 、希 望 的 観 測 を し て いる の で あ ろ う 。 な る ほ ど 、 四 、 五 年 も 体 験 を 積 ん で いく と 、 一見 わ か
り や す い ﹁並 ﹂ の授 業 力 は 、 お のず と 身 に つ いて く る が 、 真 に わ か り や す い ﹁上 ﹂ の授 業 を 支 え る 、 ﹁構 造 的 な
発 問 ﹂ と ﹁構 造 的 な 板 書 ﹂ と は 、 意 識 的 な 習 練 を 重 ね な いと 備 わ って こな い の であ る。
そ の こと は 、 十 年 ・二 十 年 と 経 験 を 積 み 、 真 面 目 に取 り 組 ん で いる ベ テ ラ ン であ り な が ら 、 ﹁並 ﹂ の授 業 に 甘
ん じ て いる 先 生 が多 いこ と に 、 象 徴 的 に 表 れ て い る の で は な か ろう か 。 研 究 会 の席 上 な ど で、 私 が 何 か の は ず み
で 、 授 業 展 開 の 二 つの パ タ ー ン に 及 ぶ と 、 小 学 校 ・中 学 校 ・高 等 学 校 を 問 わず 、 大 勢 の先 生 が 、 赤 い顔 を し てう
つ向 か れ る のを 知 って いる 。 そ れも そ のは ず 、 大 学 の 国 語 科 教 育 法 で も 教 わ ら ず 、 教 育 実 習 でも 試 みず 、 ま し て
や 現 場 に出 て か ら 指 摘 も 受 け ず に き て、 初 め て ﹁並 ﹂ の授 業 で は な いか と 問 い つめ ら れ た の で は 、 いさ さ か 面 食
らう のも 無 理 は な い。 も ち ろ ん、 十 年 ・二十 年 の ベ テ ラ ン の先 生 に も な る と 、 一時 間 の授 業 は 、 そ つが な く 手 際
よ く 進 ん で 、 洗 練 も さ れ て いる が 、 い か ん せ ん 迫 力 に 乏 し く 、 盛 り 上 が り に欠 け る のは 、 ﹁上 ﹂ の授 業 と ﹁並 ﹂
の 授 業 と が 、質 を 異 に し て いて 、 体 験 を 重 ね た だ け で は ど う に も な ら な いか ら であ る 。
︵三︶ 教 材 研 究 の手 順
﹁上 ﹂ の授 業 が 展 開 さ れ る か 、 ﹁ 並 ﹂ の授 業 が 展 開 さ れ る か は 、そ の 一時 間 の指 導 計 画 書 に 当 た る ﹁学 習 指 導 案 ﹂
を 見 れ ば 、 一目 瞭 然 に な ってく る 。 も ち ろ ん 、 毎 日 の授 業 の 一時 間 ご と に 、 研 究 授 業 のと き ほ ど の 、詳 細 な 学 習
指 導 案 を 作 成 す る 時 間 の余 裕 は な い の であ ろ う し 、 そ の 必 要 も な いが 、 ﹁略 案 ﹂ は 略 案 と し て、 教 材 の 構 造 を ふ
ま え て 、 鋭 く 切 り 込 ん で いれ ば 、 ﹁上 ﹂ の 授 業 が 展 開 さ れ る こと は 請 け 合 いな の であ る 。 も っと 端 的 に 言 え ば 、
第 一の発 問 に よ って 、 何 が 引 き 出 さ れ る か 、 そ し て、 最 初 に 黒 板 のど の位 置 に 、 何 が 書 か れ る か に よ って、 そ の
時 間 の授 業 の成 否 は 見 通 さ れ る の であ る 。 す な わ ち 、 生 徒 の活 動 を 活 発 に し 、 生 徒 に感 動 を 与 え る 充 実 し た 授 業
は 、 ﹁い い学 習 指 導 案
( 略 案 )﹂ か ら み ち び か れ 、 い い学 習指 導 案 が 、 ﹁い い発 問 計 画 ﹂ と ﹁い い板 書 計 画 ﹂ と を
含 ん だ 、 周 到 な 教 材 研 究 か ら みち び か れ 、 と いう 関 係 は 、 毫 も 疑 う 余 地 のな い真 理 であ る。
そ れ な の に 、 学 習 指 導 案 を 、 授 業 を 固 定 す る も のと し て否 定 的 に 受 け と め る 先 生 に 出 く わ す こと があ る が 、 そ
れ は 海 図 を 持 た ず に航 海 に 出 か け る よ う な も の で、無 謀 で あ り 傲 慢 であ る。学 習 指 導 案 は も と も と 計 画 書 で あ り 、
予想 し て いな か った 生 徒 の反 応 のた め 、 思 わ ぬ 方 向 に 進 ん だ り 、 時 間 が か か って し ま った り し て、 計 画 を 修 正 す
る こ と が あ る のは 当 然 で あ り 、 だ か ら と い って、 学 習 指 導 案 な く し て授 業 に 望 む のは 、 心 得 違 いも は な は だ し い
と 言 う べき であ ろう 。 一方 、 学 習 指導 案 の作 成 が う ま く い かな く て、 悩 ん だ り 苦 し ん だ り し て い る先 生 の姿 を よ
く 見 か け る が 、 そ れ は 、 特 に ﹁本 時 の指 導 過 程 ﹂ を 作 成 し て いく 、 基 本 的 な 手 順 を 知 ら な いか ら であ る 。 学 習 指
導 案 は 、 教 材 研 究 の最 終 結 果 と し て 、 お のず か ら 生 ま れ てく る も の であ り 、 ﹁本 時 の指 導 過 程 ﹂ が 見 え て こ な い
の は 、 ひ と え に 教 材 の構 造 の把 握 が 不 十 分 だ か ら であ り 、 た だ 漫 然 と 読 み 返 し て いた の で は 無 理 であ る 。
学 習 指 導 案 の根 幹 を な す 教 材 研 究 は 、 大 き く 作 品 研 究 と 指 導 研 究 と に分 け ら れ る が 、 作 品 研 究 と は 、 そ の教 材
に お け る 対 立 ・変 化 ・繰 り 返 しな ど の対 応 関 係 を 明 ら か に し、 そ れ ら の 関 係 を 図 示 す る 段 階 で あ り 、 板 書 計 画 の
作 成 で も あ る 。 ま た 、 指 導 研 究 と は 、 作 品 研 究 か ら み ち び か れ た 板 書 計 画 を 、 生 徒 と 共 にど の よ う な 手 順 でも っ
て 、作 り 上 げ て いく か を 考 え る 段 階 であ り 、発 問 計 画 の作 成 であ る 。ど ん な に 経 験 豊 か な 練 達 の先 生 であ って も 、
教 材 研 究 に基 づ く 板 書 計 画 と 発 問 計 画 と を 準 備 し な いで は 、充 実 し た 授 業 を 展 開 す る わ け に は いか な い であ ろう 。
﹁板 書 計 画 ← 発 問 計 画 ﹂ と いう 手 順 を ふむ こ と に よ って 、 お のず と 出 来 上 が った ﹁本 時 の指 導 過 程 ﹂ は 、 た だ 頭
の中 で 観 念 的 に 作 成 し た も の に比 べ る と 、 は る か に実 際 的 であ り 、 教 材 を 常 に 全 体 と し て取 り 扱 う こと が でき る
た め 、 初 め か ら あ ら す じ を た ど って いく 、 お定 ま り の授 業 展 開 か ら 解 放 さ れ る の で あ る 。
こ こ で、 ﹁本 時 の指 導 過 程 ﹂ に 即 し て、 学 習 指 導 案 作 成 の手 順 を 整 理 し て み る と 、 そ の第 一段 階 は 、 本 時 に取
( 板 書 計 画 ) を 作 る こと であ る 。 い い板 書 計 画 を 作 る に は 、 書 き し る す 語 句 事 項 が 十 五 箇 く ら い
り 扱 う 範 囲 に お け る 、 対 立 ・変 化 ・繰 り 返 し な ど を 見 き わ め 、 対 応 関 係 が よ く わ か る よ う に 、番 号 や記 号 な ど も 用 いて 、 構 造 図
で 、 一箇 が 十 字 以内 に収 ま って いる こ と ( 簡 潔 性 )、 対 義 語 ・同 義 語 ・変 化 な ど の 関 係 が 明 ら か で あ る こ と ( 構
造 性 ) に留 意 し な け れ ば な ら な い。 次 いで 、 第 二段 階 は 、 構 造 図 に基 づ い て、 発 問 計 画 を 作 る こと で あ り 、 構 造
図 を ど う いう 順 序 で 、 ど う いう 説 明 や発 問 に よ って作 って いく か を 、 筋 道 立 て て考 え る の で あ る。 し か し 、 実 際
の 授 業 の中 に お け る 、 板 書 と 発 問 と の つな が り は 、 ま ず 発 問 に よ って 生 徒 の応 答 が み ち び か れ 、 し か る べき 位 置
に 板 書 さ れ た 応 答 を ふ ま え て、 次 の新 し い発 問 が な さ れ ると いう 手 順 が 、 繰 り 返 さ れ る の であ る 。
﹁子 牛 の 話 ﹂ あ る朝 の こ と 、 一人 の お じ さ ん が 、 や って き ま し た 。
そ れ を 聞 く と 、 し ん ぺ い君 は 、 ﹁売 った ら いや だ い。 い や だ い。﹂
お 父 さ ん と 長 い間 話 し て いま し た が 、 や が て 、 お じ さ ん に 子 牛 を 売 っても ら う こ と に き ま った と の こ と で し た 。
と だ だ を こ ね ま し た が 、 だ れ も あ い手 に し て く れ ま せ ん 。
お じ いさ ん は 、 山 の 麦 畑 へ入 っ て 、 る す で し た 。 お じ いさ ん な ら 、 き っと 売 ら な く て も い いよ う に し て く れ る にち が いな いと 、 思 いま し た 。 し ん ぺ い君 は 、 急 い で 山 道 を か け の ぼ って 、 お じ いさ ん に 知 ら せ ま し た 。 け れ ど も 、 お じ いさ ん は 、 少 し も び っく り し な いで 言 い ま し た 。
﹁あ れ を 売 ら な い こ と に は 、 ミ ヨ ね え ちや ん の お よ め 入 り の 道 具 を 、 買 って や る お 金 が な いの じ ゃ 。 さ び し か ろ う が 、 し ん ぼ う し て や っ て く れ よ 。 の う 、 し ん ぺ い。﹂ し ん ぺ い君 は 、 ゴ ク ッ と つば を の み こ み ま し た 。
こ の 教 材 を 取 り 扱 う 授 業 展 開 を 、 ﹁上 ﹂ に み ち び く 第 一のポ イ ン ト は 、 主 な 登 場 人 物 の し ん ぺ い君 ・お 父 さ
ん ・お じ いさ ん の三 人 と 、 中 心 の話 題 であ る 子 牛 と を 、 冒 頭 にあ って 一度 に 明 ら か にす る こと であ る 。 順 を 追 っ
て いく と 、 十 数 問 か か って答 え を 引 き 出 す と こ ろ を 、 わず か 二問 か 三 問 か で済 ま せ る のが 、 腕 の見 せ ど こ ろ であ
り 、 ﹁発 問 の精 選 ﹂ に ほ か な ら な い。 し か も 、 前 半 が し ん ぺ い君 と お 父 さ ん と の 関 係 、 後 半 が し ん ぺ い君 と お じ
いさ ん と の関 係 で 、両 方 共 、子 牛 を め ぐ って の対 立〓 藤 で あ る こと が 示 さ れ れ ば 、全 体 の枠 組 み ( 構 造 の軸 ) は、
一目 瞭 然 と な る ので あ り 、 生 徒 は 、 以後 の授 業 展 開 にあ って 、 ど の箇 所 が 問 題 に さ れ て いる か を 、 常 に 理 解 で き
る こと に な る 。 内 容 の難 易 に つ い て は 、 神 経 質 な ほ ど に気 を 配 り な が ら 、 展 開 のわ か り や す さ に無 頓 着 な 先 生 を
よ く 見 か け る が 、 生 徒 が がま ん でき な い のは 、 授 業 展 開 が 不透 明 な ま ま 、 椅 子 に座 って いる こ と であ る 。
﹁上 ﹂ で あ り 得 る た め の、 第 二 のポ イ ント は 、 前 半 のし ん ぺ い君 と お 父 さ ん と の対 立 、 後 半 のし ん ぺ い君 と お
じ いさ んと の対 立 を 、 は っき り 示 し て いる 二組 の言 動 を 、 一問 でも って浮 き 彫 り にす る こ と であ る 。 一問 一答 式
の ﹁並 ﹂ の授 業 で は 、 お のず と 四 問 か か る であ ろ う が 、 こ れ を 少 な い問 い で や り 遂 げ る のが 力 量 で あ り 、 授 業 に
落 ち 着 き と ゆと り と が 生 じ る ば か り か 、 作 業 も 導 入 でき て 、 机 間 巡 視 によ って 個 別 指 導 の機 会 も 生 ま れ て く る で
あ ろう 。 そ し て 、話 の中 心 が 後 半 に置 か れ て いる こと が 理 解 でき れ ば 、 授 業 は 、 し ん ぺ い君 と お じ いさ ん と が 異
な る言 動 を と る わ け を 確 か に し 、 さ ら に そ の根 底 に潜 む考 え 方 の相 違 にま で 及 び 、 生 徒 に も 読 み の深 化 が 実 感 で
き る に ち が いな い。 そ れ は 、 ど ち ら が 正 し く て 、 ど ち ら が ま ち が って いる と いう 次 元 では な く 、 両 者 の 人 生 を め
ぐ って 、 感 想 を 発 表 し 合 う こ と にな れ ば 、 作 者 の感 動 ( 主 題 ) に 到 達 でき た と 言 う べ き であ ろ う 。
[ 板書計 画]
[ 発 問 計 画]
①場 面は、ど こで区切 れるか ( 場 所 は 、 ど の よ う に 変 わ って い る か )。 ← し ん ぺ い君 の家 / 山 の麦 畑
② そ れ ぞ れ の場 面 の主 な 登 場 人 物 は 、 だ れ か 。 ← お 父 さ ん ・し ん ぺ い君 / し ん ぺ い君 ・お じ いさ ん ③ そ れ ぞ れ の場 面 の話 題 の 中 心 は 、 何 か 。 ← ( 共 に) 子 牛
④ 三 人 は 、 子 牛 に 対 し てど う いう 立 場 に あ る か (そ れ ぞ れ の立 場 が 、 最 も よ く 表 れ て い る箇 所 は 、 ど こ か )。
← 売 っても ら う / ﹁売 った ら 、 いや だ い﹂、 売 ら な く ても い いよ う に / ﹁売 ら な いこ と に は ﹂
⑤ し ん ぺ い君 が 、 お じ いさ ん の所 へ行 った のは な ぜ か 。 ← 自 分 の立 場 の支 持 ⑥ し ん ぺ い君 は 、 お じ いさ ん の 返事 を ど の よう に受 け と め た か 。 ← 驚 き ・絶 望
⑦ し ん ぺ い君 と お じ いさ ん と は 、 子 牛 を 何 の対 象 と 考 え て いる か 。 ← か わ いが る / お よ め 入 り 道 具 ⑧ し ん ぺ い君 と お じ いさ ん と の 考 え は 、 何 を 根 底 に 据 え て いる か 。 ← 愛 情 / お 金 ⑨ し ん ぺ い君 と お じ いさ ん (お 父 さ ん) の考 え に 、 ど ん な 感 想 を 持 つか 。
︵五︶ 授 業 展 開 の実 際 (2)
次 に引 く 、﹁扇 の的 ﹂ ( 平 家 物 語 ) は、 中 学 の教 科 書 、 あ る いは 、 高 校 の教 科 書 に よ く 採 録 さ れ る が 、 登 場 人 物
は 与 一だ け であ って も 、 話 題 の中 心 の扇 の状 態 に 、 は っき り し た 変 化 が あ って 、 先 の ﹁子 牛 の話 ﹂ と 同 じ く 、 教
材 に鋭 く 切 り 込 ん で 、 問 題を 設 定 す る の に ふ さ わ し い。 そ れ な の に 、 現 代 語 訳 を す る こ と が 古 典 指 導 のす べ て で
あ ると 思 い込 ん で い る国 語 科 教 師 に 、 初 め か ら 順 々 に 、語 釈 ・文 法 の説 明 を 行 い、 通 釈 を し て終 わ る 、 いわ ゆ る
現 在 の 午 後 六 時 ﹂、 ﹁﹃ば か り ﹄ を 文 法 的 に 説 明 せ よ ﹂、 ﹁そ こ ま でを 現 代 語 訳 せ よ ﹂
訓詁 注 釈 が 多 い の は 、 何 と し た こ と であ ろ う か 。 す な わ ち 、 ﹁旧 暦 の ﹃二 月 十 八 日 ﹄ は 、 現 在 の三 月 下 旬 に 当 た る﹂、 ﹁﹃ 酉 の刻 ﹄と は 何 時 か︱
と いう 具 合 に進 ん で いく の であ る。 な る ほど 、 こ の や り 方 でも 、 あ ら す じ は つか め る で あ ろう が 、 与 一が 祈 念 に
込 め た 気 持 ち を と ら え る こ と は 無 理 であ り 、 古 典 の楽 し さ を 味 わ う こと と は 無 縁 で あ る 。
﹁扇の的 ﹂
こ ろ は 二 月 十 八 日 の 酉 の刻 ば か り の こ と な る に 、 を り ふ し 北 風 激 し く て 、 磯 打 つ波 も 高 か り け り 。 舟 は 、 揺 り 上 げ
揺 り す ゑ 漂 へば 、 扇 も く し に 定 ま ら ず ひ ら め いた り 。 沖 に は 平 家 、 舟 を一 面 に 並 べ て 見 物 す 。 陸 に は 源 氏 、 く つば み
を 並 べ て こ れ を 見 る 。 いづ れ も いづ れ も 晴 れ な ら ず と い ふ こ と ぞ な き 。 与一 目 を ふ さ い で ﹁南 無 八 幡 大 菩 薩 、 我 が 国
の神 明 、 日 光 の権 現 、 宇 都 宮 、 那 須 の 湯 泉 大 明 神 、 願 は く は 、 あ の 扇 の 真 ん 中 射 さ せ て た ば せ た ま へ。 こ れ を 射 損 じ
る も の な ら ば 、 弓 切 り 折 り 自 害 し て 、 人 に 二度 面 を 向 か ふ べ か ら ず 。 今 一度 本 国 へ迎 へん と お ぼ し め さ ば 、 こ の 矢 は
づ さ せ た ま ふ な 。﹂ と 心 の う ち に 祈 念 し て 、 目 を 見 開 いた れ ば 風 も 少 し 吹 き 弱 り 、 扇 も 射 よ げ に ぞ な つた り け る 。
登 場 人 物 が 与 一 一人 であ る こ と 、 話 題 の中 心 が 扇 であ る こ と を 読 み 取 る の は 、 そ れ ほ ど の難 事 で は な いは ず で
あ り 、 現 代 語 訳 を 済 ま せ て か ら でな いと 内 容 に切 り 込 めな いと いう 妄 想 は 、 捨 てな け れ ば な ら な い。 も し ﹁扇 の
状 態 は 、初 め と 終 わ り と でど のよ う に変 化 し て いる か ﹂ と 、 いき な り 問 う の が む ず か し いと す れ ば 、 ま ず は﹁ 扇
の状 態 が 描 いて あ る の は ど こ か ﹂ と 問 う て 、﹁扇も く し に 定 ま ら ず ひ ら め いた り ﹂ と﹁ 扇も 射 よ げ にぞ な つた り
け る ﹂ と の 二箇 所 を 引 き 出 せ ば よ い。 そ の 二箇 所 に つ い て は 、 語 釈 ・文 法 の注 釈 を 行 い 、 現 代 語 訳 を 求 め る の で
あ る が 、 先 に 示 し た 訓詁 注 釈 と は 違 って 、 な ぜ そ の部 分 を 現 代 語 訳 し な け れ ば な ら な い かと いう 必 然 性 を 伴 って
いる 。 こ こ に お いて 、 扇 が 、 冒 頭 の ﹁射 にく い﹂ 状 態 か ら 、 末 尾 に お け る ﹁射 やす い﹂ 状 態 に 変 化 し た 、 構 造 の
軸 が 明 ら か に な れ ば 、 な ぜ そ う な った か と いう 、 考 え る べき 問 題 が 設 定 さ れ る こと に な る。
そ の問 題 を 解 明 す る に 当 た って は 、 前 半 部 に 悪 条 件 で あ った も のが 、 後 半 部 で解 消 さ れ た こ と を 押 さ え れ ば よ
いわ け であ る が 、 先 に結 論 的 に 、 ﹁そ の理 由 は いく つあ る か ﹂ と 問 う て 、 黒 板 に 1 ・2 と 番 号 を 書 い てお く のが
効 果 を 上 げ る であ ろ う 。 こ の場 合 は 、 第 一の 理由 であ る 、 ﹁北 風 激 し く て ﹂ と ﹁風 も 少 し 吹 き 弱 り ﹂ と の関 係 を
と ら え る のが 容 易 であ る が 、 も し む ず か し け れ ば 後 回 し に し て、 第 二 の理 由 か ら 読 み取 り が 開 始 で き る か ら で あ
る。 北 風 に よ る舟 の動 揺 が 、 物 理 的 な 理 由 であ る こ と が わ か れ ば 、 ﹁南 無 八 幡 大 菩 薩 ﹂ に 始 ま り 、 ﹁こ の矢 は づ さ
せ た ま ふな ﹂ に 至 る 祈念 が 、 精 神 的 な 理 由 で あ る こ と も 見 定 め ら れ てく る であ ろう 。 こ こ に お い て、 祈 念 の部 分
を 現 代 語 訳 す る と 同 時 に 、 与 一の精 神 に ど のよ う な 働 き を な し た か を 論 議 し 、 そ の体 験 を 語 り 合 う こ と が でき れ
ば 、 授 業 は ま ち が いな く 盛 り 上 が り 、 古 典 が 親 し み や す いも のに な って く る にち が いな い。
[ 板 書計画]
[発問 計 画 ] ① 話 題 の 中 心 は 、何 か 。 ← 扇
② 扇 は 、 初 め と 終 わ り と で 、 ど う いう 状 態 にあ る か 。 ← ( 初 め ) 射 に く い、 ( 終 わり)射 やす い ③ 射 にく か った 扇 が 、 な ぜ 射 や す く な った か 。 ← 風 も 少 し 吹 き 弱 り ④ 風 の ほ か に 、 何 が 悪 条 件 だ った か 。 ← 大 勢 の見 物 ⑤ 大 勢 の 見 物 は 、 な ぜ 悪 条 件 に な るか 。← プ レ ッシ ャー
⑥ 与 一は 、 だ れ に何 を 祈 念 し た のか 。 ← 日 光 の権 現等 。 ﹁射 さ せ た ま へ/ は づ さ せ た ま ふ な ﹂ ⑦ 祈 念 す る と 、 な ぜ 射 よ げ に な る のか 。 ← 心 の落 ち 着 き ⑧ 二 つ の悪 条 件 の解 消 は 、 質 的 に ど う 違 う か 。 ← 物 理 的 、 精 神 的 ⑨ 祈 念 し て心 が 落 ち 着 いた 経 験 は あ る か。
︵六︶授 業 力 の 錬 磨
授 業 力 を 錬 磨 し て いく た め の有 効 な 方 策 は 、 ほ か の先 生 の授 業 を参 観 さ せ ても ら い、 そ の長 所 短 所 を 実 感 す る
こと で あ る が 、 特 に 高 等 学 校 で はそ の機 会 は得 難 い の で あ ろ う 。 ま た 、 自 分 の授 業 を ほ か の先 生 に 参 観 し ても ら
い、 授 業 に 即 し て 具 体 的 な 指 導 を 受 け る こと が で き れ ば 一番 よ いが 、 そ う いう 先 輩 が ど こ に でも い ると いう わ け
に いか な い であ ろ う 。 私 は 、 中 学 生 のこ ろ、 将 棋 に 凝 って いた が 、 近 所 や学 校 に 手 ご わ い相 手 が いな く な ってし
ま い、 母 に ね だ っ て ﹁詰 め将 棋 ﹂ の本 を 買 っても ら い、 朝 か ら 晩 ま で 何 度 でも 駒 を 並 べ替 え て は 、 夢 中 に な った
こと が あ った 。 ﹁詰 め 将 棋 ﹂ の本 が 魅 力 的 であ った の は 、 ど の問 題 に も 必 ず 、 ﹁飛 車 の使 い方 が 大 切 ﹂ と か 、 ﹁三
分 で解 け れ ば 初 段 ﹂ と か 、 着 眼 点 と 棋 力 の 目 安 と が 示 し てあ る こ と であ った 。 高 校 生 にな って 、 私 の 興 味 は 将 棋
か ら 囲 碁 に移 った が 、 雑 誌 に載 せ て あ る棋 譜 を 一人 で並 べ て み る のは 、 と て も 楽 し い こと で あ った 。
昔 の武 芸 者 が 腕 を 磨 く た め に 、道 場 に 入 門 し て稽 古 に 励 んだ よ う に 、授 業 力 を 鍛え るた め に も 、 初 め は し か る
べ き 先 生 に弟 子 入 り し て 、 筋 の い い手 ほ ど き を 受 け る こ と が 肝 心 であ る 。 周 囲 に適 当 な 道 場 や 先 生 が 見 いだ せ な
いと き に は 、 ﹁詰 め 将 棋 ﹂ よ ろ し く 、 ﹁詰 め 発 問 ﹂、 ﹁ 詰 め 板 書 ﹂ の参 考 書 を 買 い求 め て座 右 に 置 き 、 自 分 の発 問 な
り 板 書 な り と 比 べ て、 授 業 力 の向 上 を 図 る のが よ い であ ろう 。 も し 座 右 に 置 いた参 考 書 が 、 一時 間 分 の教 材 に つ
き 、 着 眼 点 と 範 例 と を き ち んと 示 し て いる な ら ば 、 も の の数 回 でも 真 剣 に取 り 組 ん で み る と 、 構 造 的 な 発 問 と 構
造 的 な 板 書 と の、 コツ ら し き も の が 見 え てき て、教 室 に出 か け て いく 足 ど り の 軽 さ を 、実 感 で き る に ち が いな い。
繰 り 返 し て 言 え ば 、意 識 的 な 習 練 で培 った 、 構 造 的 な 発 問 と 構 造 的 な 板 書 と を み ち び く 力 は 、 必 ず 日 々 の 教 室 で
営 む 発 問 や 板 書 に 反 映 さ れ 、 生 徒 に ﹁上 ﹂ の授 業 を 提 供 す る こと に つな が る の であ る 。
考 え て み れ ば 、 わ れ わ れ 国 語 科 教 師 は 、 大 学 の講 義 と 教 育 実 習 と を 通 し て 、 ﹁生 き 物 ﹂ と も 称 さ れ る生 徒 を 相
手 に し た 変 幻 自 在 な 授 業 に 関 し て、 何 ほ ど の基 本 技 術 を 習 得 し て き た と いう の であ ろ う か 。 サ ッカ ー教 室 や水 泳
教 室 に 通 って、サ ッカ ー や水 泳 を 習 って いる 生 徒 よ り も 、体 系 的 な 基 本 技 術 の 習 得 に劣 って い る にも か か わ ら ず 、
そ れ ら の基 本 技 術 を 軽 ん じ る ば かり か 、 高 尚 な 思 想 の形 成 に邪 魔 に な る か のご と く 振 る 舞 って い る の は 、 思 い上
が り も い いと こ ろ で あ る 。 私 は 、 囲 碁 の手 ほ ど き は 、 祖 父 か ら 受 け た が 、 定 石 の大 切 さ を 教 え ら れ る と と も に 、
自 分 の打 った 一局 を 、 後 か ら も う 一度 そ のと お り に並 べ 直 す こ と が でき れ ば 、 初 段 の腕 前 だ と 励 ま さ れ た 。 教 育
の世 界 が 、 囲 碁 と 同 じ よう に論 じ る わ け に いか な いこ と は 知 って い るが 、 国 語 科 教 師 が プ ロ の教 師 で あ る た め に
は 、 人 格 的 な 豊 か さ の ほ か に、 基 本 技 術 を 駆 使 し て 、 高 度 な 授 業 を 展 開 さ せ な け れ ば な ら な い。
こ こ に お い て、 国 語 科 教 師 の陥 って いる も う 一つ の誤 り が 、 授 業 展 開 に お け る 、 確 固と し た 基 本 的 指 導 過 程 に
対 す る無 関 心 にあ る こ と が 明 ら か にな って く る。 基 本 の型 と 言 え ば 、 す ぐ に無 味 乾 燥 な 、 自 由 を 束 縛 す るも のと
受 け と め て 、 拒 否 反 応 を 示 す 先 生 が いる が 、 定 石 を 知 ら な け れ ば 囲 碁 が 打 て な い のと 同 じ よ う に 、 徒 手 空 拳 で
あ って は 、 充 実 し た授 業 展 開 は 期 し 難 いで あ ろう 。 も ち ろ ん 、 一時 間 の授 業 は 、 一斉 授 業 のほ か に グ ルー プ 学 習
な ど 、 一人 一人 の先 生 の個 性 に 合 わ せ て 、 自 由 奔 放 に 多 様 に 展 開 さ れ る べき であ る が 、 そ れ ら は基 本 のパ タ ー ン
を 身 に つけ て い て こ そ 、 花 開く の であ る 。 8 の授 業 力 の先 生 が 、 8 の 授 業 が でき る の に対 し て、 5 の授 業 力 の 先
生 は 、 いく ら が ん ば っても 、 5 の授 業 し か でき な いと いう 絶 対 の真 実 を 肝 に銘 じ 、 生 徒 の 人 生 を 左 右 す る 営 為 に
身 を 置 いて いる 立 場 を 厳 粛 に受 け と め、 一意 専 心 己 れ の授 業 力 の錬 成 に 励 ま な け れ ば な る ま い。
二 国 語科 授 業 の構 築 と 展 開 そ の 2 ︱ 単 元 の編 成 と 展 開 を 軸 と す る
︵一︶ 単 元による学習 指導 の意義 1 ﹁単 元 ﹂ に つ い て
﹁単 元 ﹂ と は ﹁学 習 の ひ と ま と ま り ﹂ であ る 。 単 元 は短 い時 間 に お い ても 長 期 的 な 展 開 に お いても 存 在 す る が 、
一般 に は、 学 習 者 の意 識 に よ って ひ と ま と ま り と 認 識 さ れ る 一連 の学 習 過 程 を も って 単 元 と し て いる。
し た が って、 た と え ば ﹁やま な し ﹂ ( 宮 沢 賢 治 ) を 十 時 間 か け て読 解 学 習 す ると す れ ば 、 そ の十 時 間 は ひ と つ
の単 元 であ る 。 ﹁や ま な し ﹂ を 五 時 間 か け て読 ん だ 後 、 ﹁宮 沢 賢 治 の作 品 を み ん な に紹 介 し よう ﹂ と いう 学 習 を 五
時 間 で 展 開 し た と す れ ば 、お そ ら く 学 習者 に と って は 一連 の学 習 であ ろ う か ら 、そ の合 計 十 時 間 は 単 元と 言 え る 。
学 習 指導 と し て ﹁単 元 ﹂ が 問 題 に な る のは 、 そ れ が ま さ に ﹁学 習者 にと って の学 習 のひ と ま と ま り ﹂ であ る か
ら であ る 。 単 元 は 、 年 間 指 導 計 画 の 下位 項 目 と し て の単 位 の意 味 を 持 つと 同時 に 、 一時 間 の授 業 構 成 の 上位 項 目
と し て の意 味 を 同 時 に有 す る 。 し た が って単 元 は 、 学 習 指 導 計 画 作 成 上 の基 本 単 位 と し て重 要 な意 味 を 持 つこ と とな る。
一般 に教 科 書 は 、 ﹁単 元 ﹂ で 構 成 さ れ て いる 。 し か し そ の内 実 は 、 た と え ば 説 明 的 文 章 が あ り 、 音 声 表 現 の学
習 があ り 、 言 語 事 項 の学 習 が あ り と い った 、 特 に つな が り を 持 た な い学 習 が ま と め ら れ て いる だ け と い った 傾 向
が あ る 。 ま た 、 ﹁社 会 に 目 を 向 け て﹂ な ど の テー マを 単 元 名 と し て設 定 し 、 いく つか の学 習 材 を ま と め る場 合 も
多 いが 、 そ れ ら も ﹁社 会 に 目 を 向 け て﹂ と いう テー マ意 識 が 学 習 者 の中 に つな が って いれ ば 単 元 と 言 え る が 、 そ
う で な い場 合 を 単 元 と は言 いが た い。 教 科 書 で 言 う ﹁単 元 ﹂ は、 単 な る ﹁区 切 り ﹂ で あ る 場 合 が 多 い。
一般 に言 わ れ る ﹁単 元 学 習 ﹂ は 、 いわ ゆ る ﹁発 問 ・応 答 型 ﹂ の 教 授 中 心 の学 習 指 導 に 対 し て 、 学 習 者 主 体 の活
動 型 の学 習 が念 頭 に置 か れ て いると 考 え ら れ る 。 単 元学 習 は 本 来 、 教 師 と 学 習 者 、 ま た 学 習 環 境 が 密 接 に 結 び つ
く 形 で 進 め ら れ る べき も の であ り 、 一般 的 な 学 習 を 想 定 し た 教 科 書 と は、 基 本 的 に相 容 れ な い部 分 を 持 って い る
単元学 習の理念
と も 言 え る。
2
田 近 洵 一氏 は 、 ﹁単 元 と は 何 か ﹂ (﹃単 元 学 習 の 進 め 方 ﹄ 教 育 出 版 一九 八 二 ) に お い て 、 単 元 に つ いて 次 の よ う に 述 べ て いる 。
こ れ ま で 単 元 設 定 に あ た って は 、 次 のよ う な いろ い ろな 立 場 が あ った 。 ① ど ん な 話 題 ( 主 題 ) を 中 心 に 設 定 す る か ⋮ ⋮話 題 ( 主 題)単元
( 活動)単 元
② ど ん な 題 材 (教 材 ) を 中 心 に 設 定 す る か ⋮ ⋮ 題 材 ( 教材 )単元 ③ ど ん な 能 力 の養 成 を 中 心 に 設 定 す る か ⋮ ⋮ 能 力 単 元 ④ ど ん な 言 語 活 動 ・言 語 生 活 を 中 心 に 設 定 す る か ⋮ ⋮ 生 活
今 日、 単 元 学 習 が 求 め ら れ る の は、 そ こ に学 習 者 の立 体 を 回 復 す る 可 能 性 が あ る か ら だ 。 そ のた め に は 言
語 生 活 の ひ と ま と ま り を 学 習 のひ と ま と ま り と し な け れ ば な ら な い。 そ の基 本 的 精 神 の上 に 立 って、 一つ の
単 元 は 、 右 の 四 つの 性 格 を あ わ せ も った も のと し て設 定 さ れ る べき であ ろう 。 す な わ ち 、 特 定 の話 題 を 中 心
に 、 教 材 を 通 し て 一つ の生 活 目 標 を 追 求 す る過 程 にお いて 、 能 力 の育 成 と い った 学 習 目 標 の 達 成 を 図 る のが 単 元 な の で あ る。 (二頁 )
つま り 、 ﹁学 習 のひ と ま と ま り ﹂ と し て の単 元 は 、 そ の単 元 構 成 の主 眼 に さ ま ざ ま な 要 素 を 置 く こ と が で き る
け れ ど も 、 単 元 学 習 と 言 わ れ る も の は 、 そ れ らを 包 括 し て ﹁特 定 の話 題 を 中 心 に 、 教 材 を 通 し て 一つ の生 活 目 標
を 追 求 す る 過 程 に お い て、 能 力 の育 成 と い った 学 習 目 標 の達 成 を 図 る ﹂ 形 で成 立 す る と 言 う の であ る 。
ま た 、大 槻 和 夫 氏 は 、 ﹁単 元 学 習 と 国 語 学 力 の関 係 を 、 ど う 考 え る か ﹂ ( 前 掲 ﹃単 元 学 習 の進 め方 ﹄ 所 収 ) に お い て、 次 のよ う に 述 べ て いる 。
こ こ で 注 意 す べ き こと は 、 ﹁単 元 学 習 ﹂ と いう こ と ば は 、 昭 和 二十 年 代 の、 ﹁経 験 単 元 ・生 活 単 元 ﹂ 学 習 に
つ いて 用 いら れ て お り 、 そ れ 以 外 の類 型 に つ い ては 、 一般 には ﹁ 単 元 学 習﹂ と は 呼 ば れ て いな いと いう こと
であ る 。 し た が って、 今 日 、 あ え て ﹁単 元 学 習 ﹂ と いう 語 を 用 いる と す れ ば 、 今 日 の支 配 的 な 言 語 能 力 ・技
能 主 義 的 国 語 教 育 に対 す る 一定 の 批 判 と し て 、 か つて の ﹁経 験 単 元 ・生 活 単 元 ﹂ 学 習 に 含 ま れ て いた 何 も の
か を 、 い っそ う 発 展 さ せた 形 で提 唱 す る と いう 意 味 を も って いな け れ ば な るま い。 (二 〇 八 ∼ 二 〇 九 頁 )
抽 象 的 で はあ る が 、 ﹁言 語 能 力 ・技 能 主 義 的 国 語 教 育 に対 す る 一定 の 批 判 ﹂、 ﹁か つ て の ﹁経 験 単 元 ・生 活 単 元﹂
学 習 に 含 ま れ て いた 何 も のか ﹂ と いう 部 分 は 、 単 元 学 習 の姿 のと ら え と し て は 注 目 に値 す る。
つけ た つも り で
た だ 、 単 元 学 習 を 先 駆 的 か つ具 体 的 に 実 践 し てき た 大 村 は ま 氏 は 、 ﹁単 元 学 習 の生 成 ﹂ (﹃ 大 村 はま 国語 教室 第 1巻 ﹄ 筑 摩 書 房 一九 八 二) に お い て、 次 のよ う に 述 べ て いる 。
私 は 何 は と も あ れ 、 ほ ん と う の 国 語 力 を 、 人 間 を 人 間 にす る こ と ば の力 を つけ よ う 、︱
な く 、 ほ んと う に つけ よう と 思 っ て、 単 元 学 習 であ る か な いか 考 え る こ と も 忘 れ て 、一 つ 一つの学 習 に 取 り
組 ん で い るう ち に 、 実 際 に は 、 は っき り と 経 験 単 元 ( 生 活 単 元 ) に向 か って いた 。 ( 八頁)
いわ ゆ る ﹁国 語 単 元 学 習 ﹂ が 、 明 確 な 方 法 的 理 念 を 持 って出 発 し た の で は な く 、 実 践 の蓄 積 の中 で方 向 性 が 見
え てき た 性 質 のも の であ る こ と が わ か る 。
こ の よ う にと ら え て み れ ば 、 単 元 学 習 は 一定 の形 を 持 つも の で は な いが 、 言 語 能 力 主 義 ・言 語 技 能 主 義 に 対 置
さ れ る 形 で と ら え ら れ て お り 、 ﹁学 習 者 の 興 味 ・関 心 ・必 要 に 根 ざ す 話 題 を め ぐ って組 織 さ れ る ひ と ま と ま り の
価 値 あ る 活 動 であ り 、 そ れ に よ って こと ば の力 、 学 ぶ力 、 生 き る 力 を 適 正 に 育 て得 る も の﹂ (﹁単 元 学 習 ﹂ ﹃国 語
科 重 要 用 語 3 0 0 の基 礎 知 識 ﹄ 大 槻 和 夫 編 明 治 図 書 二 〇 〇 一) と 考 え る こ と が でき る 。
3 活 動 型 の学 習 指 導 の意 義
今 日 の学 校 教 育 の問 題 を 指 摘 す る こと ば の中 に 、 ﹁学 校 知 と 生 活 知 の乖 離 ﹂ と いう 言 い方 が あ る 。 学 校 で 学 ん
だ こと と 実 生 活 が 結 び つか な い、 学 校 で 学 んだ こ と が 実 生 活 に生 か せ な いと いう こと で あ る。 実 生 活 に生 か せ な い学 び と は ど う いう も の か 。
昭 和 二十 年 代 は 、 経 験 単 元 ・生 活 単 元 が 導 入 さ れ た 時 代 で あ る 。 生 活 ・経 験 の中 で知 識 ・技 能 も 身 に つけ さ せ
よ う と す る も の で あ った 。 し か し そ こ で 行 わ れ た 経 験 単 元 ・生 活 単 元 は 、 結 果 と し て知 識 ・技 能 が 身 に つき に く いと いう 指 摘 の 中 で 、 次 第 に 姿 を 消 し て い った 。
し か し 今 、 ﹁学 校 知 と 生 活 知 の乖 離 ﹂ と いう 現 実 に 対 し て 、 も っと も 有 効 な 方 法 は 、 経 験 単 元 ・生 活 単 元 の発
想 に よ る 学 習 指 導 改 善 であ る と 予想 さ れ る 。 当 然 一方 で 、 ﹁新 単 元 学 習 ﹂ な ど 、昔 の経 験 単 元 ・生 活 単 元 の 過 ち
を 繰 り 返 さ な いた め の検 討 ・実 践 が 行 わ れ て おり 、 そ の成 果 が 大 いに 期 待 さ れ る と こ ろ で あ る 。
た だ 、 私 自 身 は そ う い った 成 果 に期 待 し つ つも 、 次 の よ う に と らえ る こと も 必 要 な の で は な いか と 考 え る 。 す
な わ ち 、昔 は 、 学 習 者 にす で に 十 分 な 生 活 知 が あ った 。 与 え ら れ る の では な く 、 自 分 で 見 つけ 出 し 、 作 り 、 楽 し
む 生 活 が あ った 。 そ の基 盤 の上 に 立 て ば 、 知 識 ・技 能 を 詰 め 込 む 学 習 形 態 で も 、 そ れ な り に 生 活 知 に消 化 し て
い った の で はな いか 。 一般 に は む し ろ昔 の ほう が ﹁読 み書 き そ ろば ん ﹂ と い った こと ば に 代 表 さ れ る よ う な 、 知
識 ・技 能 重 視 の傾 向 は 強 か った と 思 わ れ る。 し か る に今 日 、 学 習 者 の生 活 知 自 体 が 脆 弱 な と こ ろ に 、 知 識 ・技 能
を 切 り 取 って乗 せ て い って も 、 そ れ は 生 活 に 生 き る も の に は な ら な い であ ろう 。 逆 に 、 そ う いう 時 代 の学 習 者 で あ る か ら こ そ 、 学 び を 生 活 化 し て いく 必 要 が あ る の で は な い か。 大 槻 和 夫 氏 は 前 掲 論 文 の中 で 、 さ ら に次 のよ う に述 べ て い る。
以 上 、 ﹁言 語 生 活 重 視 か ら 言 語 教 育 へ、 生 活 単 元 か ら 能 力 単 元 へ﹂ 等 の ス ロ ー ガ ン のも と に 進 め ら れ よう
と し て いる今 日 の国 語 教 育 、 と り わ け そ の結 果 と し て 一部 に 生 じ 、 し だ い に広 が ろう と し て いる 形 式 的 操 作
主 義 ・技 能 主 義 国 語 教 育 の問 題 点 を 、 主 と し て国 語 学 力 論 の視 点 か ら 取 り 上げ て み た 。 要 す る に 、 私 は こ こ で、
① いわ ゆ る 言 語 能 力 ・技 能 主 義 的 国 語 教 育 に は 、 認 識能 力 と 結 び つ いた 国 語 学 力 と いう 国 語 学 力 観 に 貫 か れ て いる と は いえ な い面 が あ る の で は な いか 。
② いわ ゆ る言 語 能 力 ・技 能 主 義 的 国 語 教 育 に は 、 社 会 的 能 力 と し て の言 語 能 力 と いう 国 語 学 力 観 が 不 十 分 で は な いか 。
③ そ の結 果 と し て、 形 式 的 言 語 操 作 主 義 (コト バ 主 義 ) に 陥 る お そ れ が あ る の で はな いか 。
④ いわ ゆ る言 語 能 力 ・技 能 主 義 的 国 語 教 育 に お い てと ら れ る教 科 単 元 は 、学 習 者 の真 に主 体 的 能 動 的 学 習
活 動 を 成 り 立 た せ え な い ので は な いか 。
と いう 四点 を 、 言 語 能 力 ・技 能主 義 的 国語 教 育 の 問 題 点 と し て 提 示 し て み た か った の であ る 。 ( 二一二頁 )
大 槻 氏 は こ こ で ﹁言 語 能 力 ・技 能 主 義 的 国 語 教 育 の問 題 点 ﹂ と 言 って い る が 、 そ れ は当 然 裏 返 し て 言 え ば 、 ﹁単 元学 習 の長 所 ﹂ ま た は ﹁意 義 ﹂ と し て提 示 でき るも の であ る。
国 語 単 元 学 習 は 、 学 習 者 の こ と ば の学 び を 、 人 間 と し て生 き る た め の 言 語 活 動 能 力 と し てと ら え 、 真 に 生 活 に 生 き る も の と す る 方 向 に 向 か う も の であ る 。
さ ら に、 単 元 学 習 に よ る 活 動 的 な 学 習 は 、 知 識 ・技 能 の み な ら ず 、 態 度 ・情 意 の領 域 の育 ち にも 有 効 に 作 用 す る 契 機 を 持 つ の で はな いか 。
安 彦 忠 彦 氏 は 、 ﹃新 学 力 観 と 基 礎 学 力 ﹄ ( 明 治 図 書 一九 九 六 ) で、 ﹁学 力 ﹂ と ﹁能 力 ﹂ に つ いて 、 ① 学 力 は能 力 の 一部 で あ る。 ② 学 力 に は 教 育 課 程 と いう 客 観 的 対 応 物 が あ る。 ③ 学 力 は 意 図 的 ・計 画 的 ・組 織 的 に 育 て ら れ る 文 化 的 能 力 であ る 。 と し た 上 で 、能 力 を 、 ・知 識⇔ 態 度 ・精 密 測 定 可 能⇔ 精 密 測 定 不 可 ( 能) ・顕 在⇔ 潜 在
と いう 三 つ の座 標 軸 で示 し 、 ﹁知 識 ・精 密 測定 可 能 ・顕 在 ﹂ の領 域 にあ た る も のを ﹁学 力 ﹂ と し た 。
知 識 ・技 能 を ﹁教 授 ﹂ す る 学 習 指 導 で は 、 ﹁知 識 ・精 密 測 定 可 能 ・顕 在 ﹂ に相 当 す る 目 標 が 設 定 さ れ 、 そ の達
成 に向 か う 筋 道 が 限 定 さ れ が ち で あ る 。 そ れ は あ る意 味 で は知 識 ・技 能 を 身 に つけ さ せ る効 率 的 な 方 法 で あ り 、
そ の 典 型 は ﹁ド リ ル学 習﹂ か も し れ な い。 し か し 、 そ こ では 、 効 率 的 で はあ っても 、 設定 さ れ た 目 標 以 外 のも の
は 生 ま れ にく い。 つま り ﹁知 識 ・精 密 測 定 可能 ・顕 在 ﹂ 以 外 の領 域 に あ た る も の は、 期 待 さ れ て いな いし 、 育 ち に く いと 考 え ら れ る。
単 元 学 習 に お いて は 、 そ の出 発 の課 題 意 識 が 主 体 的 な も の に な ってお り 、 ま た 、 そ の活 動 の中 で、 教 師 が 予 想
し な いも のが 学 習 者 の中 に生 ま れ る余 地 を 持 つ。 つま り 、 安 彦 氏 の言 う 学 力 以 外 の ﹁能 力 ﹂ に あ た る ﹁態 度 ﹂・ ﹁測 定 不 可 ( 能 )﹂・﹁ 潜 在 ﹂ の部 分 を 耕 す 可 能 性 を 持 つと いう こ と であ る 。
そ れ は あ く ま でも 可 能 性 で あ り 、 そ れ を 過 信 す る こと は単 元 学 習 へ の批 判 に耐 え ら れな く な ると いう 恐 れ は あ
る が 、 そ の可 能 性 を 信 じ る こ と が 、 ま た 、 そ れ を 可 能 性 に と ど め な いよ う な 学 習 指 導 計 画 が 必 要 と さ れ て いる の
で は あ る ま いか 。 そ の こと に よ って こ そ 、 ﹁学 校 知 と 生 活 知 の乖 離 ﹂ の問 題 の解 決 の糸 口 が 見 出 さ れ る と 思 わ れ るのである。
︵二︶ 単 元 の編 成 1 単 元 の類 型
﹁社 会 見 学 ﹂ な ど のよ う に 、 生 活 経 験 を 中 心 に 展 開 さ れ る 単 元 。
単 元 学 習 を 念 頭 に置 いた 単 元 の 構 成 と し て は 、 次 の よ う な 類 型 が 考 え ら れ る 。 ア 経 験 (生 活 ) 単 元︱
イ 活 動 単 元−
﹁戦 争 と 人 間 ﹂ な ど のよ う に 、 話 題 ( 主 題 ) に沿 った 学 習 材 ( 複 数 の場合 がある)
﹁学 校 案 内 パ ン フ レ ット を 作 ろう ﹂ な ど の よ う に、 活 動 目 的 に従 って展 開 さ れ る単 元 。
ウ 話 題 (主 題 ) 単 元− で 展 開 さ れ る単 元 。
そ の ほ か 、 学 習 のひ と ま と ま り と し て は 、 ﹁白 いぼ う し ﹂ (あ ま ん き み こ ) な ど の学 習 材 を 読 み と る こ と を ひ と
ま と ま り と す る ﹁教 材 単 元 ﹂、 ﹁段 落 の構 成 に 気 を つけ て 書 く ﹂ な ど の学 習 内 容 を ひ と ま と ま り と し て展 開 す る
﹁教 科 単 元 ﹂ な ど が あ る が 、 これ ら は いわ ゆ る単 元 学 習 と し ては 認 知 さ れ にく いも の で あ る 。
2 単 元 の構 成 要 素
単 元 学 習 を 成 立 さ せ る た め に、 ど のよ う な 単 元 の構 成 要 素 が 必 要 な の であ ろ う か。 一つに は 、 学 習 者 主 体 を 保 障 す る た め の、 課 題 意 識 の成 立 と いう 点 が あ る 。
学 習 者 の 興 味 ・関 心 、 学 力 実 態 を も と に 、 ﹁や って み た い﹂、 ﹁知 り た い﹂ と 思 わ せ る よ う な 導 入 と な る こと が 求 めら れ る 。 そ の こ と に よ って、 課 題意 識 が 高 ま り 、 学 習 が 主 体 化 、 意 欲 化 す る 。
と こ ろ で 、 導 入 に あ た って教 師 は 、 既 に 学 習 者 に は 固 定 的 な ﹁興 味 ・関 心 ﹂ が あ る よう に 思 い が ち であ る。 興
味 ・関 心 を そ の時 点 で と ら え 、 導 入 に 生 か そ う と す る 。 そ れ は そ れ で意 味 のな い こと で は な いが 、 ﹁す で にあ る
興 味 ・関心 ﹂ と と らえ た と き に 、 学 習 指 導 は 限 定 さ れ た も の に な って し ま いは し な いか 。 あ る 話 題 で単 元 を 編 成
し よ う と し た と き 、そ の話 題 に つ いて事 前 に何 気 な く 資 料 を 提 示 し て お く な ど 、長 期 的 に ﹁興 味 ・関 心 を 育 て る ﹂ こ と も 考 え ら れ て よ い。
あ る 実 践 で は 、 ﹁一つ の花 ﹂ ( 今 西 祐 行 ) の学 習 に は ﹁コ ス モ ス ﹂ のイ メ ー ジ が 必 要 だ と 考 え て、 学 級 花 壇 に コ
ス モ ス の種 を ま き 、 そ れ が 咲 い て か ら﹁一 つの 花 ﹂ の学 習 に入 った と いう 。 こ れ は 、 ﹁興 味 ・関 心 ﹂ と は 多 少 違
う レ ベ ル であ る が 、 こう い った 長 期 的 な 計 画 の 中 で 、 あ る 話 題 に つ い て継 続 し て 話 を す る な ど し て 、 興 味 を 育 て
て いく こと も 必 要 な こと で あ る 。 本 格 的 な 単 元 を 展 開 し よ う と す れ ば ﹁興 味 ・関 心 も 育 て る﹂ と い った 長 期 的 な 見 通 し が 必 要 な こ と は 当 然 生 じ る。
短 期 的 な 導 入 を 図 る と き に、 従 来 よ く 行 わ れ た の は、 説 明 文 の 学 習 材 を 読 ん で、 そ の後 そ の 話 題 に つ い て調 べ
た り 発 表 し た り し よ う と いう も ので あ る 。 活 動 型 の学 習 に 入 る た め の導 入 と し て読 み の学 習 材 を 用 い て いる こと
に な る 。 こ れ は 一見 単 元 的 な 展 開 のよ う に 思 わ れ る が 、 読 み の学 習 材 が、 あ る 意 味 で 動 機 付 け 、 意 識 喚 起 の働 き
し か し て いな い こと に な る 。 そ のよ う に割 り 切 って 用 い て いる の であ れば そ れ は 考 え 方 であ る が 、 実 際 に は 読 む
こ と の学 習 は 本 格 的 に は な さ れ て いな いの に 、 そ の 学 習 材 を 読 ん だ 時 間を 読 む こと の学 習 時 間 と 位 置 づ け て い る こ と が 多 い。
ま た 逆 に 、 た と え ば 説 明 的 な 文 章 を 、 段 落 分 け に 始 ま る典 型 パ タ ー ン の形 で扱 った 後 、 調 べ 学 習 に 入 る と いう
こ と も あ る 。 こ の 場 合 は 、 実 は 前 後 半 が 完 全 に 分 離 し て い る わ け であ り 、 う ま く 導 入 し た と は 言 え な いも の と な って いる 。
む ろ ん 、 た と え ば ﹁今 度 隣 の学 校 と 交 流 会 を 開 こ う と 思 う け れ ど も 、 ど う 思 いま す か ﹂ な ど の よう に 、 活 動 そ
のも のを 提 示 す る こ と が そ のま ま 導 入 に な る こと も あ る 。 そ の場 合 は 、 活 動 そ のも の の魅 力 を 学 習 者 に ど う 提 示
し 、 そ れ を 学 習 者 が ど う 感 じ る か が 問 題 と な る。 こ の点 は次 の 二 つ目 の問 題 に つな が る。
二 つに は 、 確 か な 目 的 的 活 動 が 提 示 さ れ 、 学 習者 にそ の活 動 結 果 (成 果 ) へ の見 通 しと 期 待 感 が存 在 す る こ と であ る 。
簡 単 に 言 え ば 、 活 動 が明 確 で面 白 そ う であ れ ば 、 ひと まず 学 習 者 は 活 動 を 始 め る。 あ る いは 、活 動 結 果 に 意 味 が あ る と す れ ば 、 活 動 を 始 め る と いう こと であ る 。
た と え ば 、 学 校 案 内 パ ン フ レ ット を 作 ろ う と いう 活 動 単 元 を 提 示 し た と き 、 学 校 案 内 パ ン フレ ット を 作 る こ と
自 体 に 学 習 者 が 興 味 を 感 じ る こと が で き れ ば よ い。 あ る いは 、 そ の パ ン フ レ ット を 公 民館 に置 いた り 、 来 年 中 学
校 に入 ってく る後 輩 に 渡 す と いう こと に 意 味 を 見 出 し た り す る こと が で き れ ば よ いと いう こと であ る 。
三 つに は 、 学 習 活 動 の中 で 、 ﹁ 読 む ・書 く ・聞 く ・話 す ﹂ の学 習 活 動 が 、 切 実 に 展 開 さ れ る こ と であ る 。
実 際 に 動 機 付 け が適 切 に行 わ れ 、 学 習 者 が 動 き 出 し た と き 、 活 動 に よ って さ ま ざ ま な 内 実 は あ ろ う が 、 基 本 的
に は そ の 活 動 が 必 然 性 を 持 った 言 語 活 動 と な って いく 。 たと え ば 、何 を 調 べ る か を 話 し合 う 、 資 料 と し て の本 を
探 す 、 資 料 を き ち ん と 読 み 取 る 、 読 み取 った 内 容 を メ モ し 、 再 構 成 す る 、 事 実 を 知 るた め に 人 に聞 き に行 く 、 御 礼 の手 紙 を 出 す な ど の活 動 が 必 然 性 を 持 って展 開す る の であ る 。
む ろ ん 、 読 む ・書 く ・聞 く ・話 す がす べ て同 じ意 味 合 いで 展 開 す る の では な く 、 お のず か ら 軽 重 は あ る に し て
も 、 そ の 言 語 活 動 に意 味 が あ る こと で 、 活 動 が 学 習 であ ると 同 時 に生 活 と な る。 国 語 単 元 学 習 で は そ れ は ﹁実 の 場 ﹂ と 呼 ば れ 、 単 元 学 習 の必 要 条 件 と と ら え ら れ て いる 。
四 つに は 、学 習 活 動 の中 で身 に つけ ら れ る 知 識 ・技 能 ・態 度 が 、教 師 の側 に 明 確 に 認 識 さ れ て いる こと で あ る。
単 元 学 習 あ る いは 活 動 型 の 学 習 に 対 す る 批 判 の中 心 は 、 ﹁活 動 あ って学 習 な し ﹂ と いう も の で あ った 。 楽 し そ
う に い ろ いろ と 活 動 し て い るけ れ ど も 、 そ れ は す で に 持 って いる 能 力 (レ デ ィネ ス) の範 囲 で 活 動 し て い る に 過
ぎ な い の で は な い か。 そ こ で新 た に 獲 得 す る 学 力 が 何 か が 明 確 で は な いと いう も ので あ る 。事 実 、 活 動 は し て い
る も の の、 そ こか ら 何 が 学 習 者 に 生 ま れ て いる のか が 見 え て こ な いよ う な 学 習 が な いと は 言 え な い。
私 自 身 は 、 た と え そ れ が 明 確 では な いに し ても 、 切 実 な 活 動 体 験 の 中 か ら は生 産 的 な 何 か が 必 ず 生 ま れ てく る
も の であ る と 考 え て い るが 、 し か し 、 学 校 教 育 に お け る 学 習 の計 画 性 ・系 統 性 ・体 系 性 を 考 え ると 、 そ の よう な 期 待 に身 を ゆだ ね て い るば か り では いけ な いのも 事 実 であ る 。
活 動 展 開 のど の場 面 でど のよ う な 力 が 身 に つく のか 、 あ る いは ど の場 面 が力 が 身 に つく 契 機 と な る の か 、 さ ら
に いえ ば 、 ど の 場 面 でど のよ う な 力 を つけ よう と 考 え て 具 体 的 な 支 援 を 行 う のか が 、 明 確 に教 師 に 意 識 さ れ て い る必 要 が あ る。
こ の点 で注 意 し な け れ ば な ら な い こと は、 そ う い った ﹁身 に つく 力 ﹂ が 、 教 師 にも 学 習 者 にも 共 通 に意 識 さ れ
な け れ ば な ら な いか 、 学 習 者 個 々 に 共 通 のも の でな け れ ば な ら な いか と いう こ と であ る 。
学 習 者 は た と え ば ﹁学 校 案 内 パ ン フ レ ット ﹂ を 立 派 に 作 ろう と す る 。 そ れ は 学 習 者 に と って の明 確 な 目 標 であ
る 。 し か し 教 師 の側 で は 、 ﹁学 校 案 内 パ ン フ レ ット ﹂ を 立 派 に 作 る こと は 最 終 の形 であ る に し ても 、 そ の過 程 で、
﹁制 作 のた め の話 し 合 いが き ち ん と で き る ﹂、﹁図 書 室 の利 用 の仕 方 が わ か る ﹂、﹁イ ン タ ビ ュー の マナ ー が わ か る﹂、
﹁メ モを と り な が ら 話 を 聞 く こと が でき る ﹂、 ﹁調 べた 事 実 を 相 手 を 意 識 し て わ か り や す く 記 す こと が で き る ﹂ な
ど の具 体 的 な 力 を 想 定 ・期 待 し 、 そ の場 で 具 体 的 な 支 援 が 考 え ら れ る こ と に な る 。 学 習 者 の目 標 と 教 師 の側 の ね
ら い の位 相 の違 い が生 ま れ ると いう こと で あ る 。 こ の学 習 者 と 教 師 の 目標 のず れ を 、 世 羅 博 昭 氏 は ﹁目 標 の 二重
構 造 ﹂ と 呼 び 、 単 元学 習 の特 徴 と と ら え て いる 。 こ のず れ が 教 師 に意 識 さ れ て いな いと き 、 活 動 は 単 な る 活 動 に 終 わ り がち に な る。
以 上 見 て き た よ う に 、 単 元学 習 に お いて は ﹁課 題 意 識 ﹂、 ﹁活 動 性 ﹂、 ﹁目 的 性 ﹂、 ﹁学 力 ﹂ が 明 確 に な って は じ め
て 学 習 が 成 立 す る と と も に 、 そ こ で身 に つけ た も の が 生 き て働 く こと に な る の で あ る 。
︵三︶ 単 元の展開 1 大 村 は ま 氏 に よ る 単 元 展 開 例
山 元 悦 子 氏 は 、大 村 は ま 氏 に よ る単 元 学 習 ﹁明 治 ・大 正 ・昭 和 の作 文 のあ ゆ み﹂ (﹃ 大 村 は ま 国 語 教 室 第 4巻 ﹄
参 照 筑 摩 書 房 一九 八 三 ) を 取 り 上 げ 、 そ の単 元 の構 造 を 表 と し て 明 示 し て いる (﹁国 語 科 授 業 の構 造 ﹂ ﹃ 国語
教 育 を 学 ぶ 人 の た め に﹄ 所 収 世 界 思 想 社 一九 九 五 )。 そ の 展 開 に あ た る 部 分 を 論 者 の 必 要 に応 じ て 取 り 出 す と 次 の よう に な る 。
れる 。
[ 注] 表 中 の ﹁# ﹂ の と こ ろ で は 、 ﹁学 習 計 画 表 ﹂ が 用 い ら れ る 。 ま た ﹁*﹂ の と こ ろ で は 、 ﹁学 習 の 手 引 き ﹂ が 用 いら
山 元 氏 は 、 こ の学 習 を ﹁明 治 期 か ら 昭 和 期 ま で の児 童 生 徒 の作 文 を 資 料 に、 そ れ ぞ れ の時 代 の子 ども の姿 や考
え 方 、 文 章 等 の研 究 を グ ル ー プ ご と に行 い、 成 果 を 発 表 す る と いう も の であ る﹂ と 紹 介 し た 上 で、 次 のよ う に指 摘 し て いる 。
テ ー マを め ぐ って 展 開 す る 単 元 学 習 は 、 表 面 上 は 目 的 を 持 った主 体 的 な 言 語 活 動 に よ る内 容 追 究 学 習 であ
る 。 そ し てそ の過 程 で、 言 語 技 術 の指 導 を は か ろ う と す る の であ る 。 そ こ で は 、 必 然 性 が 自 覚 さ れ た 言 語 技
言 語 運 用 能 力 であ る 。 (二三 二頁 )
術 学 習 (学 習 方 法 の 学 習 ) が 成 立 しう る 。 ま た 、 そ れ だ け では な く 、 む し ろ そ こ で練 ら れ る 中 心 的 な 言 語 能 力 は 、 総 合 的 な 言 語 能 力︱
こ こ に単 元 学 習 展 開 に か か わ る 根 本 の 理 念 が あ る と 言 う こ と が でき る 。
2 目 的 意 識 ・動 機 付 け の問 題
前 項 でも 述 べた よう に 、 単 元 的 な 学 習 展 開 は 、 学 習 者 の目 的 意 識 ・課 題 意 識 に 支 え ら れ て い るが 、 こ の表 を 見
る と 、 特 に 構 想 段 階 で 、 動 機 付 け が 可 能 か ど う か の吟 味 が 十 分 に 行 わ れ て い る こ と が よ く わ か る。
目 的 意 識 ・課 題 意 識 の形 成 に あ た って は 、 長 期 に わ た って話 題 に つ いて の関 心 を 育 て る よう な 計 画 性 と 、 学 習
の導 入 時 に お け る期 待 感 の喚 起 と いう 、 長期 ・短 期 の支 援 計 画 が 必 要 であ る こと も 理 解 さ れ る 。
学 習 の手 引 き ・モデ ル提 示
む ろ ん、 学 習 の展 開 の途 中 でも 、 意 欲 を 減 じ さ せ な い、 さ ら に 意 欲 化 す る た め の支 援 が な さ れ な く て は な らな い。
3
大村 単 元 学 習 にお いて は 、 学 習 の展 開 のた め に ﹁学 習 の手 引 き ﹂ が 多 用 さ れ る。 表 中 に 示 さ れ た ﹁# 学 習 計 画
表 ﹂ ﹁*学 習 の手 引 き ﹂ は 、 展 開 の折 々 に 工夫 さ れ 、 学 習 を 確 か な も の に し て いる 。
(レ デ ィ ネ ス ) の範 囲 で活 動 し が ち に な る 。 そ の結 果 、 ﹁活 動 あ って 学 習 な し ﹂ と 言 わ れ る 学 習
いく ら 学 習 目 標 を 明確 に し て意 欲 化 し ても 、 そ のま ま で学 習者 に 預 け た の で は 、 学 習 者 は そ のと き す で に 有 し て い る自 分 の力 活 動 に終 わ る と いう 問 題 が 生 じ る こと と な る 。
学 習 の手 引 き は、 そ う い った 問 題 の解 決 のた め に 工 夫 さ れ るも の であ り 、 次 の よ う な 機 能 を 有 す ると 考 え ら れ る。 ・学 習 活 動 の見 通 し を 立 て る ( 計 画 表 な ど )。 ・学 習 内 容 の モ デ ル を 提 示 す る (﹁話 し 合 い の仕 方 の 例 ﹂ な ど )。 ・身 に つけ る べき 技 能 を 提 示 し 、 定 着 を は か る ( ﹁メ モ の取 り 方 ﹂ な ど )。 ・活 動 展 開 の折 々 に 評 価 す る ( 感 想 ・気 づ き や相 互 評 価 な ど )。 ・学 習 記 録 と な る ( 手 引 き へ の書 き 込 み な ど )。
こ の う ち 、 ﹁見 通 し ﹂、 ﹁技 能 の定 着 ﹂、 ﹁学 習 記 録 ﹂ は 特 に重 要 な 機 能 で あ る 。 こ れ ら の 機 能 に よ って 、 活 動 が 学 習 と し て 位 置 づ け ら れ る こ と にな る 。
ま た 、 活 動 形 態 や 完 成 形 を モ デ ルと し て示 す こ と は 、 活 動 が 日 常 的 な も の で な い場 合 に 、 活 動 の 見 通 し を 立 て
さ せ た り 、 結 果 へ の期 待 感 を 持 た せ たり す る 点 で 、 大 き な 意 味 を 持 つ。 モ デ ル と し て示 さ な い方 が よ い場 合 、 一
部 を 示 す 場 合 、 例 と し て全 体 を 示 す 場 合 を 、 学 習 者 の現 状 に 照 ら し て 判 断 す る 必 要 が あ る 。
4 達 成 感 と 評価
表 の ﹁発 展 段 階 ﹂ に は 、 ﹁達 成 事 項 定 着 度 の診 断 ﹂、 ﹁単 元 の学 習 を 振 り 返 って達 成 感 と 課 題 意 識 を 持 つ﹂ と 記
さ れ て いる 。 こ れ は 、 授 業 者 と 学 習 者 に よ る ﹁評 価 ﹂ の問 題 と と ら え る こと も で き る 。
経 験 的 ・活 動 的 な 学 習 で は特 に、 学 習 後 の達 成 感 ・充 実 感 は 重 要 な 問 題 であ る 。 そ の達 成 感 がな け れ ば 、 学 習
実 感 が わ き にく いし 、 次 の活 動 への意 欲 も 喚 起 さ れ にく い。 ま た 、本 来 学 習 は 次 の課 題 を 生 む も の であ る べ き で
あ り 、 特 に 活 動 型 の学 習 の場 合 、 活 動 の中 か ら自 分 な り の次 の疑 問 や 課 題 が生 じ てく るも のだ と 考 え ら れ る 。 そ
れ を 単 元 のま と め と し て自 覚 さ せ る こ と は 、 子 ど も の学 び の発 展 と いう 点 で大 き な 意 味 を 持 つ。
ま た 、 単 元 学 習 は 、 個 別 化 ・主 体 化 の傾 向 が 強 い の で 、 一斉 の テ スト 的 な 評 価 が 難 しく な る 。 し か し 逆 に 、 そ
う いう 学 習 展 開 ・形 態 であ る か ら こ そ 、 何 が 学 習 と し て定 着 し た かを き ち んと 見 極 め な け れ ば 、 単 に 活 動 し た だ
け と いう 、 いわ ゆ る ﹁這 い回 る 経 験 主 義 ﹂ と 批 判 さ れ た 学 習 を 脱 却 し た と は言 い難 い。 活 動 そ のも の にた よ る の
で はな く 、 そ こ で 何 が ど う 身 に つ いた のか を 見 て いく 手 だ て が 必 要 で あ る。 そ の定 着 を 支 え る の が 、 前 述 の ﹁学
習 の手 引 き ﹂ で あ り 、 そ の確 か め の根 拠 と な る のが 、 大 村 単 元 学 習 に お い て は ﹁学 習 記 録 ﹂ であ る 。
大 村 氏 の実 践 は 、 そ の展 開 も さ る こ と な が ら 、 学 習 記 録 のも つ意 義 を 十 全 に 発 揮 さ せ た こと でも 特 筆 す べ き も
の であ る 。 大 村 実 践 の学 習 記 録 は 、 優 れ た ポ ー ト フ ォ リ オ で あ ると も 言 え 、 学 習 の達 成 感 、 学 習 の 自 己 評 価 、 学
習 の 教 師 評 価 等 に 大 き く 寄 与 す る も の であ る 。 学 習 記 録 に つ い て は 、 ﹃ 大 村 は ま 国 語 教 室 第 12巻 ﹄ ( 筑 摩書 房
一九 八 三 )、 ま た 、 野 地 潤 家 ﹃大 村 は ま 国 語 教室 の探 究 ﹄ ( 共 文 社 一九 九 三 )、 橋 本 暢 夫 ﹃大 村 はま ﹁国 語 教 室 ﹂ に学 ぶ﹄ (溪水 社 二 〇 〇 一) 等 に 詳 し く 、 学 ぶ べき も のが 大 き い。
お わ り に
大 村 は ま 氏 の実 践 を 念 頭 に、 単 元 によ る 学 習 方 法 に つ い て言 及 し た 。 繰 り 返 し に な る が 、単 元 学 習 の定 義 は 曖
昧 で あ る。 あ る 意 味 で は 、 多 様 な方 法 が 試 み ら れ れ ば よ いと 言 え る。 た だ 、 単 元 に よ る学 習 は 、 子 ど も 主 体 で あ
教 室 で 学 ぶ " と いう こと ﹂ ( 前 掲 ﹃大 村 は ま 国 語 教 室 の探 究 ﹄ 所 収 )
る こと と 、 子 ど も 主 体 を 支 え る 教 師 の力 量 が 要 請 さ れ る こと は 、 欠 いて は な ら な い視 点 であ る 。 野 地 潤 家 氏 は ﹁大 村 は ま 教 室 の秘 奥︱"
と いう 論 考 を 、﹁一 子 ど も を 知 る と いう こ と ﹂、 ﹁二 子 ど も を 多 角 的 にと ら え る ﹂、 ﹁三 教 師 と し て の器 量 と
苦 闘 と 希 望 ﹂と いう 小 見 出 し で構 成 さ れ て いる 。こ れ は 、大 村 氏 を 取 り 上 げ つ つ、
愛 情 ﹂、 ﹁四 創 意 工夫 の根 基 に あ る も の﹂、 ﹁五 話 す こと の 精 進 と 会 得 と ﹂、 ﹁六 お 母 さ ま 方 に望 む こと ﹂、 ﹁七 こ と ば の実 力 を 身 に つけ る︱
単 元 に よ る 学 習 を 展 開 ・成 立 さ せ る た め の教 師 の力 量 を 示 さ れ た も の と 考 え ら れ る 。
定 式 化 し た 学 習 を 脱 却 し て 、 子 ど も 主 体 の学 習 を 支 え る た め に 、 教 師 の力 量 の 問 題 が大 き い こと を 、 改 め て 確 認させ られる。
主要参考 文献 安 彦 忠彦 ﹃ 新 学力 観と 基礎 学力 ﹄明 治図 書 一九九 六 糸 井 通浩 ・植 山俊 宏編 ﹃ 国 語教 育を 学 ぶ人 のた め に﹄ 世 界思想 社 一九九 五 大村 はま ﹃ 大 村は ま 国語教 室﹄ 筑摩 書房 一九 八三 倉 澤 栄吉 他編 ﹃ 単 元学 習 の進 め方﹄ 教育 出版 一九 八 二 倉 澤 栄吉 ﹃ 解 説 国語 単 元学 習﹄東 洋館 出版 社 一九九 三 桑原 隆 ﹃ホー ル ・ラ ンゲ ージ﹄ 国 土社 一九九 二 桑原 正夫 ﹃ 子 ども の側に立 つ国語科 単 元学 習 の展開﹄ 新 光閣 一九七 七
溪
日本 国語 教育 学会 ﹃国語 単元 学習 の新 展開﹄ 東 洋館 出版 社 一九 九 一 野 地潤家 ﹃ 大 村 はま 国語 教室 の探 究﹄ 共文 社 一九 九 三 橋 本暢夫 ﹃ 大 村 はま ﹁国 語教 室﹂ に学 ぶ﹄ 浜 本純逸 ﹃国語 新単 元学 習論﹄ 明 治 図書 一九 九七
水 社 二〇〇 一
一
第 五章 国 語 科 授業 の構 築 ・研 究 の集 積 と 深化
は じ め に
豊 か な 、 魅 力 あ る 国 語 科 授 業 の創 造 が 、 今 切 実 に求 め ら れ て いる 。 豊 か な 、 魅 力 あ る 国 語 の 授 業 と は 、 一つに
は 、 学 習 者 が主 体 的 に参 加 し 、 生 き 生 き と 取 り 組 む 中 で 、 何 事 か を 発 見 し 、 認 識 ( 感 動)を深 め、充実感 、達成
感 を 得 る こと の でき る授 業 であ る 。 ま た 一つに は 、 一連 の学 習 の過 程 で、 将 来 にわ た って こと ば を と お し て豊 か
に生 き る た め の、 話 す こ と ・聞 く こ と ・書 く こと ・読 む こと に か か わ る国 語 の力 を 身 に つけ る こと の で き る 授 業
で あ る 。 し か し 、 こ の よ う な 授 業 を 構 築 す る こ と は容 易 な こ と で は な い。 授 業 の根 底 に 、 学 習 者 の認 識 を 深 め 、
こ と ば を と お し て豊 か に 生 き る力 を 育 て た いと す る授 業 者 の思 いが な け れ ば 、 実 り あ る 授 業 を 創 造 す る こと は難
し い。 そ の よう な 思 いを 強 く 持 し つ つ、 先 行 の理 論 と 実 践 に謙 虚 に 学 び 、 創 意 工夫 し て授 業 を 試 み 、 さ ら に省 察
( お よ び学 習 者 集 団 ) の実 態 を 把 握 す る こ と が 肝 要 であ ろう 。 学 習者
を 加 え て よ り よ い授 業 を 構 想 し 実 践 す る 。授 業 と 研 究 の深 化 は 、こ のよ う な 営 み の集 積 に よ って のみ 可 能 と な る 。
国語科授業 の構築
授 業 の構 築 に あ た って は 、 ま ず 、 学 習 者
を 取 り 囲 む 言 語 環 境 にも 目 を 配 り つ つ、 学 習 者 の興 味 ・関 心 、 国 語 学 力 、 も のご と に 関 す る認 識 の実 態 を と ら え
( 国語学 力と認識 に関す る
る。 授 業 は 、 こ の把 握 し た 学 習 者 の 実 態 に配 慮 し て構 想 し 、 実 践 す る こと に な る。 学 習 者 の実 態 を 授 業 構 想 に生
か す た め に は 、 授 業 者 が 発 達 段 階 に 応 じ た 、 あ る べき 国 語 の学 力 と 認 識 に 関 す る基 準
体 系 的 認 識 ) を 持 って いる こと が必 要 であ る 。 授 業 の構 築 は 、 学 習 者 の実 態 を そ の 基 準 と 比 較 し 、 不 十 分 だ と 考
え ら れ る 学 力 と 認 識 を 育 む こと を 目 指 し 、 学 習 者 の 興 味 ・関 心 に 配 慮 し て な さ れ る こ と にな る 。 授 業 を 構 築 す る た め に 、 授 業 者 に は 学 習 者 の実 態 を 把 握 す る 力 が 必 要 と な ろう 。
教 材 も 、 把 握 し た 学 習 者 の実 態 把 握 に基 づ い て、 興 味 ・関 心 を 高 め 、 学 力 を 育 て 、 認 識 を 深 め る た め に 最 も 適
切 だ と 思 わ れ るも のを 選 ぶ こと が 望 ま し い。 指 導 過 程 や 指 導 段 階 に 応 じ た 教 材 、 言 語 活 動 の た め の教 材 の選 定 、
開 発 も 行 いた い。 実 際 に は 、 教 科 書 教 材 を 用 い て授 業 を 行 う こと が 多 いで あ ろう 。 し か し 、 そ の場 合 で も 、 学 習
者 の実 態 と 指 導 目 標 に合 わ せ て教 材 研 究 を 行 い、新 た に 教 材 の価 値 を 見 いだ し て いく こ と が 必 要 であ ろう 。ま た 、
導 入 教 材 や発 展 教 材 の 開 発 、 学 習者 の表 現 の教 材 化 も 試 みた い。 授 業 者 に は 、 教 材 の価 値 を 見 抜 く 力 、 開 発 す る 力 が求めら れる。
( 狭 義 ) を 工 夫 し た い。 指 導 過 程 の導 入 で は 、 興 味 ・関 心 を 十 分 に育 て、
授 業 を 構 想 す る にあ た っては 、 学 習 者 の実 態 に 配慮 し 、 教 材 の価 値 を 生 か し て 、 魅 力 あ る 、 豊 か な授 業 と な る よう、指導 過程 、指導形 態、指 導方法
問 題 意 識 を 持 た せ る こ と が 大 切 で あ る。 学 習 目 標 や 学 習 計 画 に つ い ても し っか り と 理 解 さ せ た い。 学 習 者 自 身 に
学 習 計 画 を 立 てさ せ る こ と も 考 え ら れ る 。 展 開 は 、 基 本 ← 応 用 ← 発 展 と いう 過 程 を 基 本 軸 に 据 え た い。 基 本 軸 の
そ れ ぞ れ に 一斉 、 班 別 、 個 別 と い った 指 導 形 態 を 組 み 合 わ せ 、主 体 的 学 習 に 導 き 、 一連 の 学 習 を と お し て認 識 を
深 め 、 学 力 を 高 め ら れ る よ う 工夫 す る。 ま と め で は 、 深 ま った 認 識 を 表 現 を と お し て 定 着 さ せ る。 ま た 、 授 業 の
感 想 ・反 省 によ って 学 習 を 見 つめ さ せ た り 、 授 業 を 契 機 と し て、 さ ら に 学 び た いと 考 え た こ と な ど も 書 か せ 、 学
習 の視 野 を 絶 え ず 広 げ た い。 指 導 方 法 と し て は 、 主 題 に基 づ く 展 開 、 表 現 と 理 解 の関 連 づ け 、 発 問 の工 夫 と 構 造
的 な 板 書 、 学 習 の手 引 き 、 学 習 の記 録 、 学 習 課 題 プ リ ン ト 、 学 習 者 相 互 の交 流 の場 作 り な ど が あ ろ う 。 こ こ に 述
べ た指 導 過 程 、 指導 形 態 、 指 導 方 法 を 創 造 的 に 取 り 入 れ 、 優 れ た 授 業 を 構 想 す る 力 が授 業 者 に は常 に求 め ら れ て いると いえ る。
( 狭 義 ) が 求 め ら れ る 。 授 業 を 展 開す る にあ た っては 、 学 習 実 態 を 把 握 し つ
つ い で、 授 業 構 想 は実 践 に移 さ れ る こと に な る 。 国 語 教 育 は、 授 業 と し て 実 践 に 移 さ れ て初 め て現 実 に 立 ち 現 れ る 。 授 業 者 に は 、 高 い授 業 実 践力
つ、 授 業 構 想 を 実 践 に 生 か す べ く 、 教 材 を 用 意 し 、学 習 者 を 積 極 的 に学 習 に参 加 さ せ る こと を 目 指 し て 、 説 明 ・
指 示 ・発 問 ・範 読 ( 朗 読 )・講 話 ・評 価 、 と き に は 説 諭 ・叱 正 な ど を 行 う 。 授 業 場 面 に応 じ た 即 決 的 な 音 声 表 現
力 を 必 要 と す る と いえ る 。 ま た 、 授 業 を 行 い つ つ授 業 を 反 省 的 に と ら え 、 学 習 実 態 に 応 じ て、 授 業 構 想 を 修 正 し
て 実 践 し て いく 必 要 も 生 じ る 。 授 業 者 に は 絶 え ず 即 決 ・実 行 す る 力 が 求 め ら れ て いる と いえ よ う 。
授 業 は 、評 価 によ って 意 義 づ け ら れ 、改 善 さ れ る 。授 業 の進 行 に 応 じ て 即 時 的 に評 価 す る こ と も 必 要 で あ る が 、
授 業 の全 体 を 学 習 の実 態 も 含 め て で き る だ け 記 録 を と り 、事 実 に基 づ い て評 価 す る こと が 大 切 であ る 。 評 価 は 二
つの観 点 か ら な さ れ る 。 す な わ ち 、 学 習 者 に対 す る 評 価 と 授 業 の 評価 であ る 。 前 者 は 、 学 習 者 の認 識 深 化 と 学 力
(技 能 、 興 味 ・関 心 、 態 度 ) 伸 長 に対 す る 評 価 であ り 、 後 者 は 、前 者 を 踏 ま え て な さ れ る 、 授 業 に いた る 一連 の
過 程 と 授 業 そ の も のと に対 す る 評 価 であ る。 後 者 に よ って発 見 さ れ た 課 題 を 解 決 す べ く 努 め る こ と に よ って 授 業 は 改 善 さ れ る 。 授 業 者 は 、 こ の よう な 授 業 評 価 力 を 持 た ね ば な ら な い。
以 上 、 国 語 科 授 業 の構 築 を 、 評 価 を も 含 む 、 学 習 者 把 握 ← 教 材 把 握 ← 授 業 構 想 ← 授 業 実 践 ← 授 業 評 価 と いう 一
連 の過 程 と し てと ら え 、 そ れ ぞ れ に必 要 と さ れ る 授 業 者 の力 と 留 意 す べき こと に つい て書 き 述 べた 。 授 業 を よ り
よ く 改 善 す る た め に は 、 先 行 の理 論 と 実 践 に 学 び つ つ、 授 業 実 践 に即 し て 一連 の授 業 構 築 の過 程 を 丁 寧 に検 証 し 省 察 し て いく こと を 続 け る以 外 に は な い。
二 国 語科 授 業 ・研究 の集 積 と 深 化 の基 底
︱国語教育個体史
国 語 科 授 業 の深 化 は 、 授 業 の 記 録 と 省 察 の集 積 に よ っても た ら さ れ る 。 授 業 を 集 積 し 研 究 を 継 続 し て 行 う た め
に 、 そ の基 盤 と も な る ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ の考 え 方 に つ いて 、 以 下 に述 べ て いき た い。
( 実 践主 体 ) と し て の実 践 営 為 の展 開 、 国 語 教 育 者 と し て の生 活 を 、 主 体 的 に 組 織 的 有 機 的 に記
野 地 潤 家 氏 は 、 ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ に 関 し て 、 ﹁国語 教 育 の実 践 主 体 が 、 自 己 の 国 語 教 育 者 への成 長 過 程 、 さ ら には国語教育者
述 し た も のを 国 語 教 育 個 体 史 と 呼 ぶ 。 質 的 に は と も あ れ 、 国 語 教 育 個 体 史 は 、 個 人 の単 な る断 片 的 実 践 記 録 で は
な く 、 そ れ を も 含 め て い っそ う 統 合 さ れ た 国 語 教 育 自 覚 史 であ り 、 国 語 教 育 実 践 史 で あ る 。﹂ (注 1) と 述 べ て い
る 。 ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ の概 念 規 定 と と も に 、 そ の特 性 が ﹁国 語 教 育 自 覚 史 ﹂・﹁国 語 教 育 実 践 史 ﹂ と し て 明 確 に
さ れ て い る。 野 地 潤 家 氏 は 、 つづ け て ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ のあ る べ き 内 実 を 、 次 の よう に 説 いて い る。
国 語 教 育 に お け る 主 体 性 ・自 主 性 の 確 立 は、 現 実 に は生 き た 国 語 教 育 個 体 史 を 刻 み あ げ る こと で な く て は
な ら な い。 実 践 主 体 が 自 己 の 実 践 す る 国 語 教 育 事 実 を 、 謙 虚 に し か も 自 信 を も って、 あ る 時 はざ ん げ の念 を
こめ て 、 把 握 し記 述 し て いく こと でな く て はな ら な い。 実 践 主 体 に と って大 切 な の は 、 な に よ り も 自 己 の営
ん だ 、 ま た 営 む 、 ま た 営 み いく であ ろ う 国 語 教 育 事 実 で あ る。 こ の意 味 で 、 国 語 教 育 個 体 史 は 、 単 な る 個 別
史 で は な く 、実 践 至 上 に立 ち 、事 実 至 上 に 立 つ個 性 的 主 体 史 でな く て は な ら な い。む ろ ん 、実 践 至 上 と 言 い、
事 実 至 上 と は 言 っても 、 理 論 を 否 む わ け で は な い。 し か し 、 可 能 態 と し て の国 語 教 育 理 論 に 恥 じ て 、 現 実 態
と し て の自 己 の事 実 史 を 卑 下 し て は な ら な い。 (野 地 潤 家 ﹁国 語 教 育 個 体 史 の基 本 問 題 ﹂ ﹃国 語 教 育︱ 個 体 史 研 究︱ ﹄ 一九 五 六 年 三月 一日 光 風 出 版 二 一頁 )
﹁可 能 態 と し て の国 語 教 育 理 論 に恥 じ て、 現実 態 と し て の自 己 の事 実 史 を卑 下﹂ す る こ と な く 、 ﹁実 践 至 上 ﹂・
﹁事 実 至 上 ﹂ に よ る ﹁個 性 的 主 体 史 ﹂ を 記 述 す る こと が 求 め ら れ 、 そ れ を 刻 み あ げ る こ と が 、 ﹁国 語 教 育 に お け る 主 体 性 ・自 主 性 の 確 立 ﹂ に つな が る こ と が 述 べ ら れ て いる 。
野 地 潤 家 氏 は 、 ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ を 一般 国 語 教 育 史 に 対 す る ﹁特 殊 具 現 態 ﹂ と し て 位 置 づ け て いる 。 両 者 の
関 係 に つ いて は 、 ﹁一国 の国 語 教 育 史 は 、 そ の断 面 を いき いき と 個 々 の 個 体 史 に にじ ま せ る。 国 語 教 育 個 体 史 は
一般 国 語 教 育 史 の動 態 を 、 ま ざ ま ざ と 写 し だ し 、 や が て そ れ は そ の 限 界 ま でも き ち っと 反 映 さ せ る で あ ろう 。﹂
と 述 べ、 つづ け て ﹁国 語 教 育 個 体 史 は 、 そ の国 の 一般 国 語 教 育 史 の変 容 性 に 富 む 一輪 の開 花 と も 、 ま た そ の結 実
と も 、 ま た そ の種 子 と も 見 る こ と が でき よう 。 こう 考 え ると 、 実 践 主 体 が 誠 実 に自 己 の国 語 教 育 実 践 に 生 き て 国
語 教 育 個 体 史 を 追 求 す る こと が 、 や が て 一般 国 語 教 育 史 に生 き てあ ず か る こと に な る の で あ る 。﹂ (以 上 注 2) と
記 し て いる 。 両者 の発 展 に つ い て は 、﹁一般 国 語 教 育 史 は 、 ゆ た か な か け が え のな い国 語 教 育 個 体 史 に さ さ え ら
れ て成 長 し 進 展 し な が ら 、 ま た 同 時 に国 語 教 育 個 体 史 の主 軸 と も な る で あ ろ う 。﹂ ( 注 3) と 述 べ て いる 。 こ こ に
は 、 ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ と 一般 国 語 教 育 史 と の 関 係 、 お よ び 一般 国 語 教 育 史 の成 長 と 進 展 に 果 た す ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ の役 割 が く っき り と と ら え ら れ て いる 。
野 地 潤 家 氏 は 、 ま た ﹁実 践 主 体 は 、 ま ず 自 己 の国 語 教 育 事 実 を た え ず 見 つめ な く て は な ら な い。 そ のほ か に営
む 国 語 教 育 が あ る の で は な い。 そ の国 語 教 育 事 実 に即 し て、 自 己 の国 語 教 育 実 践 を 把 握 し て いか な く て は な ら な
い。/ 国 語 教 育 個 体 史 が 見 失 わ れ て は 、国 語 教 育 の着 実 な 前 進 は期 待 し が た い の であ る 。﹂ ( 注 4 )と 述 べ て いる 。
国 語 教 育 の着 実 な 前 進 と 深 化 のた め に ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂ の考 え を 根 底 に 据 え る こと の必 要 性 が 、 こ れ に よ って 理解 される。
野 宗 睦 夫 氏 の場 合
三 国語科授業の集積 と研究 の実際
︵一︶ 集 積 の方 法 と 授 業 改 造︱
高 等 学 校 の授 業 実 践 の記 録 を 長 く 取 り 続 け た授 業 者 の 一人 に 、 野宗 睦 夫 氏 が いる 。 野宗 睦 夫 氏 は 、 広 島 県 で 教
職 に就 い て 三年 を 経 た 一九 五 三 年 か ら 教 職 を 辞 す ま で、 長 く 指 導 記 録 を 取 り 続 け た 。 記 録 の 集 積 は 、 ﹁学 習 指 導
日 誌 ﹂、 ﹁カ ー ド ﹂、 ﹁ 資 料 綴 ﹂ を 中 心 に な さ れ た 。 ﹁学 習 指 導 日 誌 ﹂ は 、 何 度 か 改 変 さ れ た が 、 一九 八 ○ 年 度 の も
のは 、 横 書 き で左 端 に① 日 付 欄 、 次 に② 校 時 ( 放 課 後 も 含 む ) 欄 、 そ の右 横 に③ 校 時 に応 じ た 担 当 科 目 欄 、 次 に ④ 校 時 ご と の内 容 記 述 欄 、 最 後 に 右 端 に⑤ 一日 の感 想 欄 か ら な って いる 。
﹁カ ー ド ﹂ は、 主 に教 材 研 究 と そ の集 積 に 用 いら れ た 。 カ ー ド に は 、 次 に 掲 げ る よ う に 、 ﹁分 類 項 目 ﹂ ( 次 例に
は ﹁人 生 ﹂ と あ る)、 ﹁教 材 名 ﹂ ( 教 科 書 ・出 版 社 ・作 者 名 を 含 む )、 ﹁作 者 の 頭 文 字 ﹂ ( 次 例 に は 右 下 隅 に ひら が な
渓 水 社 三 二〇 頁 参 照 )
1 9 7 9. 4. 8
で ﹁は ﹂ と あ る )、 ﹁日 付 ﹂ が 書 き 込 ま れ る 。 そ の上 で 、 記 述 の 中 心 と し て 、 一項 目 に つ いて 一枚 を 原 則 と し て ﹁目 標 ﹂・﹁指 導 過 程 ﹂・﹁本 文 分 析 ﹂ ・﹁手 引 き ﹂ 等 が 記 入 さ れ る こ と にな る 。
( 人生 ) 羽 仁 進 青 い時 間 筑 摩 現代 国 語 1 二訂 版 は 指導目 標 1. 指 示 語 ・接 続 語 に 注 意 し な が ら 、論 旨 の展 開 を つか む 。 2. 事 実 ・具 体 例 の 部 分 と 筆 者 の意 見 の 部 分 を 読 み 分 け る 。3
(﹁カ ー ド 法 に よ る国 語 教 材 研 究 の実 態 ﹂﹃ 高 校 国 語 科 教 育 の実 践 課 題 ﹄一九 八 六年 一〇 月
教 材 研 究 は 、 以 前 に 試 み た 教 材 研 究 力 ー ド を 参 考 に し た り 再 利 用 し た り し て 、新 た に教 材 研 究 力ー ド に記 入 さ
れ る 。 教 材 研 究 は 、 ① 指 導 目 標 、 ② 指 導 過 程 、 ③ 学 習 の手 引 き (生 徒 用 手 引 き プ リ ン ト の原 型 )、 ④ 本 文 の全 体
理 解 の た め の作 業 、 ⑤ 学 習 指 導 の検 討 、 ⑥ ま と め のた め の 作 業 と いう 点 か ら な さ れ ( 注 5)、 そ れ ぞ れ に カ ー ド
が 用 いら れ る 。 授 業 は 、 教 材 研 究 カ ー ド に 基 づ いて 行 わ れ る 。 カ ー ド は 、 一つ の教 材 、 単 元 が 終 わ った 後 に 整 理
保 存 用 の袋 に入 れ ら れ る。 袋 に は 、 大 型 の封 筒 が 用 いら れ 、 分 類 項 目 ご と に整 理 さ れ て いる 。 封 筒 は 、 のり 代 が
内 側 に 折 り 込 ま れ 、 底 の 二 隅 は カ ー ド が 傷 ま ぬ よ う 角 を 切 り 落 と し て あ る。 袋 の分 類 は 五 十 音 順 で 行 い、 そ の後 に 漢 文 は 別 に 五十 音 順 に並 べ ら れ て いる 。 ﹁ 資 料 綴 り ﹂ は 、 年 度 の科 目 ごと のプ リ ン ト 類 の綴 り であ る。
野 宗 睦 夫 氏 は 、 授 業 記 録 の意 味 に つ いて 、 ﹁授 業 改 造 は 自 分 の実 践 し た 授 業 の実 態 を み つめ る こと に よ り 可 能
であ る 。 し か し 、 そ の実 態 は 記 録 す る こと を 抜 き に し て は 考 え ら れ な い。﹂ と 述 べ、 記 録 す る こ と を ﹁授 業 改 善
の基 礎 作 業 ﹂ (以 上 注 6 ) と 位 置 づ け て い る 。 野 宗 睦 夫 氏 は 、 著 書 の中 で 、 一九 七 三年 と 一九 八 ○ 年 と に行 った
﹁羅 生 門 ﹂ の授 業 の変 化 に つ いて 述 べ て い る 。 授 業 が 単 独 の教 材 と し て の 扱 いか ら ﹁人 生 の出 会 いと 別 れ ﹂ と い
う 単 元 と し て の扱 いに 変 化 し た こと 、 ま た 、 感 想 を 書 か せ る 作 業 か ら 、 授 業 の中 で生 か せ る 、 生 徒 を 参 加 さ せ る
作 品 の 読 み の作 業 を 取 り 入 れ る に 至 った こ と が 紹 介 さ れ て いる 。 そ の背 景 に つ いて 、 ﹁こ の変 化 は 、 カ ー ド に 記
録 し た こ と によ るも のが 大 き い。 地 道 で は あ る が 、 カ ー ド に 記 録 し た も の が、 次 の授 業 を 変 え て いく 力 と な る わ
け であ る 。﹂ ( 注 7) と 記 し て いる 。 こ れ ら の記 録 は 、 実 践 報 告 、 実 践 研 究 の 基 礎 資 料 と し て も 用 いら れ て い る 。
と り わ け 、﹁一年 間 、 な いし は 三 年 間 の考 察 と か 、 何 年 か 隔 た った 実 践 の 考 察 の場 合 に は 、 カ ー ド は威 力 を 発 揮
す る。﹂ ( 注 8) と 述 べ て いる 。 野 宗 睦 夫 氏 の授 業 記 録 の集 積 と そ れ基 づ く 授 業 改 造 の試 み と は 、 授 業 と 実 践 研 究 の集 積 と 深 化 の 一つ の典 型 と いえ よ う 。
︵二︶ 授 業 力 の錬 成︱
小山 清氏 の場合
小 山 清 氏 は 、 長 く 広 島 大 学 附 属 中 ・高 等 学 校 に勤 め 、 継 続 し て実 践 研 究 に取 り 組 ん だ 。 そ の成 果 は 、 ﹃ 国 語科
教 育 の理 論 と 実 践 一﹄ (一九 七 九 年 刊 ) ∼﹃ 国 語 科 教 育 の 理論 と 実 践 十 三 ﹄ (一九 九 四 年 九 月 刊 ) に集 成 さ れ た 。
小 山 清 氏 は 、 第 十 三 集 の ﹁あ と が き ﹂ で 、 ﹁第 一集 か ら第 十 三 集 ま で に収 録 し た 論 稿 は 、 大 小 合 わ せ て 三 百 編 を
越 え て いる が 、 私 が 最 も 力 を 入 れ てき た の は、 授 業 の錬 成 で あ る 。﹂ (一九 七 頁 ) と 述 べ 、 ﹁授 業 力 の大 半 は 、 体
験 を 重 ね る に し た が って 、 お のず と 身 に つ い て来 る が 、 教 材 への 鋭 い切 り こ み と 考 え る 問 題 の 設定 と は 、意 識 し
て修 練 を 積 ま な い限 り 身 に つか な い。﹂ (一九 八 頁 ) と 述 べ て いる 。 教 材 へ の切 り 込 む力 と 問 題 を 設 定 す る 力 に つ いて は 、 さ ら に 、 次 の よ う に説 明 し て い る 。
お も し ろく て迫 力 に あ ふれ た印 象 深 い授 業 が でき る か でき な いか は 、 ひと え に 文 章 の構 造 を 見 ぬ く 力 に 基
づ い て いる 。 例 え ば 、 構 造 の軸 を な す 変 化 ・対 立 に 着 目 す る こ と が で き れ ば 、 ど の よう に 変 化 ・対 立 し て い
る か と 切 り 込 み 、 さ ら に な ぜ そ のよ う な 変 化 ・対 立 が 生 じ た か と いう 考 え る 問 題 を 設 定 す る こと が でき る で
あ ろ う 。 そ の た め にも 、 構 造 的 な 板 書 計 画 と 構 造 的 な 発 問 計 画 と を 作 成 す る 力 を 鍛 え ね ば な ら な い。 ( 小山
清 ﹁あ と がき ﹂ ﹃国 語 科 教 育 の理 論 と 実 践 十 三﹄ 私 家 版 一九 九 四年 九 月 一九 八頁 )
小 山 清 氏 は 、 国 語 科 授 業 力 を 構 成 す る さま ざ ま な 力 のう ち 、 ﹁文 章 の構 造 を 見 ぬ く 力 ﹂ と そ れ に基 づ い て授 業
を 展 開 す る た め の ﹁構 造 的 な 板 書 計 画 と 発 問 計 画 と を 作 成 す る 力 ﹂ を 中 心 に修 練 を 積 む こ と の必 要 性 を 一貫 し て
説 き 、自 ら に も そ れ を 課 し た 。 ﹃ 国 語 科 教 育 の 理 論 と 実 践 十 三 ﹄ の 目 次 によ れ ば 、﹁教 材 の扱 い方 と 授 業 の実 際 ﹂ は 一〇 四 回 を 数 え る 。 実 践 研 究 の持 続 と 集 積 が う か が え る。
例 え ば 、古 文 の指 導 に つ いて 小 山 清 氏 は、 ﹁最 も 警 戒 し 慎 む べき こ と は 、 初 め か ら 順 々 に 語 彙 ・文 法 の説 明 を
し 、 現 代 語 訳 を な し て いく 、 いわ ゆ る訓詁 注 釈 であ る 。﹂ と し 、 そ の問 題 点 を 、 ﹁授 業 は き ま って単 調 で 平 板 と な
り 、 考 え る 問 を 設 定 す る こと が で き な く て 、 盛 り 上 が り に欠 け る ﹂ と 指 摘 す る。 そ の克 服 に つ い て は ﹁対 立 や変
化 を は じ め と す る構 造 の軸 を 見 ぬ く こと が 肝 要 であ る 。 教 材 の構 造 が 見 え てく ると 、 分 け た り 比 べ た り す る鋭 い
切 り こ み が 可 能 に な る と 同 時 に 、 言 動 の根 底 に あ る 心 情 や 生 き 方 に 及 ぶ 、 考 え る 問 題 を 設 定 す る こ と も 可 能 に
な ってく る。 そ う な ると 、 語 彙 ・文 法 や 現代 語 訳 の取 り 扱 い に 、 お のず と 必 然 性 が 伴 う こと に な り 、 生 徒 の学 習
意 欲 は みち が え る ば か り に 喚 起 さ れ る の であ る 。﹂ (以 上 注 9 ) と 記 し て いる 。 ﹁絵 仏 師 良 秀 ﹂ (﹃ 宇 治 拾 遺 物 語 ﹄)
の指 導 を 例 にと れ ば 、 本 文 の構 造 の 把 握 に基 づ き 、 次 の よ う な 発 問 と 、 発 問 に 基 づ いた 板 書 を 計 画 し て いる 。
5
4
3
2
1
﹁人 ども ﹂ の驚 き は 、 良 秀 のど う いう 行 動 に対 す る も の か 。
﹁人 ど も ﹂ の ﹁いか に﹂ ﹁こ は いか に﹂ は ど う いう 気 持 ち か 。
会 話 文 は だ れ の会 話 か 。
事 件 は何 か 。
登場人物 はだ れか。
何段落 から成 るか。
[ 発問計 画]
6
7 ﹁ 向 か ひ の つら に立 て り ﹂ は 、 ど う いう 点 が 驚 き か。 8 驚 き 2が 驚 き 1 ( 板 書 ) よ り 、 強 いこ と は ど の語 句 か ら 分 か る か。
(1) 0︱ 0﹁絵 仏 師 良 秀 ﹂ ( 宇 治 拾 遺 物 語 )︱ ﹂﹃国 語 科 教 育 の理 論 と 実 践
9 驚 き 2が 驚 き 1よ り 強 い のは 、 良 秀 のど の よう な 行 動 に よ る か 。 ( 小 山 清 ﹁教 材 の扱 い方 と 授 業 の 実 際 十 三﹄ 私 家 版 一九 九 四 年 九 月 八 四 頁 参 照 )
[ 板書 計画]
構 造 把 握 に 立 つ発 問 と 板 書 に よ って、 ﹁火 事 ﹂ を 見 た ﹁良 秀 ﹂ の行 動 と そ れ に 対 す る ﹁人 ど も ﹂ の反 応 が 視 覚
的 に 明 確 に な る よ う 計 画 さ れ て い る。 こ れ は 、 学 習 者 にと って読 み の 方 法 の モ デ ルと も な ろ う 。 小 山 清 氏 は 、
渡辺春美 の場合
こ のよ う な 学 習 指 導 の力 を 高 め るた め に 、 自 ら に 修 練 を 課 し 続 け た と いえ る。
︵ 三︶ 授 業 の 活 性 化 の 探 究︱
( 渡 辺 春 美 ) は 、 大 阪 府 立 の高 等 学 校 で、 授 業 の活 性 化 を
国 語 の授 業 を 嫌 い、 厭 う 児 童 ・生 徒 が 、 今 日 か な り の数 に 上 って いる こと を 思 え ば 、 授 業 の活 性 化 は 、 力 を 尽 く し て取 り 組 ま ね ば な ら な い緊 急 の課 題 で あ る。 筆 者
( 古 文 ) 教 材 を 中 心 に︱ ﹄ (一九 九 八年 )、 ﹃同Ⅲ︱ 表 現 指 導 を 中 心 に︱ ﹄ (二 〇 〇 二年 ) の 三 冊 の著
求 め て 授 業 実 践 を 積 み 重 ね た 。 そ の足 跡 は 、 ﹃ 国 語 科 授 業 活 性 化 の探 究︱ 文 学 教 材 を 中 心 に︱ ﹄ (一九 九 三 年 )、 ﹃同Ⅱ︱ 古 典
書 に よ って 辿 る こ と が で き る。 活 性 化 の方 法 に つ い ては 、 ﹁授 業 の実 際 を 書 き ま と め る こと に よ って、 ① 授 業 活
性 化 のた め の実 践 上 の 課 題 を 見 いだ し 、 ② そ の課 題 解 決 のた め の工 夫 を 授 業 で試 み 、③ そ れを 書 き ま と め る こと
に よ って工 夫 の有 効 性 を 検 証 す ると と も に 、 新 た な 実 践 上 の課 題 を 得 る、 と いう こ と を 繰 り 返 し な が ら 、 授 業 の 活 性 化 を 確 かな も の にす る 。﹂ ( 注 10 ) と 述 べ て い る。
文 学 教 材 の授 業 活 性 化 は 、 一九 八 六年 度 か ら試 行 錯 誤 し つ つ展 開 し た 。 当 初 は 、 生 徒 に 学 習 目標 を 明 示 す る 授
業 を 試 み た が 、 そ のよ う な 工 夫 のみ で は 、授 業 の活 性 化 に は ほ ど 遠 か った 。次 に試 み た の は 、目 標 の 明 示 に加 え 、
教 材 を 開 発 し 、 一読 総 合 法 を 援 用 す る 授 業 で あ る 。 学 習 課 題 を 与 え 、 内 容 を 構 造 的 に と ら え る た め の 読 み 取 り
登 場 人 物 の 日 記 ・登 場 人 物 へ の手 紙 も 導 入 し て
ノ ー ト を 利 用 さ せ 、 構 造 的 な 板 書 を 心 が け る な ど の多 面 的 な 工夫 も 行 った 。 ま た 、 文 学 の特 質 を 生 か す 授 業 の工 夫 と し て、 作 品 世 界 を より よ く 想 像 さ せ るた め の虚 構 の 作 文︱
いる 。 全 員 発 言 の授 業 、 主 題 単 元 学 習 に よ って 主 体 的 学 習 を 促 し 、 国 語 学 力 を 育 成 す る 授 業 も 行 い、 授 業 の改 善 を進 め ている。
一九 八 八 年 度 か ら は 、 古 典 ( 古 文 ) 教 材 の授 業 活 性 化 に取 り 組 ん だ 。 取 り 組 み に つ い ては 、 ﹁先 行 の実 践 ・理
論 に 学 び つ つ、 文 学 教 材 を 中 心 に 見 いだ し え た 活 性 化 の方 法 を 生 か し 、 新 た に 工夫 を 取 り 入 れ て 行 った 。﹂ と 述
べ て い る。 授 業 の 変 容 に つ い て は 、 ﹁私 は 、 生 徒 に 変 化 が 現 れ た こと に 気 が つ いた 。 時 に 、 生 徒 に 内 側 か ら 明 る
く 輝 く よ う な表 情 が 浮 か ぶ こと が あ る 。 そ のよ う な 表 情 に多 く 出 会 え る こ と を 願 い、 ま た 、 そ のよ う な 生 徒 の姿
( 古文) 教材 の授業活
に 学 び 、 励 ま さ れ る よう に し て活 性 化 を 進 め て き た と も いえ る 。﹂ ( 注 11) と 、 活 性 化 への 思 いを 交 え て 記 し て い る。
表 現 指 導 に つ い ては 、 ﹁授 業 活 性 化 の試 み に取 り 組 ん だ 早 い時 期 か ら 、 文 学 教 材 、 古 典
性 化 のた め に 、 ま た 、 表 現 指 導 そ のも の の活 性 化 の た め に 取 り 組 ん でき た ﹂ (注 12 ) と 述 べ て いる 。 授 業 に つ い
て は 、 表 現 意 欲 を 大 切 に 、 表 現 力 の構 造 的 把 握 を 目 指 し 、 そ の上 に立 って 表 現 方 法 を 新 た に 工 夫 し 、表 現 に達 成
感 ・充 実 感 を 持 た せ よう と し た 。 表 現 指 導 の活 性 化 の試 み を と お し て得 た 気 づ き が 、 ﹁私 は 、 自 ら の授 業 実 践 を
省 察 し つ つ、 表 現 力 が 活 性 化 の 基 盤 的 役 割 を 果 た す も の であ り 、 表 現 力 の高 低 が 授 業 の質 を左 右 す る も の であ る
こ と 、 表 現 力 の育 成 は 、 授 業 の活 性 化 にと ど ま ら ず 、 こ と ば を と お し て豊 か に生 き る 人 間 の育 成 に深 く 結 ぶも の で あ る と 気 づ い て い った 。﹂ ( 注 13) と 述 べ ら れ て いる 。
brico (グ lル ag ーe プ"・ブ リ コ ラ ー
国 語 科 授 業 の改 善 を 求 め 、 授 業 を 記 録 し省 察 し 、 新 た な 工夫 を 加 え る こ と に よ って 、 授 業 が 広 が り と 深 ま り を 得 て活 性 化 し て い った と 考 え て いる 。
︵四︶教 師 集 団 に よ る 授 業 の集 積 と 深 化 グ ル ープ ・ブ リ コラ ージ ュの 場 合 栃 木 県 に 、 高 等 学 校 国 語 教 師 か ら な る 国 語 教 育 研 究 グ ル ー プ"groupe
ジ ュ) が あ る 。 新 任 の 松 本 修 氏 、 若 杉 俊 明 氏 ら を 中 心 に 一九 八 三 年 三 月 に 結 成 さ れ て以 来 、 今 日 に至 る ま で 研
究 活 動 を 継 続 し て いる 。 ﹁ブ リ コ ラー ジ ュ﹂ は 、 直 接 に は ﹁様 々な 仕 事 に手 を 出 す こ と ﹂ と ﹁再 分 配 活 動 ﹂ と を
意 味 す ると さ れ る 。 そ れ は 、 国 語 教 育 の ﹁様 々な 角 度 か ら の様 々な 方 法 に よ る追 求 ﹂ と ﹁既 成 の概 念 の破 壊 と そ
の再 分 配 活 動 を そ の本 質 と す る 真 の言 語 の在 り 方 を 目 指 す べき 言 語 教 育 研 究 ﹂ ( 注 14) と に 重 な る と し て グ ル ー プ名と された。
ブ リ コラ ー ジ ュの結 成 に あ た り 、 松 本 修 氏 は 、 ﹁ 進 学 率 の 上 昇 に よ る 平 均 的 学 力 の低 下 、 映 像 を 媒 介 と す る マ
ス メ デ ィ ア の発 達 に よ る 文 字 言 語 体 験 の不 足等 の状 況 は 、 国 語 教 育 の転 換 を 要 請 し て い ると 言 って よ い。 だ が 、
そ のよ う な 要 請 に応 え る べき 具 体 的 努 力 は 、 高 校 教 育 の場 及 び 関 係 す る 研 究 者 に よ って十 分 為 さ れ て いる と は 言
い難 い。﹂ と 、 直 面 し て いる 問 題 の把 握 と そ の 対 応 への 批 判 を 行 い、 ﹁我 々は グ ル ー プ ﹃ブ リ コ ラ ー ジ ュ﹄ を 組 織
Cahier:Education
d ﹄uを 発 l行 aし ng 、a 年g一 e回 の ﹃紀 要 ﹄ を
し 、 そ れ ぞ れ の立 場 で 新 時 代 の国 語 教 育 の在 り 方 を 探 索 し て いく ﹂ (注 15) と 宣 言 し た 。 ブ リ コ ラ ー ジ ュは 、 活 動 の中 心 と し て ﹃高 校 国語 教 育 研 究 ノ ー ト
刊 行 し て い る。"education
du は l、 a﹁ n本g質 a的 g言 e" 語 能 力 お よ び 言 語 活 動 の教 育 ﹂ の意 と さ れ 、 ﹃高 校 国 語
教 育 研 究 ノ ー ト ﹄ は 、 ﹁ブ リ コ ラー ジ ュ宣 言 ﹂ に掲 げ た ﹁ 活 動 の中 心 を 占 め る べ き も の﹂ と 位 置 づ け ら れ た 。
栃 木 県 の高 等 学 校 国 語 界 に は 、 か つ て ﹃ 国 語 雑 報 ﹄ が 発 行 さ れ て いた 。 ブ リ コ ラ ー ジ ュは 、 ﹃ 国 語雑報﹄ を種
と し て 芽 生 え て き た と も いえ る 。 ﹃ 国 語 雑 報 ﹄ は 石 川 速 夫 氏 を 中 心 に 、 教 師 の ﹁偏 狭 な 独 断 ﹂ を 排 し 、 ﹁新 鮮 な 研
修 交 流 ﹂ を 求 め て 一九 七 二 年 三 月 に創 刊 さ れ 、 四 〇 号 ま で発 行 さ れ 続 け た 。 松 本 修 氏 は 、 ブ リ コ ラー ジ ュ結 成
( 注 16 )。 小 林 正 治 氏 は 、 ﹃ 国 語 雑 報 ﹄ の 中 心 メ ン バ ー で も あ った が 、 ブ リ コ
と ﹃ 高 校 国 語 教 育 研 究 ノ ー ト ﹄ の創 刊 に 先 立 ち 、 ﹁自 分 た ち で ﹃国 語 雑 報 ﹄ の よ う な 雑 誌 を 作 ろう 。 そ し て 勉 強 会 を や ろ う 。﹂ と 提 案 し た と いう
ラ ー ジ ュの結 成 に加 わ り 、 ﹃ 高 校 国 語 教 育 研 究 ノ ー ト ﹄ に も 継 続 し て執 筆 し て いる 。 ﹃ 高 校 国 語 教 育 研 究 ノ ー ト﹄
(一九 九 九 年 九 月 ) の目 次 は 、 ︿ 百 里を 行く 者は九 〇里 を半 ばとす 笠 原紀
は 二 〇 〇 四 年 現 在 一 一六 号 を 発 行 す る に いた り 、 ﹃国 語 雑 報 ﹄ の志 を 生 か し つ つ成 長 し続 け て い る 。 た と え ば 、 ﹃ 高 校 国語教育 研究 ノート﹄ 九〇号
昭 / 伝 え 合 う 力 を 高 め る 指 導 の諸 相 若 杉 俊 明 / ﹁初 恋 ﹂ ﹁オ バ ケ ﹂ ﹁ふ る さ と ﹂ そ し て ﹁芸 術 ﹂ 福 田 裕 子 / 山 崎
正 和 ﹁水 の東 西 ﹂ の授 業 展 開 古 口 の り 子 / 三 段 階 表 現 過 程 の分 析 に よ る 構 想 の 把 握 小 林 正 治 / ﹁敬 意 表 現 ﹂
の 解 釈 (そ の 1 ) 小 林 正 治 / 文 学 教 育 と ナ ラ ト ロ ジ ー 松 本 修 / こ れ か ら の表 現 指 導 のあ り 方 石 塚 修 / 意
見 文 教 材 の表 現 指 導 小 林 一貴 / 資 料 グ ルー プ ・ブ リ コラ ー ジ ュ既 刊 目 録 p a rtⅧ ﹀ と な って い る。 充 実
(二 〇 〇 三 年 ) を 数 え る に いた って いる 。
し た 実 践 ・理論 研 究 が な さ れ て いる こと が 理 解 さ れ る 。 こ の よ う な 研 究 活 動 の成 果 は 、 さ ら に 毎 年 の ﹃紀 要 ﹄ に 集 成 さ れ る。 ﹃ 紀 要 ﹄ も 、 す で に 二 一号
﹃高 校 国 語 教 育 研 究 ノー ト﹄ 一〇 〇 号 記 念 号 に 、 若 杉 俊 明 氏 は 、 ﹁実 践 者 た ち へ﹂ と 題 し 、﹁一○ ○ 号 分 の実 践
や研 究 の成 果 にも も ち ろ ん 注 目 す べ き だ が 、 私 は 、 ま ず は じ め に① 真 摯 な 教 材 研 究 や 授 業 実 践 が あ った こと 、次
に、 ② 報 告 を ま と め る過 程 で 実 践 に 対 す る実 践 者 自 身 の謙 虚 な 見 直 し が あ った こと 、 そ し て 、会 誌 発 行 の作 業 毎
に合 評 会 が 開 か れ 、 そ の 実 践 や研 究 に 関 す る様 々な ③ 問 題 点 や成 果 が 共 有 さ れ てき た こと 、 さ ら に は 、 そ の成 果
や 反 省 を も と に そ れ ぞ れ が ま た④ 新 た な 実 践 に 立 ち 向 か って い った こと を 、 よ り 重 視 し た いと 思 う 。 ( 傍 線、番
号 は 引 用 者 ・渡 辺 に よ る )﹂ ( 注 17) と 述 べ て い る。 若 杉 俊 明 氏 の こと ば の① ← ② ← ③ ← ④ に は 、 国語 科 授 業 の集 積 と 深 化 に いた る道 筋 が 鮮 や か に と ら え ら れ て いる 。
お わ り に
国 語 ( 科 ) 教 育 の研 究 は 、 文 学 、 言 語 学 、 認 知 心 理 学 な ど の関 連 研 究 分 野 と 結 ん で 、 広 が り 深 ま り つ つあ る 。
授 業 実 践 も 、 創 意 あ る 工 夫 が な さ れ 、 多 様 な 試 み が な さ れ て いる 。 そ の よ う な 研 究 と 実 践 に 深 く 学 ぶ こ と が 大 切
であ る 。 授 業 の改 善 は 、 そ の研 究 と 実 践 の成 果 を 取 り 入 れ 、 主 体 的 に授 業 実 践 を 行 い、 そ れ を 記 録 し 、 省 察 す る
こ と を 積 み重 ね る こと に よ って な さ れ る。 そ れ は 、 そ のま ま ﹁国 語 教 育 個 体 史 ﹂を 刻 み あ げ て いく こと でも あ る。
こ れ な く し て は 、 授 業 の持 続 的 な 改 善 は期 待 し が た い。 こ の営 み は 、 困 難 な 問 題 を 抱 え る 、 多 忙 な 学 校 の実 状 を
思 え ば 、 容 易 で はな い であ ろう 。 し か し 、 今 日、 豊 か な 、 魅 力 あ る国 語 科 授 業 の創 造 は 、 切 実 な 課 題 であ る 。 授 業 の実 践 ・研 究 を 集 積 し つ つ、 力 を 注 い で、 より よ い授 業 の創 造 に努 め た い。
注 1 野地 潤家 ﹃ 国 語教育︱ 個体史 研 究︱ ﹄光 風出 版 一九 五 六年 三月 一日 二 一頁
注
注 4 注 1 に 同 じ
注 3 注 1 に 同 じ
注 2 注 1 に同じ
(二 二 頁 )
(二 五 頁 )
(二 四 頁 )
三 一九 ∼ 三 二 〇 頁 参 照
注 5 野宗 睦 夫 ﹁カ ード 法 に よ る国 語 教材 研 究 の実態 ﹂ ﹃高校 国 語 科 教育 の実 践 課 題﹄ 渓 水 社 一九 八 六年 一〇月
注 7 注 6 に 同 じ
( 一 一 二 六頁 )
注 6 野宗睦夫 ﹁学 習指導 を 記録 す る方法 ﹂ ( 注 5に同 じ 三 〇三頁 ) 注 8 注 5 に 同 じ (三 三 二 頁 )
注 9 小 山 清 ﹃国語 科教育 の理論 と実 践 十 三﹄私 家版 一九九 四年 六 月 八 二頁
注 10 渡 辺 春美 ﹁あと が き﹂ ﹃ 国 語 科授 業活 性 化 の探 究︱ 文 学教 材 を中 心 に︱﹄渓 水社 一九九 三年 三 月 三〇 五頁
注 11 渡 辺 春美 ﹁あと がき ﹂ ﹃ 国 語科 授業 活 性化 の探究Ⅱ︱ 古 典 ( 古 文 )教 材を 中 心 に︱﹄ 渓水 社 一九 九 八年 八月
( 三 八九頁 )
Education
d 準u 備号 l an 一g 九a 八g三 e年 "三月
三 五三 頁 注 12 渡 辺春 美 ﹁あ と がき ﹂ ﹃国語 科 授業 活 性化 の探究Ⅲ︱ 表 現指 導を 中 心 に︱﹄ 渓 水 社 二〇 〇 二年 三月 三 八九
頁 注 13 注 12 に 同 じ
注 15 注 14 に 同 じ
注 14 松 本 修 ﹁グ ル ー プ ﹃ブ リ コ ラ ー ジ ュ﹄ 宣 言 ﹂ "Cahier:
注 17 若 杉
( 藤 平 ) 俊 明 ﹁実 践 家 た ち へ﹂ ﹃ 高 校 国 語 教 育 研 究 ノ ー ト ﹄ ]○ ○ 号 二 〇 〇 一年 五 月
注 16 藤 平俊 明 ﹁そ し て私た ちは また 歩き は じめ る﹂ ﹃ 高 校 国語 教育 研究 ノート﹄ 三 〇号 一九 八九 年 六月
第 六章 評 価研 究 の意 義 と 方 法
は じ め に
教 育 、 特 に 学 習 指 導 は 、 大 き く 目 標 ・内 容 ・方 法 ・評 価 と いう 構 造 に よ って説 明 さ れ る 。 評 価 は 、 学 習 指 導 を 展 開 す る中 で 、 欠 く こ と の でき な い視 点 で あ る 。
と こ ろ が 、 少 な く と も 国 語 科 学 習 指 導 に お い て は 、 こ れ ま で歴 史 的 に 評 価 が 脚 光 を 浴 び て き た と は 言 い難 い。
形 成 的 評 価 や 到 達 度 評 価 が 取 り 立 てら れ た と き も 、 国 語 科 に お い て は そ れ ほど 大 き な 波 に は な ら な か った 。 そ れ
は 、 後 述 す る よ う に 、 国 語 科 学 習 指 導 に お い て は 、 そ こ で ど う いう 力 を 付 け る のか 、 学 力 と いわ れ る も の が 必 ず
し も 個 別 の 学 習 指 導 レ ベ ル で整 理 でき て いな いこ と が 、 一つ の原 因 だ と 考 え ら れ る 。 つま り 学 習 指 導 目 標 が 学 力
と し て位 置 づ け にく いた め に 、 何 を 評 価 す れ ば よ い のか が 明 ら か で な い、 結 果 と し て評 価 し にく いと いう こ と で
あ る 。 そ の こ と は、 一方 で、 国 語 科 の学 力 を 、 知 識 ・技 能 よ り も 態 度 的 な も の に お いて捉 え よ う と す る 、 国 語 科 特 有 の傾 向 と 無 縁 で も な か った 。
し た が って、 国 語 科 学 習 指 導 に限 ら な いが 、 ﹁評 価 ﹂ と いう と 結 局 ﹁テ スト ﹂ の 結 果 で し か な いと いう 実 態 が
あ った こ と は 否 定 で き な い。 こ の傾 向 は 、 中 学 ・高 校 と 、 学 習 者 の 学 齢 が 上 が る に つれ て 強 く な る 。 さ ら に 言 え
ば 、 ﹁通 知 票 や 指導 要 録 に 記 入 す る数 値 ( 評 定 ) や文 言 ﹂ と 、 ﹁評 価 ﹂ の区 別 が つか な いと いう 状 況 さ え あ った 。
今 日 、 ﹁評 価 ﹂ が 注 目 さ れ る のは 、 教 育 政 策 的 に ﹁指 導 と 評 価 の 一体 化 ﹂ が求 め ら れ た こと と 、 文 部 科 学 省 の
指 示 に よ って 二 〇 〇 二 ( 平 成 一四 ) 年 度 か ら 実 施 さ れ た ﹁集 団 に準 拠 し た 評 価 、 いわ ゆ る 相 対 評 価 ﹂ か ら ﹁目 標
に準 拠 し た 評 価 、 いわ ゆ る絶 対 評 価 ﹂ への移 行 の影 響 が大 き い。 学 習 者 の学 習 状 況 を 一線 に 並 べ 、 割 合 で切 って
いく ﹁相 対 評 価 ﹂ で は 、 個 々 の学 習 者 の 具 体 的 な 力 を 吟 味 し な く ても ﹁評 価 ﹂ は でき た が 、 絶 対 的 な 評 価 では 、
学 習 者 の能 力 を 具 体 的 に 把 握 し 、 そ れ が 十 分 か 不 十 分 か を 判 断 す る こ と が 要 求 さ れ る よ う に な った 。 ﹁何 を 評 価
す る のか ﹂、 ﹁ど う や って十 分 か 不 十 分 かを 判 断 す る のか ﹂ が 、 日 常 の学 習 指 導 の問 題 と し て 浮 か び 上 が った と 言 える。
し か し 、 言 う ま でも な く 、 そう い った変 化 が 、 目標 ・内 容 ・方 法 ・評 価 と いう 学 習 指 導 の構 造 上 の、 本 来 の評 価 のあ り 方 を 具 現 し て いる わ け で は な い。
こ こ で は そ う い った 現 状 を 踏 ま え 、 実 践 的 な 評 価 研 究 の意 義 と 方 法 に つ い て論 究 す る 。
一 評 価 の目 的 と 機 能
︵一︶ 評 価 の 目的
評 価 は 何 のた め に 行 う の か 、簡 単 に 言 え ば 、学 習 者 の力 を 伸 ば す た め であ る 。現 場 実 践 と し て狭 義 に 考 え れ ば 、 学 習 指 導 を 十 全 に 展 開 す るた め であ る 。
し か し 、 学 習 者 の力 を 伸 ば す と 言 った と き 、 直 接 そ れ に か か わ る場 合 と 、 間接 的 にか か わ る場 合 と が あ る 。
東 洋 氏 は 、 ﹃子 ど も の能 力 と 教 育 評 価 ﹄ ( 東 京 大 学 出 版 会 一九 七九 ) の中 で 、 学 校 教 育 にお け る 教 育 評 価 の
目 的 を 、 次 の よう に 分 類 し て い る 。
① 教 育 行 政 の資 料 と し て の評 価 (ど う いう 施 策 を 行 った ら よ いか を 決 定 す る た め)
② 学 校 の管 理 ・運 営 の資 料 と し て の 評 価 ( 学 校 の管 理 ・運 営 を ど う し た ら よ いか と いう こと を 考 え る た め )
③ 教 師 の学 習指 導 の資 料 と し て の評 価 (教 師 が 学 級 や 個 人 の学 習 指 導 を ど う し た ら よ いか に つ い て考 え る た め)
④ 子 ど も に情 報 を 与 え る た め の評 価 ( 子 ど も 自 身 が評 価 情 報 を 活 用 でき る よ う にす る た め)
⑤ 親 の参 考 にす る た め の 評 価 ( 親 が 子 ど も の 学 習 ・発 達 の実 態 を 理 解 し そ の情 報 を 活 用 す る た め )
( カ リ キ ュ ラ ムを 開 発 し た り 、 そ の善 し 悪 し を 判 断 す る た め )
⑥ 子 ど も の 処 遇 決 定 のた め の 評 価 ( 資 格 認 定 や振 り 分 け な ど 、 子 ど も の比 較 的 長 期 に わ た る教 育 的 処 遇 を 決 定 す る た め) ⑦ カ リ キ ュラ ム 改 善 のた め の評 価
こ れ ら の 目的 を 、だ れ が 、何 のた め にと 、分 節 し て捉 え れ ば 、実 践 者 が 日 常 の 学 習 指 導 で 行 う も のは 、③ ・④ 、 ま た⑤ であ ろう 。
た だ 実 際 に は 、 実 践 意 識 と し て⑤ を 評 価 と 考 え る傾 向 は 強 く 、③ ・④ の よ う に、 自 身 の学 習 指 導 を 振 り 返 る材
料 と し た り 、学 習 者 自 身 が 学 習 を 改 善 し て いく 材 料 と し て加 工 し た り す る こと は 、 必 ず しも 十 分 に は な さ れ て こ な か った 。
国 語 科 学 習 指 導 に 限 定 す れ ば 、 そ の教 育 評 価 の目 的 の中 心 は ③ ・④ であ る。 そ れ は 言 い換 え れ ば 、 学 習 者 のこ
と ば の力 を 育 て る た め に、 授 業 者 自 身 が 、 授 業 の 改 善 の指 針 を 得 る こ と 、 ま た 、 学 習 者 自 身 が 、 今 後 の学 習 の改 善 の指 針 を 得 る こと であ る。
教 育 評 価 は 、 結 果 的 に ﹁評 価 のた め の 評 価 ﹂、 ﹁子 ど も の値 踏 み を す る に 終 わ る 評 価 ﹂ に な ら な いよ う 、 そ の目 的 を 確 か め つ つ、 方 法 と 処 理 と が 慎 重 に 計 画 さ れ る 必 要 が あ る 。
︵ 二︶ 評価 の機能
前 項 でも 明 ら かな よ う に、 教 科 指 導 に お け る評 価 は 、 授 業 者 自 身 に指 導 の改 善 を 突 き つけ る も の で あ る と 同時
に 、 学 習 者 の育 ち に 還 元 さ れ る べき も の で あ る。 そ の点 を 機 能 と し て捉 え れ ば 、 教 育 評 価 、 と り わ け 教 科 の学 習
指 導 に お け る 評 価 は 、 学 習 を よ り 豊 か で確 か な も のに 改 善 し て いく 機 能 を 持 つと 説 明 す る こ と が でき る 。
こ れ を 具 体 的 に述 べ れ ば 、 た と え ば 学 習前 の評 価 (診 断 的 評 価 ) に よ って、 学 習 者 の能 力 や 興 味 ・関 心 が 捉 え
ら れ 、 そ の こ と に よ って学 習 目標 や 学 習 材 が 適 切 に設 定 ・選 択 さ れ る こと に な ろう 。 あ る いは 、 た と え ば 単 元終
了 時 の テ ス ト に よ って 、 学 習 者 は ど のよ う な 力 が 付 き 、 ど の よ う な 力 が 不 足 し て いる のか を 自 覚 し 、 こ れ か ら 自
分 が ど の よう な 学 習 を し て い け ば よ い の か と いう 指 針 を 得 る こ と に な る。同 時 に 授 業 者 は 、テ ス ト 結 果 を 分 析 し 、
学 習 者 の学 習 の進 み具 合 を 測 る こ と で、 自 ら の実 践 を 反 省 的 に 捉 え 、 今 後 の授 業 の 目 標 の立 て 方 や 重 点 の置 き 方 な ど 、 授 業 改 善 の指 針 を 得 る こと に な る 。
こ う い った こ と は 、 授 業 の前 後 の 問 題 で は な く 、 授 業 の展 開 中 に も 当 然 起 こ ってく る 。 実 践 者 が 、 自 ら の授 業
の途 中 で、 こ の 発 問 は子 ど も に は わ か って いな いと 感 じ て問 い直 し た り 、 こ の活 動 は 子 ど も に は 無 理 だ と 判 断 し
た 時 点 で アド バ イ スを 送 った り す る こ と は 、 日 常 の教 授 行 為 であ る 。 場 合 に よ って は学 習 指 導 計 画 を 大 幅 に 変 え
た り す る 。 そ れ は と り も な お さ ず 、学 習 指 導 の改 善 の行 為 であ り 、 そ こ に は 、 無 意 識 で は あ って も 、 学 習 者 の状 況 を 把 握 す る と いう 意 味 で の評 価 意 識 が 働 いて い ると 考 え ら れ る 。
そ のよ う に 捉 え れ ば 、 教 育 実 践 に お い て 、 学 習 指 導 は 評 価 活 動 と 切 り 離 し て考 え る こと が で き な いこ と が 理 解
さ れ る 。 ﹁指 導 と 評 価 の 一体 化 ﹂ と 言 わ れ る ゆ え ん であ る 。 評 価 が あ る か ら 指 導 が計 画 さ れ る 、 指 導 があ る か ら
評 価 が でき る と いう 循 環 が 、 短 期 的 にも 長 期 的 にも 繰 り 返 さ れ る の が、 学 習 指 導 の姿 であ る と 言 う こ と が でき よ う。
ま た 、 そう い った 指 導 と 一体 化 し た 評 価 は 、 授 業 者 自 身 の授 業 実 践 に つ いて の自 己 評 価 で あ ると いう 側 面 を 持
つ。 そ の こ と に よ っ て授 業 者 自 身 が 自 己 の教 育 実 践 力 を 高 め て いく と いう こと も 、 重 要 な点 であ る 。 以 上 の よ う に、 評 価 は 、 指 導 と 一体 化 す る こと に よ り 、 ・学 習 指 導 の構 想 ・学 習 展 開 の修 正 ・学 習 者 の学 習指 針 の獲 得 を 通 し て、 学 習 を 改 善 す る と と も に 、 授 業 者 自 身 にと って 、 ・教 育 実 践 力 の向 上 と い った 機 能 を 持 つと 言 え よ う 。
︵三︶ 評 価 研 究 の意 義
評 価 の 実 践 そ の も のが 、 前 述 のよ う に 学 習 者 の学 習 の改 善 と 実 践 者 の教 育 実 践 力 の向 上 と いう 機 能 を 持 つと い う 前 提 に 立 てば 、 評 価 の意 義 も 当 然 そ こ に 収斂 さ れ る。
ま た 、 評 価 研 究 も 、 そ う い った 意 義 を 持 つ評 価 のあ り 方 を 明 ら か に す ると いう 方 向 性 の中 で、 評 価 実 践 を 支 え
る 営 み で あ る と 言 え る 。 と り わ け 、 学 習 の個 別 化 ・個 性 化 と いう 流 れ の中 で 、 学 習 材 や学 習 方 法 が多 様 化 し て い
け ば 、従 来 の よう な 画 一的 な 評 価 が 機 能 し にく く な って く る 。 評 価 そ のも の が ま す ま す個 別 的 に多 様 にな る 必 要
が あ り 、 さ ら に多 忙 な 教 師 の負 担 を 少 な く す る と い った 方 向 で の評 価 お よ び そ の処 理 や 生 か し 方 の研 究 も 進 展 さ せ て いか な け れば な ら な い。
評 価 研 究 に は 、 評 価 そ のも の のあ り 方 を 考 究 す る と いう 側 面 と 、 教 室 の具 体 の中 で評 価 を 実 践 し 生 か し て いく
た め の方 法 の 開発 と いう 二 つ の側 面 が あ り 、 そ の 二 つの 側 面 が 充 足 さ れ て いく こと で 、 教 育 改 善 に 資 す る も のと な って いく 。
二 評価研究の枠組 み
︵一︶ 評価実践 の枠組 み
評 価 実 践 の実 際 に 即 し て 、 評 価 のあ り 方 を 分 節 化 し て捉 え れ ば 、次 のよ う に 提 示 す る こ と が 可能 であ る 。
ア 評価 の時期 ・診 断 的 評 価
・形 成 的 評 価 ・総 括 的 評 価 イ 評 価 の主 体 ・自 己 評 価
・相 互 評 価
・ 第 三者評価ま たは教師 評価 ウ 評 価 の 基 準・
・相 対 評価 ・絶 対 評 価
・到達度評価 ・( 伸 び率 評 価 )
エ 評価 の内容 ・知 識 的 側 面 ・技 能 的 側 面 ・態 度 的 ・情 意 的 側 面
オ 評価 の手 段的方法 ・テ ス ト 法 ・ア ン ケ ー ト 法
・調 査 法 ・観 察 法 ・制 作 物 評 価 法 ・ポ ー ト フ ォ リ オ 法 な ど。
︵二︶ 評 価研究 の視点
前 項 の評 価 実 践 の枠 組 み は 、 当 面 そ のま ま 評 価 研 究 の視 点 と し て 取 り 込 む こ と が 可 能 で あ る。 す な わ ち 、 評 価
研 究 と し て、 た と え ば ﹁形 成 的 評 価 の あ り 方 ﹂、 ﹁到 達 度 評価 の方 法 ﹂ と い った テー マを 立 て る こ と が でき る 。 評 価 研 究 と し て は 、 そう い った 視 点 に基 づ いた 、 ・評 価 のあ り 方 の研 究 ・評 価 の方 法 の研 究 のほかに、 ・評価 の歴 史 の考 察 ・評 価 の枠 組 み そ のも の の検 討 ・新 し い評 価 方 法 ( 手 段 ) の開 発
な ど の視 点 が 必 要 であ る 。 ま た さ ら に 、 ﹁指 導 と 評 価 の 一体 化 ﹂ と いう 観 点 か ら考 え れ ば 、 ・評 価 情 報 の読 み取 り方 の研 究
・評 価 を 学 習 指 導 改 善 に生 か す 方 法 の研 究 が 必 要 であ る し 、 ・学 習 者 研 究 と し て の評 価 (評 価 を 学 習 者 研 究 と し て位 置 づ け る) ・学 力 と 評 価
と い った 観 点 か ら の 研 究 も 欠 く こ と は でき な い。 と り わ け ﹁学 力 と 評 価 ﹂ の問 題 は 、 国 語 科 学 習 指 導 に と って は
アキ レ ス腱 の よ う な 存 在 であ る と 言 え る。 ﹁学 習 者 研 究 と 評 価 ﹂ の 問 題 も 、 学 力 の問 題 を 抜 き に は 考 え に く い で あろう。 ま た 、 評価 対 象 の問 題 と し て 、 ・学 習 集 団 を 対 象 化 す る か 、 個 別 の 学 習 者 を 対 象 と す る か 。 ・単 元 レ ベ ル の短 期 的 変 容 を 捉 え る か 、 長 期 的 な 変 容 を 捉 え る か 。 と い った 点 も 、 評 価 研 究 の方 法 と し て は 重 要 な 意 味 を 持 つ。
三 評価研究 の内容
前 項 で 述 べた よう な 視 点 を前 提 に、 以 下 、 具 体 的 に評 価 研 究 の内 容 の整 理 を 試 み る。
︵一︶評 価 計 画 前述 したよう に、評価 は、
・い つ評 価 す る か ( 評価 時期) ・だ れ が 評 価 す るか (評 価 主 体 ) ・何 を 評 価 す る か (評価 内 容 ) ・ど の よう に 評 価 す る か ( 評 価 方 法 ・手 段 )
の よ う に 分 節 し て捉 え る こ と が で き る 。 そ れ ら を 組 み合 わ せ て 、 一連 の学 習 指 導 計 画 に 位 置 づ け る の が 、 評 価 計 画 である。
1 評 価 時 期
( 事 前 評 価 ) は、 教 材 研 究 と し て の学 習 者 把 握 と いう 側 面 を 持 ち 、 学 習 指 導 目 標 に 照 ら し て、 ど の
評 価 時 期 に つ い て は 、 ﹁評 価 は い つ でも 行 わ れ て い る﹂ と いう 基 本 認 識 のも と に 考 え ら れ な け れ ば な ら な い。 診断的評価
( 事 中 評 価 ) は 、 学 習 展 開 の 折 々 に 、 学 習 の進 捗 状 況 ( 学 習者 の変 化 ) を 確 か め 、 学 習 指 導 方 法 の
よう な 評 価 が 必 要 か 、 ど のよ う な方 法 を と る べき か な ど が 計 画 さ れ る。 形成的評価
妥 当 性 を 検 証 す る も の であ る。 従 来 、 事 中 評 価 はあ ま り 意 識 的 に 行 わ れ て いな か った き ら いが あ る。 し か し 、 決 し て テ ス ト的 な 評 価 ば か り で は な く 、 ﹁わ か ら な い こ と が あ る 人 は 手 を 挙 げ ま し ょ う﹂ ﹁ち ょ っと 隣 の人 が 書 いて いる こと を 見 せ て も ら ってご ら ん ﹂ ﹁い いと こ ろ に気 が つき ま し た 。 み ん な も 今 の 発 言 で よ く わ か った と 思 いま す ﹂
な ど の教 師 の発 言 も 、 一種 の評 価 であ ると 捉 え れ ば 、 事 中 の 評 価 は 大 き な 広 が り を 持 つこ と が わ か る 。事 中 の 評
価 と し て 、 テ ス ト や ア ン ケ ー ト な ど を ど の よう に 評 価 計 画 と し て組 み 込 む か は 、 評 価 研 究 と し て重 要 であ る が 、
同 時 に、 学 習 指 導 展 開 に 添 って 、 教 師 が ど の よ う に 学 習 者 の姿 を 観 察 し 、 こ と ば か け な ど の形 で ど のよ う に反
応 ・支 援 す る のか と い った 観 点 か ら の評 価 研究 も 重 要 な 視 点 であ る 。 そ れ は ま た 、指 導 方 法 の研 究 と 一体 化 す る 問 題 と な る。
総 括 的 評 価 は 、 一連 の学 習 の お わ り に、 ま と め と し て 行 わ れ る も の で あ り 、 学 習者 の変 化 、 学 習 目 標 の達 成 度
を 把 握 す る。 ま た そ れ に 基 づ いて 、 学 習 者 の今 後 の 学 習 の指 針 を 得 ると と も に、 学 習 指 導 方 法 の検 証 を 行 い、 方
法 の改 善 、 今 後 の指 導 のあ り 方 に つな ぐ も の であ る 。多 く テ ス ト 法 が 用 いら れ る が 、 感 想 な ど を 含 め た 自 己 評 価
( 単 元 ) と し て の総 括 であ り 、 学 習 者 の学 習 の継 続
や 、 作 品 の相 互 評 価 な ど 、 評 価 情 報 の獲 得 が多 様 な 方 法 で行 わ れ る こと が 望 ま し い。 研 究 的 に は あ る意 味 で遅 れ た 部 分 であ る と 言 え る 。 な お 、 総 括 的 評 価 と 言 っても 、 そ れ は 一つの学 習 の区 切 り
性 か ら 言 え ば 、当 然 次 の学 習 に つな が って いく も の であ る 。そう いう 意 味 では 、診 断 的 評 価 ・総 括 的 評 価 と も に 、 長 い ス パ ー ン の中 で は 形 成 的 評 価 の 一部 で あ る と いう 側 面 を 持 つ。
ま た 、 ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 は 、事 前 ・事 中 ・事 後 を 通 し て形 成 的 に見 て い こう と す るも の で あ る。
2 評 価 主 体
だ れ が 評 価 す る の か に つ いて は 、 長 く 教 師 評 価 が意 識 さ れ て き た が 、 近 年 ﹁自 己 評 価 力 ﹂ が 話 題 に さ れ る流 れ の中 で、 自 己 評 価 が意 識 さ れ る よ う に な った 。
自 己 評 価 は 、学 習 者 自 身 が 学 習 を 振 り 返 る と いう 意 味 では 、学 習 者 の中 に 学 習 の過 不 足 な ど が 意 識 さ れ や す く 、
( 十 歳 あ た り ま で) にお いて は 、 情 緒 的 な 反 応 の域 を 出 な い
直 接 次 の学 習 に つな が る 点 で 、効 果 的 な 方 法 と 言 え る 。 た だ 現 実 に は 、自 己 評 価 は 客 観 性 に 乏 し く 、 数 値 的 に は 信 頼 し にく い。 ま た 、 メタ 認 知 能 力 が 未 発 達 な 年 齢
な ど の課 題 が あ る 。 最 終 的 に は 、自 己 評 価 を受 け と め て教 師 が 評 価 す る と いう も の にな って いく 必 要 が あ る 。 そ
う い った 意 味 では 、 自 己 評 価 の タ イ ミ ン グ や 、 客 観 性 を 高 め る 方 法 に つ いて は 十 分 に研 究 の余 地 が あ ると 言 え よ う。
ま た 、 自 己 評 価 は往 々 に し て 学 習 者 に ﹁自 分 の学 習 は ど う か 、 き ち ん と でき た か ﹂ と い った 形 で 、 態 度 や 到 達
度 を 突 き つけ る も の に な り が ち であ る 。 楽 し く 充 実 し た 時 間 を 過 ご し た 学 習 者 が 、 ﹁ど う か ﹂ と 突 き つけ ら れ れ
ば 、 何 と な く 嫌 に な る と いう こ と も な いと は 言 え な い。 自 己 評 価 の方 法 に つ いて 、 感 想 や 到 達 度 の確 認 以 外 の方 法 の検 討 ・開 発 が 望 ま れ る 。
相 互 評 価 は 、 評 価 者 が 近 い存 在 であ る こ と が 多 いた め 、 学 習 者 の意 識 に近 い内 容 や こ と ば で行 わ れ る傾 向 が あ
り 、学 習 者 に受 け と め ら れ や す いと いう メ リ ット が あ る 。文 章 表 現 の 評 価 な ど で は 、こ れ ま で も 多 用 さ れ てき た 。 学 習 を 学 習集 団 と し て展 開 す る た め にも 有 効 な 方 法 と 言 え る 。
一対 一の相 互 評 価 も あ る が 、 グ ル ー プ内 で の相 互 評 価 も あ る 。 相 互 評 価 の観 点 を ど の 程 度 示 し てお く の が よ い
か 、 相 互 評価 の方 法 は 数 値 か コ メ ント か 、 相 互 の人 間 関 係 が ど う 影 響 す る か な ど 、 相 互 評 価 を 有 効 に行 う た め に 検 討 す べき こ と は 多 い。 そ れ ら のあ り 方 が 、 相 互 評 価 の研 究 の課 題 と な ろう 。
評価内 容
何 を 評 価 す る の か に つ いて は 、 基 本 的 に は ﹁学 習 指 導 目 標 の達 成 度 ﹂ であ る 。 し た が って学 習 指 導 目標 が 曖 昧
3
な 学 習 指 導 に お いて は 、 評 価 計 画 は 立 ち に く いし 、 十 分 な 評 価 は でき な い。
教 育 現 場 に ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価 ( 絶 対 評 価 )﹂ が 導 入 さ れ る に いた って 、 ﹁評 価 基 準 ﹂ が 問 題 と な った 。 そ れ
は 、達 成 度 な いし 到 達 度 を ど う 設定 し 、ど う 測 る の か と いう 問 題 であ る。 た と え ば 、漢 字 を 二十 字 学 習 し た 場 合 、
そ れ ら が 全 て 読 め る こ と を よ し と す る の か、 十 八字 く ら い で よ い のか 、 ま た 最 低 いく つは 読 ま な け れ ば な ら な い
と 考 え る の か 、 客 観 的 な 基 準 は な く 、 そ れ ぞ れ の指 導 者 の判 断 や 学 校 単 位 等 の合 意 に 基 づ く よ り 他 は な い。 漢 字
な ど の知 識 で あ れ ば 、 数 字 的 な 操 作 で あ る程 度 は っき り す ると こ ろ が あ る が 、 読 み の能 力 な ど に な る と 、 そ も そ
も 基 準 を ど う 立 て る の か 、 そ の基 準 を 達 成 状 況 と し て段 階 的 に設 定 でき る のか と いう 問 題 があ る 。 目 標 に 準 拠 し た 評 価 を 有 効 た ら し め る た め に は避 け て通 る こ と が でき な いと こ ろ であ る 。
一方 、 国 語 科 学 習 と し て 、 目 標 化 し た こと だ け を 評 価 す る こと で 足 り る の か 、 と いう 問 題 も あ る 。
た と え ば 、 詩 の 学 習 指 導 で、 詩 の 形 式 や 比 喩 の方 法 に つ い て理 解 す る こと を 学 習 目 標 と し た 場 合 、 そ の 知 識 は
テ スト 法 な ど で確 か め る こと は でき る 。 し か し 、 学 習 者 が 詩 の形 式 や 比 喩 よ り も 詩 の内 容 に強 く 反 応 し 、 新 し い
認 識 を 得 た と いう 場 合 が あ った と す れ ば 、 そ の学 習 者 は ど のよ う に 評 価 さ れ る の であ ろう か 。 形 式 的 な 評 価 では
低 い評 価 に と ど ま る で あ ろう 。 設 定 さ れ た 目 標 の 到 達 点 を 捉 え ると と も に、 そ れ ぞ れ の 学 習 者 が 到 達 し た と こ ろ
を 確 か め 、 そ れ ぞ れ の学 習 者 の発 達 ( 学 習 過 程 ) と し て位 置 づ け る こ と が 教 師 に は 求 め ら れ よ う 。
一般 に国 語 科 学 習 で は 、 教 師 の設 定 し た 目 標 以 外 のと こ ろ で 学 習 者 が 反 応 す る こ と を 避 け に く い。 目 標 の達 成
と 同 時 に、 個 々 の学 習 者 の中 で何 が 起 こ っ て い る の か を 捉 え る 教 師 の観 察 力 が 要 請 さ れ る 。
(いわ ゆ る ﹁目 標 の二 重 構 造 化 ﹂)、 自 己 評 価 ・相 互 評 価 ・教 師 評 価 のか ね あ いが ど う な
ま た 、 典 型 的 に は 国 語 単 元 学 習 のよ う に 、 学 習 が 活 動 化 し 、 学 習 者 が意 識 す る学 習 目 標 と 、 教 師 が意 識 す る指 導 目標 が 一致 し な い場 合
る のか と いう 問 題 が あ る 。 学 習 者 は ﹁す ば ら し い朗 読 会 を し よう ﹂ と 目 標 化 し て いる が 、 教 師 は そ の学 習 過 程 で
﹁朗 読 のた め の基 礎 的 技 能 ﹂、 ﹁何 か を 決 定 す る た め の話 し 合 い の仕 方 ﹂ な ど を 身 に つけ さ せ よ う と し て いる よ う
な 場 合 であ る 。 教 師 の指 導 目 標 の レ ベ ルを そ のま ま 自 己 評 価 の 項 目 と した 場 合 、 必 ず 学 習 者 に 違 和 感 を 与 え る こ と になる。
単 元 的 展 開 、 活 動 型 の 学 習 の場 合 は 、 前 述 の ﹁目 標 以 外 の達 成 ﹂ が 表 れ や す い。 ま た 逆 に 目 標 を 焦 点 化 し にく い。 そ の こと も 含 め 、 工 夫 が 求 め ら れ る 。 こ れ ら の問 題 は 、 後 述 す る 学 力 論 と の関 係 に 踏 み込 む と こ ろ で も あ る。
4 評 価 方 法 ・手 段
ど のよ う な 手 段 で評 価 す る の か に つ い て は 、 前 述 の よ う に多 様 な 方 法 が 試 み ら れ て い る が 、 現 実 の実 践 現 場 で
意 識 さ れ て いる のは 、 テ スト 法 で あ る 場 合 が多 い。 テ スト 法 は 、 あ る 意 味 で 、 客 観 性 を 持 ち や す く 、 処 理 も 簡 単
であ り 、 従 来 の相 対 的 評 価 に お いて は 便 利 な 方 法 であ った 。 し か し そ れ は 、 点 数 と いう 形 で 序 列 化 さ れ る 便 利 さ
であ る 。 実 際 に 一人 の学 習 者 の力 を 分 析 的 に 捉 え るた め に は 、 テ スト のね ら い自 体 が 吟 味 さ れ 、 そ の ね ら い の達
( 絶 対 評 価 )﹂ のた め の テ ス ト は 、
成 状 況 が 読 み解 か れ る必 要 が あ る 。 そ う いう 意 味 で は 、 学 習 者 の 力 の内 実 を 捉 え 、 次 の学 習 に 生 か す こ と が でき る よ う な テ スト が 十 分 に 考 え ら れ てき た と は 言 い難 い。 ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価 こ れ か ら さ ら に 工 夫 さ れ る べき も の であ る。
ポ ー ト フ ォ リ オ 法 は、 近年 注 目 さ れ てき た 方 法 であ る が 、 評 価 計 画 の立 て方 、 計 画 に し た が って何 を 残 し て い
く か が 十 分 に吟 味 さ れな いと 、 集 め た だ け と いう も の に な り か ね な い。 さ ら に 、 集 め た も の を 基 に し て 教 師 が 学
習 者 に対 し てカ ウ ン セ リ ン グ 的 な か か わ り を 持 つこ と によ って 、 評 価 が 学 習 者 のも の に な って いく 。 そ のか か わ り のあ り 方 は 、 実 践 レ ベ ル で さ ら に 考 究 さ れ る べ き も の であ る 。
これ ま で 実 際 に は 有 効 に機 能 し な が ら 、 評 価 と し て意 識 さ れ に く か った 方 法 が観 察 法 で あ る 。 教 師 は 常 に 、 学
習 者 の表 情 や 動 き か ら 学 習 の 進 捗 状 況 や 、 興 味 の度 合 な ど を感 じ 取 り な が ら 学 習者 に働 き か け て いる 。 そ れ は 最
も 日 常 的 で 学 習 指 導 に 有 効 に 働 く 評 価 活 動 であ る が 、 実 践 現 場 で は そ れ を 評 価 と し て位 置 づ け て意 識 化 す る 傾向
に 乏 し か った と 言 わ ざ る を 得 な い。 いわ ゆ る ﹁子 ど も が 見 え る ﹂ 教 師 と いう の は 、 こ の観 察 の能 力 が 優 れ て いる
と 考 え ら れ る。 特 に 学 習 者 の学 齢 が 低 いほ ど 、 教 師 の観 察 の必 要 性 も 意 義 も 大 き く な る 。 そ う いう 意 味 で、 学 習
展 開 に お け る教 師 の観 察 評 価 のあ り 方 、 ま た そ の能 力 の育 成 に つ いて 考 究 す る こと は、 教 師 の実 践 力 と いう 観 点 か ら も 意 義 が 大 き い。
教 師 の評 価 言 に つ い ても 同 様 の こと が 言 え る 。 学 習 の展 開 にし た が って、 ほ め る 、 促 す 、 ア ド バ イ スす る 、 ま
た 場 合 に よ って は 注 意 す る な ど の行 為 は 、 直 接 的 な 評 価 で あ る 。 そ の評 価 の こ と ば がど のよ う に準 備 さ れ 、 ど の
よ う に 吟 味 さ れ て い るか は 、 学 習 の進 捗 に大 き な 影 響 を 与 え る 。 教 師 の話 し方 と し て ﹁評 価 言 ﹂ を 位 置 づ け 、 そ のあ り 方 を 実 践 に 即 し て意 識 し 、 明 ら か にし た い。
評 価 計 画 に つ いて は 、 最 終 的 に ど の よ う な 組 み 合 わ せ に よ って十 全 な 評 価 を 行 う こと が で き る のか と い った 、
評 価 計 画 の全 体 像 を 明 ら か に す る研 究 が 必 要 で あ ると と も に 、 評 価 計 画 そ のも のを 作 る 原 理 を 追 究 す る こと も 重 要 な 課 題 であ る 。
さ ら に 、 そ う い った 評 価 が 、 結 果 的 に 学 習 者 把 握 ・学 習 者 研 究 と し て位 置 づ く よ う な 評 価 のあ り 方 を 考 究 す る
必 要 が あ ろう 。
︵二︶目 標 と学 力
評 価 す る た め に は 、 あ る いは 評 価 計 画 を 立 て るた め に は 、 学 習 指 導 目 標 が 明 確 にな って いな け れ ば な ら な い。 学 習 指 導 目 標 は 当 然 、 国 語 の学 力 と は 何 か と いう 問 題 に 支 え ら れ て いる 。 と こ ろ が 、 そ の ﹁国 語 の学 力 ﹂ 自 体 が 、 そ れ ほ ど 明 確 な も の では な い。
た と え ば 、 説 明 的 文 章 に お い て ﹁要 旨 を 捉 え る﹂ こ と が で き る と いう のは 、 国 語 の力 で あ ろ う が 、 要 旨 を 捉 え
る た め に は ど のよ う な こと が で き れ ば よ い のか と いう こと に な る と 、 あ ま り 明 確 で は な い。 ま た 、 文 学 的 文 章 に
お い て ﹁人 物 の心 情 を 捉 え る﹂ こと が で き る と いう のも 国 語 の力 であ ろ う が 、 そ のた め に ど う す れ ば よ い の か と
いう こと に な れ ば 、 こ れ も 明 確 では な い。 結 果 と し てあ る文 章 の要 旨 を 捉 え ら れ た り 、 あ る 場 面 の 人 物 の心 情 が
捉 え ら れ た り し ても 、 そ れ が他 の文 章 に お い ても で き る かど う か と いう 点 で は 、 保 証 は な い。
し た が って、 要 旨 を 捉 え る 、 心 情 を 捉 え る と いう 目 標 を 設 定 し 、 そ れ が でき た か ど う か を 確 か め る こと は で き
て も 、 ﹁要 旨 を 捉 え る力 が つ い て いる ﹂、 ﹁心 情 を 捉 え る 力 が つ いて いる ﹂ と 一概 に言 う こと は 難 し い。
そ も そ も 、 ﹁要 旨 を 捉 え る ﹂、 ﹁心 情 を 捉 え る ﹂ と い った レ ベ ルを も う ひ と つ具 体 化 し た と こ ろ で、 極 端 に 言 え
ば ﹁能 力 一覧 ﹂ のよ う な も のが あ る のか と いえ ば 、 ﹁ま と ま った 形 で は な い﹂ と し か 言 いよ う が な い のが 現 実 で
あ る。 こ の こと は 、 学 習 指 導 要 領 の文 言 を 見 れば 明 ら か で 、 た と え ば ﹁話 の中 心 を 聞 き 取 る ﹂ と 言 わ れ ても 、 ど
う す れ ば そ れ が でき る よ う に な る の か に つ い て は 触 れ ら れ て は いな い。 国 語 の学 習 指 導 の難 し さ の大 き な 原 因 は そ こ にあ る と いう べ き であ る 。
さ ら に、 た と え ば 文 章 表 現 の 学 習 にお いて 、 書 く こ と を 苦 に し な い こと は 学 力 と 言 え る の か ど う か。 も し そ れ
も 力 であ る と す れ ば 、 ど の よう に測 定 す る のか と い った 、 ﹁態 度 ・情 意 ﹂ に 関 す る 問 題 も あ る 。 そ う い った 曖 昧 な ﹁学 力 ﹂ を 持 って 目標 化 す ると いう こと 自 体 、 困 難 な 作 業 と 言 わ ざ るを 得 ま い。
無 論 、 国 語 科 学 習 に お い ても 、 た と え ば 漢 字 の習 得 のよ う に 、 数 値 的 に 判 定 が し や す い知 識 領 域 も あ り 、 一概
に は 言 え な いが 、 逆 に 、 そ う い った 測 定 可能 な 部 分 を 基 礎 学 力 と し て位 置 づ け て 、 そ れ を 中 心 に 学 び を 構 成 す る 傾 向 も な いと は 言 え な い。
評価 を 考 え る 上 で、 今 後 学 力 論 は 避 け て 通 る こと の で き な い問 題 と し て 浮 か び 上 が る であ ろ う 。
︵三 ︶評 価 情 報 の 分 析
テ スト 法 、 ア ンケ ー ト 法 、 ポ ー ト フ ォ リ オ 法 、 観 察 法 な ど で得 ら れ た 情 報 を 、 ど のよ う に分 析 す る の か は 、 次 の学 習 指 導 に生 か す と いう 意 味 で は き わ め て 重 要 な こ と であ る。
し か し 、 現 実 に は 従 来 、 特 に テ スト 法 に つ い て は、 単 に 点 数 化 し 、 点 数 と し て学 習 者 に 示 す と いう 以 上 のも の
に は な って いな か った 傾 向 が あ る 。 テ スト の問 題 一つ 一つが ど の よ う な 力 を 確 か め よ う と す るも の か に つ いて 、
分 節 化 し て明 ら か に し よう と す る意 識 に 乏 し か った こ と は 否 定 で き な い。 そ れ は 、 テ スト 問 題 を 作 る際 の意 識 の 欠 如 の問 題 でも あ る 。
ま た 、中 学 ・高 校 な ど 、学 齢 が 上 が った と こ ろ で は、 テ ス ト が ど れ だ け そ こ で の学 習 内 容 を 反 映 し て い る の か 、
曖 昧 な 点 が な か った と は言 え な い。 学 習 指 導 目標 と し て 設 定 さ れ て いた こと が 的 確 に確 か め ら れ よ う と し て いな
い の で あ る 。あ る いは逆 に、そ こ で の 学 習 内 容 の確 認 と し て、知 識 的 記 憶 だ け で解 答 でき る よ う な テ スト にな り 、
応 用 的 な 力 と し て は 見 る こと が でき な いよ う な 問 題 に 終 わ る こと も な いと は言 え な か った 。 評 価 情 報 が 抽 出 で き る よう な テ ス ト の 作 成 の 工 夫 が 望 ま れ る 。
同 様 の こと は 、 ポ ー ト フ ォリ オ法 に も 言 え る で あ ろう 。 集 め た も のを ど のよ う に 評 価 情 報 と し て捉 え る か は 、
ポ ー ト フォ リ オ の生 命 線 であ る が 、 そ の点 の具 体 的 実 践 は 、 いま だ に 十 分 と は 言 え な い。
評 価 情 報 を 分 析 し 、 学 習指 針 と し た り 、 指 導 改 善 に生 か し た り す る 方 法 の追 究 は 、評 価 を 単 な る 点 数 化 や レ ッ
新 し い評価 のあ り 方 へ向 け て
テ ル貼 り に 終 わ ら せ ず 、 真 に 学 習 者 の学 習 改 善 と し て いく た め に 、 き わ め て重 要 な 意 味 を 持 って いる 。
おわ りに︱
国 語 科 に お け る 評 価 研 究 自 体 は 、 歴史 的 な 研究 が 十 分 に 行 わ れ て き た と は 言 い難 い状 況 であ る 。 し か し 、 評 価
自 体 が行 わ れ て こ な か った わ け で は な い。 評 価 研 究 は 具体 的 な 学 習指 導 を 分 析 す る形 で 行 わ れ る べ き も のだ と い
う 前 提 に 立 てば 、 歴 史 的 考 察 は 困 難 な 面 が あ る が 、 た と え ば 作 文 指 導 な ど 、実 践 的 な 蓄 積 が あ る領 域 も あ る 。 歴 史 的 な 考 察 か ら 新 し い研 究 視 点 が 生 ま れ てく る 可 能 性 に期 待 し た い。
ま た 、 これ ま で に な い評価 の方 法 の開 発 や 、 こ れ ま で の方 法 を 組 み 合 わ せ て 効 果 を 上 げ る 方 法 の開 発 も 望 ま れ る。
さ ら に 、 一人 の学 習 者 の変 容 を 具 体 的 に捉 え て いく ケ ー ス ス タ デ ィ の形 の研 究 も 、 今 後 必 要 と な って いく と 思 われ る。
いず れ に し ても 、 次 の学 習 を 豊 か に し て いく た め の評 価 と いう 、積 極 的 な 意 味 合 い の 中 で、 評 価 研 究 は進 め ら れ る べ き も の であ る 。
・東
洋 ﹃子ども の能 力と 教育 評価 ﹄東 京大 学出 版会 一九 七九
主要参考 文献
・大槻 和夫 編 ﹃ 達成 目 標を 明確 にし た国 語科 授業 改造 入門﹄ 明治図 書 一九 八 二 ・尾木 和英 ﹃評価 で変 わ る国語 の授 業﹄ 三省 堂 二〇 〇 一 ・梶 田叡 一 ﹃教育 評価﹄ 有 斐 閣 一九 八三 ・全 国大学 国 語教育 学会 編 ﹃ 国 語科 評価 論と 実践 の課 題﹄ 明治 図書 一九 八四 ・益 地憲 一 ﹃国語 科評 価 の実践 的探 求﹄溪 水 社 一九 九 三 ・益 地憲 一 ﹃国語 科指導 と 評価 探求﹄溪 水社 二〇 〇 二 ・水 川隆夫 ﹃国語 科到 達度 評価 の理 論と 実践 ﹄明 治図 書 一九 八 一
第 七 章 学 習者 把握 を めざ す 評価 の開 発
一 診断的 評価 の方法と試行
(一 ︶ 評価 の目的 1 学 習 者 の 学 力 を 保 障 す る た め の 評 価
評価 は 、 学 習 の成 果 を 測 る こ と が 目 的 で あ る 。 し か し 、 単 に 学 習 がど の段 階 に あ る の か 、 ど の程 度 の状 況 か を
と らえ る だ け で は 、 本 来 の目 的 を 達 成 し た こ と にな ら な い。 評 価 は 、 学 習 者 の学 力 を い か に 十 全 に保 障 し て いく か に資 す る 資 料 と し て機 能 を 果 た す 必 要 が あ る 。
2 評価 の 困 難 性
評 価 は 、 総 体 的 に実 施 す る こ と が 難 し い。 ま た 、 評 価 自 体 は 行 え ても 、 そ の結 果 を 他 者 に合 理 的 か つ説 得 的 に 示 す こと は き わ め て難 し い。 そ れ は 二 つ の意 味 に お い て であ る 。
一つは、 良 好 な 関 係 に あ る指 導 者 と 学 習 者 の関 係 は 、 そ の 場 と し て は 存 在 し て も そ れを 資 料 化 し て示 す こ と が
難 し いと いう こと であ る 。 ﹁こ の 子 は 、 二 学 期 に な って 見 違 え る よう に 学 習 に 取 り 組 む よ う に な り ま し た ﹂ と い
う こ と を 、 指 導 者 か ら 聞 か さ れ る こ と が あ る 。 そ の こ と ば 自 体 は 、 ほ と ん ど の場 合 信 じ る こ と が で き る よ う に 思
わ れ る が 、 具 体 的 に ど う いう 学 力 が ど のよ う に 形 成 さ れ て、 そ れ が そ の学 習 者 の 学 習 を ど のよ う に支 え る 動 力 と
な って いる のか 、 と いう こ と は ま った く と い って い いほ ど 伝 わ ら な い。 こ のよ う な 直 感 的 な 評 価 は 、 有 形 の評 価
を 上 回 って、 大 き く 機 能 す る こと が あ る が 、 一般 化 は難 し く 、 他 の学 習者 に 適 用 す る 原 則 的 な も の を 引 き 出 す こ
と が 難 し い。 指 導 者 と 学 習 者 の コミ ュ ニケ ー シ ョン 関 係 を 前 提 と し た 学 力 の把 握 は 、 そ の コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン状 況 か ら 離 れ ると 説 明 が 極 端 に 困 難 に な ってく る の であ る 。
も う 一つは、 指 導 者 の学 習 者 に対 す る コミ ュ ニケ ー シ ョン 的 な 学 力 の 把 握 は 、 ほ と ん ど の場 合 個 別 的 に な り や
す く 、 学 習 集 団 に お け る学 力 把 握 の不 均 等 を 生 む 危 険 性 が あ る か ら で あ る 。 学 習 集 団 だ け では な い。 学 力 の全 体
構 造 か ら 大 き く 外 れ る学 力 把 握 に 陥 り やす い こと も 多 い。 あ る 特 定 の 学 習 者 に 関 し て の み 学 力 把 握 が 著 し く 丁 寧
に行 わ れ て いた り 、 あ る特 定 の学 力 にか か わ ってそ の診 断 が精 細 であ った り と いう こと で あ る 。 当 然 、 学 習 集 団
全 体 の指 導 者 と 学 習 者 の信 頼 関 係 は 損 な わ れ る こと に な る し 、 ま た あ る 学 力 だ け を 異 常 に 偏 重 す る 意 識 を 共 有 す る こ と にも な る 。
こ のよ う に考 え てく る と 、 評 価 は 、 そ の 学 習 の場 か ら 離 れ て他 者 に 対 し て 明快 に示 そ う と す る と 本 質 を 見 失 い
やす く な る が 、 そ れ を き ち んと し た 形 で 示 そ う と し な いと 、 学 習 の場 の雰 囲 気 を 優 先 さ せ た 歪 曲 し た 学 力 把 握 が 進 め ら れ る こ と に も な る と いう 二面 性 の よ う な 様 相 を も つこ と が わ か る 。
3 評 価 の多 角 性 ・多 面 性
診 断 的 評 価 は 、 学 習 の事 前 に 行 わ れ る 学 力 把 握 で あ る 。 学 力 の把 握 が 、 一面 的 にな ら な いよ う にさ まざ ま な 方
法 や 角 度 を 組 み 合 わ せ 、 と らえ た い学 力 像 に応 じ て 焦 点 的 に 行 う こ と に な る が 、 最 終 的 に複 数 の ﹁診 断 ﹂ を 総 括
し て、 よ り よ き 学 習 の実 現 に資 す る よう な 結 論 を 導 く こと が 目 的 と な る 。 つま り 、 多 角 性 、 多 様 性 を 前 提 と し て
﹁診 断 ﹂ を 行 い、 ﹁ 治 療﹂ ( よ り よ い学 習 へ の改 善 ) の方 法 を 探 る こ と が 求 め ら れ る ので あ る。
評 価 と は 、 学 力 の診 断 ・測 定 の みな ら ず 、 そ の活 動 を 通 し て、 こと ば に対 す る 適 切 な 意 識 や方 向 性 、 観 念 、 全
体 像 を 形 成 す る こ と も ね ら わ れ る も の な の であ る 。 こ の中 に は 、 評 価 者 す な わち 指 導 者 と 学 習 者 と の適 切 な 信 頼 関 係 の形 成 ・確 立 と いう こと も 含 ま れ る 。
︵二 ︶評 価 を め ぐ る 混 乱 と 問 題 の 所 在 1 評 価 を め ぐ る状 況 の 変 化
評 価 は 、 教 育 上 の 目 的 を 指 導 者 と 学 習 者 が か な り の部 分 共 有 し て いた 時 代 は 、 揺 ら ぎ が 小 さ か った 。 一九 八 ○
年 代 前 半 ま で 、 学 習者 の社 会 参 加 能 力 、 社 会 的 自 立 能 力 と し て の学 力 観 が 優 勢 で 、 学 習 者 の自 己 実 現 能 力 や 、 社
会 的 コミ ュ ニケ ー シ ョ ン能 力 の 部 分 は軽 視 さ れ る か 、 優 先 順 位 を 下位 に お か れ る か と いう 扱 いを 受 け て いた 。 も
ち ろん 、 指 導 者 も ﹁よ り よ い﹂ 社 会 人 と いう イ メ ー ジ は も っ てお り 、 学 習 者 の自 己 を 啓 発 し 、 実 現 す る と いう 学
力 を 否 定 す る わ け で は な か った が 、 学 習 者 の環 境 、 お よび 社 会 の観 念 が 強 烈 に 教 育 全 体 を 取 り 巻 い て い た た め 、 両 立 的 な 実 現 は な かな か 難 し か った 。
そ う は いう も の の 、 少 数 で は あ る が 、 いわ ゆ る受 験 学 力 的 な 国 語 能 力 と 言 語 生 活 的 な 国 語 能 力 の 距 離 を 適 宜 縮
め て局 所 的 に は 理 想 的 な 国 語 学 習 を 実 現 し 、 両 方 の 学 力 形 成 に成 功 す る事 例 も 見 ら れ た 。 た と え ば 、 話 し こと ば
の 学 習 な ど で 大 き な 効 果 を 上 げ た 例 が あ る 程 度 報 告 さ れ て いる 。 こ の 両者 の学 力 は 、 社 会 に 対 す る 距 離 感 と いう
意 味 で説 明 し 直 す こと が でき る 。受 験 的 な 学 力 は 、 いわ ば 直 面 す る 人 生 の社 会 参 加 の能 力 で あ り 、 言 語 生 活 的 な
学 力 は 、 中 長 期 の 人 生 全 体 に か か わ る能 力 と い って い い。 月 並 み な 言 い方 を す れ ば 、 社 会 に 職 を 得 て 、 社 会 の 一
翼 を 担 う 能 力 と 退 職 な ど に よ って 得 ら れ た 環 境 で 自 分 の人 生 を 楽 し む 能 力 と いう 時 期 的 な 二 分 法 も 可 能 であ ろ う。
一九 八 ○ 年 代 後 半 か ら 、 社 会 的 な 価 値 観 の転 換 が 起 き 始 め た 。 よ り 質 の高 い、 効 率 的 な 社 会 参 加 の み が重 視 さ
れ た考 え 方 が崩 れ 始 め、 対 置 的 に社 会 に お け る自 己 の価 値 、 位 置 の重 視 が 始 ま った 。 社 会 に お け る 自 己 実 現 の比
重 が 増 し 始 め た の であ る 。 言 語 生 活 的 に いう と 、 急 速 に 盛 ん にな った 自 分 史 作 成 は そ の典 型 と いえ る。 他 に も 俳
句 、 短 歌 、 随 筆 、 童 話 、 朗 読 な ど の各 種 カ ルチ ャ ー セ ンタ ー 講 座 の充 実 は これ ま で 類 を 見 な いほ ど の自 己 実 現 活
動 の隆 盛 を 示 し て いる と いえ る 。 あ る俳 句 の コ ン ク ー ルな ど は 、 毎 年 百 万 人 を 越 え る 応 募 者 が あ ると いう 。 こ れ ら の能 力 と 、 これ ま で の社 会 参 加 のた め の受 験 学 力 は 強 い類 縁 関 係 を も た な い。
2 学 習 観 の転 換 か ら 求 め ら れ る よう に な った 根 本 的 な 学 力 観 ・評 価 観 の追 究
こ の よう な 状 況 が 進 む に つれ て、 当 然 の こと な が ら 、 学 習 観 の転 換 が 起 き 始 め た 。 ま ず 小 学 校 か ら 始 ま り 、 予
想 より も 進 度 が 遅 いも の の 中 学 校 、 高 等 学 校 へと そ の流 れ は 広 が り つ つあ る。 生 涯 学 習 の方 法 を 導 入 し た 学 習 法
が 用 いら れ 始 め て いる 。 だ が 、 学 力 観 、 評 価 観 に 大 き な 変 化 が 見 ら れ な い。 入 り 口と し て の学 習観 が 変 容 し 始 め
て いる の に、 出 口 と し て の学 力 観 、 評 価 観 が 旧 来 のま ま で あ ると 、 そ の直 中 に い る学 習 者 、 そ し てそ れを 指 導 す
る指 導 者 は 逐 次 ス タイ ル を 衣 替 え す る か 、 二 分 身 的 な立 ち 回 り を 要 求 さ れ て し ま う 。 こ の股 裂 き 状 態 、 二 面 像 状 態 が 教 育 現 場 を 歪 め て いる こと は想 像 に難 く な い。
た だ 、 こ れ は 、 教 育 現 場 の旧 体 制 や 社 会 の要 求 の誤 り に帰 結 す る こと で 解 決 し な い。 根 本 的 な 学 力 観 、 評 価 観
の提 示 と そ の説 明 が な け れ ば進 め よ う が な い。も ち ろ ん、依 存 的 に 外 か ら の発 想 や 提 案 を 待 つと いう の で はな く 、
教 育 実 践 の本 質 追 究 に よ り 導 か れ る学 力 観 、 評 価 観 と いう こ と で あ る 。 根 本 的 な 学 力 観 、 評 価 観 の整 備 が 急 務 と いえ る 。
︵三 ︶診 断 的 評 価 の 種 類 と 方 法 1 診 断 的 評 価 の 種 類
従 来 は 、 診 断 的 評 価 に か な り 高 い ﹁科 学 性 ﹂ を 求 め てき た 。 こ れ は 現 在 でも 理 念 と し て は 変 わ ら な い が 、 単 に
自 然 科 学 的 な 測 定 科 学 の方 法 を 用 いれ ば い いと いう 方 向 で は な く な ってき た 。 数 量 的 測 定 や 統 計 的 分 析 を 偏 重 す
る の では な く 、 評 価 し た い学 力 の性 質 や角 度 に よ り 、 用 いる べ き 評 価 の方 法 を 変 え る べき だ と 考 え る よ う に な っ
て いる 。 こ れ は 、 長 期 に わ た り 、 学 習 指 導 を 行 う 際 に は 、 学 力 形 成 の 見 通 し 自 体 が 、 短 期 的 な も の か ら 長 期 的 な
も のに 至 るま で さ ま ざ ま に 行 わ れ る こと か ら も わ か る 。 明 日 の授 業 で身 に つけ さ せ た い学 力 も あ る し 、 一年 間 の
学 習 の中 で獲 得 さ せ た い学 力 も あ る 。 ま た漢 字 学 力 のよ う に そ の場 そ の場 で習 得 が 図 ら れ つ つも 、 永 続 的 な 定 着 が 最 終 目 標 であ る こと も あ る 。
こ こ では 、 診 断 的 評 価 の種 類 を 指 導 者 の お か れ て いる 状 況 を 中 心 に考 え る こと に す る 。
ま ず ﹁学 習 単 元 の準 備 ・計 画 のた め の診 断 的 評 価 ﹂ が あ る 。 き わ め て現 実 的 な 状 況 と し て 、 新 し く 単 元 に入 る
際 に 、 学 習 を 設 計 す る出 発 点 と な る 学 力 把 握 を 行 わ な け れ ば な ら な い。 素 手 で、 新 し い学 習 単 元 に 入 る わ け に は
いか な い。 こ れ ま で の軌 跡 を ふ ま え 、 こ れ か ら の見 通 し を 立 て る 必 要 が あ る 。 切 実 な 状 況 であ り 、 一般 的 な 学 力 診 断 の 場 面 でも あ る 。
つ い で ﹁学 習 対 象 ・教 材 自 体 か ら導 出 さ れ る 学 力 を 前 提 と し た 診 断 的 評 価 ﹂ を あ げ る こと が で き る。 こ れ も 現
実 対 応 的 な 側 面 が 強 いが 、多 く は 教 科 書 教 材 の 教 材 研 究 の 際 に 、学 習 者 の学 習 段 階 や 学 習 の特 徴 を 重 ね 合 わ せ て、 診 断 を 行 い、 必 要 な 指 導 目 標 を 導 き 出 す と いう も の で あ る 。
さ ら に ﹁学 習 記 録 に基 づ く 診 断 的 評 価 ﹂ も 重 要 な 方 法 と し て取 り 上 げ る こと が で き る 。 現 実 に は 、 ノ ー ト 点 検
の よ う な 形 で行 わ れ る こ と が 多 いが 、 学 習者 個 々 の学 習 の癖 や個 性 を と ら え る 際 に 有 効 であ る 。 学 習規 律 の形 成 状 況 や 、 学 習成 果 の集 約 の問 題 点 な ど 、 個 に 即 し た事 例 的 な 学 力 診 断 と な る 。
ま た ﹁能 力 調 査 に 基 づ く 診 断 的 評 価 ﹂ は 、 よ り 客 観 的 に学 力 を と ら え よ う と す る も の で あ る 。 こ れ ま で の 学 習
の軌 跡 や学 習 者 の学 習 の習 慣 か ら 離 れ て 学 力 の診 断 を 行 う と 、 意 図 し て いた 学 力 以 外 の学 力 の形 成 や 別 の学 力 の 方 向 性 な ど が と ら え ら れ る こと が あ る。
これ ら の方 法 は 、目的 に応 じ て 使 用 し、最 終 的 に は総 合 し て学 力 の診 断 結 果 と し て 把 握 す る こ と が 必 要 であ る。
2 学 習 単 元 の準 備 ・計 画 の た め の診 断 的 評 価
診 断 的 評 価 は 、毎 時 の授 業 を 設 計 す る 有 力 な 準 備 方 法 と し て行 わ れ る が 、最 も 一般 的 な も の は 、 単 元 の 学 習 前
に 学 習 集 団 全 体 、 学 習 者 個 々、 学 習 者 相 互 な ど の観 点 に立 って行 わ れ る も の で あ ろう 。 特 に読 み の教 材 単 元 な ど
の場 合 は 、 教 材 研 究 の 一環 と し て、 そ の教 材 に 対 し て学 習 者 が ど のよ う に か か わ ってく る こと が でき る か 、 ど の
よ う に 学 力 を 形 成 す る こと が でき る か が 測 ら れ る 。 物 語 教 材 を 例 に 想 定 し て み る と 、 B 教 材 単 元 に 入 る前 に 、 物
語 教 材 と し て前 回 学 習 し た A 教 材 の 学 習 場 面 を 想 起 し た り 、 プ リ ント 類 の控 え を 点 検 し た り 、 テ ス ト に お け る達
成 状 況 を 検 討 し た り し て 、 学 習 者 の学 力 のあ り よ う や意 欲 、 学 習 活 動 のあ り 方 を と ら え よ う と す る 。
物 語・ 小 説 教 材 を 例 に と ると 、 教 材 か ら 教 材 へ の有 機 的 展 開 を 図 る と き 、 学 習 集 団 全 体 の学 習 の 生 産 性 に か か わ って、 診 断 的 評 価 の項 目 と し て、 次 の よ う な も の が あ げ ら れ る 。 ・よ り 長 い作 品 教 材 に 取 り 組 め る か ど う か ・語 彙 的 、 表 現 的 に 難 化 し た 作 品 教 材 を 読 み 解 け る か
・場 面 設 定 の面 、 ス ト ー リ ー 展 開 の面 に お い て、 よ り 複 雑 化 し た 作 品 教 材 を 整 理 し な が ら と ら え る こ と が で き るか ・学 習 (読 み ) の成 果 を よ り 明 示 的 に 、 的 確 な 表 現方 法 で表 す こと が で き るか
・学 習 ( 読 み ) の成 果 を よ り 活 発 に交 流 し 、 学 習 者 相 互 で共 有 、 高 めあ いが でき る か
・教 材 の文 体 な ど の タ イ プ や スタ イ ル の違 い に気 づ き 、 考 え を 深 め る こ と が でき る か
こ れ ら は 、 既 習 教 材 か ら 新 た な 教 材 への 展 開 を 考 え る と き 、避 け ら れ な いみ ち す じ であ り 、 こ の考 察 を 不 十 分
な ま ま にお いて お く と 、授 業 の改 善 は 望 めず 、 いわ ゆ る 低 迷 循 環 に 陥 って いく こと に な る 。 非 常 に大 ま か な 方 法 で は あ る が 、 評 価 か ら 授 業 計 画 へ の第 一歩 と し て の重 要 な 方 法 と いえ る。
3 学 習 対 象 ・教 材 自 体 か ら 導 出 さ れ る 学 力 を 前 提 と し た 診 断 的 評 価
学 習 単 元 の準 備 ・計 画 の た め の診 断 的 評 価 は 、 学 習 に よ って形 成 さ れ る学 力 像 の把 握 や 確 認 を求 め るも ので あ
る 。そ こ で 取 り 上 げ ら れ る学 習 対 象 や 教材 を 掘 り 下 げ て、そ れ ら と の照 合 に よ って診 断 的 評 価 を 行 う 場合 も あ る 。
通 常 、 教 材 研 究 の範 囲 でと ら え ら れ るも の であ る が 、 学 力 の鮮 明 さ と いう 点 で 一つの スタ イ ルを 示 す 。
向 田 邦 子 作 ﹁字 の な いは が き ﹂ ( 光 村 図 書 中 学 二年 平 成 十 四年 度 版 ) を と り 上 げ る 。 ﹁ 字 のな い葉 書 ﹂ (学 校
図書 中 学 一年 平 成 十 四 年 度 版 ) と し ても 採 用 さ れ て いる 。 題 名 か ら 表 記 が 異 な り 、 使 用 学 年 も 違 う 。
向 田邦 子
単 元 名 と 学 習 の目 当 てを 検 討 す る 。 両 者 の教 材 設 定 を 具 体 的 に 検 討 す る と 、 こ の 教 材 に か か わ ってく る 学 習 者 像 と 形 成 を 期 待 し て いる 学 力 像 の相 違 が 鮮 明 にな り 興 味 深 い。
﹁字 の な いは が き ﹂
死 ん だ 父 は 筆 ま め な 人 で あ った 。
私 が 女 学 校 一年 で初 め て 親 も と を 離 れ た と き も 、 三 日 に あ げ ず 手 紙 を よ こ し た 。 当 時 保 険 会 社 の支 店 長 を し て いた が 、 一点 一画 も お ろ そ か に し な い大 ぶ り の 筆 で 、 ﹁ 向 田邦 子 殿 ﹂
つ い四、 五日前 ま で、
と 書 か れ た 表 書 き を 初 め て 見 た と き は 、 ひ ど く び っく り し た 。 父 が 娘 あ て の 手 紙 に ﹁殿 ﹂ を 使 う の は 当 然 な の だ が 、
﹁お い、 邦 子 ! ﹂
いよ う な 晴 れ が ま し い よ う な 気 分 に な った の で あ ろ う 。
と 呼 び 捨 て に さ れ 、 ﹁ば か や ろ う ! ﹂ の 罵 声 や げ ん こ つ は 日 常 の こ と で あ った か ら 、 突 然 の 変 わ り よ う に 、 こ そ ば ゆ
た。文 中 、私を 貴女 と よび 、
文 面 も 、 折 り 目 正 し い時 候 の あ いさ つ に始 ま り 、新 し い東 京 の 社 宅 の間 取 り か ら 、 庭 の 植 木 の 種 類 ま で 書 いて あ っ
﹁貴 女 の 学 力 で は 難 し い漢 字 も あ る が 、 勉 強 に な る か ら ま め に 字 引 を 引 く よ う に 。﹂ と いう 訓 戒 も 添 え ら れ て いた 。
ふ ん ど し 一つ で 家 じ ゅう を 歩 き 回 り 、 大 酒 を 飲 み 、 か ん し ゃ く を 起 こ し て 母 や 子 供 た ち に 手 を 上 げ る 父 の姿 は ど こ に も な く 、 威 厳 と 愛 情 に あ ふ れ た 非 の 打 ち ど こ ろ の な い父 親 が そ こ に あ っ た 。
ろ う 。 も し か し た ら 、 日 ご ろ 気 恥 ず か し く て 演 じ ら れ な い父 親 を 、 手 紙 の 中 で や って み た の か も し れ な い。
暴 君 で は あ っ た が 、 反 面 て れ 性 で も あ った 父 は 、 他 人 行 儀 と いう 形 で し か 十 三 歳 の 娘 に 手 紙 が 書 け な か った の で あ
手 紙 は 一日 に 二通 来 る こ と も あ り 、 一学 期 の 別 居 期 間 に か な り の 数 に な った 。 私 は 輪 ゴ ム で 束 ね 、 し ば ら く 保 存 し
て いた の だ が 、 い つと は な し に ど こ か へ い って し ま った 。 父 は 六 十 四 歳 で な く な った か ら 、 こ の手 紙 の あ と 、 か れこ
れ 三 十 年 付 き 合 った こ と に な る が 、 優 し い父 の姿 を 見 せ た の は 、 こ の 手 紙 の中 だ け で あ る 。
が き と いう こ と に な ろ う 。
こ の 手 紙 も な つ か し いが 、 最 も 心 に 残 る も の を と いわ れ れ ば 、 父 が あ て 名 を 書 き 、 妹 が ﹁文 面 ﹂ を 書 いた 、 あ の け
た 上 の 妹 は 疎 開 を し て い た が 、 下 の妹 は あ ま り 幼 く 不憫 だ と いう の で 、 両 親 が 手 放 さ な か っ た の で あ る 。 と こ ろ が 、
終 戦 の 年 の 四 月 、 小 学 校一 年 の 末 の 妹 が 甲 府 に 疎 開 す る こ と に な った 。 す で に 前 の 年 の秋 、 同 じ小 学 校 に 通 っ て い
三 月 十 日 の 東 京 大 空 襲 で 、 家 こ そ 焼 け 残 った も の の 命 か ら が ら の め に 遭 い、 こ の ま ま 一家 全 滅 す る よ り は 、 と 心 を決 め た ら し い。
を 付 け 、 父 は お び た だ し い は が き に き ち ょ う め ん な 筆 で 自 分 あ て の あ て 名 を 書 いた 。
妹 の 出 発 が 決 ま る と 、 暗 幕 を 垂 ら し た 暗 い電 灯 の 下 で 、母 は当 時 貴 重 品 に な っ て いた キ ャ ラ コ で 肌 着 を 縫 っ て 名 札
と 言 って き か せ た 。 妹 は 、 ま だ 字 が 書 け な か った 。
﹁元 気 な 日 は マ ル を 書 い て 、 毎 日 一枚 ず つポ ス ト に 入 れ な さ い。﹂
く よ う に は し ゃ い で出 か け て い った 。
あ て名 だ け 書 か れ た か さ 高 な は が き の 束 を リ ュ ック サ ッ ク に 入 れ 、 雑 炊 用 の ど ん ぶ り を 抱 え て 、 妹 は 遠 足 に で も 行
添 って 行 った 人 の 話 で は 、 地 元 婦 人 会 が 赤 飯 や ぼ た 餅 を 振 る 舞 って 歓 迎 し て く だ さ った と か で 、 か ぼ ち ゃ の 茎 ま で 食
一週 間 ほ ど で 、 初 め て の は が き が 着 いた 。 紙 い っぱ いは み 出 す ほ ど の 、 威 勢 の い い赤 鉛 筆 の 大 マ ル で あ る 。 付 き べ て い た 東 京 に 比 べ れ ば 大 マ ル に ち が いな か った 。
の こ ろ 、 少 し 離 れ た 所 に 疎 開 し て いた 上 の妹 が 、 下 の 妹 に 会 い に行 った 。
と こ ろ が 、 次 の 日 か ら マ ル は 急 激 に 小 さ く な って い っ た 。 情 け な い黒 鉛 筆 の 小 マ ル は 、 つ いに バ ツ に 変 わ った 。 そ
下 の 妹 は 、 校 舎 の壁 に寄 り 掛 か っ て 梅 干 し の た ね を し ゃ ぶ って いた が 、 姉 の姿 を 見 る と 、 た ね を ぺ っと 吐 き 出 し て 泣 いた そ う な 。
ま も な く バ ツ の は が き も 来 な く な った 。 三 月 目 に 母 が 迎 え に行 った と き 、 百 日 ぜ き を わ ず ら って いた 妹 は 、 し ら み だ ら け の 頭 で 三 畳 の 布 団 部 屋 に寝 か さ れ て いた と いう 。
妹 が 帰 っ て く る 日 、 私 と 弟 は家 庭 菜 園 の か ぼ ち ゃ を 全 部 収 穫 し た 。 小 さ いの に 手 を つ け る と し か る 父 も 、 こ の 日 は
何 も 言 わ な か っ た 。 私 と 弟 は 、 ひ と 抱 え も あ る 大 物 か ら て の ひ ら に 載 る う ら な り ま で 、 二十 数 個 の か ぼ ち ゃを 一列 に 客 間 に 並 べ た 。 こ れ ぐ ら いし か 妹 を 喜 ば せ る 方 法 が な か った の だ 。 夜 遅く 、出 窓 で見張 って いた弟が 、
と 叫 ん だ 。 茶 の 間 に座 って いた 父 は 、 は だ し で 表 へと び 出 し た 。 防 火 用 桶 の 前 で 、 や せ た 妹 の 肩 を 抱 き 、 声 を 上 げ て
﹁帰 っ て き た よ ! ﹂
泣 いた。私 は父が 、大 人 の男が 声を 立 てて泣 く のを初 め て見 た。 し ま った の か そ れ と も な く な った の か 、 私 は 一度 も 見 て いな い。
あ れ か ら 三 十 一年 。 父 は な く な り 、 妹 も 当 時 の 父 に 近 い年 に な った 。 だ が 、 あ の 字 の な い は が き は 、 だ れ が ど こ に
学 習 の手 引 き を検 討 す る 。 ま ず 光 村 図 書 版 か ら み る。
描 写 を 通 し て、 人 物 の心 情 や 状 況 を 読 み 取 る
1 筆 者 が い っし ょに 暮 ら し て いた と き の、 父 親 の 日常 的 な 姿 は 、 ど の よう に 描 か れ て いる か 、 ノ ー ト に 書 き 出 し て み よう 。
(一一四 ペ ー ジ )
2 次 の ﹁筆 ﹂ の表 す 意 味 を 調 べよ う 。 そ し て 、 こ の よう な 表 現 で 描 か れ る 筆 者 の 父 の性 格 に つ いて考 え てみ よう 。 ・筆 ま め な 人
・ 一点 一画 も お ろ そ か に し な い大 ぶ り の筆 で 、 ⋮ ⋮ (一一四 ペ ー ジ ) ・き ち ょう め ん な 筆 で ⋮ ⋮ (一一六 ペ ー ジ )
3 ﹁終 戦 の年 ﹂ の家 族 の様 子 が わ か る 描 写 を 抜 き 出 し 、 家 族 の 置 か れ た 状 況 と ﹁父 ﹂、 ﹁母 ﹂、 ﹁末 の妹 ﹂ の心 情 を 考 え て み よ う 。
4 筆 者 は 、 さ ま ざ ま な 経 験 を 通 し て、 父 親 のど の よう な 姿 を 発 見 し 、 ど の よ う に感 じ た のだ ろ う か 。 作 品 か ら 読 み取 ろ う 。 ・初 め て親 も と を 離 れ た と き の 経 験 ・末 の妹 の疎 開 に ま つわ る 経 験 ・﹁三十 一年 後 ﹂ の、 作 品 が書 か れ た 時 点 ︽新 出 漢 字 ︾ ※省 略
﹁ど の よう に 描 か れ て い るか 、 ∼ 書 き 出 し て﹂ や 、 ﹁こ のよ う な 表 現 で描 か れ る ﹂、 ﹁ 様 子がわ かる描写﹂ など の
﹃ 父 ﹄、 ﹃母 ﹄、 ﹃ 末 の妹 ﹄ の心 情 ﹂、 ﹁父 親 の⋮ 姿 ﹂ な ど の 理 解 ・
記 述 か ら と ら え ら れ る よ う に 、 表 現 面 を 重 視 し て い る こ と が う か が わ れ る。 た だ し 、 そ の 目 的 は 、 ﹁父 親 の 日 常 的 な 姿 ﹂ や ﹁父 の性 格 ﹂、 ﹁ 家 族 の置 か れ た 状 況 と
把 握 に お か れ て いる こと が 認 め ら れ る 。 つま り 、 特 定 の状 況 と そ こ に か か わ る 人 間 の人 物 像 や心 情 を と ら え さ せ
よ う と し て い る ので あ る。 ま た 、 お のず か ら 戦 時 下 と いう 状 況 の読 み が 求 め ら れ る こと に な る 。 こ の 二 つを つな
ぐ と 、 単 元 冒 頭 の学 習 の目 当 て ﹁情 景 や 心 情 の描 写 を と ら え 、 平 和 に つ い て考 え る ﹂ と の 有 機 的 な 連 関 が 見 事 に 見出さ れる。 学 校 図書 版 を 見 る 。
学習 A
一 手 紙 や 葉 書 を 通 し て 日常 生 活 で は感 じ ら れ な い面 を 知 った 経 験 が あ れ ば 、 思 い出 し て お こ う 。 二 文 章 の前 半 か ら 次 の こ と を 読 み取 ろ う 。 ① 日 常 生 活 で筆 者 が 見 た 父 の姿 。 ② 手 紙 の中 か ら 筆 者 が 感 じ 取 った 父 の姿 。
三 妹 か ら 送 ら れ てく る葉 書 の変 化 を 順 を 追 って ま と め 、 そ れ ぞ れ の時 の父 親 の心 情 を 想 像 し て描 い て み よう 。
四 末 の妹 が 疎 開 先 か ら 帰 ってく る 日 の で き ご と を 通 し て、 筆 者 は 父 親 の姿 を ど の よ う に 感 じ 取 った か 、 話 し 合 って み よう 。 学習 B 一 あ ら か じ め 工 夫 す る ポ イ ント を 決 め て、 朗 読 し 合 お う 。 二 戦 時 下 にお け る 生 活 を 描 いた 作 品 を 探 し て読 み 、 内 容 を 紹 介 し合 お う 。 学習 C 一 次 の語 句 を 、 他 の言 葉 で 言 い換 え て みよ う 。 ① 三 日 にあ げ ず ②折 り目正 し い ③ 非 の打 ち ど こ ろ のな い
﹁父 の姿 ﹂、 ﹁父 親 の 心 情 ﹂ の読 み が 設 定 さ れ て いる が 、 光 村 図 書 版 ほ ど 重 視 さ れ て いな い。 文 学 作 品 の内 容 の
読 み に と ど ま ら な い、 方 法 の読 み方 の学 習 を 導 こ う と す る 意 図 が う か が わ れ る 。 ま た 、 個 々 の学 習 事 項 が 、 ﹁思
い出 し て お こう ﹂ や ﹁読 み 取 ろ う ﹂、 ﹁ 想 像 し て描 い て み よ う ﹂、 ﹁話 し 合 って み よ う ﹂、 ﹁朗 読 し 合 お う ﹂、 ﹁紹 介 し
合 お う ﹂ な ど と な ってお り 、 多 様 な 様 相 を 見 せ る 。 文 学 の内 容 の読 み 取 り か ら多 様 な 言 語 活 動 へと 展 開 さ せ よ う と す る 明確 な 意 図 と 見 る こ と が でき る 。
教 材 研究 は 、 そ れ 自 体 が 目 的 であ って 、 評 価 と の関 係 は さ ほ ど 濃 く な いと 思 わ れ る が 、 実 際 に取 り 組 ん で み る
と 、 形 成 が 期 待 さ れ る 学 力 のさ ま ざ ま な 様 相 が浮 か び 上 が ってく る 。 指 導 者 で あ れ ば 、 そ こ に自 分 が 受 け 持 って
い る学 習 者 の様 態 や 個 性 を 重 ね る こ と に さ ほ ど 困 難 を 感 じ な いし 、 そ れ を 行 う の が自 然 だ と も いえ る 。 つま り 、
か な り 無 自 覚 的 に診 断 的 評 価 を 行 って いる の で あ る 。 ﹁教 材 あ り き ﹂ と いう 指 導 の姿 勢 は し ば し ば 批 判 の対 象 と
な る が 、 教 材 の 具体 像 を 抜 き に し た 学 力 論 、 評 価 論 も ま た 空 論 と いう 意 味 で 問 題 が 大 き い。 要 は 、 教 材 研 究 か ら 学 習 者 像 、 学 力 像 を 導 き 出 す 姿 勢 や手 立 て、 整 理 の問 題 で あ る 。
現 実 の国 語 学 習 は 、 純 粋 に 学 習 者 の学 力 に即 し た 教 材 を 用 い る こと は 難 しく 、 一般 的 に 妥 当 性 が 認 知 さ れ て い
る 教 科 書 教 材 を 用 い る こ と が ほ と ん ど で あ る 。 そ う す ると 、 教 科 書 教 材 の系 統 性 が 学 習 者 の学 習 の系 統 性 そ のも
のと な る危 険 性 が あ る。そ こ に診 断 的 評 価 を 積 極 的 に 織 り 込 んだ 教 材 研 究 を 充 実 さ せ る 意 味 が 出 てく る の であ る 。
学 習 集 団 、 学 習 者 個 々 の そ れ ま で の学 習 の実 態 、 つま り 、 学 力 形 成 状 況 、 学 習 意 欲 のあ り よ う 、 学 習 の自 立 の程
度 、 既 習 の学 習 方 法 な ど に 関 す る事 前 の評 価 と 教 材 の価 値 を 照 合 し 、 新 し く 展 開 す る国 語 学 習 に お け る 学 力 像 を
明 確 に し 、 よ り 有 効 性 の高 い授 業 を 計 画 し て いく の であ る 。 学 習 者 個 々 の学 習 に 対 す る 具 体 的 評 価 の視 点 を 見 失 わ な いよう にす る こ と が 肝 要 で あ る。
4 学 習 記 録 に基 づ く 診 断 的 評 価
学 習 記 録 を 資 料 に 、学 習 の蓄 積 にお け る 成 果 と 課 題 お よ び 展 望 を 診 断 的 に評 価 す るも ので あ る 。学 習 の記 録 は 、
数 値 化 さ れ にく く 、 学 力 の形 成 状 況 を み る に は 困 難 が 伴 う が 、 学 習 の成 果 を そ れ ま で の軌 跡 に 乗 せ てと ら え る に
は き わ め て有 効 で あ る 。 ノ ー ト 類 、 プ リ ント 類 に 加 え て 、 ポ ート フ ォ リオ 的 な 学 習 の 記 録 を 長 期 的 な 軌 跡 と し て
検 討 す る と 、 単 純 な 記 録 以 上 に そ の 学 び 手 の 学 び の エネ ルギ ー、 達 成 状 況 、 達 成 感 、 迷 い、 不 安 、 方 向 、 要 求 な
ど が 浮 か び 出 て く る 。 合 理 性 が 乏 し か った り 、 精 粗 が 目 立 つこ と が多 いが 、 そ れ 自 体 が 学 び に 対 す る 生 の姿 と
な って いる の で 、 解 釈 の仕 方 次 第 で さ ま ざ ま な こと を 読 み 取 る こ と が でき る 。 長 期 に わ た る 評 価 の営 み が 必 要 で
あ る が 、 そ の解 釈 の蓄 積 が 一つ の診 断 的 評 価 と な る 。 小 学 校 の作 文 の学 習 な ど で 用 いら れ る こ の手 法 が 代 表 的 な 例 で あ る。
5 能 力 調査 に 基 づ く 診 断 的 評 価
教 材 に即 し た 診 断 的 評 価 は 、 指 導 者 の授 業 に対 す る 緊 張 感 や ス タ イ ル を 反 映 す る こと が 多 い。指 導 者 が自 身 の
特 質 や志 向 性 を 生 か し た 診 断 的 評 価 は 、 学 習 が コミ ュ ニケ ー シ ョン 的 に 展 開 さ れ る意 味 に お いて価 値 が 高 い。 反
面 、 コミ ュ ニケ ー シ ョ ンを 前 面 に出 しす ぎ て、 つま り 自 分 が 受 け 持 つ学 習 集 団 の個 性 に 密 着 し す ぎ て、 客 観 的 に 必 要 な 学 力 に 対 す る意 識 を 弱 め る こと が 予 想 さ れ る 。
能 力 調査 に 基 づ く 診 断 的 評価 は 、 学 習 集 団 の リ ア リ テ ィ に 欠 け る も の の、 構 造 的 ・相 対 的 な 学 力 像 を 鮮 明 にす
る こと が 期 待 さ れ る 方 法 で あ る 。 以 下 、 事 例 の 一部 分 を 示 す 。 小 学 校 四 年 生 か ら 中 学 校 二年 生 に わ た って 共 通 に 使 用 し た 調 査 問 題 であ る。
﹁五重 塔 と 高 層 建 築 ﹂
地 に残 って いる が 、 そ れ が 地 震 や 強 風 で 倒 れ た と いう 話 は め った に 聞 か な い。
高木 隆 司
1 日 本 で一 番 古 い 五重 塔 は 千 三 百 年 以 上 前 の も の で 、 法 隆 寺 に あ る 。 ほ か に も た く さ ん の古 い五 重 塔 が 日 本 の各
2 い った い 五 重 塔 に は ど ん な 秘 密 が か く さ れ て いる の で あ ろ う か 。
3 自 然 の 樹 木 は た い へ ん や わ ら か く 、 少 し 曲 げ た く ら い で は 折 れ な い。 こ の 折 れ な い で し な う と いう 性 質 を ﹁し
( 木 組 み ) に 工夫 が あ る 。 塔 の 中 心 に 、 一階 か ら 五 階 ま で つら ぬ き 通 し た 太
な や か だ ﹂ と いう 。 五 重 塔 は こ の 自 然 の 樹 木 の性 質 を 利 用 し 、 た く み に 建 て ら れ て い る 。
い柱 が あ る が 、 そ れ 以 外 に は二 つ の階 に わ た っ て 通 し て あ る 柱 は な い。 つ ま り 、 一階 ご と に 独 立 し て いる の で あ
4 五 重 塔 に は 、 木 材 の 組 み 合 わ せ 方
る 。 こ の よ う に各 階 が 固 く 結 び 付 い て い な いの で 、 外 か ら 強 い風 の よ う に力 が か か っ た と き も 、 つぎ 目 が こ わ れ
る こ と な く 、 建 物 全 体 が し な う 。 五 重 塔 は 、 し な や か な つく り を 持 って いる の で な か な か た お れ な いの で あ る 。
合 って き し み 、 大 き く ゆ れ る こと が 多 い 。 そ の ゆ れ は 塔 の し な や か さ の た め に 、 各 部 分 に伝 わ っ て いく 。 ゆ れ の
5 と こ ろ で 、 外 か ら 力 が か か った と き 、 五 重 塔 は し な う だ け で は な く 、 木 組 み の あ ち こ ち で 木 材 ど う し が こ す れ
組 み の き し み が あ ち こ ち で 起 こ っ て 全 体 に か か った 力 を 少 し ず つ 分 散 し て い る か ら で あ る 。
勢 いは 、 建 物 全 体 と し て は 大 き く て も 、 そ れ が 塔 の は し の 部 分 に ま で 伝 わ った と き に は 、 小 さ く な っ て い る 。 木
形 に し て い る の で 、 地 震 が 来 た ら ゆ れ や す い 。 し か し 、 建 物 は し な や か に つく っ て あ り 、 ゆ れ の 勢 い は 五 重 塔 と
6 こ の よ う な 五重 塔 の 工 夫 は 、 現 代 の 科 学 技 術 を 結 集 さ せ た 高 層 建 築 に も 生 か さ れ て いる 。 高 層 建 築 は 、 細 長 い
﹂ によ り、 でき あが って いる
同 じ よ う に 建 物 の 各 部 分 に 分 散 し て いく 。 ま た 鉄 骨 や コ ン ク リ ー ト の 材 料 に き し み が 起 き て 、 ゆ れ の 勢 いを 弱 め て し ま う の で な か な か た お れ な い よ う に な って いる 。 7 高 層 建 築 と 五重 塔 を 比 べ る と 、 現 代 の 科 学 技 術 も 、 昔 か ら の ち え を ﹁ ことが わ か るだろ う。 (※ 大 阪 書 籍 小 学 校 五 年 平 成 四年 度 版 を 調 査 者 に よ り簡 略 化 )
(調 査 問 題 ) 1① こ の文 章 を 読 ん で いち ば ん注 目 し た こと は 何 です か 。 ② そ の理 由 も 書 いてく だ さ い。
○積 み上げ ること
○ 保存す ること
2① こ と ば の使 い方 で 、 じ ょう ず だ な あ と 思 う も のを 一つ書 いて く だ さ い。
○ 大 切 に す る こと
﹂ に 入 る ふ さ わ し いこ と ば を 次 か ら 選 ん で く だ さ い。
② そ の理 由 も 書 いて く だ さ い。 3① ﹁ ○ そ のま ま 使 う こと
②そ のこ と ば を 選 ん だ 理 由 も 書 いてく だ さ い。
こ の調 査 の詳 細 に 関 し ては 省 略 す る が 、 も っと も 興 味 深 か った 結 果 は 、 ﹁2① こ と ば の 使 い方 で 、 じ ょう ず だ
な あ と 思 う も のを 一つ書 い てく だ さ い。② そ の理 由 も 書 いて く だ さ い。﹂ に 関 す る も の で あ る。 か な り の学 習 者
が ﹁秘 密 ﹂ や ﹁し な や か ﹂ と いう 、 いわ ば キ ー ワ ー ド を あ げ て いた が 、 そ れ 以 外 に ﹁分 散 ﹂ や ﹁結 集 ﹂ と いう 、
いわ ゆ る 難 語 句 と 思 わ れ る も のを あ げ 、 そ の理 由 と し て ﹁か っこ い い﹂、 ﹁使 って み た い﹂ と いう 憧 れ のよ う な も
のを 記 し て いた 。 小 学 校 五 年 生 以 降 特 徴 的 であ った が 、 こ れ は 、 従 来 の指 摘 に な い こと で あ った 。 通 常 、 こ のよ
う な 語 句 が出 てき た ら 、 言 語 抵 抗 と 考 え て 、 丁 寧 な 語 句 指 導 を 計 画 す る 。 と こ ろ が 、 小 学 校 高 学 年 児 童 に と って
は 、 抵 抗 と いう よ り 魅 力 と し て 作 用 す る こ と も あ る の であ る 。 こ の よう な 現 象 は 、 授 業 の実 際 か ら は な か な か と
ら え にく く 、 診 断 的 評 価 と し ても 先 入 観 が 優 先 さ れ や す い。 能 力 調 査 と いう いわ ば 外 的 な 方 法 を 導 入 し 、 学 力 の
語
実 態 を 日 々 の学 習 と は 別 の側 面 か ら と らえ る こと も 診 断 的 評 価 と し て必 要 であ る 。
結
評価 に 関 し て は 、 統 計 的 な 手 法 、 事 例 的 な手 法 、 さ ら に は 直 感 的 な 手 法 な ど 、 さま ざ ま な 手 法 が 試 み ら れ て い
る が 、 方 法 自 体 の厳 密 性 や 科 学 性 の議 論 は 一定 の レ ベ ル で終 息 す る も の であ る 。 実 質 的 な 評 価 の効 果 は 、 対 象 で
あ る学 習 者 の学 力 形 成 、 学 習 意 欲 の 伸 長 、 学 習 者 と し て の自 主 性 ・自 立 性 の確 立 な ど の実 効 的 な 部 分 で最 終 決 定
さ れ る 。 と す ると 、 評 価 に は 目 的 に応 じ た 手 法 と いう も のは 存 在 し ても 、 決 定 的 、 絶 対 的 な 手 法 は 存 在 し な いと
いう こ と に な る。 こ れ は 評 価 の難 し さを 表 し て いる し 、 評 価 の容 易 さ も 示 し て いる 。 容 易 さ と いう のは 語 弊 が あ
る が 、 評価 の目 的 や観 点 を 絞 れ ば 、 お のず か ら そ の結 果 が得 ら れ ると いう こと で あ る 。 要 は 、 そ の組 み 合 わ せ や
解 釈 、 そ の後 の学 習 指 導 の見 通 し が 重 要 だ と いう こ と であ る 。 教 材 研 究 の際 に行 わ れ る診 断 的 評 価 も 、 事 例 分 析
に よ る 診 断 的 評 価 も 、 能 力 調 査 に よ る診 断 的 評 価 も 、 そ れ ぞ れ根 拠 が あ り 、 目 的 に 応 じ た 適 性 が あ る 。 そ れ ら を 活 用 す る広 い視 野 と 組 織 的 ・構 造 的 な 学 力 観 が 求 め ら れ る。
二 形成的評価の方法と試行
は じ め に
形 成 的 評 価 が は じ め にど のよ う な 形 で導 入 さ れ 、 日 本 の教 育 状 況 のも と でど のよ う な 授 業 実 践 と し て具 現 化 さ
れ て い った の か に 、 ﹁方 法 と 試 行 ﹂ の ひ と つの 姿 を 見 出 す こと にす る 。 ま た 、 形 成 的 評 価 の意 義 に つ い て、 有 効
性 と 問 題 性 が ど の よう に捉 え ら れ た か を 整 理 す る 。 そ のう え で 現 在 的 な 意 義 づ け を 行 い、﹁学 習 者 把 握 ﹂ を ど の
e )vとaい lう u術 at 語i をo最n初 に 用 いた のは 、 スク リ ヴ ァン (Scrive)nと ,さ M れ. て
よ う に め ざ す の か に つ いて検 討 す る 。
(formative
︵一︶ 形成的評価 の導入 形成 的評価
い る。 そ こ で は 、 カ リ キ ュラ ム 作 成 に専 ら 用 い ら れ た よ う で あ る が 、 ブ ル ー ム (Bloom,) B. (S 一九 .七 一a) ら は 、 次 のよ う に 形 成 的 評 価 を 拡 張 さ せ て 用 いよ う と し て い る。
形 成 的 評 価 は カ リ キ ュ ラ ム作 成 のみ に で は な く 、 教 授 活 動 や 学 習 活 動 にも 有 効 であ る と 考 え る 。 形 成 的 評
価 は 、 カ リ キ ュ ラ ム作 成 、 教 授 、 学 習 の 3 つ の過 程 の、 あ ら ゆ る改 善 のた め に 用 いら れ る組 織 的 な 評 価 であ
ると いう のが 我 々 の立 場 な の で あ る 。 形 成 的 評 価 は 、 形 成 発 展 す る段 階 に お いて 行 わ れ る も の であ る か ら 、
そ の 過 程 を 改 善 す る た め にそ れ が 用 いら れ る よ う あ ら ゆ る努 力 が な さ れ る べ き であ る 。 形 成 的 評 価 に お い て
は 、 そ の過 程 で 最 も 有 効 であ る と 思 わ れ る 種 類 の デ ー タを 開 発 し 、 そ の デ ー タ を 報 告 す る最 も 有 効 な方 法 を
考 案 し 、 評 価 に 伴 う ネ ガ テ ィ ブ な 影 響 を 減 少 さ せ る 方 法 を 探 求 し な け れ ば な ら な いと いう こ と を こ のこ と は
意 味 し て いる 。 評 価 に 伴 う ネ ガ テ ィ ブ な 影 響 の減 少 は 、 判 断 的 側 面 を 減 少 さ せ る こ と に よ って 、 あ る いは 形
成 的評価 の利用者 ( 教 師 、生 徒 、カ リ キ ュ ラ ム作 成 者 )自 身 に 判 断 さ せ る こと に よ って 達 成 さ れ る であ ろう 。
形 成 的 評 価 の利 用 者 が 、 評 価 の結 果 を 、 彼 ら が 重 要 で 価 値 が あ ると 見 な す 学 習 目 標 や教 授 目 標 と 関 連 さ せ る
方 法 を 発 見 す る こと が 望 ま れ る の で あ る。
ブ ル ー ム ら は 、 総 括 的 評 価 ・診 断 的 評 価 と の関 係 性 を 持 た せ た う え で 、 上 述 の よう に ﹁カ リ キ ュラ ム 作 成 、 教
授 、 学 習 の 3 つの過 程 の、 あ ら ゆ る 改 善 のた め に 用 いら れ る 組 織 的 な 評価 ﹂ と し て形 成 的 評 価 を 重 視 す る 評 価 論 を展開 した。
ま た 、 ブ ルー ム ら は 、 試 験 の基 盤 と な り う る教 育 目 標 分 類 を 出 発 点 と し な が ら 、 教 育 目 標 の分 類 学 ( タ キ ソノ
ミー ) の 研 究 を 進 め 、 一九 五 六 年 に は 認 定 的 領 域 に つ いて 、 一九 六 四 年 には 情 意 的 領 域 に つ い て成 果 が 報 告 さ れ
る が 、 精 神 運 動 的 領 域 に つ いて は そ の 具 体 的 な 姿 は 示 さ れ て いな い。 そ のま ま に 評 価 論 が 整 理 展 開 さ れ て い った と こ ろ に 後 の問 題 を 孕 ん で いた のか も し れ な い。
( 目 標 細 分 析 表 ) を 作 成 し 、 これ
(二〇 〇 〇 ) に よ れ ば 、 そ れ は次 のよ う な プ ログ ラ ム であ る 。
さ ら に 、 ブ ル ー ム ら は 、 授 業 内 容 を す べ て の 子 ど も が 習 得 でき る よ う にす る べ く 、 完 全 習 得 学 習 (マ ス タ ー ラ ー ニ ング ) を 提 唱 し た 。 馬 場 久 志
① 学 習 目 標 の詳 細 な 分 析 と 授 業 内 容 の具 体 化 を 行 う 。 教 育 目 標 の細 分 化 表
に基 づ い て内 容 と 行 動 を 縦 ・横 軸 に 配 置 し た内 容 ×行 動 マト リ ック スを 作 成 す る 。
② 診 断 的 な テ ス ト に 基 づ き 、 レ デ ィネ ス ( 学 習 の前 提 条 件 ) に欠 け る 子 ど も に は 補 充 学 習 を 行 う 。 ③ 到 達 目 標 を 子 ど も に提 示 し 、 動 機 づ け や学 習持 続 力 を 高 め る よう に す る。
④ 学 習 過 程 で は 形 成 的 評 価 を 行 い、 習 得 で き た か ど う か を 明 ら か に し て、 次 に ど の学 習 を 行 う べ き か を 理 解
さ せ る 。 ま た 形 成 的 評 価 の 結 果 か ら 得 ら れ る 子 ど も の到 達 度 に応 じ て、 小 集 団 や個 別 の形 態 で 補 習 や 深 化 学 習 を 繰 り 返 し 、 そ の後 に 一斉 学 習 の中 で再 学 習 を 行 う 。
こ れ ら の こと を 言 語 学 習 に つ いて 具体 化 し たも のが ﹁言 語 能 力 の細 目 表 ( 幼 ∼ 小 6)﹂ と し て 提 示 さ れ て い る。 横 軸 に ﹁活 動 ﹂ を 、 縦 軸 に ﹁内 容 及 び 技 能 ﹂ を 置 く 。
﹁活 動 ﹂ は ﹁認 知 的 活 動 領 域 ﹂ と ﹁情 意 的 領 域 ﹂ に 分 け ら れ る 。 さ ら に 、 あ わ せ て 8に 分 類 さ れ る (A ∼ E は
認 知 的 活 動 領 域 、 F∼ H は 情 意 的 領 域 )。 そ れ ら は 、 さ ら に 下 位 分 類 さ れ 次 の よう に 項 目 化 さ れ る。 A.0 知 識
A.1 用 語 の知 識 ・A・2 個 々 の事 実 に つ い て ・A.3 慣 用 やき ま り に つ い て の知 識 ・A.4 分 類 と 範〓 化 に つ いて の知 識 ・A.5 基 準 に つ いて の知 識 B.0 理 解 B.1 言 い か え ・B.2 解 釈 C.0 分 析 C.1 要 素 の 分 析 ・C.2 関 係 の分 析 ・C.3 組 織 原 理 の分 析 D.0 応 用 D.1 機 能 上 の応 用 ・D.2 表 現 上 の応 用
E .0 評 価
E.1 客 観 的 評 価 ・E.2 主 観 的 評 価 F .0 態 度 F .1 受 入 れ 的 態 度 ・F .2 鑑 賞 ・価 値 づ け
参 加
G .1 意 識 す る こ と ・G .2 選 択 的 に 注 意 を 払 う こ と
G .0 受 容
H .0
H .1 意 欲 的 な 参 加 ・H.2 参 加 の 享 受
(1 .3 1 言 語 音 ・1 .3 2 語 形
﹁内 容 及 び 技 能 ﹂ は 、 ﹁言 語 ﹂、 ﹁言 語 技 能 ﹂、 ﹁文 学 ﹂ に 分 け ら れ る 。 そ れ ら は 、 さ ら に 下 位 分 類 さ れ て 次 の よ う に項 目 化 さ れ る 。
1 .1 言 語 の 本 質 ・1.2 言 語 の 歴 史 ・1 .3 言 語 の 構 造
1.0 言 語
式 ・1 .3 3 語 の 配 列 ) ・1.4 語 い (1.4 1 語 の 歴 史 ・1 .4 2 語 の 意 味 ・1.4 3 辞 書 の
(2 .1 1 基 礎 的 な 聞 き と り 技 能 ・2.1 2 聞 く こ と の 活 動 ) ・2 ・2 話 す こ と
用 法 ) ・1 .5 方 言 ・1 .6 語 法 ・慣 用 法 ・1.7 つづ り 字
2.1 聞 く こ と
2.0 言 語 技 能
(2.3 1 基 礎 的 な
(2 .4 1 基 礎 的 な 書 く こ と の 技 能 .2 .4
(2.2 1 基 礎 的 な 話 し の 技 能 ・2.2 2 話 す こ と の 活 動 ) ・2.3 読 む こ と 読 み の 技 能 ・2 .3 2 読 み の 活 動 ) ・2.4 書 く こ と 2 書 く こ と の 活 動 ) 3.0 文 学 3.1 詩 ・3 .2 散 文
現 在 の日 本 の国 語 教 育 の状 況 か ら し て も 、 言 語 の ﹁知 識 ﹂、 ﹁ 内 容 ﹂ 面 の分 析 に 比 べ て言 語 の ﹁技 能 ﹂ 面 の分 析
が 希 薄 な こ と が わ か る 。 こ れ は 、 日 本 語 と いう 言 語 の特 性 で は な く 、 言 語 学 習 の 能 力 と そ の発 達 が 、 階 段 状 の モ
デ ルと し て では な く 螺 旋 状 の モ デ ルと し て多 く 描 か れ る のと 同 様 に 、 体 系 的 な 能 力 ・目 標 の構 造 化 が 難 し いこ と と か か わ って いる ので あ ろう 。
︵二︶ 形成的評価 の実際
形 成 的 評 価 は 、 日 本 に お い ても 、 診 断 的 評 価 ・総 括 的 評 価 と と も に 、 授 業 実 践 と り わ け 一時 間 や 一単 元 の学 習 前 ・中 ・後 と い った プ ロセ スに 位 置 づ け ら れ て いく こと に な った 。
(一九 七 八 ) か ら 以 下 に見 て み る こと に す る。
ま た 、 完 全 習 得 学 習 の側 面 と 日本 に お け る ﹁通 知 表 の 改 善 ﹂、 ﹁わ か る授 業 づ く り ﹂ と の流 れ か ら 、 到 達 度 評 価 や達 成 目 標 の 明 確 化 の実 践 研 究 が進 め ら れ た 。 到 達 度 評 価 に お け る形 成 的 評 価 の具 体 的 な 姿 を 、 塩 尻
形 成 的 評 価 を 、 本 稿 で は 授 業 過 程 で 行 う ﹁形 成 的 チ ェッ ク﹂ と 、 単 元 、 教 材 の終 了 時 点 で行 う ﹁ 終 末評価﹂
に 分 け て い る 。 こ の 中 の ﹁形 成 的 チ ェ ック ﹂ は 、 本 時 の授 業 過 程 の中 で行 う も の であ る 。 単 元 や 教 材 内 容 、
そ の取 扱 いに よ って は 、 指 導 者 の判 断 で い ろ いろ な 方 法 が 考 え ら れ る 。 形 成 的 チ ェ ック を 、 一時 間 の授 業 の
中 で何 回行 う か 、 場 合 に よ っ ては 行 わ な いか も 同 様 であ る 。 本 時 の目 標 に 照 ら し て 、児 童 ・生 徒 の 一人 一人
が 、 ど こ ま で 到 達 し た か を 確 認 し て いく こ と は 、 到 達 度 評 価 の実 施 に 当 た って 絶 対 に 必 要 な こと であ り 、 こ
のこ と を 通 し て、 学 力 回 復 の指 導 を 行 わ な け れ ば 、 つま ず き や 落 ち こ ぼ れ の解 消 は 難 し い。
前 掲 ( 略 )、 ﹁細 目 標 化 ﹂ の 例 では 、 二 回 の形 成 的 チ ェ ック を 行 う 計 画 に な って いる 。 一つは 、② の ﹁中 心
的 な 部 分 を手 が か り に 、 一∼ 五 段 落 の そ れ ぞ れ の 要 点 を 各 段 二 〇字 以 内 で ノ ー ト に書 く ﹂ のと こ ろ で 、 ○ 印
﹁机 間 巡 視 ﹂ と あ る 。 こ れ は 、 机 間 巡 視 を し て 、 各 段 落 ご と の要 点 が ま と め ら れ て いる か ど う か を チ ェ ック
す る も の で あ る 。 も う 一つは 、 ④ の ﹁分 類 し た 意 味 段 落 を 理 由 を つけ て 発 表 す る ﹂ のと こ ろ が 、 ○ 印 ﹁グ
ル ー プ 巡 視 ﹂ と な って い る 。 こ の案 で は 、各 項 目 ご と の チ ェ ック 計 画 は な い。 す な わ ち 、① と ② 、③ と④ は 、
そ れ ぞ れ 関 連 し あ って い る た め 二 回 のチ ェ ックと し て いる 。 一方 、 授 業 終 了 直 前 に 行 う ﹁形 成 的 チ ェ ック ﹂ も あ って 、 チ ェ ック の方 法 は 、 いろ い ろ考 え ら れ る 。
チ ェ ックす る 場 合 、 学 習 者 の表 情 を 見 た だ け でも 察 し が つく 場 合 も あ る が 、 よ り 確 実 に す るた め 、 簡 単 な
質 問 紙 を 用意 し て書 か せ る 、 ノ ー ト 、 グ ルー プ 巡視 、 机 間 巡 視 、 挙 手 、 発 表 等 に よ る点 検 も 考 え ら れ る。 い
ず れ の方 法 を と る に し て も 、 教 師 は 、 チ ェッ ク し た も のを メ モし 、 だ れ が 、 ど こ で つま ず い て いる か を 確 認 す る 必 要 があ る 。 (略 )
形 成 的 チ ェ ック は、 点 数 に置 き 換 え るも の で は な い。 つま ず き が 非 常 に多 い場 合 、 そ の原 因 が 教 材 にあ る
の か 、 指 導 目 標 や 指 導 方 法 にあ る のか 、 さ ら に 、 具 体 的 な 展 開 の方 法 、 一斉 授 業 で は発 問 に問 題 点 は な い の
かな ど 、ま ず 、指 導 者 側 の反 省 材 料 にし て今 後 の指 導 に 役 立 て る こと が 大 切 であ る 。 一方 、学 習 者 の側 にも 、 ど のよ う な 問 題 点 があ る のか も 考 え て みな け れ ば な ら な い。
﹁形 成 的 チ ェ ック は 、 点 数 に置 き 換 え るも の では な い。﹂ と 言 い切 ってお り 、 到 達 度 評価 に位 置 づ け ら れ た ﹁形
成 的評 価 ( 形 成 的 チ ェ ック )﹂ は 、 そ の フ ィ ー ド バ ック に よ る 指 導 の修 正 ・調 整 を 学 習 者 側 の要 素 も 含 め て 役 立
てら れ よう と し て いる 。 し た が って 、 そ のチ ェ ック も 精 選 さ れ 、 こ の授 業 場 面 で は 2 回 行 わ れ て い る。 ブ ルー ム
の ス モ ー ル ・ス テ ップ で フィ ー ド バ ック す る こ と を 可 能 と し た 側 面 は 、 そ の学 習 単 位 の大 き さ ( そ れも 小 さ く す
る こと を 形 成 的 評 価 は 可 能 に し た わ け で あ るが ) お よ び ア メ リ カ の 行 動 主 義 的 な 背 景 と も 相 ま って、 と き に は 、
一定 の 結 果 に 一定 の道 筋 を 通 ら せ て 行 か せ る よ う な プ ログ ラ ム学 習 を 生 み 出 す こと も あ り 得 る 。 実 践 場 面 にお け る ﹁形 成 的 評 価 ﹂ は こ の程 度 の機 会 が 実 際 的 で あ った こ と が う か が え る。
一方 、 楢 原 (一九 九 〇) では 、 国 語 科 教 科 書 教 材 の場 合 を 例 と し て、 綿 密 な ﹁形 成 的 評 価 の手 順 ﹂ を 提 示 し て
いる。 そ こ で は 、 小 学 校 国 語 科 検 定 教 科 書 に お け る説 明 的 文 章 教 材 ﹁色 さ いと く ら し ﹂ ( 東 京 書 籍 一九 九 〇 年 ) を も と に し て 、 学 習 目 標 を 設 定 し て いる 。
A 身 の ま わ り の ﹁ 色 ﹂ に 関心 を も ち 、 そ の色 の働 き に つ いて 考 え る こ と が で き る ( 全 体 の目 標 。 通 常 は 一単 元 の目 標 の ひ と つ)。
B ﹁今 の色 ﹂ と ﹁む か し の色 ﹂ のち が い に つ い て 理 解 す る こ と が で き る (一単 位 時 間 の授 業 の形 成 的 な 目 標 の ひと つ。 こ こ では 、 一時 間 目 の導 入 部 の 目 標 )。
そ のう え で ﹁形 成 的 評 価 の手 順 ﹂ と し て 、 次 の よう に 述 べ ら れ て いる 。
目標 B にも と づ い て、 形 成 的 評 価 の手 順 を 述 べ る。 ( 略)
( 何 が 書 か れ て いる か ) を 理 解 す る こ
形 成 的 評 価 の 項 目 は 、 達 成 の指 標 を 考 え な が ら 全 体 目標 を 下 位 分 類 す る こ と によ って 、 設 定 で き る。 A の全 体 目 標 を 下 位 分 類 し て いく と 、 達 成 の前 提 に 、 ﹁教 材 の内 容
と が で き る ﹂ と いう 下 位 目 標 が 見 いだ さ れ る 。 B は、 そ の教 材 本 文 の第 一形 式 段 落 と 第 二形 式 段 落 の理 解 度 に関 す る 目 標 であ る 。 B の評 価 の対 象 は 、 ﹁ち が い﹂ を 理 解 し た と き であ る 。
﹁今 の色 ﹂ と ﹁む か し の色 ﹂ の ﹁ち が い﹂ は 、 本 文 に 明 言 さ れ て いな い。 し た が って、 第 一 ・第 二形 式 段
落 か ら 、 ﹁ち が い﹂ を 類 推 でき る 箇 所 に 注 目 さ せ な け れ ば な ら な い。 そ れ が 、 教 材 内 容 の形 成 的 評 価 項 目 の 一つ にな る 。
以 下 、 目 標 B の形 成 的 評 価 項 目 を 時 間 的 順 序 にし た が って略 述 す る 。
(1) 第 一形 式 段 落 の ﹁こ れ ら の色 は 、 た い て いは 、 人 間 が作 って着 色 し た も の で あ る 。﹂ の ﹁た い て い
は ﹂ と いう 言 葉 か ら 、 ﹁人 間 が 作 った ので は な い色 ﹂ も あ る こ と が わ か る。 ︿藍 染 め や 草 木 染 め は現 代 では 高 価 な も の に な って いる 。﹀
(2 ) ﹁人 間 が 作 った の で は な い色 ﹂ は 、 第 二形 式 段 落 の ﹁自 然 に あ る も の の色 ﹂ に よ って ﹁着 色 し た ﹂ ﹁色 ﹂ であ る こと が わ か る 。
(3) 前 出 の (2) の ﹁色 を 作 り 出 す 方 法 ﹂ が 、 む か し のも の であ る こ と が わ か る 。
(4 ) 今 の ﹁色 を 人 間 が 作 り 出 す 方 法 ﹂ は 、﹁一九 世 紀 半 ば に 、 イ ギ リ ス で 、 コ ー ル タ ー ルか ら む ら さ き
色 が作 ら れ た ﹂ こ と に始 ま る こ と が わ か る 。 ︿万 葉 集 で は 、紫 は 高 貴 な 色 と し て 和 歌 に詠 ま れ て いる 。﹀
(5 ) 今 の ﹁色 を 人 間 が 作 り 出 す 方 法 ﹂ に は 、 ﹁色 の合 成 ﹂ と いう こと も 含 ま れ て いる こと が わ か る。
(6 ) ﹁色 を 作 り 出 す 方 法 ﹂ は 、 そ の後 、 さ ら に進 歩 ・発 展 し て 、 ﹁何 万 色 も の色 が 作 り 出 せ る よ う に な っ た﹂ ことが わかる。
(7) ﹁今 の 色 ﹂ と ﹁む か し の 色 ﹂ の ﹁ち が い﹂ が 、 人 工 か自 然 か 、 非 合 成 か 合 成 か 、 方 法 に時 間 的 な 経
過 が 認 め ら れ る か 進 歩 が 認 めら れ る か、 色 の種 類 が 多 いか少 な い か 、 と いう 点 に 関 す る ﹁ち が い﹂ で あ ることが わかる。
形 成 的 評 価 の項 目 ・観 点 は 、 こ の よ う に、 学 習 者 が 学 習 し て いく 過 程 (わ か って いく 過 程 ) を 、 論 理 的 に
予 想 す る こ と に よ って導 き だ す こ と が で き る。 いさ さ か 煩瑣 で 根 気 の いる 作 業 で あ る 。 も ち ろ ん、 学 習 者 に
よ って は 、 いく つか の項 目 を 飛 び 越 し て 、 (7) に 到 達 す る 場 合 も あ る 。 わ か る た め に要 す る時 間 にも 差 が
出 る。 し か し 、 形 成 的 評 価 は 、 一定 のプ ロセ スを た ど れ ば 、 学 習 者 の多 く が 同 じ 到 達 点 に た ど り つく 可 能 性
を 重 視 し た 評 価 で あ る 。学 習過 程 に生 じ る 個 人 差 に つ い て は 、項 目 ご と に フ ィー ド バ ック さ せ る ( たとえ ば、
(2) に つ いて 得 心 が いか な い学 習 者 に は 、 (1) にも ど って ﹁た い て いは ﹂ の意 味 を 改 め て 考 え さ せ る ) こ
と に よ って、 多 く の学 習 者 が わ か ら な い状 況 が 出 現 し な いよ う に努 め る の であ る 。
学 習 す る テ キ スト を ベ ー スと し て そ の構 造 と 学 習 者 の 反 応 の 予想 と か ら 、 ﹁形 成 的 評 価 ﹂ を 行 う た め の ﹁手 順 ﹂ を ﹁いさ さ か煩瑣 で根 気 の いる 作 業 ﹂ と し な が ら も 丁 寧 に 示 し て いる 。
こ こ にお いて は 、 何 も こ のま ま を 国 語 科 授 業 と し て具 現 化 し て いこ う と す る も の で は な い。 ﹁授 業 中 の即 時 的 評 価 ﹂ と し て 、次 のよ う に 述 べ て いる 。
授 業 中 の評 価 は 、 形 成 的 な 評 価 項 目 を 道 し る べと し て行 う が 、 授 業 の 実 際 は さ ら に 複 雑 で 混 沌 と し た 様 相 を呈す る。 ( 略)
学 習者 間 の差 異 は 、 指 導 者 にと っては 難 題 で あ る が 、 差 異 こ そ が 個 人 を 際 立 た せ る 条 件 で あ る こと に 気 が
つけ ば 、 予 想 を 超 え た 複 数 の反 応 や応 答 を 即 時 的 に 評 価 し て、 授 業 の核 と す る こ と も 可 能 であ る 。
通 過 ポ イ ン トと し て示 さ れ た 形 成 的 な 評 価 項 目 は 、 授 業 を 個 人 の 頭 の中 に 閉 じ 込 め て 個 別 化 す る た め に 必
要 な の で は な く 、 集 団 の中 で 、 一人 ひ と り が ﹁他 者 ﹂ と ど う 違 う の か 、 そ の違 い ( 差異 )をど う受 けとめ 、
ど のよ う に変 容 さ せ て いか な け れ ば な ら な いか を 、 個 別 的 に自 覚 さ せ る手 段 と し て重 要 な の であ る。
︵三︶ 形成 的評価 の位置
福 沢 (一九 八 四) は 、 ﹁形 成 的 評 価 は 、 学 習 単 位 を 決 め て 、 そ の 中 に含 ま れ る構 成 要 素 を 分 析 し た う え で 、 目
標 群 を 明 確 に す ると いう こ と を 前 提 と し て お り 、 そ う し た 条 件 が 揃 った う え で の フ ィ ー ド バ ック な のだ 。﹂ と 位
置 づ け 、 ﹁ブ ル ー ムら の、 形 成 的 評 価 を 含 む 評 価 の 理 論 は 、 完 全 習 得 学 習 や 教 育 目 標 の 分 類 学 と 不 可 分 な 関 係 に
あ る の であ って、 形 成 的 評 価 だ け を 取 り 出 し て み ても 、 そ の真 の機 能 は 働 か な いと いえ る の であ る 。﹂ と し て い
る 。 そ し て 、 ﹁国 語 科 教 育 で は 、 目 標 の分 析 が 難 し く 、 高 次 の抽 象 的 な 目 標 と 低 次 の 具 体 的 な 目 標 を 階 層 的 に 把
握 す る こと が 難 し いた め 、 こ のあ た り は 今 後 の 問 題 と し て残 る こと に な ろう 。﹂ と し 、 ﹁し か し 、 いず れ に せ よ 、
総 じ て 、 形 成 的 評 価 は矮 小 化 さ れ て しま って いる と いう 観 を 否 定 で き な い。﹂ と 当 時 の形 成 的 評 価 の状 況 を 説 明 し て いる 。 三橋 謙 一郎 (一九 八七 ) は 、 形 成 的 評 価 の有 効 性 に つ い て 四点 に整 理 し て いる 。
(1) テ ス ト の結 果 か ら 、 そ の単 元 の 目 標 を 達 成 す る た め に 必 要 な 努 力 と 時 間 の量 を 推 察 し て 、 そ れ に よ って自 ら の学 習 活 動 のあ り 方 を 調 整 し て いく こ と が でき る 。
(2) 成 功 観 を 獲 得 す る こと に よ って、 次 の学 習 へ の強 い動 機 づ け が 行 わ れ る 。
(3) テ スト の結 果 か ら 自 ら の つま ず き を 確 認 す る こ と に よ って 、 目 標 が未 達 成 な の は ど の課 題 が 解 消 で
き な いた め か 、 ど の よう な 知 識 や能 力 が 欠 け て いる た め であ る か を み てと り 、 そ の後 の学 習 の取 り 組 みを 焦 点 化 し て いく こと が でき る。
(4) 形 成 的 テ スト の各 項 目 に 関 し て 、 未 達 成 の場 合 に は 具 体 的 な 指 示 (た と え ば 、 教 科 書 の何 ペ ー ジ を
読 み直 す 、 問 題 集 の何 番 を 行 う な ど ) を し てお く こ と で、 自 ら の つま ず き を そ の手 だ てと 結 び つけ る こと が でき る 。
ま た 、 問 題 点 に つ い て は、 次 の点 を 指 摘 し て いる 。
・指 導 し た 結 果 に基 づ いて 、 そ の定 着 度 を 調 べ て いく ﹁結 果 と し て の評 価 ﹂ の色 彩 の強 い形 成 的 評 価 に は
問 題 が み ら れ る 。 形 成 的 評価 は 単 元 ご と の ペ ー パ ー テ スト を 前 提 と し て いる の であ り 、 子 ど も た ち の思 考
や 表 現 の質 を た え ず つき 動 か し 、 子 ど も た ち の知 的 競 争 を 組 織 し て いく こ と で、 学 級 全 員 の子 ど も に ﹁わ
か る授 業 ﹂ を つく り 出 し て いく こと を 十 分 に保 障 し て いく こ と は でき な いも の と 思 わ れ る 。
・ま た 、 形 成 的 評価 は 目 標 を 明 確 に し 、 到 達 基 準 を 知 識 内 容 の形 で具 体 化 し 、 そ の内 容 を 子 ど も が 完 全 に
習 得 し え た か ど う か に 主 眼 が お か れ て いる 。 そ のた め に 、知 識 や技 能 の 完 全 習 得 に教 師 の 目 は 向 け ら れ 、
子 ど も の探 求 的 な 思 考 力 や 創 造 的 感 性 な ど の能 力 発 達 の側 面 への着 目 が 欠 落 し や す い。
・授 業 に お い て知 識 習 得 と 能 力 発 達 と の統 一を め ざ し 、自 主 的 ・集 団 的 活 動 を 組 織 し て いく た め に は 、 知
識 内 容 の完 全 習 得 に 重 点 が 置 か れ や す い形 成 的 評 価 が 十 分 な 機 能 を 果 た す こ と は む ず か し いも のと 思 わ れ る。
そ のう え で 、 ﹁指 導 と 評 価 の短 絡 的 な 一体 化 を 克 服 し 、 授 業 に お け る 教 師 に よ る 一連 の 教 授 行 為= 子 ど も た ち への働 き か け と 結 び つけ て 研 究 さ れ な く て は な ら な い。﹂ と 課 題 を 提 示 し て いる 。
益 地 (二 〇 〇 二 ) で は 、 到 達 度 評 価 と 形 成 的 評 価 に つ いて 、﹁一九 八 ○ 年 頃 に は ほ ぼ 国 語 科 教 育 の中 に 取 り 入
れ ら れ 、 最 近 二 〇 年 は そ の定 着 と 充 実 に 努 力 し てき た と 言 って よ いだ ろ う 。 ( 略 ) 着 実 な 進 歩 を も た ら し て いる
が 、 そ の反 面 、 一般 化 す る こと で 形 式 的 に 流 れ て し ま う 傾 向 も 見 ら れ る 。 到 達 基 準 の見 直 し や 形 に と ら わ れ な い 評 価 の 日常 化 が い っそ う 求 めら れ る 。﹂ と 位 置 づ け ら れ て いる 。
︵四︶ 学 習 者 把 握 の た め の ﹁形 成 的 評 価 ﹂
(いわ ゆ る 絶 対 評 価 )﹂ を 中 心 と す る
日 本 に お け る 二 〇 〇 〇 年 十 二 月 の答 申 を 承 け た 二 〇 〇 二年 度 ( 高校 は 二〇〇三年度 )から の学習指導要 領 の下 で の教 育 課 程 では 、 評 価 のあ り 方 の転 換 が 行 わ れ た 。 ﹁目 標 に準 拠 し た 評価
と いう も の で 、 長 年 批 判 さ れ てき た ﹁集 団 に準 拠 し た 評 価 (いわ ゆ る 相 対 評 価 )﹂ を 排 す る も の で あ った 。 と こ
ろ が 、 ﹁相 対 評 価 ﹂ も 必 要 であ れ ば 併 用 し て よ いと いう 趣 旨 の答 申 の項 目 が あ った た め 、 実 践 現 場 で は 混 乱 を 来
す こ と と な った 。
こ こ では 、 そ のよ う な 状 況 のな か 、 学 習 者 把 握 のた め に ﹁形 成 的 評 価 ﹂ を ど の よう に 位 置 づ け 利 用 す れ ば よ い の か の方 向 性 を 提 示 し て み た い。
1 ﹁指 導 と 評 価 の 一体 化 ﹂ の 際 の 評 価 の 指 導 性
指 導 と 評 価 の 一体 化 に は 、 二 つ の側 面 が あ る 。 ひ と つに は 、 ﹁フ ィ ー ド バ ック と し て の評 価 ﹂ で あ り 、 も う ひ
と つに は ﹁指 導 と し て の評 価 ﹂ であ る 。 ブ ル ー ム が 重 視 し た の は前 者 であ る が 、 学 習 者 把 握 は 授 業 前 にあ ら か じ
め 想 定 し た 像 と のず れ を 訂 正 す るだ け で は 不 十 分 であ る 。 先 の楢 原 (一九 九 〇 ) にも あ った よ う に ﹁授 業 中 の即
時 的 評 価 ﹂ の側 面 を さ ら に重 視 し て いく 必 要 があ る 。 こ の立 場 か ら は 、 学 習 者 の発 言 の取 り 上 げ 方 や ち ょ っと し
た 言 葉 か け レ ベ ルも 含 め て 評価 と いう こ と にな り 、 ま さ しく 指 導 と の 一体 化 と いう こと に な る 。
2 授 業 観 の変 換 に 基 づ く 評 価
形 成 的 評 価 も そ の取 り 扱 わ れ 方 に よ っては 、 学 習 者 を 軌 道 に 乗 せ て 結 果 ま で 一気 に走 ら せ る こと に な り か ね な
い。 そ のた め に は 、 評 価 の検 討 は ﹁授 業 観 ﹂、 ﹁学 習 観 ﹂ の変 換 に 基 づ く 必 要 が あ る 。 ﹁単 一因 果 関 係 と し て の授
業 ﹂、 ﹁予定 調 和 と し て の授 業 ﹂ と い った こ れ ま で に め ざ さ れ てき た 近 代 学 校 教 育 の授 業 観 を 変 え て いか な け れ ば
な ら な い。 そ う で な け れ ば 、 ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価 ﹂ に お いて は 、 評 価 は 学 習 者 を 目 標 に 従 属 さ せ る た め に し か 働 か な く な ってし ま う 。 ﹁目 標 つぶ し の授 業 ﹂ を 生 み出 し か ね な い。
3 学 習 と 評 価 の 一体 化
学 校 教 育 が 生 涯 学 習 の基 礎 ・基 本 であ る な ら ば 、 自 己 目 標 を いか に 設定 し 、 そ れ に 対 し て ど の よう に 自 己 評価
を 行 う の か と いう こと を 評 価 ( 活 動 ) の中 心 に位 置 づ け て いく 必 要 が あ る 。 自 己 評 価 のプ ロセ ス は 換 言 す れ ば
﹁評 価 基 準 の内 面 化 ﹂ の プ ロ セ ス であ る 。 指 導 者 が ﹁評 価 基 準 ﹂ を 示 し た う え で 、 形 成 的 評 価 を 学 習 者 自 身 に 自
己 評 価 の方 法 で繰 り 返 し 行 った と し ても 、 目 指 す と こ ろ が ﹁自 己 評 価 主 体 ﹂ の育 成 と いう こ と に な ら な け れ ば 、 ﹁評 価 の た め の評 価 ﹂ に 堕 す る こ と にな り か ね な い。
お わ り に
上 述 の 1 ∼ 3 の方 向 性 で評 価 のあ り 方 を 考 え て いく 際 に、 以 下 の 四点 を 指 摘 す る こ と が で き る で あ ろ う 。
① テ ス ト を 越 え る 評 価 ( 活 動 ) の方 法
( 活 動 ) と し て位 置 づ け ら れ て いく 必 要 が あ る。
点 数 を 付 け て学 習 者 を 順 番 に 並 べ る作 業 を 、 ﹁学 ぶ︱ 育 む ﹂ 場 か ら 排 除 す る た め に は 、 テ ス ト を 越 え る 評 価 ( 活 動 ) の方 法 が 数 多 く 生 み 出 さ れ 、 評 価
② と り わ け 観 察 法 の 開発 と 指 導 の手 だ て の明 確 化 ・明 示 化 の 工 夫
国 語 科 に お いて は 、 ﹁話 す こと ・聞 く こと ﹂、 ﹁書 く こ と ﹂ の領 域 が と り わ け 重 視 さ れ 、 活 動 型 の 学 習 の機 会 が
多 く な って い る。 そ こ で は 、 学 習 の過 程 に お け る 評 価 と し て ﹁観 察 法 ﹂ が よ く 用 いら れ る 。 た だ 、 ﹁見 て い て気
づ いた こと が あ れ ば ﹂ と いう 程 度 では 、 評 価 の方 法 と し て は 弱 い。有 効 性 のあ る ﹁観 察 法 ﹂ の開 発 が 求 め ら れ る 。
そ の視 点 は 、 観 察 し た こと を ど のよ う に次 の指 導 の手 だ て に 活 か し て いく か 、 他 の学 習 者 と ど う 共 有 し て いく か
と いう こ と に な る で あ ろう 。 つま り 、 ﹁プ ロダ ク ツ ( 結 果 ・作 品 ) の評 価 で は な く プ ロセ ス (過 程 ) の評 価 の方
( 活 動 ) へ のさ ら な る 活 用
法 の開 発 ﹂ と いう こと であ る 。 ③ 学 習 記 録 ・文 集 の評 価
ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 の よう に 、 学 習 記 録 や文 集 を 評 価 の対 象 と し て用 いる こ と は 、 次 の新 た な こと ば の学 習 と な って いく 。 活 用 の機 会 ・方 法 が さ ら に 考 え ら れ てよ い。
引 用文 献 ・参 考 文 献 大槻 和夫 ﹃ 達 成 目標を 明確 にした 国語科 授業 改 造入 門﹄ 明治 図書 一九 八 二
ギ ツプ ス (Gipps) ,C (一 .九V九 .四 ) ﹃ 新 し い評価 を求 め て︱ テ スト教 育 の終焉﹄ ( 鈴 木 秀幸 訳) 論創 社 二〇〇 一 塩尻 幸雄 ﹃ 国 語科 の到 達 度評価 入 門﹄ 明治 図書 一九七 八 陣川 桂 三 ・梶 田叡 一 ﹃ 形 成的 評価 によ る国 語科授 業 改善 ﹄明 治図 書 一九 八五
楢 原義 顕 ﹁国語科 におけ る評 価﹂ 大槻 和夫 ﹃ 教 職科 学講 座 17 国 語 教育 学﹄福 村 出版 一九九 〇 一六六 ∼ 一七六 頁
馬場 久志 ﹁ 完 全 習得 学習 (マスター ラ ー ニング)﹂森 敏 昭 ・秋 田喜 代 美編 ﹃教育 評価 重要 用語 30 0 の基礎 知 識﹄ 明 治 図書 二〇〇 〇 三 五頁 一九 八 四 二 〇 一∼ 二一三
頁
福 沢周亮 ﹁ 形 成 的評価 の検討 ﹂全 国大 学 国語 教育 学会 編 ﹃ 国 語科 教育 研究 2 国 語科 評価 論と 実 践 の 課題 ﹄明 治 図書
ブ ルー ム (Bloom, ) ほB か.( S一 . 九 七 一a) ﹃ 教育 評価 法 ハンドブ ック︱教 科学 習 の形成 的評 価 と総括 的 評価︱ ﹄ ( 梶
田叡 一ほか 訳)第 一法 規 一九七 三 一六 二∼ 一六三頁 ブ ルー ムほ か (一九 七 一b) ﹃ 学 習評価 ハンド ブ ック ︿上﹀﹄ ( 梶 田叡 一ほか訳 )第 一法 規 一九 七 四 八 四∼八 五頁
益 地憲 一 ﹁国語 評価 論 の成 果と 展望 ﹂全 国大 学 国語 教育 学会 ﹃ 国 語科 教 育学 研究 の成 果 と展 望﹄ 二〇 〇 二 四五 ∼四 六頁 水 川隆夫 ﹃国語 科基 本的 指導 事項 の到 達度 評価 ﹄ 明治 図書 一九 八七
三橋謙 一郎 ﹁ 形 成的 評価 ﹂ 吉本 均 ﹁ 現代 授業 研究 大事 典﹄ 明 治図 書 一九 八 七 五 四八∼ 五 四九頁
第 八章 望 ま し い評価 方 法 の開発 と 試行
一 到 達 度 評 価 の 方法 と 試 行
︵一︶ 到達 度評価 の進め方 到 達 度 評 価 を 実 施 す る に あ た って は 、 以 下 の よ う な 手 順 を 踏 む 必 要 が あ る 。
①年 間指導計 画 の立案 ②単 元目標 の設定 ③単 元 の評価規 準 ・学習活 動 にお ける具体 の評価規準 の設定 ④単 元 の指導計 画 ・評価計 画 の立案 ⑤観点 別学習状 況 の評価 の実 施 ⑥指導方 法 ・指導 計画 の改善 ⑦観点 別学習状 況 の評価 の総括と評定 への総括
年 間 指 導 計 画 の立 案 は 、 育 成 す べき 学 力 の系 統 性 を 明 確 に し つ つ、 評 価 活 動 を 計 画 的 に 組 み 込 ん だ も の で な け
れ ば な ら な い。 か り に教 科 書 の 単 元 配 当 に 基 づ く と し ても 、 ﹁学 習 指 導 要 領 ﹂ の学 年 別 ・領 域 別 の 目 標 に 対 応 し
た 学力 の育 成 お よ び そ れ を 支 え る 評 価 活 動 が 意 識 さ れ て いな け れ ば な ら な い。 平 成 十 四 年 二月 に 国 立 教 育 政 策 研
( 国 語 )︱﹂ に 基 づ け ば 、 国 語 科 教 育 に お い
( 報 告 )︱﹂ ( 以 下 、 ﹁報 告 ﹂ と 略 す )・﹁同 (中 学 校 )﹂ お よ び 同 年 七 月 に ま と め
究 所 教 育 課 程 研 究 セ ン タ ー か ら 出 さ れ た ﹁評 価 規 準 の作 成 、 評 価 方 法 の 工 夫 改 善 のた め の参 考 資 料 (小 学 校 )︱ 評 価 規 準 、 評価 方 法 等 の研 究 開 発
ら れ た ﹁平 成 十 四 年 度 教 育 課 程 研 究 指 定 校 調査 研 究 資 料︱ 高 等 学 校
て は 、 ﹁国 語 への 関 心 ・意 欲 ・態 度 ﹂、 ﹁話 す・ 聞 く 能 力 ﹂、 ﹁書 く 能 力 ﹂、 ﹁読 む 能 力 ﹂、 ﹁言 語 に つ い て の知 識 ・理
解 ・技 能 ﹂ の 5観 点 が 評 価 の観 点 と し て 示 さ れ て いる 。 た と え ば 、 こ の 5観 点 を 踏 ま え た 学 力 の系 統 性 への見 通
し と 観 点 を 焦 点 化 し た 評 価 活 動 の設 定 が 、 年 間 指 導 計 画 立 案 の主 眼 でな け れ ば な ら な い。 な お 、 こ の段 階 で は 、
先 の ﹁報 告 ﹂ の ﹁評 価 の観 点 及 び そ の趣 旨 ﹂、 ﹁内 容 のま と ま り ご と の 評価 規 準 及 び そ の具 体 例 ﹂ を 、年 間 指 導 計 画 作 成 の参 考 に し た い。
年 間 指 導 計 画 が立 案 さ れ れ ば 、 学 習 者 の実 態 ・教 材 の性 格 等 を 考 慮 し て、 構 想 す る 単 元 の性 格 を よ り 具 体 的 に
決 定 し な け れ ば な ら な い。 単 元 の性 格 を 明 確 にす る と いう こ と は 、 単 元 終 了 時 の到 達 目 標 す な わ ち 単 元 の目 標 を
明 確 にす る こと に つな が る。 単 元 の 目標 が 明 確 に な れ ば 、 単 元 の評 価 規 準 も 策 定 でき る。
単 元 の評 価 規 準 の設 定 は 、評 価 の方 向 性 を 決 め る こと に な る 。と こ ろ で 、評 価 規 準 と は 、何 を ( ど んな こと を )
評 価 す る のか を 明 示 し た も ので あ る。 し た が って 、 単 元 の評 価 規 準 を 設 定 す る こ と に よ って当 該 単 元 にお いて 何
を 評 価 す る のか を 確 認 す る こ と にな り 、 学 習 者 が ど のよ う な 学 習 状 況 を 示 せ ば 単 元 目 標 を 実 現 し て いる と 判 断 す
る の か を あ ら か じ め 把 握 し て お く こ と に な る。し た が って、そ の設 定 に あ た っ ては 、年 間 指 導 計 画 に基 づ き つ つ、
単 元 目 標 を 踏 ま え 、 評 価 の観 点 を 焦 点 化 し 、 学 習 者 の実 態 を 反 映 さ せ た 到 達 状 況 を 見 通 さ ね ば な ら な い。 こ のと
き 参 考 に な る のが 、 先 に紹 介 し た ﹁報 告 ﹂ であ る 。 ﹁報 告 ﹂ に 示 さ れ た ﹁単 元 の評 価 規 準 ﹂ の 例 は 、 学 習 者 が 示
す であ ろう 到 達 点 と し て の学 習 状 況 のう ち 、 3段 階 で評 価 さ れ る観 点 別 学 習状 況 の ﹁お お む ね 満 足 でき る と 判 断
さ れ るも の (B)﹂ (以 下 、 ﹁(B )﹂ と 略 す ) を 意 識 し な が ら 作 成 さ れ た も の であ る 。 これ は 、 ﹁学 習 指 導 要 領 ﹂ の
指 導 事 項 を 生 か す よ う に作 ら れ て い る。 た だ 、 使 用 さ れ て いる 文 言 が ﹁学 習 指 導 要 領 ﹂ お よ び ﹁同 解 説 ﹂ の文 言
に 限 ら れ て お り 、 抽 象 的 な 表 現 に と ど ま って いる 。 し た が って、 各 学 校 ・指 導 者 の レ ベ ル で、 地 域 の実 情 や 学 習 者 の実 態 、 単 元 の性 格 に 合 わ せ た 独 自 の 評 価 規 準 を 作 成 し な け れ ば な ら な い。
さ ら に 、 単 元 の授 業 展 開 を 構 想 す る にあ た って は 、 学 習 活 動 に お け る 具 体 的 な 評 価 規 準 の作 成 も 必 要 で あ る 。
こ れ は 、何 を 評 価 す る のか と いう 規 準 を 具 体 的 に す る と と も に 、 そ の規 準 に 関 す る ﹁(B)﹂ を 示 し た 基 準 (判 定
尺 度 ) と な る か ら で あ る 。 こ れ は 同 時 に 、 ﹁十 分 満 足 で き る と 判 断 さ れ るも の (A)﹂ ( 以 下 、 ﹁(A)﹂ と 略 す ) お
よ び ﹁努 力 を 要 す ると 判 断 さ れ るも の (C )﹂ (以 下 、 ﹁(C )﹂ と 略 す ) を 想 定 す る こと に つな が る 。 学 習 活 動 に
お け る 具 体 的 な 評 価 規 準 の作 成 にあ って は 、 ﹁報 告 ﹂ の ﹁学 習 活 動 に お け る 具 体 の評 価 規 準 ﹂ が 参 考 に な る 。 こ の点 に つ い ては 、 項 を 改 め て述 べ る 。
単 元 の評 価 規 準 ・学 習 活 動 に お け る具 体 の評 価 規 準 が 設 定 で き た な ら ば 、 単 元 お よ び 単 位 時 間 ご と に 指 導 計 画
と 評 価 計 画 を 立 案 し な け れ ば な ら な い。 従 来 の ﹁主 な 学 習 活 動 ﹂、 ﹁指 導 上 の留 意 点 ﹂ に 加 え 、 ﹁評 価 方 法 等 ﹂ の
欄 を 設 け た い。 こ れ を 、 単 位 時 間 の指 導 案 の形 式 に合 わ せ て 示 せ ば 、 た と え ば 、 次 のよ う に な る。
﹁評 価 方 法 等 ﹂ の欄 には 、 ど の よう な 場 面 で 、 ど の よう な 観 点 で 、 ど の よう な 方 法 で評 価 を 行 う のか を 書 け ば
よ い。 な お 、 評 価 計 画 は 、 単 元 の性 格 に即 し て観 点 を 焦 点 化 す る 必 要 が あ る 。 領 域 の観 点 が 複 数 挙 げ ら れ る こ と
も あ り う る が 、 一般 的 に は 、 一つ の領 域 の観 点 (た と え ば 、 ﹁話 す ・聞 く 能 力 ﹂)、 ﹁国 語 へ の関 心 ・意 欲 ・態 度 ﹂、
﹁言 語 に つ い て の知 識 ・理 解 ・技 能 ﹂ の 三 つ の 観 点 が 設定 さ れ る 。 国 語 科 教 育 の性 格 に 照 ら し た 場 合 、 学 習 活 動
は ﹁話 す こ と ・聞 く こ と ﹂、 ﹁書 く こと ﹂、 ﹁読 む こ と ﹂ の各 領 域 に か か わ る 活 動 が 有 機 的 に 展 開 さ れ る も の で は あ
る が 、 育 成 す べき 学 力 の明 確 化 のた め に も 、 指 導 者 の負 担 に な ら な いよ う にす る た め にも 、 観 点 の絞 り 込 み は 必
( 事 前 ・事 中 ・事 後 )、 単 元 の 性 格 な ど に即 し て
要 と な る 。 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 は 、 観 察 ・ペ ー パ ー テ ス ト ・ワ ー ク シ ー ト ・自 己 評 価 票 な ど を 活 用 し て実 施 す れ ば よ い。 いず れ の方 法 を と る か は 、 評 価 の目 的 や 評 価 の時 期
決定す ること になる。
具 体 的 な 授 業 展 開 ・評 価 活 動 の実 施 の過 程 や結 果 にお いて 、 立 案 し て い た指 導 計 画 の変 更 や授 業 方 法 の改 善 な
(いわ ゆ る 絶 対 評 価 )﹂ の 追 究 も 、
ど が 必 要 と な る。 改 善 の必 要性 を 実 感 し た 際 は 、 授 業 中 で あ ろう が単 位 時 間 の授 業 終 了後 であ ろう が 、 単 元 終 了 後 であ ろ う が 、 早急 に 改 善 に動 か ね ば な ら な い。 今 回 の ﹁目 標 に準 拠 し た 評 価
学 習 者 の成 長 に資 す る 授 業 改 善 と 直 結 す る 評 価 のあ り 方 を 追 究 し て いる の で あ り 、 常 に 評 価 結 果 を 授 業 展 開 に フ ィ ー ド バ ッ ク し て いく こと が 大 切 であ る 。
観 点 別 学 習 状 況 の評 価 を 評 定 に総 括 す る こと は 、 総 合 的 に 評 価 す る こと に よ って学 習 者 の成 長 を 支 援 す る こ と
に な る と いう 考 え に基 づ いて いる 。 観 点 別 学 習 状 況 の 評 価 を 評 定 に 総 括 す る 場 面 と し ては 、 単 元 終 了 後 ・学 期
末 ・学 年 末 が 考 え ら れ る 。 ど のよ う な 方 法 が 、 学 習 者 の成 長 を 実 質 的 に 支 援 し 、 指 導 者 の負 担 過 重 に な ら な いか を 考 え て 総 括 方 法 を 工 夫 し な け れ ば な ら な い。
以 上 の よ う な 一連 の活 動 を 蓄 積 し て いく こと が 、 ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価 (いわ ゆ る 絶 対 評 価 )﹂ を 実 のあ るも の
に し て いく の であ る 。 ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価 (いわ ゆ る 絶 対 評 価 )﹂ の客 観 性 は 、 最 初 の 一年 目 が 最 も 保 障 さ れ に
く い。 し か し 評 価 資 料 の蓄 積 ・評 価 経 験 の相 対 化 に よ って、 徐 々 に客 観 性 を 帯 び る よ う に な る の であ る 。
︵二︶ 学 習 活 動 に お け る 具 体 の 評 価 規 準 設定 の方 法
到 達 度 評 価 を 実 践 的 に 展 開 す る 中 で、 学 習 活 動 に お け る具 体 の評 価 規 準 の設 定 は 、 特 に重 要 な 課 題 で あ る。
単 元 の評 価 規 準 は 、 単 元 の目 標 に 関 し て 、 学 習 者 が ど のよ う な 学 習 状 況 を 示 せ ば 目 標 を 実 現 し て いる と 判 断 す
る か を あ ら か じ め 把 握 し てお く こ と を 目 的 と し て設 定 さ れ る 。 そ れ に対 し て、 学 習 活 動 に お け る 具 体 の評 価 規 準
は 、 単 元 の実 践 的 展 開 に即 し た 具 体 的 な 評 価 活 動 の拠 所 と し て設 定 さ れ る 。当 然 、 学 習 者 の実 態 、 育 成 す べき 学
力 、 教 材 の性 格 が 明 確 にな って いな け れ ば 設 定 で き な い。 し た が って 、 学 習 活 動 に お け る 具 体 の評 価 規 準 を 設 定
す るた め に は 、 学 習 者 の実 態 ・単 元 目 標 を 踏 ま え た 十 全 な 教 材 研 究 お よ び 授 業 構 想 が 必 要 と な る 。
ま た 、 ﹁(A)﹂ お よ び ﹁(C )﹂ の状 況 を 想 定 す る こ と も 行 いた い。 な ぜ な ら 、 ﹁(B)﹂ を 中 間 値 と し て ﹁(A )﹂、
﹁(C )﹂ を 考 え る こと は 、 設 定 し た ﹁(B )﹂ の特 に ど の事 項 (ど の表 現 ) に学 力 の 発 達 を 見 る の か と いう こと を
再 認 識 す る こと に つな がり 、 改 め て 学 習 活 動 に お け る具 体 の評 価 規 準 と し て の﹁︵B)﹂ を よ り 明 確 なも の にす る
こと に つな が る か ら であ る 。 そ の際 、 ﹁(A)﹂ を 設 定 す る に あ た っ ては 、 ﹁(B)﹂ の事 項 ( 表 現 ) に即 し て ﹁(A )﹂
の状 況 を 象 徴 す る キ ー ワー ド や語 句 で捉 え て お く 方 法 を と っても よ い。 ま た 、 ﹁(C )﹂ の場 合 は 、 ﹁(B)﹂ に達 し
て いな い こと を ど の事 項 に 注 目 し て 捉 え る のか と い った 判 定 尺度 の適 用事 項 を 明 確 に し て お く だ け で な く 、 ど の
よう に す れ ば ﹁(B )﹂ に な る の か と い った指 導 の手 だ ても 考 え てお く 必 要 が あ る 。 評 価 す る こと が 指導 改 善 に つ
な が る も の でな け れ ば な ら な いと いう 本 来 の評 価 の性 格 を 実 現 す る た め に も 、 こ の手 だ て は 必 要 な こと で あ る 。 こ の こと を 例 示 す れば 、 次 の よう に な る 。
な お 、 一度 設 定 し た 学 習 活 動 にお け る 具 体 の 評 価 規 準 も 、 授 業 展 開 の中 で 修 正 し て いく こと が あ る のは 当 然 で あ る。
︵三︶ 観 点 別 学 習状 況 の評 価 の 方 法
観 点 別 学 習 状 況 の評 価 は 、 学 習 者 の豊 か な 自 己 実 現 を 支 援 す る こ と に目 的 を も つが 、 こ れ を 実 施 す る に あ た り
考 え て お か な け れ ば な ら な いこ と が 三 つあ る。 一つは 、 評 価 活 動 が指 導 改 善 に つな が ら な け れ ば な ら な いと いう
こ と であ り 、 二 つに は 、 評 価 活 動 を 通 し て得 ら れ た デー タ は 学 習 者 や 保 護 者 に 返 し て いか な け れ ば な ら な いと い
う こと であ る 。 三 つに は 、 総 合 的 評 価 と し て の ﹁評 定 ﹂ に総 括 し て いく 必 要 が あ る と いう こと で あ る 。 こ れ ら 三
つ の条 件 を 充 足 さ せ る よ う な 観 点 別 の評 価 活 動 を 実 践 し な け れ ば 、 今 回 の評 価 観 転 換 の趣 旨 を 生 か す こと に な ら な い。
一つ目 の 条 件 を 満 た す た め に は 、 学 習 の到 達 度 を 評 価 す る 観 点 お よ び 方 法 が 明 確 にな って い る こ と が 必 要 で あ
る 。 観 点 と し て は学 習 活 動 に お け る 具 体 の評 価 規 準 が あ り 、 方 法 と し ては 観 察 ・面 接 ・ア ンケ ー ト ・ペ ー パ ー テ
スト ・ノ ー ト ・ワ ー ク シ ー ト ・レ ポ ート ・作 品・ スピ ー チな ど の発 表 会 ・自 己 評価 票 の活 用 が 考 え ら れ る。 観 察
で は 、 座 席 表 や 評 定 尺度 法 に基 づ く 個 票 な ど の チ ェ ック リ ス ト の活 用 が有 効 であ る 。 面 接 ・ア ン ケ ー ト にお い て
は 、 問 い方 に よ って反 応 に 変 化 が 生 じ る こと に留 意 し て お く 必 要 が あ る。 ペー パ ー テ スト は 、 読 む 能 力 だ け を 判
定 す る の で は な く 、 国 語 科 と し て示 さ れ た 5観 点 が で き る だ け 反 映 し た 内 容 に し な け れ ば な ら な い。 ノ ー ト ・
ワ ー ク シー ト ・レポ ー ト ・作 品 な ど は 、 記 述 内 容 に よ って判 定 す る こと に な る が 、 評 価 の観 点 に 即 し た 判 定 にな
る よう に留 意 す る と と も に 、 ま と め 方 や文 字 ・表 記 な ど の形 式 面 か ら 窺 え る ﹁関心 ・意 欲 ・態 度 ﹂ も 判 定 し て よ
い。 スピ ー チ な ど の発 表 会 のよ う に 、 音 声 言 語 に よ る 学 習 成 果 の評 価 に あ た って は 、 評 価 者 が 簡 便 な 評 価 票 な ど
を 準 備 し て お く こと が重 要 であ り 、 一回性 と いう 物 理 的 条 件 を 克 服 す る た め の V T Rな ど の活 用 が 工夫 さ れ て よ
い。 ま た 、 自 己 評 価 票 は 、 自 己 評 価 に よ る内 発 的 動 機 付 け を 促 す だ け で な く 、 学 習 者 自 身 に よ る学 習 活 動 への モ ニタ リ ン グ 機 能 を 発 揮 す る も の と し て、 積 極 的 に活 用 し て いき た い。
と こ ろ で 、 評 価 活 動 が 指 導 改 善 に つな が る た め に は 、 指 導 者 自 身 に よ る 授 業 力 診 断 が 必 要 にな る 。 授 業 展 開 過
程 に お け る いく つか のチ ェ ック ポ イ ン ト や 授 業 終 了 時 に お け る チ ェ ッ ク項 目 の設 定 ( 発 問 ・学 習者 の反 応 の受 け
止 め 方 ・板 書 な ど ) も あ って い い。 学 習 者 の 目標 の実 現 状 況 を 評 価 す る だ け で な く 、 学 習 者 の学 習 活 動 を 指 導 者
と し て の自 分 が ど のよ う に支 え た の か と いう 授 業 力 への モ ニ タ リ ング 能 力 の育 成 も 必 要 で あ る 。
二 つ目 の条 件 を 満 た す た め に は 、 評 価 デ ー タ の保 存 を 容 易 にす る保 存 方 法 の工 夫 が 必 要 と な る 。 評 価 す る こと
や そ の資 料 の保 存 が 、 必 要 以 上 に指 導 者 の負 担 に な って は な ら な い。 評 価 内 容 を デ ー タ と し て 保 存 す る方 法 と し
ては 、 指 導 手 帳 や コ ンピ ュー タ な ど を 活 用 し た 単 位 時 間 ご と の評 価 を 観 点 別 ・個 人 別 に 記 録 す る デ ー タ ベ ー ス の
作 成 や ポ ー ト フ ォ リ オ (﹁紙 ば さ み﹂ と いう 原 義 の通 り 、 学 習 者 の成 果 物 や評 価 記 録 を 総 合 的 に保 存 し て お く も
の) の 活 用 も あ ってよ い。 いず れ に し ても 、 学 習 者 や保 護 者 に説 明 す る際 に 、 す ぐ に 整 理 し た 説 明 が で き る 工夫
を 凝 ら す 必 要 が あ る 。 ま た 学 習 者 自 身 が 、 学 習 の成 果 を 自 分 な り に 振 り 返 る こと が 可 能 な ﹁学 習 の記 録 ﹂ の よう
な も のも 作 成 さ れ て よ い。
三 つ目 の条 件 を 意 識 す る こと も 、 指 導 者 の負 担 を 軽 減 す る こと に つな が る 。 こ のた め に は 、 た と え ば 観 点 別 学
習 状 況 の評 価 の回 数 や観 点 の数 に 工 夫 を 凝 ら す だ け で な く 、 あ ら か じ め定 め た 基 準 で 点 数 化 し てお く こ と が あ っ ても よ い。 こ の点 に つ いて は 、 項 を 改 め て述 べる 。
﹁b ・ c ・c ・b﹂ のよ う に、 ど ち ら も 過 半 に な る評 価 が な い場 合 は す べ て ﹁B﹂ と す る方 法 も あ る。
一方 、 同 一単 元 に お いて 、 あ る観 点 にか か わ る 指 導 事 項 が 複 数 あ る 場 合 に は 、 指 導 事 項 ご と に 総 括 の評 価 を 出
す 場 合 も あ れ ば 、 当 該 観 点 と し てま と め て総 括 の評 価 を 出 す 場 合 も あ る。 後 者 の場 合 に は 、 指 導 事 項 ご と の評 価 を 等 価 値 に見 る 場 合 も あ れ ば 重 み づ け を す る場 合 も あ る 。
上 述 し た 考 え 方 や 方 法 は 、 学 期 末 や 学 年 末 の観 点 別 学 習 状 況 の評 価 の総 括 に お いても 適 用 で き る 。 ただ 、 学 期
末 の 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 の総 括 に あ た って は 、 単 元 末 に 行 った観 点 別 学 習 状 況 の評 価 の総 括 を 参 考 に し て 実 施
す る 場 合 と 、改 め て単 位 時 間 ご と の 評 価 を 総 括 し て学 期 末 の観 点 別 学 習 状 況 の評 価 と す る 場 合 と が あ る。こ れ は 、
学 年 末 に おけ る 観 点 別 学 習 状 況 の 評 価 のあ り 方 に も 通 じ る 。 す な わ ち 、 単 元 末 の観 点 別 学 習 状 況 の評 価 の総 括 か
ら導 く 場 合 、各 単 位 時 間 の観 点 別 学 習 状 況 の 評 価 か ら 直 接 導 く 場 合 、 学 期 末 の観 点 別 学 習 状 況 の評 価 の 総 括 か ら 導 く 場 合 の 3 通 り が 考 え ら れ る の であ る。
と こ ろ で 、 単 元 終 了 時 、 学 期 末 、 学 年 末 の そ れ ぞ れ の時 期 に観 点 別 学 習 状 況 の 評 価 の総 括 を 行 う にあ た り 、
﹁A ・B ・C ﹂ を 点 数 化 し て導 く 方 法 も あ る 。 た と え ば 、 各 観 点 に お け る 単 位 時 間 ご と の評 価 と し て の ﹁a ・
b ・ c﹂ を 、 ﹁a﹂ を 3点 、 ﹁b ﹂ を 2点 、 ﹁c﹂ を 1点 と し て 計 算 し 、 あ る 基 準 (平 均 値 が 、 た と え ば2. 以6 上な
ら ば ﹁A﹂、1. 以5上2. 未6 満 な ら ば ﹁B﹂、1. 未5満 な ら ば ﹁C﹂ と す る ) を 設 定 し て お い て ﹁A ・B ・C ﹂ を 判 定 し
て いく の で あ る 。 こ のよ う な 数 値 化 し た方 法 も 、 客 観 性 や妥 当 性 を も つ 一つの方 法 と し て 、 学 習 者 や 保 護 者 、指 導 者 間 に お い て納 得 を 得 ら れ るも のと な り う る。
︵五︶ 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 か ら 評 定 への 総 括
学 習者 自 ら が 学 習 の記 録 ・成 長 の 過 程 を 確 認 し 同 時 に指 導 者 が適 切 な 指 導 改 善 を 適 宜 実 施 す る た め に は 、 観 点
別 学 習 状 況 の評 価 だ け でも 十 分 であ る と す る意 見 も あ り う る 。 し か し 、 こ れ ま で の経 験 か ら 学 習 者 ・保 護 者 ・指
導 者 と も に教 科 と し て の総 合 的 な 評 価 を 求 め る 傾 向 が あ る こと も 否 定 でき な い。 実 際 、 観 点 別 学 習 状 況 の 評 価 と
評 定 と は 、 実 現状 況 の分 析 的 把 握 と 総 合 的 把 握 と に役 割 分 担 が な さ れ て おり 、 国 語 科 の目 標 に対 す る 総 合 的 な 実
現 状 況 の把 握 に は 評 定 の方 が 簡 便 で あ る 。 ま た 、 評 定 は 、 ﹁話 す ・聞 く 能 力 ﹂ は ﹁十 分 満 足 で き ると 判 断 さ れ る ﹂
状 況 で あ り な が ら ﹁書 く 能 力 ﹂ は ﹁お お む ね 満 足 でき る と 判 断 さ れ る ﹂ 状 況 で あ る よう な 、 本 来 分 か ち が た く 結
(3 ・2 ・1)、 中 学 校 の選 択 教 科 も 3段 階 (A ・B ・C )
び つ い て い る 学 習 者 の内 面 を 総 合 的 に 把 握 す る 評 価 と し て の妥 当 性 を も つ ので あ る。 評 定 は 、 小 学 校 に お いて は 第 三 学 年 以 上 で 3 段 階
であ り 、 高 等 学 校 に お い ては 5段 階 (5 ・4 ・3 ・2 ・1) で行 う こと に な って いる 。 た だ 、 中 学 校 の 必 修 教 科
に お い ては 、 3 段 階 (A ・B ・C ) の観 点 別 学 習 状 況 の評 価 を 5段 階 (5 ・4 ・3 ・2 ・1) の評 定 に総 括 し な
け れ ば な ら な い。 こ れ は 中 学 生 と いう 多 様 な 発 達 段 階 の現 実 を 勘 案 し た と き 、 目 標 に 照 ら し た よ り 細 密 な 実 現 状
況 の 確 認 を 促 す も のと し て必 要 と な る と 考 え ら れ る こ と 、 よ り 細 や か な 実 現 状 況 の確 認 は 学 習者 の主 体 的 な 目 標
実 現 への意 欲 を 喚 起 す る と と も に指 導 者 の指 導 改 善 の方 向 性 を 段 階 的 に確 認 す る指 針 を 与 え や す いと 考 え ら れ る
こと に 基 づ いて いる 。 こ の観 点 別 学 習 状 況 の 評 価 と 評 定 と の関 係 を 表 にす る と 、 次 のよ う に な る 。
︿中 学 校 必修 教 科 の 場 合 ﹀
と こ ろ で、 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 を 評 定 と し て総 括 し て いく 場 合 に は 、 小 学 校 お よ び 中 学 校 の選 択 教 科 の場 合
は そ れ ほ ど の困 難 さ は な いが 、 中 学 校 の必 修 教 科 お よび 高 等 学 校 の場 合 に は 工 夫 が 必 要 と な る 。 そ こ で 、 以 下 に
中 学 校 の必 修 教 科 と し て の国 語 を 例 に と って 、 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 を 評 定 に総 括 し て いく 方 法 に つ い て述 べ た い。
評 定 を 導 き 出 す 方 法 の 基 本 は、 観 点 別 学 習 状 況 の 評価 を 根 拠 と す る こ と に あ る 。 そ の際 、各 観 点 を 等 価 値 と み なす 場合と観点 ごと に重みづけを する場合 とがあ る。
各 観 点 を 等 価 値 と 見 る 場 合 は、 基 本 的 に ﹁A ・B ・C ﹂ の数 が 評 定 に 反 映 す る 。 し か し 、 中 学 校 必 修 教 科 国 語
の 場 合 に は 、 ﹁A ・B ・C ﹂ の 数 が 自 動 的 に 評 定 を 導 く と は 限 ら な い。 な ぜ な ら ば 、 先 に 表 で 示 し た よ う に
﹁A ・A ・A ・A ・A ﹂ で も ﹁4﹂ の場 合 も あ れ ば ﹁5﹂ の場 合 も あ り 、 ﹁C ・C ・C ・C ・C ﹂ でも ﹁2﹂ と
﹁1﹂ が あ る か ら で あ る 。 ﹁A ・A ・A ・A ・A﹂ を ﹁4﹂ に す るか ﹁5﹂ にす る か は 、 指導 者 の 積 極 的 な 評 価 資
料 の収 集 と 客 観 性 ・妥 当 性 を も った 分 析 ・判 断 に ま か さ れ て いる の であ る 。
観 点 ご と に 重 み づ け を す る 場 合 に は 、 ﹁B ・A ・A ・A ・B﹂ でも ﹁5﹂ の可 能 性 は あ り う る 。 こ れ は 、 各 学
校 の学 習 者 の実 態 や 年 間 指 導 計 画 に基 づ く 各 観 点 ご と の 配 当 時 間 数 な ど に よ って、 各 観 点 の 比 重 を 変 え て評 定 が
導 か れ る こと も あ る か ら で あ る 。 た と え ば 、 学 期 末 に評 定 を 出 す と き 、 あ る 観 点 の ﹁A ・B ・C ﹂ の数 を 複 数 回
カ ウ ン ト す る こ と で重 み づ け を 図 り 、 ﹁A ・B ・C﹂ の数 で 評 定 を 導 く こ と も で き る 。 ま た 、 学 習 者 や保 護 者 に
納 得 し て も ら う た め に 、 ﹁A ・B ・C﹂ を 点 数 化 し た り 重 み づ け を 割 合 化 し た り し て 、 計 算 式 お よ び ﹁5 ・4 ・
3 .2 .1﹂ の判 定 尺 度 を 明 示 す る こと が あ って も よ い。 た と え ば 、 ﹁A ﹂ を 4∼ 5点 、 ﹁B﹂ を 3点 、 ﹁C ﹂ を
1∼ 2点 と し 、 数 式 か ら 導 き 出 さ れ た 値 が4. 以5上 な ら 評 定 は ﹁5﹂、4. 以0上4. 未5 満 な ら ﹁4﹂、3. 以0 上4. 未0満 な ら
﹁3 ﹂、 0 2以 .上 0 3未 . 満 な ら ﹁2 ﹂、 0 2未 . 満 な ら ﹁1﹂ と いう 判 定 尺 度 を 定 め て お け ば 、 評 定 は自 ず か ら 決 ま ってく
る 。 先 の ﹁B ・A ・A ・A ・B ﹂ も 、 た と え ば ﹁3点 ×0.1 4+ 点 ×0. +1 5点 ×0. +4 5点 ×0. +3 3 点 ×0.1= ﹂4と.5
いう よ う な数 式 を あ て は め れ ば 、評 定 は ﹁5﹂ と な る 。こ れ ら の方 法 論 は 、学 年 末 の評 定 の 出 し 方 に 応 用 でき る 。
な お 、 ﹁A ・A ・A ・A ・A﹂ の評 定 を ﹁4﹂ にす る か ﹁5﹂ に す る か も 、 ﹁A ﹂ を 4 ∼ 5点 と い った 幅 を も た
せ て 点 数 化 し て お き 、 ﹁5 ・4 ・3 ・2 ・1﹂ の判 定 尺 度 を 定 め た 上 で観 点 を 等 価 値 に み な す よ う に 単 純 平 均 を
出 せ ば 、 自 ず と 評 定 が 出 てく る こと に も な る 。 た と え ば 、 ﹁A ・A ・A ・A ・A﹂=﹁4 ・5 ・4 ・4 ・4﹂ な ら ば 、 単 純 平 均 は4. と2 な り 評 定 を ﹁4﹂ と 判 定 す る こ と も 可 能 で あ る。
た だ 、 点 数 化 す る こ と は 、 学 習 者 の微 妙 な 成 長 の 姿 を 状 況 に し た が って判 断 す る 指 導 者 の評 価 の機 微 を 映 し に
く い欠 点 が あ る 。 そ の意 味 で は 、点 数 化 に のみ と ら わ れ る こ と な く 、 学 習 者 や保 護 者 に納 得 し ても ら え る着 実 な
評 価 資 料 の収 集 ・記 録 に 基 づ いて 、 客 観 性 ・妥 当 性 を も って 評定 を 導 く 方 法 も 追 究 し な け れ ば な ら な い。
と こ ろ で 、 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 か ら 評 定 を 導 く にあ た って、 日 常 的 な 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 に 定 期 テ スト や
作 品 ・発 表 会 等 の 評 価 を 加 味 す る こと も あ り う る 。 こ の と き に留 意 し な け れ ば な ら な い のは 、 定 期 テ ス ト な ど の
評 価 も 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 の 一部 で あ る と いう こと で あ る 。 こ の こと を わ か り やす く 表 示 す れ ば 、 次 のよ う に
な る。 な お 、 こ の例 は 、 各 観 点 に重 み づ け を し た 一例 に す ぎ ず 、項 目 の立 て 方 や観 点 ご と に重 み づ け を す るし な いは 、各 学 校 や 地 域 の判 断 に 任 せ ら れ る も の で あ る 。
(﹁学 期 末 の 例 ﹂)
な お 、 いず れ の方 法 論 に 依 拠 し よ う と も 、具体 的 な 方 法 に つ いて は 、各 学 校 や 地 域 で衆 知 を 集 め 決定 し た 後 に 、
学 習 者 や 保 護 者 お よ び 指 導 者 間 に周 知 さ せ る 必 要 が あ る 。 ま た 、 評 定 も 観 点 別 学 習 状 況 の評 価 と 同 じ く 、 指 導 者 にと って 次 の授 業 の指 導 改 善 に つな が る よ う に 配 慮 し な け れ ば な ら な い。
(いわ ゆ る 絶 対 評 価 )﹂ ( 到 達 度 評 価 ) は 、 学 習 者 一人 一人 が 自 ら の学 習 目 標 を 見 定 め 、
︵六﹁目 ︶ 標 に 準 拠 し た 評 価 (いわ ゆ る絶 対 評 価 )﹂ の定 着 ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価
努 力 を 正 当 に 評 価 で き るも の で あ り 、 ﹁生 き る 力 ﹂ と いう 極 め て能 動 的 な能 力 の向 上 を 支 援 しう る評 価 観 であ る 。
し か し 、 一方 で 自 ら の不 足 し て い る 学 力 を 露 骨 に 示 さ れ る と いう 厳 し い現 実 も あ る 。 ま た 、 指 導 者 にと っ ても 、
﹁( C )﹂ の状 況 にあ る 学 習 者 を ﹁(B )﹂ な い し は ﹁(A)﹂ に でき な いと す れ ば 、 そ の指 導 力 を 問 わ れ る こ と に な
る 。 双 方 が 抱 え る リ ス ク を 意 識 し つ つ、 ﹁集 団 に 準 拠 し た 評 価 ﹂ が や や も す る と 隠 し てき た ﹁学 力 の向 上 ﹂ と い
う 教 育 の 目 標 を 各 個 人 の レ ベ ル で追 究 す ると いう 本 来 の教 育 のあ り 方 を 求 め る妥 当 な 評 価 観 と し て 、 ﹁目 標 に 準 拠 し た 評 価 (いわ ゆ る絶 対 評 価 )﹂ の定 着 に尽 力 し て いく 必 要 が あ る 。
二 学 習 記 録 に よ る 評価 法 と試 行
本 節 で は 、 学 習 記 録 の蓄 積 に よ る 評 価 法 と し て 、 近 年 注 目 を 集 め て いる ポ ー ト フ ォリ オ 評 価 に つ いて 解 説 し 、
山下真智 子教諭 ( 善 通 寺 市 立 竜 川 小 学 校 ) によ る 小 学 校 に お け る ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 の実 践 に つ いて 紹 介 す る 。
( ポ ー ト フ ォ リ オ ) にあ る と いう 誤解 が し ば し
ポ ー ト フ ォリ オ 評 価 の定 義 は 様 々だ が 、 こ こ で は 、 ポ ー ト フ ォ リ オ に よ る 学 習 記 録 の蓄 積 を 核 と す る 一連 の 自 己 評 価 活 動 を ポ ー ト フ ォリ オ評 価 と 呼 ぶ こ と に す る 。 ポ ー ト フォ リ オ 評 価 の主 眼 が 、 子 ど も の作 品 や学 習 記 録 の蓄 積
ば 見 受 け ら れ る 。 学 習 物 の蓄 積 は 日 本 に お い ても 早 く か ら 行 わ れ てき た こ と であ る 。 ポ ー ト フ ォリ オ 評 価 の主 眼
は 、 ポ ー ト フ ォリ オ へ の蓄 積 よ り も 、 む し ろ 蓄 積 の過 程 に お け る 学 習 者 自 身 に よ る ゴ ー ルと 評 価 基 準 の 設 定 、 そ
れ に 基 づ く モ ニタ リ ン グ と 教 師 と の カ ン フ ァ レ ン スに よ る成 長 の確 認 と 振 り 返 り にあ る 。静 的 な 蓄 積 物 で は な く 、
動 的 な 、 学 習 と 一体 化 し た 自 己 評 価 に 主 眼 が あ る こと に 注 意 し た い。 そ し て 、 現 在 の 総 合 学 習 に お け る ポ ー ト
フ ォリ オ評 価 にお いて 、 最 も 看 過 さ れ て いる の が 、 こ の学 習 者 自 身 に よ るゴ ー ル ・評 価 基 準 の 設定 と モ ニタ リ ン グ に基 づ く フ ィ ー ド バ ック な の であ る 。
︵一︶ ポ ート フォリオ評価 の概要 1 大 村 は ま の 国 語 学 習 記 録
学 習 記 録 の蓄 積 によ る 評 価 法 の先 駆 的 な も のと し て は 、 大 村 は ま 氏 の ﹁国 語 学 習 記 録 ﹂ を あ げ な く ては な ら な
い ( 注 1)。 現 在 、鳴 門 教 育 大 学 附 属 図書 館 大 村 は ま 文 庫 に は 、 昭 和 九 年 の 諏 訪 高 等 女 学 校 時 代 の ﹁国 語 筆 記 帳 ﹂ に 始 ま り 、 約 二 千 冊 の ﹁国 語 学 習 記 録 ﹂ が 収 蔵 さ れ て い る (注 2)。
大 村 は ま 文 庫 創 設 の 中 心 と な った 橋 本 暢 夫 氏 は 、 ﹁大 村 教 室 で は 、 営 ま れ た 学 習 のす べ て が ﹁学 習 記 録 ﹂ に 収
斂さ れ て いる 。 そ の プ ロセ ス で自 己 評 価 力 が 育 て ら れ て いる 。 学 習 の成 果 と 課 題 を 自 覚 し た 学 習 者 は 、 自 己 の課
題 を 克 服 し よ う と 、自 己 学 習力 を 発 動 し 、 次 の学 習 に取 り 組 ん で いく 。﹂ ( 注 3) と 述 べ て い る。
﹁国 語 学 習 記 録 ﹂ と ポ ー ト フ ォリ オ 評 価 の共 通 点 は き わ め て多 い。 英 米 に お け る 、 テー マ単 元 や文 学 単 元 、 あ
る い は ホ ー ル ラ ン ゲ ー ジ の 理 念 と 大 村 単 元 と の 理 念 的 な 共 通 性 の生 み 出 し た 成 果 と 考 え ら れ る だ ろう 。 し か し 、
一方 、 学 習 者 に よ る 評 価 基 準 と ゴ ー ル の設 定 に 基 づ く モ ニタ リ ン グ と フ ィ ー ド バ ック の有 無 と いう 点 で は 相 違 点
を も つ。 し た が って 大 村 氏 の ﹁国 語 学 習 記 録 ﹂ は ﹁学 習 フ ァイ ルと 現 在 の ポ ー ト フ ォ リ オ の中 間 の よ う な も の﹂ ( 注 4) と いう 位 置 づ け が 妥 当 だ と 考 え ら れ る 。
ポ ー ト フ ォリ オ 評 価 の あ ら ま し (Rachel
K) ra にnよ zれ ば 、 ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 の 基 本 的 な 流 れ は 、 次 の よ う で あ る
st ) とaい nうd言 a葉 rd にs は 、 基 準 が 固 定 し た も の では な
次 の目 標 を 設 定 す る 。 そ れ が次 の単 元 の ﹁基 準 の発 展 ﹂ に結 び つ いて いく 。
の展 示 会 や プ レゼ ン テー シ ョ ンが 行 わ れ る わ け で あ る (﹁学 習 の祝 福 ﹂)。 そ し て、 そ の単 元 の自 己 評 価 に 基 づ き 、
別 の治 療︱ ミ ニ ・レ ッ ス ン︱ ﹂ で あ る (﹁必 要 な 箇 所 への取 り 組 み ﹂)。 そ し て学 習 の 最 後 に は 、 ポ ー ト フ ォリ オ
習 物 が ポ ー ト フ ォ リ オ に 蓄 積 さ れ る 。 そ し て問 題 点 が あ る 場 合 は 、 即 座 に 学 習 す る 場 を 設 け る 。 ﹁す ば や い、 個
教 師 と の ﹁コ ミ ニ ュケ ー シ ョ ン﹂ に よ る カ ン フ ァ レ ン スを 通 し て、 ﹁成 長 の確 認 ﹂ が な さ れ 、 成 長 の跡 を 示 す 学
自 身 に よ る ﹁ゴ ー ル の設 定 ﹂ が な さ れ 、 そ れ ら に 基 づ き 、 学 習 物 を 用 いた 自 己 評 価 が 行 わ れ る 。 そ し てさ ら に 、
く 、 個 別 に 書 き 替 え ら れ 、 学 習 者 の成 長 と と も に 発 展 し て いく も の であ る こ と が 示 さ れ て いる 。 そ し て 、 学 習 者
特 色 で あ る 。 特 に 、 1 の ﹁基 準 の発 展 ﹂ (developing
こ のよ う に 、学 習 者 と と も に評 価 の基 準 と ゴ ー ルを 設 定 す る こと か ら 始 ま る の が ポ ー ト フ ォリ オ 評 価 の大 き な
学習 の祝福
必 要 な 箇 所 への取 り 組 み
成 長 の確 認
コ ミ ニ ュケ ー シ ョ ン
ゴ ー ル の設 定
基準 の発展
︵注 5 ︶。
ラ ッ シ ェ ル ・ク ラ ン ツ
2 1 2 3 4 5 6
こ の よ う に 、 子 ど も 自 身 に よ る目 標 の設 定 、 そ れ に基 づ く 自 己 評 価 に よ る成 長 の確 認と フ ィ ー ド バ ック 、次 の 学 習 へ の展 望 に こ そ ポ ー ト フ ォ リ オ の 主 眼 が あ る の であ る ( 注 6)。
ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 の主 眼 を こ の よ う にと ら え た 場 合 、 総 合 学 習 に お け る ポ ー ト フ ォリ オ 評 価 と 教 科 学 習 に お け る そ れ と の相 違 点 も 自 ず と 明 瞭 に な る 。
教科 学 習 の 場 合 、 特 に知 識 や技 能 に お いて 、 学 習 す べ き 目 標 が よ り 明 確 に あ る。 し た が って 、 よ り 下位 の具 体
的 な 評 価 基 準 に 基 づ く 自 己 評 価 が 可 能 であ り 、 必 要 と な る 。 ま た 、 比 較 的 小 さ な 単 元 で学 習 が な さ れ 、知 識 や技
能 面 で の、 単 元 間 の学 習 の継 続 性 が あ るた め 、 モ ニタ リ ン グ と フ ィ ー ド バ ック が よ り 容 易 か つ有 効 に機 能 す る と 考 えられ る。
︵二︶ 国 語科 単 元 学 習 にお け る 評 価 基 準
ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 が 有 効 に 働 く の は 、 特 に 国 語 科 単 元 学 習 にお いて であ る 。 筆 者 は 、 国 語 科 単 元 学 習 の原 理
を プ ロジ ェク ト ・メ ソ ッド に 基 づ く 目 的 活 動 と し てと ら え て い る (注 7)。 国 語 科 単 元 学 習 に お け る 目 的 活 動 は 、
表 現 目 的 ・内 容 目 的 ・形 式 目 的 の 三 つに 分 け る こと が 可 能 だ が 、 中 心 に な る のは 形 式 目 的 、 す な わ ち 言 語 面 の知
識 と 技 能 であ る 。 国 語 科 単 元 学 習 の評 価 基 準 を 立 て る に あ た って は 、 こ の形 式 目 的 に は 三 つの レ ベ ル があ る こと に注 意 し な け れ ば な ら な い。
第 一は 、 あ る 具 体 的 な 場 面 に お い て 必 要 と な る 、 具 体 的 な 問 題 解 決 の方 法 と し て の言 語 活 動 の レ ベ ル であ る 。
第 二 の レ ベ ル は 、 そ の よ う な 具 体 的 な 場 面 か ら 抽 出 さ れ 、 一般 化 さ れ た 言 語 能 力 で あ る 。 学 習 指 導 要 領 や 絶 対 評
価 のた め の評 価 基 準 の多 く が こ の レ ベ ル のも の であ る 。 し か し 、 こ の レ ベ ル だ け で は 、 実 際 の モ ニタ リ ング ・
フ ィ ー ド バ ック に は 役 立 た な い こと が多 い。 第 三 の レ ベ ル は 、 いわ ば第 一の レ ベ ルと 第 二 の レ ベ ル と を 結 び つけ
て い る コー ド の よう な 段 階 で あ る 。 す な わ ち 、 あ る 場 面 を 離 れ て他 の場 面 に お い ても 応 用 可 能 と な る 言 語 操 作 能 力 であ る 。
実 際 の 国 語 科 単 元 学 習 に お い ては 、 第 二 の レ ベ ル の言 語 能 力 を 、 表 現 目 的 や内 容 目 的 と 結 び つけ て 目 標 と す る
こ と が 多 い (﹁わ か り やす い自 分 新 聞 を 作 ろう ﹂ 等 )。 し か し 、 そ の 目的 達 成 の た め に は 、 さ ら に細 分 化 さ れ た 下
位 目 標 が 必 要 と な る し 、 そ れ を 第 一の レ ベ ル で実 際 に用 いる こ と が でき な け れ ば な ら な い。 フ ィ ー ド バ ック のた
め の評 価 基 準 と し て は 、 こ の よ う な レ ベ ルま で の目 標 が 必 要 と な る。 さ ら に単 元 を わ た った ポ ー ト フ ォリ オ評 価 に お いて は 、 第 三 のレ ベ ル の言 語 操 作 能 力 の支 援 が 必 要 と な ってく る の であ る。
︵三︶ ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 の有 効 性 1 ゴ ー ル と 下 位 目 標 ( 評価 基準) の設定
ゴ ー ル は 、 表 現 目 的 と 形 式 目 的 を 結 び つけ た 形 で 設 定 す る 。 例 え ば 、 ﹁わ か り やす い自 分 新 聞 を 作 ろう ﹂、 ﹁自 動 販 売 機 の問 題 点 を 訴 え る 説 明 文 を 書 こう ﹂ であ る 。
そ の際 、 重 要 な こと は 、 だ れ に 、 ど んな 目 的 で書 く のか と いう こと で あ る 。 そ れ に よ って 形 式 目 的 が 変 わ っ て
く る か ら であ る 。 形 式 目 的 は、 相 手 意 識 ・目 的 意 識 を も た せ る こ と で、 学 習 者 に 切 実 な 目 的 と し て意 識 化 さ せ る こ と が でき る 。
し か し 、こ の ゴ ー ル は抽 象 的 で漠 然 と し て お り 、ど の よう に 書 き 表 せ ば 形 式 目 的 が 達 成 で き る のか わ か ら な い。
ど のよ う に 書 け ば 、 ﹁わ か り や す い自 分 新 聞 ﹂、 ﹁説 得 力 のあ る 説 明 文 ﹂ が で き る か わ か ら な い の で あ る。 そ こ で
必 要 と な る のが 形 式 目 的 を 達 成 す る た め の具 体 的 な 下 位 目 標 であ る 。 例 え ば 、 ﹁対 比 的 に書 き 表 す ﹂、 ﹁項 目 立 て
て 述 べ る﹂、﹁事 実 と 感 想 を 書 き 分 け る ﹂、﹁適 切 な 例 を 用 い る﹂、﹁根 拠 を 明 確 に 述 べ る ﹂と いう よ う な 方 法 で あ る 。
こ のよ う な 下 位 目 標 は 、 形 式 目 的 達 成 の た め の学 習者 の評 価 の基 準 と な る べき も の であ り 、 学 習 者 が 身 に付 け る べ き 表 現 に か か わ る 基 本 的 な 力 でも あ る 。
下 位 目 標 の設 定 の た め に は 、 教 材 文 を モ デ ルと す る こと が 有 効 で あ る 。 自 分 の形 式 目 的 に応 じ て 、 教 材 文 か ら
学 ん だ 思 考 法 や表 現 方 法 を 下 位 目 標 に 選 択 し て いく の であ る 。 ま た 、 過 去 に蓄 積 さ れ た 学 習 経 験 も 下 位 目 標 の設
定 に有 効 で あ る。 た だ し 、 過 去 の学 習 の中 で 、 形 式 目 的 と し て明 確 に 自 覚 さ れ て いる 必 要 が あ る 。
し か し 、 下 位 目 標 が 設 定 で き ても 、 そ れ が 表 現 物 の 中 に す ぐ に 具 現 化 で き る と は 限 ら な い。 ま ず 、 ど のよ う な
作 品 に で き あ が る か と いう イ メ ー ジ を 学 習 者 が も た な け れ ば な ら な い。 そ のた め に は 、 完 成 し た モ デ ル作 品 を 示
す こ と が 有 効 で あ る 。 モ デ ルを 参 照 す る こと に よ って 、 下 位 目 標 を 具 現 化 す る た め の具 体 的 な 内 容 や方 法 を 考 え る こ と が でき る 。
2 自 己 評価 力 の育 成
自 己 評 価 は 、モ ニタ リ ング と そ れ に 連 な る フ ィ ー ド バ ック ・調 整 活 動 か ら な る 。学 習 者 の タ イ プ を 分 類 す ると 、
下 位 目 標 に 照 ら し 合 わ せ て モ ニタ リ ング も 調 整 も で き る (A タ イ プ )、 モ ニタ リ ン グ は でき る が 調 整 に お い て不
十 分 な 点 が あ る (B タ イ プ )、 モ ニタ ー 力 が 不 足 し て いる た め調 整 に つな が ら な い (C タ イ プ )、 と いう 三 つ の タ イ プ に分 け る こと が でき る 。
自 己 評 価 力 を 育 成 す る た め の有 効 な 方 法 は 、 ま ず 、 明 確 な 評 価 基 準 を 学 習 者 にも た せ る こと であ る 。 次 に 、
個 々 の学 習 者 に 対 す る 支 援 と し て カ ン フ ァ レ ン スが 有 効 で あ る 。 カ ン フ ァ レ ン ス の あ り 方 は 学 習 者 の タ イ プ に
よ って 異 な る。 A タ イ プ の学 習 者 は 、 調 整 力 が あ るた め 、 事 前 に 十 分 、 計 画 と 見 通 し を も た せ る こ と が 最 大 の支
援 と な る 。 B タ イ プ の学 習者 は 、 調整 力 は 不 足 し て いる が 、 モ ニタ リ ン グ は で き る た め 、 今 抱 え て い る問 題 点 を
語 ら せ 、 そ の表 現 物 に応 じ た 助 言 を 適 宜 行 う こ と が 有 効 で あ る。 モ ニ タ ー力 の育 成 を 必 要 と す る C タ イ プ の学 習
者 に は 、 ま ず 、 ど こが ど のよ う に 不 十 分 であ る か を 助 言 し て考 え さ せ る。 そ の上 で 、 調 整 し た 後 、 ど こ が ど のよ う に よ く な った か を 自 分 のこ と ば で語 ら せ 、 変 化 を 認 識 さ せ る よう に し て いく 。
︵四 ︶ 小 学 校 に お け る ポ ー ト フ ォ リ オ 評 価 の実 践
平 成 十 三 年 度 、 山 下 真 智 子 教 諭 に よ り 、 善 通寺 市 立 竜 川 小 学 校 五 年 西 組 児 童 三 十 名 を 対 象 に 、 学 習 者 が表 現 物
を 作 成 す る と いう 目 的 を 目 指 し て 言 語 活 動 を 行 う 四 つ の単 元 学 習 が実 践 さ れ た 。 こ こ で は 、 そ の 中 か ら 、 ﹁単 元 デ ィ ベ ー ト を し て 説 明 文 を 書 こう ﹂ ( 全 二 十 一時 間 ) に つい て紹 介 す る (注 8)。
こ の単 元 で は 、 教 材 文 ﹁イ ン ス タ ント 食 品 と わ た し た ち の生 活 ﹂ ( 東 京 書 籍 ・五 年 ) を 読 ん で 、 デ ィ ベ ー ト 形
式 の討 論 を 行 った後 に、 そ の論 題 に つ い て説 明 文 を 書 く こ と が 、 学 習 者 の表 現 目 的 であ る 。 形 式 目 的 達 成 の た め
の下 位 目 標 ( 評 価 基 準 ) の設 定 は 、 教 材 文 お よ び デ ィ ベ ー ト 形 式 の 討 論 を モ デ ルと し 、 さ ら に既 習 学 習 を 想 起 し
形 式目的と 下位目標 の設定
て設 定 し た 。
1
ポ ー ト フ ォリ オ評 価 を 用 いた 単 元 学 習 を 行 う に あ た って は 、 ま ず 、 形 式 目 的 、 下 位 目 標 、 下 位 目 標 具 現 化 のた
め の具 体 的 内 容 や方 法 を 一人 一人 が 考 え 、 ワー ク シ ー ト に 明 記 す る。 そ の際 、 学 習 者 は自 分 の目 標 設 定 に つ い て
教 師 と 相 談 を 行 った り 確 認 を し た り し な が ら 、 より よ い目 標 設 定 を 行 って いく 。 こ のよ う な カ ン フ ァ レ ン スは 、 学 習者と教 師とが評価 基準を共有 化す る場ともな る。
一方 、 学 習 者 は 、 モ デ ルだ け でな く 既 習 学 習 の 中 か ら 下位 目 標 を 設 定 す る こ と も 多 い。 特 に 、整 理 し た ポ ー ト
フ ォリ オを よ く 活 用 す る こと が確 認 さ れ た 。学 習 者 は 、ポ ー ト フ ォ リ オ を 見 直 し て、目 標 の立 て方 を 参 照 し た り 、
課 題 を 確 認 し た り す る 。 過 去 の 学 習 で成 功 し た 考 え 方 や方 法 を 用 いた り 、 自 分 に 課 題 と し て残 さ れ た そ れ ら を 達 成 し よ う と 考 え る の で あ る。
こ の単 元 では 、 序 論 ・本 論 ・結 論 の文 章 構 成 に す る こと 、 本 論 で自 分 の考 え の根 拠 を 明 確 に 述 べ る こ と に つ い
て は 、 学 習 者 全 体 の共 通 目 標 と な って いる 。 そ れ 以 外 で学 習 者 が 設 定 し た 下位 目 標 と し ては 、 ま ず 、 モ デ ル文 か
ら は 、 例 を 用 い る ・仮 定 を 用 いる ・順 序 を 表 す こ と ば を 用 い る ・対 比 的 な 考 え 方 、 が あ げ ら れ て い る。 次 に 、 既
習 学 習 か ら は 、 接 続 語 の活 用 ・敬 体 と 常 体 の使 い分 け ・ 一文 を 短 く す る ・表 や 図 を 用 いる ・ 一段 落 に 一つ の内 容 ・句 読 点 を 正 し く う つ、等 が あ げ ら れ て いた 。
2 自 己 評 価 の実 際
こ こ で いう 自 己 評 価 は 、 目 標 追 究 過 程 にお け る 学 習 者 自 身 に よ る モ ニタ リ ング と フ ィー ド バ ックを さ す 。 S ・
M 児 は 、 ﹁自 動 は ん ぱ い機 と 私 た ち の 生 活 ﹂ と いう 説 明 文 の下 書 き の自 己 評 価 を 次 のよ う に 行 って い る 。 こ こ で は下位 目標と自 己評価 のみを記す。
※本 論 の 自 己 評 価 にあ る ︿ 良 い所 ﹀、 ︿問 題 点 ﹀ は 、 自 動 販 売 機 の も っ て いる 長 所 と 短 所 の意 味 で あ る 。
S ・M児 の場 合 、 全 部 で十 一の観 点 に つ い て自 己 評 価 を 行 って いる 。右 の表 で ☆ 印 の評 価 は モ ニタ リ ング か ら
フ ィー ド バ ック に つな が って いる 評 価 、 □ は モ ニタ リ ン グ の 結 果 こ れ で 十 分 と 判 断 し て いる も の であ る 。 十 一の う ち 七 の項 目 に つ いて 、 明 確 な 調 整 の内 容 や 方 法 が 記 さ れ て いる こと が わ か る 。
3
自 己評価 による作品 の変容
S ・M 児 は 、 ﹁序 論 ﹂ に つ い て 、 次 の よ う な 自 己 評 価 を し て い た 。
序 論 ☆ 町 や 村 な ど い ろ ん な所 に あ る と 、 ど の よう に便 利 か を つけ 加 え る。 ☆ 喉番 を 変 え る 、 *2
* 1
こ の自 己 評 価 に そ って、 下 書 き の原 稿 に次 の よ う な 修 正 を 加 え 、 清 書 を し て いる 。
* 1
そ の自 動 は んば い機 は 、 町 や 村 な ど いろ んな 所 に あ って便 利 です 。 ↑
﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂ と い う 自 動 は ん ば い 機 も で き て い ま す 。 ﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂ と は 、 電 気
( 傍 線 部 分 を 付 け 加 え て い る。)
そ の自 動 販 売 機 は 、 町 や村 な ど いろ いろ な 所 に あ って、 い つでも 買 え る の で 便 利 です 。
* 2
︽下書 き ︾ さら に、今 では
(1 時 ∼ 4 時 ) は
を 節 約 す る こと の でき る 自 動 は ん ば い機 のこ と で す 。 ﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂ を 使 う と 、 5年 間 で 20% の消 費 量
を 減 ら す こ と が で き ま し た 。 ﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂ の 仕 組 み は 、 夜 中 に カ ン を 冷 や し 、 昼 間
冷 や す のを や め ては ん売 を し て いま す 。 夜 中 は 電 気 代 が 安 いた め 、 夜 中 に冷 や し て いま す 。 今 で は 、 ﹁エ コベ ン ダ ー ﹂ は 全 国 に (2 5 0万 台 ) 設 置 さ れ て いま す 。 ↑
︽下 書 き への修 正 ︾
さ ら に 、 今 で は ﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂ と いう 自 動 販 売 機 も で き て いま す 。 ﹁エ コベ ン ダ ー ﹂ と は 、 電 気 を 節
約 す る こ と の で き る 自 動 販 売 機 の こ と で す 。﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂の し く み は 、夜 中 に ジ ュ ー ス な ど を 冷 や し 、
昼 間 (1時 ∼ 4 時 ご ろ ま で) は 冷 や す のを や め て 販 売 を し て いま す 。 夜 中 は 電 気 代 が 安 いた め 、 夜 中 に
冷 や し て いま す 。 ﹁エ コベ ン ダ ー ﹂ を 使 う と 、 5年 間 で 20% の消 費 量 を 減 ら す こ と が で き ま す 。 今 で は
↑
﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂ は 全 国 に (2 5 0 万 台 ) 設 置 さ れ て いま す 。
︽清 書 ︾
さ ら に 、 今 で は ﹁エ コ ベ ン ダ ー ﹂ と いう 自 動 販 売 機 も でき て いま す 。 ﹁エ コ ベ ンダ ー ﹂ と は 、 電 気 を
節 約 す る こ と の で き る自 動 販 売 機 の こ と で す 。 ﹁エ コベ ンダ ー ﹂ の仕 組 み は 、 ジ ュー ス な ど を 冷 やす と
き 、 昼 間 の 一時 ∼ 四 時 ご ろ ま で は 冷 や す こ と を や め て販 売 を す る の で す 。 夜 中 は 電 気 代 が 安 いた め 、 夜
中 に 冷 や し て いま す 。 ﹁エ コベ ンダ ー﹂ を 使 う こ と に よ って、 五年 間 で 二 十 % の電 気 代 を 減 ら す こと が で き ま す 。 今 で は ﹁エ コベ ンダ ー ﹂ は全 国 に (二 百 五 十 万 台 ) 設 置 さ れ て いま す 。
修 正 し た 原 稿 で は 、 下 書 き の傍 線 部 分 を 移 動 さ せ て いる 。 そ の結 果 、 電 気 節 約 型 の自 動 販 売 機 の仕 組 み を 説 明
し た 後 、 電 気 の消 費 量 を 減 ら す こと を 指 摘 す ると いう 順 序 に 変 わ った 。 S ・M 児 は 、 さ ら に清 書 の段 階 で自 分 の
原 稿 に 修 正 を 加 え て いる 。 そ れ は 、 傍 線 の部 分 であ る 。 内 容 的 に は 同 じ で あ る が 、 ﹁∼ を す る の で す 。﹂、 ﹁∼ に
よ って﹂ の よう な 表 現 を す る こと に よ って 、よ り 読 み手 を 意 識 し た 言 い表 し方 に 変 化 し た と 言 え る だ ろう 。ま た 、 ﹁消 費 量 ﹂ を ﹁電 気 代 ﹂ に 直 す こ と によ って 、 何 の消 費 量 か が 明 確 に な って いる 。
以 上 のよ う に 、 モ ニ タ リ ング か ら フ ィー ド バ ッ ク に 連 な る自 己 評 価 の場 を 設 定 す る こ と に よ って 、 学 習 者 は 、
自 分 の 設 定 し た 形 式 目 的 や 下 位 目 標 を 常 に明 確 に 意 識 し な が ら 学 習 活 動 を 行 う こと が でき る の であ る 。
4 ポ ー ト フ ォリ オ の蓄 積
単 元 学 習 が終 わ る と ポ ー ト フ ォ リ オ の整 理 を 行 う 。 そ の際 学 習 者 は 、 二 枚 の カ ー ド を 作 成 す る。 一枚 は 、 ポ ー
ト フ ォ リ オ に 選 択 し て入 れ た も のと 、 選 択 し た 理 由 を 書 く カ ー ド で あ る 。 も う 一枚 は 、 ﹁ポ ー ト フ ォ リ オ 会 議 に
参 加 す る た め の成 長 の記 録 ﹂ と し て 、 こ の単 元 で努 力 し た こと や 進 歩 し た り 成 長 し た と 思 う こと 、 次 への課 題 や 次 の学 習 に生 か し て いき た い こと を 書 く 。
S ・M児 は 十 一の学 習 物 を 選 択 し て いる 。 こ れ ら を 分 類 し て み る と 、 完 成 し た 作 品 の み な ら ず 、 ﹁下 書 き ﹂ の
( ﹁イ ン ス タ ン ト食 品 の 説 明 文 の構 成 に つ い て考 え よ う ﹂) のよ う な 、 今 後 の学 習
よ う に 学 習 の変 化 が 確 認 で き る学 習 物 、自 己 評 価 表 のよ う に 自 分 が 立 てた 目 標 に 対 し て の成 長 が 認 め ら れ る も の、 教 材 文 の学 習 で 用 いた プ リ ント
の た め の参 考 資 料 と な る も のが 選 択 さ れ て い る こと が わ か る 。
他 の学 習 者 も 同 様 で あ った 。 こ の こと は 、 完 成 し た 作 品 の み を 問 う の で はな く 、 学 習 の過 程 を 重 要 視 す る 意 識
が 学 習 者 に 生 ま れ てき た こ と を 意 味 し て いる 。 つま り 、 過 程 が 目 標 達 成 に寄 与 し て いる と いう こ と を 自 覚 す る よ
う にな った の で あ る 。 こ の自 覚 に よ って、 学 習者 は さ ら に 積 極 的 に モ ニタ リ ング と フィ ー ド バ ック を 図 ろう と す る。
ま た 、 ﹁成 長 の記 録 ﹂ の カ ー ド を 見 ると 、 自 分 が成 長 し た こ と と し て 、 ﹁相 手 に自 分 の思 って いる こと を 伝 え る
た め に ど の よ う にす れ ば よ いか を 考 え て 書 け た 。 説 明 文 の構 成 が わ か って書 け た 。﹂ と 、 形 式 目 的 を 明 確 に 意 識
し て モ ニタ リ ン グ と フ ィ ー ド バ ック を 図 った こ と が わ か る。 ま た 、 次 の学 習 に 生 か し て いく こと と し て 、 ﹁例 や
仮 定 を 使 って いく 。 順 序 を 表 す 言 葉 を 使 う 。 相 手 に わ か る よう な 言 い方 や書 き 方 を す る 。﹂ と いう よう に、 こ の
学 習 で 学 ん だ 言 語 技 能 や成 功 し た 学 び方 を 自 覚 し て、 次 に 生 か そ う と 考 え て いる こと も 確 認 でき る 。
5 学 習 者 にと って のポ ー ト フ ォ リ オ
S ・M 児 は 、自 己 評 価 に つ いて ﹁説 明 文 を 書 く 時 、書 いた も のを も っと よ く し よう と 考 え て 自 己 評 価 を 書 け た 。
自 己 評 価 を 書 く こ と によ って で き て いる か でき て いな いか を は ん だ ん す る 目 が 強 く な った 。﹂ と 振 り 返 って い る 。
国 語 科 単 元 学 習 に ポ ー ト フ ォリ オ を 活 用 し た モ ニ タ リ ング と フ ィ ー ド バ ック の自 己 評 価 活 動 を 組 み 入 れ る こと
に よ って 、 今 ま で と も す れ ば 教 師 側 だ け に あ った 評 価 基 準 の設 定 と 評 価 活 動 を 学 習 者 自 身 に 行 わ せ る こと が 、 小
学 校 高 学 年 にお いて も 十 分 可 能 と な る 。 こ の こと に よ って 、 学 習 者 に 最 も 意 識 さ れ にく いと 言 わ れ てき た 言 語 形 式 面 の 目 的 を 意 識 化 さ せ る こ と が でき る の であ る 。
学 習 者 の意 識 調 査 か ら も 、 学 習 者 が最 も 意 識 し て い る の は 、 形 式 面 の目 的 で あ る こと が わ か る。 ど ん な 力 が つ
いた と 思う か と いう 質 問 に対 し ては 、 三 十 名 全 員 が 、 文 章 構 成 を 考 え る 、 理 由 を 述 べ る 時 に 例 を 用 いる 等 の 言 語
面 の技 能 を 列 挙 し た 。
次 に意 識 さ れ て いる のが 、蓄 積 の効 果 であ る 。 ポ ー ト フ ォリ オ に は 様 々な 学 び 方 が 含 ま れ て いる た め 、前 の学
習 の振 り 返 り や課 題 の確 認 がす ぐ に 目 に 見 え る形 で でき る 。 こ の こ と は 、 学 習 者 にと って有 用 性 を も つも のと 考 えられ る。
さ ら に 、学 習 で獲 得 し た 方 法 を 用 い て別 の場 面 で書 き 表 し た 表 現 物 を ポ ー ト フ ォリ オ に 蓄 積 す る こ と に よ って、
特 定 の 場 面 で獲 得 し た 言 語 の力 が 他 の 一般 的 な 場 でも 使 え る 力 と な り え て いる か を 見 極 め る こ と が で き る 。 こ の
よ う に 、 ポ ー ト フ ォリ オを 活 用 す る こと に よ って、 形 式 目 的 が生 き て は た ら く 力 のレ ベ ル に 達 し た か ど う かを 教 師 も 学 習 者 も 認 識 す る こ と が でき る の であ る 。
︵五︶学 習 記 録 の 蓄 積 に よ る 評 価 の 意 義
以 上 の よ う に 、 実 践 を 通 し て 、 学 習 者 の最 も 顕 著 な 変 化 は 、 自 分 で 形 式 目 的 ・下 位 目 標 の設 定 を 行 う こ と に よ
り 、 そ れ ら を 強 く 意 識 し て言 語 活 動 を 行 う よ う に な った こ と であ る 。 こ の よう に し て獲 得 し た 言 語 の知 識 や 技 能
は 、 さ ら に 他 の表 現活 動 の場 で 頻 繁 に応 用 さ れ る よ う に な る 。 今 ま で 最 も 学 習 者 に意 識 さ れ に く いと 言 わ れ てき た 言 語 形 式 面 の目 的 を 意 識 化 さ せ る こ と が 可 能 と な る の で あ る。
ま た 、 ポ ー ト フ ォリ オ に 蓄 積 さ れ る 学 習 物 は 長 期 に わ た る 。 学 習 者 は こ れ を 通 し て 自 分 の成 長 や進 歩 を 目 に見
え るも の と し てと ら え ると と も に自 分 の課 題 に つい ても 確 認 す る こ と が で き る 。 ま た 、 学 習 の過 程 が 収 め ら れ た
ポ ー ト フ ォリ オ に は 、 学 び 方 も 蓄 積 さ れ て いる 。 国 語 科 のよ う な いわ ゆ る 螺 旋 的 な 学 習 に と って、 学 び 方 の蓄 積 は 大 変 重 要 であ り 、 生 き て 活 用 しう る ポ ー ト フ ォ リ オ と な る。
こ の ポ ー ト フ ォ リ オ に 、 国 語 学 習 で獲 得 し た 力 が 応 用 さ れ た と 認 め ら れ る 表 現 物 を 組 み 込 み 蓄 積 し て いく こ と
で 、 指 導 者 も 学 習 者 も 、 獲 得 さ れ た 力 が 定 着 し て いく こと を 実 感 でき る 。 そ れ は 、 学 習 者 に ど ん な 力 が 付 いた か
よ く わ か ら な い、 獲 得 し た 力 が 応 用 さ れ な いと いう 従 来 の国 語 学 習 への指 摘 に対 す る 解 決 の方 策 と な る と 考 え ら れる。
注
注 1 大 村 は ま ﹃大村 はま 国 語教 室 第 12巻 国 語 学 習記 録 の指 導﹄ 筑 摩 書房 一九 八 四、 同 ﹃ 大 村 はま 国 語教 室 資 料 編 1 学 習記 録 た け の子 栄 光﹄ 筑摩 書房 一九 八五
注 2 橋 本暢 夫 ﹃ 大 村は ま ﹁国語 教室 ﹂ に学 ぶ︱新 し い創造 のため に︱﹄ 渓水 社 一九九 一
Portforio
Assessment
Across
The
Curriculum,
Troll
注 3 橋 本暢 夫﹁ 実 践 の学と し て の単 元学 習 の真髄︱ 自 己 学習力 の根 基︱ ﹂ ﹃ 月刊 国語 教育 研究 ﹄ 二〇 〇三年 五月号 Kranz,
注 4 安 藤 輝 次 ﹁ポ ー ト フ ォ リ オ の本 質 と 課 題 ﹂ ﹃理 科 の教 育 ﹄ 五 八 三 号 二 〇 〇 一 注 5 Rachel
注 6 山本 茂喜 ﹁国 語科 単 元学 習 にお け るポ ート フォリ オ評 価 の方 法︱ 米 国 にお け る実践 を 中心 に︱﹂ ﹃ 香 川大 学 国
文 研究 ﹄ 第 二四号 一九九 九 、山 本茂喜 ・香 川尚 子 ﹁国語科 単 元学 習 にお け るポ ート フ ォリオ評 価 の有効 性 に
注 8 以 下 の 記 述 は 、 次 の 文 献 に拠 ると こ ろ が 多 い 。
ついて﹂ ﹃香川 大学 国文 研究 ﹄第 二七 号 二〇〇 二 注 7 山 本茂 喜 ﹁国 語科単 元学 習 にお け る目的 活動 に ついて﹂ ﹃ 香 川大 学国 文 研究﹄ 第 二〇 号 一九 九 五
﹁小学 校 国 語科 単 元学 習 に おけ るポ ート フ ォリオ 評価 の有 効性 ﹂ ﹃ 国 語 科 教育 研究 ﹄ 全 国 大学 国 語教 育 学会 第
山 下真 智 子 ﹃国語科 単 元学 習 にお ける ポ ート フ ォリオ評 価 の研究 ﹄ 私家 版 二〇〇 二、 山本茂 喜 ・山 下真 智 子 1 02回大 会研 究発 表要 旨集 二〇 〇 二
Assoc
第 九 章 学 力 ・指 導 力 の評 価 と 授 業 力 の向 上
一 評 価 実 践 研 究 の 現状 とそ の問 題 点
学 校 教 育 の場 に おけ る 評 価 実 践 研 究 の現 状 を 検 討 す る 前 に 、 ま ず 、 指 導 者 と 学 習者 そ れ ぞ れ に と って 、 評 価 の 目 的 は 何 か を 確 認 し て お き た い。
指 導 者 に と って 、評 価 は 、 今 後 の ﹁指 導 の指 針 ﹂ を 得 る た め に 行 う も の であ る 。 評 価 は 、 でき る 、 でき な いを
明 ら か に す る こと に 目 的 が あ る の では なく 、 学 習者 一人 ひと り の実 態 を 把 握 し て 、 学 習 者 一人 ひと り にど の よ う
な 指 導 を し て いけ ば よ いか 、 そ の指 導 の指 針 を 得 る た め に す る の で あ る 。 ま た 、 自 ら の授 業 の長 所 や 短 所 を 知 っ
て、 今 後 の授 業 改 善 の指 針 を 得 る た め に 行 う も の であ る 。 一方 、 子 ど も た ち に と って は 、 評 価 は 、 今 後 の ﹁学 習
の指 針 ﹂ を 得 る た め に行 う も の であ る 。 学 習 者 一人 ひと り が 自 己評 価 す る こ と に よ って 、 自 ら の 長 所 と 短 所 を 知 ると と も に、 こ れ か ら の 学 習 の指 針 を 得 る た め に行 う も の であ る 。
現 在 、 ﹁指 導 と 評 価 の 一体 化 ﹂ を 図 る と いう 名 のも と に 、 次 のよ う な ﹁二段 階 か ら 成 る学 習 指 導 法 ﹂ が 、 全 国 的 に 幅 広 く 展 開 さ れ て いる 。
① 第 一次 段 階 (一斉 ・基 本 的 な 学 習 指 導 )
単 元 ご と に ﹁評 価 規 準 ﹂、 ﹁評 価 基 準 ﹂ を 設 定 し 、 そ の目 標 の達 成 を 目 指 し て 、 学 習 者 全 員 に共 通 の基 本 的 な 学
習 指 導 を 展 開 し 、 学 習 者 一人 ひ と り の学 習 の 到 達 度 を 、 A ﹁十 分 満 足 で き る﹂、 B ﹁お お む ね 満 足 でき る ﹂、 C ﹁ 努 力 を 要 す る ﹂ の 三段 階 で ﹁目 標 に準 拠 し た 評 価 ﹂ ( 絶 対評価) を行う 。 ② 第 二 次 段 階 (個 別 ・コー ス別 の学 習 指 導 )
第 一次 段 階 に お け る 学 習 の 到 達 度 評 価 に も と づ い て、 ﹁評 価 A ﹂ の学 習 者 に は ﹁発 展 的 な 学 習 A ﹂を 、﹁評 価 B ﹂
の学 習者 に は ﹁発 展 的 な 学 習 B﹂ を 、 ﹁評 価 C ﹂ の学 習 者 に は ﹁補 充 的 な 学 習 C ﹂ を そ れ ぞ れ 行 って 、 学 習 者 一 人 ひ と り の個 性 や能 力 な ど に応 じ た 授 業 を 展 開 す る 。
第 一次 段 階 に お け る 学 習 の到 達 度 評 価 に も と づ い て、 A ・B ・C の 三 グ ル ー プ では あ る が 、 そ れ ぞ れ の 到達 度
に 応 じ て 、 ﹁発 展 的 な 学 習 A ﹂、 ﹁発 展 的 な 学 習 B ﹂、 ﹁補 充 的 な 学 習 C ﹂ を 行 う こと に よ って、 少 し でも 学 習 者 の
個 性 や 能 力 に応 じ た 学 習指 導 を 展 開 し よ う と し て いる点 は 、 評 価 でき る 。 し か し 、 肝 心 の ﹁第 一次 段 階 の学 習 指
導 ﹂ は 、 多 く の場 合 、 ﹁同 一目 標 ﹂ のも と 、 ﹁同 一教 材 ﹂ に よ る 、 ﹁同 一方 法 ﹂ に よ る 、 教 師 主 導 の発 問 応 答 型 に
よ る授 業 展 開 と な って いる 。 こ れ で は 、 第 二次 段 階 で ﹁個 別 ・コー ス別 学 習 指 導 ﹂ が 展 開 さ れ ても 、 学 習 者 一人
ひ と り の 個 性 や能 力 に 応 じ た 本 格 的 な 学 習 指 導 に は な っ て いか な い。や は り 、第 一次 段 階 の ﹁基 本 的 な 学 習 指 導 ﹂
が 、 学 習 者 一人 ひ と り の個 性 や能 力 な ど に応 じ た 授 業 展 開 と な る よ う に 授 業 を 改 善 し て、 ﹁目 標︱ 指 導︱ 評 価 ﹂ の 一体 化 を 図 った 学 習 指 導 を 展 開 し て いか な け れ ば な ら な い。
そ のた め に は 、 授 業 構 想 段 階︱ 授 業 展 開 段 階︱ 授 業 終 末 段 階 、 そ れ ぞ れ の段 階 にお いて 、 学 習者 一人 ひと り を
ど のよ う な 方 法 を 用 い て評 価 し 、 学 習 者 一人 ひ と り の個 性 や 能 力 を ど のよ う に伸 ば す 授 業 を ど の よ う に創 造 す る
か を 明 ら か に す る と と も に 、 そ れ を 実 践 で き る 指 導 者 の力 量 形 成 を 図 る こと が大 切 であ る 。
以 下 、 こ の三 段 階 そ れ ぞ れ に お い て 、 ﹁目 標︱ 指 導︱ 評 価 ﹂ の 一体 化 を 図 った 授 業 を 創 造 す る こ と を 通 し て 、 国 語 科 授 業 力 の向 上 を 図 る 方 法 に つ いて 述 べ て いき た い。
二 授 業構 想 段 階 に おけ る 診 断 的 評 価 と ﹁ 学 習 の手 引 き﹂ の作 成
単 元 の目 標 を 措 定 し 、 そ の目 標 を 達 成 す るた め の授 業 展 開 を 構 想 し た 段 階 で 、 す ぐ に 授 業 に 入 る の で は な く 、
一度 立 ち 止 ま って 、 そ の単 元 の授 業 展 開 の各 段 階 で、 学 習 者 一人 ひ と り が 、 ど の よう に反 応 す る かを 事 前 に診 断
( ← 診 断 的 評 価 ) し て、 も し つま ず き そ う な 学 習 者 が いれ ば 、 そ の つま ず き を ど の よ う に 克 服 さ せ て いく か 、 ま
た 、 いわ ゆ る ﹁で き る 子 ﹂ を ど の よう に 伸 ば し て いく か な ど 、 学 習 者 一人 ひ と り に 対 す る指 導 ・援 助 の仕 方 を 考 え て お か な け れ ば な ら な い。
大 村 は ま 氏 は 、 ︽指 導 者 が ﹁∼ し な さ い﹂ と 指 示 や命 令 の形 を と る の で は な く 、 指 導 者 のさ せ た いこ と を 学 習
者 が い つの 間 に か自 然 に し て し ま う よう な 授 業 を 創 造 す る こ と ︾ を 常 に自 ら の 実 践 上 の課 題 と し て いた 。 ﹁∼ し
な さ い﹂ と 指 示 や 命 令 を し て、 そ れ を やら せ よ う と し ても で き な い、 つま ず く 学 習 者 が いる 場 合 に は 、 彼 ら が 悲
し く つら い思 いを し な いよ う に 、 心 を 耕 す た め の手 引 き や 方 法 を 学 ば せ る た め の手 引 き な ど 、 ﹁学 習 の手 引 き ﹂ を 作 成 し て、 そ の課 題 の克 服 を 図 って いる 。
大 村 は ま 氏 は 、 昭 和 五 十 一年 十 月 、 中 学 二 年 生 を 対 象 に ﹁枕 草 子 ﹂ の実 践 を し た と き に 、 ﹁枕 草 子 ﹂ を 読 ん だ
感 想 を 書 か せ る ﹁学 習 の手 引 き ﹂ を 作 成 し て い る 。 普 通 で あ れ ば 、 ﹁読 ん で いる う ち に 気 づ いた こと 、 心 に 浮 か
ん だ こと を 書 き な さ い。﹂ と 指 示 や命 令 を す る と こ ろ であ る が 、 大 村 は ま 氏 は 、 そ れ と は ま った く 異 な る 、 次 の よう な ﹁学 習 の手 引 き ﹂ を 作 成 し て いる ( 注 1)。
︿感 想 を 書 か せ る ﹁学 習 の手 引 き ﹂ の 例 ﹀
◇ 読 ん で い る う ち に 気 づ い た こ と 、 心 に 浮 か ん だ こ と を 、 次 の よ う な と ら え 方 で 整 理 し て み る 。 ( ) の 中 は例。 A. ○ そう だ 、 ほ ん と に。 ○ ま った く 、 そ の と お り 。 ○ そう 、 そ ん な感 じ 。 ○ そ れ は 、 だ れだ って、 そ う いう 気 が す る にち が いな い。 ○ そ れ は 、 そ う だ った ろ う 。
( 残 念 ) だ った だ ろ う 。
○ 私 も そ う 思 った こ と が あ る 。 ○ ど ん な にか
B. ○そ れは意外な。
○そ れが、そ んなに ( 感 動 す る) か な あ 。
( う れ し い) か な あ 。
○そ のとき、 そんなに ( 早く ) ?
( び っく り す る ) の か 。
○ え え ? そ ん な に ○ そ ん な こと で ○ こ れ ほ ど の こ と が 、 な ん と も な いと は 。
C. ○ ど う いう こ と か な 、 ピ ン と こ な い 。 ○ ど う な って い る の か な 。
A に は 同 感 ・共 感 し た こ と 、 B に は 批 判 的 な こ と 、 C に は 疑 問 を 抱 いた こ と 、 そ れ ぞ れ の反 応 の仕 方 に は 、 微
妙 な 個 人 差 が あ る 。 学 習 者 が こ の ﹁学 習 の手 引 き ﹂ の いろ いろ な 言 い方 に 出 会 う こ と に よ って 、 い つ の間 に か 、
自 然 に 、自 ら の感 想 を ﹁発 掘 す る こ と ﹂、 ﹁と らえ る こと ﹂、 ﹁整 理 す る こと ﹂、 ﹁ま と め る こと ﹂ が でき る よ う に 工
夫 さ れ て いる の で あ る 。 ﹁学 習 の手 引 き ﹂ の い ろ いろ な 言 い方 に 触 れ て い る 間 に 、 自 然 に 、 学 習 者 の心 は さ ま ざ
ま に耕 さ れ て いく 。 ﹁読 ん で いる う ち に気 づ いた こ と 、 心 に浮 か ん だ こ と を 書 き な さ い。﹂ と いう 、 命 令 や 指 示 の
形 を と ら な いで 、 指 導 者 のさ せ た いこ と を い つ の間 に か 自 然 に さ せ る手 引 き にな って い る の で あ る。 学 習 者 一人
ひと り の内 面 、 心 理 を 深 く 洞 察 し た う え で 、 学 習 者 一人 ひと り が そ の学 習 に 困 ら な いよ う に 、 き め細 や か な 配 慮
のあ る 、 ま こと に 見事 な ﹁心 を 耕 す た め の手 引 き ﹂ と な って い る 。
こ の よう に 、 大 村 は ま 氏 は 、 授 業 構 想 段 階 に お い て、 単 元 展 開 の さ ま ざ ま な 学 習 活 動 の場 で 、 学 習 者 一人 ひ と
り が ど の よ う に対 応 で き る か を 事 前 に診 断 ( ← 診 断 的 評 価 ) し て 、 つま ず き そう な 学 習者 が いれ ば 、 そ の つま ず
き を ど の よ う に克 服 さ せ て いく か 、 学 習 者 一人 ひ と り に対 す る 指 導 ・援 助 の仕 方 を さ ま ざ ま に 工夫 し て いる の で あ る。
大 村 はま 氏 の例 に学 ん で、 診 断 的 評 価 を 生 か し た ﹁学 習 の手 引 き ﹂ を 作 成 し 、 学 習 者 一人 ひ と り の個 性 や能 力 に 応 じ た 授 業 を 実 践 す る こと の でき る力 を 養 いた い。
三 授 業 展開 段 階 にお け る 形 成 的 評価 と授 業 力 の向 上
形 成 的 評 価 のね ら いは 、 当 面 の目 標 に 照 ら し て、 学 習 者 が ど こ で、 ど のよ う な つま ず き を し て いる か を 指 導 者
が 発 見 し て 、自 ら の指 導 内 容 や指 導 方 法 に つ い て反 省 を 加 え 、次 の指 導 への課 題 を 明 ら か に し て、 指 導 の方 向 を
修 正 し て いく と こ ろ にあ る 。 ま た 、 学 習 者 自 身 にも 、 そ の つま ず き を 自 覚 さ せ て、 そ の読 みと り 方 を 修 正 さ せ て
(=自 己 評 価 力 ) を 身 に つけ さ せ る
いく と こ ろ にあ る 。 指 導 者 だ け で な く 、 学 習 者 自 身 にも 、 自 分 自 身 を 客 観 的 に 見 つめ る 眼 (=評 価 意 識 ) を 養 わ せ ると と も に 、自 分 の考 え の変 容 過 程 や つま ず き の原 因等 を 自 己 評 価 す る力 指 導 を 授 業 の中 に 位 置 づ け て いき た い。
︵一︶ 授業 展開過程 における個 別の形成的 評価法
授 業 展 開 過 程 に お い て、 学 習者 一人 ひ と り の学 力 の形 成 過 程 を 評 価 す る には 、基 本 的 に 、 学 習 者 の発 言 内 容 や
ノ ー ト ・学 習 シ ー ト な ど に書 き 入 れ ら れ た 内 容 を 観 察 し て評 価 す る し か な い。 一時 間 単 位 で 、 目 標 (← 評 価 規
準 ・評 価 基 準 )に 照 ら し て 、ク ラ ス 四 十 名 す べ て を 評 価 す る こと は 、な かな か む ず か し い。そ こ で、毎 時 間 、授 業 前
に 決 め て いた 特 定 の学 習 者 (1時 間 に 五 ∼ 六名 が 限 度 か )に 焦 点 を 絞 って、次 の よう な 評 価 を 行 う よう に し た い。
ア 授 業 の展 開 に 即 し て 、 座 席 表 や 評 価 補 助 簿 な ど に 、 そ の評 価 結 果 を 記 入 し て いく 。
そ の評 価 結 果 を 、 放 課 後 な ど を 使 って 、 ﹃評 価 ノ ー ト ﹄ の ﹁個 人 ペ ー ジ ﹂ に 書 き 入 れ て いく 。 ﹁個 人 ペ ー ジ ﹂
に は 、 そ の学 年 で 習 得 さ せた い国 語 科 の能 力 ( 話 す ・聞 く ・書 く ・読 む お よ び 言 語 事 項 に 関 す る 能 力 ) 一 覧 表 を 用 意 し て お い て、 そ れ に 書 き 入 れ て いく と 、 評 価 が し や す く な る 。
イ タ テ 二 セ ン チ 、 ヨ コ 三 セ ン チ く ら い の ﹁シ ー ル ﹂ の 綴 り を 用 意 し て お い て 、 授 業 の 展 開 に 即 し て 、 そ れ に
評 価 のこ と ば を す ば やく 書 き 入 れ て いく 。そ の 評 価 の こ と ば を 書 いた ﹁シ ー ル ﹂を 、放 課後 な ど を 使 って、 ﹃評 価 ノ ー ト﹄ の ﹁個 人 ペ ー ジ﹂ に 貼 り 付 け て いく 。
( ← 評 価 ) す る こと が でき る で あ ろう 。 こ の評 価 結 果 を 生 か し
これ ら の 評 価 活 動 を 一学 期 く ら い積 み 重 ね て いく と 、 ク ラ ス の学 習 者 一人 ひ と り の ﹁話 す ・聞 く ・書 く ・読 む お よ び 言 語 事 項 に 関 す る 能 力 ﹂ の実 態 を ほ ぼ 把 握
て 、 学 習 者 一人 ひと り の個 性 や 能 力 に応 じ た 授 業 構 想 を 立 て る 修 練 を 重 ね ると 、 次 第 に 、 個 に応 じ た 授 業 が 展 開 で き る よう にな って いく 。
︵二︶ ﹁発 問 応 答 型 の 授 業 に 課 題 解 決 学 習 法 を 導 入 し た 授 業 展 開 ﹂ に お け る 形 成 的 評 価 法
﹁一 つ の発 問 ﹂ あ る いは﹁一 単 位 時 間 の授 業 ﹂ で 、 ク ラ ス全 員 の学 力 の形 成 過 程 を 評 価 し よ う と す れ ば 、 次 に
( ← 発 問 ) の解 決 を 目 指 し
挙 げ る よ う な ﹁発 問 応 答 型 の授 業 に 課 題 解 決 学 習 法 を 導 入 し た 授 業 展 開 ﹂ ( ← ﹁読 み﹂ の授 業 例 ) を 図 る こ と が 有
効 であ る 。 こ の授 業 展 開 モ デ ル は 、 学 習 者 一人 ひ と り が 、 指 導 者 の提 示 し た 学 習 課 題
て学 習 に 取 り 組 む 過 程 で、 学 習 課 題 に 対 す る学 習 者 の認 識 を 深 化 ・拡 充 さ せ る と と も に 、 読 み の 力 を 中 心 に 、 話 す ・聞 く ・書 く 力 な ど を 習 得 さ せ る こ と も ね ら って いる の であ る 。
(こ の段 階 で は 、 学 習 者 が 気 楽 に 自 ら の考 え 方 を 発 表 し や す く す る た め
︿ ﹁発問応答型 の授業 に課 題解決学 習法を導 入した授業 展開﹂ における形成 的評価法 ﹀ ︽あ る 学 習 課 題 ( 発 問 ) に 対 し て︾Ⅰ . 仮 説 を 出 し合 う 。 (1) [ 個 別学 習] 各 自 の考え方
に、 ﹁ 仮 説 ﹂ と 呼 ぶ こと と す る。 は や く でき た 者 は そ の理 由 も ) を ノー ト に 書 か せ る 。 [ 評 価 活 動1 ]
指 導 者 は 、 机 間 指 導 を 行 う と と も に 、 学 習 者 一人 ひ と り の 解 答 の出 方 を 調 べ 、 解 答 の 仕 方 を
( 説 ) の 実 態 を 把 握 し 、次 の発 表 のと き の指 名 計 画 を 立 て る 。 こ の段
﹁座 席 表 ﹂ に 、 こ の 学 習 者 は A 説 、 こ の 学 習 者 は B 説 な ど と 記 号 な ど を 用 い て 書 き 込 む こ と に よ って 、 一人 ひ と り の解 答
階 で は 、 指 導 者 は 限 ら れ た 人 数 の 学 習 者 し か 把 握 でき な い。
(こ の 段 階 で は 、 結 論 だ け ) を 発 表 さ せ 、 分 類 整 理 す る 。 A説 ・B説 ・
学 習 者 は 、 こ の段 階 で は 、自 ら の考 え を ノ ー ト に ま と め る だ け で あ る 。
(2) [一斉 学 習 ] 各 自 の考 え 方
C 説 な ど と 記 号 を 用 い て、 各 説 の要 点 を 板 書 す る 。 これ に よ って 、 児 童 生 徒 そ れ ぞ れ の考 え 方 は 相 対 化 さ れ る。 ( ← 板 書 ・ノ ー ト )
[評 価 活 動 2]
( ←評価) する。
指 導 者 は、 こ の段 階 で新 た に 把 握 で き た 学 習 者 の解 答 ( 説 ) を ﹁座 席 表 ﹂ に 書 き 加 え 、 よ り 詳 し く ク ラ ス全 体 の解 答 (説 ) の実 態 を 把 握
学 習 者 は 、 こ の段 階 で は じ め て 、他 者 の説 に出 会 って 、自 分 と は 違 った 説 が あ る こ と に 気 づ き 、 自 説 と 他 説 と を 比 較 し始 め る 。 自 己 評 価 活 動 の第 一歩 であ る 。
(3) [一斉 学 習 ] 各 説 の支 持 者 数 を 明 ら か に す る 。 A 説 は ○ 人 、 B 説 は ○ 人 、 C 説 は ○ 人 と 確 認 す る
( ど の説 か 決 め か ね て い る者 は 、 態 度 保 留 のま ま で よ いこ と と す る )。 こ のよ う な 学 習 で は 、 多 数 決 で
は 正 否 は 決 定 で き な い。支 持 者 数 の少 な い説 の児 童 生 徒 も 、 こ の後 の討 議 の た め に、 自 説 が 主 張 でき る よう に 準 備 す る よ う 激 励 す る 。 [評価 活 動 3 ]
指 導 者 は 、 こ の段 階 に な る と 、 学 習 者 の大 多 数 が 、 ど のよ う な 理 解 の仕 方 を し て いる のか 、 そ の実 態 を ほ ぼ 把 握 (← 評 価 ) す る こと が でき る。
学 習 者 一人 ひと り は 、 自 ら の解 答 ( 説 ) が ど の よ う な 解 答 (説 ) のあ る 中 の 一つ であ る か 、 他
る。
( 説 ) の根 拠 ・理 由 を 、 文 中 の表 現 を 押 さ え な が ら ノ ー ト に書 か せ る 。 な
説 と 比 較 し て 、 自 説 を 相 対 化 (← 評 価 ) す る こと が で き る よう にな る 。
. 検討す
(4) [個 別 学 習 ] 各 自 の解 答
お 、 自 ら の考 え を よ り 確 か に さ せ る た め に、 根 拠 ・理 由 は 箇 条 書 き に さ せ る 。 [ 評 価 活 動 4]
指 導 者 は 、 こ の 間 、机 間 指 導 し て個 別 に 助 言 す る と と も に 、箇 条 書 き に整 理 さ れ た 解 答 を 見 て、
根 拠 ・理 由 づ け の 実 態 を 調 べ 、 そ れ を ﹁座 席 表 ﹂ に書 き 込 む こと に よ って 、 学 習 者 一人 ひ と り の
根 拠 ・理 由 づ け の 実 態 、 つま ず き の実 態 を 把 握 ( ← 評 価 ) し て、 次 の討 議 す る と き の指 名 計 画 を 立 てる。
学 習 者 は、 他 説 を 意 識 し て自 説 の根 拠 ・理 由 を 考 え 、 箇 条 書 き に す る 。
(5) [一斉 学 習 ] 各 説 ご と に結 論 、 そ の根 拠 ・理 由 を 発 表 し て 、 課 題 解 決 のた め の討 議 を さ せ る 。
① 各 説 ご と に 、 ま ず ﹁結 論 ﹂ を 述 べ、 次 に ﹁理 由 ・根 拠 ﹂ を 箇 条 書 き の形 で発 表 す る よ う に さ せ て、 そ れ ぞ れ の共 通 点 と 相 違 点 を 浮 き 彫 り に す る 。 ( ← 板 書 ・ノ ー ト )
Ⅱ
[ 評 価 活 動 5]
指 導 者 は 、 指 名 や 板 書 の仕 方 を 工 夫 し て 、 各 説 が 、 本 文 中 のど の表 現 に 着 目 し て 、 根 拠 ・理 由
を 挙 げ て いる か 、 と く に 相 違 点 に 着 目 し て 、 各 説 の相 違 点 が 浮 き 彫 り に な る よう に す る 。
学 習 者 は 、 自 説 と 他 説 と を 比 較 し 、 な ぜ そ の よう な 違 いが 生 ま れ た の か 、 本 文 中 の表 現 を 押 さ
え て 、 あ ら た め て、 自 説 の根 拠 ・理 由 を 吟 味 ( ← 自 説 の相 対 化 ・評 価 ) す る。
② 本 文 中 の表 現 を 押 さ え て各 説 の根 拠 ・理 由 を 発 表 さ せ 、 自 説 の強 調 お よ び 他 説 の批 判 を さ せ る 。 [ 評価 活動 6]
本 文 中 の表 現 を 押 さ え て 討 議 さ せ る 過 程 で、 対 立 点 を 浮 き 彫 り に し 、 ど の説 が 誤 答 で 、 ど の 説
が 正 答 で あ る か が次 第 に 明 ら か に な る よ う に 授 業 展 開 を 工 夫 す る 。 誤 答 の者 に は 、 ど の表 現 を 読
み 違 え た か ら 、 自 分 の説 が 誤 答 にな った のか が わ か る よ う に 、 授 業 を 仕 組 む こと が 大 切 であ る 。 指 導 者 の 司会 力 ・授 業 展 開 力 の問 わ れ る と こ ろ で あ る 。
な お 、 国 語 科 の授 業 と し て、 こ の討 議 の過 程 で 、 読 む 力 を 中 心 に 、 話 す ・聞 く ・書 く 力 を 鍛 え
る こ と が 目 指 さ れ な け れ ば な ら な い。 そ のた め に は 、 事 前 に 、 ど のよ う な 読 む ・聞 く ・話 す ・書
く そ れ ぞ れ の力 を 鍛 え る機 会 と 場 が あ る か 、 ま た 、 そ れ ぞ れ の力 を ど のよ う に 習 得 さ せ る か を 見 通 し てお く こ と が 肝 要 で あ る 。
Ⅲ . ま と め る 。
[評 価 活 動 7 ] (6 ) [一斉 学 習 ] 指 導 者
( あ る いは 生 徒 ) が 表 現 を 押 さ え て 、 誤 答 の 原 因 が 何 で あ った か を 整
理 す ると と も に、 正 答 の根 拠 ・理 由 を 明 ら か に し てま と め る 。 Ⅳ.自 己 評 価 す る 。 [評 価 活 動 8 ]
(7) [ 個 別学 習 ] 各 自 、 ノ ー ト に 、 自 分 の考 え の変 容 過 程 を た ど ら せ 、 誤 答 で あ った 者 は 、
そ の 原 因 が 何 で あ った か を 整 理 さ せ る 。 ま た 、 正 答 で あ った 者 は 考 え の深 化 し た 過 程 を 確 認 さ せ
る。 ( ← 自 己 評 価 カ ー ド や 自 己評 価 のた め の文 型 を 示 し て自 己 評 価 さ せ る 配 慮 も 必 要 であ る 。)
こ の授 業 展 開 モ デ ル に従 え ば 、 指 導 者 は 、 授 業 展 開 の各 段 階 で 、 学 習 者 一人 ひ と り の読 み の実 態 を 把 握 (← 形
成 的 評 価 ) し て 、 そ れ にも と づ いて 、 指 名 の仕 方 、 対 立 し た 意 見 の出 さ せ 方 、 本 文 中 のこ と ば を 押 さ え た討 議 の
さ せ方 な ど に臨 機 応 変 に対 応 し て いく こと が で き る 。 ま た 、 学 習 者 一人 ひ と り は 、 課 題 解 決 を 図 る 一連 の 学 習 過
程 で 、 自 ら の読 み と り 方 を 対 象 化 し 、 他 者 の考 え 方 ( 説 ) お よ び そ の根 拠 ・理 由 の挙 げ 方 と 比 較 す る こと を 通 し
て 、自 説 の正 し さ や 誤 り 、 本 文 中 の こと ば の 押 さ え 方 の 適 否 な ど を 授 業 展 開 の中 で自 己 評 価 し て 、 正 し い読 み と
り 方 を 習 得 し て いく こと が でき る。 ﹁目 標 と 指 導 と 評 価 の 一体 化 ﹂ が 図 ら れ た ﹁読 み ﹂ の授 業 展 開 モ デ ル であ る 。
こ のよ う な 授 業 展 開 が 自 在 に で き る よ う に な る た め に は 、 第 三 章 で述 べ た ﹁目 標 の 二重 構 造 化 論 ﹂ にも と づ く 国 語 科 授 業 力 の修 練 を 積 む こと が 不 可 欠 であ る 。
四 ﹁ 学 習 記 録 ﹂ によ る 指 導 者 の 形成 的 ・総 括 的 評 価 と 学 習 者 の 自 己 評価
大 村 は ま 氏 は 、 昭 和 八 (一九 三 三 ) 年 こ ろ か ら 、 学 習 者 一人 ひ と り に 、 一貫 し て、 ﹁学 習 記 録 ﹂ を 書 か せ る指
導 を 展 開 し てき た 。 ﹁学 習 記 録 ﹂ を 書 か せ る ね ら いは 、書 く こ と の基 本 的 な 力 を 養 わ せ る こ と 、 筆 不 精 を な く す
こ と 、 心 の 中 に あ る こ と を 文 字 に さ せ る こ と 、 ま た 、 学 習 者 一人 ひと り の国 語 学 習 生 活 の実 態 を と らえ る と こ ろ にある。
大 村 は ま 氏 の ﹁学 習 記 録 ﹂ は 、 いわ ゆ る ノ ー ト では な く 、 罫 紙 を 使 っ て 、 綴 じ 込 ん で いく も の で あ る 。 そ の
ノート ( 罫 紙 ) に は 、 先 生 の話 の要 点 、 自 分 た ち の 調 べた こ と 、 友 達 と 考 え 合 った こと 、 そ の 日 の感 想 な ど 、 国
語 の学 習 に 関 す るす べ て の こと を 書 いて いく 。 そ し て、 学 期 末 に 、 プ リ ント ・テ スト 類 、 配布 資 料 な ど も 合 わ せ
て 、 全 部 を 綴 じ 、 目 次 や あ と が き 、 奥 付 、 さ ら に表 紙 に 題 目 な ど を つけ て、﹁一冊 の本 ﹂ の形 に 編 集 さ せ ると い
う も の であ る 。 表 紙 の題 目 、 冊 子 の編 集 の仕 方 (← 目 次 ) は 、 学 習 者 一人 ひと り が さ ま ざ ま に 工夫 し て完 成 す る
よ う に指 導 し てあ る 。 出 来 上 が った 冊 子 は 、 学 習 者 一人 ひと り に よ って異 な る 、 ま こと に 個 性 的 ・創 造 的 な ﹁作 品 ﹂ と 言 っても よ いも の であ る 。
指 導 者 か ら 見 た ﹁学 習 記 録 ﹂ に よ る評 価 の効 用 に つい て 、 大 村 はま 氏 は 次 の 三 点 を あ げ て い る (注 2)。
ア 書 く 力 だ け でな く 、 書 か れ た も のを 通 し て 、生 徒 の いろ い ろな 面 に つ いて 、 細 か く 評 価 で き る。 学 習 中
の観 察 や テ ス トな ど で知 り 得 な い点 ま で、 細 か く 、 一人 ひ と り の長 所 や 短 所 を つか む こ と が でき る 。 テ
スト に よ って十 分 に つか み得 な い、 生 活 の実 際 に 活 用 す る 力 を 見 る こと が で き る。
イ 指導 の効 果 と 欠 点 を よ く 知 る こと が でき る 。 た と え ば 、 あ る話 を し た場 合 、 多 く の者 に 、 ど の よう に 受
け 取 ら れ て い る か 、 と いう こ と が 分 か る。 不 徹 底 な 点 や 、 取 り 違 え て いる 点 を 、 か な り 確 実 にと ら え る こと が で き 、 し た が って、 対 策 を 立 て や す く な り 、 欠 点 を 補 い やす く な る 。
ウ そ の他 、 指 導 が適 当 であ った か ど う か 、 ゆ き と ど いて いた ど う か を あ り あ り と み る こと が でき 、 指 導 者 に と って 、 実 に よ い反 省 材 料 と な る 。
こ こ に あ げ ら れ た ﹁学 習 記 録 ﹂ に よ る評 価 の効 用 か ら も わ か る よ う に 、 ﹁学 習 記 録 ﹂ は 、 学 習 者 一人 ひと り の
学 習 の形 成 過 程 お よ び 学 習 生 活 のさ ま ざ ま な 実 態 を 長 期 的 に 把 握 ( ← 形 成 的 評 価 ・総 括 的 評 価 ) す る こ と が でき
る と と も に 、 そ の評 価 の上 に立 って、 自 ら の授 業 の改 善 を 図 る こと も でき る。 一方 、 学 習 者 に と っても 、自 ら の
学 習 生 活 を 振 り 返 り 、 自 ら の努 力 の成 果 や 不 十 分 な 点 を 把 握 す る こと が で き ると と も に、 そ の自 己 評 価 の 上 に
立 って、 自 ら の今 後 の課 題 を 発 見 す る こ と が でき る 。 ぜ ひと も 実 践 の場 で ﹁学 習 記 録 ﹂ を 書 か せ る 取 り 組 み が 期 待 され る。
五 総 括 的 評 価 と し て の ﹁ペ ー パ ー テ ス ト ﹂ の あ り 方
︵一︶ 正 し い ﹁ペ ー パ ー テ ス ト ﹂ 観 の確 立 を
本 来 、 ペー パ ー テ スト の 目的 は 、 ど う いう こと が でき て、 ど う いう こ と が で き な い のか 、 そ れ を 知 って、 生 徒
( 量 ) に 目 が いき 、 そ の点 数 に よ って、 そ の科 目 の でき る、 で き な いを 判 断 し て いる の が 実 情
も 指 導 者 も と も に 、 こ れ か ら の学 習 や指 導 に役 立 て る こと に あ る 。 と こ ろ が 、 実 際 には 、 生 徒 も 指 導 者 も 、 ペ ー パ ー テ スト の点 数 では な いか 。
国 語 科 の テ ス ト で 85点 を と った と き に 、 前 回 の テ スト が 80点 だ った の で、 国 語 科 の成 績 が 上 が った と いう よ う
に考 え る の で は な く 、 15点 を ど こ で ど う 失 って いる の か を 考 え さ せ る よ う に し て、 ﹁自 分 は 読 解 力 が な い こ と に
な る の か 、 ま た は 、 鑑 賞 力 が な いこ と に な る の か ﹂ と い った よ う に 、 ﹁質 ﹂ に こ そ注 目 さ せ る こ と が 大 切 であ る 。
今 一度 、 わ た し た ち 指 導 者 は 、 ペ ー パ ー テ ス ト が 、 評 価 のさ ま ざ ま な 機 会 、 さ ま ざ ま な 方 法 のう ち の 一つで あ
る こと 、 ペ ー パ ー テ ス ト で は 、 国 語 科 で つけ な け れ ば な ら な い力 のう ち で 、 ど のよ う な力 は 測 ら れ るが 、 ど のよ
う な力 は 測 ら れ な い の か 、ペー パ ー テ スト のも つ可 能 性 と 限 界 と を は っき り さ せ てお く こ と が 必 要 で あ る。ま た 、
こ のこ と は 、 生 徒 にも 機 会 あ るご と に 話 し て 聞 か せ 、 ペ ー パ ー テ スト に対 す る 彼 ら の 誤 った 考 え 方 を 変 え て いか
な け れ ば な ら な い。 そ し て 、 た ん な る ﹁点 取 り 虫 ﹂ で は な く 、 ペ ー パ ! テ スト に 対 す る 正 し い見 方 の で き る 生 徒 を 育 成 す る こ と が 必 要 で あ る。
︵二︶ ぺ ー パ ー テ ス ト 問 題 作 成 のあ り 方 と 評 価 表 の 工夫
評 価 は 学 力 を 測 る も の さ し のよ う な も の で 、 そ れ が も し 不 確 か であ った 場 合 に は 、 そ の結 果 が 全 然 信 頼 でき な
く な る ので 、 何 の力 を み る た め に こ の問 題 を 作 った の か 、 そ し て 、 そ の問 題 に よ って 、 そ の力 を み る こ と が ほ ん
と う に で き る の か と いう こ と を 厳 し く 問 わ な け れ ば な ら な い。 ペ ー パ ー テ スト の結 果 は 、 生 徒 一人 ひと り に自 分
を 知 る資 料 と し て 活 用 さ せ て いく の だ か ら 、 指 導 者 は問 題 を 作 る 技 術 を 磨 い て、 優 れ た 問 題 を 作 ら な け れ ば な ら
な い。 ペー パ ー テ スト 研 究 は 、 実 践 の場 にお け る も っと も 身 近 な 喫 緊 の実 践 課 題 であ る 。
大 村 は ま 氏 は 、 ペ ー パ ー テ ス ト 問 題 作 成 にあ た って 、 ﹁生 徒 に と って 、 こ の問 題 が 何 の力 を み る た め に 作 成 さ
れ て い る のか が は っき り わ か る よ う に 、 一問 題 一目 標 と す る の が よ い。﹂、 ﹁選 択 肢 を 作 る 場 合 に は 、 日 頃 か ら 、
そ の よう な 問 題 に 対 す る生 徒 た ち の つま ず き 方 ・欠 陥 を 類 型 化 し てと ら え て お き 、 そ れ ら を 選 択 肢 と し て 取 り 上
げ る よう に し た い。﹂ と考 え て いた 。 生 徒 が ま ち が った と き で も 、 ﹁幾 つま ち が え た か ら ど う だ ﹂ と いう の では な
く 、 ﹁ど ん な ふう に 意 味 を 取 り ち が え た り 、 ど ん な ふ う に ま ち がう こと が 多 いか 、 結 局 自 分 の文 の 読 み方 に こう
いう 欠 点 が あ る の で は な いだ ろ う か ﹂ と い った よ う な こ と が 、 あ る 程 度 説 明 でき る よ う に 問 題 を 仕 組 ん で いく こ と が 重 要 で あ ると し て いる ( 注 3)。
大 村 は ま 氏 の 国語 科 テ ス ト 問 題 は 、 問 題 以 外 に 、 表 紙 に 、 次 にあ げ る よう な ﹁採 点 表 ﹂ が 印 刷 し てあ る 。
︿昭 和 四十 七年 五 月 二 十 三 日 、 中 学 一年 生 の テ ス ト 例 ﹀
﹁目 標 ﹂ に は 、 そ の問 題 が 何 の力 を 問 う 問 題 か が 示 さ れ て い る 。 問 題 一は 、 各 自 に 四 つ の暗 唱 課 題 が あ った 。
﹁す べき こ と す る﹂と いう 学 習 態 度 を み る 問 題 、問 題 二は 、 ﹁話 す こ と ﹂ に つ い て の知 識 を 問 う 問 題 と いう よ う に 、
一問 題 一目 標 を 原 則 と し て 作 成 さ れ て いる 。 問 題 三 は ﹁話 す こ と ﹂、 ﹁聞 く こと ﹂ の知 識 ・理 解 、 問 題 七 は あ る 文
章 の 一節 を ﹁朗 読 す る ﹂ と き の 工 夫 を 文 章 化 さ せ る問 題 であ る 。 ﹁話 す こと ﹂、 ﹁聞 く こと ﹂、 ﹁朗 読 ﹂ に 関 す る 問
題 は 、 普 通 の テ スト で は 除 外 さ れ る と こ ろ であ る が 、大 村 は ま 氏 は 工 夫 し て出 題 し て い る 。 問 題 三 の 下 に ﹁三 が
そ ろ って でき た ﹂ と いう 欄 が あ る が 、 これ は特 別 点 であ る 。 二 つそ ろ って で き て いる こと は 、 こ の テ スト で書 い
た り 読 ん だ り し た 以 上 に豊 か な 力 を 身 に つけ て いる こと を 思 わ せ る の で 、点 数 を 加 え る のだ と いう 。 や っと で き
た 、 片 方 でき た 、 そ ろ って で き た と いう の で は 、 同 じ で き て い る に し ても 実 態 に差 が あ る と 考 え て、 こ のよ う に 工 夫 し た の であ る 。 大 村 は ま 氏 独 自 の 工夫 であ る 。
素 点 欄 の左 枠 は 、問 いが 四 問 あ れ ば 、四 と し て あ る。 そ の次 の枠 は 、 そ の生 徒 の と った 丸 の数 、作 文 の場 合 は 、
そ の配 点 で あ る 。 得 点 は 素 点 よ り も 字 が 小 さ く し て あ る。 得 点 よ り も 素 点 の欠 け て いる と こ ろ に 、 生 徒 の 目 が 向
け ら れ る よ う に し た い、 と いう 意 図 にも と づ い て 、 そ の よう な 工 夫 が さ れ て いる の であ る 。
大 村 はま 氏 は 、 テ ス ト に あ た って、 事 前 に 、 ﹁テ ス ト に つ い て﹂ と いう 勉 強 のた め の指 針 を 手 渡 し 、事 後 に は 、
﹁答 案 を 見 て ﹂ と いう プ リ ント を 配 布 し て 、 各 自 の答 案 を 各 自 に 検 討 さ せ 、 生 徒 一人 ひと り が 自 分 の で き て い る
点 、 欠 け て いる 点 を は っき り と と ら え る こ と が でき る よ う に 仕向 け て いる 。 こ の よ う にす れ ば 、 生 徒 は 、 た だ 総
点 (量 ) を 競 い合 う と いう こと も な く な って 、 自 分 の欠 点 は ど こ にあ る か 、 次 の 学 習 の課 題 は 何 か と いう こと に 目 を 向 け る よう に な る。 ま こと に 、 評 価 の ね ら い に か な った テ スト の仕 方 で あ る 。
わ た し た ち 指 導 者 は 、 ぜ ひ と も 、 大 村 はま 氏 が 提 案 し た ﹁ペ ー パ ー テ スト ﹂ のあ り 方 を 実 践 の場 に根 づ か せ た
いも の で あ る。
六 教 育 実 習 に お け る授 業 担 当 に備 え て
最 後 に 、 教 育 実 習 に お い て国 語 科 授 業 を 担 当 す る にあ た って、 と く に留 意 し て おき た い こ と を 列 挙 し てお き た い 。
① ま ず 、 担 当 す る 学 年 ・組 が 、 ど の単 元 の 、 ど の教 材 で、 ど の よ う な 国 語 能 力 を 習 得 さ せ る 予 定 に な って いる
か 、 年 間 カ リ キ ュラ ム ( ← 年 間 指 導 計 画 表 ・国 語 科 能 力 一覧 表 ) を 把 握 す る。 そ の場 合 、 担 当 学 年 の発 達 段 階 に も 意 識 を向 け る。
② 担 当 す る単 元 ・教 材 が 決 定 し た ら 、 単 元 ・教 材 の 研 究 を 徹 底 し て行 う こ と を 通 し て、 そ の単 元 ・教 材 の指 導
目 標 (← 態 度 ・技 能 ・認 識 等 に 関 す る 目 標 ) を 検 討 す る 。 と く に 技 能 目 標 の場 合 に は 、 そ の技 能 目 標 を 習
得 ・形 成 さ せ る た め に 、 下 位 目 標 と し て 、 ど の よう な 技 能 目 標 ( ←指導 事項) が措定 され るべきかを明 らか
に し て、技 能 の形 成 過 程 を 明 確 に 把 握 し て お く よう に す る。ま た 、指 導 目 標 の立 て 方 は 、方 向 目 標 で は な く 、 で き るだ け 行 動 目 標 と す る。 そ の方 が後 で 評 価 す る の に 、 評 価 し やす い。
③ 単 元 構 想 を 立 て る に あ た って は 、 そ の単 元 ・教 材 を 学 習 す る 必 然 性 が あ る よう に 、 そ の単 元 を 仕 組 む か、 ま
た 、 そ れ と 関 連 さ せ て 、 そ の単 元 ・教 材 を 学 習 す る た め の学 習 課 題を ど の よう に 設 定 す る か を 検 討 す る。 導
入 段 階 の学 習 指 導 が 、 そ の単 元 ・教 材 の学 習 の成 否 の鍵 を 握 る だ け に 、 時 間 を か け て 、 い ろ いろ な 案 を 出 し
て検 討 し た い。
④ 一時 間 レ ベ ル の学 習 指 導 案 の作 成 にあ た って は 、② の留 意 点 を ふま え て、 指 導 目 標 を 立 て る 。 指 導 目 標 を 立
て ると き に は 、授 業 の ど の段 階 で 、ど のよ う な 方 法 を 用 い て、ど のよ う に 評 価 す る のか を 明 ら か にし て お く 。
⑤ 一時 間 の学 習 指 導 過 程 案 を 立 て ると き に は 、指 導 目 標 が ど の 学 習 活 動 の段 階 で 、ど のよ う に達 成 さ れ る のか 、
評 価 方 法 と も 関 連 さ せ て検 討 す ると と も に 、 学 習 指 導 案 が で き た ら 、 学 習 者 が そ れ ぞ れ の段 階 の 学 習 活 動 に
お いて ど のよ う に 反 応 す る か を シ ュミ レー シ ョ ン ( ← 評 価 ) し て 、 いわ ゆ る ﹁で き な い子 ﹂ に対 す る 指 導 ・ 援 助 の仕 方 を 考 え てお く よ う に す る 。
注 1 大 村は ま ﹃ 大村 はま 国語 教室 第 3巻﹄ 筑 摩書 房 一九 八 三年 五月 一八三 ∼ 一八 五頁 注 3 大 村 は ま
﹃ 教 室 を いき いき と 1﹄ 筑 摩 書 房 一九 八 六 年 一月 三 〇 四 ∼ 三 二 七 頁
注 2 大 村は ま ﹃ 大村 はま 国語 教室 第 12巻﹄ 筑 摩書 房 一九 九 一年 七月 七 五∼ 八七 頁
注
つ まず き 154,191
板書 56
マ 行
板書計画 97 デ ィベ ー ト 180 テ ー マ 単 元 175
評 価 意識 194
松 本 修 102
テ ス ト法 112,116,119,122
評 価 活 動 196
学 び方 186
テ ス トを 越 え る評 価 157
評 価 基 準 118,190
展 開 過 程 35
―の 内 面 化 157
目 的意識 84,178
評 価 規準 161,162,190
目標― 指 導― 評 価 190
同 一 教 材 190
評価 計 画 115,120,121
目標 つ ぶ しの授 業 156
同 一 方 法 190
評価 言 120
目標 に準 拠 した 評価(絶
同 一 目標 190
評価 実践 研 究 189
同 化 型 32
評価 ノ ー ト 195
等 価 値 171
評 価 の機 能 109
動機づけ
対評
価) 112,155,164,174, 177,190 目標 の達 成 190
評 価 の 二 面 性 127
目標 の二 重 構 造 化 42,118
統 計 的 評 価 142
評 価 の 目的 189
モ ニ タ リ ング 167,175
到 達 度 評 価 112,113,147,
評 価 表 204
154
160,190 到 達 目標 144
ヤ 行
評 価 補 助 簿 195 評 定 106,166,170,171,173
山元悦子 82
特 殊 具 現 態 93 フ ィー ドバ ッ ク 149,175 ナ 行
誘導計画 8 誘導者 7
―と して の 評 価 156 ブ ル ー ム 143
内 部 主観 的 な 観 照 記 録 22 西 尾 実 38 認 識 の深 化 ・拡 充 37 認 知 ス タイ ル ・テ ス ト 31 年 間 指 導 計 画 160
プ レゼ ンテ ー シ ョ ン 176 プ ロ グ ラ ム学 習 149
予 定 調 和 と して の 授 業 156
プ ロ ジ ェ ク ト ・メ ソ ッ ド
読 み 取 り ノー ト 101
177
読 み の 傾 向 性 31
プ ロセ ス 158
読 み の 個 性 化 31
プ ロ ダ ク ツ 158
「読 む こ と」 の授 業 の 類 型
プ ロの 国 語 科 教 師 57
38
文 集 158 能 力 調 査 に 基 づ く診 断 的評 価
ラ 行
「分析― 関 連 」 型 34
131 ノ ー ト 148
ペ ーパ ー テ ス ト 203
野 地 潤 家 86,87,92
変 容 過 程 194
螺 旋 状 の モ デ ル 147
臨床的実験 的方法 18
野 宗 睦 夫 94 方 向 目 標 207
ハ 行
レ デ ィネ ス 85,144
補 充 的 な 学 習 190 ポ ー ト フ ォ リ オ(評
価)
這 い 回 る 経 験 主 義 86
113,116,119,123,139,
橋 本 暢 夫 86
158,174
発 展 的 な 学 習 190
ホ ー ル ラ ン ゲ ー ジ 175
86,
ワ 行 若 杉 俊 明 102
発 問 56
わか る授 業 づ く り 147
発 問 応 答 型 の 授 業 42
渡 辺 春 美 100
国語 科 学 習 記 録 5,175
自 己 目標 157
主 題 単 元 学 習 101
国語科授 業過程 3
事 実 至 上 93
焦 点 化 161,163
国語科授 業記録 5
事 象 型 32
資 料 綴 94
国語 科 授 業 研 究 9.l0.12‐
事 象 状 態 20
事 例 的 評 価 142
事 象 連 関 20
診 断 128
国語 科 授 業 構 想 力 2,3,14
17
事 象 論 理 20
診 断 的 評 価 109,111,115,
国語 科 授 業 構 築 の 原 理 37
実 践 営 為 92
国語 科 授 業 構 築 の 方 法 37
実 践 学 29
国 語 科 授 業 展 開力 2,3
実 践 史 24
生 活 単 元 73,74
国 語 科 授 業 透 視 力 17
実 践 至 上 93
生 活 知 74
国 語 科 授 業 の創 造 89
実 践 主 体 92
成 功 観 154
国 語 科 授 業 力 1,2,4,10
実 践 体 系 28
制 作 物 評 価 法 113
国 語 科 単 元 学 習 40,177
実 践 の 知 恵 6
正 答 44
国 語 教 育 個 体 史 23,92
実 の 場 80
絶 対 評 価 112,155,164,174,
国 語 教 育 誌 学 19
質 問 紙 148
国 語 教 育 自覚 史 92
指 導 ・援 助 191
国 語 教 育 実 践 史 92
指 導 過 程 90
国 語 単 元 学 習 76,118
指 導 形 態 90
国語 の 学 力 121
指 導 研 究 60
心 を耕 す た め の 手 引 き 194
指 導 者 の 目標 41
相 互 評 価 112,116,117,155
個 人 ペ ー ジ 195
指 導 と して の 評 価 156
相 対 評 価 112,155
個 体 史 的 方 法 18
指 導 と評 価 の 一 体 化 107,
組 織 的 ・構 造 的 な 学 力 観
116,130,144,147,191
177,190 説 明 文 180
総 括 的 評 価 112,116,144, 147,201
110,113,123,155,189
誤 答 43 小 林 正 治 103
指 導 の 効 果 202
個 別 活 動 過 程 35
指 導 の 指 針 189
個 別 指 導 63 コ ミュ ニ ケ ー シ ョン 127,
指 導 方 法 90
176
サ 行
タ 行
集 団 活 動 過 程 35 集 団 に 準 拠 した 評 価(相
小 山 清 97
142 素 点 欄 206
対評
価) 112,155,174
第 三 者 評 価 112 対 象 化 型 32
終 末 評 価 148
田 近 洵 一 71
授 業 改 造 96
単 一 因果 関係 と して の 授 業
授 業 記 録 96 採点 表 204
授 業 構 想 91
作 業 63
授 業事 象 の 内 部 構 造 20
作 品研 究 60
授 業 実 践 91
座 席 表 195
授 業 実践 力 91
156 単 元 70,71 ―の 評 価 規 準 160 単 元 学 習 71,72
授 業 中 の即 時 的 評 価 152
着 眼 点 69
誌 学 的 方 法 18
授 業 の活 性 化 100
調 査 法 113
自 己学 習 力 41
授 業 の 実践 構 造 21
調 整 力 180
自己 評 価 44,110,112,116,
授 業 評 価 91
直 感 的 評 価 142
授 業 評 価 力 91
治 療 128
157,174 自己 評 価 票 167
授 業 力 68,167
自己 評 価 力 116,194
「熟 慮― 衝 動 」 型 33
通知表の改善 147
索
―に基 づ く診 断 的 評価
ア 行
131
教 科 書 教 材 138 教 材 化 90
学 習 指 導 案 55
教 材 研 究 60,138
相 手 意識 178
学 習 指 導 過 程 41
教 材 研 究 カ ー ド 95
東 洋 107
学 習指 導 計 画 110
教 材 で 教 え る授 業 38
安 彦 忠彦 76
学 習指 導 日誌 94
教 材 の 構 造 58
ア ンケ ー ト法 112
学 習指 導 目標 117
教 材 把 握 91
学 習指 導 要 領 177
教 材 を+で 教 え る授 業 38
生 きた 呼 吸 6
学 習者 の 実 態 90
教 材 を教 え る授 業 38
石 川 速 夫 103 一 問 一 答 式 58
学 習 者 の 目標 41
教 師 評 価 112
学 習 者把 握 91
教 授 143
一 般 国 語 教 育 史 93
学 習 目標 143
教 授 目標 143
学 力 56
虚構 の作 文 101
大 槻 和 夫 72
仮 説 42,196
大 村 単 元 学 習 84
課 題 意 識 78,84
具体 的 評 価 の 視 点 138
大 村 は ま 82,175
価 値 観 の 転 換 129
グ ル ー プ ・ブ リ コ ラー ジ ュ
重 み づ け 171,172
学 校 知 74 活 動 型 の 学 習 157
カ 行 カー ド(法)
102 訓詁 注 釈 65,98
カ リキ ュ ラ ム作 成 143
28,94,95
階 段 状 の モ デ ル 147
観 察 法 113,120,157
経験 単 元 73,74
完 全 習 得 学 習 144,153
形 成 的 チ ェ ッ ク 148
観 点 別 学 習 状 況 の 評 価 160,
形 成 的 評 価 112,113,115,
166,168‐171,173
下 位 目標 179,207
カ ン フ ァ レ ンス 175
科 学 性 130
116,142,143,147,153, 194 言 語 活 動 40,80,177
学 習 143 ―と評 価 の 一 体 化 157
机 間指 導 42,196
言 語 技 能 186
―の過 程 186
技 能 主 義 39
言 語 生 活 128
―の指 針 189
技 能 目標 207
言 語 操 作 主 義 39
―の 手 引 き 84‐86,191
基本 過 程 35
言 語 操 作 能 力 178
学 習 課 題 40
基本 技 術 69
言 語 能 力 37,177
学 習活 動 40
客 観 的 な 観 察 記録 22
現 代 語 訳 65
―に お け る具 体 の(具 的 な)評
価 規 準 160,
162,164,165 学 習記 録 86,158,201
体
教 育実 習 55 教 育 実践 力 110,111
構 造 図 61
教 育 目標 の 細 分 化 表 144
行 動 主 義 149
教 育 目標 の 分 類 学 144,153
行 動 目標 207
引
執 筆 者(執 筆順)
野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授 大 西 道 雄 安 田女子大学非常勤講師 *世 羅 博 昭 鳴 門教 育大 学教 授
小 山 清 比治山大学非常勤講師 *三 浦 和 尚 愛媛大学教育学部教授 渡 辺 春 美 沖縄国際大学総合文化学部教授 植 山 俊 宏 京都教育大学教授 牧 戸 章 滋賀大学教育学部助教授 千 々 岩弘 一
鹿 児 島国際 大学福 祉社 会学 部教授
山 本 茂 喜 香川大学教育学部教授 (*編 者)
朝倉国語教育講座 5 授 業 と学 力 評 価 2004年
9 月20日
定価 はカバ ーに表示
初 版 第 1刷
監修者 倉
澤
栄
吉
野
地
潤
家
発行者 朝
倉
邦
造
株式
発 行所 会社
朝 倉 書 店
東 京 都 新 宿 区 新 小 川 町6‐29 郵 便 番 号 162‐8707 電 FAX
〈 検 印省 略〉
4‐254‐51545‐6
03(3260)0180
http://www.asakura.co.jp
〓2004〈 無 断複写 ・転載 を禁ず〉 ISBN
話 03(3260)0141
C3381
教 文堂・ 渡辺 製本
Printed in Japan
◆国語 教 育 実 践 ・研 究 の た め の羅 針 盤◆
《 朝 倉 国語教 育講座 》 全 6巻 倉 澤 栄 吉 ・野地 潤 家 監修
第 1巻 国語教育 入門 白石 寿文 編集 国語教室へ よ うこそ/話 したが りや,聞 きたが りやの国語教室/書 く喜 びを分 かち合 う国語教 室/文学 に遊ぶ国語教 室/言葉 ・文字の魅力に満 ちた国語教 室/授業 を愉 しめ る国語教 師に
第 2巻 読 む こ との教 育 小 田 迫 夫 ・浜 本 純 逸 ・松 山 雅 子 編集 読 む こ との 原理 と教 育,そ
の 歴 史 的 展 望 / 読 む こ との 指 導 体 系 / 読 む こ との指 導 の 内容 と方 法 / これ か
らの 読 む こ との 学 習 指 導
第 3巻 話 し言葉 の教 育 白 石 寿 文 ・山 元 悦 子 編集 話 し言葉学 習の特質/話 し言葉教育の戦 後60年 史/ 話 し言葉学習の機会 と場/話 し言葉学 習の内容・方 法 ・評価/ 話 し言葉教育 を支 える教師 の話 し言葉
第4巻
書 くこ との教 育
菅 原 稔 ・中 西 一 弘 ・森 田 信 義 編集 書 く と い うこ と/ 書 くこ との 歴 史 的 展 望 / 書 く こ と の 能 力 と そ の 発 達 / 書 く こ との 学 習 指 導 とそ の 体 系 / 書 くこ との 生 活 化 と習 慣 化 / 書 くこ との 学 習 指 導 と そ の 方 法 / 書 く こ との 学 習 指 導 に お け る評 価 / 書 くこ との 学 習 指 導 と そ の発 展
第5巻 授 業 と学 力評価 世羅 博昭 ・三 浦和 尚 編集 国語科授 業構築 ・研究 の基本課題/国 語科授 業研究の成果 と試行/国 語科授業構築の原理 と方法/国 語 科授業 の構 築 と展開/国 語科授業 の構築 ・研 究の集積 と深化/評 価研 究の意義 と方法/学 習者把握 をめ ざす評価 の開発/望 ま しい評価方法 の開発 と試行/学 力 ・指 導力の評価 と授業力の向上
第6巻 研 究必携 大 槻 和 夫 ・吉 田 裕 久 ・植 山俊 宏 編集 国語教 育学総論/国 語教育課程 および方法の研究/話 す こ と ・聞 くことの指導研究/書 くこ との指 導研 究/読 む ことの指導研究/読 書指 導の研究/言 語事項指 導の研究/メ デ ィア ・リテラシー教育 の研 究/ 国語教 育史の研究/比 較 国語教育研 究/国 語教育研 究 と隣接諸科学