酒を愛する専門医が教えるアルコールの健康学

長 田敦夫

まえがきにかえて︱

アル コー ル の功 罪

  ア ル コー ル は人 類 の歴 史 が は じ ま って 以 来 人 間 の生 活 と深 く か か わ り 、儀 式 に、 宴 会 に、 料 理 に、 また嗜好 品 ︵ 食 前 酒 ま た は晩 酌 ︶ に と広 く 用 いら れ て い ま す 。

  現 在 、 わ が 国 で は飲 酒 習 慣 が さ ら に拡 が り 男 性 の九 割 、 女 性 の六 割 が 程度 の差 こそ あ れ飲 酒 し 、

飲 酒 人 口 は 七 千 万 人 に 及 び 、 成 人 一人 当 た り の年 間 ア ル コー ル消 費 量 は 純 ア ル コー ル に換 算 し て

八 ・六 リ ット ル (ビ ー ルな ら大 び ん 四 〇 〇 本 、 日本 酒 な ら 一升 び ん 四〇 本 程 度 ) に達 し て いま す 。

一日 平 均 一五 〇 ミ リ リ ッ ト ル ( ビ ー ル大 び ん七 本 、 日 本 酒 七 合 ) 以 上 の大 量 飲 酒 者 は 二三 〇 万 人 を

越 え る と 推 定 さ れ 、 ア ル コー ル依 存 症 は成 人 男 性 に と ど ま ら ず 、 最 近 は多 く の高 齢 者 にも み ら れ 、

さ ら に" キ ッ チ ンド リ ン カ ー ︵ 主 婦 の台 所 飲 酒 者 ︶"に代 表 さ れ る女 性 に も 拡 が り 、 未 成 年 者 の飲

酒 の流 行 や コ ンパ で の" イ ッキ 飲 み" な ど 若 者 のア ル コー ル飲 用 も 深 刻 な 社 会 問 題 にな って いま す 。

酒 類 の自 動 販 売 機 や テ レビ コ マー シ ャ ル にも 制 限 のな いわ が 国 は、 いわ ば ﹁ア ル コー ル天 国 ﹂ と い え る で し ょう 。

  こ のよ う に ア ル コ ー ル常 飲 者 が 増 え ると 、 当 然 の こ と で す が 、 ア ル コー ル に起 因 す る病 気 が 多 く

な り、 消 化 器

( 肝 臓 、 膵 臓 、 消 化 管 )、 血 液 、 循 環 器 、 脳 ・神 経 系 な ど が お か さ れ る こ と が あ り ま

す 。 ア ル コー ルは 日 常 生 活 に必 要 な も ので はあ り ま す が 、 度 を 過 ご す と健 康 を 害 し 、 家 庭 を 壊 し 、 社 会 生 活 を 乱 す も と にも な り ま す 。

︵ 酔 い︶ によ

  一方 、 昔 か ら ﹁酒 は 百 薬 の長 ﹂ な ど と も いわ れ、 ア ル コー ル には いく つか の効 用 のあ る こ と も 知

ら れ て いま す 。 一つ に は ア ル コー ル本 来 の薬 理 作 用 で あ る中 枢 神 経 に対 す る 麻 酔 作 用

って気 分 転 換 や 陶 酔 感 が え ら れ 、 スト レス解 消 に つな が り、 ま た 良 眠 が え ら れ る な ど の効 果 が あ り

ま す 。 ま た ア ル コー ルは 胃 液 や 膵 液 の分 泌 を亢 進 さ せ食 物 の消 化 を よ く し ま す の で、 食 前 酒 (ア ペ

リ チ フ) と し ても 有 効 で す 。 さ ら に少 量 の飲 酒 は日 頃 内 気 な 人 で も 陽 気 に さ せ 、 楽 し く 会 話 が で き

社 交 的 に な り ま す の で 、 わ れ わ れの 社 会 生 活 に お け る 人 間 関 係 の潤 滑 油 と し て の効 果 も あ る で し ょ

う 。 適 量 で あ れ ば 飲 酒 は善 玉 の コ レ ス テ ロー ル ︵H L D コ レ ス テ ロー ル︶ を 増 や し 動 脈 硬 化 を 予 防

し 、 狭 心 症 、 心筋 梗 塞 な ど 冠 動 脈 疾 患 の発 生 を 抑 え る こと が 、 最 近 医 学 界 で も話 題 に な って いま す 。

  こ のよ う にア ル コー ルには ﹁ 功 ﹂ と ﹁罪 ﹂ が あ り 、 ﹁百 薬 の長 ﹂ であ る と 同 時 に ﹁ 百 厄 の長 ﹂、

﹁狂 い水 ﹂ で も あ り、 ま さ に 両 刃 の剣 で も あ る 嗜 好 品 ︵ 薬 物 ︶ と い って よ い で し ょう 。健 康 に害 を

与 え な い で、 ま た 家 族 や社 会 に迷 惑 を かけ な いで 、 し か も ア ル コー ルを 楽 し む方 法 は な いも の でし

ょ う か 。 そ れ には ア ル コー ルと いう味 方 ( あ る いは 敵 ) を よ く 知 り、 ア ル コー ルと 上 手 に付 き 合 っ て いく 必 要 が あ り ま す 。

  本 書 で は、 まず 第 １ 章 で ﹁ア ル コー ル飲 み の常 識 ・非 常 識 ﹂ と 題 し 、 酒 好 き の方 が 日 頃 疑 問 に思

わ れ て い る事 項 を 、 ア ル コー ル に関 す る 医 学 的 基 礎 知 識 を根 拠 に わ か り や す く 説 明 し た つも り です 。

実 は私 も ア ル コー ル は好 き で 、 日頃 楽 し く 飲 ん で いま す 。 同 じ 酒 好 き の方 に勝 手 な 思 いこ み や 間 違

った ﹁常 識 ﹂ で ア ル コー ルと 付 き合 って い た だ き た く な いか ら で す。 ご 自 分 の ﹁ 常 識度﹂ をチ ェッ

ク し てく だ さ い。 第 ２章 で は ア ル コー ルが 引 き起 こす いろ い ろな 病 気 を 解 説 す る と と も に 、 一般 の

病 気 に つ いて も 理 解 が え ら れ る健 康 読 本 と し て も 役 立 つよ う 配 慮 し ま し た 。 第 ３ 章 は大 変 や っか い

な 病 態 であ る ア ル コー ル依 存 症 に つ い て、 で き るだ け具 体 的 に最 近 の知 見 を 述 べ るよ う努 め ま し た 。

  本 書 が ア ル コー ル飲 み の さ まざ ま な 疑 問 に答 え る こ と が で き、 ま た 安 全 で、 楽 し い飲 み 方 の参 考 にな れば と願 って いま す 。

目次まえ がき にかえ て︱

アルコー ルの功 罪 5

第１章アルコー ル飲 み の常 識 ・非常 識

１アルコール飲 料 の種 類 と アルコール濃 度 15 ２アルコールの栄 養 19 ３アルコールの吸 収 から 代 謝 まで 23 アルコールの吸 収 23 アルコー ルの体 内 での拡 が り 26 人 のアルコール 処 理 能 力 29 アルコー ルの肝 臓 での処 理 ( 代謝)32   ア ルコー ル酸 化 酵 素 系 の働 き 33 ア セ ト ア ルデ ヒ ド 脱 水 素 酵 素 の働 き 36 ア ルコー ルに 強 い人 、弱 い人 39

４ 酔 いと はな にか 42 酔 いのメカ ニズ ムと 血 中 アルコー ル濃 度 42 悪 酔 いと 二日 酔 い  49

５  アルコー ルと ホ ルモン そ の他 55 アルコールと 利 尿 55 アルコールと 性 ホル モン 56 アルコールと セ ック ス 59 アルコールと スト レス 59 アルコール と 睡 眠 61 アル コールと タ バコ 62

６ アルコー ル自 己 診 断 65 自 分 は アルコールを どれ だけ 飲 めるかを知 る 65 自 分 で知る飲 酒 に関 する 危 険 信 号 68 急 性 アルコール中 毒 にな らな いために 69

 第 ２章 アルコールを 飲 み す ぎ ると １  年 々 増 え ている ア ルコー ル 消 費 動 向 73 ２ アルコー ルと 肝 臓 障 害 76

アルコール性 肝 障 害を 判定 す る肝 機 能検 査について 78

アルコール性 肝 障 害 の病 型 82

軽度変化 、脂肪 肝 83 肝線維症 、 急性 アルコール性肝炎、慢性アルコール性肝炎 86 肝 硬変と 肝臓がん 89 肝 障 害 を 起 こさ な い許 容 飲 酒 量 93

３  ア ルコー ルと 膵 臓 障 害 97 アルコール膵炎 100 急 性 膵 炎 100 慢 性 膵 炎 101 アルコール膵 炎 の治療 、合 併症 、予 後 103 ア ルコー ルと 糖 尿 病 105

４ アルコールと消 化 器 障 害 109 ロ腔 ・ 食 道 病 変 110 胃・ 十 二指 腸病 変 112 小 腸病 変 114

５ アルコー ルと造 血 器 障 害 116

６ アルコー ルと循 環 器 障 害 120 アルコールと高 血 圧 120 アルコールと動 脈 硬化 123 アルコールと心 臓病 125

７ アルコールと 神 経 系 障 害 129 大脳の障害 130 小 脳の障害 133 脊 髄の障害 134 末梢神経障害 134

８ アルコールと 胎 児 、 子 供 の障 害 137 胎 児 性 アルコール症 候 群 137 未 成年 者 の飲 酒 139

９ その他 のアルコール障 害 142 アル コール と 老 化 142 ア ル コー ルと が ん 143 ア ル コー ルと 感 染 症 144

ア ルコー ルと 筋 ・骨 病 変 144 ア ルコー ルと 痛 風 145 ア ルコー ルと 事 故 、自 殺 146

第３章 アルコール依 存症 １ アルコール依 存 症 の症 候 と 診 断 151 精神依存 154 身体依存 155

２  アルコー ル依 存 症 の治 療 と 予 後 160 ３  アルコー ル依 存 症 の成 立 メカ ニズ ム 162

４  と くに 女 性 のアルコー ル依 存 症 の特 徴 165  あとがきにかえて︱ アルコールの上手 な飲み方 169

第 １章   ア ル コー ル 飲 み の常 識 ・非 常 識

  お酒 飲 み の多 く は 、 自 分 は ア ル コー ル依 存 症 に な り か

け て いる ので はな いか 、 肝 臓 は 大 丈 夫 か 、 安 全 な飲 酒 量

を 知 り た い、 二日 酔 い対 策 は、 な ど な ど いろ い ろ な 疑 問

を 持 ち な が ら 、 ま た 酒 にま つわ る俗 説 に惑 わ さ れ な が ら 日 頃 ア ル コー ルを 飲 ん で いる こ と で し ょ う 。

  本 章 で は 、 ア ル コー ル に関 す る 医 学 的 な 基 礎 知 識 の面 か ら こ れ ら の疑 問 に お 答 え し た いと 思 いま す 。

１ 

チ ャ ンポ ン は体 によ く な い は本 当 か？

ぞ れ 同じ アル コー ル量 。

ビ ー ル大 び ん 一本 、 日 本 酒一合 、 ウ イ スキ ーダ ブ ル 一杯 は そ れ

アル コール飲 料 の種 類と アル コー ル濃度

１ 2

︵ 酒 類 ︶ に は ビ ー ル、 日 本 酒 、 ウ イ ス キ ー な ど さ ま ざ ま な種

り ま す 。 以 下 ア ル コー ル と いう 言 葉 は 化 学 的 に は エチ ルア ル コー ル の こと を 指 し 、 ま た ア ル コー ル

ま れ て いま す が 、 これ ら の人 体 に対 す る害 は ほ と ん ど な く 、 ア ル コー ルそ の も の の作 用 が 問 題 と な

味 や 香 り を 特 徴 づ け る夾 雑 物 ︵ 糖 、 タ ン パ ク、 ア ミ ノ酸 、 ビ タ ミ ン類 、 塩 類 、 微 量 金 属 な ど ︶ が 含

無 色 透 明 、 比 重〇 ・七 九 の液 体 で医 学 的 に は薬 物 の 一つで す 。 さ ら に酒 類 に は ア ル コー ル のほ か に

す が 、 こ の ア ル コー ルと は 化 学 的 には エチ ルア ル コー ル (エタ ノ ー ル) の こ と で 、 水 に溶 け やす い

  酒 類 を 飲 む と いう こ と は 、 と り も な お さず そ の中 に含 ま れ て いる ア ル コー ルを 飲 ん で い るわ け で

そ れ を 消 費 す る 者 に酒 税 が か け ら れ て いま す 。

類 が あ り ま す が 、 わ が国 で は ア ル コー ル分 一% 以 上 の飲 料 を ア ル コー ル飲 料 あ る い は 酒 類 と し て 、

  私 た ち が飲 ん で い る ア ル コー ル飲 料

〈 ポイント〉

アル コ ー ル飲 料 の 種 類 とア ル コー ル 含 有 量 表1 

飲 料 の こ とを ア ル コー ル 、 酒 な ど と表 現 し ま す 。

  普 通 、 酒 類 の中 の ア ル コー ル濃 度 は ラ ベ ル の表 示 に も

あ るよう に ﹁ 度 ﹂ ま た は ％ で 表 し て いま す が、 これ は容

量 の 百 分 率 で 、重 量 の パ ー セ ント で は あ り ま せ ん 。 た と

えば ア ル コー ル分 が 一五度 と いう のは 、 酒 類 一〇 〇 ミ リ

リ ット ルあ た り 一五 ミ リ リ ット ル のア ル コー ルが 入 って

いる こと を 意 味 し 、 こ れ を 重 量 に直 す と、 エタ ノ ー ル の 比 重 は ○ ・七 九 で す の で

×0.79=12︵g︶ と な り ま す。

  各 酒 類 に含 ま れ る ア ル コー ル分 は そ れ ぞ れ 異 な り ま す

の で 、 ア ル コー ル の人 体 への影 響 や生 理 作 用 を 論 ず る場

合は ︵ 純 ︶ ア ル コー ル量 そ のも の ︵一〇 〇 ％ の ア ル コー

ル に換 算 し た重 量 ) で表 し た 方 が合 理 的 で す 。 要 す る に、

ど れ だ け の エタ ノ ー ルを と った か が重 要 な ので す 。 表 １

に主 な 酒 類 中 のア ル コー ル濃 度 を 容 量 ％ 、 重 量 ％ 、 ア ル

コー ル重 量 で 示 し ま す 。飲 ん だ ア ル コー ル の重 量 は、

 飲 ︵酒 m量 l︶ ×アルコール度数／100

×0.79

か ら計 算 で き、 ビ ー ル大 び ん 一本 (六 三 三 ミ リ リ ット ル) の ア ル コー ル重 量 は ×0.79=22︵g︶

で す 。 日 本 酒 一合 ︵一八 ○ ミ リ リ ット ル︶ 中 のア ル コー ル重 量 は

100×0.7と 9= な2 り1 、.ビ3ー ︵ル g大 ︶ び ん 一本 と ほ ぼ 等 し く 、 こ れ と 同 じ 量 は ウ ( 六 〇 ミ リ リ ッ ト ル)、

(二四 〇 ミ リ リ ット ル) と な り 、 こ れ ら は

︵二五 度 ︶ は一一 ○ ミ リ リ ッ ト ル ︵2合 /︶ 3 、 ワイ ンは ワ

イ ス キ ー や ブ ラ ンデ ー で は ダ ブ ル 一杯 焼酎 イ ング ラ ス 一杯 半

純 ア ル コー ル二 ○ ∼ 二五 グ ラ ム の狭 い範 囲 に納 ま る の で ﹁ア ル コー ル飲 料 の 一単 位 ﹂ と も い って いま す 。   いろ いろ な ア ル コー ル飲 料 の 一単 位 を覚 え て お く と 自 分 で 飲 ん だ 積 算 飲 酒 量 を 知 る の に便 利 で す。 た と えば ビ ー ル大 び ん 二本 と 日 本 酒 一合 を飲 ん だ と す る と合 わ せ て三 単 位 で、 日 本 酒 三 合 あ る い は ウ イ ス キ ー ダ ブ ル三 杯 飲 ん だ と同 じ こと に な り ま す。   ア ル コー ルを チ ャ ンポ ン で飲 む と から だ によ く な いと いわ

れ ま す が、 チ ャ ンポ ンそ のも の が 悪 いの で は な く 、 目 先 が 変 わ って知 らず 知 ら ず の う ち に、 つ い飲

み 過 ぎ て し ま う か ら よ く な いの で す 。 ア ル コ ー ル の人 体 への影 響 は 酒 の種 類 や 、 いろ い ろな 酒 を チ

ャ ンポ ンで 飲 ん だ か ど う か に は 関 係 な く 、摂 取 し た ア ル コー ル の総 量 に規 定 さ れ る ので す 。

2 

アル コー ル の栄養

1  2 

必要な栄養を十分とりなが ら飲み、飲んだ後は食事をしない。 ビールは太るがウイスキー、焼酎は太らないは本当か？

わ り に酒 を 主食 と し、 タ ン パ ク質 、 ビ タ ミ ンな ど の か ら だ に必 要 な 栄 養 成 分 は 酒 の肴 か ら 補 って い

ク 質 を は じ め と す る栄 養 素 を 十 分 にま か な う こと は不 可 能 で す。 お そ ら く 大 観 は 米 な ど の糖 質 の代

  横 山 大 観 が飲 ん で いた 酒 が た と え 醸 造 酒 で あ った と し ても 、 生 き て いく 上 で 最 低 限 必 要 な タ ンパ

濃 度 は 高 いが夾 雑 物 と し て の糖 や ア ミ ノ酸 な ど は ほ と ん ど 含 ん で いま せ ん 。

主 成 分 と し た揮 発 性 物 質 を 集 め て造 った酒 で 、 ウ イ ス キ ー 、 ブ ラ ンデ ー、 焼 酎 な ど で、 ア ル コー ル

ら の糖 、 ア ミ ノ酸 、 有 機 酸 な ど が溶 け 込 ん で いま す 。 蒸 留 酒 は こ の醸 造 酒 を蒸 留 し 、 ア ル コー ルを

酒 は 原 料 を 発 酵 さ せ た液 体 の上 澄 み で、 日本 酒 、 ビ ー ル、 ワイ ンな ど で、 ア ル コ ー ル 以外 に原 料 か

  お 酒 に は十 分 な 栄 養 が あ る の で し ょう か。 一口 に酒 と い って も醸 造 酒 と蒸 留 酒 が あ り ま す 。 醸 造

臓 器 にも 異 常 が みら れ な か った こ と は あ ま り にも 有 名 な話 で す 。

  晩 年 の横 山 大 観 画 伯 は 酒 を 主 食 代 わ り に飲 み 、 そ れ で 天寿 を ま っと う し 、 肝 臓 を は じ め そ の他 の

〈ポ イ ン ト〉

の栄 養成 分 とエ ネ ル ギ ー 量 表2  各 種 ア ル コー ル 飲 料100ml中

た ことが推定 されます。

  ア ル コー ル 一グ ラ ム の熱 量 は 七 キ ロカ ロリ ー で、 糖 質 よ り む し ろ脂

ン パ ク質 一グ ラ ム は そ れ ぞ れ 四 キ ロカ ロリ ー、 脂 肪 一グ ラ ム は 九 キ ロ

肪 に近 いと い って い い ほ ど意 外 に高 いカ ロリ ー が あ り ま す。 糖 質 、 タ

カ ロリ ー で す 。 表 ２ に各 種 ア ル コー ル飲 料 一〇 〇 ミ リ リ ット ル中 の栄 養 成 分 と エネ ルギ ー 量 を 示 し ま す 。

  具 体 的 に は 、 日 本 酒 一合 は 一八 ○ キ ロカ ロリ ー ︵ ご 飯 一杯 分 ︶、 ビ

ー ル大 び ん 一本 は 二 五 〇 キ ロカ ロリ ー ︵ご 飯 大 盛 り 一杯 分 ︶、 ウ イ ス

キ ーダ ブ ル 一杯 は 一四 〇 キ ロカ ロリ ー ︵ご 飯 軽 く 一杯 分 ) に 相 当 し ま

す の で 、 ア ル コー ル飲 料 は カ ロリ ー面 で は 炭 水 化 物 の代 役 が ほ ぼ 可 能 と いえます。

  し か し飲 ん だ ア ル コ ー ル は食 事 か ら と った 炭 水 化 物 と は異 な り 、 貯

蔵 さ れ て 必 要 に応 じ て調 整 ・利 用 さ れ る ので は な く 、熱 エネ ルギ ー と

し て ど ん ど ん 使 わ れ て し ま いま す 。 寒 い時 に体 を 温 め る の に は よ い の

で す が、 ア ル コー ルが 切 れ る と た ち ま ち体 温 は下 が り 、 酩 酊 状 態 で は よ く 凍 死 事 故 に つな が り ま す。

  こ の よ う にア ル コー ル の熱 量 は す べ て が か ら だ の役 に立 つわ け で は

あ り ま せ ん が 、 そ れ で も 七 〇 % ほ ど は有 効 と さ れ て いま す 。 し た が って酒 を飲 む 時 は ア ル コー ル の

カ ロリ ー も計 算 し て主 食 や 副 食 を と ら な いと 、 カ ロリ ー オ ー バ ー にな って 肥 満 にな り ま す 。

  よ く ビ ー ルや 日 本 酒 は太 る が ウ イ ス キ ー や 焼 酎 は太 ら な い と いわ れ 、 と く に ビ ー ル は" ビ ー ル

腹" と い う イ メー ジ が あ り 肥 満 の大 敵 と さ れ て いま す 。 ビ ー ルは ウ イ ス キ ー に比 べ同 じ 一単 位 で も

カ ロリ ー が や や 高 いこ と も あ り ま す が 、 ビ ー ル で太 る 理 由 は別 に あ り ま す 。 ビ ー ルな ど薄 い酒 ほ ど

胃 液 の分 泌 を 促 す こ と か ら 食 欲 を増 進 さ せ、 ま た ア ル コー ル が脳 に働 い て 理性 の麻 痺 も 手 伝 って 、 つ い つ い主 食 や つま み を食 べ過 ぎ てし ま う か ら です 。

  最 近 は ウ イ ス キ ー党 で も 水 割 り を 好 ん で飲 みま す ので 、 ビ ー ルと 同 じ理 由 で 太 り すぎ の人 が多 く な って い ま す 。 一杯 の後 の ラ ー メ ン、 お茶 漬 け 、 家 へ帰 って か ら の食 事 は、 カ ロリ ー オ ー バ ー に な る だ け で な く 、 そ のま ま 寝 る と 就 寝 中 は熱 量 が 消 費 さ れ な いの で勧 め ら れ ま せ ん。 食 事 は、 飲 ん だ ア ル コー ル、 つま み の熱 量 を 考 慮 し な が ら 飲 酒 の席 で す ま す よ う 心 が け ま し よう 。   一方 、 つま み は栄 養 を バ ラ ンス よ く と る た め に必 要 で 、 漬 け物 な ど を 肴 に も っぱ ら酒 だ け を 飲 む 人 は、 タ ン パ ク質 な ど 必 須 栄 養 素 が 不 足 し て 栄 養 障 害 と な り が ち で す 。 と く に ビ タ ミ ンB1 はア ル コー ルを 代 謝 す る過 程 で 働 く 種 々 の酵 素 に と っても 必 須 で、 飲 酒

に伴 って 消 費 さ れ欠 乏 す る ので 、 十 分 な 補 給 が必 要 です 。 ビ タ ミ ンB1 は 、 脂 肪 分 の少 な い肉 ・魚 類 、

乳 製 品 、 豆 類 、 新 鮮 な 野 菜 な ど に多 く含 ま れ て いま す 。 こ れ ら の食 品 ので き る だ け多 く の種 類 を 組 合 わ せ て つま み と し て と り ま し ょう 。

  食 べな が ら 飲 む こと に よ って必 要 な栄 養 を き ち っと と り、 飲 ん だ後 は食 べな いほ う が よ いで し ょ う。

3 

アル コール の吸収 か ら代謝 ま で

ア ル コー ル の吸 収

つまみをとる順番はあるか？

1  酔 って か ら食 べ る か、 食 べ なが ら酔 う か 、食 べ てか ら酔 う ガ ？ 2 

全 に吸 収 さ れ、 そ の先 の大 腸 は 吸 収 に関 与 し て いま せ ん。 小 腸 は 長 い臓 器 で六 ∼ 七 メ ー ト ルも あ り 、

一〇 ％ 、 空 腸 で 五 〇 ％ 、 回腸 で 二〇 ％ ︶ 吸 収 さ れ ま す 。 と く に小 腸 か ら は き わ め て 速 や か に か つ完

ル コー ルは そ の ま ま の形 で胃 で 約 二〇 ％ 、 残 り の 八 ○ ％ は小 腸 か ら ︵お お ま か に い って十 二指 腸 で

  普 通 の食 物 は消 化 酵 素 の働 き によ って消 化 と いう過 程 を 経 な け れ ば 吸 収 さ れ ま せ ん が 、 飲 ん だ ア

だ け で も酔 っぱ らう 人 が い る と いわ れ る のも あ な が ち 誇 張 で は な い で し ょう 。

口 に含 ん だ だ け でも 口腔 粘 膜 か ら 吸 収 さ れ ま す 。 酒 蔵 の前 を 通 った り 、 ア ル コ ー ル の臭 いを 嗅 いだ

ま ま 直 ち に吸 収 さ れ て ゆ き ま す。 ア ル コー ルは 、 飲 ま な く ても 蒸 気 と し て鼻 粘 膜 か ら も肺 か ら も、

  ア ル コー ルは 、 人 体 に 入 る と粘 膜 のあ る と ころ な ら ど こ から で も 、 拡 散 と いう 現 象 に よ って そ の

〈ポ イ ン ト〉

し か も内 腔 表 面 積 が 大 き い上 に、 表 面 に は絨 毛 突 起 が た く さ ん あ って 吸収 に都 合 のよ い構 造 にな っ

て いて 、飲 ん だ ア ル コ ー ル は 小 腸 ま で で完 全 に体 内 に吸 収 さ れ てし ま う の です 。

  ア ル コー ル の吸 収 速 度 を 規 定 す る も のは ア ル コー ル の胃 か ら 小 腸 へ の移 行 速 度 、 飲 む ス ピ ー ド 、

食 べな が ら飲 む こ と が勧 め ら れ る の は理 に か な う 、 酒 飲 み の

  酔 い つぶ れ な いた め に は飲 む前 に何 か食 べ て お く、 ま た は

り ま す が 、 こ の関 係 が よ く理 解 で き る と 思 い ま す 。

お け る ア ル コー ル吸 収 の差 を 血 中 ア ル コー ル濃 度 で 示 し て あ

って徐 々 に し か 通 れ な く な り ま す 。 図 １ に空 腹 時 と 満 腹 時 に

来 な ら 自 由 に幽 門 を 通 過 す る ア ル コー ルも 、 そ のあ お り を く

と く に脂 肪 、 タ ン パ ク質 を 含 ん だ食 物 に そ の傾 向 が強 く 、 本

門 を つく り十 二指 腸 へ食 物 を 通 さ な いよ う にな って いま す 。

酵 素 が作 用 し や す い状 態 に な る ま で 、 胃 の幽 門 が収 縮 し て関

す が 、 胃 に食 べ物 が 入 る と、 あ る 程 度 ど ろ ど ろ に な って消 化

  食 物 の消 化 吸 収 は 主 と し て十 二指 腸 以 下 の小 腸 で行 わ れ ま

で も同 じ 理 由 で 吸収 が速 く酔 い やす いと いえ ま す 。

腹 に 一杯" や る と酔 い が速 い の で す 。 ま た 胃 切 除 を 受 け た 人

量 、 濃 度 な ど です 。 胃 が 空 の場 合 は 、 ア ル コ ー ル は胃 から 直 ち に小 腸 へ流 れ 込 み ま す の で" す き っ

図1  空 腹 時 と満 腹 時 の アル コー ル 血 中 濃 度 の 比 較

知 恵 と い って よ いで し ょう 。 し か し 食 べな が ら 飲 む ほ う が よ く 、食 べて か ら 飲 む と 酒 が お いし く な

い上 に、 相 当 量 飲 ん で も 血 中 濃 度 が 上 が ら な いの で 、 よ い気 持 ち にな った 頃 に は か な り 飲 み過 ぎ と なり ます。

  酒 を ス ピ ー ドを 上 げ て飲 む と そ の吸 収 が 速 ま る こ と は当 然 で す が 、 酒 類 の ア ル コー ル濃 度 に よ っ

ても 異 な り 、 一般 に そ の濃 度 が高 い ほ ど 吸 収 が 速 い の です 。 し か し あ ま り濃

すぎ る と幽 門 が け いれ ん し て か え って吸 収 が 遅 く、 あ る い は嘔 吐 し て体 内 に

吸収 さ れ る のを 防 ぎ ま す の で、 一〇 ∼ 三〇 ％ の濃 度 の酒 類 が最 も 吸 収 が速 い

と いわ れ て いま す 。 ま た 、 胃 腸 管 運 動 が活 発 で、 消 化管 粘 膜 の血 流 が増 す ほ

ど ア ル コー ル の吸 収 は 促 進 し ま す 。 シ ャ ン パ ン、 ハイ ボ ー ル、 ビ ー ルな ど の

発泡 性 の酒 類 は泡 の も と にな って い る炭 酸 ガ スな ど の刺 激 で幽 門 が 開 き や す

く 、 同 時 に胃 腸 管 運 動 を も亢 進 さ せ 、 ま た粘 膜 の血 流 を 増 加 さ せ る の で吸 収

が速 く な り ま す 。 香 辛 料 の多 い つま みを 同 時 に食 べた 場 合 も 血 流 の増 加 、 胃 腸 管 運 動 の亢 進 の た め ア ル コー ル の吸 収 が速 く な り ま す 。

  急 激 に酔 っぱ ら わ な いよ う に上 手 に酒 を 飲 む た め に は 、 ア ル コー ル の吸 収

に影 響 す る いろ い ろ な条 件 を 知 って、 つま み を と り な が ら 薄 い酒 を 、 ゆ っく

り と 飲 む の が 理 想 で す 。 つま み を と る 順 番 は最 初 は や や こ って り し た も の ︵ 脂 肪 、 タ ン パ ク質 ) を 主 体 にす る の が よ い でし ょう 。

ア ル コー ルの体内 で の拡 が り

1 

飲酒運転かどうか の判定を呼気で行う理由？

アルコールはなぜ肝臓だ けでなく、いろいろな臓器を傷害する か？ 2 

れ、 車 の運 転 には 不 適 で す 。 日 本 の基 準 は欧 米 にく ら べき び し いと さ れ て いま す が 、 後 にも 述 べ る

  外 観 は異 常 な い よう に 見 え ても 、 こ の濃 度 で は 視 覚 低 下 、 視 野 狭 窄 、 反 射 運 動 能 力 の遅 れ が み ら

当 ります。

が 、 これ は ア ル コー ル 一単 位 ︵ビ ー ル大 び ん 一本 、 日本 酒 一合 な ど ) を 飲 ん で約 三 〇 分 後 の状 態 に

な み に、 道 路 交 通 法 で ﹁酒 気 帯 び 運 転 ﹂ と判 定 さ れ る下 限 の血 中 ア ル コー ル濃 度 は○ ・〇 五 ％ で す

膨 ら ま し て え ら れ た呼 気 を 検 知 管 で 吸 いと って、 ド ラ イ バー の酩 酊 度 を 測 定 し て い る わ け で す 。 ち

リ リ ット ル中 のア ル コー ル濃 度 と ほ ぼ 等 し い こ と が わ か って いま す 。 こ の事 実 を 応 用 し て、 風 船 を

  酒 く さ い息 の原 因 は 呼気 中 の ア ル コー ル のせ い で、 呼 気 二リ ット ル中 の ア ル コー ル量 は 血 液 一ミ

に体 外 へ排 泄 さ れ ま す 。

  胃 や 小 腸 か ら 吸 収 さ れ た ア ル コー ル の九 五 ％ は肝 臓 で 処 理 さ れ、 五 % 程 度 は 呼 気 、 尿 、 汗 と と も

〈ポ イ ン ト 〉

よ う に日 本 人 は ア ル コー ル に弱 い民 族 で、 少 量 の飲 酒 で も 酔 いや す い体 質 を も って いる か ら で す 。

  胃 や 小 腸 か ら 吸 収 さ れ た ア ル コー ル は胃 と 小 腸 に分 布 す る静 脈 を 経 て、 門 脈 と いう大 き な 血 管 に

集 め ら れ て 肝 臓 に達 し 、 こ こ で 分解 ・処 理 ( 酸 化 ) さ れ ま す が 、 こ の し く み はま た後 で く わ し く 説 明しま す。

  肝 臓 は運 び こ ま れ てき た ア ル コー ル の処 理 を 直 ち に開 始 し ま す が、 処 理 能 力 に は 一定 の限 界 が あ

って、 い っぺ ん に す べ てを 処 理 す る こ と は で き ま せ ん 。 そ こで 一部 は肝 臓 を 素 通 り し て血 液 に混 じ

って体 内 を く ま な く め ぐ り ︵こ の間 に ア ル コー ル は脳 に作 用 し て酔 いを 生 ず る )、 ま た肝 臓 に 戻 り 代 謝 ・処 理 を 繰 り 返 し ま す 。

  ア ル コー ルは歯 、 骨 、 毛 髪 、 脂 肪 組 織 な ど水 分 の少 な い部 分 を 除 き 、 水 分 のあ る と こ ろ な ら ど こ

へで も 拡 散 し体 内 のあ ら ゆ る組 織 に分 布 し て ゆ き ま す。 から だ の す べ て の細 胞 は 細 胞 膜 で 保 護 さ れ

不 必 要 な 物 質 の侵 入 を 阻 止 し て いま す が、 ア ル コー ルは こ の細 胞 膜 を も も のと も せず 、 人 体 の あ ら ゆ る 細 胞 にし み込 ん で ゆ く の で す 。

  ま さ に" 五 臓 六腑 にし み わ た る" の た と え 通 り、 肝 臓 だ け で な く 、 脳 ・神 経 細 胞 も 、 膵 臓 の細 胞

も 、 心 筋 細 胞 も 、 骨 格 筋 細 胞 も 、 腎 臓 の細 胞 も す べ て例 外 で は あ り ま せ ん 。

  さ ら に 授 乳 中 の 母親 が 酒 を飲 む と乳 児 も 母 乳 か ら ア ル コー ルを と り、 ま た ア ル コー ル は胎 盤 を も

通 過 す る の で、 妊 娠中 の母 親 が 酒 を 飲 む と お腹 の胎 児 も 一緒 に酔 っぱ ら って いる こと にな り ま す 。

  肝 臓 は 吸 収 さ れ た ア ル コー ルが 最 初 にか つ大 量 に集 ま る と こ ろ で、 ま た 代 謝 の基 地 で も あ る の で

末 梢 血 、 門 脈 血 、 リ ンパ 液 、 膵 液 、 胆 汁 お よ び 諸 臓 器 内 の エ タ ノ ー ル 濃 度 （イ ヌ に25％ ア ル コ ー ル を 図2 

1ｇ ／kg胃 内 投 与 ）

負 担 が 大 きく 、飲 み過 ぎ る と 当 然 肝 障 害 が 起 き る こと が

一番 多 い の で す が 、 ア ル コー ル は人 体 のあ ら ゆ る臓 器 、

細 胞 にし みわ た る の で、 体 内 の い ろ いろ な 臓 器 に ア ル コ

ー ル によ る障 害 が起 こ る原 因 の 一つと な り ま す 。

  図 ２ は私 た ち の実 験 結 果 で す が、 イ ヌ に 一ｇ／kgの ア

ル コー ル ︵ 人 間 に換 算 す る と 日本 酒 三 合 程 度 ︶ を 二 五 パ

ー セ ント に調 整 し て飲 ま せ る と、 体 液 お よ び か ら だ の各

臓 器 に ア ル コ ー ル が検 出 さ れ て いる こ と が わ か り ま す 。

人 のア ル コー ル処 理 能力

1  2 

人は 一体どれくらいのアルコールを飲め るか？ アルコールが体 内から消失 するまでの時間はど れくらいか？

飲 酒 量 が増 加 す る と ア ル コー ル の代 謝 量 も増 加 し、 血 中 か ら の消 失 は や や 速 く な り ま す の で、 日本

最高 ( 約 五 〇mg ／dl) と な り、 二 合 飲 め ば 血 中 濃 度 も ほ ぼ そ の 二 倍 、 三 合 飲 め ば 三 倍 と な り ま す 。

  図 ３ に 示 す よ う に空 腹 時 に 日本 酒 一合 を飲 む と、 普 通 は三 〇 分 く ら いで 血 中 の ア ル コー ル濃 度 は

る 理 由 の 一つは体 重 の関 係 か ら も 説 明 で き ま す 。

升 は普 通 の人 の 二 ・五 合 に し か 相 当 し な いか ら で す 。 一般 に男 性 の方 が女 性 よ り ア ル コー ルを 飲 め

れ る の は、 力 士 の体 重 が 二〇 〇 キ ログ ラ ム と す る と 、 五 〇 キ ログ ラ ム の人 の四 倍 と な り 、 力 士 の 一

  し た が って血 中 ア ル コー ル濃 度 は 体 重 に反 比 例 し 、 相 撲 の力 士 が 日 本 酒 一升 飲 ん で も 平 気 で いら

そ 体 重 の 三 分 の 二あ り ま す の で 、 ア ル コー ルは こ の水 分 に よ って 薄 め ら れ る こと に な り ま す 。

に飲 ん だ ア ル コー ルは す べ て体 内 に吸 収 さ れ て血 液 、体 液 中 に拡 散 し ま す が 、 人 体 の体 液 量 は お よ

重 、 そ の人 のア ル コー ル処 理 能 力 な ど いろ い ろな 因 子 に よ って影 響 を 受 け ま す 。 す で に述 べ た よ う

  血 中 ア ル コ ー ル濃 度 は 飲 ん だ ア ル コー ル の量 、 飲 む スピ ー ド、 同 時 に食 べ る食 物 の量 と 種 類 、体

〈ポイ ン ト〉

酒 一合 を 処 理 す る の に 三 時 間 か か った も の が 、 二合 な ら 五 ∼ 六 時 間 、 三合 な ら 七 ∼ 八時 間 と な り ま す。

  ア ル コー ルを 翌 日 ま で 残 ら な いよ う に飲 む た め に は 、 た と え ば 日 本 酒 三 合 飲 ん だ場 合 は夜 十 一時

● … ピー ク、 ○… 消失 時 間 、 単位 はmg／ml

間 後 に は車 を 運 転 で き る こ と にな り ま す 。

  た だ し 、 こ れ は空 腹 か そ れ に近 い状 態 で 短 時 間

飲 め る ア ル コー ル量 は

す 。 し た が って体 重 六 〇 キ ログ ラ ム の人 で は、 一日 に

グ ラ ム のア ル コー ルを 処 理 で き る こ と が わ か って いま

ログ ラ ム 当 た り○ ・ 一∼ ○ ・ 一五 ( 平 均 ○ ・ 一二 五 )

  いろ いろ な 実 験 の結 果 か ら 、 人 は 一時 間 に体 重 一キ

て消 失 し て ゆく か ら です 。

す 。 体 内 の ア ル コー ル は た え ず 一定 の速 度 で酸 化 さ れ

濃 度 は も っと低 く な り 、 消 失 ま で の時 間 は長 く な り ま

め ば 、 あ る いは何 か 食 べ な が ら 飲 めば 血 中 ア ル コー ル

〇 分 以 内 ︶ に飲 ん だ 場 合 で、 これ よ り時 間 を か け て飲

︵ 四

一合 ま た は ビ ー ル 一本 飲 む ので あ れば 、 計 算 上 は 三 時

に切 り 上 げ る と 八 時 間 後 の翌 朝 七 時 に は血 中 の ア ル コー ル は消 失 し て いる こと に な り ま す 。 日本 酒

図3  日本 酒1∼3合 を短 時 間 に 飲 ん だ と きの 標 準 的 な血 中 ア ル コー ル 濃 度 お よび 消 失 時 間 。推 定 に よっ て画 い た もの 。飲 酒 量 が増 す と代 謝 量 も増す ので 、計算 に よ る時 間 よ り早 く消 失 す る。初 飲 よ り の ピー ク はだ ん だ ん右 へ 移動 す る。

 0.1∼0.15︵g︶／kg／時間 ×60︵kg︶×24時間＝144∼216︵g︶

と な り 、 こ の量 は 日本 酒 六 ・八合 ∼ 一升 、 ビ ー ル 六 ・五 ∼ 一〇 本 、 ウ イ ス キ ー ダ ブ ル六 ・八∼ 一〇

杯 に当 た り ま す 。 し か し こ れ は 二 四 時 間 か か って や っと 代 謝 で き る量 で、 肝 臓 を は じ め か ら だ に大

き な 負 担 を かけ る こ と にな り ま す 。 理 論 的 に は 一時 間 ご と に 六 ∼ 九 グ ラ ム ︵ 日 本 酒 な ら オ チ ョ コ六

∼ 九 杯 ︶ の ア ル コー ルを 飲 ん で いれば 絶 対 に酔 わ な い はず で す が 、 こ れ で は酒 を飲 む 意 味 が な いで し ょう 。   こ れ ら の計 算 は あ く ま で標 準 的 な も の で、 後 述 の ア ル コー ル酸 化 酵 素 の遺 伝 的 変 異 な ど を 含 む 個 人 差 や 吸収 な ど いろ い ろ な条 件 に よ って 異 な る こ と は いう ま で も あ り ま せ ん 。   な お、 常 習飲 酒 者 で は あ と で も く わ し く述 べま す が、 肝 臓 で の ア ル コー ル代 謝 能 力 が亢 進 し て いる こ と 、 ア ル コー ル に対 す る中 枢 神 経 系 の感 受 性 が低 下 し て いて酔 いに く い こ と (ア ル コー ル耐 性 ) とあ いま って、 飲 酒 可 能 量 は普 通 の人 よ り増 加 し て いま す 。 これ は慢 性 飲 酒 に よ る順 応 現 象 です が、 普 通 の人 の二 倍 以 上 にな る こ と は な いと さ れ て いま す 。

︵ 横 隔 膜 下 ︶ にあ って 大 部 分 が右 から 真 ん中 を 占 め 、 さ ら に左 のほ う ま で 張

ア ル コー ル の肝 臓 で の処 理 ︵ 代謝︶   肝 臓 は腹 腔内 の上 部

り 出 し て いる 重 量 一∼ 一 ・五 キ ログ ラ ム ( 体 重 の五 〇 分 の 一︶ も あ る か ら だ で 一番 大 き な 臓 器 で す 。

  肝 臓 は人 体 の巨 大 な 化 学 工 場 にた と え ら れ 、 種 々 の物 質 の合 成 、 代 謝 、 解 毒 、 血 液 循 環 の調 節 、 胆 汁 の生 成 、 グ リ コー ゲ ン、 ビ タ ミ ンな ど の貯 蔵 、 止 血 作 用 な ど 二 〇 〇 種 以 上 にも 及 ぶ さ ま ざ ま な働 き を し て いま す 。 食 物 が 消 化 、 吸 収 さ れ る と栄 養 素 は い った ん 肝 臓 に集 ま り 、 そ こ で変 化 を 受 け て か ら だ で利 用 さ れ や す い形 に変 え ら れ 、 必 要 に応 じ て か ら だ の す みず みま で運 ば れ ま す 。   胃 や 小 腸 か ら 吸 収 さ れ た ア ル コー ル の大 部 分 は 門 脈 を 経 て肝 臓 に集 ま り 、 そ こ で 処 理 ︵ 代 謝 ︶ さ れ ま す 。 こ こ で は そ の 機構 を や や く わ し く 説 明 し て み ま し ょう 。   睡眠薬 を飲 んでも翌日 にはち ゃんと目が覚 めますが、 これは肝 臓 が睡 眠薬 を 解 毒︵ 代 謝︶ し て い る か ら で、 ア ル コー ル も こ の肝 臓 の解 毒 、 代 謝 作 用 によ って処 理 さ れ る の で、 酒 を飲 ん で も いず れ 酔 い か ら 覚 め る こ と に な る わ け で す 。 肝 臓 が ア ル コー ルを 代

ア ル コ ー ル 酸 化 酵 素 系 の働 き

アル コ ー ル の肝 臓 に お け る代 謝 図4 

謝 ・処 理 す る し く みを 図 4 に示 し ま す が、 これ に は重 要 な 工

程 が 二 つあ り 、 いず れ も 肝 細 胞 に存 在 す る酵 素 の働 き によ る も ので す 。

︵ A D H ︶ と ミ ク ロゾ ー ム ・エタ ノー

  す な わ ち、 ア ル コー ルは 肝 臓 で ま ず 二系 統 の酸 化 酵 素︱ ア ル コー ル脱 水 素 酵 素

︵ A

ル酸 化 系 ︵M E O S︶ の働 き で ア セ ト ア ルデ ヒ ド に変 わ り 、

さ ら にア セト ア ルデ ヒ ド は ア セ ト ア ルデ ヒ ド脱 水 素 酵 素

L D H ︶ に よ り 酸 化 さ れ て酢 酸 と な り 、 全 身 の筋 肉 や脂 肪組

織 に 運 ば れ、 最 終 的 に は炭 酸 ガ ス と 水 に分 解 さ れ ま す 。

アルコールと薬を同時に飲むと効きすぎるのは本当か？

1  訓練によってアルコールがだ んだん飲め るようになる人がいる のはなぜ か？ 大酒飲 みは薬が効きにくいと いわれているが、本当か？ 2 

3 

 ア ル コー ル代 謝 の第一 段 階 は ア ル コ ー ル を 酸 化 し て ア セト ア ルデ ヒ ド に変 え る工 程 で 、 これ に は

〈 ポイント〉

二 つ の酵 素 が 関 与 し ま す 。

  一つは肝 細 胞 の サイ トゾ ー ル ︵ 細 胞 質 ︶ にあ る ア ル コー ル脱 水 素 酵 素 (A D H ) で、 ア ル コー ル

処 理 の七 〇 ∼ 八 ○ ％ を 担 って いま す 。 A D H に は 二 つ のタ イ プ 、 通 常 型 と 異 型 ( 非定 型的活性型 )

が あ り 、 異 型 A D H は働 き が活 発 で 、 ア ル コー ル か ら ア セト ア ルデ ヒ ド を ど ん ど ん増 や す こ と が知

ら れ て いま す 。 日 本 人 は遺 伝 的 に異 型 A D H を 持 って い る人 が多 く 、 そ の頻 度 は欧 米 人 の五 ∼ 一〇 ％ に比 し 八 五 ％ を 占 め る こ と が確 認 さ れ て いま す 。

  ア セ ト ア ルデ ヒ ド が 増 加 す る と 、 そ の薬 理 作 用 に よ り 顔 が赤 く な り 、 心臓 が ド キ ド キ す る、 頭 が

痛 いな ど フラ ッ シ ング ︵ 顔 面 紅 潮 ) 現 象 と 呼 ば れ る症 状 が起 こ り ま す が、 現 実 に は フ ラ ッ シ ング が

み ら れ る 日 本 人 は せ いぜ い半 数 程 度 で、 八 五 ％ も いま せ ん。 し た が って ブラ ッ シ ング 現 象 の出 現 に

か か わ る のは 、 異 型 A D H よ り も 、 後 に述 べ る A L D H の関 与 の ほう が よ り 重 要 で あ る こ と を 示 し ています。

︵ MEO S、 メオス︶と命名

  もう 一つは 、 肝 細 胞 の滑 面 小 胞 体 と いう 小 器 官 にあ る ア ル コー ル酸 化 酵 素 で、 ミ ク ロゾ ー ム にあ って ア ル コー ルの酸 化 を 行 う の で、 ミ ク ロゾ ー ム ・エタ ノ ー ル酸 化 系

さ れ て いま す 。 M E O S は本 来 は お も にタ ン パ ク合 成 と か、 抗 生 物 質 、 鎮 痛 剤 な ど 一般 の薬 物 や 異

物 の代 謝 を 行 って いま す が 、 ア ル コー ルが ど ん ど ん 肝 臓 に 入 って き て ア ル コー ル濃 度 が高 く な る と、

A D H だ け で は酸 化 が ま か な い き れ な く な り、 M E O S の助 け を 借 り る こ と に な る の で す 。

  ア ル コー ル を無 理 し て飲 ん で い る う ち に次 第 に酒 に強 く な って ゆ く 人 が いま す が 、 一つ には 酵 素

誘 導 と いう 現 象 によ って M E O S が だ ん だ ん 増 え て き て ア ル コー ル の酸 化 能 力 が増 大 す る か ら で、

酸 素 が 少 な い高 地 に住 ん で い る人 が適 応 現 象 によ って赤 血 球 が増 え る の と似 て いま す 。 も う 一つは 、

飲 み つづ け て いる う ち に、 ア ル コー ル に対 す る 脳 神 経 細 胞 の感 受 性 が 鈍 く な って ア ル コー ル耐 性 が 成 立 す る こ と が 関 係 し て いま す 。

  よ く 大 酒 飲 み は 麻 酔 や 睡 眠 薬 な ど が 効 き にく いと いわ れ て いま す が 、 こ れ は ア ル コー ル常 飲 に よ

って 増 加 し た M E O S が 、"し ら ふ" の場 合 には 、 麻 酔 剤 や 飲 み薬 を 余 計 に分 解 ・処 理 し て し ま う

か ら です 。 一方 、 ア ル コー ルを 飲 み な が ら 一緒 に薬 を服 用 す る と 、 今 度 は M E O S は ア ル コー ルと

薬 物 と を 同 時 に処 理 し な け れば な り ま せ ん ので 、 ア ル コ ー ル と競 合 し て薬 の分解 が間 に合 わ な く な り 、 今 度 は効 き 過 ぎ に な る の で す 。

  例 を あ げ る と 、 糖 尿 病 の人 が血 糖 降 下 剤 と ア ル コー ルを 同 時 に飲 む と、 薬 が 効 き すぎ て低 血 糖 発

作 を 起 こ す 、 睡 眠 薬 と ア ル コー ルを 一緒 に飲 む と薬 が 効 き 過 ぎ て 翌 朝 に な っても 目 が覚 め な いな ど

で す 。 そ の他 に ア ル コー ル と併 用 す る と問 題 にな る薬 と し て、 一部 の高 血 圧 治 療 薬 、 経 口抗 凝 血 薬 、

抗 て ん か ん薬 、 抗 ヒ ス タ ミ ン薬 な ど が あ り ま す 。 ア ル コー ル飲 み は 薬 の服 用 に は と く に注 意 が 必要 です。

  近 年 M E O S は チ ト ク ロー ム p4 5 0 と いう 酵 素 群 の 一つで、 な か で も ア ル コー ル によ って誘 導

さ れ る の はp45︲2E1 ︵CYP2E ︶1 と いう 酵 素 で あ る こ と が わ か って き ま し た。CYP2E1 が誘 導

さ れ る と活 性 酸 素 と いう 酸 素 毒 を 産 生 し、 細 胞 の タ ン パ ク、 D N A 、 脂 質 を 変 質 さ せ て細 胞 障 害 を

引 き起 こす と いわ れ て いま す 。

  活 性 酸 素 は細 胞 毒 と し て 種 々 の臓 器 障 害 の み な ら ず 、 老 化 、 免 疫 機 能 低 下 に も か か わ って い る こ

と で最 近 とく に注 目 さ れ て いま す 。 人 は 呼 吸 で得 た 酸 素 に よ って栄 養 素 を 燃 や し エネ ルギ ー と し て

利 用 し 、 最 終 的 反 応 と し て 酸 素 が 水 素 を 酸 化 し て水 に変 え て いま す が 、 こ の過 程 で 酸 素 が中 途 半 端

3 

アセトアルデ ヒドもアルコール性臓器障害の犯人？

2  嫌酒薬の原理とは？

1  飲むと顔が赤 くなる人 、青くなる人。

な 反 応 を 起 こ し て過 酸 化 水 素 な ど の活 性 酸 素 を 生 ず る こ と にな る の で す 。

ア セ ト ア ルデ ヒ ド 脱 水 素 酵 素 の働 き

ル コー ル で真 っ赤

︵ 顔 面 紅 潮 、 フ ラ ッ シ ング ︶ にな る人 が多 く 、 な か に は反 作 用 で 真 っ青 にな る人

 し か し 、 ア セ ト ア ルデ ヒ ド は 微 量 で も 毒 性 が強 く 、 自 律 神 経 を 刺 激 し 末 梢 血 管 を 拡 張 す る の で ア

さ れ ま す の で、 血 中 で の ア セ ト ア ルデ ヒド 濃 度 は ア ル コー ル濃 度 に比 べご く 微 量 です 。

L D H ︶ が 関 与 し ま す 。 生 成 さ れ た ア セト ア ルデ ヒ ド の 九 〇 ％ 以 上 が A L D H によ り速 や か に酸 化

れ に は肝 細 胞 のミ ト コン ド リ ア と いう と こ ろ に主 と し て 局在 す る ア セト ア ルデ ヒド 脱 水 素 酵 素 ︵A

  ア ル コ ー ル処 理 の第 二段 階 は 、 第 一段 階 で生 じ た ア セ ト ア ルデ ヒ ド を 酢 酸 に分 解 す る 工 程 で、 こ

〈ポ イ ン ト〉

も いま す 。 つま り ア セ ト ア ルデ ヒ ド は 不 快 な フ

ラッ シ ング 現 象 を 引 き 起 こ す 、 いわ ゆ る悪 酔 い

の 元 凶 と も いう べ き物 質 で す 。 図 5 に、 私 自 身

も医 学 生 時 代 に被 験 者 と し て参 加 し た こ と のあ

る 懐 かし い実 験 の 一つを 示 し ま す が 、 ア セ ト ア

ルデ ヒ ド の作 用 が よ く わ か り ま す 。

  ア セト ア ルデ ヒ ド が悪 酔 い の原 因 だ と いう 証

拠 は ほ か にも あ り ま す 。 ア ル コー ル依 存 症 の治

( 抗酒薬 、嫌酒薬︶ があ

療 に よく 用 い る シ ア ナ マイ ドや ア ンタ ビ ウ スと

いう 酒 を 嫌 い にす る薬

り ま す が 、 シ ア ナ マイ ド は A D H を 、 ア ンタ ビ

ウ ス は A L D Hを ブ ロッ ク す る の で、 こ れ ら の

薬 を 服 用 し て か ら 、少 量 で も 酒 を 飲 む と血 中 の

し 、 二 四 時 間 後 には 消 失 す る の で外 来 で の治 療 に適 し て いま す 。 一方 、 ア ン タ ビ ウ ス は白 色 の粉 末

  シ ア ナ マイ ド は無 味 ・無 臭 の 一％ の水 溶 液 で毎 朝 少 量 を服 用 す る と 一〇 分 ほ ど で 抗 酒 効 果 が 出 現

る こ と が で き る と いう わ け で す 。

ア セ ト ア ルデ ヒ ド 濃 度 が異 常 に高 く な り 、 悪 酔 いし て物 理 的 に酒 が飲 め な く な り 、 結 局 は酒 を 止 め

図5  清 酒5合 を飲 ん だ と きの 血 中 ア ル コ ール とア セ ト ア ル デ ヒ ドの 消 長

で蓄 積 作 用 が あ り 、 服 薬 を 中 止 し て も し ば ら く は 効 いて い る の で危 険 も あ り、 治 療 に は注 意 が 必 要

で す 。 こ の嫌 酒 薬 はデ ン マ ー ク のあ る薬 学 者 が 発 見 し た も の で す が 、 か れ は駆 虫 剤 の研 究 中 、 こ の

薬 を 服 用 し て ア ル コー ルを 飲 む と今 ま で経 験 し た こ と の な い ほ ど悪 酔 いす る よ う にな り、 こ の駆 虫 剤 が 原 因 と推定 し た わ け で す 。

  こ のよ う に し て 嫌 酒 薬 が 生 ま れ た の で す が 、 そ の後 、 一般 の治 療 に用 いる いく つか の薬 剤 の中 に

も A L D H阻 害 作 用 があ る こと が わ か り ま し た 。 あ る種 の糖 尿 病 の内 服 薬 、 鎮 痛 剤 、 抗 菌 剤 、 抗 生

物 質 、 抗 潰 瘍 剤 な ど で す が 、こ う い った 薬 を 服 用 し て いる 人 は ア セ ト ア ルデ ヒ ド の代 謝 能 力 が 低 下

し て いま す の で 、飲 酒 す る と 血 中 の ア セト ア ルデ ヒ ド濃 度 が 極 端 に高 く な り、 悪 酔 い症 状 が 強 く 、

き わ め て危 険 な状 態 を 招 く こと にな り ま す 。 現 在 は こ の よ う な 薬 の説 明 書 に は ア ル コー ルと の関 係

が 注 意 書 き と し て 記 載 さ れ て いま す し 、 医 師 や薬 剤 師 の説 明 も義 務 づ け ら れ て いま す 。

  最 近 の研 究 で は 、 ア セト ア ルデ ヒ ド が 種 々 の臓 器 の細 胞 を 構 成 し て いる タ ンパ ク と 結 合 し 、 共 有

結 合 物 ︵ア ダ ク ト ︶ を 形 成 し これ が 直 接 細 胞 障 害 を 、 あ る いは ア ダ ク ト が 抗 原 と な って免 疫 異 常 を

起 こし 肝 炎 や 線 維 化 を 生 ず る可 能 性 が指 摘 さ れ、 ア ル コー ル性 臓 器 障 害 と の関 連 性 で 注 目 さ れ て い

ま す 。 脳 細 胞 で は ア セ ト ア ルデ ヒド と結 合 し た特 殊 な タ ン パ ク が モ ル ヒ ネ 様 作 用 を 発 揮 し て ア ル コ

ー ル嗜 好 性 、 依 存 性 が成 立 す る と さ れ て いま す 。 ア ル コー ル によ る臓 器 障 害 の犯 人 と し て、 ア ル コ

ー ル自 身 は も と よ り前 項 で 述 べた 慢 性 飲 酒 に よ って誘 導 さ れ るCYP2E1 、 そ れ に こ の ア セト ア ル デ ヒド な ど が 考 え ら れ て い ま す 。

ア ル コー ル に 強 い 人 、 弱 い人

1 

だれでも訓練すると酒に強 くなるか？

アルコールに強い人と弱い人は遺伝するか？

に、 ア セト ア ルデ ヒ ド濃 度 は 酒 の強 い人 は低 く、 弱 い人 は高 く な り ま す ︵ 表 3 ︶。

酒 が飲 め な い人 は す ぐ 増 え てく る 、 つま り酒 に強 い人 も弱 い人 も血 中 の ア ル コー ル濃 度 は 同 じ な の

血 中 濃 度 と 関 係 が あ る の で す 。 も と も と 大 酒 を飲 め る人 は 、 飲 ん で も ア セト ア ルデ ヒ ド が増 え ず 、

く、 前 項 で説 明 し た ア ル コー ル が肝 臓 で 分 解 さ れ る過 程 で でき た悪 酔 い物 質 の ア セト ア ルデ ヒ ド の

  ア ル コー ルに 強 い、 弱 いは 肝 臓 の強 さ 、 弱 さ で は な く 、 ま た肝 臓 に 病 気 が あ る か、 な いか で は な

多 く の こと が明 ら か にな ってき ま し た 。

人 が 酒 に弱 い のは な ぜ か 、遺 伝 、 体 質 や 人 種 差 が あ る ので しょ う か 。 最 近 こ の辺 の研 究 が進 ん で、

吐 いた り す る人 が 必 ず いま す 。 こ の よ う に ど う し て酒 に強 い人 と弱 い人 が いる ので し ょ う か 、 日 本

を 飲 み な が ら楽 し く 談 笑 し て乱 れ ま せ ん が 、 日本 人 の宴 会 で は酔 い つ ぶれ た り 、気 分 が悪 く な って

ビ ー ル コップ 一口 で真 っ赤 にな って酔 っぱ ら ってし ま う 人 も い ま す 。 欧 米 人 は パー テ ィ な ど で お酒

  私 た ち の周 り には 日 本 酒 を 一升 飲 ん で も 平 気 な 酒 豪 が いる か と思 え ば 、 お ち ょ こ 一杯 、 あ る いは

2 

〈ポ イ ン ト〉

  ア セ ト ア ルデ ヒ ド が 異 常 に増 え る 原 因 の 一部 は先 に述 べ た異 型 Ａ Ｄ Ｈ に も あ り ま す が 、 大 部 分 は

︵ Ａ Ｌ Ｄ Ｈ １ ︶、 ２ 型 ︵Ａ Ｌ Ｄ Ｈ ２ ︶ が あ り、 １ 型 は ア セ ド ア ルデ ヒ ド が

ア セト ア ルデ ヒ ド を分 解 す る酵 素 で あ る Ａ Ｌ Ｄ Ｈ の タ イプ の異 常 に関 係 す る こ と が 明 ら か に な り ま した。 ＡＬＤＨ には１型

か な り 高 濃 度 に な ら な い と働 か な い タイ プ で す 。 一方 、 ２型 は ア セト ア ルデ ヒ ド代 謝 の主 役 で、 そ

の濃 度 が低 いと き か ら高 く な る ま で 、 ア セト ア ルデ ヒド の ほ と ん ど を 代 謝 し て いま す 。

0.5g/kgの

エ タ ノ ー ル を経 口 投 与 し た 際 の ピー ク値

（原 田 勝 二 氏 らに よ る 、 著 者 一 部 改 変 ）

あ く ま で活 性 型 Ａ Ｌ Ｄ Ｈ ２ を 持 って い る人 に 限 ら れ る こと は今 ま で の

Ｓ が 増 え て 次第 に ア ル コー ル に強 く な って ゆ く 人 が いま す が、 こ れ は

  前 に述 べた よ う に、 私 た ち の周 り に は酒 を飲 ん で いる う ち に Ｍ Ｅ ０

で 、 訓 練 し ても け っし て強 く は な り ま せ ん。

く な って飲 め ま せ ん 。 こ の よ う な 人 は生 ま れ つき酒 が 弱 い体 質 で す の

う に 一〇 ∼ 二 〇 倍 に も達 す る の で 、 ブ ラ ッ シ ング 現 象 のた め気 分 が 悪

Ａ Ｌ Ｄ Ｈ ２ の人 に比 べて 血 中 の ア セ ト ア ルデ ヒド 濃 度 は 表 ３ に示 す よ

不 活 性 型 Ａ Ｌ Ｄ Ｈ ２ の人 は、 同 じ 量 の ア ル コー ル を飲 ん で も、 活 性 型

日本 人 の約 半 数 が不 活 性 型 Ａ Ｌ Ｄ Ｈ ２ を 保 有 す る こ と が わ か り ま し た 。

性 型 の 二 つ に分 け ら れ ま す 。 欧 米 人 の大 多 数 は 活 性 型 Ａ Ｌ Ｄ Ｈ ２ を 、

Ａ Ｌ Ｄ Ｈ活 性 を 普 通 に持 つ活 性 型 と 、 活 性 が ご く わず か し かな い不 活

  こ の Ａ Ｌ Ｄ Ｈ ２型 には 遺 伝 的 、 民 族 的 に特 徴 があ って、 そ の遺 伝 子 の ア ミ ノ酸 が 一つ違 う だ け で 、 ア セ トア ル デ ヒ ド脱 水 素 酵 素 （Ａ ＬＤ Ｈ） と 血 中 エ タ ノー ル,ア セ トア ルデ ヒ ド濃 度 との関 係 表3 

説 明 で 理解 い た だ け る も の と 思 い ま す 。 日 本 人 の五 〇 ％ を占 め る不 活 性 型 A L D H ２ の中 には ほ と

ん ど活 性 を 失 った いわ ゆ る ﹁ 欠 損 型 ﹂ が 約 一〇 ％ 、 わ ず か に活 性 のあ る ﹁部 分 欠 損 型 ﹂ が約 四 〇 ％

を 占 め ま す 。 部 分 欠 損 型 の 一部 の人 た ち は 無 理 し て 飲 ん で い るう ち にM E O S活 性 が 増 え て少 し は 飲 め る よ う に な り ま す が、 ア セト ア ルデ ヒ ド濃 度 が い つも高 く ア ル コー ル障 害 の危 険 群 と な り ま す の で 、 注 意 す べき で す 。   わ が 国 で は ア ル コー ル消 費 量 が増 加 傾 向 にあ る と は いえ、 体 質 的 に ア ル コー ルが飲 め な い人 が 多 く、 諸 外 国 に く ら ベ ア ル コ ー ル障 害 が 少 な い こと は幸 いと い わ な け れ ば な り ま せん 。 わ れ わ れ 日本 人 は 遺 伝 的 に不 活 性 型 A L D H ２ と異 型 A D H の両 方 で ア ル コー ル依 存 症 か ら 二重 に保 護 さ れ て い る わ け です 。 一方 、 欧 米 人 は 不 活 性 型 A L D H ２ の人 はご く 少 な く 数 パ ー セ ント に 過 ぎ ま せ ん の で、 酒 に強 い人 種 であ り、 大 量 飲 酒 が 可 能 で、 そ れ だ け ア ル コー ル障 害 が 多 いと いえ ま す 。   酒 に強 い、 弱 い の判 定 は不 活 性 型 A L D H ２ を 生 ま れ つき も って いる か いな いか を 調 べ る こ と で判 定 で き ま す が 、 そ の方 法 は 後 に く わ し く 述 べま す 。

ん。

酔 いのメカ ニズ ムと血 中 ア ル コー ル濃 度

実 は そ う で は な く 、 こ の興 奮 状 態 は ア ル コー ル によ って脳 が 麻 痺 さ せ ら れ た 一つ の段 階 に 過 ぎ ま せ

ぽ い話 が 話 題 に も な り ま す 。 こ の こ と か ら ア ル コー ル は 一種 の興 奮 剤 で あ る と考 え や す いで す が、

  酒 を 飲 む と 最 初 は おし ゃ べり にな り 、 笑 い、 唄 、 踊 り も出 て手 足 の運 動 が 活 発 にな り、 ま た 色 っ

構 造 や細 胞 内 の神 経 伝 達 物 質 を 変 化 さ せ る こ と な ど 、 こ の機 構 の く わ し い研 究 が進 ん で いま す 。

で し ょう 。 こ の抑 制 作 用 の メ カ ニズ ム は 複 雑 な 過 程 で起 こ り ま す が、 ア ル コー ルが 脳 神 経 細 胞 膜 の

  ア ル コー ル は睡 眠薬 や鎮 静 薬 と同 じ で 、 脳 の神 経 細 胞 に働 い て脳 を 抑 制 す る麻 酔 薬 と考 え て よ い

３ 

２ 

１  酔いの症状には順番がある。 飲み過ぎ ると記憶がとぎれるわけ？ アルコール血中 濃度の計算法。

〈ポ イ ン ト〉

酔 いとはなにか

４ 

  人 間 の大 脳 にあ る大 脳皮 質 は 二 つの異 な った 働 き を す

る 部 分 に区 分 さ れ ま す 。 一つは感 情 や衝 動 に関 す る 、 い

わ ば 原 始 的 、 本 能 的 な 性 格 を 持 って いる ﹁ 古 い大 脳 皮 質

︵ 辺 縁 皮 質 ︶﹂ と いわ れ る部 分 で す 。 も う 一つの部 分 は 知

性 、 理 性 、 常 識 、 意 志 な ど に関 係 す る と こ ろ で新 皮 質 と

い わ れ 、 た え ず 古 い皮 質 を 抑 制 、 管 理 し て いま す 。 私 た

ち の人 格 は こ の大 脳皮 質 の 二 つの部 分 が 互 いに作 用 し 合

って で き あ が って い る と いえ ま す 。

  ア ル コ ー ル の麻 酔 作 用 は 脳 の表 面 か ら 深 いと ころ へ順

次 効 い て ゆ き、 酔 って いる 脳 の働 き は酔 いの程 度 に し た

が って図 6 の よ う な 段 階 で 進 行 し て ゆ き ま す。 軽 い酔 い

で は ま ず 知 性 や道 徳 心 を つか さ ど って いる新 皮 質 が 麻 痺

し そ の抑 制 が と れ る の で 、 古 い皮 質 の原 始 的 、 本 能 的 な

いま す の で 、 いわ ゆ る" 植 物 状 態" とも いえ 、 意 識 な く 寝 込 ん で し ま いま す 。 脳 幹 部 ま で 麻 痺 す る

泥 酔 状 態 に な る と 大 脳 、 小 脳 は完 全 に麻 痺 し 呼 吸 や 心臓 の動 き を 支 配 し て い る脳 幹 部 だ け が働 い て

脳 にか け て そ の働 きを 順 次 失 い、 意 識 は も う ろ う と す る 一方 、 運 動 、 感 覚 障 害 が つよ く な り ま す 。

も のが 表 面 に出 て き て、 見 かけ 上 の興 奮 状 態 と な る の で す 。 酔 いが さ ら に進 む と 、 大 脳 全 体 か ら小

図6  酔 っ て い る脳 の 働 き

と呼 吸 、 心 臓 が 止 ま り つ い に は死 に 至 る わ け で す 。

  いく つか の酩 酊 の段 階 ︵ 酔 い加 減 ︶ は 科 学 的 には 血 中 のア ル コー ル濃 度 に支 配 さ れ ま す が 、 も ち

ろ ん これ は 一つ の目 安 に すぎ ず 、 酔 い加 減 に は個 人 差 が あ り 、 飲 酒 速 度 、 胃 に物 が 入 って いる か、

ア ル コー ル耐 性 、 体 調 な ど によ って か な り 違 いが あ る こ と は 当 然 で す 。 表 ４ に は体 重 六 〇 ∼ 七 〇 キ

( 日 本 酒 一合 、 ビ ー ル大 び ん 一本 、 ウ イ ス キ ーダ ブ ル 一

ログ ラ ム く ら い の成 人 男 性 が 三 〇 ∼ 四 〇 分 か け て 酒 を 飲 ん だ と き の血 中 ア ル コー ル濃 度 と酩 酊 度 、

ア ル コー ル 一単 位

飲 酒 量 と の関 係 を 示 し てあ り ま す 。

  爽 快 期： 第 ○ 期 

杯 の いず れ か) を飲 む と 血 中 ア ル コー ル濃 度 は○ ・〇 五 ％ 以下 です が、 大 脳 の前 頭 葉 が 軽 く麻 痺

し 、 気 分 は 爽 快 、 気 持 ち が高 揚 し す べて に活 発 に な り 、 ま た皮 膚 は紅 潮 し ま す。 し か し 味 覚 、嗅 覚 、 視 覚 は す で に軽 度 低 下 し て い る と いわ れ て いま す 。

ア ル コー ル二 単 位 ︵日本 酒 二合 、 ビ ー ル大 び ん 二本 、 ウ イ ス キ ー ダ

ブ ル 二杯 の いず れ か ) を 飲 み、 血 中 ア ル コー ル濃 度 が ○ ・〇 五 ∼ ○ ・ 一％ にな った状 態 で、 大 脳

  ほ ろ酔 い初 期： 第 一期 

の前 頭 葉 の麻 痺 が始 ま って い ま す 。 ほ ろ酔 い気 分 で、 自 制 心 が と れ て多 弁 にな り 愉 快 にな り ま す 。

身 体 的 に は体 温 は 上 昇 し 、 脈 が速 く な る 一方 、 視 覚 低 下 、 視 野 の狭 窄 、 反 応 時 間 の遅 れ な ど が み

ア ル コー ル三 単 位

︵ビ ー ル大 び ん 三本 、 日 本 酒 三 合 、 ウ イ スキ ーダ

ら れ る の で、 瞬 間 的 な 反応 が 鈍 り、 車 の運 転 は でき ま せ ん 。   ほ ろ 酔 い後 期： 第 二 期 

表4  血 中 ア ル コー ル 濃 度 と中枢 神 経 系症 状

ブ ル三 杯 の いず れ か ) を 飲 用 、 血 中 濃 度 ○ ・ 一∼ ○ ・ 一五 ％ の時 期 で 、大 脳 の前 頭 葉 か ら頭 頂 葉

ま で麻 痺 が き て いる と 考 え ら れ ま す 。 ほ ろ酔 い初 期 の状 態 が 一歩 進 み 、 時 間 の経 つのを 忘 れ 、 行

動 も 大 胆 にな り、 日 頃 口 に は 出 せな いよ う な こ と で も し ゃ べ る こ と に な り ま す 。 笑 い上 戸 、 泣 き

ア ル コー ル五 単 位 飲 用 、 血 中 濃 度 ○ ・ 一五 ∼ ○ ・二五 ％ の状 態 で 、大 脳 全

上 戸 、 怒 り 上 戸 な ど も み ら れ ま す 。 こ れ ら の症 状 に加 え手 指 の ふ る え も加 わ って き ま す 。   酩 酊 期： 第 三 期 

体 か ら 小 脳 にわ た って広 く麻 痺 が起 こ って いま す 。 運 動 神 経麻 痺 、 平 衡 感 覚 麻 痺 で 動 作 がぎ こ ち

な く 千 鳥 足 歩 行 、 眼 の動 き に関 係 す る動 眼 神 経 麻 痺 に よ って 物 が 二重 に見 え る 、 呂 律 が 回 ら な い

な ど の神 経 症 状 が出 ま す 。 こ の時 期 は古 い大 脳 皮 質 に完 全 に支 配 さ れ て い る の で 、 理 解 力 や 判 断

力 が低 下 し 、 話 に論 理 性 を欠 き 、 ま た記 憶 が 途 切 れ る の で前 に話 し た こと を 忘 れ 、 話 が く ど く 同

じ こ と を繰 り返 す よ う に な り 、 ひど く な ると 昨 日 の こ とを 全 く 思 い出 せ な い ︵ブ ラ ッ ク ア ウ ト ︶ な ど の記 憶 障 害 を も き た し ま す 。

  どう や って家 に た ど り 着 いた か不 明 で 、 朝 に な って昨 日 の行 動 、 言 動 が 心 配 にな り憂 欝 にな り

ま す 。 一方 で は、 帰 り の電 車 で 方 向 を間 違 え た り 、 眠 って し ま い電 車 を乗 り越 す な ど、 し ば し ば

経 験 す る と こ ろ で す 。 痛 覚 も麻 痺 し 怪 我 を し て も意 に介 さ ず 活 動 し 、 さ め て か ら驚 く こ と にな り ます。

  こ の よ う な 酩 酊 の症 状 は血 中 ア ル コー ル濃 度 の段 階 にし た が って普 通 の人 に あ ま ね く み ら れ る

も の で、 単 純 酩 酊 と も い わ れ て いま す。 ま れ に病 的 酩 酊 ︵ 異 常 酩 酊 ︶ が あ り 、 比 較 的 少 量 の飲 酒

で病 的 な 精 神 状 態 が 急 激 に発 現 し 、 著 し い健 忘 、 見 当 識 障 害 、 も う ろ う 状 態 、 せ ん 妄 状 態 で 犯 罪

を 含 む 異 常 行 動 が みら れ、 精 神 鑑 定 な ど の対 象 と な る も ので す 。 病 的 酩 酊 は大 量 飲 酒 が な く て も

発 現 す る こ と か ら 、 そ の 人 の性 格 障 害 、 さ ら に てん か ん、 脳 動 脈 硬 化 な ど 脳 の器 質 疾 患 の存 在 、

(い わ ゆ る 一升 酒 )飲 用 、 ア ル

飲 酒 時 の心 理 的 葛 藤 、 精 神 的 ス ト レ スな ど が 背 景 にあ る と 考 え ら れ て いま す 。   泥 酔 期： 第 四期 、 昏 睡 期： 第 五 期    ア ル コー ル 一〇 単 位 程 度

コー ル濃 度 ○ ・二五 ∼ ○ ・三 五 ％ の状 態 で、 悪 心 、 嘔 吐 が 激 し く 、 意 識 は 混 濁 し 、 運 動 反 射 の中

枢 で あ る脊 髄 に障 害 が 及 び 、 腰 が 抜 け 、 歩 行 不 能 と な った の を 泥酔 期 と呼 ん で いま す 。 嘔 吐 物 で

喉 を 詰 ま ら せ て窒 息 死 す る こ と も こ の時 期 に は し ば し ば み ら れ ま す 。 こ れ 以 上 飲 む と 、 ア ル コー

ル濃 度 は○ ・三 五 ∼ ○ ・五 〇 ％ と な り、 感 覚 は麻 痺 し 、 昏 睡 状 態 とな り ま す 。 脳 幹 部 ま で麻 痺 が

進 む と生 命 に危 険 が 迫 り 、 や が て呼 吸 が と ま り、 心臓 も 停 止 し 死 に至 り ま す 。

" の 死 亡 事 故 が多 発 し て いま す が、 こ の時 の血 中 ア ル コー ル濃 度 は ○ ・五 ∼ ○ ・六 ％

"イ ッキ飲 み

以 上 と な り ま す 。 イ ッ キ飲 み の場 合 、 す で にあ る程 度 の レ ベ ル に ア ル コー ル濃 度 が 上 昇 し て い る と

こ ろ へ、 急 に大 量 のア ル コー ルが 胃 腸 内 に流 し 込 ま れ る の で 、 よ り 簡 単 にア ル コー ル濃 度 は危 険 ラ

イ ン ま で 上 昇 し や す いと いえ ま す 。 "イ ッ キ飲 み" は 非 常 に危 険 な 飲 み 方 で す の で 絶 対 に止 め た い も のです。

  酒 を楽 し ん で飲 む た め には 、 表 ４ の爽 快 期 か ら ほ ろ酔 い初 期 に、 飲 み過 ぎ て も ほ ろ酔 い後 期 に と

︵アルコールの比重

︶

×0.79×3/2体重

×1/10

ど め た いも の で す 。 そ の た め には 血 中 のア ル コー ル濃 度 を コ ント ロー ルし な が ら飲 む 必 要 が あ り ま

︵ml︶ 

×アルコール度数/100

す 。 血 中 のア ル コー ル濃 度 は 次 の よう な式 で計 算 で き ま す。

︵％ ︶ 

身 体 の中 の水 分 は体 重 の約 三分 の 二 に な る の で、 吸収 さ れ た ア ル コー ルが こ の水 分 に よ って う す め

( 四 〇 分 以 内 ) に日 本 酒 一合 飲 ん だ と き のア ル コー ル血 中 濃 度 は

ら れ る こ と を 考 慮 し て いま す。 た と え ば 体 重 六 〇 キ ログ ラ ム の人 が 空 腹 か そ れ に近 い状 態 で 、 短 時 間

 180 ×15/1× 00 0.7×93/2×60 ×1/10＝0.05％

と な り 、 濃 度 は 二合 飲 め ば 二倍 、 三 合 飲 め ば 三 倍 に な り ま す 。前 に述 べた よ う に ア ル コ ー ル の血 中

か ら の消 失 速 度 、 つま り 一時 間 当 た り 六 ∼ 九 グ ラ ム 、 ア ル コー ル 一単 位 で 三 時 間 、 二 単 位 で 五 ∼ 六 時 間 、 三 単 位 で七 ∼ 八 時 間 を 目 安 に、 考 え て飲 む必 要 が あ り ま す 。

  し た が って 、 飲 み過 ぎ か どう か の危 険 信 号 を 示 す 酔 い の段 階 に つ いて の知 識 を 持 ち 、 時 間 を か け

て 、 ほ ろ酔 い気 分 に保 つ こ と が肝 心 で す 。 つい つ い調 子 に乗 って 、 度 を 過 ご し て し ま いが ち で す が 、

飲 む 量 は ア ル コー ル二 単位 、 多 く ても 三 単 位 が 目 安 と お ぼ え て お き ま し ょう 。 こ れ が 、 ア ル コー ル を 楽 し く 、 安 全 に飲 む "こ つ" と いえ ま し ょう 。

悪 酔 いと 二日酔 い

1  二日酔いの脱出法は？

2  飲酒直後のお風呂は厳禁。

3  迎え酒は二日酔いに効 くか？

分 が 含 ま れ て おり 、 こ れ が 悪 酔 い の原 因 と な る こ と も あ り ま す 。 酒 類 の種 類 、 銘 柄 に よ って夾 雑 物

  な おア ル コー ル飲 料 の中 に は、 ア ル コー ル以 外 に夾 雑 物 (コ ンジ ナー ) と 呼 ば れ る た く さ ん の成

セ ト ア ルデ ヒ ド が 増 え る ので 悪 酔 いす る こ と は 当 然 で す 。

生 ま れ つき悪 酔 いし や す い人 が いる の です 。 A L D H ２ 型 活 性 が十 分 あ る人 で も 、 飲 み過 ぎ る と ア

ルデ ヒド 脱 水 素 酵 素 ︵A L D H︶ ２ 型 の活 性 が 低 い人 が悪 酔 い し や す い こ と は前 にも 述 べた 通 り で 、

ルが肝 臓 で処 理 さ れ る過 程 で 生 ず る ア セト ア ルデ ヒ ド のた め で す。 と く に こ れ を 分 解 す る ア セト ア

し た り蒼 白 に な った り な ど の症 状 を い いま す。 主 な 原 因 は ア ル コー ルそ のも ので はな く、 ア ル コー

ド濃 度 が 高 い時 期 に起 こ る 不 快 な 状 態 で 、 頭 が痛 い、 脈 や 呼 吸 が速 い、 吐 き気 が す る、 顔 面 が 紅 潮

  悪 酔 いと は、 飲 酒 中 あ る いは 飲 酒 後 し ば ら く し て、 ま だ血 中 の ア ル コ ー ルお よ び ア セ ト ア ルデ ヒ

  悪 酔 いと 二 日酔 い は しば し ば 混 同 さ れ ま す が 、 正 確 に は意 味 が異 な り ま す 。

〈ポ イ ン ト 〉

表5  日本酒の成分

の成 分 が異 な り 、 こ れ に よ って味 、 香 り、 コ ク と い

った" う ま さ" を 表 現 し て いま す が 、 す べ て の酒 類

に つい て夾 雑 物 を 明 ら か にす る こと は不 可 能 です 。

  日 本 酒 一つを と って み ても 表 ５ の よう に数 十 種 類

以 上 の成 分 が 含 ま れ て い る と いわ れ ま す 。焼 酎 や ウ

イ ス キ ー な ら よ いが 、 日 本 酒 や ワイ ン は ど う も 悪 酔

いす る と い った 人 を よ く み か け ま す が、 蒸 留 酒 で あ

る 焼 酎 や ウ イ ス キ ー には夾 雑 物 は 少 な く 、 日 本 酒 や

ワ イ ン に は中 枢 神 経 を 刺 激 し 、血 管 に作 用 す る ア ミ

ン類 な ど が含 ま れ て いる か ら だ と いう 説 も あ り ま す 。

夾雑 物 が原 因 の悪 酔 いは 、 そ れ に対 す る 個 人 の反 応

性 の差 に よ ると 考 え ら れ ま す 。

  二日 酔 いは 、 酔 いが 一晩 か ら だ に宿 る と いう 意 味

で宿 酔 と も い い、 酔 い の影 響 が 翌 日 ま で残 る こ と で 、

  二 日酔 い の症 状 は 、 多 く の方 が経 験 あ る こ と と 思 いま す が 、 頭 痛 、 吐 き気 、 胸 や け、 食 欲 不 振 、

の ど の渇 き 、 だ る さ 、 疲 れ 、 ゆ う う つ感 、 罪 悪 感 な ど さ まざ ま で す 。 二 日 酔 いで は、 飲 み 過 ぎ た結

果 、 翌 日 にな って も ア ル コー ル や ア セ ト ア ルデ ヒド に よ る 悪 酔 い症 状 が 残 って い る だ け で はあ り ま

せ ん 。 頭 痛 の原 因 は完 全 に は突 き 止 め ら れ て いま せ ん が 、 脳 神 経 細 胞 の脱 水 、 血 管 の拡 張 に よ る血

管 性 頭 痛 、 筋 肉 の緊 張 によ る筋 緊 張 性 頭 痛 な ど が 複 合 し た も の と 考 え ら れ て いま す。

︵ 胃 の た だ れ ︶ を 起 こし て いる こと にも 関係 し ま す 。 身 体 が疲 れ 、 だ る い の は肝 臓 が 大 量 の ア ル

  吐 き 気 、 胸 や け 、 食 欲 不 振 な ど の症 状 は、 昨 日 多 量 に飲 ん だ ア ル コー ルが 胃 粘 膜 を傷 め 、 急 性 胃 炎

コー ルを 処 理 す る の に体 内 の エネ ルギ ー や か ら だ に 必要 な 活 性 物 質 を 使 って し ま った こと 、 体 内 の

水 分 や 電 解 質 の バ ラ ン ス の くず れ 、 乳 酸 、 尿 酸 な ど酸 性 物 質 が増 加 し た た め の血 液 の酸 性 化 ︵ア チ

ド ー シ ス )、 ろ く に食 べず に飲 む と低 血 糖 が起 こり や す いな ど が原 因 で す 。

  さ ら に ア ル コー ル の脳 抑 制 作 用 で見 か け 上 の興 奮 状 態 が起 こ り 、 知 らず 知 ら ず 活 動 的 に な り か ら

だ を 動 か し た た め の筋 肉 の疲 労 、 ま た遅 く ま で飲 ん だ た め の睡 眠 不 足 、 飲 み過 ぎ た こ と に対 す る 罪 悪 感 で気 が滅 入 った り な ど いろ い ろな 要 因 が 考 え ら れ ま す。

  の ど の 渇 き の原 因 は 、 従 来 は ア ル コー ル の利 尿 作 用 で か ら だ の水 分 が大 量 に尿 と し て排 泄 さ れ 、

脱 水 症 状 が起 こ って い る と説 明 さ れ て き ま し た 。 し かし 最 近 で は 、 脱 水 は 利 尿 作 用 に よ る の で は な く 、 ア ル コー ルが体 内 の水 分 の配 分 を 変 え る か ら だ と さ れ て いま す 。

  す な わ ち普 通 の状 態 で は体 内 の水 の 三 分 の 二 は細 胞 の内 部 にあ る が、 ア ル コー ル は細 胞 内 の水 分

を減 ら し 、 細 胞 外 ︵ 血 管 内 、 組 織 間 ︶ の水 分 を

増 や し 、 か ら だ 全 体 と し て は水 分 は変 わ ら な い

が 、 細 胞 内 水 分 の欠 乏 が 渇 き の原 因 にな る と い

う の です 。 さ ら に、 ア ル コー ルを 含 む 呼 気 が 口

腔 内 や 気 道 の粘 膜 を乾 燥 さ せ る こ と も 一因 と 考

え ら れ ま す 。 いず れ にし ても 酔 いざ め の水 は う ま いのです。

  さ て、 二 日 酔 いに効 果 的 な 脱 出 法 はあ る の で

し ょう か。 表 6 に ま と め て み ま し た 。

  ひ ど い二 日 酔 いに は 脱 水 、 低 血 糖 、 ア チ ド ー

シ スな ど を解 消 す る た め 、 ブ ド ウ糖 が 入 った 電

フ ェイ ン が含 ま れ て いる薄 い コー ヒ ー が よ いで し ょ う 。

お 粥 、 う ど ん 、 牛 乳 な ど が 勧 め ら れ ま す 。 胃 痛 、 吐 き気 が ひ ど いと き は胃 薬 を 服 用 し 、 頭 痛 に は カ

補 給 が 必 要 で 、 具 体 的 には スポ ー ツド リ ンク 、 ジ ュー ス 類 、 豆 腐 入 り の み そ 汁 、 胃 が 受 け 付 け れ ば

  自 分 で行 う方 法 と し ては 、 まず 不 足 し て いる 水 分 、 糖 分 、 タ ン パ ク、 ビ タ ミ ン、 ミ ネ ラ ルな ど の

な け れ ば な り ま せ ん。

解 質 液 に ビ タ ミ ンB1 な ど を 加 え た点 滴 注 射 を 行 う と効 果 があ り ま す が、 こ れ に は医 療 機関 を 受 診 し

表6  二 日酔いの脱出法

  な お 果 糖 を 含 む 果 物 は 、 血 中 ア ル コ ー ル お よ び ア セ ト ア ルデ ヒ ド の体 内 か ら の消 失 を 促 進 さ せ る

こ と が 実 験 的 にも 証 明 さ れ て お り 、 と く に昔 か ら 柿 が悪 酔 い防 止 と 二日 酔 い に効 く と いわ れ て いま

す 。 柿 に含 ま れ る果 糖 、 タ ン ニ ン、 ぺ ク チ ン、 ビ タ ミ ンC な ど が 総 合 的 に作 用 す る た め で し ょう 。 タ ン ニン や ビ タ ミ ンC を 含 む こ と で は お茶 も 同 様 な 効 果 があ り ま す 。

  横 に な る と 、 肝 臓 を はじ め諸 臓 器 の血 流 が 増 え、 機 能 の 回復 を 早 め る ので 、 症 状 が ひ ど いと き は

寝 て休 む こと を 勧 め ま す 。 も う 少 し 元 気 が あ れば 、 新 陳 代 謝 を 活 発 化 し てア ル コー ル の酸 化 を 促 進 す る た め に風 呂 や運 動 も 効 果 が あ り ま す 。

  た だ し 、 酔 いを さ ま そ う と し て飲 酒 直 後 に入 浴 す る こ と は 厳 禁 で す 。 風 呂 や サ ウ ナ に 入 って汗 を

流 す と ア ル コー ル分 も 蒸 発 し て酔 いが さ め や す いと 思 いが ち で す が 、 こ れ は間 違 い で す。 そ の理 由

は、 か ら だ を 温 め る と皮 膚 の血 管 が拡 張 し て血 液 循 環 が よ く な る 一方 、 肝 臓 の血 流 量 が減 り ア ル コ

ー ルを 分 解 す る 肝 機 能 が か え って低 下 し て し ま う か ら で す 。 ま た同 様 な 理 由 で 脳 や冠 動 脈 の血 流 量

︵ 罪悪感 、

が減 り 、 脳 卒 中 、 心 臓 発 作 の危 険 も あ り ま す 。 お酒 を飲 ん だ 当 日 の お風 呂 は避 け た ほ う が よ く 、 む し ろ 翌 朝 の ぬ るめ の風 呂 を お勧 め し ま す 。

  二 日 酔 いで つら く と も 仕 事 を し て体 を 動 か し た ほ う が よ く 、 飲 酒 に伴 う 心 理 的 な苦 痛

ゆ う う つ感 な ど ) の解 消 にも な り ま す 。 二 日酔 いを 契 機 の欠 勤 は 、 ア ル コー ル依 存 症 の前 触 れ と い って も よ いで し ょう 。

  よ く いわ れ る迎 え 酒 は 勧 め ら れ ま せ ん 。 ア ル コー ル で脳 を麻 痺 さ せ頭 痛 や 吐 き気 を 抑 え、 血 糖 値

を 上 げ る そ の場 し のぎ の効 果 は あ る か も し れ ま せ ん が 、 結 局 は 二日 酔 い状 態 を 新 し く つく る こと に

な る か ら で す 。 迎 え 酒 を 習 慣 化 す れ ば 、 ア ル コー ル依 存 症 への道 を た ど る こ と に も な り か ね ま せん 。

5 

ア ル コー ル と ホ ル モ ン 、 そ の 他

  ア ル コー ルと利 尿

1  2  3  4  5  6 

アルコールには利尿作用がある？ アルコールとインポテンツ

女性 のアル コール問題とホルモン アルコールは媚薬作用がある？

アルコールはストレスの発散になるか？ アルコールは睡眠薬か？

7  ア ル コー ル と タバ コの 関係 。

  私 た ち の脳 には 脳 下 垂 体 と いう 小 さ な 内 分 泌 器 官 が あ り ま す が、 こ こ で は成 長 や生 殖 に関 係 す る

酒 で も ウ イ ス キ ー で も同 様 で、 ア ル コー ル の血 中 濃 度 が 上 が って起 こ る作 用 で す 。

今 度 は あ ま り ト イ レ へ行 か な く な る こ と は よ く 経 験 す る こと で す。 これ は ビ ー ルだ け で な く 、 日本

  酒 を飲 み始 め て 一、 二 時 間 く ら い の間 は ト イ レ が近 く な り 、 三 、 四 時 問 と続 け て飲 ん で い る と 、

〈ポ イン ト〉

いく 種 類 も の ホ ル モ ンが 作 ら れ て いま す 。 脳 下 垂 体 の後 葉 と いう と こ ろ か ら 、 利 尿 を 抑 え る働 き が

あ る抗 利 尿 ホ ル モ ン ︵ A D H ︶ を 分 泌 し 、 尿 量 を バラ ン ス よ く 調 節 し て いま す 。 血 中 の ア ル コー ル

濃 度 が 上 昇 す る と 、 ア ル コー ルが 脳 下 垂 体 の働 き を 抑 え A D H の 分 泌 が 悪 く な り、 そ の結 果 、 尿

の回 数 、 尿 量 を増 加 させ る の で す 。 し ば ら く 経 つと 、 尿 が 出過 ぎ て よ く な いと いう 命 令 機 構 が 働 き A D H の分 泌 が高 ま り 、 今 度 は 尿 量 の減 少 が起 こ り ま す 。

  し か し 飲 み過 ぎ に伴 う 脱 水 症 状 は、 前 にも 述 べた よ う に細 胞 内 水 分 の減 少 が原 因 で、 ア ル コー ル の利 尿 作 用 と は ほ と ん ど 関 係 あ り ま せ ん 。

  ア ル コー ル と 性 ホ ル モ ン

  ア ル コー ル は あ る 種 の性 ホ ル モ ンに 影 響 を 与 え 、 男 性 で は イ ンポ テ ン ツ、 女 性 で は不 感 症 にな り や す いと いわ れ て いま す 。

  男 性 ホ ル モ ン のテ スト ス テ ロン は主 に睾 丸 で 作 ら れ 、 性 欲 や 精 子 形 成 に重 要 な 働 き が あ り ま す 。

ア ル コー ル飲 用 を 続 け る と、 図 ７ に示 す よ う に テ スト ス テ ロン の分 泌 が 減 少 し て ゆ き ま す が 、 ア ル

コー ルは 睾 丸 を 直 接 障 害 す る だ け で は な く 、 テ ス ト ス テ ロ ン の合 成 を も 阻 害 す る か ら で す 。 さ ら に

分 泌 さ れ た テ スト ス テ ロン は常 に肝 細 胞 の ミ ク ロゾ ー ム で分 解 さ れ て い る の で す が 、 前 に も 述 べ た

︵M E O S ︶ が普 通 の人 よ り増 え て いま す の で 、 テ スト ス テ ロ ンも ど ん ど ん分 解 ・破 壊

よ う に慢 性 的 に酒 を 飲 ん で い ると ア ル コー ルを 含 め た 薬 物 の代 謝 酵 素 で あ る ミ ク ロゾ ー ム ・エタ ノ ー ル酸 化 系

さ れ て し ま い ま す 。 こう し て常 時 酒 を飲 ん で いる 男 性 は 、 テ スト ス テ ロン が減 って性 欲 減 退 や イ ン ポ テ ン ツ に陥 る の です 。

  こ れ ら 性 機 能 低 下 の男 性 の中 に は 妻 や 彼 女 が 不 倫 し て い る、 ほ か の人 を 愛 し て いる ので はな いか

な ど の嫉 妬 妄 想 を 抱 く こと が 多 く 、 こう な る と ア ル コー ル依 存 症 の 一つの症 状 で す。

換 算 約1升 ）飲 用 させ た と きの血 中 テ ス トス テ ロ ン値 の 変 動

て も 、 ま た飲 酒 期 間 が短 く ても ア ル コ ー ル依 存 症 や 肝 障 害

た り し ま す 。 と く に女 性 で は、 男 性 に比 べ飲 酒 量 が 少 な く

ル コー ル過 飲 によ って生 理 不 順 に な った り、 不感 症 に な っ

  性 腺 機 能 不 全 は 男 性 ば か り で は な く 女 性 に も みら れ、 ア

ンポ テ ン ツ、 睾 丸 萎 縮 な ど が み ら れ ま す 。

腋 毛 ・恥 毛 の減 少 、 皮 膚 が 女 性 の よ う に柔 ら か にな る、 イ

著 と な り ま す 。 す な わ ち女 性 化 乳 房 ︵ 乳 房 が大 き く な る ︶、

よ う に な り ﹁女 性 化 ﹂ が 起 こり 、 肝 障 害 が あ る と さ ら に顕

性 で は女 性 ホ ル モ ン の過 剰 、 男 性 ホ ル モ ン の不 足 が 目 立 つ

え てく る と さ れ て いま す 。 し た が って ア ル コー ル飲 み の男

モ ン の肝 臓 で の不 活 化 を 阻 害 し 、血 中 の女 性 ホ ル モ ンが 増

ト ロゲ ン) が 分 泌 さ れ て いま す が 、 ア ル コー ル は こ のホ ル

  一方 、 腎 臓 の上 部 に乗 って いる 小 さ な 副 腎 と いう と こ ろ か ら男 性 でも 微 量 の女 性 ホ ル モ ン ︵エ ス 健 康 人 に ア ル コー ル 飲 料 を毎 日220g（ 日本 酒 図7 

に な り や す い こと が、 女性 の飲 酒 者 が 増 え て い る現 在 、 大 き な 問 題 にな って いま す 。 これ にも 女 性

ホ ル モ ン ︵エス ト ロゲ ン︶ の異 常 分 泌 が 関 与 し て いま す が 、 こ の機 構 は複 雑 で す 。

謝 酵 素 で あ る A D H、 M E O S の活 性 を 妨 げ る作 用 があ る こ と が知 ら れ て いま す 。 し た が って こ の

  生 理 の前 、 つま り 月 経 前 期 は女 性 ホ ル モ ン の分 泌 が高 ま り ま す が 、 女 性 ホ ル モ ン は ア ル コー ル代

時 期 に飲 酒 す る と 、 酔 って い る時 間 も長 く 、 酩 酊 感 も 強 く 、 ま た 悪 酔 いも す る わ け で、 本 来 な ら ア

ル コー ルを 受 け つけ な いは ず で す 。 と こ ろ が実 際 に は生 理 の前 に な る と 起 こ り や す い、 いわ ゆ る生

理 スト レ ス に よ る イ ラ イ ラ感 、 頭 痛 、 不 眠 な ど の不 快 な 気 分 を 和 らげ る た め で し ょう か、 大 量 飲 酒

を し 、 これ が こ う じ て ア ル コー ル依 存 症 に陥 る女 性 が 少 な く あ り ま せ ん 。 こう い った 時 期 は ア ル コ

ー ル や ア セ ト ア ル デ ヒド が消 失 し に く い の で、 肝 臓 、 そ の ほ か の臓 器 に負 担 が か か り 、 いろ い ろな 臓 器 障 害 に つな が る と 考 え ら れ ま す 。

  経 口避 妊 薬 を 服 用 し て い る女 性 も 女 性 ホ ル モ ンが高 く な る ので 、 飲 酒 によ って同 様 な こ と が 起 こ ります。

  一方 、 子 宮 や 卵 巣 の手 術 を 受 け た 女 性 、 閉 経 期 の女 性 は女 性 ホ ル モ ン の分 泌 が減 少 す る の で 、 逆

に 以前 よ り 酒 を 飲 め る よ う にな る わ け で す 。 女 性 の場 合 でも 性 ホ ル モ ンが ア ル コー ルと 大 き な 関連 を も って い る こ と を 理 解 す る必 要 が あ り ま す 。

  キ ッチ ン ド リ ンカ ー に代 表 さ れ る 女 性 の ア ル コー ル依 存 症 、 妊 婦 への ア ル コ ー ルの 影 響 な ど 女性 の ア ル コー ル問 題 は 重 要 で す の で、 別 に項 を 改 め て述 べま す 。

  ア ル コ ー ル と セ ック ス

  慢 性 の大 量飲 酒 が性 ホ ル モ ン に影 響 を 及 ぼ し 、 男 性 で はイ ンポ テ ン ツ な ど を 含 む 女 性 化 、 女 性 で

は 不 感 症 を起 こ す こ と は 前 項 で述 べ ま し た 。 こ こ で は 飲 酒 が セ ッ ク ス と ど の よ う な 関 係 に あ る か、

いわ ゆ る媚 薬 と し て の効 用 が あ る か、 こ の点 に つ い て考 え て みま し ょう 。

  ア ル コー ルを いわ ゆ る ﹁ほ ろ 酔 い﹂ 程 度 に飲 む と 、 大 脳 皮 質 の新 皮 質 が 麻 痺 し 理 性 的 自 制 心 が う

す れ、 古 い皮 質 に あ る 原 始 的 本 能 が 前 面 に で て、 気 分 は高 揚 し 、 不 安 感 、羞 恥 心 が な く な り 、 性 欲

も 高 ま り 性 行 動 が活 発 にな る こ と は確 か です 。 事 実 、 外 国 で は酒 に強 い人 ほ ど セ ッ ク ス に 強 い と の

統 計 も あ り 、 ま た 性 ノイ ロー ゼ に悩 む 人 に、 ア ル コー ルを 使 った カ ウ ン セ リ ング や 治 療 も 行 わ れ て

いま す 。 一方 で は 、 飲 み過 ぎ て酩 酊 が 進 む と 性 欲 中 枢 も 抑 制 さ れ 、 ま た勃 起 神 経 のあ る 骨 盤 内 臓 神 経 も麻 痺 し 不 能 と な る こ と は当 然 で す 。

  性 生 活 は、 二 人 の愛 情 と 信 頼 関 係 にも とづ いた 意 気 投 合 関 係 の中 で行 わ れ る 繊 細 で か つ神 聖 な も

の で す 。 ア ル コー ル の力 を 借 り て 理 性 を 抑 制 し 本 能 部 分 を 優 位 にさ せ る こ と によ って 行 わ れ る セ ッ ク スは 、 や は り 邪 道 と いわ ざ る を え ま せ ん 。

 ア ル コ ー ル と ス ト レ ス

 現 代 は ス ト レ ス の時 代 と いわ れ 、 私 た ち は 社 会 、 経 済 、 仕 事 、 家 庭 な ど あ ら ゆ る 分 野 で毎 日 スト

レ スを 感 じ て生 活 し て いま す。 ス ト レス解 消 を 飲 酒 に求 め る人 が 多 く 、 これ が ア ル コー ル消 費 量 の

増 加 の 一因 と も な って いま す。 ア ル コー ルは は た し て スト レス解 消 に役 立 つの で し ょう か。

  スト レス と は外 部 か ら 加 え ら れ た 強 い刺 激 に よ って生 じ た身 体 的 、 心 理的 な 歪 み に対 し て身 体 が

異 常 に反 応 し た 状 態 と 理解 さ れ ま す 。 ス ト レ ス は万 病 のも と と も いわ れ、 胃 ・十 二指 腸 潰 瘍 ︵ 消化

性 潰 瘍 ︶、 過 敏 性 腸 症 候 群 、 高 血 圧 、 ぜ ん そ く 、 円 形 脱 毛 症 、 自 律 神 経 失 調 症 、 神 経 症 を は じ め ス

ト レ スと 関 係 が 深 い いろ い ろな 病 気 が 知 ら れ て いま す 。 スト レス が 身 体 に加 わ る と副 腎 か ら副 腎 皮

質 ホ ル モ ン ︵コル チゾ ー ル ︶、 副 腎 髄 質 ホ ル モ ン (ア ド レナ リ ン、 ノ ルア ド レナ リ ン) の分 泌 が増

え 、 私 た ち の身 体 機 能 を 調 節 し て いる 内 分 泌 系 の み で な く 免 疫 系 、 自 律 神 経 系 にも 影 響 を 与 え、 脳

の中 で も ア ド レナ リ ンと いう 神 経 伝 達 物 質 が増 え て き て 、 こ れ ら が い ろ いろ な スト レ ス病 の原 因 と 考 え ら れ て いま す 。

る の で 、 ア ル コー ル は抗 ス ト レス効 果 が あ る こ と は確 か で し ょう 。適 量 の飲 酒 で あ れ ば身 体 の変 化

  ア ル コー ルが副 腎 皮 質 ホ ル モ ン の分 泌 、 脳 内 の ア ド レナ リ ン放 出 を 抑 制 す る と いう 実 験 結 果 が あ

を 和 ら げ 、 リ ラ ッ ク ス さ せ 、 気 分 も高 揚 さ せ る の で ス ト レ ス解 消 に役 立 つと考 え ら れ ま す 。

  し か し スト レス解 消 の た め の飲 酒 が 、 次 第 に量 を 増 し本 来 の目 的 を 越 え て ア ル コー ル依 存 症 に な

る例 が よ く み ら れ ま す 。 ス ト レ スを 飲 酒 だ け で解 消 す る のは 本 質 的 で は な く 、 ス ポ ー ツ、 趣 味 、 娯

楽 な ど と う ま く 組 み 合 わ せ て、 食 事 と と も に ゆ っく り 味 わ いな が ら の適 量 飲 酒 が スト レス解 消 と な る で し ょう 。

  ア ル コール と睡 眠

  ぐ っす り 眠 る こと は身 体 の疲 労 を と る だ け で な く 、 脳 を 休 ま せ精 神 的 な疲 労 を と る た め にも 重 要

で、 人 は人 生 の三 分 の 一は 睡 眠 を と って いる わ け で す。 睡 眠 の メ カ ニズ ム の研 究 が進 む に つれ 、 い

く つか の こ と が 明 ら か にな って いま す 。 睡 眠 に は脳 全 体 の活 動 が 低 下 し、 深 い眠 り に 関 係 あ る ﹁ノ

ン レム 睡 眠 ﹂、 脳 は か な り 活 動 し て いる 浅 い眠 り の ﹁レム 睡 眠 ﹂ の 二 つが あ り 、 こ れ ら が 一定 のリ

ズ ム を 保 ち つ つ協 調 し て通 常 の睡 眠 が成 り 立 って いま す 。 さ ら に睡 眠 は ホ ル モ ン、 自 律神 経 、 免 疫

な ど ス ト レス に関 係 す る生 体 機 能 と の か か わ り があ って複 雑 で す が 、 た と え ば 高 齢 にな って性 ホ ル

酒 と し て適 量 を 飲 む と良 眠 が 得 ら れ る と いう 効 用 が あ る こ と は 確

モ ン の分 泌 が 低 下 す る と睡 眠 障 害 が 起 こ り ま す 。   ア ル コー ル は晩 酌 と し て、 寝

か で す 。 ア ル コー ルを 飲 む と よ く 眠 れ る の は脳 細 胞 の麻 酔 作 用 に よ る も の で、 と く に覚 醒 と そ の維

︵ ぐ っす り 眠 る︶ の 両 方 に作 用 し ま す 。 し た が って適 量 の飲 酒 で は寝 つき が よ く な るだ け で

持 を 支 配 し て いる 脳 幹 網 様 体 と いう と ころ にあ る睡 眠 中 枢 を 抑 制 し、 催 眠 ( 寝 つき が よ い) と 睡 眠 の保 持

な く 、 深 い眠 り に関 係 す る ノ ン レム 睡 眠 を 増 加 さ せ る と いう こ と に な り ま す 。

  し か し 飲 み過 ぎ る と眠 り が 深 く な り 、 浅 い眠 り であ る レム 睡 眠 が減 り 睡 眠 のリ ズ ム が崩 れ て し ま

い、途 中 で何 回 も 目 が さ め た り ︵ 中 途 覚 醒 ︶、 朝 早 く 目 が さ め た り ︵早 朝 覚 醒 ︶ と な り ま す 。 最 近

睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群 と いう 病 態 が注 目 さ れ て いま す が、 一晩 七 時 間 の睡 眠 中 に 一〇 秒 以 上 の無 呼 吸

が三〇 回 以 上 みら れ、 途 中 で何 回 も 止 ま る大 き い軒 を か き 、 起 床 時 の激 し い頭 痛 、 日 中 の傾 眠が 特

徴 で 、 仕 事 に身 が 入 らず 性 格 や知 性 にも 変 化 を き た す も の です 。 肥 満 と と も に ア ル コー ルも こ の病 態 の増 悪 因 子 の 一つで す 。

  睡 眠 の た め に飲 酒 を 繰 り 返 す う ち に ア ル コー ル耐 性 の形 成 、 飲 酒 量 の増 加 と い った悪 循 環 が生 じ

ア ル コー ル依 存 へと陥 ってゆ き ま す 。 あ く ま で 適 量 飲 酒 を た し な み 、 そ れ で 眠 れ な いと き は ア ル コ

ー ルを増 す の で は な く む し ろ 睡 眠 薬 を 使 用 す る こ と が勧 め ら れ て いま す 。 最 近 の睡 眠 薬 に は寝 入 り

が よ く 、 目 覚 め が ス ッキ リ す る タ イプ のも のが あ り ま す の で心 配 あ り ま せ ん 。 ア ル コー ルを 睡 眠 薬

と考 え る の は 邪道 であ る ば か り で な く 、 先 に 35 頁 で述 べた 理 由 で ア ル コー ルと 睡 眠 薬 を 一緒 に服 用 す る こと は厳 禁 で す 。

  ア ル コール とタ バ コ

  タ バ コ は ア ル コー ル ほ ど の古 い歴 史 は あ り ま せ ん が、 コ ロンブ ス の新 大 陸 発 見 以 来 疲 れ を 癒 や し 、

頭 を す っき り さ せ 、 眠 気 を と り 集 中 力 を高 め て 、 仕 事 の能 率 を 上 げ る 嗜 好 品 と し て世 界 中 に普 及 し 愛 用 さ れ てき ま し た 。

 タ バ コ の主 成 分 で あ る ニ コチ ン は水 溶 性 で、 消 化 管 、 肺 で 急 速 か つ容 易 に 吸収 さ れ て、 そ の九 〇

％ は 肝 臓 で 代 謝 さ れ半 減 期 は 一時 間 と短 く 、 二 四時 間 以 内 にす べ て か ら だ か ら排 泄 さ れ ま す 。 ニ コ

チ ン は興 奮 と 鎮 静 の二 つの作 用 が あ り 、少 量 で は自 律 神 経 系 に働 き 、 血 圧 上 昇 、 頻 脈 、 発 汗 、 興 奮

を 発 現 さ せ、 大 量 で は中 枢 神 経 系 作 用 に よ り 呼 吸 抑 制 な ど を き た し ま す 。

  タ バ コは脳 の視 床 下 部 にあ る快 楽 中 枢 に働 き ニ コチ ン依 存 を 形 成 し ま す が 、 ア ル コー ルの 場 合 と

比 べ耐 性 は短 期 で、 喫 煙 量 も あ ま り 増 え な い、 タ バ コを 断 つ た と き の禁 断 症 状 も軽 いな ど の特 徴 が

あ り ま す 。 ア ル コー ル の よう な急 性 中 毒 や 二日 酔 い、 ト ラ に な って社 会 、家 庭 に迷 惑 を か け る こ と

も な いか わ り に、 タ バ コ は肺 が ん を は じ め 多 く の が ん の危 険 因 子 で も あ り 、 そ のほ か気 管 支 喘息 、

慢 性 気 管 支 炎 な ど の 呼 吸 器 疾 患 、 高 血 圧、 脳 血 管 障 害 、 冠 動 脈 疾 患 ︵ 狭 心 症 、 心 筋 梗 塞 ︶ な ど の発 症 ・増 悪 因 子 でも あ り ま す 。

  ア ル コー ル お よ び ニ コチ ン依 存 症 に は そ れ ぞ れ 共 通 の身 体 的 、 精 神 的 基 盤 が あ る の で し ょう か。

と く に ア ル コー ル飲 み の大 多 数 が タ バ コを 吸 い、 禁 煙 し て い ても ア ル コー ル の席 で は つ い つ いタ バ

コに手 を 出 す こ と に な り ま す 。 ニ コチ ンと ア ル コー ル は中 枢 神 経 、 自 律 神 経 系 に対 す る共 通 の作 用

が あ る の で 、 飲 ん で い る と き にタ バ コをス パ スパ 吸 う こ と は身 体 へ の影 響 が 相 乗 的 にな り、 有 害 で

す 。 さ ら にア ル コー ルと タ バ コを 一緒 に用 い る と 、 タ バ コ に含 ま れ る有 害 物 質 を ア ル コー ルが 溶 か

し 、 口膣 ・喉 頭 ・食 道 ・肺 の粘 膜 か ら の吸 収 を 容 易 に し て 、害 を 倍 増 す る可 能 性 が あ り ま す 。

  最 近 、 肺 が ん の発 が ん に ｐ4 5 0 と いう 酵 素 の変 異 が注 目 さ れ て いま す 。 ア ル コ ー ル を多 飲 す る

と肝 臓 で は p 4 5 0 の ひ と つで あ る M E O S が増 え る の で 、 これ を タ バ コの有 害 成 分 が変 異 さ せ て 発 が ん に つな が る こと も 考 え ら れ ま す 。

  妊 婦 が タ バ コを 吸 う と胎 児 も ニ コチ ン に さ ら さ れ 脈 が速 く な り、 発育 不 全 を起 こし ま す 。 タ バ コ

の有 害 物 質 は ニ コチ ンだ け で な く 、 煙 に含 ま れ る何 十 種 類 も の 化 合 物 が知 ら れ て お り 、 こ れ を 吸 う

本 人 だ け で な く 、 周 囲 の人 に も 害 が 及 ぶ ︵受 動 喫 煙 ︶ こ とも 明 ら か にな って いま す の で、 タ バ コ は 飲 酒 す る し な いに か か わ らず や め た いも の です 。

アル コー ル自 己診断

〈ポ イ ン ト〉

2 

1 

飲酒にま つわる自分の危険信号を知 る。

自分はどれだ けアル コールが飲めるか、自己診断す る。 3 

泳 動 法 や 、 血 液 か ら D N A を 抽 出 し て 正 確 な 診 断 を し て いま す 。 し か し こ れ ら は 特 殊 な検 査 です の

酒 に強 い か、 弱 い か の体 質 を 判 定 す る に は、 材 料 を 採 取 し や す いこ と か ら 毛 根 を 用 いた等 電 点 電 気

酒 が飲 め な い体 質 です 。 A L D H の酵 素 活 性 は 肝 臓 以 外 の種 々 の臓 器 、 組 織 で も 認 め ら れ る の で、

  前 に述 べた よ う に、 遺 伝 的 に不 活 性 型 A L D H ２ を 持 って い る人 は 、 ブ ラ ッシ ング 反 応 を起 こ し

  自 分 は ア ル コー ル を ど れ だ け 飲 め る か を 知 る

表 ７ に ま と め て み ま し た。

こ れ ら の知 識 を 、 ア ル コー ル自 己 診 断 と い った観 点 から 応 用 す る こ と が 大 切 で す の で、 そ の概 要 を

  今 ま で ア ル コー ル に関 す る 医 学 的 基 礎 知 識 の面 か ら 、 いろ い ろ な問 題 に つ いて解 説 し て き ま し た 。

6 

で 、 特 定 の施 設 で し か で き な い欠 点 が あ り ま す 。

  最 近 は だ れ に で も で き る簡 便 な 方 法 と し て、 皮 膚 反 応 で判 定 す る パ ッチ テ スト が開 発 さ れ ま し た 。

絆 創 膏 に ア ル コー ルを し み込 ま せ 上 腕 内 側 の皮 膚 に七 分 間 貼 り 、 は が し て 一〇 分 後 発 赤 の有 無 を 見

る も の で 、皮 膚 が赤 く な れば 不 活 性 型 A L D H ２ のあ る酒 に弱 い人 ︵ 飲 め な い体 質 ︶ と判 定 し ま す 。

活 性 型 A L D H ２ のあ る人 は大 量 飲 酒 が で き る の で 、 ア ル コー ル依 存 症 や ア ル コー ル性 臓 器 障 害 に

な る危 険 性 が 大 き く 、 一方 、 不 活 性 型 の人 は将 来 と も 酒 を 飲 め る よ う に は な り ま せ ん し 、 イ ッキ 飲

みな ど無 理 し て飲 む と 、 少 量 の酒 でも 急 性 ア ル コー ル中 毒 に な り 生 命 の危 険 す ら あ り ま す 。 いず れ

の判 定 が で ても 意 味 が あ り、 こ の テ ス ト は とく に青 少 年 の ア ル コー ル教 育 に役 立 た せ た いも ので す 。

  こう い った 検 査 を や ら な く て も 、 経 験 的 に少 量 の酒 で ブ ラ ッ シ ング が起 こ る人 は飲 めな い体 質 な

ので 無 理 し て飲 ん で は い け ま せ ん 。 ま た両 親 が飲 め る体 質 か ど う か で も そ の子 供 の体 質 を 推 定 す る

こと が で き ま す 。 A L D H ２ の遺 伝 子 型 は 単 純 な メ ンデ ル の遺 伝 法 則 に よ り 出 現 し ま す の で 、 二 人

と も 飲 め る 両 親 を 持 つ子 供 以 外 は 飲 め な い体 質 の こ と が 多 いと いえ ま す 。 日 本 人 は飲 め る体 質 が 五

〇 ％ 、 飲 め な い体 質 が 四 〇 ％ 、 全 く 飲 め な い体 質 が 一〇 ％ と な り ま す 。 し かし 四〇 ％ を 占 め る 飲 め

な い体 質 の人 でも あ る 程 度 A L D H ２活 性 が あ る の で 、 無 理 す る と 少 し ず つ飲 め る よ う に な り 、 ア ル コー ル障 害 が 少 量 か つ短 期 間 で 起 こ る ので危 険 で す 。

  酒 を 飲 め る 体 質 の人 は 飲 み過 ぎ る傾 向 が あ り 、 ア ル コー ル臓 器 障 害 や依 存 症 に な り や す い ので 、

合 理 的 な 飲 み 方 を す べき で す 。飲 む 量 は い つも ア ル コー ル飲 料 二 ∼ 三 単 位 に と ど め て い る か、 ア ル

表7  アル コー ル 自己 診 断

コー ル の吸 収 に 関 す る諸 条 件 の と こ ろ で 述 べた酔 わ な い飲 み 方 、 つま み の と り 方 を 参 考 に薄 い酒 を

ゆ っく り 飲 ん で い る か、 さ ら に ア ル コー ル の代 謝 能 力 、 代 謝 速 度 を 理解 し 、 翌 日 ま で残 ら な い飲 み

方 、 遅 く と も午 後 十 一時 前 には 切 り 上 げ て いる か な ど チ ェッ クし て み て下 さ い。

  自 分 で 知 る 飲 酒 に 関 す る危 険 信 号

  飲 酒 中 の危 険 信 号 を 知 る た め に は 、﹁酔 い加 減 と 血 中 ア ル コ ー ル濃 度 の項 で述 べた 酔 い の症 状 の順

番 を ま ず 理 解 す る こと が大 切 で す 。 酩 酊 期 前 の ほ ろ 酔 い期 に留 め て お く よ う飲 む こ と が必 要 で、 人

に よ って飲 酒 量 は 異 な り ま す が 強 い人 で も ア ル コー ル 二 ∼ 三 単 位 が 限 度 で、 人 の話 を よ く 聞 き 、 相

手 を大 切 に す る 楽 し い雰 囲 気 で飲 め る 程 度 の 酒 量 が 望 ま し い の で す 。 あ く ま で自 分 の ペ ー ス で自 分 の適 量 を 飲 む と と も に相 手 にも 無 理 強 い し な い こと で す 。

  飲 酒 の時 間 、 場 所 、 人 を わ き ま え た 飲 み方 が ア ル コー ル依 存 症 の予 防 に な り ま す 。 朝 酒 、 昼 酒 は

や ら な い、 ひ と り で は飲 ま な い よ う 心 が け ま し ょう 。 呂 律 が ま わ ら な く な った と 感 じ た り 、 相 手 や

他 人 の批 判 、 お 説 教 、 お節 介 な ど が 口 に出 そ う にな った ら飲 む の を切 り 上 げ ま し ょう 。 飲 ん で電 車

を 乗 り越 し た り 、 翌 日 記 憶 の途 切 れ を自 覚 し た 場 合 は次 回 か ら 節 酒 を 心 が け る こ と が大 切 で す 。 自

分 の適 量 と 飲 酒 中 の行 動 を 知 る に は 、 日 記 に飲 ん だ ア ル コー ル の量 、 種 類 、 場 所 、 時 間 、 会 話 内 容 、

同 席 者 な ど 何 で も気 づ いた こと を 記 録 す る こ と が 勧 め ら れ 、 こ れ に よ って自 分 の飲 酒 態 度 、 飲 酒 習 慣 の反 省 に役 立 つで し ょ う ︵ ア ル コー ル日 記 の す す め ︶。

  以 前 に比 べ酔 いが早 く な った、 酔 いが残 る よ う に な った と自 覚 し た と き は 飲 酒 量 の増 加 な ど飲 酒

習慣 が変 化 し た か チ ェッ クす る と とも に肝 障 害 な ど 臓 器 障 害 の検 査 を 受 け ま し ょ う 。 自 分 は コ ント

ロー ルし て 酒 を 飲 ん で お り 、 人 に迷 惑 を か け た こ と も な い と自 信 のあ る酒 飲 みも 多 い の です が 、 自

覚 が な く ア ル コー ル依 存 症 に な って いる こ とも あ り ま す 。 後 に述 べ る ア ル コー ル依 存 症 の ス ク リ ー ニング テ ス ト で と き ど き チ ェック し て み ま し ょ う。

  と は い っても 節 酒 す る こ と に こ し た こ と は な い の で 、 い く つか の方 法 が 試 み ら れ て いま す 。 ﹁酒

な し 日 ﹂ を 週 二日 つく る 、 昼 間 の酒 は飲 ま ず 夜 だ け にす る、 晩 酌 は 一家 団 樂 の中 で 行 い、 ひ と り で

は し な い、付 き 合 いで 仕 方 が な いな ど と考 え ず に な る べく飲 ま な いよ う に宴 席 で は つぎ 役 に徹 し 、 会 話 を 楽 し む 、 な ど いろ いろ と 工 夫 し て飲 み ま し ょう 。

  急 性 ア ル コー ル 中 毒 に な ら な いた め に

  急 性 ア ル コ ー ル中 毒 は 短 時 間 に多 量 のア ル コー ルを 飲 み過 ぎ 、 酩 酊 状 態 に陥 る こと を い いま す が、

最 近 若 者 の間 で流 行 し て いる" イ ッキ飲 み" に そ の典 型 を み る こ と が で き ま す 。 症 状 は 嘔気 、 嘔 吐 、

( 日 本 酒 五合 、 あ る い はビ ー ル大 び ん 五 本 な ど )

落 ち 着 か な い、 四肢 弛 緩 、 血 圧低 下 、 意 識 障 害 、 呼 吸 抑 制 な ど で、 救 急 車 で病 院 に運 ば れ る こと が し ば しば で す 。   急 性 ア ル コー ル中 毒 は 通 常 、 ア ル コー ル五 単 位

を 急 激 に飲 ん だ と き で、 血 中 ア ル コー ル濃 度 ○ ・ 一五 ∼ ○ ・二五 ％ の酩 酊 期 か ら は じ ま り 、 さ ら に

ア ル コー ル濃 度 が 上 が る と泥 酔 期 、 昏 睡 期 へと 移 行 し 、 ア ル コー ル濃 度 が○ ・六 ％ 以 上 とな る と確

実 に死 亡 し ま す 。 個 人 差 が あ り、 不 活 性 型 A L D H ２ を 持 つ人 は少 量 の飲 酒 でも 血 中 ア セト ア ルデ

ヒ ド 濃 度 が普 通 の 一〇 倍 以 上 に上 昇 し 症 状 が 強 く、 と く に こ のよ う な 人 の" イ ッキ飲 み" は危 険 で

す 。 死 亡 例 の分 析 で は 純 粋 に ア ル コー ル の脳 幹 障 害 に よ る呼 吸 停 止 、 心 停 止 を き た し た も の も あ り

ま す が、 多 く は嘔 吐 物 によ る窒 息 、 転 倒 によ る頭 部 外 傷 で、 ア ル コー ル性 低 血 糖 、 不 整 脈 な ど が 死

因 と な る こ と も 少 な く あ り ま せ ん 。 酔 った友 人 を ひ と り に せず 、家 ま で送 り 届 け る な ど し て安 全 を 確 認 す る こと が、 酒 飲 み の礼 儀 で す 。

  急 性 ア ル コー ル中 毒 を 防 ぐ には ど う す れ ば よ いか 、 も ち ろ ん 飲 酒 量 を 抑 え る こ と で 、 酔 い加 減 と

血 中 ア ル コー ル濃 度 と の関 係 の知 識 に よ り 、 ア ル コー ル 二∼ 三 単 位 以 上 飲 ま な いこ と が 肝 要 で す 。

ア ル コー ル の吸 収 に 関 す る知 識 か ら 、 イ ッ キ飲 み、 か け つけ 三 杯 の よ う な 急 激 な飲 み方 を 避 け 、 つ

ま み を 十 分 と り な が ら 自 分 の ペー ス で ゆ っく り 飲 む こと で す。 ア ル コー ル代 謝 能 力 、 消 失 速 度 な ど、 ア ル コー ル に関 す る 基 礎 知 識 を総 動 員 し て対 処 す べき でし ょう 。

第 2章   ア ル コー ル を 飲 み すぎ ると

って ア ル コー ル依 存 症 、 さま ざ ま な ア ル コー ル性 臓 器 障

 近 年 、 ア ル コ ー ル消 費 量 の増 加 、 飲 酒 層 の拡 が り に伴

害 が 増 え て い る こ と は 最 初 に述 べた 通 り で す 。 慢 性 ア ル

コー ル中 毒 と も いえ る臓 器 障 害 は 全 身 に お よ び 、 ま さ に

頭 の て っぺん か ら足 の先 ま で、 脳 、 心 臓 、 消 化 管 ︵ 食道 、

胃 、 十 二 指 腸 、 小 腸 ︶、 肝 臓 、 膵 臓 、 筋 肉 、 末 梢 神 経 な

コー ル性 臓 器 障 害 に つい て解 説 し 、 ア ル コー ル依 存 症 に

ど多 く の臓 器 に わ た り ま す 。 こ の章 で は さ ま ざ ま な ア ル

つ い て は 独 立 さ せ て第 ３ 章 で説 明 し ま す 。

1 

年 々増 え て いるアル コー ル消 費動 向

  本 論 に入 る前 に、 ア ル コ ー ル の消 費 動 向 を 最 近 の国 税 庁 酒 税 課 の統 計 な ど から み て みま し ょう 。

  わ が 国 の ア ル コ ー ル消 費 量 ︵ 酒 類 販 売 数 量 ︶ の動 向 を み る と 、 図 8 の よ う に平 成 二 年 ま で は年 々

急 増 し 、 最 近 は 高 度 経 済 成 長 の時 期 にく ら べ伸 び は鈍 化 し て いる も の の毎 年 微 増 し、 平 成 八年 に は

い県 は 奈 良 、 滋 賀 、 徳 島 な ど で す 。 一日

田 、青 森 で は 一〇 リ ット ルを 越 え 、 少 な

と地 域 差 が あ り 、 東 京 、 宮 崎 、 新 潟 、 秋

いる こ と に な り ま す 。 都 道 府 県 別 に み る

実 際 に飲 む人 は こ の量 の何 倍 か を飲 ん で

な り 、 こ の中 には 飲 ま な い人 も いる の で、

一升 び ん 四〇 本 ︶ を 飲 酒 し て いる こと に

ル ︵ ビ ー ル で大 び ん 四 〇 〇 本 、 日本 酒 で

年 間 に純 ア ル コー ル に し て八 ・六 リ ット

九 〇 〇 万 キ ロリ ット ル を越 え 、 三 〇 年 前 の約 二 倍 と な って いま す 。 成 人 一人 当 た り の平 均 で み ると

図8  酒 類 販売 （ 消 費 ）数 量 の 推 移

平 均 一五 〇 ミ リ リ ット ル ︵ ビ ー ル大 び ん 七

本 、 日 本 酒 七 合 ︶ 以 上 の大 酒 家 は 二 三 〇 万

人 を越 え て いま す の で、 今 後 表 ８ に示 す よ

う に種 々 の臓 器 の ア ル コー ル障 害 患 者 が ま

す ま す 増 加 す る こ と は確 実 と 思 わ れ、 心 配 です。

  し か し 幸 いな こ と に オ ラ ンダ 蒸 留 酒 生 産

局 調 べ の国 際 比 較 を み る と 、 日 本 は ま だ 先

進 国 の中 で は ア ル コー ル消 費 量 が少 な い方

で、 人 口 一人 当 た り の純 ア ル コー ル換 算 の

年 間 消 費 量 は 六 ・六 リ ット ルと な って おり 、

売 機 の撤 廃 な ど ア ル コー ル飲 料 の販 売 方 法 の見 直 し も 必 要 と思 わ れ ま す。 ア ル コー ル の害 が な く な

ら保 護 さ れ て い る特 徴 を 生 かし て 、 ア ル コー ル教 育 と と も に未 成 年 者 へ の対 面 販 売 の配 慮 や自 動 販

  日本 人 は ア ル コー ル に弱 い民 族 で 、 異 型 A D H と不 活 性 型 A L D H ２ で 二重 に ア ル コー ル障 害 か

微 増 し て いま す の で 早急 に対 策 を考 え な く て はな り ま せ ん ︵ 図 8 、 表 9 ︶。

ん だ た め で し ょう か 、 ア ル コー ル消 費 量 が年 々減 少 傾 向 にあ る の に対 し、 わ が 国 で は 横 ば いな いし

世 界 五 〇 か 国中 二六 位 で す ︵ 表 ９ は 上 位 三 〇 か 国 ︶。 と こ ろ が 先 進 国 で は 近 年 ア ル コー ル対 策 が 進

表8  ア ル コ ー ル に 関 連 し た 主 な 病 気

備 考 ：本 表 は オ ラ ン ダ 蒸 留 酒 生 産 局 調 べ の 資 料 に よ っ た （ 国 税 庁 酒税 課 「酒 の しお り」 よ り）

矛盾を感 じず にはおれま せん。

︵ 国 税 収 入 の 三 ・五 ％ 、 間 接 税 比 率 の三 三 ・四 ％ ︶ と な って お り 、 国 の財 政 を 潤 し て い る こ の現 状 に

に の ぼ る莫 大 な 費 用 の 節 約 に な る と さ れ て いま す 。 一方 で は 酒 税 は 平 成 九 年 で、 二 兆 六 三 〇 億 円

る と、 医 療 費 ベ ー ス で 約 一兆 円 、 働 け な い こ と に よ る経 済 的 損 失 な ど を 考 慮 す る と 合 計 で約 三 兆 円

表9  各 国 別 人 口1人 当 た りア ル コー ル 飲 料 消 費数 量 の 推 移  （ アルコール分100％換算）

2 

アル コール と肝 臓障害

1  2 

飲んだ アル コール の九〇％以上は肝臓で処理されている。 肝臓は"沈黙の臓器"で、自覚症状が出にくいことに留意。

だれでも大量飲酒をすると脂肪肝になるが、終着駅は肝硬変。 アルコール性肝障害は禁酒す ると驚くほどよくなる。

3  γG TPはアルコール性肝障害の指標。

肝障害を起こさな いための飲酒許容量は アルコール飲料二単位

4  5 

以下。

6 

︵ 肝 炎 、 肝 硬 変 な ど ︶ で悩 ん で い る人 は 二 〇 〇 万 人 以 上 いる と

いわ れ て いま す 。 肝 臓 病 は も ち ろ ん ア ル コー ルだ け で な く 、 肝 炎 ウ イ ル ス ︵ A 、B 、C 、D、E 型 、

 現 在 、 わ が国 に は何 ら か の肝 臓 病

き な負 荷 が か か り 、 肝 障 害 は 当 然 と いえ ま し ょう 。

ア ル コー ル の九 〇 ％ 以 上 が 肝 臓 で処 理 、 分 解 さ れ て いる の で、 大 量飲 酒 を 続 け る と肝 臓 に絶 えず 大

と いう ほ ど よ く 知 ら れ て いま す 。 毎 日 肝 臓 を気 にし て飲 酒 し て いる 人 が多 いと 思 いま す が 、 飲 ん だ

  ア ル コー ル によ る臓 器 障 害 の中 で は 肝 臓 障 害 が 最 も頻 度 が 高 く 、 ま た ア ル コー ルと いえ ば 肝 障 害

〈ポ イ ン ト〉

そ の他 ︶、 薬 剤 な ど い ろ いろ な 原 因 で起 こり ま す が 、 わ が国 で は肝 炎 ウ イ ル ス ︵と く に B 型 、 C 型 ︶

に よ る 肝 臓 病 が 圧 倒 的 に多 く お お よ そ 全 体 の七 〇 ％ を占 め 、 ア ル コ ー ル によ るも のは 二 〇 ％ 以 下 と 推 定 さ れ て いま す 。

  日本 と は対 照 的 に、 欧 米 で は肝 硬 変 と いう と ア ル コー ル性 と いわ れ る く ら いで、 フ ラ ン ス で 八 ○

％ 、 ア メ リ カ で は七 五 ％ な ど と な って いま す 。 欧 米 で ア ル コー ル性 肝 硬 変 が 多 い理由 は、 先 の表 ９

に み る よう に国 民 一人 当 た り の年 間 飲 酒 量 と 関 係 が あ り 、 ア ル コー ル消 費 量 が多 い国 ほ ど ア ル コー

︵ A L D H ２ ︶ を も って いる人 が 多 く 、

ル性 肝 硬 変 の割 合 が高 い と いう こと に な り ま す 。 基 礎 知 識 の と こ ろ で説 明 し た よ う に欧 米 人 は 日 本 人 にく ら べ遺 伝 的 に高 活 性 型 のア セ ト ア ルデ ヒ ド脱 水 素 酵 素

酒 に強 い民 族 で大 量 飲 酒 が で き る か ら で す 。 ア ル コー ル消 費 量 が 減 る と 肝 硬 変 も減 る と いう 歴 史 的

事 実 が あ り 、 た と え ば フ ラ ンス の パ リ で は 第 一次 お よ び 第 二 次 世 界 大 戦 下 で、 ま た ア メ リ カ で は禁 酒 法 時 代 に肝 硬 変 の死 亡 率 が大 き く 減 少 し て いま す 。

  こう い った ア ル コー ル性 肝 障 害 は 日本 酒 に換 算 し て三 合 以 上 、 五 年 以 上 飲 酒 し て い る" 常 習 飲 酒

者"、 五 合 以 上 、 五 年 以 上 飲 酒 の" 大 酒 家" に起 こ り や す い で す が、 自 覚 症 状 に と ぼ し く 肝 障 害 が 見 逃 さ れ る こ と が少 な く あ り ま せ ん 。

  肝 臓 は" 沈 黙 の臓 器" と いわ れ、 肝 臓 が 悪 く な っても 痛 み や 不 快 感 な ど の症 状 が で に く く 、 こ れ

は肝 臓 機 能 は予 備 能 力 があ り そ の九 割 が 障 害 さ れ る ま で な ん と か働 いて いる か ら です 。 障 害 が か な

り 進 行 す る と症 状 が 出 て き ま す が、 こ れ も 激 し いも の で は な く 食 欲 が な く な る 、 か ら だ が だ る い、

胃 腸 を こわ し た よ う な 症 状 、 脂 っこ いも の が鼻 に つく 、 酒 が ま ず く な る な ど比 較 的 軽 い のが 一般 的

で す。 激 し い症 状 と し て は 発熱 、 腹 痛 、 黄 疸 、 腹 水 な ど が あ り ま す が 、 これ も ア ル コー ル性 肝 障 害 に特 徴 的 で は な く 、 そ の他 の肝 障 害 と 共 通 の症 状 で す 。

ア ル コー ル性肝 障害 を 判定 す る肝 機 能検 査 に ついて

  肝 臓 病 は 症 状 が出 にく く 、 肝 機 能 検 査 を 行 って は じ め て肝 障 害 の存 在 が わ か る 場 合 が多 い の で定

期 的 な 検 診 が 勧 め ら れ ま す 。 最 近 は市 民 健 診 、 職 場 健 診 、 成 人 病 予 防 健 診 、 人 間 ド ッ ク な ど で 血 液

を 採 って肝 機 能 検 査 を 受 け る 機 会 が 多 く 、 皆 さ ん は G O T ︵ A S T ︶、 G P T ︵ A L T ︶、 γ G T

P な ど と い った検 査 項 目 に関 心 が あ る こ と と 思 いま す 。 血 液 によ る肝 機 能 検 査 は実 際 に は 二 〇 種 類

︵ C T ︶、 磁 気 共 鳴 断 層 撮 影 ︵M R I︶ な ど の 画 像 診 断 や 肝 臓 の組 織 検 査 を 総 合 し て肝 臓 病 の最

も あ り 、 医 師 は そ れ ら の デ ー タ を 解 析 し 、 さ ら に超 音 波 断 層 検 査 ︵U S ︶、 コ ンピ ュー タ ー 断 層 撮 影

終 的 な 診 断 を つけ て いま す 。

  健 診 で よ く 用 いら れ る肝 機 能 検 査 の項 目 と そ の臨 床 的 意 義 を 表1 0に示します。

  肝 細 胞 が傷 害 さ れ、 破 壊 さ れ る と 細 胞 内 に含 ま れ て い る いろ い ろな 酵 素 が 血 液 の中 に流 入 し て増

加 し ま す。 し た が って 血 液 中 の酵 素 量 を 測定 す る方 法 も 鋭 敏 な肝 機 能 検 査 の 一つで 、 そ の数 値 によ

表10 成人病 予防健診 にお ける肝機能検査項 目とその臨床的意義

って ど の程 度 肝 細 胞 が 壊 れ て いる か が 、 お お よ そ わ か り ま す 。

酵 素 以 外 に も ア ルブ ミ ン ` コ レス テ ロー ル、 止 血 因 子 な ど は 肝 細 胞 で つく ら れ て いま す の で、 そ れ ら の値 か ら も 肝 臓 の 機

能 を 推定 で き ま す し 、 黄 疸 の程 度 、 胆 汁 の流 出 障 害 、 線 維 の

増 生 な ど を 判 定 で き る検 査 も あ り ま す 。 も ち ろ ん確 定 診 断 に

は画 像 所 見 や肝 生 検 と い って細 い針 を 肝 臓 に刺 し て、 そ の組

織 を 採 取 し て 顕 微 鏡 で観 察 す る検 査 が 必 要 と な り ま す が 、 血

液 で簡 単 に わ か る肝 機 能 検 査 が肝 障 害 の早 期 発 見 、 現 在 の肝

障 害 の状 態 把 握 、 治 療 効 果 の判 定 な ど の意 味 で 重 要 な方 法 で

あ る こと に か わ り はあ り ま せ ん。

  こ こ で は ア ル コー ル性 肝 障 害 が あ る か ど う か 見 分 け る の に

必 要 な 主 な検 査 であ る G O T 、 G P T 、 γG T P に つ い て説 明 します。

  G O T ︵グ ル タ ミ ン酸 オ キ ザ ロ酢 酸 ト ラ ン ス ア ミ ナ ー ゼ ︶

は A S T ︵ア ス パ ラ ギ ン酸 ア ミ ノト ラ ン ス フ ェラ ー ゼ ︶、 G

PT ︵ グ ルタ ミ ン酸 焦 性 ブ ド ウ酸 ト ラ ンス ア ミ ナ ーゼ ︶ は A

L T ︵ア ラ ニンア ミ ノ ト ラ ン ス フ ェラ ーゼ ︶ と も 表 現 し 、 こ

れ ら の酵 素 は 肝 細 胞 に主 と し てあ り ま す が 、 G O T ︵A S T ︶ は心 臓 の筋 肉 細 胞 、 骨 格 筋 細 胞 な ど

にも 多 く含 ま れ て いま す 。 肝 障 害 で肝 細 胞 の破 壊 が あ る と これ ら の数 値 は異 常 に高 く な り 、傷 害 が

著 し いと き は 一〇 〇 〇 単 位 、 二 〇 〇 〇 単 位 以 上 にも な り ま す 。 こ れ ら の酵 素 は普 段 か らご く 少 量 は

血 液 中 に流 れ て いま す の で 、 正 常 値 は G O T 四 〇 単 位 、 G P T三 五 単 位 以 下 の値 です 。 ア ル コー ル

に よ る 肝 障 害 で は G O T は G P T よ り 数 値 が常 に高 いの が 特 徴 で 、 禁 酒 す れ ば こ れ ら の数 値 は数 週 間 で正 常 に戻 り ま す 。

に止 め る と γG T P は ど ん ど ん 下 が って 正 常 化 し ま す 。

医 師 に は う そ が お見 通 し で す 。 こう い った 患 者 さ ん が 入 院 し て酒 を 完 全

ん で いる と 、 こ の γG T P が さ ら に上 が る か、 全 然 下 が って こな いの で

で はあ り ま せん 。 患 者 さ ん に ﹁お酒 を 止 め な さ い﹂ と い っても 隠 れ て飲

○ ∼ 一〇 〇 単 位 く ら い に上 昇 し 、 数 百 か ら 千 単 位 以 上 に な る こ と も ま れ

ま す 。 γG T P の正 常 値 は 四 〇 単 位 以 下 で す が、 酒 を 飲 む と す ぐ 七 、 八

約 一〇 日 で 、 飲 酒 の有 無 で著 し く 変 動 し ま す の で大 酒 家 の診 断 に役 立 ち

る の で し ょう 、 大 酒 家 で上 昇 し ま す。 γG T P値 は 禁 酒 に よ る 半 減 期 は

に多 く含 ま れ て いる 酵 素 で す が 、 多 分 ア ル コー ル によ って酵 素 誘 導 さ れ

応 を 示 し ま す 。 γG P T は腎 尿 細 管 、 肝 内 胆 管 上 皮 、 腸 上 皮 な ど の細 胞

  γG P T (ガ ン マグ ルタ ミ ー ル ト ラ ン ス ペプ チ ダ ーゼ ︶は G O T 、 G P T と は全 く 異 な った 反 表11  消化器 症状 の ない大 酒家(31例)の 血 中 諸酵 素 の異常 率 とそ の推移  （ ％）

  表 11 に大 酒 家 の禁 酒 後 のG O T 、 G P T、 γG T P の推 移 を異 常 率 で示 し ま す。 禁 酒 の効 果 は 検

査 の種 類 に よ り や や 差 が み ら れ ま す が 、 す べ て の検 査 値 の経 時 的 な 低 下 が 認 め ら れ て いま す。 大 酒

家 で 、 し か も肝 炎 ウ イ ルス の反 応 が 陽 性 の症 例 で、 禁 酒 し て も G O T 、 G P T 、 γG T P が下 降 し

な いも の は肝 障 害 の主 た る 原 因 は ア ル コー ル で は な く 、 ウ イ ルス 肝 炎 に よ る と 推 定 で き ま す。

  健 診 な ど で γG T P値 だ け が異 常 でG O T 、 G P T が 正 常 の人 が よ くあ り ま す が 、 こ の場 合 は ア

ル コー ル に よ る 肝 障 害 は ま だ 起 こ って いな いが 、 肝 細 胞 は ア ル コー ルを 一生 懸 命 処 理 し な け れ ば な

らず 、 も う か な り く た び れ て いる状 態 と解 釈 でき ま す 。 こう いう 人 は今 か ら 節 酒 す れ ば 、 将 来 肝 障

害 に進 展 す る こ とを 未 然 に防 ぐ こと が で き ま す 。 一方 、 γG T P に加 え、 G O T、 G T P の異 常 が

み ら れ る大 酒 家 はす で に何 ら か のア ル コー ル性 肝 障 害 が 起 こ って い る こ と を 示 す の で 、 さ ら に 精 密

検 査 を 受 け る と 同 時 に禁 酒 を し な け れ ば な り ま せ ん。 軽 度 の肝 障 害 で は禁 酒 す る と 一∼ 二 か月 で 肝

機 能 が 正 常 に戻 り ま す 。 中 に は大 酒 家 で も   γG T P が 上 昇 し な い、 いわ ゆ る 低 反 応 者 ︵low

が 一割 程 度 いま す が 、 飲 酒 歴 や 肝 腫 大 によ って診 断 し ま す 。

  ア ル コー ル性 肝 障 害 で は 軽 度 変 化 から 肝 硬 変 に至 る ま で常 に G O T V G P T の パ タ ー ンを と り ま

す が 、 ウイ ル ス肝 炎 で は 慢 性 肝 炎 の う ち は G O T ︿ G P T、 肝 硬 変 に進 展 す れ ば G O T ﹀G P T

と な り 、 脂 肪 肝 で は ア ル コ ー ルが 原 因 の も の は G O T ﹀ G P T、 肥 満 や 糖 尿 病 が原 因 の も の は G

O T︿ G P T と な る のが 一般 的 で す 。 肝 臓 全 体 の機 能 を 評 価 す る に は肝 細 胞 で つく ら れ る ア ルブ

ミ ン、 コ レス テ ロー ル、 コリ ン エス テ ラ ーゼ 、 止 血 因 子 に関 係 あ るプ ロト ロ ン ビ ン な ど が 、 ま た慢

responde

性 化 を み る に は Z T T 、 γ グ ロブ リ ン値 が 有 用 で す 。

  最 近 は 、 ア ル コー ル に関 係 す るも っと 特 異 的 な 酵 素 や タ ン パ ク の研 究 が 進 ん で いま す の で 、 近 い

将 来 、 さ ら に正 確 な ア ル コー ル性 肝 障 害 の診 断 に役 立 つ肝 機 能 検 査 ︵ 飲 酒 マー カ ー ︶ が開 発 さ れ る こ とを 期 待 し て いま す 。

ア ル コー ル性 肝障 害 の病 型

  以前 私 た ち が 日 本 酒 に換 算 し て毎 日 三 合 以 上 、 一〇 年 以 上 に わ た って ア ル コー ルを飲 ん で いる患

者 で 、 肝 機 能 検 査 で何 ら か の異 常 を 認 め、 肝 生 検 で肝 臓 の組 織 検 査 を 行 って 最 終 的 に診 断 し た 四 五 三例 の結 果 を表 12 に示 し ま す 。

  な お、 酒 飲 みで あ って も 輸 血 歴 が あ った り 、 B型 肝 炎 の反 応 が 陽 性 な ど 肝 炎 ウ イ ル ス の関 与 が あ

る と 思 わ れ る 症 例 は除 外 し てあ り ま す 。 そ の後 明 ら か にな った C 型 肝 炎 ウ イ ル ス は こ の当 時 は ま だ

測 定 法 があ り ま せ ん で し た が、 欧 米 の ア ル コー ル性 肝 障 害 に は な い タ イプ の慢 性 肝 炎 や 肝 硬 変 の病

像 が 多 く み ら れ た こ と は 、 後 に述 べ る よ う に思 いが け な い結 果 を 生 む こ と にな り ま し た 。 と も かく

ア ル コー ル性 肝 障 害 と 診 断 し た 病 変 は、 そ の組 織 学 的 進 行 程 度 に応 じ て軽 度 変 化 、 脂 肪 肝 、肝 線 維

症 、 急 性 ア ル コー ル性 肝 炎 、 慢 性 ア ル コー ル性 肝 炎 、 肝 硬 変 に分 類 さ れ ま し た が 、肝 病 変 の中 で は

（ 病型は肝生検 による診断）

肝 硬 変 が 約 三 〇 % と 最 も多 い病 型 で し た 。

  軽 度 変 化 、 脂 肪 肝 、 肝 線 維 症 は 四 〇 歳 代 前 半 の人 に多 く 、 一日 平

均 一四 〇 ∼ 一四 三 グ ラ ム ( 日 本 酒 換 算 六 ・六 ∼ 六 ・七 合 ) の ア ル コ

ー ルを 飲 用 し 、 重 症 型 のア ル コー ル性 肝 障 害 で あ る ア ル コー ル性 肝

炎 、 肝 硬 変 は 四 〇 歳 代 後 半 に多 く 、 飲 酒 量 も よ り大 量 で 一日平 均 一

四 七 ∼ 一五 六 グ ラ ム ︵ 日 本 酒 換 算 六 ・九 ∼ 七 ・三 合 ︶ でし た 。 多 く

の症 例 は本 格 的 な 飲 酒 を 開 始 し て 二〇 年 以 上 経 って 、 明 ら か な 肝 障

害 が 発 症 し 、 飲 酒 量 と 平 行 し て肝 病 変 が進 行 す る こと が推 定 さ れ ま す。

 軽 度変 化、 脂 肪肝

 軽 度 変 化 と いう病 型 は、 肝 臓 は腫 れ て いま す が 、 自 覚 症 状 は ほ と

ん ど な く 言 葉 ど お り 肝 組 織 の障 害 は大 し た こ と は あ り ま せ ん 。 肝 臓

の組 織 を 顕 微 鏡 で観 察 す る と 、 脂 肪 肝 と いう ほ ど 脂 肪 滴 も多 く な く 、

  この腫大 は慢性飲 酒 の影響 で肝細胞内 への脂肪 の蓄積、細 胞小器官 であ る滑面 小胞体 ︵ ミ ク ロゾ

徴 でし た。

線 維増生 も みられな いが、肝細 胞 は正常 の二∼ 三倍 に膨 れて腫大 ︵ 風船 様 の膨化 ︶し て いるのが特

表12  ア ル コー ル 性 肝 障 害453例 の 病 型 、 年 齢 、 飲 酒 量

ー ム︶ の増 加 、 ミ ト コ ンド リ ア の腫 大 、 肝 分 泌 タ ン パ ク の貯 留 な ど のた め肝 細 胞 の体 積 が 増 大 し た

と 考 え ら れ ま す 。 滑 面 小 胞 体 の増 加 は 基 礎 知 識 で 述 べた よ う に酒 を飲 み 続 け る と 、 ミ ク ロゾ ー ム ・

エタ ノ ー ル酸 化 系 酵 素 ︵M E O S︶ が 誘 導 さ れ 、 ア ル コー ル処 理 能 力 が 上 が る こ と の形 態 学 的 証 拠

と い え ま す 。 肝 分 泌 タ ンパ ク 貯 留 の機 序 は 、 肝 細 胞 の中 には 微 小 管 と いう 細 い パイ プ が あ り 、 肝 臓

で 作 ら れ た タ ン パ ク を 外 へ放 出 し て いま す が、 増 加 し た ア セト ア ルデ ヒ ド の障 害 作 用 で微 小 管 が減 少 し た た め と 説 明 さ れ て いま す 。

  脂 肪 肝 と いう 病 型 は 肝 細 胞 内 に中 性 脂 肪 が多 量 に蓄 積 し た 状 態 で 、 肝 小 葉 の三 〇 % 以 上 にわ た っ

て肝 細 胞 の脂 肪 化 を 認 め る も のを い いま す が、 小 葉 は肝 臓 を 構 成 す る 部 分 的 な 最 小 単 位 で 、 約 五〇

万 個 の 肝 細 胞 か ら で き て いま す 。 脂 肪 肝 の状 態 は 、 過 剰 な 栄 養 を 与 え て人 工的 に異 常 に太 ら せ た ガ

チ ョウ の 肝 臓 であ る 、 フ ラ ン ス料 理 で有 名 な フ ォア グ ラ のよ う な も の に た と え ら れ ま す 。

  肝 細 胞 内 に は脂 肪 が 多 く貯 留 し 、 ひ ど く な る と 肝 細 胞 は 脂 肪 滴 に 置 き 換 え ら れ 、 ま た 溜 ま った 脂

肪 が周 囲 の血 管 を 圧 迫 し て細 胞 間 の血 流 を 阻 害 し て肝 細 胞 を 傷 害 し ま す 。 ア ル コ ー ル は か ら だ の あ

ち こ ち に 蓄 え ら れ て い る脂 肪 に動 員 を か け て、 脂 肪 酸 と いう 形 で肝 臓 の中 へ移 動 さ せ る作 用 が あ り 、

ア ル コー ル の処 理 に疲 れ た肝 臓 は こ の 脂 肪 酸 を 処 理 で きず 、 再 び 肝 臓 内 で中 性 脂 肪 に再 合 成 し て し

ま い、 脂 肪 肝 とな り ま す 。 脂 肪 肝 の原 因 に は ア ル コー ルば か り で は な く 、 栄 養 のと り すぎ や 運 動 不

足 に伴 う 肥 満 、 糖 尿病 、 高 脂 血 症 な ど も あ る こ と を 付 け加 え て お き ま す 。

  健 康 な 人 で も 一升 酒 を 二 ∼ 三 日 、 七合 程 度 を 一週 間 飲 み続 け る と脂 肪 肝 と な り 、 ま た 二 週 間 酒 を

代 わ りにア ル コー ル を与 え （ 栄 養 的 に は 十 分 の 状 態 ）、 肝 組 織 の 中性 脂 肪 を測 定 す る と経 時 的 に 増 加 す る

超 音波検査

止 め れ ば 肝 細 胞 の脂 肪 滴 は消 失 す る と いわ れ て

いま す。 こ の よ う に脂 肪 肝 は 酒 を 多 量 に飲 む と

短 期 間 で で き上 が り 、 ま た最 初 に起 こ る病 変 で 、

肝 障 害 の中 で も 比 較 的 軽 い病 型 で す 。

  先 に述 べ た軽 度 変 化 は 、検 査 の た め に入 院 し

て酒 を 止 め て い るう ち に 脂 肪 滴 が消 失 す る過 程

を と ら え た も のと も 解 釈 で き ま す 。 以 前 は副 食

を あ ま り 食 べず に飲 む人 に脂 肪 肝 を 含 む ア ル コ

ー ル性 肝 障 害 が 多 いこ と から 、 傷 害 は ア ル コー

ルそ のも の よ り 低 栄 養 が 関 係 す る と いう説 が 有

力 で し た 。 と こ ろ が 図 ９ の よ う に人 に糖 質 の カ

ロリ ー の代 わ り に ア ル コー ルを 置 き 換 え て 飲 ま

せ る と、 十 分 な 栄 養 を与 え て も 脂 肪 肝 が短 期 間

に発 症 し 、 ア ル コー ル の直 接 肝 障 害 作 用 が 証 明

︵エ コー ︶ で は エ コー レベ ルが 上 昇 し白 く 輝 いて み え る ので ブ ライ ト リ バ ー と い い、 C

  最 近 は脂 肪 肝 の診 断 は肝 生 検 によ ら な く ても 画 像 診 断 で可 能 とな って き ま し た 。 脂 肪 肝 の状 態 は

されたわ けです。

5人 の 志 願者 を高 タ ンパ ク、低 脂 肪 食 に し、糖 質 の 図9 

肝 線 維 症 、 急 性 ア ル コ ー ル性 肝 炎 、 慢 性 ア ル コ ー ル 性 肝 炎

T で は 低 吸 収 域 と し て黒 っぽく み え ま す 。

 

大 量 のア ル コー ルを 飲 み続 け る と 、 肝 臓 に は ま ず 前 項 で述 べ た ﹁軽 度 変 化 ﹂、 ﹁ 脂 肪肝 ﹂が起 こ

り ま す が、 こ れ ら は 飲 酒 を 止 め れ ば 数 週 間 で治 って し ま いま す。 さ ら に飲 酒 を 続 け る と ﹁ 肝 線維

 

症 ﹂、 ﹁ア ル コー ル性 肝 炎 ﹂ と いう 病 気 に進 展 し 、 つ い に は 肝 障 害 の終 着 駅 と も いう べ き ﹁肝 硬 変 ﹂

に移 行 す る こ と に な り ま す 。肝 硬 変 への進 展 の道 程 は、 図 10 に示 す よ う に三 つ の ル ー ト が 考 え ら れ

そ の 一つは ア ル コー ル性 肝 線 維 症 を経 て肝 硬 変 に進 行 す る ル ー ト で す 。 軽 度 変 化 や 脂 肪 肝 の状 態

ています。  

で 飲 酒 を続 け る と肝 臓 の中 に コ ラー ゲ ンと いう 固 い糸 の よ う な タ ン パ ク ︵ 線 維 ︶ が増 加 し 、 一つ 一

つ の肝 細 胞 の周 囲 を取 り 囲 み、 細 胞 を 締 め 付 け 、 細 胞 を 傷 つけ ま す ︵ 肝 細 胞 周 囲 線 維 化 ︶。 こ の線

維 は 肝 細 胞 自 身 あ る いは 肝 細 胞 の間 に存 在 す る細 い血 管 壁 の細 胞 ︵ 伊 東 細 胞 や類 洞内 皮 細 胞 ︶ が 積

極 的 に作 り 、 これ は ど う も ア ル コー ル の処 理 過 程 で生 ず る ア セ ト ア ルデ ヒ ド の作 用 ら し いと推 定 さ

れ て いま す 。 こ の よう に肝 臓 に線 維 の増 え た 状 態 を ﹁ 肝 線 維 症 ﹂ と 呼 ん で いま す が 、 さ ら に病 変 が

進 行 し 、 線 維 が ど ん ど ん増 え て肝 臓 の実 質 を 押 し の け て拡 が る と 、 肝 臓 が 硬 く な り肝 硬 変 と な り ま

す 。肝 線 維 症 は 次 に述 べる ア ル コー ル性 肝 炎 よ り 症 状 は 軽 いで す が 、 肝 臓 は 腫 大 し、 食 欲 不 振 、 全

身 が だ る い、 吐 き 気 な ど が み ら れ、 黄 疸 や腹 水 も ま れ で は あ り ま せ ん 。 中 には 症 状 が ほ と ん ど な く 、

知 ら な いう ち に肝 硬 変 へじ わ じ わ と進 行 す る例 も みら れ ま す 。

  いち ば ん 多 い肝 硬 変 への進 展 ルー ト は 急 性 ア ル コー ル性 肝 炎 を 介 す るも ので 、 こ の病 型 の背 景 は

軽 度 変 化 、 脂 肪 肝 、 肝 線 維 症 で す が 、 そ の 上 に さ ら に 大 量 飲 酒 を 続 け る と 発 症 し 、 肝 細 胞 の破 壊

︵ 壊 死 ︶ が著 し く 、 あ た か も 急 性 肝 炎 の よ う な 徴 候 を 示 す こと か ら こ の よ う な 名 称 が つけ ら れ て い

︵ 消 化 管 出 血 ︶ な ど が あ り、 重 症 例 で は 肝 不 全 に な

  ア ル コー ル性 肝 炎 の中 に は ア ル コー ルを 止 め て も 病 気 が ど ん ど ん進

例 で は 肝 硬 変 の病 像 が さ ら に進 行 す る こ と に な り ま す 。

性 ア ル コー ル性 肝 炎 が起 こ る場 合 も 決 し て少 な く はな く 、 こ の よ う な

ま す。 し か し肝 硬 変 がす で に成 立 し て い る上 に、 大 量 飲 酒 を す る と急

分 が線 維 で 置 き換 え ら れ 五年 以 内 の短 期 間 で急 速 に肝 硬 変 へと 進 展 し

急 性 ア ル コー ル性 肝 炎 は多 く の肝 細 胞 が 集 団 で破 壊 、 脱 落 し 、 そ の部

で、 ビ リ ル ビ ン ︵ 黄 疸 ︶、 G O T 、 G P T、 γG T P も 上 昇 し ま す 。

い の で絶 対 に入 院 治 療 が必 要 で す 。 血 液 検 査 で は 白 血 球 の増 加 が 特 徴

  急 性 ア ル コー ル性 肝 炎 は こ の よ う に激 し い症 状 が あ り、 死 亡 率 が高

炎 と い って も よ いで し ょう 。

り 意 識 障 害 を 起 こし 生 命 の危 険 が あ り ま す 。 ア ル コー ル に よ る劇 症 肝

さ ら に 吐 血 や下 血

ま す 。 主 な 症 状 と し て、 著 し い肝 臓 腫 大 、 黄 疸 、 むく み や 腹 水 、 発熱 、 吐 き気 、 腹 痛 、 下 痢 、 幻 覚 、

図10  アル コ ール 性 肝 硬 変 へ の 進 展 過 程

行 す る も の が あ り、 こ れ を 慢 性 ア ル コー ル性 肝 炎 と い って いま す が 、 こ の病 型 か ら肝 硬 変 に な る も のがあ ります。

︵ 大 酒 家 の肝 硬 変 の約 五 〇 ％ 、 慢 性 肝 炎 の約 七 〇 ％ ︶ に み ら れ る

ー ルが ウ イ ル ス増 殖 の 促 進 因 子 と な る と も いわ れ 、 こ の点 の研 究 は こ

し か し 肝 病 変 の進 展 に か か わ る のは ウ イ ルス が 主 体 と し ても 、 ア ル コ

肝 炎 か ら の も の はC 型 肝 炎 ウイ ルス 感 染 の関 与 が 大 き い と いえ ま す 。

肝 線 維 症 と急 性 ア ル コー ル性 肝 炎 を 介 す る も の で、 慢 性 ア ル コー ル性

  し た が ってア ル コー ル性 肝 障 害 が 肝 硬 変 へ進 展 す る 主 な ル ー ト は、

こ と が わ か って き ま し た ︵ 表 13 ︶。

高率

ー ル性 肝 炎 、 肝 硬 変 と 診 断 し た症 例 の中 にC 型 肝 炎 ウ イ ル ス の反 応 が

C 型 肝 炎 ウ イ ル ス の 関与 が 血 液 で 調 べら れ る よ う に な り 、 慢 性 ア ル コ

未 知 の肝 炎 ウ イ ル ス の 関 与 が以 前 か ら 想 定 さ れ て いま し た 。 そ の後 、

状 も 肝 組 織 像 も ウイ ル ス に よ る慢 性 肝 炎 と区 別 が で き な い点 が疑 問 で、

て いま し た 。 し かし こ の病 型 の多 く は 飲 酒 量 も 比 較 的 少 な く 、 臨 床 症

を 攻 撃 し て し ま う た め に、 肝 障 害 が ど ん ど ん 悪 化 し て ゆ く と 考 え ら れ

血 球 を 傷 つけ 、 本 来 は 外 敵 を 攻 撃 す る はず のリ ン パ球 が 自 分 の肝 細 胞

  慢 性 ア ル コー ル性 肝 炎 の成 立 機 序 と し て、 ア ル コー ル が免 疫 に か か わ り のある リ ン パ球 と いう 白 表13  ア ル コー ル性 肝 障害 に お け るC型 肝 炎 ウ イル ス反 応 （HCV抗 体 ） の陽 性 率

れ か ら の課 題 で す 。

  当 然 の こ と で す が 、 純 粋 に ア ル コー ル が原 因 の肝 線 維 症 、 ア ル コー ル性 肝 炎 の場 合 は 酒 を 止 め れ

  肝 硬 変 は肝 細 胞 の脱 落 と 線 維 化 によ る萎 縮 を 反 映 し て 肝 臓 の

す。

落 が 広 範 囲 に起 こ り、 ウ イ ル ス性 のも の と区 別 でき な く な り ま

性 肝 硬 変 で も 、 急 性 ア ル コ ー ル性 肝 炎 を 繰 り 返 す と 肝 細 胞 の脱

ト ルく ら いの大 小 不 同 な結 節 が 一般 的 で す。 し かし ア ル コー ル

ウ イ ル ス性 の肝 硬 変 で は直 径 が 五 ミ リ メ ー ト ル∼ 一セ ンチ メ ー

○ ・五 ミ リ メ ー ト ルく ら い の微 細顆 粒 状 の ツブ ツブ が特 徴 で 、

立 ち ま す 。 典 型 的 な ア ル コー ル性 肝 硬 変 の 肝 表 面 は、 直 径 が

維 が増 え て いる か ら で、 肝 表 面 は ツブ ツブ が形 成 さ れ凹 凸 が 目

ま す。 肝 臓 が硬 い のは 肝 細 胞 が 減 って コ ラ ーゲ ンと いう 硬 い線

大 が み ら れ ま す が 病 変 が進 行 す る に つれ て萎 縮 し て小 さ く な り

  肝 硬 変 は 、 そ の名 の通 り肝 臓 は全 体 に硬 く な り 、 最 初 は肝 腫

  肝硬変 と 肝臓が ん

ば 肝 硬変 へは進 展 し な いば か り か軽 快 す る例 が 多 く 、 禁 酒 の効 果 は 大 き いと いえ ま す 。

表14 肝硬変 の症状 と身体所見

働 き は著 し く 低 下 し、 種 々 の症 状 が み ら れ ま す 。 最 初 は あ ま り症 状 はあ り ま せ ん が、 黄 疸 、 腹 水 、 意識 障害 などが出 てくれば入院治療 とな ります。

  表 14 に肝 硬 変 の症 状 と身 体 所 見 を 示 し ま す が 、 黄 疸 は ビ リ ル ビ ンと いう 黄 色 い色 素 が 肝 障 害 の た

め肝 臓 か ら排 泄 さ れず 白 眼 ︵ 眼 球 結 膜 ︶ や皮 膚 が 黄 染 す る 状 態 で 、 意 識 障 害 は 本 来 肝 臓 で 解 毒 さ れ

な け れ ば な ら な い物 質 、 た と えば ア ン モ ニア が 血 中 に 溜 ま る た め に起 こ り ま す 。 肝 臓 に は 腸 か ら 栄

養を 吸 収 し た血 液 が門 脈 と いう 血 管 を 通 って大 量 に流 れ 込 ん で いま す が 、 肝 硬変 に な る と 肝 臓 は硬

く萎 縮 し て いま す の で、 こ の血 液 は せ き と め ら れ て ス ム ー ズ に流 れ ず 、 門 脈 に は 血 液 が う っ滞 し

︵門 脈 圧 充 進 ︶、 血 管 の中 の水 分 が腹 腔 内 に し み だ し て腹 水 と な り ま す 。 ま た 肝 細 胞 が減 少 し ア ルブ

ミ ンと いう タ ン パ ク の産 生 が 落 ち 、血 液 浸 透 圧 が 低 下 し さ ら に腹 水 を 助 長 し ま す 。 腹 水 で ふく れ あ

が った お 腹 は" 蛙 腹" に た と え ら れ て いま す 。 門 脈 中 の血 液 は肝 臓 の中 を 流 れ にく いの で 、 逃 げ 場

︵ 痔 ︶ が形

を 失 って いろ いろ な バ イ パ スを 求 め て 流 れ 、 食 道 下 部 や 胃 の上 部 の静 脈 を 通 る と 食 道 静 脈 瘤 、 胃 静

脈 瘤 が 、 お腹 の表 面 の静 脈 を 通 る と腹 壁 静 脈 の怒 張 が、 直 腸 のあ た り を 通 る と痔 静 脈 瘤

成 さ れ ま す 。 食 道 壁 や 胃 壁 の中 の静 脈 が こ ぶ のよ う に ふ く れ 内 腔 に突 出 し た食 道 静 脈 瘤 と 胃 静 脈 瘤

は と く に、 硬 い食 物 な ど が 通 れ ば 破 裂 し て出 血 を 起 こ す危 険 が あ り ま す 。

︵ ク モ状 血 管 腫 ︶、 赤 い手 の ひ ら ︵ 手 掌 紅 斑 ︶、 皮 膚 に黒 褐 色 の色 素 沈 着 が あ り ま

  肝 硬 変 にな る前 から も み ら れ 、 肝 硬 変 に な って顕 著 に な る 身 体 所 見 に、 前 胸 部 な ど に ク モ の足 の よ う な 赤 い斑 点

す 。 ま た 男 性 で は 乳 房 の大 き く な る女 性 化 乳 房 、 睾 丸 萎 縮 な ど が み ら れ ま す が 、 肝 臓 で のホ ル モ ン

の代 謝 異 常 と考 え ら れ、 これ は基 礎 知 識 の項

︵ 57 頁 ︶ で 説 明 ず み で す 。

  以前 は、 肝 硬 変 の死 亡率 は き わ め て高 く、 酒 を 止 め て も 四 〇 ％ 、 止 め な け れ ば 六 〇 ％ が 五 年 以内

に 死 亡 す る と いわ れ て いま し た 。 死 因 は肝 機 能 の悪 化 に よ る 肝 性 昏 睡 ︵肝 不 全 ︶、 食 道 静 脈 瘤 や 胃

静 脈 瘤 破 裂 に よ る大 量 吐 ・下 血 、 肝 臓 が ん の発 生 が 主 な も の で す 。 最 近 は 肝 硬 変 の治 療 法 が進 歩 し 、

一〇 年 、 二 〇 年 と長 生 き で き る よ う に な り 、 天 寿 を 全 う す る 人 も 少 な く あ り ま せ ん 。 肝 性 昏 睡 の治

療 法 も 進 歩 し 、 よ く効 く 利 尿 剤 の投 与 、 タ ン パ ク製 剤 の補 給 な ど の た め 腹 水 も ど ん ど ん治 る よ う に

な り、 ま た 食 道 、 胃 静 脈 瘤 も内 視 鏡 ( 胃 カ メ ラ ) で の処 置 や 手 術 で コ ント ロー ル でき る よ う に な っ た ためです。

  肝 硬 変 から 肝 臓 が ん が発 生 す る頻 度 は、 ウ イ ル ス性 のも の が五 〇 ％ 以 上 に対 し て ア ル コー ル性 は

一〇 ％ 以 下 と低 率 です 。 前 に述 べた 理 由 で、 ア ル コー ル性 肝 硬 変 と 考 え ら れ て い た症 例 か ら の肝 が

ん の 発 生 の多 く は C 型 肝 炎 ウイ ル ス合 併 例 と 考 え ら れ 、 大 酒 家 の肝 が ん の七 〇 ％ は C 型 肝 炎 の反 応

が 陽 性 で す 。 し か し ア ル コー ルと C 型 肝 炎 ヴ イ ル ス は 発 が ん に相 乗 的 に作 用 し 、 C 型 肝 炎 ウ イ ル ス

陽 性 の大 酒 家 肝 硬 変 患 者 で は、 肝 が ん の危 険 性 が極 め て高 いと の報 告 も あ り ま す 。

  肝 が ん の治 療 法 に は 外 科 的 肝 切 除 術 、 肝 動 脈 塞 栓 術 ︵T E Ａ ︶、 エ タ ノ ー ル注 入 療 法 ︵P E I

T ︶、 抗 が ん剤 を 用 いる 化 学 療 法 が あ り ま す が 、 と く に P E I T は 外 科 手 術 と 同 じ く ら い治 療 成 績

が よ いと いわ れ て いま す 。 P E I T は超 音 波 で肝 臓 を み な が ら 、 が ん の部 分 に細 い針 か ら ほ ぼ 一〇

〇 ％ の高 濃 度 の エタ ノ ー ルを 注 入 す る方 法 で、 エタ ノ ー ル の持 つ強 力 な 組 織 固 定 作 用 を利 用 し て、

が ん 細 胞 を ア ル コー ル漬 け に し て殺 し て し ま う も の で す 。 エタ ノ ー ル注 入 は ま た 同 様 な 理 由 で 、

胃 ・十 二指 腸 潰 瘍 な ど消 化 管 の出 血 病 変 部 の止 血 に内 視 鏡 を 用 いて 行 わ れ ま す 。 臓 器 を傷 害 す る ア

ル コー ル の作 用 を 逆 手 に と って治 療 に応 用 し た も の で、 これ は別 な意 味 で ア ル コー ルの効 用 と いえ ま し ょう 。

  幸 いな こ と にア ル コー ル性 肝 硬 変 は 禁 酒 す る と驚 く ほ ど よ く な り 、肝 硬 変 だ け で死 亡 す る こと は

あ ま り あ り ま せ ん 。 と は いえ ア ル コー ル性 肝 障 害 で は禁 酒 し て肝 硬 変 にな る手 前 で く い止 め る こ と

病 変 が進 展 す る こと も 理 解 で き る で し ょう 。

れば 、高 濃 度 の ア セト ア ルデ ヒ ド に さ ら さ れ、 男 性 で も短 期 間 で肝

な お 不 活 性 型 A L D H ２ を も つ人 は無 理 し て ア ル コー ルを飲 み続 け

が肝 細 胞 の ア ル コー ル代 謝 を 遅 ら せ る こ と に 関 係 があ り そ う で す 。

す 。 こ の理 由 は 基 礎 知 識 のと こ ろ で も 触 れ た よ う に、 女性 ホ ル モ ン

飲 酒 期 間 で肝 硬 変 と な る の で、 女 性 の飲 酒 には と く に 注 意 が必 要 で

示 す よ う に 女 性 は男 性 にく ら べ、 少 な い飲 酒 量 で、 し かも 約 半 分 の

％ に の ぼ り 、 女 性 の ア ル コー ル性 肝 硬 変 も増 加 し て いま す 。 表 15 に

  最 近 は女 性 の飲 酒 者 が 多 く な り 、 ほ と ん ど 毎 日 飲 む 女 性 は約 二 〇

飲 む人 は ぜ ひ定 期 健 診 を 受 け て ほ し いも の です 。

が 重 要 で 、無 症 状 で も ア ル コー ル性 肝 障 害 が か な り 進 ん で いる こ と が あ り ま す ので 、 ア ル コー ルを

表15  ア ル コ ー ル 性 肝 硬 変 の 男 女 差

肝障害を起 こさな い許容飲酒量

  一体 ど のく ら い の量 の ア ル コー ルを飲 め ば 肝 臓 が 悪 く な る の で し ょう か。 こ こま で な ら 安 全 と い

った量 は あ る の で し ょう か 。 い ろ いろ な 実 験 結 果 や 臨 床 統 計 から 類 推 し て み ま す 。

  まず 基 礎 知 識 のと こ ろ で も 述 べ た よ う に、 成 人 の 一日 のア ル コー ル代 謝 能 力 は 体 重 一キ ログ ラ ム

当 た り 、 一時 間 に つき ○ ・ 一∼ ○ ・ 一五 グ ラ ム ︵ 平 均 ○ ・ 一二五 グ ラ ム ) で す の で、 体 重 五 五 キ ロ

グ ラ ム の人 は約 一六 〇 グ ラ ム ︵日本 酒 換 算 約 七 ・五 合 ) と な り、 これ は 二 四 時 問 か か って や っと 処

理 で き る 量 で す か ら 、 肝 臓 に大 き な 負 担 が か か る量 と いう こ と にな り ま す。

  ア メリ カ の リ ー バ ー氏 ら は、 総 摂 取 カ ロリ ー の五 〇 ％ 以 上 を ア ル コー ルか ら と る と いう 条 件 で 、

人 間 に近 い マ ント ヒ ヒ に何 年 か ア ル コー ルを 与 え る と 、 肝 硬 変 にな る こ と を 証 明 し て いま す。 これ

を 人 に当 て は め て み る と 、 総 摂 取 カ ロリ ー の五 〇 ％ 以 上 を ア ル コー ル か ら と る飲 み方 を 何 年 か 続 け

る と 肝 硬 変 にな る可 能 性 が あ り ま す 。 日本 人 の 一日平 均 摂 取 熱 量 は 二 二〇 〇 キ ロカ ロリ ー で す が 、

そ の五 〇 ％ は一一 ○ ○ キ ロカ ロリ ー と な り 、 こ れを ア ル コー ルで 代 用 す る と ア ル コー ル 一グ ラ ム は

七 キ ロカ ロリ ー で す か ら 飲 酒 量 は 約 一六〇 グ ラ ム と な り ま す 。 す な わ ち 、 日 本 酒 に換 算 し て 七 ・五 合 です。

  レ ー ル バ ッ ハ氏 は 西 ド イ ツ のあ る サ ナ ト リ ウ ム に禁 酒 を 志 し て入 院 し た 男 性 患 者 のう ち、 三 二 〇

例 に肝 臓 の組 織 検 査 を 行 って診 断 し た 肝 病 変 と 飲 酒 量 、 飲 酒 期 間 と の関 係 を 調 査 し ま し た 。 表 16︱

1 のよ う に これ ら の患 者 は 一日 一六 〇 グ ラ ム 以 上 の ア ル コー ルを 飲 ん で い て、 飲 酒 期 間 が長 く な る

ほ ど 肝 硬 変 の発 生 率 が高 く な って いま す。 一五 年 以 上 の飲 酒 で 五 一％ が肝 硬 変 、 そ の他 の病 変 を 含

と飲 酒 期 間 との 関 係

そ の1  一 日平 均160g以

上 の 大 酒 家320例 の肝 病 変

し て いま す 。

グ ラ ム を 境 界 域 、 一六 〇 グ ラ ム以 上 を 危 険 域 と

飲 酒 量 八 ○ グ ラ ム 以 下 を 安 全 域 、 八 ○ ∼ 一六 〇

が で き ま す 。 ぺキ ノ氏 も か れ の統 計 か ら 一日 の

ア ル コー ル性 肝 障 害 の絶 対 的 危 険 量 と いう こ と

ム と いう 数 字 が 常 に で て き ま す ので 、 こ の 量 を

  い ろ い ろ な 研 究 か ら ア ル コー ル約 一六 〇 グ ラ

続 け て いた と し て いま す 。

〇 ％ は 一六〇 グ ラ ム 以 上 の飲 酒 を 二〇 ∼ 二 五年

の量 で は肝 硬 変 は ほ と ん ど な く 、 肝 硬 変 の約 六

に 一日 八○ グ ラ ム ︵日本 酒 換 算 三 ・七 合 ︶ 以 下

三 八 一例 の飲 酒 量 を 調 べ、 表 16︱ 2 に示 す よ う

め る と 実 に九 六 ％ が肝 障 害 を 発 症 す る こ と にな り ま す 。 フ ラ ン ス の ぺ キ ノ氏 は ア ル コー ル性 肝 硬 変 表16  飲 酒量 、 飲 酒期 間 と肝 障 害 に関 す る臨 床 統計

  以 上 の結 果 を 表 17 に ま と め てあ り ま す

が、 一日 飲 酒 量 一六 〇 グ ラ ム 以 上 は 絶 対

危 険 で 、 そ の半 分 の 八○ グ ラ ム 以下 を 安

全 域 と す る こ と は妥 当 と い って よ い で し

ょう 。 ア ル コー ル 八○ グ ラ ム は 日 本 酒 に

換 算 す る と 三 ・七 合 にな り ま す が 、 日本

人 は体 格 も 小 さ い ので 飲 酒 許 容 量 は いく

ら 飲 ん で も 一日 三 合 以 下 と し た いも の で す。

  今 ま で は連 日飲 酒 を 続 け て いる大 酒 家

︵ 持 続飲 酒 者︶ の話 です が、中 には ウイ

ー ク エ ン ド ・ド リ ン カ ー ︵ 週末飲 酒者︶

な ど 間歇 的 に大 量 の飲 酒 を す る人 が いま

が 重 視 さ れ る よ う にな って き ま し た。 す な わ ち いく ら休 肝 日 ︵ 酒 を 飲 ま な い日 ︶ を つく っても 一回

×年間飲酒日数/365 ×飲酒年数

れ て いま す の で、 最 近 は 一日 の飲 酒 量 よ り も ア ル コ ー ル の総 摂 取 量 が問 題 であ って、 積 算 飲 酒 量

す 。 連 続 飲 酒 者 と間歇 的 飲 酒 者 二 つの グ ル ープ を比 較 し て も 肝 病 変 の程 度 、 死 亡 率 に差 が な いと さ

表17  アル コール の許 容量 に関す る実験 、統計 の まとめ

の飲 酒 量 が多 け れ ば 肝 障 害 を 起 こ す こ と に な る わ け で す 。 一生 に飲 め る酒 の量 は 決 ま って い る と も いわ れ 、 積 算 飲 酒 量 六 〇 〇 キ ログ ラ ム 以 上 は危 険 と さ れ て い ま す 。

  積 算 飲 酒 量 か ら 安 全 な ア ル コー ル量 を 割 り出 し て み ま し ょう 。 一生 に飲 む積 算 飲 酒 量 を 六 〇 〇 キ

ログ ラ ム に抑 え る に は毎 日 日 本 酒 三 合飲 ん で 二 五 年 、 二合 な ら四 〇 年 近 く 飲 酒 を 続 け る こと が で き

る計 算 にな り ま す 。 一生 長 く 、 楽 し く飲 む に は 一日 日 本 酒 二 合 以 下 と す べ き で し ょう 。 た だ し 女 性

は も と よ り 男 性 で も 不 活 性 A L D H ２ を も って いる 人 は例 外 で、 こ のよ う な 量 は飲 ん で は いけ な い こ とを 付 け 加 え て お き ま す 。

アル コー ルと膵 臓障 害

〈ポ イ ン ト〉

1  頑固な腹痛を起こす膵炎の半分以上は、アル コールが原因。 2  飲酒と糖尿病との関係は？

︵ 第 二腰 椎 あ た り ︶ には さ ま れ た 格 好 で、 上 腹 部 の深 いと こ ろ に位 置 し て いま す 。

名 称 と他 臓 器 と の 関係 を 示 し ま す 。

ト ル、 厚 さ ニ セ ン チ メ ート ルほ ど で や や赤 みを 帯 び た 灰 白 色 を し て いま す 。 図 11 に膵 臓 の各 部 分 の

達 し て いま す 。 重 さ 六 〇 ∼ 一〇 〇 グ ラ ム 、 長 さ 一二 ∼ 一五 セ ンチ メ ー ト ル、 縦幅 三 ∼ 五 セ ンチ メ ー

て半 円 形 に囲 ま れ 、 頭 部 に引 き 続 く 部 分 は 体 部 と い い胃 の後 ろ を 通 り 、左 部 分 は 尾 部 と い い脾 臓 に

膵 臓 は ﹁へ﹂ の字 の形 を し た扁 平 な 細 長 い臓 器 で、 右 は膵 頭 部 と い って そ の外 側 を 十 二指 腸 によ っ

  膵臓 は胃と脊椎

述 べ る前 にま ず 膵 臓 の形 態 と機 能 ︵ 働 き ︶ に つ いて 説 明 し ま す 。

膵 臓 への 関 心 が や や高 ま った と いえ ま す 。 ア ル コー ル は こ の膵 臓 を も障 害 し ま す が 、 病 気 の こ とを

  膵 臓 は な じ み の う す い臓 器 で す が、 昭 和 天 皇 のご 病 気 が膵 臓 疾 患 で あ った こ と も あ り、 そ れ 以 来 、

3 

  膵 臓 は 肝 臓 の十 分 の 一に も 満 た な い小 さ な 臓 器 で す が、 二 つの き わ め て重 要 な 働 き を 行 って い ま

す 。 一つは 外 分 泌 機能 と い って膵 液 を 分 泌 す る働 き です 。膵 臓 の九 〇 ％ を 占 め る 膵 腺 傍 細 胞 が 食 物

た ホ ル モ ンと し て血 糖 を 下 げ る イ ン ス リ ンや 血 糖 を 上 げ

種 々 の ホ ル モ ンを 血 液 中 に分 泌 し て い ま す 。 よ く 知 ら れ

に分 布 し て い る ラ ン ゲ ル ハ ン ス島 と いう 細 胞 集 団 か ら

の数 パ ー セ ント し かあ り ま せ ん が 、 膵 臓 全 体 に島 の よ う

  も う 一つは内 分 泌 機 能 と い って容 積 は外 分 泌 部 の ほ ん

状 が でま す。

悪 く な る と消 化 吸 収 障 害 が 起 こ り 、 や せ、 下 痢 な ど の症

れ る わ け で す 。 し た が って膵 臓 か ら の消 化 酵 素 の分 泌 が

ア ミ ノ酸 、 脂 肪 酸 な ど の栄 養 素 と な って か ら だ で利 用 さ

消 化 酵 素 が働 い て消 化 、 吸 収 を 受 け て は じ め てブ ド ウ糖 、

物 は 胃 か ら十 二 指 腸 へ排 出 さ れ、 こ こ で膵 液 中 の種 々 の

ゼ 、 ト リ プ シ ン、 リ パ ー ゼ な ど で す 。 私 た ち が食 べ た食

は糖 質 、 タ ン パク 質 、 脂 肪 を そ れ ぞ れ 消 化 す る ア ミ ラ ー

集 め 、十 二指 腸 へ排 泄 し て いま す 。 消 化 酵 素 の主 な も の

を 消 化 す る の に必 要 な 何 種 類 も の消 化 酵 素 を つく り 、 膵 液 と し て細 い枝 膵 管 か ら 主 膵 管 、 副 膵 管 に

図11  膵 臓 の 解 剖 と他 臓 器 との 関係

る グ ル カゴ ンが あ り、 血 糖 を 調 節 し て いま す 。 と く にイ ンス リ ン は血 液 の中 に出 て体 中 の組 織 へ行

き 、 ブ ド ウ糖 を 私 た ち の活 動 のた め の エネ ルギ ー と し て利 用 で き る よ う に働 いて いま す 。 イ ン ス リ

ン の分 泌 が 悪 く な る と ブ ド ウ糖 の利 用 障 害 が 起 こ り 、 血 糖 が高 く な り糖 尿 病 が発 症 す る こ と にな り ます。

  膵 臓 病 の中 で ア ル コ ー ル が 関 係 す る のは 膵 炎 と いう 病 気 で す 。 膵 炎 の最 初 の症 状 は腹 痛 で 、 程 度

いま す 。 膵 障 害 が 進 行 す ると 、 イ ン スリ ンの 分 泌 が悪 く な り糖 尿 病

人 に比 べ脂 肪 摂 取 量 の多 い欧 米 人 に は 激 し い下 痢 が多 いと いわ れ て

あ り ま す 。 ひ ど い下 痢 は 油 物 の消 化 が 悪 いこ と が 主 な 原 因 で、 日本

気 、 嘔 吐 、 食 欲 不 振 、 や せ な ど で 、 これ ら が初 発 症 状 と な る こ と が

  そ の他 の症 状 と し て お 腹 の辺 り が気 持 ち悪 い、 お腹 が は る、 吐 き

大 食 、 脂 肪 過 食 、 ア ル コー ル過 飲 の後 に しば し ば み ら れ ま す 。

背 中 を 丸 く し た体 位 を と り ま す 。 膵 炎 の痛 み は突 然 起 こり ま す が 、

膵 臓 姿勢 と い ってあ お む け に寝 る こ と が で きず 、 座 位 で膝 を 抱 え て

な 痛 み は 胃 や胆 のう の病 気 で も 起 こ り ま す が、 典 型 的 な膵 臓 痛 で は

す 。 約 半 数 は腹 痛 と 同 時 に背 中 の ほ う ま で痛 み が 放 散 し、 こ の よ う

︵ 季肋部 ︶が痛 みま

は 鈍 痛 か ら シ ョ ック 状 態 に な る ほ ど の激 痛 ま で さ ま ざ ま で、 約 三 割 の症 例 は上 腹 部 全 体 の痛 みを 訴

急性膵炎 は 日本膵臓病研 究会の集計、慢性膵 炎 は厚生省特定疾 患調査研究班の集計

え 、 限 局 性 のも の は みぞ お ち ︵ 心 窩 部 ︶ が 多 く 、 つ いで左 右 のあ ば ら 骨 の直 下

表18 膵炎の成因別頻度

の症 状 が で て き ま す 。

  膵 炎 に は 急 性 膵 炎 と 慢 性 膵 炎 が あ り ま す が、 ア ル コー ル消 費 量 の増 加 と と も に 肝 臓 障 害 と 同 様 、

ア ル コー ルが 原 因 の膵 炎 が増 え 、 ア ル コー ル ︵ 性 ︶ 膵 炎 と呼 ば れ て いま す 。 急 性 膵 炎 の成 因 は 原 因

不明 ︵ 特 発 性 ︶、 胆 石 によ る も のが ア ル コー ル過 飲 よ り多 い で す が、 慢 性 膵 炎 で は ア ル コ ー ル性 の も の が 圧 倒 的 に多 く 過 半 数 を占 め て いま す ︵ 表 18 ︶。

ア ル コー ル膵炎   急 性膵 炎

  急 性 膵 炎 は 、 本 来 は 膵 管 を 通 って十 二 指 腸 に排 泄 さ れ、 そ こ で食 物 を 消 化 す る はず の消 化 酵 素 が

膵 臓 組 織 内 で 働 いて し ま い自 分 の膵 臓 組 織 を 溶 か し てし ま う ︵ 自 己 消 化 ︶ 病 気 で す 。 こ のよ う に膵

炎 は、 炎 症 と い っても 特 定 の病 原 菌 や ウ イ ル ス によ って起 こ る他 臓 器 の炎 症 と趣 が 異 な る特 徴 があ

り ま す 。膵 臓 障 害 の程 度 は病 理 組 織 学 的 に み る と む く み ︵ 浮 腫 ︶ 程 度 の軽 症 か ら 出 血 、 壊 死 を 起 こ

す 重 症 な も のま で いろ いろ な段 階 が あ り ま す 。 症 状 は 上 腹 部 の激 痛 が 主 で、 血 液 検 査 で は白 血 球 が

増 加 し 、 膵 臓 由 来 の酵 素 であ る 膵 型 ア ミ ラ ー ゼ 、 ト リプ シ ン、 リ パ ーゼ な ど が上 昇 し ま す 。急 性 膵

炎 で は成 因 が 除 か れ る と ︵ 胆 石 手 術 、 禁 酒 な ど ) ほ と ん ど の例 が 治 癒 し 、 慢 性 膵 炎 に移 行 す る こ と

はまれ です。

  と こ ろ で ア ル コー ルを 飲 む と ど う し て急 性 膵 炎 に な る の で し

ょう か。 十 二 指 腸 に は 乳 頭 ︵フ ァ ー タ ー乳 頭 ︶ 部 と いう と ころ

が あ り、 こ の部 分 は 消 化 酵 素 を 含 ん だ 膵 液 を 十 二指 腸 へ排 泄 す

る膵 管 の出 口 に な って いま す 。 大 量 飲 酒 を 繰 り返 す と ア ル コー

ル が常 に十 二指 腸 へ流 れ乳 頭 を 刺 激 し 炎 症 を 起 こし 、 乳 頭 が 腫

れ て 膵管 の出 口 を ふ さ いで し ま いま す 。

  一方 、 ア ル コー ル は膵 臓 を 刺 激 し て膵 液 の分 泌 を 高 め る 作 用

が あ り 、 膵 管 の出 口 が ふ さ が れ る と 膵 管 内 に膵 液 が う っ滞 し膵

管 内 圧 が上 が って、 つ い に は細 い膵 管 が破 れ 、 消 化 酵 素 が 膵 組

織内 に漏 れ 膵 臓 を 消 化 し て し ま い急 性 膵 炎 が 発 症 す る と説 明 さ

れ て いま す 。 し か し 膵 炎 は 一〇 年 以 上 の飲 酒 歴 の あ る 人 に多 く 、

 慢性膵 炎は、肝臓 で の肝硬変 のよう に"膵硬変" と い ってよ い状態 で膵臓 が硬 くな り萎縮 します。

 慢性 膵 炎

の大 部 分 は慢 性 膵 炎 で あ る と考 え ら れ て いま す 。

急 性 膵 炎 の よ う に み え て も よく 調 べる と慢 性 膵 炎 で あ る こ と が し ば し ば で 、 現 在 は ア ル コー ル膵 炎

図12  典 型 的 な ア ル コ ー ル性 膵 炎 の 経 過

膵 臓 に線 維 が 増 え て ︵ 膵 線 維 症 ︶、 膵 実 質 が 減 少 し 外 分 泌 機 能 も 、 内 分 泌 機 能 も 低 下 し ま す。 さ ら に、 後 に述 べ る よ う に膵 管 系 の変 化 が著 し い こ と も 特 徴 で す 。

  典 型 的 な慢 性 膵 炎 は 図 12 の よ う に、 急 性 膵 炎 の よ う な 腹 痛 発作 を 繰 り返 し な が ら徐 々 に進 行 し て

ゆ き ま す が、 中 に は自 覚 症 状 が あ ま り な く知 ら な い間 に深 く 潜 行 し 進 行 す る 例 も あ り ま す ︵ 無痛 性

膵 炎 ︶。 多 く の場 合 、 大 量 飲 酒 ︵一日 平 均 ア ル コー ル 一三 〇 グ ラ ム、 日本 酒 換 算 六合 ) を 一五 年 以

上 続 け る と腹 痛 発 作 が起 こり 、 年 齢 は 四 〇 歳 前 後 で、 肝 障 害 よ り や や 短 期 間 で 膵 障 害 を き たす と考

え ら れ ま す 。 腹 痛 発 作 が頻 発 す る時 期 は 慢 性 膵 炎 と し て は お お む ね初 期 の段 階 で 、 膵 外 分 泌 、 膵 内

分 泌 機 能 は ま だ比 較 的 よ く保 た れ て いま す 。 腹 痛 発 作 を 何 回 も 繰 り返 す 病 型 を慢 性 再 発 性 膵 炎 と呼 ん で いま す 。

  次 第 に病 気 が進 行 す る と 、膵 組 織 が荒 廃 す る た め か腹 痛 は かえ って 軽 減 し 、 痛 みが 全 く 消 失 す る

例 も み ら れ ま す が、 こ の時 期 にな る と、 消 化 酵 素 の分 泌 が悪 く な り、 消 化 ・吸 収 障 害 の た め や せ や

下 痢 が 起 こ り ま す 。 慢 性 膵 炎 の下 痢 は、 いわ ゆ る水 様 性 下 痢 で は な く 脂 肪 性 下 痢 と い わ れ 、 消 化 さ

れ な い脂 肪 分 や 不 消 化 物 が 混 じ り 、 ギ ラ ギ ラ と 水 に 浮 く 軽 い便 が 特 徴 的 で す 。 同 時 にイ ン ス リ ン の

分 泌 も 低 下 し 、 糖 尿 病 も は っき り し て き ま す 。 膵 管 系 は 蛇 行 し 、 細 く な った り 太 く な った り で ︵ 数

珠 玉 様 拡 張 ︶、 膵 管 内 に は し ば し ば 石 が た ま って き ま す ︵ 膵 石 症 、 石 灰 化 膵 炎 ︶。 こ れ ら の様 子 は

腹 部 超 音 波 検 査 、 C T検 査 、 膵 管 造 影 検 査 ︵E R C P ︶ な ど で描 出 す る こ と が で き ま す 。

  図 13 は 慢 性 膵 炎 の膵 管 像 の変 化 を 示 し ま す 。 膵 臓 で は組 織 学 的 検 査 が ル ー チ ン に で き な いの で 、

ル コー ル 性 膵 炎の 膵管 造影像

慢 性 膵 炎 の診 断 は 画 像 診 断 に よ る形 態 学 的 所 見 と 膵 外 分 泌 、 内 分 泌 の

具 合 を み る機 能 検 査 を 組 み合 わ せ て 行 って いま す が 、 か な り 専 門 的 に なります。

  ア ル コー ルが 慢 性 膵 炎 を 起 こ す機 序 は ま だ 十 分 解 明 さ れ て いま せ ん

が、 腹 痛 発 作 が起 こ る前 か ら す で に慢 性 膵 炎 の変 化 が 深 く 、 静 か に進

行 し て いる と 考 え ら れ る 証 拠 が いく つか の 研究 で明 ら か にな って いま

す。 慢 性 的 に大 量 飲 酒 を 続 け る と 、 胃 腸 か ら 吸 収 さ れ た ア ル コー ル は

血 液 に入 って 常 に膵 臓 に到 達 し膵 組 織 を いた め 、 ま た 膵 液 中 に は 血 液

いで す が 、 い った ん慢 性 膵 炎 が成 立 す る と 禁 酒 し て も 進 行 す る 例 が あ り 、 初 期 のう ち に治 療 す る こ

 大 酒 家 のう ち 膵 炎 を 発 症 す る 頻 度 は 一〇 〇 人 に 一∼ 二人 程 度 で、 肝 臓 障 害 の頻 度 よ り は る か に低

 ア ル コ ー ル 膵 炎 の治 療 、 合 併 症 、 予 後

なり ます。

で述 べ た よ う な 膵 管 の破 綻 が生 ず る と 一気 に膵 障 害 が 進 行 し、 慢 性 膵 炎 の病 像 が で き あ が る こと に

よ う に長 い間 に わ た って ア ル コー ル に傷 害 さ れ た 膵臓 に、 大 量 飲 酒 を契 機 にし て急 性 膵 炎 のと こ ろ

影響 を 与 え、 膵 管 内 にタ ン パ ク 栓 が 形 成 さ れ る こ と な ど が膵 障 害 の原 因 と 推 定 さ れ て い ま す 。 こ の

と 同 じ 濃 度 のア ル コー ル が排 泄 さ れ て いま す の で、 膵 管 内 面 の細 胞 を傷 害 し 膵 液 の性 状 や流 れ にも

図13ア

と が大 切 で す。 酒 飲 み で 、 一度 で も腹 痛 発 作 が あ った り、 ま た膵 炎 と 診 断 さ れ た 場 合 は絶 対 に禁 酒

を す る 必 要 が あ り ま す 。 幸 い な こ と に膵 外 分 泌機 能 低 下 によ る消 化 ・吸 収 障 害 に は消 化 酵 素 剤 を 内

︵コー ヒー 、 香 辛 料 な ど ︶ を 控 え る こ と な ど に 心 が け 、 大 食 を 避 け、 栄 養 配 分 の バ

服 し 、 糖 尿 病 に対 し て は イ ン ス リ ン注 射 で コ ント ロー ルで き ま す 。 日 常 生 活 で は禁 酒 に加 え 、 脂 肪 食制 限、刺激物 ラ ン ス の よ い食 事 が重 要 です 。

出 て いま す の で、 慢 性 膵 炎 によ って硬 く な

胆 管 下 部 の 一部 は 膵内 を 通 って十 二指 腸 に

たり︵ 膵 膿 瘍 ︶、 出 血 す る こ と が あ り ま す 。

漏 れ て 腹 水 を 生 じ た り 、 膵 臓 に膿 が 溜 ま っ

と き に こ の嚢 胞 が破 裂 し て膵 液 が腹 腔 内 に

胞 と い って膵 液 、 そ の他 が詰 ま って いま す 。

が 極 端 に ふく ら ん で ふ く ろ状 にな り 、膵 嚢

で は膵 管 の拡 張 が著 し く 、 こ の膵 管 の 一部

症 が多 く 、 死 亡 例 も みら れ ま す 。 慢 性 膵 炎

ま し た 。 急 性 膵 炎 の重 症 例 で は 激 し い合 併

症 が み ら れ ま す が 、 表 19 に主 な も の を あ げ

  ア ル コー ル膵 炎 の発 症 時 あ る いは 経 過 中 には 、 膵 臓 自 身 お よ び 膵 臓 以 外 の臓 器 に いろ い ろ な合 併

表19  ア ル コー ル膵 炎 の 合併 症

った膵 臓 が 胆 管 を 締 め 付 け 、 ま た 膵 嚢 胞 が 胆 管 を 圧 迫 す る と 胆 汁 が流 れ にく く な り 黄 疸 を 生 じ 肝 臓 病 と間 違 う こ と も あ り ま す 。

︵ 脂 肪 食 ︶ と喫 煙 と の因 果 関 係 が む し

  肝 臓 で は 肝 硬 変 か ら 肝 臓 が ん へ移 行 す る 発 生 頻 度 が 高 いで す が 、 慢 性 膵 炎 か ら 膵 臓 が ん へ移 行 す る こ と は ま れ で、 膵 臓 が ん の場 合 は、 ア ル コー ルよ り も 肉 食

ろ強 調 さ れ て いま す 。 慢 性 膵 炎 の死 因 は 直 接 膵 に関 係 す る も の で は栄 養 障 害 、 低 血 糖 発 作 、 膵 炎 の

合 併 症 な ど で す が 、 多 く は 膵 以 外 の病 気 で死 亡 し ま す 。 膵 が ん は ま れ で す が 、 膵 以 外 の臓 器 の悪 性

腫 瘍 の 頻 度 が 高 いと し て注 目 さ れ て いま す 。 な お ア ル コー ル 膵 炎 で は 肝 硬 変 の合 併 は意 外 に少 な く 、

ま た ア ル コー ル性 肝 硬 変 で は 膵 炎 の合 併 は少 な く 、 ア ル コー ル に よ る 臓 器 相 関 の面 か ら不 思 議 な現 象 と考 え ら れ て いま す 。

ア ル コー ルと糖 尿 病

  慢 性 膵 炎 が進 行 す る と、 イ ン ス リ ン分 泌 が減 少 し 、 必 ず と い って い い ほ ど糖 尿 病 に な り ま す が、

こ の慢 性 膵 炎 のな れ の果 て の糖 尿 病 は 日 常 多 く みら れ る糖 尿 病 全 体 の中 で は ご く わ ず か で す 。 し か

し 酒 飲 み に は糖 尿 病 が多 い こ と も事 実 で、 こ の辺 の事 情 を 説 明 し て みま し ょう 。

  糖 尿 病 に は そ の成 因 に よ って表 20 のよ う に いろ い ろ な種 類 があ り ま す 。 まず 大 部 分 の糖 尿 病 は 一

次性糖 尿病 ︵ 真 性 糖 尿 病 ︶ と い って 、遺 伝 的 に 膵臓 か ら のイ ン ス リ ン分 泌 能 力 が 弱 い人 が 、 過 食 、

運 動 不 足 、 肥 満 、 スト レス な ど が誘 因 と な り成 人 にな ってか ら 発 症 す る も の で す 。 初 期 のう ち は食

事 ・運 動 療 法 で コ ント ロー ルが 可 能 で 、 イ ンス リ ン注 射 の補 充 は必 ず し も 必 要 な く 、 イ ン スリ ン非

依 存 性 糖 尿 病 と命 名 さ れ、 真 性 糖 尿 病 の大 多 数 を 占 め ま す 。 も う 一つの タイ プ は ウ イ ルス感 染 な ど

が原 因 で ラ ンゲ ル ハン ス島 が 破 壊 さ れ 、 イ ンス リ ン分 泌 が枯 渇 し 、 イ ン ス リ ン注 射 を 一生 続 け る必

す 。 血 糖 値 が高 く な って尿 に糖 が た く さ ん出

の で健 診 で偶 然 発 見 さ れ、 驚 く こ と にな り ま

糖 尿 病 の始 ま り の時 期 に は 、 全 く 症 状 が な い

社 会 を 反 映 し た ス ト レ ス が 関 係 し て いま す 。

り すぎ と 運 動 不 足 が 主 で、 そ れ に複 雑 化 し た

さ れ 、 年 々増 加 し て いま す 。 原 因 は 栄養 の と

尿 病 と 、 そ の 二 倍 以 上 の予 備 軍 が い ると 推 定

  近 年 の調 査 で は わ が国 で は六 〇 〇 万 人 の糖

ら れ る 糖 尿 病 が 含 ま れ る わ け で す。

を い い、 そ の中 に慢 性 膵 炎 や 肝 硬 変 な ど に み

  二 次 性 糖 尿 病 は そ れ 以外 の原 因 に よ る も の

要 の あ る 小 児 期 に 発 症 す る こと が多 いイ ン ス リ ン依 存 性 糖 尿 病 で す 。

表20  糖尿病 の分類

る よ う に な る と、 尿 量 や 尿 の回 数 が 多 く な り 、 のど が 渇 き、 体 が だ る く 、 疲 れ や す く 根 気 も な く な

って き ま す 。 食 べ て も す ぐ お腹 が 空 いて 、 多 く食 べ る ほ ど血 糖 が 高 く な り 栄 養 源 と し て利 用 さ れな い で尿 に出 ま す の で 、 た く さ ん 食 べ て も や せ て く る の で す 。

  高 血 糖 が 長 く 続 く と 全 身 の い た る と こ ろ に血 管 合 併 症 が起 こ り、 と く に眼 底 出 血 、 腎 不 全 ︵ 尿毒

症 ︶、 心 筋 梗 塞 、 脳 梗 塞 な ど が よ く 知 ら れ て いま す 。 こ の ほ か 、 末 梢 神 経 障 害 のた め に神 経 痛 や 異

常 知 覚 、 排 尿 障 害 、 便 秘 ま た は 下 痢 、 イ ンポ テ ン ツ な ど に悩 み、 全 身 の免 疫 機 能 も 低 下 し いろ いろ な 感 染 症 が 起 こ り や す く な り ま す。

  糖 尿 病 は ア ル コ ー ル と も 深 く か か わ り、 そ の関 係 には お お よ そ 次 の 二 つ のタ イ プ が あ り ま す 。

  第 一は大 量 飲 酒 を 続 け る とイ ン スリ ン非 依 存 性 糖 尿病 が 発 症 す るも の で 、 も と も と 糖 尿 病 の素 因

の あ る 人 が ア ル コー ルか ら の エネ ルギ ー を と り 過 ぎ た た め で 、 こう い った ケ ー ス は意 外 に多 いと い

え ま す 。 ア ル コー ルは 一グ ラ ム当 た り七 キ ロカ ロリ ー の熱 量 が あ り、 た と え ば ビ ー ル大 び ん 一本 は

約 二 五 〇 キ ロカ ロリ ー 、 日 本 酒 一合 は約 二 〇 〇 キ ロカ ロリ ー も あ る こ と は 20 頁 で述 べ た通 り で す 。

こ のよ う に ア ル コー ル によ る カ ロリ ー のと り 過 ぎ に加 え 、 ア ル コー ル には 副 腎 か ら カ テ コー ル ア ミ

ンな ど 血 糖 を 上 昇 さ せ る ホ ル モ ンを 分 泌 す る作 用 が あ る か ら で す 。 酒 好 き の人 が糖 尿 病 に な る と、

水 分 の多 いビ ー ル を好 む よ う にな る の で 、 酒 に対 す る嗜 好 の変 化 に も 注 意 が 必 要 で す 。

  第 二 は ア ル コー ル によ って す で に慢 性 膵 炎 や肝 硬 変 に な って いて潜 在 性 の糖 尿 病 状 態 が あ り 、 飲 酒 を 続 け る と こ れ が さ ら に悪 化 し て糖 尿 病 が表 面 化 す る場 合 です 。

徴 があ って治 療 に難 渋 し ま す 。 低 血 糖 発 作 で急 死 す る例 さ え あ り ま す が 、 慢 性 膵 炎 で は イ ン ス リ ン

  ア ル コー ル膵 炎 に合 併 す る糖 尿 病 は 血 糖 の調 節 が むず か し く 、 ま た 低 血 糖 発 作 を 起 こ し や す い特

分 泌 細 胞 と 同 時 に血 糖 上 昇 に働 く グ ルカ ゴ ン分 泌細 胞 も 障 害 さ れ て いる の で、 食 事 を 十 分 と ら ず に

飲 酒 し た り 、 不 適 切 な イ ン スリ ン注 射 で 低 血 糖 が生 じ や す い から で す 。 糖 尿 病 の治療 中 で な く ても

長 年 の大 酒 家 が つま みを と ら ず 大 量 飲 酒 を し た後 、 低 血 糖 にな り 意 識 障 害 を 起 こ す こ と が あ り ま す ︵ア ル コー ル性 低 血 糖 ︶。

  肝 臓 に は ブ ド ウ糖 が 不 足 し た と き 、 糖 新 生 作 用 と い って ア ミ ノ酸 や脂 肪 か らブ ド ウ 糖 を 作 る 働 き

が あ り ま す が 、 ア ル コ ー ル は これ を 抑 制 し ま す 。 栄 養 障 害 の あ る大 酒 家 の肝 臓 で は ブ ド ウ糖 の元 に

な るグ リ コー ゲ ン が す で に使 わ れ て し ま って い る ので 、 低 血 糖 を 起 こ す ので す 。 通 常 低 血 糖 発 作 は、

血 中 ブ ド ウ糖 濃 度 ︵ 正 常 は空 腹 時 で七 〇 ∼ 一 一〇mg /dl︶ が 五 〇 ミ リ グ ラ ム以 下 に な る と 必 ず 起 こ

り 、 冷 や汗 、 冷 感 、 ふ るえ に は じ ま り、 意 識 が も う ろ う とし て 、 つ いに は 昏 睡 に お ち いり ま す 。

4 

アル コー ルと消 化 管障害

酒とタバ コをいっしょにやると□腔が ん、食道が んへの近道と

ストレスとやけ酒は胃潰瘍の原因となる。 飲みすぎると起こる下痢の原因は？

なる。

1 

2  3 

飲 酒 に よ って生 じ た肝 臓 、 膵 臓 障 害 が 二 次 的 に消 化 管 へも影 響 す る こ と な ど が考 え ら れ ま す 。

か ら の ア ル コー ルが 消 化 管 粘 膜 へ作 用 す る こ と、 飲 み過 ぎ た た め の嘔 吐 や 胃 腸 管 運 動 の異 常 、 慢 性

が 直 接 こ の粘 膜 防 御 機 構 を 破 綻 さ せ、 ま た 粘 膜 の微 小 循 環 を 障 害 す る こ と が 主 因 で す 。 さ ら に血 中

か ら 粘 膜 を防 御 し て いま す 。 ア ル コー ル によ る消 化 管 障 害 の成 り 立 ち は 、 口 か ら 入 った ア ル コー ル

う に多 彩 な病 気 が あ り ま す 。 も と も と消 化 管 粘 膜 に は 粘 液 ・粘 膜 関 門 が存 在 し て外 か ら の傷 害 物 質

受 け ま せ ん 。 し た が って ア ル コー ル に よ る 消 化 管 障 害 は 主 に そ れ 以 前 の消 化 管 に み ら れ 、 表 21 のよ

ル コー ル は す べ て小 腸 ま で で吸 収 さ れ て し ま いま す ので 、 大 腸 以 下 は ア ル コ ー ル の直 接 的 な影 響 は

  消 化 管 は 口 腔 か ら食 道 、 胃 、 十 二 指 腸 、 小 腸 ︵ 空 腸 、 回 腸 ︶、 大 腸 、 肛 門 ま で を い いま す が 、 ア

〈ポイ ン ト〉

  ロ腔 ・食 道 病 変

  強 い酒 ︵ウイ ス キ ー、 ブ ラ ンデ

ー 、 ウ ォ ッ カ類 ) を スト レー ト で

飲 めば 、高 濃 度 のア ル コー ルが そ

のま ま粘 膜 に接 触 し 、 ア ル コー ル

の刺 激 作 用 や 脱 水 作 用 で粘 膜 に傷

が つく こと にな り、 口腔 、 咽 頭 ・

喉 頭 そ し て 食 道 にも 病 変 が み ら れ

て いま す が 、 ア ル コー ルそ のも の と が ん 発 生 と の直 接 の 因 果 関 係 は 明 ら か で は あ り ま せ ん 。 む し ろ

  慢 性 的 な 刺 激 や 傷 害 、 そ の治 癒 過 程 が 繰 り返 さ れ る こ と が 発 が ん の危 険 因 子 で あ る こと が知 ら れ

ル依 存 者 であ る と の報 告 も あ り ま す 。

に よ る 死 亡 者 は 、 飲 酒 者 が 非 飲 酒 者 の 二倍 以 上 、 ア メ リ カ で は食 道 が ん の 七 〇 ∼ 八○ ％ が ア ル コー

人 に食 道 が ん が有 意 に高 率 であ る と の研 究 結 果 も み ら れ て いま す 。 臨 床 統 計 でも わ が 国 の食 道 が ん

変 色 す る の で食 道 の早 期 が ん の発 見 率 が高 ま り ま し た 。 大 酒 家 、 と く に不 活 性 型 A L D H ２ を持 つ

摘 さ れ て いま し た 。 最 近 で は食 道 ヨー ド染 色 法 と い って 、 粘 膜 に ヨー ド を散 布 す る と が ん の部 分 が

ま す 。 昔 か ら高 濃 度 の 酒 を 慢 性 的 に飲 む人 に 口腔 が ん 、 咽 頭 ・喉 頭 が ん、 食 道 が ん が 多 い こ と が 指

表21  ア ル コー ル に よ る消 化 管 障 害

ア ル コー ル と同 時 に吸 う タ バ コの方 に危 険 性 が あ る と の説 が 有 力 で す 。 タ バ コ に含 ま れ る 発 が ん物

質 を ア ル コー ルが 溶 か し 、 粘 膜 に 吸 収 、 浸 潤 し や す く す るた め と 考 え ら れ て いま す 。 酒を 飲 む と ど

う し ても タ バ コを 吸 いた く な る と いう 人 が多 く 、 一般 に大 酒 家 は ヘビ ー ス モー カ ー で す 。 いず れ に

し て も 、 濃 い酒 と 喫 煙 は 口腔 が ん 、 食 道 が ん の危 険 因 子 と いえ ま し ょう 。

  大 酒 家 で は 口内 炎 や歯 槽 膿 漏 が多 い で す が 、 食 道 病 変 と し て は 食 道 炎 、食 道 び ら ん 、 食 道 潰 瘍 が

あ り 、 や は り高 濃 度 の酒 の粘 膜 傷 害 と 考 え ら れ ま す 。 大 量 の吐 血 や 下 血 を き たす 疾 患 に ア ル コー ル

性 肝 硬 変 、 慢 性 膵 炎 によ って で き た 食 道 ・胃 静 脈 瘤 の破 裂 が あ り ま す が 、 こ れ は肝 障 害 の と ころ で 述 べま し た 。

  静 脈 瘤 以外 に激 し い吐 き気 や 嘔 吐 を 伴 って真 っ赤 な 血 液 を 吐 血 す る、 マ ロリ ー ワイ ス症 候 群 と い

う 病 気 が あ り ま す 。 ア メ リ カ の医 学 者 で あ る マ ロリ ー と ワ イ ス の 二人 が 最 初 に報 告 し た も ので 、 食

道 下 部 か ら 胃 の入 り 口 ︵ 噴 門 ︶ に か け て粘 膜 が裂 け 、 裂 け傷 が 粘 膜 下 の動 脈 に及 ぶと 大 出 血 と な り

ま す 。 ア ル コー ルが 同 部 の粘 膜 の抵 抗 力 を 弱 め て い る こ と が 関 係 し ま す が 、 直 接 の原 因 は 大 量 飲 酒

に伴 う た び 重 な る 嘔 吐 の た め 胃 内 圧 が高 ま って 、 胃 と食 道 の境 界 部 に裂 け 目 が で き た と考 え ら れ て

いま す 。 ア ル コー ルを 飲 ま な い人 で も 、 激 し い咳 、 排 便 時 の い き み 、重 いも のを 持 ち上 げ た と き な ど に、 マ ロリ ー ワ イ ス症 候 群 が 起 こ る こと が あ り ま す。

  ま れ に は、 器 質 的 異 常 が な く て も食 道 破 裂 ︵ブ ー ル ハー フ ェ症 候 群 ︶ や胃 破 裂 が起 こ る こ と が あ ります。

  胃 ・十 二指 腸 病 変

  ア ル コー ル の胃 に対 す る作 用 も食 道 と同 じ で、 胃 粘 膜 を 傷 め ま す 。 た だ食 道 と違 って ア ル コー ル

は 胃 液 で う す め ら れ、 ま た 胃 に食 べ物 が 入 って いる 場 合 に は 胃 粘 膜 への 影 響 は さ ら に軽 減 さ れ ま す 。

し た が って胃 の変 化 も ア ル コー ル濃 度 が高 いほ ど、 量 が 多 いほ ど 、 ま た空 腹 で飲 ん だ 時 ほ ど、 強 く

現 れ て き ま す 。 ア ル コー ル濃 度 が 二 〇 ％ 以 下 で は胃 粘 膜 の変 化 は 軽 い充 血 程 度 で す が 、 三 〇 ％ を 越

え る と び ら ん や 潰 瘍 な ど が 生 じ や す く な り ま す 。 胃 粘 膜 表 面 の た だ れを び ら ん 、 粘 膜 に と ど ま ら ず そ の下 の筋 肉 層 ま で胃 壁 が えぐ ら れ た も の を 潰 瘍 と い って いま す 。

  急 性 胃 炎 は 日 常 最 も多 く み ら れ る 病 気 で 、 と く に濃 度 の高 い酒 を 大 量 に飲 ん だ 後 、 数 時 間 後 に上

腹 部 痛 、 吐 き気 、 嘔 吐 な ど の症 状 が で ま す 。 と き に血 液 を 吐 き ま す が、 吐 物 の色 は 、 胃 の中 に停 滞

︵ 便 の方 へ血 が 下 る ︶ も 起 こ り ま す が 、 胃 や 十 二指 腸 か ら の出 血 は

し て い る時 間 が 長 いと コー ヒ ー の か す の よ う な 色 ︵コー ヒ ー残 渣 様 ︶ に な り 、 出 血 し て間 も な い時 は鮮 紅 色 を 示 し ま す 。 ま た 下 血

胃 液 にさ ら さ れ ま す の で 黒 色 便 ︵タ ー ル便 ) と な り ま す 。 こ の吐 血 、 下 血 は 表 22 の よ う に潰 瘍 が な

く て も 胃 炎 や び ら ん で も起 こり 、 胃 ・十 二指 腸 潰 瘍 よ り 頻 度 が高 いく ら いで す 。

  ア ル コ ー ル過 飲 後 に吐 ・下 血 を き た し た 症 例 の胃 の中 を 内 視 鏡 で 観 察 す る と 、 胃 粘 膜 は 真 っ赤 に

充 血 し 、 多 数 の出 血 斑 、 び ら ん 、 潰 瘍 な ど が あ り 、 最 近 は こう い った 病 変 を急 性 胃 粘 膜 病 変 ︵A G

M L ︶ と 一括 し て呼 ん で いま す 。 こ の急 性 病 変 は 急 性 胃 炎 の激 し いも の と理 解 さ れ、 酒 を 止 め て、

ル コール 過 飲後の吐 血 また は下血 患者 の上部 消化 管病変

の飲 酒 は 厳 禁 で す 。

絶 食 に し て 、 し ば ら く 安 静 にし て いる と急 速 に治 癒 し ま す。

十 二指 腸 にも 同 様 な 変 化 が み ら れ る ので 、 急 性 胃 ・十 二指

腸 症 候 群 と も いわ れ て いま す 。

  大 量 飲 酒 後 に で き る胃 ・十 二 指 腸 潰 瘍 は急 性 潰 瘍 で す が 、

一般 の潰 瘍 の最 大 原 因 は ス ト レ ス で す 。 スト レ スを まぎ ら

わ す た め に飲 む 酒 はや け 酒 にな り、 飲 ん で も飲 ん で も酔 わ

ず 、 つい飲 み過 ぎ てし ま いま す 。 こ のよ う な 人 は ス ト レ ス

で潰 瘍 に な る 一歩 手 前 の状 態 で、 そ こ へ酒 が 入 って い っそ

分 を リ ラ ッ ク ス さ せ る適 量 飲 酒 以 外 の飲 み方 、 た と え ば や け 酒 や 大 量飲 酒 、 ア ル コ ー ル依 存 症 の人

に入 れ ば 、 低 濃 度 のア ル コー ル は適 量 な ら 禁 酒 す る 必 要 は あ り ま せ ん 。 し か し ス ト レ ス を解 消 し 気

って いな い活 動 期 の潰 瘍 は、 飲 酒 が病 変 の治 癒 を遅 ら せ る ので 禁 酒 が必 要 で す が 、 潰 瘍 が治 癒 過 程

  で は、 いま 現 に 胃 ・十 二指 腸 潰 瘍 の あ る 人 は酒 を 飲 ん で も よ い の で し ょう か。 傷 口が ま だ ふさ が

いう 結 果 で す 。

因 子 に つ い て検 討 し た 成 績 を 示 し ま す が、 日 常 生 活 上 の ス ト レ スや 喫 煙 が 主 で、 飲 酒 は 関 係 な い と

ん ど は ス ト レ ス が原 因 で 、 ア ル コー ル の直 接 関 与 は少 な いと いわ れ て いま す 。 表 23 に胃 潰 瘍 の再 発

う胃 粘 膜 を 傷 害 し 急 性 潰 瘍 に な る と 考 え ら れ ま す 。 再 発 を 繰 り返 す 慢 性 の胃 ・十 二指 腸 潰 瘍 のほ と

表22ア

  胃 の分 泌 腺 が次 第 に萎 縮 し 機 能 が低 下 す る慢 性

萎 縮 性 胃 炎 が大 酒 家 に多 いで す が 、 こ れ は 一種 の

老 化 現象 で、 ア ル コー ルが こ のプ ロセ スを 促 進 す

る と いわ れ て いま す 。 最 近 ヘリ コバ ク ター ・ピ ロ

リ と いう 菌 が胃 ・十 二指 腸 潰 瘍 、 慢 性 胃 炎 、 胃 が

ん の病 因 と し て注 目 さ れ て いま す が、 ア ル コー ル

と の関 連 に関 す る 研 究 は ま だ 不 十 分 で す 。 多 く の

疫 学 研 究 で は、 飲 酒 と胃 が ん の関 連 性 を 否 定 し て

いま す が 、 ア ル コー ル依 存 者 で 有 意 に多 い と の報

腸 へ達 し て 腸 管 の運 動 を 高 め 、 し かも 水 分 の吸 収 を 遅 ら せ る こと が 、 ま た 慢 性 下 痢 は ア ル コー ル が

ル膵 炎 が な く て も慢 性 下 痢 に悩 む こ と が あ り ま す 。 最 近 の研 究 によ れ ば 急 性 下 痢 は ア ル コー ルが 小

  ア ル コー ルを 飲 み 過 ぎ た後 激 し い急 性 下 痢 を 起 こし た り、 ま た 長 期 間 にわ た る 多 飲 者 が ア ル コー

ア ル コー ル の小 腸 への影 響 は あ ま り よ く 知 ら れ て いま せ ん で し た 。

  小 腸 の病 気 は も と も と少 な く 、 ま た 小 腸 を 内 視 鏡 な ど で直 接 調 べる こ と が難 し い こ と も あ って、

 小 腸病 変

告 も あ り 、 今 後 さ ら に検 討 す べ き で し ょう 。

表23  胃潰瘍 の再 発にか かわ る因子

小 腸 粘 膜 細 胞 に存 在 す る ラ ク タ ー ゼ 、 ス ク ラ ー ゼ な ど の消 化 酵 素 の活 性 を 低 下 さ せ る こ と が原 因 と 考 え ら れ て いま す 。

  食 物 は、 ま ず 十 二指 腸 に お い て膵 酵 素 や 胆 汁 の作 用 に よ って消 化 ︵ 管 腔 内 消 化 ︶ を 受 け 、 つい で

小 腸 に達 し ま す 。 小 腸 で は、 そ の粘 膜 細 胞 膜 に存 在 す る消 化 酵 素 に よ る 消 化 ︵ 膜消 化︶を受 け、 は

じ め て栄 養 素 と し て 吸 収 可 能 な 状 態 と な り ま す 。 消 化 ・吸 収 に お け る 小 腸 の役 割 は 極 め て大 き い も

の があ り ま す 。 慢 性 飲 酒 者 で は ア ル コー ル に よ る小 腸 の障 害 のた め、 あ る種 の ア ミ ノ酸 、 キ シ ロー

ス、 ビ タ ミ ン B1、 ビ タ ミ ンB1 、2 葉 酸 な ど の吸 収 低 下 が 起 こ り ま す 。 種 々 の栄 養 素 の吸 収 障 害 は 当 然

栄 養 障 害 と な り、 後 述 す る よ う に ビ タ ミ ン B1 の 吸収 障 害 は 一部 の脳 ・神 経 系 病 変 の原 因 と も な り、

造 血 因 子 で あ る ビ タ ミ ンB1 、2 葉 酸 の 吸収 障 害 は大 酒 家 に し ば し ば み ら れ る貧 血 の一 部 を説 明 す る こ と ができます。

  以 上 、 ア ル コー ル に よ る 消 化 管 障 害 に つ いて み て き ま し た が 、 ア ル コ ー ル か ら 消 化 管 粘 膜 を 守 る

た め には 、 濃 い酒 を 飲 ま な い こ と、 空 腹 で飲 ま な い こ と 、 胃 腸 を 保 護 す る た め ま た 栄 養 障 害 を 起 こ

さ な いた め に、 タ ン パ ク質 や 脂 肪 の つま みを バ ラ ン ス よ く と りな が ら 飲 むな ど の注 意 が 必 要 で し ょ う。

飲 みすぎるといろいろな種類の貧血が起こる。

2  大酒家は免疫 機能の低下が起こり感染症 にかかりやすくなる。

アル コー ルと 造血 器障害

〈 ポ イ ン ト〉1 

血 球 に は好 中 球 ︵顆粒 球 ︶、 単 球 、 リ ン パ球 な ど の種 類 が あ り ま す が 、 好 中 球 、 単 球 は細 菌 な ど 異

を 全 身 に運 ぶ役 割 を し 、 赤 血 球 が 含 む ヘモグ ロビ ンと いう 色 素 タ ン パ ク が こ の機 能 を 担 いま す 。 白

血 小 板 に そ れ ぞ れ分 か れ て ( 分 化 ) 血 液 の中 へ供 給 さ れ て いま す 。 赤 血 球 は 肺 か ら 取 り入 れ た 酸 素

部 にあ る 骨 髄 と いう と こ ろ で造 ら れ て いま す 。 骨 髄 の造 血 幹 細 胞 と いう 細 胞 か ら赤 血 球 、 白 血 球 、

  私 た ち の血 液 に は赤 血 球 、白 血 球 、 血 小 板 の 三種 類 の血 球 が 含 ま れ て いま す が 、 こ れ ら は 骨 の内

す。

を しば し ば み か け ま す が、 これ は肝 障 害 や 心 臓 病 が 原 因 で は な く 、 貧 血 に よ る症 状 の こ と が あ り ま

酒 家 の中 に は顔 色 が 悪 く 、 体 が だ る い、 息 切 れ が す る、 心臓 が ド キ ド キ す る な ど の症 状 を訴 え る人

ら を 造 る 元 の造 血 組 織 の障 害 も 例 外 で は な く 、 貧 血 を 中 心 と し た さ ま ざ ま な 病 気 が 起 こ り ま す 。 大

  慢 性 飲 酒 や 一時 的 な 大 量 飲 酒 に よ って、 血 液 に含 ま れ て い る赤 血 球 や 白 血 球 な ど の血 球 や 、 そ れ

5 

物 を 貧 食 ・処 理 し 、 リ ン パ球 は 外 敵 か ら 生 体 を 守 る 免 疫 機 能 が 中 心 で 、 血 小 板 は 止 血 に関 与 し て い

ま す 。 ア ル コー ル によ る血 液 、 造 血 組 織 の異 常 は表 24 の よ う に多 数 知 ら れ て いま す が 、 ア ル コー ル

や ア セ ト ア ルデ ヒ ド の直 接 傷 害 作 用 と と も に、 二 次 的 代 謝 異 常 や栄 養 不 足 な ど も 関 係 し て いま す 。

  ま ず ア ル コー ル の赤 血 球 への影 響 を み て み ま し ょう 。 ア ル コ ー ル を飲 み過 ぎ る と 赤 血 球 のも と と

な る赤 芽 球 を 直 接 傷 害 し空 胞 変 性 を起 こし 、 一方 、 ア セ ト ア ルデ ヒ ド は 骨 髄 中 の幹 細 胞 の活 性 を 抑

表24  ア ル コ ー ル に よ る血 液 学 的 異 常

え 赤 血 球 の造 血 能 力 を 低 下 さ せ 、 あ る いは 赤 血 球 を 壊 し て 貧 血 とな り ま す 。 血 液 中 を 流 れ て い る赤

酒 家 に み られ る種 々 の 赤 血 球 図14大

血 球 は 正 常 で は中 心 部 が や や 薄 く な った 円 板 形 を し て いま す が 、 慢 性 大 酒 家 の血 中 に は図 14 のよ う

に いろ い ろ に変 形 し た赤 血 球 、 た と え ば 全 体 が 薄 く な って大 き く な った も の ︵ 菲 薄 大 赤 血 球 ︶、 中

心 部 が厚 く な って 標 的 のよ う に み え る も の ︵ 標 的 赤 血 球 ︶、 とげ と げ のあ る も の ︵ 有 棘赤 血球︶ な

ど が で て き ま す 。 赤 血 球 膜 は 脂 肪 と タ ン パ ク質 で 構 成 さ れ て い ま す が 、 ア ル コー ル が赤 血 球 膜 の脂

質 の成 分 を 変 化 さ せ る た め と 考 え ら れ 、 赤 血 球 膜 が破 壊 さ れ る と溶 血 性 貧 血 と な り ま す 。 大 酒 家 で

は溶 血 性 貧 血 に肝 障 害 と高 脂 血 症 を伴 った も のが あ り、 ジ ー べ症 候 群 と 呼 ん で いま す 。

  慢 性 大 量 飲 酒者 の中 に は 、 骨 髄 で 巨 赤 芽 球 が 増 え 血 中 で 菲 薄 大 赤 血 球 が み ら れ る巨 赤 芽 球 性 貧 血

︵ 悪 性 貧 血 ︶ と いう 特 殊 な 貧 血 が 起 こ り ま す が 、 小 腸 の項 で述 べた ア ル コー ル障 害 によ る吸 収 障 害 、

さ ら に食 事 摂 取 不 足 、 肝 障 害 が加 わ り ビ タ ミ ンB1 、2 葉 酸 な ど の欠 乏 が 高 度 と な る た め で す 。 こ の タ

イプ の貧 血 は 一般 に は ビ タ ミ ンB1 よ2 り 葉 酸 の欠 乏 に よ る 場 合 が多 い です が、 ビ ー ル は 葉 酸 を 多 量 に

含 ん で い る こ と か ら、 ビ ー ル多 飲 者 で は少 な いと も いわ れ て いま す 。 大 酒 家 の貧 血 の多 く は 禁 酒 し 、 十 分 な食 事 を と れ ば 急 速 に改 善 し ま す 。

  か ら だ の鉄 分 は 赤 血 球 が ヘモグ ロビ ンを つく る上 で大 切 な 働 き を し て いま す が 、 ア ル コー ル多 飲

者 で は 血 液 の鉄 分 が減 った り 、 増 え た り し て そ の動 態 は 複 雑 で す 。 ア ル コー ル障 害 に よ る消 化 管 出

血 が 少 量 で も繰 り 返 さ れ ると 鉄 分 が 喪 失 し 、 ま た鉄 分 を 含 む食 事 摂 取 が少 な い こ と も あ って鉄 欠 乏

性 貧 血 が 起 こ り や す いの で す 。 一方 、 ア ル コー ル が鉄 代 謝 を 直 接 障 害 し 、 赤 血 球 内 に 鉄 分 が 貯 留 す

る鉄 芽 球 性 貧 血 と いう 貧 血 も あ り ま す。 ま た ア ル コー ルが 造 血 を抑 制 す る と 鉄 分 が体 内 で余 って き

て 、 あ ち こち の臓 器 に沈 着 し へモジ デ ロー シ ス ︵ 鉄 沈 着 症 ︶、 へモ ク ロ マトー シ ス ︵ 青 銅色糖尿 病︶

と いう 病 気 にも な り ま す 。 鉄 が と く に肝 臓 や 膵 臓 に多 量 に沈 着 す れ ば 肝 硬変 や糖 尿病 を 発 症 し ま す

が 、 と く に へモ ク ロ マトー シ スは 肝 臓 腫 大 、 皮 膚 色 素 沈 着 、 糖 尿 病 が特 徴 的 な 所 見 と し て み ら れ ま

す 。 ア ル コー ル は胃 腸 か ら鉄 吸 収 を 促 進 す る作 用 も あ り 、 さ ら に赤 ブ ド ウ 酒 は鉄 を た く さ ん含 む の

で 、 こ れ を長 期 に飲 む と体 内 の鉄 沈 着 は よ け い に増 加 し 、 と く に フ ラ ン ス で は へモク ロ マトー シ ス が 多 いと いわ れ て いま す 。

  赤 血 球 系 の方 が ア ル コー ル の影 響 を 強 く 受 け や す い で す が 、 白 血 球 や 血 小 板 にも傷 害 を 起 こし 、

好 中 球 減 少 症 、 リ ン パ球 減 少 症 、 血 小 板 減 少 症 な ど が よ く みら れ ま す 。 大 酒 家 に肺 炎 な ど の感 染 症

が 起 こ り や す い のは 、 好 中 球 の減 少 や機 能 異 常 によ る細 菌 の貪 食 能 の低 下 、 リ ン パ球 の減 少 によ る 免 疫 機 能 の低 下 が 関 与 し て いる も の と 考 え ら れ ま す 。

ア ル コー ルと 循環 器障害

〈ポ イ ン ト〉

1  大酒を飲めば高血圧になる。

2  酒は心臓によ いか、悪いか？

︵ 最 近 は生 活 習 慣 病 と改 名 ︶ の中 で も最 も多 い疾 患 で 、 放 って お く と脳 血 管 障 害 、

が 、 現 在 は年 齢 に 関 係 な く 、 収 縮 期 血 圧 ︵ 最 大 血 圧 ︶ 一六 〇mmH以 g上 ま た は拡 張 期 血 圧 ︵ 最 小血

虚 血 性 心 疾 患 な ど 死 亡 率 の高 い病 気 を ひ き 起 こ し ま す 。 血 圧 は 年 齢 と と も に少 し ず つ高 く な り ま す

  高 血 圧 は成 人 病

  ア ル コー ル と 高 血 圧

な ど に つ い て考 察 し て み ま し ょう 。

摘 さ れ て いま す。 こ こ で は ア ル コー ルは ど の よ う に循 環 器 疾 患 に影 響 を 与 え る か 、 飲 酒 量 と の関 係

はよ く知 ら れ て いま す が 、 一方 で は適 量飲 酒 は動 脈 硬 化 や虚 血 性 心 疾 患 の予 防 効 果 が あ る こと も 指

  ア ル コー ル過 飲 は高 血 圧 を は じ め 脳 卒 中 ︵ 脳 出 血 、 脳 梗 塞 な ど )、 心 疾 患 の危 険 因 子 で あ る こ と

6 

圧 ︶ 九 五mmH以g上 を 高 血 圧 と 判 定 し て い ま す 。高 血 圧 には 腎

臓 病 や 内 分 泌疾 患 が原 因 で 起 こ る ﹁二次 性 高 血 圧 ﹂ と、 血 圧

を 上 げ る原 因 と な る病 気 が みあ た ら な い ﹁ 本 態性高血 圧﹂が

あ り、後者 が九〇％以 上を占 めます。

  さ て ア ル コー ル は高 血 圧 と ど のよ う な か か わ り が あ る の で

し ょう か。 健康 な 人 で は 少 量 の ア ル コー ルを 飲 ん で も血 圧 は

ほ と ん ど変 わ ら ず 、 む し ろ や や低 下 す る場 合 も あ り ま す 。 し

か し 慢 性 飲 酒 は 高 血 圧 の危 険 因 子 で あ る こ と が いく つか の研

究 か ら明 ら か にな って いま す が 、 図 15 は都 市 部 ︵ 大 阪 ︶ と農

村部 ︵ 秋 田 ︶ とを 比 較 し て、 飲 酒 量 の程 度 と 高 血 圧 症 の頻 度

を 示 し た も の で す 。飲 酒 量 は 一日 当 た り の純 ア ル コー ル消 費

  ま た 毎 日 飲 酒 す るも のは 、 飲 ま な い人 に比 べ血 圧 が高 く 、 そ の差 は 一〇 歳 の加 齢 に相 当 す る血 圧

非 飲 酒 者 に比 べ農 村 部 で は 四 倍 、 都 市 部 で 二 ・七 倍 と な って いま す 。

で飲 酒 量 と平 行 し て高 血 圧 患 者 が増 え る傾 向 にあ り 、 高 血 圧 症 の頻 度 は日 本 酒 三 合 以 上 の大 酒 家 は

こ れ を 除 く と酒 を 飲 ま な い群 か ら ア ル コー ル八 三 グ ラ ム ︵ 日 本 酒 換 算 三 ・九 合 ︶ 以 上 の大 酒 家 群 ま

ダ ブ ル 一杯 強 にな り ま す。 断 酒 群 に は も と も と高 血 圧 の た め 禁 酒 し た 症 例 が含 ま れ て いま す の で、

量 で表 し 、 た と え ば 図 中 のア ル コー ル 二 八グ ラ ム は 日 本 酒 一合 、 ビ ー ル大 び ん 一本 、 ウ イ ス キ ー は

図15  飲 酒 量 別 に み た 高 血圧 症 の 頻 度

図16  高 血 圧 と動 脈 硬 化 に関 連 した主 な病 気

値 にな る と いう 報 告 も あ り ま す 。 一方 で

は高 血 圧 患 者 が 節 酒 す れ ば 一∼ 二 週 間 で

血 圧 が 低 下 し 、 断 酒 す れ ば 高 血 圧患 者 が

三割 減 る な ど の報 告 も あ り 、 節 酒 な いし

禁 酒 の効 果 は 明 ら か で す 。

で し ょう か、 いく つか の可 能 性 が指 摘 さ

  で は な ぜ ア ル コー ルは 血 圧 を 上 げ る の

れ て いま す 。 一つに は飲 酒 に伴 いや す い

肥 満 、 塩 分 摂 取 量 の増 加 、 喫 煙 、 運 動 不

足 な ど が関 係 す る で し ょう 。 一方 、 ア ル

︵ 心

コー ル、 と く にそ の代 謝 過 程 で生 ず る ア

セ ト ア ルデ ヒ ド の交 感 神 経 刺 激 作 用

拍 数 、 動 脈 圧 、 血 流 量 の増 加 な ど︶ も そ

の原 因 と な り、 ア セト ア ルデ ヒ ド が交 感

神 経 の末 端 や副 腎 髄 質 を 刺 激 し 、 血 圧 上

昇 に働 く ホ ル モ ン の ア ド レナ リ ン、 ノ ル

ア ド レナ リ ンを 増 加 さ せ る機 序 も 関 与 し

て いる こ と で し ょう 。

  大 酒 家 の約 半 数 に高 血 圧 が み ら れ 、 高 血 圧 は動 脈 硬 化 を 促 進 さ せ脳 卒 中 、 腎 障 害 な ど い ろ いろ な

疾 患 の原 因 と な り ま す ので 、 大 量飲 酒 は慎 ま な く て は な り ま せ ん 。 し か し 後 に述 べる よ う に、 適 量

の飲 酒 は動 脈 硬 化 を 抑 え た り、 虚 血 性 心 疾 患 に は むしろ 好 ま し い方 向 に作 用 し ま す の で、 飲 酒 に伴

う 塩 分 の過 剰 摂 取 、 肥 満 、 運 動 不 足 、 喫 煙 な ど に注 意 す れば 、高 血 圧 患 者 でも 自 制 力 のあ る人 で あ れ ば 、 適 量 の飲 酒 は禁 止 す る必 要 は な いで し ょう 。

  アル コー ルと動 脈 硬化

  高 血 圧 は 動 脈 硬 化 を 促 進 さ せ 、 ま た動 脈 硬 化 にな る と血 管 の弾 力 性 が な く な り血 管 の抵 抗 が 高 ま

って高 血 圧 にな る 、 と いう 悪 循 環 関 係 にあ り ま す 。 動 脈 硬 化 と は そ も そ も 血 液 中 に増 え た コ レ ス テ

ロー ルや中 性 脂 肪 が 血 管 壁 に沈 着 し 、 血 管 の弾 力 性 が 失 わ れ て硬 く な り 、 さ ら に 動 脈 内 面 には 血 小 板 が付 着 し て血 栓 を 形 成 し た状 態 を い いま す 。

  図 16 に高 血 圧 と動 脈 硬 化 に関 連 す る主 な 病 気 を 示 し ま す が 、 そ の ほ か に糖 尿 病 が 動 脈 硬 化 を 起 こ し や す い病 気 と し て重 要 で す 。

  血 液 中 の コ レス テ ロー ルは タ ン パ ク質 と結 合 し てリ ポ タ ン パ ク と いう 形 で存 在 し 、 こ の う ち 比 重

の軽 いも の は L D L コ レス テ ロー ルと い い血 管 壁 に沈 着 し や す い性 質 が あ り ま す が 、 一方 、 比 重 の

重 いH D L コ レス テ ロー ルは 血 管 に余 分 な コ レス テ ロー ルが 溜 ま ら な いよ う に働 い て いま す 。 し た

が って前 者 を 動 脈 硬 化 の元 凶 と な る 悪 玉 コ レ ス テ ロー ル、 後 者 を 動 脈 硬 化 を 防 ぐ 好 ま し いも の で善 玉 コ レ ス テ ロー ル と呼 ん で いま す 。

︵ 三 〇 ∼ 一五 〇mg /dl ︶ が あ り ま す が (か っこ内 は 正 常 範 囲

  健 診 な ど で 必 ず 測 定 す る項 目 に総 コ レ ス テ ロー ル ︵一三〇 ∼ 二 二 〇mg /dl ︶、 H D L コ レ ス テ ロ ー ル ︵四〇 ∼ 八 ○mg /dl ︶、 中 性 脂 肪

の数 値 ︶、 総 コ レ ステ ロー ルは L D L コ レ ス テ ロー ル と H D L コ レ ス テ ロー ル の和 に ほ ぼ 等 し いと

考 え て よ いで し ょう 。 L D L コ レス テ ロー ルが多 く 、 H D L コ レス テ ロー ルが 少 な いと いう パ タ ー

飲 酒 は H D L コ レ ス テ ロー ルを 増 加 さ せ る こと が 多

中 の動 物 性 脂 肪 で す が 、 H D L コ レ ス テ ロー ルを 減

ンが 動 脈 硬 化 の進 行 を 促 進 す る こと に な り ま す 。 血 レステ ロ

一致 し た 見 解 が み ら れ る よ う に な り ま し た 。適 量 の

〇 年 く ら い の間 に こ の方 面 の研 究 が 進 み、 あ る 程 度

逆 に予 防 す る の か賛 否 両 論 があ り ま し た が 、 こ こ 一

  いま ま で ア ル コー ルは 動 脈 硬 化 を 進 展 さ せ る の か 、

し て は日 常 の食 事 と運 動 が 重 要 で す 。

脂 肪 の増 加 も 関 与 し て いま す 。 動 脈 硬 化 の予 防 に対

ら す も の と し て肥 満 、 運 動 不 足 、 喫 煙 が あ り 、 中 性

液 中 の L D L コ レス テ ロー ル を増 や す の は 主 に食 事

図17  アル コール 摂 取 に よるHDLコ ール の 変 動

く の研 究 で 明 ら か にな り 、 図 17 にそ の 一つ の成 績 を 示 し ま す 。 一方 、 ア ル コー ルを飲 み過 ぎ る と中

性 脂 肪 が増 え る の で 、 ア ル コー ル は血 清 脂 質 に功 罪 二 面 的 影 響 を 与 え る こと に な り ま す 。

  次 項 で述 べ る虚 血 性 心 疾 患 の発 生 率 は 、 ア ル コー ル四 〇 グ ラ ム ま で の常 習 飲 酒 者 で は ア ル コー ル

量 の増 加 に伴 って 減 少 し、 そ れ よ り多 く な る と逆 に増 加 す る と いう報 告 が あ り ま す 。

  いま ま で 適 量 飲 酒 と いう 言 葉 を 使 ってき ま し た が 、 一日 三 〇 ∼ 四〇 グ ラ ム ま で 、 す な わ ち 日 本 酒

胸 が 締 め つけ ら れ る よ う な 痛 み で す 。 胸 の痛 み は狭 心 症 で は

す 。 最 も 一般 的 な 症 状 は 狭 心 痛 と い い前 胸 部 の激 し い痛 み、

が 心 筋 梗 塞 で 、 こ れ ら を 一括 し て 虚 血 性 心 疾 患 と呼 ん で い ま

を狭 心 症 、 冠 動 脈 が閉 塞 し 心 筋 の 一部 に血 流 が 途 絶 え た も の

いれ ん し て血 液 流 量 が 減 少 し て 心筋 の酸 欠 状 態 にな った も の

 虚 血性  心 臓 の筋 肉 ︵ 心 筋 ︶ の栄 養 血 管 と し て心 臓 を 取 り  心 疾患   巻 く よ う に 冠 動 脈 が分 布 し 、 こ れ が 狭 窄 ま た は け

 ア ル コー ルと心臓 病

の と考 え ら れ ま す 。

も あ ま り 増 や さず 、 動 脈 硬 化 に対 し て も 予 防 的 に作 用 す る も

換 算 二 合 以 内 の飲 酒 で は、 高 血 圧 に な ら な いば かり か、 H D L コ レ ス テ ロー ルを 増 や し 、 中 性 脂 肪 図18  ア ル コー ル 飲 用 と10年 間 の 全 体 死 亡 率

三∼ 五 分 で お さ ま り ま す が 、 心 筋 梗 塞 で は 三 〇 分 以 上 続 き 、 処 置 が 遅 れ る と シ ョッ ク や 不 整 脈 で 死 亡 率 が高 く な り ま す 。

  図 18 は ロ ンド ン の 四〇 ∼ 六 四 歳 の男 性 公 務 員 一四 二 二名 を 対 象 に飲 酒 量 と 一〇 年 間 の 死 亡 率 を 示

し た も の です 。全 体 の死 亡 率 はU 字 型 を 呈 し、 非 飲 酒 者 お よ び 一旦 二五 グ ラ ム 以 上 の飲 酒 者 で高 く

な って いま す が 、 ア ル コー ルを 飲 ま な い人 の死 因 は心 血 管 系 疾 患 で 、 逆 に大 量飲 酒 者 の 死 亡 は そ れ

以 外 の疾 患 が多 く な って いま す 。 そ の他 の疫 学 的 な 研 究 で も 中 等 度 ま で の飲 酒 は 、 少 な く と も 心 筋

梗 塞 な ど の致 死 的 疾 患 に は 予 防 効 果 が あ る と の結 果 が で て いま す 。 近 年 、 と く に赤 ワ イ ンが そ の中

に含 ま れ て い るポ リ フ ェノ ー ル類 が動 脈 硬 化 抑 制 作 用 が あ る と し て注 目 さ れ て いま す が、 今 度 は ド

イ ツ が、 白 ワイ ンも 赤 ワイ ン に劣 らず い い と し て研 究 を 強 化 し て いる と いわ れ て いま す。 いず れ に

し て も適 量 の飲 酒 は 動 脈 硬 化 を 防 ぐ 可 能 性 があ り、 虚 血 性 心 疾 患 を 減 ら す こ と が 期 待 で き ま す 。

  で は現 在 、 狭 心 症 な ど 冠 動 脈 疾 患 を 持 って いる人 の ア ル コー ル摂 取 は ど う な の で し ょう か 。 ア ル

コー ル、 と く に ア セ ト ア ルデ ヒ ド は血 管 を 拡 張 さ せ る作 用 が あ り 、 昔 は ア ル コー ルを 狭 心 症 の治 療

に用 いた こ と も あ り ま す 。 し か し これ は む し ろ ア ル コー ル の麻 酔 作 用 で精 神 的 不 安 が と れ る、 心 筋

の収 縮 力 を 低 下 さ せ心 臓 の酸 素 必 要 量 を 少 な く す る 、 な ど の効 果 に よ る と こ ろ が大 き い と考 え ら れ ます。

  血 管 は 全 身 にく まな く 分 布 し て いま す が、 血 液 の量 は 一定 で す の で、 た く さ ん 仕 事 を し て いる部

分 に重 点 的 に配 分 さ れ ま す 。 ア ル コー ル が体 内 に入 る と皮 膚 の血 管 は 拡 張 し 、 逆 に内 臓 の血 管 は収

縮 し 血 流 量 が少 な く な り 、 狭 心 症 の人 で は 心筋 の血 流 が 悪 く な り胸 痛 発 作 が 起 こ り や す く な り ま す 。

し た が って虚 血 性 心 疾 患 の予 防 に は適 量 飲 酒 は む し ろ勧 め ら れ ま す が 、 現 に こ の よ う な 疾 患 を持 っ

ル コー ル性 心筋 症 ︵ア ル コー ル性 心 臓 病 ︶ と いう 病 気 が あ り ま す 。 ア メ リ カ で は

 ア ル コ ー ル と ア セト ア ルデ ヒ ド の作 用 に よ って、 直 接 心筋 が傷 害 さ れ て起 こる ア

て い て胸 痛 発 作 が あ る 人 は 禁 酒 す べき で、 安 定 し て いる 状 態 で も少 量 の飲 酒 に と ど め る こ と が大 切 です。 ア ル コー ル性 心筋症

以前 か ら酒 を 飲 み過 ぎ て頻 脈 、 脈 の乱 れ ︵ 不 整 脈 ︶、 息 切 れ 、 呼 吸 困 難 な ど の症 状 を 訴 え て病 院 に

か つぎ 込 ま れ る症 例 が 、 とく にク リ ス マ ス の休 暇 明 け や 週 末 明 け の月 曜 日 に多 いこ と が 知 ら れ て い

ま し た。 休 暇 中 に徹 底 的 に酒 を飲 ん で発 症 す る の で 、 こ の心 臓 発 作 を ホ リ デ ー ハー ト ︵ 休 日心臓︶

症 候 群 と い い、 も と も と あ った ア ル コー ル性 心 筋 症 が 飲 み過 ぎ によ って 表 面 化 し た も の と考 え ら れ ます。

  ア ル コー ル性 心 筋 症 は 以 前 は 慢 性 飲 酒 に伴 う ビ タ ミ ン Ｂ1不 足 、 栄 養 障 害 の た め起 こ る脚 気 に伴 う

心 不 全 ︵脚 気 心 ︶ と 混 同 さ れ て い ま し た が 、 現 在 で は ア ル コー ル お よ び ア セ ト ア ルデ ヒ ド が 直 接 心

筋 を 傷 害 す る と さ れ 、 最 近 わ が 国 で も頻 度 は低 いも の の、 増 加 傾 向 にあ り ま す 。 こ の病 気 の初 期 は

飲 酒 後 軽 度 の息 切 れ 、 心 臓 が ド キ ド キ す る程 度 で す が 、 進 行 す る と 心筋 は肥 大 し 、 線 維 が増 え 脂 肪

も 溜 ま って徐 々 に 心 臓 の収 縮 力 ︵ ポ ンプ 作 用 ︶ が 低 下 し ま す 。 こ の よ う な 状 態 にな る と深 酒 、 過 労 、

風 邪 な ど を 契 機 に夜 間 の呼 吸 困 難 、 息 切 れ 、 不 整 脈 を 生 じ 、 心 臓 は著 し く 大 き く な って う っ血 性 心

禁 酒 が 最 大 の 治療 法 と いえ ま す 。

不 全 と な り 足 が む く み、 肺 にも 水 が た ま り 、 肝 臓 が

腫 れ て き ま す 。 初 期 に は禁 酒 と心 不 全 の治 療 で す み

や か に 心 機 能 が 回 復 し 、 心拡 大 が改 善 し 、 レ ント ゲ

ンを 撮 って み る と 心 臓 は飲 酒 と断 酒 に伴 って大 き く

な った り 、 小 さ く な った り す る の で ア コー デ オ ン に

た と え 、 ﹁ア コーデ オ ン心 臓 ﹂ と い って いま す 。

  何 回 も 発 作 を 繰 り 返 し て い る の に酒 を 止 め な い人

は、 心機 能 低 下 が 不 可 逆 と な り 、 生 命 の危 険 にさ ら

さ れ ま す 。 表 25 は ア ル コー ル性 心 筋 症 の経 過 中 、 心

機 能 が 改 善 し た か 、 悪 化 し た か でグ ループ を 分 け そ

の特 徴 を 比 較 し た も の で す 。 改 善 群 で は 一五 人 中 一

人 が 三 年 以 内 、一一 人 が 五 年 以 内 ︶ し 、 大 部 分 が 飲 酒 を 持 続 し て いま す 。 ア ル コー ル性 心 臓 病 には

○ 人 が 心 肥 大 が と れ、 う ち 一 一人 は 禁 酒 し て いま す 。 一方 悪 化 群 で は三 〇 人 中 二 四人 が 死 亡 ︵一三

表25  ア ル コー ル 性 心 筋 症 の 臨床 経 過

7 

アル コー ルと神 経系 障害

酒は小脳、脊髄、末梢神経もおかし、いろいろな神経症状を起

1  大酒飲みの脳は萎縮し、性格の変化、痴呆を起 こす。

こ す。

2 

ろ か ら 出 た も の は腕 を通 って手 先 ま で、 腰 のと こ ろ か ら出 た も のは 脚 を 通 って 足 先 ま で 到 達 し て い

つ出 て いま す 。 脊 髄 神 経 は 脊 髄 の 上 か ら下 ま で い た る と こ ろ か ら 三 〇 本 く ら い出 て いて 、 首 の と こ

髄 神 経 を 末 梢 神 経 と い って い ま す 。 脳 神 経 は 脳 の底 部 か ら 頭 蓋 骨 にあ る 孔 を 通 って左 右 に 一二本 ず

細 く 、 白 っぽ く 軟 ら か い脊 髄 が納 ま って いま す 。 脳 と脊 髄 を あ わ せ て中 枢 神 経 と い い、 脳 神 経 と 脊

脳 幹 、 小 脳 な ど に分 か れ 、 背 骨 ︵ 脊 柱 ︶ の中 にあ る脊 柱 管 に は長 さ 四 〇 セ ンチ メ ー ト ルく ら いの長

  図 19 に脳 と 脊 髄 、 末 梢 神 経 と の 関 係 を 示 し ま す 。 頭 蓋 骨 の中 には 脳 が 入 って おり 、 大 脳 、 間 脳 、

ます。

が知 ら れ て いま す 。 病 気 の こと を 述 べ る前 に、 ま ず 神 経 系 の 一般 的 事 項 に つ い て簡 単 に触 れ て お き

 大 量長 期 飲 酒者 の七 〇 ％ 以 上 に脳 か ら 末 梢 神 経 に至 る神 経 系 全 体 にさ まざ ま な 障 害 が生 ず る こ と

〈 ポ イ ン ト〉

ます 。

  ア ル コ ー ル に よ る 神 経 系 障 害 は表 26 にあ げ た よ う に多 く の疾 患 が あ り 、 ① ∼ ⑤ は 大 脳 、 ⑥ は小 脳 、

⑦ は脊 髄 、 ⑧ は末 梢 神 経 に関 連 し た も の で す。 図 20 は神 経 内 科 を 専 門 と し て いる あ る施 設 の外 来 を

訪 れ た ア ル コー ル性 精 神 神 経 障 害 患 者 の病 気 別 頻 度 を 多 い順 に示 し た も の で す が 、 多 発 ニ ュー ロバ

約 三 〇 ％ 、 残 り が頭 部 外 傷 、 病 原 体 の感 染 、 内 分 泌 障 害 な ど で あ り 、

〇 ％ 、 次 が最 も 注 目 さ れ 、 ま た最 近 急 増 し て いる ア ル ツ ハイ マー 病 が

病 気 で起 こり 、 日 本 で は 多 発 性 脳 梗 塞 な ど に よ る脳 血 管 性 痴 呆 が 約 四

  痴 呆 は 脳神 経 細 胞 の著 し い脱 落 ・減 少 が 主 原 因 で す が 、 いろ い ろ な

︵ア ル コー ル性 痴 呆 ︶ と い って い ま す 。

と か人 格 障 害 を き た し 、 痴 呆 と な るも のを ア ル コー ル性 大 脳 皮 質 萎 縮

脳 に萎 縮 が あ って も 必 ず し も症 状 を 示 す と は限 り ま せ ん が、 記 憶 障 害

調 べ る こ と が で き ま す の で、 こ の こ と が 一層 は っき り し て き ま し た。

知 ら れ て いま し た が 、 最 近 は 日 常 診 療 で脳 を C T 、 M R I で 簡 単 に

  酒 飲 み の脳 が や せ て萎 縮 し て い る こ と は 古 く か ら 病 理 解 剖 の所 見 で

  大 脳 の障害

シ ー が 圧 倒 的 に多 く 、 つ いで 脊 髄 、 小 脳 の疾 患 が 目 立 ち ま す 。

表26  ア ル コー ル に よ る脳 ・神 経 障 害

そ の 一部 にア ル コー ル性 痴 呆 が含 ま れ て い る の で す 。 酒 飲 み の痴 呆 は若 年 者 に も み ら れ ま す が 、 加

齢 にし た が って増 え、 六 〇 歳 以 上 で は 二 三 ％ と な り 、 飲 ま な い人 が 四％ で あ る の に比 べ高 率 で あ る と の報 告 が あ り ま す 。

経 障 害 の 内訳

  脳 の表 層 は 大 脳 皮 質 と い い、 神 経 細 胞 が 一四 〇 億 個 ほ どぎ っし り詰 ま り 、 皮 質 は 厚 さ 二 ・五 ミ リ

図20  神 経 内科 外 来 にお け る アル コ ー ル性 精 神 神

メ ート ルで す が脳 表 面 に は皺 が あ り表 面 積 は 二 二 五 〇 平 方 セ ンチ メ ー ト ルと な り ま す 。 皮 質 に は新

図19  脳 、 脊 髄 、 末 梢 神 経 の 関 係

皮 質 と 古 い皮 質 が あ り ま す が、 新 皮 質 は知 性 、 理 性 、 判 断 な ど を 、 古 い皮 質 は 食 欲 、 性 欲 な ど本 能

と いう べ き も のを 支 配 し て いま す 。 新 皮 質 の前 方 の部 分 ︵お で こ の下 あ た り ︶ に前 頭 葉 と いう と こ

ろ が あ り、 人 間 だ け で 発 達 し 知 性 、 理 性 、 創 造 性 な ど の機 能 を つか さ ど り、 人 間 ら し さ を 保 って い ます。

  大 酒 家 は脳 の中 で も 、 と く に大 脳 の前 頭 葉 の萎 縮 が 目 立 ち、 記 憶 力 の衰 え 、 物 忘 れ 、 判 断 力 の低

下 な ど が現 れ 、 初 期 の症 状 と し て自 制 心 の欠 如 、 怒 り っぽ い、 頑 固 で自 分 の考 え を引 っ込 め な い、 衝 動 的 に な る な ど の性 格 の変 化 が 特 徴 で、 し だ いに進 行 す る の で す 。

  そ の ほ か頻 度 は低 いで す が、 大 脳 に は表 26 の よう な い ろ いろ な 珍 し い名 前 の付 いた 病 気 が あ り ま

す 。 こ こ で は 特 徴的 な 症 状 があ り 、 以 前 か ら有 名 な ウ ェル ニ ッケ 病 と コ ルサ コフ病 に つ いて紹 介 し

ま す 。 こ れ ら の病 気 は大 量 か つ長 期 に わ た る飲 酒 に伴 う 栄 養 障 害 、 とく にビ タ ミ ンB1 の欠 乏 と の関

連 が 大 き く、 ア ル コー ル性 障 害 以 外 に も長 期 点 滴 栄 養 を 行 って いる 人 で、 ビ タ ミ ンB1 の補 給 が 不 十 分 で あ る と発 病 し ま す 。

  ウ ェル ニッケ 病 ︵ウ ェル ニ ッケ 脳 症 ︶ は 眼 球 運 動 の異 常 ︵ 動 き が 悪 く な り 、 物 が 二 重 に見 え る な

ど ) が 最 初 に起 こ り、 し だ い に う ま く 歩 け な く な り、 記 憶 力 も悪 く 、 取 り乱 し わ け のわ か ら な い こ

と を 口走 る な ど の錯 乱 状 態 が現 れ る 病 気 で す 。 コ ルサ コフ病 は 眼 球 の動 き は 悪 く な い の で す が 、 記

憶 力 の低 下 が著 し く 、 物 忘 れ が高 度 で 新 し い こ と が覚 え ら れ な く な り 、 日付 け や 時 間 、 場 所 が わ か

らなく な ります ︵ 見 当 識 障 害 ︶。 そ れ ば か り で な く 過 去 の記 憶 も 忘 れ て し ま い ︵ 逆 行 性 健 忘 ︶、 記

憶 の失 わ れ た 部 分 を空 想 で埋 め よ う と し て 作 り話 ︵作 話 ︶ を し ま す 。 ウ ェル ニ ッケ病 の回 復 期 に コ

ルサ コフ病 の症 状 が し ば し ば み ら れ る た め 、 ウ ェ ル ニッ ケ ・コ ルサ コフ症 候 群 と呼 ば れ る こ と も あ ります。

  そ の ほ か ア ル コー ル多 飲 に伴 う 栄 養 障 害 で は ニ コチ ン酸 欠 乏 が 原 因 で 、特 有 な 皮 膚 症 状 と抑 う つ、

幻 覚 、 痴 呆 な どを 伴 った ぺ ラ グ ラ 脳 症 と いう 病 気 が あ り 、 ニコチ ン酸 注 射 が 劇 的 に効 き ま す 。

  小 脳 の障害

  小 脳 は後 頭 部 の 下方 にあ り 、 握 り こ ぶ し く ら い の大 き さ で 、 運 動 の微 調 整 と い った 機能 を し て い

ま す 。 私 た ち が器 用 に箸 を 使 った り、 字 を 書 いた り 、 真 っ直 ぐ に歩 いた り で き る のは 大 脳 と連 絡 を 密 にし た 小 脳 の働 き に よ る ので す 。

︵ 小 脳 萎 縮 ︶ と いう病 気 が あ り、 種 々 の小 脳 失 調 症 状 を 起 こ

︵ 変 性 、 萎 縮 ︶ は 小 脳 の な か で も 虫 部 前 葉 部 と半 球 正 中 側 上 部 と いわ れ ると こ

  大 酒 家 には ア ル コー ル性 小 脳 変 性 症 し ま す。 小 脳 の障 害

ろ に強 く み ら れ、 こ の部 分 は歩 行 を う ま く 行 う 機 能 に関 連 し て いま す の で、 最 初 は 上 肢 の運 動 失 調

はな いが 、 歩 行 不 安 定 や起 立 障 害 が み ら れ ま す 。 床 の上 の 一本 線 の 上 を 歩 か せ た り 、 寝 た状 態 で踵

︵ 広 基 性 歩 行 ︶ を し 、 ま た 立 った ま ま 目 を

を 膝 へ着 け さ せ る膝 踵 試 験 を行 って、 う ま く で き る かど う か で 医 師 は診 断 し て いま す 。 自 由 に歩 か せ る と 足 を 開 いて 股 の間 に何 か は さ ま った よう な歩 き方 つぶ ら せ る と よ ろ よ ろ と不 安 定 にな り ま す 。

  病 気 が進 む と上 肢 の動 きも ぎ こ ちな く な り 、 字 が 上 手 に書 け な い書 字 困 難 、 箸 が使 え な い、 指 先

を 鼻 のあ た ま に も って ゆ く指 鼻 試 験 が で き な いな ど の症 状 が加 わ って き ま す 。 本 症 の原 因 は ア ル コ

︵ 痙 縮 、 痙 性 麻 痺 ︶ と いう 病 気 に な り ま

ー ル の小 脳 に対 す る 直 接 毒 性 が 考 え ら れ ま す の で 、 禁 酒 が唯 一の治 療 法 で す 。

  脊 髄 の障 害   飲 酒 によ って脊 髄 が 障 害 さ れ る と、 ア ル コー ル性 脊 髄 症

す 。 脊 髄 は脊 柱 管 の中 に あ って脳 か ら の指 令 を 末 梢 神 経 へ伝 達 七 、 ま た 末 梢 か ら 脳 へ信 号 を 送 る働

きを す る 細 長 い神 経 線 維 の束 で 、 脊 髄 障 害 が あ る と 脚 が突 っ張 って曲 が り に く い の で歩 き にく く 、 歩 幅 が 狭 く チ ョ コチ ョ コ歩 く 痙 性 歩 行 と な り ま す 。

  膝 の お 皿 の 下 を ハ ン マー で 叩 く と 膝 か ら下 の脚 が 勢 いよ く ポ ンと 跳 ね 上 が る膝 蓋 腱 反 射亢 進 、 ま

た患 者 の下 肢 を膝 関 節 で折 り 曲 げ よ う と す る と 最 初 は強 い抵 抗 があ る が 、 す ぐ に力 が抜 け て 楽 に曲

が る ジ ャ ッ ク ナ イ フ現 象 な ど で診 断 し ま す 。 筋 肉 は痙 攣 し た よ う に速 く 、 強 く収 縮 し ま す の で痙 縮

と も い いま す 。 慢 性 多 量 飲 酒 者 の膝 蓋 腱 反 射 を 調 べ る と約 四 〇 ％ にそ の亢 進 が み ら れ ま す の で、 潜 在 性 の脊 髄 障 害 は か な り多 い こ と が指 摘 さ れ て いま す 。

  末 梢神 経 障害

 ア ル コー ル性 の末 梢 神 経 障 害 に多 発 性 ニ ュー ロパ シ ー ︵ 多 発 末 梢 神 経 症 ︶ と いう 病 気 が あ り、 大

酒 家 の神 経 障 害 で は 最 も多 いも の で す 。 日 本 酒 に換 算 し て毎 日 三 合 以 上 を 飲 ん で い る人 の三 分 の 一

が 一〇年 後 に こ の病 気 に な る と いわ れ るく ら いで す 。 末 梢 神 経 は 一本 や 二本 で は な く 多 数 が 障 害 さ れ る ので 多 発 性 ニ ュー ロパ シー の名 称 が つ いて いま す 。

  最 初 は 足 の ほ う が手 よ り 障 害 が強 く 、 脚 のな か で も 足 先 の ほ う が 大 腿 部 よ り も 強 く 障 害 さ れ ま す 。

末 梢 神 経 のう ち で も 痛 み や 、 冷 た い、 温 か いと いう 感 覚 に関 係 のあ る 細 い神 経 が 先 に障 害 を 受 け や

す く 、 最 初 の症 状 は両 足 の足 首 か ら先 が ビ リ ビ リ と し び れ て痛 く、 か つ灼 熱 感 が あ る 反面 、 感 覚 は

鈍 く 、冷 た い、 熱 いが わ か り にく く な る と い った 感 覚 障 害 で す 。 足 の指 の動 き が 緩 慢 で 、 小 指 が外

へ十 分開 かな い、 ふ く ら は ぎ の部 分 が 硬 く な り そ こ を つか む と ひ ど く 痛 い ︵と く に夜 間 の ふく ら は

ぎの痙 攣 様疼 痛 ︶、 足 に靴 下 を は い た よ う な ス ト ッキ ング 型 全 感 覚 障 害 が 左 右 対 称 性 に出 て き ま す 。

  し だ い に進 行 す る と手 にも 同 様 な異 常 が み ら れ 、 ひ ど く な る と熱 傷 を 負 っても 、 刺 し傷 や 切 り傷

を し ても 本 人 は気 が つかず 、 ま た 足 の筋 肉 が や せ て き て 、 立 った り歩 い た り が う ま く ゆ か な く な り

ま す 。末 梢 神 経 障 害 の原 因 は 、 ア ル コー ル の直 接 毒 性 と飲 酒 に伴 う 栄養 障 害 の複 合 と考 え ら れ て い ます。

  ア ル コ ー ル によ る脳 ・末 梢 神 経 障 害 の治 療 は 禁 酒 、 バ ラ ン ス の と れ た 食 事 、 ビ タ ミ ンB 群 の豊 富

な 投 与 が 主 体 で 、 障 害 が初 期 の場 合 に は緩 除 で はあ る が 回 復 が 期 待 さ れ ま す が 、 進 行 し た 段 階 で は 難治性 です。

  ア ル コー ル依 存 症 の患 者 に は前 述 の神 経 障 害 と精 神 障 害 を 合 併 す る こ と が多 く 、 人 格 の荒 廃 、 痴

呆 、 幻 覚 、 妄 想 な ど の精 神 症 状 が みら れ る も のを ア ル コー ル精 神 病 とも 呼 ん で い ま す 。 これ に つ い て は 、 第 3章 のア ル コー ル依 存 症 の項 で く わ し く 述 べま す 。

8 

な りや す い 。

2  夫成 年者の飲酒は脳や内臓の発育障害 を起こし、" アル中"に

す こと が あ る。

1  妊婦では、少しの飲 酒が赤ちゃん の知能障害、発育障害を起こ

アル コール と胎児 、 子供 の障害

  胎 児 性 ア ル コー ル 症 候 群

せ が 目 立 ち 、 母 親 の体 内 に いる と き か ら生 ま れ た後 ま で つづ き ま す 。 第 三 は 顔 つき に特 有 な 異 常 が

運 動 は 不 器 用 で す 。 第 二 は 身 体 の発 育 不 全 で 、 身 長 は標 準 よ り 明 ら か に低 く 、 脂 肪 組 織 も 少 な く や

  第 一は脳 の障 害 で頭 部 そ のも のが 小 さ く 、 知 能 も 低 く 、 小 児 期 は 落 ち着 き が な く 、 興奮 し や す く

す が 、 典 型 的 な 例 は 四 つ の異 常 が そ ろ って いま す 。

性 ア ル コ ー ル症 候 群 ︵F A S ︶ と いう 名 称 で 注 目 さ れ て いま す。 こ の症 候 群 の概 要 を 表 27 に示 し ま

  昔 か ら 妊 婦 の飲 酒 の弊 害 が 指 摘 さ れ て いま し た が 、 比 較 的 最 近 にな って は っき り 認 識 さ れ 、 胎 児

〈ポ イ ン ト〉

表27  胎 児 性 ア ル コー ル 症 候 群 児 に み られ る諸 症 状 とそ の 頻 度

みら れ、 両 目 の間 が 開 い た小 さ な 目 ︵ 短 い眼 瞼

裂 ︶、 鼻 が 上 向 き で 小 さ い、 上 唇 が 薄 い、 人 中

と い って鼻 と 口 の間 にあ る溝 の発 達 が悪 いな ど

で す 。 第 四 は 奇 形 の合 併 で、 表 27 のよ う に 口唇

裂 や 口蓋 裂 、 心 臓 、 腎 臓 、 生 殖 器 そ の ほ か 種 々

の臓 器 に発 生 し ま す 。前 述 の症 状 が 部 分 的 に み

ら れ るも のを 不 全 型 ︵F A E ︶ と い って いま す 。

︵ 臓器︶ が形成 される

  受 精 よ り 妊 娠 三 か月 こ ろま で は 胎 芽 期 と い っ

て 、 胎 児 の大 部 分 の器 官

過 程 にあ る重 要 な 時 期 で す 。 こ の時 期 に ウ イ ル

ス な ど の母 体 感 染 、 催 奇 形 作 用 の あ る 化 学 物 質 、

薬 剤 、 放 射 線 暴 露 な ど で奇 形 児 が生 ま れ る こ と

が知 ら れ 、 風 疹 ウ イ ル ス や サ リ ド マイ ド と いう

薬 剤 によ るも のが 有 名 で す 。 ア ル コー ルも 同 様

で、 妊婦 が 酒 を 飲 む と 、 ア ル コー ル ︵一部 に ア

セト ア ルデ ヒ ド ︶ が 胎 盤 を 通過 し て直 接 胎 児 へ

移 行 し て タ ン パ ク合 成 を 抑 え る な ど の傷 害 を 引

き起 こす と考 え ら れ ま す 。 ア ル コー ル依 存 症 の母 親 か ら生 ま れ た児 は 、 後 に述 べ る ア ル コー ル の離

脱症 候群 ︵ 禁 断 症 状 ︶ が出 現 す る こ と か ら も 、 胎 児 へのア ル コー ル の影 響 は強 烈 と いわ な け れば な り ま せ ん。

  胎 児 性 ア ル コー ル症 候 群 は ア メ リ カ で は 、 典 型 的 な症 例 だ け で 千 人 に 一∼ 二 人 、 軽 い症 状 の児 を

入 れ る と千 人 に三 ∼ 五 人 と 頻 度 が高 く 、 驚 き ま す 。 わ が 国 で は今 ま で に数 十 例 報 告 さ れ て いる に過

ぎ ま せ ん が 、 こ れ は氷 山 の 一角 で実 際 に は も っと多 いと 推 定 さ れ て いま す 。 三 ∼ 四歳 にな って 、 ど

う も よ そ の子 供 と比 べ て発 達 が 悪 い、 落 ち着 き が な いと し て は じ め て診 断 さ れ る こ と が し ば し ば で 、 軽 症 で見 過 ご さ れ て い る例 は も っと 多 いで し ょ う。

  胎 児 性 ア ル コー ル症 候 群 は ど の程 度 の飲 酒 で発 症 す る の で し ょう か 。多 く は ア ル コ ー ル依 存 症 の

母 親 か ら で す が、 中 に は月 二 、 三 回 の パ ー テ ィ で少 し 飲 ん だ だ け で発 症 し た ケ ー スも 報 告 さ れ て い

ま す。 し た が って 妊 娠 初 期 には た と え 一日 であ っても 飲 む べき で は な く 、 ま た妊 娠 を 希 望 し て い る

女 性 も飲 酒 を 慎 む こと が必 要 で す 。 いず れ に し ても 本 症 は わ が 国 で は ま だ よ く知 ら れ て いな い の で、 一般 の人 の み で な く 医 療 従 事 者 に も知 識 の普 及 が大 切 で す 。

  未 成年 者 の飲 酒

 わが国 には未成 年者飲酒 禁止法 と いう法律 があり ますが、最近中学 生、高校生 な ど若年 層 の飲酒

が増 え て います。中学生 の五人 に 一人、高校生 の二人 に 一人 が月 に数回以上飲 酒し て いると の調査

結 果 も あ り 、 驚 く べき こと に学 校 の保 健 室 に 二日 酔 いや ア ル コー ル の離 脱 症 状 で訪 れ る中 学 生 が い る と いわ れ て いま す。

  未 成 年 者 は 成 長 期 にあ り 、 あ ら ゆ る臓 器 の細 胞 が活 発 な 細 胞 分 裂 と増 殖 を 繰 り 返 し て い ま す 。 ア

ル コ ー ル を 分解 す る肝 臓 の酵 素 の働 き も 若年 者 は大 人 に比 べて活 性 が低 く 、 ア ル コー ル の害 を 全 面

的 に受 け や す いと いえ ま す 。 脳 の神 経 細 胞 は 二〇 歳 ま で はど ん ど ん 発 達 し て いま す が 、 ま だ若 い脳

細 胞 は ア ル コー ル に弱 く 記 憶 力 、判 断 力 な ど の低 下 を起 こし 学 習 意 欲 を 損 な う の で、 未成 年 者 の飲

酒 は こ れ か ら の人 生 に と って大 き な マイ ナ ス と な る で し ょう 。 ま た 二次 性 徴 が 発 達 す る の に大 切 な

性 ホ ル モ ン産 生 臓 器 ︵ 精 巣 、 卵 巣 ︶ にも ア ル コ ー ル は直 接 傷 害 を与 え 、 ホ ル モ ン の合 成 を 阻 害 し ま

す 。 こ の よ う にア ル コー ル に よ って 健 全 な身 体 の成 長 が 阻 害 さ れ る の で す 。 さ ら に、 成 人 にな って

早 期 に ア ル コー ル依 存 症 にな った人 の大 部 分 は 一〇 歳 代 から 飲 酒 し て い る事 実 は 、 未 成 年 者 の飲 酒 の危 険 性 を 示 し て いま す 。

  最 近 の若 者 には 心 の傷 や 心 の疲 労 が あ る た め でし ょう か 、 孤 独 感 が 強 く 、 対 人 関 係 が 不 得 手 で 、

異 常 行 動 が 目 立 つよ う に な って お り 、 ア ル コー ル の乱 用 と な ら ん で薬 物 依 存 、 不 登 校 、 校 内 ・家 庭

内 暴 力 、 過 食 症 、 いじ め、 いわ ゆ る ﹁切 れ る ﹂ な ど 大 き な社 会 問 題 と な って いま す 。 ア ル コー ル依

存 も テ レビ ゲ ー ム 依 存 、 ジ ュー ス依 存 な ど と共 通 の基 盤 が あ る と考 え ら れ 、 未 成 年 者 の心 と身 体 を 蝕 ん で いま す 。

  以 上 の い ろ いろ な 理 由 か ら も 明 ら か な よ う に、 一〇 代 か ら の飲 酒 は禁 止 し な け れ ば な り ま せ ん。

成 長 過 程 の若 年 者 で は ア ル コー ル によ る か ら だ の障 害 を 受 け や す い上 に、 積 算 飲 酒 量 から み て も 若

く し て ア ル コー ル量 が 限 界 に達 し ま す の で 、 未 成 年 者 の ア ル コー ル教 育 は 学 校 で も 、 家 庭 で も 今 こ

そ 緊 急 で か つ重 要 な課 題 で す。 ア ル コー ル の コ マー シ ャ ル が 氾 濫 し 、 自 動 販 売 機 で た や す く 酒 が 手

に入 り、 さ ら に最 近 は コ ンパ や 打 ち上 げ 会 と称 し て" イ ッキ飲 み" や飲 酒 習 慣 が 流 行 し 、 こ れ は 危

険 な 風 潮 で す 。 青 少 年 の ア ル コー ル教 育 に生 か す ア ル コー ル パ ッチ テ ス ト 、 急 性 ア ル コー ル中 毒 に つ いて は 第 1 章 の 65 ∼ 70頁 で す で に述 べ てあ り ま す 。

9 

アルコールは老化を早める。 ロ腔がん、喉頭がん、食道がんはアル コールによ る"が ん御三

6  飲酒に伴う事故や自殺が増えている。

5  最近、酒飲みに痛風が多 くな っている。

4  長年大酒を飲むと骨がもろくなり、筋肉も萎縮す る。

3  大酒飲みに肺炎、結核が多 い？

家"。

2 

1 

そ の他 のアル コール障 害

  ア ル コー ル と 老 化

者 は糖 尿 病 に な り やす く 、 高 く な り 過 ぎ た血 糖 が 細 胞 の活 動 維 持 に必 要 な さ ま ざ まな 酵 素 タ ン パ ク

先 に述 べ ま し た が 、 こ の活 性 酸 素 が 細 胞 の老 化 を 促 進 す ると さ れ て いま す。 さ ら に ア ル コー ル多 飲

わ れ て いま す 。 大 量 飲 酒 で 誘 導 さ れ た 肝 酵 素 の M E O S ︵CYP2E ︶1 が活性 酸素 を生ず る ことは

  大 酒 家 は実 際 の年 齢 よ り も 老 け て み え る こと は、 日常 よく 経 験 し ア ル コー ル は老 化 を 早 め る と い

〈ポ イ ン ト〉

と結 合 し 細 胞 機能 を 低 下 さ せ、 老 化 に つな が り ま す 。 た と えば 目 に見 え る と こ ろ で は 糖 が 皮 膚 の コ

ラ ー ゲ ン タ ン パ ク と結 合 し て起 こ ると さ れ る 肌 の老 化 が あ げ ら れ ま す 。

 ア ル コー ルとが ん

  日 本 人 の死 亡 原 因 の第 一位 は が ん ︵ 悪 性 新 生 物 ︶ で 、 毎 年 約 二五 万 人 が 死 亡 し て いま す 。 が ん は

人 のあ ら ゆ る 臓 器 に 発 生 し 、 秩 序 を 無 視 し た 狂 った 細 胞 が ど ん ど ん 分 裂 ・増 殖 を つづ け 身 体 を 蝕 む

恐 ろし い病 気 です 。 発 が ん の メ カ ニズ ム は ま だ 十 分 に は解 明 さ れ て いま せ ん が、 も と も と正 常 細 胞

で も み ら れ る が ん遺 伝 子 が、 いろ いろ な 発 が ん性 化 学 物 質 、 ウ イ ル ス 、 放 射 線 な ど に よ って 活 性 化

さ れ 、 免 疫 機 能 な ど 監 視 機 構 が破 綻 す る と 発 が ん す る と考 え ら れ て いま す 。 細 胞 が が ん化 す る仕 組

み と と も にそ の原 因 も 多 様 で 、 遺 伝 的 素 因 の ほ か に私 た ち の周 囲 に は食 物 、 タ バ コな ど種 々 の発 が

ん 物 質 が あ り ま す 。 そ の中 で ア ル コー ル の役 割 は意 外 に低 いと さ れ、 あ る人 の統 計 で は食 物 三 五 ％ 、 タ バ コ三 〇 ％ 、 ウ イ ル ス 一〇 ％ 、 ア ル コー ル 三 ％ と し て いま す 。

  ア ル コー ル と関 係 あ り そ う な が ん は 、 消 化 管 障 害 の項 で述 べ た 口腔 が ん 、 喉 頭 が ん 、 食 道 が ん で、

タ バ コを 吸 いな が ら 濃 い酒 を 飲 む 人 に多 く み ら れ ま す 。 肝 硬変 の約 半 数 は肝 臓 が ん にな り ま す が、

ア ル コー ル よ り む し ろC 型 肝 炎 ウイ ル ス の影 響 が 強 い よ う で す 。 し か し ア ル コー ル は老 化 、 免 疫 機

能 の低 下 と 関 係 が あ り 、 大 量 飲 酒 は発 が ん のプ ロ モー タ ー ︵ 促 進 因 子 ︶ と考 え て 注 意 し た ほ う が よ いで し ょう 。

  ア ル コー ルと感染 症

  大 酒家 に は いろ い ろ な感 染 症 が合 併 す る こ と が 多 いと さ れ て いま す 。 ア ル コー ル性 肝 炎 や ア ル コ

︵ 好 中 球 、 リ ン パ球 ︶ の傷 害 が

ー ル依 存 症 の離 脱 症 状 中 に肺 炎 、 結 核 な ど に よ る 死 亡 例 が 多 いこ と が 知 ら れ て いま す。 ア ル コー ル が感 染 に対 す る抵 抗 力 を 弱 め る原 因 は 、 栄 養 障 害 の ほ か に、 白 血 球

関 与 し て いま す 。 こ の こ と は 造 血 器障 害 の項 で も 触 れ ま し た が、 好 中 球 や単 球 は 細 菌 を貪 食 し て処

理 し 、 リ ン パ球 は 免 疫 機 能 に関 係 し ま す 。 リ ン パ球 に は B 細 胞 と T 細 胞 があ り 、 骨 髄 で造 ら れ る B

細 胞 は おも に外 敵 の侵 入 に対 し て攻 撃 す る抗 体 を つく り 、 T 細 胞 は 胸 腺 と いう と こ ろ で つく ら れ 、

B細 胞 を コ ント ロー ル す る と とも に自 分 で も敵 を 攻 撃 し ま す 。 ア ル コ ー ル は リ ン パ球 の数 や 機 能 を

低 下 さ せ 、 た と え ば エイ ズ は ア ル コー ル多 飲 者 に多 いと も いわ れ て いま す が 、 エイ ズ ウ イ ル ス は リ ンパ球 の T細 胞 に感 染 す る こ と が 明 ら か に な って いま す 。

  ア ル コ ー ル と 筋 ・骨 病 変

  ア ル コ ー ルは 骨 格 筋 ︵ 横 紋 筋 ︶ を も 傷 害 し 、 酒 飲 み は ア ル コー ル筋 症 ︵ミ オ パチ ー︶ と いう 病 気

を 起 こし ま す 。 一般 に は筋 肉 痛 が み ら れ 、 と く に指 で つか ん だ り、 押 し た り す る と増 強 し ま す。 痛

み は さ ほ ど 強 く な く 、 筋 肉 の萎 縮 と 脱 力 が主 症 状 の場 合 も あ り 、 末 梢 神 経 障 害 と 合 併 す る こ と が多

いよ う で す 。 ま れ で す が、 急 に発 症 し 激 し い症 状 を 示 す病 態 と し て 横 紋 筋 融 解 症 と いう病 気 があ り 、

骨 格 筋 が 壊 死 にお ち いり溶 け て、疼 痛 が 強 く、 筋 力 が極 端 に落 ち て動 け な く な り ま す 。 筋 肉 に含 ま

れ て いる ミ オグ ロビ ン、 カ リ ウ ム 、 筋 原 性 酵 素 の ク レ ア チ ニ ン フ ォ ス フ ォ キ ナ ー ゼ ︵C P K ︶、 G

O T な ど が血 中 に湧 出 し 、 ミ オグ ロビ ン は腎 臓 に溜 ま り 腎 不 全 ︵尿 毒 症 ︶ と な り ま す 。

  骨 は わ れ わ れ 人 間 の体 重 を 支 え、 身 体 の骨 格 を つく り 、 筋 肉 が そ の骨 に付 い て いろ いろ な 運 動 が

で き る わ け で す 。 こ の骨 の量 が減 ってし ま い、 骨 が 脆 く な って骨 折 や 骨 の痛 みを 起 こ し や す い状 態

を 骨 粗＝ 症 と呼 ん で いま す 。 骨 量 が減 少 す る最 大 の原 因 は 加 齢 や老 化 で す が 、 骨 の形 成 に は複 雑 な

メ カ ニズ ム が働 き 、 カ ル シウ ム と そ れ を 調 節 す る ビ タ ミ ン D、 副 甲 状 腺 ホ ル モ ン、 性 ホ ル モ ンな ど

が関 与 し て いま す 。 大 酒家 、 と く に女 性 で は 骨 粗＝ 症 が 多 い と いわ れ て いま す が 、 ア ル コー ルが 老

化 を 促 進 し、 ホ ル モ ン分 泌 に影 響 を 与 え、 飲 酒 に伴 う栄 養 障 害 によ り カ ルシ ウ ム、 ビ タ ミ ン D の 不 足 をきた すことな どが考えら れます。

  大 酒 家 に と き ど き み ら れ る大 腿 骨 骨 頭 壊 死 と い って 、 骨 頭 が つぶ れ て変 形 す る た め 股 関 節 痛 が 強

く歩 行 不 能 にな る特 殊 な 病 気 があ り ま す 。 ア ル コー ルを 好 ん で飲 ん だ 歌 手 の美 空 ひば り さ ん が こ の 病 気 に か か り 長 く 入 院 し て いた こ と は 有 名 な話 です 。

︵ 正 常 値 は 男 性 で 四 ・○ ∼ 七 ・○ 、 女 性 で 三 ・○ ∼ 五 ・

の関 節 が赤 く腫 れ て痛 む な ど の症 状 が 起 こ る痛 風 と いう 病 気 があ り 、 こ れ も大 酒 家 に多

 ア ル コ ー ル と 痛 風  足 の拇

いと いわ れ て いま す。 痛 風 は血 液 の尿 酸 濃 度

五mg /d︶ lが 八 ・○mg/d 以l 上 にな る と 、 尿 酸 が 結 晶 と な って組 織 内 に沈 着 し 、 関 節 や 腎 臓 な ど の組 織 に物 理 的 な 損 傷 を 引 き起 こす 病 気 で す 。

  高 尿 酸 血 症 が あ っても 最 初 は 無 症 状 で す が、 こ れ が 何 年 か続 く と痛 風 発 作 が起 こ るよ う に な り ま

す。 尿 酸 が血 液 で 増 え る のは 肉 類 な ど に含 ま れ るプ リ ン体 の過 剰 摂 取 、 生 体 エネ ルギ ー の本 質 であ

る A T P ︵ア デ ノ シ ン三 燐 酸 ︶ の過 剰 消 費 、 腎 臓 か ら の尿 酸 排 泄 の低 下 な ど が 原 因 で す 。 肉 類 に

はプ リ ン体 が多 く 含 ま れ て い る の で痛 風 は 美 食 家 に多 いの で す が、 ビ ー ルを 好 む 人 に痛 風 が多 い の

は、 ビ ー ル に は 尿 酸 が 一〇 〇 ミリ リ ット ル当 た り 五 ミ リグ ラ ム 含 ま れ て い る た め と 考 え ら れ ま す 。

ア ル コー ルを 大 量 に摂 取 す る と 高 尿 酸 血 症 に な り ま す が、 そ の原 因 は 次 の よ う に説 明 さ れ て いま す。

ア ル コー ル が代 謝 さ れ る と酢 酸 が 増 え 、 そ れ を 処 理 す る過 程 で A T P が 多 量 に消 費 さ れ る ので 尿

酸 産 生 が 増 加 し、 飲 み過 ぎ に伴 う 摂 取 カ ロリ ー の増 加 は脂 肪 酸 か ら ケ ト ン体 へ の生 成 が起 こ り 血 液 が酸 性 にな る の で 、 腎 臓 か ら の尿 酸 排 泄 が 低 下 す る こ と な ど で す 。

  高 尿 酸 血 症 あ る い は痛 風 のあ る人 は 禁 酒 の上 、肉 類 を 減 ら す な ど食 事 に注 意 し ま す 。

  ア ル コー ル と 事 故 、 自 殺

  病 院 の救 急 外 来 、 救 急 セ ンタ ー に か つぎ 込 ま れ る 患 者 の中 に は、 飲 酒 者 の割 合 が 多 く 、 一〇 ％ は

下 ら な いで し ょ う 。 飲 酒 運 転 によ る交 通 事 故 、 酩 酊 に よ る転 倒 ・転 落 、 急 性 ア ル コー ル中 毒 な ど さ

ま ざ ま で す が 、 死 亡例 も しば し ば み ら れ ま す 。 死 因 別 に み る と 、 ア ル コー ル性 肝 硬変 に よ る 肝 不 全

や 吐 血 ・下 血 、 低 血 糖 発 作 ︵ア ル コー ル性 低 血 糖 や糖 尿 病 を 伴 った ア ル コー ル膵 炎 の低 血 糖 ︶ な ど

と 並 ん で急 性 ア ル コー ル中 毒 の頻 度 が高 く 、 つ いで ア ル コー ルを 飲 み過 ぎ て起 こ る転 落 ・転 倒 によ

る 頭 部 外 傷 、 溺 死 、 焼 死 、 凍 死 、 窒 息 死 な ど があ り ま す 。 急 性 心 不 全 や 脳 卒 中 も 少 な く あ り ま せん 。

全 交 通 事 故 のう ち 酒酔 い事 故 は 加 害 者 、 被 害 者 合 わ せ て約 一〇 ％ を 占 め て いま す 。

  ア ル コー ル依 存 症 と 自 殺 と の関 係 に つ い て は、 外 国 で は と く に多 いと いわ れ、 一般 の死 亡 者 の六

∼ 二〇 倍 で 、 自 殺 者 中 の ア ル コー ル依 存 者 の割 合 は 男 性 で 三割 、 女 性 で 一割 な ど と いわ れ て いま す 。

こ れ に対 し てわ が国 で はや や低 いと 考 え ら れ て いま し た が、 ア ル コー ル依 存 者 に み ら れ る自 己 破 壊

行 動 、 ア ル コ ー ル う つ病 と も いわ れ る 二 次 性 う つ病 な ど の た め 、 最 近 増 加 し て いる と も いわ れ て い ます。

第 ３ 章   アル コー ル依 存 症

 今 ま で は ア ル コー ル に よ る臓 器 障 害 に つ い て述 べて き

ま し た が 、本 章 で は ア ル コー ル によ る心 の障 害 と も いえ

るア ル コー ル依 存 症 に つ いて解 説 し た いと 思 いま す 。

  今 日、 わ が 国 に は 問 題 飲 酒 を起 こす ア ル コ ー ル依 存 症

が 二 三〇 万 人 以 上 も い て、 さ ら に若 者 、 女 性 、 老 人 の飲

酒 人 口 の増 加 が目 立 って いる こと か ら 、 ア ル コー ル依 存 症 の対 策 は 現 在 の大 き な 課 題 と な って いま す 。

1 

︵ 禁 断 )症 状 と は ？ 。

依存 症の身体依存と精神依存。

アル コール依 存症 の症 候 と診断

1 

自分でチ エツクできるアルコール依存症 テストが ある。

2  離脱 3 

も の です 。 ア ル コー ル以 外 に薬 物 依 存 を 示 す も の に ア ヘン、 モ ルヒ ネ な ど の麻 薬 、 コカ イ ン、 ア ン

で求 め ︵ 薬 物 探 索 行 動 ︶、 こ れ を 繰 り返 し 摂 取 す る こ と によ って 精 神 依 存 と 身 体 依 存 が 形 成 さ れ た

る薬 物 依 存 ︵ア ル コー ル依 存 ︶ が あ る 限 度 を超 え て病 的 にな った状 態 で 、 ア ル コー ルを 自 分 の意 志

ち問 題飲 酒 に な って は じ め て 、 ア ル コー ル依 存 症 と いえ ま す 。 つま り ア ル コー ルと いう 薬 物 に対 す

  飲 酒 が 自 分 の身 体 を む し ば み、 社 会 、 家 族 に迷 惑 を 及 ぼ し て い る こ と を 知 りな が ら 飲 む、 す な わ

せ ん 。 晩 酌 で も 時 間 や 場 所 、 飲 む 量 を 自 ら コン ト ロー ル で き て いれ ば 問 題 な いの で す 。

く いま す 。晩 酌 を 毎 日 や る こ と は す で に ア ル コー ル依 存 と いえ ま す が 、 こ れ 自 体 は病 気 で はあ り ま

せ 、 開 放 感 が え ら れ ス ト レ ス解 消 にも 効 果 が あ る こ と か ら 、 毎 日 欠 か さず 晩 酌 を や って い る人 が多

  ア ル コー ルは麻 酔 作 用 のあ る薬 物 で 脳 細 胞 を 麻 痺 さ せ ま す が、 少 量 の酒 な ら気 分 を リ ラ ッ ク ス さ

〈ポ イ ン ト〉

︵ ア ル中 ︶ と いう 言 葉 が 使 わ れ ま し た が、 これ は字 のご と く か ら だ に害 を

︵シ ン ナ ー な ど )、 ニ コチ ン ︵タ バ コ︶ な ど が あ る こ と は ご 承 知 の通 り です 。

フ ェタ ミ ン類 ︵ヒ ロポ ン な ど の覚 醒 剤 )、 マリ フ ァナ 、 幻 覚 発 現 薬 、 催 眠 ・鎮 静 ・抗 不 安 薬 、 揮 発 性 物質   以 前 は ア ル コー ル中 毒

及 ぼ す の意 味 で 、 今 ま で述 べ て き た臓 器 障 害 にあ た る も のと い って よ い でし ょ う 。 ア ル コー ル依 存

症 が あ っても 必 ず し も ア ル コー ル性 臓 器 障 害 が あ る と は限 り ま せ ん の で、 現 在 は こ れ ら の用 語 は区 別 し て 用 い て いま す 。

  現 在 日 本 人 は男 性 の九 割 、 女 性 の六割 が飲 酒 し 、 人 口 の半 数 以 上 の約 七 〇 〇 〇 万 人 が ﹁つきあ い

酒 ﹂、 ﹁晩 酌 ﹂ に し ろ ア ル コー ルを 飲 ん で い ま す が 、 純 エタ ノ ー ル 一五 〇 ミ リ リ ット ル ︵ 日本 酒換

算 六 ・八 合 以 上 ︶ を 毎 日 飲 ん で いる大 量 飲 酒 者 と いわ れ る 人 が 、 三 〇 〇 万 人 を越 え て いる と いう 統

計 も あ り ま す 。 これ ら の人 び と は ア ル コー ル依 存 症 の候 補 者 で す が 、 実 際 に は 二三 〇 万 人 以 上 の ア

ル コー ル依 存 症 の人 が いる と いわ れ て いま す。 若 年 者 や女 性 の飲 酒 者 の増 加 が 目 立 ち、 高 齢 社 会 を

迎 え淋 し い老 人 の飲 酒 が拡 大 す る こ と を 考 え る と 、 今 後 さ ら に ア ル コー ル依 存 症 が 増 加 す る こ と が 予想 されます。

  現 在 ア ル コー ル依 存 症 と し て治 療 さ れ て いる 人 は 二万 人 弱 で す が 、 ア ル コー ル臓 器 障 害 で治 療 中

あ る い は 症 状 が な い の で自 分 は そ う と は思 って いな い人 の中 に、 す で に 依 存 症 にな って い る も の ︵ 隠 れ依 存 症 ︶ が 相 当 数 い る こ と が 推 定 さ れ ま す 。

  ア ル コー ル精 神 病 と いう こ とば が あ り ま す が 、 こ れ は大 量 飲 酒 者 に み ら れ る 精 神 症 状 に注 目 し た

も ので 明 確 な疾 患 概 念 で は あ り ま せ ん 。 ア ル コ ー ル精 神 病 と し て 一般 的 に知 ら れ て いる 病 気 ま た は

︵ 禁 断 ︶ 症 状 の 一つと考 え ら れ、 ⑤ 、

病 態 の いく つか のも の を 表 28 に あ げ ま し た が 、 ほ と ん ど が ア ル コー ル依 存 症 を 基 盤 にし て起 こ る も の です 。 た と え ば 表 の② 、 ③ 、 ④ は ア ル コー ル依 存 症 の離 脱

⑥ 、 ⑦ は ア ル コー ル によ る脳 の器 質 的 障 害 の項 で す で に述 べ、⑧ 、 ⑨ 、⑩ は 特 殊 な病 態 で す。 以 上

は いず れ も 慢 性 飲 酒 に伴 う も の です が、 急 性 飲 酒 によ る著 し い健 忘 、 興奮 、 見 当 識 障 害 な ど が み ら

れ る病 的 酩 酊 は以 前 に説 明 し て あ り ま す の で、 こ こ に は含 め てあ り ま せ ん 。

表29  アル コー ル依存症 候群

  ア ル コー ル依 存 症 の診 断 は 、 そ れ に特 徴 的 な徴 候 であ る精 神 依 存 と身 体 依 存 によ って行 わ れ ま す

表28  アル コール精 神病

が 、 表 29 は世 界保 健 機 構 も のです。

  精 神依 存

︵W H O ︶ のア ル コー ル依 存 症 候 群 の定 義 に述 べ ら れ て い る内 容 を 示 し た

  精 神 依 存 と は酒 が な け れ ば気 分 が す ぐ れ ず 焦 燥 感 に お ち いり 、 いけ な い こ と と は 思 いな が ら つ い に飲 ん で し ま う と いう 状態 で す 。

か ら、 あ る い は 一日数 回 も 飲 酒 す る よ う にな り 酒 量 が 増 え、 ま た 飲 酒 行 動 の多 様 性 の減 弱 ︵ 単 純化

  まず 飲 酒 行 動 の変 化 が み ら れ ま す が、 飲 酒 量 、 飲 酒 時 刻 、 飲 酒 機 会 の抑 制 の減 弱 と 表 現 さ れ 、 朝

への収＝ ︶ と い って必 ず 酩 酊 す るま で飲 み 、 い つも 酒 を ひ と り で 飲 む な ど 、 飲 み方 が ワ ン パ タ ー ン

と な り ま す 。 飲 酒 量 や 飲 酒 機会 を 減 ら そ う と 努 力 す る が 、 飲 酒 欲 求 に耐 え か ね て す ぐ にも と に戻 っ

て し ま う こ と から は じ ま り 、 つ い に は 一度 飲 み はじ め る と切 れ 目 な く 飲 酒 を 続 け ま す ︵ 連 続飲 酒発

作 ︶。 あ る いは少 し 減 ら し て 飲 む 日 ︵ 節 酒 と いう 中 道 ) が な く 、 週 末 か ら 日 曜 に か け て徹 底 的 に飲

み 、 ウ イ ー ク デ イ は ま った く 飲 ま な い と いう よ う に、 完 全 断 酒 か 昼 夜 に わ た る 痛 飲 か と い った 二 つ の飲 酒 様 式 ︵ 山 型 飲 酒 サ イ ク ル︶ し かも ち え な く な り ま す 。

  さ ら に ア ル コー ル性 臓 器 障 害 があ っても 、 ま た 社 会 や家 庭 に迷 惑 を か け、 失 職 、 離 婚 な ど の恐 れ

があ っても 飲 酒 を 続 け ま す 。 こう い った 状 態 を負 の強 化 に対 す る飲 酒 反 応 の変 化 と い って いま す。

酒 に恋 を し た よ う にな り常 に酒 の こ と で 頭 が い っぱ いで仕 事 も 手 に つ かず 、 二 度 と 酒 を飲 む ま いと

決 心 し て も つ い飲 ん で し ま う ︵ 何 度 で も 禁 酒 宣 言 を す る ︶、 長 く 酒 を 止 め て いて も ほ ん の 一杯 口 に

す る だ け で飲 酒 渇 望 が起 こ り飲 み続 け る よ う にな る な ど 、 主 観 的 状 態 の変 化 が み ら れ ま す 。

  身体 依存

  酒 が 入 って い る と き は 一見 正 常 に み え る が 、 ア ル コー ル摂 取 を 止 め た と き 、 つま り ア ル コー ルが

体 内 か ら消 失 し て ゆ く と き に起 こ る中 枢 神 経 系 の過 剰 興 奮 状 態 のた め、 自 律 神 経 症 状 を は じ め さ ま

ざ ま な 精 神 神 経 症 状 が 現 れ る こ と を ア ル コー ル の身 体 依 存 と い いま す 。 これ ら の症 状 は飲 酒 に よ っ

て軽 減 な いし 消 失 し 、 こ れ が いわ ゆ る禁 断 症 状 と いわ れ て いた も の で す が 、 現 在 で は ア ル コー ル離 脱 症 候 群 と 呼 ん で いま す 。

  ア ル コー ル依 存 症 の多 く は本 人 は そ れ と 気 づ かず に、 日頃 何 ら か の離 脱 症 候 群 を経 験 し て いま す 。

一晩 の 睡 眠 は 短 いア ル コー ル の離 脱 に あ た り ま す が 、 翌 朝 何 と な く 落 ち着 かず 、 ち ょ っと し た 物 音

に驚 いた り 、 吐 き気 、 手 の ふ る えを 感 じ ま す が、 そ の日 の夕 方 か ら ま た飲 酒 す る と こ れ ら の症 状 は

消 失 し 、 翌 朝 ま た前 日 と同 じ 症 状 が現 れ る と い った 具 合 で す 。 常 習 飲 酒 者 で普 通 に仕 事 を し て い る

人 が何 ら か の病 気 で 入 院 す る と ︵ 断 酒 す る こ と にな る ︶、 思 いも か け な い離 脱 症 状 が起 こり 本 人 も 、 周 囲 も び っく り す る こ と が よ く あ り ま す 。

︵ 後 期 症 候 群 ︶ に区 別 さ れ ま す ︵ 図 21 ︶。

  ア ル コー ル離 脱 症 候 群 は 、 断 酒 後 早 期 に出 現 す る 小 離 脱 症 候 群 ︵ 早 期 症 候 群 ︶ と そ の後 に出 現 す る大 離 脱 症 候 群

  酒 を 止 め て 六 ∼ 七 時 間 は ふ つう何 も 症 状 は起 こ り ま せ ん が、 そ の後 手 指 、 眼 瞼 、 か ら だ の粗 大 で

不規則な ふるえ ︵ 振 戦 ︶ が 出 現 し 、 体 動 や 緊 張 で増 強 し ま す 。 同 時 に抑 う つ気 分 、 イ ラ イ ラ、 落 ち

着 か な い、 不 安 、 物 音 に対 し て敏 感 に な る な ど の不 快 な 症 状 を伴 いま す 。 こ れ ら の精 神 症 状 に加 え

  錯 覚 に は人 形 や 絵 の中 の人 物 が動 く な ど があ り ま す 。

聞 こ え る と い った も の が多 いよ う で す 。

に だ れ か が自 分 の悪 口 を いう 、 悪 だ く みを し て い る声 が

え る 幻 聴 は音 楽 が 聞 こ え る こ と な ど も あ り ま す が 、 と く

作 を繰 り返 します ︵ 虫 取 り動 作 ︶。 し な い音 や 声 が 聞 こ

多 く 、 自 分 の身 体 や寝 具 な ど か ら虫 を つま ん で 捨 て る動

る 、 虫 が体 中 を は いま わ るな ど の訴 え ( 小動物 幻視 ︶が

小 さ な 虫 な ど が 壁 を は って い る、 べ ツト の中 に入 って く

に人 の顔 が映 ると い った も の か ら 、 ネ ズ ミ 、 コウ モ リ 、

よ う にな り ま す 。 あ る は ず の な いも の が見 え る 幻 視 は窓

  一般 に禁 酒 後 二 四時 間 前 後 に は 幻 覚 、 錯 覚 が み ら れ る

さ ま し た り 、 早 朝 覚 醒 な ど の睡 眠 障 害 に陥 り ま す 。

れ ま す 。 と く に夜 間 激 し い発 汗 や 悪 夢 の た め 、 突 然 目 を

て 吐 き 気 、 食 欲 不 振 、 鳥 肌 、 発 熱 、 発 汗 、 脈 が 速 く 心臓 が ド キ ド キ す る な ど の自 律 神 経 症 状 が み ら

図21  アル コー ル 離 脱 症 侯 群

断 酒後 二日 以内 に痙 攣 が起 こ る こ と が あ り、 と く に明 る い光 を 目 に当 て る と 頻 発 し、 これ は ア ル コ ー ル て ん か ん と も いわ れ て いま す 。

 断 酒 後 三 ∼ 四 日 目 にな って起 こ る離 脱 症 状 は 激 し い精 神 運 動 症 状 を 示 す の で、 大 離 脱 症 候 群 と い

わ れ る由 縁 で す 。 中 で 最 も 重 いも の が ﹁振 戦 せ ん妄 ﹂ と いわ れ るも の で す 。 せ ん妄 と は意 識 レ ベ ル

が 低 下 し 、 興 奮 を 伴 い幻 覚 、 妄 想 が出 没 し 、 暴 れ た り 大 声 を 出 し た り す る状 態 で 夕 方 か ら夜 間 に か

け て多 く 出 現 し ま す 。 こ れ ら は い った ん 起 こ る と 二 ∼ 三 日続 き 、 そ の後 自 然 に消 失 し ま す が 、 こ の

間 に肺 炎 にな った り 、 暴 れ て怪 我 を す る と か、 高 熱 、 脱 水 症 状 を 起 こし 、 放 置 す る と死 亡 す る例 が あ り危 険 で す 。

  離 脱 症 状 は 一時 的 な も の で は あ り ま す が、 症 状 が消 え るま で の間 は入 院 の上 、 体 力 の消 耗 を 防 ぎ 、

栄 養 を 十 分 与 え 、 怪 我 や 肺 炎 の 予 防 を す る こと が大 切 で す 。 ア ル コ ー ル離 脱 症 候 群 は い つで も経 時

的 な 一連 の シリ ーズ で 出 現 す る わ け で は な く 、 早 期 離 脱 症 候 群 で 終 わ った り 、 重 症 例 で は いき な り 振 戦 せ ん妄 に入 って し ま う こ と も あ り ま す 。

  離 脱 症 状 が 出 て は じ め て ア ル コ ー ル依 存 症 と診 断 し た の で は 遅 す ぎ る の で、 も っと 前 の問 題 飲 酒

の時 期 に診 断 し、 禁 酒 す る こ と が 必 要 で す 。 ア ル コ ー ル依 存 症 を 自 分 で チ ェ ック す る方 法 が いく つ

か開 発 さ れ て いま す が 、 こ こ で は わ が 国 で 最 も 繁 用 さ れ て い る ﹁久 里 浜 式 ス ク リ ー ニン グ テ ス ト

︵K A S T ︶﹂ を あ げ て お き ま す ︵ 表 30 ︶。 連 続 飲 酒 、 何 ら か のア ル コ ー ル に よ る 身 体 症 状 、 家 族 や

周 囲 の人 が酒 を 止 め て欲 し い と思 って いる か な ど の項 目 が 基 本 に な って いま す 。 マイ ナ ス 五 点 以 下

表30  久里 浜 式 ア ル コー ル 依 存 症 ス ク リー ニ ング テ ス ト （KAST）

は全 く 問 題 は あ り ま せ ん が 、 ○ ∼ 二点 が 問 題 飲 酒 者 で、 二 ∼ 八点 は 要 注 意 、 八 点 以 上 は す で に依 存 症 と 判定 さ れ ま す 。

2 

アル コー ル依存 症 の治療 と 予後

節酒ではな く、断酒しかないアル コール依存症の治療。

2  治療には、家族の協力や断酒会などの集団治療が大切である。

3  依存症を克服しないと、早死にす る。

人 が 飲 酒 を再 開 し て し ま いま す 。 し た が って、 治 療 の重 点 目 標 は 治 療 への導 入 と再 発 予 防 に あ り ま

か く 入 院 治 療 を 受 け て も 、 退 院 後 断 酒 で き る人 は少 な く 、 一年 未 満 で五 〇 ％ 、 三 年 以 上 で七 〇 ％ の

ろ い ろな 方 法 が 試 み ら れ て お り ま す が 、 な かな か治 療 は 困 難 で す 。 ア ル コー ル依 存 症 の患 者 は せ っ

  嫌 酒 薬 の投 与 や断 酒 会 、 A A ︵ア ル コホ リ ク ス ・ア ノ ニ マス 、 匿 名 禁 酒 会 ︶ で の集 団 療 法 な ど い

以 外 に は な く 、 少 し ず つ酒 を 減 ら す 節 酒 法 で は成 功 し ま せ ん。

し た 。 こ の急 性 期 が過 ぎ て体 力 が 回 復 し た 後 の禁 酒 の難 し い こと が 問 題 で 、 治 療 の根 幹 は完 全 断 酒

点 滴 注 射 によ って脱 水 症 状 や 、電 解 質 バラ ン ス の補 正 が 容 易 にな り 急 性 期 の治 療 は 格 段 に進 歩 し ま

最 近 は抗 不安 剤 で あ る ジ アゼ パム 、 ニト ラ ゼ パ ム と いう 注 射 薬 が 特 効 的 に効 く こ と が わ か り 、 ま た

  離 脱 症 候 群 の代 表 で あ る振 戦 せ ん妄 は重 症 で、 以 前 は そ の死 亡 率 は 三 〇 ％ と いわ れ て いま し た が、

〈ポ イ ン ト〉

１

す 。 ア ル コ ー ル依 存 症 の患 者 は 病 識 が な く 、 依

存 症 で あ る こ と を 認 め よ う と し な い ので 、 まず

正 し い知 識 を 与 え 自 覚 を 促 す こ と が治 療 の第 一

歩 と な り ま す 。 つ い で断 酒 を 決 意 さ せ 、 そ れを

実行 させ ることが、大切 で、個人指導 や集団療

法 を 行 いま す 。再 発 防 止 の治 療 は最 も 困 難 で、

患 者 は も と よ り家 族 、 断 酒 会 、 A A、 ア ル コー

ル問 題自 助 グ ループ な ど す べ て の人 び と の粘 り

強 い協 力 が必 要 で す 。

  ア ル コ ー ル依 存 症 患 者 の平 均 寿 命 は 五 二∼ 五

三 歳 で 、 普 通 の 人 よ り 二 五年 も 早 死 にす る と い

肝 硬 変 が 最 も 多 く 、 事 故 や自 殺 に よ る 死 亡 率 が高 い のも 特 徴 です 。

が、 最 近 五 〇 歳 代 で相 つ い で死 亡 し た こと は記 憶 に新 し く 、 身 近 に感 じ る こ と で し ょ う 。 死 因 で は

若 く し て亡 く な る 人 が多 く 、 と く に 五 〇 歳 未 満 で は 一四倍 を 越 え て いま す 。 有 能 な 芸 能 人 の何 人 か

死 亡 倍 率 を 示 し た も の で す が 、 飲 酒 群 は 七 〇 歳 以 上 を 除 く す べ て の年 齢 層 で極 端 に死 亡 率 が 高 く、

う 統 計 が あ り ま す 。 図 22 は ア ル コー ル依 存 症 患 者 を 飲 酒 継 続 群 と断 酒 群 に 二 分 し 、 一般 人 と 比 べ た

図22  アル コ ール依 存 症 患者 の年 齢 別 死 亡倍 率

3 

アル コール依 存症 の成 立 メカ ニズ ム

1  ア ル コー ル 依 存症 への道 。

2  性格や体質だ けではなく、だれもが その危険性 を抱えている。

った メ カ ニズ ム が 解 明 さ れ れ ば 、 将 来 ア ル コー ル依 存 症 の予 防 や治 療 に応 用 さ れ る こ と にな る で し

ル モ ン様 物 質 ) と 結 合 し麻 薬 の ア ヘンと 同 族 の物 質 が生 成 さ れ る な ど が 推 定 さ れ て いま す 。 こ う い

す る特 殊 な 物 質 が から だ で つく ら れ る の で は な い か、 一例 と し て ア セト ア ルデ ヒ ド が タ ン パ ク ︵ホ

高 い こと が知 ら れ 、 ま た禁 酒 す る と前 項 で述 べた 離 脱 症 状 が 起 こ る こと か ら 、何 か依 存 形 成 に関 与

  ア ル コ ー ル依 存 症 の人 は 、 ア ル コー ル が分 解 さ れ る過 程 で生 ず る ア セト ア ルデ ヒ ド の血 中 濃 度 が

現状 です。

分 析 、 遺 伝 学 な ど の面 か ら 多 く の研 究 が さ れ て いま す が 、 ま だ は っき り し た結 論 は出 て いな いの が

質 が 関 係 し て いる の で し ょう か。 こ の点 に つ い ては 最 近 ア ル コー ル薬 理 の面 か ら 、 ま た性 格 、 心 理

  さ て 、 同 じ よ う に酒 を飲 ん で も、 ア ル コー ル依 存 症 に な る人 と な ら な い人 が いま す が 、 性 格 や体

〈ポ イ ン ト)

よう 。

  あ る研 究 で は ア ル コー ル依 存 症 の遺 伝 的 側 面 が強 調 さ れ て いま す 。 実 の親 が ア ル コー ル依 存 症 の

子 供 の 四分 の 一が依 存 症 にな る が 、 養 い親 が 依 存 症 の場 合 は 五％ に過 ぎ な い こ と か ら 、 環 境 要 因 よ

り も遺 伝 的 素 因 の影 響 が 強 いと の研 究 結 果 が あ り ま す 。 ア ル コー ル依 存 症 の親 を 持 つ子 供 は そ の悲

劇 的 な 状 況 を よ く 知 って いま す ので 、 自 分 だ け は絶 対 に依 存 症 に はな る ま いと 思 って い る が、 つい

な って し ま う 、 ま た 女性 は 最 も結 婚 し た く な い と思 って いる はず の依 存 症 の男 性 と結 婚 す る な ど 、

不 思 議 な現 象 が み ら れ る と いわ れ て いま す 。 いず れ にし ても 親 が 大 酒 家 の子 供 は、 ア ル コー ル には 人 並 み以 上 の注 意 が必 要 だ と いう こ と に な り ま す 。

  性 格 的 に は 他 人 を 気 にし て自 分 の主 張 を は っき り言 え ず 、 い つも ニ コ ニコ他 人 に 接 す る人 、 日 頃

は よ く 仕 事 を し 頑 張 り や であ る が 突 っ張 り 、 高 望 み 、 惚 れ 込 み タ イ プ で、 う ま く いか な い と自 分 を

Chilとdい rっ en て︶ 、 ア ル コー

責 め て自 分 の主 張 や怒 り を 押 さ え 込 む よ う な 人 に ア ル コ ー ル依 存 症 が 多 いと さ れ て いま す 。   こ の よ う な性 格 の人 た ち は ア ダ ルト チ ル ド レ ン (AC：Adult

ル依 存 症 の親 を も つ家 庭 で 育 った 子 供 が 、 つね に飲 酒 を めぐ る家 庭 の緊 張 感 に さ ら さ れ 、 耐 え る こ

と を 身 に つけ 、 こ の よ う な 性 格 にな る と いわ れ て いま す 。 A C は ま た ア ル コー ル依 存 症 だ け で な く 、

そ のほ か仕 事 依 存 、 ギ ャ ンブ ル依 存 、 暴 力 な ど 問 題 のあ る家 庭 に育 った 子 供 で 、 自 己 を 表 現 で き ず

学 校 や 社 会 で の人 間 関 係 が ス ム ーズ に つく れ な いも のも 含 ん で いま す 。 A C が ア ル コー ル依 存 症 に

お ち い る過 程 は よく 理解 で き ま す が 、 ど ん な 人 で も大 量 飲 酒 を 続 け れ ば ア ル コ ー ル依 存 症 にな る危

険 を 抱 え て い る と い ってよ いで し ょう 。

  動 物 実 験 で は、 一日中 ア ル コー ル が切 れ な い よ う大 量 の ア ル コ ー ル を飲 ま せ る と 、 ネ ズ ミ で は 数

日 、 サ ルで は 四 週 間 で ア ル コー ル依 存 症 を つく れ ま す 。 人 間 で も 一日 五合 以 上 の酒 を 飲 み続 け ると 早 い人 で約 五 年 で ア ル コー ル依 存 症 が成 立 す る と さ れ て いま す 。

4 

と くに女 性 のアル コー ル依存 症 の特徴

増加する女性のアルコール依存症。

︵ 56 ∼

  働 く女 性 の社 会 進 出 も あ って女 性 の飲 酒 者 が増 え ま し た が 、 とく に問 題 に な る のは 昼 間 か ら 酒 を

ル や ア セ ト ア ルデ ヒ ド を 長 く 血 中 に留 め 、 肝 障 害 や 依 存 症 を起 こし や す い か ら で す 。

58 頁 ︶ で述 べ た通 り で す 。 つま り 女 性 ホ ル モ ン は ア ル コー ルを 分 解 す る諸 酵 素 を 阻害 し 、 ア ル コ ー

のよ う な 男 女 差 が み ら れ る の は 女 性 ホ ル モ ン の関 与 が あ り 、 く わ し く は 医 学 的 基 礎 知 識 の項

存 症 に な り ま す が、 女 性 は そ の半 分 の 一〇 年 以 内 で これ ら の病 気 にな る こと が知 ら れ て いま す 。 こ

量 の ア ル コー ル で も 女 性 は男 性 よ り そ の害 を 受 け や す く 、 男 性 で は 飲 酒 期 間 約 二〇 年 で 肝 硬 変 や 依

  ア ル コー ル依 存 症 に女 性 の占 め る割 合 は 、 年 々増 え 、 最 近 は 七 ∼ 一〇 ％ と いわ れ て いま す 。 同 じ

問 題 にな って いま す が 、 そ れ に は いく つか の特 殊 性 が あ り ま す ので 、 項 を改 め 説 明 し ま す 。

  最 近 いろ い ろな 事 情 か ら 女 性 の飲 酒 者 が増 え 、 ア ル コー ル依 存 症 を 含 め女 性 の ア ル コー ル障 害 が

3  キ ッチ ンド リ ン カ ー。

2  女性は少量か つ短期間でアルコールの害を受けやすい。

1 

〈 ポイント〉

飲 む機 会 の多 い家 庭 の主 婦 に みら れ る ア ル コー ル依 存 症 (キ ッチ ン ド リ ン カ ー ) で す 。 女 性 が ア ル

コー ル依 存 症 に な る き っか け は 男 性 と 異 な り、 次 の三 つに 区 分 さ れ る と いう 考 え が あ り ま す 。

︵ 拒 食 症 、 過 食 症 ︶ を 経 験 し た 人 に多 く 、 とく に拒 食 症 ・過 食 症 のあ った 女 性 の二 〇 ％

  一つは 二〇 代 前 半 で失 恋 な ど 異 性 関 係 が う ま く も てな い人 で 、 ス ム ー ズ に大 人 にな れ な い過 保 護 や摂食障害 が ア ル コー ル依 存 症 にな る と いわ れ て いま す 。

が 多 い時 期 で も あ り ま す が、 子供 の手 が離 れ 、 夫 と の夫 婦 関 係 も 冷 え や す く 、 ま た 姑 と の ト ラ ブ ル

  二 つめ は 三 〇 代 後 半 で 、 こ の年 代 が最 も 多 く 、 一つの ピ ー ク にな って いま す。 家 庭 内 の ス ト レ ス

な ど イ ラ イ ラ や 寂 し さ を 紛 ら わ そ う と し て シ ョ ッピ ング 依 存 、 過食 依 存 、 パ チ ン コ依 存 な ど と 並 ん

で飲 酒 習 慣 が 身 に つく の でし ょう 。 か つて は 夫 婦 と 子 供 で営 ん で い た愛 の巣 が、 夫 は 仕 事 と付 き 合

い中 心 の生 活 、 子 供 は 自 立 志 向 が 強 く 、 空 っぽ に な った 巣 に ひ と り 主 婦 だ け が ぽ つね ん と取 り残 さ

れ て し ま う状 態 を" 空 の巣 症 候 群" と呼 ぶ 人 も いま す 。 以 前 は こ の年 代 の女 性 の ア ル コー ル依 存 症

は水 商 売 の経 験 者 に限 ら れ て いま し た が、 最 近 は キ ッチ ン ド リ ンカ ーを は じ め 一般 の家 庭 の主 婦 の

間 で増 加 し て い る こ と は 、 彼 女 ら が い か に 日 頃 寂 し い生 活 を 送 って いる か 理解 さ れ ま す 。

  三 つめ は五 〇 歳 を 過 ぎ てか ら で 、 こ の時 期 は 更 年 期 と いう 問 題 か ら 愁 訴 が 多 く な る 上 に、"空 の

巣" 状 態 が さ ら に進 行 し寂 し く な る 一方 、 女 性 ホ ル モ ン の減 少 で 酒 に強 く な り 大 量 飲 酒 を す る よ う にな る と いう 状 況 が あ る わ け です 。

  こ のよ う に いず れ の場 合 も 女 性 が人 間 関 係 の中 で傷 つき 、 不 安 で寂 し いと き に飲 み だ す わ け で、

寂 し さ を 紛 ら わ す た め の飲 酒 は危 険 で す。 ア ル コー ル に頼 らず 、 趣 味 や友 達 、 仲 間 と と も に社 会 活 動 に生 き が いを 見 いだ す こ と が 望 ま れ ま す 。

あとがきにかえて︱

ア ル コー ル の 上 手 な 飲 み 方

  こ れ ま でア ル コー ル に関 す る 医 学 的 基 礎 知 識 、 つい で ア ル コー ル によ って起 こ る さ まざ ま な 障 害

や 病 気 に つ いて述 べ て き ま し た 。 本 稿 を終 わ る に当 た って 酒 の害 か ら身 を 守 り、 楽 し く よ い酒 を 飲 む方 法 と い った も の に つ いて ま と め て みた いと 思 い ま す 。

  ま ず自 分 の飲 ん だ 飲 酒 量 を 把 握 す る た め ア ル コー ル飲 料 の 一単 位 を 知 って お く こ と で す 。 一単 位

は純 ア ル コー ル二 ○ ∼ 二 五 グ ラ ム で 、 た と え ば 日 本 酒 一合 、 ビ ー ル大 び ん 一本 、 ウイ ス キ ー ダ ブ ル

一杯 にそ れ ぞ れ 相 当 し ま す 。 ど ん な 人 でも 一日 一六 〇 グ ラ ム以 上 のア ル コー ルを 五 ∼ 一〇 年 以 上 連

日飲 め ば 必 ず 何 ら か の ア ル コー ル障 害 を 起 こし ま す 。 し た が って安 全 な 飲 酒 量 は そ の半 分 の 八○ グ

ラ ム 以 内 と な り ま す が 、 積 算 飲 酒 量 ︵一生 の間 に飲 め る 量 ︶ は ア ル コー ル六 〇 〇 キ ログ ラ ム以 内 で

す 。 す な わ ち も し 毎 日飲 む な ら 一日 ア ル コー ル 二単 位 が 限 度 で 、 そ れ以 内 に留 め る と 四 〇 年 近 く 酒

を 楽 し め る勘 定 に な り ま す 。 こ の程 度 の量 で あ れば ア ル コー ル耐 性 や いろ い ろな 臓 器 障 害 を 起 こ さ

な い です み 、 善 玉 コ レ ス テ ロー ルを 増 や し 動 脈 硬 化 の予 防 に も な る で し ょう 。

  気 分 よ く酔 う に は "ほ ろ 酔 い" 状 態 を 保 つ こ と が 必 要 で す 。 こ の場 合 のア ル コー ル血 中 濃 度 は

○ ・ 一％ が 限 度 で、 個 人 差 は あ り ま す が、 一般 的 には 一時 間 を かけ て ア ル コー ル飲 料 二単 位 を飲 め ば こ の濃 度 にな り ま す 。

  週 二日 以 上 酒 を 飲 ま な い日 ︵ 週 休 二 日 の休 肝 日 ︶ を つく る こ と が 勧 め ら れ て いま す が 、 こ れ は 大

い に意 味 の あ る こ と で す 。 ま ず 酒 を コ ント ロー ル し て飲 む こ と が で き る わ け で耐 性 を 起 こ さず ア ル

コー ル依 存 症 の防 止 に も な り 、 さ ら に積 算 飲 酒 量 を そ れ だ け減 ら す こ と が で き る効 果 が あ り ま す 。

休 肝 日 の間 に 肝 臓 の脂 肪 が と れ、 荒 れ た 胃 粘 膜 の回 復 にも な り ま す 。 し か し 週 休 二 日 を 守 って も後

の五 日 は 大 酒 を飲 ん だ の で は 積 算 飲 酒 量 か ら み て、 な ん にも な り ま せん 。 つま り 毎 日飲 ん でも 、 少 量 で あ れ ば と り た て て休 肝 日 を 設 け る 必 要 は な いわ け で す 。

  チ ャ ンポ ン で飲 む の は か ら だ に よ く な い、 悪 酔 い す る と いわ れ て いま す が 、体 内 に 入 る ア ル コー

ル の総 量 が 問 題 で あ って、 チ ャ ンポ ンそ の も の は 医 学 的 に み て決 し て悪 いこ と で はあ り ま せ ん 。 た

だ チ ャ ンポ ン は酒 の種 類 が変 わ る こ と によ って 、 ま た飲 ん だ 分 量 も わ か ら な く な り つ い飲 み 過 ぎ て し ま う か ら よ く な い の です 。

み 方 は と ん で も あ り ま せ ん 。宴 会 が多 いと き は つぎ 役 に ま わ る と か、 人 と 話 を す る こ と に 主 眼 を お

  自 分 の か ら だ に合 った 酒 の適 量 を ゆ っく り飲 む べき で、"イ ッ キ飲 み" や 駆 け つけ 三杯 な ど の飲

き 、 ま た カ ラ オ ケ も よ い で し ょう 、 な る べく 飲 ま な い工 夫 を す る こ と で す 。

  ウ イ ス キ ー な ど ア ル コ ー ル濃 度 の高 い酒 は 水 割 り 、 日 本 酒 は〓 で飲 む こと を 勧 め ま す 。 濃 い酒 は

食 道 、 胃 粘 膜 を 刺 激 し て充 血 、 た だ れ 、 潰 瘍 な どを 生 じ 、 吐 き気 、 腹 痛 、 吐 血 な ど の原 因 と な り ま

す 。 冷 酒 で も 熱 燗 で も 胃 の中 に入 れ ば 同 じ です が、 冷 酒 は 口 あ た り が よ く飲 みや す く 、 つ い量 を 過 ごし てしまう欠点 がありま す。

  空 腹 時 には 胃 粘 膜 を お お う も の がな い の で、 酒 を 飲 む と ア ル コー ルの 吸収 が速 く血 中 濃 度 が急 に

上 が り酔 いや す く な り 、 ま た 胃 粘 膜 に も負 担 を か け ま す 。 食 べな が ら飲 む こ と は胃 粘 膜 を 保 護 し 、

ま た ア ル コー ル の胃 腸 か ら の吸 収 を 遅 ら せ 、 肝 臓 に お け る ア ル コー ル の分解 も促 進 さ せ る利 点 が あ

りま す 。 ア ル コー ル代 謝 にか か わ る諸 酵 素 の素 材 と な る タ ン パ ク質 や ビ タ ミ ンを補 給 す る た め にも 、

いろ いろ な 料 理 を と り 合 わ せ て食 べる こと が必 要 で す 。 ま た 夜 飲 む 機会 のあ る と き は そ の 日 の朝 食

や昼 食 は 十 分 と って栄 養 を 補 給 し て お く べ き で し ょう 。 宴 会 の後 な ど に は よ く 果 物 が 出 ま す が 、 そ

の中 の果 糖 は ア ル コー ル代 謝 を 速 め る の で、 これ は と った ほ う が合 理 的 です 。

  し かし ア ル コー ル は食 欲 を亢 進 さ せ る の で 、 食 べ過 ぎ る こ と は カ ロリ ー オ ー バ ー と な り 、 肥 満 を

助 長 し ま す ので 禁 物 で す 。 日 本 酒 一合 、 ビ ー ル大 び ん 一本 、 ウ ィス キ ー ダ ブ ル 一杯 は そ れ ぞ れご 飯

一杯 、 大 盛 り 一杯 、 軽 く 一杯 分 の カ ロリ ー が あ る の で 、 こ の点 も考 え な が ら つま みを と る べ き で 、

飲 ん だ 後 の お 茶 漬 け、 ラ ー メ ンな ど は カ ロリ ー の と り過 ぎ に つな が り ま す。 か ら だ を 横 にし て休 む

と肝 臓 の血 流 量 が 増 え 、 ア ル コー ルを 速 く 分解 す る の で 、 飲 ん だ ら 早 く 寝 る こと で す 。

  不 眠 症 に悩 む 人 が多 い です が、 酒 を 睡 眠 薬 代 わ り に飲 む の は感 心 し ま せ ん 。 少 量 の ア ル コー ルは

興 奮 作 用 が あ り 、 ま た 利 尿 効 果 で ト イ レに行 き たく な り 、 か え って眠 れ な く な り ま す 。 本 当 に眠 る

た め に は か な り 大 量 の飲 酒 が必 要 にな り、 これ が き っか け に な って ア ル コー ル依 存 症 や 臓 器 障 害 を

起 こす 人 が少 な く あ り ま せん 。 眠 れ な いと き は 酒 に頼 る よ り精 神 安 定 剤 を服 用 し た ほ う が 安 全 で す 。

  酒 飲 み は薬 が 効 き にく い反 面 、 薬 と 酒 を 一緒 に飲 む と 、 薬 が効 き 過 ぎ て危 険 で す ので 厳 禁 で す 。 く わ し く は第 1 章 の 35 頁 で述 べま し た 。

  最 近 酔 いが 早 く な った 、 酔 いが い つま で も残 る、 飲 ん だ 翌 日 前 夜 の記 憶 が と ぎ れ る な ど 今 ま で と

酔 い方 に変 化 が み ら れ る よ う に な った ら 注 意 が 必 要 で、 酒 を 減 ら し 検 査 を 受 け ま し ょう 。 酒 飲 み は

四〇 歳 を 過 ぎ た ら 、 と く に自 覚 症 状 が な く て も 定 期 健 診 を 受 け る べき で、 現 在 は 血 液 検 査 で 簡 単 に 肝 臓 の状 態 が把 握 で き ま す 。

  酒 を 飲 ん で は い けな い人 と し て① 何 ら か のア ル コー ル性 臓 器 障 害 を 指 摘 さ れ た 人 、 ② ウ イ ル ス肝

炎 な ど 現 に肝 臓 病 を わず ら って いる 人 、 ③ ア ル コー ル依 存 症 の人 、 ④ 妊 娠 を 希 望 す る あ る い は妊 娠

中 の 女性 、 ⑤ ア ル コー ル に弱 い体 質 の人 、 ⑥ 二 〇 歳 未 満 の青 少 年 な ど が あ げ ら れ ま す 。

  酒 酔 い運 転 によ る交 通 事 故 は後 を絶 ち ま せ ん が 、 少 量 のア ル コー ルで も" 飲 ん だ ら乗 る な" は ド

ライ バー の常 識 で す 。 自 分 で は大 し た こと と思 わ な く て も飲 酒 に よ って、 ま ず 見 え る範 囲 が 狭 く な

る視 力 障 害 ︵ 視 野 ト ンネ ル︶ が き ま す し 、 さ ら に反 射 運 動 能 力 が落 ち る の で、 標 識 板 や歩 行 者 の誤 認 、 ブ レー キ の踏 み遅 れ で大 事 故 に つな が り ま す 。

  ア ル コー ル は上 手 に飲 む と 精 神 や肉 体 の健 康 にも 効 用 が あ り ま す が 、 度 を 過 ご す と い ろ いろ な 臓

器 障 害 、 依 存 症 、 事 故 な ど を起 こ し ま す 。 今 ま で述 べ て き た 酒 の正 体 や 害 を 科 学 的 に理 解 し 、 楽 し く 、 よ い酒 を 飲 ん で い た だ き た い と思 いま す 。

  本 書 のた め に多 く の方 々 の論 文 や著 書 を 参 考 にさ せ て いた だ き ま し た 。 本 来 な ら そ のす べて を 巻

末 に載 せ感 謝 を 表 す べ き で す が 、 学 術論 文 で は な い の で省 略 さ せ て いた だ き ま し た 。 本 書 の完 成 に

は信 濃 毎 日 新 聞 社 の飯 島 裕 一記 者 、 ま た 紀 伊 國 屋 書 店 出 版部 の水 野寛 氏 に大 変 お 世 話 に な り 、 謝 意

を 表 し ま す 。 ま た イ ラ ス ト を 描 いて いた だ いた 水 野 み ど り さ ん に感 謝 いた し ま す 。 最 後 に本 書 は長

野 県 の地 方 紙 ﹁長 野 日 報 ﹂ に平 成 二 年 に連 載 し た 原 稿 を も と に、 最 近 の知 見 を 加 え て全 面 的 に書 き 改 め た も ので あ る こ と を お断 り し ま す 。

■ 著

長田 敦夫

者 ： 

1938年 長 野 県 生 まれ 。1965年 信 州 大 学 医 学 部 卒 業。1966年 信 州 大 学 医 学 部 第 二 内 科 所 属 、 消 化 器 内科 学

（と くに肝 、膵 疾 患 ） 専 攻。 信 州 大 学 医

学部 助 手 、 講 師 、 助教 授 、 諏 訪 赤 十字 病 院 副 院 長 を 経 て 、1997年 よ り国 立 長 野 病 院 院 長 、現 在 に 至 る。 医 学 博 士 。 信州 大 学 医 学 部 講 師 （ 委 嘱 ）。 また学 会 関 係 で は 日本 消 化 器 病 学 会 、 日本 膵 臓 学 会 、 日本 肝 臓 学 会 （東部 会 ）、 日本 ア ル コー ル ・ 薬 物 医学 会 の評 議 員 。 主 な著 書 に 「新 内科 学 体 系 」、 「新 消 化 器 病学 」 （ 分担 執 筆 ） な ど。

酒 を愛 す る専 門 医 が教 える

ア ル コ ー ル の 健 康 学 1999年1月23日 

第1刷 発 行〓

発行所 株式 会社 紀伊 國屋書 店 東 京 都 新 宿 区 新 宿3‐17‐7 電 話  03（3354)0131(代

表)

出 版 部(編 集)電 話03(3439)0172 ホ ー ル 

部(営 業)電 話03(3439）0128 セ ール 

東 京都 世 田谷 区 桜 丘5‐38‐1 郵 便番 号   156‐8691

装幀 芦 澤泰 偉 〓

ATSUO

NAGATA,1999

1SBN4‐314‐00831‐8C0036 Printed

in Japan

印刷 ・製本 中央精版印刷