刊 行 の こ とば
日本 に漢 字 が伝 来 して か ら,長 い 年 月 が 経 っ た。 そ の 間,中
国 文 化 を伝 え る漢
字 は,日 本 独 自の 文 化 を育 むた め に も役 立 っ て きた。 そ れ ...
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刊 行 の こ とば
日本 に漢 字 が伝 来 して か ら,長 い 年 月 が 経 っ た。 そ の 間,中
国 文 化 を伝 え る漢
字 は,日 本 独 自の 文 化 を育 むた め に も役 立 っ て きた。 そ れ と と も に,漢 字 は 日本 文 化 を支 え る もの と して,さ
ま ざ まな 変 容 を見 せ て きた の で あ る 。 そ し て,近 代
の 西 洋 文 化 の導 入 に際 して も,新
しい概 念 を表 す た め の 新 漢 語 が 造 られ る な ど,
漢 字 は新 しい装 い を整 え,文 明 開 化 を進 め るた め に も役 立 った 。 しか し,日 本 語 の近 代 化 を 目指 す 声 が 高 ま り,言 文 一 致 の 運 動 が盛 ん に な る と と もに,漢 字 制 限 ・漢 字 廃 止 の 主 張 が 力 を持 ち,漢 字 の使 用 率 は次 第 に下 が る傾 向 を 見 せ た。 そ し て,1946年
の 「当 用 漢 字 表 」 の 制 定 に よ っ て,現 代 日本 語 の
漢 字 使 用 の 枠組 み が 定 め られ た の で あ る。 近 年,日 本 語 を め ぐ る状 況 は大 き な変 化 を見 せ,漢 字 の在 り方 につ い て も考 え 直 す べ き時 期 に 至 っ て い る。 一 方 で は 日本 語 の乱 れ を指 摘 す る意 見 も強 く,若 者 の 漢 字 力 の低 下 が 言 わ れ る。 他 方 で は漢 字 使 用 の枠 が 崩 れ,社 会 の複 雑 化 に伴 っ て 漢字 使 用 の多 様 化 の 傾 向 が 見 られ る。 情 報 機 器 の発 達 は正 確 に手 書 きす る こ と の難 し い漢 字 の使 用 を容 易 に し,JIS漢
字 の 制 定 は多 くの 表 外 漢 字 の 使 用 を可 能
に した 。 それ で もな お,人 名 ・地 名 に用 い られ る無 数 の異 体 字 を い か に情 報 処 理 シ ス テ ム で 運 用 し て ゆ くか とい う問 題 は残 され て い る。 外 国 人 に対 す る 日本 語 教 育 の 問題 も緊 急 の 課題 と な っ て い る。 現 代 日本 語 の 諸 特 徴 の 中 で も,表 記 の 習 得 は もっ と も難 しい もの と され て お り,そ の 中 で も漢 字 に 関 わ る問 題 は 多 い。 日本 語 の 国 際 化 を考 え るに 際 して,外 来 語 の 問 題 と漢字 の
問 題 は大 きな 障 壁 とな っ て い る の で あ る。 近 年,日 本 漢 字 能 力 検 定 に参 加 す る学 生 が 徐 々 に多 くな っ て い る。 さ らに,漢 字 パ ズル の雑 誌 な ど もい ろい ろ刊 行 され て い る。 漢 字 に対 す る一 般 の人 々 の 興 味 も広 ま っ て い る よ うに 思 わ れ る。 日本 語 研 究 に お い て,文 法 ・語 彙 な どの分 野 に比 して 文字 の研 究 は もっ と も遅 れ て い た 。 漢 字 の研 究 も,中 国 の 『説 文 解 字 』 の 研 究 に 甲骨 文 字 の 研 究 が加 わ っ た の と,計 量 的 な漢 字 の 研 究 に進 展 が 見 られ た ぐ らい で あ った 。 言 語 学 は,表 音 文 字 を使 用 す る西 欧 にお い て発 展 した た め に,文 字 の位 置付 け は高 くな か っ た 。 日本 で は,最 近 に な って,文 字 論 の確 立 を 目指 す 試 み が 多 くな り,よ うや く漢 字 を文 字 論 の 中 で位 置 付 け る こ とが 出 来 る よ う に な っ た。 漢 字 と平 仮 名 と片 仮 名 と い う,体 系 を異 に す る文 字 を使 い 分 け る 日本 語 の 複 雑 な 表 記 法 に お い て こそ,真 の 文 字 論 が 考 え られ よ う。 しか し,文 字 論 に お け る漢 字 の研 究 は始 まっ た ば か り で あ り,そ れ に基 づ い て 漢 字 の諸 問 題 を考 え るの は これ か らの こ とで あ る。 この よ う な状 況 の 中 で,漢 字 に興 味 の あ る人 だ け で な く,日 本 語 に 関 心 を持 つ す べ て の 人 に読 ん で 頂 き た い と思 って 編 集 した のが 本 講 座 で あ る。 そ の た め に, 漢 字 の歴 史 な どの 基 本 的 な問 題 を押 さ え,現 代 に お け る漢 字 の 果 た して い る役 割 を明 らか に した。 また,言 語 文 化 を支 え る漢 字 の種 々相 を考 察 し,漢 字 の社 会 的 意 義 を問 う と と も に,漢 字 世 界 の 未 来 を見 通 す た め の 諸 巻 を構 成 した。 それ ぞ れ に最 適 の 研 究 者 に 執 筆 を依 頼 して い る。 高 度 な 内容 を 可 能 なか ぎ り平 易 に記 述 す る こ と を心 懸 け た 。 ま さ に時 機 を得 た 企 画 で あ る と 自負 し て い る。 これ に よ り, 漢 字 に対 す る地 に足 の付 い た 議論 の 高 ま る こ とを期 待 す る もの で あ る。 前 田 富祺 野 村 雅 昭
● ま え が き
漢 字 は長 い 歴 史 を もつ文 字 で あ る が,現 代 に生 きて使 わ れ て い る文 字 で もあ る こ と は言 う まで も な い。 この 第3巻
で は,現 代 の 日本 語 で 漢 字 が どの よ う に使 わ
れ て い るか を,さ ま ざ ま な観 点 か ら取 り上 げ る こ とに した 。 漢 字 が 日本 語 に取 り入 れ られ た の は,そ れ が 実 用 の文 字 とし て必 要 だ った か ら に は ち が い な い。 も とも と外 国語 で あ る漢 文 を表 記 す る文 字 と して受 け入 れ られ た 漢 字 が す ぐに直 面 した の は,そ れ に よ っ て 日本 語 を表 記 す る こ との 困 難 さ で あ った 。 文 章 は漢 文 で記 す とし て も,地 名 ・人 名 な どの 固有 名 は 日本 語 で あ る。 ま ず は,そ れ を漢 字 で表 記 す る こ との 試 み か ら,漢 字 に よ る 日本 語 表 記 は 始 ま っ た の で あ る。 地 名 ・人 名 は仮 名 で も記 され る が,そ れ を漢 字 で書 くこ とへ の こだ わ りは,今
も根 強 い。 第8章
「地 名 と漢 字 」,第9章
「人 名 と漢 字 」 で は,そ
のよ
うな 意 識 の蓄 積 と して 固有 名 を漢 字 で 表 記 す る こ とに か か わ る さ ま ざ まの 問 題 を 取 り上 げ る。 一 方 に お い て,漢 字 を実 用 の 文 字 に と ど めず,そ に使 う こ とへ の 関 心 も,早 い な が ら も,「 孤 悲(恋)」
れ を表 現 の手 段 と して効 果 的
くか ら存 在 した 。 『 万 葉 集 』 で は,漢 字 を表 音 的 に使 の よ う に文 字 を選 ぶ 意 識 が芽 生 えて い る。 や が て そ の
意 識 は文 芸 に お け る効 果 的 な漢 字 使 用 へ と育 っ て い っ た 。 現 代 で は,狭 義 の文 学 を は じめ と して,種 々 の ジ ャ ンル にお い て 独 特 の漢 字 の使 い 方 が 見 られ る。 この 巻 で は,第1章
「文 学 と漢 字 」,第2章
「マ ン ガ の漢 字 」,第3章
「広 告 の 漢 字 」
の そ れ ぞ れ で 漢 字 使 用 の 特 徴 を探 る。 また,そ れ を受 容 す る主 体 で あ る 日本 人 の
文 字 意 識 に も,メ デ ィ ア の 発 達 に 伴 い,変 化 が 生 じ て い る。 第4章
「若 者 と漢
字 」 は,そ の よ う な視 点 か らの 報 告 で あ る。 視 覚 的 な形 象 で あ る文 字 を純 粋 に 美 的対 象 と して と ら え る意 識 は,東 洋 に お い て顕 著 で あ った 。 書 道 は中 国 で 生 まれ た もの だ が,日 本 で は仮 名 を も対 象 と して 独 自の 発 達 を し た。 現 在 書 道 は どの よ う な位 置 を 占 め る の か を明 らか に した の が 第5章
「書 道 と漢 字 」 で あ る。 そ れ と と もに,文 字 を視 覚 的 に ど の よ うに 表現 す
るか とい う こ とに,日 本 人 は心 を くだ い て きた 。 漢 字 の よ う に複 雑 な形 を もつ 文 字 は,そ の 格 好 の対 象 で あ っ た 。第6章
「漢 字 の デザ イ ン」 は,現 在 の種 々 の 表
現 手 段 に よ り漢 字 が どの よ うな形 と して実 現 す るか を 示 す 。 伝 え よ う とす る内 容 を視 覚 的 に表 現 す る こ と に関 して,日 本 人 は お そ ら く最 も 繊 細 な感 覚 を有 し て い る と言 って もよ い だ ろ う。 そ の典 型 が ル ビに よ る表 現 で あ る。 日本 で は,表 語 文 字 で あ る漢 字 の読 み を示 す 手 法 と して振 り仮 名 が 発 生 した が,そ
れ に つ い て は第1巻
で 取 り上 げ る。 ル ビ の功 罪 に つ い て は 漢 字 制 限 の立 場
か ら さ ま ざ まな 論 が あ るが,こ
の巻 で は第7章
「ル ビ と漢 字 」 で 現 代 人 の表 現 意
識 を問 題 とす る。 自分 の母 語 とす る言 語 を愛 す る こ と は,ど の民 族 に も共 通 す る もの で あ るが, 日本 人 は漢 字 好 き とい う形 で そ れ を 実 現 し て い る点 に特 徴 が あ る。 現 在 も,漢 字 の パ ズ ル や ク イ ズ に 関 す る い ろい ろ な 雑 誌 や 書 物 が 書 店 に は積 み上 げ られ て い る 。 第10章
「漢 字 の ク イ ズ 」 は,漢 字 に対 す る遊 び 心 の分 析 で あ る。
こ の よ う に,こ の 巻 は,現 代 の 漢 字 使 用 に 関 す る さ ま ざ ま な意 識 を,具 体 的 な 問 題 に つ い て 豊 富 な例 を あ げ な が ら分 析 す る もの で あ る。 2003年9月
編集担当 野 村 雅 昭
● 編集 者
前
田 富祺
野 村
雅
昭
神戸女 子大学文学部教授 大阪大 学名誉教授 早稲 田大 学文学部教授 国立 国語研 究所 名誉所員
● 執 筆 者(執 筆順)
中 村
明
早稲 田大 学日本語研 究教育セ ンター教授
夫
大阪外 国語大学外 国語学部教授
小矢野
哲
金
ふ み子
城
米川 明
彦
東京国際大 学経済 学部助教授 梅花女子大学文 学部 教授
河 内利 治(君 平)
大東文化大 学文 学部 助教授 ・書家
味
岡 伸太郎
グ ラ フ ィ ック デ ザ イ ナ ー
岡
田
寿
彦
前駿台予備学校講 師
笹
原
宏
之
国立国語研究所研究 開発部門主任研究員
丹羽 基二
ア メ リカ ・オ リエ ン タ ル 大 学 名 誉 教 授
靍岡
山 口大学人文学部教授
昭
夫
1
第 1章 文 学 と漢字 .
〈中 村
使 用 文 字 の種 類 と漢 字 の 問 題
1
2. 近 現 代 文 学 の 漢 字 使 用 率 の概 観 3. 漢 字 使 用 率 の個 人 的 傾 向
明 〉―
7
16
4. 漢 字 に関 す る 文 体 的 な試 み
24
〈小 矢 野 哲 夫 〉―33
第 2章 マ ンガ の漢 字 1.
現 在,マ
ン ガ は ど う 読 ま れ て い る の か
2.
マ ン ガ の 表 現 ・伝 達 機 能
33
34
3. 言 語 表 現 に お け る漢 字 の機 能
36
4.
マ ン ガ に お け る 漢 字 の ル ビ の 機 能
5.
漢 字 の 字 種
6.
文 字 の 大 き さ
37
42
7. 漢 字 の 使 用 比 率
45
46
〈金 城 ふ み子 〉―48
第 3章 広 告の漢 字 1.
は じ め に
48
2.
新 聞 広 告
50
3. 新 聞 広 告 の種 類
52
1
4. 広 告 の漢 字 に関 す る先 行 研 究 5.
本 稿 の 調 査 の あ ら ま し
6. 文 字 と表 記 法 7.
文 体 と表 記
漢 字 語 彙
55
56 57
8. 表 外 読 み と表 外 字 9.
53
59
61
63
10.
ル ビ
11.
言 葉 遊 び
12.
広 告 面 の 印 象
13.
ま と め
14.
お わ り に
65 66
68 69
〈米 川 明 彦 〉―77
第 4章 若者 と漢 字 1. 若 者 の 漢 字 の 読 み書 き能 力 2.
手 書 き の 字 形
3.
人 名 と漢 字 の イ メ ー ジ
77
89 94
4. 現 代 社 会 と若 者 に と って の漢 字
〈河 内利 治(君 平)〉―100
第 5章 書道 と漢字 1. は じ め に
100
2.
文 字 と書 道
101
3.
書 道 の 成 立
101
4.
書 体 の 歴 史
105
5.
書 道 の 総 合 性
109
6.
書 道 の 人 間 性
111
7.
書 道 の 芸 術 性
113
8.
書 道 の 表 現 と鑑賞
115
9.
書 道 の 現 状 と 展 望
117
10.
お わ り に
97
121
〈味 岡伸 太 郎 〉―124
第 6章 漢字 のデザ イン 1. 書 体 と は 何 か
2. 書 体 の変 化
124 128
3.
タ イ ポ グ ラ フ ィ
4.
タ イ ポ ス
5.
プ ロ ポ ー シ ョ ナ ル
6.
フ ォ ン ト制 作
141
7.
日本 語 の 組 版
145
8.
タ イ プ フ ェ イ ス の 魅 力
146
9.
タ イ プ フ ェ イ ス と錯 視
150
10.
135
137 140
タ イ プ フ ェ イ ス の 著 作 権
156
〈岡 田 寿 彦 〉―159
第 7章 ル ビ と漢 字 1.
並 列 表 記 の 一 部 と し て の ル ビ
2. 音 表 記 の 並 列 と単 語 表 記 の並 列 3.
2語 並 列 表 記 の あ り 方
4.
漢 字 の 読 み とル ビ
2.
字 種
179
3.
字 体
186
4.
地 域 音 訓
5.
表 記
6.
お わ り に
173
〈笹 原 宏 之 〉 一179
179
191
194 195
〈丹 羽 基 二 〉―198
第 9章 人 名 と漢字 1.
164
169
第 8章 地名 と漢字 1. は じ め に
159
ア グ リ ち ゃ ん , 今 日 は
2. 人 名 の大 部 分 は漢 字
198
200
3.
苗 字 と漢 字
201
4. 画 数 の 少 な い 漢 字 苗 字 5. 画 数 の 多 い 漢 字 苗 字 6. 国 字(和 7,国
203 205
製 漢 字)の 苗 字
字 の 苗 字 に つ い て
206
209
8. 『日本 苗 字 大 辞 典 』 で使 用 度 1回 の 漢 字 苗 字(又 9.
数 の 多 い 苗 字30姓
名前 と漢字
11.
名 前 の 表 記 の 多 彩 さ
12.
画 数 の少 な い 名 前 漢 字 の例
13.
画 数 の 多 い名 前 漢 字 の例
14.
年 代 的 に み られ る名 前 の傾 向 例
218
15.
名 前 に 用 い られ る漢 字 の 多様 性
219
16.
ま と め
214 215
索引
218
220
〈靍岡 昭 夫 〉―222
222
2. 漢 字 ク イ ズ の 分 類 と分 析 3.
216
漢 字 の ク イ ズ
1. は じ め に
お わ り に
211
213
10.
第10章
は国 字)
223
242
245
① 文 学 と漢字
中村
明
●1 使用文字 の種類 と漢字 の問題
日本 語 の 特 色 の一 つ と し て,使 用 す る文 字 の 種 類 が 多 い と い う点 が 指 摘 され る。 「職 」 や 「 御 飯 」 の よ う な漢 字 表 記 が あ り,「 し ご と」 や 「め し」 の よ う な平 仮 名 表 記 が あ り,「 バ イ ト」 や 「ラ イ ス 」 の よ うな 片 仮 名 表 記 が あ る。 日本 の 正 式 の 文 字 は,漢 字 と平 仮 名 と片 仮 名 とい う この 3種 類 とさ れ て い る。 だ が,現 実 の 社 会 生 活 で は,し
ば し ば そ れ以 外 の 文 字 や 記 号 も使 わ れ る。 この
文 章 の書 き出 しで あ る 「日本 語 の 特 色 の ひ とつ」 の hitotsu とい う こ とば は,和 語 だ か ら こん なふ うに 平 仮 名 で書 い て もよ い。 しか し,は っ き りと数 を 問題 にす る用 法 で は,「 一 つ」 と漢 字 仮 名 交 じ りで 書 くの が ふ つ うだ 。 横 書 きの 場 合 は, 「1つ 」 とい うふ うに,算 用 数 字 を用 い て 書 くこ と もあ る。 1,2,3,… … とい う こ の文 字 は,イ ン ド起 源 で ア ラ ビア を経 て ヨー ロ ッパ に広 ま っ た 関 係 で ア ラ ビア 数 字 と も呼 ば れ る。 日本 語 を 書 き表 す 基 本 の 文 字 で は な い か ら,「 二 宮 一 郎 」 を ま さ か 「2宮 1郎 」 な ど と書 くわ け に は いか な い が,算 用 数 字 も 日本 語 の 文 章 の な か で現 実 に 広 く使 わ れ て い る。 古 代 ロ ー マ に起 こ っ たI,Ⅱ,Ⅲ,…
… とい っ た 数 字 も とき お り見 か け る。 時
計 の 文 字 盤 に よ く使 わ れ るた め,時 計 数 字 とい う こ と も あ る。Ⅳ とⅥ を勘 違 い し や す く,X が ア ル フ ァベ ッ トの X と紛 らわ しい こ と も あ るが,こ
の ローマ数 字
を算 用 数 字 よ り も大 き な 区 切 り と し て利 用 す る ケ ー ス も少 な くな い 。 小 文 字 の
i,ⅱ, ⅲ,…
… も まれ に使 わ れ る。
数 字 だ け で は な い。A, B, C,…
… とい う ロ ー マ 字 は,小 文 字 のa, b, c,
… … を含 め ,日 本 語 の 文 章 の なか で広 く用 い られ て い る。 「A ラ ン ク」 「B4判 」 「C型 肝 炎 」 「Eメ ー ル 」 「Lサ イ ズ」 「Vサ イ ン」 な ど,ア ル フ ァベ ッ ト部 分 を片 仮 名 で 書 く と意 味 が わ か り に く くな る ほ ど,日 本 語 と し て 完 全 に 定 着 し た 。 ま た,ア
ル フ ァベ ッ トだ け か ら な る 「ATM」
どの い わ ゆ るABC略
「CD」 「DNA」
「SOS」 な
語 も増 加 の 一 途 を た ど っ て い る。 数 字 と英 字 で 「2 HD」
とか 「3LDK」
とか と書 く例 もあ る。
そ の ほ か,句
点(。)や
括 弧(『
「BGM」
読 点(、)は
』),疑 問 符(?)や
もち ろん,カ
感 嘆 符(!)を
ギ括 弧(「
」)や 二 重 カ ギ
は じ め とす る 多種 多 様 な記 号 類 が
盛 ん に 用 い られ,近 年 ます ま す字 面 を に ぎ や か にす る傾 向 が 目立 っ て きた。 表 記 に 関 して は 実 に さ ま ざ まな 問題 が あ る。 そ の うち 漢 字 にか か わ る部 分 を概 観 し,文 学 作 品 の 場 合 の 傾 向 を考 えて み よ う。 第 一 は,漢 字 と平 仮 名 や片 仮 名 との 書 き分 けで あ る。 まず,漢 語 は漢 字 で 書 く とい う大 原 則 に 従 っ て,「 比 較 」 「系 統 」 「活 用 」 「状 態 」 「推 定 」 「時 代 」 「内 部 」 「差 異 」 「流 入 」 「起 因 」 な ど と漢 字 で 表 記 す る。 こ の点 は,文 学 作 品 の 場 合 も, それ 以 外 の一 般 の 文 章 の 場 合 と本 質 的 に変 わ りは な い 。 違 い が あ る とす れ ば,ジ ャ ンル 特 性 に関 係 す る部 分 だ ろ う。 詩 歌 や小 説 で は抽 象 名 詞 が 少 な い 。 また,漢 語 の使 用 それ 自体 も,評 論 や 学 術 論 文 の場 合 よ り概 し て 大 幅 に少 な い 。 そ の点 は結 果 と して,漢 字 使 用 率 が低 くな る方 向 に働 いて い る と予 想 され る 。 一 方,和 語 の ほ う は も と も との 日本 語 な の だ か ら,耳 で 聴 い た だ けで 理 解 で き る は ず で あ る。 とす れ ば,理 屈 の う え で は,仮 名 で 書 け ばす む こ と にな る。 しか し,文 字 に書 く場 合 は,イ とい った 要 素 が 捨 象 され,音
ン トネ ー シ ョ ンや ア ク セ ン トや プ ロ ミネ ンス や ポ ー ズ 声 言 語 の 姿 を そ の ま ま再 現 す る こ と はで き な い。
た と え ば,共 通 語 で は,頭 高 の ア ク セ ン トで 発 音 す れ ば,食 べ物 を は さ む 2本 の細 長 い棒 を意 味 し,尾 高 の ア ク セ ン トで 発 音 す れ ば,川 な どの 上 に架 け て通 行 で き る よ うに す る構 造 物 を意 味 し,平 板 の ア ク セ ン トで 発 音 す れ ば,細 長 い物 の 先 の 部 分 や物 体 の周 辺 部 を意 味 す る約 束 に な っ て い る 3語 を仮 名 書 きす れ ば,ど
れ も み な 「は し」 とな っ て,意 味 の 区別 が で きな い。 そ の た め,文 脈 上 紛 らわ し い場 合,書
き こ とば に お い て は,そ れ ぞ れ の語 を 「箸 」 「橋 」 「端 」 と漢 字 で 書 き
分 け て意 味 の 区 別 を す る こ とが 多 い。 また,一 般 に 拍 数 の少 な い 短 い 単 語 は,そ れ を仮 名 書 き にす る と,意 味 が 正 確 に伝 わ る か ど うか 不 安 に な る 。 「め が で て い る」 「は が な い 」 と書 い た の で は誤 解 され る 恐 れ が あ る と思 い,「 目」 か 「芽 」 か , 「葉 」 か 「歯 」 か 「刃 」 か の 区 別 を,漢 字 を用 い る こ とで 明 確 に す る ケ ー ス が 多 い。 文 脈 上 紛 らわ し くな くて も,分 か ち書 き を採 用 しな い 通 常 の 文 章 で は,漢 字 表 記 の ほ うが 理 解 が 早 い。 文 学 作 品 の 場 合 に,和 語 の仮 名 書 きが 文 学 以 外 の 一 般 の 文 章 よ り多 い か 少 な いか とい う点 は,一 概 に判 断 で き な い。 童 話 か 小 説 か に よ っ て大 幅 に違 う し,同 じ小 説 で も執 筆 年 代 に よ っ て違 い,作 品 の 時 代 設 定 に よ って も違 って くる し,ま た,作 家 ご との 差 も大 きい か らで あ る。 和 語 だ か ら紛 らわ し くな い か ぎ りは平 仮 名 書 きで よ い とい う よ う な語 種 の 意識 は一 般 に薄 く,文 学 で は世 間 の慣 用 に従 う傾 向 が 強 い だ け,公 用 文 な どに比 べ て 概 して 漢 字 が 多 くな りや す い と思 わ れ る。 が , 一 方,あ
え て平 仮 名 書 き に して や
わ らか い 雰 囲 気 を か も しだ した り,片 仮 名 書 き を活 用 して特 殊 な ニ ュ ア ンス をね ら っ た り,と い っ た 仕 掛 け もあ る 。 結 局,作 家 それ ぞれ の文 体 に よ りか か る面 が 大 き い と見 るべ きだ ろ う。 語 の実 質 的 な意 味 が 薄 くな り,形 式 名 詞 とか補 助 動 詞 とか と呼 ば れ る一 群 の こ と ば は,一 般 に仮 名 書 き さ れ や す い 傾 向 が あ る。 「時 が 経 過 す る」 と 「や る と き はや る」,「事 を起 こす 」 と 「や め る こ とに す る」,「訳 を話 す 」 と 「そ う い うわ け だ 」,「映 画 を見 る」 と 「や って み る」,「人 が 来 る」 と 「暗 くな っ て くる」 とい う ふ う に,用 法 に 合 わ せ て 漢 字 と仮 名 で 書 き 分 け る例 も,一 般 社 会 に は 少 な くな い。 が , 文 学 作 品 の場 合 は,こ の よ うな 用 法 に よ る書 き分 け は概 して 多 くな い よ うで あ る。 平 仮 名 と違 って,片 仮 名 と漢 字 との接 点 は あ ま り多 くな い。 片 仮 名 が 用 い られ る の はふ つ う は外 来 語 で あ り,次 に例 が 多 い の が,オ
ノマ トペ の うち の 擬 声 語 の
部 分 だ ろ う。 外 国 語 を起 源 とす る こ とば で あ っ て も,日 本 で 用 い られ た 歴 史 が長 く,外 来 語
とい う意 識 が 薄 れ て し ま う と,平 仮 名 表 記 も用 い られ,時
に は漢 字 表 記 もお こな
わ れ る。 古 くポル トガ ル 語 か ら入 っ た とい わ れ る 「テ ン プ ラ 」 は その 一 例 で,現 代 で は 「て ん ぷ ら」 と平 仮 名 で書 くほ うが む し ろ多 い よ うに見 受 け られ る。 以 前 は し ば しば漢 字 音 を借 用 して,そ れ に 「天 麩 羅 」 な ど と い う字 を当 て た 。 同 じ くポ ル トガ ル語 か ら入 っ た 「タ バ コ」 も同様 で,こ れ も片仮 名 表 記 以 外 に 平 仮 名 で 「た ば こ」 と記 す 例 が 広 く見 られ る。 た だ し,漢 字 を当 て る場 合 は音 を 利 用 す る借 字 で は な く,意 味 を借 りて 「煙 草 」 とか 「烟草 」 とか と記 す の が 一 般 的 で あ る。 「艸 」 に 「良 」 と書 くの を 日本 風 に解 釈 して,本 来 は牛 馬 の 飼 料 や 薬 草 を意 味 す る 「莨」 とい う漢 字 を,タ バ コの 意 味 に代 用 す る こ と もあ った 。 カ ン ボ ジ ア か ら伝 わ っ た 「キセ ル 」 を 「煙 管 」 と記 す の も漢 字 の 意 味 を生 か した 用 法 で,以 前 は か な り広 く使 わ れ た よ うで あ る。 これ ら の漢 字 表 記 は 現代 で は一 般 的 で は な い が,文 学 の 世 界 で は まだ 文 体 とし て生 きて い る よ う に思 わ れ る。 「パ リ」 を 「巴 里 」,「イ ギ リス 」 を 「英 吉 利 」,「コ ー ヒー 」 を 「 珈琲 」 と漢 字 表 記 す る よ うに,外
国語 と い う意 識 の強 い はっ き り した 外 来 語 の場 合 は,漢 字 の
音 を利 用 す る い わ ゆ る借 字 の 例 が ほ と ん どで あ る。 「オ ッ ク ス フ ォ ー ド」 を 「オ ック ス 」 と 「フ ォ ー ド」 と に分 け て,そ れ ぞ れ の 意 味 に あ た る漢 字 を並 べ た 「牛 津 」 とい う例 や,「 沙 翁 」 と書 い て 「シ ェー ク ス ピ ア」 と読 ませ る よ う に,音 の 一 部 を漢 字 音 で表 し ,そ れ に ヒ ン トに な る程 度 の 意 味 を 漢 字 で添 えた例 も見 られ た が,い
ず れ も現 代 で は ほ とん ど見 か け な くな った 。
擬 声 語 の場 合,「 ガ チ ャ ン」 とか 「ドカ ン」 とか 「バ キ ュ ー ン」 とか 「ピ ュー ピ ュ ー 」 とか 「ニ ャー オ」 とか とい っ た音 に 漢 字 を 当 て る こ とは な い か ら,外 来 語 の場 合 以 上 に漢 字 との縁 は薄 い。 烏 の 鳴 き声 を 「唖 唖 」 と表 記 した よ う な例 外 を除 け ば,さ
ら さ ら と水 の流 れ る さ ま を 「淙淙」,金 属 的 な 冴 え た 音 を 「錚錚」
と形 容 す る よ うな 語 源 的 な擬 音 語 が 見 られ る程 度 で あ る 。漢 字 で 表 記 され る こ と に よ っ て,現 代 人 に は擬 音 的 な 感 じが 意 識 され に く くな っ て い る。 第 二 は い わ ゆ る 「交 ぜ 書 き」 の 問 題 で あ る。 「繊 細 」 だ とか 「恥 辱 」 だ とか 「土 壌 」 だ とか 「頻 度 」 だ とか とい う こ と ば は,一 部 難 し い漢 字 が 含 まれ て はい るが,ど
れ も常 用 漢 字 表 で認 め られ て い る字 体 ・字 音 な の で,す
べ て 漢字 で 書 い
て も何 の問 題 も起 こ らな い 。 一 方,「 憧 憬 」 とか 「 荏苒 」 とか と い う こ と ば は,構 成 要 素 が す べ て 常 用 漢 字 表 外 の 漢 字 で あ る。 しか し,表 外 字 の部 分 を平 仮 名 書 き に して 「ど う け い の 的」 「じん ぜ ん と 日 を送 る」 な ど と書 い た の で は意 味 が と りに くい 。 そ の た め,そ の こ とば を使 うか ぎ り は,表 外 字 で もか ま わ ず に 「憧 憬 の 的 」 「荏苒 と 日 を送 る」 と い うふ う に漢 字 で 書 くの が ふ つ うだ ろ う。 後 者 の場 合 は常 用 漢 字 の範 囲 で 「便 便 と」 とい う別 語 に置 き換 え る こ と も可 能 だ が,あ な い。 場 合 に よ っ て は,そ
ま り理 解 の 助 け にな りそ う も
うい う威 厳 に満 ち た語 の 使 用 を あ き らめ て,「 あ こが
れ の 的 」 な り,「 い た ず ら に 日 を送 る」 な り と,平 易 な 言 い 方 にや む な く換 言 す る こ とに な る。 問 題 は そ の 中 間 の,語 の 構 成 要 素 の 一 部 が 表 外 字 で あ る 場 合 で あ る。 た と え ば,「 華 燭 の 典 」 と書 こ う とす る と,「 華 」 と 「典 」 は 問 題 な い が,「 燭 」 とい う 漢 字 が 表 外 字 に あ た る 。 そ こで,「 燭 」 の 部 分 を仮 名 書 き して 「華 し ょ くの 典 」 な ど と書 き あ らわ す 例 を見 か け る こ と が あ る。 は な や か な 灯 火 を意 味 す る 「華 燭 」 と い う語 が 「華 し ょ く」 とな っ て し ま う と,明 か りが 消 えた よ うに意 味 が わ か りに く くな る。 が , か とい っ て,す 宴 」 と誤 解 され か ね な い 。 結 局,そ
べ て仮 名 書 き に す る と,今 度 は 「過 食 の
の 表 現 を捨 て て 「婚 礼 」 とか 「結 婚 式 」 とか
とい う平 凡 な こ とば に 置 き換 え る ほ うが 無 難 だ。 しか し,文 学 作 品 の場 合 は,用 字 の つ ご う で 用語 を改 め な い の が 原 則 だ か ら, こ の よ う な場 合,「 華 燭 の典 」 で 押 し通 す 傾 向 が あ る よ う に思 わ れ る。 「御 え ん」 「き裂 」 「語 い 」 「ち密 」 「ち ょ う笑 」 「濃 え ん 」 「範 ち ゅ う」 「比 ゆ」 の よ う な 交 ぜ 書 き は,ど れ も作 家 に は特 に 嫌 わ れ や す い 。 美 を求 め る文 学 作 品 で は,そ れ ぞ れ 「御 苑 」 「龜裂 」 「語 彙 」 「 緻 密 」 「嘲 笑 」 「濃 艶 」 「範 疇 」 「比 喩 」 とい う表 記 法 は譲 れ な い もの で あ ろ う。 第 三 は 代 用 漢 字 の 問 題 で あ る。 常 用 漢 字 表 に な い漢 字 に ど う対 処 す るか は一 様 で は な い 。 表 外 字 で あ っ て も意 に 介 さず に 用 い る場 合 も あ り,そ の部 分 だ け を平 仮 名 で 書 く,い わ ゆ る交 ぜ 書 きの場 合 もあ り,交 ぜ 書 きで 落 ち着 か な い とき に そ の語 全 体 を仮 名 書 き にす る場 合 もあ るだ ろ う。 そ の語 の使 用 を あ き らめ て,他
の
こ と ば に 換 言 す る な ど,別 の 表 現 に 改 め る場 合 も あ る こ と は,「 華 燭 の典 」 の 例
で見 た とお りで あ る。 も う一 つ の対 処 の 仕 方 が,こ 字 が含 まれ て い る場 合,そ
の 代 用 漢 字 だ 。 それ は,使 い た い語 の 一 部 に表 外
の語 で 本 来 用 い るべ き そ の漢 字 の 代 わ りに,そ
の漢 字
と意 味 か形 の 似 た 別 の 漢 字 を あ て は め る便 宜 的 な 手 段 で あ る 。 「集 落 」 「知 恵 」 「反 乱 」 「膨 大 」 「舗 装 」 な ど は そ の よ う に し て で き た 表 記 だ と い う。 そ れ ぞ れ 「聚 落 」 「智 慧 」 「叛 乱 」 「厖大 」 「鋪 装 」 の 代 用 漢 字 で あ る と指 摘 さ れ な け れ ば, 一 般 の 人 間 はふ だ ん 気 づ か ず に い る。 これ ら は,そ れ ほ ど に も うす っか り慣 れ て し まい,多
くの人 が ほ とん ど違 和 感 を覚 えな くな った 例 だ ろ う。 しか し,一 部 の
作 家 は こ う い うあ た りに も神 経 を とが らす こ とが あ る か も しれ な い 。 そ うい う反 応 が 作 家 の な か で も例 外 的 で あ るの は,あ
くまで 代 用 漢 字 の 程 度 の
問 題 だ 。 谷 崎 潤 一 郎 の 『陰翳 礼 讃 』 が 「陰 影 礼 賛 」 と書 か れ る と,と た ん に イ メ ー ジが 合 わ な い と感 じ る人 は も っ と多 い だ ろ う。 自分 の分 野 に縁 の 深 い語 で あ る か ど うか に よ っ て も,許 せ る代 用 漢 字 の 幅 は違 っ て くる。 谷 崎 潤 一 郎 自身 は もち ろ ん,『 陰翳 礼 讃 』 とい う あ あ い う 内容 の 作 品 の 愛 読 者 は,一 般 の人 間 以 上 に 「陰 影 礼 賛 」 とい う表 記 に対 す る拒 絶 反 応 が 大 きい はず で あ る。 また,「 編 輯 者 」 が 「編 集 者 」 に な っ た と き に職 業 が 変 わ っ た よ う な衝 撃 を受 け た と,当 時 の 自 身 の 名 刺 をふ りか え る,の ちの 作 家 もい る。 「短 篇 」 「長 篇 」 が 「短 編 」 「長 編 」 とな る と,気 分 の 乗 らな い 作 家 もま だ まだ い る に ち が い な い。 そ の あ た りは文 学 畑 の 人 間 の感 覚 は一 般 と差 が あ る よ うだ 。 「湮滅 」 か ら 「隠 滅 」 へ,「 掩 護 」 か ら 「援 護 」 へ,「挌 闘 」 か ら 「格 闘 」 へ, 「日蝕 」 か ら 「日食 」 へ,「 掠 奪 」 か ら 「略 奪 」 へ,「 両 棲 類 」 か ら 「両 生 類 」 へ とい う置 き換 え を 眺 め る と,抵 抗 感 の 強 弱 は個 々 の例 ご と に差 が あ る。 印 象 とい う主観 性 が か らむ この 代 用 漢字 の 問 題 は結 局,そ か,ど
こが 我 慢 の 限 界 か,と
れ を ど こ ま で違 和 感 な く許 せ る
い う個 人 の 主 義 や 趣 味 に 関係 し て くる。
一 般 社 会 で も,年 齢 や 嗜 好 や 分 野 や,そ の 他 さ ま ざ まな 条 件 が か か わ っ て,か な りの個 人 差 が あ りそ うだ 。 文 学 の世 界 で は,個 人 的 な 文 体 の 問題 と して さ ら に 複 雑 な 現 象 を呈 す るだ ろ う。 が,一 般 の 文 章 の場 合 よ り,文 学 作 品 に お い て は こ の 点 で も保 守 的 な傾 向 が 強 い よ うに 思 わ れ る。
● 2 近現代 文学 の漢 字使用率 の概観
筆 者 は早 稲 田 大 学 第 一 文 学 部 在 学 中 に,文 章 の計 量 的 な調 査 を実 施 した。 散 文 リズ ム とい う角 度 か ら近 代 小 説 の文 体 を統 計 的 に概 観 す る た め で あ る。 具 体 的 に は,小 説 の文 章 を対 象 に,句 読 点 で は さ まれ る ひ とつ づ き の こ と ば を 「句 」 と仮 称 し,そ の点 間 字 数 を計 測 す る こ とを とお し て リズ ム 単 位 を推 測 し,作 家 や作 品 ご との 違 い を 明 らか に す る こ とを 目的 と した 調 査 で あ った 。 そ の 結 果 の 一 部 に つ い て は,1958年 の科 学 」 の 第5巻
に 中 山 書 店 か ら刊 行 さ れ た 講 座 「コ トバ
『コ トバ の 美 学 』 の巻 頭 「コ トバ の 美 と力 ー 句 読 点 の 心 理 学 」
と題 す る論 文 の な か で報 告 した 。 そ こで対 象 に した の は,1898年 端康 成 『山 の 音 』 まで,25作 か ら400個 数,文
発 表 の泉 鏡 花 『絵 日傘 』 か ら1955年 発 表 の川
家 の各 2作 品,計50編
の 小 説 だ。 作 品 の書 き 出 し
の 「句 」 を数 え る まで を調 査 した。 この 調 査 は,句
あ た りの 字 数 や音
を構 成 す る句 数 や 文 あ た りの 拍 数 な どの 情 報 を得 る の が 主 な ね ら い だ か
ら,直 接 に は漢 字 との 関 連 は薄 い 。 た だ,漢 字 の比 率 と音 数 との関 係 を調 べ る過 程 で,各 作 品 の 冒頭 部 の100字 分 につ い て,漢 字 の 割 合 に 関 す る デ ー タ を出 して い る。 そ の後,文
章 心 理 学 な どの 統 計 的 文 体 論 が 盛 ん に な り,同 じ1965年
に,樺 島
忠 夫 ・寿 岳 章 子 『文 体 の 科 学 』 が綜 芸 舎 か ら,安 本 美 典 『 文 章心理学入 門』が誠 信 書 房 か ら と,と
もに 注 目す べ き文 体 の 計 量 的 な研 究 が 相 次 い で 刊 行 さ れ た 。 そ
の う ち後 者 に は,直 喩,会 話 文,人 格 語,現 在 止 め,動 詞 の長 さ な ど15項 調 査 の な か に 漢 字 の 割 合 も含 まれ て い る。 こ こで の 調 査 対 象 は,1900年 泉 鏡 花 『高 野 聖 』 か ら1954年 発 表 の 三 島 由紀 夫 『潮 騒 』 に至 る100作 この場 合 の漢 字 調 査 は,各 作 品 の 無 作 為 抽 出 に よ る1000字
目の
発表 の
品 で あ る。
分 の調査範 囲 のなか
に漢 字 が 何 字 含 まれ て い るか とい う規 模 で 実施 さ れ た 。 論 文 や 著 書 の刊 行 時 期 の 関 係 で,両 調 査 と も最 近 の作 品 の デ ー タ が 含 まれ て い な い 。 そ こで,デ
ー タ を補 充 して 近 現 代 の 文 学 作 品 に お け る漢 字 使 用 の 実 態 を通
観 で きる よ う に す るた め に,今 回,新
た に 漢字 使 用 率 の 追 加 調 査 を実 施 した。 こ
の場 合 の 調 査 の対 象 と して は,1948年
発 表 の 檀 一 雄 『終 りの 火 』 か ら2000年
表 の 川 上 弘 美 『セ ン セ イ の 鞄 』 に至 る34編 の 作 品 を,新
発
しい 作 品 に重 点 を お い
て 選 定 した 。 具 体 的 な調 査 の 方 法 と して は,各 作 品 と も単 行 本 や 文 庫 本 や 全 集 本 か ら一 定 の間 隔 で 1ペ ー ジ分 ず つ 5箇 所 を選 び,そ の 5ペ ー ジ分 に お け る漢 字 と 仮 名 の 数 を調 べ て 割 合 を算 出 し た。 細 か く比 較 す れ ば,以 上 の 3種 類 の調 査 は い く らか 条 件 が 違 う。 調 査 の対 象 と した 分 量 に差 が あ る ほか,安
本 調 査 で は文 字 全 体 の な か で の 漢 字 の 含 有 率 とな っ
て い る の に対 して,中 村 調 査 で は ア ル フ ァベ ッ トな ど は除 外 し,純 粋 に仮 名 との 選 択 を問 題 に した 漢 字 使 用 率 を表 して い る な ど,そ れ ぞ れ の 研 究 目的 に応 じて そ の よ うな若 干 の 異 同 は あ る 。 が,調
査 結 果 の大 勢 に は ほ とん ど影 響 が な い もの と
思 わ れ る の で,そ の 3種 の 調 査 に現 れ た 漢 字 使 用 率 をひ とつ に ま と め,近 現代 の 文 学 作 品 に お け る流 れ を概 観 す る た め の 資 料 を作 成 した 。 そ れ が 表1.1の
「漢 字
使 用 率 発 表 時 期 順 一 覧表 」 で あ る。 こ の表 で は,全170編
の 作 品 を発 表 年 代 の古 い順 に並 べ た 。
「漢 字 使 用 率 」 の 欄 は,安 本 調 査 と合 わ せ るた め に 中村 調 査 の 結 果 を千 分 率 に 換 算 して表 示 した 。 次 の 「順 位 」 の 欄 は,全170編
の 作 品 の うち漢 字 使 用 率 の 高 い ほ うか らの 順 位
を示 した 。 同 率 の 作 品 が複 数 に及 ぶ 場 合 もあ る。 末 尾 の 「調 査 」 欄 で,そ
の 作 品 が 安 本 調 査 の 結 果 で あ る場 合 は 「安 本 」,中 村
調 査 の うち,論 文 「コ トバ の美 と力 」 に掲 載 した 調 査 結 果 で あ る場 合 は 「美 力 」 と注 記 した 。 両 調 査 で た また ま同 じ作 品 を対 象 と した 場 合 は,そ
の両 者 の 略 号 を
組 み合 わ せ て 「安 美 」 と注 記 し,そ れ ぞれ の結 果 の 平 均 の数 値 を記 入 した 。 そ し て,こ
の た び新 た に補 充 調 査 を お こ な っ た 作 品 で あ る場 合 は,「 新 規 」 と表 示 し
て あ る。
表1.1
漢字使 用率 発表 時期 順 一覧表
作 家 名
作 品 名
発表年 千分 率 順 位 調査
1 泉
鏡 花
絵 日傘
1898
43
8 美 力
2 泉
鏡 花
高 野 聖
1900
360
47 安 本
3 国 木 田 独 歩
牛 肉 と馬 鈴 薯
1901
426
13 安 本
4 伊 藤 左 千 夫
野 菊 の墓
1906
321
83 安 本
5 島 崎
藤 村
破 戒
1906
415
19 安 美
6 鈴 木 三 重 吉
千 鳥
1906
281
127 安 本
7 夏 目
漱 石
吾 輩 は猫 で あ る
1906
397
26 安 本
8 夏 目
漱 石
草 枕
1906
380
33 美 力
9 二 葉 亭 四 迷
平 凡
1907
396
27 安 本
10 正 宗
白鳥
何 処 へ
1908
354
55 安 本
11 森 田
草 平
煤 煙
1909
380
33 安 本
12 田 山
花 袋
田 舎 教 師
1909
410
21 安 本
13 永 井
荷 風
す み だ 川
1909
380
33 美 力
14 長 塚
節
土
1910
390
29 安 本
15 徳 田
秋 声
徽
1911
358
51 安 本
16 小 川
未 明
魯 鈍 な 猫
1912
345
1912
305
17 小 山 内
薫
大 川 端
62 安 本 101安
本
18 森
鴎 外
雁
1913
374
42 安 美
19 田 村
俊 子
木 乃 伊 の 口 紅
1913
324
80 安 本
20 徳 田
秋 声
燗
1913
410
21 美 力
21 岩 野
泡 鳴
毒 薬 を飲 む 女
1914
276
130 安 本
22 藤 森
成 吉
若 き 日の 悩 み
1914
311
97 安 本
23 高 浜
虚 子
柿 二 つ
1915
395
28 安 本
24 中
勘 助
銀 の 匙
1915
227
161 安 本
1916
480
3美
1916
530
2 美 力 33 美 力
25 森
鴎外
澁江 抽斎
26 夏 目
漱石
明 暗
27 永 井
荷風
腕 く らべ
1916
380
28 志 賀
直哉
和解
1917
470
4 美 力
29 芥 川 龍 之 介
楡盗
1917
370
43 美 力
30 久 保 田万 太 郎 末 枯 31 葛 西
善蔵
子 をつれ て
32 広 津
和郎
神 経 病 時 代
33 久 米
正雄
1917
264
138 安 美
1917
346
61 安 本
1917
354
55 安 美
1918
340
64 安 本
1918
318
90 安 本
1918
378
39 安 美
1918
454
6 安 美
1918
378
39 安 本
受験 生の手 記
34 芥 川 龍 之 介
地 獄変
35 佐 藤
春夫
田園 の憂欝
36 菊 池
寛
忠 直卿 行状 記
37 加 納 作 次 郎
世 の 中 へ
38 室 生
犀星
性 に眼 覚 め る頃
39 宇 野
浩二
40 有 島
武郎
力
1919
340
64 美 力
蔵の中
1919
291
116 安 本
或 る女
1919
319 89 安 本
作 家名
作 品 名
発 表 年 千 分 率 順 位 調 査
41 武 者 小 路 実 篤 幸 福 者
1919
286
122 安 本
42 佐 藤
春夫
お絹 とそ の 兄 弟
1919
390
29 美 力
43 広 津
和郎
や も り
1919
330
71 美 力
1920
297
107 安 本
45 武 者 小 路 実 篤 友 情
1920
200
167 美 力
46 菊 池
蘭 学事始
1921
430
8 美 力
1922
430
8 美 力
1922
297
107 安 本
1922
380
33 安 本
1922
364
46 安 本
1923
320
85 安 本
1923
454
6 安 本
1923
281
127 安 本
44 武 林 無 想 庵 寛
ピ ル ロ ニ ス トの よ う に
47 泉
鏡花
竜 胆 と撫 子
48 近 松
秋江
黒髪
49 野 上 弥 生 子
海神 丸
50 前 田 河 広 一 郎 三 等 船 客 51 豊 島 与 志 雄
野 ざ ら し
52 横 光
日輪
53 里 見 54 宇 野
利一 弾 浩二
多情 仏心
1923
300
104 美 力
55 谷 崎 潤 一 郎
子 を貸 し屋 蓼 喰 う虫
1924
360
47 美 力
56 瀧 井
孝作
無 限 抱 擁
1924
430
8 安 本
57 長 与
善 郎
1925
337
68 安 本
竹 沢 先 生 と云 う人
58 芥 川 龍 之 介
歯車
59 水 上 瀧 太 郎
大 阪 の 宿
60 宮 本 百 合 子
伸 子
61 葉 山
海 に 生 くる人 々
嘉樹
62 平 林 た い 子
施療 室 にて
63 山本
波
有三
420
16 美 力
1926
273
132 安 本
1926
376
41 安 美
1926
340
64 安 本
1927
354
55 安 本
1928
240
154 安 美 63 安 本
1926
64 十 一 谷 義 三 郎 唐 人 お 吉
1928
344
65 島 崎
1929
600
1 美 力
1929
220
165 美 力
1929
327
78 安 本
1929
402
23 安 本
303
102 安 本 116 安 本
藤村
夜 明 け前
66 久 保 田 万 太 郎 春 泥 67 小 林 多 喜 二
蟹工 船
68 徳 永
太 陽 の な い 街
69 林
直 芙美 子
放 浪記
70 梶 井 基 次 郎
のん きな患者
71 嘉 村
礒多
途上
72 尾 崎
一雄
1930 1932
291
1932
423
15 安 本
暢気 眼鏡
1933
336
69 安 本
73 尾 崎
士郎
人 生劇場
1933
282
126 安 本
74 村 山
知義
白夜
1934
259
148 安 本
75 室 生
犀星
あにい もう と
1934
330
71 安 美
1934
315
94 安 本
1934
270
134 安 本
76 石 坂 洋 次 郎
若 い人
77 武 田麟 太 郎
銀座 八丁
78 牧 野
信一
鬼涙 村
79 宇 野
千代
色 ざん げ
80 石 川
達三
81 横 光
利一
1934
335
70 安 本
1935
239
156 安 本
蒼 眠
1935
366
45 安 本
機械
1936
240
154 美 力
作家 名
作 品名
82 北 条
民雄
83 石 川
淳
84 高 見
順
85 阿 部
知二
86 佐 多
稲子
87 岡 本 か の 子 88 志 賀
発 表 年 千 分 率 順 位 調 査
い の ちの初夜
1936
308
普賢
1936
312
96 安 本
1936
306
100 安 本
冬 の宿
1936
275
131 安 本
くれ な い
1936
370
43 美 力
母 子 慕 情
1937
313
95 安 本
直哉
暗夜 行路
1937
419
18 安 美
89 山 本
有三
路傍 の石
1937
150
170 美 力
90 岸 田
国士
落 葉 日記
1937
258
149 安 本
91 永 井
荷風
浬東 綺謂
1937
322
82 安 本
92 島 木
健作
生活 の探 求
1937
264
138 安 本
93 宇 野
浩二
器用 貧乏
1938
210
166 美 力
94 中 山
義秀
厚物 咲
1938
379
38 安 本
95 火 野
葦平
麦 と兵 隊
1938
414
20 安 本
96 網 野
菊
妻 た ち
1938
360
47 美 力
97 壺 井
栄
大根 の葉
1938
260
143 美 力
98 中 野
重治
歌 の わ か れ
1939
260
143 安 本
99 井 伏
鱒二
多甚 古村
1939
297
107 安 本
故 旧 忘 れ 得 べ き
99 安 本
100 井 上 友 一 郎
残夢
1939
292
115 安 本
101 織 田作 之 助
夫 婦 善 哉
1940
353
58 安 本
102 徳 田
秋声
縮 図
1941
330
71 美 力
103 堀
辰雄
菜穂 子
1941
329
76 安 本
1941
318
90 安 本
1943
424
14 安 本
104 田 畑 修 一 郎
医師 高間房 一氏
105 中 島
敦
李陵
106 上 林
暁
聖 ヨ ハ ネ病 院 に て
1946
321
83 安 本
107 坂 口
安吾
白痴
1946
330
71 安 本
108 宮 本 百 合 子
播州 平野
1946
460
5 美 力
109 梅 崎
桜 島
1946
350
60 安 本
110 平 林 た い 子
こうい う女
111 椎 名
麟三
深夜 の酒宴
112 網 野
菊
113 丹 羽
文雄
厭 が らせ の 年 齢
114 舟 橋
聖一
115 川 端
康成
116 武 田
泰淳
腹 の す え
117 佐 多
稲子
私 の 東 京 地 図
118 太 宰
治
春生
1946
260
143 美 力
1947
279
129 安 本
1947
400
25 美 力
1947
272
133 安 本
鷲毛
1947
317
93 安 本
雪 国
1947
261
141 安 本 113 安 本
金 の 棺
人 間失 格
1947
294
1947
329
76 安 美
1948
261
141 安 本
119 谷 崎 潤 一 郎
細 雪
1948
381
32 安 美
120 大 仏
次郎
帰 郷
1948
302
103 安 本
121 檀
一雄
1948
265
137 新 規
122 大 岡
昇平
1948
320
85 安 本
終 りの 火 俘 虜 記
作 家名
作 品名
123 外 村
繁
124 永 井
龍男
朝霧
125 田 宮
虎彦
足 摺 岬
126 井 上
発 表 年 千 分 率 順 位 調 査
靖
夢幻 泡影
闘牛
127 三 島 由 紀 夫
1949
326
1949
324
80 安 本
1949
288
120 安 本
1949
358
51 安 本
1949
420
16 美 力
1950
360
47 美 力
1950
295
111 安 本
贋作 吾輩 は猫 であ る
1950
318
90 安 本
黒 の時代
1950
300
104 美 力
詩人 の生涯
仮面 の告 白
128 武 者 小 路 実 篤 真 理 先 生 129 伊 藤
整
130 内 田
百 聞
鳴海 仙吉
131 平 林 た い 子
79 安 本
132 安 部
公房
1951
283
124 新 規
133 野 間
宏
真空 地帯
1952
287
121 安 本
134 三 島 由 紀 夫
真 夏 の 死
1952
340
64 美 力
1952
256
150 新 規
135 小 島 136 壺 井
信 夫
1953
155
169 安 美
千羽鶴
1954
230
159 美 力
138 三 島 由 紀 夫
潮騒
1954
357
53 安 本
139 吉 行 淳 之 介
縢雨
1954
330
71 新 規
137 川 端
栄
小銃 岸 うつ 波
康成
140 川 端
康成
山 の 音
1955
320
85 美 力
141 幸 田
文
流 れ る
1955
235
158 新 規
142 島 尾
敏雄
1955
295
111 新 規
143 福 永
武彦
1956
298
106 新 規
144 安 部
公 房
騨馬 の声
1956
268
136 新 規
145 円 地
文子
妖
1956
352
59 新 規
146 遠 藤
周作
ジ ュ ル ダ ン病 院
1956
296
110 新 規
147 永 井
龍男
石版 東京 図絵
1967
430
8 新 規
1968
355
54 新 規
148 小 沼
丹
わ れ深 きふ ちよ り 死神 の駅者
懐 中時計
149 清 岡
卓行
アカ シヤの大連
1970
252
151 新 規
150 古 井
由吉
杏子
1970
262
140 新 規
1973
260
143 新 規
1973
260
143 新 規
1977
241
153 新 規
1979
270
134 新 規
1980
237
157 新 規
1980
286
122 新 規
吉野 大夫
1981
225
164 新 規
158 井 上 ひ さ し
吉里 吉里 人
1981
383
31 新 規
159 黒 井
千次
オモチ ャの部屋
1981
294
113 新 規
160 井 伏
鱒二
荻 窪風土 記
161 竹 西
寛子
兵 隊宿
151 森
敦
月山
152 池 波 正 太 郎
剣客 商売
153 富 岡 多 恵 子
立切 れ
154 村 上
春樹
風 の 歌 を聴 け
155 藤 沢
周平
贈 り物
156 向 田
邦 子
157 後 藤
明生
162 大 江 健 三 郎 163 吉 本 ば な な
かわ うそ
「 雨 の 木 」 を聴 く女 た ち キ ッチ ン
1982
401
24 新 規
1982
290
118 新 規
1982
249
152 新 規
1987
227
161 新 規
作 家名
作 品名
発 表 年 千 分 率 順 位 調 査
164 山 田
詠 美
風 葬 の 教 室
1988
283
124 新 規
165 池 澤
夏 樹
マ リコ/マ
1989
230
159 新 規
166 小 川
洋 子
妊 娠 カ レ ン ダ ー
1990
289
119 新 規
167 三 浦
哲 郎
ふ な うた
1992
320
85 新 規
168 柳
美里
フル ハ ウ ス
1995
309
リ キ ー タ
98新
規
169 町 田
康
く っ す ん 大 黒
1996
226
163 新 規
170 川 上
弘 美
セ ン セ イ の 鞄
2000
198
168 新 規
こ の表 か ら得 られ る情 報,あ
る い は,こ
の デ ー タ を加 工 して 得 られ る情 報 を,
以 下 に さ ま ざ ま な角 度 か ら整 理 して示 そ う。 文 学 作 品 中 の仮 名 に対 す る漢 字 使 用 の割 合 が 時代 の 変 化 と ど うか か わ っ て い るか,そ
の 大 き な流 れ をつ か む た め に,
最 初 に比 較 的 大 き な 時代 区 分 と して全 体 を次 の9期 の平 均 を 出 す と,表1.2の
に分 け,各 時期 の 漢 字 使 用 率
よ う な結 果 に な る。
漢 字 使 用 率 と い う もの が 作 家 の 文 体 の 一 要 素 で あ る こ とを考 え る と,各 時 期 の 作 品 と して どの 作 家 の文 章 を選 ぶ か とい う調 査 対 象 の 選 定 次 第 で,あ が 出 る こ と は十 分 に予 想 され る。 そ の せ い も あ っ て か,必
る程 度 の差
ず し も時 代 の 推 移 と と
もに 漢 字 使 用 率 が 減 少 しつ づ け る とい う きれ い な結 果 に は な っ て い ない 。 また, 補 充 調 査 に お い て 新 しい作 品 に重 点 を お い た 関 係 で 昭 和30年
代 が 薄 くな るな ど,
調 査 密 度 が均 質 とは い い が た い面 もあ る。 しか し,大 き な流 れ と して は次 第 に減 少 しつ っ あ る こ とは認 め られ るだ ろ う。 そ の 点 を もっ と明 確 に す るた め に小 異 を捨 て て 大 き く と ら え て み よ う。 仮 に3 期 ず つ を ま とめ,全 体 を三 分 して 平 均 を とれ ば,表1,3の
よ う に,大 幅 に,し か
もほ ぼ 同 程 度 の 差 で 減 少 す る姿 が は っ き りと見 て とれ る。 表1.2
漢 字 使 用 率 の変 遷(中
区 分)
表1.3 漢 字使 用率 の変遷(大 区分)
半 沢(1988)に
よれ ば,二 葉 亭 四 迷 の 『 浮 雲 』 の 漢 字 表 記 率 が わず か 2年 の 間
に も目 に見 え て 次第 に下 が っ て い る とい う。 前 の デ ー タ と合 わ せ る た め に千 分 率 に直 し て紹 介 す る と,地 の 文 と会 話 文 との平 均 で 第 一 篇 が423,第 第 三 篇 が374と
二 篇 が384,
な る。 特 に会 話 文 の 変 化 が激 し く,話 し こ と ば を 忠 実 に仮 名 で 写
生 す る よ う に な っ た こ とが 影 響 して い る との こ とで あ る。 表1.3の
結 果 は,会 話 文 に限 らず,漢 字 漸 減 の こ の よ うな 変 化 が,多 少 の ば ら
つ き こそ あ れ,大
き な流 れ と し て現 代 まで続 いて き た こ と を思 わ せ る。
今 度 は も う少 し細 か く時 代 を 区切 っ て観 察 して み よ う。 平 成 を除 く各 時期 を さ らに半 分 に 区切 り,全 体 を17に 区分 け して整 理 して み る と,表1.4の
よ うに な る。
時代 を細 か く区 切 れ ば 区 切 る ほ ど,調 査 結 果 の ば らつ きが 目立 ち,漢 字 使 用 率 の減 少 が 見 え に く くな る。 区分 ご との作 品 数 が 少 な くな って 偶 然 性 が 左 右 す る ほ か,作 品 の 個 性 が 影 響 す る余 地 も大 き くな るか らで あ る。 た とえ ば,第2∼4区
分 に比 べ て第 1区 分 の 漢 字 使 用 率 が 比 較 的 低 い 結 果 に な
っ た こ と に は,漢 字 使 用 率 が400を
超 え る 泉 鏡 花 『絵 日傘 』,国 木 田 独 歩 『牛 肉
と馬 鈴 薯 』,島 崎 藤 村 『破 戒 』 や,そ れ に迫 る夏 目漱 石 『 吾 輩 は猫 で あ る』,二 葉 亭 四 迷 『平 凡 』 な どの 集 ま った な か に,漢 字 使 用 率 の か な り低 い 鈴 木 三 重 吉 『千
表1.4
漢 字 使 用 率 の 変 遷(小
区 分)
鳥』 や伊藤左 千夫 『 野 菊 の 墓 』 が 混 在 した こ とが 少 な か らず 影 響 して い る もの と 見 られ る。 調 査 対 象 の作 品 数 が 十 分 に多 くな れ ば,こ の よ う な偶 然 性 は 小 さ くな る は ず だ か ら,こ の あ た り まで は360∼370程
度 の漢字 使用率 が小説 の文章 のべ
ース に な っ て い る と考 えて よ さ そ うで あ る。 第 5区 分 で下 が っ て第 6区 分,第 分 率 で わ ず か200の
7区分 で また 上 が る。 これ は,第
『 友 情 』 と286の
含 まれ て い る の に対 し,第
『 幸 福 者 』 とい う武 者 小 路 実 篤 の 2作 品 が
6区 分 に は横 光 利 一 『日輪 』,瀧 井 孝 作 『無 限 抱 擁 』,
芥川龍 之介 『 歯 車 』 と,400を
超 え る作 品 が 3編 を数 え,第
率 6割 とい う島 崎 藤 村 『 夜 明 け前 』 や400を まれ て い て,平
5区 分 に千
7区 分 に は漢 字 使 用
超 え る徳 永 直 『太 陽 の な い街 』 が 含
均 の 数 値 を押 し上 げて い る。 調 査 の対 象 とな る作 品 が十 分 に 多 け
れ ば,こ の 第5∼7区
分 あた りは平 均340前
第 8区 分 か ら第12区
分 ま で は,第
後 が べ ー ス とな りそ うで あ る。
9区 分 が 少 し低 い程 度 で,あ
とは か な り安
定 して い る。 そ の 第 9区分 も,カ ナ 文 字 論 者 で あ った 山本 有 三 の 作 品,150と
い
う最 低 の 漢 字 使 用 率 を記 録 した 『路 傍 の 石 』 が た ま た ま含 ま れ て い た せ い で あ り,そ の 1編 を 除 外 す れ ば平 均 が307.9に 期 は平 均310∼320と
の あ た りの 時
い うべ ー ス に な る もの と考 え られ る。
それ 以 降 の 時 期 で は,第14区 に た ま た ま,430の
達 す る。 し た が って,こ
分 だ け が300を
少 し超 え る。 そ れ は,こ の 時 期
永 井 龍 男 『石 版 東 京 図 絵 』 が 含 ま れ て い るか らで あ る。 仮 に
そ の 作 品 を除 外 す れ ば,そ れ だ け で300を
切 る。 少 な く と も第16区
分 まで は
280程 度 が べ ー ス と考 え られ る よ うで あ る。 最 新 の 第17区 分 に属 す る作 品 は,最 高 で も三 浦 哲 郎 『 ふ な うた 』 の320で, 一 般 に200台 の 前 半 が 多 く,川 上 弘 美 の 『セ ンセ イ の 鞄 』 の よ う に200を 割 り込 む作 品 もあ る。 とな る と,そ れ まで よ りも さ らに漢 字 の 少 な い作 品 が 多 くな っ た 時 期 と して独 立 させ るべ きだ ろ う。 ほ ぼ250∼260が
べ ー ス に な る。
表1.5 漢 字 使 用 率 の 変 遷(推 定 べ ー ス)
以 上 の 観 察 を ま とめ る と,表1.5の
よ うに な る。
こん な ふ う に ま とめ て み る と,大 き な流 れ と して は漢 字 使 用 率 が 時 代 を追 う ご とに 次 第 に減 少 して きて い る こ とが概 念 的 な が らわ か りや す くな る。 そ うい う流 れ に 沿 い なが ら,ど の 時 期 に も作 家 個 人 の 主義 ・嗜 好 を反 映 した 文 体 が か ら み あ っ て,そ の 流 れ を複 雑 に して い るの が 実 情 だ ろ う。 以 上 の 調 査 結 果 に 現 れ た 漢 字 使 用 率 の 全 体 の 平 均 は,1898年 る全170編
の総 合 平 均 を算 出 す る と,325.1と
い て は,概 略,1000字
中 に320∼330程
か ら2000年
に至
な る。 近 代 現 代 の 小 説 の 文 章 にお
度 の 漢 字 を使 用 す る作 品 が 平 均 的 で,
400を 超 え る よ うだ と相 当 に漢 字 の 多 い文 章 で あ り,逆 に250を
切 る場 合 に は漢
字 の か な り少 な い文 章 だ とい え るだ ろ う。 この 点 につ い て は,次 節 で具 体 的 に述 べ る。 作 家 の性 別 に分 けて 集 計 す る と,男 性 作 家 の平 均 が326.9,女 303.6と
流作 家 の平均が
な り,女 性 の ほ う が漢 字使 用 率 が 低 い とい う結 果 に な る。 女 流 作 家 の数
が 少 な く,ま た,時 代 が 下 る につ れ て 女性 作 品 が 増 え る とい う時 代 性 の 関 係 もあ っ て 一 概 に は い えな いが,宮
本 百 合 子 ・網 野 菊 ら ご く一 部 を除 い て 女 流 作 家 の漢
字使 用 率 が 低 い の は事 実 で あ る。
● 3 漢字使用 率の個人 的傾 向
前 節 で は近 代 現 代 の文 学 作 品 に お け る漢 字 使 用 率 の 時代 的 な変 遷 を概 観 した 。 今 度 は作 家 の個 性 とい う観 点 か ら表1.1を
眺 め て み よ う。 総 平 均 が325.1と
なる
か ら,そ れ に近 い 数 値 の作 品 を求 め る と,田 村 俊 子 『木 乃 伊 の 口紅 』 と永 井 龍 男 『朝 霧 』 とが324,外
村繁 『 夢 幻 泡 影 』 が326と
い 。 小 林 多 喜 二 『蟹 工 船 』 の327,永
な っ て お り,そ れ に も っ と も近
井 荷 風 『〓東 奇譚 』 の322な
どが それ に 次
ぐ。 どの よ うな感 じ の字 面 に な る か , 実 際 の文 章 を例 示 して お く。
X 氏 の 黒 い 折 り鞄 は,仔 豚 ほ ど,い つ もふ くれ 上 っ て い る 。 い っ た い 何 が 入 っ て い るか とい う事 も,あ
とで 話 題 に な る と思 うが,当 時 私 が簡 単 に想
像 した よ うに,教 科 書 そ の 他 の 参 考 書 や,試 験 の 答 案 な ぞ が ぎ っ し り詰 って
い るの だ ろ う(以 下 略)(永
井龍男 『 朝 霧 』)
一 方,順 位 の 点 で見 る と,全 部 で170作
品 だ か ら中 央 の 順 位 は85位,86位
に
な る。 そ れ に 該 当 す る作 品 を求 め る と,漢 字 使 用 率 が 平 均 値 よ りや や 低 い。 古 い ほ うか ら豊 島 与 志 雄 『野 ざ ら し』,大 岡昇 平 『俘 虜 記 』,川 端 康 成 『山 の音 』,三 浦 哲 郎 『ふ な うた 』 が,い ず れ も漢 字 使 用 率320で,85位
に並 ぶ 。
市 兵 衛 は,い つ もの つ も りで,単 で 祝 宴 へ 出 る つ も りで い た が,そ の 年 は, 昼 を過 ぎ て か ら し と し と雨 に な っ た 。煙 草 の け む り を追 い出 す た め に,洋 風 の 窓 を左 右 に 押 し開 け る と,ひ んや り と した 大 気 に乗 って 細 か な 雨粒 が 会 場 へ 舞 い込 ん で きた 。(三
浦 哲 郎 『ふ な うた 』)
漢 字 使 用 率 が,順 位 を基 準 と した 場 合 に標 準 的 と認 定 で き る作 品 群 を表 に ま と め る と,表1.6の
よ う に な る。 表1.6 漢 字使 用率 の平均 的 な作 品
次 に,漢 字 使 用 率 の 両 極 端 に位 置 す る作 品 を の ぞ い て み よ う。 まず は漢 字 の割 合 が きわ めて 大 き い 作 品 で あ る。 表1.1の ら30位
資 料 に お い て漢 字 使 用 率 の 高 い ほ うか
まで を,漢 字 の 多 い順 に列 挙 す る と,表1.7の
調 査 した170編
の 小 説 の うち,も
よ う に な る。
っ と も漢 字 の 多 か っ た 作 品 は島 崎 藤 村 の 『夜
表1.7 漢 字使 用率 の高 い作 品
明 け前 』 で 漢 字 が 実 に6割 を 占 め る結 果 とな った 。 次 い で 多 か った のが 夏 目漱 石 の 『明 暗 』 で5割3分,調 調 査 範 囲 を広 げ れ ば,こ
査 範 囲 で仮 名 よ りも漢 字 の ほ うが 多 か っ た(こ れ ら も の よ うに極 端 な数 値 に は な らず,も
定 す る も の と推 測 され る)の は この2編 漢 字 使 用 率 の 高 い ほ うか ら30位
の み で,ほ
う少 し低 い 数 値 で 安
か に は例 が な い。
ま で の 間 に,泉 鏡 花 『 絵 日傘 』,国 木 田 独 歩
『牛 肉 と馬 鈴 薯 』,島 崎 藤 村 『破 戒 』,夏 目漱 石 『吾 輩 は猫 で あ る』,二 葉 亭 四 迷
『平 凡 』,田 山 花 袋 『田 舎 教 師 』,長 塚 節 『土 』 な ど,早 い 時 期 の 作 品 が 多 く含 ま れ て い る の は予 想 どお りで あ る。 それ らの作 品 の 漢 字 使 用 率 が 高 い の は事 実 で あ る と し て も,こ の あ た りは時 代 的 な 傾 向 もあ って,こ
の事 実 だ けで,こ
れ らの 作
家 た ちが す べ て,一 般 に漢 字 を多 用 す る文 体 的特 色 を そ な え て い た と同列 に論 ず る こ と はで き な い。 や は り作 家 を個 別 に検 討 す る必 要 が あ る。 まず 泉 鏡 花 は,『 絵 日 傘 』 と 『 竜胆 と撫 子 』 とが と もに が430で で も360で,平
全 体 の 8位,『 高 野 聖 』 は そ の 2編 よ り低 い が そ れ
均 す る と407と
な って400を
超 え るか ら,作 家 と して 相 当 に漢 字
を多 用 す る部 類 に属 す る と い え る。 島崎 藤 村 は 『破 戒 』 が415で19位,そ
の23年 後 に発 表 され た 『夜 明 け前 』 は
前 述 の よ う に600で 最 高位 を 占 め,平 均 で500を
超 え るか ら,こ れ も安 定 して き
わ め て漢 字 を多 用 す る作 家 で あ っ た と考 え られ る。 二 葉 亭 四 迷 につ い て は 『平 凡 』 が396で
全 体 の27位
に あ た る とい う調 査 結 果
の み で,他 の 作 品 に関 す る デ ー タが 得 られ て い な い が,『 浮 雲 』 の第 一 篇 で423, 第 二 篇 で384,第
三 篇 で374と
い う前 掲 の 半 沢 論 文 の 調 査 結 果 と合 わ せ て 考 え る
と,こ れ もか な り漢 字 を 多 用 す る ほ うの 作 家 で あ っ た と思 わ れ る。 夏 目漱 石 は 『吾 輩 は猫 で あ る』 が397で26位,『
草 枕 』 が380で33位,そ
10年 後 の 未 完 に終 わ っ た最 後 の作 品 『明 暗 』 が530で
の
2位 を 占 め る。 平 均 で436
に も達 す る こ とか ら,漱 石 も きわ め て漢 字 を多 用 した作 家 で あ る と考 えて ま ち が い な い。 森〓 外 は 『雁 』 が374で42位,『
澁 江 抽 斎 』 が480で
3位 を 占 め,平 均 で427
とな る。 これ も漱石 並 み に漢 字 を多 用 して い る も の と推 測 で き る。 志賀直哉 は 『 和 解 』 が470で
4位,『 暗 夜 行 路 』 が419で18位
とな り,平 均 で
445と な るか ら,や は り漢 字 を きわ め て多 く用 い る作 家 だ とい う こ とに な る。 菊 池 寛 は 『忠 直 卿 行 状 記 』 が454の す る と442に
6位,『 蘭 学 事 始 』 が430の
8位 で,平 均
な る。 成 立 年 代 の近 い 両 作 品 の結 果 で は あ る が,志 賀 と同程 度 に き
わ め て 漢 字 を多 用 して い る作 家 で あ る こ とを 思 わ せ る。 徳 田秋 声 は 『爛』 が410で21位
と,漢 字 使 用 率 が か な り高 い が,そ
年 後 に発 表 され た 『 縮 図 』 で は330の71位
と,ほ
れ か ら28
とん ど平 均 的 な漢 字 使 用 率 を
示 して い る。 時代 の推 移 を 反映 した 変 化 と も考 え られ,少 な く と も全 期 を通 じて 漢 字 を多 用 した作 家 と認 定 す る こ と はで きな い 。 永 井 荷 風 も前 期 の 『す み だ 川 』 と 『 腕 く らべ 』 とが と も に380の33位 の に 対 し,後 期 の 『〓東 綺譚 』 で は322の82位 て お り,秋 声 よ り減 少 幅 は 少 し小 さい が,よ 宮 本 百 合 子 は 『伸 子 』 が376で41位,『 る。 平 均 で416だ
であ る
と,ほ ぼ平 均 的 な 数 値 に変 化 し く似 た 結 果 を示 し て い る。
播 州 平 野 』 が460で
5位 とな っ て い
か ら漢 字 使 用 率 の 高 い作 家 で あ る こ と は確 か だ が,作 品 に よ る
差 が か な り大 きい こ と も事 実 で あ る。 芥 川 龍 之 介 は 比 較 的 初 期 の 『偸盗 』 が370の43位 翌 年 の 『地 獄 変 』 は318の90位
と漢 字 使 用 率 が や や 高 く,
と平 均 以 下 で あ る とい うふ う に,漢 字 使 用 率 が
必 ず し も高 い と は い え な い 範 囲 で作 品 に よ る揺 れ が あ る。 し か し,晩 年 の 『歯 車 』 は420の16位
と,時 代 の趨 勢 と は逆 に漢 字 使 用 率 が 相 当 に高 くな っ て お り,
執 筆 時 期 に よ る変 化 も大 きい こ とが わ か る。 横 光 利 一 は 『日輪 』 が454で 240で,170編
6位 を 占 め る が,13年
後 の 『機 械 』 で は わ ず か
の な か で 逆 に漢 字 の 少 な い ほ うか ら数 え て16番
目 に あた る。 文 章
実 験 で 知 られ る この作 家 は,こ の 漢 字 使 用 率 に お い て も,執 筆 の 時 期 に よ り,少 な く と も作 品 に よ っ て,大
き く揺 れ る作 家 で あ る こ と を裏 づ け る結 果 で あ る。
井 伏 鱒 二 は比 較 的 早 い 時 期 の 『多 甚 古村 』 が297の107位 め な の に対 し,晩 年 の 『荻 窪 風 土 記 』 で は401の24位
と,漢 字 率 が 少 し低
とか な り高 くな って い る。
時 代 の 流 れ と は逆 の 現 象 だ け に,作 品 に よ る差 が大 き い とい う文 体 の問 題 が あ る よ う に思 わ れ る。 永 井 龍 男 も初 期 作 品 『朝 霧 』 が324で80位
と,ご
く平 均 的 な漢 字 率 で あ っ た
の に対 し,そ れ か ら18年 後 の 『石 版 東 京 図 絵 』 で は430で
8位 を 占 め て お り,
時 期 や 作 品 に よ っ て 変 化 の 大 きい作 家 で あ る とい う文 体 の特 徴 を うか が わ せ る結 果 に な っ て い る。 三 島 由紀 夫 は 『 仮 面 の 告 白』 が420の16位,『 騒 』 が357の53位
で,平 均 が372と
真 夏 の死 』 が340の64位,『
な る。 作 品 に よ っ て 差 は あ るが,す
潮
べ て平
均 よ り高 く,時 代 を考 え合 わ せ る と,か な り漢 字 を多 用 す る傾 向 の あ る作 家 だ と 見 る こ とが で き よ う。
漢 字 の きわ め て 多 い文 章 に つ い て も, どの よ うな感 じの 字 面 に な る か , 実 際 の 例 を掲 げ て お こ う。
村 方 一 切 の諸 帳 簿 の 取 調 べ が 始 ま る。 福 島 の 役 所 か ら は公 役,普 請 役 が 上 っ て来 る。 尾 張 藩 の寺 社 奉 行,又
は材 木 方 の 通 行 も続 く。 (島崎 藤 村 『夜 明 け前 』)
吾 輩 は人 間 と同 居 して彼 等 を観 察 す れ ば す る程,彼 等 は我 儘 な もの だ と断 言 せ ざ る を得 な い様 に な った 。 殊 に 吾 輩 が 時 々 同食 す る小 供 の如 き に至 っ て は言 語 道 断 で あ る。
(夏 目漱 石 『吾 輩 は猫 で あ る』)
今 度 は 逆 に漢 字 使 用 率 の 低 い作 品 に 目 を転 じて み よ う。 漢 字 の 少 な い ほ うか ら や は り30位
まで を表 に ま とめ て 示 す と表1.8の
よ うな 結 果 に な る。
これ ら漢 字 使 用 率 の 低 い 作 品 に つ い て も,そ れ が 作 家 の特 色 とい え る か ど うか は個 々 の ケ ー スで 違 う。 まず,山 本 有 三 は 『波 』 が240で か ら16番
目,『 路 傍 の石 』 は150で,170作
漢 字 使 用 率 の低 い ほ う
品 中 も っ と も漢 字 が 少 な い と い う結
果 に な っ て い る。 カ ナ 文 字 論 者 で あ る と こ ろ か ら当 然 予 想 され る こ とで は あ る が,極
端 に漢 字 の 少 な い作 家 で あ る こ とが 確 認 で き る。2位 以 下 につ い て も,複
数 の作 品 が 調 査 対 象 に な っ た作 家 に つ い て,順 『岸 う つ 波 』 が155で,漢 根 の 葉 』 も260で24位
に そ の 点 を検 討 して み よ う。
字 使 用 率 の 低 い ほ うか ら2番 目で あ る壺 井 栄 は,『 大
だ か ら,一 般 に漢 字 の 少 な い作 家 で あ る と考 えて 問題 は
な い。 『 友 情 』 が200で,漢
字 使 用 率 の低 い ほ うか ら4位 に あ た る武 者 小 路 実 篤 も,
も う一 つ の 『幸 福 者 』 も286で48位
に 入 る か ら,こ れ も漢 字 の少 な い作 家 で あ
る こ とは ほ ほ確 実 だ。 『器 用 貧 乏 』 が210で,漢
字 使 用 率 の低 い ほ うか ら5位 に入 る宇 野 浩二 は,『 蔵
の 中 』 が291で54位,『
子 を貸 し屋 』 が300で66位
な い と は い えな い が,そ
れ で も全 体 と して 漢 字 を 多 用 し な い作 家 で あ る こ とは確
か で あ る。
だ か ら,漢 字 が きわ め て 少
表1.8 漠 字 率 の 低 い作 品
久保 田万太郎 は 『 末 枯 』 が264で 12年 後 の 『春 泥 』 が220で6位
漢 字 使 用 率 の 低 い ほ う か ら32位,そ
れか ら
だ か ら,作 品 や 時 期 に よ っ て 多 少 の差 は あ っ て
も,全 体 と して 漢 字 が か な り少 な い ほ うの 作 家 だ とい え よ う。 川 端 康 成 は 『雪 国 』 が261で は さ らに減 っ て230の11位
少 な い ほ うか ら29番
と,と
目,戦 後 の 作 品 『千 羽 鶴 』
もに漢 字 使 用 率 が か な り少 な い ほ うだ が,『 千
羽 鶴 』 とほ ほ同 時 期 に 執 筆 され た 『山 の音 』 は320で
ち ょう ど平 均 的 な数 値 とな
っ て い る。 この よ うに 作 品 に よ る差 は少 し あ る が,全 体 と して 漢 字 の少 な い ほ う の作 家 と見 て よ い。 平 林 た い 子 は初 期 作 品 の 『施 療 室 に て』 が354で 目 と な り,む
し ろ 漢 字 の や や 多 い 作 品 で あ っ た が,戦
女 』 で は260に が,数 ら66番
漢 字 率 の 高 い ほ う か ら55番 後 す ぐの 作 品 『こ う い う
減 り,逆 に 漢 字 使 用 率 の低 い ほ うか ら24位
に位 置 す る。 と こ ろ
年 後 の作 品 『黒 の 時 代 』 で は今 度 は300に 増 え,漢 字 使 用 率 の 低 い ほ うか 目 に 後 退 し て,そ れ ほ ど漢 字 の 少 な い 作 品 で もな くな っ て い る。 あ る程
度 は時 代 の 推 移 も影 響 して い よ うが,漢 字 の使 用 に つ い て は作 品 に よ る揺 れ の か な り大 きな 作 家 だ と考 え るべ きだ ろ う。 漢 字 使 用 率 の低 い 文 章 に つ い て も,実 例 を提 示 し て そ の 字 面 の感 じ を確 か め て お きた い。
ぺ し ゃ ん こ に な っ て い る 袋 が,指
の さ き に さ わ っ た と き,吾
一 は言 い よ う
の な い寂 し さ に お そわ れ た。 彼 は泣 き出 した い よ う な 気 もち に な っ た 。
(山本 有 三 『路 傍 の石 』)
泣 こ う と笑 お う と,だ ま っ て そ れ を受 け入 れ て くれ る ひ ろい 愛 情 は,今 の と こ ろ,お
し め の世 話 を し て くれ た人 の ほか に は あ る ま い 。 (壼井 栄 『岸 うつ 波 』)
ち な み に,こ
の 引 用 箇 所 で 計 測 す る と,漢 字 使 用 率 が両 者 と も千 分 率 で164の
同 率 に な る。
な お,一 作 家 に つ い て 複 数 の作 品 を調 査 して い な いが,漢 を ま と めた この 表1.8に,川
字 使 用 率 の低 い 作 品
上 弘 美 『セ ンセ イ の鞄 』,町 田 康 『くっす ん 大 黒 』,
吉 本 ば な な 『キ ッ チ ン』,池 澤 夏樹 『マ リ コ/ マ リキ ー タ 』 な ど,最 近 の 作 品 が 多 く見 られ る点 も注 目 され る 。 山 田 詠 美 『 風 葬 』 が283,小 ダ ー 』 が289,柳
美 里 『フル ハ ウ ス』309で,い
字 が 少 な い わ け で は な い が,若
川 洋子 『 妊 娠 カ レン
ず れ も この 表 に 顔 を 出 す ほ ど漢
い世 代 の作 家 た ち に は 少 な く と も漢 字 使 用 率 の 高
い作 品 の例 は ほ と ん ど見 られ な い。
あ の , お 手 伝 い し ま す か ら。 こ こ ろ み て み ま し ょ う,近 い た か っ た が,セ
ン セ イ の 厳 粛 さ に 気 圧 さ れ て,言
ん な こ と 気 に す る こ と な い で す,と
い うち に。 そ う言
えな か っ た。 セ ン セ イ そ
も言 え な か った 。
(川 上 弘 美 『セ ンセ イ の鞄 』)
● 4 漢字 に関す る文体 的 な試 み
そ の 川 上 弘 美 の ふ し ぎ な 恋 愛 長 編 『セ ン セ イ の 鞄 』 は,「 月 と電 池 」 と い う奇 妙 な題 の 一 章 か ら始 ま り,こ ん な ふ う に書 き出 され る。
正 式 に は 松 本 春 綱 先 生 で あ る が,セ
ン セ イ,と
「先 生 」 で も な く,「 せ ん せ い 」 で も な く,カ
わ た しは呼 ぶ 。
タ カ ナ で 「セ ン セ イ 」 だ 。
こ こ に は 日本 人 の文 字 の選 択 の 際 に働 く微 妙 な 感 覚 が 映 っ て い る。 漢 字 は一 字 一 字 が 意 味 を もつ か ら,漢 字 で 表 記 す る とそ の こ とば の意 味 が じか に意 識 に の ぼ る。 平 仮 名 の場 合 はそ れ ほ ど直 接 的 に意 味 と結 び つ くわ けで はな いが,通 とば を書 き写 す基 本 に な っ て い るた め,と
常,こ
もか くそれ が 意 味 の あ る 日本 語 を指 示
して い る とい う感 じ は強 い 。 そ れ が 片 仮 名 にな る と,現 代 で は耳 に な じみ の薄 い 外 国 語 や 論 理 的 な 意 味 を もた な いオ ノ マ トぺ な どに よ く使 わ れ る関 係 で,こ
とば
とい う よ り も,音 を記 録 す る記 号 とい う面 が 目立 つ。 こ の場 合 も,相 手 が 「先 生 」 だ と自分 は 「生 徒 」 とな り,教 師 と教 え子 とい う 関 係 に な る の だ が,実 際 に は,「 高校 で 国 語 を 教 わ った 」 もの の,「 担 任 で は な か った し,国 語 の授 業 を特 に 熱 心 に聞 い た こ と もな か っ た か ら,セ
ンセ イ の こ とは
さ ほ ど印 象 に 残 っ て い な か っ た 」 の で,「 数 年 前 に駅 前 の 一 杯 飲 み 屋 で 隣 あ わ せ た 」 折 に話 しか け られ た と き も,「 高 校 時 代 の 先 生 だ った こ とは 思 い 出 し た が, 名 前 が 出 て こな か っ た 」。 そ れ で,「 キ ミは顔 が 変 わ り ませ ん ね 」 とい わ れ,「 名 前 が わ か らな い の を ご まか す た め に 」,と っ さ に 「セ ンセ イ こそ お 変 わ りも な く」
と応 じ,「 以 来 セ ンセ イ は セ ン セ イ に な っ た 」 の だ と い う。 つ ま り,片 仮 名 の 「セ ンセ イ 」 は,こ
の場 合,教
員 とい う職 業 や 自分 の 恩 師 と い っ た 関 係 の 人 間 を
さす 一 般 的 な概 念 とい う よ り も,そ の 相 手 に対 す る一 種 の 記 号 な の で あ る。 そ し て,こ の 作 品 で は,「 カ タ くカ タ くイ ダ キ ア っ た りア イ ヨク に オ ボ レ た り して も い い ん じゃ な い の」 と片 仮 名 で 書 くこ とに よ っ て,こ
とば の感 情 的 な面,
感 覚 的 な面 が い ち じ る し く後 退 す る。 も し こ こ を 「固 く抱 き合 う」 「愛 欲 に溺 れ る」 とい うふ う に 漢 字 を使 用 して 通 常 の表 記 に戻 し て み る と,こ 者 に直 接 に働 きか け,生
とば の 意 味 が 読
ぐさ い 表 現 に一 変 す る。 こ の事 実 は,漢 字 使 用 に と もな
う表 現 性 を示 す と同 時 に,漢 字 を避 け る こ とで 無機 的 に す るテ クニ ッ クの 表 現 効 果 を立 証 して い る と もい え る だ ろ う。 「卒 業 論 文 」 とい う と字 面 か ら見 て も本 格 的 で 内 容 も む ず か し そ うだ が,「 卒 論 」 とす る と,と た ん に軽 い 感 じ にな る。 しか し,そ れ で も一 応 は論 を展 開 す る 雰 囲 気 が 感 じ られ る。 そ れ を 「ソツ ロ ン」 と書 い て し ま う と,極 端 に い え ば,も う論 理 的 に書 き記 され て い るか ど うか も確 信 が もて な い よ う な 印 象 を与 え るか も しれ な い。 これ も また,漢
字 とい う もの が 概 念 と格 式 を そな え た 存 在 と して社 会
的 な 役 割 を担 っ て い る こ とを 裏 づ け る例 で あ る。 漢 字 の もつ そ うい う性 格 を利 用 し,伊 藤 整 は その 漢 字 を避 け て あ えて 片 仮 名 に 切 り換 え る こ とで,茶
化 した よ う な感 じを 出 し,皮 肉 な表 現 を成 立 させ て い る。
『 芸 術 は 何 の た め に あ る か』 の な か で 「ワ イ セ ツ文 書 ハ ンプ 罪 」 とか 「文 化 ク ン シ ョー」 とか 「警 視 ソー カ ン」 とか とい っ た表 記 を用 い て い る あ た りは,さ
しず
め そ の好 例 で あ る。 そ う す る こ と で,「猥 褻 」 も 「 頒 布 」 も明 確 な 意 味 を 失 い, 「勲 章 」 も 「総 監 」 も権 威 を 失 う。 漢 字 表 記 に そ な わ っ て い る重 々 し さが と りは らわ れ る と同 時 に,そ の こ と ば の指 示対 象 そ の もの の威 厳 も損 な わ れ る の だ 。 安 岡 章 太 郎 の初 期 作 品 に も,漢 字 を避 け る こ とで対 象 の い か め し さ を減 ず る用 法 が 目立 つ 。 一 例 と して 『幕 が 下 りて か ら』 を と りあ げ る と,「 ア テ に な らな い の は ア タ リマ エ で し ょ う よ」 とい った 調 子 で,「 ズ ウ ズ ウ し い 」 「メ ヤ ス」 「ナ マ ナ マ し さ」 「ホ ンモ ノ 」 「ウ シ ロ メ タ サ」 の よ う に明 らか に漢 字 を 回避 し た独 特 の 表 記 が頻 出 す る。 外 部 を戯 画 化 す る伊 藤 整 の 場 合 とは違 っ て,適 度 に嘘 っ ぽ さ を 加 味 して 自 ら を揶揄 し,そ の徒 労 感 や 敗 北 感 をか も しだ す表 現 効 果 を あ げ て い る
よ う に 思 わ れ る。 ふ つ う漢 字 で 書 く語 で あ れ ば,そ
れ を 片 仮 名 で な く平 仮 名 書 き して も,漢 字 を
離 れ る こ とで威 厳 を 削 ぎ 落 とす効 果 は発 揮 で き る。 小 島 信 夫 の初 期 の諷 刺 的 な作 品 『汽 車 の 中 』 は,「 峻 険 」 「山巓 」 な ど とい う難 しい 漢 語 を用 い るな ど,け っ し て 漢 字 使 用 を 全 般 的 に控 えた 作 品 で は な い 。 そ う い うな か で 「関係 」 「最 近 」 な どの 語 を平 仮 名 で記 し,「 人 間 」 を 「人 げ ん」,「不 本 意 」 を 「不 ほ ん い 」 と交 ぜ 書 き を用 い る こ と もあ る 。 これ につ い て は,の ち に 『作 家 の文 体 』 とい う本 に お さ め た が,そ
の と き の イ ンタ ビ ュー の機 会 を利 用 して,作 者 に直 接 そ の 意 図 を尋
ね る こ とが で きた 。 「感 激 」 「賛 嘆 」 「証 拠 」 とい っ た 漢 語 を あ え て 平 仮 名 書 き にす る意 図 に つ い て は,「 漢 語 に対 す る不 信 も あ る し,諷 刺 的 な操 作 も あ る」 し,「 権 威 に対 す る抵 抗 の 姿 勢 み た い な もの もあ っ た 」 と 自作 を ふ りか え る 。 ま た,「 人 げ ん」 「不 ほ ん い 」 とい っ た 交 ぜ 書 き の ね らい はチ グハ グ な おか し さ に あ るか とい う問 い に対 し て は,「 違 和 感,ち
ょっ と変 だ な とい う感 じ を持 た せ る こ とを意 図 し て 」 い た と
明 確 に答 え て い る。 同 じ く漢 字 を減 らす 方 向 の試 み で あ っ て も,以 上 の例 とは明 らか に修 辞 意 図 の 違 う場 合 もあ る。 次 に掲 げ る谷 崎 潤 一 郎 の 『盲 目物 語 』 は そ の一 例 だ。
根が お うつ く しいお か た の うへ に,つ ひ ぞ い ま まで は苦 労 とい ふ苦 労 もな さ れず,あ
らい か ぜ に もお あ た りな さ れ た こ とが な い の で ご ざ り ます か ら,も
つた い な い こ となが ら,そ の に くづ きの ふ つ く ら と して や は らか な こ と と申 した ら,り ん ず の お め し もの をへ だ て て 揉 ん で を りま し て も,手 ざ は りの ぐ あひ が ほ か の お 女 中 とは ま る き りち が つ て を り ま した 。
む ろ ん,こ の 部 分 だ け で は な い。 こ の 作 品 全 体 が,「 え い ろ く二 ね ん しや う ぐ わ つ 」 「ほ ん た う に わ た くしふ ぜ い の い や しい もの が 」 「な が ね ん の あ ひ だ もみ れ う ぢ を渡 世 に い た し」 とい う調 子 で 書 か れ て い る の で あ る。 目の 見 え な い 人 が 口 ご も りな が ら訥 々 と語 っ て い る よ うす を,こ の よ う な極 端 に平 仮 名 の 多 い字 面 を とお して,読 者 に感 覚 的 に伝 え る こ とに成 功 した例 だ とい
っ て よ い。 ふ つ うは漢 字 を用 い て書 き,漢 字 を見 て 理 解 し て い る こ と ばで あ っ て も,た
しか に文 字 の形 を 見 る こ との で き な い者 に と って は,ふ だ ん仮 名 で 書 く こ
と ば と同様,音
の響 き と して 耳 か ら入 り,口 か ら出 て ゆ くはず だ。
「お 美 し い お 方 の 上 に … … 勿 体 無 い こ とな が ら… …綸 子 の お 召 し物 を 隔 て て … … 手 触 りの 具 合 が 他 の … … 違 つ て を りま し た」 とい うふ う に,も
し も引 用 箇 所
を 作 者 が 通 常 の 表 記 で書 い て い れ ば,そ の よ うな感 じ は薄 れ て し ま うだ ろ う。 こ れ も また,漢 字 を控 え る こ と に よ っ て生 じ る表 現 効 果 の一 例 で あ る。 逆 に,漢 字 を多 用 す る こ とで,漢 字 とい う文 字 体 系 の有 す る論 理 的 な 明 晰 性 を 表 面 に押 し出 す 文体 もあ る。 大 岡 昇 平 の 『俘 虜 記 』 な ど は その 好 例 だ ろ う。
しか し この無 意 識 に私 の うち に進 行 した 論 理 は 「殺 さな い 」 とい う道 徳 を積 極 的 に 説 明 しな い。 「死 ぬ か ら殺 さ な い 」 とい う判 断 は 「 殺 さ れ る よ り は殺 す 」 とい う命 題 に支 え られ て,意 味 を持 つ にす ぎず,そ
れ 自身 少 し も必 然 性
が な い。
小 説 と は思 え な い よ うな 論 理 的 な 記 述 。 そ れ を支 え る抽 象 名 詞 の 多 用 。 そ れ が 結 果 と して,ぎ
っ し りと漢 字 の 詰 ま った 文 章 を生 み 出 す 。 これ も引 用 箇 所 だ けの
特 殊 な現 象 で は な い。 場 面 の 描 写 を別 にす れ ば,そ の 説 明 の基 本 的 な論 調 が 「人 類 愛 の ご と き観 念 的 愛 情 を仮 定 す る 必 要 を感 じな い 」 とか,「 戦 争 とは 集 団 を も って す る暴 力 行 為 で あ り,各 人 の 行 為 は集 団 の意 識 に よ っ て鼓 舞 され る」 とか, 「恐 怖 とは私 の ふ つ う に 理 解 す る と こ ろ に よれ ば,私
に害 を与 え る と私 の 知 っ て
い る対 象 に た い す る嫌 悪 と危 惧 の ま じ った 不 快 感 で あ る」 とか とい った,ま
るで
学 術 論 文 を 思 わ せ る よ うな筆 致 で 記 さ れ る の で あ る。 これ も 『 作 家 の 文 体 』 に収 録 し た よ う に,訪 問 時 に お け る作 者 自 身 の 内 省 に よ れ ば,「 戦 後,書
き始 め の と き の 漢 語 調 とい う もの は,復 員 した て の 精 神 の た か
ぶ りの 姿 勢 か ら出 て きた もの 」 だ とい う。 だ か ら,「 あ とで 題 材 が 変 わ る と,例 え ば 『花 影 』 とい うの は和 文 体 に ちか づ い て い」 る。 その 後,『 レ イ テ戦 記 』 『ミ ン ドロ島 ふ た た び 』 の よ うな軍 事 行 動 の記 録 とい う色 彩 の 強 い 作 品 で あ る とい う 関 係 も あ るが,「 ま た この ご ろ,少
し漢 語 調 が 出 て 来 」 た と,執 筆 時 期 に よ る変
遷 を作 家 自 らが 語 っ て みせ た 。 ち な み に,「 こ の ご ろ」 と は1971年11月
4日 に
成 城 の 自宅 で イ ン タ ビ ュ ー の お こな わ れ た 時 期 を さす 。 文 章 を書 く と き に,多
く形 を意 識 し 目 に頼 る作 家 と,音 に 注 意 し耳 に頼 る作 家
と い う二 つ の傾 向 が あ る とい う。 帝 国 ホ テ ル に 吉 行 淳 之 介 を訪 ね た 折,「 魚 谷 あ け み」 とい う 『原 色 の 街 』 の登 場 人 物 に 関 す る挿 話 を 話 題 に す る に あ た っ て, 「うお た に 」 か 「うお や」 か それ と も… … と,そ の 名 字 の読 み 方 を 確 認 し よ う と した ら,作 者 自 身 しば ら く考 え込 ん で か ら,「 ど う も僕 は 目 に頼 る人 間 で ね 。 今 言 わ れ て,ど
っ ち の つ も りで 書 い た の か わ か ん な い ん だ ね 。 ど っち が い い だ ろ う
ね って ぐ らい に な っ ち ゃ うわ け だ。 ウオ タ ニ ぐ らい で し ょ うね 」 と言 った 。 この 事 実 に 象 徴 さ れ る よ う に,朗 読 され る こ とを ま った く考 えな いで 書 い て い る ら しい。 そ し て,「 国 境 の 長 い トン ネ ル」 で 始 ま る川 端 康 成 の 『雪 国 』 の 冒 頭 に し て も,「 コ ッ キ ョウ」 か 「くに ざ か い 」 か な ど と はた して 「川 端 さ ん意 識 し て書 い た か ど うか 」 と,こ の 作 家 は疑 っ て い る。 川 端 も 目の 作 家 だ った の だ 。 「編 輯 者 」 の 「輯 」 が 「集 」 に変 わ っ た と き,自 分 の 職 業 が 変 わ っ た よ うな 違 和 感 を 覚 え,「 お れ は 車 偏 で な い と働 く気 分 が 出 な い」 とぼ や い た 。 そ う述 懐 す る 当 時 の 編 輯 者,吉
行 淳 之 介 は,小 説 の な か で 「か らだ 」 を意 味 す るの に,「 体 」
で は な く,「 躰 」 で も な く,「〓 」 とい う漢 字 を使 う。 作 者 自身 の言 語感 覚 に よれ ば,「 女 の か らだ は あ の形 が 一 番 よ く合 っ て る」 し,男 る男 は み ん な病 弱 な もの で,や
も 自分 の 「作 品 に 出 て く
っ ぱ りあ れ で 間 に 合 う」 の だ とい う。 この よ う に
目 の感 覚 に 応 じて類 義 の漢 字 を微 妙 に書 き分 け るの も文 体 の う ち で あ る。 蒲 生(1988)に
よれ ば,森〓
外 は そ の 漢 学 的 な 素 養 を生 か し,初 対 面 の 意 の
「生 面 」,講 義 の席 を意 味 す る 「 講筵 」 な ど,漢 籍 を典 拠 と した 由緒 正 しい 漢 語 を 用 い た ら し い。 「抵 抗 」 を 「抗 抵 」,「忍 耐 」 を 「耐 忍 」 と記 す の も 同様 だ。 そ れ が 当 時 す で に姿 を消 して い た に もか か わ らず,あ
えて そ うい う用 語 や表 記 に徹 す
るの も,や は り表 記 に関 す る作 家 の 文 体 的 特 色 とい え る だ ろ う。 や は り 『作 家 の文 体 』 に収 録 した イ ン タ ビュ ー に よれ ば,里 見弴 は原 稿 を書 き な が ら時 折 「口 の 中 で 言 っ て み る くら い の こ とは し ょっ ち ゅ うや っ て い た 」 とい う。 お そ ら く耳 に頼 る タ イ プ の作 家 だ った の だ ろ う。 それ だ け に,朗 読 に適 す る 文 章 の 調 子 が 生 まれ る。 地 の文 も実 際 に話 す よ うな 響 き を重 ん じ る結 果,漢
字の
特殊 な用 法 が くふ う され て い る。 「従 来 」 に 「こ れ まで 」,「行 為 」 に 「し う ち」, 「歳 尾 」 に 「くれ 」,「稚 拙 」 に 「へ ま」 とい う仮 名 を振 る な ど,意 味 は漢 語 で あ た え,読 み は話 し こ とばで 貫 くの が そ れ だ 。 瀧 井 孝 作 も 「青 年 」 に 「わ か もの」 とい うル ビ を つ け る な ど,現 象 と して は似 て い る。 が , こ ち ら は文 章 の 調 子 を な め ら か に す る とい う よ りも,自 分 の実 感 に 忠 実 に とい う創 作 態 度 か ら来 る よ う だ。 「音 沙 汰 」 に 「あ た り」 と い う釣 りの 用 語 を,「 怠 惰 」 に飛〓 方 言 の 「ナ マ カ ワ」 を ル ビ に振 る な ど,生 活 に密 着 し 自分 で納 得 で き る こ とば を用 い なが ら,そ れ を読 者 に もわ か る よ う にす る とい う配 慮 で あ った と思 わ れ る か らで あ る。 した が っ て,類 似 の現 象 が別 々 の 文 体 か ら生 じ た も の と解 す べ きだ ろ う。 夏 目漱 石 も耳 に こ だ わ る作 家 で あ っ た こ と は有 名 だ。 『吾 輩 は猫 で あ る』 に も 漢 字 の 意 味 を 無 視 し そ の音 だ け を利 用 す る 当 て 字 の例 が 多 い 。 「兎 角 」 や 「矢 張 り」 や 「出鱈 目」 や 「屹 度 」 の よ うな 世 間 の 慣 用 的 な例 を除 い て も,「 さ ん ま」 を 「秋 刀 魚 」 とせ ず に 「三 馬 」 と し,「 む ず か し い 」 を 「六 づ 箇 敷 い 」 とす る。 外 国 語 の 漢 字 表 記 も多 い。 『こ こ ろ』 に は 「 硝 子 」 や 「護謨 」 や 「歌 留 多 」 や 「 切 支 丹 」 な どの世 間 に流 布 して い る表 記 を は じ め,「 卓 布 」 を 「テ ー ブル ク ロ ー ズ」,「酒 場 」 を 「バ ー 」,「停 車 場 」 を 「ス テー シ ョ ン」 と読 ませ る例 な どが 頻 出 す る よ う で あ る。 この よ うな 一 連 の表 記 に も,漱 石 の 文 体 の そ うい う一 端 が 見 え て い るだ ろ う。 小 沼 丹 の 作 品 に は,外 国 の地 名 の漢 字 表 記 もよ く出 て くる。 『椋 鳥 日記 』 の な か だ け で も外 国 語 の 漢 字 表 記 の 例 は枚 挙 に い と ま が な い 。 「英 吉 利 」 「仏 蘭 西 」 「独 逸 」 「伊 太 利 」 「印度 」 「希〓 」 の よ う な 国 名 や,「 倫 敦 」 や 「巴 里 」 の よ う な 都 市 名 とい っ た,漢
字 表 記 の 広 く知 ら れ た 地 名 だ けで は な い 。 「 英 蘭 」 「愛 蘭 」
「蘇 格 蘭 」 「土 耳 古 」 「西 班 牙 」 「波 蘭 」 「瑞 西 」 「丁 抹 」 「加 奈 陀」 「猶 太 」,あ る い は 「伯 林 」 「莫 斯 科 」 な ど,そ れ ほ ど一 般 的 と は い えな い例 も続 出 す る。 順 に イ ン グ ラ ン ド,ア イ ル ラ ン ド,ス コ ッ トラ ン ド,ト ル コ,ス ペ イ ン,ポ ー ラ ン ド, ス ウ ェ ー デ ン,デ
ンマ ー ク,カ ナ ダ,ユ
ませ る の だ が,こ
ん な ふ うに 片 仮 名 で ふ つ う に書 い た ら,作 品世 界 の 印 象 が す っ
か り変 わ っ て し ま う。
ダ ヤ,あ
る い はベ ル リ ン,モ ス ク ワ と読
む ろん,こ れ は 地 名 の 場 合 だ け の 現 象 で は な い。 「メ ー トル 」 が 「米 」,「ダ ー ス」 が 「打 」,「ガ ス」 が 「瓦 斯 」,「ラ ン プ」 は 「洋 燈 」 と書 い て あ るの は もち ろ ん,今 で は ほ とん ど見 る こ との な い 「 加 特 力 」 とい う 「カ ト リ ッ ク」 の 漢 字 表 記 も出 る し,「 ハ ンカ チ 」 に 「 半 巾 」,「マ ロ ニ エ 」 に 「馬 栗 」 とあ て,「 襯 衣 」 と書 い て 「シ ャツ 」 と読 ませ る よ うな か な り特 殊 な例 も出 る。 「プ ラム 」 が 「西 洋 李 」 とな る こ とは い う まで もな い。 秋 山安 兵 衛 と名 乗 る男 に案 内 され て街 や そ の 周 辺 を 見 物 しな が ら,「 馬 の 牽 く 荷 車 」 の手 綱 を に ぎる 「禿 頭 の親 爺 が 大 き な声 で 怒 鳴 る」 リ ッタ ア と聞 こ え る音 を 「屑 屋 お 払 い 」 と解 釈 した り,「倫 敦 で初 め て 月 を見 た 」 と き に 阿 倍 仲 麻 呂 を 「想 い 出 し」 た り,酒 場 の看 板 を 「白馬 亭 」 と読 ん だ り,レ ス トラ ンで 「都 の 西 北 」 を歌 う老 紳 士 に 出会 った り,映 画 館 で 「烟草 を吹 か して 小 波 の よ う に お喋 り す る 」 「婆 さ ん 連 中 」 を眺 め た りす る。 そ して,あ
る 肌 寒 い 雨 の 日,乗
の プ ラ ッ トフ ォー ム に ふ と軽 食 堂 が あ る の を見 つ け,何
り換 え駅
とな く 「蕎 麦 を食 お う」
と思 い,こ れ は 日本 に 帰 る潮 時 だ と感 じ る小 説 風 の長 編 エ ッ セ イ だ 。 講 談 社 文 芸 文 庫 版 『椋 鳥 日記 』 の解 説 で 清 水 良 典 は,「 当 時 の ロ ン ドン は,世 界 中 か ら,ケ バ ケ バ しい極 彩 色 の フ ァ ッ シ ョン に 身 を包 ん だ 若 者 が 集 ま っ て きて 闊 歩 す る街 だ った は ず 」 な の に,こ
こ に 「写 し取 られ た ロ ン ドン に は,若 者 の 姿
が ほ とん どな い 」 と書 い て い る。 ロ ン ドン名 物 の地 下 鉄 も登 場 しな い。 この作 品 に描 か れ て い るの は 「小 沼 独 自 の 日本 語 の文 章 に創 造 し なお さ れ た"わ が 倫 敦"」 な の だ とい う。 清 水 の い う 「小 沼 独 自 の 日本 語 」 とは,「 作 者 が 自 らの 文 体(表 記)に
あ らか じ め組 み 入 れ て い た 言 葉 の 体 系 」 を さ す 。
つ ま り,小 沼 丹 の世 界 を構 築 す る う えで,こ
の よ うな 漢 字 使 用 の 表 現 効 果 は 欠
か す こ との で き な い文 体 的 特 徴 の ひ とつ な の だ。 漱 石 の 時 代 とは わ けが 違 う。 そ れ よ り何 十 年 も あ と,戦 後 もだ い ぶ 経 っ て か ら書 か れ た 作 品 で あ るだ け に,こ
こ
ま で徹 底 して ふ りか え った,漢 語 以 外 に対 す る大 量 の 漢 字 使 用 の 実 態 は,こ の作 家 の文 体 的 な 特 色 と して 大 きな意 味 を もつ とい え るの で あ る。 最 後 に,内 田 百閒
『山 高 帽 子 』 の 意 表 を つ く漢 字 使 用 の 試 み を紹 介 して,こ の
稿 を結 ぼ う。 これ も当 て 字 の一 種 だ が,そ
の漢 字 の もつ 意 味 や音 よ り も,そ れ を
使 う こ とに よ って 字 面 全 体 に ひ ろが る模 様 を ね らっ た,い わ ば ゲ シ ュ タ ル ト用 法
で あ る。
「長 長 御 無 沙 汰 致 し ま した と申 し度 い とこ ろ長 ら,今 日 ひ るお 目 にか か つた 計 りで は,い
く ら光 陰 が 矢 の 如 く長 れ て もへ ん で す ね。 長 長 しい前 置 き は止
め て,用 件 に移 りた い の で す けれ ど,生 憎 な ん に も用 事長 い の です 。 止 む な く窓 の 外 を長 め て ゐ る と,ま つ くら長 ラ ス戸 の 外 に,へ ん 長 らの著 物 を著 た 若 い を ん 長 た つ て ゐ る ら しい の で す 。 び つ く りして 起 ち上 が ら う とす る と, 女 は私 の 方 に長 し 目 を して,そ れ き り消 え ま した 。 私 は ふ し ぎ長 つ か り した 気 持 が し ま した 。 同 時 に二 階 の庇 で いや 長 りが り と云 ふ音 が 聞 こえ ま した。 を ん長 の ぞ い た の は,家 の猫 の い た づ らだ つ た の で せ う。 秋 の 夜 長 の つ れ づ れ に,何 の つ長 り もな い事 を 申 し上 げ ま した。 末 筆 長 ら奥 様 に よ ろ し く」
同 僚 か ら 「貴 方 の顔 は広 い」 「一 月 ぐ らゐ 前 か ら見 る と,倍 で す よ 」 「そ れ は太 つ た と云 ふ 顔 で は あ りませ ん。 ふ くれ 上 が つ て ゐ るの で す 。 は れ て る ん で す。 む くん で る ん で す 」 「も う一 息 で,の 閒が,あ
つ ぺ らぼ う に な る顔 で す 」 とか らか わ れ た百
ま りの 悔 し さ に 「丸 半 日 を潰 し」 て書 い た,顔 の 長 い そ の 相 手 へ の 反撃
の手 紙 で あ る とい う。 仕 返 し を す る以 外 に何 も用 件 が な い か ら,無 理 に で も 「ナ ガ 」 と い う音 の つ な が りを作 り出 し,意 味 と は関 係 な くそ こ に こ とご と く 「長 」 とい う漢 字 を あ て は め て い る。 「ナ ガ 」 で な く 「ガ ナ 」 とな った 箇 所 に は 「長 」 とい う漢 字 を上 下 ひ っ く りか え して まで 強 引 に は め る。 そ の 結 果,ま
る で地 模 様 の よ う に 「長 」 とい
う漢 字 の ち りば め ら れ た 字 面 が で きあ が る。 相 手 は手 紙 を読 む まで もな く,手 に 取 っ て その 字 面 を 眺 め るだ け で,「 長 」 の 字 の ネ ッ トワー ク にか ら め と られ る感 じが す る こ とだ ろ う。 音 と意 味 との統 合 した 記 号 と して の漢 字 の 機 能 は,こ い。 この 場 合 は む し ろ,そ
こに ば ら まか れ た18個
こで は さほ ど重 要 で は な
の 「長 」 に よ っ て 書 面 上 に形
成 さ れ る全 体 の 模 様 が 効 果 的 に働 い て い る。 「長 」 とい う漢 字 の 意 味 が ま っ た く 消 え 去 るわ け で は な い が,そ れ は線 条 的 に 流 れ る言 語 表 現 本 来 の伝 達効 果 とは 明 らか に 異 質 だ 。 絵 画 的 な映 像 効 果 に近 い性 質 を帯 び て い る不 思 議 な例 で あ る。
文
献
(本文 中 に 引用 した もの の み) 内 田百閒(1971)『
内 田百閒 全 集 』第 一 巻,講 談 社
蒲 生 芳 郎(1988)「〓
外 と漢 字 」 漢字 講 座 9 『 近 代 文 学 と漢 字 』明 治 書院
川 上 弘 美(2001)『
セ ンセ イの 鞄 』平 凡 社
清 水 良 典(2000)「
解説」『 椋 鳥 日記 』(小 沼 丹)講 談社 文 芸文 庫
中村 明(1958)「
コ トバ の美 と力」 講 座 コ トバ の科 学 5 『コ トバ の美学 』 中 山書 店
中村 明(1977)『
作 家 の 文体 』 筑摩 書 房(現 行 版 はち くま学芸 文 庫)
半 沢 幹 一(1988)「
二 葉 亭 四迷 の 漢字 」 漢 字講 座 9 『 近 代 文 学 と漢 字 』 明治 書 院
安 本 美 典(1965)『
文 章 心理 学 入 門』 誠 信 書房
② マ ンガ の 漢 字
小矢野哲夫 ● 1 現 在,マ
ン ガ は ど う読 まれ て い る の か
マ ンガ は現 代 日本 に お け る言 語 文 化 の 一 つ と し て位 置 づ け う る。 マ ンガ に使 わ れ て い る漢 字 を考 察 す るの が 本 章 の テ ー マ で あ る。 現 在,各 新 聞,単
種 の マ ンガ が 読 まれ て い る。 マ ンガ の 媒 体 と して は月 刊 誌,週
刊誌
行 本 な どが あ る。 月刊 誌 や 週 刊 誌 に はマ ン ガ専 門 の もの もあ る。 読 む対
象 に よ って,少 年 マ ンガ,少 女 マ ン ガ,ヤ
ン グ ・コ ミ ック,レ デ ィ ス ・コ ミ ッ ク
な どに 分類 され る。 しか し,す べ て の ジ ャ ンル の マ ン ガ を調 査 対 象 とす る こ と は 困 難 な の で,本 章 で は,マ
ン ガ を限 定 し,筆 者 の 子 ど もが よ く読 ん で い る少 年 マ
ン ガ を 中 心 に,観 察 し,考 察 す る。 必 要 に応 じて 少 女 マ ンガ も参 照 す る。 子 ど も に聞 く と,マ ンガ を読 む と き に,絵 だ け を見 る こ と もあ る し,言 語 表 現 を読 む こ と も あ る の だ そ うだ 。 連 載 マ ン ガ は雑 誌 が 発 売 さ れ る と同 時 に 買 っ て読 み,同
じ雑 誌 を何 度 も繰 り返 し読 ん で い る。 せ りふ を覚 え て し ま う こ と も あ る。
近 年,マ
ンガ の テ レ ビア ニ メ化 が 盛 んで あ る。劇 場 映 画 化,テ
レ ビ ドラ マ 化 さ
れ て い る もの も あ る。 ア ニ メの 場 合 は声 優 が 言語 表 現 を担 う。 絵 柄 の躍 動 感 は動 画 に よ っ て構 成 され る。 色 彩 や 光,音
響 や 音 楽,効
果 音 な ど もア ニ メ に相 乗 効 果
を 生 み 出 して視 聴 者 に迫 る。 子 ど も は,ア ニ メ の 動 きや 声 優 の 声 を想 像 し なが ら マ ンガ を読 ん で い る こ と も考 え られ る。 現 に,ア ニ メ で繰 り返 され るせ りふ を真 似 す る こ とが あ る。 マ ン ガ の 連 続 す る コマ とコ マ を,ア ニ メ の動 き を連 想 して 補
い な が ら読 ん で い る と も考 え られ る。 筆 者 が 子 ど もの こ ろ と は違 った マ ンガ の読 み 方 が 行 わ れ て い る と考 え る の が い い だ ろ う。 ア ニ メ の 声 優 の 声 は,マ ン ガ で は 文 字 に よ る言 語 表 現 に置 き換 え られ て い る。 声 に は大 小 や 高 低 と い った パ ラ 言語 要 素(非 言 語 要 素)が
あ るが,マ
ン ガ で はそ
の パ ラ言 語 要 素 が 文 字 のサ イ ズ や字 体 や 飾 りに よ っ て表 現 され る。 マ ン ガ の 文 字 に よ る言 語 表 現 は子 ど もが 読 む教 科 書 の 言 語 表 現 とは異 な り,生 の声 の 息 遣 い を 感 じ る こ とが 出来 る よ う に工 夫 され て い る。 仮 想 現 実 の世 界 を描 くマ ンガ は,黙 読 で あ っ て も内 な る声 を通 じて,単 な る観 念 的 な読 み で は な く,身 体 動 作 と して 読 まれ て い る だ ろ う。 マ ンガ は,一 面 に お い て は絵 で あ る。 極 端 な 場 合,言
語 表 現 の な い マ ンガ もあ
る。 言 語 表 現 の な い絵 本 や 写真 と似 て い る。 絵 と して の マ ン ガ は絵 柄 に よ っ て意 味 を読 み 取 る こ とに な る。 マ ンガ は通 常,複 数 の絵(コ して い る。 この 点 で,語 た静 止 画 で あ るが,無
マ)が 連 続 的 に組 み 合 わ さ っ て ス トー リー を形 成
りの な い紙 芝 居 に も似 て い る。 マ ンガ は 印刷 媒 体 を使 っ
声 映 画 や 音 を消 して 見 る テ レ ビ ドラ マ の よ うな 映 像 に も通
じ る面 が あ る。 しか し,た い て い の マ ンガ に は言 語 表 現 が 伴 っ て お り,絵 と一 体 とな っ て受 容 され て い る。 マ ンガ の 絵 に は躍 動 感 が 表 現 さ れ た り,心 的状 態 や 対 人 的 態 度 や心 理 が 描 か れ た りす る。 それ を補 完 す る の が 言 語 表 現 で あ る 。
● 2 マ ンガ の表 現 ・伝 達 機 能
こ うい った 現 状 にお い て,印 刷 され た マ ンガ にお け る文 字 に よ る言 語 表 現 は ど ん な機 能 を持 っ て い る と考 え れ ば い い の だ ろ うか 。 マ ンガ は,言 語 表 現 が 伴 っ て い な くて も,見 る もの にイ メー ジ を喚 起 し,メ セ ー ジ を伝 達 す る こ とが 可 能 で あ り,あ る程 度,そ
ッ
の 表 現 内容 を理 解 す る こ とが
で き る。 マ ンガ に言 語 表 現 が 伴 っ て い て も,そ の 言 語 が 外 国 語 で あ る場 合 は,言 語 に よ る表 現 内 容 を理 解 す る こ とが で き な い。 しか し,絵 を見 る だ け で,あ
る程 度,ス
トー リー や 人 物 の 心 情 とい っ た 内容 面 を理 解 す る こ とが で き る。 文 字 が 読 め な い 年 少 者 で も,マ ンガ の 絵 を見 る だ けで,そ
れ な りに何 か を理 解 して い るだ ろ う。
ア ニ メ に な っ た 場 合 で も,「 トム とジ ェ リー 」 の よ う に,ほ の が あ るが,動 し,テ
きや 表 情 や 場 面 に よ って,お
お よ そ の 内容 を つ か む こ とが 出来 る
レ ビの 音 声 を消 して 見 る こ と も可 能 で,内
し,事 実,子 で は,マ
とん ど音 声 の な い も
容 は か な り理 解 で き る だ ろ う
ど も は楽 し ん で見 て い る。
ン ガ に と っ て,文 字 に よ る言 語 表 現 は どん な意 味 を持 つ の か 。
絵 が 主 で,言 語 表 現 が 従 の関 係 な の だ ろ うか 。 逆 の,言 語 表 現 が 主 で,絵 の 関 係 な の だ ろ うか 。 後 者 な らば,絵 っ て,マ
は挿 絵 で あ っ て,マ
が従
ンガ で は な い。 した が
ン ガ に と って,文 字 に よ る 言 語 表 現 は従 属 的 な位 置 に あ る と考 え られ
る。 な らば,そ
の言 語 表 現 に お い て,文 字 が 果 た す 役 割 は何 だ ろ う。 総 ル ビの 少 年
マ ン ガ や 少 女 マ ン ガ で は,ひ
らが な とカ タ カ ナ が 読 め れ ば,読 者 に とっ て,マ
ン
ガ の 言 語 表 現 と して の 機 能 は達 成 され て い る と言 え る。 しか し,実 際 に は,マ ン ガ の言 語 表 現 に,漢 字,ひ
らが な,カ
タ カ ナ,ロ ー マ
字 な どが使 用 さ れ て い る。 この よ う に複 数 の文 字 種 を使 用 して 言 語 表 現 を行 う こ と は,マ
ンガ に 限 らず,文 字 に よ る言 語 表 現 一 般 に共 通 す る こ とが らで あ る。 マ
ンガ 作 家 は,ス て,ひ
トー リー を考 え,絵
を描 い て,言 語 表 現 を加 え る。 読 者 を想 定 し
らが な だ け で 書 くか,漢 字 交 じ りで 書 くか とい っ た こ と を決 定 す る。 漢 字
交 じ りで 書 く とき で も,幅 広 い年 齢 層 の 読 者 の こ とを考 えて ル ビ を振 る。 ル ビが あ る と,ひ らが な とカ タカ ナが 読 め る年 少 の読 者 もマ ン ガ を 見 て,読
む こ とが で
き る。 小 学 校 1年 生 の 子 ど もは夢 中 にな っ て マ ンガ を読 ん で い る。 本 講 座 は横 組 み で編 集 され て い る 。 事 務 文 書 で も 白書 な どの 政 府 刊 行 物 で も横 書 きが 主 流 で あ る。 横 書 きの 日本 語 表 現 は,小 中 高 校 の 教 科 書 の,国 語 を 除 くほ とん ど の教 科 で 見 られ る 。 し か し,部 分 的 に 横 書 き に な っ て い る こ とが あ る もの の,新 聞 や 雑 誌 は,た
い て い が 縦 書 きで あ る。 日本 語 の 文 字 表 現 にお け る伝 統 にの っ とっ た 方 式
で あ る。 マ ンガ も この例 に もれ ず,縦 品 の タ イ トル や,コ
書 きが 基 本 で あ り主 流 で あ る。 た だ し,作
マ の 中 の 掲 示 文 書,案
内板,看
板 な どが横 書 き に な っ て い る
こ と もあ る。
慣 れ の 問 題 で もあ ろ うが,縦
書 き にす る と,そ れ を斜 め に 書 い て,勢 い を表 現
す る こ とが で き る。 漢 字 は縦 書 き に な じん で い る と い え そ うで あ る。 た だ し,か な で書 か れ る擬 音 語 や 擬 態 語 の 場 合 に は,横 書 きで あ っ て も程 度 強 調 の 手 段 とし て 波 形 の文 字 配 列 や,左
か ら右 にか け て,文 字 サ イ ズ を大 き い もの か ら次 第 に小
さ い もの へ と い っ た 配 列 が 可 能 で あ る。 マ ンガ に お い て は縦 書 き と横 書 きが 混 在 し て い て,平 面 的 で視 覚 的 な表 現 方 法 で あ りな が ら,立 体 感 を構 成 して い る とい った 点 で,他
の言 語 表 現 とは違 った 効 果 を実 現 して い る とい え る だ ろ う。
こ の よ う に,言 語 表 現 と一 体 とな った マ ンガ は,表 現 ・伝 達 に お い て 十 分 に機 能 を発 揮 して い る の で あ る。
● 3 言語 表現 にお ける漢字 の機 能
普 通,文
章 は漢 字 か な交 じ りで 書 く。 実 質 概 念 を表 す 語 を 漢 字 や カ タ カ ナ や ロ
ー マ 字 で書 き,実 質 概 念 の乏 しい 語 や 文 法 的 関係 や モ ダ リテ イ を表 す形 式 をひ ら が なで 書 く。 漢 語 を 漢 字 で 書 き,和 語 を ひ らが な で 書 く とい う試 み も,一 般 の 文 章 で は行 わ れ て い る。 小 学 校 の 国 語 教 科 書 に は学 年 ご と に 新 出 漢 字 が 掲 出 さ れ,文 る。 小 学 校 教 育 全 体 で は1006字
章 中 に使 用 され
が 教 育 漢 字 と して 教 授 さ れ,学 年 配 当 の漢 字 が
示 され て い る。 小 学 校 1年 生 か ら,習 った 漢 字 を で き る だ け使 っ て文 章 を書 く, す なわ ち,い わ ゆ る交 ぜ 書 きを す る よ う に指 導 を 受 け,漢 字 の 読 み と書 き を習 得 して い く。 国 語 の 教 科 書 で は そ れ が は っ き り と実 現 され て い る。 小 学 生 は,自 分 の名 前 も,既 習漢 字 で あ れ ば交 ぜ 書 き で使 う こ とに な る。 た と え ば,筆 者 が 小 学 生 だ とす る と,1 年 生 で 「小 」,2 年 生 で 「矢 」 と 「野 」 を習 う の で,3 年 生 の 段 階 で は 「小 矢 野 」 と書 け る。 さ らに,4 年 生 で 「夫 」 を習 うが, 「哲 」 は 小 学 校 で は習 わ な い 。 した が っ て,6 年 生 の 終 わ りの段 階 で は,「 小 矢 野 て つ 夫 」 とい う表 記 に な る。 しか し,実 際 に は,6 年 生 に もな れ ば,自 分 の 名 前 の 漢 字 の部 分 は,既 習 ・未 習 に 関 わ らず,一 般 的 な 表 記 法 に した が っ て 漢 字 で 表 記 す る。
子 ど もが 日常 の 言 語 生 活 で 接 触 す る漢 字 はた く さん あ る。 小 学 校 教 育 で 指 導 さ れ る教 育 漢 字 を 含 む 常 用 漢 字 表 の漢 字1945字
だ け で な く,人 名 漢 字 に も接 触 す
る。 子 ど もは,学 校 で 習 う以 前 に生 活 の 中 で か なや 漢字 を形 態 と して 認 識 し て い る こ とが 多 く,か なや 漢 字 に興 味 を持 つ よ う に な る と,次 々 に習 得 して い く。 幼 児 が マ ンガ を読 む こ とは,ひ 果 が あ り,さ
らに は各 種 の語 彙 や 語 の用 法 を 覚 え る の に効 果 が あ る と考 え られ
る。 親 と して は,け もの 活 字 離 れ,文 て,マ
らが なや カ タ カ ナ や 漢 字 な どの 文 字 を覚 え るの に効
っ して マ ンガ 全 般 を否 定 的 に捉 え る必 要 は な い だ ろ う。 子 ど
字 離 れ が 言 わ れ るが,読 書 の概 念 に マ ンガ を含 め る こ と に よ っ
ンガ の 効 用 につ い て も,大 人 は認 識 を新 た に す る必 要 が あ る。 この よ う な
読 書 に よ っ て,子
ど もは,学 校 で の 未 習 の 漢 字 に接 し,学 び,覚
え て い く。 漢 字
学 習 は学 校 教 育 だ け に頼 っ て い るわ けで は な い し,学 校 教 育 の 中 だ け で達 成 され る も ので もな い。 ふ だ ん子 ど もが マ ンガ を読 ん で い る様 子 を見 て い る 実感 や,本 章 の 考 察 の た め に 調 査 し分 析 し た 結 果 と して,マ
ン ガ の 効 用 を 指 摘 して お きた
い。
● 4 マ ン ガ にお け る漢 字 のル ビ の機 能
ル ビ と漢 字 につ い て は他 の章 で扱 わ れ るが,普 通 の 文 章 に お け るル ビ の振 り方 とは異 な る特 徴 が 見 られ る ので,漢
字使 用 との 関 わ りに お い て,い
くつ か指 摘 し
て お く。 少 年 マ ン ガ と少 女 マ ンガ に は総 ル ビの 作 品 が 多 い 。 読 者 層 が 少 年 ・少 女 に 限 定 され ず,特
に少 年 マ ンガ の 読 者 層 は若 い サ ラ リー マ ン に まで 広 が って い る。 総 ル
ビ は この こ とに配 慮 した処 置 で あ ろ う。 ひ らが な が 読 め る子 ど も はル ビ を頼 りに マ ンガ を読 み 進 め る。 絵 本 感 覚 で文 字 を見 な い で 絵 だ け を見 てペ ー ジ を繰 る場 合 もあ る。 ル ビ を読 ん で い て,新
出語 や
聞 い た こ との な い 言 い 回 しに 出会 う と,親 な ど に 意 味 を尋 ね る。 筆 者 の 子 ど も は,ル
ビの こ とを,「 読 み 方 を教 え て くれ る」 と捉 えて い る 。 ル ビが な い と き は,
「教 え て くれ な い 」 と言 って,読
む の をや め る こ とが あ る。
この よ うな マ ン ガ の 読 み 方 を通 し て,言 葉 の形 態 と意 味 と を獲 得 して い くよ う
で あ る。 そ して,同
じ表 現 に繰 り返 し 出会 う こ と に よ り,ル ビの本 体 で あ る漢 字
の形 態 も理 解 す る よ う に な り,漢 字 を使 っ た 言 葉 とそ の概 念 を 結合 す る こ とに な る。 ル ビ は年 少 の読 者 に対 す る漢 字 学 習 上 の教 育効 果 が 大 きい と考 え られ る。 最 近 の 小 学 生 の 学 習 雑 誌 は マ ン ガ の 占 め る割 合 が 多 い と思 わ れ る。 『小 学 四 年 生 』(2002年
7月 号,小
学 館)の 表 紙 を見 る と,左 上 に小 さ く,「 6年 生 まで の学
習 漢 字 使 用 」 と書 い て あ る。 表 紙 に は 「大 興 奮 」 「大 観 戦 」 「究 極 」 「巻 頭 企 画 」 「運 勢 」 な どの 語 が ル ビ な しで 書 か れ て い るが,「 興 」 「企 」 は教 育 漢 字 外 の 漢 字 で あ る。 本 文 の マ ン ガ は 総 ル ビで,「 撮 影 」 「毒 味 」 「邪 悪 」 「幻 影 」 「聖 獣 」 「降 臨 」 「追 撃 」 「捕 獲 」 な ど の語 が 使 わ れ て い る。 この う ち 「撮 」 「影 」 「邪 」 「幻 」 「獣 」 「撃 」 「捕 」 「 獲 」 は教 育 漢 字 外 の漢 字 で あ る。 「6年 生 ま で の 学 習 漢 字 使 用 」 と い うの は,マ
ンガ と表 紙 に は 適 用 さ れ ず,読
み物 に適用 され る もので あ ろ う
か 。 それ に して も,読 み物 の 中 に も,「 衣 装 」 の 「 装 」,「活 躍 」 の 「躍 」,「冷 凍 」 の 「凍 」,「撮 影 」 「豪 華 」 「踊 る」 「歳 」 な ど,教 育 漢 字 表 外 の漢 字 が 使 用 され て い る。 また,「 ふ ろ く」 と書 い て あ る。 「ふ ろ く」 は 「付 録 」 また は 「附 録 」 と書 き, い ず れ も常 用漢 字 表 の漢 字 で あ る。 「付 」 は教 育 漢 字 に入 っ て い るが,「 録 」 は入 っ て い な い の で,交 ぜ 書 き を避 け た の で あ ろ うか 。 しか し,マ ン ガ の 中 で は 「た ん 生 日」 とい う交 ぜ 書 きが使 わ れ て い るの で,交 ぜ 書 き を避 け て い る とは 断定 で き な い。 「ふ ろ く」 の 表 記 で,具 体 的 な 概 念 を 持 っ た 一 つ の 単 語 で あ る と い う認 識 が あ るの だ ろ うか 。 さ て,ル
ビの 振 り方 の 基 本 は,漢 字 語 の 場 合,た
み の規 則 に した が っ て,ひ
い て い は漢 字 の 音 読 み や 訓読
らが な で読 み 方 を示 す 。筆 者 が 子 ど もの こ ろ は そ うだ
った 。 しか し,最 近 の マ ンガ を見 る と,漢 字 の音 読 み や 訓 読 み に 関 係 な く,外 来 語 な い しは 外 国 語 の カ タ カナ 表 記 で 漢 字 の わ きに ル ビ を振 る こ とが さか ん に行 わ れ て い る。 一例 を示 して み よ う。
「四方 封印 陣 」(青 木 た か お 「ベ イ ブ レ ー ド」) 「勝 利 竜 巻 」(青 木 た か お 「ベ イ ブ レ ー ド」) 「音 速 突 破 」(て し ろ ぎた か し 「音 速 バ ス タDANGUN弾
」)
「烈 風 銀 河 」(て し ろ ぎた か し 「 音 速 バ ス タDANGUN弾
」)
(以 上 の 用 例 は 『コ ロ コ ロ コ ミ ッ ク 』2002年
これ らのル ビの 振 り方 を見 る と,漢 字 の 音 読 みが 出来,か 理 解 で きた 上 で,さ
つ,漢
3月 号 か ら)
字 語 の概 念 が
らに外 国 語 との連 関 を理 解 す る能 力 の あ る読 者 しか,漢 字 表
記 とカ タカ ナ ル ビの 関 係 を知 る こ とが 出 来 な い の で は な い か と思 わ れ る。 マ ン ガ が テ レ ビア ニ メ化 され て い る場 合 は,た
と え ば 「トル ネ ー ドギ ャ ラ ク シー 」 とい
う言 葉 が 耳 か ら入 っ て お り,具 体 的 な場 面 と結 合 して一 定 の概 念 を形 成 し て い る と考 え られ る。 この よ う な形 式 と概 念 の結 合 が,ル
ビ と して の 「トル ネ ー ドギ ャ
ラ ク シ ー」 と結 び つ き,や が て,「 烈 風 」 や 「銀 河 」 とい っ た 語 の 通 常 の 読 み 方 と概 念 を習 得 し,「 烈 風 銀 河 」 と 「トル ネ ー ドギ ャ ラ ク シ ー 」 との結 合 へ と至 る の で あ る と考 え られ る。 筆 者 に は,日 常 語 と して,「 銀 河 」 を意 味 す る 「ギ ャ ラ ク シ ー 」 や,「 音 速 」 を意 味 す る 「ソニ ッ ク」 は,使 用 語 彙 に は も ち ろ ん な く, 理 解 語 彙 と して もな い 。 こ う い っ た,外 来 語 な い し は外 国 語 が 耳 か ら入 り,や が て 漢 字 語 と連 合 す る とい う現 象 が マ ンガ の世 界 に お い て 実 現 して い る の で は な い か と想 像 す る。 マ ン ガ の漢 字 の ル ビの 振 り方 で興 味 深 い もの が あ る。Ⅰ,Ⅱ
は コ マ を表 す 。
Ⅰ 「い わ ゆ る全 盛 期 っ て や つ だ … …!!」 Ⅱ 「た ぶ ん て ん ど ん は今 が 全 盛 期 な ん だ ろ う… … 」 (島袋 光 年 「世 紀 末 リー ダ ー伝 た け し !」 『 週 刊 少 年 ジ ャ ン プ』 2002(平
成14)年
2 月25日
号,p.75)
この 2箇所 の 「全 盛 期 」 で,Ⅰ の コ マ の ル ビ は 「ぜ ん せ い き」 で,Ⅱ
のコマの
ル ビ は 「それ 」 で あ る。 「ぜ ん せ い き」 は通 常 の ル ビ の振 り方 の 規 則 に した が っ て い る。 つ ま り,発 話 の 中で 「ぜ ん せ い き」 と発 音 す る こ と を示 して い る。 この 二 つ の発 話 の 話 し手 は 同 じだ が,コ マ が 変 わ っ て お り,Ⅱ の コマ で 使 わ れ た 指 示 語 「それ 」 が 発 話 の 中 で 発 音 さ れ る形 で あ る こ と を示 して い る。 発 話 の 流 れ か ら 判 断 す る と,「 そ れ 」 の 指 示 対 象 が 何 で あ る か は 理 解 で き る の だ が,指 示 対 象 が
Iの コ マ の 先 行 発 話 に お い て 出現 して い る 「全 盛 期 」 あ る い は 「ぜ んせ い き」 で あ る こ とが 明 確 に読 み 手 に分 か る よ う にす る た め に,こ の よ う なル ビ に した もの と考 え られ る。 通 常 の 文 章 表 現 で は 見 られ な い ル ビ の振 り方 で あ り,漢 字 の 使 い 方 で あ る。 会 話 で は同 語 反 復 を避 け る た め に,こ な こ とが,他
うい った 指 示 語 が使 わ れ るが,同
じよう
の指 示語 に も見 られ る。
対 称 詞 の 例 「お ま え」 は 目 の 前 の 相 手 を 指 す 人 称 代 名 詞 で あ る。 対 面 型 で あ れ,非 対 面 型 で あ れ,コ
ミュ ニ ケ ー シ ョ ン は話 し手 と聞 き手 との間 に成 り立 つ も
の で あ る。 マ ン ガ で は,登 場 人 物 の だ れ もが 自分 の こ と を 自称 詞 で 表 現 で き,聞 き手 を対 称 詞 で表 現 で き る。 した が っ て,コ マ に描 か れ た 人 物 が だ れ で あ るか , そ こ に描 か れ て い る の が 話 し手 だ け な の か,聞
き手 も含 ま れ て い る の か に よ っ
て,対 称 詞 を ど う表 現 す る の か が 異 な っ て くる。 『コ ロ コ ロ コ ミ ッ ク』(2002年 ろ ぎ た か し)のp.714か
らp.715に
文 と して 再 現 して み る。()内 会,百
3月 号)の
「 音 速 バ ス タDANGUN弾
か け て,Ⅰ か らⅢ を コマ,①
」(て し か ら ④ を会 話
に コマ の 絵 の状 況 を示 す 。 「ダ ンガ ン レー ス 県大
目鬼 慧 の 弟,反 町 レオ と戦 う こ と に な っ た隼 音 弾 。 だが 勝 負 は百 目鬼 の卑
劣 な 行 為 に よ り,反 町 の マ シ ンが レ ー ス 中 に大 爆 発,メ
チ ャメ チ ャ に され て し ま
っ た 。 勝 つ た め な ら,弟 さ え見 捨 て る百 目鬼 に対 し,弾 は激 しい 怒 りを覚 え る。」 (p.714)と
い う前 号 まで の ス トー リー を受 け て,こ
のペ ー ジが 始 ま る。
Ⅰ (百 目 鬼 が ラ イ タ ー を 「カ チ ツ カ チ ツ」 と 鳴 ら し な が ら 弾 に 近 づ い て
く る 。 弾 に 向 か っ て)
「① ラ ッ キ ー だ っ た な 。 ② … … 弾 も ろ と も と 思 っ た ん だ が 。」(p.714)
Ⅱ (「カ チ ツ カ チ ツ 」 と ラ イ タ ー を 鳴 ら す)(p.715) Ⅲ (弾 が 百 目 鬼 に 向 か っ て)
「③ ま … ま さ か,④
百 目鬼 が … … 。」(p.715)
登 場 人 物 の名 前 は読 者 に は す で に知 られ て い るが,連 載 の この号 の最 初 の 場 面 であ り,相 手 が だ れ で あ る の か を明 示 す る た め に,こ の よ う な表 記 が な され た も
の と考 え られ る。 この 作 品 に は,さ
らに,他 称 詞 の例 もあ る。 他 称 詞 は基 本 的 に話 し手 及 び 聞 き
手 双 方 と対 立 す る位 置 に あ る人 物 な い し事 物 を指 示 す る もの で あ る。 レー ス 中 の コマ で 沖 田が 叫 ぶ 。
「① ザ コ ど もは オ レ に任 せ ろ ② 弾 は百 目鬼 を追 え !!」(p.738)
② の 「百 目鬼 」 が 他 称 詞 の例 で あ る。 場 所 の 代 名 詞 の例 も あ る。 「高 校 」 に 「こ こ」 とル ビ を振 っ て い る例 。
「 ① うー ん あ た し も よー ち え ん ま で だ っ た か ら な あ ② で も高 校 で は あ ん な か ん じ だ よ 頭 は め つ ち ゃ よ くな った け ど」 (片岡 吉 乃 「煩 悩 ク ラ ス」 『別 冊 マ ー ガ レ ッ ト』2002年
8月 号,p.21)
「こ こ」 と言 え ば,基 本 的 に は 発 話 の 現 場 を指 示 す る。 具 体 的 な 発 話 場 面 で は 聞 き手 に了 解 され て い る こ とで あ る し,通 常 の文 章 表 現 で は先 行 文 脈 に指 示 対 象 が 示 され て い る。 しか し,マ ンガ で は,コ マ で 描 か れ て い る のが どの場 所 で あ る の か と い う こ とが 必 ず し もは っ き り して い るわ け で は な い 。 会 話 の展 開 に お い て 推 測 可 能 な場 合 もあ る けれ ど も,そ
して そ の 場 合 に は,こ の よ う な ル ビ は必 要 な
い の だ けれ ど も,問 題 に し て い るケ ー ス で は,こ の よ うな 表 記 方 法 を と る必 要 が あ っ た の だ と考 え られ る。 幼 稚 園 で の様 子 との対 比 に お い て 発 話 時 に 高校 生 に な っ て い るた め に,そ の状 況 を こ の よ う に して 示 し て い る の で あ る。 「韓 国 」 に 「こ っち 」 とル ビ を振 っ て い る例 。
Ⅰ 「 ① お い! 見 ろ よ コ レ! ゃ,ま Ⅱ「①
ウ ワ サ の ド ラ グ ー ン V だ ぜ!②
韓国 じ
だ発売 されていな いのに……」
とい う こ と は… … ②
「③ え …?
う,う
ん 。」
き み,日
本 か ら来 た ブ レ ー ダ ー な の か!」
(お お せ よ し お 「爆 転HEROブ
レ ー ダ ーDJ」
『コ ロ コ ロ コ ミ ッ ク 』
2002年
Ⅰ の コ マ の ① と ②,Ⅱ
3 月 号,p.300)
の コマ の ① と ② は韓 国 の少 年 の 発 話 で あ る。 韓 国 で
もベ イ ブ レ ー ドの人 気 が 高 く,本 場 の 日本 に追 い つ く勢 い に あ る とい っ た状 況 を 描 い て い る 。 韓 国 の 少 年 が 本 場 日本 の ベ イ ブ レー ド事 情 に 通 じ て い て,新
しい種
類 のベ イ ブ レ ー ドを見 て,「 あ っ ち」 の 日本 を 意 識 し て,自 分 の 国 を 「こっ ち 」 と捉 え る意 識 が 表 現 され て い る と考 え られ る。
● 5 漢 字の字種
マ ンガ に使 用 され る漢 字 の 字 種 は,基 本 的 に は常 用 漢 字 表 及 び 人 名 用 漢 字 に準 拠 して い る と考 え られ るが,ス た が っ て,常
トー リー に よ って は,特 殊 な語 彙 が 使 用 さ れ,し
用 漢 字 表 以 外 の 漢 字 も使 用 され る。
「髑髏 」 「喰 う 」 「鬼哭啾
々」
(武井 宏 之 「シ ャ ー マ ンキ ン グ」 『 週 刊 少 年 ジ ャ ン プ』2002年
2月25日 号)
「憑 く」 (水 都 あ くあ 「ミ ル ク ク ラ ウ ンLovers」
『少 女 コ ミ ッ ク 』2002年
8月 5 日 号)
「刮 」 (鈴 木 信 也 「Mr. FULLSWING」
『 週 刊 少 年 ジ ャ ン プ 』2002年
4月29日
号)
ひ らが な書 きが 普 通 だ と考 え られ る語 を漢 字 で表 記 す る こ とも あ る。
「成 程 」 「尚 の 事 」 「其 」 「馳 走 に な った 」 (小林 ゆ き 「あ っ け ら貫 刃 帖 」 『 週 刊 少 年 ジ ャ ン プ』2002年
2月25日 号)
この 作 品 は 時代 劇 で あ る。 漢 字 で 表 記 す る こ とに よ って,発 話 者 の重 厚 さ,表 現 の仕 方 の 重 々 し さ を表 現 し よ う と した もの だ と考 え られ る。 同 じ語 を文 字 で ど う表 記 す るの か 。 表 記 の 仕 方 で伝 達 効 果 に差 が 出 るの か 。 同 じ語 を漢 字 で表 記 す る作 品 も あ れ ば,ひ
らが な や カ タ カ ナ で 表 記 す る作 品 も あ
る。 例 え ば,「 最 高 」 「最 低 」 「最 悪 」 な ど は,報 道 の文 章 の 中 の通 常 の語 と し て な ら漢 字 で 表 記 され る はず だ が,若 者 が 使 う こ とば と して な ら 「サ イ コ ー」 「サ イ テ ー 」 「サ イ ア ク」 な ど とカ タ カ ナ で 表 記 され る こ と もあ る。 漢 字 表 記 が 無 標 で あ り,カ タ カ ナ 表 記 が有 標 で あ る とみ な す こ とが で き る。
「あ ん た サ イ テ ー!!」 (大 内 水 軍
「怪 傑!金
剛 く ん 」 『コ ロ コ ロ コ ミ ッ ク 』2002年
3 月 号)
「① な ん な の お ま え 嫌 い じ ゃ な い か らっ て な ん だ よ ② こ ん な 女 だ な んて思 わなか った ③ サ イアク」 (宇佐 美 多 恵 「トモ ダ チ以 上 ×H未 満 」『少 女 コ ミッ ク』2002年16号,p.437)
Ⅰ 「①(未 来 の 友 だ ち)未 来!こ 「②(未 来)う
そ お っ」
Ⅱ 「①(未 来)サ
イ ア クー 」
「②(哲 平)あ
れー
の 前 の テ ス ト 平 均 以 下 は居 残 りだ っ て !!」
未 来 も しか して 居 残 り組?」
(宇佐 美 多 恵 「トモ ダ チ 以 上 ×H未 満 」『少 女 コ ミッ ク』2002年16号,p.424)
しか し,若 者 こ とば で あ って も,「 超 最 悪 」 「最 低 」 とい う表 記 もあ る。 ル ビ付 き で あ る。
「① もー っ
う ち の お母 さ ん て
時 々 あ あ な の ② 冷 蔵 庫 の 中 の もの 処 分 し
て る と しか 思 え な い もん 作 った りす るん だ もん ③ 超 最 悪 っ 」 (坂 もち板 子 「ハ ッ ピ ー ・ラ イ ス の作 り方 」 『別 冊 マ ー ガ レ ッ ト』 2002年
8月号,p.250)
「最 低 ー !!」 (榎 本 ち つ る 「花 ま るGO!GO!
「学 校 」 「趣 味 」 「調 子 」 「感 謝 」 な ど を,そ
」 『り ぼ ん 』2002年
れ ぞれ
3月 号, p.29)
「が っ こ ー 」 「ガ ッ コ 」 「シ ュ
ミ 」 「チ ョ ー シ 」 「カ ン シ ャ 」 と表 記 し て い る 例 が あ る 。
「① ね え 今 日 も 放 課 後 体 育 館 行 く?」 「② 行 くよ ー 寿 々 喜 くん 見 た ー い 」 「③ 今 ウ チ の ガ ッコ の 女 子 の 間 で は ど う した 事 か 」 (咲 坂 伊 緒
「私 の 恋 人 」 『別 冊 マ ー ガ レ ッ ト』2002年
8月 号,p.366)
「① あ で も こ こ の が っ こ ー つ て ね ク ラ ス分 け の レベ ル が 激 しー ん だ ② 1組 か ら 6組 まで
ま ん ま成 績 順 な の 」
(片 岡 吉 乃 「煩 悩 ク ラ ス」 『別 冊 マ ー ガ レ ッ ト』2002年
この 「煩 悩 ク ラ ス 」 は比 較 的,か
8月 号,p.17)
な 書 きが 多 い。 他 に
「む う ー りで ー す 」(無 理 で す) 「転 校 生 を し ょ ー か い す る ぞ 」 「う う ん い ー よ へ ー き 」 「血 ィ ふ か せ る の シ ュ ミ と か 」 「横 山 セ ン パ イ こ ん に ち わ ー 」 「チ ヨ ー シ の ん な や ん な ら 真 剣 勝 負 し ろ よ っ 」
な どが あ る。 ア ンバ ラ ンス な印 象 を受 け る。 「ち ゅ う と はん ぱ」 を 「中 途 ハ ンパ 」 と交 ぜ書 き して い る例 も あ る。
「こ う挙 げ て み る と な ん か ホ ン ト 深 田 さ ん て 全 て 中 途 ハ ン パ ね 」 (工 藤 郁 美
「ド ロ ッ プ キ ス 」 『 別 冊 マ ー ガ レ ッ ト』2002年
8月 号,p.327)
「す き」 と い う気 持 ち を表 す の に,同
じ マ ンガ の 中 で 「す き」 「ス キ」 「 好 き」
を混 在 させ て い る例 が あ る。
「っ て オ レ もス着キ なんだけどっ〓」 「Ⅰあ た し は
だい す き
な ん で す … っⅡ ① うわ っ
つ い 力 説 して し ま っ
たー」 「② オ レ も。Ⅲ 大 好 き」 「I… あ た し っⅡ ① ず っ と… ず ー つ と ② は じ め て 会 っ た 時 か らⅢ 深 田 さ ん の こ と好 きな んで す っ… 」 「① な にが 出 て くる か 分 か らな い缶 入 り ドロ ップ み た い ② そ ん な 深 田 さ ん が大好 きです」
(工藤 郁 美 「ドロ ッ プ キ ス」 『別 冊 マ ー ガ レ ッ ト』2002年
発 話 者 の 性 に よ る 区別,同
8月 号)
一 人 の 中 の 心 理 的 な違 い に よ る 区別 はな さ そ うで あ
り,シ ー ン ご とに 感 覚 的 に表 記 して い るの で は な い か と思 わ れ る。
● 6 文 字 の大 き さ
か つ て,程 度 強 調 表 現 の 「超 」 を大 き なサ イ ズ で表 現 した もの が あ っ た 。 最 近 の もの を見 る か ぎ りで は,程 度 強 調 語 や 擬 音 語 を大 きな サ イ ズ で 表 現 す る もの は しば し ば見 られ るが,漢
字 に 限 っ て観 察 した と ころ,該 当 す る もの は な か った 。
程 度 強 調 表 現 以 外 で,漢 字 が 大 き く書 い て あ る もの は,あ
る。
た とえ ば,鈴 木 信 也 「Mr. FULLSWING 」 『少 年 ジ ャ ン プ 』2002年
4月29日
号 に,「 か つ 」 の ル ビ付 きで 「刮 」 の 字 が 大 き く書 か れ て い る。 これ は,野 球 の 打 者 が 片 手 打 ち で ボー ル を真 つ芯 で と らえ た 瞬 間 の シ ー ンで, B5判
見 開 き 2ペ ー ジ に わ た る絵 の左 ペ ー ジ,左 上 に約9cm四
方 の 文 字 で あ る。
「刮 」 は 常 用 漢 字 表 外 の漢 字 で,「 刮 目」 以 外 に は使 わ れ な い文 字 で あ る し,「 刮 」 の 字 義 「こす る」 が 周 知 され て い る と も思 わ れ な い 。 この 絵 の前 の ペ ー ジ に あ る 2コマ は,ボ ー ル が 打 者 の 直 前 に迫 り,打 者 が バ ッ
トを振 ろ う とす る シ ー ンで 「臨 兵 闘 者/皆
陣 裂 在 」 の 呪 文 の よ うな文 字 が あ り,
隣 の コマ に は打 者 が ボ ー ル を と ら え た顔 の 表 情 に 「前 !!」の 文 字 が 書 か れ て い る。 こ うい っ た 場 面 で,マ
ンガ の 読 者 は,文 字 情 報 を ど う捉 え て い るの だ ろ うか 。
筆 者 は,「 臨 兵 闘 者 / 皆 陣 裂 在 」 の文 字 を 飛 ば して,絵
の連 続 を追 い,次 の ペ ー
ジ の 見 開 き 2ペ ー ジ の シー ン に至 り,「 刮 」 の字 を,ル
ビを 無 視 して 横 目 で見 な
が ら ク ラ イ マ ッ ク ス の絵 を 見 る 。 し か し,小 学 校 1年 生 の,筆 者 の 子 ど も は, 「りん ぴ ょ う と う じ ゃ/ か い じ ん れ つ ざ い ぜ ん 」 と読 ん で,意 味 の 把 握 よ り も, 呪 文 の よ うな 言 葉 とし て理 解 し て見 て い た 。 作 者 の 表 現 意 図 は何 で あ った の か 。 漢 字 に注 目 して マ ンガ を読 む読 者 が どれ く らい い る の だ ろ うか 。 筆 者 は,こ
の シ ー ンで の,引 用 した 文 字 情 報 の う ち,「 前 」
の 字 に,目 前 に ボ ー ル を と ら え た こ と以 外 の 意 味 を理 解 し な か っ た し,「 刮 」 の 字 自体 に も字 義 を把 握 す る こ と な く,「 打 っ た ー 」 とい う感 動 を絵 か ら得 た 。 よ くよ く考 えて み る と,「 刮 」 の字 に,「 刮 目」 の 「目 を こす っ て対 象 に注 目す る 」 とい っ た語 義 を理 解 しな い で もな い 。 その 語 義 が,こ の シ ー ン にお け る漢 字 「刮 」 の使 用 に反 映 さ れ て い る の で も あ ろ う。 これ は特 殊 な ケ ー ス で あ ろ う と思 わ れ る。 感 覚 的 に分 か らな く もな いが,マ
ン
ガ の作 者 と,普 通 の 読 者 との 間 に あ る,表 現 と理 解 の ギ ャ ッ プ を示 す も の で は な か ろ うか 。
● 7 漢字の使用比 率
マ ンガ の 中 で漢 字 が どれ く らい の 比 率 で使 用 され て い るの か 。 通 常 の 文 字 に よ る言 語 表 現 に比 べ て 少 ない と,直 感 的 に感 じ る。 少 年 マ ンガ,少 女 マ ンガ で は特 に そ う感 じ る。 主 に会 話 文 や 心 内 発 話 を連 続 させ る こ とで コマ を展 開 し て い く。 し か も,日 常 の話 し言 葉 で 表 現 され る こ とが 多 い と感 じ られ る。 話 し言 葉 で は, そ の表 現 を漢 字 で ど う書 くか とい う こ とを,い
ち い ち反 省 し なが ら,話
した り聞
い た り して い る わ けで はな い。 す で に音 韻 的 形 態 を認 知 し,概 念 を 了 解 して い る こ とを 前 提 と して,表 現 と理 解 を行 っ て い る。 新 聞 の文 章 や 小 説 ・エ ッセ イ な ど
表2.1
マ ンガ にお ける漢字 の使 用比率
「遊 戯 王 」 「テ ニ ス の 王 子 様 」 は 25日
号 か ら 。 「ギ ャ ル ズ 」 は
『週 刊 少 年 ジ ャ ン プ 』2002年2月
『りぼ ん 』2002年3月
号 か ら。 「天 然
は ち み つ 寮 。」 は 『少 女 コ ミ ッ ク 』2002年8月5日
号 か ら。 「ベ イ
ブ レ ー ド」 「ち ょ っ と だ け マ ー メ イ ド」 は 『小 学 四 年 生 』2002年7 月 号 か ら。 「天 声 人 語 」 は 『朝 日 新 聞 』2002年7月28日
は,す
付 か ら。
で に漢 字 を読 む た め の,期 待 さ れ て い る能 力 を持 った 読 者 を前 提 と して 書
か れ て い る た め に,漢 字 の使 用 比 率 が 高 くな っ て も,読 む 側 の 負 担 は 多 くは な く,理 解 に 支 障 が 生 じ る こ と は少 な い。 し か し,マ
ンガ は,同
じ作 品 で あ っ て
も,読 者 層 が 多様 で あ り,絵 だ け で ス トー リー を展 開 す る こ とに,あ 界 と制 約 が あ る と考 え られ る。 し た が って,見
る程 度 の 限
た 目 に も,身 体 感 覚 的 に も,会 話
感 覚 で テ ンポ よ く進 め る こ とが で きる よ う に,実 質 概 念 を託 した 漢 字 の 使 用 を, 極 力,抑 制 す る こ とが 必 要 な の で は な い だ ろ うか 。 マ ンガ の漢 字 を 総 文 字 数 に お け る使 用 比 率 の 点 か ら少 し調 べ て み た(表2.1)。 作 品 の 開始 か ら10ペ ー ジ分 を調 査 した 結 果,マ 均 し て25%前
ンガ で は漢 字 の使 用 比 率 は 平
後 で あ っ た。 ペ ー ジ に よ っ て は,10%に
近 くに達 す る もの まで,さ
満 た な い も の か ら40%
ま ざ まで あ る。 新 聞 の文 章 と比 べ て み る と,マ ン ガ で
は圧 倒 的 に漢 字 の使 用 比 率 が低 い。 新 聞 の 報 道 文 章 で リー ドに当 た る部 分 で は, 漢 字 の 使 用 比 率 が6割
を超 え る も の もあ る。 「天 声 人 語 」 で は約35%で
この 漢 字 とひ らが な との バ ラ ンス が,マ る。 また,作
あった。
ンガ の 内容 面 を 特徴 づ け て い る と も言 え
品 に よっ て は漢 字 よ りカ タ カ ナ の 比 率 の 方 が 高 い もの もあ る。 これ
は外 来 語 の 使 用 の多 さ と比 例 して い る。
③ 広告 の漢 字
金城ふみ子
● 1 は じ め に
広 告 は一 字 千 金,莫 大 な お 金 を 払 うの だ か ら ま ず 分 ら な い こ と は 書 か な い 。 自分 の 利 を 書 い て も不 利 は書 か な い 。 不 利 を言 わ な い の は裁 判 で も許 さ れ て い る。 読 者 の 目 を ひ い て読 ませ,立
っ て歩 ませ,買
い に行 か せ る の だ か
ら並 々 な ら ぬ手 段 で あ る。 (山本 夏 彦 「広 告 」 『世 は 〆切 』1996年 文 藝 春 秋 社,p.123)
現 代 文 化 は 「広 告 文 化 」 とか 「企 業 文 化 」 と呼 ばれ る こ とが あ る。 フ ラ ンス の 社 会 学 者J.ボ ー ド リヤ ー ル は 「消 費 社 会 に お い て 満 足 が 大 き く,ま た 欲 求 の 抑 圧 も大 き い とす る な ら ば,人 々 は満 足 感 と抑 圧 の双 方 を広 告 の イ メ ー ジ と こ と ば の な か で 受 け入 れ る とい う現 象 が生 じて い る と分 析 し,こ の よ う な状 況 の も とで は 広 告 は 〈物 〉 の体 系 の なか に組 み込 まれ,広
告 が 文 化 的 な 〈物 〉 と して 消 費 さ
れ る よ うに な る と指 摘 し て い る。」(黒 田 満1988,p.18)。
日本 で も明 治 時 代 後 期
に 「広 告 情 報 が 文 化 的 記 号 と して 自立 す る萌 芽 が 見 られ始 め」 て い る とい う(山 本 武 利1984,p.326)。 日本 の広 告 史 を振 り返 る と,新 聞 の 果 た して きた 役 割 は 大 き い。 広 告 や 広 告 活 動 の 源 流 や 系 譜 を近 代 日本 の 中 で 実証 的 に把 握 す る こ と を 目的 に文 明 開 化 期 か ら 昭 和 戦 前 期 に つ い て 商 品 広 告 を 中 心 に 分 析 研 究 を 行 っ た 山本 の 前 掲 書(山
本
1984)に
よ る と,新 聞 広 告 や 広 告 観 は,新 聞 が 日本 にお け る資 本 主義 の 発 展 に 伴
っ て 商 業 化 した 過 程 で,特
に 日露 戦 争 前 後 に赤 字 補〓 の た め に広 告依 存 度 を増 し
た 中 で 大 き く変 容 して い る。 広 告 依 存 度 は第 一 次 世 界 大 戦 まで に40%(p.118) と,21世 90%に
紀 初 頭 の 現 在 とほ ぼ同 率 で,広 告 収 入 は 「販 売 収 入 とあ わ せ る と ほ ぼ 達 し新 聞 経 営 の 主 要 な 柱 と な っ て い る。」(島 守 光 雄1988,p.2)。
しか
し,新 聞 自体 は 「若 い世 代 の 〈新 聞 離 れ 〉 が 進 行 して お り,新 聞 は い ま主 体 性 を 持 っ た ま ま新 た な 情 報 産 業 に脱 皮 で きる か ど うか,転
換 期 に立 っ て い る。」(新 井
直 之1988,p.27)。 そ の 若 い世 代 を 中 心 に,現 代 日本 社 会 で は 「漢 字 離 れ 」 や 「片 仮 名 語 の 氾 濫 」 の 問 題 が 深 刻 な 状 態 に な っ て い る。 「国 語 力 の 低 下 な ん て もの じゃ な い,今 の 大 学 生 は戦 前 の 中 学 生 が 知 る ほ ど の 字 句 も知 ら な い」(山 本 七 平1999,山 1996b, p.251に
お け る夏 彦 の 要 約)と
語 は ど うか わ る か』(1981年)で
本夏彦
い う悲 嘆 の 声 が あ る。 樺 島 忠 夫 が 『日本
指 摘 して い る よ うに,外 来 語 が 増 え て 漢 語 が 減
少 す る こ と に よ りカ タ カナ と漢 字 が 逆転 す る こ と は,実 現 性 の 高 い予 想 だ と言 わ れ て い る(野 村 雅 昭1988,pp.236-238)。 れ,そ
新 聞 広 告 で も多 数 の 片 仮 名 語 が 使 わ
れ に 交 じっ て 小 学 校 で 習 う漢 字 が 仮 名 で書 か れ て い る 。 しか し,そ の一 方
で 日常 生 活 で は見 慣 れ ぬ 漢 字 や,図
案化 され た漢 字,漢 字 を使 っ た 言 葉 遊 び な ど
が あ り,そ れ を漢 字 文 化 健 在 と思 う向 き もあ る よ うで あ る。 広 告 で は漢 字 は どの よ う に使 わ れ て い る の で あ ろ うか 。 本 章 で は,新 聞 広 告 史 に つ い て 「広 告 媒 体 と して の 新 聞 の発 達 」 に重 点 を お い た 山 本 の 前 掲 書(山 本1984,以
下 本 文 中 で は 引 用 頁 数 の み を 略 記 す る)の 功 績
に頼 る と と も に,日 本 語 に造 詣 が 深 く,「 広 告 好 き大 好 き人 間 」(山 本 夏 彦1966 a,p.122)で
あ り,広 告 に つ い て 多 くの 考 察 と名 言 を残 し て 先 日他 界 さ れ た 山
本 夏 彦 翁(以 下 本 文 で は 夏彦 と略 記)の 卓 見 を紹 介 しつ つ,現 代 の新 聞 広 告 に お け る漢 字 の 用 法 の 実 態 を探 り,現 代 の 日本 語 に お け る 問題 の 一 端 に つ い て 考 え る。
●2 新 聞 広 告
山 本 の前 掲 書 (山本1984)
に よ る と,日 本 の新 聞 で は 広 告 が 初 め か ら重 要 視
され て い る。 そ れ は,日 本 初 の 定 期 発 行 の 新 聞 が 幕 末 期 の 厳 しい 出 版 統 制 が及 ば ぬ 外 国 人 居 留 地 で 誕 生 した 外 国 人 に よ る外 国 語 新 聞 や 日本 語 新 聞 で あ り,当 時 の 欧 米 諸 国 の新 聞 を モ デ ル に した た め で あ る(pp.1-2)。
幕 末 混 乱 期 に 日本 人 が 自
主 的 に出 版 した 新 聞 に も広 告 が 断続 的 に見 られ る(pp.4-5)。1869年
に明 治 政 府
が 政 府 方 針 の 宣 伝 に新 聞 媒 体 が有 効 で あ る と認 め新 聞 紙 印行 条例 を発 布 した 後, 「東 京 日 日新 聞 」 の よ う に大 型 紙 面 に 漢 文 調 の 文 語 文 で 書 か れ た 政 治 的 言 論 本 位 の 「大 新 聞 」 が 次 々 に発 行 さ れ た 。 但 し,公 教 育 制 度 の未 発 達 の た め 一 般 庶 民 に は 漢 文 調 の 広 告 文 は 難 解 で,理
解 で き な い 者 が 多 か っ た(p.310)。
そ の 後,
1877年 に創 刊 の 「 読 売 新 聞 」 を皮 切 りに,小 型 で 今 日の 社 会 面 的 ニ ュ ー ス や 読 み物 を 主体 と した,ル
ビ付 き 口語 調 の 平 易 な 「小 新 聞 」 が誕 生 した(pp.5-6)。
広 告 とい う言 葉 は近 代 に な って か ら作 られ た 言 葉 で あ る 。 「(advertisementの 漢 訳 と して 明 治 5年 頃 に新 た に造 られ た言 葉)広
く世 間 に告 げ知 らせ る こ と。 特
に,顧 客 を誘 致 す る た め に,商 品 や興 行 物 な ど に つ い て,多 う にす る こ と。 また,そ
くの 人 に知 られ る よ
の文 書 ・放 送 な ど。」(『広 辞 苑 』 第 5版,岩
波 書 店)を
指 す 。 こ の言 葉 が 最 初 に使 わ れ た の は,外 国 人 に よ る 2番 目 の 日本 語 新 聞 「萬 国 新 聞 紙 」 第 2集(1867年2月)で て お り,「 新 聞 雑 誌 」(1871年 な い し 「引 札(= 形 態 は 看 板,暖
あ る(p.4)。 新 聞 広 告 欄 は 明 治 初 期 に 定 着 し 5月 創 刊)で
は 広 告 は巻 末 に ほ ぼ継 続 的 に 「報 告 」
ち ら し)」 と い う欄 に掲 載 され て い る(p.6)。
明治初 期 の広告
簾 , 引 札 な ど の伝 統 的 な 古 い 媒 体 で あ る が,1878年
頃 に は これ
に新 しい媒 体 で あ る新 聞 が結 合 し,無 料 新 聞 に 近 い 広 告 専 門 の 「引札 新 聞 」 と呼 ばれ る媒 体 が 大 都 市 で 誕 生 した 。 その 一 つ で あ る 『広 告 日表 』 に は 「広 告 社 」 と い う 「引札 屋 」 が 「広 告 」 とい う言 葉 を使 い,発 刊 広 告 を 「東 京 日 日新 聞 」 に 出 して い る(p.18)。 新 聞 に は広 告 が 多 く,そ の 種 類 は多 種 多様 で あ る が,今
日の 広 告 の原 型 の ほ と
ん ど は明 治 大 正 期 に誕 生 して い る。 明 治初 期 の 新 聞 に は広 告 欄 が あ っ た が 集 ま ら
ず,そ
の 収 入 で 新 聞 経 営 が 図 られ る こ と は な か っ た(pp.6 −8)が,日
露戦 争前
後 に な る と新 聞 各 社 は販 売 合戦 で 生 じた経 営 赤 字 を埋 め るた め広 告収 入 へ の依 存 度 を増 した(p.146)。
「広 告 収 入 は発 行 部 数 の 多 少 に 規 定 され るの で,そ
れ らの
新 聞 は部 数 増 大 を はか るた め に幅 広 い階 層 に 迎 合 し た 内 容 の 平 易 化,通 俗 化 を は か っ た 」(p.121)の
で あ る。 「読 者 は一 般 に広 告 を嫌 ふ もの で あ るか ら,先 ず 読
者 を刺 激 し て広 告 を読 ま しむ る工 風 が 必 要 で あ る」 とい う広 告 論 者 の 主 張 が 入 れ られ,読
者 の 美 意 識 や 要 求 に応 じた 広 告 デ ザ イ ン の改 良 や 楽 し く見 られ る広 告 が
作 られ た(pp.317-318)。
案 内 広 告,会
社 広 告,株
式 広 告 な ど広 告 の 多 様 化 や,
第 一 面 の 全 面 広 告 化 や 2ペ ー ジ見 開 き広 告 な ど広 告 の大 型 化 が 行 わ れ た の もこ の 時 期 で あ る(pp.121-123)。
つ ま り,「 資 本 主義 が 確 立 した ば か りの 明 治 後 期 に
は,資 本 主 義 的 生 産 様 式 に ビル トイ ン さ れ た広 告 活 動 が初 め て活 性 化 し,資 本 主 義 的 な 生 活 様 式 や 社 会 意 識 を反 映 した 多 様 な 広 告 利 用 が あ らわ れ 」 て い る(p. 326)。 しか し,広 告 の 多 い 現 代 社 会 で は 「広 告 に対 す る批 判 は種 類 と量 が 多 い 。」(久 保 村 隆 祐1988,p.15)。
『DVD-ROM世
「(1)広 告 費 が 多 す ぎ る,(2)非 価 格 を 引 き上 げ る,(5)虚
界 大 百 科 事 典 』 に よ る と,主 な 批 判 は
生 産 的 で あ る,(3)競
偽 誇 大 な 広 告 が あ る,な
争 を制 限 す る,(4)商
ど」 で あ るが,文
品
字 表 記 に対
す る批 判 は こ の 中 に は な い。 故 意 に よ る虚 偽 の表 現 に つ い て は 「消 費 者 の 選 択 を 誤 らせ,企
業 へ の不 信 を招 くが,広 告 の 機 能 に 関 す る とい う よ りは商 業 倫 理 の 問
題 で あ る」 と し て,国
も 〈薬 事 法 〉 〈不 当景 品 類 及 び 不 当 表 示 防 止 法 〉 な どで 法
的規 制 を行 って い る。 また,広
告 主,媒 体 企 業,広
告 代 理 店 の 側 で も,全 日本 広
告 連 盟 倫 理 綱 領 な ど を作 成 し 自主規 制 を行 うた め 日本 広 告 審 査 機 構(JAR0)を 設 立 し て い る。 広 告 に関 す る政 府 の 指 針 を示 す もの に高 度 経 済 成 長 期 に 出 され た 内 閣府 国 民 生 活 審 議 会 第 3次 「消 費 生 活 に 関 す る情 報 提 供 及 び知 識 の 普 及 に 関 す る答 申」(昭 和45年11月19日
経 企 生 審 第23号)第
2 「広 告 に つ い て 」 が あ る。 そ こ で は広
告 行 政 の基 本 的 課 題 は 「表 示 とあ い ま っ て消 費 生 活 に関 す る適 正 な情 報 の 提 供 が な され る よ う虚 偽 ・誇 大 広 告 を排 除 す る こ とで あ る」(第 3章 対 策)と
して お り,
表 記 に 関 して は 「消 費 者 が そ れ に よ って 商 品 を正 し く識 別 す る こ との で き る も の
で な け れ ば な らな い」(第 1章 表 示 の 意 義 と原 則)と
し て い るが,こ
れ は,誇 大
広 告 ・虚 偽 広 告 の取 り締 ま り を眼 目 に して い る もの で,文 字 表 記 そ の もの に つ い て の 記 載 は な い。 また,「 イ 広 告 の 表 現 技 術 」 で は,「 前述 の よ うな 広 告 量 の増 大 に あわ せ て,広 告 の 表 現 技 術 の 進 歩 も著 しい 。 消 費 者 を特 定 の 商 品 ・サ ー ビス な い し企 業 に惹 きつ け るた め に,消 費 者 の 心 理,感 覚 に 巧 妙 に訴 え る技 術 が 次 々 と開 発 され,消 費 者 は,と
も す れ ば 商 品 ・サ ー ビ ス の 実 際 の 内 容 と無 関 係 に商
品 ・サ ー ビス を選 択 させ られ て い る」(「第 2章 広 告 に 関 す る現 状 と問題 点,2.広 告 の 問 題 点 」)と い う指 摘 に留 ま って い る。
● 3 新 聞広 告の種 類
新 聞 広 告 は,雑 誌 広 告 と同様 印 刷 媒 体 で,電 波 媒 体 で あ る テ レ ビ広 告 ・ラ ジオ な ど と と もに マ ス メデ ィア と呼 ばれ,そ 告 ・交 通 広 告,映
画 広 告,購
の 他 の広 告 媒 体 で あ る 自家 媒 体(屋 外 広
買 時 広 告,宛 名 広 告,チ
ネ ッ ト広 告 な ど と区 別 さ れ る(貝 瀬 勝1988,pp.3-4)。
ラ シ広 告 な ど)や イ ンタ ー 新 聞 広 告 を そ の 目的 か ら
分 類 す る と,販 売 促 進 に 関 わ る企 業 広 告 や 商 品 広 告 と,そ れ 以 外 の も の 公 共 広 告,意 見 広 告,求
人 広 告(案
内 広 告),死
亡 広 告,記 事 広 告,な
ど に分 け られ る。
決 算 報 告 な ど企 業 の 法 的 義 務 に よ る 「公 告 」 も広 義 で は 「広 告 」 で あ る。 しか し,広 告 の作 成 は,広 告 主 で は な く,広 告 文 案 を含 め て 広 告 代 理 業 者(広 社)や
新 聞社 の 広 告 局 が 行 って い る の が 一 般 的 で あ り,通 常,広
告会
告 面 に は 製作 者
の 名 前 が 出 な い か ら,表 現 に つ い て 責 任 の 所 在 が 実 際 に ど こ に あ る の か 判 らな い。 広 告 で使 わ れ る言 葉 や 表 記 は,広 告 の 種 類 内容,対
象 者,広 告 費 な どに よ って
大 き く異 な る。公 共 広 告 は 「公 共 奉 仕 広 告 と もい わ れ,資 源 節 約,環
境 保 全,癌
撲 滅 な どの社 会 的 な主 張 や 運 動 の た め に行 わ れ る広 告 で あ り,意 見 広 告 も これ に 含 ま れ る。」(久 保 村1988,p.1)。 公 共 広 告 で あ っ て も,例
え ば経 済 産 業 省 資 源
エ ネル ギ ー庁 の 「シ リー ズ 見 つ め よ う,わ が 国 の エ ネ ル ギー 」 な どの よ うに,企 画 ・制 作 が掲 載新 聞 の広 告 局 で あ る こ とが あ る。 求 人 広 告 は雇 用 主 が 人 材 募 集 を 目的 に 行 う広 告 で,「 案 内 広 告 」 の 一 部 と して 掲 載 さ れ て お り,大 き さ は 様 々 で
あ る 。 職 種,待 遇 な ど記 載 内 容 が ほ ぼ一 定 して い る た め,「 迄 」 「膳 」 な ど常 用 漢 字 で はな い ものが 使 わ れ て い るが,か
な り限 定 的 で あ る。 小 さ い広 告 で は 「簡 単
弁 当 配 膳 清 掃 急 募 経 験 不 問 ①10:30∼14:00」 の よ う に通 常 句 読 点 や 送 り仮 名 が 省 略 され,漢 字 と数 字 だ け で構 成 さ れ て い る。 この 情 報 集 約 性 の 高 さ につ い て夏 彦 は 「これ 以 上 省 略 す る と分 ら な くな る 寸前,ふ
み と ど まっ て 分 らせ る とは何 と
い う知 恵 だ ろ う と子 供 心 に感 心 し て,以 来 私 は この 欄 の読 者 に な っ た 。」(山 本 夏 彦1996c, p.284)と
述 べ て い る 。死 亡 広 告 は文 字 通 り誰 か の 死 去 や 葬 儀 の 日程
な どを知 らせ る もの で,一 般 的 に そ の体 裁 や 文 章 に個 別 差 が 少 な く,表 外 漢 字 は 固 有 名 詞 以 外 で は 「厚 誼 」 「尚 」 な ど少 数 で あ る。 記 事 広 告 は 一 般 の記 事 の 体 裁 を もつ が 実 は 広 告 で あ る とい う も ので,通
常,ペ
ー ジ の余 白 な ど に 「広 告 の ペ ー ジ 」 「広 告 企 画 」 な ど とい う但 し書 きが 小 さ く記 載 さ れ て い る 。 「た とえ 面 白 く読 ん で も欄 外 に(PRの 広 告 か と腹 を 立 て る。 い ち 早 くPRと
ペ ー ジ)と
あ る と,何 だ
発 見 す る と,は じ め か ら読 ま な い。 PRを
読 ませ た の だ か ら,そ の 手 腕 を ほ め て や っ て もい い の に い ま い ま しが る。」(山 本 夏 彦1996d, p.82)。 記 事 広 告 は対 談 形 式 や 引 用 文 が 使 わ れ て い る こ と も あ る が,表 記 は概 して 一 般 記 事 と変 わ ら ない 。 企 業 広 告 は企 業 自体 の 紹 介 や企 業 イ メ ー ジ を上 げ る こ と を 目 的 とす る もの で ,個 々 の商 品 に つ いて 販 売 促 進 を 目的 に行 う もの は商 品広 告 あ る い は 製 品 広 告 と呼 ば れ る(久 保 村1988,p.1)。 流 をな す もの は企 業 に よ る商 品 広 告 」(久 保 村1988,p.11)で 商 品 広 告 で は,業 種,商 り広 告 文 の 内容,形
品 の種 類,販
式,表
い。 金 融 関 係,旅 行,通
売 対 象,掲 載 面(位
「広 告 の 主
あ る。 企 業 広 告 や 置),大
きさな どに よ
記 に多 様 性 が 見 られ,一 般 化 して 論 ず る こ とは で き な
販 の 広 告 が 多 い 一 方 で,高 級 化 粧 品 や 若 者 向 け の商 品 な
ど新 聞 広 告 に掲 載 され ぬ広 告 も あ り,ま た 中 に は 「Papas(Papas
Company,
m) 」 の よ う に広 告 の 中 心 は 写 真 で 文 字 情 報 は横 文 字 で 商 品名 と社 名 の み とい う もの も あ り,広 告 は ま さ に 時代 の鏡 で あ る。
● 4 広告の漢字 に関す る先行 研究
「広 告 の 漢 字 」 に関 す る 先 行 研 究 は,先
に引 用 した 広 告 史 の 研 究 と い っ た 定 性
的 な もの以 外 に定 量 的研 究 も含 む言 語 学 ・国 語 学 的 な 次 の 3種 類 が あ るが,管 見 に よれ ば1980年
以 降 に発 表 さ れ た もの は少 な い よ うで あ る。① 教 育 現 場 で の利
用 の 報 告(春 名 万 紀 子 「授 業 研 究 広 告 文 を使 っ た 漢 字 教 育 」 『 講 座 日本 語 教 育 36』2000年,pp.182-196),②
漢 字 の デ ザ イ ン に つ い て の 研 究(八
巻 俊 雄 「漢
字 文 化 圏 広 告 の比 較― 中 国 の伝 統 文 化 は広 告 に ど う反 映 され て い るか― 」 『東 京 経 大 学 会 誌 』180号,1993年
,pp.3-17; チ ン ・カ ネ ヒ サ 著,八 巻 俊 雄 訳 「漢 字
を使 っ た 広 告 キ ャ ンペ ー ン」 『東 京 経 大 学会 誌 』182号,1993年,東 pp.193-200),③
漢 字 の 実 態 調 査(野
5月,pp,62-63)。
京 経 済 大 学,
元 菊 男 「広 告 の 言 葉 」 『広 告 月 報 』1980年
ま た 少 し古 い が 本 章 に直 接 関 わ りの あ る もの と し て,新 聞 広
告 に お け る漢 字 の 種 類 と用 法 に つ い て 実 態 調 査 を行 っ た 先 行 研 究 に 多 々 良 鎮 男 「新 聞 広 告 の 表 記 に つ い て の 調 査 研 究― 漢 字 ・か な づ か い を主 と して― 」 『 宇 都宮 大 学 学 芸 学 部 研 究 論 集 』(1部14号,1965年)が
あ る。
多 々 良 の調 査 は,当 用 漢 字 の 見 直 しを検 討 中 の 国語 審 議 会 に対 す る参 考 資 料 の 提 供 を 目的 と し,「 毎 日新 聞 」1カ 月 分(1965年
6月)を 使 い,「 現 代 か なづ か い
か ら は ず れ た書 き方 」 「当用 漢 字 表 以 外 の 字 体 」 「当 用 漢 字 表 以 外 の漢 字 」 「当 用 漢 字 音 訓 表 以 外 の 読 み」 に つ い て 調 べ た もの で あ る。 調 査 対 象 か ら除外 され て い る もの は,(1)固
有 名 詞,(2)書
籍 や 雑 誌 の 広 告,(3)会
公 告,死 亡 通 知,募 集 広 告 等,(4)新 広 告 中 に掲 載 の,特 10cm未
社 の決 算 公 告,各
庁の
聞 記 事 と同一 形 式 に よ る長 文 の公 告,(5)
定 個 人 の批 評 や 推 薦 の こ とば,(6)縦
横 が そ れ ぞ れ5cmと
満 の広 告 で あ る。 調 査 結 果 と し て,「 当 用 漢 字 の 表 記 法 を概 し て遵 守 し
て い る の は 金 融 機 関 や大 会 社 な どで,食
品 ・薬 品 ・化 粧 ・映 画 等 で は わ く外 の文
字 が 多 く見 出 さ れ る」 こ と,使 用 漢 字 の種 類 は,当 用 漢 字 表 外 の 漢 字 が280字 (使用 度 数 5以 上64字),当
用 漢 字 音 訓 表 以 外 の 読 み71字
はすべて訓読み であ る
な どを報 告 し て い る。 一 方,当
時 国 立 国 語研 究 所 日本 語 教 育 セ ン タ ー 長 で あ っ た野 元 が 常 用 漢 字 の制
定 前 年 に行 っ た調 査 は,「 朝 日新 聞 」 1日分(1980年 告19本
5月 1日)に 掲 載 さ れ た 広
に お け る文 字 表 記 の 割 合 を調 べ た も の で あ る。 調 査 対 象 か ら書 籍 雑 誌,
土 地 建 物,学
校,映
字 数5087字)は,「
画,テ
レ ビ,案 内 広 告 を 除 外 し て い る。調 査 対 象 広 告(全
漢 字 含 有 率33.6%(1,707字),ひ
らが な 率50.5%,カ
文 タ
カ ナ 率12.3%」
で,広
字 の 種 類 は579種 和31)年
告 に は漢 字 が 少 な い と指 摘 して い る。 使 用 さ れ て い る漢
類 で,当
用 漢 字 外 の も の は29種
の 雑 誌 調 査2.4%,1966(昭
和41)年
類,全
体 の 5%で,1956(昭
新 聞 の 調 査2.4%と
比 べ て多 く
な い と して い る。
● 5 本 稿 の 調 査 の あ ら ま し
本 節 で は,多 種 多 様 な 広 告 媒 体 の うち,接
す る機 会 が 一 般 的 に高 く,「(広 告 主
が)各 広 告 目標 達 成 の た め に も っ と も重 視 して使 用 した 」(日 本 新 聞協 会 「新 聞 広 告 デ ー タ ア ー カ イ ブ」2002年)と
高 く評 価 して い る新 聞 を 選 び,掲 載 広 告 の
うち 販 売 促 進 に関 わ る商 品 広 告 と企 業 広 告(書 籍 雑誌 お よ び 固有 名 詞 を除 く)に つ い て 漢 字 の 種 類 と用 法 を調 査 し,先 行 研 究 との比 較 を試 み る。 す な わ ち,上 記 除外 次 項 に加 え,新 聞 広 告 の う ち公 共 広 告,死 亡 広 告,求 人 広 告,記 事 広 告 な ど 多 々 良 が 調 査 対 象 か ら除 外 した 項 目 の(1)か
ら(4)に
外 とす る。 使 用 媒 体 は,「 読 売 新 聞 」 の2002年 日 曜 版 の 合 計60部)と
相 当す る もの を調 査 対 象
2月 1日∼28日 分(朝
刊,夕
「読 売 新 聞 」 を含 む大 手 商 業 新 聞 6紙 の2002年
刊,
3月28
日 発 売 の 都 内 版 1 日分 を 使 用 し た 。 す な わ ち,「 朝 日新 聞 」(a),「 産 経 新 聞」 (s),「 日本 経 済 新 聞 」(n),「 毎 日 新 聞 」(m),「 (y)で
あ る。1カ 月 分 の調 査 対 象 に1965年
夕 刊 フ ジ 」(f),「 読 売 新 聞」
の 先 行 研 究 と は異 な る 「読 売 新 聞 」
を選 ぶ 理 由 は,「 広 告 効 果 が 半 減 した か と思 う と突 然 浮 上 す る読 売 新 聞 は 広 告 主 に も魅 力 が あ る 」(山 本 夏 彦1996a, pp.131-132),現 載 広 告 数 が 多 」(日 本 新 聞 協 会,前
掲)い
在 業 界 で 「販 売 数 お よ び掲
とさ れ て い る の で,よ
り広 範 な広 告 標
本 が 得 られ る と考 えた か らで あ る 。 な お,以 下 本 文 中 の 引 用 で は 出典 の 記 載 が な い 場 合 は 「読 売 新 聞 」1ヵ 月 分 に 掲 載 さ れ た 広 告 で あ り,そ の 他 の場 合 は上 記 の ア ル フ ァベ ッ トの 略 記 で 示 す 。 ま た,引 用 に つ け られ た 数 字 は使 用 頻 度,引 縦 書 き,〈
用 中 の 「/ 」 は改 行,ま
た,「T」
は
〉 は欠 落 部 分 を補 っ た こ と,あ る い は注 釈 を示 す 。 下 線 部 は常 用 漢
字 で 書 く こ とが 可 能 な部 分 で あ る。 また,表 た もの で あ る。
中 の 数 値 は小 数 第 3位 を四 捨 五 入 し
●6 文字 と表 記法
現 代 の 日本 語 は,漢 字 ・平 仮 名 ・片 仮 名 ・ア ル フ ァベ ッ トの4種 類 の 文 字 を使 う,世 界 で も稀 な言 語 で あ り,あ る言 葉 が い つ も決 ま った 形 で表 記 され る とは限 ら な い 。 一 般 的 に は 「『ク す り』 や 『くス り』 は 間 違 っ て い る」(野 元1980,p. 62)と
言 わ れ るが,広
告 の 中 で,同
告 で は こ の よ うな表 記 も行 わ れ て い る。 広 告 で は一 つ の 広
じ こ とが らが 複 数 の文 字 表 記 で 併 記 さ れ て い る こ と も少 な くな い。
社 名 や 商 品 名 も例 外 で はな く,ど の文 字 で 表 記 す る の が 正 式 な の か 判 ら な い もの が 見 られ る。 「日本 語 が 漢 字 を そ の な か に と り こ ん で い くう えで,カ
ナ の 創 製 とな ら んで,
他 の 漢 字 文 化 圏 諸 国 と こ とな る の は,漢 字 の訓 読 シ ス テ ム を獲 得 した こ と」(野 村1998,p.16)で,一
つ の漢 字 に複 数 の読 み 方 が 当 て ら れ て い る。 今 日,日 常
生 活 に お け る漢 字 の使 用 範 囲 を示 した常 用 漢 字 表 は,制 限 色 の 薄 い 「目安 」 で あ るた め,常
用 漢 字 以 外 の 様 々 な漢 字 や,日 本 以 外 の地 域 で 使 わ れ て い る漢 字(韓
国 ・台 湾 で使 わ れ て い る正 字,中
国 の簡 体 字)な
ど も使 わ れ て い る。
一 方 で,常 用 漢 字 表 を基 準 に した 交 ぜ 書 き も多 く行 わ れ て い る。 これ は,広 告 で も例 外 で は な い。 交 ぜ 書 き とは 「漢 字 と仮 名 と を まぜ て書 き記 す こ と。 現 代 で は 特 に,本 来 漢 字 で 表 記 す る語 の一 部 を仮 名 で書 くこ と」(『広 辞 苑 』 第 5版,岩 波 書 店)で
あ る。 交 ぜ 書 き され る語 の種 類 は多 様 で あ るが,中
で も 「皮 む き(〓
き)」 「つ り(吊 り)鉢 」 な ど常 用漢 字 で は書 け な い 動 詞 の語 幹 や,常 用 漢 字 で書 け る もの で も和 語 動 詞,名 詞,形 容 動 詞 な どで広 範 に行 わ れ て い る。 これ を言葉 は変 わ る もの と考 え容 認 す る か ,許 容 で き な い乱 れ とみ るか は立 場 に よっ て 異 な る。 夏 彦 は,吉 行 淳 之 介 の交 ぜ 書 き に対 す る批 判 を 「不 愉 快 なの は漢 字 制 限 で あ る。 私 は む つ か しい 言 葉 を使 っ て よ ろ こぶ 趣 味 は な い。 挫 折,疎 外 な ど とい う身 振 りの 大 きな 言 葉 を私 は好 ま な い が,し か し,『 ざ折 』 は ひ ど い。」(吉 行 淳 之 介 「な ん の せ い か 」 初 版,1968年)と
紹 介 し,自 身 は 「『ざ 折 』 と書 く く ら い な ら
い っ そ この 言 葉 を 廃 し て別 の 言 い まわ しを考 えた ほ うが は るか に い い 。」(山 本 夏 彦2002a,p.157)と
述 べ て い る。 一 方,「 森 永 乳 業 の 広 告 で 『タ ン パ ク」 と カ
タ カ ナ表 記 した の は 『蛋 白』」 の 表 外 漢 字 を避 け た の で,こ (野元1998,p.63)と
の場 合 は賢 明 な措 置 」
交 ぜ 書 きに は 反 対 で も別 の 意 見 もあ る。
現 代 文 化 記 号 論 を生 み出 した 1人 と され る F.deソ
シ ュ ー ル は 『一 般 言 語 学 講
義 』 で 「言 語 と書 〔 文 字 〕 とは二 つ の全 く別 の記 号 体 系 で あ る。 後 者 の唯 一 の 存 在 理 由 は,前 者 を表 記 す る こ とだ。」(小 林 英 夫 訳1928,p.40)と
述 べ て い るが,
石 川 九 楊 が 言 う よ う に 日本 語 で は 文 字 と言 葉 は切 り離 せ な い 。 「文 字 は 言 葉 の 内 側 の こ とで,言
葉 は文 字 に内 在 的 な 出来 事 で あ る。 … 〈中 略 〉 …会 話 の 途 中 に,
会 話 を さ え ぎ っ て まで,『 そ れ ど う書 くの』 と聞 き返 す こ とが あ る が,こ
の時,
我 々 は,『 文 字 を話 し』 『文 字 を 聞 い』 て い る」(石 川1999,pp.16-17)の
であ
る。 つ ま り,文 字 を失 う とい う こ とは言 葉 を失 う とい う こ とで,漢 字 の 未 来 が 懸 念 さ れ る。 広 告 で よ く使 わ れ る言 葉 の一 つ で あ る 「島嶼 」 は 「島 し ょ」 と交 ぜ 書 き さ れ る こ とが 多 い が,そ 使 わ れ れ ば,島嶼
の代 わ りに 「離 島 」 「そ の 他 の地 域 」 な ど別 の 表 現 が
とい う言 葉 は失 わ れ,日 本 語 の 語 彙 は貧 弱 に な る だ ろ う。 「語
彙 が 減 る の は千 年 来 の財 産 が 減 る こ と な の だ。」(山 本 夏 彦1996e,p.206)。 ビが ワ ー プ ロで 簡 単 に付 け られ るIT時
ル
代 の 今 日,筆 者 は交 ぜ 書 き で は な く漢 字
に ル ビ を振 れ ば 日本 語 の豊 か さ を損 な わ ず に済 む と考 え る。 問題 は漢 字 が 読 め, ル ビ を正 し く振 れ る人 が どれ だ け い るの か で あ る。
● 7 文体 と表記
広 告 で は 同一 広 告 内 に複 数 の 文 体 が 同居 し て い る こ と は珍 し くな い 。 い わ ゆ る 「で す ・ます 」 体 と名 詞 止 や 文 末 省 略 を含 む普 通 体 が 一 緒 に使 わ れ,文 章 の改 ま り度 も敬 語 を使 っ た 丁 寧 体 の 隣 に友 だ ち に対 す る よ うな 親 し げ な会 話 調 が 並 び, そ の 横 に商 品 情 報 が 箇 条 書 き に掲 載 され る な どモ ザ イ ク的 で あ る。 「広 告 は一 字 千 金 」 だ か ら,文 字 数 を多 く要 す る敬 語 表 現 は広 告 面 の 大 き い もの に 多 く使 わ れ て い る が,中
に は 名 前 ・住 所 ・挨 拶 文 2行 とい う小 さ い もの で も,
「二 階 は憩 い の場 所 と し て,そ の場 で 作 っ た お 菓 子 を召 し上 が っ て い た だ け る茶 房 も ご ざ い ます 。(鶴 屋 八 幡y)」 と細 字 で 敬 語 を使 っ て い る もの が あ る。 な お,敬 語 表 現 の う ち,接 辞 「御 」 は常
用 漢 字 で は あ るが,ほ
と ん どが 仮 名 書 き され て い る。 「御 」 の 読 み 方 5通 りの う
ち,「 ご」 「お ん 」 「ぎ よ」 が 常 用 漢 字 の 音 訓 表 に あ る読 み 方 で,「 お 」 「み」 は音 訓 表 に な い も の で あ る。 漢 字 で 書 か れ て い る例 に は 「御 一 行 」 「愛 子 様 の 『 御 印 』」 「御 礼 」 「御 影(み
か げ)」 が あ る。 動 詞 の敬 語 形 で は仮 名 書 き と漢 字 の 両 方
が 見 られ る が,「 頂 き ます 」 「致 し ます 」 な どは常 用漢 字 で 書 け るた め か , 漢 字 で 書 か れ て い る もの が 多 い 。 話 し言 葉 を使 用 し た広 告 文 で は代 名 詞 の仮 名 書 きが 多 く見 られ る。 人 称 代 名 詞 の うち,「 私 ・僕 ・君 ・彼 ・彼 女 」 な どが 常 用 漢 字 で 書 け るが,仮 名 ・片 仮 名)が
名 表 記(平
仮
か な り見 られ る。 「あ な た 」 は 「貴 女 ・貴 方 ・貴 男 」 が 見 られ る
が,仮 名 書 きが 一 般 的 で あ る 。 「達 」 は常 用 漢 字 で あ るが,「 た ち」 とい う読 み は 表 外 読 み で あ る た め,ほ
とん ど 「私 た ち 」 の よ う に交 ぜ 書 き に され て い る。 今 回
の調 査 で は,表 外 字 で あ る 「俺 」 は 「俺 ・俺 達 ・俺 的 」 とい う形 で使 わ れ て い る が,用 例 数 は少 な い 。 同 じ く表 外 字 で あ る 「奴 」 の用 例 は 1件 で あ る。 また,指 示 代 名 詞 の 用 例 は 「此 れ 」 お よび,漢 文 の 読 み 下 し文 「人 恒 に 之 を敬 す 孟 子(ト
ッ プ ア ー ト)」
に 「之 」 が 使 わ れ て い る だ けで あ る。 その 他,話
し言葉 を使 用 した 広 告 で は,以 下 の例 の 下線 部 の よ う に常 用 漢字 で
書 け る の に仮 名 で 表 記 さ れ,記 号 類 と と もに使 わ れ た例 が 広 範 に 見 られ る。例 え ば,子
ど もの写 真 に付 け た 吹 き 出 し
「お も し ろー い ・た の しー い ・ひ け たー(ヤ
マ ハ 音 楽 教 室y)」
部 長 と女 性 社 員 の 会 話 を 漫 画 に仕 立 て た(NTT東
日本),ロ
ボ ッ トの 片 仮 名 書
き の科 白 「煙 ヲ ス ウ,ノ
ド/ノ 薬(ア
ン タ ー ク本 舗)」
女 性 の独 白 「こ れ だ けや れ ば 合 格 っ て わ か る と もっ とが ん ば れ る の に な 。(城 南 予 備 校 y)」 な どで あ る。 で は,実 際 に広 告 で は どの よ う な漢 字 が ど の く らい の頻 度 で 使 わ れ て い るの で あ ろ うか 。
● 8 表外 読 み と表 外字
表3.1は
「読 売 新 聞 」 掲 載 の 広 告 1カ 月分 を使 った 常 用漢 字 表 外 の 漢 字,つ
ま
り表 外字 お よ び表 外 読 み の使 用 状 況 に つ い て の調 査 結 果 を先 行 研 究 の1965年
の
「毎 日新 聞 」 の 掲 載 広 告 の 集 計 とを比 較 し て示 し た もの で あ る。 表 外 字 は484字(頻
度 数 5以 上170字)が549種
資 料 A)。 これ に は,常 康 煕 字 典 体)が (襟),〓(聞
用 漢 字 表 に あ る 日本 の通 用 字 体 に対 す る正 字(い
の略 字)」 含 まれ て い る。 「〆 」 は 従 来 の漢 字 の 「部 」 に 収 め られ な
田正,米
上 げ て い るの で,今 字88読
わ ゆる
6字 「氣 ・傳 ・佛 ・禮 ・臺 ・樓」,異 字 体 が 3字 「穐(秋),衿
い 「非 漢 字 」 と し て 扱 わ れ て い る が(林 1400),鎌
の読 み で 使 わ れ て い る(章 末
大 監 修 『現 代 漢 語 例 解 辞 典 』2,p.
山寅 太 郎 著 『漢 語 林 』(新 版)で
は 「国字 ・国 訓 一 覧 」 に と り
回 の 調 査 で も漢 字 と して 扱 っ て い る 。 一 方,表 外 読 み は81
み(章 末 資 料 B)お よ び 当 て読 み ・熟 字 訓 な ど特 殊 な読 み 方44種(章
資 料 C),合 計132種
の 読 み 方(頻 度 数 5以 上25字)が
末
使 用 され て い る。 但 し,
例 え ば 「他 」 な ど読 み 方 が 表 外 読 み の 「ほ か 」 なの か,常
用 漢 字 音 訓 表 に あ る読
み 「タ 」 な の か が 特 定 で きな い 場 合 は表 外 読 み と して数 えて い な い 。 1965年 調 査 で の 当 用 漢 字 表 外 字64字(頻 用 漢 字 表 に採 用 さ れ て い る。 残 りの43字
度 数 5以 上)の
うち,21字
の うち 今 回 の 調 査 で 使 わ れ て い な い の
は 「匂 ・蜂 ・撒 ・賭 ・籠 ・悸 ・渦 ・淋 ・膵 ・狼 ・須 ・扁 ・瘡 」 の13字 (章末 資 料 A)。1965年
表3.1
注1:〈
の 表 外 読 み71種
が 後 に常
で あ る
は39種 が 常 用 漢 字 表 の 本 表 に,ま
た4
新 聞 1カ 月 分 で 使 わ れ て い た 表 外 字 お よ び 表 外 読 み
〉 の 中の 常 用 表換 算 値 とは,当 用漢 字 表 を基 準 とした1965年
調 査 値 か らそ の
後 常 用 漢字 表 に採 用 され た もの を差 し引 き,2002年 調 査 に 合 わ せ た値 に換 算 した もの で あ る。 注2:1965年 調査 は多 々 良1965,2002年 調査 は筆者 に よ る。
種 が 付 表 に 採 用 さ れ て い るが,残 「凡(あ
ら ゆ る)・ 怖(お
(た ま)・ 費(つ
りの28種
そ れ る)・ 殊(こ
か う)・ 希(ね
と に)・ 如(ご
が い)・ 先(ま
年 調 査 で は表 外 読 み71字(種)の 査 で は 「(太極)拳
の う ち今 回 の 調 査 で 用 例 が な い の は と し)・ 経(た
つ)・ 珠
ず)」 の 9種 で あ る。 しか し,1965
す べ て が 訓 読 み で あ るの に対 し て,今 回 の 調
・懺悔 ・友 達 ・忍 辱 ・飲 茶 ・参 鶏 湯 」 の よ う な 訓 読 み で は な
い 用例 や 「何 卒 ・堪 能 ・甲 冑 ・華 奢 」 の よ う な特 殊 な 読 み 方 が 見 られ る。 本 調 査 の結 果 を1965年 読 み で は1.86倍
の調 査 結 果 と単 純 比 較 す る と,表 外字 で1.73倍,表
外
に あ た る。 しか し,両 調 査 は 基 準 に 使 用 した 漢 字 表 が 異 な る の
で,当 用 漢 字 表 を 基 準 と した1965年
調 査 値 か ら そ の 後 常 用 漢 字 表 に採 用 され た
もの を差 し引 き,本 調 査 に合 わ せ 常 用 漢 字 表 を使 用 した 場 合 に換 算 す る と,1965 年 の 表 外 字 数 は259字
とな り,2002年
度 数 5以 上 の 表 外 字 は170字 32種 が2002年
で は132種
の484字
で3.95倍
と4.1倍
は そ の1.87倍
で あ る(表3.1)。
で あ る。 ま た,頻
表 外 読 み は,1965年
に増 え て い る。 こ の 数 値 か ら,調 査 対 象 お よ
び 調 査 方 法 の 違 い を考 えて も常 用 表 外 の 漢 字 の使 用 が 増 え て い る と推 測 さ れ る。 但 し,章 末 資 料 A で 頻 度 数 の 多 い 漢 字 が 必 ず し も一 般 に使 わ れ て い る とい うわ け で は な い。 例 え ば,「 読 売 新 聞 」 で 使 用 頻 度 が も っ と も高 か っ た 「頃(616 回)」 は使 用 範 囲 が 極 め て 特 定 的 で,旅
行 社 の 観 光 日程 表 に使 わ れ て い る もの が
ほ とん どで あ る。 「甕 」 は使 用 頻 度 が30回
で あ る が,1 種 類 の広 告 に繰 り返 し使
わ れ て い る もの で,こ の 字 が 広 く使 わ れ て い る と い う こ とで は な い 。 同 じ漢 字 が 繰 り返 し使 わ れ て い る た め,あ る表 外 字 や 表 外 読 み の 異 な り総 数 は表3.1の
表3.2
2002年
3月28日
1紙 平 均 を上 回 る。 同 じ 「読 売 新
発 売 の 新 聞 6紙 で 使 わ れ て い た
表 外 字 お よ び表 外 読 み
注:()内
る 日の あ る新 聞 の 広 告 に使 わ れ て い
は 1広 告 平 均 。
聞 」 で も,表3.1で 表3.2の
は 1紙 当 りの 表 外 字 が8.08字,表
3月28日 朝 刊 1紙 で は そ れ ぞ れ30字,8
他 の 商 業 紙 と比 べ て も同 様 で(表3.2),表 の は 「日本 経 済 新 聞 」 の10種,「
外 読 み が2.2種
で あ るが,
種 と格 段 に 多 い 。 同 日発 売 の
外 字 で は 表3.1の
1紙 換 算 値 に近 い
夕 刊 フ ジ」 の 6種 で あ る。 表 外 読 み で は 「夕刊
フ ジ」 の 4種 が 最 も近 い。 但 し,こ れ らの 漢 字 の使 用 状 況 や 各 新 聞別 の使 用傾 向 を 特 定 す るた め に は,今 後 の 調 査 が 必 要 で あ る こ と は言 うま で もな い 。
● 9 漢 字 語 彙
で は,表3.1の
漢 字 は 実 際 に どの よ う な 言 葉 と し て 使 わ れ て い る の で あ ろ う
か 。 品詞 で は名 詞 の外 に和 語 動 詞 の 用 例 が 多 い(章 和 語 動 詞91(+
名 詞 形15),漢
語 サ 変 動 詞 9(+ 名 詞 形34),形
形 1+副 詞 形 1),形 容 動 詞28が 詞 形13),漢
末 資 料A,B)。
表 外 字 で は, 容 詞14(+
名詞
使 わ れ て い る。 表 外 読 み で は和 語 動 詞44(+
語 動 詞 1,形 容 詞17(+
名
名 詞 形 5+副 詞 形 3),形 容 動 詞 1(+ 副 詞
形 1)が 使 わ れ て い る。 これ らの 活 用 語 の 占 め る 割 合 は表 外 字 で は 約25%,表 外 読 み で は50%弱
で あ る。 名 詞 で は 動 植 物,道
具,食
べ 物,身 体 の 部 分 な ど を
表 す 言 葉 が 多 い。 部 首 で は ク サ カ ンム リ,キ ヘ ン,ク チ ヘ ン,サ ン,ニ
ク ヅ キ,ウ
オ,ヒ ヘ ン が そ れ ぞ れ10字
ン ズ イ,テ
以 上 使 わ れ て い る。 な お,表
ヘ
外字
も表 外 読 み も一 部 を除 き振 り仮 名 が な い か ら,「甌 穴 」 や 「藁 」 な ど 日常 生 活 で は馴 染 み が な く知 らな い 漢 字 や 「 曾 孫 」 の よ う に 「そ う そん 」 か 「ひ ま ご」 な の か 判 らな い もの が あ る。 長 い 漢 字 語 彙 や 造語 が 全 般 的 に少 な い 。 漢 字 だ け で書 か れ て い て も 「入 学 金/全 額 免 除/実 施 中!(NOVA)」 「花 粉/前
線/北 上 中(ロ ー ト)」
の よ う に途 中 で 改行 した り, 「予 告/決 算 冬 物 大 処 分(リ
ヴ ィ ン)」
や, 「読 売 新 聞 社 広 告 局 広 告 第 六部/デ
イ リー ヨ ミウ リ広 告 課 」
の よ う に分 か ち 書 きで 語 の切 れ 目 を示 し,漢 字 が 長 く連 な る こ と を意 図 的 に回 避
し て い る よ う に見 え る もの が あ る。 漢 字 に よ る造 語 用 例 は以 下 の 4種 類 に分 け ら れ るが,い
ず れ も数 が 多 い とは 言 えな い 。
① 形 容 詞 を語 頭 に冠 した もの 「新 ・美 白基 準(ソ
ノ コ)」
「苦 美 味 の 魅 力 。(シ ガ リオ,ブ 「好 立 地(サッ
ラ ッ ク ジ ンガ ー)」
ス ー ン カ ッ ト ・ア ク ト店)」
など ② 既 成 の 言 葉 の 一 部 を 同音 異 義 字 で 置 き換 え た もの 「好 金 利(新 「清 図(日
生 銀 行y)」
〈高 金 利 〉
本 清 図 技 能 協 会)」 〈製 図 〉
など ③ 内容 が よ く判 らな い もの 「在 宅 特 技 」 「学 習 フ ォ ロー 」 「怒 濤 の 英 語 力 」 な ど ④ 四 文 字 熟 語 「一 怒 一 老(武 な お,こ
富 士 f)」な ど
の他 に 「毎 月 割 安,一
生安 心 。(オ リ ッ ク ス生 命)」
の よ う な 四 文 字 熟 語 ふ う の もの や,「艱 難 辛 苦,才 天 真爛 漫,百
花繚 乱,波
乱 万 丈,風 光 明媚,明
気 換 発,切
磋 琢 磨,千
客万 来,
眸 皓 歯 」 な ど 「由緒 正 し き」 もの
も使 わ れ て い る。 造 語 力 は従 来 漢 字 が 果 た して きた 3機 能 の 一 つ で あ る が(野 村1998,p.115), 「日本 人 は 日本 語 に劣 等 感 を持 っ て い る」(鈴 木 孝 夫1990)た
め か,「 近 年 は外 来
語 を組 み合 わ せ て造 語 を作 る傾 向 が あ り,全 体 と して 造 語 は漢 字 語 よ り片 仮 名 語 の 方 が 優 勢 」(井 上 史 雄2001,p.132)で は な い が,と
あ る。 片 仮 名 語 の 氾 濫 は 「い い こ とで
め よ うが な」(山 本 夏 彦1995,p.48)く,「
漢語 を用 いて え らそ う
に 見 せ た の と心 は 同 じ で あ る。 そ れ な ら とが め る こ とは で き な い 。」(山 本 夏 彦 1996f,
p.23)。 しか し,「 ひ とた び トイ レ を採 用 す る と トイ レ だ け に な っ て,は
ば か り,せ っ ち ん,ち
ょ う ず場,ご
不 浄 以 下 は 全 滅 」(山 本 夏 彦 同 上 書,同
頁)
し,日 本 語 の語 彙 が 貧 困 化 す る とい う こ とが 危 惧 され る。 従 来 我 々 が 母 語 だ と思 っ て きた 漢 語 中 心 の 日本 語 とい う言語 が,日 本 人 に と って 外 国語 に な りつ つ あ る
の で は な か ろ うか。
●10 ル
ビ
ル ビ とは 「振 り仮 名 用 活 字 あ る い は振 り仮 名 」(『広 辞 苑 』 第 5版,岩 波 書 店) の こ とで,明
治 期 の小 新 聞 の 創 刊 か ら1935(昭
和10)年
まで は 「新 聞 ・雑 誌 を
は じめ 一 般 向 きの 文 章 に はル ビを つ け る の が 普 通 」 で あ っ た が,(柴 p.1)今 日の 新 聞 や 新 聞 広 告 で は,ル
田 武1988,
ビ が 付 い て い る も の は多 くな い 。 「す べ て
の 漢 字 に ル ビ を付 け る こ と を 〈総 ル ビ〉,難 し い も の に部 分 的 に つ け る こ と を 〈パ ラル ビ〉 とい う」(矢 作 勝 美1988)が,今
回 の 調 査 で は,
「重 い 痔 疾 に 苦 しむ 我 が 子 を救 お う と… …(ヒ サ ヤ大 黒 堂)」 や 「清 らか で 品格 あ ふ れ る,い か に も横 山大 観 ら し い 山 桜 で す … …(東 京 書 芸 館 美 術 頒 布 会)」 の よ うに 主 要 部 分 が 総 ル ビ に な っ て い る もの は例 外 的 で,ほ
とん どが パ ラ ル ビで
あ る。 これ は,原 則 と して 振 り仮 名 は付 け ない こ と にな っ て い た 当 用 漢 字 時 代 の 習 慣 の 名 残 か も しれ な い。 しか し,ル
ビの 効 用 は 高 く,も っ と活 用 され るべ きで あ る。 夏彦 はル ビ の効 用
を 「昭 和 二 年 か ら三 年,私
が 小 学 校 六 年 か ら中 学 校 一 年 にか け て 半 年 あ ま り,私
は明 治 三 十 年 代 の 古 新 聞 古 雑 誌,べ 日記―
つ に 明 治 二 十 八 年 か ら大 正 十 五 年 まで の父 の
毛 筆 で楷 書 で 書 い た 日記 約 四十 冊 に読 みふ けっ た … 〈中 略 〉 … 当 時 の新
聞 はす べ て 文 語 文 で,総 夏 彦2000a,
ル ビ付 きだ っ た か ら少 年 に も読 めた の で あ った 。」(山 本
pp.363-364)と
説 き,「(戦 前 の)日
本 人 の識 字 率 が 世 界 一 高 い の
は ル ビの せ い 」 で あ り,「(戦 後 の)国 語 力 の 低 下 はル ビの 廃 止 に よ る」(山 本 夏 彦2002b,
p.140)と
指 弾 して い る。 常 用 漢 字 表(1981)で
は,振
り仮 名 に つ い
て 特 に記 して い な い 。 今 回 の調 査 で漢 字 にル ビが振 られ て い る もの は次 の 6種 で あ る。 ① 「懸 濁 1本 飲 み(T,興 ② 「冬 華 美(ト
和)」 な どの 専 門 用 語 や 一 般 的 で は な い言 葉
ラ ピ ッ ク ス)」 な どの造 語
③ 「合 格 る人(早
稲 田 塾)」 「理 由 あ り(松 坂 屋)」 「精 神(テ
ア トル 新 宿)」 の
よ う な漢 語 に 類 語 の和 語 を付 けた 「当 て読 み 」 な ど,基 本 的 に は特 殊 な読 み 方 や誤 読 が懸 念 さ れ る も の で あ る 。 「当 て 読 み 」 の 類 に は,こ の ほ か に, ④ 「ビー ル 酵 母(わ
か も と)」 注 記 の よ うな もの
や, ⑤ 「 脱 腸(日
本 通 販)」 漢 語 に対 す る 片仮 名 語 の 類 義 語
⑥ 「2002年 冬 ア メ リ カ の 空 に響 き渡 る喜 び の テ ー マ(SONY)」
片仮 名語 に対
す る漢 字 の類 義 語 な どの 用 例 が あ る。 な お,ル
ビ は表 外 字 や表 外読 み だ け で な く,常 用 漢 字 に も付
け られ て い る が,正 字 に ル ビが 振 られ た例 は な か った 。 な お,ル
ビに使 わ れ る文 字 は,仮 名(平 仮 名 ・片 仮 名)が
一 般 的 で あ るが,漢
字 や アル フ ァベ ッ トが 使 わ れ て い る もの もあ る。 漢 字 が 使 わ れ て い る例 は,
「100-974(ダ
「201021(日
イ エ ッ クス)」 本 生 命)」
な ど電 話 番 号 に 多 い。 後 者 の 例 「ふ れ あ い 」 で は,数 字 の 1を字 形 の 似 て い る ア ル フ ァベ ッ トの 「Ⅰ 」 に見 立 て,そ の 音 「ア イ」 を漢 字 「愛 」 で 置 き換 え た 語 呂 合 わせ に な っ て い る。 ア ル フ ァベ ッ トをル ビ と して使 っ た 例 に は,ロ ー マ 字 書 き の 「『離 れ 』 の あ る住 まい 。(ミ サ ワ ホー ム イ ング)」 が あ る。 また,以 下 の よ うに 漢 字 に英 語 が つ け られ て い る例 が 見 られ るが,ル
ビな の か
併記 なのか定かで はない。 銀 〓 機能〓
行 性能〓
FUNCTION PERFORMANCE
柴 田(1988,p.1)に
の 条 感覚〓 概念〓 SENSE
CONCEPT
件(ソ 挑戦〓
ニ ー 銀 行)
CHALLENGE
よ る と,類 義 語 を ル ビ と して 使 う こ とは 乱 用 で あ るが,
「漢 字 離 れ 」 や 「片 仮 名 洪 水 」 を 止 め る手 立 てが な い 今,在
来 勢力 の漢字語 彙 と
新 勢 力 の 片 仮 名 語 彙 と い う現 代 日本 語 に お け る 2大 勢 力 を組 み 合 わ せ る と い う発 想 は,従 来 の 日本 語 の 語 彙 を貧 困 に し な い工 夫 で あ る。 故 橋 本 万 太 郎 に 「昭 訓 」
(昭 和 に 時 代 に つ け ら れ た 訓)と 造 語 法(例 し か し,片
え ば,高
技,省
い う漢 語 造 語 に片 仮 名 音 訳 を ル ビ と して つ け る
熱,個
算,語
処 な ど)が
あ る(野
村1998,p.126)。
仮 名 語 の 弊 害 を 考 え る と,
「暮 ら し にNews!(東
「Love/Live/Life(JR,
「Encore(Aiwa,
京 ガ ス m)」 a)」 m)」
の よ う に 広 告 で は お り し も 原 語 綴 りの 表 記 が 増 え て い る の だ か ら,い
っその こと
片 仮 名 に 原 語 綴 り を つ け る と い う の も一 つ の 方 便 か も し れ な い 。 片 仮 名 に な っ た 言 葉 は 原 語 と は 違 う か ら だ 。 ち な み に 島 崎 藤 村 は,パ ス ケ ッ チ 』(新 潮 文 庫,1978年,初 戯 曲(p.49),降 り)を
誕 祭(p.101)な
付 け て い る が,Life(p.49),
出
ラ ル ビ を つ けた
『中 学 世 界 』 明 治44年
ど と 外 来 語 の 類 語(あ Open(p.77)は
『千 曲 川 の
6月 号 ∼ 9月 号)で
る い は原 語 の 片 仮 名 綴
片 仮 名 に せ ず 原 語 綴 りの ま
ま使 っ て い る 。
●11 言 葉 遊 び
漢 字 は,表 意 文 字 で あ る と と もに表 音 文 字 で あ るた め,そ の 特 性 を利 用 し言 葉 遊 び と い う形 で も使 わ れ て い る。 そ の 大 半 は,い わ ゆ る掛 け 「言 葉 」(駄 洒 落) や 掛 け 「音 」(語 呂 合 わ せ)な
どで あ り,今 回 の調 査 結 果 で は 遊 び の 核 とな る も
の は次 の よ う に分 類 で きる。 ① 人 名 「白瀬 泰 三 の お シ ラ セ(JAバ ② 商 品 「墓 地 墓 地/考
ン ク)」 〈知 らせ 〉
え て み ませ ん か?(す
が も平 和 霊 苑)」
③ キ ー ワー ド 「湯 っ た りの ん び り(ホ テ ル ニ ュー ハ ワ イ m)」 ④ 同音 異 字 に よ る造 語 「さわ や か 彩 北 端 紀 行(近 畿 日本 ツー リス ト)」〈最 北 端 〉 「楽 問 の ス ス メ(T,が
ん ば る舎)」 〈学 問 〉
⑤ 写 真 「未 来 予 層 図 。(+ 塵 の地 層 写 真)(T,ク
ボ タ企 業 広 告)」 〈予 想 図〉
⑥ 普 通 は 漢 字 で表 記 され な い 終 助 詞 や 助 動 詞 や 指 示 詞 な どの 非 活 用 語 「た の し くや ろ う税!(東
京 税 理 士会)」
「や っ た値(JTB)」
「こん ち く症 。/ど う しま症 。/花 粉 症 。(T,協 和 発 酵)」
しか し,こ の よ うな 言葉 遊 び の コ ピー(広 告 文 案)か
らは漢 字 伝 統 文 化 の継 承
が 感 じ られ な い。 「なぜ 猫 も上 司 もゴル フ な ん スか ね エ(TV
ASAHHI
SPORTS,
a)」
は,「 猫 も杓 子 も」 とい う成 句 を意 識 し て い る点 で表 現 効 果 の 重 層 化 を意 図 す る 修 辞 法 の 一 種 と言 え な く も な い が,「 帰 りな ん い ざ 木 の 家 へ 」(山 本 夏 彦2000 b,p.179)が
陶 淵 明 の 「帰 去 来兮 辞 」 とい う古 典 を下 敷 きに して い る の と比 べ
る と,そ の質 の差 は歴 然 で あ る。 夏 彦 が 「コ ピー ラ イ タ ー の ほ とん ど は文 盲 だ 」 (同 上 書,p.180)と
日本 語 の 未 来 を憂 う所 以 で あ る。
●12 広告面 の印象
広 告 面 の 印 象 は,文 字 の 種 類,大
き さ,向
き,使 わ れ る数(文
字 列 の長 さ)な
どに よ っ て異 な る。 広 告 は漢 字 仮 名 交 じ り文 で 書 か れ て い る もの が 多 く,漢 字, 平 仮 名,片 仮 名,ア
ル フ ァベ ッ トな ど複 数 の 文 字 体 系 が 同 時 に,複 数 の フ ォ ン ト
や 文 字 サ イ ズ で,し か も文 字 の 向 き も縦 書 き横 書 き を交 ぜ て 使 わ れ る こ と は珍 し くな い。 しか し,例 え ば狭 い広 告 面 に細 字 で 旅 程 か ら見 所,献
立,契 約 規 定 まで
盛 りだ く さん に織 り込 ん だ旅 の 広 告 や,通 信 販 売 の広 告 な ど は読 み難 く,ま た 美 しい とは言 え な い 。 漢 字 は仮 名 や ア ル フ ァベ ッ トに比 べ概 して 字 画 が 多 く,含 有 率 に よ っ て 広 告 面 の 明 暗 濃 度 を 変 え視 覚 的 印 象 に 影 響 を もつ た め,広 告 面 を構 成 す る デ ザ イ ン の一 要 素 と して も使 わ れ て い る。 漢 字 の 含 有 率 が 高 け れ ば黒 々 と した 面 が生 まれ,横 や 縦 に連 続 して 使 わ れ れ ば黒 い 線 や 柱 に な り,ま た仮 名 文 字 列 に 1字 交 ぜ て使 え ば 点 と して 目立 つ か らで あ る。 例 え ば 「これ だ け や れ ば 合格 っ てわ か る と もっ とが ん ば れ る の に な。(T,城
南予備
校,y)」 「ク ル マ は デ ザ イ ン だ。/や っ ぱ り走 り だ 。/い や,ど (Ford)」
っ ち も で し ょ。
「家 づ く りの/ わ が ま ま に/ ど こ まで も/ 応 え ます 。(T,木 下 工 務 店)」 「その か ぜ/狙 い うち 。/つ らい か ぜ に/イ ブ プ ロ シ ンが よ く効 く。(エ ス エ ス 製 薬)」
の よ う に長 い仮 名 文 字 列 の 中 に漢 字 が 単 独 で 使 わ れ る と,そ こだ けが く っ き り浮 か び 上 が っ て見 え る。 同 じ漢 字 を繰 り返 す 「45イ ン チ で,飛 ぶ,飛 ぶ,飛 「新 酵 母 で 新 ドラ イ/新
ぶ(カ
タ ナ ゴル フ n)」
き もち い い ∼ / 新 発 泡 酒/2 月13日
新 は つ ば い(サ
ン トリー)」 や,片
仮 名 と漢 字 が 交 互 に組 ん だ
「ス テ イ タ スで 乗 らな い 。 ス タ イ ル で 乗 る。(ト ヨ タ ビス タ)」 な ど視 覚 効 果 を狙 っ た 用 法 が 見 られ る。 但 し,純 粋 に漢 字 だ け で構 成 さ れ て い る 広 告 は少 な い。 目立 た せ る工 夫,楽 印 刷 字体(フ
し ませ る工 夫 と して,広 告 で は一 般 記 事 で使 わ れ る様 々 な
ォ ン ト)に 加 え,毛 筆 ・ペ ン字 な ど の手 書 きや 図 案化 され た 文 字 が
多 数 使 わ れ て い る。 手 書 き文 字 や 特殊 な字 体 の 漢 字 は,和 菓 子,日 の広 告 に多 く見 られ,中
本 酒,芸
術品
には
「聖 き水 美 し酒(末 廣 m)」 の よ う に旧 仮 名 遣 い や草 書 体 で書 か れ て い る もの もあ る こ とか ら 「伝 統 」 や 「高 級 感 」 な ど雰 囲 気 を作 る小 道 具 と して 使 わ れ て い る と考 え られ る。 図 案化 され た 文 字 に は, ① 文 字 の一 部 が写 真 や 絵 に な って い る もの(「 ラ ブ ラ ブ キ ャ ッ ト2002(フ
リス
キ ー)」 〈「賞 」 とい う字 の 「口 」 の 部 分 が 猫 の 写 真 に な っ て い る〉) ② 字 形 を変 形 した もの(「 コ レ ス テ ロー ル を/ 下 げ た い方 へ。(日 本 リー バ 株, ラー マ)」 〈「下 」 の縦 棒 の 下 の部 分 が 矢 印 に な って い る〉) ③ 読 み 方 が 文 字 の 中 に模 様 と して 使 わ れ て い る もの(「 理 由 あ り/現 品 ・限 定 品 / 大 掘 出 し市(松
坂 屋)」 〈「理 由 」 の 中 に 円 形 の虫 喰 い の穴 の よ う に黒 地
に 白抜 き文 字 で 「ワケ 」 とい う読 み 方 が つ い て い る〉) な どが あ る。 これ は 漢 字 が そ も そ も絵 か ら発 達 した こ と を考 え る と,TV,映 画,ア
ニ メ,漫 画,イ
ラ ス トな ど視 覚 に訴 え る媒 体 や 映 像 文 化 が 全 盛 の 現 代 にお
け る,い わ ば漢 字 の 「逆 象 形 化 」 と も呼 べ る現 象 で興 味 深 い。
●13 ま
と
め
以 上 「読 売 新 聞 」 の2002年 商 業 新 聞 6紙 の2002年
2月 1日∼28日60紙
3月28日 発 売 の 1日分(都
ち販 売 促 進 に 関 わ る商 品 広 告 と企 業 広 告(書
と 「 読 売新 聞」 を含 む大 手 内版)を
使 い,掲 載 広 告 の う
籍 雑 誌 お よ び固 有 名 詞 を除 く)に つ
い て漢 字 の 種 類 と用 法 を調 査 し,先 行 研 究 との 比 較 を試 み た 。 そ の 結 果 は次 の よ う に整 理 で き る。 まず,漢
字 の種 類 と頻 度 調 査(「 読 売 新 聞 」 1カ 月 分)か
ら分 か っ た こ と は次
の 3点 で あ る 。 ① 表 外 字 が 常 用 漢 字 の約25%に 6字,異
字 体 3字,読
相 当 す る484字(頻
み 方556種),表
加 え 当 て 読 み な ど44種)使
度 5以 上170字,旧
外 読 み が132種(81字
読 み88種
わ れ て い る(章 末 資 料A,B,C)。
1965年 の調 査 結 果 と比 較 す る と表 外 字 で1.73倍(頻
も,こ の40年
に
これ らは
度 数 5以 上 の2002年
調 査 換 算 値 との 比 較 で は 4倍 弱),表 外 読 み で は1.86倍(2002年 値 との 比 較 で は 4倍 強)に
字体
調査換 算
あ た り,調 査 対 象 や 調 査 方 法 の違 い を 考 慮 し て
ほ どの 間 に漢 字 の使 用 異 な り総 数 が 増 加 し て い る と考 え られ
る。 但 し,特 定 の広 告 で 繰 り返 し使 用 さ れ て い る字 が あ り,こ の 調 査 結 果 で 使 用 頻 度 が 高 い漢 字 が 必 ず し も一 般 的 に普 及 して い る とい う こ とで は な い 。
② 表 外 読 み は1965年
の調 査 で はす べ て が訓 読 み で あ るが,今
回 の 調 査 で は訓
読 み例 以 外 の 用例 も見 られ る。 ③ 語 彙 の 種 類 で 最 も多 い の は 名 詞 で,動 植 物,食
べ 物,道
具,身 体 の部 分 の
名 称 な どが 特 に 多 い。 名 詞 以 外 で 多 い 品 詞 は 和 語 動 詞 で あ る 。活 用 語 は表 外 字 の約25%,表
外 読 み の 約50%で
あ る。
また,漢 字 の 使 用 状 況全 般 に つ い て は以 下 の 5点 に ま とめ られ る。 ① 常 用 漢 字 の仮 名 書 きが 全 般 的 に 目立 つ 。 これ は野 元 の1980年
調 査 報 告 「広
告 に は漢 字 が 少 な い 」 と い う報 告 と合 致 す る。 常 用 漢 字 表 外 の 漢 字 が 多 数
使 わ れ て い る こ と と矛 盾 す る現 象 に見 え る が,表 外 漢 字 の 使 用 総 数 や そ の 頻 度 が 高 い か ら とい っ て 必 ず し も そ の 漢 字 が 一 般 的 に使 わ れ て い る とい う こ とで は な い 。 この点 に つ い て は別 途 調 査 が 必 要 で あ る。 ② 仮 名 書 き さ れ て い る もの に は,常 用 漢 字 外 の 漢 字 の 他 に,話
し言 葉 の 記 述
や キ ー ワ ー ドだ け を 目立 た せ る た め に仮 名 で 書 か れ た も の,言 葉 遊 び の 掛 詞 の 部 分 な どが あ る。 ③ い わ ゆ る 四文 字 熟 語 や 漢 字 だ け で構 成 され た 長 い 言 葉 は全 般 的 に多 い と は 言 え な い 。 ま た 従 来 な ら漢 字 が 長 く並 ぶ よ う な 場 合 に,改 行 や 分 か ち 書 き に よ り漢 字 が 長 く続 く こ とが 意 図 的 に避 け られ て い る。 ④ ル ビ の数 は多 くな い が,総 ル ビ も一 部 に見 ら れ る。 漢 字 の読 み を示 す 傍 訓 が 主 で あ るが,そ
の他 に漢 字 語 彙 が 示 す 意 味 と同 じ また は類 似 の 内容 を 表
す 別 の言 葉 や 言 語 を 示 す の に 使 わ れ て い る も の,ま た,漢 字 が ル ビ と し て 電 話 番 号 な ど数 字 の語 呂合 わ せ に使 わ れ て い る もの が あ る。 ⑤ 表 外 字 や 表 外 読 み が 雰 囲気 作 りや デ ザ イ ン要 素 と して も使 わ れ て い る 。
●14 お わ り に
新 聞 にお け る商 品 広 告 や 企 業 広 告 は広 告 主 に とっ て は販 売 促 進 の た め の 投 資 の 一部 であ り ,消 費 者 が 買 い た くな る よ うな魅 力 的 な広 告 作 りが 究 極 の 目的 で あ る 広 告 で は,文 字 は単 な る情 報 を伝 え る記 号 と し て だ け で な く,消 費 者 の 目 を引 く た め の デ ザ イ ンや 遊 び の 要 素 と して も使 わ れ て い る。 中 で も漢 字 は,字 形 の 面 白 さや,表
意 文 字 で あ る と と もに 表 音 文 字 で あ る とい う特性 を もつ た め,多 数 の 役
が こ な せ る俳 優 の よ う な 重 宝 な 存 在 で,様
々 な形 で 広 告 面 作 りに 活 用 され て い
る 。 した が っ て,常 用 漢 字 表 に な い 漢 字 が 使 わ れ て い た り同 じ漢 字 が漢 字 で 書 か れ た り平 仮 名 で 書 か れ た り して い る場 合,常
用 漢 字 表 を 「守 るべ き基 準 」 と考 え
る人 の 目 に は表 記 の 「揺 れ 」 や 「逸脱 」 に見 えて も,広 告 作 成 の視 点 か ら は,魅 力 的 な広 告 面 作 りの た め の意 図 的 な 選 択 とい う こ とに な る。 しか しな が ら,広 告 産 業 は国 内総 生 産(GDP)の1.20%を 計 局 『日本 の 統 計2003』)社
占 め る(総 務 省 統
会 的 影 響 力 の 大 き な 存 在 で あ り,マ ス メ デ ィ ア に お
け る言語 使 用 の 人 々 へ の 影 響 は計 り知 れ な い。 経 済 学 で は 「悪 化 は良 貨 を駆 逐 す る(グ
レ シ ャ ム の 法 則,Gresham's
law)」 とい うが,広
告 で は仮 名 表 記 や 片 仮
名 語 が 漢字 語 彙 を駆 逐 しつ つ あ る。 広 告 は利 潤 追 求 を主 目 的 とす る企 業 の 経 済 活 動 の根 幹 に関 わ る もの で あ るが,そ
こで は 同 時 に 日本 語 の変 質,特
に漢 字 語 彙 の
衰 退 が 生産 され て い る と言 え る。 現 代 は コ ン ピ ュー タ に よ る編 集 で ル ビ をつ け る こ とが 容 易 なIT時
代 で あ る。 若 年 層 を中 心 に新 聞 離 れ が 進 行 し新 聞 社 の経 営 に
影 響 が 出 て い る とい うが,も
し昭 和10年
代 ま で一 般 に行 わ れ て い た よ う に漢 字
が 総 ル ビ な ら ば 子 ど もで も広 告 か ら学 ぶ こ と は多 い。 章末資料 本章 の調査 結 果 は本 文 中 に挿入 す るに は大 きす ぎ るた め章 末 資 料 にす る。 多々良 の 1965年 調 査 で は当該 漢 字 の み を部 首 別 に分類 して い るが,本 章 で は調 査 の結 果 を な る べ く 「生 」の状 態 で 示 した い た め,少 々煩雑 に な るが使 わ れ て い る環 境 を語 の 形 で示 す。活 用語 の場 合 は 自動 詞,他 動 詞,一 部 の活用 形,派 生形 な どの頻 度数 を分 けて表示 す る。
章 末資料 A 種)(部
「読 売 新 聞 」2002年
首 別)(注
2月 分 に 掲 載 広 告 に 掲 載 の 表 外 字484字(読
:片 仮 名 で 書 か れ た 部 首 名 に続 く数 字 は,そ
み549
の 部 首 の 表 外 字 を合 計 し
た もの で あ る。 「+ 」 記 号 を 付 け て 示 した 数 は,読 み 方 が 複 数 の も の を加 え た 数 で あ る。 こ れ らの 数 字 を す べ て 合 計 す る と,表 外 字 の 読 み 方549に
な る 。 表 外 字 に添 え括 弧 内 に
用 例 と そ の 頻 度 数 を 示 す 。 表 外 字 が 活 用 語 あ る い は熟 語 の 一 部 と して 用 い られ て い る場 合 に は,そ
の 位 置 を 「△ 」 お よ び 「▲ 」(二 文 字 目)で
示 し た 。 な お,「$」
み ・熟 字 訓 ・外 国 語 の 原 音 な ど の 特 殊 な読 み 方,「#」 は 正 字 体 で,「##」
は 当 て読
は異 字体 で あ
る こ と を 示 す 。 ル ビ は 用 例 ど お り。) 【ア シ 1】 踵 1 【ア マ イ 1】 甜(△ △ 1),碧(紺
茶 5)【ア メ 1】靄 1 【イ シ 6+ 2】碗(茶
△ 6・△ い 3・△ 1),硯
(△樓 1)【イ ト16+ 2】 紬14,緻(△ △ 6),繋(△
密 6・精 △ 4),綴(△
が る 4・△ ぐ 1・△ が り 1),繍(刺
縞 2,紐 1,組 1,絨(△ 1+ 1】 艶(△
2,碁 1,砦 1,磋(切
毯 1),綺(△
る 8・△ り込 み 1),綻(破
△ 5),絢(△爛
麗 1),縷(一
△ 蒸 し24・ 茶
△琢 磨 1)【イ タ ル 1】臺#
豪 華 5),絣 2,絆 2,
△ の 望 み 1),緬(縮
△$1)【イ ロ
3・△ や か な 2・幽 △ 1)【ウ オ18】 鯛75,鮪46,鮭10,鮑8,鱸7,鯵
6,鱒 6,鯉 6,鮒 5,鰤 5,鮎 5,鰹 3,鮫 3,鰈 2,鰆 1,鮃 1,鰯 1,鰻 1 【ウ カ ン ム リ 5】 宛(△87・
△ て 先 1),窟(洞
△12),窩(眼
△ 3),牢(堅
△ な 2),〓
1 【ウ シ
1】 牡(△
蠣$7)【
(△ る 6),甥 馳(名
ウ シ ト ラ 1】艱(△
1 【ウ マ 3】 馴(△
難 辛 苦 4)【 ウ ス 1】 臼(脱
△ 3)【 ウ マ レ ル 2】 甦
染 み 3 ・△ 染 む 1 ・△ れ △ れ し い 1),駕(凌
を △ せ る 1)【 ウ リ 1+ 1】 瓜(胡
△ 3 ・南 △$2)【
水 △ り 3 ・△ る 1 ・下 △ り 1 ・△ し 入 り 1)【 オ ウ 7+ 1】 珈琲(△ 2),瑞(△ 616・
兆 1 ・△ 々 し い 1),瑕(△
手 △21・
3),頬
見 △10・
1,頓(〓
疵 1),琢(切
く1)【
い 1),媚(風
光 明 △ 2),奴
1,姑
粒15),頸(子
オ オ ザ
2)【 オ ノ レ 1】 巷 1 【オ ン ナ 6+ 1】 嬉(△
ト1】 鄙(△
瑚(△
▲ 礁
宮 △ 部 3),頚(△ び た 1)【 オ ツ1】
し い22),妖(△
1,妓(芸
▲ 3),珊
△ り 4・
磋 △ 磨 1)【 オ オ ガ イ 7】 頃(△
日 △ 8 ・近 △ 2),顆(△
△ 1),頷(△
△ す る 2),
エ ン ニ ョ ウ 1】 廻(逆
椎
乞(△
精 4 ・△ 気 2・△ 怪 1 ・△ し
△ 1)【 カ イ 5+ 1】 貼(△
る91・
△ 付17・
タ イ ル △ り 7 ・△ 込 み 4 ・△ り 合 わ せ る 2 ・△ り付 け る 2 ・切 り △ り す る 1),贅(△ 43・ △ を き わ め る 2 ・△ を つ く す 2),賑(△ 1),賭(△
け 1)【 カ ゼ 2】飄(△
(△30・
△茹
で 9),鍼(△
(円 △ 型 1),鎧(△ 【カ バ ネ 1】 殆(△ ワ ラ 3】 甕30,瓦 厨(△
(黒 △14・
灸24),鍵(△
3 ・△ 盤 1),錦(△
キ バ 1】 牙(象
紫 △ 7 ・ 白 △ 7 ・入 △ 1),椎(△
胸 △ 2 ・仙 △ 2),檜17,椿17,椅(△ 樽 6,樺(白
2 ・△ 色 1),槌(△
(△ 仁 豆 腐 2),棋(将 桶 1,框
1,杖
榕(△ 樹 1),樟(鳥 (△徨 (△65・
5,杜(△
薩10・
1),蓋(△
△ 提 樹
1),薩(菩
菖 △ 2),葱
3,蕗
る 4),薔 3,菖(△
草 1 ・△ 延 す る 1),葵(山 1),萌(△
え る 1),葛
△$38),茹(浜
薇(△
蒲 2),董(骨 △$2),藪
▲ 8),椀
6,
△ 3),桂(△
子 2),杭 △ 1),梗(脳
7】 蘭(△90・
皮 2,杏
1,柵
1,
△ 塞 1), ▲ 7),彷
胡 蝶 △ 8),茸
く 4 ・茅 △ き 2 ・△ き 方 1 ・白 樺 △ き 5 ・ 山 △ 2),苺
1,藁
1,蕨
1,萩
1,芒(八
△ ▲ 2・
葺 き 2),蔓(△ △ 星 1),蒔(△
△ 1),蓬(△
△32),呆(痴
今 6 ・△ 々 感 無 量 1),嘘
蕉(水
公 英$1 ・△ 焼 き 1・
薬 2),茅(△
羊 △ 1),蔽(隠
3】 呂183,噌(味
5,芭
▲ 4),蒲(△
△ 2),芍(△
▲ 1),〓(淫
え る 7),只(△
橘(△
△ で 9 ・釜 △ で 9 ・△ で る 2),
▲ 4),蒟蒻(△
(肉 △ ▲ 1)【 ク シ 1】 串 2 【ク チ27+ △ 気$1),叶(△
2】 桐63,檀
1)【 ギ ョ ウ ニ ン ベ ン 4+ 1】 俳 徊(△
△10),葺(△
藤(△
8,柑
△ な 2),柚(△
物 2 ・火 △ 2 ・裏 △ 1 ・△ し 2),芋(△
△ ▲ 布 3),蘇(△
キ ヘ ン40+
書 1),槃(涅
△ 2)【 ク サ カ ン ム リ42+
椎 △ 5 ・松 △ 1),芯42,苔(海
菩(△
△ 1)【 カ
ガ ン ダ レ 1】
む 2 ・△ み 家 1),欅2,柿
1),楷(△
△ 1),樓#(△臺
1,錐
る 3 ・△ い は 1)
△ す る48)【
氏 3 ・△ 仲 1),椒(胡
△ 2),楚(清
△ 1),梓(△
う$1 ・△ 彿 2),彿(彷
3 ・△ 糸 卵 1),錆
茸 5 ・△ 間 板 4 ・頚 △ 3 ・脊 △ 3 ・腰 △ 2 ・
目 2 ・△ 1),棲(△
△ 駒 2),采(喝
1,梢(末
△16)【
子$2 ・車 △ 子$7),枕
△ 5 ・ 白 △ 葺 き 1),梁
3),栗(△
う 1 ・△ え る
1・△ 甲 1)【 カ ワ 1】 靱(強
穴 群 1)【 カ ン ニ ョ ウ 1】 函(投
キ ガ マ エ 1】 氣#10【
沢
爽 1)【 カ ネ 9+ 2】 鍋116,釜
々 た る 顔 ぶ れ 1)【 カ ノ ホ コ 1】 或(△
ど 全 て 1)【 カ メ 1+ 1】 亀(△ 6,甌(△
房1)【
わ う 2 ・△ や か 1),貰(△
々 と し た 1),颯(△
兜 1),錚(△
う
6,咳(△
絵
麩 1), 〓 蓉 △13・
△ 然 1・
3 ・鎮 △ 3),叩
(△ き 込 む 3 ・△ き 打 ち 1 ・△ き 売 り 1 ・△ き 1),呑(湯 (△ 音 4),囃(△
子 3),喘(△
息 3),嗜(△
む 1 ・△ み 付 き 1),喰(△ (八 △ 1),喋(△
ら う 1 ・漆 △ 1),噂
る 1),〓(△
(△ る 4 ・△ 新 3),轟(△ 狙
(△ う11),狐
菜 1)【 コ ザ
1,獅(△
め る 6),謳(△
間 3),隅(界
△$1)【
△ な 1)【 サ ラ 1】盂(腎
油10・
△ 落 た 1 ・瀟 △ な 1),泄(排
(△ 羊〓
1),漆(△
喰 1),漉(△
く 1),瀟(△
る 5),禍
子$5),餐(晩
1,禦(防
う12・
纂(編
△ 1),〓(△
△ 1 ・△ 金$1)【
【ツ チ 6+ 4】 塵(集
△24・
か7・
△ 1),箋(便
△ 1),箏(古
△14・
3,壺
2),勿(△
論 1)【 ツ メ 2】 爪 8,爬(△
1),揃(二
個 △ え12・
取 り △ え る11・
シ ヨ ク 5】 饗(△
2,竿
シ
りす ぐ
1,籐
1,
△ 1)【 タ マ 1】瑕(△
疵
△ 1)【 チ ョ ウ 1+1 】鬱(憂 ・二 △ 3 ・△ 麻 1)
肥 1)【 ツ ツ ミ ガ マ エ 2】 勾(△
1)【 テ ヘ ン21+
2】 捺(△
印136・
配
手 △ 染
△ え て い る 8 ・勢 △ い 6 ・品 △ え 5 ・△ っ て い る
12・ 手 △ み 2 ・△ む 1 ・△ み 込 む 1),排(△ え る 7),挨(△
宴
頭$2)【
1,篇
4 ・△ え る 2 ・酒 器 △ 2 ・△ う 1 ・不 △ い 1 ・逸 品 △ い 1 ・花 器 △ い 1),揉(△
2 ・お 茶 △ き 1),捉(△
△ 1)
無 △ 4 ・△ す り 1・水 △ 1 ・耳 △ 1),塞
1,堆(△ 虫類
濫 1)【 シ
し い 1 ・△ し さ 1),這
筍 5,箸
弓 9 ・△ 蝶 蘭 8 ・△ 椒 3 ・△ 瓜$3
△ 1),垢(歯
(要 △ 化 1 ・城 △ 1・脳 梗 △ 1),埃
1),淫
遥 か な る 1),選(△
る5),逞(△
△ 且 つ 1)【 チ カ ラ 1】 劫(億
ツ キ 1+ 2】 胡(△
腸
1),氾(△
△ 式#1)【
△ な 3 ・華 △ な 1)【 タ ケ10】
笥 1),笥(〓
1)【 チ イ サ イ 1]尚(△21・
を △ む 2),
れ る 1),浣(△
投 げ 2 ・△ 付 け 1),饅(△
出 △ う 1),遙(△
り の 3 ・△ り 抜 き の 2 ・△ り す ぐ っ た 1),辿(△ (△ う 1)【 ダ イ 1】 奢(豪
す
2 ・ 目 △ 1 ・△ 尾$1),犀(木
△ 物 質 1),禮(茶
醐 △ 出
△14),洒
れ る 2),汲(酒
酒 な 1),涅(△槃
△ 2 ・正 △ 1),餌(△
ン ニ ュ ウ 7】 迄24,逢(△
く10・
△ 5 ・△ 布 4),潰(△
1,溺(△
2 ・山 △ 1)【 シ カ バ ネ 2+ 1】 尻(△
【シ メ ス 4】 祀(△ 5),餃(△
△ 万 丈 2),渚
△ 5),醍
湧(△
れ る16),涛(怒
れ る 3 ・△ ら す 1),淹(△
え た 2),瀾(波
裟
え る14),謎14,
魚 △ 1),酎(焼
△11),瀑(氷
3,粕
▲ 4),袈
△ り 2 ・参 △ 1),詫
△ 炎 1)【 サ ン ズ イ21】
量 2 ・△ 水 2 ・△ き 上 が る 1 ・△ 出 る 1 ・△ き 水 1),溢(△
身 2),湛(△
颯 △
コ メ 4】 糞 4,粥
せ る 1)【 ゴ ン ベ ン 8+2 】 誰57,讃(△
△ え 1)【 サ ケ ノ ト リ 5】 醤(△
カ 1】 麓(△
△ や か な12・
4 ・△ 除 け 1),襦袢(△
(△ ▲ 味 4),醇(芳
渾(△
△ 1)【 ケ モ ノ 4】
快23・
っ た 2 ・△ 歌 す る 1 ・△ 歌 さ れ る 1),詣(お
3 ・ 目 △ し 1 ・△ れ た 1),濡(△
く 1),叭
ク ル マ 2+ 2】 斬
△ 1),毯(絨
△ 1),阿(四
(△ び る 1),誂(お
(お △ 落 な$12・
△$1)【
き つ け る 1 ・△ か れ る 1 ・心 △ か れ る 1),惣(△
1 【コ ロ モ 9】 袖56,裾(△
(大 △ ▲ 2),衿##2,褪(△ 諦(△
4,吃
采 2),噛(△
▲ 1),啼(△
く 1),唾(固
子 1)【 コ ウ 1+ 1】 爽(△
濤14),惹(△
ト 3】 隙(△
(△ 1 ・酒 △ 1),糀
う 2),喝(△
1,喧噪(△
然 1),囁(△
音 2 ・△ く 1)【 ケ 2】 毫(揮
2,猪
1)【 コ コ ロ 3】 怒(△
△ み 4・息 を △ む 1),喉
好 3),唄(△
泄11),挽(粗 拶 6),撥
み ほ ぐす
△ き 4 ・△ く 2 ・△ き 立 て
(△ 水 4),挫(△
折 3),抒(△
情
3),摺(手
△ り 3),掌(△
め る 1),〓#(△ 1),拭(払
2 ・合 △ 1),掻(耳
む 1),撰
1,捧(△
△ し た 1)【 テ ン 2】 丼14,之(△
2+ 1】 歪(△
む 5 ・△ み 2),此(△
居 1),鶴(△
△39・
4 ・△ 掛 け 3),腱
1 ・脱 △$1 ・△ 門$1),脇
盂炎 1),脊(△
1,曾(△
2,倶(△
ン △ 1)【 ヒ キ 1】 疋(△ 【ヒ ト ア シ 1】 兜(△
鍼 △24),焙(△
3),焼(△
酎 5),焔
△ 1,灼(△
【フ ル ト リ 3】 雛39,雀 い て も1・
5,蛎
4,蛸
1,蠕(△
仲 △ ま じ い 1),眩(目 1),閃(△
1 【ヒ ヘ ン12+ △ 漫6・
裂 1),煥(才
△ 1)【 マ ダ レ 3】 慶(△
1】炒(△
気 △ 発 1),烟(△
び 3),疹(麻
が △ む 1 ・△ く 1),眉
光 1)【 ヤ マ 3+2 】 崖(△
1,瞑(△
△ 1),厨(△ く
△ 1),麹
7,蠣(牡
△$7),蛤
メ 5+ 2】 瞳 5,睦(親
想 1)【 モ ン 2】 闇(△
5 ・断 △ 5),嵌(象
雨 1)
け る 1 ・△
け 1)【 ミ ル 1】 覗(△
波 羅 △ 8),虹 牛$1)【
△ め
き 8 ・△く
△ 羅$6 ・生 △ 1 ・蓬 △ 1),麸(玉
旋 1),蝸(△
△ 1)
る35・
ホ ウ 1】 於(△
え る 1)〓##(△
△ 蘭 8 ・△ 4),蜜(六
ッサ
む 1),羹(羊
豪 華 絢 △ 5 ・花 △ 漫 2 ・△
き 甲 △$2)【
動 1),螺(△
古 5),
△ 楽 1)【 バ ネ 3】翡 翠
熱 の 1),炸(△
体 4)【 ミ ミ 1】聳(△
蟹132,蝶(胡
達 5 ・△ 舞 △ 2),佛#
△ く 3 ・窯 △ き 1 ・空 △ き 1),煌(△
き 穴 1)【 ム ギ 4】 麺11,麩#(天
5 【ム シ11】
怠15),俺(△
ニ チ 3】
薬 1)【 ノ ギ 4+ 2】 稽(△
1 【ブ ン 1】 斐(生
△ 1)【 ホ ネ 1】 骸(死
房 1)【 ミ 1】 躯(△ 3 ・△
1,隻
臼
1,腎(△
え た 2 ・△ え 渡
ぶ 2), 伎(歌
△ け る 1),羨(△
煎16),爛(春
い △ き10・
倦(△
穀 豊 △ 2),穐##(千
3 ・鎧 △ 1)【 ヒ ノ カ ワ 1】皺
る18),灸(△9・
3,脱(△
△ 2),膏
橋 7 ・△ し 切 り 1 ・△ り 下 げ る 1),帖(デ
物 1)【 ヒ ツ ジ 3】 翔(天
漫 1 ・天 真 △ 漫 1),焚(追
3】 膳(御
と す る 1 ・△ 々 し い$1)【
△1),傳#(△
き 3)【 ハ バ 2】 吊(△
ト ラ 1】 虎
槽 △ 漏 8・
れ る 5),股
煮 3),偲(△
少 作 1 ・△ 代 の 1 ・△ な 1),穣(五
(△ ▲ 6),耀(△
5,腫(△
孫 1)【 ニ ン ベ ン11】
い 1),侶(伴
▲$1)【
い 8 ・△ ま じ い 1),冴(△
む 2 ・△ ま い 2),佃(△
楽 部 1),儚(△
6 ・合 △ 1 ・△
る 1)【 ニ ク ヅ キ18+
▲ 炎 2),冑(甲
駕 す る 2 ・△ ぐ 2),凛(△
泉 三 △13),旭
4 ・△ 的 1),佇(△
6,肴
毫
旋 1)【 ト メ ル
立 △16),膝10,膿(歯
胱(△
髄 1)【 ニ ス イ 3+ 3】 凄(△
る 2 ・△ え な い 1),凌(△ 昧(温
2,膀
1,鴛鴦(△
亘(△
薬 △ 2 ・配 △ 1 ・本 △ 1 ・和 洋 △ 1),腺(前
3),肛(△
稀(△
1 ・△ の 爪 1),鶯
む 1 ・△
茶 1),揮(△
れ 2)【 ト マ ス 1】 斡(△
年 1 ・△ 受 す る 1)【ニ1
蓄 △ 症 1 ・△ 瘍$1),肘(△
△ 1),抹(△
岸 3 ・△ れ 2)【 ト リ 7】 鳩 9,鴨(△
5 ・丹 頂 △ 2),鷹(△
1 【ナ ベ ブ タ 1】 享(△
△ き 1 ・△ 痒 症 1),掴(△
げ る 1),捲(席
△ 2 ・△ 頓 1),峻(△
△ 1・ 9 ・暗 △ 厳 な 1)
【ヤ マ イ ダ レ 9+4 】 痔(△14・
△ 核$1 ・△ 出 血$1),痩(△
せ る 3 ・△ 身 効 果 2),疹
(湿 △ 1・麻 △ 1),瘤
△ 1),疵(瑕
△ 1),痒(〓
(膿 △$1)【
1,痕(傷
リ ッ シ ン ベ ン 7+1 】 憧(△
す る 2),懺 (△ 悔 2),愕(驚 剃(△
△ 1),痰(去
れ18),憐(可
△ 1 ・△ 然 1),恒(△
る 1)【 リ ュ ウ 1+1 】 龍(△
△ な 8),惚(恍 に 1),恍(△
3 ・小 △ 包$7 ・鳥 △ 茶$2)【
△ 症 1),瘍 △ 1 ・一 目 △ れ
惚 1)【 リ ッ ト ウ 1】 レ ン ガ 4+ 2】 煎(焙
△
16・ △ 茶 1 ・△ 薬 1),烏(△
賊$8 ・△ 龍 茶$2
(石 △ 3)【 ワ カ ン ム リ 1】 冥(△
章 末資料 B
下,数
ま た,*は,二
ら か じ め54),証(あ
11),活(い
か す13・ み16・
か わ る 6),象(か
1),唱(うた
た ど る 3),難(耐
如(し
(お す す め 5),全(す
べ て 5),総(す
摂(と
り 肉 1 ・地 ど り 1),透(と
り こ4),獲(と
【ネ 1】 労(ね
ぎ ら う 1)【 ヒ 5】 陽(ひ
か に 1),鼻(反ぴ す 々 6),愛(ま
(み 影 1),径(み
ち 1),路(小
差 し*1)【 モ 1】 許(手
ら わ れ る 1),留(と ぐ*1),辱(忍
ろ が る 2),魅(ひ
み ち 1)【 ム 1】 室(む
裾 よ け 1),歓(よ
章 末資 料 C 表外 字 。)
マ 4+1 】 も られ
せ る 1),御
ろ 1)【 メ 1+1 】 眼(め
2・ま な
求 め や す い 2 ・分 か り や す く 2 ・吸 収 し や
ろ こ び11),選(よ
ろ こ び 3),好(心
き つ け る 1),
ま れ な 1),護(ま
す い 1 ・打 ち や す い 1・乗 り や す い 1 ・は が し や す い 1)【 ユ 1】 征(ゆ
り抜 き の 2),慶(よ
どめ に く 4)
ま じ い 5 ・親 ・ ぼ く*1)【 れ な 1,類
い 立 1) り 1 ・と
や び や か な 1 ・み や び な 1),魅(み
も と 1)【 ヤ 1】 易(お
・男 た ち
げ る 3),鶏(と
に お う 1,か
射 し 7),拡(ひ
め で る*1),希(ま
る22),雅(み
の しむ 6・
か さ ど る 1),衝(つ
ど こ ろ1),囚(と お い16・
た.
く る 8 ・つ く り 出 す 1 ・つ く り 上
1)【 ホ 1+1 】 睦(仲むつ な 娘1・
て い る 1)【 ミ 6】 観(み
め52),愉(た
だ ち 2 ・俺 た ち*1
れ る4),遂(立
お す 1),処(湯
な え る 1)【 二 2+1 】 臭(に
ちか つ 2),被(か
ら な か っ た 1)【 ス 3】 奨
べ て 2)【 タ 6】 為(た
ら い 1・つ ら く 1),司(つ
る15),虜(と
ち ず l)【 カ
ぶ し 1・太 極 け ん*1),寿
ま る 6 ・た め る 1),達(友
る 1),称(と
(厄 よ け11・
き 1)【 ウ 3】
げ 2)【 コ 3+1 】 応(こ
存 じ 3),識(し
ぐ い 希 な 1)【 ツ 5】 創(つ
に 6),辛(つ
し
っ た 1)【 オ 2】 想(お
え が た い 2),克(打
か ず 4),知(ご
く み 2),類(た
げ た 1),恒(つね
益(ま
う 1),詩(うた
が め る
い や す13・いや
ま だ 2),粋(い
つ ろ ぐ 1 ・ く つ ろ ぎ 3)【 ケ 1】 悔(懺
た の し い 1 ・た の し さ 1),貯(た
密(ひそ
つ く 2),崇(あ
や さ れ る14・
手 ご た え 3 ・聴 き ご た え 3 ・見 ご た え 1),拳(こ
1),匠(た
十音頻 度
点 は表 外字 を示す。
お も い 8 ・お も い 出 8 ・お も う 3 ・お も わ せ る 2),陥(お
(こ と ほ ぐ 1)【 シ3】
【ト10】
イ 4+1 】 癒(い
い き て い る*2 ・ い き 生 き 1),未(い
ぶ る 1)【 ク 1】 寛(く え る32・
み 用 例 一 覧(五
か し 5 ・ あ か し 2),篤(あ
え て1)【
う ま 味 4 ・うま
も っ て い る18・ 5】 係(か
切 り1)
字 は頻 度 数 を,下 線 部 は 表 外 読 み の 部 分 を,傍
か り 1),敢(あ
旨(うま
2月 分 表 外 読 み81字88読
△ 1)【 ロ 1】〓
つ 目 の 表 外 読 み で あ る こ と を示 す 。)
【ア 6】 予(あ 1),灯(あ
1,焉(終
王 2 ・△ 土 1)【 非 漢 字 1】 〆(△
「読 売 新 聞 」2002年
順)(注:以
・△ 樟 1),熊
く 1)【 ヨ 5】 除
り す ぐ っ た 1 ・ よ り す ぐ り の 3 ・よ
地 よ い 1)【 ワ 2】判(わ
か る 2),禍(わ
当 て読 み ・熟 字 訓 ・外国 語 の原音 等 の特殊 な読 み 方44種(注
ざ わ い 1)
:傍 点 は
【ア 行13】
貴 方 4,貴 女 2,脂 肪 2,紫 陽 花 1,在 処 1,杏 仁 豆 腐 2,雲 丹 2,団 扇 1,独
活 1,海 老132,可
笑 し く1,美
味a(お
い し い13・
(う ま い 1・苦 う ま み 4)【力 行10】 可 愛(か
お い し く 1・お い し さ 1),美 味b
わ い い 8・か わ い ら し い 2),甲(か
っ冑
2 ・生 き が 斐*2),彼
方 3,硝 子 2,垣 間 見 る 1,身 体 1,河 童 1,華 奢 な 1,参 鶏 湯
1 【サ 行 5】 洒 落(し
ゃ れ た 1・お し ゃ れ な12),老
2 【タ 行7】 堪 能41,蒲
舗14,人
参 1,尻 尾 1,清 々 し い
公 英 1,提 灯 3,菩 提 樹 1,縮 緬 1,裂 傷1,点
卒 1,南 京 2・南 京 玉 す だ れ 1,海 苔38【
前 1 【ナ 行 3】 何
ハ 行 2】 女 1,故 郷 1 【マ 行 2】饅 頭 2,夫 婦
1 【ヤ 行 1】 飲 茶 9 【ワ 行 1】 理 由 5
文
献
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④
若者 と漢 字
米 川明彦 ● 1 若者の漢字 の読 み書 き能 力
若 者 は何 か に つ け,批 判 の対 象 に な る。 漢 字 の読 み 書 き に つ い て も例 外 で はな い。 た と え ば,「 今 ど き の若 者 は漢 字 を知 らな い 」 「最 近 の大 学 生 は漢 字 が 読 めな い 」 「携 帯 電 話 の 『携 帯 』 が 書 け な い 高 校 生 が い る」 な ど,枚 挙 に い と まが な い1)。4半 世 紀 前,「 危 機 一 髪 」 を 「危 機 一 発 」 と書 い た高 校 生 が 多 くい た こ とが 話 題 に な った こ とが あ っ た 。 「□ 肉 □食 」 の □ を埋 め る問 題 で 「焼 肉 定 食 」 と書 い た 学 生 が い た 話 も聞 いた 。 で は 実 際 どの 程 度 の漢 字 の 読 み 書 き能 力 な の で あ ろ うか 。 また,ど
ん な漢 字 の 読 み書 きが で き な い の で あ ろ うか 。 さ らに また,今 の
若 者 は以 前 の 若 者 よ りそ の能 力 が落 ち て い る の で あ ろ う か。 その ほ か,近 年 一 般 化 した パ ソコ ンや 携 帯 電 話 の メ ー ル が 漢 字 の書 字 に 影 響 を与 え て い るの で あ ろ う か 。 この 節 で は こ れ ら に つ い て,各 種 調 査 を参 考 に 明 らか に した い。
(1)漢 字 調 査 まず,こ
こで 言 う 「若 者 」 は 主 に10代 後 半 か ら30歳 前 後 の 人 を 指 す こ とに す
る。 な か で も高 校 生 ・大 学 生 が 中 心 に な る が,調 査 資 料 の 関 係 で 中 学 生 も取 り上 げ る こ とが あ る。 さ て,若 者 の 漢 字 の 読 み書 き能 力 に つ い て,以 前 か ら い ろ い ろ な調 査 が あ る。 こ こで は比 較 的 新 しい デー タ を紹 介 しよ う。 河 口正(1988)は,同
氏 が勤 務 す る高 校 の各 学 年 2ク ラス ず つ の 生 徒 を対 象 に
市 販 の 漢 字 学 習 帳 か ら問 題 を抜 粋 し て,漢 字 の読 み書 き能 力 を調 査 し,そ の指 導 を 考 察 した 。 そ の 結 果 に よ る と,「 常 用 漢 字 は(略)音 五 割 近 くは読 め な い状 態 で あ る」(表4.1参 の 間 に 差 が な い こ と も解 っ た 」(表4.2参
訓 表 の 範 囲 内 の もの で も
照),「 表 外 音 訓 を含 む語 の 読 字 力 と 照)と
い う。 そ して 「 特 に注 目 され た
点 は,高 校 段 階 に な る と読 字 力 の個 人 差 が 歴 然 と して くる こ とで あ る」 とい う。 出題 さ れ た 漢 字 を見 る と,「 暫 時 休 憩 し ます 」 「漸 次 改 善 し ます 」 「定 款 を 改 正 す る 」 「法 律 を遵 守 す る」 「幹 部 を更 迭 す る」(下 線 部 の 読 み)な も難 しい もの で,5割
ど,読 み は い ず れ
近 くが 読 め な い の は 当 然 で あ る。 これ ら は高 校 生 に とっ て
は な じ み の あ る語 とは言 え ず,読
め な くて もさ ほ ど問題 に は な らな い で あ ろ う。
これ を もっ て読 み の レベ ル を測 る の は好 ま し くな い。 漢 字 の書 き取 りの 調 査 の 結 果,「 書 字 力 は極 め て 低 い こ とが 解 る。 概 して 訓 に よ る一 字 の 漢字 の 出 来 が 悪 か った 」 とい う。 出題 され た 漢 字 を見 る と基 本 的 な も の で 難 しい 漢字 は な い。 これ につ い て は同 氏 の言 う とお りで あ る。 また,同 音 異 義 語 ・反 対 語 の 問題 も正 答 率 が か な り低 く,「 語 彙 の 貧 困,特
に使 用 語 彙 の 乏 し
い 原 因 が この 辺 りに あ る よ う に思 わ れ る」 と述 べ て い る。 これ と は別 に 同 氏 は 3年 生 約90人 字10字(背
に文 脈 な し で 訓 読 み の 調 査 を した 。 教 育 漢
く ・兆 す ・承 る ・暴 く ・唱 え る ・担 う ・著 し い ・廃 れ る ・費 や す ・
裁 く)の 正 答 は 平 均 は7.3字,常
用 漢 字10字(挑
む ・虐 げ る ・培 う ・浸 す ・煩
う ・紛 れ る ・偏 る ・覆 す ・謀 る ・戻 る)の 正 答 は5.3字
で あ っ た。 た だ し 「高 校
表4.1
音 訓 表 範 囲 内 の 結 果(河 口1988)
表4.2
音 訓 表 範 囲 外 の 結 果(河 口1988)
卒 業 段 階 で も三 割 は読 め ず,常 用 漢 字 に な る と五 割 の字 が読 め な い」 と い うが, 後 者 の読 み は難 し く,こ れ で もっ て,高 校 生 の 読 み の力 を一 般 化 す るの は危 険 で あ る。 どん な漢 字 を取 り上 げ る の か に よっ て 結 果 は異 な る こ とは 明 らか で あ る。 次 に,大 規 模 な調 査 を 紹 介 し よ う。 国 立 国 語 研 究 所 報 告95『 児 童 ・生 徒 の 常 用 漢 字 の習 得 』(1988年,東 生(主
京 書 籍)は,1980年
代 前 半 に小 学 生 ・中 学 生 ・高 校
に東 京 都)を 対 象 に小 学 校 に配 当 され て い る漢 字996字
を含 む 常 用 漢 字 の
習 得 率 を調 査 した もの で あ る。 結 果 の ま とめ と し て 次 の よ う な こ とが 挙 げ られ る。 ・読 み よ り も,書 き の ほ うが 習 得 率 は低 い 。 ・同 じ漢 字 で も,音 訓 に よ っ て習 得 率 に 違 い が あ る。 ・1972年 に行 わ れ た 文 化 庁 の調 査 「児 童 ・生 徒 の 読 み書 き の 力 」 と比 較 して, 漢 字 力 が 低 下 して い る とい う こ とは な か った 。 ・使 用 率 と習 得 率 との 関係 を見 る と,読 み 書 き と も,使 用 率 が 小 さい 漢 字 ほ ど 習 得 率 が 低 い 。 これ は,学 校 で意 図 的 な 指 導 を受 け る前 で も後 で も同 じで あ る。 こ の調 査 に つ い て そ の 後 の 報 告 と し て 島 村 直 己(1990)が
あ る。 これ に よ る
と,次 の こ とが言 え る とい う。 ・読 み 書 き と も,高 学 年 の配 当漢 字 ほ ど,文 字 の レベ ル と音 訓 の レベ ル の習 得 率 の 違 いが 小 さい(音 訓 レベ ル の習 得 率 とは音 訓 そ れ ぞ れ の 正 答 率 の こ と。 文 字 レベ ル の習 得 率 とは,そ
の漢 字 の 中 で もっ と も正 答 率 の 高 い音 訓 の正 答
率 の こ と)。 ・読 み の 場 合,文
字 レベ ル の 平 均 習 得 率 は どの 配 当漢 字 も90%台
で だいた い
同 じ大 き さで あ る。 そ して,音 訓 レベ ル で は高 学 年 の配 当 漢 字 ほ ど高 い。 こ れ に対 して,書
き の場 合,音
訓 の レベ ル の 平 均 習 得 率 が どの 配 当 漢 字 も50
%台 で だ いた い 同 じ大 き さで あ る。 そ して,文 字 レベ ル で は高 学 年 の 配 当漢 字 ほ ど低 い(表4.3参
照)。 この こ とか ら,読 み と書 き との違 い を,
読 み― どれ か一 つ の音 訓 を読 む だ け な ら ば,ど の配 当 漢 字 で もほ とん どの 児 童 ・生 徒 が 読 め る。 書 き― どれ か一 つ の 音 訓 を書 くの で も,高 学 年 の 配 当 漢 字 ほ ど難 し くな る。
表4.3 配 当漢 字別 平均 習 得率(%)
とい う よ う に ま とめ る こ とが で き るだ ろ う。 この よ う に,漢 字 の 読 み 書 き を 「音 訓 レベ ル」 と 「文 字 レベ ル 」 に 分 け て習 得 率 を見 る な ら ば,初 め に挙 げた 調 査 結 果 と異 な る結 論 が 出 さ れ る。 す なわ ち生 徒 の 言 語 生 活 に な じみ の 薄 い こ とば は漢 字 の 読 み書 きの 習 得 率 が低 い が,そ 音 訓 を す べ て 知 らな くて も,日 常,使
の字 の
用 度 が 低 い の で 問 題 は な い とい う こ とに な
る。 次 にNHK放 た 。150校)を
送 文 化 研 究 所 が 全 国 の高 校 3年 生 約6000人(A 対 象 に行 った 漢 字 の読 み の 調 査,坂
群 と B 群 に分 け
本 充 ・山 下 洋 子 ・柴 田 実 「読
め る漢 字 ・読 め な い 漢 字― 常 用 漢 字 表 と高 校 生 の 漢 字 認 識 度― 」(『放 送 研 究 と調 査 』2001年10月
号)を
紹 介 し よ う。 この 調 査 は単 漢 字 と文 章 題70問66字
題 した 。 選 ばれ た 漢 字 は新 聞 協 会 が使 用 を緩 和 した い と して い た39字 表 外 字 で 4字,さ
ら に教 育 漢 字 を各 学 年 配 当 か ら各 1字 ず つ計 6字,そ
を出
の ほか に, して教 育
漢 字 を 除 く常 用 漢 字 の 中か ら,各 調 査 で 認 識 度 が 低 い と予 想 され る字 を 除 き,親 密 度 ・既 知 率 の 値 か ら 出 さ れ た 指 数 順 に等 間 隔 に並 べ て17字
で あ る。 結 果 は 表
4.4の よ うで あ っ た 。 そ して 結 果 を 次 の よ う に ま とめ て い る。 1 高 校 生 の 漢 字 認 識 は,放 送 を見 た り聞 い た りす る 日常 社 会 で は 問題 な い ほ ど高 い レベ ル に あ る と言 え る。 2 漢 字 の認 識 にお お よそ三 つ の グ ル ー プ が あ る。 上 位 グル ー プ に含 まれ る 漢 字 は,か
な り身 に つ い て い て,活
用 が 可 能 な漢 字,下 位 グ ル ー プ は,
ほ とん ど理 解 され な い で あ ろ う とい う漢 字,中
間 グ ル ー プ は,文 脈 や使
用 頻 度 な ど に よ り左 右 され る不 安 定 な グル ー プ と言 え る。
送文 化研 究所 の読 み書 き調査(『 放 送研 究 と調 査』 よ り)
正 答 率 は,漢 字 のそ れ ぞ れ の読 み が で きた 人 の 割合 を示 し,認 知 率 は,漢 字 のい ず れ か の読 み が で きた 人 の割 合 を示 す。
表4.4 NHK放
3 一 般 に 使 わ れ る漢 字 がJISの お よ そ6850字
第 一,第
二 水 準 の 中 に あ る と考 え る と,
で あ る。 しか し,今 回 の 結 果 を延 長 し て考 え る と,高 校
生 が 身 に 付 け て活 用 で き る漢 字 は1500字 は300字 強,残
りの5000字
程 度,何
とか使 え そ う な漢 字
余 りは ほ とん ど理 解 され な い で あ ろ う。
上 の 1は漢 字 の 親 密 度 ・接 触 度 ・難 易 度 な どを考 慮 し た上 で の 調 査 の結 果 な の で 十 分 信 頼 に 足 る。 難 しい 漢 字 ・な じみ の な い漢 字 ば か りを 問題 に し た調 査 結 果 と異 な る。 しか も漢 字 認識 に 3グ ル ー プ あ る こ とが わ か っ た 。参 考 に第 一 グ ル ー プ と第 三 グ ル ー プ の漢 字 の 音 訓 を挙 げ て お く。 第 一 グ ル ー プ(正
答 率99.2%∼91.2%)…
虎
・誰
・鍋
・減
・鹿
丼
・減
・梨
・削
・始
第 三 グ ル ー プ(正 冥
・濫
・柿
・枕
・虹 ・疑
・腐 ・巡
・柿 ・闇
恋 ・鶴 ・駒
・瞳 ・腐
答 率5.0%∼0.4%)… ・玩
・誰
・頓
・槽
・亀 ・枕
・疑
・嵐
・近・
田
・尻
・謎
・近・
・診・
鋭・
鍵
・始
・吹
・
呂
・型
・
巡 ・釜 ・鹿 ・斑 ・賜 ・冥 ・詣 ・ ・須
・袖
単 漢 字 の音 訓 の 正 答 率 の 平 均 は53.4%,文
・誰
・汎
・曽
・磯
章 題 の 平 均 は81.7%で
あ っ た。
「特 に文 章 題 で 正 答 率 が 高 か っ た 。 漢 字 を 『 感 じ』 で読 ん で い る と思 わ れ る 回答 も あ っ た が,日
常 生 活 レベ ル で の高 校 3年 生 の 漢 字 認 識 度 は 高 い と言 え る。 漢 字
の 認 識 が 単 な る音 訓 の丸 覚 えで な く,場 面 や 文 脈 に よ り と らえ られ て い る側 面 が あ る こ と を う か が わ せ て い る」 と述 べ て い る。 次 に大 学 生 の 漢 字 の 読 み 書 き の力 に つ い て 見 よ う。 日本 新 聞 協 会 は常 用 漢 字 表 と は別 に読 み仮 名 な しで使 う漢 字 を新 た に39字 加 えた 。 選 ん だ 尺 度 は大 部 分 の 人 が 読 め る と い う こ とで あ っ た。 「朝 日新 聞 」(2001年11月24日
朝 刊)に
「若
者 の 『漢 字 力 』 弱 点 あ り」 の 見 出 しで,「 朝 日新 聞 」 は こ の字 を読 め るか ど う か み るた め に,「 朝 日新 聞 」 の新 人 記 者54人 生124人
と都 内 の 私 立 大 学 文 系 の 3年 生,4 年
に 調 査 し た 結 果 を報 告 し て い る。 そ れ に よ る と,記 者 の 平 均 は92点
(全問 正 解 者 は い な い),学
生 は 書 か れ て い な い の で 不 明 。 学 生 の ワー ス ト10の
漢 字 は 「領 袖 」 「青 嵐 」 「熟 柿 」 「鶴 首 」 「好 餌 」 「瓦 解 」 「産 駒 」 「脇 息 」 「蜜 月 」 「卒 塔 婆 」 で あ る(表4.5参 また,学
照)。 ワー ス ト10の うち 8問 が 記 者 と共 通 で あ った 。
生 が 読 め な い の は主 に 音 読 み の 語 で,「 半 袖 」 は 読 め て も 「領 袖 」 は読
め な い と い う,音
と 訓 の 正 答 率 の差 が50ポ
イ ン ト超 え る字 が 7字 あ っ た(図
表4.5 大 学 生 テ ス トの 問 題 と正 答 率(%)
・朝 日新 聞2001年11月24日
朝 刊 に よ る。 下 線 部 を 聞 い た も の 。 新 人 記 者 の 括
弧 内 は ワ ー ス ト10位 の 順 位 。 第5問
は記 者 に は 「食 餌 療 法 」 を 出 題 。
図4.1 大 学 生 テ ス ト,音 訓 の 正答 率 の 格 差(朝 日新 聞)
4.1参 照)。 同 紙 は リー ドに 「『千 羽 鶴 』 は読 め る が 『 鶴 首 』 は読 め な い 。 派 閥 政 治 は別 世 界 の 話 で 『領 袖 』 な ん て知 らな い … …」 と書 いて い る。 漢 字 の読 み は関 心 事,接 触 度 と関 係 が あ る こ とは繰 り返 し述 べ て きた と ころ で あ る。
40%
筆 者 の ゼ ミの 学 生 が 四 字 熟 語 の 問 題 集 か ら,正 答 率 が 高 い と予 想 した もの(4 語)と 低 い と予 想 した もの(6 語)を10問 に 調 査 した 。 そ の 結 果,正
選 び,同 女 子 大 学 生(文
学 部)50人
答 率 は 次 の とお りで あ った 。
時代錯 誤 96%
有 為 転 変 48%
一 期 一 会 94%
一朝 一夕
本末転倒 94%
臥薪 嘗胆 40%
言語道 断90%
傍 目八 目 38%
是 々 非 々 54%
群雄
割拠 24%
予 想 どお り二 つ に 分 か れ た 。 これ を 漢 字 検 定 受 検 経 験 者 と未 経 験 者 に分 けた と ころ,経 験 者24人
の平 均 は65.4%,未
経 験 者26人
の平 均 は58.5%と
7ポ イ ン
ト差 が 出 た 。 「一 朝 一 夕 」 「有 為転 変 」 「臥 薪 嘗 胆 」 「群 雄 割 拠 」 の よ う な 日常 語 で は な い熟 語 は受 検 経 験 者 の方 が 勉 強 した 分,正 答 率 が 高 か っ た よ うで あ る。 以 上,各
調 査 を見 て き たが,漢
と,逆 に 言 え ば,非
字 の読 み に 関 し て は 日常 レベ ル で は問 題 な い こ
日常 語 は読 め な い とい う こ とが わ か っ た 。 また 漢 字 の 種 類 に
よ っ て音 と訓 の 読 み に差 が あ る こ と,漢 字 を書 く力 は読 み に比 べ か な り低 い こ と が わ か っ た 。 しか し,漢 字 の 読 み 書 き能 力 が低 下 した か ど うか につ い て,国 立 国 語研 究 所 の調 査 は文 化 庁 の 調 査 との 比 較 で,1970年
代 初 頭 と1980年 代 初 頭 の比
較 で あ る た め,現 時 点 で 低 下 した と は断 言 で きな い 。
(2)誤
字
漢 字 を書 く と き,先 の調 査 で も同様 に,誤 字 が よ く見 られ る。 そ れ を分 析 す る と次 の 六 つ に分 け られ る。 ① こ とば を知 らな い の で 漢 字 を書 けな い。 これ は読 み に つ い て も同様 の こ とが 言 え るが,語 彙 量 の 少 な さ に起 因 す る と考 え られ る こ とが らで あ る。 「家 業 」 を知 らな い た め,就 職 の 面 接 で 「家 業 は何 で す か 」 と聞 か れ て 「カ キ ク ケ コ」 と 「カ 行 」 を答 え た 学 生 が い た とい う。 「東 京 の 雑 木 林 」 と い う本 を 書 店 に注 文 し,後 日,店 か ら若 い 女性 が 「ザ ツモ ク リ ンの 本 が 入 荷 し ま した 」 と電 話 が か か っ て きた話 な ど も 「ゾ ウ キ バ ヤ シ 」 が 理 解 語 彙 にな い た め に,読
む こ と も当 然 書 くこ と もで きな か っ た例 で あ る。
② こ とば を知 っ て い て も,ど の 漢 字 を使 った ら よい か わ か ら な い。 これ は 同 音 異 義 語 や 類 義 語 の 書 き分 け が で き な い 例 に見 ら れ る。 「保 障 」 「 保 証 」 「補 償 」,「対 象 」 「対 照 」 「対 称 」,「現 れ る」 「表 れ る」 な どが 代 表 例 。 使 い分 け を 知 らな い た め に初 め か ら仮 名 書 き に し て,漢 字 を避 け る こ とが あ る 。 最 近,特
に携 帯 電 話 の メー ル は話 し こ と ばで 入 れ るた め,堅 い イ メ ー ジの あ
る 漢 字 を避 け る傾 向 に あ る。 漢 字 の音 が カ タ カ ナ化 され て 外 来 語 の よ う に認 識 さ れ て い る面 も あ る。 ③ 漢 字 を正 確 に 書 けな い。 複 雑 な 漢 字 ばか りで な く簡 単 な 漢 字 で も正 確 に書 け な い。 た と え ば,「 達 」 の 旁が 1本 足 りな くて 「幸 」 の よ うに な っ て い る こ とが 多 い。 「帽 」 も最 後 が 「目」 で は な く 「日」 も よ く見 か け る。 ま た,「 嫌 」 も横 の 線 が 1本 足 りな い 字 を見 か け る。 「得 」 は最 後 が 「寺 」 に な っ て い る もの や 「寸 」 に な っ て い る も の を見 か け る。 ④ 字 形 の似 た 漢 字 を誤 用 す る。 「特 徴 」 の 「徴 」 を 「微 」 で 書 くの が代 表 例 で あ る。 ⑤ 同 音 の 漢 字 を誤 用 す る。 「訪 問 」 の 「問 」 を 「門 」 に した り,「成 績 」 の 「績 」 を 「 積 」 に し た り,「 一 緒 」 の 「緒 」 を 「諸 」 に した り,「講 義 」 の 「義 」 を 「議 」 に した り,「 指 摘 」 の 「摘 」 を 「的 」 「適 」 に した りす る例 な どが あ る。 ⑥ 意 味 が 似 て い る 漢 字 を誤 用 す る。 「眠 た い」 を 「寝 むた い」,「初 め て 」 を 「始 め て 」 に した りす る例 で あ る。 な お少 し古 いが,高
(3)背
校 生 の 誤 字 に つ い て 松 田保 清(1981)が
あ る。
景
先 の調 査 で は さ ほ ど問 題 は な い と考 え られ る が,現 場 の 国 語 教 師 た ち は ど う見 て い る の で あ ろ うか 。 花 田 修 一(1981)に か らア ンケ ー トを採 っ た結 果,中
よ る と,中 学 と高 校 の 国 語 教 師60人
学 教 師 の83%,高
校 教 師 の86%が
「最 近 の 生
徒 の 漢 字 ・漢 語 力 は 低 下 し て い る」 と回 答 し た とい う。 結 果 を さ ら に分 析 す る と,生 徒 自身 の 漢 字 力 に対 す る問題 と生 徒 を取 り巻 く漢 字 環 境 の 問題 に類 別 す る
こ とが で き る。 同 氏 に よれ ば 「生 徒 の 漢 字 ・漢 語 力 の 低 下 」 は後 者 に よ る と こ ろ が大 き い とい う。 す な わ ち,少 子 化 ・核 家 族 化 ・個 室 化 に よ る コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ンの 現 象,テ
レ ビ の普 及 に よ る活 字 離 れ な ど で あ る。
何 年 間 か お き に同 一 の 問題 で の 全 国 調 査 が 行 わ れ て い な いの で は っ き り した こ と は言 え な い が,今
まで に戦 後50余
年 間,漢 字 力 が 低 下 した と した ら,こ
う環 境 も一 因 と考 え られ る。 しか し,こ の ア ン ケ ー トは20年 前 の こ とで,今
うい で
は これ 以 外 の 原 因 が 大 きい と考 え る。 以 下 に影 響 を与 えて い る と考 え る理 由 を 四 つ挙 げた。 第 一 は漢 字 の権 威 の 失 墜 で あ る 。 漢 字 が 知 識 や 教 養 の シ ンボ ル で あ っ た 時 代 は 1980年 代 に 入 り,い わ ゆ る 「 価 値観 の多様 化」 の時代 と ともに崩れ 去 った。 そ して 漢 字 を軽 く見 る よ う に な っ た。 第 二 に 「楽 した い 」 とい う現 代 社 会 の 価 値 観 に合 わせ て,画 数 の 多 い漢 字 を書 くの は面 倒,画
数 の 少 な いカ タ カ ナ書 き し て 「楽 した い」 とい う心 理 で あ る。 こ
の た め,漢 字 を正 確 に 覚 え よ う とせ ず,適
当 に覚 え るた め,書
けな い 。
第 三 に漢 字 の 価 値 が軽 くな った の で,粗 雑 に扱 わ れ る よ うに な り,遊 ば れ る よ うに な っ た。 現 代 は娯 楽 社 会 で あ り,漢 字 も娯 楽 の 対 象 で,遊 ば れ て い る。 バ ラ ン ス の 悪 い変 な字 形,字 体 の 漢 字 を書 く少 女 が 多 い の は,後 で述 べ る少 女 の 「か わ い い 」 心 理 だ け で な く,娯 楽 の 心 理 も働 い て い るか らで あ る。 遊 び に正 確 さ, 真 剣 さ は要 らな い の で正 確 な字 が 書 け な い 。 以 上 の 三 つ は社 会 の価 値 観 や 考 え 方 の 問題 で,こ れ は現 代 若 者 こ と ば が1980 年 代 以 降 の消 費 −娯 楽 社 会,価
値 観 多 様 化 の 社 会 の 中 で 生 ま れ た こ と と 同 じで あ
る。 第 四 に 新 し い情 報機 器 パ ソ コ ンや 携 帯 電 話 の 出 現 で あ る。 ワー プ ロ機 能 で 簡 単 に 漢 字 に 変 換 さ れ るた めで あ る。 これ らの機 器 使 用 が漢 字 を書 く こ とに どの よ う な 影 響 を 及 ぼ して い るの か に つ い て,科 学 的 に研 究 した もの は乏 し い が,平 井 洋 子(2000)は
そ の一 部 を明 らか に して い る。 大 学 生139人
を 被 験 者 に漢 字 書 き取
り ・日本 語 語 彙 能 力 と ワー プ ロ使 用 の 時 間 ・手 書 き時 間 との 関係 を調 べ た 。 その 結 果,「 ワ ー プ ロ の 長 時 間使 用 と手 書 き時 間 の 減 少 も,ど ち ら も 『 漢 字書字 』 に 対 しマ イ ナ ス の影 響 を も ち,『 漢 字 が そ っ く り書 け な い 』 と い う現 象 に な っ て 表
れ る こ とが わ か っ た 。 ワー プ ロ の 長 時 間 使 用 は さ らに,『 漢 字 を 書 い た と して も 正 答 とは ほ ど遠 い文 字 を回 答 す る』 とい う現 象 に も結 び つ い て い る こ とが 明 らか に な っ た」 と い う。 また 「語 彙 能 力 も また 『度 忘 れ 』 を緩 和 す る効 果 を持 つ こ と が 明 らか に な った 。 した が っ て手 書 きで 漢 字 を書 く力 を維 持 す る た め に は,日 常 的 に手 書 き を行 う こ との ほ か に語 彙 を豊 か に す る よ う な活 動 も有 効 だ とい う こ と に な る」 と述 べ て い る。 こ の よ う に ワ ー プ ロ の長 時 間使 用 は 「漢 字 書字 」 に マ イ ナ ス の影 響 を及 ぼ し て い る こ とが わ か っ た 。 また語 彙 を豊 か に す る こ とが 「漢 字 書 字 」 を助 け る こ とも わ か っ た 。 後 者 に つ い て は す ぐれ た 読 書 ・作 文 指 導 が 学 校 で 行 わ れ る こ とを期 待 した い 。 これ に つ い て,喜 屋 武 政勝(1992)は
単 な る漢 字 練 習 は無 味 乾 燥 で 苦 痛
を伴 う こ と を指 摘 し,読 書 や 作 文 指 導 が 語 彙 を豊 か に して い く こ と を次 の よ う に 述 べ て い る。
漢 字 習 得 の過 程 で そ の よ う なか き と り練 習 ・ド リル 練 習 を こつ こ つ とつ み あ げ て い く こ と は必 要 な こ とで あ る だ ろ う。 しか し,そ う した 活 動 の 目標 が漢 字 をお ぼ え る こ とだ け にお かれ た と き,無 味 乾 燥 な,と
きに は苦 痛 を と もな
う もの と して 生 徒 た ち を くる しめ て い る こ とを わ れ わ れ は 実 践 の な か で しっ て い る。 一 方,ち 徒 や,す
い さ い ころ か らす す んで 本 を よむ 習 慣 をみ につ け て い る生
ぐれ た よみ 指 導 ・作 文 指 導 の なか で きた え られ た 生 徒 た ち が,作 品
の ゆ た か な 世 界 に わ け い る た め,あ
る い は と り ま く現 実 や 自己 の 内面 を つ づ
るた め,個 別 の 単 語 を獲 得 しな が ら 自主 的 に漢 字 を習 得 して い る こ と も事 実 で あ る。
と こ ろ で,パ
ソ コ ンや 携 帯 電 話 の 出 現 で 書 く こ とが 減 少 しつ つ あ る中 で,逆
に
キ ー を叩 くだ けで 漢 字 に変 換 され て 出 て くる こ とで,漢 字 の 世 界 を再 認 識 す る こ と もあ る。 近 年,日 い る。1992年
本 漢 字 能 力 検 定(「 漢 検 」 と略 す)を
受 検 す る若 者 が 増 えて
に文 部 省 認 定 を受 け て か ら,志 願 者 数 は増 加 し続 け,1998年
は117万 人 に もの ぼ っ た。 そ の う ち,中 学 生 が34万 人,高 れ は そ れ ぞ れ 全 中 学 生 の 7%,全
高 校 生 の13%に
校 生 が56万
度に
人 で,こ
当 た る。 中 高 生 の 1割 が 受 検
して い る こ と に な る。 久 保 裕 之(2000)に
よ れ ば,受 検 の 動 機 は,3 級 まで は
「入 試 の 際 に優 遇 され る か ら」 「人 の す す め 」 が 多 い が,2 級 か ら は 「自己 啓 発 」 「漢 字 が 好 きだ か ら」 が 多 い。 最 初 は入 試 の必 要 に迫 られ て だ が,「 学 習 に よ っ て 漢 字 の 存 在 を再 発 見 し,漢 字 の豊 か な表 現 力 に魅 せ られ る よ うに な っ た よ うだ 」 と述 べ て い る。 こ の動 機 の 背 景 に は先 に述 べ た 新 しい機 器 に よ る漢 字 の 再 認 識 が あるので はないか。
● 2 手書 きの字 形
こ の節 で は若 者 は どの よ うな 字 形 を書 い て い るの か , そ の 背 景 は何 か を 考 察 す る。
(1)実
態
若 者(特
に 女 子)の
手 書 きの字 形 は仮 名 も漢 字 も独 特 な もの が 多 い。 次 に具 体
的 な 例 を挙 げ て お こ う。 図4.2と4.3は
あ る大 阪 府 立 高 校 2年 生 が 国 語 の授 業 の
一 環 と して作 った イ ン タ ビ ュ ー集 か ら取 った の。図4.4は
。 図4.2が
男 子,図4.3が
女子 の も
京 都 の 私 立 女 子 高校 1年 生 が 教 育 実 習 生 に書 い た 感 想 文 か ら取 った 。
図4.2 手 書 きの文 字(男 子)
図4.3 手 書 きの 文字(女 子)
図4.4 教育 実 習 生 へ の感 想文 よ り
これ らを見 て 思 う こ とは,全 体 に字 の バ ラ ンス が 悪 く 「変 な字 形 」 を書 い て い る こ とで あ る。 漢 字 の構 成 要 素 で あ る,点 げ ・は ね な どが お か しい,よ
・線,画,偏
・旁の位 置,大
き さ ・曲
く言 え ば デ フ ォ ル メ され て,「 創 作 的 な 字 形 」 にな
って い る もの が 多 い。 これ につ い て筆 者 の ゼ ミの あ る学 生 は レ ポ ー トに 次 の よ う に書 い て い る。
先 日,教 育 実 習 の 為,母 校(高
校)に
2週 間 登 校 して い ま した。 最 終 日,
私 の 授 業 に つ い て の感 想 を 用 紙 に書 い て も らい ま した 。 そ れ を読 ん で み る と,特 に女 子 生 徒 に あ る特 徴 を見 つ け ま した 。 そ れ は 漢 字 を含 む す べ て の文 字 が 個 人 の好 きな 形 に デ フ ォル メ され て い る の で す 。 あ ま り極 端 な もの は あ りませ ん が,丸 味 を帯 び て い る もの,偏
と旁 の大 き さや 位 置 の バ ラ ンス が 異
な っ て い る もの な どが あ りま した 。 女 の子 はや は りこ こ に も見 た 目 を気 にす
る面 が 出 て くる の で し ょ うか 。 字 が 個 性 的 とい うか,創 作 的 な もの に な りつ つ あ ります 。 今 後 文 字 の デ フ ォル メ は進 ん で い くの で し ょ うか 。
以 前 に も変 体 少 女 文 字 や へ タ ウ マ 文 字 な どが話 題 に な っ た が,現 在,漢
字 を含
め 文 字 は 手 書 きの 場 合,「 好 き勝 手 」 な字 形 で 書 か れ て い る。 あ る者 は意 識 的 に デ フ ォル メ し,あ る者 は読 む人 の こ と な ど全 く考 慮 せ ず 書 き,ま た,あ
る者 は読
めれ ば い い で はな い か と適 当 に 書 い て い る。
(2)背
景
で は,こ の よ う な字 の 背 景 に は何 が あ る の で あ ろ うか 。 次 に 原 因 を 六 つ 指 摘 し た 。 第 一 に 自己 中 心 主 義 で あ る。 他 者 を顧 み な い,自 分 さ え よ けれ ば い い とい う 考 え は若 者 に 強 く見 られ る(な に も若 者 に 限 らず,日 本 全 体 が これ に覆 わ れ て い るが)。 これ が 字 形 に も表 れ て い る と考 え る。 さ ら に これ は字 形 ば か りで な く, こ とば や行 動 全 般 に見 られ る。 第 二 に 自己 主 張 で あ る。 ア イ デ ンテ ィ テ ィの確 認 の 一 つ と して 「変 な 字 形 」 で 書 くの で あ る。 「他 人 と違 う何 か を 表 現 した い」 とか 「自分 に しか使 え な い,使 わ な い,考 え られ な い 文 字 こそ が 自分 の存 在 を 表 す もの な の だ 」 と考 え るの で あ る。 「変 な字 形 」 も若 者 の服 装 や 髪 型 の よ う に 自己 主 張 の 表 れ と考 え る の で あ る。 第 三 に娯 楽 社 会 で あ る。 現 代 日本 は 消費 −娯 楽 社 会 で,す
べ て が遊 び,娯 楽 の
対 象 に な っ て い る。 こ と ばが 伝 達 の 手 段 よ り も娯 楽 の手 段 とな っ た。 こ とば で遊 ぶ だ け で な く,こ とば を遊 ん で い る。 そ の例 が若 者 こ とば で あ る。 これ が 字 に も 表 れ た の が先 の 字 で あ る。 第 四 に 「か わ い い」 文 化 で あ る。1970年 代 前 半,高 後,サ
度経 済成 長 が終 わ った直
ン リオ に代 表 され る フ ァ ン シー グ ッズ が誕 生 し,乙 女 チ ック な 少 女 漫 画 が
マ ー ケ ッ トを 拡 大 して 「か わ い い 文 化 」 が 誕 生 した 。 文 字 通 り 「か わ い い 」 もの が 流 行 し,本 来 の 意 味 で 使 わ れ て い た。 と こ ろが,1980年
代 に な り,自 分 の 感
性 が 価 値 基 準 に な りだ して,「 か わ い い 」 が 変 な も の,変 わ っ た もの で も 自分 の 気 に入 るな ら,趣 味 に 合 う な ら 「か わ い い」 と言 う よ うに な った 。 対 象 の 持 つ属 性 に対 す る表 現 よ りむ し ろ,表 現 主 体 の感 性 ・感 情(良
い ・気 に入 る)に 重 点 が
移 っ た,好
き嫌 い の評 価 語 に な っ た。 し た が っ て,「 か わ い い」 は個 人 に よ っ て
基 準 が ば らば らで あ る。 そ して1980年 余 りの 時 代 に,少
代 末 か ら1990年
代 初 頭 の バ ブル 経 済 の金
しで も他 と差 異 を見 つ け だ し楽 しむ 差 異 化 現 象 の 中 で,「 か わ
い い 」 は他 と変 わ っ て い て 気 に入 る とい う意 味 に も な った 。 この 流 れ の 中で,女 子 生 徒 は字 に も 「か わ い い 」 を求 めた 。 以 下 に筆 者 が ゼ ミで 半 年 に渡 っ て 「若 者 と漢 字 」 を取 り上 げ,学 生 が 調 査,討 議 し,そ れ ぞ れ レ ポ ー トを 書 い た もの を紹 介 し よ う。
私 は字 を書 く と き使 い 分 け て い る。 授 業 の ノ ー トで も一 般 教 養 科 目 と専 攻 科 目 とで は違 う し,友 達 へ の 手 紙 で も書 き分 けて い る。 た とえ ば 自分 の 名 前 で も友 達 へ の 手 紙 や 専 攻 科 目 の と き に は 「○ ○ ○ ○(丸 文 字 の 署 名)」 の よ う に な る。 こ の よ うな使 い 分 け は,人 た い 意 識,ま
に見 られ る とい う意 識 や か わ い く書 き
た後 か ら見 て わ か りや す く した い とい う意 識 か ら来 る。 バ ラ ン
ス の 取 れ た 整 っ た字 を書 くよ り も,多 少 点 画 が お か しい字 の ほ うが ど こか 間 が 抜 け て い て 「か わ い い 」 と感 じ る。 現 代 の若 者 の 変 な字 形 は 「か わ い い」 を求 め た もの だ と考 え る。
こ こで も 「か わ い い 」 は 「間 が 抜 け て い 」 る と感 じ る と こ ろ か ら来 る。 こ の 「か わ い い 」 字 を 求 め るの は特 に 女 子 中 学 生 が 多 い 。 別 の学 生 は 次 の よ う に書 い て い る。
こ の年 代 は よ り女 の 子 ら し くな りた い とい う願 望 が 生 まれ て くる頃 で,あ ら ゆ る面 に それ が 出 て くる。 変 な字 形 もそ の一 つ で あ る。 普 通 の 字 で は か わ い くな い の で,あ
え て 変 な持 ち 方 で くず して 書 く。 他 の 女 の 子 が そ の 字 を
「か わ い い 」 と思 った ら, まね て書 く。 変 な 字 形 が 現 れ て く る とい う こ と は 周 りを意 識 し始 め た証 拠 な の で は な い か 。
こ うい う 「か わ い い 」 は青 年 期 心 理 の一 つ と言 え る。 第 五 に若 者 の 大 衆 心 理 と帰 属 意 識 で あ る。 「み ん な が書 くか ら私 も書 く」 「み ん
な が 書 い て い る か ら,書 か なか っ た ら仲 間 は ず れ に な る」 とい う心 理 か ら 「か わ い い」 字 を まね て書 く。 あ る学 生 は 次 の よ う に書 いて い る。
私 が 中学 生 の 時,雑 誌 に あ る若 い 女 性 ア イ ドル の 自筆 の コ メ ン トが 載 り, そ の 字 が 「か わ い い 」 と女 子 生 徒 の 間 で評 判 に な り ま した 。 そ の字 は,字
の
バ ラ ン ス が お か し く,読 み づ ら く,と て も上 手 だ とは 言 え な い もの で した 。 しか し,そ の よ う な字 が 学 校 で 流 行 し,友 達 同士 の 間 で や り取 りす る手 紙 や 日記 な ど に使 わ れ ま した 。 そ の よ うな 字 を書 け る と 「か わ い い」 「か っ こ い い 」 と言 わ れ,み
ん な そ の字 を練 習 して まで 書 く努 力 を して い ま した 。 この
よ う に字 形 の 問 題 は流 行 や み ん なが して い る とい う考 えが 大 き く影 響 して い ます 。
み ん な と同 じ字 を書 く とい う こ とは 「み ん な と仲 間 で す よ」 とい う こ とを ア ピ ー ル し,帰 属 意 識 を強 く持 つ こ と に な る。 大 学 院 の ゼ ミの あ る学 生 は 中 学 生 の 頃,楷
書 体 の き っ ち り した字 を書 い て い た た め,「 同級 生 か ら 『な ん か若 くな い』
『先 生 が 黒 板 に書 い て る字 み た い』 と若 年 寄 扱 い を受 け,悲
しい 思 い を し た」 と
い う。 人 間 関 係 を 円滑 に す るた め に字 形 を変 えて 「か わ い い 」 字 を書 く人 もい る の で あ る。 第 六 に美 しい 字 を書 く こ とが 教 養 で は な くな っ た こ と。 以 前 は 小 学 校 ・中 学 校 ・高 校 に 習 字 の授 業 が あ り,丁 寧 に 美 し く書 く,バ ラ ンス よ く書 く こ とが教 え られ て い た 。 し か し,い ま は習 字 の授 業 が な い と こ ろ もあ り,そ の よ うに 書 く こ とが 教 え られ て い る とは 限 らな い。 また,別 の 美 し さ も教 養 の一 つ とな って い た が,今
の学 生 は 「昔 の 日本 人 で あれ ば,字
は そ ん な に重 要 視 しな い。 字 の バ ラ ン
ス が 悪 くて も判 読 で きれ ば い い とい う意 識 が あ るの だ ろ う」 と書 い て い る。 この よ う な点 か ら勝 手 な 字 形,「 変 な字 形 」 「か わ い い 」 字 が 使 わ れ て い る と考 え る。
●3 人 名 と漢 字 の イ メー ジ
個 々 の漢 字 に対 す る好 悪 ・美 醜 の 意 識 と個 々 の漢 字 か ら受 け る 「感 じ」 や抱 く イ メー ジは ど ん な もの で あ ろ うか。 それ は世 代 や 時代 に よ っ て 異 な っ て い る の だ ろ うか 。 また,人 名 に使 わ れ る漢 字 は世 代 や 時 代 に よ っ て異 な るの で あ ろ うか。 こ の節 で は これ らに つ い て 見 て み た い(人 名 に つ い て は,詳
し くは第 9章 を参 照
の こ と)。
(1)好
きな 漢 字 と人 名
株 式 会 社 写研 は 「あ なた の好 きな 漢字 は?」
とい う ア ンケ ー トを これ ま で に 4
回 実 施 して い る。 調 査 方 法 は 日常 生 活 で よ く使 わ れ る漢 字100字
をあ らか じめ選
択 肢 と して提 示 し て,そ の 中か ら最 も好 き な漢 字 を選 ん で も ら う とい う もの。 過 去 の 結 果 は表4.6。
これ を見 る と 「愛 」 「誠 」 「夢 」 が 最 も好 き な漢 字 と言 っ て よ
い 。 し か も精 神 や 感 情 を表 す 漢 字 が 好 まれ る傾 向 に あ る。 これ が 現 在 の 若 者 の好 き な漢 字 を 反 映 し て い るか と言 う と違 う。 この 調 査 は30年 の なの で,現 在,調
か ら20年 近 く前 の も
査 す れ ば,お そ ら くか な り違 っ た 結 果 が 出 るで あ ろ う。
好 き な漢 字 と関 連 す るの が 人 名 で あ る。 最 近,赤
ち ゃん に つ け る名 前 を意 味 で
選 ぶ ほか,漢 字 か ら受 け る イ メ ー ジ や響 きで 選 ぶ こ とが増 え て きて い る。 そ の た
表4.6 好 き な漢 字 ベ ス ト10(%)
表4.7
2000年
に 生 まれ た 子 ど もの 名 前 ベ ス ト10(明
治 生 命 の 調 査 よ り)
め20歳 代 の 若 い 親 は 以 前 か ら見 る と型 破 りの 名 付 け を す る よ う に 見 られ る。 た と え ば 「駆 」 「駿 」 「速 人 」 は ス ポ ー ツ 選 手 を イ メ ー ジ す る漢 字 を使 っ た 名 前 で あ る。 また,「 弾 」 「奏 」 「楽 人 」 「美 歌 」 「響 平 」 は音 楽 家 をイ メ ー ジ し て つ け た 名 前 で あ る。 人 名 に使 わ れ る漢 字 は時 代 と共 に 変化 す る。 男 子 の場 合,戦
前 戦 中 は天 皇 制 と
戦 争 の 影 響 か ら 「勇 」 「義 」 「誠 」 「徳 」 「忠 」 「勝 」 を使 っ た 名 前 が 多 か っ た が, 最 近 で は 「駿 」 「翔 」 「拓 」 「健 」 「蓮 」 な どの 意 味 と同 時 に響 き を重 視 し た漢 字 を 使 っ た 名 前 が 増 え て い る。 一 方,女 子 の場 合,戦 前 戦 中 は 「貞 」 「淑 」 「順 」 「静 」 な ど男 に 従 っ て 生 き る 女 に ふ さわ しい と考 えた 漢 字 を使 った 名 前 が 多 か っ たが, 最 近 で は 「愛 」 「彩 」 「舞 」 「沙 織 」 「菜 摘 」 「稟」 「優 花 」 な ど,響 き と イ メ ー ジ の よ い漢 字 を使 っ た 名 前 が 多 い 。 さ らに 英 語 風 の 「杏 奈 」 「里 沙 」 「芽 衣 」 「里 奈 」 な ど も あ る。2002年
に 生 まれ た 子 ど もの 名 前 を調 査 した も の に よ れ ば(明 治 生
命 保 険 相 互 会 社 の個 人 保 険 に加 入 し て い る人 の 子 を対 象),表4.7の
よ うで あ る。
男 女 と も 自然,四 季 に関 連 す る漢 字 が 多 く,ま た 響 きの よい 漢 字 が 多 い 。 若 い親 が 好 む漢 字 が こ こに現 れ て い る と考 え られ る の で,先
に示 した好 き な漢
字 と比 較 す る と,ほ と ん ど一 致 しな い。 若 者 は 意 味 よ り もイ メ ー ジ,音 の 響 きか ら好 み の漢 字 を選 ん で い る と言 え る。 また,徳 広 が る漢 字,響
目 を表 す 漢 字 よ り も,イ メ ー ジが
き の よ い漢 字,視 聴 覚 に訴 え る漢 字 を好 む と言 え る。
(2)漢 字 の 字 形 と イ メ ー ジ 一 般 に漢 字 は硬 くむず か し い とイ メ ー ジ され て い る。 それ に対 して,ひ は柔 らか く女性 的,カ
タ カ ナ は堅 く男 性 的,ロ
らが な
ー マ字 は外 国 の もの,洒 落 て い る
とイ メ ー ジ され て い る。 中 で も画 数 が 多 く字 形 の複 雑 な 漢 字 は上 の 理 由以 外 に, 早 く書 け な い,面 倒 な どの 理 由 で敬 遠 され が ち で あ る。 ゼ ミ学 生 が 梅 花 女 子 大 学 生50人
に訊 い た ア ン ケ ー トの 質 問 「画 数 の 多 い 漢 字
と少 な い 漢 字 とで は どち らが 好 きで す か 」 の結 果 で は,「 画 数 の少 な い 方 が 好 き」 が68%,「
画 数 の 多 い方 が 好 き」 が30%,そ
い漢 字 の 方 が 好 き と答 え て い るが,予
の 他 2%で,約
7割 が 画 数 の 少 な
想 以 上 に 画 数 の 多 い漢 字 が好 き な学 生 が 多
か っ た。 また それ ぞ れ の 好 き な理 由 を見 る と,画 数 の 少 な い字 が 好 きな人 は 「簡 単 だ か ら」 「早 く書 け る か ら」 「書 きや す い か ら」 「画 数 が 多 い と面 倒 だ か ら」 な ど画 数 の 問 題,書
く労 力 の 問 題 を挙 げ て い る。 一 方,画 数 の 多 い 字 が 好 き な人 は
「バ ラ ン ス が と りや す い か ら」 「ま と ま りが あ るか ら」 「 整 って い るか ら」 「書 きや す い か ら」 な どバ ラ ンス の 問 題 を理 由 に挙 げ て い る。 普 段,講 トに 書 く学 生 が 多 い の で,早
義 を手 書 きで ノ ー
く書 け な い画 数 の 多 い 漢 字 は好 まれ な い の は 当然 で
あ る が,一 方 で バ ラ ンス の とれ な い画 数 の 少 な い 漢 字 も好 まれ な い の は,芸 術 の 書 道 を選 択 して い る学 生 が い るた めか , バ ラ ンス =書 の美,見
た 目 を考 え て い る
か らで も あ ろ う。 この よ う に漢 字 は画 数 の 多 さ か ら面 倒 で 敬 遠 さ れ が ち で あ る が,漢
字 に は字
形 ・意 味 ・音 ・イ メ ー ジが 一 体 と な っ て い る とこ ろ に,他 の 文 字 に な い 含 蓄 豊 か で,表 現 力 に富 ん だ 魅 力 が あ る。 それ ゆ え に若 い 漢 字 検 定 の 受 検 者 が 「漢 字 に は ま る」 現 象 が 見 られ る。 漢 字 は仮 名 書 きや ロー マ字 に比 べ,重
々 し いの で,よ
り真 実 味,よ
り激 し さ,
よ り強 さ な ど を表 し う る。 た と え ば 「憂鬱 」 「ゆ う う つ 」 「ユ ウ ウ ツ」 「YUUTSU」
の 4種 を比 較 し て,ど れ が 「憂鬱 」 に感 じ る か と言 え ば 言 う ま で も な く
「憂鬱 」 で あ る。 これ な ら本 当 に深 刻 な感 じが す る。 「ゆ う う つ」 で は軽 い感 じが し,「ユウウツ 」 で は イ メ ー ジ が 湧 か ず,「YUUTSU」 「激 怒 」 「げ き ど」 「ゲ キ ド」 「GEKIDO」
で はわ か らな い 。 同様 に
を比 較 し て み る と,「 激 怒 」 は ひ ど く怒
っ て い る よ う に感 じ られ る の に対 し て,「 げ き ど」 は迫 力 が な く,ま っ た く怒 っ
て い る よ う に は 感 じ られ ず,「 ゲ キ ド」 「GEKIDO」 る こ とは で きず,ア
にいた って は感情 を連想 す
ニ メ の 主 人 公 の名 前 な どを思 い浮 か べ て し ま う。
こ の よ うな文 字 の種 類 に よ っ て違 う感 じ方 を若 者 は う ま く利 用 して 使 い分 け て い る。 常 に漢 字 が あれ ば漢 字 を使 用 す るの が い い とは考 えず,感 情 や 様 子 な どの 程 度 に よ っ て漢 字 か 仮 名 か を使 い分 け て い る。 特 に若 い 女 の 子 は手 書 きで は 「か わ い い」 字 を書 い て 見 せ られ るが,メ
ー ル で は画 一 的 な字 で 固 い 印 象 を与 え る の
で,絵 文 字 ・顔 文 字 を使 い,ま た 仮 名 も多 用 す る。
● 4 現 代 社 会 と若 者 に と って の 漢 字
以 上 の こ とか ら,現 代 社 会 と若 者 に とっ て の 漢 字 とは どの よ う な関 係 に あ る の か を ま とめ て お く。 第 一 に 現代 社 会 は 「楽 」 社 会 で あ る。 この術 語 は筆 者 の造 語 で,「 ラ ク した い 」 「た の しみた い」 が 物 事 の選 択 の基 準 ま た価 値 の 基 準 に な っ て い る社 会 を 指 す 。 漢 字 「楽 」 は 「ラ ク」 と 「た の し い」 の 読 み が あ る の で,ひ
と ま とめ に して
「楽 」 社 会 と呼 ぶ 。 若 者 の 「ラ ク し た い 」 とい う思 い は面 倒 な漢 字 は 嫌 だ とい う こ と に つ な が り, した が っ て漢 字 を覚 え な い,書
か な い(覚
と に な る。 そ れ ゆ え に 漢 字 が 読 め な い,書
え た くな い,書
き た くな い)と い う こ
け な い。 これ を助 長 した の が パ ソ コ ン
や 携 帯 電 話 の 電 子 メ ー ル で あ る。 「ラ ク 」 な 状 況 が で き あ が っ て い る の で,わ
ざ
わ ざ面 倒 を選 び は しな い 。 「た の しみ た い 」 と い う思 い は ま ず,自 分 だ け の 勝 手 な 字 形 の 漢 字(「 か わ い い 」 漢 字)を 書 くこ とに現 れ て い る。 また,漢 字 の音 ・意 味 ・字 形 ・イ メ ー ジの 一 体 とな った 文 字 の 深 さに も見 出 して い る
。 漢 検 の受 検 者 の 増 加 は 「漢 字 に は ま
る 」若 者 の 増 加 を表 し て い るが,そ
の背 景 に漢 字 が 充 分 知 的 にた の し め る娯 楽 の
対 象 で あ る こ とを 発 見 した か らで あ る。 また,「 た の し み た い 」 は遊 び た い とい う こ とで も あ る。 そ こで 若 者 は漢 字 の イ メ ー ジや 音 の響 きの よ さ に注 目 し,子 ど もの名 付 け に あた っ て 漢 字 で遊 ん で い る。 さ ら に漢 字 の字 画 の 多 さ,字 面 の重 厚 さ は そ れ にふ さわ しい こ と を表 す の に きわ め て 有 効 で あ り,逆 に そ れ ほ ど の こ と
で は な い場 合 は重 す ぎる の で,漢 字 で 書 か ず に仮 名 書 き に して字 種 を使 い分 け, 気 分 を た の し んで い る。 第 二 に現 代 社 会 は 自己 中 心 主 義 で あ る。 自分 さ え よ けれ ば い い とい う社 会 で あ る。 そ こか ら 自分 勝 手 な字 を書 く こ とが 出 て く る。 人 の 評 価 な ん か 関 係 な い と言 わ ん ば か りの 読 み に くい 字 を書 く。 第 三 に価 値 観 の 多様 化 で あ る。 価 値 観 が 多 様 化 した とは 聞 こ え はい いが,実
際
は 価 値 観 が 個 人 化 した の で あ り,自 分 が よ け れ ば よ い とす る 「何 で もあ り」 の時 代 で あ る。 この 時 代 に あ っ て み ん な が 認 め る よ うな 漢 字 の価 値 や 権 威 は 崩 壊 し た 。 そ こで 漢 字 を 書 い て 気 ど る こ と をや め,仮 名 書 き に して い る若 者 が 多 い。 な お,こ
れ は は じめ に 挙 げ た 「ラ ク した い」 か ら漢 字 を書 か な い とい う こ とか ら も
来 て い る。 漢 字 の 権 威 の崩 壊 は漢 字 の 扱 い が軽 くな る こ と に つ な が り,漢 字 の意 味 が 「融 けだ し」 て 意 味 が 軽 くな った か の よ う な漢 字 の 使 い方 が され て い る。 す な わ ち, 名 付 けの 際 に見 られ る徳 目 を表 す 漢 字 か らイ メ ー ジ や音 の 響 き の よ い漢 字 を重 要 視 す る傾 向 に移 って い る事 実 で あ る。 意 味 よ りも音 を重 ん じて い る の で あ る。 価 値 観 の多 様 化 は字 を上 手 に書 くこ とが 教 養 で もな ん で もな い とい う考 え に も 現 れ た 。 そ れ ゆ え に先 に述 べ た 「変 な字 形 」 「か わ い い字 」 を 書 い て い る。 以 上,現 代 社 会 と若 者 に とっ て の 漢 字 の 関 係 を見 た 。 筆 者 は米 川 明彦(1996) (1997)(1998)で
若 者 こ とば と現 代 社 会 の 関 係 を考 察 した が,こ
れ と同 様 の こ と
が 若 者 の 漢 字 観 や 漢 字 の使 用 の 実 態 に も言 え る。 若 者 の 漢 字 の 問題 は現 代 日本 社 会 と きわ め て 密 接 に つ な が っ て い るの で あ っ て,若 者 が 突 然 変 異 した か の よ うに 見 て は な らな い 。 注 1)本 稿 執筆 後,国 立 教 育 政 策 研 究 所 が行 っ た調 査 結果 が新 聞 に載 った 。朝 日新 聞(2002年 月20日
夕刊)に
けず …」 とあ る。
8
「国語 力 ピ ンチ」 の見 出 しが 出 てお り,「 『 積』『 濁』 『 腐』 高 校 生 の 4割 書
文 河口
正(1988)「
献
高 校 生 の漢 字 力 とその 指 導 に つ いて 」 「山 口国文 』11号
喜 屋 武政 勝(1992)「 久 保 裕 之(2000)「 (14∼12)ほ
完 全単 語 文 字 として の 漢字 の指 導 に つい て 」 『 教 育 国語 』 二,四 中 ・高 生 の 漢 字 学 習 事 情 」 『 月刊 学校 教 育 相談』学校 教 育 相 談研 究所
ん の森 出版
国 立 国語 研 究 所編(1988)『
児 童 ・生 徒 の 常 用漢 字 の 習得 』 国立 国語研 究所 報 告95,東
坂 本 充 ・山 下 洋子 ・柴 田 実(2001)「
京書 籍
読 め る漢 字 ・読 めな い漢 字− 常用 漢字 表 と高校 生 の漢
字 認 識 度− 」 『 放 送研 究 と調 査』(NHK放
送 文化 研 究 所編)10月
号,日 本 放 送 出版 協 会
島 村直 己(1990)「
漢 字 の 習得 率− 配 当 漢 字 に よ る違 い− 」 『 計 量 国語 学』17巻 6号
花 田修 一(1981)「
生 徒 の漢 字 ・漢語 の 力 」 『月刊 国 語教 育 』(11月 号)東 京 法令 出版
平 井 洋子(2000)「
ワー プ ロ使 用 が 漢字 書 児 とそ の誤 りに及 ぼす 影 響 につ い て」 『計量 国 語学 』
22巻 7号 松 田保 清(1981)「
漢 字教 育 にお け る諸 問題− 高 校 生 の漢 字 読 み書 き能 力 の現状 と常 用漢 字 表 案
を め ぐって− 」 『日本 私 学教 育 研 究 所紀 要』16号(2)教 米 川 明彦(1996)『現 米 川 明彦(1997)『若 米 川 明彦(1998)『
代若 者 こ とば考 』 丸 善 者 こ とば辞 典 』 東 京 堂 出版 若 者語 を科 学 す る』 明 治書 院
科篇
⑤
書 道 と漢 字
河 内利 治(君 平)
● 1 は じ め に
今 日 の 日本 社 会 で は,パ
ソ コ ン な どのIT産
業 が 目覚 し く進 歩 し,文 字 を 「打
つ 」 こ とが 普 遍 的 に広 が って い る。 漢 字 や仮 名 を 含 む 日本 の 文 字 は,「 書 く」 こ とか ら 「打 つ 」 文 化 へ と変 化 しつ つ あ る と言 え よ う。 この よ うな 機 械 化 が 普及 す る ま で は,文 字 は 当 然 な が ら 「書 く」 もの で あ っ た 。 言 い換 え れ ば,「 手 書 き文 字 」 が 文 化 を形 成 して きた の で あ る。 人 々 が 暮 らす 日常 生 活 の 1コ マ に,筆 や ペ ン を手 に と る姿 が あ り,わ れ わ れ の 先 祖 は文 字 を 「書 く」 生 活 に親 しん で きた 。 筆 が ペ ン に 変 わ り,さ
らにペ ンか ら 「打 つ」 こ とに 変 わ りつ つ あ る とは い え,書
道 が 全 く無 くな っ た わ けで は な い。 確 か に実 用 的 な書 写 用 具 が,筆 か らペ ンへ と変 化 した た め,筆
を手 に す る機 会
が 減 り,筆 の 実 用 性 が 薄 れ て きて い るが,日 本 古 来 の 伝 統 文 化 の 一 つ と して,ま た 芸術 性 の 豊 か さ か ら,す
ぐに 消 え去 っ て しま う こ とは あ り え な い。
書 道 の面 白 さ は,先 ず 「書 く」 こ と に あ る。 筆 を持 っ て書 きた い言 葉 を紙 に書 き記 す とい う行 為 こ そ,書 道 の 原 点 で あ ろ う。 しか し書 か れ た 作 品 を 「 観 る」 行 為 も,「 書 く」行 為 と同 じ く らい に面 白 い もの で あ る。 何 が 書 い て あ る の か,筆 者 が 何 を伝 え よ う と し て い る の か を鑑 賞 す る こ とは,筆 者 との対 話 で あ る。 い わ ゆ る芸 術 鑑 賞 で あ るが,そ
の た め に は,漢 字 や 仮 名 に対 す る 興 味 や,伝 統 文 化 に
対 す る教養 が 必 要 に な る。 そ れ ゆえ,一
つ は っ き りいえ る こ とは,書道文化と
文
字(漢
字)文
化 とは,相 互 依 存 関係 にあ り,両 者 の 一 方 が 衰 退 す る と もう一 方 に
必 ず 影 響 を及 ぼす とい う こ とで あ る。 よ って,こ
れ か らの 日本 に お け る 「書 道 と漢 字 」 の 関 係 は,日 本 の 文 化 の継 承
伝 播 にか か わ る根 本 問題 と して再 認 識 して い か な け れ ば な らな い 。 この 点 に お い て,今
ま さ に 日本 は大 き な転 換 期 を迎 えて い る とい え る。
● 2 文字 と書道
文 字 は,こ
と ば を書 き表 わ す 「符 号 」 で あ り,人 が 書 か な い と存 在 し え な い約
束 事 で あ る。 しか し,書 か れ た 文 字 に は,そ の 意 味 が 示 され る と同 時 に,筆 者 に か か わ る何 か が 表 出 さ れ る。 また,文 字 の大 部 分 は 「抽 象 符 号 」 で あ り,物 の よ う に は っ き り と した 性 格 を もっ て い な い。 そ の た め,書 か れ た文 字 は,そ
の人 ら
し さ が よ り純 粋 に表 出 され るの で あ る。 私 た ち は,書 か れ た文 字 を見 て,美 醜 を感 じ る。 す ば ら し い時 に は,大
き な感
動 を 覚 え た りす る。 この よ う に,文 字 の 書 き振 りの 面 を取 り上 げ る と き は 「書 道 」 と呼 び,本
来 の 働 きに つ い て見 る と きは 「文 字 」 と呼 ぶ 。 同 じ もの の 両 面 で
あ る か ら,ど ち らの 名 前 で 呼 ぶ 場 合 も,も う一 方 の性 格 を,表 裏 一 体 の もの と し て 併 有 す る も の で あ る。 よ っ て,「 書 か れ た 文 字 はす べ て 書道 で あ り,文 字 で な い もの は書 道 で は な い 」 と言 う こ とが で き る。 この 考 え方 は,伝 統 的 な もの で あ る。 しか し,戦 後 の 西 洋 芸 術 思 想 の影 響 に よ り,「 前 衛 書 道 」 とか,「 非 文 字 の 書 道 」 とい う ジ ャ ン ル が 登 場 した。 歴 史 的 見 地 に 立 っ て,文 字 本 来 の 役 目 か ら考 え る と,こ の よ う な呼 称 は矛 盾 を含 む こ とに な る 。 た だ し,書 道 芸 術 の発 展 を客 観 的 に捉 え るな ら ば,矛 盾 を含 む過 渡 的 段 階 に あ る と捉 え る こ と も可 能 で あ ろ う。
● 3 書道 の成立
中 国 に お い て,書
の 名 手 や,書
を鑑 賞 した 事 実 が,具 体 的 な記 述 に よっ て 史 書
に 表 わ れ る の は,後 漢 末,2世
紀 の 頃 で あ る。
梁 孔 達 が 張 芝 の 書 を写 い て 姜 孟 穎 に 示 す と,み な 口 々 に その 文 章 を とな え, 手 ず か らそ の 書 を習 っ て 怠 る こ とが な い 。 そ こ で 後 輩 た ち も競 っ て 二 賢 (梁 ・姜)を 慕 い,太 守 や 県令 まで が 彼 らの 書 を集 め て 書冊 に した て,二
賢
そ れ ぞ れ に 一 巻 を選 ん で,秘 玩 して い る。 (孔 達 写 書 以 示 孟 穎,皆
口誦 其 文,手 楷 其 篇 , 無 怠 倦 焉 。 於 是 後 学 之 徒 競 慕
二 賢 ,守 令 作 篇,人 撰 一 巻 , 以 為 秘 玩 。)
(趙壹 『非 草 書 』,杉 村 邦 彦 訳 『中 国 書 論 大 系 』 第 一 巻 所 収)
張 芝(?―190∼193)は,草 230),東
書 の 名 手 と し て知 られ,後 世,魏
晋 の 王羲 之(303∼3611))と
張 芝 の 書 道 を 習 っ た,梁
の 鍾〓(151∼
並 ん で 「書 の 三 絶 」 の 1人 に数 え られ る。
孔 達 と姜 孟 穎 の 書 道 作 品 を 「秘 玩 」 す る,す
なわ ち
「ひ そか に賞 玩 す る」 とい う実例 で あ る。 しか し,書 道 は漢 字 が 形 を整 え る と と もに,既 に 存 在 した と考 え られ る。 な ぜ な らば,殷 時 代 の 「甲骨 文 字 」 や 周 時 代 の 「金 文 」 が,芸 術 の書 道 と して の 自覚 の 有 無 に 関 係 な く,人 を感 動 させ る美 し さ を備 え て い るか らで あ る。 た と えば,中 国 美 学 者 の 宗 白華 は次 の よ うに 言 って い る。
殷代 の 甲骨 文,商
周 の 銅 器 款 識 の 「布 白 の 美 」 は,古
くか ら人 々 に 賞 賛 され
て きた 。 … …殷 初 の 文 字 は往 々 に し て,純 象 形 文 字 を ま じ え,大 小 ふ ぞ ろ い で,雌 雄 わ か ち あ い,全 体 で 一 字 を為 し,さ ら に相 互 に管 轄 し あ う美 と呼 応 しあ う美 を見 る こ とが で き る。 中 国 古 代 商 周 の 銅 器 款 識 の 銘 文(金 現 され る 「章 法 の 美 」 は,人
文)に 表
に倉頡 が 四 つ の 目で 宇 宙 の神 奇 を窺 い,自 然 界
の も っ と も深 く神 妙 な形 式 の 秘 密 を獲 る こ とが で きた と信 じ さ せ よ う。
(「中 国 書 法 里 的 美 学 思 想 」,筆 者 訳)
中 国 にお い て,な ぜ こ の よ うな,文 字 を 書 くこ とに よる芸 術 が 生 まれ た の で あ ろ うか 。 宗 白華 は,主
に次 の 二 つ の要 素 で あ る とい う。
(ⅰ) 中 国 文 字 の起 源 が象 形 で あ る こ と。 (ⅱ) 中 国 人 が 筆 を用 い る こ と。 また,今 井 凌 雪 は,そ の 理 由 と して 次 の 3点 を指 摘 す る。 ① 文 字 を神 聖 視 す る考 え 方 が 長 く受 け継 が れ て き た こ と。 ② 漢 字 は構 造 性 に富 み,ま
た 各 種 の 書 体 が 生 ま れ,そ れ らが 並 行 し て 使 わ れ
た こ と。 ③ 書 写 の 用 具 に 毛 筆 が 用 い られ た こ と。 両 氏 の見 解 に共 通 す る の は,「(毛)筆
」((ii)と
③)で
あ る。 毛 筆 は柔 軟 性
に富 み,圧 力 や 速 度 の 変 化 を微 細 にわ た っ て描 き出 す 機 能 を も って い る。 墨 や紙 の 発 明 とあ い まっ て,書 芸 術 の 発 展 に 大 き く貢 献 して き た 。 逆 に 言 え ば,毛 筆 は,書 道 が芸 術 と して存 在 す る必 要 不 可 欠 の要 素 で あ る。 しか し,毛 筆 だ け で は書 道 は成 り立 た な い。 何 とい っ て も 「文 字(漢
字)」 が
創 造 され な けれ ば,誕 生 し え な か っ た の で あ る 。 「書 」 の 創 造 につ い て,後 漢 の 許 慎 が 著 した 『説 文 解 字 』 叙 に,次 の よ う に あ る。
黄 帝 の史 官 倉頡 は,鳥 や 獣 の 足 跡 を見 て,そ の も よ うで 物 を それ ぞ れ 区別 で き る と知 り,初 め て 「書 契 」 を造 った 。 … …倉頡 が初 め て 「書 」 を作 っ た の は,恐 「文(も
ら くさ ま ざ ま な もの に よ って,そ
の形 を うつ した の で,そ れ で そ れ を
よ う)」 とい った の で あ る。 その 後,形 声 の 字 が ふ えて,そ
を 「字 」 と い っ た 。 文 と は 「物 の 姿 の 本(も
と)」 で あ り,字
こで これ
とは 「生 ま れ
て 次 第 に 多 く な る こ と」 で あ る。 竹 や帛 に 書 き付 け た もの を 「書 」 と い う が,書
と は そ の 物 の 「如 し」 の 意 で あ る。(黄 帝 之 史倉頡,見
鳥 獣〓〓 之
迹,知 分 理 之 可 相 別 異 也 , 初 造 書 契 。 … …倉頡 之 初 作 書,蓋 依 類 象 形 。 故 謂 之 文 。 其 後 形 声 相 益,即 竹帛,謂
謂 之 字 。 文 者 物 象 之 本,字 者 言孳 乳 而 寝 多 也 。 箸 於
之 書 。 書 者 如 也 。)
伝 説 上,倉頡
が 書(書
契)を
(福本 雅 一 訳 『中 国 書 論 大 系 』 第 一 巻 所 収)
創 造 した と さ れ るが,許 慎 は そ れ を,「 類 に 依 り
て形 を象 る」 もの と考 え た。 要 す る に漢 字 の 起 源 が 「象 形 」 に あ る とい う こ とで あ る。 「鳥 や 獣 の 足 跡 を見 て,そ
の も よ うで 」 自然 物 を象 る 「象 形 」 に起 源 を発
し た こ と は,す で に 漢 字 が 「抽 象 」 で あ る こ と を意 味 して い る。 あ りの ま まの 自 然 物 を 「画 」 くの で はな く,そ れ を抽 象 化 した 形 象 に よ っ て 「書 」い た の で あ る。 この 「 抽 象 化 」 と 「形 象 性 」 は,そ の ま ま書 道 芸 術 を成 り立 た せ る要 素 と して 発 展 して 今 日 に至 っ て い る。 「形 象 性 」 と は,そ れ を 見 た 人 の 心 に,何 か の 姿 や 状 態,感
じな どを想 い 浮 か べ させ る性 格 の こ とで あ り,漢 字 の点 画 や 字 形 は,抽
象 化 さ れ て 具 体 的 な もの を示 さ な い が,優 れ た書 に は,力,重
さ,動 きの ほ か,
何 か の 姿 や 景 色 な ど を感 じ取 る こ とが で き る もの で あ る。 この 「 形 象 性 」 は,点 画 の構 造 が豊 か で 変 化 に 富 む た め,多 様 な表 現 ス タ イ ル を生 み 出 した 。 す な わ ち,篆
・隷 ・楷 ・行 ・草 と五 つ の 「書 体 」 が 生 まれ,そ れ ぞ れ異 な る造 形 や 美 し
さ を も っ て い る。 さ ら に新 し い 書 体 が 生 ま れ た後 も,使 用 範 囲 が 狭 くな る も の の,古
い書 体 も引 き続 き使 用 され て きた 。 こ れ も書 の 表 現 を豊 か に した 要 因 の一
つ で あ る。 また 漢 字 は,宗 教 的色 彩 の 濃 い原 始 社 会 を背 景 に,神
に祈 り,神 の 言 葉 を伝 え
る神 聖 な もの とし て育 まれ た 。 最 古 の漢 字 で あ る 甲骨 文 字 や 初 期 の金 文 は,多
く
が 神 に祈 る言 葉 を記 す た め に使 用 さ れ て い る。 文 字 構 造 か ら見 て も,宗 教 儀 礼 に 関 す る もの が 多 い の は そ の証 で あ る。 中 国 文 化 は,異 民 族 の 侵 入 な ど に よ っ て, 西 洋 文 字 の よ う に崩 壊 した り,途 絶 え た りす る こ とが な か っ た の で,文 字 に対 す る敬虔 な気 持 ち が 受 け継 が れ,伝 統 の 中 で 書 芸 術 が 自覚 され,育
て られ た と考 え
られ る。 よ っ て,書 の 表 現 は,漢 字 の 性 格 に よ って 特 色 づ け られ た と こ ろが 大 き い とい え る。 参 考 ま で に,漢 字 の 文 字 学 (小 学 ) 上 の 構 造 と書 体 の 変 遷 を,図 式 化 し て お こ う(図5.1)2)。
図5.1
●4 書体 の歴 史
中 国 にお け る,書 道 の 歴 史 を眺 め て み よ う。篆 ・隷・ 楷 ・行 ・草 の五 つ の 書 体 ( 五 体 ) が 使 用 され た 時 代 か ら,古 い順 に 区 分 して み る。
( 1)篆 書 −殷,周,秦
代
篆 書 と言 っ て も,こ の 書 体 が 包 含 す る 時 代 は紀 元 前14世
紀 頃 か ら,紀 元 前 2
世 紀 頃 まで とい う,非 常 に長 い 年 月 に亘 り,か つ そ の 間 に新 し い 文 字 は増 え続 け,字 画 や 姿 態 も一 様 で は な い 。篆 書 に は,広 義 と狭 義 の 二 義 が あ り,広 義 に は,甲 骨 文 字,金
文 , 竹 簡 , 木 簡 , 木牘,帛
の か ら,大篆,小篆
書,石 刻 とい った 材 料 ・形 態 上 の も
とい っ た 書 体 上 の もの まで の,古 代 の 文 字 の 総 称 で あ り,
狭 義 に は,秦 の始 皇 帝 が 文 字 統 一 した 「小篆 」 体 を指 す。 ( A) 甲 骨 文 字 殷
・周 時 代 に亀 の 甲 羅 や 獣 骨 に 刻 して,占
いに使 った文 字
で あ る。 「亀 甲 獣 骨 文 」 「亀 版 文 」 「殷墟文 字 」 「貞 卜文 字 」 「ト辞 」 「契 文 」 と も い う。 甲骨 学 者 の董 作 賓 説 に よれ ば,そ の 風 格 は 5期 に分 類 さ れ る。 第 1期 〈雄 偉(お 第 2期 〈謹飭(つ 第
3期 〈頽 靡(お
第 4期 〈勁峭(つ
第 5期 〈厳 整(と
お らか )〉 つ ま しや か)〉 とろ え くず れ る)〉 よ くた くま しい)〉 との っ て い る)〉
こ の分 類 は,甲 骨 文 字 の 風 格 の変 遷 に つ い て で あ る が,後 世 の 各 書 体 に お け る 書 風 の変 遷 を考 え る 時 に も,非 常 に参 考 に な る もの で あ る。 (B) 金
文
鋳 込 まれ た,あ 策 命 器,自
青 銅器 ( 銅 と錫 の 合 金 で,鉛
を入 れ る こ と も あ る) の 内 壁 に
る い は刻 まれ た 銘 文 を指 し,「 鐘 鼎 文 」 と もい う。 祭 祀 器,賞 賜
作 器 の 公 私 の別 と,食 器,酒 器,水
器,楽
器,兵 器 な どの 用 途 の別 が
あ る。 青 銅 器 の製 作 者 は,専 門 の 奴 隷 と され,失 敗 す れ ば殺 され る運 命 に あ るの で,命
を賭 け て 作 っ た と され る。 また 外 壁 の 紋 様 に は 装 飾 性 が あ り,「饕餮 紋 」
な ど ユ ニ ー ク な意 匠 が 施 され て い る。
書 道 史 上,金
文 の 名 品 は,西 周 時 代 に集 中 し て い る。 代 表 的 な 名 品 に,〈 大盂
鼎 〉 〈史牆 盤>く〓 季 子 白盤 〉 〈〓〓〉 〈散 氏 盤 〉 〈毛 公 鼎 〉 な どが あ る。 (C)大篆
と小篆
もに,標 準書 体,正
始 皇 帝 は,貨 幣 の 統 一,度
量 衡 の 統 一,車
軌 の統 一 とと
式 書 体 と して,使 用 す る文 字 の 書体 を統 一 して,他
国 や 自国
が 以 前 に使 用 し て い た 文 字 の使 用 を禁 止 し た。 言 わ ば 国 家 権 力 を背 景 と して で き た,人 為 的 な 公 用 文 字 が 「小篆 」(「秦篆 」 と もい う)で あ る。 これ に対 し,戦 国 時代 の秦 が使 用 して い た文 字 は 「大篆 」(「籀 文 」 と もい う) と呼 ばれ る。 そ の 代 表例 が 〈石 鼓 文 〉(図5.2)で 〈石 鼓 文 〉 は10個
あ る。
か ら な る太 鼓 の よ う な形 の 石 に,1句4文
字 の 詩 が それ ぞ れ
1篇 ず つ 刻 まれ た もの で,石 碑 の 起 源 と も見 な せ る古 い 「石 刻 」 で あ る。 原 石 が 今 日 まで 伝 来 し,北 京故 宮 博 物 院 に収 蔵 され て い る。 小篆 は,〈 石 鼓 文 〉 の よ うな 大篆 を母 体 に して 「省 改 」 した もの で あ る。 「省 」 とは 大篆 の 繁 雑 な 筆 画 を省 略 す る こ と,「 改 」 と は そ の 奇 怪 な筆 画 を改 作 す る こ とで あ る。 これ は一 種 の 書 体 の 簡 略 化 とい え る。 始 皇 帝 は,王 者 に だ け許 され る天 と地 の 神 を祭 る 「封 禅 」 とい う儀 式 を,紀 元 前219年
に泰 山 に て行 い,秦 の 歴 史 の偉 大 さ と 自 己 の功 績 を讃 え る文 章 を宰 相 の
李 斯 に 書 か せ,そ 5.3)。 同 年,鄒
れ を石 に刻 ん で 建 て させ た 。 こ れ が 〈泰 山 刻 石 〉 で あ る(図
繹 山 ・瑯邪 台 な どの諸 山 に も建 て させ,全 部 で6つ の 山 に 7刻 石
建 て られ た とい う(原 石 が 現 存 す るの は 〈泰 山 刻 石 〉 と 〈瑯邪 台 刻 石 〉 の み で あ る)。 小篆 は,造 形 上,文 字 全体 の 構 え が左 右 相称 で あ り,ま た 中 央部 が 引 き締 まっ た,や や 縦 長 で,重 心 が 高 く脚 の 長 い の が 特徴 で あ る。
(2)隷 書― 秦,漢,三
国時代
隷 書 は,秦 の篆 書(小篆)を 獄 の 下 級 官 吏)に
簡 略 化 し,早 書 きす る 目的 か ら生 れ た 。 徒 隷(官
用 い られ た こ とか ら の 名 称 と され る。 時 代 の 発 展 に つ れ て,
「秦 隷 」 「漢 隷 」 「魏 隷 」 「晋 隷 」 「唐 隷 」 と呼 ば れ る が,な か で も後 漢 時 代 の 隷 書 に は,波 で,特
勢 と波磔(波
発 ・波拂 ・波 と も い う)が あ り,横 画 水 平 の 美 し い 姿 態
に 「八 分(隷)」
と呼 ば れ,隷 書 の 典 型 とな っ て い る。 通 常,「 漢 隷 」 は こ
図5.2 大篆 −戦 国秦 〈石 鼓文 〉 図5.3 小篆 − 秦 〈 泰 山刻 石〉 図5.4 隷 書 −後 漢 〈乙瑛碑 〉 (三井文 庫 別館 蔵) (三井 文庫 別 館 蔵) (三井 文庫 別 館 蔵)
の 「八 分 」 を指 す 。 後 漢 時 代 の 代 表 的 石 刻 と して,〈 乙 瑛碑 〉(図5.4),〈
礼 器 碑 〉,〈史晨 碑 〉,〈曹
全 碑 〉 な どが あ る 。 伝 来 の隷 書 史 料 は,長 い年 月 の風 雪 に磨 滅 老 廃 した 石 刻 が ほ とん どで あ るが, 20世 紀 の初 め頃 か ら,石 刻 ほ ど秀 美 な もの で は な い が,木 簡,竹
簡,帛
書 に書
か れ た 肉筆 書 が 多 数 出 土 して い る。 〈敦煌 漢簡 〉,〈新 居 延 漢 簡 〉,〈臨沂 銀 雀 山 竹 簡 孫 子 兵 法 〉,〈馬 王 堆帛 書 老 子 乙 本 〉 な ど は,書 法 的 に 美 し い もの で あ る。
(3)草 書 − 漢 代,六
朝 ∼ 現代
楷 書 か ら行 書 へ,行 書 か ら草 書 へ 変 遷 した と認 識 しが ち で あ る が,史 料 に よれ ば,楷 書 や 行 書 に 先 立 っ て草 書 が 通 行 して い る。 『説 文 解 字 』 叙 に 「漢,興
りて
草 書 あ り」 とい う通 りで あ る。 この 「草 」 は,草 率 な様 式 の 意 味 で あ り,標 準 書 体 に対 す る私 的 な実 用 通 行 体 を指 す。 た だ し,後 漢 晩 期 まで は 「章 草 」 が 主 流 で あ る。 「章 」 とは,「 章(彰)明
」 の 意 で,一
定 の法 則 性 を備 え た草 書 を指 す 。
す な わ ち,草 書 に早 書 きす る もの の,1 字 1字 が 独 立 し,し か も終 画 に波磔 の 勢 を備 え た様 式 に特 徴 が あ る。 今 日の い わ ゆ る 「草 書 」 は,古
くは 「今 草 」 と呼 ば れ,多
くは右 廻 旋 の リズ ム
を とる,1 字 の終 画 か ら次 の 字 へ つ な げ る筆 意 を も っ た様 式 の 書 を い う。 西 域 出 土 の 漢 簡 中 に 散 見 し,張 芝 が 「忙 しい ので,草
書 で 書 く暇 が な い 」 とい っ た 逸話
に よ り,後 漢 末 に は,張 芝 の 〈冠 軍 帖 〉 の よ う に,い わ ゆ る 「連 綿 草 」 に よ っ て,草 率 の今 草 に技 巧 を こ ら し,芸 術 性 を盛 り こん で い った 事 情 が 読 み取 れ る。 た だ し,章 草 も今 草 に交 じ っ て後 漢 末 まで 使 用 さ れ て い る。 魏 晋 よ り東 晋 にか け て の 草 書 は,楼 蘭 出 土 の残 紙 等 に実 相 が うか が え るが,王 義 之 〈十 七 帖 〉(図5.5)に
代 表 され る独 草 体 な ど多 くの 名 品 が生 まれ て い る。
(4)行 書 − 六 朝 ∼ 現 代 行 書 は,草 書 と同 じ く隷 書 を簡 略 化 した 実 用 通 行 書体 で あ るが,定
義 づ け は難
しい 。 史 料 に よれ ば 後 漢 の 劉 徳 昇 が 創 始 した と され,行 書 の名 称 は,魏 の 鍾〓 が 善 く した とい う 「三 体 書 」 の 中 の 「行狎 書 」 に 由来 す る。 行狎 とは 「 相聞の 書 」 と注 され,も
っ ぱ ら書 簡 に用 い る もの を言 う。
西 晋 に は,楼 蘭 出 土 の 泰 始 年 間(264∼274年)の
木 簡 や 残 紙 に実 例 が あ り,
東 晋 に は,〈 李 柏 尺牘 稿 〉 ほ か 多 くの 実 例 が あ る。 こ う した 中 か ら,王羲 〈蘭 亭 序 〉(図5.6)に
之の
結 実 し,典 範 化 し,現 在 なお 最 も普 遍 的 な書 体 と して 愛 好
さ れ て い る。 運 筆 が 動 い て停 止 しな い,姿 か た ち が 変 化 に富 む,流 れ が 切 れ て い る よ うで切 れ な い,と い った 特 徴 を も ち,行 書 体 と して 独 立 す る ほ か,「 行 楷 」,「行 草 」 と 楷 書 や草 書 と も合 体 で き る書 体 で あ る。
(5) 楷 書 − 六 朝 ∼ 現 代 楷 書 は,隷 書 か ら一 元 的 に転 化 した 書 体 で は な く,楷 書,行 書,草
書 の三 体 中
で は最 も遅 く定 立 した 書 体 で あ る。 お お よ そ 3世 紀 中 頃 を過 ぎた 頃 か ら ほ ぼ ま と ま っ て きて,5 世 紀 の 中 頃 まで に は 立 派 に完 成 の 域 に 到 達 して い る 。 北 涼 の 沮 渠 安 周 の供 養 経 〈持 世 経 第 一跋 〉(449年)が 節 構 造 と転 折,力
そ の 実 例 で あ る。 楷 書 の性 格 は,三
の 均 衡 に よ る 1字 の構 成 に あ る。 そ の 名 品 に,北 魏 の く龍 門
二 十 品 〉 〈張 猛 龍 碑 〉 〈鄭羲 下 碑 〉,唐 代 の 虞 世 南 〈孔 子 廟 堂 碑 〉,欧 陽詢 〈九 成 宮醴 泉 銘 〉(図5.7),〓
遂 良
〈雁 塔 聖 教 序 〉,顔 真 卿 く顔 勤 礼 碑 〉 な
図5.5 草書 − 東晋,王 義 之 〈 十七帖〉
図5.6 行 書− 東 晋,王 義 之 〈 蘭亭序〉
図5.7 楷 書― 唐,欧 陽詢 〈九成 宮醴 泉銘 〉
(北京 故 宮博 物 院 蔵)
(三井 文 庫 別館 蔵)
(三井 文庫 別 館 蔵)
どが あ る。 総 じて,篆 書,隷
書,楷 書 の 三 体 は,各 時 代 に 公 式 書 体,標
さ れ た が,草 書 と行 書 は実 用 書体,通
準 書 体 と し て使 用
行 書 体 と して 補 助 的 な役 割 を担 っ て きた 。
楷 書 は,唐 代 の 活 字 印 刷 の発 明 に よ り,今 日 まで 脈 々 と受 け継 が れ て きて い る。
●5 書道 の総合性
中 国 で生 まれ た 五 書体 は,技 術 と して,学 術 と して,そ
して 芸 術 と して,中
国
の あ らゆ る分 野 に お い て 使 用 され 発 展 して きた。 言 い 換 え れ ば,書 道 な く して 中 国 文 化 は形 成 で き な か っ た の で あ る。 か く も多 岐 に亘 る,書 道 の カ テ ゴ リー ( 範 疇 ) を,簡 単 に整 理 す る な らば,「 書 写
( 習 字 )」 「書 学 (書 論 )」 「書 道 ( 書 芸 )」
の 3本 柱 に な る(図5.8)。 書 く技 術 が 「技 術 」 で あ り,書 全 般 に わ た る理 解 や 書 に対 す る見 識 が 「学 術 」 で あ り,書 の 良 否 を見 分 け る鑑 賞 眼 に基 づ く制 作 が 「芸 術 」 で あ る。 そ れ ゆ え, 「技 術 ( わ ざ )」 と 「芸 術(心
を魅 了 す る も の)」 とは截 然 た る相 違 が あ る 。 当 然
な が ら,技 術 を習 得 す れ ば そ れ で 書 道 が 充 分 で あ る とは い え な い 。 む し ろ,そ れ
図5.8
以 上 に 考 え,感 性 を磨 く こ とが 何 よ り も大 切 で あ る。 また 広 義 の 書 道,す
なわ ち
書 道 全 体 の カ テ ゴ リー は,狭 義 の 「書 道 ( 書 芸 )」,つ ま り芸術 と して の書 道 を内 包 して い る。 広 義 に捉 え る と 「総 合 性 」 を,狭 義 に捉 え る と 「専門 性 」 を 指 す こ と に な る。 この 考 え方 は,書
と中 国 文 化 との 関 係 に も当 て は ま る。 中 国 文 化 に お け る書
は,「 中 国 文 化 の 1ジ ャ ンル 」 で あ りか つ 「中 国 文 化 の精 華 」 で あ る と見 な し う る。 1ジ ャ ンル と して 見 れ ば,書
は 「専 門 性 ・特 殊 性 ・個 別 性 」 を も ち,精 華 と
し て 見 れ ば,「 総 合 性 ・一 般 性 ・全 体 性 」 を有 す る もの とな る。 重 要 な の は,こ の 両 面 性 を兼 ね備 え て い る のが 書 道 で あ る とす る視 点 で あ る。 それ ゆ え,中 国 や 日本 で は古 来 よ り現 代 まで,書 道 を愛 好 し継 承 して きた の で あ る。 図5.8の
な か で,中 国 の 「学 術 」 内容 を簡 単 に挙 げ て お こ う (図5.9)。
この 哲 ・史 ・文 の 三 つ は,伝 統 的 な 中 国学 の 支 柱 で あ り,書 道 は そ の ほ とん ど の 領 域 と 関 連 し て い る。 そ れ ゆ え,「 書 学 ( 書 論 )」 に よ っ て 書 (詩 文 ) の 本 質 (美 学 ) の解 明 を行 う こ とが 可 能 で あ る。
図5.9
●6 書道 の人間性
中 国 で は 古 来 よ り,書 道 作 品 は,そ れ を書 いた 人 の人 間 性,す
なわ ち 「人 品 」
や 修 養 と大 きな 関 係 が あ る とす る観 点 か ら論 じ られ て きた 。
昔 の書 を 批 評 した 者 は,作 品 と と も に,そ の平 素 の生 活 を も問 題 に し,も 立 派 な 人 物 で な け れ ば,た 兼 論 其 平 生 。苟 非 其 人,雖
し
と え字 が上 手 で も貴 ば な か っ た 。(古 之 論 書 者, 工 不 貴 也 。)
(蘇軾 「書 唐 氏 六 家 書 後 」,筆 者 訳)
北 宋 時 代 の 有 名 な文 人,蘇軾
(1036∼1101・ 号 は 東坡)の
と して,立 派 な 人物 で な い場 合,た
言 葉 で あ る が,人
とえ書 道 作 品 の水 準 が 高 く上 手 で も,重 要 視
さ れ な い,と い う昔 の 書 道 の見 方 に賛 同 し,先 ず 人 間 形 成 こそ が 大 切 で あ る と言 っ て い る。 中 国 の 文 芸 批 評 史 上,芸 術 品 を芸 術 家 の人 格 化 と見 な し,常 に芸 術 家 の人 品 の 評 価 と関 係 して 論 じ られ て き た。 「書 は 人 な り」 とい わ れ る所 以 で あ る。 そ の た め,ど の よ うな 人 間 性 を有 す る人 物 で あれ ば,ど の よ う な書 の美 し さ を 有 す る か が,形 容 詞 に よ っ て感 覚 的 に 言 い 表 わ さ れ て い る。 そ の 解 りや す い 例 を,陸 維釗 の指 摘 か ら挙 げ て み よ う3) 。
英 雄― 沈 雄(落
豪勁(優
美人― 清 麗(清
和婉(お
君 子― 端 荘(正
厚 重(厚
才 子―〓儻(才
俊 抜(ず
野 老― 渾 穆(大
ち 着 きが あ り強 く猛 々 しい) れ て い て力 強 い) らか で う る わ しい) だ や か で 美 しい) し く厳 か で 堂 々 とし て い る) み深 み が あ っ て落 ち 着 い て い る) 能 や 力 量 が 衆 人 にか け離 れ優 れ て い る) ばぬ け て優 れ て い る) き くて お だ や か な さ ま)
蒼 古(年
隠 者― 高 逸(並
老 い た よ う に古 めか しい さ ま) はず れ て優 れ て い る)
幽雅 ( 奥 深 く趣 の あ る さ ま)
これ は 1例 に過 ぎ な い が,書 道 作 品 に対 す る基 本 的 な感 覚 は,す べ て 網 羅 され て い る。 中 国 の書 道 の 大 学 教 授 が,書 道 を 専 門 に学 ぶ 日本 人 大 学 生 に,「 あ ら ゆ る中 国 古 典 の 書 法 作 品 を 学 ぶ こ と は,終 極 の 目 的 で は な く,学 習 の 手 段,過 る。」4) と語 っ た こ とが あ る。 そ し て そ の手 段,過
程 であ
程 に は三 つ あ り,
第 一 段 階 :「形 臨 」―古典 作 品 を そ っ く りそ の ま ま臨 書 す る。
第 二 段 階 :「背 臨 」―臨 書 した 古 典 作 品 の文 字 を暗 記 し て書 く。
第 三 段 階 :「修 養 」―学 問 的 教 養 を 身 に つ け,人 格 を 陶 冶 し,鍛 錬 しつ つ,
作 家,研
究 者,さ
らにその両 者 を兼ね備 えた真 の書法
家 を め ざす 。 とい う段 階 を経 る とい う。 つ ま り,第 三 段 階 こ そが 終 極 の 目 的 で あ る。 しか し第 一 段 階 か ら第 二 段 階 へ至 る に は,相 当 の 時 間 と努 力 が 費 や さ れ,さ
ら に第 二 段 階
か ら第 三 段 階 に 至 る に は,並 大 抵 の努 力 で は不 可 能 で あ り,弛 まぬ 地 道 な研鑽 が 必 要 で あ る。 書 道 の 古 典 作 品 を そ の ま ま そ っ く り書 き写 す こ と を 「臨 書 」 と い う。 この臨 書 学 習 こ そが,書
道 の 出発 点 で あ り,基 礎 訓 練 で あ り,作 品 制 作 の 栄 養 源 で あ る。
「よ く看 て,よ
く考 え て,繰
り返 し書 く」 とい う練 習 で あ る。 言 わ ば,絵 画 の デ
ッサ ン に相 当 し よ う。 しか し世 の 中 で は,こ
の 「臨 書 」 また は 「背 臨 」 の段 階,
す な わ ち基 本 的 な技 術 を習 得 した レベ ル で,書 道 の 先 生 に な る こ とが で き る と認 識 す る風 潮 が 蔓 延 して い る。 本 来,そ
れ ほ ど書 道 は易 し くは な い はず で あ る。
技 術 の 練 磨 を通 じて 造 形 性 を養 い,想 像 力 と創 造 力 を た くま し く して表 現 力 を 身 に つ け て は じ め て 到 達 で きる世 界 だ か らで あ る。
● 7 書道の芸術性
( 1) 西 洋 の 芸 術 観 まず 西 洋 の 芸 術 に対 す る考 え 方 を見 て お こ う。 プ ラ トンに よれ ば,哲 学 者 は, 感 覚 で 捉 え られ た事 物 か ら,そ れ が模 倣 して い る原 型 に,理 性 に よ っ て も どろ う とす る。 これ に 対 し て 芸 術 家 は,感 覚 で 捉 え られ た事 物 を さ ら に 「模 倣 」 した り,そ
う した 事 物 を 自分 の 作 品 の モ デ ル に した りす る。 だ か ら,芸 術 家 の作 品 は
「模 倣 の 模 倣 」 で あ る,と い う。 ア リス トテ レ ス も芸 術 を模 倣 だ と した が,芸 術 は 自然 の ま まで は完 成 して い な い もの を補 っ て完 成 させ,も
の の 「本 来 あ るべ き
姿 」 を ま ね る。 よ っ て 芸 術 家 の 模 倣 は た だ の コ ピー で は な く,シ ン ボ ル で も な く,む し ろ もの の もつ 一 面 を 「再 現 」 した も ので あ り,ま た そ の作 品 は宇 宙 全 体 の 一 つ の模 倣 な の で あ る,と す る。 伝 統 的 な 西 洋 美 学 で は,芸 術 作 品 は美 しい だ け で な く何 か の役 に た つ,と
しば
し ば考 え られ た 。 しか し 「関 心 の な い」 満 足 とい う18世 紀 の 哲 学 者 カ ン トの 考 え は,芸 術 が ほ か の もの の た め で は な く芸 術 自身 の た め の も の だ,と い う理 論 を 生 み だ す こ と に な っ た 。 「芸 術 の た め の 芸 術 」 とい う美 学 理 論 は 「耽 美 主 義 」 と い わ れ る こ とが 多 い が,20世
紀 の ほ とん どの 「ア バ ンギ ャル ド(前 衛)芸
術」
が この 理 論 か ら影 響 を受 け て い る。 「芸 術 は 自 然 の模 倣 で あ る」 と 「芸 術 の所 産 は 美 しい だ け で な く,役 にた つ も の で な けれ ば な らぬ 」 とい う二 つ の テ ー ゼ は,18∼19世
紀 にお ける西洋 の美学
思 想 の ほ と ん どが 前 提 に し て い た 考 え 方 で あ る。 そ の 一 方 で,19世 「ア バ ンギ ャル ド」 とい う考 え方 が,伝
紀 は また
統 の美 学 思 想 に対 し て 異 議 を唱 え始 め た
時 代 で も あ る 。 変 化 は と りわ け絵 画 の分 野 で 著 しか った 。 この 2つ の 問 題 意 識 の それ ぞ れ が,20世
紀 に 入 っ て,さ
らな る展 開 を見 せ る こ とに な った 。
( 2) 書 道 の 芸 術 性 こ の西 洋 の 芸 術 観 は,戦 後 の 日本 の芸 術 観 に大 き く影 響 を与 え た 。 しか し,書 道 は東 洋 に発 生 した 芸 術 で あ り,こ の 芸 術 観 を そ の ま ま そ っ く り転 用 す る こ とは
で きな い 。 書 道 の 芸 術 性 を 構 築 す る要 素 は,漢 字 の 「抽 象 化 」 と,点 画 や 字 形 の 「形 象 性 」 に あ るが,書 道 の 表 現 を 可 能 に す る直 接 的 な 要 素 は,「 書 風 」 で あ る。 書 風 とは,文 字 の 書 き振 りか ら受 け る感 じ,風 格 の こ とで あ る。 書 風 を成 立 さ せ て い る の は,点 画,字 形,余
白,章 法,筆 意,筆 者 の美 意識 で あ る。 また,書
体 の変 遷 は,書 風 の 変 化 か ら始 まる か ら,書 体 と書 風 は 密 接 な関 係 が あ る。 (A)点 画(細 太 ・曲直 ・潤 渇 ・濃 淡) に よ っ て質 が 変 化 し,同
書 の表 現 の 中 心 に位 置 す る 。 筆 使 い
じ長 さ の横 画 を引 い て も,書 体 に よ っ て 筆 使 い が 異 な
る。 同 じ書 体 の 筆 使 い は ほ ぼ一 定 で あ るが,人
に よ って,時 代 に よ って,多
少の
差 異 が あ り,点 画 の質 に影 響 す る。 点 画 は,筆 使 い を通 し て,細 い と太 い,曲 直,潤(に
じみ)と
(B)字 形(形
渇(か す れ),濃
の組 み 立 て 方)
と
と淡 な ど の質 を造 る。 点 画 の 質 が 決 ま る と,そ れ に ふ さ わ し い組 み
立 て 方 や 字 形 が 要 求 され る。 引 き締 ま っ た点 画 で 書 け ば,字 形 もお のず か ら引 き 締 ま り,膨 らみ の あ る点 画 は,ゆ (C)余
白
っ た り した 字 形 にふ さ わ しい も の で あ る。
点 画 を組 み立 て る 時 に 大 き な 働 き を す る の が,点
画相 互 の間
や,1 字 の 周 囲 に あ る余 白で あ る。 余 白 は均 一 に した ほ う が安 定 感 が 出 るが,ど こか に広 い余 白 が あ る と,ア ク セ ン トに な る。 (D)章 法(文 字 の 配 列 ・配 置)
文 字 の並 べ 方 や 何 字 か書 か れ た 全 体 構 成 の
こ と を章 法 と い う。 点 画 の 質 に よ っ て,そ れ に ふ さ わ し い 字 形 が で き る と,そ の 字 形 に適 した 並 べ 方 が 出 て く る。 (E)筆
意
点 画,字
形,章
法 を 貫 い て,全 体 に生 命 感 を吹 き込 ん で い る
の が筆 意 で あ る。 筆 意 は,筆 を ど う運 ぶ か とい う筆 者 の意 志 で あ り,筆 の 動 きが リズ ミカ ル で 生 き生 き して い る こ と に よ っ て,書 意 は速 度感 で あ るが,そ
に生 命 感 が生 まれ る。 また,筆
れ は筆 ・墨 ・紙 の働 き に よ っ て,細 太 ・曲 直 ・潤 渇 ・濃
淡 とな って,点 画 に 表 され る。 速 度 感 で あ る と と も に,時 間表 現 で もあ る。 (F)筆 者 の 美 意 識
点 画 は筆 者 の 美 意 識 か ら生 れ る。 点 画,字 形,章
法の 3
者 の 密 接 な因 果 関係 が,書 道 の 抽 象 的 な表 現 に必 然 性 を生 む 。 こ の必 然 性 が 乏 し い と,見 る者 に受 け入 れ られ な い。 3者 が 筆 者 の 美 意 識 に よ っ て統 一 さ れ,因 果 関 係 が 明 快 に な る こ とで,一 つ の書 風 が成 立 す る。
●8 書道の表現 と鑑賞
(1)表
現 と鑑 賞
書 道 の 面 白 さ は,「 書 く」 こ と と同 時 に 「観 る 」 こ と に あ る,と が,そ
れ を 図 式 化 す る と 図5.10の
冒 頭 に 記 した
よ う に な る5)。
図5.10
書 道 作 品 か ら,上 述 した よ うな人 間 性 を観,芸 術 性 を観 る こ と は決 して容 易 で は な い。 しか し,何 か 惹 き つ け られ る も のが あれ ば,そ れ を食 い 入 る よ うに じ っ く り鑑 賞 す る。 そ して これ こそ が,あ
る作 品 の もつ面 白 さで あ る と い う事 象 を発
見す る。 この行 為 は,自 己 と作 品 との 対 話 で あ り,対 話 す る た め に は,自 己 を知 り,他 者 を知 ら な け れ ば な らな い こ と に な る。 確 か に書 に は い ろ い ろ な 良 さが あ り,「 どん な書 が な ぜ 良 い の か 」 とい う問題 は とて も難 し く,な か な か 答 えが 出 な い が,そ
の答 え を求 め て書 を学 ぶ と もい え
るで あ ろ う。 た とえ ば,同
じ書 体 で も時 代 に よ っ て 風 格 を異 に す る し,日 本 と中 国 で は 異 な
った 美 し さ を も って い る。 同 じ時 代,同
じ国 の人 で も,筆 者 の個 性 に よ っ て 違 っ
た 風 格 が あ る。 要 す る に,時 代,風
土,個 性 に よ っ て異 な るの で あ る。
書 体 で 言 え ば,篆 書 は荘 重 さ が 美 し さ の主 体 で あ り,隷 書 に は威 厳 が あ る。楷 書 は整 斉 の 美 し さ を も ち,行 書 や 草 書 は動 きが 美 しさ の 中 心 に な る。 同 じ流 動 の 美 し さで も,行 書 は楷 書 に近 く,草 書 は簡 潔 で,連 綿 の美 し さが あ る。 こ うい っ た 風 格 の 違 い は,筆 使 いや 字 形 の組 み 立 て方 に よ る もの で あ るが,大 切 な の は, 筆 使 い と字 形 の組 み 立 て 方 が 必 然 的 な因 果 関 係 を もっ て い る こ とで あ る。 そ の 結 果,人
々 を納 得 させ う る さ まざ まな 書 の 美 し さが 生 ま れ る の で あ り,書 の美 し さ
が 唯 一 絶 対 の もの で あ る と考 え る こ とは誤 りで あ る。 書 に は共 通 す る美 し さ(一 般 性)が 代,風
土,個 性,書
備 わ っ て い る と同 時 に,そ れ ぞ れ に,時
体 の 相 違 に よ る特 徴 が 明 快 に表 わ れ て い る もの で あ る。 鑑 賞
す る時 に は,こ れ ら の特 徴 を捉 え る よ う観 る こ とが 大 切 で あ る。
(2)評
価
書 は書 か れ た 文 字 で あ り,書 と して の性 格 と と と も に文 字 の 意 味 が 表 出 さ れ る。 また,文 字 が抽 象 符 号 で あ るた め に,書 か れ た 人 の性 格 や 心 情 が 他 の芸 術 よ り も明 快 に,書 「① 誰 が,②
き振 りに反 映 さ れ る。 し た が って 書 の評 価 は,図5.10の
何 を,③
よ うに,
どの よ う に」 書 い て あ るか が ポ イ ン トに な る。 勿論,3 者
と も に優 れ て い る こ とが 理 想 で あ る。 書 い て 楽 し む(臨 書 ・制 作),す 【 作 る立 場 】= 「自己 表 現 」 を はか る場 か ら言 え ば,① 段 の 修 養 に か か わ り,③
なわ ち
は 自分 自身 で あ り,②
は普
の どの よ うに 書 くか とい う書 き振 りだ け が 問 題 に な っ
て くる。 この 書 き振 り につ い て は,「 雅 俗 巧 拙 」 とい う評 価 基 準 を考 え る こ とが で きる。 「雅 俗 」 は美 意 識 に か か わ る 問 題,「 巧 拙 」 は修 練 にか か わ る 問題 で あ る。 「雅 ・ 巧 」,「雅 ・拙 」,「俗 ・巧 」,「俗 ・拙 」 の 順 に優 れ る とい うの が 歴 史 的 な認 識 で あ る。
● 9 書道 の現状 と展望
(1)現 代 社 会 と書 道 現 代 日本 の社 会 の 中 で,書 道 は数 多 くの人 に親 し まれ て い る。 子 供 か ら大 人 ま で,お
習 字,手
習 い,書 道,書 芸 術 な ど と様 々 な 呼 び名 で 呼 ば れ て お り,人 それ
ぞれ で か か わ り方 が 異 な るが,昔
か ら余 暇 活 動,趣
味 の定 番 と して 今 日 に至 って
お り,「 四 十 の 手 習 い」 とか 「老 後 の楽 しみ 」 と言 わ れ て い る。 し か し,経 済 産 業 省 の 外 郭 団 体,自 由 時 間 デ ザ イ ン協 会(旧 余 暇 開 発 セ ン タ ー)が 発 表 した 『レ ジ ャー 白 書2002』 に よ る と ,こ の 数 年 「書 道 人 口」 は 減 少 傾 向 に あ る。2001(平 参 加 人 口 は530万
成13)年12月
に 実 施 した 調 査 に基 づ く と,1 年 間 の 書 道
人(参 加 率4.9%)で
あ り,前 年 を10万 人 上 回 っ た もの の,
参 加 希 望 率 す な わ ち潜 在 人 口 を合 わ せ た 広 義 の 「書 道 人 口」 は,0.7ポ の8.8%で952万
人(7 万 人 減)に
留 ま り,過 去20年
的 に は最 低 水 準 とな って い る。 同 調 査 に よ る1993(平
イ ン ト減
間 の 調 査 結 果 中,デ
ータ
成 5)年 度 以 降 の,書 道 へ
の 参 加 人 口 の推 移 は 次 の 通 りで あ る。 1993(平
成
5)年730万
人
1998(平
成10)年650万
人
1994(平
成
6)年600万
人
1999(平
成11)年450万
人
1995(平
成
7)年790万
人
2000(平
成12)年520万
人
1996(平
成 8)年720万
人
2001(平
成13)年530万
人
1997(平
成 9)年670万
人
1999(平
成11)年 の 調 査 で,参 加 率 が 対 前 年 比 3割 近 く もの 落 ち 込 み を 示 し
た 特 異 な年 で も,参 加 希 望 率 に よ る計 算 上 の 書 道 人 口 は1000万 か っ た が,2001(平
成13)年
人 を割 って いな
は つ い に大 台 を切 っ た 。徐 々 に参 加 人 口 が 減 少 傾
向 に あ る こ とを認 め ざ る を得 な い。 問 題 は,な ぜ 参 加 希 望 者 が 減 少 す るか で あ る。 字 を上 手 に書 き た い とい う願 い は,古 今 東 西,不
変 の もの で あ ろ う。 た と え今
日の よ うに機 械 化 が進 み,将 来 さ らに手 書 き文 字 を書 く機 会 が減 少 し て い く と し て も,や は り人 間 が 手 を使 って 何 か の動 作 をす る以 上,絶 滅 す る こ と は あ りえ な
い。
文 字 を手 書 きす る場 が絶 滅 しな い と して も,日 常 生 活 の 中 で,毛 筆 を使 用 して 文 字 を書 く機 会 が,漸
次 減 少 す る傾 向 に あ る こ と は,日 本 の 社 会 全 体 の 趨 勢 で あ
る以 上,如 何 と も しが た い。 しか し,日 本 人 の伝 統 文 化 の一 つ と して,何
とか後
世 に継 承 して も ら い た い もの で あ る。
(2)学 校 教 育 と書 道 学 校 教 育 の現 場 で は,小 学 校 か ら中 学 校 に か け て は 国語 科 「書 写 」 と呼 び,高 等 学 校 か ら は芸 術 科 「書 道 」 と呼 ぶ 。 この 呼称 の 違 い に は 歴 史 的 背 景 が あ り,教 育 現 場 で は指 導 目標 や 内容 が 異 な っ て い る。 2002(平
成14)年
度 か ら,幼 稚 園 ・小 学 校 ・中 学 校 の 新 しい 学 習 指 導 要 領 が
ス タ ー トし た。 小 学 校 国語 の 学 習 指 導 要 領 で は,〔 言 語事 項 〕(2)「 文 字 に 関 す る 事 項 の 指 導 の う ち,書 写 に つ い て は,次 の 事 項 を指 導 す る。」 の 「ア,書 写 に 関 す る事 項 」 の 中 に 「書 写 」 が位 置 づ け られ て お り,2学
年 ず つ 次 の よ う に決 め ら
れ て い る。 第1・2学
年 −(ア)姿
点 画 の 長 短,接
勢 や 用 具 の 持 ち 方 を 正 し く し て 丁寧 に 書 く こ と。(イ)
し方 や交 わ り方 な ど に注 意 して,筆 順 に従 って 文 字 を正 し く書 く
こ と。 第3・4学
年 −(ア)文
字 の 組 み 立 て 方 に注 意 して,文
字 の 形 を整 え て 書 く こ
と。(イ)文
字 の 大 き さや 配 列 に注 意 して 書 くこ と。(ウ)毛
筆 を使 用 して,点 画
の筆 使 い や 文 字 の 組 み立 て 方 に注 意 し なが ら,文 字 の 形 を整 え て書 く こ と。 第5・6学 こ と。(イ)毛
年 −(ア)文
字 の 形,大
き さ,配 列 な ど を理 解 して,読
み や す く書 く
筆 を使 用 して,点 画 の筆 使 い や 文 字 の組 み 立 て 方 を理 解 しなが ら,
文 字 の形 を整 え て 書 く こ と。(ウ)毛
筆 を使 用 して,字 配 りよ く書 く こ と。
「指 導 計 画 の 作 成 と各 学 年 にわ た る内 容 の 取 扱 い」2(2)に,「 書 写 の指 導 は,第
毛 筆 を使 用 す る
3学 年 以 上 の 各 学 年 で行 い,硬 筆 に よ る書 写 の能 力 の 基 礎 を養
う よ うに 指 導 し,文 字 を正 し く整 えて 書 く こ とが で き る よ う にす る こ と。 また, 毛 筆 を使 用 す る書 写 の指 導 に配 当 す る授 業 時 数 は,各 学 年 年 間30単
位 時 間 程度
とす る こ と。 な お,硬 筆 に つ い て も,毛 筆 との 関 連 を 図 りな が ら,特 に取 り上 げ
て指 導 す る よ う配 慮 す る こ と。」 と,決 め られ て い る。 中 学 校 国語 の 学 習 指 導 要 領 で も,〔 言 語 事 項 〕 ( 3) 「書 写 に 関 す る次 の 事 項 に つ い て 指 導 す る。」 の 中 に 「書 写 」 が 位 置 づ け られ て お り,次 の よ う に決 め られ て い る。 第1学
年―(ア)字
と。(イ)漢
形 を整 え,文 字 の 大 き さ,配 列 ・配 置 に気 を付 け て 書 く こ
字 の楷 書 と それ に 調 和 した 仮 名 に 注 意 し て書 き,漢 字 の 行 書 の 基 礎
的 な 書 き方 を 理 解 して書 くこ と。 第2・3学
年―(ア)字
形,文 字 の大 き さ,配 列 ・配 置 な どに配 慮 し,目 的 や 必
要 に応 じ て調 和 よ く書 くこ と。(イ)漢
字 の 楷 書 や 行 書 とそ れ らに調 和 した仮 名
の 書 き方 を理 解 して 書 く と と もに,読 みや す く速 く書 くこ と。 「指 導 計 画 の 作 成 と各 学 年 に わ た る 内 容 の 取 扱 い」 ( 3) に,「 〔 言 語 事項 〕の ( 3) に 示 す事 項 に つ い て は,次 の とお り取 り扱 う こ と。」 と し て,次 の 3点 を挙 げ る。 (ア)文 字 を 正 し く整 え て 速 く書 く こ とが で き る よ う に す る と と も に,書 写 の 能 力 を生 活 に役 立 て る態 度 を育 て る よ う配 慮 す る こ と。(イ)毛
筆 を使 用 す る書
写 の 指 導 は各 学 年 で行 い,硬 筆 に よ る書 写 の能 力 の 基 礎 を養 う よ う にす る こ と。 (ウ)書 写 の 指 導 に配 当 す る授 業 時 数 の 国 語 科 の授 業 時 数 に対 す る割 合 は,第 学 年 は2/10程
度,第
2学 年 及 び第 3学 年 は各 学 年1/10程
以 上 が 小 ・中 学 校 の 「書 写 」 の指 導 内 容 で あ る が,そ
1
度 とす る こ と。 の 目標 は,小 学 校 で は,
「国 語 を 適 切 に表 現 し正 確 に 理 解 す る能 力 を育 成 し,伝 え合 う力 を高 め る と と も に,思 考 力 や想 像 力 お よ び言 語 感 覚 を養 い(思 考 力 や 想 像 力 を 養 い 言 語 感 覚 を豊 か に し),国 語 に対 す る関 心(認
識)を 深 め 国語 を尊 重 す る態 度 を育 て る。」 に あ
る(括 弧 の な か は 中 学 校 の 目標)。 す な わ ち,独 立 した 1科 目 で は な く,あ
くま
で も国 語 科 の領 域 の 〔言 語 事 項 〕 の一 つ と して 付 随 す る科 目 に過 ぎな い 。 「漢 字 に 関 す る事 項 」 も,同 じ く小 ・中 学 校 と も に 〔言 語 事 項 〕 に位 置 づ け ら れ て お り,「 書 写 」 との 連 携 が は か られ て い な い。 「書 写 」 と 「漢 字 」 はい ず れ も 「書 くこ と」 の 大 き な柱 で あ る と考 え られ る が,現 行 の 指 導 要 領 で は両 者 の 関 連 性 が 希 薄 で あ る と言 わ ね ば な る ま い。 一 方,2003(平
成15)年
度 か ら,高 等 学 校 の 新 し い 学 習 指 導 要 領 が ス タ ー ト
した 。 芸 術 科 「書 道 」 で は,従 来 どお り 「書 道 I」 「書 道Ⅱ 」 「書 道Ⅲ 」(各 2単 位)の
設 定 を認 め て い るが,こ
の 3科 目す べ て に お い て,「 表 現 」 と して 「漢 字
仮 名 交 じ りの 書 」 を 軸 に して 必 修 化 し,か つ 従 来 並 列 に置 か れ て い た 「漢 字 の 書 」 と 「仮 名 の 書 」 を選 択 制 に して,生 徒 が 楽 し く書 にか か わ り,主 体 的 な 学 習 態 度 を育 て る ご と を ね ら う,と い うふ う に枠 組 み が大 き く変 化 した 。 「漢 字 の書 」 や 「仮 名 の 書 」 と違 い長 い 伝 統 を もた な い 「漢 字 仮 名 交 じ りの書 」 は,こ れ か ら ど の よ う に教育 し て い くの か , そ の 質 量 が 問 題 視 され て い る。 高 等 学校 に お い て,そ
も そ も芸 術 を 指 導 す る 目標 は,「 芸 術 の 幅 広 い 活 動 を通
し て,生 涯 にわ た り芸 術 を愛 好 す る心情 を育 て る と とも に,感 性 を高 め,芸 術 の 諸 能 力 を伸 ば し,豊 か な情 操 を 養 う。」 こ とに あ る。 これ を受 け て,書 道 Iの 目 標 は,「 書 道 の 幅 広 い 活 動 を通 し て,書
を愛 好 す る心 情 を育 て る と と もに,感 性
を豊 か に し,書 写 能 力 を高 め,表 現 と鑑 賞 の 基 礎 的 な能 力 を伸 ば す 。」 と決 め ら れ た が,上 記 の 小 ・中 学 校 の 「書 写 」 とは,一 見 連 繋 す る よ う に見 え て,実 際 は 明 らか に別 の 目標 とな って い る 。 そ の上,書
道 I ・Ⅱ ・Ⅲの,目 標,内
容,内 容
の取 り扱 い に は,非 常 に高 い水 準 の もの が 盛 り込 ま れ て い る。 た とえ ば,3 科 目 と も,内 容 は,A 表 現, B 鑑 賞 と に分 か れ るが,書 の 美 の 多 様 性 と作 品 の 特 徴,(イ)書
論 に よ る書 の 理 解 と鑑 賞 の 深 化,(ウ)日
及 び 中 国 等 の書 の伝 統 と諸 文 化 との 関 連,を
本
挙 げ る。 この 内 容 自体 は 正 し い もの
で あ り,必 要 不 可 欠 の もの ば か りで あ るが,表 現(実 の な か で,ど
道Ⅲ の 鑑 賞 と し て,(ア)書
技)を 中 心 とす る授 業 主体
れ だ け展 開 で き るか 甚 だ疑 問 で あ る。 古 文 ・漢 文 の読 解 力 無 く して
は 書 論 を読 む こ と は不 可 能 で あ り,美 学 を講 じ な け れ ば 書 の 美 の 多様 性 を追 求 す る こ とは無 理 で あ り,日 本 文 化 史 ・中 国 文 化 史 を理 解 しな けれ ば伝 統 文 化 との 関 連 を極 め る こ とは で き な い 。 現 状 で は,受 験 戦 争 の影 響 で,ほ
とん ど の高 等 学校
が 書 道 Iの み しか 設 定 で き ない 状 況 にあ り,絵 に描 い た 餅 に な りか ね な い 。 書 道 は確 か に 芸術 と して 成 立 して い るが,表 現(実
技)指 導 と同 等 に鑑 賞(研
究)指 導 を行 わ な けれ ば,書 論 を読 む こ と も,書 の 美 を追 求 す る こ と も,伝 統 文 化 を理 解 す る こ と もで きな い。 い ず れ にせ よ,学 校 教 育 現 場 で の 「書 写 」 や 「書 道 」 の授 業 時数 の 多 寡 が,伝 統 文 化 の 継 承 と直 結 す るだ け に,よ 上 を追 究 して い か な け れ ば な らな い 。
り一 層 の 質 的 向
(3) 書 道 の 実 用 性 日常 生 活 の 中 で,私 た ち は毎 日の よ うに文 字 を書 い た り読 ん だ りす る。 新 聞, 雑 誌,T V,パ ソ コ ン や 携 帯 電 話 の メー ル まで,あ
ら ゆ る媒 体(メ
デ ィア)が 暮
ら しの 中 に 氾 濫 し て い る。 そ の 中 で,新 聞 の題 字 に は手 書 き文 字 が 印刷 され て い る。 隷 書 体 の 「朝 日新 聞 」 と 「讀賣新 聞 」,篆 書 体 の 「産經 新 聞 」 は そ の 代 表 で あ る。 「毎 日新 聞 」 は活 字 体 に変 わ っ て し ま った が,以 前 は隷 書 体 を用 い て い た。 この よ うに,書 道 に は,社 会 性,実
用 性 が あ り,現 実 社 会 で も な お存 在 意 義 を
有 して い る。 これ は書 道 が,本 来 も って い る性 格 で あ り,実 用 的 な性 格 を 無視 し て は,成 立 しえ な い こ とを物 語 っ て い る。 現 代 社 会 は,リ テ ラ シ ー(読
み書 き能 力)を 必 要 とす る。 情 報 を分 析 し,判 断
し,活 用 す る能 力 で あ る が,こ れ か らは,メ
デ ィ ア を通 じた 学 習 が よ り一 層 普 及
す るで あ ろ う。 書 道 に よ る 「メ デ ィ ア リテ ラ シー 」 とそ の効 用 を考 えて い く必 要 が あ る。 そ の 時 に 忘 れ て は な ら な い の は,書 道 は 実 用性 と芸 術 性 の 両 面 性 を もつ とい う 視 点 で あ る。 実 用 性 の み を強 調 して も,芸 術 性 の み を 強 調 し て も,書 道 の 歴 史 的,本 来 的意 義 が 見 失 わ れ る。 書 道 は,実 用 性 と芸術 性 の両 輪 が あ っ て は じめ て 存 在 意 義 を有 す る もの で あ る こ と を,肝 に銘 じて お か ね ば な ら な い。
●10 お わ り に
書 は人 間 そ の もの で あ り,20世 孟 海(1900∼1992)は,「
紀 を代 表 す る 中 国 の 書 法 家,書
法 理論 家 の沙
修 養 の無 い者 は字 を書 くな」6)と言 わ れ た ほ どで あ る。
ま た今 井 凌 雪 は 「書 は哲 学 で あ る」 と言 わ れ る。 漢 字 文 化 圏 の 盟 主 で あ る 中 国 で は,書 道 は文 化 の精 華 で あ り,す なわ ち書 道 が 解 れ ば,中 国 文 化 の真 髄 が 理 解 で き る と考 え られ て い る。 そ れ ほ ど 「玄 妙 」 な も の で あ る。安 易 に そ の精 華 を 汲 み 取 れ な い こ と は,書 道 史 が証 明 して い る。 傑 出 した 大 家 は,百 年 に 1人,い
や数 百 年 に 1人 登 場 す るか ど うか で あ る。
詩 ・画 と相俟 っ て,書 道 を愛 す る 文 人 は大 名 小 名 並 ぶ 綺 羅 星 の ご と く存 在 し た 。 そ の い ず れ の 文 人 も,何
とか 自己 の文 芸 世 界 を表 出 す る こ とに苦 心 し,惜
し
み な い努 力 を払 っ て きた 。 努 力 す るた め の基 盤 で あ り,根 幹 を支 え る 「基 本 功 」 と学 問 こそ が 「教 養 」 で あ り,そ の 上 に積 み重 ね る技 巧 の鍛 錬 と人 間 性 の陶 冶 が 「修 養 」 で あ り,最 後 に 自己 の 「哲 学 」 を もつ こ と,こ れ こ そが 書 を支 えて きた 文 化 の真 髄 で あ る。 文 人 と は,現 代 に置 き換 え て言 え ば,総 合 的 な 実 力 を有 す る知 識 人 を指 す で あ ろ う。 しか し,現 在 の よ うに 専門性 を重 視 す る 日本 の社 会 で は,な か な か総 合性 を樹 立 して い くこ とが 難 し い。 書 道 の 世 界 は,ま
さ し く文 化 を総 合 す る場 で あ
り,決 して 表 現 技術 の み で把 握 で き る もの で は な い。 漢字 文 化 にル ー ツ を もつ 書 道 文 化 が 発 展 す るた め に は,文 人 精 神 を唱 え る必 要 が あ る と考 え る。 言 い 換 えれ ば,総 合 的 な教 養 を身 に つ け る場 が な い と,日 本 に お け る書 道 文 化 は発 展 し て い か ない。 注 1)王 義 之 の 生 卒 年 につ い て は,321∼379年(伝 《題 衛 夫 人 筆 陣 図 》説),303∼379年(姜 年(魯 一 同説)と,5
説 あ る。 こ こで は,王
書 芸 論稿 』 文 化芸 術 出 版 社2001年)に
羊 欣 《筆 陣 図》 説),305∼364年(伝 亮 夫 説),303∼361年(張
王羲 之
懐〓 説),307∼365
玉 池 の 「王羲 之 的生 卒 年 代 可 以〓 定 」(『二 王
基 づ き,張 懐〓 説 に従 う。
2)図5.1,5.8,5.9は,1998年7月30日
に 湯 島 聖 堂 で 開 催 され た 全 国 漢 文 教 育 学 会 主 催
「第14回 漢 文 教 育研 修 会 」 の一 つ 「 書 と漢文」 にお け る筆 者 作 成資 料 に基づ く。 3)陸 維釗 「書法 概 論 」 よ り。 4)大 東 文 化 大 学 書 道 学 科 開 設 科 目 「書 道 文 化 演 習 2」 に お け る海 外 研 修 と して,杭 州 の 中 国 美 術 学 院 で2002年 る,祝
9月 1日か ら14日 まで 実 施 した 「中 国 書 画短 期 進 修 班 」 の授 業 にお け
遂 之主 任 教授(中 国 美術 学 院書 法 系)の 講 義 ノー トに基 づ く。原 文 は 「 所有学習中
国 古 典 的 書法 作 品 都不 是 終極 的 目的,而 是 学 習 的手 段 、 過程 。」 5)図5.10は,1999年
6月12日
に開催 さ れた 国 士舘 大 学 主催 オ ー プ ンカ レ ッジ 「中 国文 化 を
た の しむ ∼心 の生 涯 教育 」の 一 つ 「 芸 術 の世 界 ∼ 書 画 をた の しむ」 にお け る筆 者 作 成 資 料 に基 づ く。 6)筆 者 に語 った言 葉 よ り。 原 文 「没 有修 養的 人,不 要 写 字 。」
文
献
青 山杉 雨(1985)「
書 とい う もの 」 『日本 書 法 巨匠 展 図録 』 読 売 新 聞社
今 井 凌 雪(1992)「
〈書 〉 を考 え る」,「書風 の成 立 」 『今 井凌 雪 の 書道 入 門』(上 巻)講 談 社
財 団 法人 自 由時 間 デ ザ イ ン協 会(2002)『 全 国 大 学書 写 書 道教 育 学 会編(2002)『
レジ ャ ー 白書2002』 自由 時間 デ ザ イ ン協 会 書 写指 導小 学校 編5訂 版 』萱 原 書 房
全 国大 学 書 写書 道 教 育学 会 編(2002)『 宗 白華(1980)「 蘇軾(1971)「
書 写 指 導 中 学校 編 5訂版 』 萱 原書 房
中 国書 法 里 的美 学 思想 」 『 現 代 書 法論 文 選』 上 海 書 画 出版社
書 唐 氏 六家 書 後 」宋 廿 名家 題跋 彙 編 『東坡 題跋 』 台 湾 広文 書 局
玉村霽 山 編(1998)『
中国 書 道 史年 表 』二 玄 社
西 川 寧 編 (1971∼1974)『書道 講 座 』(① 楷 書 ② 行 書 ③ 草書 ⑤篆 書 ⑦ 隷 書)二 玄 社 三 井 文 庫 編(1998)『
聴 氷 閣 旧蔵 碑 拓 名帖 撰 』 三 井 文庫
福 本 雅 一 訳(1977)「
説文解字」『 中 国 書論 大 系 』 第一 巻 二 玄社
陸 維釗(2002)「
書 法概 論 」 『中国 美術 学 院 中 国 画系 書 法篆 刻 工 作室 』 河 北美 術 出版 社
⑥ 漢 字 の デザ イ ン
味岡伸太郎
与 え られ た テ ー マ は 「漢 字 の デ ザ イ ン」 で あ る。 しか し,漢 字 ・ひ らが な ・カ タ カ ナ の 3種 類 の 文 字 を使 用 し,時 に は ア ル フ ァベ ッ トも使 用 さ れ る と い う 日本 の 言 語 の構 造 の複 雑 さ は,日 本 の タ イ ポ グ ラ フ ィ とタ イ プ フ ェ イ ス が宿 命 的 にか か え る課 題 で あ る。 そ の 上,実
際 に使 わ れ る場 合 に仮 名 は 6∼ 7割 を 占 め る。 そ
の 中 で 特 に ひ らが な は そ の 大 部 分 を 占 め て い る。 印 刷 用 書 体 を テ ー マ にす る と き,こ の仮 名 を無 視 して話 を進 め る こ とは大 変 難 し い。 そ こで 仮 名 や 欧 米 の アル フ ァベ ッ ト との関 連 を交 じ えな が ら記 述 して い くこ とに す る。
●1 書体 とは何 か
漢 字 を デ ザ イ ンす る こ とで 書体 が で きる。 そ れ で は書 体 と は何 か。 この 定 義 が 一 般 的 に は あ い まい なの で あ る。 岩 波 書 店 の 『広 辞 苑 』(第 2版)を
開 い て み る。 書 体 とは 「① 文 字 の体 裁 。 か
きぶ り。 書 風 。 ② 文 字 の種 々 の か き か た 。 楷 書 ・行 書 ・草 書 ・篆書 ・隷 書 な ど の称 。 ③ 活 字 の字 体 。 清 朝 ・明 朝 ・宋 朝,或
い は イ タ リ ッ ク ・ロ ー マ ン な どの
種 類 を い う。」 とあ る 。 三 省 堂 の 『大 辞 林 』(第 2版)で 字 に 書 く時 の 様 式 。 漢 字 の,楷
は 「① 字 体 を実 際 の 文
書 ・行 書 ・草 書 や篆 書 ・隷 書 な ど。 活 字 の,明
朝 ・ゴ シ ッ ク ・ア ンチ ッ ク ・あ る い は イ タ リ ッ ク ・ロ ー マ ン ・ボ ー ル ドな ど。 ② 文 字 の 書 き ぶ り。 書 風 。」 とあ る。 下 線 の 部 分 は ほ ぼ共 通 で あ る。 そ し て,字 体
と書 風 とい う言 葉 が い ず れ の辞 書 に も使 わ れ て い る。 そ こで,改
め て 字 体 につ い て 『広 辞 苑 』 を開 い て み る と 「文 字 の 形 。 『 新 一』
② 書 体 。 楷 書 体 ・行 書 体 ・草 書 体 の 別,ま
た 印 刷 活 字 の 明 朝 体 ・清 朝 体 ・ゴ シ
ッ ク体 の別 な ど。」 と な っ て い る。 つ ま り 『 広 辞 苑 』 で は書 体 と字 体 とは 同 じ と 考 え て い る よ うだ 。 『大 辞 林 』 で は 「線 や 点 の組 み 合 わ せ か ら成 る,文 字 の 骨 組 み 。 字 形 。 → 書 体 」 とな っ て い る。 この字 義 に よ れ ば 字体 は実 際 に 書 か れ た 文 字 の 様 式(書 体)と
は違 い,文 字 の骨 組 み の こ とで あ る と理 解 で き る。 『広辞 苑 』
と 『 大 辞 林 』 で は こ の よ う に食 い違 い を見 せ て い る。 さ ら に 『大 辞 林 』 で は 「字 形 」 とい う言 葉 が こ こで 初 めて 現 れ,「 字 体 」 は 「字 形 」 で あ る とい う。 この 二 つ の辞 書 の 解 釈 を認 め て し ま う と書 体 と書 風 と字 体 と字 形 は同 じ もの に な っ て し ま う。 これ が お そ ら く一 般 的 な解 釈 で,食
い 違 い も許 容 の 範 囲 な の だ ろ
う。 一 般 的 な許 容 の 範 囲 で あ る と して も,こ の 程 度 の解 釈 で は記 述 の 前 提 が 崩 れ て し ま う。 そ こで,基 本 的 な 用 語 の定 義 か ら始 め る こ と とす る。
(1)字
体
文 字 の デ ザ イ ン を始 め る に あ た っ て 最 も基 本 と な る の が 「字 体 」(図6.1)で あ る。 字 体 と はJISの
情 報 交 換 用 漢 字 符 号 系 X0208で
は,「 表 現 され た 字 形 の
基 礎 に あた る文 字 観 念 で,個 々 の文 字 を識 別 す る 要 素 と して の 点 画 の 組 合 せ 方 を い う。 す な わ ち,字 体 は抽 象 的 な もの で あ り,具 体 的 に は字 形 と して実 現 す る。」 と説 明 され て い る。 い さ さ か難 し い表 現 で あ る。 も う少 し解 り易 く例 えれ ば,背 中 に指 で文 字 を書 い て そ の文 字 を 当 て る遊 びが あ る。 出題 者 と回答 者 に は 共 通 の 文 字 へ の 観 念 が あ る こ とで,こ る,こ
の 遊 び は成 立 す
の文 字 へ の観 念 が 字 体 で あ る。 この 例 え の よ う に
字 体 は抽 象 的 な もの で,そ て し ま え ば,ど
れ が 目に 見 え る形 に表 現 され
の よ う な もの で あ れ,全 て 字 形(図6.2)
と呼 ばれ る こ とに な る。 表 現 さ れ た 字 形 に は必 ず 骨 格(図6.3)が
ある。骨格
図6,1字
体
図6.2
字形
図6.3
骨格
図6.4
エ レ メ ン ト (Element)
タ イ プ フ ェ イ ス を 構 成 す る,始 筆,終
と は実 際 に表 現 さ れ た 字 形 の骨 組 つ ま り観 念 上 の
筆,止
め,曲
げ,は
ね,
点 な どの 諸 要 素 を 言 う 。 そ の デ
中 心線 の こ とで あ る。 手 書 きの 字 形 で は骨 格 が書
ザ イ ンは タイ プ フ ェ イス の性 格 を最終 的 に決 定 す る重 要 な要 素
か れ た と同 時 に そ の 書 写 の 用 具 に よ っ て 肉付 け さ れ るが,我 々 が デ ザ イ ンす る多 くの 印 刷 用 書 体 の 場 合 に は まず 骨 格 が 書 か れ,そ
で あ る。 図 は 明 朝 体 の 漢 字 の エ レ メ ン ト。
れ に様 々 な 肉付 けが デ ザ イ ン さ れ る こ とで字 形 と
な る。 こ の 肉付 け をエ レ メ ン ト(図6.4)と
呼 ん で い る。
同 一 の 字 体 に対 して 字 形 や 骨 格 は無 数 に創 作 す る こ とが で き る。 骨 格 と字 体 と は 時 とし て 同意 語 と して 扱 わ れ るが,こ
れ は 明 らか に違 う もの で あ る。
(2)書 体 と書 風 文字 を書 く用 具 や好 み や 時 代 な ど の違 い に よ って,そ れ ぞ れ に 異 な っ た様 式 が 生 まれ る。 これ を書 体(図6.5)と 隷 書 ・篆書,そ
呼 ん で い る。 具 体 的 に は楷 書 ・行 書 ・草 書 や
して 明 朝 体 ・ゴ シ ッ ク体 な どの 印 刷 用 書 体 な どの 様 式(カ
テゴリ
ー)の 違 いが 書 体 で あ る。 明朝 体 に も様 々 な デ ザ イ ンが あ る よ うに,同
じ書 体 で も一 つ の 字 体 に対 して 表
現 され る骨 格 や 字 形 は書 家 や デ ザ イ ナ ー に よ り無 限 に創 作 す る こ とが で き る。 そ こ に書 や 印 刷 用 書 体 の デ ザ イ ンの 可 能 性 が あ る。 そ して そ の よ う な書 きぶ り,つ ま り作 家 の 個 性 や感 情 に よ っ て もた らさ れ る様 々 な字 形 は書 体 で は な く 「書 風 」 と呼 ば れ る もの で あ る。 そ れ が 書体 の一 部 で あ る こ とは もち ろん で あ る。 文 字 を 書 く用 具 や 好 み や時 代 に よ っ て もた らさ れ る― ない−
個 人 的 な もの が そ こに 反 映 され
様 式 が 書 体 な の で あ る。
写 真 植 字 の 時 代 に最 も広 く使 わ れ た 書 体 に 「石 井 明 朝 体 」(図6.6)が
あ る。
図6.5
図6.6 石 井 中 明朝 体
書 体 と書 風
図6.7 王羲 之 の楷 書 ( 樂 毅 論餘 清 齋 帖 ,平 凡 社1960)
石 井 茂 吉 が デ ザ イ ン した 明 朝 の 書体 で あ る。 石 井 が 書 風 で明 朝 体 が 書 体 で あ る。 「王羲 之 の楷 書 」(図6.7)も
ま た 同様 で あ る。
(3)タ イ プ フ ェ イ ス 印 刷 用 書 体(図6.8)の
こ と を 通 常 タ イ プ フ ェ イ ス(typeface)と
る。 タ イ プ フ ェイ ス はtype(活
字)とface(顔
=文 字)か
呼 ん でい
ら成 立 した 言 葉 で あ
る。 つ ま り活 字 の 表 面 に あ る文 字 ・書 体 を指 す 言葉 で あ る。 タ イ プ フ ェ イ ス は あ らか じめ 決 め られ た 文 字 数 が 1セ ッ ト1)と して デ ザ イ ン され,印 って 組 み合 わ せ て 使 わ れ る。 活 字 は英 語 で はmovable
刷技術 な どによ
typeで あ る。 つ ま り,動
く,あ る い は移 動 す る文 字 で あ る 。 そ こで 日本 で は 生 きた 文 字 の 意 味 で 「活 字 」 と呼 ばれ て きた 。 一 般 的 に は活 字 と言 え ば金 属 活 字 を思 い浮 か べ る こ とが 多 い だ ろ うが,金 属 活 字 だ け が 活 字 で は な い 。 活 字 の発 生 した 初 期 の木 活 字 も写 真 植 字 の 文 字 も,そ
し て 現 在 主 流 と な り つ つ あ る デ ジ タ ル ・フ
ォ ン トも自 由 に組 み 合 わ せ て使 用 す る こ との で き る文 字 は 全 て活 字 とい う こ とに な る。 現 在 で はDTP(desktop
publishing)の
普 及 と共 に
タ イ プ フ ェ イ ス と同 意 語 と し て使 わ れ る よ うに な っ て し ま っ た フ ォ ン トは,も 一 の大 きさで
,ア
と も と は欧 文 活 字 の 同 一 書 体 で 同
ル フ ァベ ッ ト,お
よ び 数 字,記
な ど の 文 字 1セ ッ ト を 意 味 す る 言 葉 で あ る 。
述 記号
図6.8
タ イ プ フ ェイ ス (様 々 な 明 朝 体)
(4)タ イ プ フ ェイ ス の 名 称 現 在 制 作 さ れ て い るほ とん どの タ イ プ フ ェ イ ス が,6355字
と い う膨 大 な漢 字
を有 す るJISの 情 報 交換 用 漢 字 符 号 系 に そ っ て 制 作 が 進 め ら れ,タ
イプ フ ェイ
ス の 制 作 に は通 常 は 2∼ 3年 必 要 と い う労 働 集 約 的 な デ ザ イ ン分 野 で あ る。 一 旦 コ ンセ プ トが決 定 さ れ デ ザ イ ンが 始 ま る と,容 易 に は 変 更 で き な い。 そ の た め デ ザ イ ン に先 立 ち その 使 用 目的 に応 じて,骨 格,線
率 の バ ラ ン ス,エ
レメ ン ト,オ
リジ ナ ル 性 な どの コ ンセ プ トが慎 重 に検 討 され る。 そ の 意 味 で 一 般 の書 体 とタ イ プ フ ェ イ ス が違 う の は よ り厳 密 に統 一 さ れ た ス タ イ ル にデ ザ イ ンさ れ て い る こ と で あ る。 そ の こ とが タ イ プ フ ェイ ス の名 称 に も反 映 され て い る。 ア ル フ ァベ ッ トの例 だ が,ノ イ エ ・ハ ー ス ・グ ロ テ ス ク ・ハ ル プ フエ ッ トと呼 ば れ る タ イ プ フ ェ イ ス が あ る。 ノ イエ は新 し い,ハ ー ス は制 作 会 社 名,グ ク はサ ンセ リフ(セ
ロテス
リ フの な い タ イ プ フ ェイ ス,日 本 の タ イ プ フ ェイ ス で い うゴ
シ ッ ク体 に あ た る),ハ ル プ フエ ッ トは太 線 を表 し て い る。 つ ま り,ハ ー ス 社 の 新 し い太 い サ ン セ リ フ とな り,一 つ の タ イ プ フ ェ イ ス を特 定 す る こ とが で き る。 ち な み に この タ イ プ フ ェイ ス は後 に世 界 で 最 も評 価 の 高 い タ イ プ フ ェイ ス の一 つ へ ル べ チ カ へ と発 展 した 。
● 2 書体 の変化
( 1) 手 で 書 く こ とで 書 体 は変 化 す る 文 字 の 表 記 は初 期 に は手 書 き さ れ る意 外 に方 法 は な か っ た 。 よ り速 く,よ
り美
し く書 く必 要 か ら字 体 ・書 体 は改 良 され 変 化 して きた 。 手 書 きの 時 代 に は字 体 と 書 体 の創 作 は 同 時 に 行 わ れ,時 代 と共 に様 々 な新 し い様 式 が 生 み出 され て きた 。 中 国 で の 最 初 の文 字 は 甲骨 文 字 と呼 ば れ,堅
い 亀 の 甲 や獣 骨 に刻 まれ た た め に
直 線 的 な 文 字 が 生 まれ た 。 甲骨 文 字 に 次 ぐの が篆 書 だ が,篆 書 に は大篆 と小篆 が あ る。 青 銅 器 の型 に 使 う土 に彫 り込 む こ とで 曲線 を取 り入 れ る こ とが 可 能 とな り 大篆 が 生 まれ た 。 つ いで 秦 の始 皇 帝 の 時 代 に大篆 を よ り美 し く,簡 略 化 して 文 字 を統 一 した のが 小篆 で あ る。 木 簡 に筆 で 書 か れ る よ うに な る と隷 書 が生 まれ,さ ら に筆 の 改 良 や 速 く書 くた め に隷 書 を くず して 書 くよ う に な り,行 書 や 草 書 が 生
ま れ る。 そ し て 柔 らか な 毛 筆 で紙 に 書 か れ る よ う に な り,7 ∼ 8世 紀 の 頃 に は楷 書(図6.7)が
完 成 す る。
(2) 日本 の書 体 そ して 漢 字 は 日本 へ 伝 え られ る。 日本 民 族 は それ 以 前 に字 を もっ て い な か った た め,言 語 的 性 格 が 全 く違 う漢 字 と漢 文 を 日本 語 の特 性 に合 わ せ る過 程 で 仮 名 が 生 ま れ る。 漢 字 の 音 を使 い 固有 名 詞 を表 記 す るた め に,楷 書 で 書 か れ た万 葉 仮 名 が 草 書 的 に書 き くず され,我
々 が 現 在 使 っ て い る 「ひ らが な 」 の原 形 が 出 来 上 が
る。 時 を 同 じ く して 学 者 や 僧 侶 に よ って,仏 典 な どの 漢 文 の 訓 読 用 に万 葉 仮 名 の 一 部 を利 用 し て い た符 号 が 統 一 さ れ,ひ
ら が な と前 後 し て 「カ タ カ ナ」 も誕 生 す
る。 平 安 時 代 初 期,東 晋 の 王羲 之 な どか ら強 く影 響 を受 け た 日本 の 書 道 史 上 の 3人 の 能 書 家,嵯
峨 天 皇,空
海,橘
逸 勢 を 三 筆 と呼 び,そ の 書 風 を 唐 様 と呼 ん で い
る。 三 筆 に対 して,平 安 時 代 中期 の 小 野 道 風,藤
原 佐 理,藤
原 行 成 の 3人 を三 蹟
と呼 び,そ の 書 風 を 日本 的 な書 の意 味 で 和 様 と呼 ん で い る。 三 筆 か ら三 蹟 に 至 っ て和 様 の 書風 が 完 成 され る。 三 蹟 の うち,藤 原 行 成 の 書 の流 れ は徳 川 家 康 が 好 ん で奨 励 し幕 府 ・朝 廷 な どの 公 用書体 「 御 家 流 」 と して 用 い られ る。 武 士 ・町 民 の別 な く津 々 浦 々 まで御 家 流 時 代 が 明 治維 新 ま で続 い た 。
(3) 御 家 流 と町 民 文 化 御 家 流 の 広 ま りは江 戸 時 代 の 書 を 衰 退 させ て し ま った が,反 面,支 配 層 の 独 占 物 で あ っ た文 字 を庶 民 の もの に す る こ とに な る 。 そ して,庶 民 文 化 が 花 開 くと と もに御 家 流 か らは様 々 な 文 字 が 派 生 す る。 代 表 的 な もの に歌 舞伎 のた め の勘 亭 流 (図6.9)が
あ る 。 そ して 寄 席 文 字,浄
瑠 璃 文 字,相
撲 文 字 な ど が 続 々 と生 み 出
さ れ,江 戸 の 町 民 文 化 を盛 り上 げ る こ と とな る 。 そ の 後,文
字 を書 く用 具 が 毛 筆 か らペ ンや 鉛 筆 等 の 硬 筆 に 変 わ り,横 組 の普 及
と共 に,横 組 で 速 く美 し く書 くた め に 字 体 の模 索 が 再 び始 ま り,タ イ プ フ ェ イ ス
の世 界 で 「新 書 体 」 と呼 ば れ る書 体 が 現 れ る。 近 年 に な る とそ の極 端 な例 と して 丸 字,漫
画 字,変
体 少 女 文 字 と様 々 に呼 ば れ た 女 子 学 生 の 間 に流 行 した 書 体 (図
6.10) が 生 ま れ る(以 後 丸 字 と表 記)。
図6.9 勘 亭 流(原 ほか1962)
歌 舞伎 の看 板 な ど に使 わ れ る書 体 。1779年 の 中 村 座 の名 題 を岡崎 屋 勘 六 が書 い た のが 始 ま り。 台 本 も明治 中期 まで は この書体 で書 か れ て いた が読 み に くい た め 廃 止 され,今 では装 飾的 な場 所 の みで使 用 されて い る。
図6.10 女 子 学生 の間 に 流行 した 書体 2列 目の 「だ っ て さー 」か ら始 ま る書体 は文 字 の下 部 に定規 を あて て 書 くこ とに よ りライ ンを 出 して い る。
図6.10
(続 き)
( 4) 何 故,横 組 な の か 日本 人 は不 思 議 な 国 民 で あ る。 日本 人 の た めの 文 書 で あ るの に,国 際 化 の 掛 け 声 の も と,使 うの に 別 に問 題 も な い わ ず か な 欧 文 や 数 字 の た め に 自 国 の 文 字 組 の 形 を変 え て し ま う試 み が 続 け られ て い る。 一 般 の 新 聞 雑 誌 の ほ と ん どが,い
まだ
縦 組 な の に,官 庁 公 用 文 は ほ ぼ横 組 に統 一 され,教 科 書 も多 くが 横 組 に な って し ま った 。 不 思 議 な こ と に,政 府 が 先 に立 っ て 自国 の文 化 を捨 て よ う と して い る。 近 頃 のDTPの
急 速 な普 及 で そ れ は ます ます加 速 され て い る。
日本 語 は縦 組 用 に開 発 さ れ た 書 体 で あ る。 永 い 歴 史 の 間 に縦 組 に適 した 字 体 が 選 ばれ,改
良 され て きた 。 そ れ が 西 洋 の影 響 を受 け る よ う にな る明 治 以 後,横 組
が 使 わ れ 始 め た 。書 道 で は扁 額(図6.11)と
い うス タ イ ル が あ る。 そ れ は 一 見
す る と横 組 に見 え る。 しか し,そ れ は 1行 1文 字 の縦 組 と考 え るべ きで あ る。 そ れ が 証 拠 に縦 組 と同 じ右 か ら左 に書 か れ て い る。 日本 に は横 組 の 伝 統 は な い。 1000年 以 上 か けて 作 り上 げ て きた 縦 組 の 構 造 を そ の1/10の
期 間 で 横 組 に対 応 さ
せ よ う と して い る。 その 外 形 が ほ ぼ正 方 形 に収 ま る漢 字 は縦 組 に も横 組 に も並 べ る こ とが 一 応 で き るた め欧 文 の タイ ポ グ ラ フ ィ とは違 う 自由 さ を もっ て い た 。 し か し本 来 は縦 書 き と して 作 られ た 形 で あ るた め に,横 組 の た め に は,様 々 な課 題 を残 し て い る。 これ は 日本 だ けの 問 題 で は な い 。 韓 国 で も本 来 縦 組 のハ ン グル を横 組 に して使 用 す るた め に組 版 に 乱 れ が 見 え て い る。
( 5) 手 で 書 くこ と に よ る必 然 的 形 前 述 した 丸 字 は横 書 き で文 字 を書 くこ とで 必 然 的 に生 まれ た ス タ イ ル で あ る。 よ く書 道 の訓 練 を受 けた 人 な ら ば文 字 の横 中 心 を揃 え た横 書 きが で き るの だが そ の 訓練 を つ まな い現 代 の 子 供 達 が 綺 麗 に 早 く書 くた め に選 択 した 方 法 が 丸 文 字 で
図6.11
貫 名菘 翁 の 扁 額(森
田1975よ
り)
図6.12 アル ファベ ッ トの ス ク リプ ト
図6.13 ひ らが な の横 書
図6.14 日本 の近 代 活
体 が い か に横書 き用 に改 良 さ れて い るか が縦 に並 べ た もの と比 べ る と よ く理 解 で き る。
き は縦書 き に比 べ点 画 の移 動 に
版 印刷 の 代 表
あ る(図6.23,ラ
無 駄 が 多 い。
的書 体,築 地 明朝 体
イ ン シス テ ム参 照)。
横 書 き の場 合 に は ア ル フ ァベ ッ ト 「C」 の よ うに,そ
の描 くカ ー ブ が 右 側 の あ
い た 左 回 りの 円運 動 の 連 続 が 書 き よ い 形 で あ る(図6.12)。
な ぜ な ら ば 動 き の終
わ っ た 位 置 が た だ ち に次 の文 字 の 始 ま り に近 い位 置 とな るか らで あ る。 そ れ は手 書 きす るた め に無 駄 を な くす 必 然 的 な形 な の で あ る。 そ して 文 字 の 高 さ を揃 え右 に傾 い た 形 が 連 続 す る。 これ は字 の並 び が 揃 って 見 え るた め に有 効 で あ る。 と こ ろが 縦 書 き と して 発 達 した 日本 字 の 場 合 に は文 字 の運 動 は 「ノ」 や 「ワ」 や 「つ 」 「の」 の よ う に左 側 が あ い た 右 回 り の 円 運 動 が 基 本 に な っ て い る(図 6.13)。 そ れ は文 字 を書 い た 後 に は ね や 止 め を使 っ て文 字 の 縦 中 心 線 の 近 い 位 置 に戻 る た め 必 然 的 に取 り入 れ られ た 運 動 で あ る。 さ らに縦 に 文 字 が 揃 っ て見 え る た め に縦 線 はで き る 限 り垂 直 に書 か れ て きた 。
( 6) 印刷 の よ る表 記 明 治 以 後,日
本 の 文 字 の 表 記 の 主 役 は手 書 き文 字 に よ る表 記 か ら 印刷 に よ る活
字 ・写 植 文 字 の表 記 とな る。1869(明 版 印 刷 が そ の 始 ま りで あ る(図6.14)。
治 2)年,本
木 昌造 に よ っ て 開始 さ れ た活
も ち ろ ん,明 治 以 前 に も木 版 に よ る文 字
印刷 の 歴 史 は あ る が,そ の 多 くが 製 版 に よ る もの で あ り,活 字 を使 用 した 近 代 印 刷 技 術 に よ る表 記 と は一 線 を画 して い る 。 その 後 の130年
の 間 に,印 刷 は活 版 か ら平 版 に,植 字 は活 字 か ら写植 へ,そ
し
て ア ナ ロ グ 文 字 か らデ ジ タル 文 字 へ と移 り変 わ る。 文 字 の形 は文 書 を 印刷 に よ り大 量 に複 写(正 確 に は文 字 を製 版 あ るい は活 字 を デ ザ イ ン)す
る過 程 で も変 化 す る。 印刷 用 書 体 は初 期 に は手 書 きの 書体 を そ の ま
ま 1字 1字 手 彫 りす る こ とか ら,よ
り速 く,よ り美 し く,製 版 ・印 刷 す るた め に
様 式 化 され て い き,や が て印 刷 用 書 体 を代 表 す る 明朝 体 も誕 生 す る。
(7) 字 形 と組 版 活 字 や 写 真 植 字 で は文 選 工 や オペ レー タ が す で に用 意 さ れ て い る活 字 を 1字 1 字 拾 っ て組 版 す る。 そ の 活 字 の形 は植 字 す るた め の ス ピー ドに何 ら影 響 を与 え な い。 活 字 が 原 寸 手 彫 りの 時 代 に は,そ の工 程 が 字 形 に影 響 を与 えた 可 能 性 は否 定 で きな い。 しか し,活 字 の デザ イ ン が拡 大 され 紙 の 上 で 描 か れ る よ う に な っ て か ら は,活 字 の デ ザ イ ン は美 しさだ け の基 準 で 選 ぶ こ とが 可 能 な筈 だ が,組 版 の シ ス テ ム は タ イ プ フ ェ イ ス を変 え続 け て い る(こ の こ と につ い て はふ と こ ろ の広 い 書 体 の 項(p.137)で
後 述 す る)。 現 代 のDTPの
時 代 で は,コ
ン ピ ュ ー タが 書 体
を 変 化 させ た り,書 体 を選 ぶ の で は な く,コ ン ピ ュー タ に は現 在 の 最 も完 成 さ れ た 書 体 を い か に速 く美 し く印 字 す る こ とが で きる か が 求 め られ て い るの で あ る。 しか し,急 速 に進 む コ ン ピ ュ ー タ に よ るDTPの
技 術 に フ ォ ン トの制 作 が 追 い
つ い て い な い 。 活 字 ・写 植 時 代 の優 れ た 書 体 がDTP用
に フ ォ ン ト化 され ず,粗
製 乱 造 され た フ ォ ン トが 増 え て い る。 そ の よ うな フ ォ ン トが一 度,組 版 の シ ス テ ム に 組 み込 まれ て し ま う と,そ の フ ォ ン トを新 しい も の に変 え る こ とは非 常 に難 しい 。 活 字 ・写 植 時 代 に完 成 され た 良 質 な タ イ プ フ ェ イ ス を知 らな い世 代 や そ れ まで タ イ プ フ ェ イ ス を扱 う こ との な か っ た 一 般 の人 々 まで もが フ ォ ン トを使 う よ うに な っ て い る。 そ の上 タ イ プ フ ェ イ ス の デ ザ イ ナ ー に も書 の 教 育 を受 け て い な い若 い 世 代 が 増 え つ つ あ るた め タ イ ポ グ ラ フ ィの 乱 れ が 危 惧 され る。
● 3 タ イ ポ グ ラ フ ィ
グ ラ フ ィ ッ ク デ ザ イ ンの分 野 の 一 つ に タ イ ポ グ ラ フ ィが あ る。 本 来 の意 味 は活 字 を使 っ た 印 刷 術 を い う。 グ ラ フ ィ ッ ク デザ イ ンの 用 語 と して の タ イ ポ グ ラ フ ィ は,印 刷 され た もの,す
な わ ち ポ ス ター,新 聞 雑 誌 広 告,ダ
イ レ ク トメ ー ル,パ
ッケ ー ジ,書 物 な どで 主 と して文 字 の 使 わ れ て い る部 分 の書 体 の 選 択,レ
イア ウ
トな どを い う。 つ ま りタ イ ポ グ ラ フ ィ は文 字 を使 う こ とで,文 字 を作 る こ とで は な い 。 そ の た め タ イ プ フ ェ イ ス デ ザ イ ン は厳 密 の 意 味 で タ イ ポ グ ラ フ ィに は 含 ま れない。 グ ラ フ ィ ッ ク デ ザ イ ン を成 立 させ る造 形 上 の要 素 は基 本 的 に は二 つ で あ る。一 つ は写 真 ・イ ラ ス トレー シ ョン等 を含 ん だ 意 味 で の イ ラ ス トレー シ ョン。 他 の一 つ は,文 字 つ ま りタ イ ポ グ ラ フ ィで あ る。 イ ラ ス トレー シ ョ ン はイ メ ー ジ を伝 え る 役 目 を,そ
し て タ イ ポ グ ラ フ ィは メ ッセ ー ジ を伝 え る役 目 を果 た し て い る。 こ
の二 つ の 要 素 が 響 き合 う こ とで,魅 力 的 で 説 得 力 の あ る表 現 が 完 成 す る。 タ イ ポ グ ラ フ ィ は質 量 と もに 豊 富 な欧 米 の タ イ プ フ ェ イ ス に 支 え られ 早 くか らグ ラ フ ィ ック デ ザ イ ンの 重 要 な 部 分 を 占 め,豊 か な タ イ ポ グ ラ フ ィが 展 開 され て い る。 グ ラ フ ィ ッ ク デ ザ イ ン の 機 能 とは,一 言 で 言 え ば 「視 覚 コ ミュ ニ ケ ー シ ョン」 で あ る。 そ の た め イ ラ ス トレー シ ョ ンの な い デ ザ イ ン は成 立 す る が,具 体 的 に メ ッセ ー ジ を伝 え る た め の文 字 の な い デ ザ イ ン は成 立 しな い 。
日本の タイポ グラフ ィ 日本 で は膨 大 な 漢 字 の 字 数 と,漢 字 の 画 数 の 多 さ が 創 造 的 な新 し い タ イ プ フ ェ イ ス の制 作 を 困難 に し,明 朝 体 ・ゴ シ ッ ク体 の み の 2書体 だ け とい う時 代 が 長 く 続 き,欧 米 の よ う な タ イ プ フ ェ イ ス の選 択 とい う作 業 はな か っ た。 その た め 日本 で は,文 字 を使 った デ ザ イ ン に,欧 米 の ア ル フ ァベ ッ トを使 うほ ど に は豊 か な変 化 が 作 り出 せ ず,専
門 の タイ ポ グ ラ フ ァー が 出 に くか っ た の で あ る。
欧 米 の ア ル フ ァベ ッ トの フ ァ ミ リー(図6.15)の
考 え 方 の 一 つ と し て シ リー
ズ が あ る。 シ リー ズ と は同 一 の タ イ プ フ ェ イ ス の サ イ ズ の 違 い を 指 す 言 葉 で あ
図6.15
フ ァ ミ リー((b)は
F 1ク リ ッ プ)
る。 金 属 活 字 の 時 代 に は そ れ ぞ れ の サ イ ズ で 活 字 を製 造 し な け れ ば な ら な い た め 文 字 量 の 多 い 日本 で は サ イ ズ ご と に 1種 類 の ウ ェ ー ト しか 制 作 す る こ とが で き ず,シ
リー ズ の 概 念 は存 在 せ ず,日 本 に は欧 米 の よ うな フ ァ ミ リー の 揃 っ た書 体
は存 在 して い な か っ た。 しか し写 植 以 後 の シ ス テ ム で は も との タ イ プ フ ェ イ ス か ら事 実 上 必 要 な だ け の シ リー ズ を作 り出 す こ とが 可 能 で あ る。 写 植 の 時代 に入 る と レ ンズ の使 用 に よ り24種 類 の 大 き さ と各 種 の 変 形 が で き る よ うに な り,フ ァ ミ リー 整 備 の準 備 が 整 っ た。 そ の 結 果 と して よ り美 し く,よ り個 性 的 な 書 体 を求 め る多 書 体 化 の 時代 が 現 代 で は訪 れ,フ る程 度 は進 んで い る。
ァ ミ リー の整 備 も あ
● 4 タ イ ポ ス
1969年 に そ の後 の 日本 の タ イ プ フ ェ イ ス に大 き な影 響 を与 えた タ イ ポ ス(図 6.16)が
発 表 され た 。 タ イ ポ ス は 日本 の モ ダ ン タ イ プ フ ェ イ ス デ ザ イ ン の先 駆 け
とな り,そ の後 多 くの 新 書 体 が 発 表 され た 。 それ まで タイ プ フ ェ イ ス の 制 作 は職 人 の世 界 で あ っ た が,タ
イ ポ ス は デ ザ イ ナ ー に そ の 門戸 を開 く こ とに な っ た。
タ イ ポ ス は 日本 の タ イ プ フ ェイ ス に大 きな 影 響 を与 えた が,残 念 な が ら漢 字 は 未 完 に 終 わ っ た。 未 完 の 理 由 は様 々 だ が,一
つ の 大 き な理 由 と し て,タ イ ポ ス の
販売会 社 ( 写 研 ) の字 体 とタ イ ポ ス の 言 偏 の字 体 が 違 う とい う こ とが 問 題 とな っ た と も言 わ れ て い る。 そ の 違 い は 言 偏 の 第 1画 で,タ し て い た(図6.17)。
イ ポ ス は縦 線 で 2画 目 と接
販 売 会 社 は横 線 だ っ た の で あ る(図6.18)。
こ の 違 い は常 用 漢 字 表 の 「(付)字 体 に つ い て の 解 説 の 第 2・明 朝 体 活 字 と筆 写 の 楷 書 との 関 係 に つ い て 」 で 印刷 上 と手 書 き上 の それ ぞれ の 習慣 の相 違 に基 づ く表 現 の差 と され 字 体 と して は同 じ もの とさ れ て い る。
(1) ふ と ころ の 広 い書 体 タ イ ポ ス以 後 作 られ た 従 来 の 明 朝 体,ゴ
シ ック体 等,活
字 時 代 の タイ プ フ ェ イ
ス に 含 まれ な い タ イ プ フ ェ イ ス の こ とを特 に新 書 体 と呼 ん で い る。
図6.16
タ イ ポス
図6.19
図6.17
ふ と こ ろ(counter)
タ イポ ス
図6.18
石 井 中明 朝 体
図6.20 岩 田 新 聞 明朝 体
タ イ ポ ス は そ れ以 後 の,日 本 の タ イ プ フ ェ イ ス デ ザ イ ン に い くつ か の 重 要 な影 響 を与 え るが,そ
の 一 つ が ふ と ころ を大 き くす る こ とで ラ イ ン を揃 え る骨 格 の採
用 で あ る。 ふ と こ ろ(図6.19)と
は活 字 時 代 の 種 字 彫 刻 師 以 来 の 独 特 の表 現 で
あ り,タ イ プ フ ェ イ ス の 性 格 を決 め る重 要 な要 素 で あ る。 小 さな サ イ ズ の使 用 に は,ふ
と こ ろ の小 さな タ イ プ フ ェ イ ス は ツ ブ レが お きや す い た め に,ふ
と ころ の
大 き な タ イ プ フ ェ イ ス が 採 用 さ れ た 。 タ イ ポ ス に 先 だ つ昭 和 初 期 か らの本 文 組 活 字 書 体,新
聞 活 字 の 小 型 化 に よ る新 聞 本 文 組 用 書 体(図6.20)も
同様 な傾 向 を
有 して い た 。 タ イ プ フ ェ イ ス を デザ イ ンす る時,横 組 用 と し て字 並 び が 揃 っ て見 え る よ う に す る方 法 に は ① 文 字 の上 下 の 端 を 見 た 目 に揃 え る ② 横 の 線 の 位 置 を統 一 す る ③ 字 間 の ス ペ ー シ ング にム ラ を な くす る 等 が考 え られ る。 これ らの規 準 線 を ラ イ ン と い う。 仮 想 ボ デ ィ い っ ぱ い に デ ザ イ ン さ れ た,ナ
図6.21
図6.23
ー ル(図6.21)や
図6.22
ナ ー ル
ゴ ナ(図6.22)
ゴナ U
ア ル フ ァベ ッ トの デ ザ イ ン は キ ャ ッ プ ラ イ ン,ミ ー ン ラ イ ン,べ ー ス ラ イ ン,デ ィセ ン ダ ー ラ イ ン と 呼 ば れ る ラ イ ン(日 本 語 と ア ル フ ァ ベ ッ トの 混 植(p.149)参 照)に 文 字 の主 要 部 を合 わ せ る とい う ラ イ ン シ ス テム を採 用 す る こ とに よ って 成 立 して い る 。 そ れ に 対 し て,日
本 語 の 場 合,そ
れ ぞ れ の 文 字 に は 縦 に 通 る重 心 線,横
に通 る重
心 線 が あ る。 そ の ラ イ ン が 一 直 線 上 に 並 ぶ よ う に 文 字 を揃 え る こ と が 日本 語 で の ラ イ ン シ ス テ ム と い う べ き方 法 で あ る(図6.40参
照)。
や 新 聞 活 字 は結 果 的 に ラ イ ンが 出 易 い 。 丸 字 と呼 ば れ た 手 書 き の文 字 の 中 に,横 書 き に文 字 が 並 ぶ 下 辺 に定 規 を 置 き, 下 辺 を揃 え て書 く方 法 が あ っ た。 これ も手 書 きに よ る ラ イ ン シ ス テ ム(図6.23) の 1種 な の で あ る 。
( 2) 手 書 き と印刷 の 字 体 新 書 体 発 生 の基 盤 に は横 書 きに 書 か れ た 鉛 筆 や ボ ー ル ペ ン等 の 文 字 の背 景 が あ った こ と は間 違 い な い だ ろ う。 一 般 の 日常 生 活 の 筆 写 の 中 に す で に その 背 景 が あ るか ら こ そ,そ の代 弁 者 と して の デ ザ イ ナ ー が タ イ プ フ ェ イ ス を完 成 させ た の で あ る。 し か し,現 代 の 手 書 き の字 体 が どの よ う に変 化 し よ う と もそ の 字 体 が そ の ま ま タ イ プ フ ェ イ ス の代 表 的 な ス タ イ ル とな る わ け で は な い。 な ぜ な ら ば現 代 の 十 分 に発 達 した 印 刷 や コ ン ピ ュー タ に は,完 成 さ れ た タ イ プ フ ェイ ス を いか に速 く美 し く印 字 す る こ とが で き るか が 求 め られ る の で あ り,印 刷 や コ ン ピ ュー タ の た め に 文 字 が あ る の で は な い 。 それ に よっ て 文 字 が 変 化 す る 要 因 とな る可 能 性 も,手 書 き や そ れ を そ の ま ま製版 す る時 代 に比 して は るか に少 な くな って い る。 し か し,た
と え ば16×16ド
ッ ト程 度 の ドッ ト文 字 の デ ザ イ ン に な る と縦 横 と
図6.24 字体 の省 略 化
も に8本 の線 しか 使 えず,そ
れ を超 え る画 数 を持 つ 字 体 で は,や
むをえず字体の
省 略 化 が 行 わ れ る こ と も あ る(図6.24)。 そ れ は ア ル フ ァベ ッ トの世 界 で も同 じ こ とで あ る。 筆 記 体 で 書 か れ た 字体 と活 字 の 代 表 的 な 書 体,た
とえ ば へ ル べ チ カ と比 べ れ ば わ か る よ う に そ の字 体 は全 く
違 う。
●5
プ ロ ポ ー シ ョナ ル
(1)漢 字 は プ ロ ポ ー シ ョナ ル で は な い ア ル フ ァベ ッ トの個 々 の 文 字 に はそ の デザ イ ン か ら決 め られ た 幅 が 与 え られ て い る,そ の こ と を プ ロ ポ ー シ ョナ ル と呼 んで い る。 そ れ に対 して モ ノ ス ペ ー ス と は全 て同 一 の字 幅 で ノ ン ・プ ロ ポ ー シ ョナ ル な もの を言 う。 日本 語 の タ イ プ フ ェ イ ス は基 本 的 に はモ ノ ス ペ ー ス で あ るが 仮 名 は詰 め組 用 に プ ロ ポ ー シ ョナ ル な も の も用 意 さ れ,最 近 のDTPに
使 用 さ れ る仮 名 は 自動 的 に詰 め組 の で き る もの が
多い。 海 外 の デザ イ ナ ー か ら 日本 の タ イ プ フ ェ イ ス の プ ロ ポー シ ョナ ル へ の提 案 が あ る。 しか し,我 々 の 国 の 文 字 は1字 ず つ認 識 す る こ とで 読 む こ とが で き る。 単純 な プ ロポ ー シ ョナ ル な タ イ プ フ ェ イ ス デ ザ イ ン で は解 決 で き な い 。 た と えば縦 組 で の 漢 数 字 の一,こ
れ な ど単 純 な プ ロ ポ ー シ ョナ ル で は全 く読 み に く くな って し
ま う(図6.25)。
(2)わ か ち書 き 漢 字 は一 般 的 に は表 意 文 字 と考 え られ て い る。 し かし,厳 密 に い えば 表 語 文字 で あ る とい うべ き で あ る。 つ ま り,1字1字
が 語 を 表 し て い る。 表 音 文 字
では1字 あ る い は 数 個 の文 字 の 結 合 に よっ て 一 つ の 図6.25
語を表 す の に対 して,漢 字 で は1文 字 が1語 ので あ る。 ア ル フ ァベ ッ トの1単 語 と漢 字1文
を表 す 字は
(proportional) 漢 字 を プ ロ ポ ー シ ョナ ル に し た 時,極
同じ働 き を して い る と考 え る こ とが で き る。 単 語 が
プ ロ ポー シ ョナル
端 な 場 合 に は 全 く読
め な くな って しま う。
図6.26 1905(明 治38)年
発 行 の尋
常 小 学 校讀 本 三(博 文 館) 小 学校 低 学 年 の教 科書 のた め,漢 字 は ほ とん ど使 わ れ てい な い。仮 名 だ けの
図6.27
魏 景 元 元 年 張氏 墓 (平凡 社1959)
文 章 は非 常 に読 み に くい。 そ のた め, わ か ち 書 きが 採 用 され てい る。
並 べ られ 一 つ の文 章 を形 成 す る場 合 に は,そ れ ぞ れ の 語 が 明 確 に 区分 され る必 要 が あ る。 そ の た め ア ル フ ァベ ッ トや 仮 名 だ け の 文 章 で は,わ か ち書 き(図6.26) が 採 用 され,同 様 に漢 字 で は古 い碑 文 や 書 を見 れ ばわ か る よ う に必 然 的 に 等 間 隔 に スペ ー ス を開 け て 配 列 さ れ(図6.27),ア
ル フ ァベ ッ トの よ う な プ ロ ポ ー シ ョ
ナ ル の 方 法 は発 生 し な か っ た の で あ る。 しか し,明 治 以 前 の 印刷 物 の 多 くが 筆 で書 か れ た もの が そ の ま ま製 版 され た も の で あ る(図6.28)。
い きお い,そ れ ら は プ ロ ポ ー シ ョナ ル で あ る。 その 意 味 で
は 日本 の文 字 も本 来 は プ ロ ポ ー シ ョナル で あ る と も言 え る。 しか し,そ れ を タ イ プ フ ェ イ ス に取 り入 れ る に は まだ まだ 多 くの 時 間 が 必 要 に な るだ ろ う。
●6
フ ォ ン ト制 作
(1)JISと
フ ォ ン ト制 作
JISの 情 報 交 換 用 漢 字 符 号 系 は あ る意 味 で 日本 の 公 式 規 格 で あ るた め,現 在 多 くの フ ォ ン トの 制 作 は これ に そ って 制 作 が 進 め られ て い る。
コ ン ピ ュー タで 使 う文 字 数 の論 議 は最 近 活 発 で あ る。 しか し,そ の 多 くは論 点 が か み あ って い な い。 コ ン ピ ュ ー タ は言 語 を使 うた めの 道 具 で あ る。 言 語 を完 全 に使 う こ とが で きて こそ 道 具 の使 命 を全 う で き る。 全 て の文 字 を使 え る環 境 を作 ら な け れ ば な らな い。 どれ 程 多 くな ろ う と も文字 コー ドだ け は全 て の 文 字 に あた え る必 要 が あ る。 ユ ニ コー ドで も全 く不 十 分 で あ る。 しか し,そ の こ と と,そ れ ぞ れ の コ ン ピ ュ ー タ,そ れ ぞれ の フ ォ ン トセ ッ トが 図6.28
採 用 す る文 字 数 とは別 の 次 元 の 問題 で あ
江 戸 時 代 の 製 版 に よ る 出版 物 (原ほか1962よ
り)
る。 そ の 文 字 数 は そ れ ぞ れ の 目的 に合 わ せ て 自 由 に選 択 す れ ば 良 い の で あ る。
(2)JISは
必 要か
実 際 に使 わ れ て い るほ とん どの 文 章 か ら考 えて みれ ば,文 字 フ ォ ン ト開 発 ・普 及 セ ン タ ー第1期
フ ォ ン ト開 発 事 業 の基 本 文 字 セ ッ トの6932字
い わ ん や 補 助 漢 字 セ ッ トを含 め た12999字 一 方,『 康 煕 字 典 』(図6.29)や
で も多 す ぎ る。
とな る と論 外 で あ る。
『 大 漢 和 辞 典 』(図6.30)を
作 る とな る と
12999字 で も少 なす ぎ る。 しか し三 省 堂 の 『 大 辞 林 』 で 使 わ れ て い る漢 字 は6756 字 で あ る。 大 辞 林 以 上 の 言 葉 が一 般 的 に も また 専 門 的 に も使 わ れ て い る と は考 え が た い 。 通 常 の使 用 で あ れ ば これ よ りは るか に少 な い漢 字 で 十 分 で あ る。 現 実 に 写 植 の 時 代 で もは る か に少 な い文 字 数 で対 応 して きた 。 デ ザ イ ンす る時 に しか 見 た こ との な い文 字,読
む こ とす らで き な い文 字,ど
の
よ うに使 うか わ か らな い 文 字 が 多 く含 ま れ て い る。 そ ん な 文 字 の デ ザ イ ン に デ ザ イ ナ ー が 力 を 出せ る わ けが な い 。 しか し,現 実 に は この規 格 を無 視 した フ ォ ン ト 作 りは難 し い。 タ イ プ フ ェ イ ス の デザ イ ン に過 大 な負 担 と な っ て い る。
図6.29 康 煕 字典(銅 版)
図6.30 大 漢 和辞 典
中国,清 の 聖祖 , 康 煕 帝 の選 に よる漢 字 の
諸橋轍 次 に よる 『 大 漢和 辞典』 には 48902字 が使 われ て い る。 そ こに 使 わ
字 書 。42巻 。 大 学 士 帳 玉 書 ・陳 廷 敬 らが 奉 勅 撰 。 康 煕55(1716)年 刊。「 説 文」 「 玉 篤 」 を基 と し,歴 代 の 字 書 を集 大 成 し た もの。 所収 の総 字 数4万2千 余。
(3)3種
れ た石 井 明朝 体 は8年 の 歳 月 をか けて 石井 茂 吉 に よ って デ ザイ ン され た,写 植 の時代 を代 表 す る書 体 で あ る。
類 の タ イ プ フ ェイ ス
タ イ プ フ ェイ ス に は本 文 用 に使 わ れ る ボ デ ィタ イ プ,見 出 し用 に使 わ れ る デ ィ ス プ レ イ タ イ プ 。 そ れ以 外 の 装 飾 的 に使 わ れ る フ ァ ン シー タ イ プ の3種 が あ る。 ボ デ ィ タ イ プ 長 文 に 耐 え ら れ る こ とが 不 可 欠 で 「空 気 の よ う な 無 色 透 明 で,そ
の存 在 を意 識 させ な い 」 こ とが優 れ た ボ デ ィタ イ プ の 条 件 と され て き た。
日本 語 で は細 い 明 朝 体 が そ の 任 を長 く努 め て きた が,近 年 は ゴ シ ッ ク体 も本 文 に 使 用 で きる タ イ プ フ ェ イ ス が デザ イ ン され て き て い る(図6.31)。 デ ィ ス プ レイ タ イ プ
見 出 し用 と して デ ザ イ ンさ れ る場 合 もあ れ ば,細
かい
ウ ェー トか ら太 い ウ ェ ー トまで 何 書 体 か セ ッ トと して作 られ る フ ァ ミ リー の 一 部 が 見 出 し用 と して使 わ れ る場 合 もあ る。 デ ィ ス プ レ イ タ イ プ は一 般 的 に は太 い ウ ェ ー トの タ イ プ フ ェ イ ス が利 用 さ れ る場 合 が 多 いが,細
い もの で もそ の サ イ ズや
行 間,配 置 等 を考 慮 す る こ とで 見 出 し用 に使 う こ とは可 能 で,デ
ィスプ レイタイ
図6.31
ボ デ ィ タイ プ/タ
図6.32
イ プバ ン クMM
デ ィス プ レイ タ イ プ/ タ イ プバ ンクGH
図6.33
フ ァ ンシ ー タイ プ/F1榮
プ の 書 体 と して特 に必 要 な条 件 が あ るわ け で はな い。 従 来 の ウ ェ ー トだ けで な くエ レメ ン トの変 化(例
え ば 明 朝 とゴ シ ック)を 含 め
た フ ァ ミ リーが 整 備 され れ ば,一 つ の 紙 面 が統 一 され た フ ァ ミ リー で組 み版 され る こ とに な る(図6.32)。 フ ァ ン シー タ イ プ
デ ィス プ レイ タ イ プ よ りさ らに個 性 的 な タ イ プ フ ェイ ス
で あ る。 条 件 が厳 し い ボ デ ィタ イ プ や デ ィス プ レ イ タ イ プ に比 べ て デ ザ イ ナ ー の 個 性 や 発 想 が 自 由 に展 開 で き る。 制 約 が 多 く新 し い タ イ プ フ ェ イ ス の創 作 が 難 し い 日本 の タ イ プ フ ェ イ ス だ が,コ
ン ピ ュ ー タ で 自 由 に制 作 で き る環 境 が整 い,今
後 も多 彩 な 発 表 が 期 待 で き る分 野 で あ る(図6.33)。
(4)日 本 の文 字 の 複 雑 な構 造 漢 字 ・ひ らが な ・カ タ カ ナ の3種 の 文 字 を使 い,時
に は アル フ ァベ ッ トや 数 字
を使 う とい う 日本 語 は大 変 複 雑 な 構 造 で 出来 上 が っ て い る。 そ れ を タ イ プ フ ェ イ ス を デ ザ イ ン す る 立 場 か ら考 え る と,構 成 要 素,密 平,垂
度 の 違 い と な る。 漢 字 は 水
直 の 直 線 が 多 く使 わ れ,そ の 上 画 数 が 多 く,仮 名 に比 べ て密 度 が 高 い。 ひ
図6.36 タ テ ヨ コの本 数 に よ る書 体 の濃 度 の 調整 タ テ ヨ コの線 の本 数 は違 っ て 図6.34
構 成 要素,密 度 の違 い
も全 て の濃 度 が 揃 う よ うに調 図6.35
整 し な けれ ば な らな い。
らが な は 曲線 で 構 成 され,カ
タ カ ナ は 直 線 的 で単 純 な構 成 で あ る。 ど ち ら の仮 名
も漢 字 の よ う な様 式 化 は非 常 に難 し い(図6.34)。
ま た,画 数 の 多 い漢 字 は密 度
が 高 ま り重 く,黒 く表 現 され る(図6.35,6.36)。
反 対 に 画 数 の少 な い仮 名 の 密
度 は 少 な く明 る く表 現 され,ほ
とん どの 文 字 が 四 角 に収 ま る漢 字 と比 べ 仮 名 は さ
ま ざ ま な外 郭 と字 幅 を持 って い る。 そ れ らを 自然 に調 和 させ な けれ ば な ら な い。 構 成 要 素,密 度 の差 を ど う解 決 す る か は タ イ プ フ ェ イ ス の性 格 を決 定 す る 重 要 な要 素 と な っ て い る。
●7 日本語 の組版
(1)視 覚 的 な 組 版 面 日本 の タ イ プ フ ェ イ ス デ ザ イ ンで は欧 文 の 組 版 面 の よ う に行 ・列 の ラ イ ンが 揃 い,組 版 面 の密 度 の 揃 っ て い る こ と を 目標 に して い た 。 しか し,実 は こ う し た要 素 は 日本 語 の可 読 性 や 内容 の伝 達 に とっ て 最 も重 要 な 要 素 で は な い。 今 も っ て新 し く制 作 され た タ イ プ フ ェ イ ス よ り も,金 属 活 字 の時 代 の タイ プ フ ェイ ス に人 気 が あ る の は視 覚 的 な 組 版 面 だ けが 重 要 で は な い こ とを 表 して い る。
(2)タ イ プ フ ェイ ス の 存 在 を意 識 させ な い 本 文 組 用 の タ イ プ フ ェ イ ス は 「空 気 の よ う に水 の よ うに存 在 を意 識 さ せ な い こ と」 を 目標 と して デ ザ イ ン さ れ て きた 。 しか し,存 在 を意 識 させ る文 字 は本 当 に 美 し くな か った の か , そ して読 み に くか っ た の か 。 漢 字 と仮 名 を は じ め とす る複 雑 で不 統 一 な 言 語 を選 択 す る こ と,そ れ は 実 は 日 本 人 の文 字 に対 す る素 晴 ら しい感 性 の 現 れ と は考 え られ な い だ ろ う か。 一 見 不 統 一 に見 え るの だ が 完 全 な 美,ア 和,そ
,微 妙 なバ ラ ンス で 調 和 を創 り出 して い る。 言 葉 を変 えれ ば不
ンバ ラ ン ス の 美,不 均 一 の 美,奇
数 の 美,そ
し て 微 妙 に ず れ る調
れ ら は全 て,古 い 茶 人 が 「わ び 」 と呼 ん で いた,日 本 人 が 本 来 持 っ て い る
美 意 識 で あ る。 漢 字 と仮 名 の テ ク ス チ ュ ア の違 い を選 択 した 美 意 識 が 日本 人 に存 在 す る こ と は,明 治 時代 に は ゴ シ ック体 の 漢 字 に,明 朝 体 風 の エ レ メ ン トを持 つ 仮 名,ア
ン チ ッ ク体 を組 み 合 わ す こ と まで 考 え出 して い る こ とか ら も明 らか で あ
る(図6.37)。 ア ン チ ッ ク体 が 作 られ た の は1912年 時 は,ひ
だが 当
らが な ・カ タ カ ナ の ゴ シ ッ ク体 は な か
っ た た め,ゴ
シ ッ ク体 の漢 字 と合 わ せ て使 うた
め作 られ た 書 体 で あ る。 エ レメ ン トに は筆 の 要 素 を残 して い るが 明 朝 体 用 で は な い。 当時 の 印 刷 物 で は ゴ シ ッ ク体 と合 わ せ て い る。 欧 文 活 字 の分 類 名 で フ ラ ン ス で サ ンセ リフ の こ と をア ン チ ッ ク と呼 ぶ。 そ れ か らの 命 名 で あ る。
(3)日 本 の タ イ プ フ ェイ ス の 組 み効 果 日本 の 文 字 本 来 の組 み効 果 の ス タ イ ル と は文
図6.37 ア ンチ ック体
字 そ の も の が そ の 文 字 の 回 り に 緊 張 を生 み だ
使 用例(図 版 中 心 の見 出 し 「筋 肉 の 作 用」 の ゴ シ ック体 の漢 字 に筆 の エ レメ ン トの 「の」 が組 み合 わ
し,字 面 に 強 さ を生 み だ す こ と で あ る。 しか
され て い る)。
し,タ イ プ フ ェイ ス デ ザ イ ンの 世 界 で は1文 字 ご との 美 し さ よ り組 ん だ 時 の 美 しさ が 問 わ れ て き た。 組 み 効 果 を 考 え る あ ま り, 1文 字 の 美 し さが 忘 れ られ て は い な か っ た だ ろ う か。 ア ル フ ァベ ッ トの タ イ プ フ ェ イ ス で は組 んで 美 しい も の は必 ず1文 字 で も美 しい 。 それ で こ そ欧 米 の タ イ ポ グ ラ フ ィ は あ の よ う に多 彩 で魅 力 的 な 作 品 を生 み 出 した の で あ る。 タ イ プ フェ イ ス の組 み の 美 し さが 求 め ら れ る以 前 に,1文
字 の 完 全 な 美 し さが 必 要 な の で あ
る。 文 字 の構 造 が 日本 と比 較 して簡 単 で テ ク ス チ ュ ア も揃 え や す い欧 文 と,日 本 語 の組 み効 果 に 同 じ も の を求 め る こ と は基 本 的 に無 理 な の で あ る。
●8
タイプ フェイスの魅 力
(1)タ イ プ フ ェ イ ス へ の 嗜 好 タ イ プ フ ェ イ ス の 重 要 な基 準 の 一 つ に書 体 に対 す る嗜 好 の 問題 が あ る。我 々 は 一 般 的 な書 体 の美 し さ の基 準 を持 っ て い る。 そ れ は,永 い歴 史 の 中 で造 り上 げ ら れ た 基 準 で あ る。 それ は基 本 的 に は,書 道 の 中 に も,タ イ プ フ ェ イ ス の 中 に も ま
た,日 常 的 な筆 記 体 の 中 に も共 通 した もの で あ る。 タ イ ポ スや ナ ー ル や 丸 字 の よ うな 書 体 に 対 して,「 美 し い」 とい う言 葉 で 通 常 語 られ る こ とは ない 。 そ れ ら は, た とえ ば,「 モ ダ ン」 「新 しい 」 「や さ しい 」 「可 愛 い」 「デ ザ イ ン的 」 とい う言 葉 で 表 現 され るの だ ろ う。 つ ま り,そ れ ら の書 体 は 一 般 的 な 意 味 で の 美 しい 文 字 の 範 疇 に は含 まれ て い な い と言 え る。 これ らの 書 体 は一 定 の評 価 を 受 け なが ら,多
くが 先 の形 容 詞 で語 られ る内 容 の
見 出 し や短 文 に限 られ て い る こ と は,そ の こ と を示 して い るの だ ろ う。 可 読 性 の 判 定 は文 字 の形 に対 す る嗜 好 が 実 は最 も大 きな 要 素 な の で あ る。 個 人 的 な 意 見 だ が,筆 者 は あ の仮 想 ボ デ ィ一 杯 に広 げ られ た肥 満 児 の よ うな ス タ イル を ど う して も好 きに なれ な い 。 そ の よ う な嗜 好 性 とは,実 作 り上 げ られ た,日
は長 い 間 に伝 え られ,
本 の文 字 に対 す る美 意 識 な の で あ る。
(2)文 字 の 魅 力 常 に使 用 の サ イ ズ が 固 定 され て い る活 字 を そ の ま ま写 植 に し た書 体,た 「読 売 新 聞 」 の 見 出 しゴ シ ッ ク体(図6.38)は げ られ て も18級(約13pt)以
とえ ば
最 適 な 印 字 ・製 版 ・印 刷 が成 し遂
下 で は ツ ブ レが で る。 しか し,そ の こ と と文 字 の
魅 力 は関 係 が な い。 相 変 わ らず人 気 は高 い。 しか しDTPの
書 体 と し て は発 売 さ
れ て い な い た め使 い づ らい の が残 念 で あ る。 この よ うな 用 途 の 限定 され た タ イ プ フ ェ イ ス がDTPの
時 代 に も制 作 され て 問 題 は な い 筈 で あ る。
タ イ プ フ ェイ ス の 完 成 度 は もち ろん 必 要 で あ り,重 要 な 要 素 で あ る。 しか し, そ の 完 成 度 で 重 要 な の は文 字 そ の もの の 魅 力 で あ り,美 し さで あ る 。 現 在 の タ イ プ フ ェ イ ス に比 べ 物 理 的 な完 成 度 が 低 い金 属 活 字 時 代 の書 体 へ の愛 着 が 依 然 と し て 強 い の は 日本 人 の 心 の 中 に依 然 と して 強 い伝 統 へ の希 求 が あ る こ との 現 れ で あ
図6.38 新 聞特 太 ゴ シ ック体
図6.40
図6.39 石井 細 明 朝体
書体 原 図 設 計(大 日本 印刷 株 式会 社1971よ り)
る 。 一 般 的 に認 知 され た 美 しさ が タ イ プ フ ェイ ス に は必 要 で あ り,美 し くあれ ば 読 ん で も らえ る。 欧 文 へ の憧 れ に よ り求 め られ て い る完 成 度 よ り も日本 の 文 字 独 自 の形 に よ る存 在 感 は,そ の意 味 で 決 して可 読 性 の さ また げ に は な らな い 。
(3)強
い書 体
タ イ プ フ ェ イ ス そ の も の の造 形 の 魅 力 は もち ろ ん,大
き さ,太 さが 足 りな い も
の は一 般 的 に読 み に くい 。 文 字 の 認 識 が さ また げ られ,読 らで あ る。 写 植 の初 期,写 が 細 明 朝 体(図6.39)で 版 ・印 刷 の 不 安 定 等,そ
む努 力 を強 い られ るか
植 の文 字 の 弱 さ が 問題 に な っ た。 そ の 当 時 の 基 本 書 体 あ っ た こ と,活 版 に よ る 印 圧 の 消 滅,オ
フセ ッ トの 製
の どれ もが 文 字 の 弱 さ につ なが っ て し ま っ た。
金 属 活 字 の時 代 に は,画 数 の 少 な い文 字 あ るい は画 数 の 密度 の 少 な い 部 分 に は 印 刷 時 に圧 力 が か か り,そ の部 分 が わ ず か に 太 くな る た め,活 字 の 原 字 は画 数 の 多 さに か か わ らず基 本 的 に は 同 じ太 さで 書 か れ,印 刷 時 に 自然 に調 節 され 太 さが 均 一 に見 えた 。 図版 の それ ぞ れ の 部 分 の先 端,2本 て い る(図6.40)。
の横 線 の 左 端 に特 徴 的 に 表 れ
オ フ セ ッ ト印 刷 で は全 て が 均 一 な圧 力 で 印 刷 さ れ る た め,原
字 の段 階 で 全 て の文 字 が 同 じ黒 味 に 見 え る よ う に太 さ を違 えて 書 か な くて は な ら な い。 原 字 が,拡 大 され て デ ザ イ ン され る時 代 に な る と細 か い部 分 に ま で神 経 が い き と ど くよ う に な り,始 筆 ・終 筆 の エ レ メ ン トは次 第 に小 さ くな っ て きた 。 そ の た め,全 体 と して さ ら に弱 い字 面 にな っ て し ま うの で あ る。
(4)金 属 活 字 の魅 力 写 植,オ
フ セ ッ トの 時 代 に は 強 い 書 体 が必 要 で あ る。 しか し,空 気 の よ うに水
の よ う に存 在 を意 識 させ な い本 文 用 書 体 を望 んだ タ イ プ フ ェイ ス デ ザ イ ン界 の風 調,そ
れ は 当然 強 い 書体 を望 まな か った 。 魅 力 あ る書 体 と は一 般 的 に は強 い書 体
が 多 い 。 そ の強 さの 強 調 され た所 で 書 体 の個 性 が 現 れ るの で あ る。 タ イ プ フ ェ イ ス の数 は確 か に 豊富 にな った,し
か し,魅 力 あ る書 体 は まだ まだ 少 な い 。
金 属 活 字 の時 代 に は活 字 は消 耗 品 のた め,常
に新 しい活 字 が 補 充 さ れ て い た。
そ の こ とは常 に改 刻 が で き る環 境 を意 味 し,金 属 活 字 は次 第 に完 成 に 近 づ い た。
しか し,写 植 の 文 字 板 は半 永 久 的 なた め改 刻 は 不 可 能 とな り,活 字 の時 代 に比 べ て 写 植 の 時代 の タ イ プ フ ェ イ ス に 不 満 が 残 る こ と にな り,活 字 時 代 の書 体 の 復 刻 が 今 もっ て人 気 が 高 い とい う理 由 の 一 つ に な っ て い る。
(5)日 本 語 とア ル フ ァベ ッ トの 混植 和 文 で は漢 字 も仮 名 も同 じ仮 想 ボ デ ィの 中 に見 か け上 は同 一 の 字 面 で,重 心 を 揃 え て 配 置 さ れ て い る。 しか し欧 文 で は 大 文 字 と小 文 字,小
文 字 の 中 で も a,c,
e,x,zの よ うな シ ョー トレ タ ー と,b,d,f,h ,1の よ うな ア セ ン ダ ー レ タ ー と, g,j,p,q,y の よ う な デ ィセ ン ダ ー レ タ ー とで は ボ デ ィの 中 の 位 置 が 異 な っ て い る。 その た め,1文
字 を記 号 的 に使 う場 合,単 語 の み の場 合,比 較 的 長 文 で ア ル
フ ァベ ッ トを和 文 に 混 植 す る場 合 とで は,そ れ ぞ れ の 重 心 が 違 い,和 文 に対 して 天 地 方 向 に重 心 が ズ レ て し ま う。 また ア ル フ ァベ ッ トの キ ャ ッ プハ イ トと漢 字 の 字 面 と を合 わ せ る とア ル フ ァベ ッ トは大 き く見 え る。 さ ら に欧 文 で は大 文 字 だ け の場 合,頭 文 字 だ け 大 文 字 の場 合,全
て小 文 字 の使 用 の場 合 が 考 え られ,そ
の全
図6.41 金属 活 字 の時 代 に は,ベ タ組 で の可 読 性 を高 め るた め(文 字 と文 字 の 間 を適 度 に開 け るた め)に,活 字 その もの の大 きさ に対 して 実 際 の文 字 は90∼95%の 大 きさでデザ イ ン され て いた 。 活 字 そ の もの の大 き さは ボ デ ィ と呼 ばれ て い るが,写 植 以 後 の タ イ プ フ ェイ ス デザ イ ンで は実 体 が な いた め に仮 想 ボ デ ィ と呼 んで い る。 また実 際 に印刷 され た文 字 面 の こ とを字 面(レ タ ー フ ェイ ス)と 呼 んで い る。
て に 対 して 違 和 感 な く混 植 さ せ る こ と は 日本 の 文 字 組 版 上 の 大 き な課 題 で あ る (図6.41)。 現 在 の 写 植 文 字 板 やDTP用
の フ ォ ン トに もア ル フ ァベ ッ トはセ ッ トされ て い
る。 しか し,使 用 に値 す る だ け の魅 力 を持 っ た も の は 少 な い 。 多 くは海 外 か らの 欧 文 の ア ル フ ァベ ッ トを見 な れ て し ま っ た我 々 に は不 満 の 残 る も ので あ る。 これ まで 和 欧 文 の 混 植 で は大 き さ を揃 え る た め に は,X ハ イ トを大 き く,ア セ ン ダ ー ,デ
ィセ ン ダー を短 くし,和 文 に黒 味 を合 わ せ るた め に は,a− zレ ング ス(小
文 字 の aか ら zま で の 長 さ)の 比 較 的 長 い 書 体 つ ま り字 幅 の 広 い 書 体 を デ ザ イ ン し て きた 。 この よ う に,本 来 性 格 の違 う文 字 を混 ぜ て 使 う た め に骨 格 を変 更 す る こ とを 余 儀 な く され,そ の こ とが 漢 字 と仮 名 に セ ッ トで 組 み込 まれ て い る ア ル フ ァベ ッ トに魅 力 を持 った ものが 少 な い 一 つ の理 由 で もあ る。
●9
タ イプ フ ェイ ス と錯 視
(1)全 体 像 を み る 目 活 字 に は強 さ と格 が あ る。 活 字 が 直 接 原 寸 に刻 ま れ て い た こ とが そ の強 さ と格 の 生 まれ る理 由 の 一 つ で あ る。 活 字 制 作 で 原 寸 手 彫 りの 時代 に は そ の全 体 像 をつ か み なが らデ ザ イ ンで きた 。 しか し,拡 大 され 制 作 され る時 代 に な る と比 較 の 上 で は人 の 視 野 は狭 くな っ て い る。5mmで な れ ば単 純 計 算 で 言 え ば 人 に は10倍 ば 身 長17mの
書 か れ た 文 字 を50mmで
書 くように
の 視 野 が 必 要 とな る。 つ ま り肉 体 的 に言 え
人 が 必 要 とな る。 作 業 が 楽 に な っ た か わ り に デ ザ イ ナ ー に は10
倍 の 感 性 が 必 要 に な る の で あ る。 もち ろ ん,こ れ は 極 端 な比 喩 で は あ る。 しか し,原 字 サ イ ズ が 大 き くな る こ とは,一 度 タ イ プ フ ェ イ ス を制 作 し,使 わ れ るサ イ ズ に縮 小 す る とわ か るの だが,現
実 に は まさ に こ の よ うな状 態 に近 い。 原字 が
大 き くな った だ け細 か な デ ィ テ ィー ル に気 を と られ,全 体 像 を見 渡 せ な くな って し ま うの で あ る。 細 部 に神 経 を使 っ た 書 体 作 りが 可 能 に な った 反 面,大
き く書 か
れ た 原 字 は最 終 的 なサ イ ズ に縮 め られ,文 章 に組 ま れ る と思 い もか け な い 様 々 な 錯 視 が 発 生 し,ま るで 違 っ た形 に 見 え て し ま う。
(2)錯 視 に つ い て 外 的刺 激 に よ っ て 物 を間 違 っ て 知 覚 す る こ とを錯 覚 とい う。 そ の うち,視 覚 に よ る錯 覚 を錯 視 とい う。 タ イ プ フ ェ イ ス を制 作 す る上 で この 錯 視 の調 整 はタ イ プ フ ェ イ ス の 完 成 度 を決定 す る重 要 な 要 素 で あ る。 漢 字 は 象 形 文 字 か ら発 達 し て現 在 の 字 体 が成 立 して い る。 そ の た め,そ の成 立 の理 由 に よ って お の ず と その 形 が 決 ま っ て い る。 しか し,一 旦 記 号 と して書 か れ る と そ こに は人 間 の美 意 識 が 必 ず 介 在 す る。 美 し く書 くた め に,点 画 の バ ラ ンス を考 え て きた 。 そ のバ ラ ンス を とる こ とが 結 果 と して 錯 視 修 正 に な るの で あ る。 ま た,そ
れ に よ って 字 体 や書 体 が 生 み だ され て き た の で あ る。
図6.42 屋 根 を美 し く見 せ る重 要 な手 法 に棟 反 りが あ る。 棟 反 りとは,棟 を直 線 で 作 る と中 央部 が 膨 らん で見 え,両 端 が垂 れ て見 え るの を防 ぐた め に工 夫 された もの だ といわ れ てい る。 坪 井利 弘 著 『日本 の瓦 屋 根 』(理 工 学社)に よれ ば棟 反 りとは次 の よ うに作 られ る。 ① 細 糸 を水 平 に張 り通 す。 ② 棟 糸 は太 糸 を使 い,錘(お も り)は 太 糸 と同 じ く らい の太 さの 釘 を使 う。③ 錘 の つ け 方 は棟 端 か ら そ れ ぞ れ1/4L の位 置 に1の 錘,そ の 中 間 に2 の錘,さ らに そ の 中 間 に3の 錘,さ ら に その 中 間 に4の 錘 を つ け る。④ そ して棟 中 央 で 1/100L の長 さ にた る ませ れ ば求 め る棟 反 りとな る。
図6.43
誇 張 し た パ ル テ ノ ン神 殿
(3)建 築 と文 字 と錯 視 錯 視 とい うの は実 は タイ プ フ ェイ ス デ ザ イ ン に 限 らず あ ら ゆ る造 形 の 分 野 で 発 生 す る。 た と え ば建 築 の 分 野 で も,多 と え ば瓦 屋 根 の 最 も高 い部 分,の
くの錯 視 が 見 い 出 され 修 正 され て い る。 た
し瓦 の 両 端 は上 方 に 向 か って そ りが 加 え られ,
先 端 に は通 常 鬼 瓦 が つ け られ て い る。 寺 院 建 築 で は鬼 瓦 の 変 わ り に鴟 尾 が,そ
し
て 神 社 建 築 で は千 木 と呼 ば れ る もの が 付 け られ て い る。 これ らの処 理 が な さ れ な い 場 合 に は棟 の両 端 が 下 が って 見 え る。 これ は 写 植 の初 期 の 時 代 の ゴ シ ック体 の 線 の端 が 弓 な りに そ っ て い た こ と に通 じる(図6.42)。 ギ リシ ャの エ ン タ シ ス の柱,日
本 で は 法 隆 寺 や 唐 招 提 寺 の柱 は真 ん 中が 少 し太
くな っ て い る。 タ イ プ フ ェイ ス の世 界 で は縦 線 に対 して 上 下 に横 線 が あ る場 合 に 相 当 して い る。 線 が 交 わ る部 分 は黒 の濃 度 が 増 して見 え るた め 交 点 の 部 分 を細 く す る等 の 修 正 が 通 常 行 わ れ る。 さ らに パ ル テ ノ ン神 殿 の 細 部 を チ ェ ッ ク して み る と土 台 と梁 の 部 分 の 中 心 部 が 盛 り上 が っ て い る こ とが わ か る。 パ ル テ ノ ン の 柱 ・土 台 ・梁 の 関 係 は 漢 字 の 「 皿 」 の字 の ゴ シ ッ ク体 に も相 当 す る。 「皿 」 の字 で も水 平 線2本
を わ ず か に上 方
に そ らせ な い と下 が っ て 見 え る(図6.43)。 しか し,デ
ジ タ ル の 時 代 に な る と低 解 像 度 や 小 字 の場 合 に は,時
と して そ のわ
図 6.44図
6.45図
6.46
図6.47 鳥居 は柱 の 下部 が広 が る デザ イ ン となっ て い る。春 日鳥 居 ・神 明 鳥 居共 に柱 の下 部 が 広 が って い る こ とは共 通 して い るが,注 目す べ き は神 明鳥 居 の 処理 で あ る。 柱 の 内 側 が垂 直 に デザ イ ン され て い る。 しか し,上 部 が細 い た め,柱 全 体 と して は内 側 に頃 い て い る。遠 くか ら見 る と,全 体 を見 るた め,錯 視 が 修整 され る。 し か し,柱 全体 が頃 い て い る と近 づ くと柱 が 頃 い て見 え る こ とに な る。 それ をさ け るた め に柱 の 内側 を垂 直 に して い る。非 常 に優 れた 錯 視処 理 で あ る。鳥 居 の柱 の 上 部 を細 くす る こ とで,か さ木 との 交 差 に よ る錯 視 の修 正 もな され る。 「円」 の 文 字 をデ ザ イ ンす る場 合 も同様 で,両 側 の2本 の 縦 線 を平 行 にす る と上 部 に比 べ 下部 が狭 く見 え不安 定 にな る ため,わ ず か に下 部 を広 げ て デザ イ ン して い る。 タ イプ フェ イ ス制 作 で は,(b),(c)ど ち らか の 方 法 を使 用 す る。
ず か な修 正 が ジ ャ ギ ー とな っ て 現 れ るた め,最 近 の フ ォ ン トで は錯 視 の 修 正 が 放 棄 され た タ イ プ フ ェ イ ス が 目 に つ くよ う に な っ て い る。
(4)書 道 で の錯 視 修 正 書 道 の 点 画 の造 形 法 で 等 分 割 に書 く よ う に 指 導 され て い る文 字(図6.44)で は実 際 の空 間 に は大 き な違 い が あ る。 つ ま り等 分 割 に見 え る よ う に書 く と教 え て い るの で あ る。 この こ と は,タ イ プ フェ イ ス の 錯 視 修 正 と も矛 盾 しな い 。 た だ タ イ プ フ ェ イ ス の錯 視 修 正 は よ り厳 密 に分 割 が 等 し く見 え る よ う に デ ザ イ ン され る た め 錯 視 修 正 が 目立 つ こ とは な い。 書 で は そ の 差 が 大 きい た め,タ 制 作 時 の 錯 視 修 正 の部 分,方
法 を よ り明 らか に して い る。
一 例 を あ げ る と 「三 」 の字 を 書 く場 合,そ え られ るが 横 線 に は俯(下
イプ フェイス
に 反 る),仰(上
り通 常 平 行 に は書 か な い(図6.45)。
れ ぞれ の線 を平 行 に書 くよ う に と教 に反 る),平(ま
っ す ぐ)の 種 類 が あ
同 時 に線 を水 平 に 書 くよ う に指 導 して い る
が,全 て の線 が右 上 が り とな っ て い る(図6.46)。
これ は水 平 に 書 くと右 下 りに
見 え て しま うか らで あ る。 明 朝 体 の 横 線 の終 わ りに は三 角 形 の 「う ろ こ」 が 付 け られ る。 もち ろ ん これ は楷 書 体 の 横 線 の押 さ えの 形 の様 式 化 だ が こ の「 う ろ こ」
図6.48 木 版 刷 の真 宗 聖 典 上 の 漢字 仮 名 交 じ り文 は明 朝 体 の 形 式 を持 っ て い る。 しか し,こ れ は筆 で書 か れ た もの を彫 刻 刀 で彫 った 時 に 自然 に整 理 され た もの で あ る。 下 の漢 字 は それ が さ らに整理 され た も の であ る。 明 朝体 は筆 で書 かれ た も の を木版 にす る時 自然 の う ち に整 理 され た。
図6.49 鉄 眼一 切経 は横線 縦 線 を貫 い て彫 刻 刀 を入 れ てい るた め,交 差 す る部 分 に 白線 が入 り お もし ろい書 体 に な って い る。
図 6.51
図6.50 聖 武 天 皇勅 書(静 岡 ・平 田寺)よ り集字 した楷書 明朝 体 とエ レ メ ン トを比 較 す る と非 常 に近 い形 を してい る こ とが わ か る。 明朝 体 の特 徴 で もあ る横 が 細 く縦 が 太 い処
図 6.52
理 も,い くつか の楷 書 で は同様 な太 さの比 を持 っ てい る。
に は横 線 の 右 下 が りを防 ぐ機 能 が あ る。 円 の 両 サ イ ドの縦 線 も垂 直 平 行 に書 く よ う に指 導 され る が 実 際 に は下 部 が 広 が っ て い る(図6.47)。
(5)明
朝
体
明朝 体 は楷 書 体 が デ ザ イ ン化 され た もの で あ る。 楷 書 体 か ら明 朝 体 へ の 様 式 化 は想 像 以 上 に 自然 な も の で,木
に彫 刻 刀 で彫 り製 版 さ れ 印刷 す る た め に縦 線 も横
線 も能 率 的 な直 線 に 処 理 さ れ た の だ ろ う(図6.48)。 鉄 眼 和 尚 に よ る一 切 経(図6.49)に
明朝 体 の一 つの原流 で あ る
もそ の こ とが うか が わ れ る。 歴 史 的 に 残 さ
れ て い る楷 書 の 中 に 時 と して,明 朝 体 に とて も近 いエ レ メ ン トを持 つ もの が あ る (図6.50)。 お そ ら くそ の よ う な もの を版 下 と して 版 に 彫 る こ とで 明 朝 体 の エ レ メ ン トはデ ザ イ ン化 され た の だ ろ う。 明 朝 体 は縦 線 が 太 く横 線 が 細 い。 明 朝 体 だ け で な く楷 書体 で も基 本 的 に は横 線 を細 く書 い て い る。 縦 線 と横 線 を 同 じ太 さ で 書 く と横 線 が 錯 視 で 太 く見 え る こ とか ら この よ う な処 理 が な され て い る。 本 来 全 て の点 画 が 同 じ太 さ に 見 え る よ うに デザ イ ン され て い る ゴ シ ッ ク体 で もや は り横 線 は縦 線 よ り細 い(図6.51)。
欧 文 の ア ル フ ァベ ッ トで も そ の事 情 は 同 じで 漢 字
の 明 朝 体 に相 当 す る ロ ー マ ン体 の横 線 は細 くデ ザ イ ン され て い る(図6.52)。
図6.53
ゴ ナU
図6.54
ツディ
図6.55
●10 タ イ プ フ ェ イ ス の著 作 権
互 い に タ イ プ フ ェ イ ス に は 著 作 権 が あ る と主 張,相
手 が 著 作 権 侵 害 を した と し
た モ リ サ ワ と写 研 との 争 い に対 して,大
阪 地 裁 判 決(1997(平
は,ゴ ナ(図6.53),ツ
の タ イ プ フ ェイ ス は著 作 物 で は ない と
デ イ(図6.54)等
し て棄 却 し た。 その 後 写 研 だ け が 大 阪 高 等 裁 判 所/最 上 告 した が,2000(平
成12)年9月7日
成9)年6月)
高 裁 判 所(最
高裁)に
控訴
最高 裁 は タイ プ フェイ ス には著作権 が
な い と判 決 を下 した 。 しか し,図 版 の タ イ プ フ ェ イ ス 見 て 頂 きた い 。 見 事 に個 性 あふ れ る タ イ プ フ ェ イ ス が 揃 っ て い る(図6.55)。
誰 し もそ の 文 意 以 外 に そ れ ぞ れ に異 な った イ メ ー
ジ を呼 び起 こす に違 い な い。 す る と,そ の 「イ メー ジ 」 は タ イ プ フ ェ イ ス が 創 り だ した もの に他 な ら ない 。 この例 か ら も タ イ プ フ ェ イ ス が 「思 想 ま た は感 情 を創 作 的 に表 現 した もの 」 で あ る こ とは 明 らか で あ る。 この 図版 の タ イ プ フ ェ イ ス は1000文
字 の 漢 字 を選 定 し,新 し い タ イ プ フ ェイ
ス と本 当 に 必 要 な 文 字 数 を求 め るた め に結 成 さ れ た 「FONT
1000」 とい う デ ザ
イ ン グル ー プ の 第1回 参 加 作 品 で あ る。 これ らの タイ プ フ ェ イ ス は それ ぞ れ が 何 の 打 ち合 わ せ も な く制 作 され て い る。 そ れ な の に この よ うに見 事 に 違 い が あ る。 100人 いれ ば100の
タ イ プ フ ェイ スが 生 まれ る。
これ らの タイ プ フ ェイ ス が 著 作 物 と し て認 め られ な い とす るな ら ば,ど の よ う な もの が著 作 物 で あ り,ま た そ の著 作 物 とタ イ プ フ ェ イ ス との 差 は ど の よ うな も の で あ る と最 高 裁 は考 えて い る の だ ろ うか 。 また 書 作 品 と は どの よ う に違 う と言 うの だ ろ うか 。 著 作 権 法 の 解 釈 に よれ ば,著 作 物 の 創 作 性 の 大 小,優 劣,あ
るい は制 作 者 の 権
威 に も一 切 関 係 な く,総 べ て の人 の 「思 想 また は感 情 を創 作 的 に表 現 した もの で あ っ て,文 芸,学 術,美
術 ま た は音 楽 の 範 囲 に属 す る もの 」 は どの よ うな もの で
あ れ 著 作 物 と認 め られ な けれ ば な らな い 。 そ れ な の に,最 高裁 判 決 の い う 「顕 著 な 特 徴 」 あ る い は 「美術 鑑 賞 の対 象 とな り得 る美 的 特 性 」 が 著 作 物 に必 須 の 条 件 な らば,そ れ は誰 が どの よ う な基 準 に よ っ て判 断 す る の か , 果 た して そ の よ う な こ とが 可 能 で あ ろ うか 。
タイプフ ェイスは著作物で ある それ らの こ とを考 えた と き汎 用 書 体 と して わ ず か の差 異 しか 有 さ な い 明 朝 体 あ る い は ゴ シ ック体 とい え ど もそ れ らが 著 作 物 で あ る こ と に疑 い の余 地 は な い。 最 高 裁 判 決 が タ イ プ フ ェイ スが 著 作 物 と認 め られ る条 件 と した 「従 来 の 印 刷 用 書 体 に 比 べ て 顕 著 な特 徴 を有 す る とい っ た 独 創 性 」 も また その 指 摘 の根 拠 を失 っ て し ま う。 先 の 判 決 は,最 高 裁 の法 令 解 釈 の 間違 い,あ
るい は他 の著 作 物 に は要 求 し
な い,タ イ プ フ ェイ ス の みへ の不 当 な要 求 で しか な い 。
1)現
行の文字セ ット 1セ ッ ト の 必 要 文 字 数 は タ イ プ フ ェ イ ス の 使 用 目 的 に よ っ て 自 ず と 決 定 さ れ,現
行の文字
セ ッ トと して は次 の よ うな もの で あ る。 ・文 字 フ ォ ン ト開 発 ・普 及 セ ン タ ー 第1期 JIS第1水 字(縦
準 漢 字/2965字,JIS第2水 用)/53字,計6932字
フ ォ ン ト開 発 事 業 の 基 本 文 字 セ ッ ト
準 漢 字/3390字,JIS補 と,補
助 漢 字 セ ッ ト(JIS
助 漢 字/524字,JIS非 X 0212),JIS補
助 漢 字/5801
漢
注
字,JIS補 助 非 漢 字/66字,計6007字,合 ・常用 漢 字/1945字 ,教 育 漢字/1006字,人
計12999字 。 名 漢 字/285字
。
・各新 聞 社 基本 活 字 文 字(読 売 新 聞社/2925字) ・各写 植 会 社 の メ イ ン プ レー ト収容 文 字(株 式 会 社 写研SPICA"一
寸 ノ 巾式"メ イ ン プ レ
ー ト/2508字)
。 ・仮 名 書 体 の場 合 は両 仮 名 全字 。 ひ らが な,カ タ カナ の み の タ イ プ フ ェイ ス も発 売 され て い る。 ・欧文 アル フ ァベ ッ トの場 合 は大 文 字 ・小 文 字 ・数 字 ・約 物 の セ ッ ト以 外 に,大 文字 ・小 文字 ・数 字 ・約 物 な どが そ れ ぞれ 単 独 の タ イ プ フ ェ イ スで 発 売 され て い る。 同様 に 日本 語 タ イ プ フ ェイ ス で も数 字 ・約 物 や そ の 他 の絵 文 字 ・記 号類 が そ れ ぞ れ単 独 で発 売 され て い る。 ・その 他 に も,文 字 数 は様 々 だ が特 定 の企 業 ・団体 内部 で使 用 され る制定 書 体 な どが あ る。
文 大 日本 印刷 株 式 会 社(1971)『
和 文活 字 』 大 日本 印刷
坪井 利 弘 著 ・玉 置 豊 次 郎 監修(1976)『 日本 建 築 学会 編(1981)『 原 弘 ほか編(1962)『
献
日本 の瓦 屋根 』 理 工 学社
西洋 建 築史 図 集 』3訂 版,彰 国 社 グラ フ ィ ック デザ イ ン大 系.第4巻
− グ ラ フ ィ ック エ レメ ン トー 』 美術
出 版社 平凡 社(1959)『
書 道 全 集 第3巻−
平凡 社(1960)「
王 義 之 樂毅 論餘 清齋 帖 」 『書道 全 集 第4巻 − 中國 第4東晉−
堀 江 知 彦(1970)『 森 田子 龍編(1975)「
中國 第3三 國 ・西晉 ・十六 國− 』平 凡 社
原色 日本 の 美術22書
』小学館
書 と墨 象 」 『 近 代 の 美術 』No.28,至
文堂
』平 凡 社
⑦
ル ビ と漢 字
岡 田 寿 彦
●1
並 列 表 記 の一 部 とし て の ル ビ
ル ビ とい う語 は,漢 字 の 読 み を示 す た め に,そ の傍 らに付 け られ る,漢 字 よ り 小 さ い 仮 名 文 字,い だ が,今
わ ゆ る振 り仮 名 を意 味 す る と普 通 に は考 え られ て い る。
日で は,以 下 の 表 記 例 に見 られ る よ うに,漢 字 だ けで な く片 仮 名 ・平
仮 名 ・ロー マ字 ・ア ラ ビア 数 字 な ど,漢 字 以 外 の文 字 や,文 字 と は言 え な い記 号 の 傍 ら にル ビが 現 れ る こ と もあ る(縦 書 きで 大 文 字 表 記 の 右 側 に 現 れ るル ビは, 横 書 き の 本 稿 で は大 文 字 表 記 の 上 に現 れ る よ う に した)。
(1)
「市 政 だ よ り」 や 各 種 お 知 ら せ 等 で,外 は,ひ
国 人 市 民 に も関係 す る情 報 に
らが な ル ビが つ き ま した。
(『川 崎 市 外 国 人 市 民 代 表 者 会 議 ニ ュ ー ズ レ タ ー No.14』2001年) (2)
あ な た,上
衣 を ぬ い で 。 しば ら くゆ っ く りな さ い。 (井 上 ひ さ し 『國 語 元 年 』1986年,新
(3)の
の ち ゃ ん の 自 由研 究
朝 日NIEス
潮 社)
クー ル (「朝 日新 聞 」2002年)
(4)報
知 か らhaughtyと
い う音 を連 想 な さい 。 (井 上 ひ さ し 『 吉 里 吉 里 人 』1981年,新
潮 社)
(5)第18課
日本 に い る留 学 生
(文化外 国語 専 門 学校 日本 語 科編 『文 化初 級 日本 語 I』1987年,凡 人 社) (6)カ
ン
□ 字 に親 し む 習 □ つ け る 良書 の □ 行
読 者 は□ 迎 。
(岡 田寿 彦 『こ とば あ そ び 同 音 漢 字 問題 集 』2001年,岩
波 書 店)
ま た,漢 字 の傍 ら に現 れ て い る ル ビの 中 に は,そ の 漢 字 の 読 み を示 す と簡 単 に ま言 え な い もの が あ る。 次 の 表 記 例 に 見 られ る ル ビが 漢 字 の 読 み を示 し て い る と 言わ れ るな らば,そ
の読 み とは何 か を改 め て問 題 に しな けれ ば な ら な い。
(7)座
談 会 「歌右 衛 門 を偲 ぶ 」
(8)新
し い流 れ に 向 か っ て襲 名 が 続 き ます 。
(9) 権八小紫 其 小唄 夢
(同前)
(11)紅
雲
〔同 前,
夜 恋 曲者 歩 起 一 箭 中 青霄 鹿 行千 里 速 争 (東 京 ・目黒 の 大 円寺 で2002年
(12)一
片 無瑕
に岡 田が ひ い た お み くじ)
に 岡 田 が ひ い た お み く じ)
(『こ とわ ざ の読 本 』(小 学 館)の 帯 紙,1989年)
(14) 言 技 再 発 見
大 島 中 正 の 論 文 「表 記 主 体 の 表 記 目的 か ら見 た漢 字 仮 名 並 列 表
記 形 式 」(1989年)に
「最 近,出
版 さ れ た 書籍 の帯 紙 に 印刷 さ れ た もの 」 と して
紹 介 さ れ て お り,「誰 も 『再 発 見 』 と書 い て 『ウ ォ ッチ ン グ 』 と読 む(或 ませ る)な
遙
(岡 野 玲 子 の 漫 画 の タ イ トル,1989年)
国花錦闘士
表 記 例(14)は
知 去路
玉 従 今 好 琢 磨 得 遇 高 人 識 方 逢 喜 気 多
(東 京 ・池 上 の 本 門 寺 で1999年
(13)両
(同前)
廓
(10)忍
随
(歌舞 伎 座 の新 聞 広 告,2002年)
い は読
ど と は言 わ な い の で は な い だ ろ うか 」 との コ メ ン トが付 い て い る。
さ らに,ル
ビ とし て現 れ る文 字 は仮 名 で あ る とは 限 らず,次
に 示 す よ う に ロー
マ 字 や 漢 字 が ル ビ と して 現 れ る表 記 の 例 もあ る。
(15)大
海撈 針 海 か ら針 を救 う。不 可 能 な事 。 (『月 刊 中 文 no.19』2002年,「
救」 は
「掬 」 の 誤 記 か − 岡 田)
(16)第
二 次 大 戦 直 後 に 世 界 の 国民 総 生産 の 四 割 まで 一 人 占 め に し て い た ( 井 上 ひ さ し 『吉 里 吉 里 人 』1981年,新
潮社)
(17) あ の 人 は キ ツ トそ の 旧 い も ん … … も ん ば つ で せ う 。 (若 松 賎 子 訳 ・バ ー ネ ッ ト 『小 公 子 』1889∼1892年
)
(18) イ ン デ ィ ア ン ・サ マ ー 。 日 ざ し は 強 い 。
( 山 田詠 美 『ベ ッ ドタ イム ア イ ズ』1985年,河 (19) 戒 音 dieとliveの
出書房新社 )
脳 内麻 薬 物 質
(由貴 香 織 里 の 漫 画 の タ イ トル 『白泉 社 図書 目録2002∼2003』 ) (20) 我 願 既 満
表記例
(20)は 『国 語 学辞 典 』 (1955年 ) の 「振 り漢 字 」 の 項 (大 石 初 太 郎 執
筆 ) で紹 介 され て い る も の で あ る。 この項 の 記 事 に よ れ ば,振
り漢 字 とは 「か な
で 書 か れ た 語 の 意 義 を明 らか にす る た め に,そ の わ き に つ け る漢 字 」 で あ る が, 「古 く漢 文 訓 読 の た め に,漢 字 の わ き に漢 字 を添 え る こ と もあ っ た 」 とい う。 凸 版 印刷 株 式 会 社 編 『印 刷 博 物 誌 』 (2001年 ) の 「日本 語 の 組 版 」 に つ い て の 解説記 事 ( 花 野 井 定 一 執 筆 ) に は,「 ご く稀 に は仮 名 文 字 の 隣 に漢 字 で ル ビ を つ け て い る も の も み られ る。 これ を漢 字 ル ビ とい う。」 と あ る。 こ の 解 説 記 事 に は さ らに,「 親 文 字 の 両 側 」 に付 け られ る 「両 端 ル ビ」 の 「 和 欧文 混植 の例」 とし て,次 の よ うな 並 列 表 記 が 示 され て い る。
(21) リ ン ボ イ トベ ン ト ン
( 上 ・下 の ル ビ は,縦 書 きの 原 表 記 で は それ ぞ れ 右 ・左 に位 置 )
こ こで大 文 字 表 記 「リン ボ イ トベ ン トン」 の 両 側 に現 れ て い る二 つ の 小 文 字 表 記 の う ち,`linn Boyd Benton'が
ル ビ と呼 ば れ る こ と に は そ れ ほ ど違 和 感 は な
いが,「 ( 一 八 四 四 ∼ 一 九 三 二 )」 の よ う な もの まで ル ビ と呼 ば れ る こ と に は違 和 感 が 強 い。 この 違 和 感 は,並 列 す る二 つ の 表 記 の 表 記 内容 を問 題 に せ ず,大 文 字 表 記 の傍 らに 現 れ る小 文 字 表 記 をす べ て ル ビ と見 なす こ と,一 口 に 言 え ば,ル
ビ
を もっ ぱ ら物 理 的 な存 在 と し て 扱 う こ と に対 す る違 和 感 で あ る。 だ が,「 ル ビ」
の 語 は,も
と も とは七 号活 字 と い う物 理 的 な存 在 を意 味 す る語 で あ った 。
中 根 勝 『日本 印 刷 技 術 史 』 (1999年 ) に よれ ば,大 蔵 省 紙 幣 寮 活 版 局 が 七 号 活 字 の 母 型 を製 造 した の は1875( 明 治8) 年 の こ とで あ る。 この七 号 活 字 が,た た ま欧 文 活 字 の ル ビ ー (ruby) とほぼ同じ 大 き さ で あ っ た こ と か ら,ル
ま
ビー あ
る い は ル ビ と呼 ば れ る よ う に な っ た 。 現 行 の ポ イ ン トで 言 え ば,七 号 活 字 は 5.25ポ イ ン トに,ル
ビー は5.5ポ
イ ン トに相 当 す る 。 こ の ル ビー は 宝 石 名 が 転
用 され た もの で,英 語 の辞 書 を引 い て み る と,ほ か に ダ イ ヤ モ ン ド,パ ー ル,エ メ ラル ドな ど も,大 き さの 異 な る小 活 字 を 区別 す る呼 び名 と して 使 わ れ た こ とが わ か る。 こ の七 号 活 字 は 主 と して,五 号 活 字 で 印 刷 さ れ る文 字 の傍 ら に小 さ な文 字 (多 くは振 り仮 名 だ が,中
に は振 り漢 字 な ど の よ う に振 り仮 名 と は言 え な い もの も あ
る) を 印刷 す るた め に使 わ れ た 。 そ の こ とか ら語 義 の拡 張 が 生 じ て,ル
ビ は七 号
活 字 を意 味 す る ほ か に,七 号 活 字 や その 他 の小 活 字 に よ っ て 大 文 字 表 記 の傍 ら に 印 刷 さ れ る小 文 字 表 記 一 般 を意 味 す る よ う に な り,さ らに,大 文 字 表 記 の傍 ら に 手 書 き さ れ る小 文 字 表 記 を も意 味 す る よ う に な っ て い っ た と考 え ら れ る。 1909( 明 治42) 年 に発 表 さ れ た 田 山 花 袋 の 小 説 『田 舎 教 師 』 に は,教 師 が 黒 板 に 書 き出 した 「殊 に難 か しい字 」に 「片 仮 名 で ル ビ を振 つ て 見 せ 」 る場 面 が あ る。 大 文 字 表 記 の傍 ら に現 れ る小 文 字 表 記 を一 括 して すべ て ル ビ と見 な す な ら ば, 次 の文 章 に現 れ る小 文 字 表 記 も また ル ビ で あ る こ とに な る。
(22) 子 ど も さ ん は 一 人 な の? き つ い 口 調 で 言 っ た が,そ
と私 が 聞 く と,一
人 で た く さ ん よ,と
の 女 の 声 に何 か別 の音 が 重 な っ て 聞 こ え た
よ う な 気 が した 。 ひ ・ と ・ り ・で ・た ・ く ・さ ・ん ・ よ,と に,何
女 は
い う音 声
か 別 の 音 声 が 絡 ま っ て い る よ う な感 じが した の で あ る。
あ た し も う 主 人 と半 年 も 会 っ て な い の,と 音 が や は り絡 ま っ て,一 私 は,そ
女 が 言 っ た 時,そ
の別 の
層 強 く聞 こ えた 。
の 別 の 音 を 聞 い て み よ う と ア イ ス ク リ ー ム を 舐 め な が ら神
経 を集 中 した。 ず っ と シ ン ガ ポ ー ル な ん で す,ず
つ ・ と ・シ ・ン ・ガ ・ポ ー ・ル ・
な ・ん ・で ・す,雑
て,女
音 が ひ ど い ラ ジ オ か ら 注 意 深 く音 を 拾 う よ う に し
の言 葉 に絡 ま る別 の音 を聞 い た。
ア イ ス ク リ ー ム お い し い ね,と
聞 こ えた 。
私 は女 の子 の 方 を見 た。 女 の 子 も じっ と私 を見 て い る。 あ た し マ マ が し ゃ べ る と き で な い と し ゃ べ れ な い の,あ べ つ て る の 聞 こ え る?
た し がしゃ
あ た し よ,
私 は女 の子 を見 て う なず い た 。 女 の子 も微 か に う なず い た 。 普 通 の 精 神 状 態 だ っ た ら驚 い た だ ろ うが,熱 の で,テ
で視 界 に 陽 炎 が ゆ らめ い て いた
レパ シ ー と は こ うい う も のか と単 に納 得 した 。 ( 村 上 龍 『村 上 龍 料 理 小 説 集 』1988年,集
長 い 引 用 に な った が,こ
英社)
こに大 文 字 ・小 文 字 の 並 列 表 記 が 現 れ る事 情 を読 者 に
よ く理 解 して も ら う に は,こ れ だ けの 引用 が 必 要 だ ろ う。 こ こ に現 れ る並 列 表 記 で は,語
り手 の 「私 」 が 「テ レパ シー 」 的 に感 受 して い
る 「女 の 子 」 の 言 葉 が 大 文 字 表 記 で 表 さ れ,耳
に 聞 こえ て い る 「女 」 ( 母親 )の
言 葉 が 小 文 字 表 記 で 表 さ れ る と と も に,「 私 」 が娘 の言 葉 に注 意 を集 中 し な が ら 同 時 に母 親 の言 葉 も聞 き取 っ て い る こ とが,両
表 記 の 並 列 に よ って きわ め て効 果
的 に 象徴 され て い る。 並 列 表 記 を使 わ ず に,こ れ だ け の こ とを,こ れ だ け簡 潔 に 表 現 で き る とは考 え られ な い。 筆 者 は,こ の並 列 表 記 に は じめ て 接 した と き,一 瞬,不 思 議 な 気 持 ち に と ら え られ た。 そ の不 思 議 な 気 持 ち は一 口 に は 言 え な い が,文 字 に記 す とす れ ば,「 こ こ に現 れ て い る小 文 字 はル ビ とは ま った く別 の もの だ 」 とで もな ろ うか 。 こ こに筆 者 が 使 っ た 「ル ビ」 の語 は,大 文 字 表 記 に並 列 す る小 文 字 表 記 の総 称 と し て 印刷 の 世 界 で使 わ れ て い る用 語 と は違 っ て,並 列 す る2表 記 の 表 記 内容 が ど う連 関 す る か に よ って 「ル ビ」 で あ るか ど うか を 区 別 す る もの で あ り,「 言 語 学 上 の用 語 」 (に な って い くべ き もの ) で あ る。 山 田俊 雄 は,「 ル ビ」 の 語 が 表 題 に現 れ る数 少 な い論 考 の一 つ 「漢 字 ・か な ・ ル ビ」 (『言 語 』1977年7月
号 ) で,「 印刷 技 術 の 専 門 用 語 」 とは 区 別 さ れ る 「言
語 学 上 の 用 語 」 と して の 「ル ビ」 に つ い て,「 改 め て そ の適 用 の範 囲 や,さ
し示
す概 念 を決 め な け れ ば な らな い か も知 れ な い」 と述 べ た 。 そ の 半 世 紀 近 く前 に発 表 され た玉 井 喜 代 志 の 「振 仮 名 の研 究 」 ( 『国語 と国文 学 』1932年5・6月 は,ル
号 )で
ビは 「一 般 の 振 り仮 名 と同 意 に解 釈 」 され て い る の に対 し,山 田 は 「ふ り
が な と,ふ
り漢 字 と,両 方 を考 へ て,ル
ビ とい う用語 を示 し」 て い るが,こ
こで
筆 者 が 考 え るの は,「 言 語 学 上 の 用 語 」 と して の 「ル ビ」 の 「適 用 の範 囲 」 を極 限 まで 拡張 す る試 み が な され て よい の で は な いか とい う こ とで あ る。 並 列 表 記 「ア イ ス ク リー ム お い しい ね,」 に現 れ て い る小 文 字 表 記 を ル ビ と呼 ぶ にせ よ呼 ば な い に せ よ,「 ル ビ と漢 字 」 が現 れ る 並 列 表 記 に つ い て考 え る 際 の 比 較 の 対 象 とし て,こ の 並 列 表 記 は重 要 な役 割 を果 た す こ とが で き る。
●2 音表 記の並列 と単語表記 の並列
並 列 表 記「 ア イ ス ク リー ム お い し い ね,」 に 現 れ て い る 小 文 字 表 記 に つ い て,
筆 者 は 「ル ビ とは ま った く別 の もの だ 」 と感 じた 。 互 い に矛 盾 す る よ うに 思 わ れ る,こ れ ら二 つ の感 じ の う ち,ま ず,「 ル ビ とは ま っ た く別 の もの だ 」 と い う感 じが ど こか ら来 る の か に つ い て考 えて み る。 こ の 感 じ は,小 文 字 で 表 記 さ れ て い る単 語 「ず っ と」 「シ ン ガ ポ ー ル 」 「な 」 「ん」 「で す 」 と,大 文 字 で 表 記 され て い る単 語 「ア イ ス ク リー ム 」 「お い しい 」 「ね」 との 間 に ど ん な対 応 関 係 も な い と こ ろ か ら来 る と考 え ら れ る。 単 語 「ず っ と」 「シ ン ガ ポ ー ル 」 「な」 「ん 」 「で す」 は,作
中 人 物 「女 」 が,夫
との長 期別
居 ・夫 が い る場 所 な ど を表 現 す る た め に用 い た 単 語 で あ り,「 ア イ ス ク リー ム 」 「お い しい 」 「ね 」 は,作
中人 物 「女 の 子 」 が,自 分 た ちが 舐 め て い る食 品 ・そ の
味 な ど を表 現 す る た め に用 い た 単 語 で あ るか ら,並 列 す る 二 つ の表 記 の 一 方 が 表 す 単 語 と他 方 が 表 す 単 語 との 間 に 対 応 関 係 が 成 立 しな い の は当 然 で あ るが,こ の よ う に表 記 語 と表 記 語 との 間 に対 応 関 係 が な い二 つ の 表 記 が ど う して並 列 させ ら れ て い る の か は,こ の 並 列 表 記 だ け を見 て い た の で はわ か らな い。 これ に対 して,た
と え ば,表 記 例 (12)と して 前 に示 し た 次 の 表 記 で は,一
見,並 列 す る二 つ の 表 記 の 間 に 表 記 語 の 対 応 関 係 が な い よ う に見 え る が,少 意 して 見 て い く と,部 分 的 に対 応 関 係 が あ る こ とが 見 え て くる。
し注
一 片 無瑕
玉 従 今 好 琢 磨 得 遇 高 人 識 方 逢 喜 気 多
こ こ で 並 列 し て い る 二 つ の 表 記 の 間 に は,「 む き ず 」 ⇔ ⇒ 「玉 」,「 み が く」 ⇔ こび」 ⇔
「琢 磨 」,「 め き き 」 ⇔
「無瑕 」,「 あ ら た ま 」
「高 人 」,「 み た て 」 ⇔
「 識 」,「 よ ろ
「喜 気 」 と い っ た 表 記 語 の 対 応 関 係 が 成 立 し て い る 。 も ち ろ ん,こ
図7.1 表 記 語相 互 の対 応 が部 分 的 に成 立 す る2表 記 の 並列
図7.2 表 記 語相 互 の 対応 が 成 立 しな い2表 記 の 並 列
の対
応 関 係 を見 出 す の が 難 し い人 もい る だ ろ うが,そ れ は そ の人 の 知 識 と注 意 力 との 問題 で あ る。 これ に対 して,小 文 字 表 記 語 「ず っ と」 「シ ンガ ポ ー ル 」 「な 」 「ん 」 「で す 」 と 大 文 字 表 記 語 「ア イ ス ク リー ム 」 「お い しい」 「ね 」 との 間 に対 応 関 係 を見 出 せ な い の は,対 応 関係 が も と も と存 在 し な い か らで あ っ て,こ れ を読 む人 の 知 識 や 注 意 力 の 問 題 で は な い(図7.1,7.2)。 この 点 に 注 目 す る だ け で は,小 文 字 表 記 「ず っ とシ ンガ ポ ー ル な ん で す,」 は 「ル ビ と は ま った く別 の も の だ 」 と い う こ とで 終 わ っ て し ま うが,そ
の一 方 で
「ど こか ル ビ に似 て い る と こ ろが あ る」 とい う感 じ もす る の は,「 ず っ と シ ン ガ ポ ー ル な んで す,」 と 「ア イ ス ク リー ム お い しい ね,」 との二 つ の 表 記 が表 す ものが 互 い に重 な り合 って い る と こ ろか ら来 る と考 え られ る。 こ こ に 並 列 して い る 二 つ の 表 記 の う ち,小 文 字 表 記 「ず っ と シ ン ガ ポ ー ル … … 」 は,作 中 人 物 「女 」 が 発 した 音 声 を表 し,大 文 字 表 記 「ア イ ス ク リー ム … … 」 は,そ れ と は 「別 の音 」 を表 して い るが,作
中人 物 「私 」 に は,こ れ ら二
つ の 音 が 「重 な って 聞 こ え」 て お り,音 を表 す 二 つ の表 記 の 並 列 は,音
の重 な り
合 い を表 現 して い る(図7.3)。 この 表 現 構 造 は,あ
る種 の 並 列 表 記,た
と え ば,前 出 の 表 記 例(7)に
現 れて
い る 「歌 右 衛 門 」 の 表 現 構 造 に似 た と こ ろが あ る よ うに思 わ れ る。 並 列 表 記 「歌 右 衛 門 」 に お い て,小 文 字 表 記 「な り こ まや 」 は,「 な り こ まや 」
図7.3 表 現 のた め に関 係 づ け られた 二 つの 音表 記 の 並列
図7.4 表 現 の た め に関係 づ け られ た二 つ の単 語 表 記 の並 列
と い う屋 号 で 呼 ば れ る家 に 属 す る人 を 表 し,大 文 字 表 記 「歌 右 衛 門 」 は,「 歌 右 衛 門 」 と呼 ば れ る人 を表 して い る が,両 者 は重 な り合 って い て,人
を表 す 二 つ の
表 記 の 並 列 は,属 す る家 の屋 号 が 「な りこ まや 」 で,個 人 名 が 「歌 右 衛 門 」 で あ る人 物 を表 して い る(図7.4)。 この よ う に,「 ア イ ス ク リー ム お い しい ね,」 と 「歌 右 衛 門 」 との 間 に は,二 つ の表 記 の 並 列 に よっ て,二
つ の 表 記 が 表 す ものの 重 な り合 いが 表 現 され て い る と
い う共 通 点 が あ る。 だ が,こ め て 大 き な違 いが,そ
の 共 通 点 は 意 識 され に くい 。 それ は両 者 の 間 に きわ
れ も一 つ で は な く二 つ 存 在 す る か らで あ る。
そ の 違 い の一 つ は,「 ア イ ス ク リー ム お い しい ね,」 で は 並 列 す る2表 記 の 間 に 表 記 語 相 互 の 対 応 関 係 が 存 在 し な い の に対 し て,「 歌 右 衛 門 」 で は小 文 字 表 記 語 「な り こ まや 」 と大 文 字 表 記 語 「歌 右 衛 門 」 との 間 に,人
を表 す 語 と し て の 対 応
関 係 が 成 立 して い る こ とで あ る。 こ の対 応 関 係 を認 識 す る に は,「 な り こ ま や」 が 歌 舞 伎 俳 優 中 村 歌 右 衛 門 ・芝 翫 ・鴈治 郎 ・扇 雀 らが 属 す る家 の 屋 号 で あ り, 「歌 右 衛 門 」 が そ の 中村 歌 右 衛 門 で あ る こ と を知 っ て い る必 要 は な い 。 「な り こ ま や 」 は店 の名 や 歌 舞 伎 俳 優 の 家 の名 を表 す屋 号 ら しい と見 当 が つ き,屋 号 は そ の 店 や 家 に属 す る人 を表 す こ と も あ る と知 って い て,「 歌 右 衛 門」 は人 の 名 前 だ ろ う と見 当 が つ き さ えす れ ば よい の で あ る。 これ に対 して,「 ア イ ス ク リー ム お い しい ね,」 で 並 列 し て い る二 つ の表 記 の 間 に は 表 記 語 と表 記 語 との 対 応 関 係 が 成 立 し て い な い か ら,二 つ の表 記 が 並 列 させ
ら れ て い る理 由 は,こ の 並列 表 記 だ け を示 され た の で はだ れ に もわ か らず,こ れ に先 行 す る表 記 「女 の 言 葉 に絡 ま る別 の 音 を 聞 い た 。」 お よ び後 続 す る 表 記 「と 聞 こ えた 。」 を参 照 す る こ とに よっ て は じ め て 明 らか に な る。 並 列 表 記 以 外 の もの を 参 照 し な くて も二 つ の 表 記 の 表 記 内容 の相 互 連 関 を把 握 で き る か で き な い か と い う,こ
の 違 い が あ ま り に も大 き い た め に,「 ア イ ス ク リ
ー ム お い しい ね ,」 の 表 現 構 造 と 「歌 右 衛 門 」 の 表 現 構 造 との 類 似 が 気 づ か れ に くい の だ が,二
つ の 並列 表 記 の 間 に は,こ の ほか に,も
う一 つ きわ め て 大 きな違
い が あ っ て,そ れ が 表 現 構 造 の 類 似 を さ ら に見 え に く く して い る 。 そ の 違 い は,「 歌 右 衛 門 」 の表 記 主 体 が 並 列 させ て い る の が 単 語 の 表 記 で あ る の に対 して,「アイスク
リー ム おい しい し
ね,」 の表 記 主 体 が 並 列 させ て い る の は単
語 で は な く音 の 表 記 だ とい う点 に あ る。 音 の 表 記 の 並 列 は,た
と え ば,「 ず ー ん ず ー ん 」 の よ う に,表 記 さ れ て い る音
が 非 言 語 音 で あ れ ば直 ち に そ れ とわ か るが,言
語 音 の 表 記 が 並 列 さ れ る場 合 に
は,表 記 主 体 が 意 図 して い る の が音 の表 記 の並 列 で あ っ て も,そ の 音 の表 記 は 同 時 に単 語 を表 す 語 音 の 表 記 に な っ て い るか ら,音 表 記 の並 列 は 自動 的 に単 語 表 記 の 並 列 に も な っ て し ま う。 し か も,「 ア イ ス ク リ ー ム お い し い ね,」 の 表 記主 体
(= 小 説 の 作者)
表 記 を必 要 と し て い な い わ け で は な い 。 そ れ が な け れ ば 作 中 人 物
は,単語
「女 」 お よ び
「女 の 子 」 が 行 っ た 音 声 言 語 表 現 を読 者 に 伝 え る こ と は で き な い か ら だ 。 表 記 主 体 に と っ て 単 語 の 表 記 は ぜ ひ と も 必 要 で あ り,た
だ,そ
れ ら を並 列 さ せ る必 要 は
な い とい う だ け で あ る。 考 え て み る と,こ る。 小 文 字 表 記
の 並 列 表 記 で は 実 に5通
りの 表 現 が 行 わ れ て い る こ とに な
「ず っ と シ ン ガ ポ ー ル な ん で す,」 は,単
ー ル 」 「な 」 「ん 」 「で す 」 を 表 す こ と に よ っ て ,作 居 ・夫 が い る 場 所 な ど を 表 す と と も に,音 し て い る 。 ま た,大
文字 表記
語
中人物
「ず っ と」 「シ ン ガ ポ 「女 」 と 夫 と の 長 期 別
「zuttosingapoorunandesu」
「ア イ ス ク リ ー ム お い し い ね,」 は 単 語
リ ー ム 」 「お い し い 」 「ね 」 を 表 す こ と に よ っ て,作
中人物
を も表 「ア イ ス ク
「女 の 子 」 と 「私 」 と
が 舐 め て い る 食 品 ・「 女 の 子 」 が 感 じ て い る 味 な ど を 表 す と と も に,音 kuriimuoisiine」
を も表 し て い る。 そ し て,音
「aisu
を 表 す 二 つ の 表 記 の 並 列 は,作
中
図7.5 音 表 記 の並 列 と語 音 表 記 ( =単 語 表 記) の並 列 との二 重化
人 物 「私 」 が 聴 覚 と 「テ レパ シー 」 とに よ って 二 つ の音 を同 時 に感 受 し てお り, 「私 」 の意 識 の 中 で 二 つ の 音 が 重 な り合 っ て い る こ とを 表 現 し て い る の で あ る (図7.5)。
●3 2語 並列 表 記 の あ り方
「ア イ ス ク リー ム おい
しい ね,」 と 「歌 右 衛 門 」 と は,二 つ の 表 記 が 表 す もの の
図7.6 2語 並列 表 記 に よ る表現 の 一般 的構 造
重 な りを二 つ の 表 記 の並 列 に よ っ て表 現 して い る点 で は 同 じで あ るが,前 者 で 並 列 させ れ られ て い る の が音 の 表 記 で あ るの に対 し て,後 者 で 並 列 させ られ て い る の は単 語 の 表 記 で あ る とい う点 が 異 な る。 前 者 の よ うな2音 並 列 表 記 に よ る表 現 は,筆 者 の知 る限 りで は 他 に例 が な い 。 これ に対 して,2語
並 列 表 記 は珍 しい もの で は な い 。 ル ビが 漢 字 表 記 の 読 み を
示 す と言 え るか ど うか が 問 題 に な る並 列 表 記 は,す べ て2語 字 表 記 の読 み とル ビ と の関 係 は,後
並 列 表 記 で あ る。 漢
に改 め て検 討 す る こ と に して,こ
こで は,2
語 並 列 表 記 の あ り方 に つ い て見 て お こう。 2語 並 列 表 記 に よ る表 現 の 一 般 的 な構 造 は,図7.6の
よ う に 図 示 す る こ とが で
き る。 この よ う な一 般 的 構 造 を持 つ2語 並 列 表 記 は,四 つ の タ イ プ に 区別 され る。 第 一 の タ イ プ は 同 義 語 並 列 表 記 と言 う べ き もの で,そ (2) の
「ゆ っ く り」,表 記 例
の例 と して は,表 記 例
(16) の「 国 民 総 生 産 」 を 挙げ る こ と が で き る 。 並
列 表記 「ゆ っ く り」 は,明 治 初 期 に鹿 児 島 県 出 身 の女 性 が 東 京 で語 る言 葉 の表 記 と し て戯 曲 に現 れ て い る もの で あ る。 「ユ ッ ク イ 」 と 「ゆ っ く り」 とは も と も と 同 じ単 語 で あ り,語 音 に地 域 差 が 生 じた だ けで 語 義 は 変 わ っ て い な い と考 え られ る 。 ま た,並 product'の
列 表 記
「国 民 総 生 産 」 に 現 れ る 「GNP」
は 英 語 'gross
nationaI
略 語 で あ り,「 国 民 総 生 産 」 は 同 じ 英 語 の 日本 語 訳 で あ る か ら,両
者
の 語 義 は 同 じで あ る (図7.7) 。 さ ら に,表 記 例 (19)の 「脳 内 麻 薬 物 質 」 も,「脳 内 麻 薬 物 質 」 と呼 べ る もの が 「エ ン ドル フ ィン 」 以 外 に知 られ て い な い の で あれ ば ( 筆 者 に は知 識 が な くて わ か らな い) 同義 語 並 列 表 記 と見 な し て よい だ ろ う。
図7.7 同義 語 並 列表 記
図7.8 類 義語 並 列 表記
2語 並 列 表 記 の第 二 の タ イ プ は類 義 語 並 列 表 記 と言 うべ き もの で,そ て は,表 記 例
(2) の 「し ば ら く」,表 記 例
の例 とし
(18)の 「イ ン デ ィア ン ・サ マ ー」
が 挙 げ られ る。 「イ ッ トキ 」 と 「しば ら く」 と は,と
もに 「す こ しの 間 」 とい う
意 味 を持 つ 類 義 語 で あ り,「 小 春 日和 」 と 「イ ン デ ィ ア ン ・サ マ ー 」 と は,ど ち ら も 「晩秋 ・初 冬 の こ ろ一 時 的 に見 られ る暖 か い 気 候 」 を意 味 す る点 で 語 義 が重 な る (図7.8) 。 2語 並 列 表 記 の第 三 の タ イ プ は,二 重 規 定 的 並 列 表 記 と呼 ぶ べ き もの で あ る。 この タ イ プ の 並 列 表 記 の 例 と し て は,す で に そ の 表 現 構 造 を検 討 し た 表 記 例 (7) の 「歌 右 衛 門 」の ほ か に,(8) の 「襲 名 」,(13)の 「闘 士 」,(14)の 「再 発 見 」 を挙 げ る こ とが で き る 。 同 義 語 並 列 表 記 や類 義 語 並 列 表 記 で は 二 つ の 表 記 語 の語 義 が 全 面 的 あ る い は部 分 的 に重 な る の に対 し て,二 重 規 定 的 並 列 表 記 で は二 つ の 表 記 語 の 間 に語 義 の 重 な りは認 め られ な い 。 この タ イ プ の 並 列 表 記 で 重 な る の は,表 記 語 の語 義 で は な く,表 現 ・表 記 の 主 体 が そ れ ぞれ の単 語 に よ っ て表 現 し よ う と して い る もの ・こ とで あ る。
図7.9 二 重 規 定 的並 列表 記
た と え ば,並 列 表 記 「襲 名 」 で は,こ
こ で 表 現 ・表 記 主 体 の が 単 語 「イ ベ ン
ト」 に よ っ て表 現 し よ う と して い る もの ( 名 跡 の相 続 を披 露 す る催 し) と,単 語 襲 名 」に よって表現 しよ うとしてい るこ と ( 名 跡 の相 続,お
よび,そ
れ にか か
わ る こ と) とが 重 な るの で あ って,単 語 「イ ベ ン ト」 が一 般 的 に表 す も の と単 語 襲 名 」 が 一 般 的 に 表 す こ と と が 重 な る の で は な い。 言 い 換 え れ ば,並 列 表 記 「 襲 名 」 は,表
現 し よ う とす る対 象 を
ト」 と し て 規 定 し,こ
「襲 名 」 と し て 規 定 す る と同 時 に 「イ ベ ン
の 二 重 規 定 に よ っ て,「 イ ベ ン ト」 と し て の
い は,「 襲 名 」 に か か わ る
「イ ベ ン ト」 を 表 現 し て い る の で あ る
「襲 名 」 あ る
( 図7.9) 。
これ と同 じよ う に,「 歌 右 衛 門 」 は屋 号 が 「な り こ まや 」 で 個 人 名 が 「歌 右 衛 門 」 で あ る人 物 を表 し,「 闘 士 」 は 「闘 士 」 の 名 にふ さ わ しい 「りき し」 を表 し, 「 再 発 見 」 は 「ウ ォ ッチ ン グ 」 で あ る と同 時 に 「 再 発 見 」 で あ る よ うな 行 為 を表 す。 2語 並 列 表 記 に は最 後 に も う一 つ,重 合 的 並 列 表 記 とで も呼 ぶ べ き第 四 の タ イ プ が あ り,そ
の 例 と し て は,表
記 例
(13) の 「花 錦 」,(19) の 「die」 「live」 が
挙 げ られ る (「花 錦 」 は表 記 主 体 に よ っ て新 た に造 語 さ れ た熟 語 と考 え る)。 この タイ プ の 並列 表 記 で は,二
つ の 表 記 語 は,表 現 し よ う とす る対 象 を二 重 に
規 定 す るの で は な く,語 義 や 語 が 喚 起 す るイ メ ー ジ の 何 らか の連 関 を媒 介 と して 互 い に 結 合 し,重 層 的 表 現 複 合 体 とで も言 うべ き もの を形 成 して い る。 た と え ば,「 お しゃ れ 」 は 「美 しい 存 在 で あ ろ う とす る人 」 と して,「 花 錦 」 は 「花 や 錦 の よ う に美 しい存 在 」 と して と らえ られ るか ら,「 美 しい存 在 」 を接 合 部
図7.10 重 合 的 並列 表 記
と して2語 が つ な が る と,「 花 や 錦 の よ う に美 しい 存 在 で あ ろ う と して い る,花 や 錦 の よ うに 美 し い 存 在 (で あ り得 て い る人 )」 とい った,語
義 ・イ メ ー ジの 複
合 体 が 形 成 され る (図7.10) 。 並 列 表 記 [die」の場 合 は,「 黒 」 は「 目 に 入 る光 が 存 在 しな い とき の色 」 と して,「die」 は 「存 在 して いた 生 命 が 存 在 し な くな る こ と」 と して とら え られ るか ら,「 (存 在 す べ き も のが ) 存 在 しな い」 が2語 重 合 の 接 合 部 と な る。 な お,表 記 例 (10)の 「忍 夜 」,表 記 例 (14)の 「言 技 」 は,並 列 させ られ た 同 音 異 語 が 語 音 の 一 致 と語 義 や 語 が 喚 起 す る イ メ ー ジ の 連 関 を 媒 介 に し て 結 合 し,重 層 的 表 現 複 合 体 を形 成 して い る もの で あ り,重 合 的 並 列 表 記 の一 種 と見 な し得 る 。
●4
漢 字 の 読 み とル ビ
こ こで,漢 字 の読 み を示 す と普 通 に言 わ れ るル ビ と2語 並 列 表 記 との 関 係 を考 え て み よ う。 前 に も述 べ た よ うに,2語
並 列 表 記 に お い て は,漢 字 表 記 に 並 列 す る ル ビが そ
の漢 字 の読 み を示 す と言 え るか ど うか が 問 題 に な る。 この こ とが 問 題 に な る の は,2語
並 列 表 記 に現 れ る漢 字 表 記 に は,そ
こ に現 れ て い るル ビが 示 して い な い
読 み が あ っ て,そ の読 み が 普 通 の 読 み と され て い る か らで あ る。 た と え ば,前 出 の 並 列 表 記 「襲 名 」 に 現 れ て い る漢 字 表 記 「襲 名 」 の普 通 の 読
図7.11
異語 ル ビ と同語 ル ビ
み は 「し ゅ う め い 」 で あ っ て 「イ ベ ン ト」 で は な い。 この普 通 の 読 み を示 す ル ビ が 現 れ る 並 列 表 記 「襲 名 」 と2語 並 列 表 記 「襲 名 」 との 関 係 は,図7.11の
よう
に図 示 す る こ とが で き る。 こ の 図 か ら も明 らか な よ うに,ル
ビ 「し ゅ うめ い」 は,ル
ビ 「イベ ン ト」 の よ
う に,漢 字 表 記 語 「襲 名 」 が 表 す 単語 と異 な る単 語 を表 す もの で は な く,そ れ と 同 じ単 語 を仮 名 で 表 記 した もの で あ る。 こ の よ う に,漢 字 表 記 に並 列 す るル ビ は,そ の 漢 字 表 記 が 表 す 単 語 と同 じ単 語 を表 す もの と,そ れ とは別 の単 語 を表 す もの と に分 か れ る。 以 下,前 者 を 「同 語 ル ビ」 と,後 者 を 「異 語 ル ビ」 と呼 ん で 区別 し よ う。 「読 み 」 とい う語 を,文 字 を声 に 出 し て読 む と き に発 せ られ る言 語 音 とい う意 味 で使 用 す る 限 りで は,漢 字 の 読 み を 示 す と言 っ て よ い ル ビ は,漢 字 表 記 「襲 名 」 に対 す る 「し ゅ う め い 」 の よ うな 同 語 ル ビだ け で あ っ て,「 襲 名 」 に対 す る 「イ ベ ン ト」 の よ うな 異 語 ル ビ は漢 字 の読 み を示 す とは言 え な い 。 これ に つ い て は,「 ル ビの 表 記 主 体 は,こ
こで は特 別 な読 み 方 を す る よ う に読
者 に求 め て い るの だ 」 とい っ た 説 明 が な さ れ る こ とが あ り,そ う言 わ れ る と,つ い,そ
う言 っ て 言 え な く は な い よ う な 気 に も さ せ ら れ る。 そ れ は,並 列 表 記
「襲 名 」 を 示 さ れ て音 読 す る よ う に 求 め られ た 場 合 に は,こ れ を 「し ゅ う め い」 とは読 まず,「 イベ ン ト」 と読 む こ と に な る か らだ 。
しか し,考 え て み る と,こ れ は 並 列 表 記 の 中 の 仮 名 表 記 部 分 を そ う読 ん で い る の で あ っ て,漢 字 表 記 部 分 を そ う読 ん で い る の で は な い。 仮 名 表 記 と漢 字 表 記 と が 並 列 して い る た め に,仮 名 表 記 を 「イ ベ ン ト」 と読 む こ とが 漢 字 表 記 を 「イベ ン ト」 と読 む こ とで あ るか の よ うな錯 覚 が 生 じて い る に す ぎな い の で あ る。 これ に対 し て,「 し ゅ う め い」 と 「 襲 名 」 との よ う に,ル
ビ と して現 れ る仮 名
表 記 と漢 字 表 記 とが 同 じ単 語 を表 して い る場 合 に は,仮 名 表 記 を声 に出 し て読 む こ と と漢 字 表 記 を声 に出 して 読 む こ と とが,錯 覚 で は な く実 際 に一 致 す る。 ル ビ が 漢 字 表 記 の 読 み を 示 す と確 か に言 え るの は,こ の よ う な場 合 だ けで あ る。 ル ビ に よ っ て漢 字 表 記 の 読 みが 示 さ れ るの は必 ず し も日本 語 の表 記 に特 有 の現 象 で は な い 。 た と えば,表
記 例 (15)の「 大 海撈 針 」 の よ う に 中 国 語 の 表 記 で
も漢 字 の 読 み が ロ ー マ字 の ル ビで 示 さ れ る こ とが あ る。 だ が,中
国語 の 表 記 で は
漢 字 の 読 み は1種 類 に 限 られ るの に対 して,日 本 語 表 記 に お け る漢 字 の 読 み に は 音 読 み と訓 読 み とが あ り,複 数 の 音 読 み と複 数 の 訓 読 み とを持 つ漢 字 も少 な くな い。 音 読 み は,漢 字 に対 応 して いた 中国 語 音 が 日本 語 音 に転 化 した もの で あ り,訓 読 み は,漢 字 が 表 す 単 語 と語 義 が ほ ぼ一 致 す る 日本 固 有 の 単 語 の語 音 を漢 字 に対 応 さ せ た も の で あ る。 漢 字 ・音 読 み ・訓 読 み の 関 係 は,図7.12の
よ う に図 示 す
る こ とが で き る。 この 図 か ら も う か が わ れ る よ う に,漢 字 ・音 読 み ・訓 読 み の 関 係 は,漢 字 表
図7.12 漢字 の 音 読 み と訓 読 み
図7,13 同語 の二 重表 記 に よる表 記 語 の特 定
記 ・同語 ル ビ ・異 語 ル ビ の関 係 に似 て い る と こ ろが あ る。 漢 字 表 記 「山 」 とそ の 音 読 み を示 す仮 名 表 記 「さ ん 」 との 並 列 表 記 は も と も と同 じ語 の二 重 表 記 で あ る が,同
じ 「山 」 とそ の 訓 読 み を 示 す 「や ま」 との 並 列 表 記 は,同
と も,2語
じ語 の 二 重 表 記
並 列 表 記 (同 義 語 並 列 表 記 あ る い は類 義 語 並 列 表 記 ) と も見 な し得
る。 前 に 見 た よ うな2語
並列 表 記 の多 様 な展 開 は,漢 字 の 訓 読 み に そ の 源 を発 し
て い る と言 う こ とが で き る だ ろ う。 漢 字 の音 読 み あ る い は訓 読 み を示 す 同語 ル ビが 現 れ る並 列 表 記 は,同
じ単 語 を
漢 字 と仮 名 とで 二 重 に表 記 す る こ とに よ って,単 一 の 表 記 に よ っ て は特 定 で きな い 表 記 語 を特 定 す る。 た と え ば,表 記 例
(13)の 並 列 表 記 「両 国 」 は,こ
こで
漢 字 表 記 「両 国 」 が 表 す 語 は仮 名 表 記 「り ょう ご く」 が 表 す 語 で あ っ て 「りょ う こ く」 が 表 す 語 で は な く,仮 名 表 記 「り ょう ご く」 が 表 す 語 は 漢 字 表 記 「両 国 」 が 表 す 語 で あ っ て 「領 国 」 が 表 す語 で は な い こ と を示 して い る ( 図7.13) 。 表 記 と表 記 語 との この よ う な関 係 は,二 重 規 定 的2語 並 列 表 記 に お け る表 記 語 と表 現 され る もの ・こ と との 関 係 に似 て い る。 同語 並 列 表 記 で は2表 記 の 並 列 に よ って 表 記 語 の あ り方 が 二 重 に規 定 され る の で あ る。 本 稿 で は,考 察 の対 象 を 「ル ビ と漢 字 」 が 現 れ る表 記 に は じめ か ら限 定 す る こ と はせ ず,並 列 表 記 一 般 ・ル ビー 般 の 考 察 に多 くの紙 数 を費 や し て い る。 これ に よ って,「 ル ビ と漢 字 」 が 現 れ る表 現 ・表 記 の 基 本 的 な構 造 を 明 らか に す る こ と は,あ る程 度 で き た と思 うが,表
現 ・表 記 の 主体 にか か わ る問 題 を取 り上 げ る と
こ ろ ま で は 行 け な か った 。 この 問 題 につ い て は,考 え る手 が か り と して,た
また
ま筆 者 の注 意 を ひ い た 表 記 の例 を挙 げて お くに と どめ る。
(23) 書簡 袋 に 同 封 の金 円 は,斗 南 の地 に て御 苦 労 あ そ ば さ る家 中 の皆 様 へ の さ さ や か な る義捐 金 に て,す べ て わ れ らが 仇 敵 な る薩 摩 お よ び 長 州 の 官 員 よ り強 奪 い た せ し金 円 なれ ば,何 の 遠 慮 もあ る間 敷 候 間,伯 父上 の御 裁 量 の ま まに,生 計 の立 ち行 き難 き家 中 へ御 分 配 下 さ らば う れ し く存 じ奉 り候 。 ( 井 上 ひ さ し 『國 語 元 年 』1986年,新
潮社)
こ こ に現 れ て い る表 記 「あ る 間敷 候 間 」 に見 られ るル ビ 「か ん 」 は,後 に 次 の よ う に変 更 され て い る。
(24) 何 の 遠 慮 もあ る間 敷 候
間,伯
父 上 の 御 裁 量 の ま ま に,生 計 の 立 ち
行 き難 き家 中 へ 御 分 配 下 さ ら ば うれ し く存 じ奉 り候 。 ( 井 上 ひ さ し 『國語 元 年 』 ( 再 演 台 本 )2002年,新
潮社 )
「 候 間 」 の 「間 」 が,「 … … ので 」 とい った 意 味 で 接 続 助 詞 的 に用 い られ て い る こ とは 文 脈 か ら 明 ら か で あ る。 『日本 国 語 大辞 典 』 に 当 た って み る と,そ う し た 接 続 助 詞 的 用 法 の 説 明 は,「 あ い だ 」 の項 に は あ るが,「 か ん 【問 】」 の 項 に は見 られ な い 。 した が っ て,表 記 例 (23)に現 れ て い る漢 字 表 記 「間 」 が 表 す 語 は, 仮 名 で は 「か ん」 で は な く 「あい だ 」 と表 記 され な け れ ば な ら な い こ と に な る。 「か ん 」 とい うル ビ は 間 違 っ て付 け られ た もの で あ り,そ の こ とが 明 らか に な っ た た め に訂 正 され た の だ ろ う。 と ころ で,こ
の訂 正 が 施 され た 新 しい テ キ ス トに は,前 の テ キ ス トに は なか っ
た ル ビが 新 た に い くつ も現 れ て い る。 次 に 示 す の は,そ の一 つ で あ る。
(25) 旦 那 様 は,二 十 年 後 の 明 治 二 十 七 年 秋,東 亡 。
京 本 郷 の 東 京瘋 狂 院 で 死 (同前)
「瘋狂 」 とか 「瘋狂 院 」 とか い う語 は 『日本 国 語 大 辞 典 』 に も載 っ て い な い。 「瘋狂 院 」 は,お
そ ら く 「癲狂 院 」 の 誤 りで あ ろ う。 「瘋癲」 とい う,漢 字 で 書
くの は難 しい が 比 較 的 よ く知 られ た 熟 語 が あ る上 に 「瘋」 と 「癲」 とは 字 形 が 似 て い る の で,つ
い両 者 を取 り違 え て 「癲狂 院 」 の つ も りで 「瘋狂 院 」 と書 い て し
ま う とい う の は,あ
りそ う な こ とで あ る。 だ が,そ
れ だ け な ら ば,「瘋 狂 」 に ル
ビ を付 け る 際 に この 誤 記 が気 づ か れ るは ず で あ り,気 づ か れ なか っ た と し て も, 付 け られ る ル ビ は 「て ん き ょ う」 とな る はず で あ る。 それ が 「て ん き ょ う」 で な く 「ふ う き よ う」 とな っ て い る こ とは,い
った い何 を意 味 す る だ ろ うか 。
この よ う に,ル ビ は表 記 主体 の意 図 しな い と こ ろで 表 記 主 体 の言 語 意 識 の あ り 方 を読 み手 に伝 えて し ま う こ とが あ る。 文
献
岩 淵 匡 (1989)「 振 り仮 名 の役 割 」 『 講 座 日本 語 と 日本 語 教 育9日
本 語 の文 字 ・表 記 ( 下 )』
明治書院 大 石 初 太 郎 (1955)「 振 り漢字 」 『 国 語学 辞 典 』 東京 堂 出版 大 島 中正 (1989)「表記 主 体 の表 記 目的 か ら見 た 漢 字仮 名 並列 表 記 形 式 」 『同志 社 女 子 大 学 学 術 研 究 年報 』40‐4 進 藤 咲子 (1982)「 ふ りが な の 機 能 と変遷 」 『 講 座 日本語 学6現
代 表記 との 史 的 対 照 』 明 治 書
院 玉 井 喜 代 志 (1932)「 振 仮 名 の研 究 」 『国語 と国 文 学』5・6月 号 中根 勝 (1999)『日本 印刷技 術 史 』 八 木書 店 花 野 井 定 一 (2001)「日本 語 の組 版 」 『印刷 博 物 誌 』 凸版 印刷 株 式 会 社 村 上 龍 (1988)『 村 上 龍 料 理小 説 集 』 集英 社 山 田俊 雄 (1977)「漢字 ・か な ・ル ビ」 『言語 』7月 号
⑧ 地 名 と漢 字
笹原 宏之
●1
は じめ に
日本 人 は,列 島 の あ らゆ る空 間 に呼 び 名 を与 え て きた 。 そ の呼 称 は,や が て 漢 字 を中 心 とす る文 字 で 表 記 され る よ うに な り,つ い に は命 名 の時 点 で 漢 字 が 意 識 さ れ る こ と さえ起 こ った 。 今 日,定 着 して い る地 名 は,指
し示 す範 囲 が 広 大 で 全
国 的 に知 られ て い る もの か ら,田 の あ ぜ 道,民 家 の庭 の 一 角 な ど地 元 で も一 部 の 人 しか 知 らな い狭 小 な もの まで,大 小 さ ま ざ まで あ る。 本 稿 で は,地 名 と そ の漢 字 の あ らゆ る特 質 が 確 認 で き る小 字 ・通 称 ク ラ ス の 小 地 名 も対 象 に含 め て,日 本 の 地 名 漢 字 の 特 徴 を記 述 す る1)。
●2 字
種
(1)常 用 漢 字 と 「常 用 漢 字 表 」 外 字 地 名 は,様 々 な文 字 体 系 に よ っ て表 記 され て い る。 現 在 に至 る まで に,漢 字, 平 仮 名,片 字,ロ
仮 名 の ほか,小
地 名 に は,地 番 以 外 で も,ア ラ ビア 数 字,ロ
ー マ数
ー マ 字,記 号 類 ま で使 用 され て きた 。
現 在,全
国 の地 名 に使 用 され て い る 漢 字 は,『 日本 行 政 区画 便 覧 』 (日本 加 除 出
版 ) に 収 め られ て い る40万
件 余 り を調 査 す る と約3250種
「高 」 と 「〓」 と を 区 別 す る とい っ た 異 体 字 を そ れ ぞれ1字
に の ぼ る。 これ は, と数 え た もの だ が,
1000種 以 上 の 「常 用 漢 字 表 」 に な い 漢 字 が,各 地 の 地 名 を 表 記 す るた め に使 わ れ て い る の で あ る。 しか も,『 日本 行 政 区 画 便 覧 』 は,都 道 府 県 名 か ら大 字 に至 る行 政 地 名 を網 羅 す るが,小 地 名 は 数 百 万 件 現 存 す る う ち の ご く一 部 しか 収 録 せ ず,山 名,川
名,島
名 とい っ た 自然 地 名 もほ とん ど含 ま な い 。
都 道 府 県 名 に は,「 茨 」 「栃 」 「埼 」 「 奈 」 「梨 」 「阜 」 「岡 」 「阪 」 「媛 」 「熊 」 「鹿 」 と い う11字 岡 山,福
の 「常 用 漢 字 表 」 外 字 が 用 い られ て い る。 こ の う ち 「岡」 は 静 岡,
岡 の3県
に含 ま れ る。 市 名 とな る と 「雫(石)」
「仙(台)」
「鎌(倉)」
な ど,区 町 村 名 とな る と枚 挙 に い と まが な い。 これ ら の漢 字 は,そ こ に生 まれ, 暮 らす 人 に と っ て はな じみ 深 い もの で,日 常 の文 字 生 活 に 密 着 した 理 解 字,使 用 字 と な っ て い る。 「栃 」 だ けで な く,常 用 漢 字 に採 用 さ れ た 「潟 」 「覇 」 な どは, 地 元 出 身 ・生 育 者 とそ れ 以 外 の 人 々 とで,正
し く書 け る人 の割 合 が 異 な るが,そ
の 地域 で は 習 慣 と して根 ざ して い る た め,に わ か に 改 めが た い 。 国 語 審 議 会 の 建 議 「町 村 の 合 併 に よっ て 新 し くつ くられ る地 名 の 書 き表 わ し方 に つ い て」 (1953)を 受 け て 制 定 さ れ た 「住 居 表 示 に関 す る法 律 」 (1962,1999 年 最 終 改 正 ) 第5条2に,新
た な 町 ・字 の 名 称 は 「で き る だ け読 み や す く,か
つ,簡 明 な もの に しな けれ ばな らな い」 と され,自 居 表 示 の実 施 基 準 」 (1963,1985年
治 省 告 示 「街 区 方 式 に よ る住
改 正 ) に は,従 来 の 町 の 名 称 に準 拠 しが た い
と き に は,「 常 用 漢 字 を用 い る等 で き る だ け読 み や す く,か つ,簡 明 な もの にす る こ と」 と規 定 さ れ た 。 「当 用 漢 字 表 」 や 「常 用 漢 字 表 」 は 固 有 名 詞 を対 象 と し て い な いが,戦
後 に命 名 され た 地 名 に は,そ の 影 響 を受 け た仮 名 表 記 の も の,仮
名 表 記 に改 め られ た もの が あ る。 交 ぜ 書 きに な っ た地 名 も,東 京都 中 央 区 「勝 ど き ( 勝鬨 )」,神 奈 川 県 鶴 見 区 「大 黒 ふ 頭 ( 大 黒 埠 頭 )」 な どが あ る。 漢 字 の 字 種 で も,「 岡 」 が 減 り,「常 用 漢 字 表 」 内字 の 「丘 」 が 増 えて い る よ うに,表
内字 の
範 囲 内 で の命 名 や,表 外 字 を表 内 字 に改 め る とい っ た 影 響 が 現 れ て い る。
(2)使 用 漢 字 の 偏 在 地 域 地 名 で は,漢 字 の使 用 分 布 に 地 域 差 が 見 られ る こ とが あ る。 例 えば,「 辻 」 は, 関 西 で 密 集 した 分 布 を呈 して お り,姓 の分 布 と同 様 の傾 向 を示 す。 ま た,特 定 の 地 名 や 特 定 の 地域 で の み使 用 され て い る漢 字 が あ る。 そ れ も全 国
で1箇
所 の み とい う ケ ー ス が あ る
( 笹 原1997a・
町 ・字 フ ァ イ ル 」 (1995) に よ る と,姶
良郡 の
芝 野1997「
コ ラ ム 」)。 「全 国
「姶 」 は 鹿 児 島 県 だ け に し か な く
(14例),渥 美 郡 の 「渥 」 は愛 知 県 だ け (6例),頴 娃 町 の 「娃 」 は鹿 児 島 県 揖 宿 郡 に し か な く,「珸,瑶,瑁
」 の 各 字 は 北 海 道 根 室 市 の 「珸瑶瑁 」 に し か な い 。
「釧 」 とい う表 外 字 は,地 名 で は北 海 道 の 「釧 路 」 「根 釧 台 地 」 に しか 見 られ な い が,こ
の 字 が な い とそ の 地 名 は全 国 で 書 け な くな る。 行 政 地 名 以 外 で も,「〓 」
(吐〓喇 列 島,鹿 児 島 県),「〓 」(〓 川,神
奈 川 県; 中 国 で は この 字 に イ タ チ の
意 味 が な く,「鼬 」 の 部 百 を 換 え た 日 本 で の 訓),「〓
」 (〓々 川,愛
知 県 ) な ど,
地 域 ご と に 特 色 あ る 漢 字 が 見 られ る。
字
(3)国
地 名 に は,栃 木 県 の 「栃 」 の よ う に 日本 人 が 作 っ た 漢 字 で あ る国字 も多 く使 用 され て い る。 国字 は,古 代 よ り,「杣 」 「鞆」 な どが 地名 表 記 に用 い られ て い る。 あ る地 域 で 生 まれ た 字 が そ の地 域 で 使 わ れ続 け る こ と もあ る。 例 え ば,山 梨 県 に は「 藤垈 」 の よ りに「垈 」 とい う県 特 有 の字 が 点 在 す る2) 。 地 名 に 用 い られ て い る 国字 は,漢 和 辞 典 に掲 載 さ れ て きた もの だ けで は な い。 漢 字 の動 態 を探 究 す る に は,基 軸 を漢 和 辞 典 に置 くの で は な く,具 体 的 な 資 料 に 置 く必 要 が あ る。 数 百 万 件 の小 字 名 を収 め た,明 治 政 府 に よ る全 国 を対 象 と した 「小 字 名 調 査 」(後 に 原 本 が 焼 失)を1/3ほ
ど閲 覧 した とい う柳 田国 男 は,小 地 名
に 「だ ん ご」 を表 す 【〓】 と い う造 字 さ え あ る と述 べ て い る ( 柳 田1933) 。 『日 本 行 政 区 画 便 覧 』,国 土 地 理 協 会 編 集 局 編 『国 土 行 政 区 画 総 覧 』 (1995年 現 在 及 び1972年11月
以 降 の 除 去 号,以
下 『国 土 』),国 土 地 理 院 「二 万 五 千 分 一 地 形
図 」 な どの 地 名 資 料 に 見 い だ す こ と はで きな い が,『 角 川 日本 地 名 大 辞 典 』 所 収 の
「 小 字名一 覧」 のた ぐい
( 以 下,『 角 川 』) に は,千
葉 県 の〓 山,〓
田,山
の〓 山 とい う実 例 を見 い だ せ る。 各 地 で 漢 字 の 「〓」 を改 造 し た か,造
梨県
字 した
と考 え ら れ る。
(4)地
域 文 字
地 名 の 表 外 字 の 中 に は,そ の 地 域 に しか 用 い られ な い字 で,全 国 の 人 が ほ とん
ど 目 に し な い 文 字 つ ま り 「地 域 文 字 」 も あ る。 これ に は,日 本 製 の 漢 字 の ほ か に,中
国製 の 漢 字 もあ る。 茨 城 県 周 辺 に あ る「 圷 」 の よ うに 辞 書 に掲 載 され た
もの や,掲 載 され て い て も音 訓 が 一 致 しな い もの,辞 書 に 全 くな い もの が あ る。 後 者 に は,山 偏 や 土 偏 の造 字 が 多 く,地 形 を表 す 語 を表 記 す るた め に,各 地 で作 られ た 会 意 文 字 が 多 い。 共 通 語
京 都 府 に は,【 椥 】 とい う地 域 的 な 国 字 が あ り,京 都 市 東 山 区 山 科
椥 辻 東 浦 町 の よ う に(『 国 土 』),「辻 」 とい う全 国 的 な 国字 と連 続 して い る例 もあ る。 こ の 国 字 は 中 世 よ り存 在 し,「 梛 」 の変 形 と も見 え る が,会 意 とす る伝 承 も あ る。 ベ トナ ム で ナ ギ に類 す る 「竹 」(tre)を 意 味 す る形 声 式 の字喃 と符 合 す る。 訛
語
滋 賀 県 犬 上 郡 多 賀 町 河 内〓 原 の 【〓】 は,地 元 で は 「山 女 」 と2
字 で も書 か れ,揺 れ て い る。 平 安 朝 よ り 「あ け び 」 は 「山 女 」 と書 か れ,中 世 に は合 字 が 生 じて い た 。 「JIS漢 字 」 第2水
準 に は,こ
っ た 字 体 で 採 用 され た (笹 原1996) 。JIS第2水
の 「〓」 が 「妛」 と い う誤
準 (1978)は,主 に 『国 土』 を
用 い て地 名 を 網 羅 し よ う と した が,現 代 日本 語 の 表記 に 使 わ れ る こ とが な い と思 わ れ る漢 字 まで 含 む一 因 とな った 。 また,JIS漢
字 の 第3水
準 ・第4水
準 の選 定
の た め に,各 種 の公 的 な地 名 資 料 の 調 査 を行 っ た と こ ろ,カ バ ー され て い なか っ た 地 名 が 多 数 確 認 さ れ た (笹 原2001) 。 ほ か に,「 蛙 淵 」(栃 木 県),「〓
畑」
(「へ な 」 は 「は に 」,千 葉 県 ) な ど も訛語 を表 記 した もの で あ る。 俚
言 俚
言 に対 す る地 域 的 な 造 字 は数 多 い 。例 を挙 げ る と,【 萢 】(や ち ・
や つ,青 森 県),【岼 】 (ゆ り,京 都 府 ),【逧】(せ こ ・さ こ,岡 く も,岡 山 県 ・広 島 県),【〓
山 県),【糘 】(す
・〓】(ほ き,鳥 取 県),【碆 】 (は え,高 知 県 ・愛 媛
県 漢 字 と衝 突 ),【〓】 (ご し,沖 縄 県 ) な どが そ れ に 当 た る。 静 岡 県 引 佐 町 渋 川 の 【〓】 (あぜ,『 角 川 』 静 岡 県 ) とい う字 は全 国 で1箇 所 し か 見 られ な い 孤 例 だ が,共 通 語 「あぜ 」 ( 「引 佐 郡 小 字 名 台 帳 」) の ほ か,地 は 「ふ る」 (1991年4月12日,引
佐 町 役 場 回 答 ) と読 み,複
他 の名 詞 が 漢 字 で 表 記 さ れ る こ と との対 照 性 を求 め,さ
元で
数 の 訓 を 有 す る。
らに 漢 字 ら しい 構 成 を設
け よ う と し,「 あ ぜ 」 は 田 の 通 り ・田 の通 る と こ ろ と して こ の 字 を作 っ た と考 え られ る3) 。 合 字 で な く会 意 文 字 で あ る。
(5)漢 字 の典 拠 中 古 ・中 世 の 文 献 地 名 に特 有 と思 わ れ て い る漢 字 に は,歴 史 的 な典 拠 を有 す る も の が 見 られ,文
字 の普 及 が ど の よ う に 行 わ れ た の か を探 る上 で 注 目 さ れ
る。 また,辞 書 の 引 用 や 受容 の歴 史 を探 究 す る上 で も,興 味 深 い事 実 で あ る。 現 在 の 鹿 児 島 県 「曽 於 郡 」の 「曽 於 」は,「 熊 襲 」の 「襲 」を 語 源 とす る と さ れ る が , か つ て 「囎唹 」 と書 か れ る こ とが あ った 。 この 【 囎 】は,中 国 の字 書 に見 え な い字 で あ り,地 名 と し て平 安 時代 の 『和 名 類 聚 抄 』な どの 典 拠 を もつ もの で あ る。 また,中
古 ・中世 の辞 書 に,普 通 名 詞 や 動 詞 と して 収 め られ た もの も あ る。 青
森 県 上 北 郡 天 間 林 村 天 間 館 通 称哘
(『国 土 』) の 【哘】 も中 国 の 辞 書 に な い が,
観 智 院本 『 類 聚 名義 抄』 ( 天 理 善 本 叢 書 影 印 ) や 『詞 林 三 知 抄 』(連 歌 資 料 集 影 印)に,「哘
サ ソ フ」 とあ る。
【垰】 も中 国 字 書 に な い が,『 国土 』 に よ る と,広 島 県 山 県郡 加 計 町下 殿 河 内 通 称垰,山
口県 下松 市 切 山 通 称 峠 市,山
口県 長 門 市 渋 木 通 称大垰 な ど と使 わ れ て い
る。 「垰」 は,中 世 に出 現 した 国 字 で ( 猿 田1983・ 蜂 谷1988),文 (『文 明 本 節 用 集 研 究 並 び に 索 引』 影 印1970) 同 山 ノ―
( 双 行 )〓
に は 「到下
明本 『節 用 集 』
峰 (小 書 き)垰
( 索 引 ・解 説 は 峡 に作 る) 山 ノ − ( 双 行 )」 と あ る。 「タ
ウ」 は不 鮮 明 な が ら 「タ ヲ」 と書 こ う と した よ う に も見 え る。 文 明 本 『節 用 集 』 に は,地 名 の 国 字 の 古 例 が ほ か に も見 られ る。勝 本 町 新 城 西 の〓 ノ 元 な ど長 崎 県 に偏 在 す る (『角 川 』 長 崎 県 ) の 【〓】 は,「 し め縄 」 の 「し め」 を表 す 会 意 の 国 字 と考 え られ る。 文 明 本 「 節 用 集 』 に 「〓 或 作 注 連 」 と現 れ る この 国 字 は, 地 下 水 脈 の よ う に使 わ れ 続 け た と想 像 され る。 これ ら の 古辞 書 の記 述 は,地 名 と 一致す るだけで な く ,姓
と も合 致 して お り,固 有 名 詞 の表 記 に限 っ て残 った もの
で あ る。 以 上 の 例 は,文 献 と地 名 との 間 に字 体 ・字 義 の共 通 性 が あ る も の で あ った が, 字体 は 共 通 して い て もそ れ ぞ れ の字 義 に共 通 性 を見 い だ せ な い もの もあ る。〓 網 代 (『角 川 』 長 崎 県 ) は,「 二 万 五 千 分 一 地 形 図 」 に 「き び な ごあ じ ろ」 と読 み が あ る。 【〓】 は,観
智 院 本 『類 聚 名 義 抄 』,天 文 本 『字 鏡〓 』 な ど に 「ハ ム 」 とあ
る。 これ ら は,別 個 の 作 字 の 字 体 同士 が衝 突 し た もの で あ ろ う。
近 世 の 文 献 ・文 書 地 名 に 見 られ る 国字 の 中 に は,近 世 の 文 献 や 文 書 に,普 通名 詞 な ど地 名 以 外 の 語 を表 記 した もの もあ る。 【硴】 は,近 世 に,硴 江 村 (『角 川 』 大 分 県 臼杵 市,『 豊 後 国 志 』 『 桜 翁 雑 録 』), 硴江(『 角 川 』 熊 本 県 富 合 町,地
内 に大 永8(1528)
年 の 年 紀 を有 す る板 碑 が あ
る)が 存 在 し,「 豊 後 国 字 小 名 取 調 帳 」 (『明 治 前 期 地 誌 資 料 』 影 印,ゆ
ま に書 房)
に 豊 前 国上 毛 郡 小 犬 丸 村硴 打 田 が あ り,明 治 初 期 に は現 在 の福 岡 県 に も存 した 。
現在 で も山口県下 関市彦 島硴崎 町,大 分 県 臼杵市諏 訪硴 江,熊 本 県八 代 郡鏡 町 貝 洲 通 称硴 原 ・竜 北 村 高 塚 通 称硴 原 ・下益 城 郡 冨 倉 町硴 江 が『 国 土 』 に め リ, 『角 川 』 に は ほ か に も小 地 名 と し て,山
口県 に硴 原 北 ・硴原 南 ・硴塚,熊
本県に
硴 塚(新 )・硴瀬 ・硴 本 ・硴道 な どが あ る。 鏡 町 の硴 原 村 で は 実 際 に貝 の カ キ が獲 れ た とい う。 中 国 の 「牡 蠣 」 は,日 本 で,石
に付 い た 花 の よ うに 見 た て
た と こ ろか ら,中 世 よ り 「石 花 」 と書 か れ る よ う に な り (『下 学 集 』,文 明 本 『節 用 集 』。 中 国 で はカ メ ノ テ,鍾 乳 水 が 凝 結 した もの ・いわ ご け ・珊 瑚 樹 ・て ん ぐ さ な ど の 意 味 し か な い ),「 礪
」 と い う異 表 記 の 影 響 も あ っ た の か , 合 字 で
「硴」 と書 か れ る よ うに な る。 そ の一 例 と して 次 の 句 が あ る。 題 は 「蛎 」。
柿 も硴 も皆 うみ べ た の類 哉 横 井 野 双 (『時 勢 粧 』 古 典 俳 文 学 大 系,1971年
)
海 辺 を意 味 す る 「うみ べ た 」 は九 州 の 方 言 に もあ る が(『 日本 国 語 大 辞 典 』), 横 井 野 双 は名 古 屋 の 人 で あ り(伊 藤 善 隆 氏 御 教 示),俳諧
に も 「石 花 」 の 表 記 が
見 られ る こ とか ら,同 時期 に,地 名 と俳諧 とで 別 々 に合 字 化 され た もの,つ
まり
暗 合 で あ る可 能 性 が 高 い 。1語 を表 記 す る際 に,熟 字 訓 よ り も1字 の 訓 に し よ う とす る意 識 が 働 くこ と は,国 字 の 生 成 に つ な が り,古
くか らあ っ た と考 え られ
る。 大 分 の硴 江 村 に 関 し て は,「硴 炭 ・硴江 車 海 老 」 とい う名 物 が 『桜 翁 雑 録 』 に あ る と い う (『角 川 』 大 分 県)。 小 地 名 で は,「硴 」 は,「 か き」 以 外 の 読 み 「ご う ろ 」 「こ」 と して も使 わ れ て い る が,字 体 衝 突 で あ る。 『 信 濃 国 地 字 略 考 』 に 「浦硴 」 は 「石 か ら」 が 「ご ろ V 」 し て い る地 と あ り,会 意 の 造 字 と解 す る こ とが で き る。 滝 澤 主 税(1987)
『明 治 初 期 長 野 県 町 村 字 地 名 大 鑑 』 に も 「兎硴
」 「大硴 」 「小硴 」 「高硴 」 「浦硴 」
「硴」 「山硴 」 が あ る。『愛 知 県地 名 集 覧 』の 「硴ケ場 」は形 声 に よ る造 字 で あ ろ う。 地 域 的 な 文 献 ・文 書
特 定 の地 域 に お い て地 名 に使 わ れ る文 字 に は,そ の 近
辺 で 記 され た 文 献 ・文 書 で普 通 名 詞 な ど を表 記 して い た も のが あ る。 【 杁 】 は,地 名 や 姓 に も使 わ れ て い る が,尾 張 藩 で 文 書 や 文 献 に 多 用 さ れ,幕 府 の 「圦」 と異 な る分 布 を呈 す る ( 笹 原2003) 。 【〓】 は,広 島県 の地 名 に野〓 下 山,野〓
上 山 (『角 川 』 広 島 県 ) が あ り,野
〓神 社 もあ る。 広 島 藩 で は この 字 を文 書 で,損 分 を共 同 負 担 す る とい う意 味 で使 っ て い た (『 広 島 県 の地 名 』・同 月報 ・青 野 春 水 (1977)「広 島 藩 の 地 な ら し に つ いて」 『 史 学 雑 誌 』86-6,「 か つ ぎ」 と傍 訓 )・『日本 史 用 語 大 辞 典 』 な ど)。 【〓】 は,秋
田県 の 地 名 に,仙 北 郡 荒 川 村 中 山 ノ 内〓 ケ 沢,〓
市 町 村 字 名 称 調 」1889年
ケ堤
(「秋 田 県
『明 治 前 期 全 国 村 名 小 字 調 査 書 』 影 印 ) が あ る。 近 隣
の小 地 名 で 「う ば」 「お ば (を ば)」 「ば ば」 に対 し て は 漢 字 の 「姥 」 が 当 て られ て き て お り,そ れ か らの類 推 で作 られ た もの で あ ろ う。 文 献 で も,秋 田藩 で 文 化 期 (1804∼18) に書 か れ た 『秋 田風 土 記 』 (『 新秋 田叢書』 山中良次郎氏御教 示) の 「〓と姥 」 とい う物 語 に 「〓」が使 わ れ て お り,当 地 で 普 通 名 詞 表 記 用 の 一 般 性 を もつ文 字 だ った 可 能 性 が あ る。 地 名 漢 字 の 分 布 の 特 徴 方 言 と同様 に地 名 の漢 字 に は,も ろ も ろの 分 布 形 態 が 見 られ る。 こ こで は,周 圏 分 布 と方 言 区 画 論 的 な分 布 と い う可 能 性 を もつ例 を 記 して お く。 青森 県 青 森 市 小 柳 小 字袰懸,岩
手 県 花 巻 市 高松 通 称袰 輪
(『国 土 』)
な どで 使 われ る 【袰】 は,武 具 の 「ほ ろ」 に 「母 衣 」 な どの 漢 字 が 当 て られ,中 世 か ら合 字 とな っ た もの で あ る 。 「袰」 の字 体 は,東 北 の 地 名 と九 州 の 姓 に残 っ て お り,周 圏 分 布 を呈 す る が ( 笹 原1987b),そ
れ ぞ れ 独 自 に 合 字 化 と会 意 に よ
る造 字 が 発 生 した可 能 性 が 残 る。 静 岡 県 に お い て は,静 岡 県 田 方 郡 伊 豆 長 岡 町墹 之 上 とい う大 字 が あ る ほ か (『国 土 』),小 字 に も 【墹】 と い う地 域 的 な造 字 が 多 数 使 わ れ て い る。 「ま ま」 と い う語 を 含 む 地 名 表 記 の分 布 が,県
内 だ け で な く隣 接 す る愛 知 県,神 奈 川 県 を含
め た 方 言 区 画 と よ く一 致 した ( 笹 原1994a) 。 そ れ ら に は地 元 住 民 に は 特 別 な 字 で あ る,「 地 域 文 字 」 で あ る とい う意 識 は ほ とん ど もた れ て い な い。
●3 字
体
(1) 漢 字 の 字 体 施
策
国 語 審 議 会 に よ る 「常 用 漢 字 表 」(内 閣 告 示 ・訓 令) や 「表 外 漢 字
字 体 表 」 は,固 有 名 詞 の 漢 字 を直 接 の対 象 と して い な い。 そ れ ぞ れ の 地 名 は,各 地 方 自 治 体 の 定 め る と こ ろ に ゆ だ ね られ て お り,「西 礪 波 郡 」 と 「砺 波 市 」 の よ うに 不 統 一 が 生 じて い る。 メ デ ィ ア に よ っ て は,地 名 漢 字 の字 体 に つ い て決 ま りが 設 け られ て い る。 財 団 法 人 教 科 書 研 究 セ ン タ ー(1994) 『 新 地 名 表 記 の手 引 き』 に は,「 公 用 文 作 成 の要 領 」(1952年,以
後 修 正 が加 え られ て い る) の 「地 名 の 書 き表 わ し方 に つ い て」
に従 っ て,日 本 の 自然 地 域 名称 は,「 さ しつ か え の な い限 り,「 常 用 漢 字 表 」 の通 用 字 体 を用 い る。 「常 用 漢 字 表 」 以 外 の 漢 字 に つ い て も,「 常 用漢 字 表 」 の 通 用 字 体 に 準 じた 字 体 を用 い て も よ い」 とす る。 文 部 省(1958) 「地 名 の 呼 び方 と書 き 方 」(社 会 科 手 び き書)や
そ れ に代 わ る財 団 法 人 教 科 書 研 究 セ ン タ ー(1988) 『地
名 表 記 の手 引 』以 来 「砺 波 平 野 」「讃 岐 平 野 」「木 曽 山 脈 」 な どが 挙 げ られ て い る。 実
情
新 命 名 に 際 して,佐 賀 県 に あ る 「鹿 島 市 」 と衝 突 す る こ と を回 避 し
て異 体 字 を用 い た 茨 城 県 の 「 鹿 嶋 市 」(1995年 に鹿 島 町 と大 野 村 が 合 併) の 例 が 記 憶 に 新 しい 。 「島 」 は 常 用 漢 字 で あ る が,そ
の 異 体 字 を用 い る こ とで 示 差 特 徴
と した もの で あ る。 「東 京 」 も明 治 初 期 に は 「東 京 」 で あ った といわ れ る。 常 用 漢 字 だ が 旧字 体 と定 め られ て い る 自治 体 に 「五 條 市 」(条),「龍 野 市 」 (竜)な
どが あ り,「 常 用 漢 字表 」 外 字 で い わ ゆ る康 煕 字 典 体 で な い 異 体 字 の 使 用
が 定 着 して い る地 域 も,「 芦 屋 市 」(蘆) の よ う に あ る。 教 科 書 や地 図 で は,例 外 も見 られ る。 福 岡 県 「久 留 目」 で は住 民 に よ って 「久畄 目」 と書 か れ る こ と もあ る。 地 名 漢 字 の字 体 の 典 拠
地 名 漢 字 の字 体 に は,近 世 文 献 ・文 書 を典 拠 とす る
もの が 少 な くな い 。 そ れ らは,古
くか ら文 書 な どに存 在 した 異 体 字 で あ り,各 自
治 体 で土 地 台 帳 が 明 治 期 に 作成 され た と き に,地 名 が 手 書 き さ れ た とい う こ と と 深 く関 連 し て い る と考 え られ る。
鯖 江 市 は,古 文 書 を根 拠 に 【 鯖 】 の 字 体 を活 字 で も採 用 した 時 期 が あ った が, 現 在 で は康 煕 字 典 体 に変 わ っ て い る。 愛 知 県安 城 市 柿〓 町 の 【〓】 は 現在 で も こ の 字 体 とな っ て い る。 【曽】 は 「曾 」 の 拡 張 新 字 体 だ が,古 来,手
書 きで の 用 例
に 富 む こ と も あ り,康 煕 字 典 体 よ りも多 用 され て い る。 これ に関 して は,康 煕 字 典 体 で な い とよ くな い とい う意 見 は ほ とん ど聞 か れ ず,「 鴎 」 「涜 」 と比 して 違 和 感 が もた れ に くい よ うで あ る。 こ と に小 地 名 に は,文 書 で の 筆 記 習 慣 が残 った と 考 え られ る。 【〓】 は,文 書 に も見 え る 「堰 」 の 日本 製 異 体 字 で あ る。 「 堰 」 の訓 「せ き」 を表 す よ う に,声 符 をセ キの 音 を もつ 「夕 」 に変 え た形 声 式 略 字 で あ る。
(2)地
域 字 体
正 式 に 決 め ら れ た 字 体 で あ るが,全
国 的 に見 て一般 的 とはい えな い ものが あ
る。 北 海 道 の ア イ ヌ語 地 名 に漢 字 を 当 て た 留 辺蘂 に は,漢 和 辞 典 で正 字 体 と され る 「 雄 蕊 」 「雌 蕊 」 の 「蕊 」 で は な く,俗 字体 とさ れ る 【蘂】 が採 用 され て い る。 秋 田 県 秋 田市 下 浜 桂 根 字粐 蒔 沢 (『国 土 』) の 【粐】 は,「 糠 」 の 略 字 と考 え られ る が,準 用 され た 構 成 要 素 か ら拡 張 新 字 体 とは い え な い。 公 式 に は,い わ ゆ る康 煕 字 典 体 と定 め られ て い て も,地 元 の 住 民 の 間 で は書 き や す い 略 字 が 使 わ れ て い る ケー スが あ る。 これ は,日 常 的 に手 書 き さ れ る頻 度 が 高 い,繁 些 な 字 体 に は 筆 記 経 済 か ら略 字 体 が 発 生 した り探 索 され,定 着 に 向 か う とい う傾 向 と一 致 す る。 同様 に,前 述 の よ う に近 世 以 来 の手 書 き習 慣 に 基 づ く略 字 に,戦 後 の視 点 に よ る と拡 張 新 字 体 と よべ る もの が 多 く,現 地 自治 体 で 地 名 に正 式 に採 用 さ れ て い る もの もあ る。 JIS漢 字 との 関 係 で い う と,こ れ に は,1978年
にJIS規
採 用 され た 新 字 体 と,1983年
格 票 の 字 体 や,戦
に改 正 さ れ たJIS規
格 に 直 接,地
れ た 朝 日新 聞 社 な ど の字 体 とた また ま一 致 ( 暗 合 ) す る もの,さ 降 のJIS規
名 から
後 に設計 さ
らに1983年
以
格 票 の 字 体 に合 わ せ て 変 更 した と見 られ る もの が あ る ( 奈 良 県 「都
祁 村 」,鹿 児 島 県 「祁 答 院 町 」 の 「祁 」)。 宮 城 県 に あ る地 域 的 使 用 文 字 「埣 」 が さ らに拡 張 新 字 体 化 した 【〓】 は,い か に地 元 で この字 が 根 付 い て い るか を示 す例 で あ り,こ う した 一 般 に 目慣 れ の ない
字 に つ い て も拡 張 新 字 体 だ か ら よ くな い とい う意 識 は もた れ に くい。 福 島 県 南 会 津 郡 下 郷 村 高陦
(『国 土 』) の 【陦】 も,漢 和 辞 典 に は康 煕 字 典 体 「隯」 しか載 録
され て い な か った 。 そ の土 地 の状 態 と密 接 に つ な が って い る 自然 地 名 は,所 管 官 庁 が 明 確 で な い た め,問 題 が 複 雑 で あ る。 富 山 県 に あ る 「剱 岳 」 とい う 山名 は,地 元 の上 市 町 役 場 で は 「重 々 し く神 聖 な 感 じ が して,険
しい 山 容 に 合 う」 と して,常
「剣 」 な どで は な く 【剱】 の 字 体 で 統 一 し た が,1994年
用漢 字 の
に 【剱】 に 改 め ( 丹羽
1994),マ ス メ デ ィア で 報 道 され る際 の字 体 に も影 響 を与 えて い る。 ま た現 地 の住 民 の 手 書 き に は 「〓」 (兵 庫 県神 戸 市 「灘 」),「〓」 (沖 縄 県 那 覇 市 ) な ど も見 られ る。
(3)地 元 で の 字 体 の 揺 れ 京 都 府 の 「菟 道 」 は,現 地 で は 「菟 道 」 な ど字 体 に揺 れ が 見 られ る とい う。 富 山県 の 「とな み 」 も,自 治 体 の行 政 地 名,地
図 や現 地 で の 自然 地 名 の表 示 な どに
「西 礪 波 郡 」 「砺 波 市 」 「砺 波 平 野 」 とい っ た 揺 れ が 見 られ る。 この ほ か,小 地 名 に は公 図 と土 地 台 帳 との 間 で表 記 や 字 体 レベ ル の 揺 れ が あ り,土 地 台 帳 の 中 で も 1筆 ご とに,極 端 な場 合 に は1筆 の 中 で,揺
れが 見 られ る ケ ー ス も確 認 で き る。
(4)地 域 字 体 に生 じた 他 の地 域 との 暗 合 常 用 漢 字 で 採 用 され る ま で 「当 用 漢 字 表 」 外 字 で あ っ た 「潟 」 に は,新 潟 県 で は 【〓】 の ほ か 「〓」 「〓」 な ど各 種 の 字 体 が使 わ れ て い る ( 国立 国語研 究所 調 査 『日本 語 の 現 場 』2)。 新 潟 県 で は,道 路 標 識 や 看 板 な ど に 見 られ た ほ か,県 民 も主 と し て 中 高 年 齢 層 は,手 紙 な ど私 的 な筆 写 場 面 で,「〓 」 と略 し た 字 体 を 使 う こ とが あ る。 若 い 人 は使 わ な い とい う報 告 も あ り,使 用 字 と して は世 代 差 が 生 じて い る可 能 性 が あ る。 秋 田 県 の大 潟 村 で も使 用 され て お り,江 戸 時 代 の 書 物 や 『 元 禄 郷 帳 』 に複 数 見 られ る よ うに か つ て は全 国 で一 般 的 に使 わ れ た こ との名 残 で あ る が,類 推 に よ り別 個 に 同 じ略 字 が 生 まれ た 暗 合 と い う 可 能 性 が あ る。 『三 省 堂 国 語 辞 典 』 で は 「か た 」 の 見 出 し表 記 に 「〓」 も載 せ て い た。 な お, 「瀉」 との混淆 は 平 安 時 代 か ら起 こ っ て い る。 本 来 は 「瀉」 の 略 字 体 が これ で あ
り,戦 後,「 朝 日新 聞 」 は 「瀉」 の 略 字 と して使 用 して い た 。 先 に述 べ た 「〓」 も暗 合 が起 こ っ た例 と思 わ れ る。
(5)地 域 字 体 に生 じた 他 の位 相 との 暗 合 字 画 が複 雑 な漢 字 は,使 用 頻 度 が 高 い分 野 で 略字 化 され る傾 向 が あ る。 表 内 字 は,当 用 漢 字 や 常 用 漢 字 で略 字 が 採 用 され た た め に そ の例 が 少 な い の に比 し て, 表 外 字 に は 拡 張 新 字 体 が 散 見 され る。 これ は,戦 前 か ら使 用 され て きた もの も あ る。 千 葉 県松 尾 町 の 公 図 (1976年9月25日
作 成 ) な どで,小
字 に見 られ る 【〓
とい う 「臍」 の 拡 張 新 字 体 は,文 部 科 学 省 の 『学 術 用 語 集 』 ( 採 用 予 定 を含 む) に も見 られ る。 各 地 の 地 元 住 民 と全 国 の医 学 関係 者 と の共 通 点 は,そ の 字 を 日常 的 に使 う とい う点 に あ る。 つ ま り,「書 きや す く した 文 字 」 を 求 め た の で あ る。 「 朝 日新 聞 」 な ど新 聞 に も これ と一 致 す る略 字 が あ る が。 これ は,「 読 み や す い文 字 」 を め ざ した,見
るた め の 文 字 と して漢 字 を整 理 し た結 果 と暗 合 した も の で あ
る。 「脛 」 に対 す る岐 阜 県 揖 斐 川 町 「〓永 」 の 「〓」 や,新 潟 県 「西 頸 城 郡 」 の 地 元 で見 られ る 「頚 」 も同様 に医 学 関 係 者 に行 わ れ る字 体 と一 致 す る。 「鐸 」 の 拡 張 新 字 体 【鈬】 が 香 川 県 の 「大鈬 」 に見 ら れ る。 この 略 字 は,建 築 用 語 で も 「風 銀 」 と使 わ れ る ( 建 簗 用 語 辞 典 編 纂 委 員 会 (1965年,1981年15 刷 ) 『建 築 用 語 辞 典 』)。
(6)字 体 の 変 化 漢 字 の 字 体 が 崩 れ て 別 の 字 に な る例 が あ る。 一 部 の 地 方 紙 で は,鹿 児 島 県 の 「揖宿 郡 」 を 「指 宿 郡 」 と変 え る規 則 が あ っ た。 これ は,か つ て 「ip」とい う字 音 を持 っ て い た 「揖 」 で 「い ぶ 」 を 表 記 し た もの で あ っ た が,僻
字であること
と,別 字 だ が 高 頻 度 の 「指 」 の 崩 し字 の形 に加 えて 「ゆ び 」 とい う読 み が た ま た ま似 て い た た め に,「 指 」 と も書 か れ る よ うに な り,市 名 と し て は 「指 宿 市 」 が 採 用 さ れ て い る。 一 方,「〓
(祇 ) 園 」 を別 字 で 「〓園 」 と書 くよ う な誤 記 は,鏡 味 (1987)に
挙 げ る ほ か 『国 土 』 な どで各 地 に散 見 さ れ るが,い
く ら使 用 数 が 多 く とも公 認 さ
れ る機 会 が な い。 これ は,旁 が 「低 」 な どか ら類 推 が しや す い形 で 書 い た り印刷 され る傾 向 が あ る こ と と,示 偏 の 旧字 体 ば か りに 気 を取 られ た誤 植 ・誤 入 力 が原 因 と思 わ れ る。 日本 製 で 地 域 的 な使 用 字 【垰】 が 同 じ く 日本 製 で 全 国 的 な使 用字 「峠 」 に変 わ る地 名 の例 が 知 られ て い る よ う に,地 域 特 有 の漢 字 に,い わ ば共 通 字 化 の 動 きが 見 られ る。 こ の場 合,読
み も 「た お 」 な どか ら 「と う げ」 に移 りつ つ あ る。 前 述
し た 「囎唹 郡 」 は 改 字 運 動 が 起 こ り,1972年
に 「曽於 郡 」 に 改 め られ た が,こ
れ も共 通 字 化 の一 種 で あ る。 同 じ く 【〓】は,『 国 土 』 に 旧 字 体 で2回,拡 字 体 で1回
張新
出 現 した と さ れ る もの で ( 行 政 管 理 庁 行 政 管 理 局 (1972)『対 応 分 析
結 果 』),JIS漢 字 へ の採 用 に奈 良 県 「都〓 」 と鹿 児 島 県 「〓答 院 」 は一 定 の 役 割 を果 た した 。1983年
にJIS規 格 で 掲 出 字 体 が 変 更 され,拡
〓 」 で も 「祁 」 に 改 ま っ た が,こ
れ はJIS規
張 新 字 体 とな り,「 都
格 で の 字 体 変 更 の 影 響 と い う可 能
性 が あ る。 明 治 時代 に,新
し く作 られ た 字 と され る 【栃 】 ( 前 述,三
は,国 字 「杤」 が 漢 字 「〓」 (レイ,栗
矢1932・ 中 田1982)
や楝 に 似 た 実 を付 け る木 の名 ) と混淆 し,
か え っ て 繁 雑 とな っ た 字 体 と考 え られ,創
造 的 な 再 構 成 と も い え る4) 。古 形 の
「杤」 は大 字 以 上 で は ほ とん ど 「栃 」 に置 き換 え られ た。 新 聞 に は 県 名 と し て頻 出 す るが,「 朝 日新 聞 」 で は 「栃 」,「読 売 新 聞 」 で は 「栃 」 の よ う に,新 聞 社 に よ り字 形 に揺 れ が 見 られ る。 朝 日新 聞社 は 「励 」 を基 準 に 「栃 」 も 「栃 」 と し, 読 売 新 聞社 は 「栃 」 を基 準 に 「蛎 」 も 「蛎 」 と も作 る。 千 葉 の 方 言 で 山崩 れ を 「び ゃ く」 「び ょお (び ょ う)」 とい っ た が (『日本 方 言 大 辞 典 』),こ れ を含 む千 葉 県 の 小 地 名 に は 「〓」 とい う漢 字 辞 書 に 載 って い る形 声 文 字 を用 い た もの が 見 られ る。 こ の 当 て 字 に は,漢 字 「闢」 との 連 想 も働 い て い る可 能 性 が あ る。 これ が,【〓 】 とい う辞 書 に な い形 に な っ て い る 地 区 が あ っ た が,字
源俗解
( 笹 原1994b)
に よ る会 意 化 とみ られ る。 後 者 は,字 体 認 識
が な さ れ な い こ とが あ っ た よ うで,さ
ら に字 体 が 崩 れ,元
の字 体 の 姿 を と どめ な
い 形 が 書 か れ た 公 図 も見 られ る。 古 く定 訓 を有 し な か っ た 「が け」 は,そ
の意 味 を もつ 漢 字 「圻」 か ら,崩 し字
を 介 し て 【坿】 (が け,福 島 県 ) あ る い は 【垳】 (が け,埼 玉 県 ) へ と変 化 した と
考 え られ る ( 笹 原2002b) 。 そ の 変 化 を支 えた もの も,字 源 俗 解 の 意 識 で あ っ た と考 え られ る。 九 州 に 見 られ る 【〓】 (お う こ) は,元
は 「朸」 で あ っ た が,複
数 の俗 解 と字 体 変 化 が 重 な り,こ の 字 体 に至 っ た 。 鳥 の 名 「み さ ご」 (び しゃご な ど) は,漢 字 「〓」 で は 形 態 が 安 定 し な か っ た よ うで,各
地 で 【〓 〓 〓
〓 】 な ど,種 々 の字 体 の 変 異 が 見 られ る。 前 述 の 通 り,字 体 が 拡 張 新 字 体 に 変 わ る例 は 少 な くな い が,【〓 】 とい う字 書 に な い 字 にお い て も同様 の 変 化 が あ った こ とが注 目 され る。 青 森 県 東 北 町 の地 名 に 「仏
( 佛 )」 の 異 体 字 が 見 ら れ る が5),こ れ は 明 治 期 に は 「〓沢 」 で あ っ た
(『青 森 県 字 小 名 調 』1882∼1884年
頃 か, 『明 治 前 期 全 国 村 名 小 字 調 査 書 』 影 印
1986年 )。 そ れ が,現 在 で は 「〓 沢 」 と拡 張 新 字体 に な っ て い る。
●4 地 域 音 訓
『 続 日本 紀 』 『延 喜 式 』 に,郡 郷 里 な ど に漢 字2字
で 好 字,嘉 名 を付 け る よ う勅
令 な どが 出 され た と記 録 が あ り,「 武 蔵 」 「相 模 」 「和 泉 」 や 「男 信 」 (な ま しな, 長 野 県 ) な ど は,そ の名 残 で あ り,中 に は ほ か で は見 られ な い読 み も あ る。 地 名 を中 国 風 に 変 更 す る こ とは,古 代 朝 鮮 で も行 わ れ た 。 全 国 的 な読 み で,分 布 型 に傾 向 が み られ る もの が あ る。 【町 】 は,行 政 単 位 で は 「チ ョ ウ」 「ま ち」 に 地 域 差 が 見 ら れ,「 村 」 に も 「ソ ン」 「む ら」 に 同様 の 差 が あ る。
(1)表 外 音 訓 地 名 に は,「 常 用 漢 字 表 」 に あ る漢 字 で あ っ て も,そ 域 特 有 の読 み,つ
こ に認 め られ て い な い 地
ま り地 域 音 訓 が あ る。
A 共 通 語 【 働 】(か せ ぎ)「 は た ら き」 か ら派 生 した 用 法 で あ ろ う。 「か せ ぐ」 の 訓 を 持 つ 「稼 」 と熟 合 した 「稼 働 」 か ら と も思 わ れ るが,岡
山 県 の 地名 の 方 は近 世 期
か ら存 す る よ う で あ る。 また,近 世 前 期 の 船 型 に 「は が せ 」 が あ り,「 波 働 」 と も書 か れ た と い う (『日本 国語 大 辞 典 』 初 版 ・第2版
)。
B 訛 語 【原 】 (は る ・は ろ ・は り ・は い類 ) 主 に 九 州 ・沖 縄 の地 名 に 見 られ る読 み で あ る。 C俚
言
【谷 】 ( や ・や つ 類 ) 「常 用 漢 字 表 」 で は訓 は 「た に 」 しか な い が,地 名 や姓 で は 「や ・や つ ・や と」 の類 も見 られ る。 「や ・や つ 」 の た ぐ い は,関 東 地 方 に しか 存 在 しな か っ た 地 名 訓 だが,時 代 と と もに 日本 全 国 へ拡 大 し,北 海 道 か ら 沖 縄 県 ま で見 られ る よ う に な った ( 笹 原1999) 。 【城 】 (ぐす く) は沖 縄 県 に 見 られ る読 み で あ る が,「 じ ょ う」 「ぎ」 「し ろ」 な どに変 更 され た もの も あ る。 【浴 】 (え き)湿
地 の 谷 を意 味 す る 方 言 「え き」 に対 し て,旁
「溢 」 ( 溢 ) を 当 て た も の が 「谷 」 を 含 む 「浴 」 と混淆 し,読 「益 」 の ま ま とな っ て い る もの と考 え られ,地
に 「益 」 を もつ み は 元 の旁 の
域 的 な字 音 と もい え る。
D ア イ ヌ 語 【冠 】 ( か っ ぷ ) 北 海 道 に は 「新 冠 」 の よ う に,ア
イ ヌ 語 地 名 に対 す る 当 て 字
に 「冠 」 を 外 来 語 「カ ップ (cap) 」 と読 ませ る も の が あ る。 北 海 道 で は,主 に 明 治 初 期 に 地 名 を表 記 す る漢 字 が 固 定 化 した が,崖
の意 味 の 「ビ ラ 」 に漢 字
「平 」 を 当 て る よ う な意 味 を誤 解 させ る もの も あ る。
ABCの
複 合 し た 例 と し て,「 峠 」 が 挙 げ ら れ る 。 【峠 】 は 「常 用 漢 字 表 」 で は
読 み は 「と う げ 」 し か な い が,山
口 県 に 「峠 ノ 峠 」 が あ る よ う に,小
字 ・通 称
ク ラ ス の 地 名 ま で 調 査 す る と,「 峠 」 に 対 す る読 み 仮 名 の 種 類 は,「 う ね 」 「さ か 」 「さ き 」 「さ こ」 「さ ね 」 「そ ね 」 「そ ば 」 「た 」 「た お 」 「た ぶ 」 「た わ 」 「と 」 「と う」 「と う げ た に 」 「ど う み 」 「と ぎ 」 「と げ 」 「ど が 」 「ね 」 「び 」 「ぴ 」 「び ゅ う 」 「び ょ う 」 「み ね 」 「ゆ り」 「ら」 「わ と 」 な ど,ほ 種 を超 え る。 発 音
か の 漢 字 と の 混淆,転
用 を 含 め,60
(呼 称 ) と表 記 に ず れ が 生 じた の で あ ろ う か , 黙 字 の よ う に 読
ま な い例 さ え も あ る。
(2)表 外 字 の 音 訓 【椛 】 は,「 樺 」 の 異 体 字 とし て用 い られ る こ とが 多 いが,地
名 で は各 地 で 「も
み じ」 「な ぎ」 「ぐみ 」 「も も」 な ど さ ま ざ ま な読 み 方 で も使 わ れ て お り,日 本 人 の 「花 」 に対 す る様 々 な 思 い が 読 み とれ る。 【 硲 】 に も,「 は ざ ま」 以 外 で は, 「さこ」 な どの 読 み に地 域 差 が 認 め られ る ( 笹 原1991) 。 【狸
狢貉猯〓
】
の 訓 「た ぬ き」 「む じな 」 「まみ 」 や,【 蛙 】 の 「び つ き」 「げ い ろ」 「つ く ど」 は, 方 言 分 布 とか か わ る表 記 の地 域 分 布 を呈 す る。 小 地 名 に は,日 常 使 わ れ な くな っ た 方 言 が 残 る こ とが あ る。 【畦 】 は,表 内 字 「畔 」 と合 わ せ て,「 ぼ た 」 「は ば」 「お ね 」 「む ろ 」 な ど50種 以 上 の 音 訓 が 得 ら れ,い か な る方 言 資 料 に も確 認 で き な い古 い 方 言 形 の存 在 や か つ て の分 布 を知 る 手 が か り とな る ( 笹 原2002) 。 地 名 の字 訓 が 字 音 に転 化 す るケ ー ス は少 な くな いが,当
該 漢 字 に字 音 が 一 般 に
意 識 さ れ て い な い ケ ー ス で も起 こ っ て い る。 静 岡 県 な ど で,方 【儘 】 が 当 て 字 さ れ,そ
れ を介 して,そ
言 「ま ま」 に
の 字 音 「ジ ン」 に 変 わ っ た と考 え られ る
例がある ( 笹 原1994) 。 方 言 が 失 わ れ,元
の 語 義 が 忘 れ られ た た め で あ ろ う。
「埴 輪 」 の 【埴 】 は,現 代 日本 語 に お い て音 が 用 い られ る こ とは ほ とん ど な い が, 「更 級 」 と 「埴 科 」 との合 成 地 名 「更 埴 」 で は,字 音 が 持 ち 出 さ れ て い る。 合 成 地 名 は,漢 字 が 単 位 とな って 新 た な地 名 を形 成 す る。 赤 穂 市鷆 和 は,眞 木 と鳥 撫 の 頭 文 字 を合 わ せ,【鷆 】 とい う漢 字 を借 りた も の で あ る。
(3)国
字 の 音
「鋲 」 「(鮟)鱇 」 の よ う に国 字 に は少 な い と され る形 声 式 の造 字 が 小 地 名 に 散 見 さ れ る。 国字 【畠】 の 「バ ク ・バ ク 」 と い う音 は,日 本 の辞 書 に典 拠 を得 られ る ( 文 明 本 『節 用 集 』・『日 葡 辞 書 』,田 畠 (デ ン バ ク))。 な お,天
文本 『 字鏡
鈔 』,白 川 本 ・寛 元 本 『字 鏡 集 』 に 「畠 ハ タ ケ (白川 本 に は 「ハ タ ケ 」 の 下 に 「正 」 とあ る)」 とあ る が,こ
れ らで は 国 字 に も ほ ぼ 一 括 して 音 が 設 け られ て お
り,実 用 さ れ た もの か疑 わ しい 。 【 畑 】 に は 「デ ン」 と い う音 が 与 え られ た 例 も 小 地 名 に 見 られ る。 先 に述 べ た 【萢 】 に は,武 道 萢 「読 み 方 は,ブ
(『角 川 」 福 島 県 ) が あ るが,
ドウ ヤ チ で 現 地 で は ブ ドウサ ワ と も呼 ば れ て い る。 聞 き手 … 酒 井
利 家 」 「意 味 は,谷 地 ( 湿 地 ) か 」(大 熊 町 文 化 セ ン タ ー の 酒 井 正 直 氏 の 回 答 (1993) ) と さ れ,青 森 県 か ら離 れ た 地 で資 料 を作 成 した 者 が 既 知 字 で なか っ た た
め類 推 読 み (い わ ゆ る百 姓 読 み ) を した もの と思 わ れ る。 地 域 的 使 用 文 字 に は,音
しか もた な い 【〓】 ( サ イ,対 馬 ) 【〓】 (〓ノ木,『 角
川 』 滋 賀 県 ) の よ う に,形 声 式 の 国 字 が 見 られ る。 東 日本 で 山 崩 れ の こ と を方 言 で,福 島 や 茨 城 な どで は 「じ ゃ く」 と い い,千 葉 で は 「び ゃ く」 と い う (『山村 語 彙 』,『日本 国 語 大 辞 典 』 第2版,『
日 本 方 言 大 辞 典 』)が,そ
れ ぞ れ に 【〓】
(じ ゃ く) 【〓】 (び ゃ く) とい う形 声 式 の造 字 が み られ る。 また,漢 学 者 や作 家 に好 まれ る地 名 の 位 相 性 の 高 い 雅 称 に は,近 世 以 来,江 戸 ( 東 京 ) の 隅 田 川 に 対 す る 【〓】 (ボ ク) (笹 原1990),京
都 ・大 阪 の 淀 川 に 対 す
る 【〓】 (テ ン) とい っ た 国 字 が 見 られ る。
●5
表
記
地 名 は,原 則 と し て,ま
ず 呼 称 が あ り,そ れ に対 して 漢 字 を 当 て た もの で あ
る 。 その 時 に は,語 義 に即 した 漢字,つ
ま り和 語 と同 じか 似 た事 物 を指 す 漢字 が
当 て られ る こ とが あ る。 【くぬ ぎ】 は,地 名 に は1283年
( 弘 安6年
キ ノ坪 」 と仮 名 表 記 で 現 れ る (『角 川 』 和 歌 山 県 ) が,後
に は様 々 な 漢 字 が 当 て
ら れ た。 小 字 ・通 称 ク ラ ス の 地 名 ま で 含 め る と,1字
) に 「字 クヌ
に 限 っ て も 【椚 】 【〓】
【〓・椢】 【櫟 ・檪】 【椡】 【 栩 】 【桾】 【柊 】 【棆】 【楡 】 【 椹】【 樟 】 【欅・﨔】 【櫪】 【柴 】 【橡 】 【 橡】【 槙】【 梗 】 【槲】 【〓】 【〓】 と,漢 字,国 25種 類 の 漢 字 が 当 て られ て い る。 これ ら に は,さ
訓,国
字 を あわ せ て
らに そ の 異 体 字 も存 在 す る。
この う ち,文 献 で 普 通 名 詞 と し て の 使 用 が 確 認 で き る表 記 は 半 数 程 度 で あ る。 「柴 」 は 「此 木 」 の 合 字 と して 用 い られ,結 果 と し て 国 訓 と な っ て い る。 「歴 木 」 「国 木 」 も合 字 化 して い る。 ほ か に も,訛 語 「くに き」 に 「掀」 ( 手 偏 は元 は 木 偏 か ),「くぬ ・くに ・くに ぎ」 に 「柞 」 もあ る。 【た ぶ 】 と い う木 の 名 を含 む 地 名 は,狭 い範 囲 で 各 種 の表 記 が 分 布 して い る。 【と うげ ・た お ・た わ 】 な どの 語 形 と 【峠 】 に対 す る 【乢】 (『龍〓 手 鏡 』 音盖】 【嵶】 【垰】 な どの 表 記 との 分 布 に つ い て は鏡 味 明 克 に先 駆 的 な調 査 が あ る。 これ は,全 国 的 な 地 図 に は 載 っ て い な い小 地 名 まで 含 め る と,「乢 」 が 静 岡 県 伊 豆 地 方 に も確 認 で き る な ど,さ
ら に広 が りが 見 られ る。 「嵶」 は 岡 山 県 岡 山 市 西
大 寺 西 片 岡 通 称嵶
(『国 土 』) が残 っ て い る よ うに 備 前 地 方 に 古 くか らあ るが,柳
田 国 男 (1926)『山 の 人 生 』 に遠 州 奥 山郷 の 久 良 幾 山 に あ る 岩 石 の 地 「子 生嵶 」 が あ る よ う に,遠 隔 地 に 当 て た 例 もあ る。 【ま ま】 は,「墹 」 ( 前 述 ) の よ うな 造 字 ば か りで な く,当 て 字 が行 わ れ る こ と も多 い ( 笹 原1994a) 。
●6
お わ りに
地 名 を表 記 す る た めの 漢 字 に は,以 上 の よ う に様 々 な特 徴 が 確 認 され る。 こ と に小 地 名 に は,方 言 な どを表 記 す る た め に 諸 々 の 工 夫 が 試 み られ て お り,日 本 の 文 字 ・表 記 史 の 上 で す ぐれ た 材 料 を提 供 す る もの が 見 られ た 。 また,地 名 の漢 字 の実 態 を と ら え る こ とに よっ て,日 本 語 の 通 時 的,共 時 的 な 実 態 が 解 明 さ れ る可 能 性 が あ る 。 し か し,「 由 緒 あ る地 名 」 が 変 更 され る際 に は 裁 判 まで 起 こ り,マ ス メ デ ィア で 取 り上 げ られ る こ と もあ る が,小 地 名 は,日 々 地 元 で も使 わ れ な く な っ て きて お り,調 査 が 及 ば な い う ち に地 名 を記 した 資 料 も役 場 で廃 棄 され つ つ あ る。 近 年 急 速 に 普 及 し た イ ン タ ー ネ ッ トで は,「 池 田 証 壽 の ホ ー ム ペ ー ジ」 (http://member.nifty.ne.jp/shikeda)に
示 さ れ た よ う に各 地 の 地 名 が,あ
る程
度 の小 地 名 まで 容 易 に検 索 で き る よ うに な っ た 。 先 の 「〓沢 」 も,イ ン タ ー ネ ッ ト上 で は,JIS第2水
準 に な い字 で あ っ た た め 「ほ と け沢 」 「ホ トケ 沢 」 と し て
表 現 さ れ て い る。 こ れ はJIS第4水
準 に採 用 され た が,「 さ い た ま市 」 「さ ぬ き
市 」 な ど仮 名 表 記 を採 用 した 自治 体 の増 加 と合 わ せ て,今 後 の 地 名 漢 字 の あ り方 を示 唆 す る よ う で あ る。 そ の一 方 で,「 鹿 島市 」 と区別 す る た め に 常 用 漢 字 の字 体 を使 わ な い 「鹿 嶋 市 」 が誕 生 した 。 また,マ
ス メ デ ィア にお い て は,現 地 で の
字 体 を尊 重 す る動 きが 現 れ た 。 新 聞 で は 「龍 野 市 」 を常 用 漢 字 に合 わ せ て 「竜 野 市 」 とす る も の が あ っ た が,現 地 の 要 望 に よ り 「龍 野 市 」 に戻 した 新 聞 社 が あ る。 今 後,地
名 に も見 られ る一 般 的 な文 字 ・表 記 上 の現 象 の ほか に,地 名 に特 有 な
現 象 の記 述 を積 み重 ね る こ とが 必 要 で あ る。 その 上 で,相 互 に影 響 関 係 を もつ施 設 名 や姓 名 な どの 固 有 名 詞,さ
らに そ れ 以 外 の 普 通 名 詞 な どの文 字 ・表 記 との 共
通 点 や 相 違 点 を浮 き彫 りにす る こ とが 求 め られ るで あ ろ う。 注 1) 「 全 国町 ・字 フ ァ イル」 を製作 す る財 団法 人 地 方 自治 情 報 セ ン ター で も,全 国 の す べ て の小 地 名 まで は把 握 して い な い。 小 字,通 称 や,公 的 には 廃 止 され た小 字 の 中 に は,各 地 の法 務 局 や 役所 ・役 場 の土 地 台 帳 や 図 面 な どに の み残 っ て い る もの が あ る。 なお,本 稿 で は, 行 政 区画 は原 則 と して引 用 資料 の 通 り と した 。 2) 中国 の造 字 や韓 国 の造 字 に も 「垈」 が 見 え る。三 国で 衝突 を起 こ した字体 で あ る。 3) た だ し,「 田 通 」 「 通 田」 は小 地 名 にあ る。 4) 『角川 』 別巻Ⅱ 「日本地 名 総覧 」 に 「 栃 木 郷 」 とい う地 名 が古 代 ・近 世 の 岩手 にあ っ た こ と が示 され て お り,当 該 巻 に よ る と1154年
の 「平 泉中 尊寺 文 書 」 に 「 栃 木郷 」 と現 れ る とい
うが,中 世 の使 用例 が な く,近 世 に至 る。 原 文 は 「杤」 で あ ろ うか。 5)金 代 に出現 した と想 定 され た が ( 笹 原1987a),「 続 修 四 庫 全 書 」所 収 『成化 丁 亥 重 刊 改 併 五 音 類 聚 四 聲 篇海 』 に,こ の字 の 原 形 と考 え られ る 「〓」 が 出 典 「 ● 」 か ら引 かれ て い る もの の,他 の版 面 と筆 跡 が 異 な っ て お り,後 に書 き足 した もの とみ られ る。 四庫 全 書 存 目 叢 書 所 収 同版 本 で は,こ の書 き込 み部 分 が な く,後 の 万暦 版 本 で は それ が 印刷 され て い る。
文
献
エ ツ コ ・オ バ タ ・ライ マ ン (1990)『日本人 が 作 っ た漢 字 』 南雲 堂 鏡 味 明 克 (1987)「地 名 と漢 字 」 『 漢 字講 座 』3,明
治書 院
鏡 味 明 克 (1996)「地 名 と環 境 」 『 講 座 日本 の民 俗 学 環 境 の 民俗 』 雄 山閣 出 版 「角川 日本 地 名大 辞 典 」編 纂 委 員会 編 (1978∼1990) 『 角 川 日本 地 名 大辞 典 』 角川 書 店 草 薙 裕 (2000)「常 用 漢字 と地名 」 『 計 量 国語 学 』22巻4号 国土 地 理 協 会編 集 局 編 (1951∼) 『 国 土行 政 区画総 覧』 国 土 地理 協 会 見 坊 豪 紀 (1979)『こ とばの くずか ご』 筑摩 書 房 見 坊 豪 紀 (1983)『 〈'60年代 〉 こ とばの くずか ご』 筑 摩 書 房 笹 原 宏 之 (1987a) 「〈 佛 〉 の一 異体 字 〈「〓」〉 に つ いて 」 『中国 語学 研 究 開篇 』3 笹 原 宏 之 (1987b) 「 則 天 文字 の 周 圏論 的 性 質 に つ いて 」 『中国 語 学研 究 開 篇』4 笹 原 宏 之 (1990)「国 字 と位相 −江 戸 時 代 以 降 の 例 に見 る 「 個 人 文 字 」 の,「 位 相 文 字 」,「狭 義 の国 字 」 への 展 開 −」 『 国語 学 』163 笹 原 宏 之(1991)「 笹 原 宏 之(1994a)「
地 域訓 の 一考 察 − 「 硲 」 字 の 歴 史 と地 名 用字 訓 − 」 『 国 語 学 研 究 と資料 』15 地 域 文字 の 考察 − 地 名 に現 れた 日本語 表 記 の時 代 差 と地 域 差 の 一例 −」 文
化 女 子 大学 紀 要 『 人 文 ・社 会 科 学研 究 』2 笹 原 宏 之 (1994b) 「異体 字 ・崩 し字 に 字源 俗 解 を 介 した漢 字 の 国 字 化 − 「〓」 か ら 「〓」 の 派 生 を例 と して− 」前 田富祺 編 『国語 文 字 史 の研 究 』2,和 泉 書 院 笹 原 宏 之 (1996)「「JISX0208」
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∼1999年3月
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治書 院
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※本 稿 は,2002年4月
∼2004年3月
科学研 究費 補助金 若手研 究 ( B) 「現 代 日本
の 「異 体 字 」 の 実 態 に 関 す る調 査 研 究 」 に よ る調 査 研 究 の成 果 の 一 部 を含 む 。
⑨ 人 名 と漢 字
丹 羽 基 二
●1
ア グ リち ゃ ん , 今 日 は
「ア グ リち ゃ ん !」 と呼 べ ば,ふ つ う は名 前 の ア グ リだ とお も う。 しか し, 「ア グ リさ ん で す か 」 と い え ば,苗 字 の ア グ リを指 す こ と もあ る。 ア グ リは ふ つ う余 と書 くが そ の ほ か に 安 久 利,上
利,上
里,安
栗 な ど と も書
き,苗 字 に もな っ て い る。 昔 は 苗 字,名 前 の 区別 の な か っ た 時 代 もあ っ た 。 木 花 咲 爺 姫 とい う方 が 大 昔 お られ た 。 この場 合 は木 花 が 苗 字 で 咲 爺 が 名 前 とい うわ けで は な い 。 こ の長 い 呼称 はひ と つ の人 名 で 「サ ク ラ の花 が 咲 い て い る よ うな 美 し い女 の人 」 とい う こ と に過 ぎな い 。
姓 名 の 区 別 は後 世 の もの で あ る。 「じ ゃ,ど
う し て人 名 に は姓 氏 とか名 前 な どが で きた の か 」
「 人 口が ふ え,集 団 が 生 ま れ,違
った 部 族 が そ れ ぞ れ に交 流 して 生 活 を し は じ
め た か ら,区 別 が お こっ た 。 社 会 が 複 雑 に な った か ら」 「じ ゃ,そ の へ ん の 区別 か ら説 明 して くれ な い か 」 「あゝ , い い ヨ。 しか し,か な り面倒 だ よ」 「ま あ,仕 方 が な い ヨ」
じつ は,人 名 の仕 事 を長 年 や っ て い て,あ 手 をや い て い る。 人 名 は―
ま り に複 雑 な の で,筆 者 は ほ とほ と
姓 名 と も言 うが―
これ らが,ま
ず 漢 字 で あ る。 昔
は姓 氏 と い う こ と ばが あ っ た が,そ の まえ は ナ ( 名 ),ま た は ナ マ エ (名 前 ) で あ っ た 。 これ に 「名 」 と と い う漢 字 を 当 て た だ け で あ る。 また 中世 に名 字 とい う こ とば が 広 ま り,さ ら に近 世 に な っ て苗 字 が 使 わ れ た 。 と ころ が,い もい う し,名 字,苗
まで も氏 と
字 と も い う。 法 務 省 や 文 部 科 学 省 で も区 別 し て使 っ て い る
し,マ ス コ ミで も同 じ。 い わ ば混 乱 が つ づ き, 内 容 を 役 人 もマ ス コ ミも十 分 把 握 し な い で使 っ て い る の が現 状 で あ る。 さ らに 名 前 に つ い て は,歴 史 や 信 仰 の 実 態 も し らず に や た らに魔 子 や 悪魔 が い け な い字 な ど と言 わ れ て お り,JIS漢
字 や 人 名 漢 字 もつ くって し まっ た。
一 言 で い え ば,姓 名 の歴 史 は複 雑 多 岐 で や りきれ ぬ。 これ はや ま と こ と ば を漢 字 で 表 現 した た め に お こっ た宿 命 的 な 現 象 か も しれ な い。 だ か ら理 論 もへ った く れ も な い。 た とえ ば,ア
グ リ と い う名 称 を 冒頭 に 挙 げ た。 あ の こ とば も,か な り面 倒 で あ
る。 い ま そ の表 記 を再 掲 し て み よ う。 名 前 の ア グ リで は, ア グ リ あ ぐ り 亜 久 里 阿 周 余 苗 字 の ア グ リで は, 余 〓 安 久 利 安 栗 上 利 上 里 騰 余 田 安 郡 が あ り,こ れ らの 中 に は ア マ リ とよ む もの もあ り,ア マ リの よ み の 苗 字 を追 加 す る と安 幕,甘
利,天
利,天 里,天
理,余 戸,余
里,餘
な ど もあ る。 ほ とん どが 漢
字 ! で は,こ の ア グ リ とは何 か。 古 代 に 多 く用 い て い た の は余 (餘) の 表 記 で は あ るが,原 の と い う もの で,い
意 は余 分,あ
ま りも
ま とあ ま り変 わ りはな い。
古 代 の 土 地 の 区 画 で は,50戸 余 戸 と した 。 また,と
を1里
(ま た は1郷 ) と し そ れ に満 た な い 村 を
くに 百 済 な ど の渡 来 人 の 集 落 な ど に も この 語 は使 わ れ た
し,海 部 の こ と も い っ た 。
さ ら に名 前 に用 い た場 合 は,と
くに余 分 の人 で,必 要 で は な い 者 とい う こ とに
は変 わ りは な い。 しか し,何 故 そ ん な人 権 を無 視 した よ うな文 字 を使 っ た の か 。 そ れ は古 代 に お け るナ マ エ の 習 俗 か ら くる。 い ろい ろ理 由 は あ るが,生
まれ る子 が 次 々 に死 ぬ と,親 は 次 に生 まれ る子 に死
ん で も らい た くな い 必 死 の 願 い か ら この 名 を選 ぶ 。 「余 りっ 子 だ か ら,ど 逃 して 下 さ い」 と死 神 に お願 い す る。 死 神 は 可 愛 い い子 ほ ど,取
うか 見
り憑 い て 殺 すか
らだ 。 捨 , 捨 吉 な どの 名 も同 じ発 想 で あ る。 この よ うな習 俗 も,名 付 けの ほ ん の一 部 で あ る。 序 手 に付記 す るが,中 国か ら 日本 国籍 に な った方 は余 の姓 を ヨ と音 よみ して い る。
●2 人名 の大部 分 は漢字
さて,本 題 に入 ろ う。 人 名 を い ま,二 つ の部 分 に分 け る と,苗 字 と名 前 に な る こ とは前 節 で お わ か り だ ろ う。 い っ し ょに考 えて もい い が,わ
か りや す くす る た め に便 宜 上 分 け る。 ま た,苗
字 に つ い て も姓 氏 とか名 字 とか,そ の 他 の呼 称 もあ る し,名 前 に 至 っ て は 古 代 か ら男 女 さ ま ざ ま な種 類 が あ る。 実 名,仮 名,幼 名 ,諱,謚,戒
名 な ど も論 ず れ ば
1冊 の本 に な る。 しか し,そ の 中 で,カ ナ 書 き の 一 部 分 を 除 い て は 約90%が 字 で あ り,苗 字 に つ い て は99%を
漢
越 す 。 それ 故 , 好 む と好 ま ざ る とに 関 わ らず
漢 字 を無 視 して 人 名 は考 え られ な い 。 い ま,日 本 の 苗 字 の 数 は筆 者 の 計 出 で は292000を 拾 っ て い るが,約30万
越 す 。 さ らに 未 集 の もの を
と見 て よ い。 また 推 計 だ が,名 前 は,約90万
に 及 ぶ とみ
られ る。 これ ら の多 くが 漢 字 だ とす る と,そ の 活 用 度 の深 さ と広 さ に お ど ろ く。 これ らの ぼ う大 な人 名 用 漢 字 は音,訓
そ の 他,当 て 字 等 さ ま ざ ま な表 記 に よ っ
て千 変 万 化 す る。 これ も ま た世 界 一 だ。 こ う した 特 殊 性 を もつ 日本 の人 名 に つ い て,全 貌 を 語 る こ と は難 事 で は あ る が,そ
の 具 体 例 を二,三
挙 げ て み て,読 者 の 参 考 に して頂 きた い。
「一 口」 姓 を見 て み よ う。 この よみ 方 を挙 げ る と
・音 よみ : イ チ ク チ イ チ グ チ ・音 訓 交 混:
イ チノクチ
・訓 よみ : ヒ トク チ カ ズ ク チ モ ロ クチ モ ロ グ チ ・当 て よ み : イ モ ア ラ イ モ ア ラ イ イ モ ラ イ とな る。 同様 に 「神 代 」 とい う苗 字 は, ・音 よみ : シ ンダ イ ジ ンダ イ ・音 訓混 交 : カ ン ダ イ コ ウ ダ イ ・訓 よみ : カ ミ シ ロ コ ウ シ ロ カ シ ロ カ ミヨ ・当 て よみ : タ マ シ ロ ク マ シ ロ な どが あ り,前 者 に はイ モ ア ラ イ に芋 洗,後
者 は神 神 と神 と も区 別 して 苗 字 で は記
す る。 さ らに ワ タ ナ べ,ス
ズ キ な どに 至 って は30以 上 も漢 字 表 記 が 生 まれ る。
個 人 を特 定 す る原 則 か ら み れ ば,こ れ らを 同一 視 す る こ と はで き な い 。 そ の ほ か い ろ い ろ の 問題 が あ る。そ こで 大 ざ っ ぱ に一 応 の ワ ク を設 け て お く。人 名 と は, (1)現 代 の人 名 を 中心 に述 べ る, (2)姓 氏 (し ょ う じ),姓
(カ バ ネ ),氏
(う じ),名 字,苗
字 に つ い て は,
原 則 と して 苗 字 の 表 記 で統 一 す る, (3)この 場 合 苗 字 とは,現 代 の家 名 ・家 号 を意 味 す る, (4)名,名 前 とい う場 合 は,姓 名 の う ちの 名 を指 す, こ とに す る。
●3
苗 字 と漢 字
前 述 した よ う に,苗 字 に使 わ れ る漢 字 が どれ く らい あ るか を,も
う少 し精 し く
つ つ け て み る。 資 料 は,拙 著 の 『日本 苗 字 大 辞 典 』(三 巻,芳 本 は,29万
文 館 刊,1996年)に
よ る。 この
余 の 苗 字 を収 録 した も の で,現 在 出 版 さ れ た 苗 字 辞 典 で は 最 多 の も
の と い え る。 具 体 的 に述 べ れ ば
① 収 録 苗 字 総 件 数 :291531件 ②JIS辞
書 既 存 漢 字 使 用 数 :278000件
③ 芳 文 館 で 制 作 した文 字 使 用 数 :12928件 ④1文
字 の 苗 字 の 数 :6632件
⑤2文
字 の 苗 字 の 数 :212865件
⑥3文
字 以 上 の 苗 字 数 :71431件
余
で あ る。 さ ら に漢 字 に つ い て は次 の こ とが わ か っ た 。 本 書 で 使 用 さ れ て い る漢 字 数 は6752字 と,表9.1の
で,使 用 回 数 の 多 い 漢 字 を順 に 並 べ る
よ う に な る。
な お 使 用 回 数1回
の漢 字 は155個
あ る。 い ま そ の 中 で30個
ばか り挙 げ て み る
と, 〓 椡 鼬
殴 〓 仂 〓 馭 髯 漾 〓 陂 〓 〓 〓 〓 〓 蠎 〓 翡 〓 湘 〓 佳 荵 轌
泪 鵲 咫 嫦 綸
とな る。 次 に苗 字 に使 わ れ る漢 字 の 変 化 に つ い て 考 え て み る。 た とえ ば,1例
だ が,
・吉 田 と吉 田 ・嵓 と嵒 ・石 川 と〓 川 と〓川
表9.1 使 用 回 数 の 多 い 漢 字
・斉 藤 と斎 藤 と斉 藤 と〓藤 と〓藤 ・〓刀,功 刀,功
力,巧 力,切
刀 (と も に ク ヌ ギ)
・栃 木,橡 木,杼
木,栩 木,櫟
木,樗 木 (と もに トチ ギ )
さ ら に ワ タ ナ べ姓,ス
ズ キ姓 な ど は30以 上 の漢 字 表 記 が あ る ( 例 後 述 )。
漢 字 学 者 は,正 体 とか 略 体,変 体,異
体,俗
体 な ど,い ろい ろ な名 前 を つ け て
い る。 が , そ れ らか ら喰 み 出 た文 字―
日本 人 の つ くっ た和 製 の 漢 字?
もある
し,一 見 誤 記 と も とれ る よ うな もの もあ る。 しか し,名 前 に つ い て は人 名 用 漢 字 が 制 定 され て,制 限 は う けた もの の,苗 字 に つ い て は,法 規 以 前 の もの が存 続 す る 。 そ れ ら を総 合 す る と,人 名 表 記 は漢 字 とや ま と こ とば を基 盤 に した あ ら ゆ る文 字 表 記 の 集 積 で あ る とい え る。 これ らの こ とか ら,こ れ を法規 や,政 策 的 私 観 で 規 制 す る こ とに 無 理 が あ る こ とが わ か る 。 と くに人 名 は個 人 を特 定 す る 。 漢 字 問 題 につ い て人 名 漢 字 を抜 き に して 論 ず る こ と は意 味 が な い 。
●4 画数 の少 ない漢字苗字
漢 字 は画 数 が 大 き な影 響 力 を もつ 。 い ま試 し に画 数 で まず 少 な い もの か ら見 て み よう ( 該 当 は頭 初 の文 字 の み )。
● 5 画 数 の 多 い 漢 字 苗 字
次 に,画 数 の 多 い漢 字 苗 字 を以 下 に示 す(該
当 は頭 初 の文 字 の み)。
● 6 国 字(和 製 漢 字)の 苗 字
国 字 の苗 字 の例 を約200種,以
下 に 示 す(傍 点 ・は 漢 字)。
以 上 は 国 字 苗 字 の 一 部 で あ るが,次
に 国 字 につ い て の 説 明 を加 え る。
● 7 国 字 の 苗 字 に つ い て
漢 字 学 者 は,中 国 三 千 年 来 の漢 字 に圧 倒 され て か ど うか 知 ら な い が,漢 字 尊 重 論 者 に な っ て い る方 が 多 い 。 そ れ は,決
し て悪 い と はい わ な い 。 しか し,漢 字 の書 き方 が 悪 い とか,テ
ンが
あ る とか な い とか で す ぐ問 題 にす る。 た と え ば,「 木 の 根 も とが は ね る の はい け な い」 な どで 書 き取 りをバ ツ に され た りす る小 学 生 が 昔 は い た 。 活 字 の木 が はね て な い か ら とい っ て,こ
う教 え られ
て はた ま っ た もの で は な い 。 木 の根 も と はハ ネ て もハ ネ な くて もい い 。 じっ さ い の 木 は ど ち ら も あ る し,テ ン に つ い て も同 じで,テ
ン の あ る苗 字 もな い の もあ
る。 い ま,〓 の 字 の 苗 字 を拾 っ て み る と, 〓
井,〓
な ど32姓
浦,〓
屋,〓 橋,〓 江,…
…
あ る。 さ らに〓 で は な く〓 の苗 字 も あ る。
漢 字 辞 典 に は な い か ら〓又 は〓 は国 字 とな る。 わ れ わ れ の祖 先 が つ くっ た 文 字 で あ る。 仮 名 も祖 先 が つ くっ た 日本 製 の 文 字 な の で 区 別 して,国 字 とか和 製 漢 字 な ど とい っ て い る 。 テ ン 1個 な ら,か んた ん だ が,見 た こ と もな い 文 字 とな る と,ち ょ っ と困 る。 前 に挙 げた が 〓 の 字 の 苗 字 の 人 が い る。 木 の 枝 が な い か らエ ダ ナ シ,枝 が も げ て い るか らモ ゲ キ,モ ギ キ と もい う。 北 海 道 と四 国 に い る。 十 と い う苗 字 も あ る。 ツナ シ とよ む。 一,二,三
を ひ とツ,ふ た ツ,み っ ツ と
よ ん で こ この ツ の 次 は トオ と な る。 「ツ」 が た し か に な い 。 し か し十 は そ の ほ か ミ ツル,ジ
ユ ウ,ヨ
コ タテ と も よむ が〓 と間 違 い や す い 。〓 は神 を呼 ぶ,招 神 の
御 柱 で あ る 。 目 に つ きや す い よ うに横 棒 を付 け た。 横 棒 は 「こち らで す ヨ」 と神 の 目 に つ く目 じ る しで あ る。 古 代 は こ う して 神 を 呼 び,庶 民 は神 に願 い ご と を し た 。 こ の神 聖 な 御 柱 の も と に 神 社 が で き る。 この 行 事 を司 る の が 鈴 木 神 主 で あ る。 だ か ら〓 さ ん は鈴 木 さ ん の こ とで 御 柱 の 別 称 だ が 図 形 で あ らわ した の が〓 だ 。 そ れ故〓 さ ん は時 に ス ズ キ さん と も呼 ば れ て もい る。〓 が 活 字 に な い の で 鈴 木 に変 え た 人 もい るが,筆 者 は〓 の 文 字 をぜ っ た い に残 して も らい た い とお もっ て い る。 この 字 一 つ で,日 本 の 歴 史 が わ か る。 つ い で に 言 う と鈴 木 姓 が 多 い の は,こ の文 字 の霊 威 で,神
の 恵 み を受 け た い か らで もあ る。 鈴 木 姓 も,鈴 を な ら
し て神 を 呼 ぶ こ と に 当 て た が,な
に も これ に こだ わ る必 要 は な い。 次 に い ろ い ろ
な 漢 字 を 当 て た もの な どを挙 げて お こ う。 ふ る くは ス ス キ と呼 ん で い るが,ど
ち
で もよい。 枚 木 錫 錫木 寿々木 寿々喜 寿州貴 寿州 木 寿洲貴 寿洲木 寿松 木 寿木 周 々木 周木 鋤 尻林 進木 進来 須 々木 須々岐 須 々記 酢 月 椙木 椙 林 雪 鐸 木 都築 梼 木 楳 薄 薄木 盆 涼樹 涼木 鈴 々木 鈴紀 鈴紀 鈴 杵 鈴鹿 鈴酒 鈴樹 鈴城 鈴置 鈴木 鈴来 涼木 壽々木 壽州木 壽松木 壽 木 壽壽 喜 壽壽木 梼 木 鱸 魲 固々木 寿数喜 渚〓 渚鋤 清 鍬 盆城 濯 な ど(精 し くは 『日本苗 字大辞典』 を参 照)。 国字 は数 え方 によって多少 はちが うが,約1500ほ
どあ る。漢字 の略体,異 体,
俗体 な どは これ に入 れ な いのが ふつ うで あ る。実 にそ の 7割 は苗 字 に入 って い る。 この国字 を無視 す るこ とは祖先 に対 す る冒〓であ る。
● 8 『日本 苗字大辞 典』 で使用度 1回の漢字苗 字(又 は国字)
次 に漢 字 苗 字 の 使 用 度 数 1回 の もの を挙 げ て お く(傍 点 ・の つ い た もの)。 (1)〓 ば ん 〓 はバ ン と音 で よ み,馬 の 首 飾 りを指 す。 た だ し こ こで は栃 木 県 足 利 市 に あ る 〓阿 寺 の 1字 を寺 僧 が 苗 字 に した 。〓 阿 とは 梵 語 の字 音 で,大 る。〓 阿 寺 は 真 言 宗 大 日派 の 本 山 で 建 久 年 間(1190∼98年)に
日如 来 の こ とで あ 足 利氏 が氏 寺 と
して 私 邸 内 に建 て た 。 寺 内 に は足 利 学 校 も建 て て い る 。
(2)墹 仲 ま まな か 墹 は 国字 。 地 名 は静 岡 県 田 方 郡 伊 豆 長 岡 町墹 が あ る 。 マ マ とは,自 然 の まま で 手 が 加 わ っ て い な い,と 地 名 と して は墹 上,墹
(3)畩ヶ
い う原 意 が あ る。 具 体 的 に は 荒 地,崖
ふ ち,湿 地 な ど。
下 な ど もあ る。
山 け さが や ま
畩 は 国字 。 地 名 に 由来 す る。畩 の 字 は 田 と衣 の 合 字 で,、田 の仕 事 をす る た め の 労 働 服 で あ る。 近 くの 山 の 形 が 僧 衣 で あ る袈 裟 が け の よ う に 傾 斜 して い るた め
か。 地名 は鹿 児 島 県 曽於 郡 末 吉 町畩 ケ 山。
(4)藤垈
ふ じぬ た
垈 は 地 形 語 で 国 字 。 ヌ タ とい い,ぬ
る っ と した 泥 地 帯 を い う。 地 名 の 在 所 は 山
梨 県 東八 代 郡 境 川 村 藤垈 で,苗 字 は こ こが 発祥 地 。
(5)湘 南 し ょ うな ん 相 模 国 の 南 部,相 模 湾 一 帯 を ば くぜ ん と相 南 とい っ た が,の
ち〓 を つ けた の
は,中 国 湖 南 省 の湘 江 南 部 の景 勝 地 に か よわ せ て 文 人 が飾 った もの で あ る。 特 定 の 地 名 で は な い 。 も っ と も現 在 地 に す れ ば,平 塚 市 あ た り を 中 心 に,西 町,東
は二 宮
は藤 沢 市 あ た りま で を 指 し て い る。
(6)瘧 師 ぎ ゃ くし 地 名 は富 山県 砺 波 市 鷹 栖瘧 師 と して 現 存 。瘧 とは昔 の お こ り,い まの マ ラ リヤ で,瘧 師 とは この 治 療 に あ た る特 殊 な 医 者 の こ と。
(7)驫 と ど ろ き 地 名 は青 森 県 西 津 軽 郡 深 浦 村驫 木 。 馬 の 合 字 で,日 本 海 の荒 波 が と どろ く意 味 で あ る。 轟,轟 木,轟
原,等
々 力,二
十 六 木 な どの地 名,苗 字 もあ る。
(8)轌 の 目 そ りの め 轌 は 国字 。轌 の つ く地 名 は秋 田市 に轌 町 と して み られ る。橇 と同 じ く雪 上 を は し る 車 の こ と。 但 し ソ リ と は焼 畑,川
の 反 っ て い る(曲 っ て流 れ る)地 形 な どの
意 味 が あ る。 目 と は小 地 域 。 年 貢 米 をつ ん だ ソ リが,こ
こに集 ま っ た,と
いう こ
と を あ らわ して い る。
(9)翡 翠 ひ す い 地 名 は新 潟 県 糸 魚 川 市 小 滝 川 に あ る。 周 辺 の 一 帯 は翡 翠 の 産 地 と して 知 られ る。 こ とに 隣 接 の 青 海 町橋 立 峡 は 有 名 。 これ よ り地 名 と苗 字 に な っ た。
(10)三椡
み つ くぬ ぎ
椡 は国 字 。 ク ヌ ギ は切 りた お して薪 炭,建 材 な どに 用 い る。 木 と到(倒)の 字 。 在 地 は新 潟 県 北 蒲 原 郡 豊 浦 町 ほ か に あ る。 ク ヌ ギ は,ほ か に椚,櫟,功 柞,〓
合 刀,
な どの文 字 も 当 て,苗 字 に もな っ て い る。
● 9 数 の多 い苗字30姓
数 の 多 い苗 字 に つ い て,多
い順 に30姓 挙 げ て み る(表9.2)。
苗 字 の あた ま に つ い て い る印 の ×は音 よ み,△ は音 訓 交 ざ りよ み,印 の は み な訓 よ み を 示 す 。 また,数 字 は概 数 で あ る(な お,精 苗 字 ベ ス ト10000』(2001年)を これ ら30姓 の う ち,音 佐 々 木,斎
藤,阿
のない も
し い数 字 は 『日本 の
参 照)。
よ み,音 訓 交 ざ りよ み を拾 う と,佐 藤,伊
部 の 6姓,30姓
藤,加
藤,
の う ち の 2割 で あ る。 あ とは み な 訓 よ み す な
わ ち や ま と こ とば で あ る。 しか し以 上 の 6姓 の う ち で も,佐 々 木,阿 部 は,じ つ は 漢 字 は 当 て た もの で, 本 来 は や ま と こ とば,た ば(和 語)で ば,約
とえ ば佐 々 木 とは狭 , 陵,笹 木 な どの こ とで や ま と こ と
あ り,阿 部 も当 て 字 で,湿 地 帯 の こ とで あ る。 す る と これ らを除 け
1割 強 が 音 よ み で 他 は み な 訓 よ み で あ る。 す な わ ち 日本 固 有 の や ま と こ と
ばで あ る こ とが わ か る。
表9.2
数 の 多 い 苗 字(多
い 順 に30姓)
●10 名 前 と漢 字
次 に名 前 表 記 に つ い て 述 べ る。 名 前 の 表 記 で は,か
な文 字 の もの も よ く目 に つ く。 女 性 で は林 あ ま り,山 本 リ
ン ダ,檀 ふ み な どの タ レ ン トが そ うだ し,男 性 で も ア キ ラ,キ
ヨ シ,ひ
が み られ る。 しか し,や は り大 部 分 は漢 字 で あ る。 そ れ も真 育(マ (ユ ー ゴ ー),安
奈(ア
ン ナ)な
ろみ な ど
イ ク),由 郷
どの よ うに英 語 圏 で も通 用 す る もの まで も広 ま っ
た。
最近 誘拐事 件で報道 された兵庫 県三木市 の小学 1年生 の近藤騎士君 の例 で は騎 士 を ナ イ トと よ ませ る。 これ も洋風 に通 じ,漢 字 と う ま く合 体 さ せ て い る。 この 味 は ロー マ字 や か な な どの 文字 だ け で は 絶対 に 出 な い 。 2001(平
成13)年12月
1日 に お 生 ま れ に な られ た 皇 太 子 内 親 王 敬 宮 愛 子 さ
まに あや か って 「愛 」 とい う字 が これ か らふ え て くる こ とだ ろ う。 こ の愛 の字 も
次 の よみ 方 が あ る。 愛 あ い い と し ちか し な る こ め ぐむ よ しみ 愛 子 あ い こ な る こ あや し こ れ ら も漢 字 だ か らで あ り,か な文 字 で は この よ み は お こ らな い 。 愛 の字 は も と も と は〓 で,「旡 」 は ふ り返 る,「 心 」 は こ こ ろ,「夂 」 は足 を 止 め る こ とで あ る。 留 ま りふ り返 っ て,相 手 をい つ くし む こ と(新 版 『漢 語 林 』)を あ らわ す。 こ う した こ とか ら,文 字 の 画 数 とか,さ
ら に陰 陽 な ど とも結 び つ き,吉 凶 を 占 う
こ と も生 まれ た 。 文 字 のパ ズ ル,組 合 わ せ の字 解,十 二 支,十 干 な ど と も関 係 して,漢 字 の 複 雑 さ が 増 して きた 。 これ は人 間 の 智 的,情
的 な感 覚 を刺 激 す る。 苗 字 は生 まれ た と
きか ら決 まっ て い るが,名 前 は 自 由 に(と い っ て も常 用 漢 字 プ ラ ス人 名 用 漢 字, 計2229字
以 内 だ が)付
け る こ とが で き る。 そ こ に名 付 け の妙 味 もあ るわ け で あ
る。 さ て,名 前 は い ま ど の く らい の 数 が あ る か。 苗 字 の約 3倍 の90万
と推 計 す る。 そ の根 拠 は 朝 日生 命,第 一 生 命,明
治生 命
各 保 険 相 互 会 社 の 資料 室 に問 い合 わ せ た 総 合 結 果 に よ る。 この 中 で,漢 字 は約90%を は あ る 高 等 学 校 約1000名
超 え る。 の こ りの10%は,か
な で あ る。 この 根 拠
の 卒 業 生 名 簿 の 調 査 に よ る 。総 じ て男 子 の 場 合 は ほ と
ん ど漢 字 で あ る。 また,音
よ み の名 が 多 少 ふ え て い る。 か な の ほ とん ど は 女 子 名
で あ る。 しか し,女 子 の場 合 も,か な 書 きが へ り漢 字 音 よみ が ふ えた 。
●11 名 前 の 表 記 の多 彩 さ
男性 の 名 前 が ほ とん ど漢 字 で あ る の に対 して,女 性 名 は,平 安 時代 にか な文 字 が 広 ま っ て,ご
く一 部 の貴 族 をの ぞ い て,か
な―
と くにひ らが な が 広 ま っ た 。
この 傾 向 は,平 安 時 代 以 降 もつ づ い て,現 在 に及 ん で い る。 た とえ ば,
きみ まつ う め と よ き く
な どは,ず
っ と一 般 的 につ づ い た 表 記 だ が,こ れ が 明 治 に な る と,
キ ミ マ ツ ウメ トヨ キ ク
な ど とカ タ カ ナ に な り,昭 和 に な る と,
君 子 松枝 梅 子 豊 子 菊江
な どの 漢 字 に な る。 さ らに 現 代 は,君 子 も希 美,紀 美,喜 も万 津 江,松 栄,松 豊 子 も十 世 子,都 江,菊
衛,松 世 子,登
江,真 津 恵,梅 代 子,東
子 も有 未,卯
洋 子,杜
美,貴
女,梅
美,帰 美,松 枝
乃,梅 香,梅 路,
代 子, 菊 江 も紀 久 枝,貴
久 栄,掬
絵,幾 久 恵 な ど と当 て 字 の佳 字 を 用 い る傾 向 が 多 くな っ た 。 な お最 近 に な
っ て,マ
ス コ ミの 影 響 な どか ら女 性 も,
菜 萌 織 彩 香 葵 咲 奈 海 美 愛 遥 舞 玲 明 優 茜
衣 麻 尋
な どの 漢 字 を用 い る こ とが ふ え て きた(14節
参 照)。
これ も一 時 的 な現 象 か も しれ な い が,女 性 も漢 字 を工 夫 して 用 い る傾 向 は ます ます 進 んで い る。 か つ て の や さ しい か な書 き は だ ん だ ん す た れ て きて い る。
●12 画数 の少 ない名前漢字 の例
画 数 の少 な い名 前 の 漢 字 の例 を以 下 に示 す 。 2字 以 上 の 名 前 は 冒 頭 の文 字 の み が 該 当。
●13 画 数 の 多 い 名 前 漢 字 の 例
画 数 の 多 い 名 前 の漢 字 の 例 を以 下 に示 す 。 2字 以 上 の名 前 は 冒頭 の 漢字 の み が該 当 。 な お芸 名,筆
名 な ど も含 む 。
●14 年代 的 にみ られ る名 前の傾 向例
次 に 掲 げ た 表9.3は1913(大 及 び2000(平
成12)年
の,男
正 2)年,1927(昭
和 2)年,1990(平
成 2)年
女 の 名 前 の 多 い もの を示 した 。 大 正 の は じ め に
「正 」 や カ タ カ ナ の 女 性 名 が 多 く,昭
和 の は じ め に 「昭 」 や
「和 」,女 性 名 の 漢 字
の 増 加 が 目立 つ。 平 成 の は じ め は翔 や 彩,2000(平
成12)年
は 「輝 」 や 「翔 」
や 「美 」 や 「月 」 な どが 多 い 。2000年 で は女 性 名 の 1位 は 「さ く ら」 とか な で は あ るが,全 体 的 に は マ ス コ ミの 影 響 と と もに 女性 も漢 字 表 記 が 相 変 わ らず 増 え て い る傾 向 が 見 ら れ る。 表9.3
各 年 代 に よ る 名 前 の 多 い順 位(*
は 同 順 位,明
治 生 命 の 調 査 よ り)
●15 名 前 に用 い られ る漢 字 の 多 様 姓
(1)2000年
生 ま れ の 男 の 子 ユ ウ キ ち ゃ ん の漢 字 表 記 の 例
(2)2000年
●16
ま
生 まれ の女 の 子 ア ヤ カ ち ゃ ん に 当 て られ た 漢 字 表 記 の例
と
め
明 治 以 後 現 代 まで の 漢 字 の名 前 の つ け方 は,歴 史 上 著 名 な 人 物 や 尊 敬 す る人 物 に あ や か っ て付 けたり,祖
先 の通 し名(排 行)を
付 け た り,十 二 支,十 干 に よ っ
た り,人 気 タ レ ン トな ど の文 字 を も ら っ た り,動 植 物,用
具 か らな ど と さ ま ざ ま
で あ る。 ま た前 述 の よ う に外 国人 の 名 に 由来 す る もの もあ るが これ も漢 字 の 当 て 字が多 い。 要 す る に,漢 字 を利 用 す る こ と に よ っ て名 前 も 内容 が そ れ だ け滋 味 を ます 。 よ み づ らい とか む ず か しい とか の意 見 も あ る が,そ れ は 自然 に淘 汰 され る。 以 上 を総 合 す る と,漢 字 を は ず して 人 名 は成 り立 た な い の で あ る。 な お,最 後 に名 前 につ い て注 意 す べ き こ と を述 べ る。 そ れ は, 「実 名 は秘 名 で あ る」 とい う こ とだ 。 他 人 に はや た らに 教 え て は い けな い とい う古 来 の習 俗 で あ る。 『万 葉 集 』(3102)に,
た らち ね の 母 が 呼 ぶ な を 申 さ め ど
道 ゆ く人 を 誰 と知 りて か
とあ る の が それ で,知
ら ぬ男 に 「お ま え は何 とい う名 か 」 ときか れ て 「ゆ きず り
の 男 な ん か に母 だ け が 知 っ て い る この 名 を 申上 げ る こ とな どで き ませ ん ヨ」 と い う こ とで あ る。 これ が 実 名 で あ り,心 を許 す人 の ほ か は 実名 は知 らな か った 。 も し相 手 に この 実 名 を打 明 け る と き は,身
も心 もす っか り許 して い い と き なの で あ る。
した が っ て,昔 は,女 性 名 は ほ とん ど知 る こ とが で きな い。 古 代 の文 献 に残 っ
て い るの も,実 名 は ほ ん の わ ず か で,あ
と は字―
す なわ ち別 の呼 び名,別
通 称 で あ る。 実 名 が わ か らな い の だ か ら仕 方 が な い 。 そ れ で,適 徴 な ど を と らえ て 赤 人 とか,馬
称,
当 に その 人 の 特
子,黒 女 な ど と言 っ た り もし た。 だ か ら,文 献 に
は これ に彦 とか姫 な どを つ け て尊 称 した 。 平 安 の 頃,内 親 王 な どに掲 子,怙 子, 濃 子,述
子 な どの 名 が あ る が,正 式 な よ み 方 は わ か らな い。 和 訓 が あ る に違 い な
い が,わ
か らな い か ら,歴 史 家 は音 で よん で い る 。 現 在 も,
紀 宮清子 内親王
三 笠宮容子 内親王
な どは 正 式 の 呼称 は なか な か よむ の が む ず か しい 。 これ は,古 来 か らの 実 名 敬 避 の 習 慣 が 現 在 ま で つ づ い て い る とい う こ とだ。 『源 氏 物 語 』 を書 い た 紫 式 部 も 『枕 草 子 』 を書 い た 清 少 納 言 も,と
もに 他 人 が
つ け た 通 称 で,本 名 は わ か らな い 。 江 戸 時 代 は女 性 名 は,庶 民 は ひ らが な,カ
タ カ ナ が 多 か っ た が,そ れ で も上 流
階 級 は 女 性 も格 の 上 の 漢 字 を使 った 。 い ま,前 述 の2000年
生 まれ の 男 の 子 の 名 ユ ウ キ ち ゃ ん の 表 記 が50以
上 に及
ぶ。 「う ち の 子 の 湧 稀 は 勇 気 と違 う ん だ 」 と い う秘 密 と 自負 を もっ て い る に違 い な い 。 ア ヤ カ ち ゃ ん も,戦 前 な ら綾 子 とか あ や 子 とか に す る と ころ。 しか し漢 字 の もつ 特 殊 性 は い く らで も発 展 し得 る。 そ こ に漢 字 の 魅 力 が あ る。 音 標 文 字 論 や,や が,漢
さ しい 表 現 を訴 え る こ とは大 切 で あ る
字 の もつ 不 思 議 な力 は,そ ん な こ とで,お 文
と ろ え る こ とは な い。
献
荒 木 良造 編 (1959)『名 乗辞 典 』 東 京堂 金 井 弘夫 編(1994)『
新 日本 地 名 索 引』 ア ボ ッ ク社 出版 局
日外 ア ソシエ ー ツ株 式 会 社編(1990)『
日本姓 名 よ みふ り辞 典 。 名 の部 』 日外 ア ソ シエ ー ツ
日外 ア ソ シエ ー ツ株 式 会 社編(1990)『
日本 姓 名 よ みふ り辞 典 。 姓 の部 』 日外 ア ソ シエ ー ツ
丹 羽 基二 編(1996)『 村 山 忠重(2003)『
日本 苗字 大 辞典 』 全 三 巻,芳 文 館 日本 の 苗字 ベ ス ト30000』 新 人 物 往 来 社
『日本 の苗 字 ベ ス ト10000』(2001)別
冊 歴 史読 本64号,新
人 物 往 来社
⑩ 漢字 の クイズ
靏岡 昭 夫
● 1 は じ め に
漢 字 と ク イ ズ とい う こ と に つ い て筆 者 に は深 い思 い 出 が あ る。 今 か ら30年 ほ ど まえ の1972(昭
和47)年,写
研 が 主 催 す る 「漢 字 読 み 書 き大 会 」1) の 出題 者 メ
ン バ ー に加 え て も ら っ て,毎 年 l回,20年
間 に わ た っ て 出 題 を担 当 した 。 メ ン
バ ー は 主 幹 の 斎 賀 秀 夫 氏 を は じ め,野 村 雅 昭 氏,中 で,同 年 7月 か ら1991(平
野 洋 氏(故
私 の 4名2)
成 3)年 ま で 続 い た 。 そ の の ち 写 研 主 催 の イ ベ ン ト
は,「 日本 語 と遊 ぼ う会 」 と名 前 や性 格 を変 え て3),1992(平 年 まで10回(10年
間)に
が,木 村 義 之 氏,高
橋 淑 郎 氏(中 途 か ら参 加)の
通 じて延 べ10万
人)と
成 4)年 か ら同13
わ た り続 け られ た。 この 出題 に は 主 幹 の 野 村 氏 と筆 者 協 力 を得 て 当 た った 。 両 大 会 を
人 近 い 挑 戦 者 の 方 々 に 問 題 を作 成 し提 供 して きた こ とに な る。
そ の 中 で,筆 者 は漢 字 ク イ ズ の 部 門 を重 点 的 に任 せ られ て,毎 め て い た もの で あ っ た 。2001(平
成13)年
年 の よ う に頭 を痛
に 「日 本 語 と遊 ぼ う会 」 が 終 回 を迎
え た この機 に あ た っ て,本 漢 字 講 座 に往 時 を顧 み て ま とめ る こ とに した 。 「漢 字 ク イ ズ を任 され て,毎
年 の よ う に頭 を痛 め た 」 と書 い た が,20年,30年
とい う長 期 的 展 望 が 初 め か らあ った わ け で は な く,毎 回,前 年 まで の 問 題 を見 な が ら今 年 は どん な 問 題 に し よ うか な ど と,そ れ こ そ場 当 た り的 に30年 作 り続 け た とい うの が 実 際 の と こ ろで あ る。 それ で も30年 た っ て み る とか な りの デ ー タ が 集 ま っ て い る。 漢 字 講 座 とい う以 上 学 術 的 な研 究 成 果 が 期 待 され るか と思 う
が , 出 題 の 流 れ や,挑
戦 者 の 方 々 の で き ば え な ど に つ い て の 分 析 は今 後,時
間を
か け て じっ く りお こ な うつ も りで あ り,今 回 は これ まで に作 成 ・出題 した クイ ズ を 分 類 し,簡 単 な考 察 を述 べ て み る こ とに した。 今 後,ク
イ ズ を作 成 し よ う とす
る人 の 役 に 立 つ こ とが で きた ら幸 い で あ る。
● 2 漢字 ク イズ の分類 と分析
漢 字 に は形(構
造 を含 む),音(音
訓),義(意
味),歴
史(日 本 製 漢 字 も含 む)
な どい ろ い ろ な要 素 が あ る。 ク イ ズ を作 る と きに は これ ら を考 慮 して,場 合 に よ っ て は似 た パ ター ンの もの を故 意 に続 けた こ と もあ るが,原
則 的 に は毎 年 違 うパ
タ ー ン の問 題 を作 る よ う に心 が けた 。 その パ タ ー ン に よ っ て 問 題 を分 析 して み る こ と にす る。 全 問 題 を掲 出 した い と こ ろで あ る が,紙 面 の都 合 で,す る こ とが で き な か っ た 。 また,各
問 も,例 題 と2,3の
べ て を挙 げ
問 を挙 げ る だ けの もの が
多 い 。 そ の ば あ い は類 題 に つ い て解 説 で ふ れ る こ と に した。
(1)字 形 に 関 す る もの 《漢 字 4分 割 》 [問]次
の 図 は,漢 字 1字 を縦,横
に 4分 割 して 並 べ た もの で す 。 向 き は変 え
て あ りませ ん が,位 置 は変 え て あ ります 。 も との 漢 字 を書 い て くだ さ い
[解 説]同 ⑨ 機,⑩
様 に し て 問 題 に挙 げた もの に,④
駅,⑪
立 , ⑫ 回,⑬
目,⑭
音,⑮
起,⑤
元,⑥
転 , ⑦ 道,⑧
泳,
由 な どが あ る。 い ず れ も四 つ に 分
解 して 並 べ る と,意 外 に面 食 ら う もの ば か りを選 ん だ 。 部 門別 の 正 解 率 は 次 の と
お り(数 字 は% 。 少 年 は小 中 学 生,青
少 年65.8
青 年80.1
年 は高 校 一 般 の うち40歳
熟 年51.0
未 満)。
全 体61.4
こ の種 の 問 題 に対 す る適 応 力 の差 が は っ き り と現 れ て い る。 [解 答]①
草 ② 野 ③ 記
《共 通 の パ ー ツ を 消 し た漢 字 群 》 [問]次
の 各 四 つ の漢 字 は,あ
る字 が 同 じ位 置 に 付 く とす べ て別 の 漢 字 に な り
ます 。 どの よ う な漢 字 が 付 くか 書 い て くだ さ い 。 ( 例)月
召
音
央
(例)(日)
青
(明 ・昭 ・暗 ・映 ・晴)
①
名
失
同
令
広
①(
)
②
口
耳
日 木
各
②(
)
[解 説]問
題 はわ か りや す い の だ が,い
ざ答 を考 え よ う とす る と意 外 に出 て こ
な い よ うで あ る。 ほ か に 出 題 した も の,あ 相
云
務
路(雨),④
(米),⑥
寺
官
才
寸
⑪ 玉
合
反(木),⑨ 井
[解 答]①
大
寸(口 金(銘
工 即
分
氏
冬
付(竹),⑦ 化
代
任
る い は し よ う と し た も の に,③
吉
申(糸),⑤
舌
公
次(貝),⑩
= くに が ま え),⑫
口
火
・鉄 ・銅 ・鈴 ・鉱) ② 門(問
式 子 多
青 売
立
斗
占
唐
毎
古
炎(言),⑧
市
台
少(禾)が
良
田
家(女),
あ る。
・聞 ・間 ・閑 ・閣)
《漢 字 の パ ー ツで し り と り》 [問]字 ん,つ
形 の し り と り問 題 で す。 二 つ に分 か れ る字 形 を も つ 漢 字 の 一 部(へ
く り,か ん む り,あ しな ど)を 先 頭 の 漢 字 か ら順 に,ど
こか の 位 置 に 受 け
継 い で 漢 字 を二 つ作 り,先 頭 と最 後 の漢 字 をつ な げ て くだ さい 。 答 は間 の二 つ の 漢 字 を順 に書 い て くだ さ い。
[解 説] 一 部 を受 け継 い で つ な げて ゆ く し りと りは,漢 字 を 教 育 漢 字,常
用漢
字 に 限 定 し な い と どん な 別 答 が 出 て くるか わ か らな い 。 こ こで は常 識 内 で の 答 と す る。 こ の ほ か に 出 題 した もの に ③ 雪 →〓
→〓→ 草(雷
→ 歩(砂
どが あ る。 ③ の答 は(露
・秒),⑤
行 →〓 →〓 →記(徒
・起)な
・苗),④
岩 →〓 →〓 ・蕗)
で も,常 識 内 の 漢 字 と し て正 答 とす る。 [解 答]①
通 ・痛 ② 姉 ・妹
《誤 りや す い,似 た 形 の漢 字(同 画 数)》 [問]次
の 空欄 ア,イ
に は そ れ ぞ れ 同 じ画 数 で形 の 似 た 漢 字 が入 りま す。 その
漢 字 を答 え て くだ さ い。()内
[解 説]い
の 数 字 は共 通 の 画 数 を示 し ます 。
わ ゆ る 「魯 魚 の 誤 り」 とい う よ うに字 形 の 似 た 漢 字 を ま ちが っ て 書
くこ とが あ る。 そ こで 画 数 が 同 じで形 の似 た 漢 字 の ク イ ズ を作 っ て み た 。 ほ か に 出 し た 問 題 は ③ 刀 ・力,④ 苦,⑨
電 ・雷,⑩
牛 ・午,⑤
矢 ・失,⑥
氷 ・永 , ⑦ 天 ・夫,⑧
若 ・
犬 ・太 。 ⑩ の 問 題 は 漫 画 「ドラ え もん」 で の び 太 が 自分 の名
前 を 「の び犬 」 と書 い て失 敗 す る話 か ら思 つ い た もの で あ る。 [解 答]①
ア・入/イ.人
② ア.末/イ.未
《漢 字 の横 線 を消 した 熟 語 》 [問]次
の もの は 漢 字 2字 で で きた こ と ばの,横 線 を 全部 と っ て し ま った もの
で す 。 それ ぞれ の漢 字 の 後 に 示 した 洋 数 字 の 数 だ け横 線 を補 い,も
との こ とば を
書 い て くだ さ い(括 弧 内 の 数 字 は消 した棒 の 本 数 で す)。
[解 説]漢
字 の 横 線 を と っ て し ま っ て も,こ
と ば で 2字 分 並 ん で い る と な ん と
な く も と の こ と ば の イ メ ー ジ が わ い て く る 。 そ う い う セ ン ス も試 し て み た い こ と で あ っ た 。 ほ か に ③ 画(3)面(5),④ (6)葉(5),⑦ 実(4)を
単(4)車(5),⑤
早(4)春(6),⑧
豊(7)富(7),⑨
古 重
(4)寺(3),⑥
(6)量(9),⑩
青
真(6)
出 題 した 。
[解 答]①
世 界 ② 正 直
《二 字 熟 語 の 共 通 パ ー ツ を消 す 》 [問]次
の もの は漢 字 2字 で で きた こ とば の,そ
も の で す 。 そ の両 方 に共 通 す る部 分(へ い,一
ん,か
れ ぞ れ の 字 の一 部 分 を並 べ た
ん む り,つ
く り,あ しな ど)を 補
つ の こ とば を完 成 して くだ さい 。 (例)也 或
(例)(地
域)
①
早化
①(
)
②
乎及
②(
)
[解 説]p.224は
単 独 の漢 字 の に つ い て の 問 題 で あ るが,こ
こでは熟語 の形か
ら共 通 部 分 を消 した もの を 出 した。 共 通 す る部 分 を もっ た 漢 字 熟 語 と して は,ほ か に運 送,宇
宙,保 健,談
話,植 木,終
結,悪
意,存 在 な ど を問 題 に 出 した 。 と
くに 「子 土 」 か ら 「存 在 」 を 書 く正 解 が 非 常 に少 な か っ た こ とが 印 象 的 で あ っ た 。 この パ タ ー ンの 熟 語 は,往 復,清
流,海洋,神
育 漢 字 の 制 限 を は ず せ ば,瑠 璃,鴛鴦,鮟鱇,駱 字 も 出題 す る こ とが で き る。 [解 答]①
草 花 ② 呼 吸
社,講 駝,林
話,な
ど多 くあ り,教
檎,薔 薇 な どの難 し い漢
《二 字 熟 語 で,一 [問]2
方 の 漢 字 が も う一 方 の 字 をパ ー ツ と して もつ もの 》
字 の漢 字 で で き た こ とば の 中 に は,一 方 が 他 の 字 の 一 部 分 に な っ て い
る もの が あ り ます 。 次 の □ の 中 に 同 じ文 字 を入 れ て そ の こ と ば を完 成 さ せ て くだ さい。
[解 説]こ
の パ タ ー ンの 言 葉 も多 く,ほ か に ④ 木□ ・□(森 林),⑤サ□
□(著 者),⑥
□ ・广□ ( 車 庫),⑦
□ ・□ 広 ( 金 鉱),⑩
□ ・巛□(火 災),⑧
□ ・十□ 月(早 朝)な
□ ・□ 云(雨
・
雲),⑨
ど を 出題 し た。 こ の う ち ⑤ 著 者 の
正 解 率 が 極 度 に低 か った 。 こ の問 題 は少 年 向 きに や さ しい 言葉 で作 った もの で あ るが,斎
賀 氏 の 希 望 で,1 年 あ いた 翌 々 年 に もっ と難 しい こ とば で 出 して い る。
そ の こ とば は 次 の とお り。 ① 土 地,② 力,⑦
泉 水,⑧
た が,一
孝 子,⑨
宝 玉,⑩
炭 火,③
植 木,④
挙 手,⑤
細 糸,⑥
労
二 元 。 この正 解 率 は全 体 に 前 回 よ り も低 か っ
般 の お とな の 正 解 率 が 若 者 に 対 し て相 対 的 に 上 が った と い う記 憶 は な
い。
[解答]①
材木 ② 努力 ③ 岩石
《パ ー ツ を分 解 して ば ら ば らに 並 べ た もの 》 [問] 次 の 各 問 題 に は,そ れ ぞ れ二 つ の 漢 字 を い くつ か の部 分 に分 け て,同
じ
大 き さ に して 並 びか え て あ ります 。 そ れ ら を下 の 点 線 を入 れ た ワク の 中 に書 き入 れ て も との漢 字 に し て くだ さい 。 答 え は一 つ の こ とば に な り ます。 (例 1)日 言 正 月 (例 2)木
穴
目
工
心
(例1)(証
明)
(例2)(空
想)
[解 説] は じ め は ノ ー ヒ ン トで 出 す つ も りで 作 っ た も の の,予 解 だ と い う こ と に な り,ワ た が,や
ク を示 す こ とに な った 。 結 果 は ま あ ま あの で き で あ っ
は り熟 年 層 の 得 点 は 小 中 学 生 に 及 ば な か っ た 。 ほ か に ③ 土 ・口 ・寸 ・
十〓〓(古 員),⑥
備 の テ ス トで 難
寺),④
言 ・立 ・里 ・舌〓〓
木 ・周 ・且 ・言〓〓
( 調 査 ),⑦
身 ・言 ・寸 ・成 ・心〓〓(感
謝),⑨
ム ・ロ ・月 ・ ヒ ・矢〓〓(知
能)。
[解 答]①
鉄 板 ② 便 利(あ
( 童 話 ),⑤
貝 ・系 ・イ ・ロ〓〓(係
布 ・亡 ・メ ・月 ・王〓〓(希
シ ・心 ・日 ・立 ・主〓〓(注
意),⑩
望),⑧ ヒ ・
る い は 利 便)
《筆 画 の 順 に 分 解 し た も の 》 [問]次
の も の は 漢 字2字
で で き た こ と ば を,そ
の 点 画 と筆 順 に よ っ て 五 つ ず
つ に 分 解 し た も の で す 。 そ れ ぞ れ を も と の こ と ば に も ど し,そ
れ を解 答 欄 に書 い
て くだ さい 。
[解 説] 書 き順 を ク イ ズ の 問 題 に した の は,筆 者 が 当 時 『角 川 新 国 語 辞 典 』 の 漢 字 項 目 を執 筆 中 で,そ ⑤ 安 全,⑥
物 置,⑦
の 原稿 が ヒ ン トに な って 思 い つ いた もの で あ る。 ほ か に
情 景,⑧
利 用,⑨
例 外,⑩
分 解 して 出 題 した 。 [解 答]①
歴 史 ② 雑 草 ③ 希 望 ④ 辞 典
住 居 を同様 に五 つのパ ー ツに
(2)読
み(音 訓)に
関 す る もの
《同 音 の 漢 字 の穴 埋 め》 [問]次
の ① ∼ ③ の 2字 熟 語 の □ の部 分 に は,そ れ ぞ れ,い
ず れ も 同音 の 別
な漢 字 が 入 り ます 。 そ の 漢 字 を順 に書 い て くだ さ い 。 (例)□ 真,会
□,□ 面,電
①
人 □,予
②
合 □,□ 約,風
③
名 □,□ 者,半
[解 説]同 て,そ
□ , 注 □
□ , □ 縦, 牧 □,演 □
(例)(写
音 の 漢 字(別
・社 ・斜 ・車 ・射)
①(
)
□,□ 察,□ 卵
②(
)
□,□ 会,理
③(
)
字)を
□
もつ こ と ば を並 べ,ま
ず どん な 音 か を 判 断 し
れ ぞ れ の 漢 字 を 当 て る問 題 で あ る。 実 際 に は音 と同 時 に漢 字 が 浮 か んで こ
な い とて こず る はず 。 この 問 題 は作 る の は や さ し いが,答
えが 複 数 に な る の を防
ぐの が 大 変 で あ る。 [解 答]①
相 ・想 ・操 ・草 ・奏
② 計 ・契 ・景 ・警 ・鶏
③ 声 ・聖 ・生 ・
盛 ・性
《同音 漢 字 が 重 な る二 字 熟 語 》 [問]次
の 各 問 の(1)(2)の
中 に,ヒ
ン トを 参 考 に し て 同 じ音 の 別 の 漢 字 を 入
れ て,1 つ の こ と ば を 完 成 して くだ さい 。 (例)イ
ン ド独 立 の(1)(2)。
①
生 ご み の(1)(2)
②
土 地 の[(1)[(2)
〈ヒ ン ト〉武(2)と町人(例)(志
〈ヒ ン ト〉(2)合 の合 図
士)
①(
)
〈ヒ ン ト〉 安 く① る
②(
)
③(1)(2) 車 。 〈ヒ ン ト〉(2)な で き ご と
③(
)
[解 説] この あ と も形 を変 え て 同音 漢 字 の 連 続 した こ とば の 問 題 が 出 さ れ て い る。 こ こで 出 した 問 題 は ほ か に,④ ⑨ 孝 行,⑩ 依 違(∼
開 会,⑤
心 身,⑥
精 製 で あ っ た 。 そ の ほ か,命 名,町
長,草
方 法,⑦ 創,心
逡 巡 ) な どが 「日本 語 と遊 ぼ う会 」 に使 わ れ た 。
[解 答]①
収 集 ② 売 買 ③ 救 急
全 然,⑧
神,疑
義,師
危 機, 資,
《漢 字 を組 み合 わせ て 同 音 熟 語 を 作 る》 [問]次
の 各群 の 漢 字 の 中 か ら 2字 ず つ 組 み合 わせ て 同 音 の 熟 語 を三 つ作 っ て
くだ さ い。 用 い る漢 字 は 1字 に つ き 1回(1 問 に 2字 同 じ漢 字 が あ る場 合 は 2回 用 い られ ます)。 用 い な い 漢 字 も あ るの で 注 意 して くだ さ い 。 解 答 の 順 序 は 自 由 です。 (例)肪 死 志 亡 官 肪 望 完
(例)(脂 肪)(志
望)(死
亡)
① 東 期 関 間 機 冬 器 官
①(
)(
)(
)
② 交 急 旧 休 中 注 校 行
②(
)(
)(
)
③ 家 定 程 仮 散 庭 過 参
③(
)(
)(
)
④ 週 習 回 間 週 慣 刊 会
④(
)(
)(
)
⑤ 心 間 神 新 清 誠 精 感
⑤(
)(
)(
)
[解 説] これ は 第 1回 漢 字 読 み 書 き大 会 に 出 し た 記 念 す べ き 漢 字 ク イ ズ で あ る。 全 問 題 で,15点
の 配 分 で あ る。 出 題 時 は な る べ くや さ し い よ うに 作 っ た の
だ が,挑 戦 者 の 反 響 は 「む ず か し か っ た 」 で あ っ た。 全 体 を一 つ の 漢 字 群 に す る,不 用 の 漢 字 を もっ と ま ぎ らわ し くす る な ど,さ ら に難 度 の 高 い 問 題 が作 れ る は ず で あ る。 [解 答]①
期 間 ・機 関 ・器 官 ② 急 行 ・休 校 ・旧 交 ③ 家 庭 ・過 程 ・仮 定
④ 週 間 ・習 慣 ・週 刊 ⑤ 精 神 ・清 新 ・誠 心
《同 形 異 音 語 を 当 て る もの 》 [問]次
の A,B の □ □ の 中 に は漢 字 が 同 じで,読
み 方 と意 味 の 異 な る熟 語
が 入 ります 。 そ の熟 語 を漢 字 で 書 い て くだ さい 。 (例)A.聞
くは □ □ の恥
B.病 院 か ら□ □ 帰 宅 を許 され る ①
① (
)
② (
)
A.彼 は □ □ の 長 男 と して 育 っ た B.彼 女 は 日本 画 の □ □ と して知 られ る
③
時)
A.ご み は □ □ し て 出 して くだ さい B.□ □ の あ る行 動 を期 待 して い ます
②
(例)(一
A.これは□□検討 中の課題 だ
③()
B.□ □ の者 に も あ い さつ を欠 か さ な い [解 説]読
み 方 に よ って 意 味 の変 わ る熟 語 を同 形 異 音 語 とい う。 日本 語 に は こ
れ が 多 い の も 特 徴 と さ れ て い て,問 か に,④
一 途(い
ち ず ・い っ と),⑤
(き こ つ ・き ぼ ね),⑦ ⑨ 手 下(て
題 は い く らで も作 れ そ う で あ る。 こ こで は ほ
名 代(な
し た ・へ た),⑩
(の う し ょ ・の う が き),最
寒 気(さ 中(も
む け ・か ん き)を
な か ・さ い ち ゅ う)な
[解 答]①
利 益(り
気 骨
え き ・ り や く),
出 し た 。 そ の ほ か,能
書
ど が あ る 。 と こ ろ で,同
心 で ほ く そ え む ・三 角 形 の 内 心 を 求 め る),
中 関 係 ・日 中 は 日 差 し が 強 い),国
が そ れ で,機
っ こ う ・い ち ぎ よ う),⑥
だ い ・み ょ う だ い),⑧
形 で 同 音 の 異 義 語 が あ る 。 内 心(内 日 中(日
一 行(い
体(第29回
国 体 ・国 体 の 維 持)な
ど
会 が あ っ た ら出 そ う と思 っ て い て果 たせ な か った の は残 念 で あ る。 分 別(ぶ
(も っ か ・め し た)(読
ん べ つ ・ふ ん べ つ)②
大 家(た
い け ・た い か)③
目下
み 方 は 参 考)
《音 か訓 か― 仲 間 は ず れ の 漢 字 探 し》 [問]次
の一 群 の 漢 字 は音 か 訓 か どち らか で 共 通 した読 み 方 を し ます が,一
つ
だ け仲 間 はず れ の もの が あ り ます 。 そ の漢 字 を書 い て くだ さい 。 (例)家
・蚊 ・彼 ・香 ・処(家
だ けが 音
「か 」)
(例)(家)
①
石 ・関 ・夕 ・赤 ・責
①( )
②
日 ・氷 ・火 ・費 ・陽
②( )
[解 説]音
読 み は 中 国 の 読 み 方 に 由 来 す る 読 み 方,訓
(大 和 こ と ば)に
あ て た よ み か た で あ る が,同
は 日本 の 古 来 の こ と ば
じ イ と読 む 字 で も井 は 訓 読 み,以,
胃 な ど は 音 読 み で あ る と い う よ う に や っ か い で あ る 。 「死 」 は 音 が 「し(ぬ)」
と同 じに読 む な ど とい う こ と も まれ に起 こ る。 単 独 の 名 詞 と して 使 わ
れ る 額,絵,本
な ど は 音 で あ る し,梅(う
め)や
と さ れ て い る。 ほ か に 音 と 訓 で 紛 ら わ し い も の に 「か 」(加
「シ 」,訓 が
・科 ・化 ・課/蚊
馬(う
「ち 」(地
・香),「
え 」(絵
・会 ・恵 ・依/江
は 音)②
費
は 訓)
あ る。 [解 答]①
関(せ
き,他
ま)は
(ひ,他
訓(音
は メ ・マ)
・知 ・値/血
・乳),
・得 ・重 ) な ど が
(3)語
の 構 成 に 関 す る もの
《四 字 熟 語 の 中 央 2字 穴 埋 め(同 [問]次
じ字)》
の□ の 中 に同 じ漢 字 を入 れ て 熟 語 を完 成 して くだ さい 。
[解 説] この よ う に 四字 熟 語 で,2 字 目 と 3字 目 が 同 じ漢 字 を もつ こ と ば は, ほか に,語 学 学 習,大 会 会 場,預 作 品,滞
日 日数,最 高 高 度,水
あ る。 な お,こ
金 金 利,怪
生 生 物,公
力 力 士,国 会 会 期,相
団 団 地,陸
軍 軍 人,加 工 工 場 な ど多 く
こ の こ と ば は 2字 の こ と ば の 複 合 し た も の で,「 会 社 々 長 」 「民
主 々義 」 な どの よ うな お ど り字 「々 」 は使 え な い(誤 [解 答]①
関 関 係,佳 作
り とさ れ る)。
民 主 主 義 ② 会 社 社 長 ③ 学 生 生 活
《同 じ字 を 2箇 所 に補 っ て 四 字 漢 語 を完 成 》 [問]次
の 漢 字(2 字)の
ど こか に,同
じ漢 字 を 2つ 付 け て,4 字 の 熟 語 を 完
成 させ て くだ さ い。
[解 説]前
の 問題 で は 中央 の 2字 が 同 じ とい う こ とで あ っ たが,こ
こで は,位
置 を示 さ ず に ど こか 2箇 所 とい う こ と に な って い る。 そ れ だ け難 し く,正 答 率 も 下 が っ た 。 苦 し紛 れ の 答 も多 く① 新 造 新 間,② 答 が あ っ た 。 また,④
大 学 大 変,の
婚 前 勝 婚,③
金 蔵 金 臣 な どの珍
よ う に意 味 は わ か る が 4字 の 熟 語 と は言 え
な い もの もあ っ た 。 こ こで 出題 で き るパ タ ー ン の こ と ば に は,ほ か に大 所 高 所, 正 真 正 銘,連 戦 連 勝,誠 心 誠 意,独 立 独 歩,多 事 多 難 な どの ほ か,前 げ た水 道 道 路 等 の こ とば も そ うで あ る。 [解 答]①
人 造 人 間 ② 手 前 勝 手 ③ 大 蔵 大 臣 ④ 化 学 変化
の問 題 に挙
《四 字 熟 語 の 中 に二 字 熟 語 が は さ ま る》 [問]次
の 文 字 群 の 漢 字 を組 み合 わ せ て漢 字 2字 の こ とば を作 り各 問 の 口 □ の
中 に書 き入 れ,漢 字 4字 の 熟 語 を完 成 し て くだ さい 。 た だ し,文 字 群 の 漢 字 は, そ れ ぞ れ 1回 しか 使 え ませ ん 。
(文字 群)進
場 学 接 人 浴 前 手 本 名 行 板 発 生 家
作 下 選 面 者(例 [解 説]1
:高
速
会
度 2字 の こ とば を作 り,さ
い う,ひ ね っ た 問題 だ った た め に,総 [解 答]①
出発 進行
⑥ 無 名作 家
らに そ れ を使 って 四字 熟 語 に は め込 む と じて成 績 が 悪 か っ た 。
② 新人 選手
⑦ 月面 鐘 近
議)
③ 登 板 前夜
⑧ 日本 家 屋
④ 歩 行者 道
⑨ 入 浴場 面
⑤ 小 学生 用
⑩ 上手下 手(下
線 は参
考)
《前 後 入 れ か えて 別 語 に》 [問]2
字 の 漢 字 か らで きて い る こ とば の 中 に は,前 後 の 文 字 を入 れ か え る と
別 の こ とば に な る もの が あ りま す。 あ との 文 字 群 の 中 か ら字 を選 ん で そ の よ うな こ と ば を,10組(20語)を
作 っ て くだ さ い 。 1つ の 文 字 は 1回(1 組)だ
け しか
使 え ませ ん 。 解 答 の順 序 は 自由 で す 。
(文字群)長 解 中 乱 別 応 所 客 現 心 階 社 実 船 明 対
段
格
会
戦(例 :人
名)
[解 説] この パ タ ー ン の こ とば も多 くあ り,定 規 ・規 定,王 乳 牛,石 庭 ・庭 石,行
進 ・進 行,名
女 ・女 王,牛
乳 ・
著 ・著 名 な ど,か な り意 味 が 変 わ る 。 と こ ろ
で 前 後 入 れ か え て もほ とん ど同 じ意 味 で 使 わ れ る こ と ば も結 構 あ る。 祖 先 ・先 祖,関 連 ・連 関,運
命 ・命 運,留
保 ・保 留,な
どな ど い く らで も 出 て くるが,微
妙 に意 味 が 違 う こ とが あ る の で 要 注 意 。 [解 答]① 別 格 ・格 別
長 所 ・所 長
② 解 明 ・明 解
⑥ 応 対 ・対 応
⑦ 客 船 ・船 客
③ 中 心 ・心 中
④ 乱 戦 ・戦 乱
⑤
⑧ 現 実 ・実 現
⑨ 階 段 ・段 階
⑩
社 会 ・会 社
《共 通 の 漢 字 を使 った 熟 語 群 》 [問]次
の各 組 の 二 つ の □ □ 中 に,そ れ ぞ れ 同 じ漢 字 を入 れ る と,熟 語 が で き
ます 。 そ の入 れ る漢 字 を書 い て くだ さい 。 全 部 教 育 漢 字 で す 。
[解 説]ク
イ ズ と し て は初 歩 的 で は あ るが,漢
字 の 多 義 性 を利 用 す れ ば むず か
しい も のが で き る。 た と え ば 「楽 」 は,「 音 楽 ・が く」,「楽 勝 ・ら く」 とい う, 全 く意 味 の 違 う使 わ れ 方 を し て い る。 こ こ で は ほ か に,④ (来),⑤
□ 魚 ・純 □ ・賞 □(金),⑥
期 □(間),⑧
□ 切 ・両 □ ・□ 方(親),⑦
□ 紙 ・投 □ ・□ 首(手),⑨
□上 ・□ 根(屋)を
出題 した が,い
□ 年 ・往 □ ・□ 客 土 □ ・人 □ ・
□ 合 ・工 □ ・□ 所(場),⑩
小□ ・
ず れ の 漢 字 もい ろ い ろ な意 味 に使 わ れ る もの
で あ る。 挑 戦 者 の で きは まず まず だ っ た よ うだ 。 問 題 の 作 成 に あ た っ て は,別 解 が 出 な い よ うに 慎 重 に検 討 を した。 [解 答]①
指
② 朝
③ 原
《回文 型 の 三 字 熟 語 》 [問]次
の □ の 中 に 同 じ漢 字 を入 れ て,上
な る こ とば を完 成 させ て くだ さい 。
か ら読 ん で も下 か ら読 ん で も同 じ に
(例)□ 上 □
上 屋)
① □曜□
① ()
② □車□
② ()
③
③ ()
□中□
[解 説]上 が,世
(例)(屋
か ら読 ん で も下 か ら読 ん で も山 本 山,と い う コ マ ー シ ャル が あ っ た
の 中 に は こ の よ うな パ タ ー ンの こ と ば も結 構 あ る。 このパ ター ン の こ とば
は こ の ほ か,□ (文 語 文),□
道 □(水 道 水),□
灰 □(石
灰 石),□
飛 白),□ 噌 □ ( 味 噌 味),□ [解 答]①
日曜 日
台 □(風
台 風),□
分 □(時 分 時),□
関□(東
② 馬 車 馬(ま
関 東)な
非 □(人
道 □(弾
非 人),□
道 弾),□
語口
飛 □ (白
どが あ る,
た は戦 車 戦)③
劇 中劇
《反 対 の意 味 の 漢 字 を使 っ た三 字 漢 語 》 [問]次
の 二 つ の □ □ の 中 に それ ぞ れ 正 反 対 の漢 字 を 入 れ て,3 字 の漢 字 熟 語
を作 っ て くだ さ い 。 (例)□
□刀
(例)(細
くヒ ン ト= 侍 〉
太 刀)
①
□ □ 動 くヒ ン ト=地 震 だ 〉
① ()
②
□ □ 角 〈ヒ ン ト=野 球/投
② ()
③
□ □ 国 〈ヒ ン ト= 国際 空港 ・税 関 〉
[解 説]例
手 〉
③ ()
題 の 「細 太 」 は 1語 に は な らな い が,内 外,上
も,単 独 で こ とば に な る もの も多 い。 ほ か に,④ 正 誤(表),⑦
小 大(名),⑧
始 末(書),⑨
長 短(打),⑤
兄 弟(子),⑩
題 した 。 この パ タ ー ン の こ と ば に は,前 後 賞(前 後 の賞),裏 白黒 板(白 [解 答]①
い 黒 板),和
洋 酒(和 酒 と洋 酒)な
上下
③ 出入
② 内外
下 な ど,そ れ だ け で 重 軽(傷),⑥
古 新(聞)な 表 紙(裏
どを 出 の表 紙),
ど さ ま ざ ま な構 成 の こ とば が あ る。
《四字 熟 語 か ら 2字 を 抜 き 出 した省 略 語 》 [問]4
字 の 熟 語 か ら 2字 抜 き出 して 略 語 を作 る こ とが あ り ます 。 次 の も の は
略 語 を作 っ た 残 りの 字 で す 。 抜 き 出 して作 られ た 2字 の 略 語 を書 い て くだ さ い。 (例)働 合 (例)(労
組)
[解 説] 日本 語 で は 四 字 漢 語 を省 略 し て2字
に す る こ とが よ くあ る。 多 くは
① 入 学 試 験,②
婦 人 警 官 の ほ か,産
輪 駆 動,卒 業 論 文,保
の よ う に1,3字
目 を取 り出 して 作 る ものが 多 い が,③
字 目 を とっ た もの や,④
地 直 送,四
航 空 母 艦 の よ う に2,3字
帯(携帯
電 話),風
俗(風
よ う に1,4
目 を抜 き出 した もの も あ る。
4字 の 漢 語 で は な い が 空 自(航 空 自衛 隊)も2,3字 な お,最 近,携
魚形 水 雷,の
健 体 育,
燈 営業),高
目 を 取 り出 し た もの で あ る。 速(壷
速 道 路)な
ど,1,2
字 目 を取 っ た もの が で きて い る。 と くに携 帯 と風 俗 は 「ケ ー タ イ で 話 す」 「フ ー ゾ クの 仕 事 」 な どの よ う に カ タ カ ナ で 表 記 され る よ う にな っ て い る。 そ れ だ け 日 常 生 活 に入 り込 んで きて い る もの と言 え る。 高 速 道 路 も道 路 公 団 が 民 営 化 さ れ て,国 民 生 活 に 密 着 した もの に なれ ば 「コー ソ ク に乗 って い く」 な ど と カ タ カ ナ 化 さ れ るの だ ろ う か。 日常 生 活 に密 接,と
い え ば か つ て は 「活 動(活
動 写 真)」
が あ った 。 [解 答]①
入 試 ② 婦 警 ③ 魚 雷 ④ 空 母
《一 つ の 語 群 に共 通 す る漢 字 か ら熟 語 を作 る もの 》 [問]例
題 の □ のA,Bの
中 に,そ れ ぞ れ 「校 」 「長 」 よ い う漢 字 を 入 れ る
と,「 学 校 ・校 歌 」 「社 長 ・長 所 」 と い う四 つ の こ と ば が で き,さ
ら にAとBを
つなげると 「 校 長 」 と い う こ と ば に な り ま す 。 これ と同 じ 要 領 で 次 の 問 題 の A,Bに
入 る漢 字 を考 え, ABの
こ とば を解 答欄 に書 い て くだ さ い。
[解 説] これ も1回 答 を 出 し て か ら さ ら に も う1度 考 え る,い わ ゆ る1ひ ね り した 問 題 で あ っ た た め,全 体 に正 解 率 が 低 か っ た 。 と くに高 年 齢 層 に は惨 憺 た る
結 果 で,ま
た,ク イ ズ に は健 闘 す る小 中 学 生 も不 振 で あ っ た。
[解 答]①
温 度 ② 歩 道 ③ 試験 ④ 漢 字 ⑤ 時 間
(4)い ろ い ろ の 要 素 を組 み合 わ せ た もの 《同音 の漢 字 と語 構 成 の 問 題 》 [問]次
の二 つ の □ の 中 に,同
じ音 読 み をす る 漢 字 を入 れ て,4 字 の 熟 語 を完
成 させ て くだ さい 。
(例)漢 □ □ 典
①
□ 等 学 □
②
蒸□□関
③
□治□命
(例)(漢
字辞 典)
①(
)
②(
)
③(
)
[解 説] 同 じ音 を も つ漢 字 を指 定 の空 欄 に入 れ て四 字 熟 語 を完 成 さ せ る問 題 で あ る。 ① は1,4字
目 に,②
は 例 題 と 同 じ く2,3字
目 に,③
は1,3字
そ れ ぞ れ 同 音 の 漢 字 を 入 れ る も の で あ る。 ほ か に ④ 国 □ □ 散(会 力 旺 □(精
・盛),⑥
(肝 ・患),⑨
世 □ 大 □(界
□ 虫 □ 物(食
・会),⑦
・植),⑩
□ 全 □ 護(完
原 □ □ 入(油
が 直 感 で見 え て くる よ うな ①,②,④,⑤,⑧,⑨ ③,⑩
で は,③(明
答(も
ち ろ ん誤 答)が 多 く見 られ た。
[解 答]①
治 生 命),⑩(原
稿 購 入)の
・輸)を
目 に,
・看),⑧
・解),⑤
□
□臓 疾 □
出 題 した 。 全 体 の語
な どは正 解 率 が 高 か っ た が, よ うに 出題 者 の 意 図 に 反 す る解
高 等 学 校 ② 蒸 気 機 関 ③ 政 治 生 命
《共 通 点 の あ る漢 字 穴 埋 め》 [問]次
の 各 問 題 の a.∼ e.の□ の 中 に,そ れ ぞ れ の 〈ヒ ン ト〉 に 関 係 の あ る
漢 字 を l字 ず つ 書 き入 れ て くだ さ い。 た だ し,各 問題 に つ い て同 じ字 を 2度 用 い て は い け ませ ん 。 (例)〈 ヒ ン ト〉 同 じ 「へ ん」 を もつ 字
a. ア の は ず れ の お じ ぞ う さ ん b石 イ
c. ウ 長 先 生 d. エ に向 か う e.森 オ 鉄 道
①
〈ヒ ン ト〉 同 じ 「か ん む り」 を も っ字
をたたいて渡 る
a.落ア
d.下 水エ
②
生
c.暗ウ
e.城 をオ
が得意 く
〈ヒ ン ト〉 同 じ 「音 」 を も つ 字 a.元 気 な
d.た ば こ のエ ③
い話
を 埋 め る
b.イ
ア
声
b.押
しイ
が とぶ
を 作 る
e.オ
c.ウ
け物 が 出 る
路 をた どる
〈ヒ ン ト〉 一 か ら 五 ま で の 数
a.ア
d.魚エ
物 を は こ ぶ 場
b.イ
e.保オ
験勉 強
c.ウ
地直送
者
(例)(ア.村
イ.橋 ウ.校 工.机 オ.林 )
①(ア.
イ.
ウ.
エ.
オ.
)
②(ア.
イ.
ウ.
エ.
オ.
)
③(ア.
イ.
ウ.
エ.
オ.
)
[解 説] 漢 字 読 み 書 き 大 会 で の 小 学 生(小),中 般(一 般)の 各 部 門 別 の 正 解 率(%)は ①a.第(小21.2<
校 生(高),一
次 の と お り で あ る(一 般 は 大 学 生 ・社 会 人)。
中50.1<
高57.6<
一 般64.9)
b.笑(小26.2<
中50.8>
高50.0>
一 般22.8)
c.算(小12.7<
中18.4<
高25.8<
一 般56.4)
d.管(小32.5<
中58.0<
高69.7>
一 般55.3)
e.築(小36.0<
中79.4<
高80.3<
一 般85.1)
②a. 歌(小12.0<
中15.5<
高30.3>
一 般20.0)
b.花(小15.9<
中41.8<
高57.6>
一 般54.4)
c.化(小30.0<
中44.9