体 力づ くりの ため の
スポー ツ科 学
湯浅景 元 青木純 一郎 福 永哲 夫 編
朝倉書店
執筆者 湯 浅 景 元 中京大学教授 室 伏 重 信 中京大学教授 梅 村 義 久 中京大学教授 平 田 敏 彦
...
31 downloads
433 Views
8MB Size
Report
This content was uploaded by our users and we assume good faith they have the permission to share this book. If you own the copyright to this book and it is wrongfully on our website, we offer a simple DMCA procedure to remove your content from our site. Start by pressing the button below!
Report copyright / DMCA form
体 力づ くりの ため の
スポー ツ科 学
湯浅景 元 青木純 一郎 福 永哲 夫 編
朝倉書店
執筆者 湯 浅 景 元 中京大学教授 室 伏 重 信 中京大学教授 梅 村 義 久 中京大学教授 平 田 敏 彦
岡山県立大学短期大学部教授
勝 亦 紘 一 中京大学教授 松 岡 弘 記
愛知大学助教授
石 井 直 方 東京大学教授 村 岡
功 早稲田大学教授
殖
田
友
子
杉
浦
克
己
ミユー ズスポー ツ栄養 ネッ トワー ク代表 明治製 菓ザバ ススポー ツ&ニ ュー トリシ ョン ・ラボ所 長
高 梨 泰 彦 中京大学講師 大 西 範 和 愛知みずほ大学助教授 前 田
明 秋田大学医学部助手
生 山
匡 山野美容芸術短期大学教授
吉 田 弘 法
足利工業大学助教授
大 澤 清 二 大妻女子大学教授 菊 地
潤 日本女子体育大学助手
加 賀 谷 淳 子 日本女子体育大学教授 大 平 充 宣 鹿屋体育大学教授 伊 藤 博 之
聖路加国際病院
(執筆 順)
まえがき
学 生 時 代 は,ま
さ に 「お お い に 学 び,お お い に 遊 ぶ 」 こ とが で き る時 間 で あ
る.高 校 ま で とは 異 な り,好 き な分 野 の 学 問 を集 中 して勉 強 す る こ とが で き,ま た ア ル バ イ トな ど を通 じて 人 間 関 係 や 社 会 の 仕 組 み を学 ぶ こ と もで き る.友 人 ら と ス ポー ツや 旅 行 を楽 しむ 機 会 も増 え,さ
ま ざ ま な経 験 を通 じて生 き る力 を養 う
こ とが で き る. と こ ろ で,学 ぶ ため に も遊 ぶ た め に もそ れ な りの 体 力 が 必 要 で あ り,体 力 が 不 足 して い る と思 い 切 り学 ぶ こ と も遊 ぶ こ と もで き な い.生 るに は,体
き生 き と学 生 時 代 を送
力 を 養 っ て お か なけ れ ば な らず,そ の た め に は正 し い知 識 を持 って,
適 切 な方 法 で運 動 す る こ とが た いせ つ で あ る. か つ て,「 運 動 は 苦 し い ほ ど効 果 が あ る」 とか 「運 動 中 に水 を飲 む と ス タ ミナ が な くな る」 とい うこ とが信 じられ て い た 時代 が あ っ たが,ス して き た現 在 で は,こ
ポー ツ科 学 が 発 達
の よ う な方 法 は か え っ て体 力 を低 下 させ る こ とが わ か って
い る.運 動 は適 切 に 行 え ば体 力 を高 め る効 果 が あ るが,間 違 っ た方 法 で行 う と体 力低 下 や ス ポー ツ 障 害 の 原 因 と も な る. この テ キ ス トで は,主 の知 識 と,正
に 学 生 を対 象 と して,体 力づ く りに 必 要 な ス ポー ツ科 学
しい 運 動 方 法 を紹 介 した.多
くの 若 者 た ちが こ こに 書 か れ て い る こ
と を理 解 し,適 切 な 方 法 で運 動 を実 践 す る 習慣 を身 に つ け,有
意 義 な生 活 を送 る
こ とが著 者 た ち の 願 い で あ る. 最 後 に,本 書 の 出 版 に あ た り多大 な御 助 力 をい た だ い た朝 倉 書 店 の方 々 に,心 か ら感 謝 の 意 を 表 し た い. 2001年3月
編
者
目
次
Ⅰ 学生 と体 力 1 一 生 に お け る大 学 時 代 の体 力 1.1 人 間 の一 生
(湯浅 景 元) 2
2
1.2 大 学 時代 の体 力
2
1.3 大 学 時代 の体 力 トレー ニ ン グ
4
2 大 学 生 の ラ イ フ ス タ イル と体 力 2.1 大 学 生 の ラ イ フ ス タ イ ル 2.2 大 学 生 の健 康 状 態 2.3 大 学 生 の 食 生 活 2.4 大 学 生 の 運 動 習 慣
(湯 浅 景 元)
7
7
7 11 12
2.5 大 学 生 の 飲 酒 ・喫 煙 と体 力
13
Ⅱ 体 力 づ く り の た め の トレ ー ニ ン グ 3 筋 力 を 強 くす る た め の トレ ー ニ ン グ 3.1
ど う して 筋 力 を強 く しな け れ ば い け な いの か
3.2 筋 力 は ど の よ う に し て 高 め る の か 3.3
16
(梅 村 義 久)
27
(平 田 敏 彦)
35
16
19
日常 生 活 の 中 に 筋 力 ア ッ プ を 試 み る
20
4 骨 を 丈 夫 に す る た め の トレ ー ニ ン グ 4.1 骨 と運 動
(室 伏 重 信)
27
4.2 骨 の 代 謝 と メ カ ニ カ ル ス トレ ス
28
4.3 骨 を 丈 夫 に す る ト レ ー ニ ン グ
33
5 持 久 力 を 高 め る た め の トレ ー ニ ン グ 5.1持
久 力 と は
35
5.2持
久 力 の 発 達 と ト レ ー ニ ン グ効 果
36
5.3持
久 力 を 高 め る た め の トレ ー ニ ン グ
40
6 柔 軟 な 体 を つ く る た め の ト レー ニ ン グ 6.1 柔 軟 な 体 に つ い て
(松 岡 弘 記)
56
(湯 浅 景 元)
67
46
7 敏 捷 性 を 高 め る た め の トレ ー ニ ン グ 56
7.2 「敏 捷 性 が 高 い 」 と は 7.3 敏 捷 性 を 高 め る 方 法
57 57
8 肥 満 の 予 防 や 解 消 の た め の トレ ー ニ ン グ 8.1 肥 満 と は
45
45
6.2 柔 軟 な 体 を つ く る ト レ ー ニ ン グ
7.1 敏 捷 性 と は 何 か
(勝 亦 紘 一)
67
8.2 な ぜ 肥 満 を 予 防 ・解 消 す る の か 8.3 な ぜ 肥 満 に な る の か
68
70
8.4 肥 満 の 予 防 や 解 消 の た め の トレ ー ニ ン グ
71
Ⅲ 体 力づ くりのための生活習慣 と食事 9 体 力 づ く り の た め の 食 事 9.1 運 動 と 栄 養(湯
78
浅 景 元)
9.2 筋 肉 づ く りの た め の 食 事 9.3 骨 づ く りの た め の 食 事 9.4
78 (石 井 直 方)
(梅 村 義 久)
ス タ ミナ づ く り の た め の 食 事
83 90
(村 岡
功)
9.5 疲 労 回 復 の た め の 食 事
(殖 田 友 子)
103
9.6 肥 満 解 消 の た め の 食 事
(杉 浦 克 己)
107
10 疲 労 を 回 復 す る た め の 休 養 法 10.1
疲 労 とは
10.2
疲労 回復の方法
(高 梨 泰 彦)113
113 114
11 体 調 を 整 え る た め の 水 分 補 給 11.1
身 体 の 中 の 水 ‐体 液
11.2 体 液 の バ ラ ン ス 11.3
発 汗 と脱 水
11.4
水 分 補 給 の こつ
(大 西 範 和)
122
(前 田
130
122
122
124 127
12 オ ー バ ー ト レ ー ニ ン グ の 予 防 12.1
95
オ ー バ ー トレ ー ニ ン グ と は
130
明)
12.2
オ ー バ ー トレ ー ニ ン グ 発 生 の 要 因
12.3
オ ー バ ー トレ ー ニ ン グ の 予 防
12.4
ま とめ
13
130
131
138
日焼 け の 予 防(生
山
13.1 紫 外 線 障 害 の 予 防 は 若 齢 期 か ら 必 要 13.2 皮 膚 の 構 造 と働 き
匡)
140
(吉 田 弘 法)
147
(大 澤 清 二)
156
潤 ・加 賀 谷 淳 子)
162
(大 平 充 宣)
169
(梅 村 義 久)
172
140
140
13.3 紫 外 線 の 種 類 と 皮 膚 へ の 影 響 13.4 紫 外 線 に よ る 日 焼 け,サ
ン バ ー ン と サ ン タ ン
13.5 紫 外 線 の 放 射 特 性(日
内 変 動,季
13.6
法,注
日 焼 け 予 防 の 原 則,方
141
節 差 な ど)
意 点
13.7 紫 外 線 の 影 響 に お け る 個 人 差
145
13.8 皮 膚 の 健 康 は 心 身 の 健 康 か ら
145
142 143
143
14 ケ ガ の 予 防 14.1
トレー ニ ン グ時 の ケ ガや 障 害 に つ なが る原 因
14.2
ケ ガ を予 防 す る ため の注 意 点
14.3
ケ ガ や 障 害 の 予 防 と解 消
15 飲 酒,喫
148
150
煙 と体 力 低 下
15.1
飲
酒
156
15.2
喫
煙
157
147
Ⅳ 女性 の体 力づ くり 16 月 経 と 運 動
(菊 地
16.1
月 経 の し くみ
162
16.2
月 経 周 期 に と も な う 身 体 の 変 化 と運 動
16.3
運 動 と月 経 異 常
164
165
17 運 動 に よ る 貧 血 の 防 止 17.1
貧 血 とは
169
17.2 運 動 に よ っ て お こ る 貧 血 と そ の 原 因 17.3 運 動 に よ る 貧 血 を 防 ぐに は 18 骨 粗鬆 症 18.1 骨 粗鬆 症 と は
172
169
171
18.2 若 い う ち か ら 予 防 を す る
172
18.3 骨 粗 鬆 症 を 防 ぐ た め の 運 動
173
18.4
骨 粗 鬆 症 を防 ぐた め の 栄 養
174
18.5
骨粗 鬆 症 を防 ぐた め の そ の 他 の 生 活 習慣
174
19 妊 娠 と 運 動 19.1 妊 婦 の 生 理
(伊 藤 博 之)176 176
19.2 妊 婦 の 運 動 処 方
177
19.3 妊 婦 ス ポ ー ツ の 効 果 19.4 将 来 へ の 展 望
181
181
Ⅴ 生涯 にわ たる体 力づく り 20 家 庭 で で き る 体 力 づ く り 20.1 エ ア ロ ビ ク ス
184
20.2
レ ジス タ ン ス
187
20.3
ス トレ ッチ ン グ
21.1
体 力 づ く り を 目指 し た ス ポ ー ツ の 習 慣 化
21.2
生 涯 に わ た る 体 力 づ く りの た め の ス ポ ー ツ
引
(湯 浅 景 元)
184
(湯 浅 景 元)
193
190
21 ス ポ ー ツ を利 用 し た 体 力 づ く り
索
193 193
201
Ⅰ 学 生 と体 力
1 一生 における大 学時代 の体力
1.1 人 間 の 一 生 人 間 は 誕 生 か ら死 まで の 間,あ
る年 数 を生 き る.こ の 年 数 を寿 命 とい う.日 本
人 の 寿 命 は 平 均 す る と男 性 で は77歳 以 上,女
性 で は83歳 以 上 に達 して い る.こ
の 長 い年 数 の 間 に,私 た ちは 体 の構 造 や 機 能 が 発 育 す る時 期,成
熟 す る時 期,そ
して 老 化 す る時 期 を経 験 す る.人 間 が 一 生 に わ た って健 康 で充 実 した生 活 を送 る た め に は,そ れ ぞ れ の 時期 に 合 っ た方 法 で運 動 を行 い,栄 養 を摂 取 す る こ とが 必 要 で あ る. 大 学 生 は,思 春 期 か ら青 年 期 の 時 期 に あ た る(表1.1).こ
の 時 期 は,体
の大
き さや 体 力 な どの 発 育 発 達 が終 わ り成 熟 が 完 成 す る頃 で あ る.
1.2 大 学 時 代 の体 力 a.身 表1.1
人 間 の 一 生 の 年 齢 に よ る区 分(吉 川,19901))
長
身長 は,生 後 か ら伸 び 続 け て,男
子では
15歳 頃,女 子 で は14歳 頃 に ピー クに 達 す る(図1.1).こ
の と き に は,男 女 と も 出
生 時 身 長 の ほ ぼ3倍 後,40歳
に 達 し て い る.そ の
頃 ま で 身 長 の ピー クが 保 持 さ れ,
そ れ 以 降 は年 齢 と と も に 身長 が低 くな っ て い く.大 学 生 時代 の 身長 は ピー ク を維 持 す る時 期 で あ り,こ の 時 期 に 身長 が伸 び る こ とは あ ま りな い. 身 長 は,お
もに 骨 の 長 軸 方 向 の成 長 に よ
っ て影 響 され て い る.こ の 骨 の 成 長 の 度 合
図1.1
年齢 と身 長
図1.2 年 齢 と体 重
い は成 長 ホ ル モ ン に よ って 決 ま る.成 長 ホ ル モ ンが 活 発 に分 泌 され て い る思 春期 の 終 わ りま で は,骨 の 先 端 部 分 の 細 胞 が た え ず つ くられ て骨 が伸 び る.大 学 生 の 頃 に な る と,成 長 ホ ル モ ン の分 泌 が 減 っ て,骨 の 長 軸 方 向へ の成 長 は お こ らな く な り,身 長 の伸 び も止 ま る の で あ る. 男 子 大 学 生 の平 均 身 長 は171cm,女
b.体
子 大 学 生 の 平均 身 長 は158cmで
あ る.
重
体 重 は 身体 発 達 の 総 合 的 な指 標 で あ り,骨 格,筋
肉,脂 肪,内
な ど体 を構 成 す るあ らゆ る もの に 関 連 して い る.体 重 は14,5歳 して,出 生 時体 重 の お よ そ15∼16倍
に達 す る(図1.2).そ
臓,血
液,水 分
まで急激に増加
の 後,大 学 生 の 頃 ま
で体 重 に は大 きな 変 化 は 見 られ な い. しか し,体 重 は 後 天 的 な影 響 を受 けや す い.栄 養 過 多で 運 動 不 足 の生 活 状 態 が 続 く と,肥 満 とな って 体 重 は 増 加 す る.逆 に,栄 養 摂 取 が 不 足 し,運 動 が 過 剰 な 状 態 が 続 くと体 重 は 減 少 す る.体 重 は,栄 養 摂 取 量 や 運動 量 に よ っ て影 響 され る の で,日
頃 か ら適 正 体 重 を 維 持 す る よ うに 心 が け る こ とが 必 要 で あ る.
男 子 大 学 生 の 平 均 体 重 は63kg,女
c.持
久
子 大 学 生 の 平 均体 重 は53kgで
あ る.
力
持 久 力 は最 大 酸 素 摂 取 量 で 評 価 で き る.最 大 酸 素 摂 取 量 とは,単 位 時 間 あ た り に体 内 に 取 り入 れ て 利 用 で き る酸 素 の 最 大 量 をい う.最 大 酸 素 摂 取 量 は,男 女 と も15歳
頃 ま で は 急 上 昇 し,18歳
か ら,女 子 で は18歳
頃 ま で ピー クが 続 く.そ の 後,男
子 で は20歳
頃か ら最 大 酸 素 摂 取 量 は 低 下 しは じめ る(図1.3).持
は 大 学 生 の 頃 か らす で に低 下 が は じま る とい え る.
久力
図1.3
年 齢 と最 大 酸 素 摂 取 量
図1.4
年齢 と握 力
疲 れ に くい ス タ ミナ の あ る体 を維 持 す るた め に は,ウ オ ー キ ン グや ジ ョ ギ ン グ な ど を定 期 的 に行 うこ とが 必 要 で あ る.
d.筋
力
握 力 に つ い て み る と20歳 ま で は年 齢 と と もに 増 加 し,20歳 る.こ の ピー クは40歳
頃 まで 維 持 さ れ る(図1.4).背
歳 頃 に ピー クに な り,そ の ピー クは40歳
頃 に ピー ク に達 す
筋 力 は,握 力 と同様 に20
頃 ま で保 持 され る.
しか し,脚 力 に つ い て は20歳 以 降 は年 齢 と と もに しだ い に低 下 す る. 大 学 生 か らは,階 段 や 坂 道 の上 り下 りや ス クワ ッ トな どの 運 動 を意 識 して取 り 入 れ て,脚 力 の 低 下 を抑 え る よ うに す る こ とが 望 ま し い.
1.3 大 学 時代 の 体 力 トレ ー ニ ング a.運
動 不 足 に よ る体 力低 下 の解 消
男 女 と も,大 学 生 に な る ま で に あ らゆ る体 力 は一 生 の 中 で最 大 に発 達 す る.そ して,運 動 を定 期 的 に 続 け れ ば そ の ピー クは 大 学 生 時代 を通 じて維 持 され る.も し,運 動 不 足 の 状 態 が 続 け ば 若 者 で あ っ て も体 力 は低 下 して い く. 体 力 は,運 動 不 足 に よ って 衰 え た と して も,適 切 な トレー ニ ン グ を継 続 して 行 え ば も との レベ ル に戻 るだ け で な く,そ れ 以 上 に 高 ま る こ とが で き る とい う性 質 を も って い る.こ の 性 質 を利 用 す れ ば,受 験 準 備 な どで 大 学 入 学 まで の 間 に 運 動 不 足 で あ っ た 人 で も,適 切 な トレー ニ ン グ を 行 う こ とに よ って 体 力 を回復 させ, 維 持 す る こ とが で き る.
b. トレー ニ ング の原 則 体 力 の 維 持 向 上 の ため に トレー ニ ン グ を行 う と き は,安 全 で効 果 的 な方 法 で行 わ な け れ ば な らな い.そ
の た め に は,次
の よ うな トレー ニ ン グの 原 則 を守 る こ と
で あ る3,4). 1)漸
進性 の原則
トレー ニ ン グ を行 う と きに は,ま ず 日常 生 活 で 経験 す る よ りも少 し強 い 強度 か ら は じめ,体 が 運 動 に慣 れ るに した が っ て徐 々 に 運 動 強 度 を高 め て い く.こ れ を "漸 進 性 の 原 則"と い う .久 しぶ りに 運 動 を行 う と きに は,決 して 無 理 しな い で 軽 め の 運 動 か らは じめ る よ うに し よ う. 2)個
別性 の原則
トレー ニ ン グの 効 果 を安 全 に 引 き 出す に は,運 動 を行 う人 の体 力や 健 康 の状 態 や 好 み に 合 っ た 方 法 で行 わ な け れ ば な らな い.体 力 の低 い 人 は,強 度 も低 い レベ ル で運 動 を行 い,体 力 の 高 い 人 は 比 較 的 高 い 強 度 で運 動 す る のが よ い.自 分 の体 に 合 わせ て 強 度 を調 節 す る こ とが た いせ つ で あ る. また,運 動 種 目 も 自分 の好 み に 応 じて選 ぶ 方 が トレー ニ ン グ を継 続 しや す い. た とえ ば,持 久 力 を高 め る と きに は,歩 ば よ い.走
くこ とが 好 きな 人 は ウ ォー キ ン グ を選 べ
る こ とが 好 きな 人 は ジ ョギ ン グ で よ い.自 転 車 が 好 き な 人 は サ イ ク リ
ン グ で も よ い.大 学 生 時 代 は,い
ろ い ろ な ス ポー ツ種 目に 出会 え る時 期 で も あ
る.自 分 の好 み に 合 っ た ス ポー ツ種 目を 見 つ け て,運 動 を継 続 す る 習慣 を この 時 期 に 身 に つ け る こ とが 将 来 の体 力 維 持 の た め に もた いせ つ で あ る. 3)反
復性 の原則
トレー ニ ン グ の 効 果 は,運 動 を く り返 し行 う こ と を長期 間 継 続 しな け れ ば 現 れ な い.一 般 的 に は,ト
レ ー ニ ン グの 効 果 を得 るに は1週 間 に3∼5回
トレー ニ ン
グ を行 う こ と を数 ヵ 月継 続 す る必 要 が あ る. 4)全
面性 の原則
大 学 生 時 代 は 持 久 力,筋
力,柔 軟 性 な どほ ぼ あ らゆ る体 力 が一 生 で ピー ク に な
る時 で あ る.こ の 時 期 は,1つ
の 運 動 だ け行 うの で は な く,持 久 力 を高 め るエ ア
ロ ビ ク ス,筋 力 を強 化 す る レ ジ ス タ ン ス,柔 軟 性 を向 上 させ る ス トレ ッチ ン グ の 3種 類 の 運 動 を組 み 合 わせ て トレー ニ ン グ を行 い,体 力 全 般 を高 め る よ うに す る こ とが 重 要 で あ る.
〔 湯 浅景元 〕
参
考
文
献
1) 吉 川 政 巳:老
い と健 康,岩
波 書 店,1990.
2) 東 京 都 立 大 学 体 育 研 究 所:日 3) 湯 浅 景 元:よ
本 人 の 体 力 標 準 値 第4版,不
くわ か る ス ポー ツサ イエ ン ス,サ
4) 小 林 敬 和 編 著:か
らだづ く りの サ イエ ン ス,メ
昧 堂 書 店,1989
ニー サ イ ドア ップ,1989 トロ ポ リタ ン 出版,1999.
.
.
2 大学生 のラ イフスタ イル と体力
2.1 大 学 生 の ラ イ フス タ イ ル 大 学 生 の 日常 の 生 活 行 動 を調 査 した 結 果 が あ る(表2.1).平 眠 に7時 間,食 事 に1時 に0.5∼1時
間,勉 強 に1∼1.5時
日 を見 る と,睡
間,通 学 に1∼1.5時
間,レ
ジ ャー
間 を費 や して い る.
女 子 大 学 生 の 結 果 で は あ るが,生 活 パ ター ンの 調 査 結 果 の 報 告 もみ られ る(表 2.2).平
均 す る と3.8%が
学 生 の40%以
朝 型,40.3%が
昼 型,42.9%が
夜 型 で あ る.女 子 大
上 が 午 前0時 過 ぎに 就 寝 す る夜 型 の 生 活 パ ター ン で あ る.社 会 全
体 が 夜 型 の 生 活 パ ター ン に な っ て き て は い るが,人 間 に と っ て こ れ は 決 して 好 ま し くは な い.な ぜ な ら,地 球 の 自転 に と も な っ て 明 暗 は ほ ぼ24時 す る.そ れ を受 け て,人
間 は 日が 昇 る と 目覚 め,明
る い うち に 食事 を と り,勉 強
や 遊 び な どの 活 動 を行 う.一 方,日 が 沈 む と眠 りに 落 ち,体 息 を とる よ う に な る.人 間 の体 の働 きは,1日
間周期 で交代
は不 活 発 に な っ て休
を周期 とす る リズ ム に よ っ て 変 化
す る. 図2.1は,体 活 動 力,気
の さ ま ざ まな 働 きが 最 高値 を示 す 時 刻 を ま とめ た も の で あ る3).
分,記
憶 力 は真 昼 に 高 くな っ て い る.こ の こ とか ら学 習 は そ の 頃 に行
うの が 効 果 的 で あ る こ とが わ か る.ま た,活 動 力,体 温,脈
拍,換 気 量,血 圧,
酸 素 消 費量 な ど も真 昼 頃 に最 高値 を示 す こ とか ら,運 動 や 身 体 を使 う仕 事 も昼 頃 に行 うこ とが よ い こ とが わ か る.こ の よ うな生 体 に 備 わ っ て い る 周期 に あ わせ て 生 活 パ ター ン をつ くる こ とが健 康 や 体 力 の維 持 増 進 に は 必 要 な こ とで あ る.
2.2 大 学 生 の健 康 状 態 女 子 大 学 生 を対 象 に,健 康 上 不 快 に感 じて い る症 状 を調 査 した結 果 が 報 告 さ れ て い る(表2.3).
表2.1
1日 の 所 要 時 間(例)7:01は7時
日常 の 生 活 行 動 時 間(中
間01分
を 表 す.
神 他,1981)
表2.2
朝
型:午
前6時
昼
型:午
前6∼8時
夜
型:午
前0時
不 規 則 型:起
女 子大 学 生 の 生 活 パ ター ン2)
前 に起 床 す る. 頃 起 床 し,午 前0時
まで に 就 寝 す る.
以 降 に 就 寝 す る.
床 時 間 と就 寝 時 間 が 決 ま って い な い.
図2.1
ヒ トの 機 能 が 最 大 値 を 示 す 時 刻(F.Halberg, 1980;A.Reinberg,1970よ
り)
表2.3 女 子 大 学 生 の不 定 愁 訴(井
全 体 の20%以
上 他,19952)よ
り一 部 改 変)
上 の 人 が 訴 え て い る症 状 は,「 疲 れ や す い 」,「風 邪 を ひ きや す
い」,「目覚 め が 悪 い」,「肩 が こ る」,「腰 が 痛 む 」,「便 秘 しや す い」,「生 理 痛 が ひ どい 」,「ア レル ギー 」 で あ る.こ の 中 で も,「 疲 れ や す い」 と 「肩 が こ る」 は全 体 の40%以
上 の 人 が 訴 えて い る症 状 で あ る.「 疲 れ や す い 」 と訴 え る者 は最 近 の
大 学 に 多 く見 られ るが,そ る.
の 原 因 の1つ
に 運 動 不 足 に よ る 体 力低 下 が あ げ ら れ
2.3 大 学 生 の 食 生 活 体 力 や 健 康 を維 持 増 進 す る ため に は,適 切 な 食生 活 を送 ら な け れ ば な ら な い. 体 育 系 の 男女 大 学 生 に つ い て 食 生 活 を調 査 した とこ ろ,1日 とっ て い る もの は全 体 の ほ ぼ50%で が わ か っ た(表2.4).ま
あ り,2回
に3回 以 上 の 食事 を
以 下 の もの は 約40%で
た,朝 食 を必 ず と っ て い る もの は44.4%で
調 査 で も 同様 の 結 果 を得 て お り,大 学 生 の 多 くは朝 食 を抜 い た1日2回
あ るこ と あ る.他 の 食で ある
こ とが 特 徴 で あ る. 朝 食 を欠 食 す る大 学 生 が ほ ぼ 半 分 い る理 由 と して,自 宅 以 外 の 下 宿 や 寮 で の 一 人 生 活,夜 型 の 生 活,め を維 持 す る た め に は,1日
ん ど う,金 銭 不 足 な どが あ げ られ る.大 学 生 が 健 康 な体 に2000キ
ロ カ ロ リー は 食 物 か ら摂 取 す る必 要 が あ る.
ま た,健 康 な体 をつ くる た め に 必 要 な栄 養 素 も食 事 に よ って 摂 り入 れ な け れ ば な ら な い.欠
食 は 決 して健 康 や 体 力 を維 持 す る た め に 好 ま し い もの で は な い.1日
3食 を規 則 的 に と る習 慣 を 身 につ け る こ とが 必 要 で あ る.
表2.4 体 育 系 学生 の 食生 活(増
岡 ・湯 浅,19943)よ
り一 部 改 変)
2.4 大 学 生 の運 動 習 慣 女 子 大 学 生 に つ い て ス ポー ツ 実 施 状 況 を調 査 し た結 果 に よ る と,お よ そ40% の 女 子 大 学 生 が 日常 生 活 に運 動 を と りい れ て い る が,約60%の 実 技 授 業 以 外 に 運 動 を行 う習 慣 が な い(表2.5).ト 条 件 と して 最 大 の60%以
学 生 は,体 育 の
レ ー ニ ン グの 効 果 が 現 れ る
上 の 強 度 で の運 動 を週 に3∼5回
く り返 す こ とが 必 要 で
あ る.大 学 生 の 多 くは こ の条 件 を満 た して い な い こ とが 推 測 で き る.大 学 生 が 日 常 生 活 の 中 で運 動 を行 わ な い 一 番 の理 由 は 「時 間 が な い 」 とい うこ と で あ る2). しか し,体 力 や 健 康 は 自分 で 管理 し なけ れ ば な ら な い.1日
の 中 に運 動 す る時 間
をつ く り,運 動 習 慣 を定 着 す る こ とが 体 力や 健 康 の 維 持 増 進 の た め に た いせ つ で あ る. 表2.5 女 子 大 学 生 の ス ポ ー ツ 実 施 状 態(井
上 他,19952)よ
り一 部 改変)
2.5 大 学 生 の飲 酒 ・喫 煙 と体 力 a.飲
酒
ア ル コー ル を摂 りす ぎる と,神 経 調 節 系 の働 きが 悪 くな り,単 純 反 応 時 間 が延 長 す る,立 位 姿 勢 の保 持 や 歩 行 が 困 難 に な る,と い う よ うな 急 性 の 運 動 機 能 低 下 をお こす こ とが あ る. ア ル コー ル 摂 取 は 神 経 系 だ け で は な く肝 臓,心 す.ア
臓,血 管 な どへ も悪 影 響 を及 ぼ
ル コー ル が 分 解 され る過 程 で で き る ア セ トア ル デ ヒ ドは,ア ル コー ル よ り
も毒 性が 強 く,こ の 作 用 に よ っ て 自律 神 経 の興 奮 状 態 が お こ り,心 臓 の リズ ム が 乱 れ,血 液 中 の水 分 や 電 解 質 のバ ラ ン スが 崩 れ,体 調 が 悪 くな る. ア ル コー ル に対 す る耐 性 は個 人差 が 大 き い し,同 じ人 で あ っ て も そ の と きの心
身 の 状 態 に よ っ て大 き く変 わ る の で,適 量 を決 め る こ とは む ず か しい.ア ル コー ル を飲 む場 合 に は軽 い ほ ろ酔 い程 度 で と どめ るの よ うに 心 が け るの が よい.
b.喫
煙
大 学 生 の 年 齢 に な る とタバ コ を吸 う者 の 割 合 が 急増 す る.タ バ コ も体 の 諸 機 能 に さ ま ざ まな 悪 影 響 を及 ぼ す. タバ コに 含 まれ て い るニ コチ ン は 肺 や 口の 粘 膜 か ら体 内 に 吸収 され て,血 管 を 収 縮 させ,血
液 の流 れ を悪 くし,血 圧 を上 げ る作 用 が あ る.そ の た め に,脈 拍 は
速 くな り,心 臓 の 負 担 は増 加 す る.喫 煙 に よ っ て体 内 に 取 り入 れ られ る一 酸 化 炭 素 は 運 動 能 力 を低 下 させ た り,血 管 の 壁 に 傷 をつ け て 動 脈 硬 化 の 原 因 に な る.ま た,煙 に含 まれ て い るア ン モ ニ ア な どの 刺 激 性 ガ ス は 慢 性 気 管支 炎 や 肺 気 腫 を お こす こ とが あ る. 喫 煙 は 運 動 機 能 に も影 響 す る.タ バ コ を吸 う と気 道 の 粘 膜 は 刺 激 を受 け て 膨 張 し,気 道 が 狭 くな る.気 道 が 狭 くな る と呼 吸 に と もな う空 気 の 流 れ が 悪 くな り, 呼 吸 が しず ら くな る.安 静 中 に は さほ ど影 響 は な い が,運 動 を行 う とき に は安 静 時 よ り も換 気 量 や 酸 素 摂 取 量 を 増 や す た め に呼 吸 運 動 を激 し くさせ るが,こ き喫 煙 に よ って 呼 吸 運 動 は制 限 され る.
参
考
文
のと
〔 湯 浅景 元〕
献
1) 西 山 逸 成 ・坂 本 静 男 編 著:大 2) 井 上 直 子 他:専
学生 の た め の健 康 科 学,医
歯 薬 出版,1997.
攻 別 に み た女 子大 学 生 の健 康 に 対 す る意 識 と行 動 につ い て.体
39,1995. 3) 増 岡和 美 ・湯 浅 景 元:中
京 大 学 体 育 学 部 生 の 食 生 活 調 査.中
1994. 4) 福 永 哲 夫 ・湯 浅 景 元:コ
ー チ ン グ の科 学,朝
倉 書 店,1999.
力科 学,89:32-
京 大 学 体 育 学 部 論 叢,35(2),
Ⅱ 体 力 づ く りの た め の トレ ー ニ ン グ
3 筋力 を強 くするための トレーニング
3.1 どう して筋 力 を 強 く しな けれ ばい け な い のか a.行
動 が 楽 に で きる体 力 を身 に つ け る た め
現 在 あ る私 た ちの 身 体 は,日 常 の 生 活 の 中か らつ く られ て い る.そ れ は そ の時 の 目的 に 応 じた,立 つ,座
る,横
に な る,歩
く,素 早 く動 く,物 を も つ,投
げ
る,そ の他 多 くの行 動 に よ っ て で あ る.そ の行 動 は 当然 の こ とな が ら地 球 上 で行 わ れ て い る.そ
して その 地 球 上 に は 重 力 が 働 い て い る.私 た ち は 無 意 識 に もそ の
重 力 に 反発 して行 動 し,そ の行 動 に 応 じ筋 肉や 神 経 そ して循 環 器 ・呼 吸 器 な どの 器 官 の能 力 が 発 達 し,筋 力 や 反 応能 力,持 久 力 が 身 に つ くこ と とな る.中 で も身 体 を動 か し行 動 す る源 が 筋 力 で あ る以上,筋 よ う.そ し て,よ
力 は体 力 の す べ て を司 る もの とい え
り多 く,か つ 多種 の行 動 を して い くこ とが,全 身 の 筋 力 を高 め
行 動 す る体 力 の 向上 を させ て い くこ とへ とつ な が る.も た な らば,私
しこ れ らの体 力 が 失 われ
た ち は 大 き な精 神 的苦 痛 を味 わ う こ とに な る だ ろ う.現 在 も,ま た
これ か ら先 も,こ の体 力 を失 わ な い よ う な努 力 が 必 要 な の で あ る. 日常 生 活 の 中 で試 み る こ との で き る,「 行 動 で き る体 力 」 を最 低 限 維 持 して い くため の エ ッ クサ サ イ ズ を以 下 に あ げ る. ・徒 歩 で20∼30分
の 距離 で あ れ ば 車 に乗 る よ り も歩 く
・少 しの 階 段 で あ れ ば エ ス カ レー ター,エ
レベ ー ター を使 わ ず 自 らの 脚 で上 り
下 りす る ・バ ッ グ な ど も背 負 うば か りで な く,時 に は 手 に も って 歩 く ・安 全 な と こ ろ で あ れ ば,数 分 間 の短 い ジ ョギ ン グ を行 う ・階 段 を1段 ず つ で き るだ け 速 く上 る.ま た で き るだ け 速 く下 りる
b.背 筋 を伸 ば し た 良 い姿 勢
a.背 中 を丸 め た 良 くな い 姿 勢 図3.1
b.プ
ロポ ー シ ョ ン を良 くす る た め
正 し い姿 勢 を心 が け る こ とに よ りプ ロ ポー シ ョ ン は 良 くな る.プ ロ ポー シ ョ ン は と くに女 性 の 気 に な る とこ ろ で あ るが,そ しい 姿 勢 は,す
な わ ち背 骨 や 他 の骨 格 に 負 担 をか け な い 姿 勢 で あ り,内 臓 も正 常
な位 置 に保 ち働 きや す くし,さ る.正
れ は 男 性 とい え ど も同 じで あ る.正
らに は 性 格 も明 る く前 向 きに す る と も言 わ れ て い
しい 姿 勢 を保 持 し,あ る い は 正 しい姿 勢 で 行 動 す る こ とに よ り,そ の ため
に使 わ れ る筋 肉 の発 達 が あ る.そ の 姿 勢 づ く りの 具 体 例 は 以 下 の よ うに な る. 椅 子 に 座 っ て(図3.1)
両 肩 を 後 ろ に も っ て い くよ うに して 胸 を張 る.目
線 は ま っ す ぐに 目の 高 さ あ た り.こ れ に よ って 背 筋 が伸 び,ま ー ブ が 感 じ ら れ る.こ の 姿 勢 をは じめ は20∼30分
た腰 椎 あ た りに カ
保 持 し,慣 れ て きた ら少 しず
つ 長 くして い く.こ れ に よ り,こ の 姿 勢 を保 持 す る た め の 筋 肉(と
くに脊 柱 起 立
筋)が 発 達 して くる. 立 って(図3.2)
座 っ て行 っ た も の と同 じ く両 肩 を後 ろ に も っ て い き胸 を
張 る.目 線 を ま っす ぐ目の 高 さに して頭 の 位 置 を整 え る.背 筋 が伸 び 腰 椎 あ た り に カ ー ブ を感 じ る よ う にす る.こ れ に よ り臀 部 の 筋 肉(大 臀 筋,中 臀 筋),大 の 筋 肉(大 腿 四 頭 筋,大
腿 二 頭 筋),下
腿 の 筋 肉(腓 腹 筋,ヒ
ラ メ筋)な
腿
どが 正
しい 直 立 姿 勢 を とる こ とで 発達 して い く.と くに 上 半 身 の正 しい 姿 勢 の 保 持 が 重 要 とな る. 歩 き,走
っ て(図3.3)
「 座 っ て 」,ま た 「立 っ て 」 に お い て 行 っ た,と
く
に上 半 身 の 姿 勢 を保 持 し歩 き ま た は 走 る.着 地 した 前 脚 に上 半 身 が 乗 りや す くな
a.背 中 を丸 め た 良 くな い 姿勢
b.背 筋 を伸 ば した 良 い 姿 勢 図3.2
a.背 筋 を伸 ば して 歩 く
b.背 筋 を伸 ば して 走 る
c.背 筋 を伸 ば して物 を上 げ る
図3.3
り,地 面 の 反 発 力 も上 半 身 の 姿 勢 の 良 くな い もの よ り高 ま る.ま た 物 を もつ,も ち上 げ る な どの 動 作 に お い て も この上 半 身 の 姿 勢 を保 持 して い くこ とが 重 要 で あ る. 以 上 の 姿 勢 を心 が け実 践 して い くこ とで プ ロ ポー シ ョ ンは 良 くな って い く.
c.ス
ポ ー ツ選 手 で あ れ ば 競 技 力 向 上 の た め に
筋 力 は す べ て の ス ポー ツ の 競 技 力 に大 きな 影響 を及 ぼ す.そ れ は 地 面 や 床,あ る い は 水 の 抵 抗 に 反 発 す る力 の 源 が 筋 力 だ か らで あ る.筋 力 が 強 け れ ば よ り反 発 力 が 強 くな っ て 瞬発 力 系 ス ポ ー ツ の 競 技 力 を高 め る こ とに な る.ま た,筋 力 は 弱
くて もそ の 筋 の持 続 性 が 高 け れ ば 運 動 は 長 く続 け られ,持 久 力 系 ス ポー ツ の競 技 力 を高 め る こ とに な る. そ の他 筋 力 が高 ま る こ とに よ りケ ガ の 防 止 や 肥 満 の 防 止 に もな る.足 首,膝, 腰,肩,肘,首
な どの まわ りの 筋 肉 の 発 達 が そ れ ぞれ の関 節 をサ ポー トして 未 然
に ケ ガ を防 ぐ こ とが で き る.ま た 運 動 に よ り筋 肉 量 が 多 くな れ ば,筋
肉が 体 脂 肪
を 燃 焼 させ る役 割 をす るた め 肥 満 を防 ぐこ とに も な る.こ の よ うに 筋 力 を あ る レ ベ ル で 維 持 し,ま た高 め る こ とに よ り受 け る恩 恵 の 大 きさ が理 解 され よ う.
3.2 筋 力 は どの よ う に して 高 め る の か 私 た ち の動 作 の す べ て は 筋 肉 が 収 縮 す る こ とに よ り生 まれ る.筋 肉 は骨 に付 着 し 多 くの 関 節 を介 し,収 縮 す る こ とに よ っ て 骨 を動 か して 多種 の 身体 の動 きへ と 発 展 す る.こ れ ら筋 肉 は 「骨 格 筋 」 と言 っ て頭 部,頸 部,上
肢,体 幹,下
肢に 多
くあ る.こ の 骨格 筋 は私 た ちの 意 志 で収 縮 で き る. この 随 意 運 動 の 可 能 な 骨 格 筋 の 筋 線 維 に は 「速 筋 線 維 」 と 「遅 筋 線 維 」 の2つ の タ イプ が あ っ て筋 肉 の 中 に混 ざ り合 っ て い る.速 筋 線維 が 多 け れ ば 瞬発 的 な運 動 に,ま
た遅 筋 線 維 が 多け れ ば 持 久 的 な運 動 に 向 い て い る.し か し速 筋 線 維 の 多
い 者 は持 久 力 が あ ま りな く,遅 筋 線 維 の 多 い 者 は 瞬 発 力 に 欠 け る と言 う点 も あ る. この 骨 格 筋 か ら 生 ず る筋 力 は,筋 線 維 を太 くさせ る こ とで強 くす る こ とが で き る.そ れ は 筋 力 が 筋 肉 量(筋 横 断面 積)に
比例 し,筋 肉 量 の 多 い者 ほ ど大 きな力
を生 み 出 す こ とが で き るか らで あ る.筋 線 維 の 数 は 生 まれ つ き変 わ ら な い とさ れ て い るの で,筋 い.そ
肉 量 を 多 く して 強 くす る に は 筋 線 維 を太 く させ な け れ ば な ら な
れ に は トレ ー ニ ン グ 原理 の 「 過 負 荷 の原 理 」 と同 様 に,現 状 以 上 の強 い 負
荷 を 与 え る こ とに よ り,筋 線 維 をそ れ に 順 応 させ て い く こ とが 必 要 で あ る.逆 に,負 荷 が 現 状 よ り も弱 い もの で あれ ば 筋 線 維 は そ れ に順 応 して 萎 縮 し,筋 力 は 低 下 す る.こ の よ うに刺 激 に は 強 弱 が あ っ て,筋 が,刺
肉 は そ れ ぞ れ に 順 応 して い く
激 に は 時 間 的 長 さ と速 さ,さ ら に方 向性 な ど さ ま ざ まな 種 類 が あ る.そ
し
て こ れ ら異 な る 刺 激 に も筋 肉 は順 応 して い く. 筋 肉 は,柔
軟 な 適 応 力 を も って い る ため,そ
し,ま た高 め て い くこ とが で き る.
れ ぞれ の 目的 に 応 じて 筋 力 を維 持
3.3 日常 生 活 の 中 に 筋 力ア ップ を 試 み る こ れ まで 筋 力 を強 くす る こ との 意 義,そ い て述 べ て き たが,こ
して 筋 力 を高 め 維 持 して い く方 法 に つ
こで は実 際 に 筋 力 を高 め るエ ッ クサ サ イ ズ に つ い て紹 介 を
し て い く.だ が 筋 力 ア ップ につ い て は それ ぞ れ の 目的 に よ りエ ッ クサ サ イ ズ が 異 な る.た
とえ ば ス ポー ツ選 手 と運 動 を して い な い 人 で は その 種 類 や 強 度 が 違 う.
さ ら に 同 じ陸上 競 技 の 投 擲 選 手 で あ っ て も,砲 丸 投 げ の選 手 とハ ン マ ー 投 げ の選 手 で は,そ
の動 きの 特 殊 性 を考 え た場 合 強 化 す る筋 肉 が 異 な り,ま た そ の 選 手 の
年 齢,性 別,熟 練 度 に よ っ て もエ ッ クサ サ イ ズ は違 っ て くる.こ の よ うに それ ぞ れ の 目的 に応 じて エ ッ クサ サ イ ズ は行 わ れ な くて は な らな い が,こ ツ選 手 で な い一 般 学 生 を対 象 に,ト 己 の か らだ の負 荷 だ け,あ
こ で は ス ポー
レー ニ ン グ ・ジ ム な どに通 う必 要 の な い,自
る い は部 屋 に あ る もの を利 用 して行 う,日 常 生 活 の 中
で無 理 な くで きる体 力 ア ップ の エ ッ クサ サ イ ズ を考 えて み る.
a.エ
ッ クサ サ イ ズ の 分 類
1) 脚 筋 力 強 化 の エ ッ クサ サ イ ズ ス ク ワ ッ ト(図3.4)
肩 幅 で 足 先 を少 し開 い て 立 ち,両 肩 の 線 を 後 ろ に し
て胸 を張 り手 は 頭 の 後 ろ で 組 む.背
筋 を伸 ば し上 半 身 を膝 に 乗 せ る よ う に しな が
ら,そ の膝 を腰 の カー ブ が 崩 れ な い 限 界 の とこ ろ ま で 曲 げ て い き,そ こか ら も と の位 置 ま で の ば す.こ の 膝 の 屈伸 を10回2セ
ッ ト行 う.こ れ に よ り大 腿 四 頭 筋,
大 臀 筋,内 転 筋 な どが 強 化 さ れ る.
図3.4
ス クワ ッ ト
ス ク ワ ッ ト ・ジ ャ ン プ(図3.5) 手 は 腰 の 後 ろ で組 む.こ
姿 勢 は ス クワ ッ トの と き と 同 じ で あ るが
こ か ら腰 の カー ブ を崩 さず,で
き るだ け 高 くジ ャ ンプ す
る.ま た ダ ンベ ルや こ れ に 変 わ る もの を両 手 に も っ て行 う こ とに よ り負 荷 は 増 す.こ
れ を10回2セ
ッ ト行 う.こ れ に よ り下 肢 全 体 の 強 化 が で き る.
レ ッ グ ・カ ー ル(図3.6)
片 脚 の 状 態 に して,浮
い た 片 方 の 膝 を 軽 く曲 げ
た と こ ろか ら もっ と も深 く曲 が る とこ ろ まで の 屈 伸 を く り返 し行 う.バ ラ ン ス を 崩 し た りす る こ と も あ る の で 壁 に手 を触 れ安 定 性 を確 保 して行 う とよ い.片 脚 を 10回 行 っ た な らば 脚 を変 えて10回,こ
れ を2セ
ッ ト行 う.こ れ に よ り大 腿 二 頭
筋 が 強 化 さ れ る. ス タ ンデ ィ ン グ ・レ ッグ ・レイ ズ(図3.7)
図3.5
片 脚 状 態 で,浮
ス ク ワ ッ ト ・ジ ャ ン プ
図3.6
レ ッ グ ・カー ル
か した 片 方 の
脚 を前 方 に 少 し 出 した と こ ろか ら脚 を水 平 近 くま で 高 くも っ て い く.バ ラ ン ス を 崩 す 恐 れ が あ るの で壁 に 手 を 当 て て行 う.こ れ を10回 た10回 行 い,2セ
ッ ト く り返 す.こ
カ ー フ ・レイ ズ(図3.8)
く り返 し,逆 脚 に 変 え ま
れ に よ り大 腿 四 頭 筋,腹 筋 が 強化 され る.
台 ま た は 階段 な ど を利 用 して つ ま先 立 ち に な る.
こ の つ ま先 立 ち の 直 立 姿 勢 か ら,踵 の上 げ下 げ を10回 行 う.こ れ を2セ
ッ ト行
う.こ れ に よ り膝 か ら下 の 筋 群 が 強化 され る.こ れ もバ ラ ンス を崩 す 恐 れ が あ る の で支 え に な る もの に 手 を 当て て行 う と よ い. 2)臀
部 の 強 化 の エ ッ クサ サ イ ズ
ス タ ンデ ィ ン グ ・バ ッ ク ・キ ッ ク(図3.9)
壁 に対 し身 体 を少 し斜 め に し
て 両 手 をか け バ ラ ン ス を と る.次 に 片 方 の 脚 を後 ろ に 伸 ば して 少 し床 か ら 浮 か
図3.7
ス タ ン デ ィン グ ・レ ッ グ ・レ ィ ズ
図3.8
カ ー フ ・レ イ ズ
し,こ こ か ら脚 を伸 ば しな が ら高 くあ げ る.こ れ を8回 じ回 数 行 う.2セ
ッ ト.こ れ に よ り臀 部 の 筋 群,固
く り返 し,脚 を変 え て 同
有 背 筋,大
腿二頭筋 な どが強
化 され る. 3)体
幹 部 の 強 化 の エ ッ クサ サ イ ズ
トラ ン ク ・カー ル(図3.10)
床 に横 に な っ て 仰 向 け とな る.両 手 は 太 も も
の あ た りで 真 っ直 ぐ伸 ば し,こ の姿 勢 か ら 顎 を胸 に つ け る よ うに して 背 中 が 浮 く と こ ろ ま で も っ て い き,こ れ を10回2セ
ッ ト行 う.こ れ に よ り腹 筋 群 が 強 化 さ
れ る. トラ ン ク ・ツ イ ス ト(図3.11)
図3.9
背 筋 を しっ か り伸 ば し頭 の 後 ろ で 手 を 組 ん
ス タ ン デ ィ ン グ ・バ ッ ク ・キ ッ ク
図3.10
ト ラ ン ク ・カ ー ル
で椅 子 ま た は 台 に 座 る.棒 左 か ら右 へ,右
を肩 に背 負 っ て行 って もよ い.こ の 姿 勢 か ら上 半 身 を
か ら左 へ とゆ っ く り捻 る.こ れ を10回
こ れ に よ り腹 筋,外
く り返 し2セ ッ ト行 う.
腹 斜 筋,背 筋 な どが 強化 され る.
グ ッ ドモ ー ニ ング ・エ ッ ク サ サ イズ(図3.12) 伸 ば し手 を頭 の 後 ろ で組 ん で 立 つ.こ
足 は 肩 幅 で 背 筋 を しっ か り
こか ら背 筋 を伸 ば した ま ま上 体 を地 面 と平
行 近 くまで 軽 く膝 を 曲 げ な が らゆ っ く り と前 傾 して い き,そ 位 置 まで 上体 を起 こ し膝 も伸 ば す.こ れ を10回2セ 臀 筋,大
ッ ト行 う.こ れ に よ り背 筋,
腿 四 頭 筋 な どが 強化 され る.
図3.11
図3.12
こか ら一 気 に も との
トラ ン ク ・ツ イ ス ト
グ ッ ド モ ー ニ ン グ ・エ ッ クサ サ イ ズ
図3.13
ス ト レ ー トア ー ム ・ レ イ ズ ・ア ン ド ・ダ ウ ン
ス トレー トア ー ム ・レ イ ズ ・ア ン ド ・ダ ウ ン(図3.13)
数 キ ロ の ダ ンベ ル
また は そ れ に代 わ る もの を そ れ ぞ れ の 手 に もち下 げ て立 つ.こ の 姿 勢 か ら両 腕 を 伸 ば した ま ま ゆ っ く り と前 に,そ り と前 に,そ 群)を
して 頭 上 ま で上 げ て い き,そ こか ら また ゆ っ く
し て 下 ま で 下 げ て い く.こ の 腕 の 上 げ 下 げ を 丹 田(臍 の 辺 りの 筋
意 識 し行 う.ま た軽 い椅 子 な ど で あれ ば両 手 で こ れ を も ち行 うの も よい.
こ れ を8回2セ
ッ ト行 う.こ れ に よ り三 角 筋,僧
帽 筋,腹 筋 を強 化 で き る.
4) 腕 の 強 化 の エ ッ クサ サ イ ズ ス タ ン デ ィ ング ・プ レス(図3.14)
両 手 に ダ ン ベ ル ま た は そ れ に代 わ る も
の を両 肩 の辺 りに も って 立 ち,そ こ か ら交 互 に高 く上 げ ま た も とに戻 す こ と を く り返 す.こ れ を左 右 の腕5回 う.こ れ に よ り三 角 筋,僧
ず つ2セ
ッ ト行
帽 筋,上 腕 三 頭 筋
な どが 強 化 で き る. 腕 立 て 伏 臥 腕 屈 伸(図3.15)
背 筋 を伸
ば し,肩 幅 く ら い で腕 立 て 伏 せ の 姿 勢 を と る.こ
こか ら両 腕 の 屈 伸 を行 うが,胸 が 床 に
着 きそ うな と こ ろ ま で腕 を 曲 げ て い き,ま た も と の位 置 に 戻 る.こ れ を15回2セ う.
図3.14
ス タ ン デ ィ ン グ ・プ レ ス
ッ ト行
図3.15
b.エ
腕立て伏臥腕屈伸
ック サ サ イ ズ の 実践 方 法
こ れ ら は,同 て よ い.と 行 い,他
じよ う な筋 群 強 化 の エ ッ クサ サ イ ズ もあ る の で すべ て を行 わ な く
く に 種 類 の 多 い 脚 強 化 の 中 で は ス ク ワ ッ ト と ス ク ワ ッ ト ・ジ ャ ン プ を は 日 を か え 異 な る も の1種
同 じ で,グ
類 程 度 を 入 れ て 行 う.ま
た体 幹 の 強 化 種 目 も
ッ ドモ ー ニ ン グ ・エ ッ ク サ サ イ ズ と ス トレ ー トア ー ム ・レ イ ズ ・ア ン
ド ・ダ ウ ン の2種
類 を行 い,他
は 日 を か え 異 な る も の1種
類 を 入 れ て 行 う.臀
部
の 強 化 種 目や 腕 の 強 化 種 目 は 種 類 が 少 な い の で そ の ま ま 行 う.ま
た これ らは 男女
の 体 力 差 や 実 践 の 経 験 日 数 な ど を 考 慮 に 入 れ,回
負荷 な どの増 減
を 行 う 必 要 が あ る.そ
し て1日
お き,ま
数 や セ ッ ト数
た 少 な く と も1週
に2日
行 う こ とが 望 ま
し い. ま た こ れ ら エ ッ クサ サ イ ズ と と も に,行
動 し て い く体 力 を 維 持 す る た め の エ ッ
クサ サ イ ズや プ ロ ポ ー シ ョ ン を よ くす る 姿 勢 づ く りな ど も併 せ て 行 う こ とに よ り,幅
参
考
広 い 筋 力 の 強 化 や 維 持 が 可 能 と な る.
文
〔 室伏 重信 〕
献
1) 窪 田
登:ス
ポ ー ツ マ ン の 筋 力 ト レ ー ニ ン グ,ベ
2)
湯 浅 景 元:よ
く わ か る ス ポ ー ツ サ イ エ ン ス,サ
3)
森 永 ス ポ ー ツ&フ
ー ス ボ ー ル マ ガ ジ ン 社,1989. ニ ー サ イ ドア ッ プ,1989.
ィ ッ ト ネ ス ・ リサ ー チ ・セ ン タ ー 編:ボ
製 菓 健 康 事 業 部,1992.
デ ィ ・デ ザ イ ン ・ブ ッ ク1,2,森
永
4 骨を丈夫 にす るため の トレーニ ング
4.1 骨 と 運 動 a.な
ぜ 骨 を鍛 え る必 要 が あ るの か
骨 を鍛 え て大 き く強 く して も,一 般 的 な体 力 が 向 上 した とは 言 え な い し,運 動 能 力 が 向 上 す る こ と も ま ず考 え られ な い.骨 に 関 す る疾 患 の な い20歳
前 後 の青
年 に お い て,日 常 的 な 生 活 をす る上 で骨 に トラブ ル を感 じる 人 は ほ とん どな く, した が って 骨 だ け を鍛 え る 目的 で トレー ニ ン グ を して い る人 は少 な い で あ ろ う. しか し,ス ポー ツ な どに よ っ て骨 に 傷 害 を受 け る と,骨 を鍛 え る必 要 性 を感 じ る よ うに な る.と に,骨
くに,ス
ポー ツ選 手 に お い て は骨 の 傷 害 は 深 刻 な 問 題 とな る だ け
を丈 夫 にす る こ とは 大 きな 課 題 と考 え られ て い る.
骨 を鍛 え るべ き も う一 つ の 必 要 性 は,骨 粗 鬆 症 の 予 防 で あ る.骨 粗 鬆 症 は 高齢 者 に 多 く見 られ る症 状 で あ るが,若
い う ち か ら予 防 策 を講 じる こ とは 意 味 の あ る
こ と と考 え られ て い る.実 際 に若 い 時 期 か ら骨 粗 鬆 症 の 予 防 目的 だ け で トレー ニ ン グ を して い る人 は 少 な い で あ ろ うが,骨
の トレー ニ ン グに 関 す る正 しい知 識 を
身 につ け る こ と は,今 後 の 生 涯 に と っ て有 意 義 で あ る.
b.運
動 に対 す る 骨 の 適 応
適 切 な運 動 は骨 の 量 を増 や して,骨 強 度 を 強 くす るこ とが 知 られ て い る.骨 に は 巧 妙 な仕 組 み が 備 わ っ て い て,外 側 か ら力 を受 け る とそ の 力 に対 抗 す る よ うに 骨 が 強 くな る.生 命 体 の 骨 格 を守 るの に 実 用 的 に で きて い るの で あ る. 骨 が 現 状 以上 に 強 くな る ため に は,外 側 か ら受 け る力 が 日常 に受 け て い る 力 よ り も強 い 必要 が あ る.こ
こで 問 題 は,強
い 力 を受 け れ ば そ の 運 動 に よ って 骨 の傷
害 の 機 会 も増 え る とい う こ とで あ る.ト レー ニ ン グ に よ り強 い力 を く り返 し受 け て い る と,骨 は 疲 労 骨 折 な どの 傷 害 を起 こす の で あ る.そ れ ば か りか,長 時 間 の
高 強 度 運 動 は か え っ て骨 を弱 く して し ま う危 険 性 さ え 指 摘 され て い る. し たが っ て,骨
を鍛 え る トレー ニ ン グ に お い て は,個 人 の 骨 の状 態 に合 わせ て
運 動 の 強 度 ・時 間 ・頻 度 な どが 慎 重 に検 討 され るべ きで あ る.と こ ろ が,現 在 の と こ ろ青 年 お よ び ス ポー ツ選 手 の 骨 を適 正 に鍛 え る た め の 具 体 的 な トレー ニ ン グ メニ ュー は確 立 さ れ て い な い.こ
こ で は骨 の代 謝,外
力 に 対 す る適 応,長
時間高
強 度 運 動 に 対 す る適 応,疲 労 骨 折 の 発 生 な どに つ い て解 説 し,骨 の トレー ニ ン グ に つ い て の概 略 を述 べ る.
4.2骨 a.骨
の 代 謝
筋 肉 に は 筋 線 維 細 胞,脂 に,骨
の代 謝 とメ カ ニ カル ス ト レス
肪 組 織 に は 脂 肪 細 胞,神
経 に は 神 経細 胞 が あ る よ う
に も骨 細 胞 が 存 在 す る.骨 細 胞 は骨 の 内部 に埋 め 込 まれ て お り,そ れ を取
り巻 くよ うに コ ラー ゲ ン を主 とす る線 維(基
質)と
カ ル シ ウム 塩 が 沈 着 して 骨 を
形 成 し て い る.骨 細 胞 も も ち ろん 生 きて い るの で,骨 の 中に も血 管 が通 っ て い て 骨 細 胞 に物 質 を供 給 して い る.骨 の カ ル シ ウム 塩 や コ ラー ゲ ン は変 化 しな い よ う に感 じ られ るが,実
は 溶 か し出 され た り新 し く沈 着 した り活 発 に代 謝 され て い る
の で あ る. 骨 の 代 謝 の様 式 に は,モ デ リ ン グ と リモ デ リン グ お よ び りペ ア の3種 類 が あ る.モ デ リ ン グ は骨 が 形 を変 え て 成 長 す る と きの 代 謝 様 式 で,主 に成 長 期 の 子 供 の 骨 に 見 られ る.リ モ デ リン グは 成 熟 した 骨 に も見 られ る代 謝 様 式 で,骨 の カ ル シ ウ ム塩 や 基 質 を新 し い もの と置 き 換 え る代 謝 で あ る.リ ペ ア は修 復 過 程 で あ り,骨 が 傷 を受 け た と きに そ れ を修 復 す る代 謝 様 式 で あ る. リモ デ リン グの 代 謝 様 式 に つ い て も う少 し詳 し く解 説 して み る(図4.1).ま ず,一
連 の リモ デ リン グは破 骨 細 胞 が 骨 の 基 質 の表 面 に 付 着 す る こ とか らは じま
る.破 骨 細 胞 は タ ンパ ク分 解 酵 素 と酸 を分 泌 す る の で 基 質 や カ ル シ ウム塩 が 溶 か し出 さ れ る(骨 吸 収 期).こ
の 活 動 に よ っ て 骨 に あ る程 度 の 穴 が あ く.あ る程 度
ま で 穴 が 広 が る と破 骨 細 胞 の 活 性 が とま り,今 度 は そ の 穴 の 空 い た表 面 に 骨 芽 細 胞 が 付 着 す る(反 転 期).骨
芽 細 胞 は コ ラー ゲ ン を 分 泌 し,や が て そ の コ ラー ゲ
ン に カ ル シ ウ ム塩 が 沈 着 し て 空 い て い た 穴 が 埋 ま って い く(骨 形 成 期).骨 胞 の 一 部 は 骨 の 基 質 の 中 に埋 ま り,や が て 骨 細 胞 と な る(休 止 期).一 モ デ リン グに 約3ヶ
芽細
か所 の リ
月 か か る とい わ れ て い る.ま た,一 か 所 の リモ デ リ ン グに よ
a.骨 吸 収 期
c.骨 形 成 期
b.反 転 期
d.休 止 期 図4.1
骨 の リモ デ リン グ
って 骨 が新 し く置 き換 わ るの は,ほ ん の 小 さ な ス ペ ー ス で しか な い が,骨 と こ ろ で リモ デ リン グ が行 わ れ て お り,1年
の至 る
で は 骨 の カ ル シ ウ ム の 約20%が
新
し く置 き換 わ っ て い る と考 え られ て い る. リモ デ リン グ に よ って 新 し く置 き換 え ら れ る基 質 や カル シ ウ ム塩 が,も と同 じで あ れ ば骨 量 は 変 化 しな い.と
こ ろが,何
との 量
らか の 原 因 に よっ て 骨 吸 収 量 が
骨 形 成 量 よ り も多 い と,骨 量 が 減 少 す る こ とに な る.高 齢 者 に見 られ る骨 粗 鬆 症 は,リ
モ デ リン グ に よ って 骨 量 が 減 少 し て い っ た 結 果 と考 え られ る.一 方,骨
形
成 量 が 骨 吸 収 量 よ りも 多け れ ば,全 体 と して 骨 量 が 増 加 す る こ と も考 え ら れ るの で あ る. 骨 形 成 量 お よ び 骨 吸 収 量 は い ろ い ろ な 因子 に よ って 調 節 され て い る.た 女 性 ホ ル モ ン は骨 吸 収 を抑 制 す る 因 子,副 子,カ
b.骨
とえ ば
甲状 腺 ホル モ ン は骨 吸収 を促 進 す る因
ル シ トニ ン とい うホ ル モ ン は 骨 形 成 を促 進 す る 因子 と して働 く.
とメ カ ニ カル ス トレス
ホ ル モ ン とは別 に,骨 量 を増 減 す る重 要 な 因 子 の 一 つ と して,メ
カニカルス ト
レ ス(骨 が 外 部 か ら受 け る力)が
あ げ ら れ る.す な わ ち,「 骨 は 骨 自 身 に 与 え ら
れ る力 に適 応 して骨 量 を変 化 させ る」 の で あ る.骨 が 強 い力 を受 け て いれ ば 骨 量 を増 して 強 い 骨 に な る.一 方,力 の で あ る.ス
を受 け て い な い と骨 量 が 減 少 して 弱 い 骨 に な る
ポー ツ選 手 の 多 くが 強 い骨 を も って い る こ と,逆 に宇 宙 飛 行 士 が 無
重 力 に さ ら され る と骨 に 加 わ る力 が 少 な い た め 骨 が 弱 くな る こ とな どが 証 明 され て い る. メ カニ カ ル ス トレス が 骨 に 与 え る影 響 は 非 常 に 局 所 的 で あ る.す な わ ち,右 手 に だ け 力 を受 け れ ば右 手 の 骨 だ け が 強 くな り,身 体 の 他 の部 位 に あ る骨 に は 変 化 が 無 い とい う よ う に,力
を受 け た骨 だ け が 適 応 して 強 くな るの で あ る.そ れ ば か
りか,一 つ の 骨 の 中 で み て も力 を受 け た箇 所 だ け 骨 が 強 くな る こ とが知 られ て い る.
c.骨
量 を増 加 させ る メ カ ニ カ ル ス トレ スの 特 徴
骨 量 を増 加 させ る の に有 効 な メ カニ カ ル ス トレス に は次 の よ う な特 徴 が あ る こ とが知 られ て い る. ① メ カニ カ ル ス トレ ス の 強 度 生 理 的 な限 界 を超 え な い 範 囲 で な ら,強 い 力 の 方 が 効 果 大 で あ る. ② メ カニ カ ル ス トレ ス の種 類 静 的,持 続 的 に圧 力 を加 え る よ う な動 きの 少 な い 力 よ り も,動 きの 速 い 力 の 方 が 効 果 大 で あ る. ③ メ カニ カ ル ス トレ ス の 回数 多 くの 回 数 を必 要 と し な い. こ れ ら を ま とめ る と,骨 量 増 加 に効 果 的 な トレー ニ ン グ 方 法 は ハ イ イ ンパ ク ト ・ロー レペ テ ィ シ ョ ン ・ トレー ニ ン グ と い う こ とが で き る.
d.運
動選手 の骨密度
次 に,ス
ポー ツ選 手 の 骨 密 度 を 比較 す る こ とに よ っ て,ど の よ う なス ポー ツが
骨 を 強 くす るの か を考 え て み よ う.人 間 の 骨 の 量 はX線 測定 され る.な か で も2波 長 のX線 法)は
や 超 音 波 な ど を用 い て
を用 い る二 重 エ ネ ル ギーX線
吸 収 法(DXA
精 度 が 高 く信 頼 され て い る方 法 で あ る.測 定 値 は単 位 面 積 あ た りの 骨 量=
骨 密 度 と い う値 で 出 され る.
図4.2に
各 ス ポ ー ツ選 手 の骨 密 度 を ま とめ た結 果 を示 した.図 中 で 男 ・女 そ れ
ぞれ の 一 番 上 の コ ン トロー ル とは ス ポー ツ を して い な い一 般 の 人 で あ り,こ の コ ン トロー ル の骨 密 度 を100と バ レー ボ ー ル,バ
した 場合 の 相 対 値 で 表 し て い る.野 球,ラ
グ ビー,
ス ケ ッ トボー ル な ど球 技 系 種 目の ス ポー ツ選 手 の 骨 密 度 は 高
い.ま た,柔 道 選 手 の 骨 密 度 も高 くな っ て い る.こ れ らの種 目 にお い て は,激 く動 き回 る た め に 重 力 に抵 抗 して 床 面(地 面)を
し
蹴 る の で,脚 の 骨 な どに大 きな
力 が 加 わ る と考 え られ る.ま た,動 きが 複 雑 な た め い ろ い ろ な方 向か ら力 を受 け る こ と も予 想 され る.こ の た め に,全
身 の 骨 密 度 が 高 くな っ て い る と判 断 さ れ
る. ウ エ イ トリフ テ ィ ン グ,ボ デ ィ ビ ル デ ィ ン グ選 手 の骨 密 度 も比 較 的 高 い.こ れ ら の選 手 は球 技 系 種 目 とは 異 な り,床 面 か ら力 を受 け る こ と は少 な い.し か し, 強 い 筋 収 縮 を行 うため,骨 を鍛 え る た め,全
は 筋 よ り力 を受 け る こ とに な る.全 身 の た くさん の 筋
身 の 骨 も鍛 え られ る わけ で あ る.骨
を鍛 え る た め の 運動 で は,
1日 あ た りの 反 復 回数 は 多 い 必 要 が な く,一 般 的 な筋 力 トレー ニ ン グの 反 復 回 数 で 十分 で あ る. 水 泳 選 手 の 骨 密 度 は一 般 の 人 とほ とん ど差 が な い.こ れ は,水 泳 は 重 力 に 抵 抗 して 運 動 をす るス ポー ツで は な い た め,骨 が 受 け る力 が 少 な い か らで あ る.卓 球 選 手 も骨 密 度 の 結 果 か らみ る と,比 較 的床 反 力 の 小 さい ス ポー ツ と考 え られ る. また,陸 上 の 長 距 離 選 手 は,走 る こ とに よ り地 面 か ら あ る程 度 の 力 は 受 け て い
図4.2 各 種 ス ポー ツ選 手 の 骨 密 度1)
る に もか か わ らず 骨 密 度 は 高 くな い.こ
れ は,①
メ カ ニ カ ル ス ト レ ス とは 別 の
原 因 で 長 距 離 走 の 運 動 様 式 は 骨 密 度 を低 下 させ る可 能 性 が あ る こ と(後 述),② 動 きが 比較 的 単 調 な の で 全 身 の骨 密 度 は 高 くな ら な い こ と,な どの 理 由が 考 え ら れ る.
e.疲
労 骨 折
適 度 な メカ ニ カル ス トレ ス は骨 を強 くす るが,過 度 な 負 荷 は骨 に 疲 労 骨 折 な ど の 傷 害 を もた らす.疲 労 骨 折 とは骨 が 強 い 力 を受 け た と きに 小 さ な 骨 組 織 の亀 裂 (マ イ ク ロ ダ メー ジ)が 生 じ る が,く
り返 し力 を受 け る た め 修 復(リ
ペ ア)が
間
に合 わ な くな り,つ い に は大 き な骨 の組 織 的 な分 離 とな っ て 痛 み を と も な う傷 害 で あ る.1回
の 強 い 外 力 に よ っ て起 こ され る 外 傷 性 骨 折 と は 区別 さ れ る もの で あ
る. 疲 労 骨 折 を お こ させ る要 因 は,メ き さが 倍 に な る と回数 は50分
の1で
カ ニ カ ル ス トレ スの 大 き さ と 回数 で あ る.大 も疲 労 骨 折 に至 る こ と もあ る.し たが っ て,
骨 が 受 け る力 の 大 き さ が も っ と も大 き な要 因 と な るが,回 数 の要 因 も見 逃 せ な い.
疲 労 骨 折 は 力 が も っ と も集 中 す る 骨 の 部 位 で お こ る(図4.3).〓 上 中1/3ま
た は 中下1/3付
近 は走 る時 に力 が集 中 す る部 位 で,こ
骨 の 内側 の こ で の疲 労 骨 折
は 疾 走 型 と呼 ば れ 長 距離 走 者 に 多 い タ イプ で あ る.こ れ に 対 し,〓 骨 の前 側 中 央 部 の 疲 労 骨 折 は 跳 躍 型 と呼 ば れ,ジ
ャ ンプ 種 目選 手 に 多 く見 られ る.そ の他,中
足 骨 の疲 労 骨 折 は剣 道 選 手 に 多 く,腓 骨 の 上 中1/3部 位 で の 疲 労 骨 折 は うさ ぎ跳 び をす る こ とに よ っ て お こ る こ とな どが 知 られ て い る.こ の よ うに,疲 労 骨 折 を
1.疾 走 型 〓 骨 疲 労 骨 折 2.跳 躍 型 〓 骨 疲 労 骨 折 3.腓 骨 疲 労 骨 折 4.中 足骨 疲 労 骨 折 図4.3 疲 労 骨 折 の頻 発 部 位
起 こす 部 位 は動 作 との 関 連 が 非 常 に 強 い. 疲 労 骨 折 をお こす 運 動 種 目は,陸 上 中長 距 離 走 が最 も多 く,そ の 他 バ ス ケ ッ ト ボー ル,ハ は,全
ン ドボー ル,サ
ッ カ ー,バ
レー ボ ー ル,短
距 離 走 な ど で あ る.球 技
身 の 骨 密 度 が 高 い に もか か わ らず 疲 労 骨 折 をお こす 可 能 性 の 高 い種 目な の
で あ る.い ず れ に して も骨 を鍛 え る こ とは骨 の傷 害 をお こ しか ね な い とい う難 し さが あ る.
f.骨
密 度 を減 らす 運 動
陸 上 の 長 距 離 選 手 は 一 般 の 人 と比 べ て骨 密 度 が 高 くな く,な か に は骨 密 度 が 低 下 して い る選 手 もい る.こ れ は メ カニ カ ル ス トレス とは ま っ た く異 な る理 由 か ら 説 明 され る.す な わ ち,長 距 離 走 の よ うな継 続 的 な 長 時 間 高 強 度 運 動 は,性
ホル
モ ン の分 泌 を低 下 させ る こ とが あ る.性 ホ ル モ ンは 骨 の 吸 収 を抑 制 す る 因 子 で あ り,こ の分 泌 の 低 下 に よ っ て 骨 密 度 が 減 少 す るの で あ る. 骨 密 度 の低 下 した 選 手 は女 性 に 多 く,し ば しば 月 経 周 期 異 常 を と もな っ て い る が,男
性 選 手 に も見 ら れ る.あ
る研 究 に よ る と,男 性 に お い て も週 に60km以
上 走 る と骨 密 度 が低 下 す る可 能 性 が 高 くな る こ とが 指 摘 さ れ て い る. 女 子 長 距 離 選 手 に お い て骨 密 度 の低 下 した選 手 が 疲 労 骨 折 をお こ しや す い こ と が 指 摘 され て お り,骨 密 度 低 下 は 疲 労 骨 折 を助 長 す る.長 距 離 走 は動 作 が 単 調 な だ け に 骨 の 同 じ部 位 に 力 が 加 わ り,し か も反復 回数 が 非 常 に 多 いの で疲 労 骨 折 を お こ しや す い運 動 様 式 で あ る と言 え る. 4.3骨
を丈 夫 にす る トレー ニ ン グ
前 述 し た よ うに,現 在 の と こ ろ青 年 お よび ス ポー ツ選 手 の 骨 を鍛 え るた め の具 体 的 な トレー ニ ン グ方 法 は確 立 さ れ て い な い.そ
こ で トレー ニ ン グ様 式 ご とに骨
を強 くす る可 能 性 に つ い て ま と て み る.
a.ハ
イ イ ンパ ク ト ・ トレ ー ニ ング
ジ ャ ンプ や 短 距 離 走 の よ うに 床 面 か ら強 い衝 撃 力 を受 け る トレー ニ ン グ は骨 を 強 くす る こ とが で き る.下 肢 の 骨 は 足 の 着 地 時 に 大 きな 床 反 力 を受 け る.さ に,ジ
ャ ン プ の 踏 み 切 り時 の よ うな場 合 に は,床
な う筋 か らの 力 も受 け るの で,さ
ら
反力 に プ ラ ス して 筋 収 縮 に と も
らに効 果 的 とな る.
単 調 な動 作 で は 骨 の 同 じ部 分 だ け に 力 が 加 わ る た め,い ろ い ろ な動 作 を含 め て 多角 度 か ら骨 全 体 を鍛 え る よ うに す る.し た が っ て,サ
ッカ ー や バ レー ボ ー ル な
ど の球 技 は骨 を鍛 え る トレー ニ ン グ と して有 効 で あ る.骨
を鍛 え る 目的 で は トレ
ー ニ ン グの 反復 回 数 は少 な い 回数 が 望 ま しい の で ,長 時 間 トレー ニ ン グす る必 要 は な い. しか し,ハ イ イ ンパ ク ト.ト レー ニ ン グ で は か な り強 い 負荷 が か か る こ とが 予 想 さ れ るの で,も
と も と骨 密 度 が低 い 人,疲
労 骨 折 の 可能 性 が あ る 人 に は勧 め ら
れ な い.
b.レ
ジ ス タ ンス ・ トレー ニ ング(筋
に 負 荷 をか け る トレー ニ ン グ)
筋 力 を高 め る た め の レ ジ ス タ ン ス トレー ニ ン グ に お い て は,筋 収 縮 に よ って 骨 に 力 が も た ら さ れ る ため,骨
を鍛 え る トレー ニ ン グ とな る.自 分 の 筋 力 が 骨 に 与
え る負 荷 の 強 さ を決 定 す る ため,骨
に む や み に 大 き な 力 が加 わ らな いの で,比 較
的 安 全 に 骨 の トレー ニ ン グが で き る.こ の た め,中
高齢 者 の 骨 を鍛 え る方 法 と し
て も考 え られ て い る. や は り,反 復 回数 は 少 な くて よ い が,い
ろ い ろ な動 作 を取 り入 れ る こ とに よ
り,全 身 の 骨 が 鍛 え られ る こ とに な る.
参
考
文
1) 森
〔 梅 村 義久 〕
献 諭 史 他:臨
2) 藤 巻 悦 夫 他:臨 3) 清 野 佳 紀:骨
床 ス ポー ツ医 学Vol.11,No.11;特 床 ス ポー ツ医 学Vol.10,No.8;特
を鍛 え る ため に,金
原 出 版,1998.
集― 運 動 と骨粗 鬆 症,文 集 ― 下 肢 の疲 労 骨 折,文
光 堂,1994. 光 堂,1993.
5 持久 力を高め るた めの トレー ニング
5.1 持 久 力 と は a.体
力 と持 久 力
私 た ち が 健 康 で 豊 か な 日常 生 活 を送 る た め に は,疲 れ を感 じな い で,一
日中 活
動 的 に 身体 を動 か す 能 力 を もつ こ とが 必 要 で あ る.ま た,長 時 間 の 運 動 や ス ポ ー ツの 試合 に お い て,一 定 の 筋 力 や ス ピー ドを持 続 し て発 揮 しつづ け る こ とが で き れ ば 良 い 成 績 を お さめ る こ とが で き る.こ の よ う な能 力 を も って い る こ とは持 久 的 能 力 が 高 い とい わ れ る.つ
ま り持 久 力 とは あ る一 定 の作 業 を長 い 時 間 持 続 して
こ な す こ との で き る能 力 を意 味 して い る. 疲 労 し な い で 身体 を長 時 間 に わ た っ て動 か す こ とが で きれ ば,身 体 運 動 の 能 率 が あ が り結 果 と して 仕事 量 を増 大 させ る こ とに な る.一 方,優 れ た持 久 力 を もつ ス ポ ー ツ 選 手 は,マ
ラ ソ ン等 の長 い 距 離 を効 率 の よ いペ ー ス で 走 る こ とが 可 能 で
あ り,長 時 間 に わ た って 身体 を動 か す こ と を必 要 とす る運 動 や ス ポー ツ の 試合 に お い て,優 秀 な 力 を発 揮 す る こ との で き る体 力 が あ る とい う こ とに な る.
b.筋
持 久 力 と全 身 持 久 力
持 久 力 に優 れ て い る こ とは,身 体 内 で エ ネ ル ギー 源 を燃 焼 させ て運 動 を長 時 間 続 け る能 力 が 高 い こ とで あ る.し か し,一 定 の ス ピー ドで 運 動 を長 時 間持 続 で き て持 久 力 が 優 れ て い る人 は,マ
ラ ソ ン の よ うな長 い 時 間 走 る の は不 得 意 で あ っ て
も野 球 の バ ッ トを く り返 し振 る こ とは得 意 で あ る場 合 が 多 い.ま た この 反 対 の 人 もい る.つ
ま り持 久 的 能 力 の 運動 量 や 力 の 発 揮 時 間 は,そ
の運 動 の 内容 に よ っ て
決 ま る こ とか ら,持 久 力 的 能 力 に も身体 の 局 所 的 な部 位 の 筋 肉 を使 って あ る運 動 を短 時 間 内 で持 続 す る場 合 と,十 分 な 酸 素 を 身体 に と り込 み呼 吸循 環機 能 を利 用 し,全 身 で 長 時 間 の 運 動 を持 続 す る場 合 とが あ る.前 者 は筋 持 久 力,後 者 は全 身
持 久 力 と呼 ば れ,バ
ッ トの 素 振 りが 得 意 な 人 は 筋 持 久 力 が,マ
ラ ソ ンが 得 意 な人
は全 身 持 久 力 に優 れ て い る こ と とな る.
5.2持 a.持
久 力 の発 達 と トレー ニ ング 効 果
久 力の発達
我 々 が 健 康 で 活 動 的 な生 活 をす る ため に は,行 動 体 力 と して の 持 久 力 を有 す る こ とは 大 切 な こ とで あ る.ま た,身 体 の 発 達 に と も な いバ ラ ン ス よ く行 動 体 力 を 高 め る こ と も重 要 で あ る.こ の よ う な行 動 体 力 の 発 達 に は,身 体 機 能 の発 育 に と も な い そ れ ぞれ に 年 齢 特 性 が 見 られ る.た 効 果 的 な 増 加 を示 す の は11∼13歳
とえ ば 筋 持 久 力 が トレー ニ ン グ よ って
で あ る(図5.1).全
身 持 久 力 の 発 達 も加 齢 に
と もな っ て 男 女 で 異 な る変 化 を示 す(図5.2). 全 身持 久 力 の 指 標 で あ る最 大 酸 素 摂 取 量 は,有 酸素 的 エ ネ ル ギー の 出力 量 を示 し て い る.最 大 酸 素 摂 取 量 を加 齢 との 関 係 で み る と男 子 で は17歳 で は11∼12歳
頃 まで に 直 線 的 に 発 達2)を す る.一 方,最
頃 ま で,女 子
大酸 素摂 取 量 は身長や
体 重 の 発 育 発 達 の 影 響 を受 け る こ とか ら,全 身持 久 力 の 評 価 と して 利 用 す る場 合 は体 重 あ た りの 値 を 用 い る.加 齢 に と も な う体 重 あ た りの 最 大 酸 素 摂 取 量 の 発 達
図5.1 年 齢 別 筋持 久 力 の トレー ニ ン グ効 果(5 週 間 の トレー ニ ン グ)(福
永,1994)
図5.2 性・ 年 齢 別5分
間 走 距 離(猪
飼,1965)
図5.3
年 齢 と さ ま ざ まな タ イプ の 最 大 酸 素 摂 取 量 の 関係(小
林,1982)
経 過 に は 男 女 で か な り異 な る特 徴 が 認 め られ る(図5.3).
b.持
久 力 と トレー ニ ング効 果
トレー ニ ン グ効 果 に トレー ニ ン グの 条 件 が 大 き く影 響 を及 ぼ す こ とは よ く知 ら れ て い る.ト
レー ニ ン グ方 法 につ い て は,次
の 「 持 久 力 を 高 め る ため の トレー ニ
ン グ」 の項 で 述 べ る が,筋 持 久 力 の最 適 な トレー ニ ン グ時 期 は,前 述 した よ うに 11∼13歳
で あ る.ま
た,局 所 的 運 動 は 最 大 筋 力 に 対 す る相 対 負 荷 量 を低 くす る
と,運 動 回 数 は 増 加 す る こ とか ら,筋 持 久 力 の トレー ニ ン グに お い て は,最 大 筋 力 の1/3位 5.4).ま
の 軽 い 負荷 で 運 動 回数 を多 くす る方 が,ト た,ト
レ ー ニ ン グ に よっ て 筋 血 流 量 が 増加 し,筋 収 縮 時 に必 要 な グ リコ
図5.4 動 的 作 業 に お け る 荷重 と頻 度 と作 業 回 数 (猪飼,1965)
レー ニ ン グ効 果 は高 い(図
図5.5
トレー ニ ン グ に よ る 筋持 久 力 と血 流 量 の 変 化(東 京 大 学 教 養 部 保健 体 育 研 究 室,1992)
図5.6
スポ ー ツ種 目別 の最 大 酸 素 摂 取 量(山 地,1986)
ー ゲ ンや 酸 素 の運 搬 を助 け る こ とで筋 持 久 力 が 向 上 す る(図5 一 方,全
.5).
身持 久 力 は 呼 吸循 環 機 能 を利 用 して 十 分 な酸 素 を身 体 に と り込 み,長
時 間 の 運 動 を持 続 す る能 力 で あ る.し た が って 全 身持 久 力 を高 め るた め に は,有 酸 素 的 な 運 動 種 目 を選 択 す る こ とが 大 切 で あ る(図5.6). 全 身 持 久 力 トレー ニ ン グで は,ま
ず運 動 種 目,強 度,時
間 お よ び頻 度 を決 定 す
る こ とが 必 要 で あ る.運 動 強 度 は相 対 的運 動 強 度 で あ る最 大 酸 素 摂 取 量 に対 す る 割 合(%Vo2max)や
心 拍 数(表5.1),さ
す る.運 動 時 間 は 最 低5∼6分
ら に は 実 際 の ラ ン ニ ン グ 速 度 を示 標 と
間 とす る.こ の理 由 は,身 体 が 運 動 開 始 か ら有 酸
素 の 呼 吸 循 環 過 程 に な る の に,最 低5∼6分 動 習 慣 の な い 人 や 体 力 の 低 い 人 は,低 る.と
くに,中
間 必 要 で あ る こ とに よ る.ま た,運
い 運 動 強 度 を設 定 し,運 動 時 間 を長 くす
高 年 齢 者 は,運 動 に対 す る呼 吸 循 環 機能 の 応 答 が 遅 く,高 い運 動
強 度 で トレー ニ ン グ を行 う場 合,心 肺 機 能 に 負 担 を与 え る こ とか ら運 動 強 度 の 設 定 に 注 意 が 必 要 で あ る.
表5.1 相 対的運動強度に対す る自覚的運動 強度年齢別 心拍数
(糖尿 病 運 動 療 法 の て び き(医 歯 薬 出版),1988よ
り)
5.3 持 久 力 を 高 め る た め の ト レ ー ニ ン グ a.筋
持 久 力 を高 め る た め の トレー ニ ング
筋 持 久 力 は筋 が く り返 し力 を発 揮 す る能 力 で あ る.筋 持 久 力 の トレー ニ ン グで 代 表 的 な も の に は,以 下 の よ うな 方 法 が あ る. 1)サ
ー キ ッ ト ・ トレー ニ ン グ
この トレー ニ ン グは,筋 力,筋 持 久 力,敏 捷 性,全
身持 久 力 を高 め る た め の総
合 的 体 力づ く りが 特 徴 で あ る.運 動 種 目 に よ っ て は器 具 を用 い,い 種 目 を5∼10種
目程 度 を組 み 合 わせ,種
総 運 動 時 間 は10∼30分
ろ い ろ な運 動
目間 に休 息 を 入 れ な い で3巡
回 ぐらい,
間 をめ どに 行 う.運 動 種 目の組 み 方 に よ っ て は,ト
ニ ン グ効 果 が 異 な るの で,筋 持 久 力,全 身 持 久 力 を高 め るた め に は,全 の 筋 群 を動 員 す る よ うな 運 動 種 目 を選 び,1種 (最大 筋 力 の1/3位
の 負荷)に
レー
身の多 く
目の 運 動 の 強 度 は 比 較 的 軽 い負 荷
な る よ うに す る(図5.7).
2) シ ー ク ェ ンス ・ トレー ニ ン グ この トレー ニ ン グは,全 身 の 筋 群 を使 用 す る よ う な ウエ イ ト ・ トレー ニ ン グの 種 目 をa,b,cの
グル ー プ か らバ ラ ン ス よ く5∼6種
目(表5.2,図5.8)選
つ の プ ロ グ ラム と して 作 成 す る.こ の プ ロ グ ラム を た とえ ばAプ る と,さ
らに 同様 にB,Cの
び1
ロ グ ラ ム とす
プ ロ グ ラ ム を2組 以 上 作 成 す る.実 際 の トレー ニ ン
グ はAプ
ロ グ ラム を休 み な く自分 の ペ ー スで 何 回 か 巡 回 し,適 度 に休 息 を取 り,
次 にBプ
ロ グ ラ ム をAプ
ロ グ ラ ム と同 じよ う に行 い,再 び休 息 を取 りCプ
ログ
ラ ム を行 う方 法 で あ る.ト レー ニ ン グに 慣 れ る と各 プ ロ グ ラ ム の 巡 回 の 回数 を 多 くす るか,運 動 回数 を多 くす るか,ウ
b.全
エ イ トを重 くし 負荷 を増 加 させ る.
身 持 久 力 を 高 め るた め の トレー ニ ング
全 身 持 久 力 を高 め る に は,前 述 した よ うに 有 酸 素 的 な全 身運 動 を長 時 間 行 う こ とで あ る.手 軽 に 行 え る運 動 で は,速
歩 や ジ ョギ ン グが トレー ニ ン グの 手 段 とな
る.代 表 的 な もの は,以 下 の よ う な方 法 が あ る. 1) ジ ョギ ング(持
続 走)
こ れ は 長 い 時 間 を か け て 一 定 の 速 度 で ラ ン ニ ン グ を行 な う方 法 で,最 近 は LSD(long
slow distance)と
呼 ば れ て い る(図5.9).こ
上 の た め の トレー ニ ン グ 方 法 で あ るが,そ
の 持 続 走 も持 久 力 の 向
れ ぞ れ の対 象 者 や 体 力 レベ ル に 合 わせ
① プ レス ・ア ップ
図5.7
② ス ク ワ ッ ト ・ジ ャ ン プ
⑤ レ ッ グ ゥ ィズ ・バ ック ・エ ク ス テ ンシ ョ ン
⑧ ベ ン チ ・ス テ ッ ピ ン グ
③ ス ク ワ ッ ト ・ス ラ ス ト
フ ト
⑥ チーニ ングバー
⑨Vシ
サ ー キ ッ ト ・ トレー ニ ン グ
④ カ ー ル
ャンプ
・シ ッ ト ・ア ッ プ
⑦ サ イ ドス テ ッ プ.ジ
⑩ バ ッ ク ・エ ク ス テ ン シ ョ ン
表5.2
て
シー クエ ンス ・ トレー ニ ン グの 種 目 と強 化 の 筋群
「遅 い ペー ス 」,「 中 位 ペ ー ス 」,「速 い ペ ー ス 」 の 強 度 が あ り,そ
ス は 最 大 酸 素 摂 取 量 の 割 合 で 示 す と5)50∼60%,70∼80%お Vo2maxの
運 動 強 度 に 相 当 す る.遅
れ ぞ れ のペ ー
よ び,80∼90%
いペ ー ス で の 持 続 走 は ウ ォ ー ミン グア ップ や
クー リン グ ダ ウ ン 時 の ジ ョギ ン グ のペ ー ス で生 活 習 慣 病 予 防や 健 康 づ く りの運 動 処 方 の 強 度 に 適 当 で,30分 は,ス
以 上 の 運 動 時 間 が 考 え ら れ る.中
ピー ドの 持 続 能 力 を 高 め る 時 の ジ ョ ギ ン グ の ペ ー ス で 一 定 ス ピ ー ドに 対 し
て の 乳 酸 の 蓄 積 が 少 な く な る 強 度9)に 相 当 し,10∼30分 る.速
い ペ ー ス の 持 続 走 は 全 力 で の ラ ン ニ ン グ に 近 く,も
相 当 し,5∼15分 2)
位ペ ー スの持 続 走
の 運 動 時 間 が 考 え られ っ と も強 い運 動 強 度 に
の 運 動 時 間 が 考 え ら れ る.
レペ テ ィシ ョン ・ トレー ニ ング
こ れ は 全 力 か そ れ に 近 い 運 動 強 度(80∼90%Vo2max)で
運 動 を行 な い 完 全 に
休 息 す る か そ れ に 近 い 休 息 を 取 り な が ら く り返 す ト レ ー ニ ン グ 方 法 で あ る(図 5.9).こ
の トレー ニ ン グは 全 身持 久 力 の 向 上 と筋 持 久 力 の 向 上 を 目的 と し て い
る.全
身 持 久 力 を効 果 的 に 高 め る た め に は3∼15分
3)
イ ン タ ー バ ル ・ トレー ニ ング
間 の 運 動 が 必 要 で あ る.
こ れ は 全 力 よ りや や 低 い 運 動 強 度(60∼80%Vo2max)で
の 運 動 を動 的 な不 完
全 休 息 を 取 り な が ら くり 返 す ト レ ー ニ ン グ 方 法 で あ る(図5.9).動 や 軽 い 回 復(50∼70%ま ン グ か 運 動(45秒 の 向 上 が 図 れ る.
た は 心 拍 数 で120拍
∼90秒)を
行 な う.20∼30分
以 下 に な ら な い)を
的休 息 はや 目的 で ジ ョ ギ
間 以 上 の 運 動 時 間 で全 身持 久 力 〔 平 田敏 彦 〕
① プ ッシュ ・ア ップ
② スタ ンデ ィング ・プ レス
③ バー ベル ・カール
④ ベ ン ト ・ニ ー ・シ ッ ト・ ア ップ
⑤ レ ッグ ・レイズ
シ ー クェ ン ス ・ トレー ニ ン グ
⑥ バ ッ ク ・エ ク ス テ ン シ ヨ ン
図5.8
⑦ ヒンズー ・スク ワ ッ ト
⑧ レッグ ・ラ ンジ
⑨ フル スク ワッ ト
図5.9 持 続 走,レ
参
考 1)
文
ペ テ ィ シ ョ ン,イ
ン ター バ ル の 各 トレー ニ ン グ の運 動 強 度
献
東 京 大 学 教 養 部 保 健 体 育 研 究 室 編:身
2) 小 林 寛 道:日
体 運 動 科 学,東
3) 福 永 哲 夫:筋
と持 久 力(持
4)
流 選 手 の エ ア ロ ビ ッ ク パ ワ ー(体
5)
京 大 学 出 版 会,1995.
本 人 の エ ア ロ ビ ッ ク パ ワ ー,p.256,杏
山 地 啓 司:一
久 力 の 科 学(石
311∼312),真
興 交 易 医 書 出 版 部,1992.
豊 岡 示 朗:長
距 離
・マ ラ ソ ン の
林 書 院,1982.
河 利 寛,竹
宮 隆 編),p.120-141),杏
力 ト レ ー ニ ン グ(宮
ト レ ー ニ ン グ 方 法.Japanese
林 書 院,1994.
村 実 晴,矢
Journal
of
部 京 之 助 編).p.
Sports
Sciences,4
(11):803-808,1985. 6) 石 河 利 寛:サ 正 一,石 7) 堀 井 俊 雄,宮
ー キ ッ ト ・ ト レ ー ニ ン グ(ス
河 利 寛,松 昭:サ
ー キ ッ ト ・ ト レ ー ニ ン グ(現
下 充 正,渡
8) 豊 岡 示 朗:レ
ポー ツ 講座
井 秀 治 編)p.167-173),大
・1・ 近 代 ト レ ー ニ ン グ.(猪
飼 道 夫,浅
川
レ ー ニ ン グ の 科 学(浅
見
修 館 書 店,1965. 代 体 育
辺 融 編)p.213-225),講
・ ス ポ ー ツ 大 系8,ト
談 社,1984.
ペ テ ィ シ ョ ン ・ ト レ ー ニ ン グ の 理 論 と 実 際.体
育 の 科 学,28(12):879-883,
1978. 9)
山 西 哲 郎:長
距 離 ラ ン ナ ー の ト レ ー ニ ン グ(持
久 力 の 科 学(石
杏 林 書 院,1994. 10)
トレ ー ニ ン グ 科 学 研 究 会 編:ト
レ ー ニ ン グ 科 学,朝
倉 書 店,1996.
河 利 寛,竹
宮 隆 編)p.120-141),
6 柔 軟な体 をつ くるため の トレーニ ング
6.1柔
軟 な体 につ い て
体 が 柔 軟 か 否 か に つ い て は,体 力 測 定 で実 施 す る立位 体 前 屈 や,長 計 測 さ れ た 「静 的 な 柔 軟 性 」 が 一 般 的 で あ る.だ が,ス
座 体 前屈 で
ポー ツ の ダ イナ ミッ ク な
場 面 で は 「動 的 な柔 軟 性 」 が 求 め られ る. 柔 軟 性 は 単 に 前 者 の 静 的 柔 軟 性(関 強 さや 弾 性,身
節 の 可 動 域 の大 小)だ
け で は な く,筋 肉 の
の こ な しや 心 身 の 緊 張 度 に よ っ て も影 響 を受 け る.
準 備 運 動 の 一 部 に加 え られ た 柔 軟体 操 は長 年 の 間 学校 で 実 施 され て い る.体 の 動 きが しなや か で ス ム ー ズ な 人 は,ど ん な ス ポ ー ツ で も技 術 の獲 得 が 早 くプ レー に 説 得 力 が あ る. だ か ら と言 っ て,一 般 の 人 々 が 大 人 に な る ま で の過 程 で 柔 軟 体 操 を重 視 して き た例 は,決
して 多 くは な い だ ろ う.
た とえ ば,乳 幼 児 の 「這 う」 「歩 く」 「走 る」 とい った 一 連 の 直 立 二 足 歩行 の発 達 過 程 に対 して,一 喜 一 憂 す る親 は 多い が,子 供 の体 の 柔 軟 性 に つ いて の 関心 は 普 通 は あ ま り高 くな い. しか し,こ れ は 当然 の こ とで あ ろ う.多
くの 先 行 研 究 に よ れ ば,児 童 期 まで は
多 少 の 男 女 差 や 個 人 差 は あ っ て も,柔 軟 性 の 加 速 度 的 発 達 が み られ る.す ち,ご
なわ
く 自然 な 発 育 に 応 じて 柔 軟 な体 が つ くら れ て い くもの と推 測 で きる.
と こ ろが,発
育 の スパ ー ト期(中
学 生 ∼ 高 校 生 期)に
な る と,柔 軟 性 は他 の体
力 要 素 と同 じ よ うに 個 人差 が 拡 大 し,全 体 的 に は低 下 しは じめ る.と 文 部 省 の 発 表 す る体 力 ・運動 能 力 調 査(ス 結 果 に よれ ば,子
ポー ツ テ ス ト,壮 年 体 力 テ ス ト等)の
ど もの 柔 軟 性 は ます ます 低 下 傾 向 を示 して い る.
成 人 の 体 は,手 入 れ(ト 悪 く(硬
くに近 年 の
レー ニ ン グ)を せ ず に放 って お く と,諸 関 節 の 動 きは
く)な り,ス ポ ー ツや 運 動 をす る際 生 体 が 無 理 な く発 揮 で き る で あ ろ う
力 学 的 運 動 現 象 に 陰 りが 生 じ,故 障 に結 び つ い た り,疲 れ や す く な っ て きて い る. そ れ ゆ え,体 力 トレー ニ ン グ の一 環 と して,柔 軟 性 を高 め る トレー ニ ン グ を重 視 しな け れ ば な ら な い が,「 体 力」 を論 ず る と きに,柔 軟 性 は どの よ う に位 置 づ け る こ とが で き るの だ ろ うか. 体 力 に つ い て は,一 般 的 に は 「マ ラ ソ ン ラ ン ナ ー の よ うな全 身持 久 力 」 や 「短 距 離 ラ ンナ ー の よ う なパ ワー や 筋 力 」 の よ うな もの と考 え る 人 々 が 多 い の で は な いか と推 測 さ れ る.そ れ で は体 の軟 らか い,硬 い とい っ た 身体 資源 は ど う体 力 の 中 で 説 明 した らい い の だ ろ うか. 体 の 柔 軟 性 は,運 動 を調 整 す る 力(調 整 力),い
わ ゆ る敏 捷 性,平
衡 性,巧
ち
性 な どの 一 部 と して 規 定 され て い る. 先 に 述 べ た通 り,と だ 調 整 力 は,そ
くに幼 児期 か ら児 童 期 前 半 に か け て 発 達 す る柔 軟 性 を含 ん
の後 加 齢 と と もに低 下 す る傾 向 に あ る.も ち ろ ん,加 齢 の 問 題 だ
け で は な く,調 整 力(柔 軟 性)は
日常 生 活 に お け る運 動 不 足 が か な り影 響 を与 え
て い る. した が っ て,少
しの 空 き時 間 を 利 用 して 身体 を動 か す こ とや,仕 事 の合 間 に ス
トレ ッチ ン グ を した り,風 呂上 が りに体 操 をす るな ど して,心
と体 を リフ レ ッシ
ュす る感 覚 で運 動 を心 が け る こ と を勧 め た い. 運 動 を生 活 の 一 部 と して い る人 々 は,概 ね ス タ ミナ(行 り,病 気 に もか か りに く く(防 衛 体 力),自
動 力 ・回復 力)が
信 に 満 ち た積 極 的 な 活 動(適
あ
応 力)
を展 開 して い る.こ の事 実 を認 識 して お い て ほ しい もの で あ る.私 た ちの 生 きる 社 会 環 境 は 決 して平 坦 で な い.変 化 の 激 しい超 近 代 社 会 で,短
・長 期 の 人 生 設 計
を考 え る時,運 動 の効 用 を重 視 しな け れ ば な らな い の で あ る.
6.2 柔 軟 な体 をつ くる トレ ー ニ ング 柔 軟 な 体 をつ くる トレー ニ ン グ とは,日 常 生 活 に 身 体 活 動 を 目的 的 に 取 り入 れ る こ とで あ る.も
し,私 た ちが 体 を 動 か さ な くな った り,仕 事 や 勉 学 以 外 に体 を
使 わ な くな っ た な らば,健 康 や 体 力 が 劣 悪 化 す る こ とは 間 違 い な い. 学 生 時 代 は専 門分 野 の 学 問 を学 ぶ と同 時 に生 涯 ス ポー ツへ の 基礎 づ く りをす る 好 機 で あ る.と ン,卓 球,ゴ
くに個 人 や 少 人数 で 楽 しめ る水 泳,ス
ル フ 等 の 技 術 を習 得 し高 め て お け ば,楽
キー,テ
ニ ス,バ
ドミン ト
しさ は も と よ り自然 に体 の
柔 軟 性 を保 持 増 進 して い くこ とが で き る. もち ろん,ウ
ォ ー キ ン グ,ジ
ョギ ン グ,ス
トレ ッ チ ン グ な どは,単
に柔 軟 性 の
向 上 だ け で は な く,心 身の バ ラ ン ス を整 え健 康 づ く りの うえ で も効 果 的 で あ る. トレー ニ ン グの効 果 は,継 続 す る こ とに よ って の み 目に 見 え る形 で現 れ,そ の 楽 し さが 味 わ え る よ う に な っ て くる もの で あ る.
a.ス
トレ ッチ ン グ
柔 軟 性 を高 め る トレー ニ ン グ の代 表 と して,「 ス トレ ッチ ン グ」 を紹 介 す る. ス トレ ッ チ ン グは,全
身 を大 き く伸 ば した り,体 の諸 関 節 を曲 げ 縮 め て小 さ く
した りす る こ とに よ って,筋
肉や 腱 ・靱 帯 な ど を伸 ば す(ス
トレ ッチ)方 法 を工
夫 した体 操 で あ る. 古 くは,ス
トレ ッチ の ス タ イ ル が,は
ッ チ ン グ」 で あ っ た が,1980年
ず みや 反 動 を使 って行 な う 「動 的 ス トレ
代 前 半 よ り,静 か に じわ じわ と伸 ば す 「静 的 ス
トレ ッチ ン グ 」 が 主 流 とな っ て きて い る.し
たが っ て,今
日で は ス トレ ッチ ン グ
とい え ば,「 静 的 ス トレ ッチ ン グ」 を指 し て い る と考 え て ほぼ 間違 い な い. 静 的 ス トレ ッチ ン グ は動 的 な ス トレ ッチ ン グ と比 べ て ① 筋 肉 に安 全 な ス トレ ッチ ン グが で き る. ② 諸 関 節 に 無 理 な ス トレス が か か らな い. ③ 自分 の体 を見 つ め る事 が で き 「体 の気 付 きが 良 好 」 と な る. とい っ た 利 点 が あ る. 静 的 ス トレ ッチ ン グ の原 則 的 な 方 法 は以 下 の 通 りで あ る. ① 自然 な 呼 吸 で,決
して呼 吸 を止 め て は な ら な い(話
し を しなが ら して い る
よ う な気 分 で). ② 関 節 に無 理 の か か ら な い姿 勢(フ ③ 少 しピ リ,ピ
リ(ス
ォ ー ム)で.
トレ ッチ 感)と 感 じ る とこ ろ まで ス トレ ッチ す る.
④ ス トレ ッチ して い る筋 肉や 腱 に 意 識 を集 中す る. ⑤ ス トレ ッチ タ イ ム は15秒 程 度,長
け れ ば30秒
以 上,そ
の静 止 状 態 を無 理
な く保 持 す る. ⑥ ゆ っ く り も と に戻 す. ス トレ ッ チ ン グは,単
に柔 軟 性の トレー ニ ン グ とい う 目的 だ け で は な く,以 下
の よ う な効 用 を期 待 す る こ とが で き る.
① 体 の 調 子 を整 え る ② 美 し い姿 勢 をつ く る ③ 各 種 ス ポー ツ の 特 性 に 応 じて 活 用 す る ④ 体 ほ ぐ し,ス
トレ ス解 消 に効 果 的 で あ る.
競 技 スポ ー ツ の選 手 で な い一 般 学 生 に お い て も,そ れ ぞ れ の 日常 生 活 の 中 で実 践 し,ス ポー ツ に 活 用 で き る程 度 ま で ス トレ ッチ ン グ に 親 し む こ とが 期 待 さ れ る.そ
うす る と筋 肉 や 腱 ・靱 帯 な どの特 性 が 理 解 で き,自 分 の体 の 変 化 に気 づ く
よ うに な る もの で あ る.た
とえ ば,「 今 日は 体 が 重 く感 じる」 とか,ス
トレ ッ チ
ン グの 後 に 「体 が や け に軽 くな っ た」 と爽 快 感 を味 わ え た り,体 の実 際 の 動 きや す さに 驚 い た りす る ケ ー ス が あ る.最 終 的 に は,自 己 の体 力 管 理 ・健 康 管 理 に責 任 を も て る実 践 力 を身 に つ け て い きた い(部 位 別 の ス トレ ッ チ ン グ の具 体 例 は 20章 を参 照).
b.ス
トレ ッチ ン グ の具 体 例
1) 日常 生 活 に活 か す ス トレ ッチ ン グ(立 位 に着 目 して)(図6.1) 立 位 で行 うス トレ ッ チ ン グ の5つ の 基 本 型 を紹 介 す る. まず は 直 立 二 足 歩 行 の 日常 生 活 か ら生 じる体 へ の 負 荷(ス
トレ ス)を 取 り除 く
こ とで あ る. ① 縮 み が ち な体 を十 分 に伸 ば して や る. ② 学 習 や 作 業 は,胸
を挟 め が ち に な る.胸
を張 り,肩 周 辺 の 筋 肉 を伸 ば す.
③ ス ッ キ リ体 側 を伸 ば し左 右 の体 の バ ラ ン ス を整 え る. ④ 疲 労 は体 の 裏 側 に 感 じる もの で あ る.体 や 臀 筋,背
を2つ に 折 り曲 げ て 大 腿 部 の 裏 側
中や 肩 周 辺 を伸 ば す.
⑤ 体 全 体 を小 さ く足 元 へ 沈 み 込 む よ うに して,下 肢 全 体 を ス トレ ッチ ン グ す る.そ の 際 足 の 裏 の 全 面 を地 面 に 着 け て お くこ と.決
して踵 を浮 か さ な い こ
とを心 が け る. 2) 日 常 生 活 に活 か す ス トレ ッ チ ング(座 位 に着 目 して)(図6.2) 座 っ た り寝 こ ろん だ り して 行 う ス トレ ッチ ン グ は,テ
レ ビ を観 な が ら,音 楽 を
聴 きな が ら,ま た 読 書 を しな が ら で もで き る と こ ろに も良 さが あ る.心 身 が 疲 れ 切 っ た 時 な ど,重 力 に体 を預 け る よ うに してや る と,正 に リラ ッ クス で きて ス ト レ ッチ ン グの 効 果 を増 大 させ る こ とが 可 能 で あ る.
④ 大 腿 部 裏 側 や 臀 筋 ・身体 の裏 側 の 筋群 の ス トレ ① 全 身 の ス トレ ッチ ン グ(15秒) ・肩 幅 に 足 を開 きつ ま先 を 真 前 に 向
ッチ ン グ(20秒) ・無 理 の な い程 度 に膝 を伸 ば す が 腰 に ス トレ スが
け て お く. ・つ ま先 立 ちに な ら な い よ うに 踵 を
か か ら な い よ うに 注 意 す る.
しっ か りつ け て お く.
② 胸 を 張 りス トレ ッ チ(10秒) ・呼 吸 を 止 め な い .
⑤a
下 肢 の ス トレ ッチ ン グ(20秒)
⑤b
ア キ レス 腱 ・殿 筋 等 の ス トレ ッチ ン グ(20秒)
大 腿 部 前 面 をゆ っ く り伸 ば
腰 筋 ・殿 筋 ・ア キ レ ス腱 を伸 ば
しつ つ 腰 を降 ろ して い く.
す ・踵 を地 面 か ら離 さ な い.
腰 筋 を ス トレ ッチ す る.
余 裕 が あ れ ば 肘 を地 面 につ け よ う と して み る.
③ 体 側 や 肩 周 辺 の 筋 の ス トレ ッ チ ン グ(10秒) 図6.1
日常 生 活 に 活 か す ス トレ ッチ ン グ(立 位 に 着 目 して)
①全 身 の ス トレ ッチ(15秒) ・肘 や つ ま先 を伸 ば す と よ い
② そ 経 部 の 筋 肉 の ス トレ ッチ ン グ30秒 ・背 中 を十 分 に リラ ッ ク スす る
⑥ 腰 部 を中 心 に 上 肢 と下 肢 の ツ イ ス トス トレ ッ チ ン グ (15秒) ・反 対 側 もや る ・背 中 を後 方 へ 倒 しす ぎな い こ と.
③ そ 経 部 の ス トレ ッチ ン グ(30 秒) ・膝 を下 へ 降 しつ つ ,腰
を起 点
に して 上体 をゆ っ くり前 方 へ 引 く. ⑦ 肩 周 辺 ・背 中 ・腕 の ス トレ ッ チ ン グ(20秒) ・体 を前 方 へ 伸 ば し、 何 か つ か む物 で もあ れ ば 握 る. そ し て腕 を 引 き戻 す よ うに して ス トレ ッチ ン グす る
④ 背 中 か ら腰 部 に い た る ス トレ ッチ ン グ ・バ ラ ン ス の 取 り方 を覚 え る と リラ ッ ク スで き る.
⑧ 脚 の 挙 上 に よ る全 身 の ス トレ ッチ ン グ ⑤ 下 腿 の 裏側 を ス トレ ッチ(15 秒) ・つ ま先 を膝 の 方 に 引 っ張 る と
(2∼3分) ・立 ち疲 れ た 脚 に 活 力 を与 え る.全 ス させ る.
良い 図6.2
日常 生 活 に 活 か す ス トレ ッチ ン グ(座 位 に 着 目 して)
身 を リラ ッ ク
① ア キ レ ス 腱,ふ く らは ぎの 筋 の ス トレ ッチ ング(各15秒) ・意 識 を し っか りア キ レ ス腱 とふ くら は ぎの ス トレ ッチ 感 に お くこ と. ・背 中 は 丸 目伸 ば しす る.
② 大 腿 部 表 側 の 筋 や ア キ レ ス腱 な どを ス トレ ッ チす る.(各25秒) ・座 居 か らゆ っ く り後 傾 す る,決
して 無 理 を
し な い.意 識 の焦 点 は 曲 げ て い る方 の 脚 の 大 腿 部 の ス トレ ッ チ感 に お くこ と.
③ 膝 関 節,股
関 節,殿
筋 な どの ス トレ ッチ ン
グ(各20秒) ・背 中 を ス ッキ リ伸 ばす こ と ・胸 に抱 え込 む 位 置 に よ っ て ス トレ ッチ 感 を 調 整 す る とよ い.
④ 上 肢 と下 肢 の ツ イス ト状 態 に よ る 背 部,腰 部,臀
筋 な どの ス トレ ッ
チ ン グ(各20秒) ・右 手,右 肩 が 床 か ら離 れ な い程 度 に ツ イ ス トす る. ・右 膝 の位 置 が 高 いほ ど ス トレ ッチ 感が強 まる
⑤ 股 関 節や 大 腿 部 内 側 の 筋,背
筋な
ど をス トレ ッチ ン グ(30秒) ・両 脚 を開 い て す っ き り背 を伸 ば し、 余裕 を も って ス トレ ッ チ を始 め る と よい. ・決 して 無 理 を し な い.
図6.3
スポ ー ツに 活 か す ス トレ ッチ ン グ(下 肢 に 着 目 して)
① 体側 か ら肘 に か け て の ス トレ ッチ ン グ(各10秒) ・まず は背 伸 び か ら始 め る、 そ し て肘 を曲 げ る ・下 を 向か な い で 、胸 を張 る
② 肩 、 背 中 の ス トレ ッ チ ン グ(20 秒) ・膝 は 少 々 曲 げ 方 が リラ ッ ク ス で き る ・握 り方 や 手 の 高 さ を変 えて や る と よ い.
④ 背 中 ・首 す じの ス トレ ッチ ン グ(15秒) ・後 頭 部 で 手 を組 み,肘 を真 横 へ 開 き伸 ば し する ・肩 甲 骨 周 辺 の 筋 を意 識 す る ・肘 を閉 じて 頭 を前 方 に 引 き よせ る。 首 す じ を リラ ッ ク スす る
③ 胸 、 屑 周 辺 の ス トレ ッ チ ン グ (15秒) ・後 方 の 手 の 高 さや 広 げ る 巾等 工夫す ること ・前 方 を 見て 胸 を張 る こ と. ⑤ 肩 、 首 周 辺 の ス トレ ッチ ン グ(各10秒) ・肩 と首 を ツ イ ス トす る よ う に ゆ っ く り と対 角 線 上 方 へ 引 い てや る.
図6.4
ス ポ ー ツ に 活 か す ス トレ ッチ ン グ(上
肢 に 着 目 して)
3)ス
ポ ー ツ に 活 か す ス トレ ッチ ン グ(図6.3,6.4)
ス トレ ッ チ ン グの 日本 へ の 導 入 は,そ
もそ も ス ポー ツ マ ン の 故 障 の 防 止 と競 技
力 向上 を狙 い と して い た.そ の効 果 は ①
ス ポー ツ の 準備 運 動 へ 導 入 す る こ とに よ り,ケ ガや 故 障 の 防 止 とな る.
②
整 理 運 動 と し て,疲 労 の 回復 を促 進 す る.す な わ ち,筋 肉 の 血 行 を良 くし 活性 化 す る.
③
筋 肉 の特 性 で あ る伸 展 性 や 弾 性 を 高 め る.
④
各 ス ポ ー ツ の 特 性 に応 じた 柔 軟 性 が 増 す.
ス ポー ツ に 活 か す ス トレ ッチ ン グの 工 夫 は何 と言 っ て も各 ス ポー ツ の特 性 か ら 考 案 す る必 要 が あ る.そ の工 夫 の ヒ ン トと して,図6.3に グ を 図6.4に 4)ペ
は 下 肢 の ス トレ ッチ ン
は上 肢 を 中心 と した ス トレ ッチ ン グ の基 本 を紹 介 した.
ア ー ・ス トレ ッチ ング(図6.5)
ペ ア ー ・ス トレ ッ チ ン グは,無 駄 な筋 肉 の 緊 張 を 引 き出 さず に,お 互 い楽 な姿 勢 で ス トレ ッチ効 果 を上 げ よ う とす る狙 い が あ る.し た が って,パ ー トナ ー はお 互 い を理 解 しつ つ 引 っ ぱ り合 った り,も た れ 合 っ た り,寄 り掛 りな が らバ ラ ン ス を と り,よ
く リラ ッ クス して ス トレ ッチ ン グ で きる状 態 をつ く るこ とが 大 切 で あ
る. 要 注 意 点 と して は,決
して ふ ざけ た り,必 要 以上 に 力 を入 れ た り しな い こ とで
あ る.パ ー トナ ー や 自分 の 「 体 の 気 付 き」 を大 切 に した 交 流 を通 して,お 互 い に 体 の 調 子 を 高 め て い け れ ば 楽 しい ス トレ ッチ ン グ とな る.
参
考
文
〔 勝亦 紘一 〕
献
1) 安 田 矩 明,小 2) 安 田 矩 明,小
栗 達 也,勝 栗 達 也,勝
亦 紘 一:ス
ト レ ッ チ 体 操,大
亦 紘 一:ス
ト レ ッ チ 体 操,日
修 館 書 店,1981. 本 体 育 協 会 編 ス ポ ー ツ ジ ャ ー ナ ル 連,
1983. 3) 松 浦 義 行:体
力 の 発 達,朝
4) 文 部 省 体 育 局:体 5)
力
倉 書 店.1982.
・運 動 能 力 調 査 報 告 書 平 成3年
ポ ブ ・ア ン ダ ー ソ ン;堀
居
昭 訳:ボ
度 ∼10年
度,文
部 省.1991∼1998.
ブ ・ア ン ダ ー ソ ン の ス ト レ ッ チ ン グ,ブ
ッ ク ハ ウ スHD,
1981. 6)
M.Schmidt,A,Klumper:Basisgymnastik 1989.
for Jedermann,Roba-Verlag
GmbH,Darmstadt,
① 前 腕,乎 首,肩,背 中,臀 筋,足 首 等 の ス トレ ッチ ン グ(25秒) ・腰 や 背 中 に 意 識 を集 中 す る と よい
② 背 、 大 腿 前 部 、 足 首 ∼大 腿 内 側,大 ・踵 を地 面 か ら離 さな い
腿 裏 側 の 筋 を ス トレ ッ チ ン グ(各20秒)
・お 互 い に 軽 く引 っぱ り合 って い る と安 定 した 姿 勢 が で き る.
③ 体 の 裏 側 の 筋 群 に着 目 し た ス トレ ッチ ン グ(各15秒) a .決 して 無 理 を し な い b.手
を離 さ な い
図6.5
ペ ア ー
・
④ 腹 部,胸 部 の ス トレ ッチ ン グ(交 互 に20秒) ・上 の 者 は息 をゆ っ く り吐 き なが ら リラ ッ クス す る ・馬 と な る補 助 者 は 上 手 に高 さ を調 節 す る.
⑤ 下 腿 前側 と後側 の ス トレ ッチ ン グ (各25秒) ・膝 の 曲 げ ぐあ い に よ って ス トレ ッチ ン グ の 強 度 を調 整 す る. ・下 を 向 か な い .背 中 を丸 め ない.
⑥ 体 側 の ス トレ ッ チ ン グ(各15秒) ・お 互 い の腕 に もた れ な が らゆ っ く り 体 を曲げる ・足 裏 は 全 部 地 面 に し っ か り固 定 す る.
⑦上 肢 と下 肢 の ツ イ ス ト.ス
トレ ッチ ン グ
(各15秒) ・お 互 い 同 一 方 向か ら ツ イ ス トして 手 の 平 を し っか り合 わ せ る. ・足裏 を地 面 に し っか り固 定 す る.
ス トレ ッチ ン グ
7 敏 捷性 を高 めるための トレーニング
7.1敏
捷性 と は何 か
敏 捷 性 とは 「す 早 い 動 作 を行 う能 力 」 の こ とで あ る.こ の 能 力 は ① 動 作 開 始 の す 早 さ,②
動 作 切 換 の す 早 さ,③
動 作 の 速 さ,か
ら な る3つ の 能 力 要 素 か ち
構 成 さ れ て い る4).
a,動
作 開 始 の す早 さ
動 作 開 始 の す 早 さ とは,反 とは,あ
応 時 間(reaction
time)の
こ と で あ る.反 応 時 間
る刺 激(音 や 光 な ど)の 発 現 か ら反 応 開 始 ま で の 所 要 時 間 の こ とで あ
る.す な わ ち,陸 上 競 技 や ス ピー ドス ケ ー ト,競 泳 の短 距 離種 目 に見 ちれ る よ う に,音
を刺 激 と して ス ター トの 動 作 を どれ だ け 短 時 間 で 開始 で き る の か とい っ た
能 力 で あ る.
b,動
作切換 のす早 さ
動 作 切 換 の す 早 さ とは,あ
る動 作 を して い て状 況 変 化 に応 じて別 の 動 作 に で き
る だ け 短 時 間 で切 り替 え る能 力 の こ と で あ る.た ン ドボ ー ル,サ は,相
ッカ ー,ラ
グ ビー,ア
と えば,バ
ス ケ ッ トボー ル,ハ
メ リカ ン フ ッ トボ ー ル な どの 球 技 種 目で
手 や 味 方 の プ レー ヤ ー の 動 きや ボー ル の動 きに 合 わ せ て,常 に状 況 変 化 に
対 応 しな が らプ レー が 継 続 され る.す な わ ち,ボ ー ル を常 に キー プす る ため に は フ ェ イ ン ト動 作(バ
ス ケ ッ トボー ル とサ ッ カー に み られ る よ うに前 方 の相 手 を ド
リブ ル で か わ す 場 合,ハ また,ラ
ン ドボー ル の相 手 をか わ して シュ ー ト体 制 に 入 る場 合,
グ ビー や ア メ リカ ン フ ッ トボ ー ル の よ うに前 方 の 相 手 を巧 妙 な ラ ンニ ン
グ ス テ ップ に よ りか わ す 場 合 な ど)の
よ うに 相 手 プ レー ヤ ー に 自分 が 動 きな が
ら,次 に こ の よ うな 動 き をす る とみ せ か け て お い て素 早 くま った く別 の動 き をす
る こ と が あ る.こ
の よ う に あ る 動 作 を実 行 中 に,ま
る だ け 短 時 間 に 切 換 え る 能 力 で あ る.と
く に,前
っ た く新 し い 別 の 動 作 に で き 述 の 球 技 種 目で は ボー ル を キー
プ す る た め に こ の 能 力 は 重 要 と な る.
c.動
作 の速 さ
こ れ は 動 作 そ の も の の ス ピー ドの 能 力 で あ る.た
と え ば,ラ
ン ニ ン グ の ス ピー
ドや 野 球 に お け る 打 者 の バ ッ トス イ ン グ ス ピ ー ドや 投 手 の 腕 を 振 る ス ピ ー ド,あ る い は,テ
ニ ス,卓
球,バ
ド ミ ン ト ン と い っ た 種 目 で は ラ ケ ッ ト を 振 る ス ピー ド
の こ と で あ る.
7.2 「敏 捷 性 が 高 い」 とは 「動 作 開 始 の す 早 さ」 や 「動 作 切 換 の す 早 さ」 は,脳
を 中心 と した 神 経 系 の 情
報 処 理 能 力 で あ り,「動 作 の速 さ」 は 筋 の 収 縮 速 度 を あ らわ す 能 力,す
な わ ちパ
ワ ー 発 揮 能 力 で あ る.こ の敏 捷 性 が 高 い と評 価 され る に は,「 動 作 開 始 の す 早 さ」 と 「動 作 の 速 さ」 の 両 者 に 優 れ て い る 場 合,ま 「動 作 の速 さ」 の 両 者 に優 れ て い る場 合,あ
た は,「 動 作 の切 換 の す 早 さ」 と
るい は敏 捷 性 の3つ の 能 力 要 素 す べ
て に優 れ て い る場 合 で あ る.し た が っ て,敏 捷 性 に優 れ る とは,脳
を 中心 と した
神 経 系 の 情 報 処 理 能 力 と筋 の収 縮 速 度 に優 れ て い る こ とが 条 件 とな る.
7.3敏
捷性 を高 め る 方 法
ス ポー ツ に お け る動 作 の 場 面 で の 敏 捷 性 で は,「 動 きの 切 換 の 速 さ 」,「バ ラ ン ス」,「単 純 な ス ピー ド」,「加 速 」 とい った 要 素 が含 まれ て い る.そ れ は あ る動 作 の場 面 で は こ れ ちの 要 素 の 一 つ だ け が 用 い られ るが,多
くの ス ポー ツ に お け る動
作 の 場 面 で は こ れ らの 要 素 が複 雑 に組 み合 わ さ っ て用 い られ て い る. 多 くの ス ポー ツ に お け る動 作 の 場 面 で は,開 始 か ら終 了 まで 自分 の 意 志 だ け に よっ て リズ ムや タ イ ミン グが コ ン トロー ル され る こ とは非 常 に 少 な く,ボ ー ル あ る い は プ レ イヤ ー の動 きに よ って 自分 の動 きが 左 右 さ れ る.す な わ ち,相 対 的 に 瞬 時 に新 し い状 況 が生 まれ,そ
の 動 き に適 応 し なが ら 自分 が動 く中 で敏 捷 性 が 求
め られ る. した が っ て,ス ポー ツ に お け る動 作 の 場 面 を想 定 して 敏 捷 性 を向 上 させ るた め に は,自 由 に速 く動 くの で は な く,一 歩 一 歩 の幅 や 移 動 の 距 離 とい っ た 「枠 」 を
設 定 して 動 作 を コン トロー ル す る トレー ニ ン グが 重 要 で あ る.こ の よ う な幅 と距 離 で 規 定 され た 「枠 」 を意 識 し て動 作 を コ ン トロ ー ル し,動 作 自体 の 速 さ を追 求 す る こ とに よ り敏 捷 性 の トレー ニ ン グ効 果 が 得 られ る.と
くに,敏 捷 性 を構 成 す
る能 力 の 中 で神 経 系 の 情 報 処 理 能 力 の 向 上 を 中心 と して(筋 パ ワー 発 揮 能 力 の 向 上 の ため の トレー ニ ン グ は,本 書 のⅡ の 「3.筋 力 を強 くす る た め の トレー ニ ン グ 」 を参 照),以 が,ス
下 に さ ま ざ ま な敏 捷 性 の 基 本 的 な トレー ニ ン グ 方 法 を紹 介 す る
ポー ツ 競 技 に は,そ れ ぞれ の競 技独 自の動 作 や 競 技 特 性 が あ る場 合 が 多 い
の で,そ
の ス ポー ツ競 技 種 目の 特 性 に合 致 した,よ
法 の 工 夫 が 必 要 で あ る.な お,ス
り実 戦 に近 い トレー ニ ン グ 方
ポー ツ 競 技 力 の 向 上 を 目的 と し ない 趣 味 や レ ク
リェー シ ョ ン と して ス ポー ツ を楽 しむ 人 に とっ て は,す 早 い動 きで構 成 され て い る球 技 型 の ス ポー ツ を 日頃 よ り多 く楽 しむ こ とに よ っ て敏 捷 性 を高 め る こ とが で き る.
a.ラ
ダ ー トレー ニ ン グ3)
ラ ダー とは 梯 子 状 の トレー ニ ン グ器 具 の こ とで あ る.こ れ を地 面 に敷 き,「 枠 」 と して設 定 され た マ ス を順 次1歩 づ つ ス テ ップ した り,ま た は サ イ ドス テ ップ や ス テ ップ に 身体 の 捻 りを加 え た り,多
くのバ リエ ー シ ョン が あ る.
1) ク イ ッ ク ラ ン(図7.1) 1マ ス に 対 して 片 足1歩 ず つ の ス テ ップ で で き るだ け す 早 く前 進 し て い く. 2) ラテ ラ ル ク イ ッ ク ラ ン(図7.2) 1マ ス に 対 し て両 足 と も1歩 ず つ ステ ッ プ し,で
き るだ け す 早 く横 向 き に 前 進
す る. 3) ク ロス オ ー バ ー マ ス の 片 側 の 端 か らス ター トし,1歩
目 の右 足 を最 初 の マ ス の 中 に 踏 み 出 す.
次 に マ ス の 片側 を1歩 ご とに 脚 を交 差 させ て 進 ん で い く. 4)ス
ラ ロー ム ジ ャ ン プ(図7.3)
マ ス の 片 側 の 端 か らス ター トし,両 足 を揃 えて マ ス の 片 側 を ジ グザ グに 跳 び 越 え て前 進 す る. 5) ツ イ ス トジ ャ ンプ マ ス の 片 側 の 端 か らス ター トし,両 足 を揃 えて 前 → 右 → 前 → 左 → 前へ 腰 を強 く 捻 りな が ら ジ ャ ン プ し前 進 す る.
図7.1
ク イ ッ ク ラ ン
図7.2
ラ テ ラ ル ク イ ッ ク ラ ン
図7.4
図7.3
ス ラ ロ ー ム ジ ャ ンプ
図7.5
6)キ
フ ロ ン トバ ッ ク シ ャ ッ フ ル
ジ グ ザ グシ ャ ッ フル
ャ リオ カ ス テ ップ
マ ス の 片 側 の端 に 横 向 きに な っ て 立 ち ス タ ー トす る.最 初 の マ ス に右 足 を踏 み 出 し,次 に 左 足 を 交 差 させ て2つ に 踏 み 出 す,こ
目の マ ス に 踏 み 出す.次
れ を く り返 して 前 進 す る.
に右 足 を3つ
目の マ ス
7)
フ ロ ン トバ ッ ク シ ャ ッ フ ル(図7.4)
マ ス の 片 側 の 端 に 横 向 き に 立 っ て ス ター トす る.右 出 す.2つ
目 の マ ス に 左 足 を 踏 み 出 し,両
下 げ る.次
に 左 足 を マ ス の 後 ろ に 出 る よ う に 踏 み 出 す.右
る よ う に 横 に 踏 み 出 す.両
足 が3つ
足 を2つ
足 を マ ス の 前 に 出 して 踏 み
目 の マ ス に 入 る よ うに 右 足 を 足 が3つ
目の マ スに 入
目 の マ ス に 入 る よ う に 左 足 を 前 に 踏 み 出 す.
以 後 マ ス の 最 後 ま で す 早 く く り返 す. 8)
イ ン ア ウ トシ ャ ッ フ ル
マ ス に 対 し て 横 向 き に 立 っ て ス タ ー トす る.左 る.右
足 も 同 じ マ ス に 踏 み 出 し 両 足 を 揃 え る.左
す.右
足 を 左 足 に 揃 え る よ う 踏 み 出 す.以
9)
足 を 前 に 踏 み 出 しマ ス に 入 れ 足 を次 の 左 マ ス の 後 ろ に踏 み 出
後 マ ス の 最 後 ま で く り返 す.
ジ グ ザ グ シ ャ ッ フ ル(図7.5)
マ ス の 端 の 片 側 か ら ス ター トす る.左
足 を 斜 め 左 方 向 の マ ス に 踏 み 出 す.右
足
を 同 じ マ ス に 踏 み 出 し 両 足 を揃 え る.次
に 左 足 を斜 め 左 方 向 の マ ス の 外 側(マ
ス
の1つ
目 と2つ
目 の 間)に
足 を2つ
す.左
足 を2つ
目 の右 斜 め 方 向 の マ ス の 中 に 入 る よ う に 踏 み 出 して 両 足 を揃 え
る.次
に 右 足 を 斜 め 右 方 向 の3つ
に 踏 み 出 す.左
足 を3つ
踏 み 出 す.右
目 の マ ス の 中 に ま っ す ぐ踏 み 出
目 の マ ス の 外 側(マ
ス の2つ
目 と3つ
目 の 間)
目 の マ ス の 中 に ま っ す ぐ踏 み 出 す.右
足 を3つ
目の 左 斜
め 方 向 の マ ス の 中 に 入 る よ う に 踏 み 出 し て 両 足 を 揃 え る.以
後マ スの最後 まで く
り返 す. 10) ア ジ リ テ ィ シ ャ ッ フ ル マ ス の 左 側 の 端 に 横 向 き に 立 っ て ス タ ー トす る.左 み 出 す.右
足 を1つ
目 と2つ
に 左 足 を右 足 に 揃 え る.右
目 の マ スの 中 に踏
目 の マ ス の 間 の 外 側 に 出 る よ う に 横 に 踏 み 出 す.次
足 を2つ
目 の マ ス の 中 に 踏 み 出 す.左
つ 目 の マ ス の 間 の 外 側 に 出 る よ う に 横 に 踏 み 出 す.右 次 に 左 足 を3つ
足 を1つ
目 の マ ス の 中 に 踏 み 出 す.以
足 を2つ
目 と3
足 を 下 げ て 両 足 を 揃 え る.
後 マ ス の 最 後 ま で く り 返 す.
b. ミ ニ ハ ー ドル トレ ー ニ ン グ3) 小 型 ハ ー ドル(約15∼30cm程 100∼150cm程
度)連
度)(図7.6)を
直 線 的 に(ハ
ー ドル 間 隔 は 約
続 し て 跳 び 越 え る ト レ ー ニ ン グ で あ る.こ
の トレー ニ ン グ
で は,「 枠 」 が 設 定 さ れ た ラ ダ ー ト レ ー ニ ン グ に,さ 発 展 さ せ た も の で あ る.こ
ら に,高
さの 要 素 を加 え て
の トレ ー ニ ン グ で は ジ ャ ン プ と そ れ に よ る バ ラ ン ス の
図7.6
図7.7
ス リー ス テ ッ プ ハ イ ニ ー
図7.8
図7.9
小 型 ハ ー ドル
ラ テ ラ ルハ イ ニー
ラテ ラル ・ア ン クル ジ ャ ンプ
要 素 が 加 わ っ た 動 作 の コ ン トロ ー ル が 要 求 さ れ る. 1)
ス リー ス テ ッ プ ハ イ ニ ー(図7.7)
ミ ニ ハ ー ドル を1m間 ハ ー ドル 間 を 必 ず3歩
隔 で7台
並 べ る.
の ス テ ップ で 同 じ リズ
ム で 走 り抜 け る.
図7.10
ス ク ウ ェ ア ジ ャ ン プ
2)
ラ テ ラ ル ハ イ ニ ー(図7.8)
1)と
同 じ よ う に ミ ニ ハ ー ド ル を 並 べ,進
行 方 向 に 対 し て 横 向 き に な り,進 行 方 向 側 の 足 だ け ハ イ ニ ー(膝
を 高 く上 げ る)を
行 って
逆 の 足 で 地 面 を 強 く蹴 っ て 進 む. 3)
ラ テ ラ ル ・ア ン ク ル ジ ャ ン プ(図7.9)
1)と
同 じ よ う に ミニ ハ ー ドル を 設 置 す る.進
ル ジ ャ ン プ(踵 4)ス
で 地 面 を 蹴 っ て ジ ャ ン プ)を
行 方 向 に 対 して 横 向 き で ア ン ク
し て 進 む.
ク ウ ェ ア ジ ャ ン プ(図7.10)
ミニ ハ ー ドル4台
で1辺
が 約1m程
度 の 四 角 形 を つ く る よ う に 設 置 す る.中
央 か ら 前 → 中 央 → 右 → 中 央 → 後 ろ → 中 央 → 左 → 中 央 の 順 で 両 足 で ジ ャ ン プ す る.
c.ア
ジ リテ ィ デ ィ ス ク(図7.11)3)
こ の ト レ ー ニ ン グ は と くに バ ラ ン ス の 要 素 の 向 上 を め ざ し た トレ ー ニ ン グ で あ る.ア
ジ リ テ ィ デ ィ ス ク と か バ ラ ン ス ボ ー ド と呼 ば れ る器 具 を 用 い る.こ
は 接 地 面 が 曲 線 に な っ て お り,不
安 定 に で き て い る.こ
体 軸 を素 早 く安 定 さ せ る ト レ ー ニ ン グ で あ る.器 よ う に な っ た ら,次
の器具
の不 安 定 な器 具 上 に 立 ち
具 上 で短 時 間 に体 軸 が 安 定 す る
に ジ ャ ン プ し て 器 具 上 に 跳 び 乗 っ て,で
き るだ け 短 時 間 に 体
軸 を安 定 さ せ る ト レー ニ ン グ を 実 施 す る.
d.マ
ー カ ー コ ー ン トレ ー ニ ン グ5)
コー ン を好 き な よ うに並 べ て そ れ をで き る だ け 短 時 間 に 回 る ト レー ニ ン グ で あ る. す 早 い 方 向 転 換 能 力 の 向上 をね ら い と した 図7.11
ア ジ リテ ィデ ィ ス ク
さ ま ざ ま な ド リル が 設 定 で き る.以
下 に基
本 的 な も の を あ げ る. 1)
ド リル1(図7.12)
ジ グ ザ グ に 並 べ た コ ー ン を 回 っ て ゴ ー ル ま で 走 る. 2)
ド リル2(図7.13)
コ ー ン を5mず mを
つ 離 し た 正 方 形 に 配 置 す る.最
横 向 き で サ イ ドス テ ッ プ(右
5mを
方 向 へ)し,次
横 向 き で サ イ ドス テ ッ プ(左
3)
初 の5mを
方 向 へ)す
の5mを
前 向 き に,次 後 ろ 向 き で,最
4)
後 の
る.
ド リ ル3
コ ー ン を ス タ ー ト ラ イ ン か ら お の お の5m,10m,15m,20mの す る.各
の5
々 の コー ン に 向 か っ て,行
間 隔 で配置
き は 前 向 き に 走 り,帰
り は 後 ろ 向 き に 走 る.
ド リ ル4(図7.14)
コ ー ン で10mの に タ ッ チ し,続
範 囲 を つ く る.そ
の 中 央 か ら ス タ ー ト し,左
い て 右 横 に 走 り コ ー ン に タ ッ チ し,最
横 に 走 り コー ン
初 の ス タ ー ト位 置 ま で 走
る.
図7.12
図7.13
マ ー カ ー コー ン ト レ ー ニ ン グ(ド
マ ー カ ー コ ー ン トレ ー ニ ン グ(ド
リル2)
図7.14
リ ル1)
マ ー カ ー コ ー ン ト レ ー ニ ン グ(ド
リ ル4)
5)
ド リ ル5
前 後 ・左 右5m間
隔 で4つ
の コ ー ン を 設 置 す る.そ
手 の 合 図 に よ り指 示 者 を 見 な が ら す 早 く移 動 し,コ
の 中 心 に 立 ち,指
示 者 の
ー ン に タ ッ チ す る.コ
ー ンに
達 し た ら 次 の 合 図 を 出 す.
e.
ド ッ ト ド リ ル マ ッ ト ト レ ー ニ ン グ5)
マ ッ ト上 に5個
所 ドッ ト(○
印)が
つ け て あ る トレ ー ニ ン グ器 具 を 用 い て,前
後 左 右 ・斜 め に 両 足 や 片 足 で す 早 く跳 び 移 る こ と に よ り,す バ ラ ン ス の 向 上 を ね ら い と し た ト レー ニ ン グ で あ る .い き る.基 1)
ろ い ろ な ド リル が 工 夫 で
本 的 な も の を 以 下 に あ げ る. ド リル1:2−1−2(図7.15)
手 前 の 左 右 の ド ッ トに そ れ ぞ れ 片 足 を 置 い て ス タ ー ト.前 足 で 着 地 し,さ
ら に,前
の 動 作 を 時 間 内 に く り返 す.
2)
足Zド
ド リ ル2:両
奥 の ド ッ トに 両 足 で 跳 び,さ
ド リ ル3:両
じ動 作 を
リル
手 前 右 の ド ッ トに 両 足 を 置 い て ス タ ー ト.左
向 き に 行 い,Z字
方 の 中 心 ド ッ トに 両
方 の 左 右 ド ッ トに そ れ ぞ れ 片 足 で 着 地 す る .同
後 ろ 向 き に 行 う.こ
3)
早 い フ ッ トワ ー ク と
ら に,左
の ドッ トに 両 足 で 跳 び,次
奥 の ド ッ トに 両 足 で 跳 ぶ.同
の パ タ ー ン を く り返 す(逆Z字
に斜 め
じ動 作 を 後 ろ
パ タ ー ン も 可).
足 コ ー ナ ー ド リル
手 前 右 の ド ッ トに 両 足 を 署 い て ス ター ト.左
の ド ッ トに 両 足 で 跳 び,次
に斜め
奥 の ド ッ トに 両 足 で 跳 び,さ
ら に,左
奥 の ド ッ トに 両 足 で 跳 ぶ,次
に 後 ろ向
き に 後 ろ 斜 め の ド ッ トの ス タ ー ト位 置 ま で 跳 ぶ.こ
の パ タ ー ン を く り返 す
(手 前 左 を ス タ ー ト位 置 に し て 同 じ よ う に 行 う). 4)
ド リ ル4:両
足8の
字 ド リル
手 前 右 の ド ッ トに 両 足 を 置 い て ス タ ー ト .左
の ド ッ トに 跳 び 移 り,右
の 中 央 の ドッ トへ,次 図7.15
斜め
に 左 斜 め の ドッ
ドッ ト ドリル マ ッ ト トレー ニ ン グ (2−1−2)
トへ,さ
ら に,右
の ド ッ トへ,次
に後
ろ 向 き で 中 央 の ド ッ トへ,さ て 両 足 で 跳 び 移 る.こ 5)
ド リ ル5:タ
f.オ
後 ろ 斜 め の ス タ ー ト位 置 の ド ッ トへ,す
べ
の パ ター ン を く り返 し て 行 う.
ー ン 付 き2−1−2
ド リ ル1の2−1−2と 移 る 時 に180度
ら に,右
同 じ よ う に 行 う が,ス
タ ー ン し,ジ
タ ー トか ら最 も 奥 の ド ッ トに 跳 び
ャ ン プ の 向 き を 常 に 前 方 方 向 に す る.
ー バ ー ス ピ ー ド トレ ー ニ ン グ
外 的 な 力 に よ り 自分 の 身 体 能 力 で 発 揮 で き る 以 上 の 速 い 身 体 移 動 を 行 い,通
常
の ト レ ー ニ ン グ で 発 揮 さ れ る 以 上 の 筋 収 縮 を 引 き 起 こ し,潜
在 的 な 筋 と神 経 の 反
応 を 導 き 出 す こ と に よ り,ピ
幅)の
ッ チ(歩
と し た トレ ー ニ ン グ で あ る.こ
数)と
ス トラ イ ド(歩
の トレ ー ニ ン グ に は,以
改 善 を ね らい
下 の よ う な も の が あ る.
い ず れ の ト レー ニ ン グ も筋 に か か る 負 担 が 極 め て 強 い た め,ウ
ォー ミン グ ア ップ
を 十 分 に し た 直 後 の で き る だ け 疲 労 が 少 な い 時 に 数 回 行 う. 1)
ダ ウ ン ヒ ル ス プ リ ン テ ィ ン グ(下
通 常,傾
斜 角 度2∼3.5度
理 想 的 に は20m程 下 り坂,さ い .こ
り坂 走)2)
程 度 の 傾 き が50m程
度 継 続 す る コ ー ス で 行 う が,
度 の フ ラ ッ ト コ ー ス に 続 い て,1-3.5度
ら に,続
い て15m程
程 度 の15m程
度 の
度 の フ ラ ッ ト コー ス が あ れ ば もっ と も望 ま し
れ は 最 初 の フ ラ ッ ト区 間 で 最 大 ス ピ ー ド近 く に 加 速 し,傾
と ス ト ラ イ ド を上 げ て オ ー バ ー ス ピ ー ドに し,オ
斜 区 間 で ピ ッチ
ー バ ー ス ピ ー ドを 持 続 し な が ら
重 力 の 助 け を借 りず に フ ラ ッ トな 区 間 で ス ピ ー ドを 持 続 す る こ とが で き る た め で あ る.こ
の 全 力 疾 走 を5∼8回
程 度 く り返 す が,各
回 の 間 に2∼3分
程 度 の休 息 を
と る こ と. 2)
牽 引 トレ ー ニ ン グ(ト
ー イ ン グ)2)
弾 力 性 チ ュ ー ブ を 胴 体 に 巻 き付 け て,チ 力 疾 走 す る.た る.そ
ュ ー ブ の 張 力 に よ り牽 引 力 を つ け て 全
と え ば ゴ ー ル ポ ス トに ― 端 を く く り つ け 他 方 を 自 分 の 体 に つ け
の 状 態 で チ ュ ー ブ を 引 き延 ば し な が ら約20m歩
け な が ら ゴ ー ル ポ ス トに 向 か っ て 前 進 す る.こ の2回 m程
は3/4の
ス ピ ー ドで 行 い,後
度 下 が っ て,牽
は2∼3分
と る).
の2回
い て 下 が り,牽
れ を 最 初4回
く り返 す が,は
は 最 大 ス ピー ドで 走 る.さ
引 力 を 強 め て ス ピ ー ド を 高 め て3回
引 力 を受
走 る(各
じめ
ら に,5∼8
回の 間の休 息 〔 松岡 弘記 〕
参
考
文
献
1) 浅 見 俊 雄:ス
ポ ー ツ ト レ ー ニ ン グ,朝
2)
小 林 寛 道:ス
ポ ー ツ ス ピー ド ト レ ー ニ ン グ,大
3)
日本SAQ協
会 編:ス
4)
大 築 立 志:「
た く み 」 の 科 学,p.74-76,朝
5)
Pauletto,B.:ト
ポ ー ツ ス ピー
倉 書 店,1985.
ド養 成SAQト
有 働 正 夫:最
レ ー ニ ン グ,大
修 館 書 店,1999年.
倉 書 店,1988.
ー タ ル ・ア ス リー ト理 論 の 考 え 方 と トレ ー ニ ン グ の 実 際[3].Training
nal,2:63-66,1997. 6)
修 館 書 店,p.165-171,1999.
適 ト レ ー ニ ン グ,オ
ー ム 社,1984.
Jour
8 肥満 の予防や解消 のための トレーニング
8.1肥 a.肥
満 と は
満 と は脂 肪 の つ き過 ぎ
健 康 な成 人 の 体 に は,体 重 の お よ そ60%の パ ク質,ミ
ネ ラル,糖 質 な ど),お
水 分,20∼30%の
よび15∼25%の
固 形 成 分(タ
ン
脂 肪 が あ る.こ れ らの う ち固
形 成 分 の 量 は あ ま り変 わ ら な いが,脂 肪 の量 は 食 事 や 運 動 な どの 状 況 に 応 じて 大 き く変 動 す る.運 動 不 足 や 食 べ 過 ぎが 続 くと脂 肪 が 増 え る.体 に過 剰 な脂 肪 が つ い て 太 っ た 状 態 を 肥 満 と い う.「 肥 満 は過 剰 の脂 肪 の 蓄 積 で あ る」 とい う定 義 が 一 般 に ひ ろ く浸 透 した の は ,1990年 成 人 の 場 合,男
代 以 降 の こ とで あ る1).
子 で体 重 の15∼20%,女
て い る.こ れ が 男 子 で20%以
上,女
子 で20∼30%の
子 で30%以
脂 肪 が 適 正 量 と され
上 に な る と肥 満 と判 定 され,体
に 脂 肪 が つ き過 ぎ て い る こ とに な る(表8.1).
b.体
脂 肪 率 で肥 満 を判 定 す る
「最 近 太 っ て きた 」 とい う と き,何 を基 準 に し て判 断 して い るの だ ろ うか.体 重 が 増 え て きた こ とだ け で 太 っ て い る とい って い る の で は な さ そ うで あ る.ス ポ ー ツ選 手 の よ うに 筋 肉 質 でが っ し り した体 だ と太 っ て い る とい う感 じは し な い. 反 対 に,体 重 が 少 な くて も丸 み の あ る体 だ と太 っ て い る と い う感 じが す る.肥 満 か ど うか は 体 重 に 占め る脂 肪 の割 合 に よ るの で あ る. 表8.1体
脂 肪 率 に よ る 肥 満 の 判 定(Jackson,A.S.S.,1980)
体 の 中 に どれ だ け の 脂 肪 が 含 まれ て い るか,す
な わ ち(脂 肪 の 重 さ ÷体 重)を
体 脂 肪 率 とい う.こ の 体 脂 肪 率 が 増 え るこ と を太 る とい うの で あ る.肥 満 を判 定 す るに は 全 身 の脂 肪 の 重 さ を 測 り,体 脂 肪 率 を知 る こ とが必 要 で あ る.体 脂 肪 率 は 市販 され て い る体 脂 肪 計 で 測 る こ とが で き る.
c.BMI法
で肥 満 度 を評 価 す る
一 般 の 人 で も正 確 に 測 る こ とが で き る身 長 と体 重 を基 に して 標 準 体 重 を求 め, 肥 満 の程 度 を判 定 す る方 法 も あ る. 標 準 体 重 の 求 め 方 に は さ ま ざ まな 方 法 が あ るが,1989年
に 日本 肥 満 学 会 が 標
準 的 な物 差 し と して 導 入 したBMI(body
が 広 く利 用 さ れ て い
る.BMIは,体 身 長 が1.6m,体
重(kg)を
mass
身 長(m)の2乗
重 が55kgの
index)法
人 のBMIは
で 割 っ た 数 値 で あ る.た
とえ ば,
次 の よ うに な る.
BMI=55÷1.62=21.5
BMIに
よ る肥 満 の判 定 は,22を
「標 準 値 」 と し,25以
る.し た が っ て,標 準体 重 は 身長2(m)×22と
d.肥
上 を 「肥 満 」 と判 定 す
な る.
満 のタイプの判定法
肥 満 は,体 型 か ら 「上 半 身 肥 満 」 と 「下 半 身 肥満 」 とに 分 け る こ と も で き る. 上 半 身 肥 満 は 腹 部 か ち上 に脂 肪 が た ま る タ イ プ で あ る.そ の 体 型 は 「りん ご 型肥 満 」 と呼 ば れ,男 性 に 多 く見 られ る.下 半 身 肥 満 は 腰 か ら腎 部 の 部 分 に 脂 肪 が蓄 積 す る タ イ プ で あ る.こ の体 型 は 「洋 な し型 肥 満 」 と呼 ば れ,女 性 に 多 く見 られ る.こ の う ち上 半 身 肥 満 の 人 の 方 が 下 半 身 肥 満 の 人 よ りも,高 血 圧 症,高 脂 血 症,糖
尿 病 な ど と関 連 が 深 い こ とが わか って い る.上 半 身 肥 満 の 判 定 は 次 の よ う
に行 う. ア.ウ
ェ ス ト(cm)と
イ.W/H比=ウ ウ.W/H比
ヒ ップ(cm)を
測 る.
ェ ス ト÷ ヒ ップ を求 め る. が 男 性 で1.0以
上,女
性 で0.8以
上 の 場 合 を上 半 身 肥 満 と判 定
す る.
8.2な
ぜ 肥 満 を予 防 ・解 消 す る のか
肥 満 は 外 見上 の 問 題 だ け で は な く,健 康 障 害 の 重 要 な 原 因 に な る.こ の こ と
図8.1
肥 満 は い ろ い ろ な病 気 の 引 き金 に な る(湯 浅, 1995)
は,科
学 的 な 裏 づ け を 基 に し て 近 年 急 速 に 解 明 さ れ て き た.体
コ レ ス テ ロ ー ル,中
性 脂 肪,血
糖,血
脂肪率 が高 いほ ど
圧,尿
酸 な ど の値 が 高 くな る こ とが わ か っ
で は な い(図8.1).い
ろ い ろ な病 気 を 引 き起 こ す 原 因
て き た(表8.2). 肥 満 が 招 く病 気 は1つ と な っ て い る.肥
満 に と も な っ て 起 こ りや す い 病 気 に は,糖
表8.2 体 脂 肪 率 と医 学 的 検 査 値 と の関 係(今
村 他,1992よ
尿 病,高
り一 部 改変)
血 圧,高
脂
血 症,痛
風,動 脈 硬 化,心
筋 梗 塞,脂
肪 肝,胆 石 症,脳 卒 中,月 経 不順,イ
ンポ
テ ン ス,変 形 性 膝 関 節 症 な どが あ る2).運 動 不 足 や 過 食 か ら肥 満 に な りや す い現 代 人 に と って は,「 肥 満 は 万病 の 元 」 で あ る と い え る. 肥 満 予 防 や 解 消 は,健 康 な体 を維 持 す る ため に 必 要 な こ とで あ る.
8.3な a.摂
ぜ 肥 満 にな る の か
取 エ ネ ル ギ ー 量 と消 費 エ ネ ル ギ ー 量 の 差
体 の 中 に あ る脂 肪 の 量 の 変 化 は,食 事 か ら とっ た 摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 と運 動 な ど で使 っ た 消 費 エ ネ ル ギ ー 量 の 間 に差 が 生 じた と きに 起 こ る. 運 動 不 足 で 消 費 エ ネ ル ギー 量 が少 な い とき に余 計 に 食べ て し ま う と,使 い切 れ な い エ ネ ル ギー の余 りが 出 る.こ の 余 っ た エ ネ ル ギー は い ざ とい う と き の た め に,脂 肪 細 胞 の 中 に脂 肪 と して備 蓄 され る.消 費 エ ネ ル ギ ー 量 よ り も摂 取 エ ネ ル ギー量 の 多 い 状 態 が 続 くと ,脂 肪 細 胞 に 備 蓄 さ れ る脂 肪 も着実 に 増 え る.そ の結 果,肥
満 とな る.
反 対 に摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 が 少 なか っ た り,消 費 エ ネ ル ギ ー 量 が 多 い と きに は, 足 ら な い エ ネ ル ギー を補 給 す る ため に脂 肪 を使 うの で体 の 中 に 蓄積 され て い る脂 肪 の 量 は減 って い く. 運 動 不 足 と過 食 が 重 なれ ば,体 脂 肪 は確 実 に増 えて い く.こ れ は,人 間 に備 わ っ た 基 本 的 な メ カ ニ ズ ム なの で あ る.
b.エ
ネ ル ギ ー消 費 量 の 減 少 と肥 満
人 間 が1日
の 中 で 消 費 す るエ ネ ル ギ ー 量 は大 き く2つ に分 け られ る.
1つ は 基 礎 代 謝 量 で あ る.基 礎 代 謝 量 は,目
を覚 ま した状 態 で絶 対 安 静 を保 っ
て い る と きに 必 要 な エ ネ ル ギー 量 で あ る.す な わ ち,生 エ ネ ル ギ ー 量 で あ る.成 人 の1日 る.そ の う ち22∼36%を
きる た め に 必 要 な最 少 の
の 基 礎 代 謝 量 は お よ そ1200∼1400kcalで
あ
筋 肉 が 消 費 す る.筋 肉 の 量 が 少 な い と基 礎 代 謝 量 は 低
下 す る. 2つ 目は 活 動 代 謝 量 で あ る.活 動 代 謝 量 は,食 事,掃
除,通 勤,仕 事,ス
ポー
ツ な どの よ うに 筋 肉 の 活動 よ っ て消 費 され るエ ネ ル ギー 量 で あ る.活 動 代 謝 量 は 体 を どの 程 度 動 か して い るの か に よ っ て 決 ま る の で,体 代 謝 量 も増 加 す る.反 対 に,体
を 活発 に動 か す ほ ど活 動
を あ ま り動 か さ な い 生 活 が 続 くと活 動 代 謝 量 は低
下 す る. 消 費 エ ネ ル ギー 量 は 基礎 代 謝 量 と活 動 代 謝 量 の合 計 に よ っ て決 ま る.基 礎 代 謝 量 と活 動 代 謝 量 の い ず れ か,あ
る い は 両 方 が 減 少 す る と消 費 エ ネ ル ギ ー 量 は 減
り,エ ネ ル ギー の 余 りが 出 て 肥 満 に な るの で あ る.
8.4肥 a.運
満 の 予 防や 解 消 のた め の トレ ーニ ング
動 し食 事 を制 限 す る意 味
肥 満 の 原 因 は,運 動 不 足 に よ る消 費 エ ネ ル ギ ー 量 の 低 下 と過 食 に よ る摂 取 エ ネ ル ギー 量 の 増 大 で あ る.し たが っ て,肥 満 を予 防 し解 消 す る に は運 動 して 消 費 エ ネ ル ギー 量 を増 や し,食 物 か らの 摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 を制 限す れ ば よい. とこ ろ で,運 動 に よ って 消 費 さ れ るエ ネ ル ギ ー 量 は 決 して 多 い とは い え な い. た とえ ば 速 歩 を30分 続 け て も100kcalし
か 消 費 され な い(図8.2).こ
れ は茶 碗
2/3杯 分 の ご は ん の エ ネ ル ギ ー 量 と同 じ で あ る.数 字 だ け 見 れ ば,速 歩 を30分 間 行 う代 りに ご は ん を少 しだ け 制 限 して も効 果 は 同 じこ とに な る. 若 者 の 中に は,運 動 し な い で 食事 だ け 制 限 して 肥 満 を予 防 ・解 消 し よ う とす る もの が い る.確 か に 食事 制 限 だ け で も脂 肪 や 体 重 を滅 ちす こ とは で き る(表8. 3).し
か し,食 事 制 限 と運 動 を組 み合 わ せ る方 が,脂 肪 や 体 重 減 少 の 効 果 は大 き
い.し
か も,食 事 制 限 だ け を行 っ た場 合 に は体 力 や 生 理 的 機 能 の低 下 を もた らす
が,食 事 制 限 と運 動 を組 み 合 わせ た場 合 に は体 力 の 低 下 は起 こ ち な い.肥 満 を解 消 し予 防 す る ため に は 食 事 療 法 と運 動 療 法 を組 み合 わせ る こ とが 重 要 で あ る.
図8.2 30分 の 運 動 で 消 費 さ れ る エ ネ ル ギー
表8.3
b.基
「食 事 制 限 の み 」 と 「食 事 制 限+運
礎 代 謝 量 を 高 め る た め の トレー ニ ン グ
基 礎 代 謝 量 は 年 齢 と と もに低 下 して い く.20歳 体 重1kgあ 120kcalの
動 」 の 効 果 の比 較
た りで2kcalだ
代 に 比 べ て40歳
け 基 礎 代 謝 量 が 減 る.体 重60kgの
代 で は1日
に
人 な ら,1日
に
低 下 に な る.こ の 低 下 の 主 な 原 因 は 筋 肉 量 の 減 少 や 代 謝 の 低 下 に あ
る.成 人 の1日
の 基 礎 代 謝 量 は お よ そ1200∼1400kca1で
3を 筋 肉が 消 費 す る.し
あ るが,そ
の うち の1/
たが っ て,筋 肉 量 が 少 な くな っ た り,筋 肉 の代 謝 能 力 が
衰 え る と,基 礎 代 謝 量 は 低 下 す る. 年 齢 だ け の 問 題 で は な い.運 動 不 足 の 状 態 が長 く続 い て も筋 肉 の エ ネ ル ギー代 謝 能 力 や 筋 肉 の 量 は減 る.し た が って,運 動 不 足 も基 礎 代 謝 量 を低 下 させ る原 因 とな る. 肥 満 を予 防 し解 消 す るた め に は,筋 肉 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 能 力 を高 め,筋
肉の量
を増 や し,基 礎 代 謝 量 を高 め る こ とで あ る.こ の た め に 有 効 な運 動 は レ ジ ス タ ン ス ・ トレー ニ ン グで あ る.レ ジ ス タ ンス ・トレー ニ ン グ とは 筋 肉 に 抵 抗(レ
ジス
タ ン ス)を 加 え て 行 う運 動 の こ と で あ る4,5).こ の ト レー ニ ン グ を 利 用 し て,大 きな 筋 肉 の あ る腹 部,脚
部,背
部 を鍛 え るの が 基 礎 代 謝 量 を高 め るの に 効 果 的 で
i) ク ラ ン チ ャ ー(図8.3)
膝 を60゜ くら い に 曲 げ て,両 手 を頭 の 後 ろ で
あ る. 1)腹
部の運 動
組ん で仰 向 け に寝 る.両 足 は肩 幅 に 開 く.上 体 をゆ っ く り丸 め て起 こ した り,戻 し た りす る.肩 が 床 か ら離 れ る程 度 ま で起 こ す.10∼20回 ⅱ )ニ
ー レ イ ズ(図8.4)
を3∼5セ
ッ ト.
ベ ン チ の 端 に座 り,膝 を軽 く曲 げ て 宙 に 浮 か べ
てお く.腰 と膝 を 曲 げ る よ う に し て 脚 を胸 に 引 き 寄 せ た り,伸 ば した りす る. 10∼20回 を3∼5セ ⅲ )前
ッ ト.
腹 部 の ア イ ソ メ トリク ス
膝 の 上 に 回 した タ オ ル の 両 端 を も ち,全
力 で タ オ ル を 足 先 の 方 へ 押 す と 同 時 に 両 膝 を胸 の 方 へ 引 き つ け る よ う に す る.こ の 状 態 を7秒
間 保 持 す る.こ
2)脚
部の運動
ⅰ)ス
ク ワ ッ ト(図8.5)
り背 を 伸 ば し た ま ま,両 も っ て 行 う.10∼20回
の 運 動 を 休 み を は さ み な が ら5回
両 足 を 肩 幅 よ り 少 し 広 め に 開 い て 立 つ.胸
膝 を 曲 げ た り伸 ば し た りす る.慣 を3∼5セ
ー フ ・レ イ ズ(図3.8参
乗 せ,か
か と を 引 き下 げ て お く.こ
ⅲ)脚
を3∼5セ
照)
箱 の よ うに 一 段 高 い と こ ろ につ ま先 を
こ か ら ゆ っ く り とつ ま 先 立 ち し た り,下
3)背
げ た
ッ ト.
の ア イ ソ メ ト リ ク ス(図20.11参
90゜ に 曲 げ て7秒
を張
れ て きた らダ ンベ ル を
ッ ト.
ⅱ)カ
りす る.10∼20回
く り返 す .
間 保 持 す る.休
照)
一 方 の 足 で 立 ち,そ
み を は さ み な が ら,こ
の 運 動 を5回
の膝 を
く り返 す.
部の運 動
ⅰ) ワ ン ハ ン ド ・ ロ ウ イ ン グ(図8.6) ベ ン チ に 一 方 の 膝 と手 を つ い て 体 を 支 え る.も 引 き 上 げ る.背 ⅱ)プ
を3∼5セ
み,上
半 身 を 支 え る.宙 を3∼5セ
ⅲ)背
部 の ア イ ソ メ ト リ ク ス(図20.7参 腕 を 曲 げ,右
10cmほ
間 維 持 す る.次
ど上 げ て,7秒
c.活
間 維 持 す る.左
照)
腕 お よ び 両 脚 を 伸 ば す.右 に,右
腕 を 曲 げ,左
右 交 互 に,そ
腕 と左 脚 を 床 か ら
腕 と 右 脚 を 床 か ら10
れ ぞ れ5回
く り返 す .
動 代 謝 量 を 高 め る た め の トレー ニ ン グ
活 動 代 謝 量 を 高 め る に は,と あ る.消
手 で ベ ンチ をつ か
ッ ト.
うつ 伏 せ に 寝 る.左 ど上 げ て7秒
つ 伏 せ に な る.両
に 浮 い た 脚 を ゆ っ く り も ち 上 げ た り下 ろ し た りす る .
10∼20回
に か く運 動 を 行 っ て エ ネ ル ギ ー を 消 費 す る こ と で
費 さ れ る エ ネ ル ギ ー 量 は 異 な る が,ど
の よ う な 種 類 の 運 動 で も体 を動 か
せ ば エ ネ ル ギ ー は 確 実 に 消 費 さ れ る の で あ る(表8.4)
.し
か し,肥
た り解 消 す る と き に は 有 酸 素 運 動 を行 う の が 効 果 的 で あ る.有 素 を 十 分 に 取 り入 れ な が ら 行 わ れ る 運 動 の こ と で あ る.エ れ,ウ
ッ ト.
ロ ー ン ・ レ ッ グ ・ レ イ ズ(図8.7)
腰 か ら 上 が ベ ン チ に の る よ う に し て,う
cmほ
う 一 方 の 手 に も っ た ダ ンベ ル を
中 を 丸 め な い よ う に し て 行 う.10∼20回
ォ ー キ ン グ,ジ
ョ ギ ン グ,ス
イ ミ ン グ,サ
満 を予防 し
酸 素 運 動 と は,酸
ア ロ ビ ク ス と も呼 ば
イ ク リ ン グ な ど が あ る.さ
らに
図8.3
クラ ン チ ャー
腹 部 の 筋 肉 を太 くす る運 動 図8.4
図8.6
ワ ン ハ ン ド ・ロ ウ ィン グ
背 中の 筋 肉 を太 くす る 運動
図8.7
図8.5
ニーレイ ズ
腹 部 の 筋 肉 を太 くす る運 動
スクワッ ト
大 腿 部 の 筋 肉 を太 くす る運 動
プ ロー ン ・レ ッ グ ・レ イ ズ
背 中の 筋 肉 を太 くす る運 動
注 意 す る こ とは,エ ネ ル ギー の 出所 で あ る. 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー は 糖 質 と脂 肪 か ら出 さ れ る.エ ネ ル ギー を消 費 す るだ け な ら糖 質 で あ ろ う と脂 肪 で あ ろ う と,ど ち らか らエ ネ ル ギー が 出 て も よ い.と
ころ
が,肥 満 の 予 防や 解 消 が 目的 で あ る と きに は,脂 肪 か らた くさん の エ ネ ル ギー が 出 る よ うに 運 動 を行 う こ とが 必 要 で あ る.脂 肪 が エ ネ ル ギ ー 源 と して 使 わ れ る と,そ の 量 が 減 り肥 満 の 予 防や 解 消 に役 立 つ か ら で あ る. 脂 肪 を使 う よ うに 運 動 す るた め に は,運 動 の 強 さ と時 間 に 配 慮 しな け れ ば な ら な い. 運 動 強 度 が60%以
下(中
等 度 以 下)の
と きに は 脂 肪 と糖 質 が 半 々 に 使 わ れ る
表8.4各
種 運動 の1分 よ り一部 改 変)
間 の 消 費 エ ネ ル ギー 量(三
浦 ・橋 本,1993
が,そ
れ 以 上 に 強 度 が 上 が っ て くる と徐 々 に糖 質 か ちの エ ネ ル ギ ー 供 給 の 割 合 が
増 え て い く.肥 満 の 予 防 や 解 消 の た め に は,運 動 強 度 は 中等 度 で 行 う こ とが 必 要 で あ る.目 安 は,「 呼 吸 は や や きつ い が,十 分 に 話 しは で き る」 程 度 の 強 さ で あ る. 有 酸 素 運 動 をは じめ る と最 初 は糖 質 が 中 心 に な っ て エ ネ ル ギ ー を供 給 す る. 15∼20分
経 過 し た 頃 か ら しだ い に 脂 肪 の 燃 焼 が 高 ま っ て く る.し た が っ て,肥
満 の 予 防 と解 消 の た め に は20分
以 上 運 動 を続 け る こ とが 必 要 で あ る.こ れ まで
の研 究 か ち,脂 肪 を燃 焼 す るの に最 も効 果 的 な運 動 は ウ ォ ー キ ン グ で あ る こ とが わ か っ て い る.1日 い.ウ
に20∼60分
ォー キ ン グ は,正
の ウ ォー キ ン グ を週4∼5日
の頻 度 で行 うの が よ
しい 姿 勢 を保 ち な が ら,呼 吸 は 鼻 か ら吸 って 口 か ら吐 く
よ うに 行 う よ う に しよ う(図20.2参
照).
〔 湯浅 景元 〕
参 考文献 1) 蒲 原 聖 可:肥
満 と ダ イ エ ッ トの 遺 伝 学 ∼ 遺 伝 子 が 決 め る 食 欲 と 体 重,p.6,朝
2) 湯 浅 景 元:体
脂 肪 ∼ 脂 肪 の 蓄 積 と 分 解 の メ カ ニ ズ ム,p.91,山
3) Svendsen,O.L.,et tissue
al.:Effect
mass,resting
postmenopousal
metabolic
of an
energy-restricted
rate,cardiovascular
diet,with risk
or without
factors,and
exersice,on
bone
in
lean
overweight
women.Am.J.Med.,95:131-139,1993.
4)
ト レ ー ニ ン グ 科 学 研 究 会 編:レ
5)
湯 浅 景 元:筋
肉 ∼筋 肉 の構 造
6)
湯 浅 景 元:体
脂 肪 が 気 に な る 人 の ダ イ エ ッ ト ウ ォ ー キ ン グ,p.66-67,女
1998.
日 新 聞 社,1999.
海 堂,1995.
ジ ス タ ン ス ト レ ー ニ ン グ,p.20,朝 ・役 割 と 筋 出 力 の メ カ ニ ズ ム,山
倉 書 店,1994. 海 堂,1998年. 子 栄 養 大 学 出 版 部,
Ⅲ 体 力づ くりのための 生 活 習 慣 と食事
9 体 力づ くりのための食 事
9.1 運 動 と 栄 養 a.栄
養 と栄 養 素
「牛 乳 に は栄 養 が あ る」 と よ く言 わ れ るが,厳 密 に は こ の 表 現 は 正 し くな い. 栄 養 とは,生 物 が 生 きて い くた め に体 外 か ら物 質 を取 り入 れ て利 用 す るプ ロ セ ス の こ とで あ る.体 外 か ら取 り入 れ る物 質 は 栄 養 素 と呼 ば れ る. 人 間 が 必 要 とす る栄 養 素 は,糖 質,脂 質,タ (無機 質)の5つ
ン パ ク質,ビ
で あ る.こ れ ら の栄 養 素 に は,エ
タ ミン,ミ
ネ ラル
ネ ル ギー 源 や 生 体 の構 成 成 分
と な り,体 調 を整 え る とい っ た重 要 な役 割 が あ り,ま た体 力 づ く りを行 う場 合 に も重 要 で あ る. 体 力 トレー ニ ン グ の ため に運 動 を行 う と きの 栄 養 素 の 大 切 さ は,次 の よ うに ま とめ られ る(図9.1). ・運 動 か ら見 た栄 養 素 の 第1の 役 割 は,エ ネ ル ギー の供 給 で あ る.体 力づ く りの た め に運 動 を行 う と きに は,日 常 生 活 以 上 の エ ネ ル ギー が 必 要 に な る.こ の エ ネ
図9.1 運 動 に お け る栄 養 素 の 役 割(長
嶺,1979)
ル ギー が 供 給 で きな け れ ば 運 動 を行 う こ とは で きず,体 力 を向 上 させ る こ と もで きな い.ま
ず は,エ ネ ル ギー 源 に な る栄 養 素 を体 内 に 取 り込 む こ とで あ る.
・第2の 役 割 は,エ ネ ル ギー の発 生 を円 滑 に行 う こ と で あ る.体 内 に取 り込 ん だ 糖 質 や 脂 質 と い っ た栄 養 素 を分 解 して エ ネ ル ギー を出 さ ね ば な ら な い.こ の 反 応 を円 滑 に進 め る の が ビ タ ミンB1,B2,ニ
コチ ン酸 で あ る.
・第3の 役 割 は,筋 肉 を肥 大 させ る こ とで あ る.運 動 に よ っ て 筋 肉 に負 荷 を加 え る と,タ
ンパ ク質 を利 用 して筋 肉 を肥 大 させ る.
・第4の 役 割 は,体 内 に 取 り入 れ られ た ビ タ ミンや ミネ ラ ル に よ っ て体 調 を整 え た り,持 久 力 を保 持 し た り,疲 労 回 復 を促 進 させ る こ とで あ る. 体 力 を 高 め る に は,適 度 な運 動 と適 切 な栄 養 素 摂 取 を組 み合 わ せ る こ とが 必要 で あ る.
b.運 1)糖
動 と栄 養 素 質
三 大 栄 養 素 とい わ れ る糖 質,脂 質,タ
ンパ ク質 の い ず れ も体 内 で燃 え る と運動
の エ ネ ル ギー と な る.こ の 中 で タ ン パ ク質 は筋 肉,骨,皮 ゆ る組 織 をつ くる重 要 な成 分 で あ る.し たが っ て,タ
膚,血 液 な ど体 の あ ら
ンパ ク質 をエ ネ ル ギー 源 と
して 利 用 す る こ とは,健 康 障 害 の 原 因 とな る.運 動 な ど に 必 要 なエ ネ ル ギ ー は糖 質 や 脂 質 か ら供 給 す る こ とが 重 要 で あ る.そ の 中 で も,身 体 活 動 に とっ て最 も重 要 な エ ネ ル ギー 源 は糖 質 で あ る.糖 質 が 少 な くな る と,脂 質 か らエ ネ ル ギー源 が 供 給 され る よ う に な る. タ ンパ ク質 の 崩 壊 を起 こ さ な い た め に は,1日50∼100gの
糖 質 の補給 が必要
で あ る とい う こ と で,大 方 の 専 門 家 の 意 見 は一 致 して い る1).米1カ そ50gの 2)脂
ップ に お よ
糖 質 が 含 ま れ て い る. 質
脂 質 は,運 動 す る 人 に と っ て は糖 質 の 次 に 重 要 な エ ネ ル
ギー源 とな る.と
く
に,運 動 時 間 が 長 くな る と糖 質 か らの エ ネ ル ギー 供 給 の 割 合 は 減 っ て,脂 質 か ら の エ ネ ル ギー 供 給 の割 合 が 増 え て くる.し たが っ て,体 運 動 を行 う と き に は,あ か し,こ の 場 合,脂
力づ く りの ため に 長 時 間
る程 度 の脂 質 を食 事 で取 って お くこ とが 必 要 で あ る.し
質 の 摂 取 量 が 総 エ ネ ル ギー 消 費 量 の30%以
とが,肥 満 予 防 の 点 か ら推 奨 さ れ て い る.
内 に お さめ る こ
また,肥 満 予 防 か ら コ レ ス テ ロー ル の 多 い 食 品 を減 ら して,コ 1日 の摂 取 量 が300mgを
レ ス テ ロー ル の
超 え な い よ うにす る必 要 が あ る.脂 質 を と る場 合 に は,
さ らに コ レ ス テ ロー ル値 を下 げ る不 飽 和 脂 肪 酸 が 多 く含 まれ て い る食 品 を摂 取 す る こ と も薦 め られ て い る2). 3) タ ンパ ク質 タ ンパ ク質 に は2つ の役 割 が あ る. 最 も重 要 な役 割 は,次 の よ うに体 の組 織 や 身体 機 能 に とっ て必 要 な物 質 の成 分 と な る こ とで あ る. ① 運 動 に と って 重 要 な 筋 肉 や 骨 の成 分 とな る. ② 血 液 の 中 に あ っ て酸 素 の 運 搬 を行 うヘ モ グ ロ ビ ンや,筋
肉の 中 に あ っ て酸
素 を運 搬 す る ミオ グ ロ ビ ンの 成 分 と な る. ③ 体 内 で の さ ま ざ ま な化 学 反 応 を促 進 す る酵 素 や,酵
素 の 働 きを助 け る補 酵
素 の成 分 とな る. ④ ブ ドウ糖 を グ リコー ゲ ンや タ ンパ ク質 に 合 成 す る働 き を促 進 す る イ ン ス リ ン の成 分 とな る. ⑤ 筋 肉 活動 の 直 接 の エ ネ ル ギ ー 源 と な るATP(ア
デ ノ シ ン三 燐 酸)の
成分
ン パ ク質 は,1gあ
たり
とな る. ⑥ 病 原 菌 に抵 抗 す る抗 体 の 成分 とな る. 第 二 の 役 割 は,エ ネ ル ギ ー 源 に な る こ とで あ る.タ 4.1kcalの
エ ネ ル ギ ー を発 生 す る.し か し,タ ンパ ク質 は先 ほ ど述 べ た よ うに 体
の 重 要 な 構 成 成 分 に な って い る の で,エ
ネ ル ギー 源 と して使 う こ とは 筋 肉や 骨 や
血 液 な どの 生 命 維 持 に と って 重 要 な 組 織 を減 らす こ とに な る.し た が っ て,タ
ン
パ ク質 をエ ネ ル ギー 源 と して 利 用 す る こ とは避 け なけ れ ば な らな い .飢 餓 の と き を 除 け ば,身 体 活 動 の た め の エ ネ ル ギー は糖 質 と脂 質 か ら供 給 され て い る. タ ンパ ク質 の 摂 取 量 は,一般
に は1日
く りの た め に運 動 を行 う と きに は,体
に体 重1kgあ
重1kgあ
た り1gで
た り1.2∼1.5gに
あ る.体 力 づ 増 や す よ うに
す る. 食 事 に よ っ て タ ンパ ク質 を とる と きに 注 意 す る こ とは,食 ミノ酸 の種 類 と量 で あ る.タ
ミ ノ酸 の 種 類 と量 で優 劣 が 決 ま る.ア ン,リ ジ ン,メ チ オ ニ ン,フ
品 に含 まれ て い るア
ンパ ク質 の 栄 養 素 と して の 価 値 は,含
まれ て い るア
ミ ノ酸 の 中 で も,イ ソ ロ イ シ ン,ロ
ェニ ル ア ラニ ン,ス
レオ ニ ン,ト
イシ
リプ トフ ァ ン,バ
リン,ヒ
ス チ ジ ン の9種 類 は体 内 で ほ とん ど合 成 され な い上 に,人 体 の機 能 を正
常 に働 か せ る ため に 必 要 不 可 欠 な もの で あ る.こ れ ら9種 類 の ア ミ ノ酸(必 須 ア ミ ノ酸)は,か
な らず 食 物 か ら と ら な け れ ば な ら な い.
必 須 ア ミノ酸 は 魚 類,肉 類 な どに 多 く含 まれ て い る.食 事 に よ っ て タ ンパ ク質 や 必 須 ア ミノ酸 を摂 取 す る と きに は,複 数 の 食 品か ら と る よ うに す るの が 好 ま し い.
4) ビ タ ミ ン ビ タ ミン は体 の構 成 成 分 で もな い し,エ ネ ル ギー 源 に もな ち な い.し か し,体 の 正 常 な機 能 を営 む ため に 欠 くこ との で き な い栄 養 素 で あ る.ビ は少 な い の で,"微
量 栄 養 素"と
呼 ば れ る.ビ
タ ミンの 必 要 量
タ ミン は 体 内 で つ く る こ とが で き
な い の で,食 事 で と る こ とが 必 要 で あ る. ビ タ ミン は脂 溶 性 ビ タ ミ ン(ビ タ ミンB,パ
ン トテ ン酸,ビ
チ オ ン,ビ
ン は 小 腸 で容 易 に 吸 収 さ れ るが,脂 か ち吸 収 さ れ な い.そ
タ ミ ンA,D,E,K)と タ ミンC)に
水 溶 性 ビ タ ミン(ビ 分 類 で き る.水 溶性 ビ タ ミ
溶性 ビ タ ミン は脂 肪 とい っ し ょで な い と小 腸
の た め,脂 肪 摂 取 を制 限 しす ぎ る と脂 溶 性 ビ タ ミン の 吸 収
は 阻 害 さ れ る. 脂 溶 性 ビ タ ミン は体 内 に 蓄 積 さ れ るの で,食 事 で 十分 摂 取 しな か っ た と して も 2∼6ヶ 月 は 欠 乏 状 態 を起 こす こ と は な い.そ
れ に比 べ て,水 溶 性 ビ タ ミン は ほ
とん ど体 内 に 蓄積 で きな い の で,食 事 で 摂 取 しな くな る と容 易 に 欠 乏 状 態 を き た す こ とに な る. ビ タ ミン は 種 類 に よ っ て 役 割 が 決 ま っ て い る.各 種 の ビタ ミンが 含 ま れ て い る 食 品 を 食事 に よ っ て摂 取 す る こ とが 必 要 で あ る(表9.1). 5) ミ ネ ラ ル ミネ ラル は,必 要 量 は 少 な い が 体 の 正 常 な 機 能 の た め に 必 ず 必 要 な物 質 で あ る.ビ タ ミン と 同様 に"微 量 栄 養 素"の1つ
で あ る.栄 養 学 で い う ミネ ラル とは
食 品 や 飲 料 水 に 含 ま れ て い る無 機 の 元 素 の こ とで あ る.水 な どに 溶 け て い る ミネ ラル の こ と を電 解 質 とい う. 人 間 の体 に とっ て 必 要 な ミネ ラ ル は15種 類 あ るが,そ く含 ま れ て い るナ ト リウム,カ れ な い鉄,銅,亜
鉛,ヨ
リウム,カ
ー ド,フ ッ素,セ
ル シ ウム,リ レ ン,モ
の 中 で 人 体 に比 較 的 多 ンな ど と,少 し しか 含 ま
リブ デ ン な ど に分 け られ る.
ミネ ラル は 種 類 に よ って そ れ ぞ れ 特 徴 的 な 役 割 が あ る.体 の 機 能 を正 常 に保 ち
表9.1
ビ タ ミン の種 類 ・役 割 ・主 要 食 品
なが ら運 動 を行 うため に は,必 要 に応 じて,適 量 の ミネ ラル を食 品か ら摂 取 し な け れ ば な らな い(表9.2).
〔 湯浅景 元 〕
参考文 献 1) Synder Ann C.;山 崎 元 監 訳:エ 2) 科 学 技 術 庁 資 源 調査 会 編:四 訂 3) 工 藤 毅 志 編:食 4) 湯 浅 景 元:よ
べ る健 康 大 事典,学
クサ サ イ ズ と食 事 の 最 新 知 識,ナ ッ プ,1999. 食 品成 分 表,女 子 栄 養 大 学 出版 部,1998. 習研 究 社,1987.
くわ か る スポ ー ツ サ イ エ ンス,サ
ニ ー サ イ ドア ッ プ,1994.
表9.2
ミネ ラル の 種 類 ・役 割 ・主要 食 品
9.2筋 a.筋
肉づ く りの た め の食 事
肉 を つ くる タ ンパ ク質
ヒ トの か らだ の質 量 の うち,30∼40%を 水 か らで きて い るが,残
りの 約30%の
骨 格 筋 が 占め る.骨 格 筋 の約70%は ほ と ん どが タ ン パ ク 質 で で きて い る.タ
ン パ ク質 は,細 胞 内 で は さ ま ざ まな オ ル ガ ネ ラ(細 胞 内 器 官),細 な ど の 材 料 とな り,細 胞 外 で は細 胞 外 基 質(コ
ラー ゲ ン,エ
胞 骨 格,酵 素
ラ スチ ン な ど)の 材
料 とな る.骨 格 筋 は 運 動 の た め に 高 度 に特 殊 化 し た器 官 で あ り,細 胞 体 積 の う ち 約80%以
上 を,ア
ク チ ン,ミ オ シ ン な どの タ ンパ ク質 か らつ く られ る 「収 縮 装
置 」 が 占め る とい う特 徴 が あ る.タ
ンパ ク質 は20種 類 の ア ミノ酸 が鎖 状 にペ プ
チ ド結 合 を した も の(ポ の 約35%を,ロ
リペ プ チ ド)で あ る.筋 の タン パ ク質 をつ くるア ミノ酸
イ シ ン,イ
ソ ロ イ シ ン,バ
リン が 占め る.こ れ ち は,枝 分 か れ
を した分 子 構 造 を も っ て い るの で,分 岐 鎖 ア ミノ酸(Branched
Chain
Amino
Acid:BCAA)と
総 称 さ れ,必 須 ア ミノ酸(体
な い ア ミノ酸)に
含 まれ る.筋 肉 を コ ン ク リー トの建 造 物 に た とえ る と,ア
酸,と
くにBCAAは,そ
内 で 新 た に合 成 す る こ との で き ミノ
の 主 要 材 料 で あ る コ ン ク リー トに 相 当 す る こ とに な
る.
b.タ
ンパ ク質 の 合 成 と分 解:窒
素 バ ラ ンス
か ら だ を構 成 す る タ ンパ ク質 は,常 に分 解 され 合 成 され て い る.分 解 に関 わ る 化 学 反 応 系 を 異 化 過 程(タ (タ ンパ ク合 成),両
ンパ ク分 解),合
成 に 関 わ る化 学 反 応 系 を 同 化 過 程
者 を合 わせ て タ ンパ ク質 代 謝 と呼 ぶ.筋
質 も絶 えず 古 い もの と新 しい もの が 入 れ替 わ って い て,こ さ を代 謝 回 転 率 と呼 ぶ.代 謝 回 転 は,タ
肉 をつ くる タ ンパ ク
の 「入 れ替 わ り」 の 速
ンパ ク質 をつ ね に新 し く して,時 間 とと
もに 劣 化 す る の を防 い で い る.し たが っ て,栄 養 素 と して タ ンパ ク質 を摂 取 す る こ とは,か
ら だ を維 持 す る た め に 必 須 とな る.
異化 過 程 で は,タ
ンパ ク質 が ア ミノ酸 に分 解 さ れ,さ
らに ア ミノ酸 が 酸 化 され
て 最 終 的 に 二 酸 化 炭 素 と水 と窒 素 を生 じる.窒 素 は 主 に 尿 素 とな って 尿 か ら排 出 され る.食 品 と して摂 取 した ア ミノ酸 に 含 まれ る 窒素 量 と,排 出 され た窒 素 量 と の 差 を,窒 素 バ ラ ン ス と呼 ぶ.窒 素 バ ラ ン スが ゼ ロ で あ れ ば,か され て い る こ と を示 し,マ イナ ス で あ れ ば,か す.し
たが っ て,筋
らだ が 現 状 維 持
ち だ の分 解 が 進 ん で い る こ とを示
肉づ く りの ため に は,常 に 窒 素 バ ラ ン スが プ ラス と な る よ う
に,多 量 の タ ン パ ク質 を摂 取 す る こ とが 必要 で あ る. 筋 肉 は,か
らだ をつ くる諸 器 官 の 中 で も代 謝 回転 率 の高 い 器 官 で あ り,マ ウ ス
な どの小 動 物 で は 約2週
間,ヒ
トを含 む 大 型動 物 で も約2カ
月 で,全
タ ンパ ク質
の約 半 分 が 入 れ 替 わ る と考 え られ て い る.筋 力 トレー ニ ン グ な どの は げ しい 運 動 刺 激 は,総
じて タ ンパ ク質 の合 成 と分 解 の 両 者 を高 め る よ うに 作 用 す る が,食 事
の 質 や 摂 取 タ イ ミン グ を工 夫 す る と と も に,適 切 な休 養 を とる こ とに よ っ て,タ ンパ ク分 解 を抑 え,タ 能 で あ る.
ンパ ク合 成 を 高 め て トレー ニ ン グ効 果 を増 強 す る こ と も可
図9.2 筋 肉づ く りの ため に必 要 な要 素
c.筋
肉 づ くりの た め に必 要 な要 素
運 動 や トレー ニ ン グ に よ って効 率 よ く筋 肉 をつ くる ため に は,筋
肉 内 の タ ンパ
ク質 代 謝 に 関 わ る さ ま ざ まな要 素 を的 確 に刺 激 す る必 要 が あ る.こ れ らの要 素 の うち,現 在 ま で に わ か っ て い る もの の い くつ か を図9.2に
示 す.ト
レー ニ ン グに
よ る強 い 力 学 的 刺 激 そ の もの は,遺 伝 子 に作 用 して タ ンパ ク質 合 成 を 高 め,同 時 に収 縮 装 置 な どに微 小 な損 傷 を引 き お こ し,タ ンパ ク質 の分 解 を も高 め る.タ ン パ ク質 の合 成 は,成 長 ホ ル モ ン,男 性 ホ ル モ ン,成 長 因 子(と 成 長 因 子)な
くに イ ンス リン様
どに よ っ て さ らに 高 め られ る.成 長 ホ ル モ ンは ま た,タ
を抑 え,脂 質 分 解 を高 め る と も考 え られ て い る.こ
ンパ ク分 解
う した 過 程 を 円滑 に す す め る
た め の要 素 と して,栄 養 と休 養 が 重 要 な要 因 と な る.言
う ま で もな く,タ ンパ ク
質 は筋 肉 を構 成 す る材 料 と して 必 要 とな る.加 え て,い
くつ か の ア ミノ酸 は,タ
ンパ ク質 分 解 を抑 え て 窒素 バ ラ ン ス を高 め た り,成 長 ホ ル モ ン な どの 材料 とな っ た り,こ れ らの ホル モ ンの分 泌 を活 性 化 した りす る こ とが 知 られ て い る(後 述).
d.1日
に 必 要 な タ ンパ ク質 摂 取 量
1日 の タ ン パ ク 質 摂 取 量 は ど の く ら い が 適 切 で あ ろ う か.世
界保 健 機 構
(WHO)な
ど で 定 め て い る 「1日 あ た り 推 奨 許 容 量(Recommended
Allowance:RDA)で
は,純
タ ン パ ク 量 と し て 体 重1kgあ
後,0.8∼0.9g/kg/日
と略 す)と
な っ て い る.こ
を ゼ ロ 平 衡 に 保 つ た め と考 え て よ い.成 っ て い る 場 合,積
れ は,あ
た り0.8∼0.9g(以 くまで も窒 素 バ ラ ン ス
長 期 に あ る 場 合,は
げ し い ス ポ ー ツ を行
極 的 に 筋 肉 づ く り を 行 う場 合 な ど で は,こ
れ を上 回 る量 を摂 取
す る 必 要 が あ る.厚
生 省 で は,ス
し て,1.2∼1.4g/kg/日
ポ ー ツ 活 動 を行 っ て い る 日本 人 の 栄 養 所 要 量 と
の タ ン パ ク 質 摂 取 を推 奨 し て い る.と
目指 す 場 合 に は,さ
最 大 に す る 量 が あ る.平
均 す る と約2g/kg/日
の 間 に,窒
と な る の で,こ
づ く り の た め の 摂 取 量 と し て 推 奨 さ れ て い る よ う で あ る .た 的 な も の で は な く,身
あ る.年
体 組 成,年
齢,運
素バ ランス を
の値 が一般 に筋 肉 だ し,こ
の 量 も絶 対
重 が 大 き くて も体 脂 肪 量 が 大 き け れ ば 過 剰 摂 取 と な る 可 能 性 が
よ い と 考 え ら れ る.ま
た,ラ
エ ネ ル ギ ー 源 と し て 使 わ れ る(最 が 必 要 と な ろ う.一
方,タ
大18%)の
と え ば50歳
で は,20歳
グ ビ ー や ボ ー ト競 技 な ど,エ
ー 消 費 の は げ し い ス ポ ー ツ を行 っ て い る 場 合 に は
担 を か け た り,痛
れ まで に行
動 の 量 な ど に 応 じて 変 化 す る も の と考 え
齢 と と も に 代 謝 回 転 率 は 低 下 す る の で,た
合 の 約75%で
くに 筋 肉 づ く り を
ら に こ れ を 上 回 る 量 が 望 ま し い と考 え ら れ る.こ
わ れ た 多 くの 研 究 結 果 を ま とめ る と,1.4∼2.4g/kg/日
る べ き で あ る.体
Daily
,タ
で,そ
の場 ネル ギ
ン パ ク 質 の か な りの 部 分 が の 分 余 剰 の タ ンパ ク質 摂 取
ン パ ク 質 の 過 剰 摂 取 は,血
中 窒 素 量 を 高 め,腎
臓 に負
風 の 原 因 と な っ た りす る 可 能 性 が あ る こ と も考 慮 す べ き で あ
る.
e.キ
ー ポ イ ン トとな る分 岐 鎖 ア ミ ノ酸
上 述 の 通 り,BCAAは
筋 肉 の 材 料 と な る 主 要 な 構 成 ア ミ ノ 酸 で あ る の で,こ
れ ら を つ と め て 摂 取 す る こ と は 重 要 で あ る.BCAAに を 抑 制 し,窒 つ は,筋
素 バ ラ ン ス を 高 め る効 果 が あ る と さ れ て い る.そ
肉 を 構 成 す る タ ン パ ク 質 の 分 解 産 物 で あ るBCAAの
か じ め 高 め て お く こ と に よ り,タ 阻 害)こ
は,さ
と に あ る と考 え ら れ る.き
の 後 に 炎 症 反 応 が 進 行 し,筋 が お こ る が,こ
ら に タ ンパ ク分 解 の メ カ ニ ズ ム の1 細 胞内濃 度 をあ ら
ン パ ク 質 の 分 解 過 程 が 抑 制 さ れ る(最
終生産 物
わ め て 強 度 の 高 い ト レ ー ニ ン グ を行 う と,そ
肉 の 分 解,筋
肉痛 の発 生 と と もに一 時 的 な筋 力 低 下
う し た 筋 力 低 下 を,BCAAを
多 量 に含 む 食 品 を摂 取 す る こ とに
よ っ て 抑 制 す る こ と が で き る(図9.3).ま
た,タ
ンパ ク質 代 謝 そ の もの を調 節
す る因 子 と して は た ら くこ と も示 唆 さ れ て い て,ロ
イ シ ン は と くに そ の作 用 が 強 い よ
うで あ る. さ らに,消 耗 の は げ し い ス ポ ー ツ で は, 運 動 中 に副 腎皮 質 ホ ル モ ン の分 泌 に よ っ て 筋 肉 の タ ン パ ク質 が 積 極 的 に 分 解 さ れ, BCAAが
エ ネ ル ギ ー 源 と し て 使 わ れ る.
し た が っ て,運 動 中 にⅰ)エ ネ ル ギ ー 源 と な る糖 質 が 十 分 に あ る よ うに す る こ と, ⅱ)筋 肉 中 のBCAA濃
度 を高 め て お くこ と
に よ って タ ン パ ク分 解 を抑 え る こ と,の 二
図9.3
高 強 度 の トレ ー ニ ン グ 後 に お こ る持 続 的 疲 労(筋
点 が 重 要 で あ る.こ の ため に は,運 動 前 に
と,BC/A摂
糖 質 とタ ンパ ク質 を あ らか じめ 十 分 に摂 取
BCAAを
多 量 に 含 む 乳 製 品 を継 続 的
に 摂 取(1000g/日
して お く と よい.
力 の 低 下)
取 の 効 果.
以 上)す
り,筋 力低 下 が 減 じ られ,そ
るこ とに よ の 回復 速 度
も高 ま る.[石 井 直方,(社)日
f.筋
及 協 会研 究 報 告 書(1996)よ
肉 づ く りを助 け る微 量 栄 養 素
本 牛乳 普 り改 変]
タ ンパ ク合 成 に は エ ネ ル ギ ー が 必 要 で あ る.し
た が っ て,ⅰ)エ
め る こ と,ⅱ)糖 に す る こ と,の
ネ ル ギ ー 不 足 と な ら な い よ う に 十 分 に 摂 取 カ ロ リー を 高
質 代 謝 ・脂 質 代 謝 な ど の エ ネ ル ギ ー 代 謝 が 円 滑 に 行 わ れ る よ う 二 点 が 重 要 と な る.エ
オ ン な ど が 補 酵 素 と し て 働 く.と フ ラ ビ ン(B2),ナ
る の で,こ
g.筋
く に,ビ
イ ア シ ン(B3),パ
シ ア ノ コ バ ラ ミ ン(B12)な
ネ ル ギ ー 代 謝 に は,ビ
ど)は,糖
タ ミ ンB群(サ
イ ア ミ ン(BI),リ
ン トテ ン 酸(B5),ピ
ボ
リ ド キ シ ン(B6),
代 謝 や タ ンパ ク合 成 の 重 要 な 補 酵 素 で あ
れ ら を 十 分 に 摂 取 す る 必 要(RDAの1.5倍
量 程 度)が
あ る.
肉 づ く りを助 け るホ ル モ ン
筋 肉 づ く りの た め の ト レ ー ニ ン グ は,ⅰ)大 ⅲ)高 い 容 量 の,ⅳ)休 参 照).こ
タ ミンや 多価 金 属 イ
筋 群 の た め の,ⅱ)中
∼ 高 い 強 度 の,
息 時 間 の 短 い ト レ ー ニ ン グ で あ る 必 要 が あ る(本
う し た ト レ ー ニ ン グ は,筋
れ が 間 脳 に あ る ホ ル モ ン セ ン タ ー(視
書Ⅱ
編
肉 の 中 に 乳 酸 な ど の 代 謝 産 物 を 蓄 積 し,こ 床 下 部)を
刺 激 し て,成
ル モ ン の 分 泌 を 促 す た め と 想 像 さ れ て い る(図9.2,9.4).自
長 ホル モ ンや 性 ホ 然 な状 態で の成長
図9.4
トレー ニ ン グ後 に お こ る成 長 ホ ル モ ン 分 泌 の 急 激 な 上 昇.
筋 肉 づ く り に 適 し た ト レ ー ニ ン グ を 行 う と,そ 後 に 成 長 ホ ル モ ン の 血 中 濃 度 が,一 倍 に 達 す る.タ
過
の15分
的 に 安 静 時 の 約300
ン パ ク 合 成 は お そ ら く こ れ よ り2時
遅 れ て 活 性 化 さ れ る.(Takarada.et Phisiol.,88:61-65,2000よ
間 ほ ど
al.,:J.Appl.
り 改 変)
ホ ル モ ン の 分 泌 は 成 長 期 に最 大 に な り,以 後 次 第 に 減 少 し て30歳 ル に 近 くな る と考 え られ て い る が,最 近 の 研 究 で は ,ト
で は 最 低 レベ
レー ニ ン グ刺 激 に よ って
高 齢 者 で もそ の 分 泌 が 増 進 す る こ とが示 され て い る. ア ル ギ ニ ン,オ ル ニ チ ン な どの ア ミ ノ酸 は,成 長 ホ ル モ ン の分 泌 を促 進 す る と さ れ て い る.ま た,ア
ル ギ ニ ンは,フ
ォ ス フ ァゲ ン で あ る ク レア チ ン リン酸 の 原
料 に も な る.こ れ らの こ とか ら,ア ル ギ ニ ン を十 分 に摂 取 す る こ と も考 慮 す べ き で あ ろ う.
h.適
切 な食 事 の タイ ミン グ
トレー ニ ン グ 刺 激 の 約15分 は安 静 時 の 約300倍
後 に成 長 ホ ル モ ンの 分 泌 は最 大 値 を と り,そ の値
に も な る(図9.4).さ
ち に,タ
ンパ ク質 の 遺 伝 子 発 現(タ
ンパ ク質 合 成 の 最 も初 期 の 過 程)を 調 べ た い くつ か の 研 究 か ら,ト 運 動 に と も な う タ ン パ ク合 成 の 上 昇 は,ト
レー ニ ン グ後2時
け て起 こ る こ とが 示 唆 さ れ て い る.こ の 間,筋
レー ニ ン グや
間 か ら72時 間 に か
肉 の 材 料 とな る タ ンパ ク質 や,エ
ネ ル ギー 源 と な る糖 質,代 要 が あ る.と
くに,一
謝 を 円 滑 に す る微 量 栄 養 素 が 十 分 に あ る状 態 を保 つ 必
回 の 食事 で 消 化 ・吸 収 され る タ ンパ ク質 の 上 限 は約50g
と され て い るの で,上 述 の 必 要 量 を まか な う た め に は,や
は り3食 プ ラ ス ア ル フ
ァ に分 け て,規 則 的 に 食事 を行 う 必要 が あ ろ う. ま た,ト
レー ニ ン グ直 後 の成 長 ホ ル モ ン の 分 泌 を最 大 限 に 利 用 し よ う とす る
と,数 時 間 の 後 に は じ ま る タ ンパ ク合 成 を視 野 に入 れ,ト
レー ニ ン グ後1時
間く
ら い ま で に高 タ ンパ ク食 を補 給 し て お く と よ い で あ ろ う. 若 年 期 で あ れ ば,睡
眠初 期 に 一 過 的 に成 長 ホル モ ン の分 泌 が 増 進 す る こ とが 知
られ て い る.し た が っ て,睡 眠1時
間 ほ ど前 に 高 タ ンパ ク食 を補 給 す る と,睡 眠
時 に筋 肉づ く りと脂 肪 分 解 が よ り進 む 可 能 性 も あ る.た だ し,脂 質 摂 取 が過 ぎた り,エ ネ ル ギー 摂 取 量 自体 が過 剰 に な る と,体 脂 肪 の蓄 積 も進 む の で,注 意 が 必 要 で あ る.
ⅰ.何
を食 べ た ら よ いか
以 上 の 結 論 と して,筋
肉づ く りの た め に は,BCAAを
ル ギー 源 と し て の糖 質,代
含 む タ ンパ ク質,エ
謝 の 潤 滑 剤 で あ る ビ タ ミンB群
ネ
な ど を,適 切 な タ イ
ミン グ で,適 量 摂 取 す る必 要 が あ る.こ れ らす べ て を満 たす 万 能 食 品 は な いが, 肉 類,レ バ ー,卵,牛
乳 や 乳 製 品 な どが,概
る.「 筋 肉 づ く りに は 筋 肉 を 食 す 」 は,誤 質 の み で は,BCAAや
類(赤
身)で
り で は な い.大
豆 な どの植 物 タ ンパ ク
そ の他 の 必 須 ア ミノ酸 が 少 な い の で,動 物 性 タ ンパ ク を
補 給 す る 必 要 が あ る.食 品100gあ は,肉
して これ ら を豊 富 に 含 む 商 品 とい え
約20g,牛
た りに含 ま れ る タ ン パ ク質 量 の 目安 と し て
乳 ・乳 製 品 で5∼6g程
度,卵1個
で 約6g程
度
で あ る.こ れ ら通 常 の 食 品 か ら 多量 の タン パ ク質 を摂 取 しよ う とす る と,エ ネ ル ギー 摂 取 過 剰 と な っ て体 脂 肪 増 加 を 引 き起 こ す 場 合 も あ る.そ の よ うな 場 合 に は,プ
ロ テ イ ン粉 末 な ど の補 助 食 品 を活 用 す る.市 販 の 「食 品 分 析 表 」 な ど を利
用 し て,タ
ンパ ク質 と総 エ ネ ル ギー 摂 取 量 を調 節 す る とな お よ い で あ ろ う. 〔 石井 直方 〕
参 考文 献 1)
National ン グ&コ
Strength
and
Conditioning
ン デ ィ シ ョ ニ ン グ,ブ
Association編;石
ッ ク ハ ウ スHD,1999
井 直 方 総 監 修:ス .
トレ ング ス トレー ニ
2)石
井 直 方:レ
ジ ス タ ン ス ト レ ー ニ ン グ ー そ の 生 理 学 と 機 能 解 剖 学 か ら ト レ ー ニ ン グ 処 方 ま で,ブ
ッ ク ハ ウ スHD,1999. 3)杉
浦 克 己:ス
ポー ツ選 手 の 食 事
―筋 肉 づ く りの た め の 栄 養.食
事 一.体
育 の 科 学,45:726-732,
1996.
9.3骨 a.カ
づ く りの た めの 食 事
ル シウム摂取 の重要性
骨 の 成 分 の うち 約10%は 基 質(約25%)で
細 胞 成 分 で,残
りの90%は
ミネ ラ ル(約65%)と
あ る.ミ ネ ラ ル は ほ とん どが カ ル シ ウ ム と リン 酸 か ら な る ヒ
ドロ キ シア パ タ イ ト と呼 ば れ る結 晶 で で きて お り,マ グ ネ シ ウム,ナ
ト リウム,
カ リウ ム な ど も含 まれ て い る.基 質 は,タ ンパ ク質 で あ る コ ラー ゲ ン 線維 や タ ン パ ク多糖 類 な ど で で きて い る.こ の よ うに骨 に は た くさ ん の栄 養 素 が 必要 で あ る が,最
も重 要 な の は や は りカ ル シ ウム の摂 取 で あ る.い
くつ か の 疫 学 的 な 調査 で
は カ ル シ ウム の摂 取 量 は骨 塩 量 に 大 き な影 響 を与 え な い とい う否 定 的 な 見解 もあ っ たが,最
近 の詳 細 な分 析 を行 っ た研 究 結 果 に お い て カ ル シウ ム 摂 取 の 重 要 性 が
再 認 識 され る よ うに な っ た. カ ル シ ウム は 身体 全 体 で約1kgあ の1%は
るが,こ
の う ちの99%が
骨 に 存 在 し,残
り
骨 以 外 に あ る.血 液 な どの 細 胞 外 液 に は カ ル シ ウ ム が あ る程 度 含 まれ て
い るが(血 液 中 に は90mg/dl程
度),身
体 の 細 胞(た
と え ば 筋 細 胞,神 経 細 胞,
赤 血 球 な ど)の 中 に は そ の1万 分 の1程 度 の 濃度 しか 含 ま れ て い な い.こ の 細 胞 内外 の カ ル シ ウ ム の 濃 度 差 は細 胞 の 活 動 に非 常 に重 要 な役 割 を果 た して い る.し たが っ て,細 胞 内外 の カル シ ウ ム 濃 度 を一 定 に保 つ こ とは不 可 避 で あ り,こ の 濃 度 が 保 た れ な い と生 命 が 維 持 で きな くな る.そ こ で,血 液 の 中 に 溶 け て い るカ ル シ ウ ム 濃度 が低 くな っ た場 合,速 や か に骨 の カ ル シ ウム が 溶 け 出 して(骨 吸収) これ を補 う仕 組 みが で き て い る.す なわ ち,血 液 中 の カル シ ウ ム 濃 度 が低 下 す る と,副 甲状 腺 か ら副 甲 状 腺 ホ ル モ ンが 分 泌 され 骨 吸 収 を促 進 す る.反 対 に 血 液 中 の カ ル シ ウ ム 濃 度 が 高 くな っ た場 合 に は,甲 状 腺 か ら カル シ トニ ン とい うホ ル モ ンが 分 泌 され 骨 吸 収 が 抑 制 さ れ る.こ の よ うに,骨 は体 内の カ ル シ ウ ム貯 蔵 庫 と して の 役 割 が あ り,カ ル シ ウ ム不 足 は 骨 の 量 の減 少 に 直 結 して い る(図9.5). わ が 国 の 厚 生 省 が 定 め た1日 700∼900mg,成
あ た りの カ ル シ ウ ム 所 要 量 は 思 春 期 ・青 年 期 で
人 期 以 降 で600mgで
あ る.と こ ろ が,栄 養 調 査 に よ っ て 国 民
の 栄 養 状 態 を調 査 す る と,他 の栄 養 素 は 満 足 して い るの に カル シ ウ ム だ け が所 要
量 に 達 し て お ら ず550mg程
度 で あ る.し
か
も,前 述 し た カ ル シ ウ ム 所 要 量 は 成 人 で600 mgに
定 め られ て い るが,実
は この 数 字 は か な
り低 く抑 え られ て い る.欧 米 諸 国 にお い て は カ ル シ ウ ム 所 要 量 を1000mg以
上 に 設 定 して い
る 国 が 多 く,体 の 大 き さ の差 を考 慮 して も 日本 の 所 要 量 は 低 くな って い る.日 本 人 の 食生 活 か ら考 え て,無 理 な く目標 を達 成 で き る よ うに 設 定 さ れ た値 で あ る が,実 際 は も う少 し 多 い カ ル シ ウ ム摂 取 量 が 望 まれ るの で あ る.と
図9.5骨
と血 液 の カ ル シ ウ ム 調節
くに妊 娠
期 や 授 乳 期 に は た くさ ん の カ ル シ ウ ム 摂 取(所
要 量 は900mg∼1100mg)が
必
要 で あ る し,高 齢 者 は カ ル シ ウ ム が 身 体 か ら 出 て 行 きや す い た め1000mg以 の 摂 取 が望 まれ る.ま た,ス す る の で,と
上
ポー ツ選 手 に お い て も汗 な どか らカ ル シ ウム が 損 失
くに 多 くの カ ル シ ウ ム摂 取 が 必 要 とな る.1日2500mgま
での カル
シ ウ ム摂 取 で あ れ ば過 剰 摂 取 に よ る害 は な い と考 え られ る ため,ほ
とん どの 人 に
と っ て カ ル シ ウ ム摂 取 量 を増 や す こ とは 有 益 な こ とで あ る. カル シ ウ ム 不 足 は骨 を弱 くす る の み な らず,他
の生 活 習 慣 病 の一 因 とな る こ と
が あ る.こ れ は 体 内 で の カル シ ウ ム の バ ラ ン スが くず れ る ため で 高 血圧,動 化,心
筋 梗 塞,脳
脈硬
血 管 障 害,糖 尿 病 な ど を起 こす 可 能 性 が あ る.ま た,カ ル シ ウ
ム不 足 は老 人 性 痴 呆 の 原 因 に も な る と考 え られ て い る.こ の 面 か ら もカ ル シ ウム 摂 取 は 重 要 で あ る.
b.カ
ル シ ウ ム摂 取 の 実 際
成 人 が1日 約600mgの
カル シ ウ ム を摂 取 した とす る と,そ の うち 小 腸 か ら吸
収 され る カ ル シ ウム は 約260mgで,残
りの 約340mgは
れ た カ ル シ ウ ム は 骨 の リモ デ リン グ(4.骨 照)な
吸 収 さ れ な い.吸 収 さ
を丈 夫 に す る た め の トレー ニ ン グ 参
ど に 利 用 さ れ る.ま た,吸 収 され た カ ル シ ウ ム は1日
130mg,便
か ら100mg,汗
か ら約30mg程
あ た り尿 中 か ら約
度 体 外 に 出 され る ため,こ
の場合体
内 の カ ル シ ウ ム 量 は 増 減 が な く,カ ル シ ウ ムバ ラ ン スが 保 た れ る.小 腸 で の カ ル シ ウ ム吸 収 量 が260mgよ 考 え られ る.
り少 な け れ ば,体
内 の カ ル シ ウ ム 量 は 減 少 して い くと
600mg食 うが,実
物 か ら摂 取 して260mg吸
収 す る,こ れ を カ ル シ ウ ム の 吸 収 率 とい
は 食 品 に よ っ て こ の カル シ ウ ム の 吸 収 率 が 異 な る.小 腸 で は カル シ ウ ム
を カル シ ウム イ オ ン と して 吸 収 す る の で,も
と も とイ オ ン と し て存 在 す る 食 品や
イ オ ン化 しや す い カ ル シ ウ ム を もつ 食 品 で は吸 収 率 が よい. ま た,カ ル シ ウ ム の 吸収 に は さ ま ざ ま な要 因が 複 雑 に 関 与 して い る こ とが 知 ら れ て い る.た 酸,ナ って,カ
と え ば,乳 糖 や ビ タ ミンDは
吸 収 率 を高 め る が,リ
ン 酸,シ
ュウ
ト リウム,食 物 繊 維 な どは 吸収 率 を低 くす る こ とが 知 ら れ て い る.し たが ル シ ウ ム の摂 取 に あ た っ て は 食 品 に含 まれ る カル シ ウ ム の 量 と と もに,
どの よ うな 食 材 か ら どの よ う な栄 養 素 と と もに カ ル シ ウム を摂 取 す るの か を考 慮 す る必 要 が あ る.
c.カ
ル シ ウ ムの 摂 取 を 促 進 す る栄 養 素
1)乳
糖
牛 乳 に 含 まれ る乳 糖 は小 腸 の カ ル シ ウム 吸 収 機 能 を活 性 化 させ,カ
ル シウムの
吸 収 率 を 良 くす る.牛 乳 は も と も とカ ル シ ウ ム を 豊 富 に 含 む の で(100ml中 約100mg),牛 ろが,欧
に
乳 お よ び乳 製 品 は 最 も手 軽 で効 率 的 な カ ル シ ウム 源 とな る.と こ
米 諸 国 に 比べ て 日本 の 牛 乳 お よ び乳 製 品 の 消 費 量 はか な り少 な く,こ の
差 が カ ル シ ウム 摂 取 量 の差 に な っ て い る と考 え られ る(図9.6). カ ル シ ウム 摂 取 の面 か らは 牛 乳 を積 極 的 に摂 取 す べ き で あ る が,牛 乳 を飲 み す ぎ る(た と え ば500ml以
上)と 脂 肪 の摂 取 が 過 剰 に な る可 能 性 が あ る.ま た,一
図9.6 1日 当 りの 牛 乳 ・乳 製 品摂 取 量 の 国際 比 較 (四 訂
日本 食 品成 分 表,1998よ
リ)
方 で乳 糖 が 消 化 で きず に 下 痢 を お こす 人 もみ ら れ る.そ の よ う な場 合 に は ス キ ム ミル ク,チ ー ズ,ヨ ー グル トな どの 乳 製 品 を上 手 に摂 取 す る こ とが 望 ま しい. 2) ビ タ ミ ンD 血 液 中の カ ル シ ウ ム が 不 足す る と副 甲状 腺 ホ ル モ ンが分 泌 さ れ るが,こ モ ンが 腎 臓 に 働 きか け る と活 性 型 ビ タ ミンDが
の ホル
つ く ら れ る.活 性 型 ビ タ ミンD
は 小 腸 に働 きか け て カ ル シ ウ ム の 吸収 率 を上 昇 させ る こ とに よ り,体 内 の カ ル シ ウ ム不 足 を補 お う とす る.活 性 型 ビ タ ミンDは 養 素 を も とに つ くちれ る の で,ビ
タ ミンDの
ビ タ ミンDと
して 摂 取 さ れ る栄
摂 取 は と く に体 内 の カ ル シ ウ ム が
不 足 しが ち な場 合 に有 効 で あ る. ビ タ ミンDに
は植 物 性 食 品 に 多 く含 まれ る ビ タ ミンD2と 動 物 性 食 品 に含 まれ
る ビ タ ミンD3が
あ る.ビ
タ ミ ンD2は
き の こ類 に 多 く含 ま れ て お り,ビ タ ミン
D3は 魚 ・肉や 鶏 卵 な どに 多 く含 まれ て い る. 3) ビ タ ミンK ビ タ ミンKは
小 腸 で の カ ル シ ウ ム 吸 収 率 に 直 接 関 与 して は い な い が,骨
を促 進 して 骨 吸収 を抑 制 す る働 きが あ るた め,カ い 栄 養 素 と して こ こ で 取 り上 げ た.も
形成
ル シ ウム と と も に摂 取 す る とよ
と も とビ タ ミンKに
は 止 血 作 用 が 知 られ
て い た が,こ の よ う な骨 に 対 す る作 用 が 明 らか とな り,骨 粗 鬆 症 の 治 療 薬 と して も注 目さ れ て い る. ビ タ ミンKは
腸 内 細 菌 が 合 成 し た もの を 吸 収 す る こ とが で き る た め,多
くの
摂 取 を必 要 と し な い と考 え られ て きた が,骨 の 強 化 か ら考 え る と積 極 的 に 摂 取 す る と よ い.ビ
タ ミンK2は
納 豆 に 多 く含 ま れ て い て,納 豆 を 多 く摂 取 す る地 域 で
は 骨 粗 雑 症 に よ る大 腿 骨 の 骨 折 が 少 な い こ とが 報 告 され て い る.豆 類 の他,ほ
う
れ ん 草 や ブ ロ ッ コ リー な どの 緑 黄 野 菜 な どに も含 ま れ て い る. 4)タ
ンパ ク 質
カル シ ウ ム は腸 管 か ら吸 収 され る と きカ ル シ ウ ム結 合 タ ンパ ク質 と結 合 して か ら吸 収 さ れ る.し た が っ て,カ ル シ ウ ム の 吸 収 に は タン パ ク質 が 必 要 で あ る.タ ン パ ク質 は何 種 類 か の ア ミノ酸 か ら構 成 され て い る の で あ るが,リ ミノ酸 が と くに カ ル シ ウ ム の 吸 収 を助 け て い る.リ 卵,大
ジ ン とい うア
ジ ン は 乳 製 品,魚
・肉,鶏
豆 製 品 に 多 く含 ま れ て い る.一 方,含 硫 ア ミ ノ酸 と呼 ば れ る ア ミノ酸 に は
カ ル シ ウ ム の尿 へ の 排 泄 を促 進 す る作 用 が あ り,こ れ を含 む タ ンパ ク質 を過 剰 摂 取 す る と体 内 の カル シ ウ ム が 減 少 す る可 能 性が あ る.含 硫 ア ミノ酸 は 鶏 卵 や 魚 ・
肉 に 多 く含 ま れ て い る ため,結 局 カル シ ウ ム 摂 取 に勧 め ちれ る タ ンパ ク源 は乳 製 品,大 豆 製 品 とい うこ とに な る.
d.カ
ル シ ウ ム の 摂 取 を妨 げ る栄 養 素
1) リ
ン
酸
リン酸 は カ ル シ ウ ム と結 合 しや す い物 質 で,カ ル シ ウ ム と と もに リン酸 を過 剰 に 摂 取 す る と,腸 内 で リン酸 カ ル シ ウ ム と な り体 内 に 吸 収 され な くな る.し たが って,た
くさん カ ル シ ウム を摂 取 した と して も リン 酸 カ ル シ ウ ム と して 便 中 に排
泄 され て し ま う. 食 品 中 の カル シ ウ ム と リン酸 の バ ラ ン スが 問 題 で,そ の 比 率 は1対1が
望 まし
く,リ ン酸 が 多 くて も1対2ま
でに 抑 え な い と カ ル シ ウム の 吸 収 が 悪 くな る.イ
ン ス タ ン ト食 品 や 加 工 食 品,お
よび 一 部 の清 涼 飲 料 水 に は リン酸 が 多 量 に 含 まれ
て い るの で,注 意 が 必要 で あ る. 2)シ
ュ ウ酸,フ
ィチ ン酸
ほ うれ ん草 や パ セ リに含 まれ て い る シ ュ ウ 酸 お よ び穀 類 に 含 まれ て い る フ ィチ ン酸 も カ ル シ ウ ム と結 合 しや す い 酸 で,カ
ル シ ウム の体 内 へ の 吸 収 を妨 げ る.普
通 に 摂 取 して い る ぐ らい で は 問 題 な い が,過 剰 摂 取 は控 え た ほ うが よ い. 3)ナ
トリウ ム
ナ ト リウ ム とい う と高 血 圧 との 関 連 が よ く知 られ て い るが,ナ 過 剰 は体 内の カ ル シ ウム 量 を減 らす こ と も指 摘 され て い る.ナ ウ ム を と も な っ て 排 泄 され るか らで あ る.し た が って,ナ
トリウ ム の摂 取 ト リウ ム は カ ル シ
ト リウム を過 剰 摂 取 す
る とナ ト リウ ム の 排 泄 量 が 増 え て,カ ル シ ウ ム の排 泄 量 も増 して し ま う.ナ ウ ム の 摂 取 量 は塩 分 と し て1日10g以 本 人 の 平 均 値 は12g程
トリ
下 が 望 ま しい とさ れ て い るが,現 在 の 日
度 で あ り,こ れ 以 上 減 る傾 向 は み ら れ て い な い.ま
た,
塩 分 摂 取 量 は か な り減 ら し て も問 題 は な い こ とが 知 られ て お り,総 合 的 に考 え て 減 塩 は 望 ま し い. 4) ア ル コ ー ル ア ル コー ル は 腸 で の カ ル シ ウム 吸 収 を悪 くす る と と もに,尿 排 泄 す る量 を増 や す.し
た が って,ア
か ら カル シ ウム を
ル コー ル の 飲 み過 ぎは 骨 に対 して 危 険 で あ
り,骨 粗 鬆 症 に な りや す い と言 わ れ て い る.ア ル コー ル の 量 に換 算 して,1日30 gま で(ビ ー ル1本 程 度)に
抑 え る の が望 ま し い.
5)カ
フ ェイ ン
コー ヒー や お 茶 に含 まれ るカ フ ェ イ ン は 尿 の 量 を 多 くす るが,こ
の と きに カ ル
シ ウ ム もい っ し ょ に尿 中 に 出 して し ま う傾 向 が あ る.し た が っ て,カ フ ェ イ ンの 過 剰 摂 取 は 骨 に は よ くな い.コ ー ヒー な どは 一 日3杯 以 内 に お さ え て,で
きれ ば
ミル ク を加 え て カ ル シ ウ ム を補 給 す る と よい. 6)食
物 繊 維
穀 物 の 繊 維 や 海 草 類 に含 まれ る食 物 繊 維 は 健 康 に よ い と考 え ら れ て い るが,腸 で の カル シ ウム の 吸 収 を妨 げ て し ま う.こ れ は,食 物 の 腸 を通 過 す る 時 間 を短 く す る作 用 の た め で あ る.し か し,食 物 繊 維 摂 取 は 他 の い ろ い ろ な生 活 習慣 病 予 防 や 便 秘 に効 果 的 で あ る こ とが知 られ て い る.し たが っ て,無 理 に 食物 繊 維 を制 限 す る こ とはせ ず,そ
の分 カ ル シ ウム 摂 取 量 を増 加 させ る よ う に考 え るべ きで あ ろ
う.
〔 梅村 義久 〕
参考文 献 1) 清 野 佳 紀:骨
を鍛 え るた め に,金
2) 森 井 浩 世:や
さ しい 骨 粗 鬆 症 の 自 己管 理,医
3) 藤 田拓 男:更
年期 か らの 女 性 に 多 い骨 粗 鬆 症,主
9.4ス a.ス
原 出 版,1998. 薬 ジ ャ ー ナ ル 社,1999. 婦 の 友 社,1995.
タ ミナ づ く りの た め の食 事
タ ミ ナ とは
ス タ ミナ と い う 言 葉 は,明 記 し た も の で あ り,そ
治 時 代 に 入 っ て き た 英 語 のstaminaを
の 語 源 は ラ テ ン 語 の 「stamen(糸)」
ポ ー ツ や 仕 事 の 場 面 な ど で こ の 言 葉 を 良 く耳 に す る が,そ っ て さ ま ざ ま で あ る.英
英 辞 書 に よ る と,staminaと
は
ス ト レ ス 状 態 に 耐 え 抜 く能 力 」 と か,「 疲 労 耐 性,持 と で あ り,ま
た,日
本 語 辞 書(広
の こ と で あ る と記 さ れ て お り,い
辞 苑)に
に あ る と い う10).ス の意 味 は 場 面 や 人 に よ 「身 体 的 あ る い は 精 神 的
久 力,パ
も,「 根 気,精
カ タカナ表
力,持
ワーの持続 」の こ 久 力,忍
耐力」
ろ い ろ な 意 味 で 使 わ れ て い る こ とが う か が え
る. 一 方,ス
ポ ー ツ の 場 面 で は,ス
タ ミナ と は 一 般 に
続 す る 能 力 」 の こ と を 意 味 し て お り,体 れ る こ と が 多 い.た
「ス ポ ー ツ 活 動(運
力 要 素 と して の
だ し,「 持 久 力 」 と い う 言 葉 は,局
動)を
持
「持 久 力 」 と 同 義 に 使 わ 所 的 な 筋 肉 で の持 久 力 を
意 味 す る 筋持 久 力 と,全 身 の大 筋群 に よ る全 身持 久 力 と に 区別 され た り,ま た, 無 酸 素 的 に エ ネ ル ギー が 供 給 さ れ る よ う な場 面 で の持 久 力 と,有 酸 素 的 に エ ネ ル ギー が 供 給 さ れ る場 面 で の 持 久 力,と い うよ うに使 い分 け られ る こ と もあ る.し か し,通 常,持
久 力 とい っ た場 合 に は,有 酸 素 的 な エ ネ ル ギー 供 給 状 態 で の 長 時
間 に 及 ぶ 「全 身 持 久 力 」 を意 味 す るこ とが 多 い た め,こ
こ で は そ の ため の 食事 と
い う観 点 か ら考 え る こ と とす る.
b.長
時 間運動の特徴
運 動 を長 時 間 に わ た っ て継 続 す る際 の 強 度 は,換 気 閾値 あ る い は乳 酸 閾 値 よ り も低 い レベ ル に 抑 え られ る.こ の 閾値 に 関 す る研 究 は これ ま で数 多 くな され て お り,そ れ ら の 平 均 値 は,一 般 人 で 最 大 酸 素 摂 取 量 の お よ そ50%,そ 的 種 目 を専 門 と し て い る選 手 で お よそ70%で
して,持 久
あ り16),世 界 で 活 躍 す る よ うな 選
手 で は さ らに 高 い との 報 告 もみ られ る. こ の よ うな 強 度 で の 長 時 間 運 動 の 場 合,疲 労 物 質 で あ る乳 酸 の 蓄 積 は み ちれ な いが,消 る.た
費 す るエ ネ ル ギー 量 が 運 動 時 間 に と もな って 大 き くな る とい う特 徴 が あ とえ ば,2時
間30分
で ゴー ル す る よ う なマ ラ ソ ン ・レー ス で は,体
重60
kgの 選 手 で お よ そ2300kcalの
エ ネ ル ギー を消 費 す る と い わ れ て い る7).ま た,
4時 間30分
転 車 ロ ー ド ・レー ス で は,平 均 的 に お よ そ3700
を要 し た150km自
kcalの エ ネ ル ギー が 消 費 され た との 報 告 もみ られ る1). これ ら のエ ネ ル ギー 消 費 に 対 応 す るた め に,わ れ わ れ は 生 体 内 に エ ネ ル ギ ー 源 と して 糖 質,脂
肪 お よ び タ ンパ ク質 を蓄 え て い る.し か し,糖 質 は わ ず か400g
弱(1500kcal程
度 分)し
か 貯 蔵 され て お らず,他
の2大 栄 養 素 と比 べ て 量 的 に
み て きわ め て 少 な い とい う点 で 問 題 で あ る.し か も,中 枢 神 経 系 をは じめ と して 生 体 の機 能 を維 持 す る ため に は,貯 蔵 さ れ て い る糖 質 を極 端 に 減 ら さ な い こ とが 必 要 で あ る.疲 労 困 憊 に 至 る よ う な状 況 で は,筋
グ リコー ゲ ンの 枯 渇 や,肝
グリ
コー ゲ ンの枯 渇 とそ れ に と もな う低 血 糖 症 が 出 現 した との 報 告 もみ られ,し
たが
っ て,こ の よ うな事 態 を 回避 す るた め に は,貯 蔵 脂 肪 の 利 用 を促 進 し,糖 質 を節 約(ス ペ ア リン グ)す 一 方,日
本 人 の 一 般 成 人 男 性 お よ び女 性 の体 脂 肪 率 は,そ
お よ び25%で 15kgの
る こ とが重 要 と な っ て く る.
あ る.そ れ ゆ え,体 重60kgの
脂 肪,つ
ま り,生 体 内 で の 脂 肪1gあ
れ ぞ れ お よ そ15%
男 性 お よ び 女 性 で は,9kgお た りの エ ネ ル ギ ー 価 を7kcalと
よび し
表9.3
a タ ンパ ク異 化=運
一般 人 に お け る運 動 中 の タン パ ク異 化5)
動 中 に余 分 に分 解 した タ ンパ ク質
b CHO(L)=高
糖 質 食;CHO(D)=低
c 体 重70kgと
して 計 算
糖 質食
て計 算 して も,そ れ ぞ れ に お い て,実 に お よ そ60000kcalお
よ び100000kcalの
エ ネ ル ギー 源 を貯 蔵 して い る こ とに な る.こ の 点 で,脂 肪 は 長 時 間 運 動 時 の エ ネ ル ギ ー 源 と して 重 要 で あ る と い え る. ま た,3大
栄 養 素 の な か で最 も 多 く貯 蔵 さ れ て い る タ ンパ ク質(ア
ミ ノ酸)
も,場 合 に よ って は筋 活動 時 の エ ネ ル ギー 源 とな り,長 時 間 運 動 で は,こ れ か ら の エ ネ ル ギ ー 供 給 は,全 エ ネ ル ギー 消 費 量 の うちの5∼10%を い る(表9.3)5).な
か で も,分 岐 鎖 ア ミ ノ酸(BCAA)は
占め る とい わ れ て 他 の ア ミ ノ酸 と違 っ
て,直 接,骨 格 筋 内 で分 岐 鎖 ア ミ ノ酸 トラ ン ス ア ミナ ー ゼ に よ っ て分 解 され,エ ネ ル ギー 源 と し て利 用 され る こ とか ら,最 近 と くに 注 目 され る よ うに な っ て き た.一 方 で,こ の こ とに と も な い,長 時 間 運 動 時 に は 血 中 の 分 岐 鎖 ア ミノ酸 濃 度 が 減 少 し,ア
ミノ酸 の一 種 で あ る遊 離 ト リプ トフ ァ ン との 比 率(遊
ァン/分 岐 鎖 ア ミノ酸)が
上 昇 して,血 液 脳 関 門 にお い て,脳
ァ ンの 取 り込 み が 亢 進 す る.そ
して,そ の 結 果,脳
し,中 枢 性 疲 労 を引 きお こす,と
離 トリプ トフ
内 へ の トリプ トフ
内 で の セ ロ トニ ン生 成 が 亢 進
の仮 説 も示 され て い る4).
さ ら に,長 時 間 運 動 で は,発 汗 に よ っ て 多量 の 水 分 と と も に あ る種 の 電 解 質 (Na,Cl,Caな
ど)も 失 わ れ る.そ の 結 果,体
が 生 じる こ と も考 え られ,ま
内 の 電 解 質 濃 度 に ア ンバ ラ ン ス
た,極 端 に長 い 時 間 に 及 ぶ よ う な 運 動 で は,低Na
血 症 が 生 じた との 報 告 もみ られ る11).そ し て,水 分 損 失 お よ び これ ら電 解 質 に お け る不 均 衡 も また,長
時 間 運 動 を制 限 す る因 子 と して作 用 す る こ とに な る.
一 方,陸 上 競 技 の 長 距 離種 目な ど を専 門 とす る競 技 者 で は,男 そ れ ぞれ お よ そ10%お
よ び25%に
性 お よび 女 性 の
鉄 欠 乏 状 態 が 認 め られ る とい う.こ の い わ ゆ
る 「ス ポ ー ツ性 貧 血 」 の 原 因 と して,着 地 な どに と もな う強 い衝 撃(機 械 的 刺 激)に
よ る血 球 破 壊 や,化
学 的 溶 血,運 動 に と もな う発 汗 に よ る鉄 喪 失,鉄
の 減 少 お よ び 食事 か らの鉄 供 給 の低 さ な ど が考 え られ て い る14).と は 定 期 的 な 出血(月 経)を
吸収
くに,女 性 で
と もな う こ とか ら,貧 血 に 陥 る危 険性 は 男 性 よ り も高
い こ と を理 解 す べ きで あ る. ま た,最 近 に な っ て,運 動 時 の 酸 素 消 費 量 の増 大 に と もな っ て活 性 酸 素 が 生 成 さ れ,こ
れ が 脂 質 の過 酸 化,タ
ンパ ク質 の 変 性,DNAの
損 傷 な どの さ ま ざ ま な
有 害 作 用 を引 きお こす 原 因 に な っ て い る可 能 性 が 注 目 され る よ う に な っ て き た. しか し,生 体 内 に は,こ の影 響 を極 力 少 な くす る た め の 抗 酸 化 酵 素 や 抗 酸 化 剤 に よ る防 御 機 構 が 備 わ っ て い る.な か で も,ビ タ ミンCお
よびEは
抗 酸化 剤 と し
て重 要 な役 割 を担 って お り,そ れ ゆ え,運 動 中 には こ れ らの ビ タ ミンや エ ネ ル ギ ー 代 謝 に 関 わ る ビ タ ミンB類
c.持
の 消 費 量 が 亢 進 す る とい わ れ て い る12) .
久 的競技者の食事
そ れ で は,長 距 離 種 目 を専 門 とす る よ うな競 技選 手 の場 合,ト
レー ニ ン グ 中 に
どの よ うな 食 事 を実 際 に摂 っ て い るの で あ ろ うか.摂 取 カ ロ リー 量 は体 格 の 大 小 に よ っ て影 響 され る もの の,ま ず そ の 多 さが 特 徴 的 で あ る.表9.4に
各種 ス ポー
ツ 選 手 に お け るエ ネ ル ギー 消 費 量 を示 した15).体 格 が それ ほ ど大 き くな い 陸 上 の 長 距 離 ・マ ラ ソ ン選 手 お よ び 自転 車 ロー ド選 手 で,一
日に お よ そ4000∼4500
kcalを 消 費 して お り,こ の 値 は 体 格 的 に優 れ て い る 陸 上 の 投 て き選 手,ラ ー選 手
グビ
,水 泳 選 手 な ど と同様 で あ る.当 然 の こ とな が ら,あ る強 度 で の トレー ニ
ン グ を長 時 間 に わ た って 続 け る こ とに起 因 して い る とい え よ う. また,3大
栄 養 素 の 比率 か らみ る と,筋 力 ・パ ワー 系 種 目の 競 技 者 と比 べ て,
持 久 的 競 技 者 で は,糖 質(炭 が 多 く,タ ンパ ク質(お に あ る5).さ ら に,ビ と と関 連 して,ま
水 化 物)の
よ そ15%)や
摂 取(摂 脂 肪(お
取 カ ロ リー 量 の お よ そ50%) よ そ35%)の
摂 取 が少 ない傾 向
タ ミンや ミネ ラ ル に つ い て も,総 カ ロ リー 摂 取 量 が 多 い こ
た,運 動 に よ っ て 失 われ た分 を補 給 す る意 味 もあ って,一
に 対 して推 奨 され て い る量 よ り も 多め に摂 取 して い る傾 向 に あ る13).
般人
表9.4
トレ ー ニ ン グ期 に お け るエ ネル ギー 消 費 量 別 ス ポ ー ツ種 日15)
(注)女
子 選 手 の 消 費 熱 量 は お お よ そ2400∼3500 kcalの 範 囲 に あ る.
d.ス 1)
タ ミナ づ く りの た め の 食 事 トレー ニ ング期
減 量 プ ロ グ ラ ム を実 施 して い るの で なけ れ ば,ま ず 運 動 量 に 見合 うだ け の エ ネ ル ギー を十 分 に摂 取 す る こ とが 重 要 で あ る.長 時 間 運 動 時 の エ ネ ル ギー 消 費 量 は 運 動 強 度 と時 間 に よ っ て 影 響 さ れ るが,一 定 強 度 で の 運 動 で あ れ ば,時 し て 大 き くな る こ と を理 解 しな け れ ば な ら な い.ま 質,脂
間 に 比例
た,食 事 に 占め る タ ンパ ク
肪 お よ び 糖 質 の 比 率 に つ い て も 考 慮 し,一 般 に は そ れ ぞ れ を お よ そ
15%,35%お
よび50%程
度 とな る よ うに す るの が 望 ま し い.た だ し,長 時 間 運
動 時 に は 筋 タ ンパ クの分 解 が お こ る こ と,さ らに は,分 岐 鎖 ア ミノ酸 を は じめ と し て タ ンパ ク質 が エ ネ ル ギー 源 とな る可 能 性 もあ る こ とか ら,タ ン パ ク質 も不 足 しな い よ うに 摂 取(1.0g/kg/日
以 上,と
くに トレー ニ ン グ 開 始 期 に は 多 く)す
べ きで あ る13). そ して,運 動 に と もな っ て ビ タ ミンB群,Cお
よびEの
消 費 量 が 亢 進 し た り,
ま た,発 汗 に と も な っ て 水 溶 性 ビ タ ミンが 失 わ れ る こ と,さ
らに は,Caは
一般
の 日本 人 で も唯 一 摂 取 基 準 を満 た し て い な い こ と,発 汗 に と もな っ て あ る種 の 電 解 質 が 失 わ れ る こ とな ど を考 慮 す る と,水 分 と同 時 に,鉄
を含 め て ミネ ラル や ビ
タ ミン を 多少 多 め に摂 取 す る よ う な意 識 を持 つ こ とが 必 要 で あ ろ う. とに か く,こ の 時 期 は ス タ ミナ と関 連 す る体 力 づ く りが 主 体 で あ るこ とか ら, バ ラ ン スの 良 い 食 事 を正 し く摂 取 す る こ とが 基 本 で あ る.も
し,減 量 を 目的 と し
て い な い の に体 重 が 減 少 す る よ うで あれ ば,そ れ は トレー ニ ン グ量 に対 して エ ネ ル ギ ー 量 が 不 足 して い る証 拠 で あ る.こ の よ う な場 合 に は,ト
レー ニ ン グ の 量 を
減 らす か,食 事 の 量 を増 や す よ うに 心 掛 け な け れ ば な らな い.そ め に は,毎
日決 ま っ た時 間(起 床 して 排 尿 後)に
の こ と を知 るた
体 重 を計 測 しチ ェ ッ クす る こ と
が 望 ま しい. 2)大
会 ・試 合 参 加 時
ⅰ)直
前 お よび最 中
に 関 連 す る こ とは,す そ の 後,疲
食 事 内 容(糖 で に1930年
質 に 富 む 食 事)が
運 動 持 続 時 間 と密 接
代 の 後 半 に 明 ら か に さ れ て い る(図9.7)2).
労 困憊 に 至 る よ うな運 動 後 に 高 糖 質 食 を摂 取 す る と,筋 グ リコー ゲ ン
量 が よ り増 え る こ と も知 られ る よ うに な っ た3).こ の よ うに,運 動 に よ って 一 時 的 に筋 グ リコー ゲ ン量 を減 少 させ た 後,高 糖 質 食 を摂 取 す る こ と に よ っ て 筋 グ リ コー ゲ ン 量 を増 加 させ よ う とす る試 み を,グ さ ら に そ の 後,筋 ど前 に,激
リコー ゲ ン ・ロー デ ィ ン グ とい う.
グ リコー ゲ ン量 を高 め る方 法 と して,試 合 や レー ス の1週 間 ほ
しい 運 動 に よ り筋 グ リ コー ゲ ン を一 旦 枯 渇 させ,そ
糖 質 食 を摂 取 させ た後,3∼4日
図9.7
の 後2∼3日
間 高 糖 質 食 を摂 取 さ せ る こ とで,筋
運 動時 間 お よ び 呼 吸 商 に 及 ぼ す 食 事 の影 響2)
間低
グ リ コー ゲ
ン量 が さ ら に上 昇 す る こ とが 明 らに され た(図9.8)8). た だ し,こ の 方 法 の 場 合 に は 好 ま し く な い 影 響 も あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る6).そ の ひ とつ は,低 糖 質 食摂 取 中 に 十 分 な カ ロ リー 摂 取 が で きず に体 重 が 減 少 す る こ と,な
らび に,低 血 糖 症 お よ び ケ トー ジ ス(ケ
きお こす か も しれ な い こ と で あ る.さ
トン体 の過 剰 生 成)を
引
らに,高 糖 質 食 に よ りグ リコー ゲ ンが 筋 中
に 多 く貯 蔵 され る もの の,同 時 に水 分 も貯 蔵 さ れ る こ とか ら,体 重 の 増 加 と と も に 脚 の 強 直 感 な どが 感 じ られ るか も しれ な い.そ れ ゆ え,こ れ らの 問題 を避 け る た め に,低 糖 質 食期 を通 常 の 混 合 食 と トレー ニ ン グに 置 き換 え る こ と,お よ び高 糖 質 食 の摂 取 は 試合 や レ ー ス の48時
間 以 内 とす べ きで あ る こ とが 奨 め ら れ て い
る6). ま た,長 時 間 運 動 中 に は 発 汗 に よ りか な りの 水 分 が 失 われ る.脱 水 は パ フ ォー マ ン ス を低 下 させ るの み な らず,循 環 不 全 や 高 体 温 に よ る 中枢 へ の 悪影 響 な ど に よ り,場 合 に よ っ て は 重 篤 な後 遺 症 を もた ち した り死 に 至 る こ とに もつ な が りか ね な い.し た が っ て,と
くに 高 温 多湿 環 境 下 で 運 動 を行 う場 合 に は,運 動 を実 施
す る前 か ら水 分 摂 取 を行 い,運 動 中 は糖 質 や 電 解 質 を含 む 溶 液(ス クな ど)を 積 極 的 に補 給 す る こ とが 必 要 で あ る.さ え て 長 くな る よ うな場 合 に は,空 腹 感(ハ
ポ ー ツ ドリン
らに,運 動 時 間 が3時 間 を越
ンガ ー ロ ッ ク)が 運 動 の 中 断 を引 きお
こ す と もい わ れ て お り,そ れ ゆ え,こ の よ う な状 況 下 で は 果 物(た
とえ ば,バ ナ
ナや ミカ ン)や 菓 子 パ ンな どの 固 形 物 を 多 少 補 給 す る こ と も考 え な くて は な ら な
図9.8 筋 グ リコー ゲ ン ・ロー デ ィ ン グ法 の ま とめ(文
献8)よ り引 用)
い.
ⅱ)終
了後
運 動 終 了 後 に は,
運 動 に よ っ て枯 渇 し た筋 お よ び肝 グ リ コー ゲ ン を再 補 充 し な け れ ば な ら な い .ま た,筋
タ ンパ クの分 解 が 亢 進 し
て い る可 能 性 も考 え ら れ る こ とか ら, タ ン パ ク質 の 補 充 も心 掛 け た 方 が よ い.な お,筋 図9.9 運 動 終 了 直 後 に 摂 取 した 場 合(□)と 動 終 了2時
充 に は,運 動 終 了 後 で きる だ け 早 め に
運
間 後 に 摂 取 し た場 合(■)に
糖 質 を摂 取 した方 が 効 果 的 で あ る との
お け る 筋 グ リ コー ゲ ン 蓄積 の 比較 *fは,0∼120分
お よ び120∼240分
で あ る こ と を示 す.(文
・肝 グ リ コー ゲ ンの 再 補
報 告 もな され て お り(図9.9)9),そ
の ■ と有 意
献9)よ り引用)
れ
ゆ え,食 事 ま で に 時 間 が あ る よ うな場 合 に は,市 販 さ れ て い る糖 質 液や タ ン
バ ク質 を含 む 栄 養 補 助 剤 を利 用 す る こ と も必 要 と な っ て くる.そ は,さ
して,食 事 で
らに 失 わ れ た 電解 質 や そ の他 の 栄 養 素 を補 給 す る ため に,十 分 な糖 質 とカ
ロ リー を含 む バ ラ ン ス の 取 れ た 食事 を摂 取 す る よ うに 努 め る こ と で あ る. 〔 村岡
功〕
参 考文献 1) 青 木 純
一郎 他:自
転 車 競 技 選 手 の 体 力(7)お
体 育 協 会 スポ ー ツ医 2) Astrand,P.-O.and 343-370,大
Rodahl,K.;朝
Hultman
localized
to
4) Blomstrand,E.,et amino
acids
和60年
度 日本
比 奈 一 男 監 訳,浅
野 勝 己 訳:オ
ス ト ラ ン ド運 動 生 理 学,p.
修 館 書 店,1976.
3) Bergstrom,J.and factor
よ び ロ ー ド レ ー ス の 直 前 食(2),昭
・科 学 研 究 報 告 書:313-330,1986.
E.:Muscle
the muscle al.:Changes
during
sustained
glycogen
synthesis
after
exercise.:an
enhancing
cells in man.Nature,210:309-310,1966. in plasma exercise
concentration
in man
and
of aromatic
their possible
and
branched-chain
role in fatigue.ActaPhysiol.
Scand.,133:115-121,1988 5) Brotherhood,J.R.:Nutrition 6)Costill,D.L.and balance.Int.J.Sports 7) Daniels,J.,et
and
sports
performance.Sports
Miller,J.M.:Nutrition
al.:Aerobic
for
endurance
Med.,1:350-389,1984 sport:carbohydrate
and
fluid
Med.,1:2‐14,1980 responses
of female
distance
runner
to submaximal
and
maximal
exercise.Ann.N.Y.Acad.Sci.,301:726-733,1977 8) Fox,E.L.;朝
比 奈 一 男 監 訳,渡
部 和 彦 訳:選
手 と コ ー チ の た め の ス ポ ー ツ 生 理 学,p.239-275,
大 修 館 書 店,1982. 9) Ivy,J.L.,et
al.,:Muscle
glycogen
synthesis
after
exercise.:effect
ポー
ツ と ス タ ミナ,講
of time
of carbohydrate
ingestion.J.Appl.Physiol.,64:1480-1485,1988 10) 松 井 秀 治:ス
タ ミ ナ の 概 念(松
井 秀 治 編 著:ス
座 現 代 の ス ポ ー ツ 科 学,6
p.1-15),大
修 館 書 店,1978.
11) Maughan,R.:Carbohydrate-electrolyte tives
in Exercise
Science
solutions
and
Sports
during
prolonged
exercise.In
Medicine,vol.4,Lamb,D.R.and
Perspec
Williams,M.H.eds,
Brown&Benchmark,USA,1991,p.35-76 12) 村 岡
功,青
木 純 一 郎:ビ
13) 村 岡
功:競
技 パ フ ォ ー マ ン ス に 及 ぼ す 栄 養 の 影 響.臨
タ ミ ン の 摂 取 と運 動.J.J.Sports
14) 村 岡
功:運
動 と 内 分 泌(石
河 利 寛,杉
山 正 輝,共
Sci.5;186-191,1986. 床 スポー
編 著:運
ツ 医 学,5:222-228,1988.
動 生 理 学,p.183-218),建帛
社,
1994. 15)
長 嶺 晋 吉:ス 栄 養,講
16)
ポ ー ツ マ ン の エ ネ ル ギ ー 消 費 量 と 所 要 量(長
座 現 代 の ス ポ ー ツ 科 学2,p.111-120),大
中 村 好 男:一
嶺 晋 吉 編 著:ス
ポ ー ツ とエ ネ ル ギ ー ・
修 館 書 店,1979.
般 健 常 人 と 持 久 競 技 選 手 に お け る 換 気 閾 値,乳
酸 閾 値,OBLAの
標 準 値 に つ い て.
ト レ ー ニ ン グ 科 学,4(1):23-30,1992.
9.5疲 トレー ニ ン グ を行 う場 合,疲
労 回復 の ため の 食 事 労 や ス トレス を受 身 で は な く積 極 的 に受 け 止 め,
そ の 刺 激 で栄 養 の 吸 収 力 を高 め る こ とが 大 切 で あ る.ク ー リン グ ダ ウ ンの ス トレ ッチ ン グや ス ポ ー ツマ ッサ ー ジ以 外 に,食 事 や 飲 料 の と りか た で疲 労 回復 す る方 法 も身 に つ け て お く と役 立 つ. ス ポー ツ栄 養 学 の 立 場 か ら疲 労 を分 類 す れ ば,表9.5に 労,局
示 す よ うに全 身 的 な疲
所 的 な疲 労,精 神 的 な 疲 労 の3種 類 に分 け ら れ る.体 内 の グ リコー ゲ ン貯
蔵 量低 下 や 心 理 的 疲 労 増 大 な ど,そ の 原 因 次 第 で,栄 養 面 で 補 給 す べ き もの も摂 取 タ イ ミン グや 摂 取 方 法 も異 な って くる こ とは 言 う ま で もな い. ケ ガ や 故 障 を予 防 し,ト レー ニ ン グ効 果 を高 め る ため に は,筋 活 動 に よ る乳 酸 の増 加 か ら始 ま る 「筋 疲 労 と回 復 」 の メ カ ニ ズム お よ び そ の 過 程 に お け る高 糖 質 (炭 水 化 物)食
の 重 要 性(図9.10),中
枢 性(脳
や 神 経 系)の
疲 労 とそ の 回 復,
な どの 生 理 学 的 知 識 が 必 要 で あ る.ま た,「 オー バ ー トレー ニ ン グ」 を予 防 す る た め の 「疲 労 感 」 「だ る さ」 とい っ た 自覚 症 状 の 把 握 と対 策 の 実 施 な ど,運 動 生 表9.5 疲 労 を防 ぐス ポー ツ栄 養 の知 識(1998,殖
田)
図9.10
筋 グ リ コー ゲ ン の 再 充 填(Costill,Miller,1980 よ り一 部 改 変)
理 学 ・生 化 学 か ら ス ポー ツ栄 養 学 へ 波 及 す る最 近 の ア プ ロー チ に つ い て も,参 考 文 献 や 資 料 で理 解 して お くべ きで あ ろ う.こ う した知 識 をべ ー ス と し,実 践 的 テ クニ ッ ク を ま とめ る と,以 下 の よ うに な る.
a.一
過 性 の 疲 労 と回 復 の た め の 食 べ か た
1)全
身 ぐっ た り疲 れ た と き
ぐっ た り疲 れ て い る,あ る い は一 歩 も動 け な い と い う と きは,体 内 の 貯 蔵 グ リ コー ゲ ン を使 い果 た し,血 糖 値 も低 下 し て い る状 態 で あ る.消 耗 後,で
き るだ け
早 い時 間 で糖 質 と水 分 の補 給 を行 うこ とで, グ リコー ゲ ン は 急 速 に 回復 す る こ とが 知 られ て い る.競 技 中 な ら果 糖 入 り ド リン クや バ ナ ナ,食 事 で は雑 炊 や め ん 類 が 手 軽 で 吸 収 も早 い.ま
た,長 時 間 トレー ニ ン グ を行 う場 合 に
は,前
日ま で に 十分 に 糖 質 を補 給 して お くこ
とに加 え て,エ ネ ル ギー 代 謝 の 補 酵 素 と して 重 要 な働 き をす る ビ タ ミンB群(図9.11) も補 給 して,糖 質 代 謝 を円 滑 に 行 え る準 備 を 万 全 に して お く と よい. 図9.11
ビ タ ミンB群 (殖 田,1996)
は補 酵 素
2)特
定 の筋肉が疲 れた とき
トレー ニ ン グ で一 度 筋 肉 が 壊 さ れ,材 料 補 給 して休 養 す る こ とで作 り直 され る ―
こ の く り返 し で体 づ く りは な さ れ る.こ の 過 程 で全 身 グ リコー ゲ ン 回 復 の 手
法 の ほ か,運 の 摂 取,さ
動 生理 学 的 に は み か んや オ レ ン ジ な ど クエ ン酸 と果 糖 を含 ん だ 果 物
近 年,筋
ら に 物 理 的 な ス ポ ー ツ マ ッサ ー ジが 効 果 大 で あ る(表9
.5).ま た,
力 トレー ニ ン グ の最 後 に 筋 グ リコー ゲ ン枯 渇 時 の エ ネ ル ギー 源 不 足 に 備
え て,分 岐 鎖 ア ミノ酸(ロ
イ シ ン ・イ ソロ イ シ ン ・バ リン)を 摂 取 す る 方 法 も使
わ れ 始 め た.分 岐鎖 ア ミ ノ酸 は,脳
の疲 労 感 を軽 減 す る役 割 が あ る こ とが知 られ
て い る. 3)精
神 的 に疲 れ た と き
心 理 的 疲 労 が主 体 で あ れ ば,リ
ラ ッ クスや 気分 転 換 が 一 番 望 ま し い対 応 策 で あ
る.本 人 の 趣 味が 映 画や ビ デ オ,CDや ョ ッ ピ ン グや 観 光(遊
パ ソ コ ンな ど で あ れ ば そ れ が よ い し,シ
園 地 な ど),外 食(食 事 ・喫茶 と も)が よ い場 合 もあ る.
と くに そ う い う もの が な け れ ば チ ー ム メー ト,友 人や 家 族 との 団欒 が効 果 的 な場 合 が 多 い.そ
の際,テ ー ブ ル に デ ザ ー トな ど心 休 ま る もの が あれ ば な お よ い.寝
つ け な い と き は イ ラ イ ラ を静 め る カ ル シ ウ ム を使 う と よ い.寒 い季 節 な ら ホ ッ ト ミル クや コ コ ア,夏 場 は ヨー グ ル トな ど,乳 製 品 が適 して い る.た だ し,夜 中 に と る場 合 は,い ず れ も低 脂 肪 の もの を用 い る の が常 識 で あ る.
b.疲
労 が 抜 け な い原 因 と栄 養 の と りか た
1) よ く風 邪 を ひ くと き 疲 労 感 の 強 い と き,体 力 が 消 耗 して い る と き に,風 邪 を ひ きや す い もの で あ る.ス
トレ ス に対 抗 す る ビ タ ミン と し て知 ら れ て い るの は ビ タ ミンCで
ビ タ ミンCの
あ る.
大 量 投 与 に よ っ て ウ イ ル スへ の 抵 抗 力 もつ く.こ の た め 粘 膜 を守
る ビ タ ミンA・ 血 行 を よ くす る ビ タ ミンEな あ る.だ が,ビ
タ ミンCは
酸 性が 強 い た め,胃
ど と と もに 風 邪 対 策 と し て 有 名 で
単 独 で 大 量 に と るの は 考 え もの で あ る.ス に は,医 者 と相 談 の う え で,む
潰 瘍 の よ うに 胃 酸 過 多 の と きに
トレ スで 胃が キ リキ リ痛 む よ うな と き
し ろ空 腹 時 に 酸 味 の 強 い ものや 刺 激 物 を避 け,胃
壁 を保 護 す る よ うなや わ らか く水 分 の 多 い 食事 を少 量 とるべ きで あ る. 2)息
切 れ や ス タ ミナ 切 れ の と き
持 久 的 トレー ニ ン グ を行 っ て い る と きに疲 労 感 が 強 く残 る場 合,運
動 性貧 血 で
を疑 っ て検 査 す る こ とが 大 切 で あ る.貧 血 の場 合,ヘ が 低 下 す る ため,有
モ グ ロ ビ ン の酸 素 運 搬 能 力
酸 素 能 力 は低 下 す る.持 久 走 の タ イ ム も落 ち る し,自 覚 的 な
兆 候 も 「強 い疲 労 感 」 「だ る さ」 「息 切 れ 」 とな る. トレー ニ ン グ に 疲 労 は つ き もの で あ る し,オ ー バ ー ロー ドの 原 則 通 り,疲 れ な い く らい で は トレー ニ ン グ効 果 は望 め な い もの で あ るが,い が 抜 け な い と きや,持
つ も と違 っ て疲 労 感
久 走 の タ イム が 異 常 に低 下 した と き な ど は,血 液 検 査 を行
う よ うに 心 が け た い.検 査 項 目 と して は,運 動 性貧 血 が 考 え ら れ る種 目や 選 手 の 場 合 に は,通 常 の健 康 診 断 同 様 の 項 目に 加 え て,多
少分析 期 間や 費用 がか か る
が,定 期 的 に フ ェ リチ ン検 査 も行 って お く と,貯 蔵 鉄 の 減 少 程 度 が チ ェ ッ クで き る. 貧 血 の予 防 や 対 策 と して必 要 な こ と は,食 事 か ら とれ るエ ネ ル ギー 量 を大 幅 に 越 え た猛 練 習 を続 け な い こ と と,1日2回
以 上 「鉄 と タ ンパ ク質 とビ タ ミンC」
が そ ろ っ て 多 く含 まれ る食 事 を と る こ と で あ る.鉄 の 材 料 で あ る し,ビ タ ミンCは
とタ ンパ ク質 はヘ モ グ ロ ビ ン
鉄 の 吸 収 率 を 高 め る役 割 を す る.具 体 的 な 食 事
例 と して は,レ バ ニ ラい ため や ほ うれ ん そ うの 卵 と じな どが あ げ られ よ う. 3) ど う して も疲 れ が 抜 け な い と き 原 因 は 不 明 だ が,疲 労 感 が 強 く何 をす る に も気 力 が わ か な い とい う状 態 の 場 合,選
手 な ら オー バ ー トレー ニ ン グ,一 般 の 人 な ら ス トレ ス に よ る心 理 的疲 労 で
あ る こ とが 多 い.状 況 を判 断 し,原 因 と考 え られ る ス トレ ス を取 り除 くこ とが 第 一 で あ り,専 屋 で の 発 散,喫
門家 の カ ウ ン セ リ ン グ を受 け る こ とが す す め られ る.成 人 な ら居 酒 茶 店 で の 雑 談 や 競 技 以 外 の ゲー ム も有 効 で あ る場 合 が 多 い.
食 事 面 で よ く見 うけ られ る の は,体 重 調 整 の ス トレ ス が 原 因 で心 理 的 に疲 弊 し て し ま い,他 人 に 見 られ な い状 況 や 夜 中 に過 食 に 走 っ た り,逆 に拒 食 とな って, 不 健 康 な ほ ど痩 せ て し ま うケー ス で あ る.思 春 期 の 女 子 や 体 脂 肪 率 を極 端 に 制 限 す る陸 上 競 技 の 長 距 離 走 や 新 体 操,水
泳 な どの選 手 に も少 な くな い.こ
う した ケ
ー ス で は 食事 制 限 も含 め 体 格 にか か わ る制 限事 項 を一 度 撤廃 して ,精 神 的 に 追 い 詰 め ち れ た状 態 か ら回 復 させ る こ とが優 先 さ れ る.
参 考文献 1) 殖 田 友 子編 著:ス
ポ ー ツ 栄 養 ガ イ ド1to
4第 三 版,ミ
2)殖
ポ ー ツ 栄 養 ガ イ ド5to
8,ミ
田 友 子 編 著:ス
ュ ー ズ,1998.
ュ ー ズ,1998.
〔 殖 田友 子 〕
3) 殖 田 友 子:ス
ポー ツ栄 養 学,健
4) 殖 田 友 子 編 著:健
康 ・体 力づ く り事 業 財 団,1996.
康 ・ス ポー ツ の栄 養 学,第
9.6肥 肥 満 は,体
満 解 消 の た め の食 事
脂 肪 のつ き過 ぎ と定 義 す る こ とが で き る.ト レー ニ ン グ面 で は,体
脂 肪 を燃 焼 させ て減 少 させ,か 態)を
二 版 建帛 社,2000.
つ 体 脂 肪 の つ き に くい体 質(基
礎代 謝 の高 い状
つ くる こ とが 重 要 で あ るが,食 事 面 で は,脂 質 お よび過 度 の エ ネ ル ギ ー 摂
取 を避 け る こ とが 求 め ちれ る.し か し,現 状 で は,栄 養 的 あ るい は生 理 的 に 見 て 問 題 の あ る 食事 の 仕 方 が 少 な か らず 見 ち れ る.
a.肥
満 解 消 の 食 事 の考 え 方
1)女
子 学 生 の ダ イエ ッ ト
女 子 学 生 の 間 で は,さ 断 食 や,果
物,ゆ
ま ざ ま な ダ イ エ ッ ト法 が 流 行 し て い る.た
で 卵,炭 水 化 物,プ
ロ テ イ ン,低
と えば 減 食 ・
カ ロ リー 代 用 食,ダ
イエ ッ ト
フ ー ズ を使 っ た もの な どが あ るが,食 事 内 容 を 十分 に 吟 味 した減 食 あ る い は 医 師 の 指 導 の下 に よ る減 食 以 外 は,体 調 を崩 し,場 合 に よ って は死 に至 る危 険 性 が あ るの で,安
易 に 実 行 しな い 方 が よ い.特 定 の 食 品 だ け を食 べ るタ イ プ の ダ イエ ッ
ト法 は,摂
取 エ ネ ル ギ ー を抑 えて 栄 養 失 調 に 陥 らせ る こ とに よ り減 量 を可 能 とす
る.必 要 な栄 養 素 の うち,と
くに タ ン パ ク質,ミ
ネ ラ ル,ビ
タ ミ ンの 不 足 に よ
り,体 力 ・体 調 と もに低 下 を招 くの で 注 意 を要 す る. 2)女
子選手 の運動性無 月経
食事 制 限 を しつ つ,ハ ー ドな トレー ニ ン グ を続 け て い る女 子 選 手 に は,月 経 異 常 や 運 動 性 無 月経 が 見 られ る.体 重 の 軽 い 方 が 有 利 と考 え られ て い る陸 上 競 技 の 長 距 離 走,審
美 的要 素 の強 い競 技 で あ る器 械 体 操,新 体 操,水
泳 の 飛 込 の選 手 に
この 傾 向 が 強 い.女 性 に とっ て の体 脂 肪 は,女 性 ホ ル モ ンな どの 材 料 と して も重 要 な もの で あ る た め,体 脂 肪 量 が減 少 して く る と,女 性 と して 妊 娠 ・出産 を正 常 に行 え る状 態 で は な い と身 体 が 判 断 し,月 経 が 止 ま っ て し ま う.さ ら に,女 性 ホ ル モ ン の分 泌 バ ラ ン スが 崩 れ る と,骨 へ の カ ル シ ウム の 吸 収 な ど も円 滑 に行 わ れ ず,ス
ポー ツ障 害 や 骨 粗 鬆 症 の原 因 を つ くる の で,注 意 しな け れ ば な ら な い.ま
た,こ の ホ ル モ ンバ ラ ンス の 崩 れ に よ り,メ ン タル 面 に も悪 影 響 が 及 び,摂 食 障 害 の 原 因 と も な る こ とが あ る.女 子 選 手 が や せ 願 望 を強 く もつ の は 危 険 な こ と と
表9.6
急 激 な 減 量 が 体 重 ・筋 グ リコー ゲ ン量 ・等 速 性 筋 力 に 及 ぼ す 影 響
(Houston et al.,1981)
言 え よ う. 3) 階 級 性 競 技 選 手 の 急速 減 量 体 重 制 限 は,柔 道 ・空 手 ・レ ス リン グ ・ボ ク シ ン グ な どの 格 闘技 に つ き ま と う 問題 で あ る.減 量 はつ らい もの とい うイ メー ジが あ る の で,試 合 直 前 の 短 期 間 で す ま そ う と し,食 事 制 限 や 絶 食,脱 水 に よ る減 量 を行 う選 手 が 少 な くな い.し か し,こ の よ うな 減 量 法 で は,減 量 前 に 比 べ て 体 力 の 低 下 が 著 しい. 表9.6の
よ うに,短 期 間 の 減 量 で は 筋 肉 の エ ネ ル ギー 源 で あ る グ リコー ゲ ン量
が低 下 し,試 合 当 日の 計 量 後 に 食事 を して もす ぐに は 回復 し な い.ま
た,筋 力 も
低 下 し て しま うの で,試 合 に とっ て は マ イナ スで あ る.こ の 原 因 と して は,減 量 期 間 中 に栄 養 摂 取 を制 限 す る ため,グ
リコー ゲ ンの も とに な る糖 質 が 獲 得 で きな
い こ と,そ して グ リコ ー ゲ ンが 不 足 して い るの に トレー ニ ン グ を行 うの で,筋 ン パ ク質 を分 解 して エ ネ ル ギー を生 産 す る結 果,筋 る.さ
タ
肉 量 が 減 る こ とが 考 え られ
らに脱 水 に よ る体 調 悪 化,鉄 不 足 に よ る貧 血 も起 こ り得 るの で,良
いこ と
は 一 つ もな い.
b.栄
養 素の考 え方
1) カ ッ トす べ きは エ ネ ル ギ ー と脂 質 摂 取 エ ネ ル ギ ー を低 下 させ る に は,全 体 の 食 事 量 を減 らす こ とが 第 一 で あ る. 減 らす 量 は トレー ニ ン グに よ る消 費 量 との 兼 ね 合 い で 決 め るべ きで あ るが,通 常 の 食 事 量 の90%程 200kcalを
度 に と どめ れ ば,お
お よ そ一 般 男 性 で250kcal,一
減 ず る こ とが で き る.エ ネ ル ギー とな る栄 養 素 は,3大
糖 質,脂 質,タ
般 女性 で
栄養 素 であ る
ン パ ク質 で あ る.体 脂 肪 の 合 成 を抑 え る に は,脂 肪 と油 を含 む 脂
質 を控 え る こ と が 重 要 で あ る.そ れ に は,①
脂 肪 の 少 な い 食 材 を用 い る.た
と
え ば,マ
グ ロ の トロ よ りは赤 身 を選 び,牛 乳 は 特 濃 タ イ プ よ りロー フ ァ ッ ト ・タ
イ プ を選 ぶ.②
油 を使 わ な い 調 理 法 を優 先 す る.つ
ら し,焼 き物,煮 ン,バ
物,ゆ
ター を は じめ,ド
で 物,蒸
ま り,揚 げ 物 や 炒 め 物 を減
し物 を 多 くす る.③
調 味 料 と し て,マ ー ガ リ
レ ッ シ ン グや マ ヨネー ズ に 注 意 し,ハ ー フ カ ロ リー や ノ
ン オ イ ル タ イプ を選 ぶ. 2)糖
質 と タ ンパ ク質 は体 脂 肪 を減 少 さ せ る た め に食 べ る
糖 質 は,脳 の 唯 一 の エ ネ ル ギ ー 源 で あ る こ とか ら,欠 か せ な い 栄 養 素 で あ る. そ して,日 常 の 生 活 活 動 の エ ネ ル ギー 源 とな る の は も ち ろ ん の こ と,ス ポ ー ツ に お い て は,運 動 の 強 度 が 高 くな るほ ど 多 く消 費 さ れ る筋 肉 の エ ネ ル ギー 源 で もあ る.し か も体 内貯 蔵 量 は 脂 肪 と比べ て 少 な い.そ こ で,運 動 を と も な うダ イ エ ッ トの 場 合 に は,食 事 で 糖 質 を摂 取 し な い と筋 肉 お よび 肝 臓 の グ リコー ゲ ン 量 が低 下 し,低 血 糖 状 態 を招 く.こ の状 態 で は,必 要 な エ ネ ル ギー 源 を まか な うた め に 筋 タ ンパ ク質 を分 解 して ア ミ ノ酸 をつ く り,ア TCA回
ミノ酸 か らの糖 新 生 あ る い は 直接
路 に 入 りエ ネ ル ギ ー を生 産 す る こ と に な る.つ
分 解 を 引 き お こす の で,体 は,ご 飯,パ
ま り,糖 質 不 足 は 筋 肉 の
力 を維 持 す る上 で は 損 失 で あ る.糖 質 を摂 取 す る に
ン を少 量 で も必 ず 三 食 食べ る よ うにす る.ま た,砂 糖,ジ
糖 質 の 多 い 食 品 で あ る が,血 糖 値 を急 激 に上 昇 させ,イ
ュー ス も
ン ス リ ン分 泌 を 強 く促
し,糖 質 と と もに 脂 肪 の 蓄 積 も促 進 しや す いの で,減 量 中 は控 え る. タ ンパ ク質 は,筋 く,各 種 の 酵素,ホ
肉,骨,血
液,内 蔵,皮
膚 な どの組 織 を構 築 す るば か りで な
ル モ ンの 本 体 で あ り,免 疫 に も働 くの で,減 量 中 で あ っ て も
必 要 量 は 低 下 し な い.運 動 選 手 な ちば,一 般 人 の所 要 量 よ り も必 要 量 は高 ま る. お か ず と乳 製 品 を,脂 質 に 気 をつ け な が ら摂 取 す る が,摂 取 エ ネ ル ギー を抑 え て タ ン パ ク質 量 を高 め るに は,プ 助 食 品)を
ロ テ イ ンパ ウダ ー の よ う なサ プ リ メ ン ト(栄 養 補
食事 前 に飲 む と良 い.
3) ミネ ラ ル と ビ タ ミ ン不 足 で は コ ンデ ィ シ ョン を崩 す 骨 を形 成 す るカ ル シ ウ ム,血 液 をつ くる鉄 な ど の ミネ ラル は,い
ず れ も減 量 に
よ る食事 制 限 の影 響 で摂 取 量 が低 下 しや す く,骨 密 度 の低 下 お よ び貧 血 の 原 因 に な る.た だ し,塩(塩
化 ナ ト リウム)に 関 して は,と
くみ の 原 因 に も な るの で 注 意 が 必 要 で あ る.ま た,エ 群,ス
トレ ス に対 抗 す るCな
必 要 量 は 低 下 しな い.そ
り過 ぎが の どの 渇 きや,む ネ ル ギ ー 産 生 に 関 わ るB
どの ビ タ ミン は,減 量 中 に も重 要 な 栄 養 素 で あ り,
こ で,カ ル シ ウ ム は ロー フ ァ ッ トの 牛 乳 で補 い,鉄
およ
び ビ タ ミン は サ プ リメ ン トで摂 取 す る. 5大 栄 養 素 以 外 で は,ま ず 食物 繊 維 は 便 秘 を改 善 し,コ レ ス テ ロー ル を低 下 さ せ る の で,ダ ク,キ
イエ ッ ト中 に も十 分 摂 取 す る.食 物 繊 維 は 野 菜,海
草,コ
ノ コ類 に 多 く含 まれ て い る.ま た,水 は 量 的 に十 分 摂 取 して,体
ンニ ャ 内 の物 質
代 謝 が 円 滑 に進 む よ うに し な け れ ば な らな い.
c.実
際 の 食 べ方
1) 基 本 は 「 栄 養 フル コー ス 型 」 の 食 事 こ の よ う に,エ ネ ル ギー と脂 質 以 外 は 一 般 人 と同 等,あ 般 人 以 上 の 摂 取 を心 が け なけ れ ば な ら な い.こ て,実
際 に 調 理 して 食べ るの は容 易 で は な い.そ
ず,野 菜,果
る い は選 手 の 場 合 は一
の よ うな 食事 メ ニ ュー を 組 み 立 こ で,具 体 的 に は,主
食,お か
物,牛 乳 の5つ が 揃 う「栄 養 フル コー ス 型 」の 食 事 を 基 本 とす る.た
だ し,主 食 の ご飯 は 少 な め に し,お か ず は脂 肪 の 少 な い食 材 と調 理 法 を選 び,野 菜は ゆで る・ 煮 る・ 蒸 す の 調 理 が 良 い.果 物 は ビ タ ミンの 供 給 源 と して 重 要 で あ る が,エ
ネ ル ギー 過 剰 に な ら な い よ う気 をつ け た い.牛 乳 もロー フ ァ ッ ト ・タ イプ
に す る.減 量 にお い て は摂 取 エ ネ ル ギー を制 限す る こ とに な る の で,サ プ リメ ン ト を活用 して必 要 な栄 養 素 を確 保 し,良 好 な栄 養 状 態 を維 持 す るこ とが 重 要 で あ る. 2)食
べ方の テクニ ック
規 則 正 しい 食事 と トレー ニ ン グ とに よ り,代 謝 の リズム をつ くる こ と も非 常 に 大 事 で あ る.三 食 を規 則正 し く食べ るの が 望 ま しい が,摂 取 エ ネ ル ギー が 同 じな ら,間 食 を含 め た 四 食,五 食 の 方 が,肥 満 や 生 活 習慣 病 に か か る リス クが 減 少 す る(表9.7).1日
一 食や 二 食 で減 量 し よ う とす るの は,か
え っ て 太 りや す い こ と
に な る. ま た,同
じエ ネ ル ギ ー 量 の 食 事 を す る場 合,朝(午
前9時),夕
表9.7 成 人 男子 に お け る食 事 回 数 と肥 満 お よ び併 発 症 の 関 係
注:*食
間 に 軽 食,**就
寝 前 に 軽 食(Fabry
et ai.,1964,1968)
方(午
後5
図9.12
1目 の 中 で 異 な る 時 間 帯 で 食 事 を行 な った 後 の エ ネ ル ギー 消 費 量 の増 加 の違 い(Romon,1993)
時),夜
中(午 前1時)で
朝 が 最 も高 く,夕 方,夜
は,食 事 誘 発 生 体 熱 産 生(DIT)が 中 の 順 で 低 下 す る(図9.12).つ
し"エ ネ ル ギー の む だ 使 い"が
異 な る.DITは, ま り,朝 は体 温 が 上 昇
お こ りや す い.朝 食 を し っか り食 べ る と,朝 か ら
代 謝 が 高 ま るの で,結 果 的 に 体 脂 肪 を減 ら しや す い 身体 に な る.逆 に,就 寝 前 の 食事 は,脂 肪 の エ ネ ル ギー と し て体 内 に 蓄 積 され や す い こ とに な る.そ
こ で,夕
食 よ り昼 食 を多 く,さ らに昼 食 よ り朝 食 を 多 く食 べ るこ とが勧 め られ る.し か し 日本 の 食 生 活 で は 難 しい の で,せ め て朝 食 を抜 か な い こ とだ け は 心 が け た い. そ の 他,早
食 い は 過 食 に つ なが る可 能 性 が あ るの で避 け,な が ら 食 い も メ リハ
リが つ か な い の で 止 め る. 3) 減 量 の成 功 事 例 男 子 柔 道 で は,1992年
の バ ル セ ロナ オ リン ピ ッ ク 日本 代 表 選 手 を決 め る1回
目の 国 内 選 考 会 に お い て,実
力 は あ るが 無 理 な 減 量 を した78kg級
を崩 して 初 戦 で敗 退 す る とい う事 態 が 起 こ っ た.そ した35日
間 で7kgの
こ で,2回
の選 手 が 体 調
目の 選 考 会 を 目指
減 量へ の 挑 戦 をス ポー ツ栄 養 学 の 立 場 か らサ ポ ー ト した.
こ の 選 手 の 体 脂 肪 率 は10.9%で
あ り,体 脂 肪 の み を減 ら して 減 量 す る こ とは
不 可 能 で あ っ た(除 脂 肪 体 重 を維 持 して78kgに
す る こ と は,体 脂 肪 率0.99%
とな る こ と を意 味 す る). そ こ で,朝
食 と夕 食 は 所 属 会 社 の 寮 で調 製 す るた め,食 事 メ ニ ュ ー を作 成 ・提
案 し,昼 の 外 食 メ ニ ュ ー に つ い て は選 び方 をア ドバ イ ス した.定 期 的 な カ ウ ンセ リン グ を実 施 した とこ ろ,体 重 は期 間 内 で規 定 体 重 とな り,試 合 に も勝 利 して代 表 に 選 ば れ た.し か し,本 人 は体 調 が ベ ス トで は な か っ た と申告 し,試 合 後 の 血
液 検 査 か ら も,血 清 鉄,ヘ
モ グ ロ ビ ン濃 度,総
との カ ウ ンセ リ ン グの 結 果,不
タ ンパ クの低 下 が 見 られ た.本 人
足 す る栄 養 素 を摂 取 す る た め の サ プ リメ ン トを規
則 正 し く使 用 して い な い こ とが 原 因 で あ っ た. オ リン ピ ッ ク ま で50日 た.連
とな っ た時 点 で,体
重 は 規 定 の10kg超
過 とな ってい
日の 祝 賀 会 な どで体 重 が リバ ウ ン ドして い たの で あ る.し か し,本 人 は栄
養 サ ポー トに よ り苦 しま ず に減 量 で き る こ と を理 解 して い た の で,2回 は順 調 に 推 移 した.オ
リン ピ ッ ク選 手 村 に 入 村 し た後 は,サ
目の 減 量
ポー ト班 も現 地 入 り
し て減 量 用 の 食 事 を調 製 した.ま た,本 人 は稽 古 以 外 に も ジ ョギ ン グ を行 い,ぬ る ま湯 に ゆ っ く りつ か る入 浴 法 も採 用 し た. オ リン ピ ッ ク終 了 後 の 本 人 の 主観 的体 調 と血 液 検 査 の 結 果 は,と っ た の で,こ の 減 量 は成 功 と見 なせ る.栄 養 面 で は,エ kcalま mg以
で 低 下 させ た 時 も,タ ン パ ク質 は 体 重1kgあ 上 を摂 取 し た.こ れ ら の値 は,エ
あ るの に 対 し,タ ンパ ク質136%,鉄250%に
も に良 好 で あ
ネ ル ギー 摂 取 量 を1500 た り1.5g以
上,鉄
は25
ネ ル ギ ー が 一 般 人 に 必 要 な量 の55%で も相 当 す る.ち な み に競 技 結 果 も
良 好 で あ り,全 試 合 一 本 勝 ち で金 メ ダル を手 中 に して い る.
学 生 の 時 期 は,成 長 期 の最 終 段 階 に あ り,効 率 的 に 骨 を強 くし,筋 肉や 腱 を強 くす る最 後 の チ ャ ン ス で あ る.世 間 で 流 行 して い る ダ イエ ッ ト法 に 惑 わ さ れ る こ と な く,ト レー ニ ン グ と同様 に 食事 も し っか りと考 えて 食べ,後 な い よ うに した い もの で あ る.
で悔 や む こ との 〔 杉 浦克 己〕
参 考文献 1) 杉 浦 克 己,田 2) Wootton,S.;小 3) Clark,N.;辻
口素 子,大 林修平
崎 久子:選 監 訳:ス
手 を 食事 で 強 くす る本,中
経 出版,1992.
ポー ツ指 導 者 の ため の ス ポ ー ツ 栄 養 学,南
秀 一 ・橋 本 玲 子 訳:ス
ポ ー ツ栄 養 ガ イ ドブ ック,女
江 堂,1992.
子栄 養 大学 出版 部,1998.
10 疲労を回復するための休養法
運 動 や ス ポー ツ,そ
の他 の 身体 作 業 に よ って,人
間 は 「疲 労 」 す る.疲 労 は 人
間 の生 理 的,心 理 的 な反 応 で あ り,後 に 述 べ る よ うに 身体 の安 全 を確 保 す る 防衛 反 応 と と らえ る こ と もで き る.こ の よ うな 疲 労 を解 消 し,さ らに トレー ニ ン グ効 果 を発 現 させ るた め に は,心 身 の 積 極 的 な 休 養 が不 可 欠 で あ る. 10.1疲
労 と は
国 語 辞 典 で は,疲 労 とは 「疲 れ る こ と,く た び れ る こ と」 と説 明 され て い る. しか し こ の 説 明 で は,ス
ポー ツや 体 育 の 現 場 で仕 事 をす る人 間 に と って は不 十分
で あ ろ う. 疲 労 は誰 に で も生 じ る現 象 で あ り,従 来 か ら 多 くの 人 々 に よ って 研 究 され て き た.し か し その 原 因 に つ い て は大 変 複雑 で,現 状 に お い て も十 分 に 解 明 され て お らず,「 説 」 と い う形 で議 論 さ れ て い る.そ の 代 表 的 な もの に 中枢 説,末 梢 説, エ ネ ル ギ ー 消 耗 説,中 毒 説,Hypoxidosis説,疲
労 物 質 説,ホ
メオ ス タ シス失
調 説 な どが あ る. と も あ れ 疲 労 を生 体 の 防 御 反 応 の 一 つ と して と ら え る こ とは 可 能 で あ る.す な わ ち,生 体 機 能 が 運 動 や 労 働,各 種 活 動 に よ り低 下 また は 失 調 し,そ の 後 に 待 ち 受 け る疾 病 や 傷 害 を事 前 に 回避 す るた め に生 じ る 自 己 防衛 機 能 を 「疲 労 」 と と ら え るの で あ る. 一 般 に疲 労 の現 れ 方 に は,生 理 的 な機 能 低 下 に よ る肉体 的 な疲 労 発 現(疲 労 症 状)と,心
理 的 な機 能 低 下 に よ る精 神 的 な疲 労 発 現(疲
労 感)の2種
類 に分 類 さ
れ る.し か し,生 理 的 な機 能 低 下 の 背 景 に は 心 理 的 な 機 能 低 下 が あ る こ と も多 く,ま た その 逆 も生 ず る こ とは 十分 に理 解 で き る だ ろ う.し たが っ て,疲 労 を精 神 的 側 面 と肉体 的側 面 に分 類 す る こ とは不 可 能 で あ る とす る考 え 方 も あ るが,こ こ で は 説 明 しや す い よ うに,肉 体 的 疲 労 と精 神 的疲 労 とに分 類 で き る こ とを 前提
に 話 を 進 め る こ と と す る.
10.2 疲 労 回復 の 方 法 a.超
回復 と休 養
ス ポー ツ活 動 や トレー ニ ン グ を実 施 す る と,疲 労 に よ り一 時 的 に開 始 時 の 水 準 よ りも競 技 能 力 が低 下 す る.こ の 状 態 は休 養 に よ って 回復 し,さ ら に休 養 を持 続 させ る と,開 始 時 の 競 技 能 力 よ り も向 上 した状 態 に な る(図10.1).こ 回復 」 と呼 ぶ.さ
れ を 「超
らに 休 養 を続 け る と超 回 復 に よ っ て得 られ た 競 技 能 力 は 減 退
し,も との 競 技 水 準 に 戻 っ て し ま う.し たが っ て減 退 す る前 に次 の トレー ニ ン グ を 開始 しな け れ ば 競 技 能 力 の 向 上 ・改 善 は望 め な い こ とに な る.こ れ が 超 回復 の 理 論 で あ る.
図10.1 超 回復 の概 念 図
図10.2に
示 し た よ うに,超
超 回復 の状 態 が 積 算 され,徐
回復 の 時 期 に 次 の トレー ニ ン グ を実 施 す る と順 次 々 に競 技 能 力 が 高 ま って 行 く.も ち ろん,現 実 は そ
れ ほ ど単 純 で は な く,ト レー ニ ン グ効 果 が 加 算 で き ない よ うな 激 し い トレー ニ ン グの 実 施 や,逆
に種 々 の 疲 労 を 除去 す る ため に意 識 的 に トレー ニ ン グ量 を落 とす
ピー キ ン グな ど を組 み 合 わ せ,試 合 当 日に 目標 を定 め,コ
図10.2 超 回復 の積 算
ン デ ィ シ ョ ン を整 え て
い くの が 「コ ン デ ィ シ ョニ ン グ」 で あ る. い ず れ に せ よ,コ ン デ ィ シ ョニ ン グ の背 景 に は 超 回復 理 論 が 存 在 して い る.休 養 は,ど
うす れ ば効 率 的,効 果 的 に 超 回復 を実 現 で き る の か と い う,超 回復 の た
め の手 段 と も考 え ちれ よ う.
b.ア
フターケ ア
1) ク ー リン グ ダ ウ ン クー リン グ ダ ウ ン は,ス ポ ー ツ にお け る 主運 動 の 後 に,早 期 回復 や ス ポー ツ傷 害 の予 防 を 目的 と し て,比 較 的 軽 度 の 有 酸 素 運 動 を実 施 す る こ とで あ る.こ の よ う な観 点 か ら,ク ー リン グ ダ ウ ン をactive
recovery(ふ
つ う積 極 的 休 息 と訳 さ
れ る)と 呼 ぶ こ とが 多 い.実 際 ス ポー ツ実 施 に よ って 産 生 され る筋 中 の 乳 酸 は, エ ネ ル ギー 源 と して の脂 肪 酸 の 動 員 を妨 げ た り,酸 化 系 酵 素 群 の活 性 化 を阻 害 す る.し た が っ て乳 酸 の 除 去 は疲 労 回復 に は 重要 な 要 素 とな るが,ク ー リン グ ダ ウ ン を実 施 す る こ とに よ っ て 乳 酸 の 除 去 が早 ま る こ とが 数 多 く報 告 さ れ て い る.そ の 概 念 図 を図10.3に
示 す.
一 方 クー リ ン グ ダ ウ ン に お け る有 酸 素 運 動 の 強 度 に つ い て は 図10.4に あ る とお り,最 大 酸 素 摂 取 量 の30%∼40%程 好 み の 運 動 強 度(50%程 50%前
度)と
示 して
度 が よ い と され て い る.た だ し,
の 間 に は 差 が な か っ た とい う 報 告 が あ り,結 局
後 の 運 動 強 度 で 実 施 す れ ば 乳 酸 除 去 に 関 して は 大 差 が な い と考 え られ よ
う.
図10.3安
静 と クー リ ン グ ダ ウ ン に よ る運 動 後 の 血 中 乳 酸 除 去率 の タ イム コー ス(Fox,1984よ
り引 用)
図10.4
クー リ ン グ ダ ウ ンの 強 度 と乳 酸 除 去 率 と の 関 係(青
木,1988よ
り引 用)
2) ス トレ ッチ ング 疲 労 が 蓄 積 して く る と筋 肉が 硬 直 して くる こ とは よ く経 験 す るで あ ろ う.い わ ゆ る 筋 肉 が は っ て い る状 態 で あ る.こ の 状 態 を放 置 して お くと筋 肉 が 短 縮 した り,関 節 の 可 動 域 が 制 限 され,ス
ポー ツ 傷 害 が 生 じや す くな る.こ の よ うな 筋 肉
の硬 直 状 態 を緩 和 す る の が ス トレ ッチ ン グ で あ る. ス トレ ッチ ン グ は,そ の動 きか ら静 的 ス トレ ッチ ン グ(ス タ テ ィ ッ クス トレ ッ チ ン グ:静 止状 態 で 筋 伸 張 を保 持 す る)と 動 的 ス トレ ッチ ン グ(バ
リス テ ィ ッ ク
ス トレ ッ チ ン グ:可 動 域 の 終 端 で 反 動 動 作 を く り返 す)に 分 類 され る.ま た パ ー トナ ー と と もに 実 施 す る場 合 に は パ ー トナー ス トレ ッチ ン グ とか コ ン ビ ネ ー シ ョ ン ス トレ ッ チ ン グな ど と呼 ぶ こ と もあ る. ス トレ ッ チ ン グ実 施 時 の 注 意 と して,ス
ポー ツ種 目 に よ り疲 労 しや す い部 位 が
異 な っ て くる こ とが あ げ られ よ う.投 動 作 の 多 い競 技 で は肩 関 節 周 辺 の 筋 群 が, ラ ンニ ン グや ジ ャ ン プ動 作 の 多 い ス ポ ー ツ で は下 肢 筋群 を 中心 に ス トレ ッチ ン グ をす る こ とに な るが,さ
らに 各 自 の ス ポ ー ツ種 目に お け る個 々 の 動 作 に つ い てバ
イ オ メ カ ニ クス 的 に よ く分 析 し,使 用 頻 度 の 高 い筋 肉 を理 解 す る こ と,着 目 した 筋 肉 の ス ポー ツ 動 作 時 に お け る特 性 や 筋 線 維 の 走 行 方 向,ま
たが る関 節 数 や,筋
付 着 部 位 な ど を よ く理 解 し,正 し い ス トレ ッチ ン グ を実 施 す る こ とが 重 要 で あ る.
また ス トレ ッチ ン グ実 施 時 の 呼 吸 法 も大 切 で あ る.筋 肉 に は伸 張 させ る と縮 も う とす る 「伸 張 反 射 」 が 備 わ って い る.し た が っ て無 理 に 筋 肉 を伸 張 させ れ ば, 伸 張 反 射 が お こ りス トレ ッチ ン グが 困 難 な 状 態 と な る.し か し,伸 張 時 に 息 を吐 く よ うに す る と伸 張 反 射 が抑 制 され,効 る(主
果 的 に 筋 肉 を ス トレ ッチ す る こ とが で き
な筋 群 の ス トレ ッチ ン グ方 法 は20章 参 照).
3) マ ッサ ー ジ マ ッ サ ー ジ は リラ ッ ク ス し た状 態 で 実 施 で き る ため に,選
手 か ら も大 変 好 評
で,場 合 に よ っ て は マ ッサー ジに 過 度 に 頼 る傾 向 も見 受 け られ る.と
くに 注 意 し
た い の は長 時 間 に わ た る マ ッサ ー ジ で,逆 に 痛 み が 残 っ て し ま う ケー ス が あ る. い わ ゆ る 「揉 み 返 し」 で あ る.翌
日の コ ンデ ィ シ ョン調 整 を考 え た場 合,あ
まり
気 持 ちが い い か ら と言 っ て,過 度 に な らな い よ う に注 意 すべ きで あ る. 4)寒
冷 療 法(ア
イ シ ン グ)
ス ポー ツ終 了 後 の 主 動 筋群 は,充 血 や 発 熱,腫 脹 が 見 られ る.放 置 して お く と 炎 症 が す す み,場 合 に よ って は ス ポー ツ 障 害 につ な が る こ と も あ る.こ の よ うな 場 合 に は寒 冷 刺 激 に よ り,炎 症 を取 り除 くこ とが 行 わ れ て い る.い わ ゆ る ア イ シ ン グで あ る. 寒 冷 刺 激 は皮 下 の 毛 細 血 管 を収 縮 させ,筋
組 織 の 血 流 量 を減 少 させ る.そ の 結
果 充 血 に よ る発 赤 をお さ え,発 熱 を抑 制 し腫 脹 を軽 減 させ るは た ら きが あ る.さ らに 寒 冷 刺 激 そ の もの が 痛 み を押 さ え るは た らき が あ り,ス ポー ツ終 了 後,と
く
に 酷使 した 筋群 に 対 し,ア イ シ ン グ を実 施 す る こ とが今 や 常 識 とな って い る. 寒 冷 刺 激 に期 待 され る も う ひ とつ の 効 果 と して,反 射 性 充 血 が あ る.こ れ は 寒 冷 刺 激 を取 り去 っ た後 に ア イ シ ン グ を した 部 位 に生 ず る血 管 反 応 で,低 温 部 位 の 温 度 上 昇 の た め,選 択 的 に ア イ シ ン グ部 位 に血 液 が循 環 す るの で あ る.血 行 が促 進 され る こ とに よ り,老 廃 物 や 疲 労 物 質 の 除 去 が速 や か に 行 われ,疲
労 回復 に 寄
与 す る もの と考 え られ る. ア イ シ ン グに 最 も利 用 され るの が 氷 で あ る.ビ ニ ー ル袋 な どに氷 を入 れ,規
則
正 し く並 べ る こ とに よ っ て 平 板 の よ うな ア イ シ ン グ袋 をつ くる.こ の と きビ ニ ー ル袋 内 の 空 気 を抜 く工 夫 をす る と,氷 が 溶 け に く く長 持 ち をす る.ま
た,少 量 の
食塩 を混 入 す る こ とに よ って 氷 の 温 度 を下 げ る こ と も可 能 で あ る が,こ
の よ うな
場 合,ア イ シ ン グ部 位 が 凍 傷 に な ちな い よ う注 意 しな くて は な らず,皮 膚 と ビニ ー ル との 間 に タ オル を巻 くな ど の工 夫 をす る.ゴ ム 製 の もの や ズ ッ ク製 の 氷 〓 も
市 販 され て お り,長
く使 用 す る こ と も考 え れ ば,市 販 品 を購 入す る の も便 利 で あ
る. ア イ シ ン グ の 時 間 は 約10∼20分 っ て判 断 す る方 が よ い.ア
が 適 当 で あ るが,時
4段 階 に 到 達 し た らア イ シ ン グ をや め,前 い
間 よ りも本 人 の 主 観 に よ
イ シ ン グ時 の 本 人 の 主 観 の 段 階 を表10 .1に 示 す.第 述 し た 反 射 性充 血 が 感 じ られ れ ば よ
.
この ほ か,化 学 合 成 され た蓄 冷 剤 を ビニ ー ル な どに 詰 め た ア イ スパ ッ ク も市販 され て お り,冷 蔵 庫 に 入 れ て お け ば何 度 で も使 用 で き便 利 で あ る.ま た,紙
コッ
プ な どに水 を入 れ て 氷 をつ く り,そ の 氷 を使 用 して 患 部 をマ ッサ ー ジす る方 法 も 寒 冷 効 果 だ け で な く,機 械 的 刺 激 効 果 が ね ら え る.い わ ゆ る ア イス マ ッサ ー ジ で あ る. 5)温
熱 療 法
寒冷 療 法 の と こ ろ で も述 べ た が,ス
ポー ツ 終 了後 の 主 動 筋 内 に は老 廃 物 や 疲 労
物 質 が 産 生 され て お り,疲 労 回 復 の ため に は これ らの物 質 を速 や か に 除去 す る必 要 が あ る.身 体 内 で の物 質 の媒 体 とな るの は 血 液 で あ り,し たが っ て 患部 の 血 行 を促 進 す る こ とが 疲 労 回復 の 早 道 と な る. 最 も一 般 的 な 方 法 は入 浴 で あ る.シ ャ ワー で は な く,浴 槽 に ゆ っ た り とつ か る こ とに よ っ て 気 分 も リラ ッ ク スで き る.入 浴 時 間 は20∼30分 く り と入 浴 し,ス
ほ どが よ く,ゆ っ
トレ ッチ ン グや セ ル フ マ ッサ ー ジ を 実 施 す る の も効 果 的 で あ
る.こ の と きの 湯 温 は,高 す ぎ る と発 汗 な ど を と も な い エ ネ ル ギー を消 耗 す るの で,体 温 よ り も若 干 高 め の,や や 低 い 温度 が 理 想 的 で あ る. サ ウナ 浴 も入 浴 と同様 の 効 果 が 期 待 で き るが,あ
ま り長 時 間 利 用 す る とや は り
エ ネ ル ギー の 消 耗 が 激 し く,逆 に疲 労 が 残 る こ と もあ る の で 注 意 を要 す る.最 近 で は低 温 サ ウ ナ も 多 く,ス ポー ツ選 手 の疲 労 回 復 に は効 果 が 期 待 で き よ う. 局 所 的 に鈍 痛 や 疲 労 感 を感 じる よ うな場 合 は ホ ッ トパ ッ ク を利 用 す る.就 寝 前 な ど に利 用 す る と効 果 が 高 く,効 果 は 表10.1
冷 却 に よ る感 覚 の 段 階
約20∼30分
ほ ど持 続 す る が,や
けど
に 注 意 す る必要 が あ る.
c.休
養
休 養 は 単 に ス ポー ツに よ る疲 労 回復
の た め だ け の 手 段 で は な く,疲 労 す る以 前 の水 準 以 上 に体 力や 心 理 状 態 を改 善 し (前述 の 超 回復),総
合 的 に 人 間 性 を回 復 ・向上 させ る ため の手 段 と言 え る.
休 養 を取 る こ とに よっ て 心 身 に種 々 の 効 果 が 現 れ る.生 理 学 的 に は 適 切 な栄 養 摂 取 と組 み 合 わ せ るこ とに よ りエ ネ ル ギー 源 の枯 渇 か ら 回復 した り,疲 労 物 質 の 除 去 な どの 効 果 が 期 待 で き る.ま た心 理 的 に は,不 安 や 怒 りの コン トロー ル,自 分 自 身 の正 確 な状 況 把 握 や 状 況 判 断,さ
ら に そ の 帰 結 と して ス トレス な ど の外 乱
に 対 す る コ ン トロー ル 能 力 も高 ま る.し
たが っ て休 養 を どの よ うに効 果 的 に とる
か が,休 養 に 引 き続 い て 実 施 す る運 動 や ス ポー ツ,労 働 作 業 の 出来 映 え に 大 き く 影 響 す る. 休 養 の 「 休 」 は文 字 通 り休 む こ とで あ るが,「 養 」 は,養 い 育 て る こ と を指 す. この よ うな 観 点 か ら休 養 をあ えて 分 類 す る と,① 消極 的 な休 養(な 体 を休 め る.睡 眠 が そ の 中心),② 息 す る),③ 保 養(余 す る),と
積 極 的 な 休 養(軽
に もせ ず に 身
運 動 をす る こ と に よ っ て休
暇 時 間 な ど を積 極 的 に 活 用 して 自分 の や りた い こ と を実 施
な ろ う.以 下 こ の3つ の 分 類 に した が っ て 効 果 的 な休 養 の 取 り方 に つ
い て 説 明 す る. 1) 消 極 的 な休 養(睡
眠)
消 極 的 休 養 の 代 表 的 な 方 法 は 睡 眠 で あ る.睡 眠 は そ の 長 さ と深 さ が 大 切 な要 素 で あ る.睡 眠 時 間 ば か りが 話 題 に な る が,実 際 に は 睡 眠 の 深 さが 関 係 して お り, さ らに 個 人差 も あ る. 実 際 の 睡 眠 は ま っ た く均 一 な も の で は な く,約1時 ム睡 眠(REM:rapid eye movement)と
eye
movement)と
間 半(90分)の
ノ ン レム 睡 眠(NREM:non
周期 で レ rapid
が 交 互 に規 則 的 に 出 現 す る(図10.5).
レム 睡 眠 時 の 脳 波 は覚 醒 時 に 類 似 し,大 脳 は活 発 に 活 動 して お り眼球 運 動 も盛 ん で あ るが,筋
肉 は 弛 緩 した状 態 に あ る の が 特 徴 で,睡 眠 全 体 の 約20∼25%を
占め る.一 般 に レム 睡 眠 は 睡 眠 深 度 が 深 く夢 を見 て い る こ とが 多 い.一 方 ノ ン レ ム 睡 眠 は 大 脳 が 活 動 を休 止 し た状 態 で は あ るが,筋
肉 に は 緊 張 感 が 残 存 して お
り,睡 眠 の深 度 も入 眠 直 後 は 深 くな る が,一 般 的 に は 浅 いの が 特 徴 で,睡 眠 全 体 の75∼80%を
占め て い る.
睡 眠 の 深 さ は,脳 波 パ ター ンか ら睡 眠 深 度 の 浅 い 第1段 階 か ら深 い 第4段 階 ま で分 類 さ れ る.い ず れ も ノ ン レム 睡 眠 で,第3,4段 眠 か らの 睡 眠 パ ター ン を 見 る と,最 初 の3∼4時
階 は 熟 睡 の状 態 で あ る.入
間 で は 第3∼4段
階 の 深 い睡 眠状
図10.5
態 が 現 れ るが,そ
ヒ トの 睡 眠 経 過 図
の 後 は浅 い ノ ン レム 睡 眠 と レム 睡 眠 に な る.す な わ ち睡 眠 時 間
の 進 行 と と も に順 次 睡 眠深 度 が浅 くな る こ とに な る(図10.5). 必 要 な 睡 眠 時 間 は か な りの個 体 差 が あ るが,7時 て い る.し か し4∼5時 この よ う な場 合,寝
間 半 が 平 均 的 睡 眠 時 間 と され
間 程 度 の短 い 睡 眠 時 間 で 日常 生 活 を営 む こ と も可 能 で,
つ きが 早 く,第3∼4段
階 の 深 い ノ ン レム 睡 眠 が 多 い と考 え
られ る.し た が っ て 質 の 良 い 眠 りは,単 に 睡 眠時 間 が 長 け れ ば よ い とい う こ とで は な く,深 い ノ ン レム 睡 眠 と レム 睡 眠 との 出現 パ ター ン を考 慮 す る必 要 が あ る. 質 の 良 い 睡 眠 の取 り方 と して は,睡 眠 が サ ー カ デ ィア ン リズ ム に 強 く影 響 を受 け て い るこ とか ら,ま ず 規 則 正 しい 時 刻 に 就 寝 す る習 慣 をつ け る こ とで あ る.コ ー ヒー な どの 覚 醒 作 用 の あ る 嗜 好 飲 料 は 食 事 な ど は 睡 眠 の2∼3時 よ うに した い.さ
間前 は控 え る
らに ス ポー ツ選 手 の場 合,夜 ふ か し をす る とサ ー カデ ィ ア ン リ
ズ ム に 影 響 す る の で慎 むべ き で あ る. 前 述 の よ う に,ノ
ン レ ム 睡 眠 と レ ム 睡 眠 が 約90分
か ら,睡 眠時 間 を90分
の倍 数(4∼5倍
の 周 期 で く り返 さ れ る こ と
が望 ま し い)に 設 定 す る こ と も一 つ の工
夫 で あ る.こ れ は 以 下 の 理 由 に よ る.す な わ ち,第3∼4段 らの 覚 醒 は,頭 が ぼ け た状 態 で 感 覚,運 動,認
階の ノンレム睡眠か
識 能 力 が低 下 し,逆 に レ ム睡 眠か
ち 目覚 め た場 合 に は 比 較 的 目覚 め が 良 く,熟 睡 し た とい う満 足 感 が 得 られ る.と くに レム 睡 眠 の終 期 に は覚 醒 へ 移 行 しや す い 状 態 に な っ て お り,レ ム 睡 眠 か ら ノ ン レム 睡 眠 へ の移 行 期 に 目覚 め る よ うに睡 眠 時 間 を設 定 す るの が よ い と考 え られ る. 2) 積 極 的 な休 養 運 動 直 後 の 軽 い有 酸 素 運 動 は 疲 労 回復 を 早 め るの に 効 果 が あ る.こ の 効 果 は運 動 後 だ け で は な く,一 般 的 な 疲 労 時 に お い て も,軽 い 全 身 運 動 や ス トレ ッチ(6 章,20章
参 照)を
実 施 す る こ とに よ っ て,筋
肉の緊張 や心 理面 での リフレ ッシ
ユ が期 待 で き る. 3)保
養
余 暇 時 間 を あ ら か じめ 設 定 す る こ と に よ っ て,他
の 運 動 や ス ポ ー ツ,趣 味 な
ど,日 頃 か ら積 極 的 に 実 施 した い と考 え て い る活 動 を実 施 す る こ とは,疲 労 回復 に お お い に効 果 が あ る.プ
ロ野 球 選 手 な どが,シ ー ズ ンオ フ に温 泉 な どに 出 か け
て オ ー バ ー ホ ー ル を実 施 す るの も,こ の保 養 の 例 で あ る.さ ら に動 植 物 との つ き あ い な ど,自 然 とふ れ あ う時 間 を積 極 的 に つ くる こ とに よ って,生 体 機 能 を強 化 した り,あ る い は 生 きが い の 創 出,自
己実 現 も可 能 とな る.
一 方,種 々 の イベ ン トや パ ー テ ィー な ど人 と人 との ふ れ あ い の場 に参 加 す る こ と も精 神 的 な リフ レ ッ シ ュ に効 果 が 期 待 で き るが,人 つ きあ いが 逆 に ス トレス と な る場 合 も あ る.参 加 し よ う とす る イベ ン トが どの よ うな種 類 の もの か あ らか じ め 考 慮 し行 動 す る よ うに した い. 4)休
養の環境 条件
休 養 を効 率 よ く と る ため に は,そ れ を取 り巻 く自然 環 境 や 快 適 な空 間 的 設備 的 条 件 を整 え る必 要 が あ る.最
も理 想 的 な条 件 と して は,豊
か で個 性 的 な 自然環 境
が あ り,ス ポー ツ活 動 が 必 要 に 応 じて 実 施 で き る施 設 が 完 備 され,静 寂 が 保 た れ か つ 温 度 も適 度 に調 節 で き る休 憩 室 や,シ
ャ ワー,浴
槽 な どの 洗 身 施 設,気 持 ち
よ く食 事 の で き る レス トラ ン な ど,日 常 生 活 空 間 そ の もの が 快適 な こ とで あ る. 〔 高 梨泰彦 〕
参考文 献 1)
ト レ ー ニ ン グ 科 学 研 究 会 編:コ
2) 黒 田 善 雄:ス 3) 特 集 10,ソ
ン デ ィ シ ョ ニ ン グ の 科 学,朝
ポ ー ツ の た め の セ ル フ ケ ア,文
「ウ ォ ー ミ ン グ ア ッ プ と クー リ ン グ ダ ウ ン 」,Japan
Jurnal
ニ ー 企 業,1988.
4) 武 藤 芳 照 他:ス
ポ ー ツ ト レ ー ナ ー マ ニ ュ ア ル,南
5) 矢 部 京 之 助:疲
労 と体 力 の 科 学,講
談 社,1986.
倉 書 店,1995.
光 堂,1996.
江 堂,1996.
of
Sports
Sciences
Vol.7No.
11 体 調を整えるための水分補給
11.1身 a.体
内の 水,そ
体 の 中 の 水―
体 液
の 分 布 と役 割
体 内 に あ る水 の こ とを体 液 とい い,健 康 な成 人 の 身体 で は,体 重 の約60%を 占め る.組 織 別 に み る と,筋 肉 に最 も 多 く約30%,次 る.身 体 の 水 分 率 に は,か
い で 皮 膚 に約13%存
な り男 女 の 違 いや 個 人差 が あ るが,こ
在す
れには体脂肪率
の 違 いが 関 係 す る.骨 を別 にす る と,身 体 の組 織 は そ の 重 さ の ほ ぼ70∼80%が 水 分 で あ るが,脂 肪 組 織 で は約10%と 脂 肪 の 多 い人 は,そ
少 な い.し
たが っ て,体 重 が 同 じで も体
うで な い 人 に 比 べ 水 分 率 は低 い.脂 肪 の重 さ を差 し引 い た徐
脂 肪 体 重(LBW,Lean
Body
Weight)あ
小 さ くな っ て,成 人 で そ の値 は約73.2%と
た りの 水 分 率 と して表 す と,個 人 差 は な る.
細 胞 の 中 に あ る体 液 を細 胞 内 液 とい い,そ れ 以 外 を細 胞外 液 とい う.細 胞 外 液 の ほ とん どは 細 胞 周 囲 の 間 質 液 と血 管 内 を 流 れ る血 漿 (血液 の 液 体 成 分)で る.体 重 の うち,細 胞 内液 が 約40%,間
質 液 が 約15%,血
漿 が 約5%を
あ
占め る.
水 は,細 胞膜 や 毛 細 血 管 壁 を通 って 入 れ替 わ りなが ら もこ の割 合 とな る. 生 命 活 動 に 必要 な化 学 反 応 の 大 部 分 は,細 胞 内 の水 溶 液(細 胞 内液)中 る.ま た,水 は 酸 素,二
で起 こ
酸 化 炭 素 や 栄 養 素 な ど 多 くの物 質 を運 ん だ り受 け 渡 し た
りす る。 ほ か に も汗 と して 皮 膚 表 面 に 出 て 熱 の 放 散 に 関 係 す る な ど,水 は 身 体 の 機 能 を保 つ た め に 不 可 欠 な 物 質 で あ る. 11.2体 a.身
液 の バ ラ ンス
体 へ の水 の 出 入 り と脱 水
健 康 な 成 人 の 身体 で は,水 (図11.1).尿
は 尿 と して 腎 か ら通 常1日
量 の最 低 限 度 は1日 約0.5lで,こ
に約1.5l排
泄 され る
れ は不 可避 尿 とい い代 謝 産 物 な
図11.1
体 液 の 出納
ど を排 泄 す る上 で最 低 限 必要 な 量 で あ る.皮 膚 や 呼 吸 気 道 か らは 水 が 蒸 発 す る. こ れ は 意 識 で き な い の で 不 感 蒸 散 と呼 ば れ,1日 便 に は 腸 管 で吸 収 され なか っ た水 が 約0.1l含 動 に よ り約0.3lつ
く られ,食 物 か ら約1l,残
に約0.9l失
わ れ る.ま た,糞
ま れ る.一 方,水
は体 内の代 謝活
りが 飲 料 水 と して 入 リバ ラ ン ス
が と られ る.し か し,こ れ らは 身 体 の 状 況 に よ りか な り左 右 され,た 出 る と余 分 に水 分 や 塩 分 が 失 わ れ,多
とえ ば 汗 が
量 に な る とそ の 分 補 給 も必 要 と な る.ま
た,消 化 管 に は消 化 液 な ど 多 量 の 水 分 や 塩 分 も分 泌 され る.通 常 ほ とん ど吸収 さ れ る が,嘔 吐 や 下 痢 な どが お き る と,そ れ らが 失 わ れ て 水 分 や 塩 分 の バ ラ ン ス を 崩 す も とに な る.体 液 が 何 ち か の 原 因 で通 常 よ り減 少 す る こ と を脱 水 とい う.
b.体
液 の バ ラ ンス を保 つ し くみ
スー プ な どの 味 や 量 を加 減 す る よ うに,体 液 の量 や 塩 分 の 濃 度 も調 節 され る. 味 見 して くれ るの が 浸 透 圧 受 容 器 で,主 に 脳 の 視 床 下 部 な ど に あ り,体 液 の浸 透 圧 の 変 化 に 反 応 す る(図11.2).体
液 調 節 の 中 枢 もそ の 近 傍 に あ る とい わ れ,浸
透 圧 容 器 か ち浸透 圧 が 上 昇 し た(体 液 が 濃 くな っ た)こ の 渇 き を感 じさせ て 飲 水 行 動 を起 こ させ,同 時 にADH(抗 垂 体 後 葉 か ら血 液 中 に分 泌 す る.ADHは
とが伝 え られ る と,の
ど
利 尿 ホ ル モ ン)を 下
血 液 で運 ば れ て 腎 に 達 し,尿 をつ くる
図11.2
体 液 の調 節(朝
山正 巳他:イ
ラ ス ト運 動 生 理 学1),p.89よ
り改変)
過 程 で 水 の再 吸 収 を促 して,身 体 の 水 分 を節 約 す る(濃 い 少 量 の 尿 に な る).逆 に水 分 を摂 りす ぎ た り して体 液 の 浸透 圧 が 下 が る(体 液 が 薄 くな る)と,ADH を減 ら して 逆 の 反 応 をお こす.ま
た,脱 水 な どで 循 環 して い る 血液 の 量 が 減 っ た
り,逆 に 増 え た りす る と,レ ニ ン ・ア ン ギ オ テ ン シ ン ・ア ル ドス テ ロ ン系 や 低 圧 系 受 容 器(心
房 の 容 積 受 容 器 な ど)の 働 き で,尿 の 量 や 塩 分 濃 度 を変 え て体 液 を
保 持 し よ う とす る. 11.3発 a.発
汗―
汗 と 脱水
熱 を放散 す るため に体 液 を犠牲 に
汗 は 汗 腺 で体 液 を も とに つ くられ る.汗 の 原 液 は体 液 とほ ぼ 同 じ組 成 で,汗 腺 の 導 管 を通 っ て 皮 膚 表 面 に 出 る.そ の 間 に塩 分 が 再 吸 収 され 薄 め られ る.貴 重 な 体 液 を使 っ て 身体 の 熱 を放 散 して い る わ け で あ る. 発 汗 に は温 熱 性 発 汗 と精 神 性 発 汗 が あ り,前 者 が 体 温調 節 に関 係 す る.中 枢 は 脳 の視 床 下 部 に あ り,体 温 が上 が る と分 泌 さ れ る.皮 膚 表 面 か ら1gの
水が蒸 発
す る と約0.585kcalの
熱 を奪 う.100gの
蒸 発 で は体 重70kgの
人 の体 温 を約1°
C下 げ る.気 温 の 高 い場 合 や,運 動 な ど で 身体 の 熱 産 生 が 高 まっ た と きに は 熱 放 散 の 主 役 とな る.し か し,湿 度 が 高 い場 合 に は水 は蒸 発 しに くい.汗 が 出 て も, した た り落 ちた り,ふ き と られ る と熱 放 散 の 役 割 を果 た さ な い.蒸 発 せ ず,熱
を
奪 わ なか っ た 汗 を無 効 発 汗,蒸 発 して熱 を奪 っ た汗 を有 効 発 汗 とい う.汗 は 熱放 散 の ため に体 液 を犠 牲 に して い るの で,無 効 発 汗 は そ の 無 駄 遣 い とい え る.剣 道 や ア メ リカ ン フ ッ トボ ー ル な ど,防 具 類 や 厚 い衣 類 を ま と って 行 う運 動 で は 無効 発 汗 も増 え,体 温 上 昇 度 も大 き い.定 期 的 に休 憩 を と り,軽 装 に な っ て熱 放 散 を 促 進 す る 必 要 も あ る.ま た,逆 に 有 効 発 汗 は 目 に見 え ず,汗
を た くさん か い た 自
覚 に 欠 け る.山 歩 き な ど運 動 の 強 さ は さ ほ どで な くて も,長 時 間 に わ た る と想像 以 上 に体 液 を失 っ て い る こ とが あ る.気 圧 の 低 い 高 地 に 行 く と,と
くに 初 期 に
は,呼 吸 が促 進 され る た め不 感蒸 散 が 増 え,尿 量 も増 え る(高 地 利 尿)た
め脱 水
状 態 に な りや す い とい わ れ る. 汗 の 量 は,多
い 時 に は1時
の 人 の 血 漿 量(体 重 の約5%)と
間 で2lを
超 え る.2時
間 も続 け る と,体 重80kg
同 等 に な っ て し ま う.失 っ た分 は各 体 液 区 分 か
ら水 が 移 動 して 補 わ れ,一 応 細 胞 内 外 で体 液 の バ ラ ン ス は と られ る.し か し,総 量 は 減 り,成 分 は濃 縮 さ れ て い て 脱 水 状 態 とな っ て い る.脱 水 量 が 体 重 の3%を 超 え る と循 環 機 能 や 運 動 能 力 は低 下 す る とい わ れ る.ま た,体 温 が 上 が っ て も汗 が 出 に く くな る な ど熱 放 散 能 力 も低 下 して,限 界 を超 え る と危 険 な状 態 に 陥 る.
b.塩
分の損失
多 量 に発 汗 す る と塩 分 損 失 も増 え る.汗 中 の塩 分 濃 度 に は か な り個 人 差 が あ る が,Na+の
平 均 濃 度 で 約0.2∼0.4%と
が る た め,汗
が 多 い ほ ど塩 分 も失 い や す い.2lの
とな る.日 本 人 の 塩 分 所 要 量 が10g/日 3∼5g/日
い わ れ る.発 汗 量 が 増 え る ほ ど濃 度 も上
以 下,高
汗 をか く と4∼8gの
塩 分損失
血 圧 予 防 に 有 効 と い わ れ る量 が
程 度 とい う 目安 か ちす る と,こ の 汗 に よ る損 失 量 は 軽 視 で きな い.さ
ち に,多 量 発 汗 の 際 に水 だ け を補 給 す る と体 液 が 薄 め られ,熱
け い れ ん(表11.
1)を お こす な ど身 体 の 不 調 に 陥 る こ とが あ る.夏 場 や 梅 雨 時,と に運 動 す る場 合,体
くに そ の 時 期
温 は上 昇 しや す く発 汗 量 も 多 くな り,熱 中 症 も増 え る.普 段
か ち 汗 をか き慣 れ て い る(暑 熱 順 化 して い る)と 汗 が 出や す くな り,塩 分 も導 管 で よ く再 吸 収 され て 少 な い損 失 で す む.最 近 は冷 房 の普 及 で屋 内 で は 夏 で も涼 し
表11.1
く過 ごせ る が,暑
熱 中症 の 病 型 とお も な症 状3)
さ に慣 れ て い な い と,急 に暑 くな っ た り暑 い 中 で 運 動 した場 合
に,汗 が 出 に く く体 温 が 上 が りや す い.ま
た,汗 が 少 な い割 に余 分 に塩 分 を失 い
や す い.運 動 な ど を習 慣 づ け,普 段 か ら暑 さ に慣 れ て お くこ と も大 切 で あ る. 脱 水 後 に水 を飲 み た い だ け 飲 ん で も,そ の 量 は 失 っ た水 の 量 に 達 しな い.こ の 現 象 を 自発 脱 水 と い う.ス ポ ー ツ 飲 料 の よ うに 電解 質 な ど を含 ん で 多少 浸 透 圧 の 高 い液 体 を飲 む と,自 発 脱 水 の程 度 は 小 さ くな る こ と か ら,失
っ た水 分 と塩 分
は 、 両 者 のバ ラ ン ス を と りな が ら回 復 さ れ る と考 え られ る.完 全 に 戻 る に は 時 間 が か か り,塩 分 の 回 復 に は 食事 の 役 割 が 重 要 で あ る. また,1lの 汗 の 中 に1∼2mgの 鉄 分 が 含 ま れ る.毎 日多 量 に 発 汗 す るア ス リ ー トな ど で は,鉄 分 の 不 足 か ら貧 血 に な りや す い.食 事 を工 夫 した り,そ れ で も 不 足 す る と きに は,補 助 食 品 に よ 表11.2
ス ポー ツ活 動 中 の 熱 中症 予 防8ヶ (財 団 法 人 日本 体 育 協 会)
条
る鉄 分 の 適 切 な 補 給 が 必 要 と な る.
c.こ
わ い熱 中症 と その 予 防
熱 中 症 は,表11.1の
よ うに分
類 され る.な か で も熱 射 病 は生 命 に関 わ る.熱 射 病 が 疑 われ る際 に
は,た
だ ち に 身体 を冷 却 し,集 中治 療 が 可 能 な 設 備 の整 っ た病 院 に 運 び 適 切 な処
置 を受 け る必 要 が あ る.熱 中症 の予 防 に は,温 度 や 湿度,直
射 日光 な ど環 境 条 件
に 注 意 を払 う こ と,薄 着 に な っ た り帽 子 をか ぶ る な ど服 装 に 工 夫 す る こ と,ス ポ ー ツ な ど を行 う際 に は 日陰 な どで適 度 な休 憩 を挾 む こ と な どの 配 慮 が 必 要 で あ る (表11.2).水
分 や 塩 分 の 適 切 な補 給 は 必 須 で,十 分 に 準 備 して お く.ス ポ ー ツ
イベ ン トや 山 歩 き,風
呂,サ ウナ,暑
い 中 で の 作 業 な ど温 湿 度 が 高 い 環 境 条 件 で
あ っ た り,運 動 や 作 業 の 強 度 が 高 か っ た り,時 間が 長 か っ た りす る場 合 に は熱 中 症 が 起 こ る危 険 性 は 増 え る. 脱 水 の状 態 を把 握 す るた め に は,体 重 を定 期 的 に 計 る と よ い.30分 ジ ョギ ン グ で も体 脂 肪 量 の 減 少 は せ いぜ い十 数 ∼数 十gで,体
間程 度 の
重減 少 はほ とん
ど脱 水 に よ る.運 動 の 後 体 重 が 減 り,や せ た(脂 肪 量 が 減 っ た)と 勘 違 い し,安 心 して 食 べ 過 ぎ た り,逆 に そ の 体 重 を保 と う と食 事 や 水 を絶 つ の は好 ま し くな い.サ
ウナ ス ー ツ な ど を着 て 運 動 す るこ と も,見 た 目に は発 汗 が 多 く,つ らい の
を我 慢 した分 やせ られ そ う な気 が す る が,単 に 脱 水 を助 長 す る だ け で や せ る こ と に は まず 役 立 た な い.む
し ろ汗 が ほ とん ど蒸 発 せ ず 無効 発 汗 とな るた め,よ
けい
な体 温 上 昇 を招 き熱 中 症 に 陥 る危 険 す らあ る.ま た苦 し いの で長 続 き しな い.薄 着 で 運 動 した 方 が 脱 水 の 程 度 も軽 く,楽 に 消 費 エ ネ ル ギー 量 も増 や せ,三
日坊 主
に も な りに くい の でや せ る こ とに も役 立 つ. 11.4 水 分 補 給 の こ つ a.水
分 補 給 の た め の 飲 み物
水 分 は,水 道 水,ミ
ネ ラル ウ ォー ター,清 涼 飲 料 水(ジ
ュー ス 類,ス
ポー ツ飲
料 な ど),茶 類 な どの 飲 み 物 で と る.エ ネ ル ギー 含 有 量 は0∼70kcal/100ml程 度 で,糖 質 な どの 含 有 量 に 左 右 さ れ る.果 汁,ジ
ュー ス類 は エ ネ ル ギー 含 有 量 が
高 い 物 が 多 い.茶 類 な どに は,カ フ ェ イ ン が 含 ま れ,交 感 神 経 の促 進 作 用 や 利 尿 作 用 な ど を もつ. 水 分 や 栄 養 補 給 の た め に と市 販 さ れ て い る清 涼 飲 料 水 は,ス ポ ー ツ飲 料 や,薄 味 に した りエ ネ ル ギ ー 含 有 量 を低 くした ダ イエ ッ ト飲 料 や,ニ
ア ウ ォー ター と呼
ば れ る もの な ど さ ま ざ ま で あ る.こ れ らに は 甘 味 を付 け る た め に ブ ドウ糖(グ コー ス),シ 出物(南
ョ糖,果
糖(フ
ラ ク トー ス)や オ リゴ糖 な どの 糖 質 や,ス
米 原産 ス テ ビア の 葉 か ら抽 出 した 天 然 甘 味料,砂
糖 の約300倍
ル
テ ビア抽 の甘 味 を
もつ),ア
ス パ ル テー ム(α-L-ア
ル,人 工 甘 味料,砂
糖 の 約200倍
い る.後 者 の 食 品 添 加 物 は,甘
ス パ チ ル-L-フ の 甘 味 を もつ)な
ェ ニ ル ア ラニ ン メ チ ル エ ス テ ど の食 品 添加 物 が 加 え られ て
さの 割 に 量 が 少 な くて す む た め 飲 料 の エ ネ ル ギー
含 有 量 を抑 え るの に 用 い られ る.シ
ョ糖 や ブ ドウ糖 な どの摂 取 は,血
中へ の イ ン
ス リン分 泌 を増 や し,脂 肪 の分 解 や 代 謝 を抑制 す る.こ れ に よ り,身 体 活 動 の エ ネ ル ギー 源 と して は 脂 肪 よ り糖 質 が 主 に使 わ れ る よ うに な り,持 久 的 な競 技 の 前 に飲 む と不 利 とな る と もい わ れ る.ス テ ビア抽 出 物 や ア スパ ル テ ー ム な どで は こ れ は あ ま り起 こ ら ない.果 糖 で も起 こ らな い と い われ るが,吸 収 後 に肝 臓 で グル コー ス に 変 え られ エ ネ ル ギー 源 とな る.ま た,ビ 謝 に 関 連 す る ビ タ ミン 類,抗
タ ミンB1や ナ イ ア シ ン な ど代
酸 化 作 用 を もつ ビ タ ミンCやE,タ
ン パ ク合 成 の
材 料 と な る各 種 の ア ミノ酸 な ど を加 え て,運 動 時 や 運 動 後 の栄 養 摂 取 の効 果 に期 待 す る な ど,飲 料 も 多様 化 して い る.し か し効 果 の 実 証 が こ れ か らの もの もあ る.
b。 何 を飲 むか 日常,脱 水 状 態 で な く栄 養 摂 取 も十 分 で あ れ ば,通 常 の 飲 み 物 を飲 む場 合,そ の種 類 や 飲 み 方 に さほ ど注 意 を払 う必 要 は な い.自 発 脱 水 も関 連 す る ため,の
ど
が 渇 け ば そ の 渇 きが お さ ま る程 度 飲 ん で も水分 の 摂 り過 ぎに は な りに くい.し か し,味 覚 の 良 い 物,冷 た,乾
た く 口 あ た りの 良 い 物 な どは 飲 み 過 ぎ る こ と も あ る.ま
い た物 を食 べ て い る と きや 塩 分 を多 く摂 っ た場 合 に は,の
どの 渇 きが 強 く
な る.ジ ュ ー ス な どの 清 涼 飲 料 水 は エ ネ ル ギー 含 有 量 が 高 い もの も多 く,飲 み 過 ぎ る と摂 取 エ ネ ル ギー が 過 剰 とな り,知 らず知 ちず の うち体 脂 肪 が 増 え て 肥 満 と な る こ と もあ る.栄 養 は 食事 を中 心 に摂 取 す る こ とが望 ま し く,飲 料 の エ ネ ル ギ ー 含 有 量 や 成分 を確 か め る な ど して ,バ
ラ ン ス の よ い水 分 補 給 を心 が け る.
運 動 中や 運動 後,長 時 間 の 入 浴 後 な ど脱 水 量 が 多 い場 合 に は,水 分 や 塩 分 も 多 め に とる 必要 が あ る.し か し,そ れ を ジ ュ ー ス な どの 清 涼 飲 料 水 で補 う と,や は りエ ネ ル ギ ー の 摂 取 過 剰 とな りや す い.夏 場 の 身体 トレー ニ ン グ な ど多 量 の 発 汗 を毎 日続 け る よ う な状 況 で慢 性 的 な脱 水 や 熱 中症 を 防 ぐた め に は,水 道 水,ミ ラル ウ ォ ー ター や 低 カ ロ リー の 飲 み 物1lに 0.2%程
ネ
対 し,ひ とつ ま み ほ ど 食 塩 を加 え て
度 の 濃 度 に して飲 む と,エ ネ ル ギ ー 摂 取 量 を抑 え な が ら,水 分 や 塩分 の
補 給 が しや す い と い われ る.高 カ ロ リー の ス ポー ツ飲 料 は 水 で うす め,同
じよ う
に 食 塩 を少 し加 え て 飲 む.マ
ラ ソ ンや トライ ア ス ロ ン な ど長 時 間 の競 技 や,そ
の
際 ラス トスパ ー トな ど運 動 強 度 を上 げ る必要 の あ る場 合 に は,運 動 中 に糖 質 の入 っ た もの を摂 取 す るの が 効 果 的 と もい わ れ る.い ず れ に して も運 動 の 時 間,強
さ
や 環 境 条 件 な ど を十 分 考 慮 し,何 を補 給 す るの か(水 や 塩 分 か エ ネ ル ギ ー か)を 明確 に し て,飲 料 の 種 類,量
や タ イ ミン グ を決 め る必 要 が あ る.
c.運
の くら い飲 む か
動 す る時,い
つ,ど
運 動 時 の 水 分 摂 取 は 自由 で よ いが,一 度 に 多 量 の 摂 取 は避 け る.気 温 や 湿 度 が 高 い な ど,前
もっ て 多 量 発 汗 が 予 想 され る場 合 に は,15∼30分
が 生 じな い 範 囲 で,あ
前 に 胃に膨 満感
る い は数 回 に分 け て あ らか じめ500ml程
効 果 が あ る とい わ れ る.運 動 中 に は,15∼20分
度飲 ん でお くと
お きに100∼400ml飲
む.ア
ス
リー トは と くに競 技 や 日常 の練 習 中,計 画 的 に 休 憩 を と り飲 水 を心 が け,体 重 の 2%を
こ え る脱 水 を起 こ さ な い よ う にす る.マ
ラ ソ ンの レー ス 中 な ど,休 憩 が と
りに くい場 合 に は 一 層 の 配 慮 が 必 要 とな る.ま た,競 泳 の 練 習 中 な どは 思 い の外 脱 水 状 態 に な りや す い と もい わ れ る.水 中 で 行 う運 動 で も,水 温 や 運 動 強 度 に よ っ て は 注 意 を要 し,プ ー ル サ イ ドに は飲 み 物 を置 い て適 時 飲 む よ うに す る.運 動 中 は 水 分 が 不 足 が ち で あ る こ とが 多 い の で,足 う.血 糖 値 が 下 が っ て い る よ う な場 合,そ
りな い 時 に は 運 動 後 に適 切 に 補
の 回 復 の た め に 飲 む 場 合 に は低 カ ロ リ
ー の ダ イエ ッ ト飲 料 は 不 向 きで ,食 事 との バ ラ ン ス も考 え な が ら糖 質 が 入 っ て い る物 を飲 用 す る ほ うが 良 い.
〔 大西 範和 〕
参考文 献 1) 朝 山正 巳他 編 著:イ
ラ ス ト運 動 生 理 学,東
2) 小 川 徳 雄:汗
の 常 識 ・非 常 識
3) 川 原
本 武 利 編:ス
貴,森
4) 特 集 機 能 多様 化 を探 る!夏 ルNo.238,p.12∼29,ブ 5) 鈴 木 正 成:ス
7) 谷 村 顕 雄 監 修,日 館,1996.
談 社,1998.
ポ ー ツ 活 動 中の 熱 中症 予 防 ガ イ ドブ ッ ク,日 本体 育 協 会,1994. の 水 情 報 −進 化 す る ミネ ラ ル ウ ォ ー ター,月 ッ クハ ウ スHD,1999.
ポー ツ の栄 養 ・食 事 学,同
6) 五 島 雄 一 郎 監 修,日
京 教 学 社,1995.
汗 をか いて もや せ ら れ な い!,講
本 医 師会 編:食
刊 トレー ニ ン グ ジ ャー ナ
文 書 院,1986.
事 指 導 のABC,日
本 食 品 添 加 物 協 会 編:新
訂 版=よ
本 醫 事 新 報 社,1991. くわ か る暮 ら しの な か の 食 品 添 加 物,光
生
12 オ ー バ ー トレー ニ ング の予 防
12.1オ
ー バ ー トレ ー ニ ング とは
ス ポ ー ツ 競 技 の パ フ ォ ー マ ン ス 向 上 に は,そ ト レ ー ニ ン グ の 実 践 が 必 須 で あ る.し る あ ま り に,そ
て,容
か し な が ら,選
の 負 荷 や 頻 度 の 過 大 な 設 定 に よ っ て,過
ォ ー マ ン ス の 低 下 や,と ー ニ ン グ とは
れ ぞ れ の 種 目の特 異 性 を考 慮 した
,過
手 が トレー ニ ン グ に没 頭 す 度 に 疲 労 が 蓄 積 し,パ
き に は スポ ー ツ 障 害 が 生 じ る こ と も あ る.オ
剰 な ト レ ー ニ ン グ 負 荷 に よ っ て,運
易 に 回 復 し な くな る 状 態 で,一
フ
ー バ ー トレ
動 能 力や 競 技 成 績 が 低 下 し
種 の 慢 性 疲 労 で あ り,加
え て トレ ー ニ ン グ
負 荷 と回 復 の ア ン バ ラ ン ス に よ っ て 生 じ る 適 応 不 完 全 状 態 と も定 義 さ れ て い る4).パ
フ ォ ー マ ン ス を 向 上 さ せ よ う と す る 努 力 に ま っ た く効 果 が 現 れ ず,さ
に ス ポ ー ツ 障 害 ま で ひ き お こ し て し ま っ て は,ス 本 意 な こ と は な い.さ
ポ ー ツ選 手 に と って こん な に不
ら に こ の オ ー バ ー ト レ ー ニ ン グ は,ス
の み 出 現 す る 問 題 だ け で は な く,一
般 の 青 少 年,中
ら
ポー ツ選 手 に関 して
高 年 者 が 健 康 維 持 の た め,ま
た は 体 型・ ス タ イ ル ・身 体 組 成 の 調 整 の た め に 行 う 運 動 の 際 に も 十 分 に お こ り う る こ と で あ る.こ
こ で は,オ
ー バ ー ト レ ー ニ ン グ に つ い て の 発 生 要 因 を ま とめ,
そ の 予 防 対 策 を 明 ら か に し た い.
12.2オ
ー バ ー トレー ニ ング 発 生 の 要 因
オ ー バ ー トレー ニ ン グが 発 生 す る背 景 に は,身 体 的,精 神 的疲 労 を蓄 積 させ る 原 因 が 存 在 し,そ れ が 何 らか の 理 由 で 過 度 に 蓄 積 さ れ た こ とが 考 え ら れ る. オー バ ー トレー ニ ン グが 発 生 す る原 因 と して は以 下 の7項 (1)大
きす ぎ る トレー ニ ン グ負荷
(2)急
激 な トレー ニ ン グ負荷 の 増 大
(3)過
密 な 試合 ス ケ ジ ュー ル
目が あ げ られ る4).
(4) 不 十 分 な休 養,睡
眠不 足
(5) 栄 養 の 不 足 (6) 仕 事,勉
強,日 常 生 活 で の過 剰 な ス トレ ス
(7) 風 邪 な ど病 気 の 回復 期 の不 適 切 な トレー ニ ン グ 上 記 を ま とめ る と,オ ー バ ー トレー ニ ン グは,ト
レー ニ ン グ 負荷 が 大 きす ぎた
り,ト レー ニ ン グ頻 度 が 多 す ぎ た りす る こ とで 発 生 しや す い と考 え られ る.さ に 身体 的,ま
ら
た は 精 神 的 な コ ンデ ィ シ ョ ンが 低 下 して い る と きに は,通 常 行 っ て
い る よ り も低 い トレー ニ ン グ強 度 で も発 生 す る可 能 性 が あ る こ とが わ か る. こ れ ら の こ とか ら,オ ー バ ー トレー ニ ン グの 予 防 の た め に は,個 人個 人 が そ れ ぞ れ の コ ン デ ィ シ ョン を正 確 に把 握 す る手 法 を 身 に つ け る と と もに,ト グ の 強 度(負 荷,時 る 必要 が あ る.ま
レー ニ ン
間,頻 度 な ど)の 決 定 を どの よ うに 行 うべ きで あ るか 理 解 す た コ ンデ ィ シ ョン に は,ト
レー ニ ン グ強 度 の設 定 以 外 に 栄 養 管
理 な ど も重 要 で あ る.こ の 章 で は,オ ー バ ー トレー ニ ン グ の予 防 と して,主
にコ
ン デ ィ シ ョン の 把 握 と トレー ニ ン グ 強度 の 設 定 につ い て ま とめ る こ と と し,栄 養 摂 取 な ど の情 報 は 他 の章 を参 照 い た だ きた い. 12.3オ a.コ
ン デ ィ シ ョ ン と コ ン デ ィ シ ョニ ン グ
普 段 私 た ち は,コ が,そ
ー バ ー トレー ニ ング の 予 防
ン デ ィ シ ョ ン,コ
ン デ ィ シ ョ ニ ン グ と い う 言 葉 を よ く用 い る
の 定 義 を 明 確 に 確 認 し て お か な け れ ば な ら な い.ト
デ ィ シ ョ ン と コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ の 定 義 と し て は,以 る12).す
な わ ち,コ
ン デ ィ シ ョ ン は,ピ
レー ナ ー か ら見 た コ ン
下 の よ う に ま とめ ら れ て い
ー クパ フ ォ ー マ ン ス の 発 揮 に 必 要 な す べ
て の 要 因 で あ り,コ
ン デ ィ シ ョニ ン グ は,ピ
ー クパ フ ォ ー マ ン ス の 発 揮 に 必 要 な
す べ て の 要 因 を,あ
る 目 的 に 向 か っ て 望 ま し い 状 態 に 整 え る こ と,ま
た は,競
技
ス ポ ー ツ に お い て 設 定 し た 目 標 を 達 成 す る た め の す べ て の 準 備 プ ロ セ ス で あ る. ス ポ ー ツ 選 手 に と っ て は,コ 実 行 さ れ て い れ ば,高
ン デ ィ シ ョ ン の 把 握 と 適 切 な コ ン デ ィ シ ョニ ン グ が
い 競 技 パ フ ォ ー マ ン ス を 得 る こ と が で き,同
ト レ ー ニ ン グ の 予 防 に も役 立 つ こ と に な る.ま に と っ て も,コ
た と くに ス ポ ー ツ選 手 で な い個 人
ン デ ィ シ ョ ン の 把 握 は 自分 の 健 康 状 態 を チ ェ ッ クす る こ と に な り
健 康 に 関 す る 知 識 が 高 ま る で あ ろ う.試 わ せ て,身
時 に オー バ ー
体 的,精
験 や 旅 行 な ど 自分 に と っ て 重 要 な 日 に あ
神 的 な コ ン デ ィ シ ョ ン を ピー ク に も っ て い く こ と で,よ
り充
実 し て 目 的 を 達 成 す る こ とが で き る.
b.コ
ンデ ィシ ョン把 握 の 手 法
コ ン デ ィ シ ョ ン を把 握 す る方 法 は,今 中 か ら,種
ま で に も 多 く報 告 さ れ て お り,そ
れ らの
目 特 性 や 個 人 の 環 境 条 件 に 適 し た 方 法 を選 択 す る こ と が 望 ま し い.コ
ン デ ィ シ ョ ン の 把 握 は,主
観 的 意 見 に よ る コ ン デ ィ シ ョ ン と客 観 的 測 定 に よ る コ
ン デ ィ シ ョ ン に 分 け ち れ る.可
能 な 限 り,主
観 的 意 見 に よ る コ ン デ ィ シ ョ ン,客
観 的 測 定 に よ る コ ン デ ィ シ ョ ン の 両 方 を 活 用 し て,多
角 的 に把 握 す る こ とが理 想
的 で あ る.
c.主
観 的 意 見 に よ る コ ンデ ィ シ ョン把 握
主 観 的 意 見 に よ り コ ン デ ィ シ ョ ン を把 握 す る 方 法 は,自 方 法 が 多 く,全 無,筋
RPEは
身 疲 労,食 欲,睡 眠 の 質,頭 痛 の 有 無,立 ち く ら み の 有 無,下 痢 の 有
肉 痛 の 有 無 な ど を 選 手 に 直 接 聞 い て い る.こ
of perceived
覚 症 状 を問 診 に て 聞 く
exertion),POMS(profile
of mood
れ 以 外 に は,RPE(rating
status)な
ど が 多 用 さ れ て い る.
現 在 の 運 動 強 度 を 主 観 的 に 判 断 す る 指 標 で あ る(図12.1).RPEに
て 回 答 し た 数 字 を10倍 る11).こ
のRPEは
る の で,ス
の 時 の 心 拍 数 に 近 い 値 に な る と考 え ら れ て い
自分 の 主観 的 コ ンデ ィ シ ョン を簡 易 に 定 量 化 す る こ とが で き
ポ ー ツ 活 動 中 や 日常 生 活 に お い て も有 用 性 が 高 い.
一 方POMSテ
ス トは,コ
答 す る こ と で,そ 性(VIG),疲
ン デ ィ シ ョ ン に 関 す る65項
の 時 の,緊
労(FAT),と
定 で あ る.POMSの 信 頼 性,妥
す る と,そ
張(TEN),抑
り(ANG),活
動
目 の 状 態 が わ か る と い う測
者 らは,社
な る の が 一 般 的 で あ る が,コ
の5項
目 の 得 点 が 低 い 山 の 形(ア
ン デ ィ シ ョ ン に 関 す る 何 らか の 問
ス トの 結 果 は 著 し く変 化 す る こ と が わ か っ て い る.
季 ト レ ー ニ ン グ キ ャ ン プ 時 の 中 盤 で のPOMS結
活 動 性 の 得 点 が 低 下 し,疲
合 に 至 る まで の コ ン
ン デ ィ シ ョ ン が 良 い と考 え ら れ る 場 合 は,
よ う に 活 動 性 の 得 点 だ け が 高 く,他
題 を 抱 え る 場 合,POMSテ
会 人 野球 選 手 の コ ン デ ィ シ ョン
宿 鍛 錬 期 は も ち ろ ん,試
デ ィ シ ョ ン調 整 に 活 用 し て い る7).コ
図12.3は,冬
階 で 回
結 果 は 血 液 検 査 な ど の 客 観 的 な 測 定 結 果 と の 関 連 が 深 く,
多 用 し て お り,合
イ ス バ ー グ型)に
目 の 質 問 に5段
う つ(DEP),怒
ま ど い(CON)の6項
当 性 が 確 認 さ れ て い る.筆
把 握 にPOMSを
図12.2の
お い
労 の 得 点 が 高 くな っ て い る.す
果 の 一 例 で あ る. な わ ち,主
観 的 に疲 労
感 を 感 じ て い る こ と が わ か る.ト わ た り,図12.3の は,通
レ ー ニ ン グ キ ャ ン プ な ど で は,中
よ う な 結 果 を 示 す 選 手 が 多 く な る の が 一 般 的 で あ る.図12.4
常 練 習 時 のPOMS結
果 の 一 例 で あ る.抑
うつ や 怒 り な ど の 得 点 が 高 く,
ア イ ス バ ー グ 型 と 異 な っ た 結 果 と な っ た た め に,選 た と こ ろ,ス
手 との カ ウ ン セ リン グ を行 っ
ポ ー ツ 障 害 を も っ て い る こ とが 明 らか と な っ た.独
グ に お い て,オ
盤 か ら後 半 に
ー バ ー トレ ー ニ ン グ が 生 じ た 可 能 性 が 高 く,し
儀 な く さ れ る こ と と な っ た.ま
た,ベ
自の トレー ニ ン ば ら くの 休 養 を 余
テ ラ ン 選 手 と新 入 選 手 で は,ト
期 の コ ン デ ィ シ ョ ン 調 整 に も 差 が 現 れ,図12.5の
レー ニ ン グ
よ う に ベ テ ラ ン選 手 の コ ン デ
ィ シ ョ ン が 安 定 し て い る に も か か わ ら ず,図12.6の
新 人 選 手 の コ ンデ ィ シ ョン
は ば ら つ き が 大 き い こ と が わ か る. こ れ ら の よ う に,主 く.オ
観 的 コ ン デ ィ シ ョ ン は,状
ー バ ー ト レ ー ニ ン グ の 予 防 に は,よ
要 が あ り,そ
の た め に は,質
況 に よ っ て 大 き く変 化 し て い
り頻 繁 に コ ン デ ィ シ ョ ン 測 定 を す る 必
問紙 に よ る主観 的 コ ンデ ィ シ ョ ン の測 定 も有 効 な手
法 で あ る と考 え ら れ る.
d.客
観 的 測 定 に よ る コ ンデ ィ シ ョン把 握
客 観 的 に コ ン デ ィ シ ョ ン を 測 定 す る 方 法 は,と
くに 疲 労 状 態 を 確 認 す る こ と を
目 的 と し た 測 定 法 と し て 多 く報 告 さ れ て い る.こ
れ ら は 血 液,尿,な
測 る 生 化 学 的 測 定2,8,10)のほ か,代
謝,筋
力,全
身 反 応 時 間,ス
どの 成分 を
ポー ツ ビジ ョン
能 力 な ど の 生 理 学 的 測 定1,2,6,8),ま た ス ポ ー ツ 現 場 や 身 近 な 環 境 で も 簡 単 な パ フ ォ ー マ ン ス テ ス トを 継 続 し て 実 行 す る フ ィ ー ル ド測 定1,3,6)な ど に 区 分 で き る も の と考 え ら れ る. 生 化 学 的 な 測 定 と 主 観 的 コ ン デ ィ シ ョ ン を 同 時 に 測 定 し て い る 報 告 と し て,最 近 で は,ラ
グ ビ ー 選 手 の 合 宿 ト レ ー ニ ン グ 時 のPOMSと
ド ロ コ ル チ コ ス テ ロ イ ド,17-ケ
トス テ ロ イ ド,テ
デ ィ シ ョ ン の 推 移 を 調 べ た 報 告10)が あ る.こ 高 く な る合 宿 中 に は,POMSに
尿 中 ホ ル モ ン(17-ヒ
ス ト ス テ ロ ン)を
れ に よ る と トレ ー ニ ン グ の 強 度 が
よ るネ ガ テ ィ ブ な 要 因 と 内分 泌 機 能 の 低 下 が 関
連 し て 現 れ た と 報 告 し て お り,POMSの
結 果 を さ ら に 内分 泌 機 能 の 変 化 で裏 付
け て コ ン デ ィ シ ョ ン を 把 握 す る 手 法 が 報 告 さ れ て い る.多 的 手 法 を 用 い た 報 告 で は,漕 デ ィ シ ョ ン が 心 拍 数,血
用 いて コン
艇 競 技 に お い て,陸
中 乳 酸,酸
上,水
素 摂 取 量,RPEを
角 的 な 生 化 学,生
理学
上 トレー ニ ン グ時 の コ ン 用 い て 測 定 さ れ て い る8).
図12.1
RPE(主
観 的運 動 強 度) 図12.2
コンデ ィ シ ョン が よい 時 のPOMS結
果(ア
図12.3
イ
ン プ 時 の 中 盤 で の
ス バー グ型)
図12.4
ス ポー ツ障 害 を持 つ選 手 のPOMS結
果
図12.5
ベ テ ラ ン選 手 のPOMS 結果
冬 季 トレ ー ニ ン グ キ ャ POMS結
図12.6
果
新 人 選 手 のPOMS結
果
これ らの 測 定 を フ ィー ドバ ッ クす る こ とで,コ
ン デ ィ シ ョン を把 握 す る こ とが で
き る と と もに,各 選 手 の 主観 的 疲 労 感 と生 理 的 強 度 の 異 同 を確 認 す る こ と に もつ な が る と報 告 して い る.ま た 野球 選 手 の冬 季 トレー ニ ン グ キ ャ ンプ 中 の コ ンデ ィ シ ョン変 化 を,POMS,全
身反 応 時 間,KVA動
体 視 力,バ
ン トパ フ ォ ー マ ン ス
テ ス トに よ っ て 測 定 し た と こ ろ,合 宿 中 盤,終 盤 にPOMSに
よ る主 観 的 コ ンデ
ィ シ ョン は低 下 した もの の,野 球 競 技 成 績 の 高 い選 手 で は,KVA動
体 視力や バ
ン トパ フ ォ ー マ ン ス に 大 き な低 下 が 認 め られ な い こ と を 明 らか に した もの も あ る6).す な わ ち,疲 労 が 蓄 積 す る こ とに よ っ て 体 力 の 低 下 は 著 し く現 れ る もの の,野 球 選 手 の神 経 系 の 能 力 に お い て,そ の低 下 に は個 人差 が あ り,競 技 パ フ ォ ー マ ン ス の 高 い選 手 で は 高 く維 持 で き る可 能 性 を報 告 して い る. ス ポー ツ選 手 が 現 場 で容 易 に で き る コ ンデ ィ シ ョン チ ェ ッ ク と し て,プ
ロサ ッ
カ ー 選 手 の シ ー ズ ン を通 した コ ンデ ィ シ ョニ ン グ に 関 して の情 報3)が あ る.そ れ に よ る と30m疾
走 タ イ ム,両
シ ン ボー ル 前 方 遠 投 距 離,メ
足5段 跳 躍 距 離,片
足 交 互5段 跳 躍 距 離,メ
ディ
デ ィ シ ン ボー ル 後 方 遠 投 距離 の5つ の テ ス トを毎 月
1回 のペ ー ス で行 っ た 結 果,適 切 な トレー ニ ン グ強 度 の 設 定 に役 立 ち,オ ー バ ー トレー ニ ン グ をお こす こ とな く1年 後 に 目標 の体 力 水 準 に 高 め る こ とが で き た こ と を報 告 して い る.こ れ 以 外 に は,ス
ポー ツ選 手 の 整 形 外 科 的 メデ ィ カ ル チ ェ ッ
ク を行 い,選 手 の 腰 痛 と下 肢 の オ ー バ ー ユ ー ス 症候 群 とに 関 連 が あ る可 能 性 を明 らか に し て お り,こ の 結 果 は オ ー バ ー トレー ニ ン グ の予 防 の うえ で も,定 期 的 メ デ ィ カ ル チ ェ ッ クの 重 要 性 を示 唆 して い る5). 以上 の よ うに,客 観 的 な測 定 に よ っ て コ ンデ ィ シ ョン の把 握 が 可 能 で あ り,こ れ らの 実 行 が オ ー バ ― トレー ニ ン グの 予 防,競
技 パ フ ォー マ ン ス の 向 上 に つ な が
る もの と考 え られ る.コ ン デ ィ シ ョン を客 観 的 に 測 定 す る に は,そ れ ぞ れ の種 目 特 性 に 応 じた生 化 学 的,生 理 学 的 測 定,フ
ィー ル ドテ ス トを選 択 し,科 学 的 に そ
の測 定 の 信 頼 性 と妥 当 性 が 確 認 され た方 法 を用 い る こ とが重 要 で あ る.コ
ンデ ィ
シ ョン の 客 観 的測 定 に は,測 定 上 の 技 術 的 問題 が あ る た め,ス ポ ー ツ選 手 で あ る か 否 か を問 わ ず専 門 家 の 意 見 を 聞 い て 進 め た 方 が よ い. 実 際 に コ ン デ ィ シ ョ ンの チ ェ ッ ク を始 め るに は,以 下 の章 に示 す,セ ッ ク,プ ラ イ マ リチ ェ ッ ク,二 次 チ ェ ッ クの段 階 を踏 ん で行 い,専 クが 必要 と な れ ば 前述 の よ うな手 法 を用 い る こ とが 有 効 で あ る.
ル フチ ェ
門的 な チ ェ ッ
e.段
階 的 に 行 うコ ン デ ィシ ョ ンの チ ェ ック
前 述 の 主 観 的 意 見 に よ る コ ンデ ィ シ ョン の 把 握,客
観 的 測 定 に よ る コ ンデ ィ シ
ョン の 把 握 の両 者 を段 階 的 に 用 い て,セ ル フチ ェ ッ ク,プ ラ イ マ リチ ェ ッ ク,二 次 チ ェ ッ クに分 け て,コ
ンデ ィ シ ョン を把 握 す る方 法 が ま とめ られ て い る12).こ
れ に よ る と,セ ル フ チ ェ ッ ク と は,コ ン デ ィ シ ョン チ ェ ッ ク の 第一 の段 階 で,個 人 が 自分 で 自分 の 状 態 を 日常 的 に チ ェ ッ クす る簡 単 な 方 法 で あ る.こ の 指 標 と し て,心 拍 数,血
圧,体
温,平 衡 機 能(閉
コ ン デ ィ シ ョ ン(体 調,疲 労,睡 容(強
度,時
間,量,負
眼 片 足 立 ち,マ
眠,食 欲,技
担 度 な ど),POMSが
ン テ ス トな ど),自 覚 的
術 的 調 子 な ど),ト
レー ニ ン グ 内
あ げ られ て い る.
こ の う ち,心 拍 数 の測 定 は 一 般 に利 き腕 の 手 首 の 動 脈 か 頸 動 脈 で安 静 状 態 の 心 拍 数 を測 定 す る もの で あ る.安 静 状 態 を確 保 す る ため に は 座 位 姿 勢 で 十分 に 心 を 落 ちつ か せ て か ら測 定 す るべ きで あ る.安 静 時 心 拍 数 は概 ね50-70拍/分 す.安
を示
静 時 心 拍 数 が いつ も よ りも高 い ま ま維 持 され て い た りす る と,疲 労 蓄 積 な
ど何 らか の 悪 影 響 が お きて い る可 能 性 もあ り注 意 が 必 要 で あ る.血 圧 測 定 は 簡 易 な血 圧 測 定 器 が 市 販 さ れ て い るの で そ れ を用 い る とよ い.血 圧 測 定 も安 静 状 態 で 測 定 され るべ きで あ り,心 拍 数 も 同時 に測 定 され る.体 温測 定 も同様 に安 静 状 態 で の 測 定 を行 う.こ れ らの 測 定 値 は,サ ー カ デ ィア ン リズム を もつ た め,安 静 状 態 で も1日 の 間 に 値 が 変 動 す る.し た が っ て 毎 日決 ま った 時 間(起 床,昼 休 み, 就 寝 時 な ど)に 測 定 し,そ の 推移 を確 認 して い くこ とが 重 要 で あ る. 平 衡 機 能 は 閉 眼 片 足 立 ち で あ れ ば 簡 便 に測 定 で きる.閉 眼 片 足 立 ち も安 静 状 態 で行 う こ とが 重 要 で あ る.手
を腰 に置 き,目 をつ ぶ っ て か ら片 足 を上 げ,片 足 立
ち で 姿 勢 を維 持 で きる 時 間 を測 定 す る もの で あ る.2回 記 録 して お く.平 衡 機 能 は視 覚 入 力,前 庭,体
行 って いい方の値 をと り
性 感 覚 な どの 機 能 が 関係 す る こ と
か ら,自 己 の コ ンデ ィ シ ョ ンの 悪 化 な どに よ る神 経 系 の機 能 の 変 化 を推 測 す る こ とが で き る.こ の 他,自 覚 的 コ ンデ ィ シ ョン や トレー ニ ン グ 内容 は毎 日記録 し, コ ン デ ィ シ ョ ンに 普 段 と異 な る変 動 が お きた際,ト
レー ナ ー な どに よ るプ ラ イマ
リチ ェ ッ ク を受 け るべ きで あ る. プ ラ イマ リチ ェ ッ ク(一 次 チ ェ ッ ク)は,主
に トレー ナ ー な どが初 期 に行 うチ
ェ ッ クで あ る.こ の 指 標 と して は 圧 痛 テ ス ト(足 底 部,足 ス腱 部,膝 な ど),コ
部,腰
部 な ど),筋 柔 軟 性,関
節 柔 軟 性,尿
甲部,下 腿 部,ア
検 査(尿
キレ
タ ンパ ク,潜 血,
ン トロー ル テ ス ト(種 目特 性 に あ っ たパ フ ォー マ ン ス テ ス ト),フ ィ ッ
トネ ス テ ス ト(有 酸 素 能 力,無 酸 素 能 力,筋 力 な ど)が あ げ られ て い る.こ れ ら の テ ス トを定 期 的 に 確 認 して い くこ とで も コ ンデ ィ シ ョ ン調 整 を行 う上 で の 貴 重 な資 料 に な る もの と考 え られ る. 二 次 チ ェ ッ クは,オ ー バ ー トレー ニ ン グや 貧 血,感 染 症 な どの 診 断や 崩 れ た コ ンデ ィ シ ョン の リコ ン デ ィ シ ョニ ン グ に お け る 回復 過 程 を フ ォ ロー す る指 標 で あ る.オ ー バ ー トレー ニ ン グ の 診 断 と して は,医 酸,ア
師 の 協 力 を得 て採 血 を行 い,乳
ンモ ニ ア な どの 血 液 生 化 学 的 指 標,免 疫 グ ロブ リン な どの 免 疫 学 的指 標,
テ ス トス テ ロ ン,コ ル チ ゾー ル,カ
テ コー ル ア ミン な どの 内分 泌 指 標 を確 認 す る
こ とが 必要 で あ る. この よ うに,セ
ル フ チ ェ ッ ク,プ ラ イマ リチ ェ ッ ク,二 次 チ ェ ッ ク に よ っ て コ
ン デ ィ シ ョ ン を把 握 で き る環 境 設 定 が あ れ ば,高
い確 率 で オー バ ー トレー ニ ン グ
を予 防 す る こ とが で き るで あ ろ う.少 な くと も,選 手 あ る い は一 般 人 が まず セ ル フ チ ェ ッ ク を習 慣 化 して行 う こ とが 重 要 で,こ れ に よ り自分 の コ ンデ ィ シ ョンの 変 化 が確 認 で き,異 常 が お きた と きの早 期 の 対 策 も可 能 と な る で あ ろ う.コ ンデ ィ シ ョ ン の 良 い 状 態 を長 く維 持 す る ため に は,個
人 の セ ル フチ ェ ッ クが最 善 の 対
策 で あ る よ うだ.
f.障
害 が起 き た際 の 回復 過 程
オー バ ー トレー ニ ン グが 原 因 で 障 害 が お きて し ま っ た場 合 は,上 記 の 二 次 チ ェ ッ ク に 習 って 医 師 の 力 を借 りる こ とが望 ま しい.そ の 際 に もセ ル フチ ェ ッ クに て 継 続 して行 っ て きた トレー ニ ン グや コ ンデ ィ シ ョ ンの 記 録 が役 に 立 ち,専 門家 か ら受 け る ア ドバ イ ス も よ り具 体 的 な もの に な る で あ ろ う.回 復 過 程 に お い て も個 人 で で き る対 策 と して上 記 の セ ル フ チ ェ ッ ク を続 け て い くこ とが 重 要 で あ る.障 害 が起 き た 直 後 は セ ル フ チ ェ ッ クに て測 定 し た値 や 個 人 の 自覚 的 コ ンデ ィ シ ョン な ど も低 い値 を示 す こ とが 考 え られ る が,そ の 値 の推 移 を記 録 す る こ とは 回 復 過 程 の段 階 を把 握 で き る こ とや 次 に 障 害 を予 防 す る た め の 重 要 な 資料 とな り うる.
g.超
回 復 を ふ ま え た トレー ニ ン グ強 度 の設 定
トレー ニ ン グや 運 動 の 強度 は,負 荷 の 大 き さ,頻 度 で 決 定 され る.オ ー バ ー ト レー ニ ン グが 発 生 す る場 合 は,こ の トレー ニ ン グ強 度 が 高 す ぎ る ため に お き る こ とが 多 い.そ
の た め に 選 手 個 人 に あ わ せ た適 切 な 強 度 の 設 定 が 重 要 で あ る.
高 い強 度 の トレー ニ ン グ を行 う と,そ の 直 後 必 ず疲 労 が 生 じ,身 体 機 能 は 一 時 的 に低 下 す るが,回 復 過 程 にお い て適 応 が 生 じ,身 体 機 能 の 向上 が 現 れ る.こ の よ うに 回復 過 程 に お い て 身体 機 能 の 向上 が お こ る こ とを超 回復 と呼 ん で い る4,9).図12.7は,超
回 復 の 過 程 を示 して い るが,疲
労 後 の 回復 期 に 通 常 の レベ
ら に 向上 した ピー ク地 点(A)で
次 の トレー ニ ン グ を実 行
ル ま で 回復 した 後,さ
す れ ば,そ の 疲 労 の 後 に は さ らに超 回 復 の ピー クが 出 現 す る こ とに な る.す な わ ち,ト レ ー ニ ン グ の頻 度 は そ の 人 の 超 回復 に依 存 して 決 定 す る こ とが 望 ま しい の もの と考 え られ る.オ ー バ ー トレー ニ ン グが 出現 す る と き は,ト
レー ニ ン グに よ
る疲 労 が 超 回 復 は も ち ろん,通 常 の レベ ル まで に も回 復 して い な い 時 点(B)で 次 の トレー ニ ン グ を行 って い る こ とが 考 え られ,こ れ が 続 く こ と で,慢 性 的 に 疲 労 が 蓄 積 し,ス ポ ー ツ障 害 を生 じ る こ とに な る. 選 手 そ れ ぞ れ の超 回 復 の 出現 は,大 で の トレー ニ ン グ歴,筋
き な個 人 差 が あ る.こ の個 人 差 は,そ れ ま
線 維 タイ プ な ど に よ る.そ の ため 超 回 復 は,一 概 に この
強 度 で は何 時 間 後 に 出 現 す る と断 定 す る こ とは 困 難 で あ る.そ
こ で,ト
レー ニ ン
グ の後 の 回 復 期 に も,上 記 に示 し た主 観 的 意 見 に よ る コ ン デ ィ シ ョン の 把 握,客 観 的 測定 に よ る コン デ ィ シ ョ ン把 握 を行 っ て,超 回 復 に 近 い ポ イ ン トを探 す こ と が 重 要 な こ とと な る.こ れ らの 手 法 を も とに 回復 期 の 超 回復 が 明 らか に な れ ば, オー バ ー トレー ニ ン グ を 引 きお こす こ とは,ま ず 考 え ら れ ず,積 極 的 な トレー ニ ン グ効 果 を期 待 す る こ とが で き る で あ ろ う. 12.4ま
オ ー バ ー トレ ー ニ ン グ の 予 防 に は,選 ー ニ ン グ や 運 動 の 強 度(負
と
手,個
め
人 の コ ン デ ィ シ ョ ン の 把 握 と トレ
荷 ・時 間 ・頻 度 な ど)を
コ ン デ ィ シ ョ ン の 把 握 方 法 は,主 よ る コ ン デ ィ シ ョ ン が あ り,段
図12.7
決 定 す る技 術 が 必要 で あ る
観 的 意 見 に よ る コ ン デ ィ シ ョ ン,客 階 を 追 っ た 確 認 方 法 と し て,個
トレー ニ ン グ後 の 超 回復 の 出 現
.
観 的測定 に
人 で確 認 す る こ と
が 可 能 な セ ル フ チ ェ ッ ク,ト ク),医
レ ー ナ ー に よ る プ ラ イ マ リ チ ェ ッ ク(一
師 の 協 力 の 下 に 行 う 二 次 チ ェ ッ ク と い う 方 法 も 存 在 す る.ト
強 度 を 決 定 す る 際 に は,選
次 チ ェ ッ レー ニ ン グ
手 の コ ン デ ィ シ ョ ン を 確 認 し な が ら,ト
レー ニ ン グ疲
労 の 回 復 過 程 に 現 れ る 超 回 復 の ピー ク を 探 す こ とが 重 要 で あ り,超
回復 の 時 点 で
次 の ト レ ー ニ ン グ を 実 行 す れ ば,積
極 的 に 高 い トレ ー ニ ン グ 効 果 を 期 待 す る こ と
が で き,同
時 に そ れ が オ ー バ ー ト レー ニ ン グ の 予 防 と な り う る .こ
れ らの 技術 を
習 得 し,運
動 す る す べ て の 人 々 に と っ て 運 動 に よ る 障 害 が な く,健
康 的 で楽 しい
ス ポ ー ツ 活 動 が 実 践 で き る こ とが 望 ま れ る.
〔 前田
明〕
参考文 献 1) Foster,C.:Monitoring Sci.Sports
Exerc.30
training
2) Hooper,S.L.,et.al:Markers Exerc.,27 3)
管 野
in athletes with
reference
to
overtraining
syndrome
.Med.
(7):1164-1168,1998. for monitoring
overtraining
and
recorvery
.Med.Sci.Sports
(1),106-112.1995.
淳,西
嶋 尚 彦:プ
ロ サ ッ カ ー 選 手 の シ ー ズ ン を 通 し た コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ .ト
レー ニ ン グ
科 学,8(2):43-50,1996. 4)
川 原
貴:オ
ー バ ー ト レー ニ ン グ,(ス
ポ ー ツ 医 学Q&A,第4版,黒
田 善 雄,中
嶋 寛 之 編),
金 原 出 版,p.264-268,1989. 5)
川 本 竜 史,渡
会 公 治:大
学 運 動 選 手 に お け る 腰 痛 と下 肢 のOVER
ニ ン グ 科 学,8(3):89-94,1997 6) 前 田
明,小
森 康 加,芝
山 秀 太 郎:冬
ィ シ ョ ン の 推 移.第50回 7) 前 田
明:選
USE症
候 群 に つ い て.ト
レー
. 季
トレ ー ニ ン グ キ ャ ン プ に お け る 社 会 人 野 球 選 手 の コ ン デ
日 本 体 育 学 会 共 催 シ ン ポ ジ ウ ム 大 会 号,1999.
手 の コ ン デ ィ シ ョ ン を 把 握 す る た め のPOMSテ
ス ト の 有 効 性.Baseball
Clinic,
10(5):26-30,1999. 8) 中 村 夏 実 他:漕
艇 競 技 に お け る ト レ ー ニ ン グ の モ ニ タ リ ン グ.ト
レ ー ニ ン グ 科 学,7(1):21-
28,1995. 9) 尾 山 末 雄:超 10) 佐 藤 真 治 他:ラ
11)
回 復.Coaching
Clinic,10(7):42,1996.
グ ビ ー 部 合 宿 ト レ ー ニ ン グ 時 のProfile
ン の 関 係.ト
レ ー ニ ン グ 科 学,10(3):165-172,1999.
田 畑
本 正 嘉:主
泉,山
観 的 運 動 強 度 の 測 定,宮
of Mood
下 充 正 監 修,身
Status(POMS)と
尿 中 ホ ル モ
体 運 動 の エ ナ ジ ェ テ ィ ク ス,高
文 堂 出 版 社,p.239-241,1989. 12)和
久 貴 洋:コ
ン デ ィ シ ョ ン の 把 握 と 管 理,日
テ キ ス ト,第2版,p.85-102,1999.
本 体 育 協 会 編,ア
ス レ テ ィ ッ ク トレー ナ ー専 門科 目
13 日焼 け の 予 防
13.1 紫 外 線傷 害 の予 防 は若 齢 期 か ら必 要 目に 見 え る皮 膚 の老 化 は,80%が
日光 傷 害(紫
外 線 の 傷 害)で
あ る といわれ
て い る.若 い う ちの 日焼 け は,表 面 的 に は も とに 戻 る が,皮 膚 の 細 胞 に は そ の 害 が蓄 積 さ れ,肌 の 老 化 が 早 くな り,中 年 以 降 に 生 ず る しみ や し わ の原 因 に な るの で,若 年 齢 か ら過 度 な紫 外 線 暴 露 を避 け る こ とが 大 切 で あ る. 紫 外 線 傷 害 の な か で,最
も重 大 な 疾 患 は 皮 膚 が ん で あ る.プ ロ ゴ ル フ ァ ー に
は,皮 膚 が ん が 高 率 に発 生 す る と の研 究報 告 が あ る.た だ し,そ れ は 白人 に 見 ら れ る現 象 で あ り,日 本 人 の 大 多数 を 占め る黄 色 人 種 は,紫 外 線 に よ る皮 膚 が ん の 危 険 は 比較 的小 さ い.
13.2 皮 膚 の構 造 と働 き a.表
皮 の構 造
―4週 間で 入れか わ る表皮 細胞
人 間 の 皮 膚 は,「 表 皮 」 「真 皮 」 「皮 下 組 織(皮
下 脂 肪)」 の3層 か ら で き て い
る.表 皮 は,最 下 層 の 基 底 層 か ら皮 膚 表 面 の 角 質 層 まで の4層 (図13.1)最
に 分 け られ る.
サ イ ト)は,順
下 層 の基 底 細 胞 は 常 に細 胞分 裂 して お り,分 裂 した 細 胞(ケ 次 皮 膚 表 面 に 移 動 し,細 胞 分 裂 後,約4週
ラチ ノ
間 で最 後 は ア カ とな っ
て は が れ 落 ち る. 表 皮 に は,そ の 他 に,表 皮 の最 下 層 に あ る色 素 細 胞(メ
ラ ノサ イ ト),ア レル
ギー な ど免 疫 作 用 を もつ ラ ン ゲ ル ハ ン ス細 胞,感 覚 をつ か さ ど る メル ケ ル細 胞 が あ る.皮 膚 に紫 外 線 が あ た る と,色 素 細 胞 は 黒 い 色 素(メ
ラ ニ ン)を つ く る.つ
く られ た メ ラ ニ ンは最 下 層 の ケ ラ チ ノサ イ トに 移 行 し,そ の ケ ラ チ ノサ イ トは4 週 間 で 皮 膚 表 面 に移 行 して ア カ とな って は が れ 落 ち る の で,紫 外 線 に 当 た る量 が 少 な くな れ ば,皮 膚 の 色 は 徐 々 に 薄 くな る.
図13.1表 (朝 田康 夫 監 修:完
b.真
皮の構造 ―
真 皮 は,コ
全図解
皮 と真 皮 の構 造
美 容 皮 膚科 学事 典,中
央 書 院,1995よ
り)
弾力線 維 な どは5∼6年 で入 れか わ る
ラー ゲ ンか ら成 る膠 原 線 維,エ
線 維 の 間 を埋 め る基 質,お
ラ ス チ ンか ち な る 弾 力 線 維,2つ
の
よび これ らの 線 維 と基 質 を生 成 す る線 維 芽 細 胞 で で き
て お り,皮 膚 の 弾 力性 に 関 わ っ て い る.し たが っ て,皮 膚 の 張 りや 弾 力 性 を維 持 す る ため に まず 重 要 な の は,線 維 芽 細 胞 の 働 きが 活発 で,こ れ ちの 線 維 や 基 質 が 順 調 に つ く られ て い る こ とで あ る.真 皮 の 線 維 は,5∼6年
13.3紫 太 陽 光 線 は,波 ない
UVB,UVCの3種
外 線 の種 類 と皮 膚 へ の 影響
長 の 長 い 順 に,「 赤 外 線 」,目 で 見 え る 「可 視 光 線 」,目 に 見 え
「紫 外 線 」,「X線
紫 外 線 は,英
で入 れ か わ る.
」 に 分 け ら れ る.
語 でUltra
Violet(UV)と
い い,波
長 の 長 い 順 に,UVA,
類 に 分 け ら れ て い る(図13.2).UVCは
波 長 が 短 く,大
に 浴 び れ ば 生 命 を 維 持 で き な い が,地
上20∼30km上
吸 収 さ れ,通
表 に 届 くの はUVBとUVAで
常 地 表 に は 届 か な い.地
量
空 に あ る 薄 い オ ゾ ン層 で あ り,こ
の
2種 類 の 紫 外 線 が 皮 膚 に さ ま ざ ま な 影 響 を 及 ぼ す. 皮 膚 に 対 す る 影 響 は,UVB,UVAと
も に 基 本 的 に は 同 じ で あ る が,影
響 の
大 き さ な ど に は 次 の よ う な 大 き な 違 い が あ る. ・UVBは,UVAよ
り も 細 胞 の 遺 伝 子(DNA)を
損 傷 す る 影 響 が 大 き い.
図13.2紫
UVBの
一部 は 真 皮 に 到 達 す る が,ほ
に 生 ず る 「し み 」 は,UVBの ・UVAは
外 線 の 種 類 と特 徴
,表
と ん ど は 表 皮 に と ど ま る.お
影 響 が 大 き い.
皮 を 通 り越 し て 真 皮 に 到 達 す る.UVAの
ン 色 素 の 生 成 と し わ の 原 因 に な る こ と の2つ 線(UVB,UVAと
も)が
弾 力 線 維(エ
こ る が,UVB,UVAと UVAと
ラニ
ラ ニ ン 色 素 は,紫
ラ ー ゲ ン の 減 少,コ
ラ ス チ ン)の
外
方, だ し,
ラー ゲ ン 同士
余 分 な増 加 な どに よ っ て お
も に そ の 原 因 と な る の で,基
本 的 に はUVB,
も に 過 度 に 浴 び る こ と は 避 け る べ き で あ る1).
13.4紫
外 線 に よる 日焼 け,サ ンバ ー ン とサ ンタ ン
日 光 を 浴 び て す ぐに 皮 膚 が 赤 く な り,時 日焼 け を 「サ ン バ ー ン 」(紅 斑)と ど で あ る.こ
主 な 作 用 は,メ
影 響 が 大 き い と考 え ら れ て い る.た
皮 の 膠 原 線 維 の 変 性(コ
の 結 び つ き の 増 加)や
で あ る.メ
表 皮 の 下 層 に 浸 透 す る の を 防 い で い る.一
真 皮 に 生 ず る 「し わ 」 はUVAの 皮 膚 の し わ は,真
も に表 皮
れ と は 別 に,日
い う.こ
に は ひ り ひ り痛 ん だ り,水 れ は,日
光 に 当 た っ た2∼3日
疱 が生 ず る
光 皮 膚 炎 と い う一 種 の や け 後 に 皮 膚 が 黒 化 す る 日焼 け を
「サ ン タ ン 」 とい う が,こ れ は,UVAに
よ りメラニ ン色素 が増 えて皮膚 が黒 く
な っ た状 態 で あ り,本 来 の 日焼 け で あ る. お もにUVBに
よ って 生 ず るサ ンバ ー ンは,血 管 が 拡 張 して 炎症 を お こ して い
る状 態 で あ る.人 生 で,痛 み を と もな うサ ンバ ー ンに6回 以 上 な っ た者 は,皮 膚 ガ ン に な る確 率 が3倍
高 い とい われ て い る.日 頃,日 に あ た らず,表 皮 に メ ラ ニ
ン 色 素 が 少 な い 色 白 の状 態 で,急
に過 度 に 日焼 け す る こ とは,で
き る限 り避 け る
べ きで あ る. 13.5 紫 外 線 の 放 射 特 性(日
内 変 動,季
節 差 な ど)
紫 外 線 の 害 の 大 き さ は,紫 外 線 の 線 量(照 射 量 ×時 間)に 外 線 の 照 射 量 は,季 節,日 障 害 の 大 き いUVBの
内 変 動,天 気,地
照 射 量 は,UVAよ
よ って 決 ま る2).紫
域 に よ っ て 異 な るが,と
り大 き く変 動 す る3).
直 射 日光 を 浴 び な け れ ば 紫外 線 の 影 響 を受 け な い わ け で は な い.曇 快 晴 の 日の50∼60%,雨
くに,皮 膚
の 日で も30%前
りの 日で も
後 の 紫 外 線 を浴 び て い るの で,紫 外 線
照 射 量 の 多 い 季 節 や 時 間帯 は油 断 で き な い. 照 射 量 は5月
の 時 点 で す で に1月
の 約5倍
に な り,そ の 後9月
∼10月 ま で真
夏 とほ とん ど変 わ らな い.日 本 で の 平 均 的 な 紫 外 線 対 策 は,夏 季 は9時 か ら15 時 ま で,春
と秋 は10時
か ら13時
まで 行 うの が望 ま しい で あ ろ う.た だ し,雪 の
反 射 に よ る紫 外 線 対 策 は 別 途 行 う必 要 が あ る. 13.6 日 焼 け 予 防 の 原 則,方 a.日
法,注
意点
焼 け予 防 の 原 則
日焼 け 予 防 は,ま ず 赤 く腫 れ る よ うな 焼 き方 を し な い こ とが 原 則 で あ るが,日 焼 け の 予 防 に は次 の3つ の 方 法 が あ る. ①
強 い紫 外 線 に 当 た る こ との 回避
②
衣 服 な ど に よ る物 理 的 な遮 光
③
サ ン ス ク りー ン剤(日
焼 け どめ)に
よ る 防御
サ ン ス ク リー ン剤 に は,紫 外 線 を散 乱 す る二 酸 化 チ タ ンが 広 く配合 され て い る が,二
酸 化 チ タ ン は ア レ ル ギー の 原 因 に な る危 険 が あ る4).ま た,紫 外 線 吸 収 剤
と して使 わ れ て い るパ ラア ミノ安 息 香 酸 エ チ ル も肌 に刺 激 性 が あ る5).し た が っ て,紫
外 線 に よ る 日焼 け を避 け る ため に,安 易 にサ ン ス ク リー ン剤 に頼 るべ き で
は ない. 紫 外 線 の 多 い 時 間帯 に は 屋 内 で過 ごす,屋 外 に 出 る と して も傘,帽
子,長
そで
の シ ャ ツや 長 ズ ボ ン を着 用 す る こ と を優 先 す る,こ れ が 肌 に 優 しい紫 外 線 防 御 の 原 則 で あ る.布 地 は厚 く,素 材 は綿 よ りポ リエ ス テ ル,色 は 濃 いめ が 紫 外 線 の 遮 断 効 果 ― 布 地 な ど が 紫 外 線 を吸 収 ・散 乱 す る効 果 が 大 き い.帽 以 上 あ れ ば 直 射 の50%以
子 の つ ば が7cm
上 を カ ッ トす る こ とが で き,つ ば を全 周 に す れ ばUV
カ ッ ト効 果 は さ ら に上 が る3).
b.サ
ンス ク リー ン剤(日
焼 け どめ)の 使 い方
1)生
涯 に わ た る紫 外 線 被 爆 の 影 響
加 齢 に と もな う皮 膚 の 老 化 は避 け られ な い が,紫 外 線 に よ る皮 膚 の 老 化(光 老 化)を
さ け る こ と は,理 論 的 に は可 能 で あ る.し か し,ど の 程 度 太 陽光 を避 け れ
ば光 老 化 を予 防 で き るか,そ て,サ
れ は現 時 点 で は ま だ解 明 さ れ て い な い6).し た が っ
ン ス ク リー ン剤 を どの よ うに使 うの が 理 想 的 か,そ の 決 定 的 な理 論 は ま だ
無 い の が 現 状 で あ る.紫 外 線 の 影 響 をで き るか ぎ り防 ぐべ き だ と考 え る専 門家, 紫 外 線 の よ い 点 を考 慮 す べ き だ と考 え る専 門家,紫 外 線 の影 響 を防 御 す るか らだ の機 能 を高 め るべ き だ と考 え る専 門 家7),そ れ ぞ れ の 基 本 的 な ス タ ン ス の 差 に よ っ て 紫 外 線 対 策 の 主 張 は 異 な っ て い る.こ こ で は,平 均 的 なサ ン ス ク リー ン剤 の 使 い 方 につ い て の 考 え を述 べ る こ とに す る. 2)UVBカ UVAに
ッ トの サ ンス ク リー ン剤 が 主 役 は,し
わ の 原 因 に な る とい う短 所 が あ る と し て も,紫 外 線 が 表 皮 下 層
よ り下 に浸 透 す る こ と を防 ぐため に 必 要 な メ ラ ニ ン 色素 をつ く る とい う長 所 が あ る.し たが っ て,陽 射 しの 強 い 時 は 別 と して過 度 にUVAを 一 方,UVBは う な理 由 で,サ UVBカ
避 け る 必要 は な い.
遺 伝 子 損 傷 が 大 きい の で そ の 浸 透 は な るべ く避 け た い.こ ン ス ク リー ン剤 はUVBカ
ッ トの 効 き 目 は,商
のよ
ッ トの もの が 中 心 に な っ て い る.
品 に 表 示 して あ るSPF(Sun
Protection
Fac-
tor)の 数 値 を参 考 に して 判 断 す る(詳 細 後 述). 3) UVAカ
ッ トの サ ンス ク リー ン剤
陽 射 しが 強 け れ ばUVAを カ ッ トす れ ば,メ
カ ッ トす るサ ン ス ク リー ン剤 を使 用 す る.UVAを
ラ ニ ン色 素 の生 成 を防 ぐこ とが で き るの で,美 容 の ため の 色 白
を 目的 に使 用 で き る.
UVAカ
ッ トの 効 き 目 は,商
UVA)を
品 に 表 示 し て あ るPA(Protection
参 考 に し て 判 断 す る.PAに
でPA++,最
も 強 いPA+++の3種
4)サ
は,UVAカ
ッ ト の 最 も 弱 いPA+,次
い
ンス ク リー ン剤 使 用 の 目安
・長 時 間 戸 外 で 過 ご す 場 合 ―SPF 20前
後,PA++
・炎 天 下 戸 外 で 過 ご す 場 合 ―SPF 30前
後,PA+++
な お,海
水 浴 や ス ポ ー ツ で は 耐 水 性 が 高 く,さ
ン 剤 が 有 効 で あ り,厚
め に,ま
た,ま
十分
ら にSPFの
高 い サ ン ス ク リー
め に 塗 り直 す.
用 後 は 洗 い 落 とす
サ ン ス ク リー ン 剤 は 皮 膚 に と っ て は 異 物 で あ る.皮 で,屋
of
類 が あ る.
・外 出 時 間 が わ ず か の 場 合 ―SPF 10前 後,PA+で
5)使
grade
脂 腺 が つ ま る危 険 もあ るの
内 で は し っ か り洗 い 流 す こ とが 健 康 肌 に 大 切 で あ る.
13.7紫
外 線 の影 響 にお け る個 人 差
紫 外 線 被 爆 に 対 す る皮 膚 の 反 応 に は大 きな個 人 差 が あ る.病 的 に 日光 に 過 敏 な 人 は,皮 膚 科 医 と相 談 して 紫 外 線 対 策 を す る こ とが 大 切 で あ るが,病
的 とは い え
な くて も,紫 外 線 に 弱 い 人 が い る.一 般 的 に,日 光 に あ た っ た と きに,赤
くな る
け れ ど も黒 くは な ら な い 色 白の 人 は,紫 外 線傷 害 を受 け や す く,深 い しわ が で き や す い こ と もわ か って お り1),よ り慎 重 な 注 意 が 必 要 で あ る.
13.8 皮 膚 の健 康 は心 身 の健 康 か ら 皮 膚 は 内 臓 の鏡 とい わ れ て い る.良 好 な 血 液 循 環,よ
い ホル モ ン バ ラ ン ス とい
っ た 心 身 の 健 康 が 皮 膚 の健 康 の 土 台 で あ る.日 焼 け の予 防 を考 え る 際 も この こ と を無視 して は い け な い.
〔 生山
匡〕
参 考文 献 1) 正 木
仁:紫
会.第24回 2) 和 田
攻:現
外 線 に よ る真 皮 の 傷 害:コ
ラー ゲ ン,エ
ラ ス チ ン の 生 合 成 と分 解.日
本 香粧 品科 学
学 術 大 会 講 演 要 旨,p.19-22,1999. 代 皮 膚 科 学 体 系2D,p.165,中
3) 佐 々 木 政 子:紫 4) 体 験 を伝 え る会
外 線 環 境 と計 測.日
山書 店,1989.
本 香粧 品科 学 会 誌,22(2):102-110,1998.
添 加 物110番
編:食
品 ・化 粧 品 危 険 度 チ ェ ッ クブ ッ ク,P.219,情
報 セ ン ター
添 加 物110番
編:食
品 ・化 粧 品 危 険 度 チ ェ ッ ク ブ ッ ク,p.219,情
報セ ンター
出版 局,1996. 5) 体 験 を 伝 え る 会
出 版 局,1996年. 6) 市 橋 正 光:高SPF製
品 を考 え る― 良 い 点,悪
い 点;皮
膚 科 医 の 立 場 か ら− .日
会,22(2):124-128,1999. 7) 近 藤 宗 平:生 物 の 進 化 と 環 境 適 応― 光 は 生 命 な リ−.H本 1998.
本 香 粧 品科 学
香粧 品 科 学 会 誌,22(1):27‐34
,
14 ケ ガ の 予 防
トレー ニ ン グ を習慣 づ け る こ とは,体 力 を 向上 させ,健
康 なか らだ をつ く り,
活 力 の あ る 日常 生 活や ス ポー ツ活 動 の 向 上 に もつ な が って い る.と こ ろが,突 発 的 な ケ ガ や ス トレス の く り返 しに よ り発 生 す る 障 害 等 は,予 測 が で きな い.ケ
ガ
や 障 害 が 発 生 す る と,ト ー ニ ン グに よ って 獲 得 した体 力 や 技 能 が 試 合 で発 揮 で き な い ば か りか,み
るみ る う ちに 体 力 は 低 下 して し ま う.同
じ動 作,強 度,頻
度の
トレーニ ン グ で もケ ガ をす る人 とそ うで な い 人 が い る こ と を考 え て み る と,何 か ケ ガ をす る原 因が あ り,そ の あ た り を改 善 す る こ とで,ケ ガ の 予 防 につ な が る こ とが 考 え られ る. ケ ガ を し な いか らだづ く りは,技 術 の 向 上 に もつ な が る点 を理 解 し,ケ ガ の 予 防 に積 極 的 に 取 り組 む 必要 が あ る. ケ ガ を予 防 す る に は,1)ケ し,2)弱
ガ や 障 害 に つ な が る よ うな 背 景 と な る原 因 を理 解
い部 分 や 不 安 な部 分 が あ る場 合 に は,そ れ を改 善 す る こ とが 重 要 で あ
る.
14.1ト
レー ニ ング 時 の ケ ガや 障 害 につ な が る原 因
トレ ー ニ ン グ時 の ケ ガや 障 害 の 発 生 原 因 と して考 え られ る 因子 は,以 下 の 通 り で あ る. ① 不 規 則 な生 活 習 慣(不
規 則 な 睡 眠 習 慣 や 食事 習 慣)
睡 眠不 足 と過 食 や 拒 食 な どの 偏 食 は,体 調 を崩 す 原 因 と な る. ② 意 欲 の 低 下 と精 神 的 に不 安 定 な状 態 無 気 力 や 集 中力 が 低 下 した 状 態 で の 活 動 は,動 作 の 正 確 性 を失 い,さ
らに 反 応
の 遅 れ を生 じ,ケ ガ につ な が りや す い. ③ 全 身 的 な疲 労 感 病 気 や 過 労 時 は,体 力 の低 下 や 免 疫 力 の 低 下 が お こ り,回 復 直 後 の動 きづ らい
状 態 で疾 病 前 と同 じ活 動 を行 お う とす る とケ ガや 障 害 の 原 因 と な る. ④
筋 力,筋 持 久 力 の 不 足,筋 拘 縮 や 筋 疲 労 か ら くる筋 柔 軟 性 の 低 下
病 気 や ケ ガ に よ る長 期 臥 床 後や 普 段 か ら運 動 不 足 気 味 の場 合,筋 の 低 下 が み られ る.と
くに,オ ー バ ー トレー ニ ン グ(過 負荷)に
ー バ ー ユ ー ス(過 使 用)に
力や筋持 久力 よ る筋 疲 労 や オ
よ る循 環 障 害 が み られ る場 合 に は,筋 力,筋 持 久 力 の
低 下 に加 え,筋 柔 軟 性 の 低 下 や 反 応 時 間 の 遅 延 もみ られ る. ⑤ 関 節 の 機 能 異 常 か ら くる関 節 可動 範 囲 の 制 限 や 動 揺 性 関 節 の機 能 異 常 は,遺 伝 的 要 因,環 境 的 要 因,ケ
ガの 後 遺 症 な ど に よ り引 きお
こ され る.こ の よ うな 状 態 で の 活動 は,局 所 の 関 節や 筋 ・腱 の ス トレ ス を増 大 さ せ,ケ
ガや 障 害 を発 生 させ る原 因 とな る.
⑥ 骨 格 の 配 列 異 常(扁 平 足,O脚,X脚,円
背 な ど)
骨 の 配 列 異 常 は,運 動 時 に関 節(靱 帯 な ど)や 筋 ・腱 の局 所 的 な ス トレ ス を増 大 し,ケ ガや 障 害 の 原 因 と な る.原 則 的 に 医 師 の 診 断 を受 け る こ とが 必 要 で あ る が,治 療 を 必 要 と しな い 場 合 に は,ス が,ア
トレス の か か りや す い部 位 を把 握 す る こ と
フ タ ー ・ケ ア の 方 法 を決 め る上 で 重 要 な ポ イ ン トとな る.
⑦ 運 動 神 経 系 の 反 射 機 能 遅 延 感 覚 受 容 器 ― 情 報 伝 達 系― 情 報 指 令 系 ― 運 動 器 系 の 情 報 伝 達 速 度 や 反 射 機 能 が 低 下 す る. 筋 柔軟 性:筋 肉 の特性 と して は,興 奮(収 縮)と 抑 制(弛 緩)が あ り,こ れに よっ て 筋 肉全体 が 縮 んだ り伸 びた りす る.こ の よ うな筋 肉の伸 縮性 は,個 人,部 位,体 調 な ど の 内的要 因や気 温や 湿度 な どの外 的要 因に よ り異 な る.ま た,適 度 な トレー ニ ングを行 って い る人の筋 肉 は,筋 肉 中に十分 な栄養(エ ネ ル ギー源)を 含み,伸 縮 性 に富ん で い る.さ らに,筋 肉 は,ウ ォー ムア ップ な どで温度 を上昇 させ る と伸張 性が 増加 す るが, 過度 の運 動 負 荷 に る疲労 物 質(乳 酸 な ど)の 蓄積 や,急 激 な減 温(冷 却),熱 中症 な ど に よ る過 剰 な温 度上昇,発 汗 に伴 う脱水状 態や 長期 的 な運動 不 足状態(病 気 に よる長 期 臥床 な ど)に よ り筋 肉 中の血 流量 が低下 す る と,伸 張性 が低 下す る.こ の ように 多様 な 状 況 下 で筋 肉は,伸 張性 に富 んだ柔 らか い筋 肉で あ った り,伸 張性 に乏 しい筋 肉で あ っ た りす る こ とか ら,筋 柔 軟性 と定義 してい る.
14.2ケ a.準
ガ を予 防 す る た め の注 意 点
備運動 や整理運動 の不足
体 力 トレー ニ ン グ時 の 準 備 運 動 は,筋
・腱,関
節 軟 部 組 織 な どの 運 動 器 の 血 液
循 環 を高 め,情
報 伝 達 系(固
有 受 容 器― 神 経 ― 運 動 器)の 働 き を ス ム ー ズ に す
る.準 備 運 動 不 足 は,こ れ らの 働 きが 不 十分 な状 態 で トレー ニ ン グ をは じめ る こ とに な り,ケ ガ や 障 害 の発 生 原 因 とな る.ま た準 備 運 動 は,気 候 条件(天 温,湿
候,気
度,気 圧 な ど)や ウ エ ア ー,実 施 場 所 な ど に よ って も影 響 を受 け るの で,
そ れ らの 環 境 因 子 も考 慮 に 入 れ て 行 う こ と を忘 れ て は な ら な い.準 備 運 動 が 十 分 で あ るか 否 か は,準 備 運 動 後 に 軽 く動 作 を行 い,い つ もの 動 き と比較 す る こ とが 大 切 で あ る.動
き に くい場 合 に は,準 備 運 動 の 時 間 を延 長 した り,ト レー ニ ン グ
内 容(強
度,時
度,頻
間 な ど)を 調 整 す る こ とが 必 要 で あ る.
体 力 トレー ニ ン グ後 の整 理 運 動 は,運 動 に よ っ て 高 ま っ た呼 吸循 環 器 系(呼 吸 状 態 や 心 拍 数 な ど)の 応 答 を安 静 状 態 に戻 し,疲 労 部 位 の 確 認 や 疲 労 物 質 の 早 期 代 謝 を手 助 け す る重 要 な役 割 を もっ て い る.整 理 運 動 が 不 十 分 な状 態 では,身 体 の 諸 機 能 が 安 静 状 態 に戻 る まで の 時 間 が遅 延 し た り,疲 労 回復 が遅 れ た り,翌 日 の パ フ ォー マ ン ス に影 響 を及 ぼ す こ とが あ る.整 理 運 動 は,筋 の 可 動 性(自
動 や 他 動 運 動 の 範 囲)が
肉 の伸 張 性 や 関節
トレー ニ ン グ 前 と同 じで あ るか,違 和 感 な
どが な い か を確 認 し,十 分 に 時 間 をか け て行 うこ とが 大 切 で あ る.
b. トレー ニ ン グ 方 法 の 誤 り ス ポー ツ 技 術 の 向上 に は,そ れ を支 え る 身 体 各 部 位 の 機 能 向上 トレー ニ ン グ (基 礎 トレー ニ ン グ)が 必 要 で あ る.し か し,機 能 向 上 トレー ニ ン グ をせ ず に 技 術 トレー ニ ン グば か り を重視 す る と,技 術 の 修 得 が 遅 れ る ば か りか,ケ
ガや 障 害
の 発 生 原 因 とな る.機 能 向 上 トレー ニ ン グの 必 要 性 に つ い て は,コ ー チや 専 門 家 に 十 分 な相 談 を行 い,正
c.適
切 な 靴,ウ
しい トレー ニ ン グ方 法 の 習 得 が 望 まれ る.
エ ア ー,用 具 等 の 選 択 と使 用 施 設 の 整 備
トレー ニ ン グ時 の ス ポ ー ツ シ ュー ズや ウエ アー が 運 動(競 るか,そ
の 日の 実 施 場 所 や 気 候(温 度,湿
っ た もの を選 択 して い るか は,ト
技種 目)に 適 して い
度)に 適 し た もの か,用 具 が 自分 に合
レー ニ ン グ 時 の 効 果 を上 げ る た め に 重 要 で あ
る.適 切 な ス ポー ツ シ ュ ー ズや ウ エ ア ー,用 具 で の トレー ニ ン グ は,動 を生 み,ケ
きや す さ
ガ の 予 防 に も重 要 な 因子 とな る.ま た,使 用 す る コー トや グ ラ ウ ン ド
の 整 備 をす る こ と もケ ガ の 予 防 につ な が る.
14.3ケ a.柔
ガや 障 害 の予 防 と解 消
軟 性 の 向 上 や 筋 肉 の リラ クゼ ー シ ョ ン を 目的 とす る ス トレッチ ン グ
柔 軟 性 の 向 上 は,関 節 可 動 範 囲 を広 げ,動 1)静
きや す い状 態 をつ く り出 す.
的 ス トレ ッチ ング
ス トレ ッチ ン グ は,柔 軟 性 の 促 進,神
経 ― 筋 の 反 応(興 奮 や 抑 制)を
流 の促 進 に よ る疲 労 回復 な どの 効 果 が得 られ る.方 法 と して は,筋 伸 ば し,痛 み の な い可 動 範 囲 内 で20∼60秒 2)動
的 ス トレ ッ チ ング(PNFテ
動 的 ス トレ ッチ ン グ と してPNFテ
間保 持 す る(6章,20章
高 め,血
肉 をゆ っ く り 参 照).
クニ ッ ク を 引用) クニ ッ ク を 引用 した パ ー トナ ー ス トレ ッチ
ン グ が あ る.筋 肉 は,興 奮 と抑 制 が 交 互 に 働 く とい う生 理 的 現 象(相 反 神 経 支 配)が
あ り,こ の 筋 肉 の特 性 を利 用 して,筋 の伸 張 性 を高 め る方 法 が あ る.
ホ ー ル ド ・リラ ッ クス ッチ(伸 張)す
痛 み の で な い位 置 まで 関 節 を動 か し,筋 肉 をス トレ
る.パ ー トナ ー は,そ の 位 置 で動 か な い よ うに保 持 し,実 施 者 が
伸 ば され て い る筋 肉(主 動 筋)を 最 大 等 尺 性 収 縮(ア
(a) ホー ル ド ・リラ ッ クス 図 の よ うに 筋 肉 が 伸 び た位 置 で3∼7秒 ア イ ソ メ トリ クス を行 い,そ
イ ソ メ ト リッ ク ・コ ン トラ
(b) ス ロー リバ ー サ ル 間の
図 は,PNFテ
クニ ッ クの 中 で ス ロー リバ ー
の直後におこ る
サ ル とい うテ クニ ッ クで あ る.パ ー トナー が
リラ クゼ ー シ ョ ン を利 用 して柔 軟 性 を 向上 さ
徒 手 的 な 抵 抗 を加 え なが らゆ っ く り と した 等
せ る方法 で あ る.
速 性収 縮 を関 節 可 動 範 囲 内 で く り返 し行 う も の で,拮 抗 筋側 か ら行 うこ と で,主 動 筋 の収 縮 力 が 高 ま る. 図14.1
動 的 ス ト レ ッ チ ン グ(PNFテ
ク ニ ッ ク)
ク シ ョ ン:3∼7秒
間)さ せ る.最 大 等 尺 性 収 縮 をや め た 直 後 に,筋
の リ ラ クゼ ー シ ョ ンが お こ り,伸 張 性 が 高 ま る.つ 収 縮(ア
肉 に は最 大
ま り,「 筋 肉 は,最 大 等 尺 性
イ ソ メ トリ ッ ク ・コ ン トラ ク シ ョ ン)の 直 後 に最 大 の リ ラ クゼ ー シ ョン
が お こ る」 とい う生 理 学 的 な現 象 を利 用 し た もの で あ る.(図14.1a) ス ロー ・リバ ー サ ル
痛 み の で な い 関 節 運 動 範 囲(屈 曲 位 と伸 展 位)を
し,ゆ っ く り と交 互 性(屈
曲 と伸 展)の
確認
等 速 性 運 動 を く り返 し行 うテ クニ ッ ク.
拮抗 筋 を最 大 収 縮 させ て い る際 は,主 動 筋 の リラ クゼ ー シ ョ ンが お こ り,逆 に主 動 筋 を最 大 収 縮 させ て い る際 に は,拮 抗 筋 の リラ クゼ ー シ ョ ンが お こ る(屈 曲 す る筋 肉 を主 動 筋 と した場 合,伸 した 筋 肉 は,そ
展 す る筋 肉 が 拮 抗 筋 と な る).ま
の 直 後 に 収 縮 力 が 高 くな る とい う利 点 も あ る.つ
た,リ
ラ ックス
ま り,「拮 抗 筋
の随 意 収 縮 の 直 後 に 主 動 筋 の 興 奮 性 が 増 大 す る(継 時 誘 導 の 原 理)」 とい う生 理 学 的 な 現 象 を利 用 した もの で あ る(図14.1b).
b.弱
い部 分(筋
肉)の 補 強 トレー ニ ング
関 節 を動 か す 大 き な筋 肉 の まわ りに は,回 旋運 動 な ど の複 雑 な動 きの補 助 と し て働 く筋 群 が あ る.単 純 な 関 節 の 屈 曲 と伸 展 だ け で な く,負 荷 を軽 く し,回 旋運 動 を複 合 させ た屈 伸 運 動 を行 う こ とで弱 い 筋 肉 の 強 化 につ な が る(チ ュー ブや ダ ンベ ル を使 っ た トレー ニ ン グ(図14.2)).
c.足
底 の 感 覚 を 高 め る トレー ニ ング
足 底 は,立 位 動 作(歩 行 や 走 行 を含 む)中 す る ため の セ ンサ ー(感 覚 受 容 器)が
の床 や 地 面 の 状 況 を即 座 に キ ャ ッチ
豊富 で
あ り,正 確 な 情 報 を即 座 に 伝 え る こ と に よ り,反 射 的 に 動 作 が お こ る.足 底 の 感 覚 を高 め る こ とは,足 関 節 や 膝 関 節 周 囲 筋 の 協 調 性 を高 め る上 で 重 要 な役 割 を も っ て い る. 主 な トレ ー ニ ン グ と して は ① 足 底 の セ ル フ ・マ ッサ ー ジ(図14.3) ② 足 趾 や 足 全 体 を使 っ た タ オ ル ギ ャ ザ リン グ(図14.4)や トロー ル な ど.
足 底 で の ボ ー ル ・コ ン
図14.2
チ ュ ー ブの 弾 力性 を 利用 した トレー ニ ン グ
運 動 の 方 向 性 が 重 要 な 場 合 な ど に は, チ ュ ー ブ を利 用 した トレ ー ニ ン グが 効 果 的 で あ る.
図14.3
足 底 の セ ル フマ ッサ ー ジ
図14.4
タ オ ル ギャ ザ リ ン グ
足 底 の アー チ を 形 成 す る踵 か ら指 先 へ 走 行 す
図 の よ うに タ オ ル を足 の 指 と足底 でか む こ とで,
る筋 肉 と足 底 か らふ く らは ぎの 方 へ 走 行 す る
足 底 の 感 覚 を高 め る こ とが で き る.
筋 肉 が あ り,そ れ ら を イ メー ジ して 図 内 の 塗 りつ ぶ した部 分 を もみ ほ ぐす.
③ 砂 地 を歩 く. な どが あ る.
d.協
調 性 の 向上 トレー ニ ン グ
荒 れ た グ ラ ウ ン ドや 滑 りや す い コー トな ど での スポ ー ツ活 動 で は,足 首 を捻 る な どの ケ ガ をお こ しや す い.そ の よ うな 不 意 な状 況 下 で は,即 座 に対 応 で き る神 経 ― 筋 の 協 調 性 を高 め る こ とが 必 要 で あ り,捻 挫 な どの ケ ガ の 予 防 につ な が る. 方 法 と して は,片 足 をバ ラ ン ス 板 に乗 せ,板
を水 平 に保 持 す る よ うに努 力 させ,
次 に 対 角 線 で交 互 性 の 抵 抗 を加 え た状 況 下 で も板 を水 平 に保 持 させ る.ま た,体 幹 の 反 応 を高 め る た め に,バ
ラ ン ス ボ ー ル に 乗 り,不 意 な 抵 抗 に 対 して も姿 勢
(床 に 垂 直)を 保 持 させ る よ うな トレー ニ ン グ を行 う(図14.5a,b). ① バ ラ ン ス板 を用 い た足 ・膝 関 節 の 協 調 性 トレー ニ ン グ(捻 挫 の 予 防) ② バ ラ ン ス ボ ー ル を使 っ た姿 勢 反 射(立
ち 直 り反 射)を
向上 させ る トレー ニ
ング ③ PNFテ PNFテ
クニ ッ ク
クニ ッ ク は,徒 手 的 に 関 節 を刺 激(牽
引 と圧 縮)し,抵
抗 を加 え な が
ら運 動 の 方 向 性 な ど,協 調 性 の と れ た 動 作 を 導 き 出 す こ とが で き る(図14.2 a,b.を
参 照).
(a)図 前,右
の よ うに バ ラ ン ス 板 に 片 脚 を 乗 せ,右 後 ろ,前
前 ・左 後 ろ,左
・後 ・左 ・右 な どの 対 角 線 の 組 み合 わせ で,交
互 性 の 抵 抗 を加 え る.抵 抗 に抗 して バ ラ ン ス板 を水 平 に保 持 す る よ うに 努 力 させ る こ と で,不 意 な状 況 下 で即 座 に 反 応 で き る 協 調 性 を向 上 させ る.こ の トレー ニ ン グに よ っ て 足 首や 膝 の 捻 挫 を予 防 す るこ とが で き る.
(b) バ ラ ン ス ボー ル バ ラ ン ス ボー ル に 腰掛 け,体 幹 で バ ラ ン ス を と り,姿 勢 の 安 定 性 や 反 射 機 能 を 高 め る.
図14.5
e.テ
協 調 性 トレー ニ ン グ
ー ピ ング に よ る保 護
トレー ニ ン グ時 の 不 安 の あ る身 体 局 所 に テ ー ピ ン グ を施 行 す る こ とに よ り,関 節 運 動 の 制 限 や 筋 運 動 の補 助 が 可 能 とな り,ケ ガ を 予 防 す る こ とが で き る(図14.6).
f. トレ ー ニ ング 時 の ケ ア トレー ニ ン グの 直 後 に有 酸 素 性 運 動(ウ ォ ー キ ン グや ジ ョギ ン グな ど)と ス トレ ッ チ ン グ を行 い,疲 労 の 回復 を図 る.局 所 的
図14.6
テー ピ ン グ に よ る ケ ガ の 予 防
テ ー ピ ン グ に よ り,あ
らか じめ 不 安 定 な
関 節 の 運 動 制 限 を 行 い,捻
な違 和 感(張
りや 慢 性 的 な痛 み な ど)が あ
る.
挫等 を予 防す
る場 合 に は,す
ぐに ク ラ イ オ セ ラ ピー(冷 却 療 法)を
実 施 す る.ク ラ イ オ セ ラ ピ
ー に は ,関 節 の ケ ア と し て クラ イ オ キネ テ ィ ッ ク ス(氷 冷 と関 節 モ ビ リゼ ー シ ョ ン)と 筋 ・腱 の ケ ア と して ク ラ イ オ ス トレ ッチ(氷 る.そ
冷 と ス トレ ッチ ン グ)が あ
の 目的 は,冷 却 に よ る痛 み 等 の 軽 減,冷 却 後 の エ クサ サ イ ズに よ る局 所 の
血 行 促 進,冷
却 後 の エ クサ サ イ ズ に よ る神 経-筋 の協 調 性 を早 期 に 改 善 させ る こ
とで あ る.身 体 の 疲 労 部 位 は,安 静(固 定)時
間 が長 くな る こ とで 回 復 が 遅 れ,
違 和 感 を感 じ る部 位 だ け で な く,そ の 周 辺 組 織 ま で動 き に く くな る.こ の 状 態 を 改 善 す る ため の 方 法 と して ク ラ イ オ セ ラ ピー が あ る. ク ラ イ オ セ ラ ピー とは,局 所 の ア イ シ ン グ(氷 冷)を 行 い,皮 膚 の 感 覚 が な く な る ま で(15∼20分
間)継 続 す る.次 に 感 覚 が 回 復 す る ま で 約3分 図14.7 図 は,ト
疲 労 部 位 の クラ イ オ セ ラ ピー(冷
ラ イオ セ ラ ピー で あ る.ま
動 と抵 抗 運 動(徒 約2∼3分
う.た だ し,2回 くな る(1回
ず,局
所 的 に疲 労 部 位 の 氷
く触 れ た と きに 皮 膚 の 感覚 が 感 じな くな
る まで15∼30分
間 冷 や す).次
に 関 節 周 囲 筋 と 自動運
手 抵 抗 また は チ ュ ー ブ 等 に よ る抵 抗 間 実 施.こ
れ を3∼5セ
目以 降 の 氷 冷 は 約3∼5分
ッ ト程 度 行 程 度 と短
目の 冷却 効 果 が 残 っ て い る ため に氷 冷 時
間 は 短 縮 さ れ る).抵
抗 運 動 に つ い て は,痛
な い 範 囲 内 で負 荷 量(関 ド等)を
却 法)
レー ニ ン グ に よっ て 疲 労 を起 こ した 部位 の ク
冷 を行 う(軽
運 動)を
間 の エ クサ
節 の 可 動 範 囲,強
漸 増 的 に 高め て い く.ま た,抵
み を感 じ 度,ス
ピー
抗運動の最後
に バ ラ ン ス板 を用 い,対 角 線 上 に 交 互 性 の 抵 抗 や 不 意 な抵 抗 に も反 応 で き る トレー ニ ン グ を組 み 合 わせ る ア イシング
自動 運 動(ア
と,さ
らに 効 果 的 で あ る.
クテ ィ ブ ・エ クサ サ イ ズ)
協 調 性 トレー ニ ン グ
抵抗運動
サ イ ズ(関 節 の 自動 運 動,抵 ア イ シ ン グ(2回
抗 運 動,漸
目以 降 は3∼5分
増 負 荷 運 動)を 行 う(図14.7).さ
間)と エ クサ サ イ ズ を3∼5セ
う.最 後 に 感 覚 が 無 くな る ま で ア イ シ ン グ を行 う.ま た,翌 (筋 肉痛)な
どの 違 和 感 が あ る場 合 に は,ウ
用)に
ッ トく り返 し行
日に な っ て も疲 労
ォ ー ム ア ップ 前 に クラ イ オ セ ラ ピー
を取 り入 れ る.こ の 際 の ク ラ イ オ セ ラ ピー(最 局 所 的 な血 管 の 拡 張(冷
らに
後 の ア イ シ ン グ を行 わ な い)は,
却 で収 縮 した血 管 に そ の 後 に起 こ る リバ ウ ン ド現 象 を利
よ る 血 流 量 の 増 加 に よ り,疲 労 回復 を促 進 させ る 目的 が あ る.こ れ に よ っ
て局 所 の 違 和 感 が 軽 減 し,動 きや す くな る(図14.7).
〔 吉 田弘法 〕
参考文 献 1) 真 島 英 信:生
理 学(改
2) 石 河 利 寛 訳:新
訂 第17版),文
版 運 動 の生 理 学,べ
光 堂,1978. ー ス ボ ー ル ・マ ガ ジ ン社,1976.
3) 伊 藤
朗:図
説 ・運 動 生 理 学 入 門,医 歯 薬 出 版,1990.
4) 伊 藤
朗:図
説.運
動 生 化 学 入 門,医 歯 薬 出 版,1987.
5) 市 川 宣 恭 編 集:ス
ポー ツ指 導者 の た め の ス ポ ー ツ外 傷・ 障 害(改
6) 福 林
ポー ツ外 傷 ・障 害 と リハ ビ リテ ー シ ョ ン,文 光 堂,1994.
徹 編 集:ス
7) 細 田 多穂 ・柳 沢
健 編 集:理
学 療 法ハ ン ドブ ック,協
訂 第2版),南
同 医 書 出 版 社,1986.
江 堂,1992.
15 飲酒,喫 煙 と体 力低 下
15.1
わ が 国 に は1日 平 均150ml以
飲
酒
上 の 純 ア ル コー ル を飲 む 人 が200万
る とさ れ て い る.ア ル コー ル 飲 料 は 人 間 関係 の 潤 滑 油 と して,あ
人以 上 もい
る い は ス トレ ス
を和 らげ る薬 物 と して私 た ちの 生 活 に定 着 して い る.と こ ろ が 一 方 で は ア ル コー ル 飲 料 は他 の 飲料 とは違 った 特 徴 を もっ て い て,そ の ため に健 康 を そ こ ね た り, ア ル コー ル依 存 を形 成 した り,酒 酔 い運 転 に よ って 交 通 事 故 をお こ した り,犯 罪 を誘 発 した り して し ま う.二
日酔 い に よ る学 習 の 阻 害 や 生 産 性 の 低 下 も しば しば
見 られ る.し たが っ て 飲 酒 の 危 険 性 を抑 え て 適 正 な飲 酒 を行 う こ とが生 活 上 重 要 な 問題 とな って い る. ア ル コー ル は 中枢 神 経 の 抑 制 作 用 を もつ の で 心 身 の解 放 感 を与 え て くれ る.し か し過 剰 に飲 酒 す る と効 果 が な くな るば か りか 臓 器 障 害 や 代 謝 異 常 を お こす. 飲 ん だ ア ル コー ル の 約20%は て 肝 臓 に運 ば れ る.尿 や 汗,呼
胃か ら,約80%は 吸 か らは 数%し
小 腸 か ら吸 収 さ れ 門 脈 を通 っ か排 泄 されず 大部分 は肝臓 で酸
化 され る.ア ル コー ル は 水 や 油 に よ く溶 け るの で体 内 で は 急 速 に 拡 散 す る.1時 間 に12g(清
酒0.5合)の
飲 酒 で は 生 体 内 の ア ル コー ル代 謝 量 に近 い の で 血 中
ア ル コー ル 濃 度 は お お よ そ一 定 に 保 た れ るが,も
し24gを
飲 酒 した とす る と血
中 ア ル コー ル 濃 度 は 急 上 昇 す る(図15.1). 血 中 ア ル コー ル 濃 度 が0.05%を る と酩 酊 状 態 とな り,歩 行 障 害,嘔
こ え る と ほ ろ 酔 い状 態 とな り,0.15%を 吐 な ど をお こ し,0.4%を
こえ
こ え る と呼 吸 麻 痺
な どに よ る死 の 危 険 が 高 ま る.「 一 気 飲 み」 に よ る死 亡 は 急性 ア ル コー ル 中 毒 の 典 型 で あ る.ま た,長 期 に わ た っ て 習 慣 的 に大 量 に 飲酒 す る とア ル コー ル 性 肝 障 害 をお こ して 肝 硬 変 や 肝 ガ ン の も と と もな る.脂 肪 肝 は 男 で は1日80g以 女 で は1日20g以
上 の 飲 酒 で 発 生 し,1日210gを22年
上,
間 飲 み 続 け る と肝 硬 変
図15.1
飲 酒 の 速 度 と 血中 ア ル コー ル 濃 度 との 関 係(体 kgと
の発 生 率 は50%,33年
重70
して)
間 で80%も
高 くな る.
ア ル コー ル は 少 量 の 飲 酒 で も 中枢 神 経,と
くに 思 考 や 判 断 を 司 る大 脳 新 皮 質 の
機 能 を低 下 させ るの で,ス ポ ー ツや 運 動 を行 う前 に 飲 酒 す る と重 大 な事 故 や 傷 害 を誘 発 す る こ とが あ る.さ
らに は,新 皮 質 に よ って 制 御 さ れ て い た本 能 行 動 や 情
緒 を 司 る旧 皮 質 が解 放 され るの で 爽 快 感 を覚 え るが,か
え っ て 多量 の飲 酒 を重 ね
や す くな り,血 中 ア ル コー ル 濃 度 が 高 ま る につ れ て 運 動 中枢 で あ る小 脳 の機 能 が 低 下 す るの で,運 動 は もち ろ ん の こ と歩 行 もで きな くな る.ス ル コー ル は,疲 労 感 を忘 れ させ,爽
ポー ツ後 に飲 む ア
快 感 を増 大 させ る効 果 が あ るが,習 慣 性 の 飲
酒 に 陥 らな い よ う上 手 に 利 用 しな け れ ば な ら な い.適 量 に は 大 き な性 差,個
人差
が あ る こ と も知 らね ば な ら な い(表15.1,表15.2). 15.2
喫
煙
たば こが 健 康 や 体 力 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て は1950年
表15.1
ア ル コー ル の害
代 か ら の研 究 で そ の 全 容
表15.2
久 里 浜 式 ア ル コー ル 症 ス ク リー ニ ン グテ ス ト(KAST)
(一部改 訂)
が 明 らか に な って い る.た ば こ に は わ か っ て い るだ け で も4000種 以 上 の 化 学 物 質 が 含 ま れ て お り,発 が ん 性 が 証 明 され て い る物 質 だ け で も200種
を超 え て い
る.そ の 煙 に は ニ コチ ン,種 々 の 発 が ん 物 質.発
酸 化 炭 素,
種 々 の 線 毛 障 害 性 物 質,そ
が ん促 進 物 質,一
の 他 の 多種 類 の有 害 物 質 が 含 まれ て い るの で,喫
煙に
よ っ て心 悸 亢 進 な どの循 環 器 系 に対 す る急 性 影 響 が み られ るほ か,喫 煙 者 で は 肺 が ん を は じめ とす る種 々 の が ん,虚 塞 性 肺 疾 患,胃
血 性 心 疾 患,慢 性 気 管 支 炎,肺
気腫 な どの 閉
・十二 指 腸 潰 瘍 な どの 消 化 器 疾 患,そ の 他 種 々 の疾 患 リス クが 著
し く増 大 す る.妊 婦 が 喫 煙 した場 合 に は 低 体 重 児,早 産,妊 娠 合 併 症 の 率 が 高 く な る.ま
た,受 動 喫 煙 に よ り肺 が ん,虚 血 性 疾 患,呼 吸 器 疾 患 な どの りス クが 高
くな る こ とも報 告 され て い る.低 ニ コチ ン ・低 ター ル た ば こ の 喫 煙 に よ っ て リ ス クは軽 減 され る が,肺 が ん,虚 血性 心 疾 患 な どの リス ク は非 喫 煙 者 に 比 べ る とは るか に 高 い.わ が 国 で は 嗅 ぎ た ば こや〓 み た ば こ な どの 無 煙 た ば こ は 普 及 して い な い が,外
国 で は 〓 み た ば こ の使 用 に よ っ て 口腔 が ん の リス クが 増 大 した り,嗅
ぎた ば この 口 腔 内 使 用 に よ り口 腔 が ん の 前 が ん病 変 率 が 高 くな る こ とが 報 告 され て い る.わ が 国 の20歳
以 上 の 喫 煙 率 は 男 性56.1%,女
で は 減 少 傾 向 に あ る とは い え(表15.3),他 15.4).一
性14.5%で
あ る.男 性
の 先 進 諸 国 に 比 べ て 高 率 で あ る(表
方,女 性 の 喫 煙 率 は他 の 先 進 諸 国 と比 べ て低 率 で あ り,全 体 で み る と
横 ば い 傾 向 で あ るが,20歳
代,30歳
代 の 若 い女 性 の 喫 煙率 が 近 年 増 加 し て い る
傾 向 に あ る. た ば こ煙 中 に 含 まれ て い る有 害 物 質 の う ち,生 理 的 に影 響 を 及 ぼ す 主 な物 質 は 粒 子相 に 含 ま れ て い るニ コ チ ン と気 相 に含 まれ て い る一 酸 化 炭 素(CO)で
あ る.
ニ コチ ン の薬 理 作 用 に よ り中枢 神 経 系 の 興 奮 が 生 じ,心 拍 数 の 増 加,血 圧 上 昇, 末 梢 神 経 の収 縮 な どの 心 臓 ・血 管 系 へ の 急 性 影 響 が み られ る.COは 表15.3
わ が 国 の 喫 煙 者率 の 年 次 推 移(単
表15.4
資 料)1)日
喫 煙 状 況 の 国 際 比較
本 た ば こ 産 業 株 式 会 社,2)米
関(WHO)
位:%)
国 厚 生 省,3)世
界保 健 機
赤 血球 のへ
図15.2 喫煙 有無の下での呼吸機 能の年齢変化 の模 式図
モ グ ロ ビ ン(Hb)と
結 び つ き,CO-Hbを
形 成 し,酸 素 運 搬 能 を 阻 害 す る.
常 習 喫 煙 者 で は ニ コチ ンの 薬 理 作 用 に よ り,精 神 神 経 機 能 の促 進 と抑 制 とい う 二様 の 急性 効 果 を もた ら し,知 的 作 業 能 率 に つ い て も上 昇 と低 下 の相 反 す る成 績 が 報 告 さ れ て い る. 図15.2は
喫 煙 と呼 吸 機 能 の 関 係 を示 して い る.
この 図 で1秒 量 に示 され る呼 吸 機 能 は 喫 煙 を しな くて も年 齢 と と もに 低 下 す る が,感 受 性 の あ る個 体 が 喫 煙 す る と,こ の低 下 は促 進 され てや が て 呼 吸 障 害 に い た る.途 中 で 禁 煙 す る と機 能 は 回復 しな い が,そ
の後 の機 能 の低 下 速 度 は 非 喫 煙
の場 合 と同程 度 に な り,呼 吸 障 害 の 発 現 を遅 らせ 得 る と い う. 喫 煙 は呼 吸 器 を は じめ と して 循 環 器,消 化 器,神 経 ・感 覚 器 を侵 し,骨 粗 鬆 症 や 体 液 性 免 疫 の 低 下,老 化 の 促 進 の 原 因 と も な る.さ
らに は,受 動 喫 煙 に よ っ て
も肺 が ん,虚 血 性 心 疾 患,肺 機 能 障 害 の リス クが 増 大 す る とい わ れ て い る.ス ポ ー ツ ,運 動 を行 う者 に と って は トレー ニ ン グは ま ず 非 喫 煙 か らで あ る. 〔 大澤 清二 〕
参考 文献 1) 大 澤 清 二
・岡田 加 奈 子:す
2) 厚 生 省 保 健 医 療 局:我 3) 厚 生 省:喫 4) Fletcher,C.et University
煙 と 健 康(第 al.:The Press,1979.
ぐ に 役 立 つ 保 健 シ リー ズ タ バ コ と お 酒 の 害,ポ
が 国 の ア ル コ ー ル 関 連 問 題 の 現 状,原 二 版),健 natural
康
プ ラ 社,1995.
健 出 版.1993.
・体 力 づ く り事 業 財 団,1997. history
of
chronic
brochitis
and
emphysema,Oxford
Ⅳ 女 性 の体 力づ く り
16 月 経 と 運 動
女 性 と男性 の か ち だ に は 生 来 的 な相 違 が あ り,そ の 最 も顕 著 な例 が 生 殖 機 能 で あ る.思 春 期 に始 ま る 月 経 は 個 人差 の 大 き い現 象 で あ り,月 経 に と も な う心 身 の 変 化 は 多様 で あ る.こ こ で は 月経 の し くみ とそ れ に と もな う 身体 の 変 化 を正 し く 理 解 で き る よ うに し,そ の 上 で,運 動 実 施 に あ た っ て考 慮 す べ き月 経 関 連 の 問題 を取 り上 げ る こ とに す る. 16.1 月 経 の し く み 思 春 期 に な る と女 性 の 身体 や 心 に は 著 し い変 化 が お こ る.す な わ ち全 身 の 急速 な 発 育 と と も に 第 二 次 性 徴 が 出 現 し,初 経 が 発 来 す る.初 経 は12歳 人 が 最 も 多 く,9∼14歳 そ12歳6ヶ
月).こ
に お よ そ95%の
で発 来 す る
女 子 が 経 験 す る(平 均 初 経 年 齢 は お よ
の 初 経 に は じ ま る 月 経 は,「 約1ヶ
月 の 間 隔 で起 こ り,限 ら
れ た 日数 で 自然 に 止 ま る 子 宮 内 膜 か らの 周期 的 出血 」 と定 義 づ け ちれ て い る が, 月 経 の お こ る 間 隔 は初 経 後 す ぐに安 定 す る もの で は な い.13∼52歳 の3000周
期 を分 析 し た報 告1)に よ る と,13∼17歳
た が,18∼19歳 日,40代
で は33.2日
で は28日
に,20代
で31日,30代
の一般 女性
の 平 均 周 期 は34.7日 前 半 に は30日,後
であ っ 半 に29
で あ っ た とい う.一 般 に 固 く信 じ ちれ て い る 「月経 周 期=28
日」 と な る に は 初 経 後 か な りの 時 間 を要 す る と い え る.そ は 月 経 周 期 が 長 くな っ た り,不 安 定 に な り,50歳 初 経 か ら閉 経 まで お よ そ30∼40年
して40代
の後 半か ら
前 後 で 閉 経 を迎 え る.
間,周 期 的 にお こ る月 経 とは どの よ う な し
くみ に な っ て い るの だ ろ うか. 月 経 現 象 は 内分 泌 の 中枢 で あ る視 床 下 部 と脳 下 垂 体,卵
巣 を結 ぶ 各 種 ホ ル モ ン
の フ ィー ドバ ッ ク シ ス テ ム に よ っ て 営 ま れ て い る(図16.12),16.2).ま 下 部 か ら性 腺 刺 激 ホ ル モ ン放 出 ホル モ ン(GnRH)が
ず 視床
分 泌 さ れ脳 下 垂 体 へ 送 ら れ
る.こ れ を感 知 した 脳 下 垂 体 か ら は 卵 胞 刺 激 ホ ル モ ン(FSH)と
黄体 化 ホル モ
ン(LH)が
分 泌 され,卵
巣 で は 卵 胞 が成 熟 を 開 始 す る.こ の 卵 胞 か らは 女 性 ホ
ル モ ンで あ るエ ス トロ ゲ ン が分 泌 され,子 宮 で は 内 膜 の 機 能 層 と呼 ば れ る部 分 が 肥 厚 を始 め る.エ ス トロ ゲ ン の分 泌 が ピー クに な る と それ を視 床 下 部 が 感 知(正 の フ ィー ドバ ッ ク)し て 多 量 のLHを こ れ を受 け て 下 垂 体 か らLHが
放 出 させ る ため の ホ ル モ ン が分 泌 され る.
多 量 に 分 泌 され(LHサ
ー ジ),排 卵 が お こ る.
排 卵 後 の 卵 胞 は黄 体 を形 成 し黄 体 ホ ル モ ン(プ ロ ゲ ス テ ロ ン)を 分 泌 す る が,妊 娠 し な い と黄 体 は 萎 縮 しエ ス トロ ゲ ン とプ ロ ゲ ス テ ロ ンの 分 泌 量 は 減 少 し て く る.す
る とエ ス トロゲ ン とプ ロゲ ス テ ロ ン の働 きで 肥 厚 ・増 殖 して い た子 宮 内 膜
が 壊 死 ・脱 落 して 血 液 と と もに排 出 され る.こ れ が 月 経 で あ る. エ ス トロゲ ン とプ ロ ゲ ス テ ロ ンの 分 泌 量 の減 少 を視 床 下 部 が 感 知(負 ドバ ッ ク)し,GnRHを
分 泌 す る と,脳 下 垂 体 か らはFSHが
胞 が 成 熟 し は じめ る.こ 期)は
の フ ィー
分 泌 され,次
の卵
う して 次 の 月 経 周 期 が 開 始 す る.こ の よ うに 月 経(周
精 巧 な ホ ル モ ンの フ ィー ドバ ッ ク シ ス テ ム に よ っ て成 り立 っ て お り,女 性
の心 身 に 周 期 的 な 変 化 を もた らす の で あ る.
図16.1 視 床 下 部― 脳 下 垂 体 ― 卵 巣 に お け る 内 分 泌 の フ ィー ドバ ッ ク シ ス テ ム (菊地,20002)よ
り)
図16.2
正 常 月 経 周 期 に と も な う各 種 ホ ル モ ン 動 態 と卵 巣,子
宮 内膜,基
礎体 温の変化
16.2 月 経周 期 に と もな う身体 の 変 化 と運 動 女 性 の 身 体 は 前 述 した 各 種 ホ ル モ ン の 変 化 に と もな っ て 周 期 的 な 変 化 を示 す が,そ
の 変 化 は大 別 して3つ の期 間 ご とに 異 な る.す な わ ち卵 胞 が 発 育 し成 熟 す
る まで の 卵 胞 期,黄
体 が 形 成 さ れ 次 の 月経 が 開 始 す る前 日 まで の 黄 体 期,子
宮内
膜 が 壊 死 ・脱 落 し性 器 出血 が み られ る 月経 期 で あ る(図16.2).運
動 実 施 上,と
くに 問題 とな る可 能 性 が あ る の は 月 経 期 間 中 と黄 体 期(月 経 前)で
あ るの で,そ
の 時 期 に つ い て心 身 の 状 態 と運 動 との 関 係 を見 て み た い.
a.月
経期 間中の運動
1) 月 経 期 間 中 の 運 動 の 是 非 月 経期 間 中 に運 動 を行 っ て も良 い か 否 か に つ い て は,産 婦 人 科 医 の 中 で も統 一 し た 見解 が 出 さ れ て い な いが,体 育 授 業 に お け る ス ポー ツ 活動 に 関 す る 日本 産 科 婦 人 科 学会 の指 針3)に よれ ば,陸 上 の ス ポ ー ツ は 月経 中 に 行 っ て も 問題 は 少 な い と さ れ て い る.し か し,陸 上 の運 動 で あ っ て も激 しい ス ポ ー ツ 活 動 は避 け るべ き で あ る と して い る.ま
た,水 泳 に つ い て は小 学 生 で は行 わせ るべ き で な く,中 学
生,高 校 生 で は 月 経 血 量 が 減 少 して か ら行 う方 が よ い と され て い る.水 泳 に お い て 問 題 と な る の は プ ー ル 内 で の 月 経 血 の 流 出や,プ
ー ル の水 に よ る細 菌 感 染 の 心
配 で あ るが,実 際 に は 水 中 で は水 圧 に よ り月経 血 が 流 出す る こ とは 稀 で あ る し, プ ー ル の水 が 感 染 の 発 生 素 地 とな る根 拠 は薄 い.高 校 生 以 上 に つ い て は 内装 具 の 使 用 や,水
か ら上 が っ た際 の 月経 血 の 流 出 に備 え る よ う配 慮 す る こ とで 問題 は解
決 で き る もの と思 わ れ る. しか し,月 経 期 間 中 に 運 動 を行 うか ど うか に つ い て は,月 経 状 態 が 人 に よ って 異 な り,そ の と らえ 方 や 痛 み の感 じ方 な ど も違 う こ とか ら,一 概 に は言 い切 れ な い.そ
こで 重 要 な こ とは,自 分 の 月 経 状 態 や 心 身 の 状 態 を的確 に 把 握 し,そ の 運
動 へ の参 加 の 必 要 性 を も考 慮 した上 で,自 分 自身 が 参 加 の是 非 を判 断 で き る よ う な 能 力 を身 につ け る こ とで あ る. 2) 月 経 随 伴 症 状 と運 動 月経 時 に は下 腹 部 痛,腰 痛 な どの症 状 を訴 え る女 性 が 多 い.そ の う ち程 度 が ひ ど く薬 を服 用 した り日常 生 活 に支 障 が あ る場 合,月
経 困難 症 と され る.月 経 困 難
症 は 原 因 に よ っ て機 能 性 と器 質 性 に分 け られ る.機 能 性 は と くに 原 因 とな る器 質
的 疾 患 が 無 くて お こ る もの で,子 宮 の 入 り口が 狭 くな って い た り,月 経 周期 の分 泌 期 に 増 加 した プ ロ ス タ グ ラ ンデ ィ ンF2α とE2が 常 収 縮 させ,子
月 経 時 に 遊 離 し,子 宮 筋 を 異
宮 の 血 液 量 が 減 少 し,知 覚 神 経 終 末 の過 敏 な ど を招 来 させ る こ と
に よ って 疼 痛 を 引 きお こす と考 え られ て い る.器 質 性 とは 子 宮 筋 腫,子 症,骨
盤 内 炎 症,卵
巣腫 瘍,子 宮 の位 置 ・形 態 異 常,管
宮 内膜
内 膜 炎 な ど器質 的疾 患 が
原 因 に な っ て い る もの をい う. 運 動 習慣 を もつ 女 性 で は 月経 困難 症 が 軽 い こ とや,月
経 に よ る腹 痛 や 腰 痛 が 体
操 に よ っ て 楽 に な る こ とは 古 くか ら知 られ て お り,現 在 も運 動 は 月経 困難 症 の 治 療 法 の一 つ と して 用 い られ て い る.軽 い運 動 や 体 操 は 血 液循 環 を改 善 し,骨 盤 内 の 充 血 を取 り,筋 肉や 靱 帯 の 弛 緩 が 得 ちれ,月 経 困難症 に効 果 的 で あ る.ま
た運
動 す る こ とに よ って 鎮 痛 作 用 の あ る物 質 が分 泌 され た り,身 体 を動 か す こ とで 精 神 的 リラ クゼ ー シ ョンが 得 られ る こ と も運 動 の 効 果 とさ れ て い る.し か し,ひ ど い 月 経 困難 症 の 場 合 に は器 質 性 の 月経 困難 症 で あ る可 能 性 もあ るの で,ま ず は 婦 人科 を受 診 し器 質 性 疾 患 の有 無 を確 認 す る こ とが 大 切 で あ る.
b.月
経 前(黄 体 期)の 運 動
一 般 に 月経 前(黄 体 期)に
は 黄 体 ホ ル モ ンの 全 身 的 な作 用 に よ って,体 が だ る
くな っ た り,コ ンデ ィ シ ョン が 悪 くな る.と ラや 憂 うつ,下
腹部 膨 満 感,下
腹 痛,腰 痛,む
くに,月 経 の3∼10日 くみ,頭 重 感,頭
前に はイ ライ 痛,乳 房 痛 な ど
の 精 神 的 あ る い は 身体 的 症 状 が現 れ る こ とが あ り,月 経 が 始 ま る と減 退 な い し消 失 す る.こ れ を月 経 前 症 候 群(=月
経 前 緊 張 症)と
い うが,習 慣 的 な 運 動 は 月経
前 症 候 群 に もよ い と され て お り,ラ ンニ ン グな どに よ る発 汗 は む くみ や 乳 房 緊満 感 を改善 す る.さ
ちに 運 動 や ス ポ ー ツ に よ りス トレ ス を解 消 す るこ とは イ ラ イ ラ
や 憂 うつ な ど の精 神 的症 状 の 改 善 に も効 果 が あ る.
16.3 運 動 と 月 経異 常 a.月
経 異 常
月経 の 異 常 に は周 期 の 異常,量 る(表16.1)4).中
の 異 常,月 経 に 付 随 し てお こ る症 状 の 異 常 が あ
で も 月経 が 予 定 よ り遅 れ た り,不 規 則 に な る周 期 の 異 常 は 多
くの 女 性 が 経 験 して い る と思 われ る.周 期 の 長 さや 規 則 性 に影 響 を 及 ぼ す 因子 と し て は,年 齢 に と もな う変 化(前 述)や
精 神 的 ス トレ ス,体 重(体 脂 肪)減
少,
表16.1
月 経 異常 の 定 義
(玉 田 太 朗,19923)よ
職 業,運
動 な どが 考 え られ て い る.と
り 改 変)
くに体 脂 肪 は 性 ホ ル モ ンの 代 謝 に きわ め て
重 要 で,近 年 若 い 女 性 の 間 で 蔓延 して い るや せ 志 向 に と もな う無 理(過 度)な イ エ ッ トは,月
ダ
経 異 常 の 要 因 と もな りう る.美 容 の 面 に の み と ら われ る の で は な
く,正 常 な身 体 機 能 を保 持 す るた め に も適 切 な体 重(体 脂 肪 量)を 維 持 した い.
b.運
動 に よ る月 経 異 常
一 般 に 健 康 増 進 の ため に行 う軽 度 な運 動 や,レ
ク リエ ー シ ョ ン と して行 うス ポ
ー ツ に よ っ て 月 経 異 常 が お こ る こ とは考 え に くい が ,競 技選 手 と して 日々 激 しい トレー ニ ン グ を行 う女 性 に,初 経 の 遅 延 や 周期 の 延 長,無 多 い こ とは 多数 報 告 さ れ て い る.そ
月 経 な どの 月 経 異 常 が
して こ れ らの 異 常 に は,競 技 種 目に よ る差 が
認 め られ て お り,体 育 大 学 の 運 動 部 に所 属 す る女 子 に お け る 月経 周期 を種 目別 に 検 討 した 結 果 に よれ ば,希 (図16.3)2).競 肪)減
発 月経 や 続 発(性)無
月経 は体 操 競 技,新 体 操 に 多 い
技 選 手 に よ る 月経 異常 も身体 的 ・精 神 的 ス トレス や,体
重(体 脂
少,運 動 に と もな う各 種 ホ ル モ ン環 境 の 変 化 な ど5)が要 因 と さ れ,こ れ ら
図16.3
競 技 種 目別 に み た希 発 月経 と続 発 性 無 月経 の 発 生 頻 度(菊
地,20002)よ
り)
の要 因 が 単 独 で は な く,相 互 に関 連 しあ っ て 月経 異 常 を 引 きお こす とい われ て い る.
c.運
動 に よ る月 経 異 常 の 予 後
運 動 に よ る 月経 異 常,と
くに 周 期 の 異 常 は ス ポー ツ トレー ニ ン グ を軽 減 あ る い
は 中 止 す る とす ぐに 回復 す る とい わ れ て い る が,女 子 体 育 大 学 生 を大 学 入 学 か ら 卒 業 し た後 ま で継 続 して 調 べ た結 果,卒
業 して ス ポ ー ツ トレー ニ ン グ を止 め て も
周 期 が 安 定 し な い 人 もい た(図16.4―C)6).ス
ポ ー ツ選 手 に 限 らず,月 経 周 期 が
も とに 戻 る ま で の 時 間 は 月 経 が な か った期 間 と相 関 す る とい わ れ,長 して お く と月 経 の 回復 に は か な りの 時 間 が 必 要 とな る.さ
らに,無
い期 間放 置
月経 の程 度 の
中 で も重 度 の 無 月経 へ 進行 しや す くな る.ま た 月経 が 回復 し性 器 出血 が み られ た と して も無 排 卵 性 で あ る可 能 性 が 高 い.将 来,妊 娠 や 出 産 す る能 力 へ の 影 響 も考 え,月 経 異常 は安 易 に放 置 しな い ほ うが よ い. 加 えて 長 期 に わ た る月 経 異 常,と
くに 無 月経 は骨 塩 量 の低 下 を招 き,骨 折 や 骨
粗 鬆 症 を 引 き起 こす 原 因 と もな る の で,早
い段 階 で 適 切 な処 置 をす る こ とが 大 切
で あ る. 月 経 は女 性 の生 理・ 生 殖 機 能 を も っ と も よ く反 映 す る重 要 な 身体 の健 康 指 標 で あ る.女 性 と し て健 康 な 生 活 を送 るた め に も,月 経 や 運 動 に 関 す る正 しい知 識 を 身 に つ け,自 分 の 月経 状 態 を きち ん と把 握 し,自 己 管 理 しな が ら運 動 を実 践 す る 能 力 を若 い 時期 か ら養 う こ とが 大 切 で あ る.
〔 菊地
潤 ・加賀 谷淳 子〕
図16.4
年 齢 経 過 に と も な う 月経 周 期 変 化 の 典 型 例(菊
A:18∼26歳 占め,安 B:大
地 ら,19986)よ
頃 ま で 正 常 周 期 が80%以
り) 上を
定 して い る.
学 時 代 に 相 当 す る 年 齢 に 乱 れ るが,卒 業 後 は 正 常 周 期 が 多 くな る.
C:18∼28歳
頃 ま で長 短 の 異常 周 期 が 高 頻 度
に 見 ら れ,大
学 卒 業 後 も安 定 し て い な
い.
参考文献 1) Matsumoto,S.,Nogami,Y.and on 2)
the
菊地
definition 潤:ス
Ohkuri,S.:Statistical
of normal
menstruation.Gunma
ポ ー ツ 生 理 学 ト ピ ッ ク ス12,ス
studies
on
menstruation;A
criticism
J.Med.Sci.,11:294-318,1962. ポ ー ツ ト レ ー ニ ン グ が 月 経(周
期)に
及 ぼ す 影 響.
体 育 の 科 学,50(5):379ー387,2000. 3) 玉 田 太 朗 他:小
児 ・思 春 期 問 題 委 員 会 報 告(月
経 期 間 中 の ス ポ ー ツ 活 動 に 関 す る 指 針).日
本 産
科 婦 人 科 学 会 雑 誌,41:633-634,1989. 4) 玉 田 太 朗:月
経 に 関 す る 定 義.産
5)
婦 の 実 際,41:927-929,1992.
目崎
登:女
性 の た め の ス ポ ー ツ 医 学,p.75-76,83,95,金
6) 菊 地
潤,中
村
生,64(5):299-312,1998.
泉:体
原 出 版,1992.
育 大 学 出 身 女 性 に お け る 年 齢 に 伴 う 月 経 周 期 の 変 動 パ タ ー ン.民
族 衛
17 運動 による貧血 の防止
17.1 貧 血 と は 人 体 の総 血 液 量 は,だ い た い体 重 の1/13の
重 さ に相 当 す るが,血
液 中 に含 ま
れ るヘ モ グ ロ ビ ン の 量 が 基 準値 以 下 の 場 合 を 「貧 血 」 とい う.血 漿 中 に もい くら か 含 まれ るが,ヘ
モ グ ロ ビ ン は ほ とん どが 赤 血 球 の構 成 物 と して 存 在 す るの で,
赤 血 球 数 や ヘ マ トク リッ ト値(血 球 が 血 液 を 占め る割合)の 利 用 さ れ る.貧 血 の 原 因 と して は,お 赤 血 球 合 成 抑 制,3)赤
お まか に1)出
血球 破 壊(溶 血),そ
測 定 も貧 血 の判 定 に
血 等 に よ る赤 血球 喪 失,2)
れ に4)血 液 希 釈 に よ る み か け の 貧
血 が あ げ られ る.
17.2 運 動 に よ って お こ る貧 血 とそ の原 因 ヘ モ グ ロ ビ ンや 赤 血球 は酸 素 や 二 酸化 炭 素 の 運 搬 で 重要 な役 割 を果 た す の で, 酸 素 消 費や 二 酸 化 炭 素 産 生 が 高 ま る運 動 中 は貧 血 の影 響 を受 け,と
くに 持 久 性 運
動 能 力 は抑 制 され る.し た が っ て,運 動 や トレー ニ ン グ に対 す る適 応 と して 赤 血 球 合 成 な どは促 進 し て もい い はず で あ るが,逆 に 貧 血 が お こ りや す い.運 動 が 原 因 で お こ る貧 血 を運 動 性 貧 血(sports anemia)と
い い,多 量 の 出 血 を と もな うけ が,赤
血球 合 成 ホ ル モ ン の分 泌 抑 制 や ヘ モ グ ロ ビ ン合 成 系 の 異 常 が 運 動 選 手 に と くに 多 い わ け で は な く,運 動 性 貧 血の 原 因 と して は これ ら以 外 の もの が 考 え られ る. ヘ モ グ ロ ビ ンは,ヘ
ム(鉄)と
グ ロ ビ ン(タ ンパ ク質)に
よ っ て構 成 され て お
り,鉄 ま た は タ ンパ ク質 の 欠 乏 に よ りそ の合 成 が 抑 制 さ れ る.食 料 事 情 が 乏 しか っ た 太 平 洋 戦 争 終 結 直 後 の わ が 国 に お い て は,タ
ンパ ク質 欠 乏 は 大 きな 問 題 の ひ
とつ で あ り,貧 血 の 主 要 因 で あ っ た.し か しな が ら,食 料 事 情 が 大 き く改 善 され た最 近 で は,タ
ンパ ク質 不 足 は ほ とん ど問題 で は な くな っ て い る.
タ ン パ ク質 に 比 べ て 体 内 貯 蔵 量 が 非 常 に 少 な く,し か も そ の65∼70%(2.
5∼3g)が
ヘ モ グ ロ ビ ン を 構 成 し て い る鉄 の 摂 取 量 は,日 本 人 で は 成 人 男 性 で
10mg/日,女
性 や 発 育 期 の 男性 で12mg/日
と非 常 に微 量 で あ る.と こ ろ が,女
性 や 運 動 選 手 に お け る鉄 欠 乏 は 未 だ に大 き な問 題 で あ る.減 量 の た め の 菜 食 主 義 な どに よ る鉄 摂 取 の不 足 も原 因 とな る.お 茶 や コー ヒー も消 化 管 か らの鉄 吸 収 を 抑 制 す る.ま た,汗 や 尿 を介 し た鉄 喪 失 の亢 進 に よ っ て も鉄 欠 乏 が 助 長 され る. 汗 に 含 ま れ る鉄 は 非 常 に低 濃度 で あ る が,多 量 の汗 を失 う運 動 を連 日続 け る と失 わ れ る鉄 の 量 もか な りの もの に な る. 運 動 に よ る足 裏 へ の物 理 的衝 撃,血
中pHの
低 下 や 脾 臓 か ちの リゾ レ シ チ ン の
放 出 な ど化 学 的 原 因 に よ る血 管 内 で の赤 血球 破 壊 も貧 血 の 主 た る原 因 の一 つ で あ る(図17.1).赤
血球 は普 通 腎 臓 で 濾 過 され な い の で尿 中 に排 泄 され る こ とは な
い が,分 子 量 の 小 さ いヘ モ グ ロ ビ ン は尿 中 に 喪 失 さ れ る(ヘ モ グ ロ ビ ン尿,血 尿). 生 体 に は,赤 血球 破 壊 が お きた らハ プ トグ ロ ビ ンが ヘ モ グ ロ ビ ン と結 合 し,腎 臓 で の 濾 過 お よび 尿 へ の ヘ モ グ ロ ビ ン の喪 失 を防 ぐ働 き もあ る.と こ ろが 血球 破 壊 の程 度 が そ の許 容 限 度 を こ え て し ま う と,血 尿 に 至 っ て し ま う こ とに な る.
図17.1 ラ ンニ ン グ に よ る ヘ モ グ ロ ビ ンの 濃 度,赤
血球 浸 透 圧 抵 抗 性,血
漿 ハ プ トグ ロ
ビン の ヘ モ グ ロ ビ ン結 合 能 の 変 化. (田 中信 雄,堀
清 記:運
す る研 究 とそ の 動 向.臨
動 に よる貧血 に関 床 ス ポ ー ツ 医 学,6
(5):480,1989)
強 度 の 高 い運 動 や 多 量 の 発 汗 を と も な う よ う な運 動 は血 中水 分 量 の 減 少 を きた し,血 液 濃 縮 を誘 発 す る.す る と血 液 の 粘 稠 度 が 増 し,血 流 抵抗 が 高 ま り,心 臓 へ の 負 担 も増 す .ま た 皮 膚 血 流 量 も減 少 す る こ とか ら,体 熱 放 出 に も支 障 が 出 て し ま う.そ こ で,こ の よ う な現 象 を抑 制 す る一 つ の 反 応 と して,ト
レー ニ ン グ の
結 果 血 漿 水 分 量 の 増 大 が起 き,血 液 は希 釈 さ れ る.水 分 量 が 増 え る と,た とえ全 身 の総 赤 血 球 数 は 一 定 で も血 液100ml中
の 赤 血 球 数 な どの よ うな 値 は低 下 し,
貧 血 と似 た よ うな現 象 が 起 きる.し か し,こ の よ うな 現 象 は 貧 血 で は な く,む し ろ運 動 に 対 す る好 ま しい 適 応 で あ る.一 方,と
くに長 距 離 ラ ンナ ー で は個 々 の赤
血 球 容 積 が 小 さ い とい う現 象 も報 告 され て い る.こ
うい う場 合,た
とえ赤 血球 数
は 正 常 で も,ヘ マ トク リッ ト値 は低 い こ とに な る.し た が って,貧 血 の有 無 をヘ マ トク リッ ト値 の測 定 だ け で チ ェ ッ ク し た ち,誤 っ た判 定 をす る こ とに な る. こ の よ うに,一 見 現 象 的 に は 貧 血 で も,貧 血 で は な い場 合 もあ るの で,そ の 判 定 に は 十分 注 意 を払 うべ きで あ る.貧 血 と判 定 され た ら,さ らに そ の 原 因 を解 明 す るべ きで あ る.原 因 が た と えば 血 球 破 壊 の 亢 進 で あ っ て も,鉄 分 摂 取 の低 下 で あ っ て も,鉄 喪 失 の亢 進 で あ って も,一 般 的 に 鉄 欠乏 に 至 るが,そ れ に至 った 直 接 的 な 原 因 をは っ き りさせ,治
療 法 を処 方 し な い と貧 血 に 対 して の 効 果 は得 られ
な い.ま た,血 清 鉄 濃 度 は 食事 や 日内変 動,月
経 周 期(女 性 の 場 合)な どの影 響 を
受 け るの で,鉄 欠 乏 の 判 定 に は フ ェ リチ ン濃 度 の 測 定 な ど も含 め る必 要 が あ る.
17.3 運 動 に よ る貧 血 を 防 ぐ に は 上 述 した よ うに,血 球 破 壊 と鉄 欠 乏 が運 動 性貧 血 の 主 た る 原 因 で あ る の で,貧 血 を防 ぐに は これ ら を極 力 防 止 す る必 要 が あ る.し か し,そ の程 度 は さ ま ざ まで あ り,運 動 中 の 衝 撃 や 発 汗 は避 け る こ とは で き な い.酸 素 の薄 い 高 地 に 住 む な ど す れ ば別 だ が,こ い.と
の 運 動 を す れ ば 貧 血 が 治 る,あ
る い は 防 げ る と い う運 動 は な
こ ろ が(エ リー ト選 手 を 目指 す な ら,貧 血 が起 き な い よ うな トレー ニ ン グで
は 足 りな い と も言 え よ うが),健 康 の 維 持 ・増 進 や 体 重 減 少 な ど を 目指 す よ うな 運 動 で あ っ た な ら貧 血 の 防止 は 可 能 な の で,足 裏 に か か る シ ョ ッ ク を な るべ くや わ らげ た り,発 汗 な ど で失 っ た鉄 の 補 給 を欠 か さ な い よ うにす るべ きで あ る. 鉄 分 は 肉,レ バ ー,大 豆,ほ
うれ ん 草 な ど多 くの 食 品 に含 ま れ て い るが,鉄 欠
乏 が 進 行 しす ぎ る と,食 事 の み で は 容 易 に 回復 し な い.そ の場 合,鉄
剤 の 経 口摂
取 が 一 般 的 で あ るが,静 脈 注 射 に よ る鉄 投 与 が 行 わ れ る こ と もあ る.鉄 の 吸 収 は お 茶 の タ ン ニ ン 酸 に よ り抑 制 さ れ るの で,鉄 剤 を経 口摂 取 す る場 合,そ 時 間 位 は お 茶 を ひ か え るべ きで あ る.逆 に,ビ る の で,オ
タ ミンCは
の 前 後1
鉄 の 吸 収 を促 進 させ
レ ン ジ ジュ ー ス な ど を同 時 に飲 む の は効 果 的 で あ ろ う.し か し,鉄 欠
乏 で な い 人 が 長 期 間大 量 の 鉄 を摂 取 す るの は危 険 な の で,鉄 欠 乏 の有 無 の 正 確 な 判 定 や 貧 血 の 原 因 の解 明 を した上 で の 処 方 を行 うべ きで あ る.
〔 大平 充 宣〕
18 骨
粗鬆
症
18.1 骨 粗 鬆症 と は 骨 粗 雑 症 とは 高 齢 者 を中 心 に発 症 す る症 状 で,わ が 国 で 患 者 数 は1000万 も達 す る と も言 わ れ て い る.年 齢 を重 ね る に従 っ て,多
人に
くの 人 が 骨 粗鬆 症 に な る
危 険 性 が 高 い.わ が 国 にお い て は 急 速 な人 口 の 高齢 化 が 進 ん で い るの で,骨 粗 鬆 症 患 者 が 急 増 す る こ とは社 会 的 な 問 題 で もあ る. 骨 粗 雑 症 とは本 来 骨 の 内側 に密 度 高 く詰 ま っ て い る はず の カル シ ウ ム塩 が 溶 け 出 して密 度 が 低 くな り,こ の た め に 非 常 に骨 折 しや す い状 態 とな る病 気 で あ る. 高 齢 者 に お い て 腰 や 背 中が 曲 が っ た 人 を見 か け るが,こ の 人達 の ほ とん どが 骨 粗 鬆 症 に よ り背 骨(脊 脊 椎 は7個
椎)が 圧 迫 骨 折 をお こ した こ とが 原 因 で あ る(図18.1).
の 頸 椎,12個
の 胸 椎,5個
の 腰 椎 な どで で きて お り,一 つ 一 つ は 円
柱 の 缶 詰 の よ うな 形 を して い るが,圧 迫 骨 折 とは これ ら の椎 骨 が 圧 力 に よ っ て つ ぶ さ れ る こ とで あ る.複 数 の椎 骨 が 圧 迫 骨 折 をお こす こ とに よ って 背 中が どん ど ん と曲が って い くの で あ る.骨 粗 鬆 症 患 者 に お い て は 骨 が 脆 弱 で あ る ため,ち
ょっと
した外 力 に よ っ て こ の よ うな圧 迫 骨 折 が お こ っ て し ま う.脊 椎 の 圧 迫 骨 折 以 外 で も, 大 腿 骨 の 腎 部 に近 い部 分 や,前 腕 の骨 な ど も骨 粗 鬆 症 で 骨 折 をお こ しや す い部 位 と し 図18.1
脊椎 の圧迫骨折
て 知 られ て い る.
18.2 若 い うち か ら 予 防 を す る 骨 粗 鬆 症 の発 症 原 因 につ い て は 不 明 な部 分 が 多 いが,加 齢 現 象 の 一 つ で あ る と 考 え ら れ る.人 間 の 骨 は30歳
を越 え る こ ろ よ り,年 々 カ ル シ ウ ム塩(骨
塩 量)
図18.2 年 齢 と骨密 度
が 少 な くな り,や が て骨 粗 鬆 症 と な る わけ で あ る.と
くに 女 性 にお い て は 閉 経 後
に お い て 骨 塩 量 の 減 少 が 著 し くな り,骨 粗 鬆 症 の 危 険 性 が 高 くな る.こ れ は 閉 経 に よ り骨 を守 る役 目 を果 た して い た 女 性 ホ ル モ ン の分 泌 が 少 な くな る た め で あ る.骨 粗 鬆 症 を 防 ぐに は加 齢 に よ って 減 少 す る量 を な るべ く少 な くす るこ とが 重 要 で あ るが,も 塩 量(peak
う一 つ 言 わ れ て い る こ とは20歳
bone
mass)を
ぐら い に迎 え る最 大 骨
な るべ く多 くす る こ との 重 要 性 で あ る.す な わ ち,
身 体 の 骨 量 を 高 い レベ ル に して お いて,そ る(図18.2).し
か ら30歳
た が っ て,20歳
の 後 の 減 少 に耐 え よ う とい う考 え で あ
代 ま で に適 度 な 運 動 や 適 切 な生 活 習慣 な どに よ
っ て骨 を丈 夫 に して お く こ とが 必 要 な の で あ る.な か に は 若 い うち か ら骨塩 量 が 少 な い 人 が い る こ とが 指 摘 され て いて,こ
の よ う な 人 は近 い将 来 骨 粗 鬆 症 に な る
可 能 性 が 非 常 に 高 いの で,骨 づ く りを真 剣 に 考 え る必 要 が あ る.
18.3 骨 粗 鬆症 を防 ぐた め の 運動 骨 量 を 増や して 骨 強 度 を強 くす る ため に は,骨 とが 必 要 で あ る(「4.骨
に 日常 以 上 の 力 を加 え てや る こ
を丈 夫 に す る た め の トレ ー ニ ン グ」 参 照).そ
の ために
は 積 極 的 に 運 動 を行 い,骨 に い ろい ろ な方 向 か ら力 を加 え る こ とが 有 効 で あ る. 骨 粗 鬆 症 で と くに 骨 折 が 問題 と な る部 位 は椎 骨 と大 腿 骨 で あ る の で,こ れ らの 骨 を鍛 え る こ とが 重 要 で あ る.そ れ に は,地 面 を大 き く蹴 っ た り着 地 した りす る抗 重 力 運 動 が 適 して い て,球
技 な どが 勧 め られ る.ま た,ウ エ イ ト トレー ニ ン グ も
骨 量 を高 め る の で 積 極 的 に行 う こ とが 勧 め られ る.一 方,サ
イ ク リン グや 水 泳 で
は 大 きな 力 が 骨 に 加 わ らな い の で,骨 量 を増 や す 効 果 は ほ とん ど な い. な お,運 動 の種 類 に よ って は骨 量 を減 ら して,骨
を弱 くす る危 険 性が あ るの で
注 意 が 必 要 で あ る.女 性 長 距 離 ラ ンナ ー に は 骨 密 度 が 低 い 人 が い る よ うに,ラ
ン
ニ ン グ の よ うな 高 強 度 ・長 時 間 運 動 は骨 に は 逆効 果 とな る.こ れ は高 強 度 運 動 の ス トレ スが 原 因 で あ る と考 え られ る.
18.4 骨 粗 鬆症 を防 ぐた め の栄 養 骨 量 を維 持 ま た は 増 加 させ る た め に は,十 分 な カ ル シ ウ ム 摂 取 が 必 要 で あ る (9.3節 参 照).牛
乳 ・乳 製 品,大 豆 製 品,魚
貝 類 な ど か ら1日600mg以
上のカ
ル シ ウム を摂 取 す る と と もに,カ ル シ ウ ム の 吸収 を助 け る ビ タ ミンD,骨 助 け る ビ タ ミ ンKを 魚 肉 に 多 く含 まれ,ビ
十 分 摂 取 す る こ とが 重 要 で あ る.ビ タ ミ ンDは タ ミンKは
形成 を
豆 類 に 多 く含 まれ て い る.ま た,カ
きの こ 類 や ル シウム
の 吸 収 を妨 げ る リン酸(加 工 食 品 や 一 部 の 清 涼 飲 料 水 に 多量 に 含 まれ る),塩 分, ア ル コー ル,カ
フ ェ イ ン な ど を控 え る こ とが望 ま し い.
ま た,女 性 に お い て無 理 な 減 量 は 月経 周 期 異 常 に な り,女 性 ホ ル モ ン の分 泌 が 少 な くな る可 能 性 が あ る.女 性 ホル モ ン の分 泌低 下 は 骨 量 が 減 る こ とに 直 結 す る た め,無 理 な減 量 は 避 け るべ きで あ る.
18.5 骨 粗 鬆 症 を 防 ぐた め の そ の他 の 生 活 習慣 a.紫
外
線
日光 を浴 び な い生 活 を して い る と 「くる病 」 が 発 生 して,骨
が 柔 らか くな り,
成 長 が妨 げ られ る こ とが 知 られ て い る.こ れ は 日光 を浴 び な い と腸 で の カ ル シ ウ ム の 吸 収 を促 進 す る ビ タ ミンDが
不 足 す るか ち で あ る.す な わ ち,日 光 の 中 に
含 まれ る紫 外 線 は,皮 膚 の 下 に あ るプ ロ ビ タ ミ ンD3と
い う物 質 を ビ タ ミ ンD
に変 化 させ る こ とが で き る の で あ る. くる病 は イ ギ リス な ど の 日照 時 間 の 少 な い 地 方 に特 有 な病 気 で,日 本 に お い て は 比 較 的 日照 時 間 が 多 い ため 普 段 の 生 活 を して い れ ば 紫 外 線 を あ る程 度 浴 び る こ とが で き る.し か し,日 本 で も 日照 時 間 の 少 な い 北 日本 や 日本 海 側 に 住 む 人,ま た 野 外 に 出 る時 間 が極 端 に少 な い 人 は,意 識 的 に 日光 にあ た る機 会 を 多 くしな い と骨粗 鬆 症 に な りや す くな る.紫 外 線 を 多 く浴 び る と皮 膚 が ん に な りや す くな る が,骨 粗 鬆 症 の 予 防 目的 で 日光 浴 をす る と きに は 日焼 け をお こす ほ ど紫 外 線 を浴 び る必要 が な く,天 気 の よ い 日に 少 し屋 外 に 出 る程 度 で よ く,と 要 もな い.
くに 肌 を 出 す 必
b.ス
トレ ス
不 安 や 緊 張 に よ るス トレ ス,不 満 や 怒 りに よ るス トレ ス,体 が 痛 い な どの ス ト レ ス,社 会 生 活 に お い て は い ろ い ろ な ス トレ スが あ る.こ れ らの ス トレ ス は骨 に と っ てマ イ ナ ス に働 く.人 間 は ス トレ ス を感 じ る と大 脳 お よ び 下 垂 体 か ら副 腎 に 働 きか け るホ ル モ ン が 出 さ れ,副 腎 で は ス トレス に 対 抗 す る 副 腎 皮 質 ホ ル モ ンが 分 泌 さ れ る.こ の副 腎 皮 質 ホ ル モ ンは カル シ ウ ム を尿 に 排 泄 す る こ とを促 進 して し ま うた め,体
内 の カル シ ウ ム 減 少 に 結 びつ く.
ス トレス に は い ろい ろ な種 類 が あ り,前 述 した 高 強 度 運 動 も ス トレス の一 種 と して み な す こ とが で き る.日 常 生 活 に お い て,な
るべ くス トレ ス を感 じな い 工 夫
が 必 要 で あ る.
c.喫
煙
喫 煙 は い ろ い ろ な部 位 の ガ ンや 心 筋 梗 塞 な ど の 誘 因 とな りや す い ば か りで な く,骨 粗 鬆 症 の 危 険 因子 に もな る.た ば こ に よ って 胃腸 の働 きが 鈍 くな り腸 での カ ル シ ウ ム の 吸 収 が 妨 げ られ る こ と,尿 中へ の カ ル シ ウ ム 排 泄 が 促 進 され る こ と,骨 芽 細 胞 の 機 能 を低 くす る こ とな どの理 由 の ため で あ る.ま た,女 性 に お い て は 喫 煙 に よ っ て 骨 を守 るた め に 重 要 な女 性 ホ ル モ ン の生 成 が 低 下 す る こ と も指 摘 さ れ て い る.し
d.ア
たが っ て,喫 煙 は避 け る こ とが望 ま しい.
ル コ ー ル とカ フ ェ イ ン
ア ル コー ル とカ フ ェ イ ン は 尿 中 に排 泄 す る カル シ ウ ム 量 を増 加 させ る働 きが あ る(9.3節
参 照).こ
の た め,ア
ル コー ル は1日
ビ ー ル1本
日3杯 以 内 に控 え た ほ うが 無 難 で あ る.
さ しい 骨 粗 鬆 症 の 自 己管 理,医
2) 藤 田拓 男:更
年 期 か らの 女 性 に 多 い骨 粗 鬆 症,主
ー ヒ ー は1 〔 梅村 義久 〕
参考文 献 1) 森 井 浩 世:や
程 度,コ
薬 ジ ャー ナ ル社,1999. 婦 の 友社,1995.
19 妊 娠 と 運 動
19.1 妊 婦 の 生 理 a.循
環 系の変化
妊 娠 中,循 環 血 液 量 は妊 娠 経 過 と と もに 増加 し,妊 娠32週 非 妊 娠 時 の 約1.5倍
に 達 す る.さ
頃 に ピー ク とな り,
ら に妊 婦 で は 血 漿 量 の 増加 が 赤 血 球 の 増 加 率 を
上 回 る ため ヘ マ トク リ ッ ト値(Ht)や
ヘ モ グ ロ ビ ン値(Hb)は
低 下 し,み か け
上 貧 血 状 態 を呈 す る.妊 婦 に貧 血 が 多 い の は この た め で あ る.ま た,循 環 血 液 量 の 増 加 の 結 果,子
宮 血 流 量 も非妊 娠 時 の10倍
に 増加 して お り,こ の 増加 に よ り,
普 通 の 運 動 程 度 で は 子 宮 血 流 量 の 減 少 に は 至 ら な い とさ れ て い る. 妊 婦 の 心 臓 に は 心 肥 大 と軸 転 位 が お こ る.心 肥 大 は循 環 血 流 量 に と もな い 心 臓 へ の負 荷 が 増 加 す るた め で,軸 転 位 は増 大 した 子 宮 で横 隔 膜 が圧 迫,挙 上 され る 結 果,心
臓 は左 上 方 に 上 昇 し,心 尖 部 は左 外 方 に転 位 す る.こ の ほ か の 循 環 系 の
変 化 と して は 妊 娠 子 宮 に よ り,下 大 静 脈 が 圧 迫 さ れ る た め 静 脈 環 流 速 度 が 減 少 し,そ の 結 果 静 脈 系 の 逆 流 防 止 作 用(milking
b.呼
action)を
障 害 す る.
吸器 系の変化
妊 娠 時 に は,呼 吸機 能 も変 化 す る(図19.1).主
な変 化 は深 吸 気 量 お よび 肺 活
量 の 増 加 と,予 備 呼 気 量,機 能 的 残 気 量 の減 少 で あ る.妊 娠 時 は 酸 素 消 費 量 が 増 加 す るた め 換 気 量 は 増加 す る.そ の 結 果,妊 婦 で は 過 換 気 状 態 が しば しば み られ る.
c.骨
格 系の変化
妊 娠 に よ っ て 明 らか に 変 化 が み られ るの は脊 椎 で あ る.脊 椎 は妊 娠 の 進 行 と と もに そ の彎 曲が 強 ま り,独 特 の 直 立 姿 勢 とな る.そ の 結 果,体
の 重 心 が 前 方 に移
図19.1 呼 吸 数10%増,1回 学1),p.108,中
換 気 量45%増,分
妊 娠 に よ る肺 機 能 変 化 時 換 気 量50%増(北
川 道 弘:女
性 の スポー ツ 医
外 医 学社 よ り)
動 し,平 衡 感 覚 の 変 化 を き たす(図19.2).一
方,妊 娠 中 は リ ラ キ シ ン とい う ホ
ル モ ンの 分 泌 に よ り,身 体 の各 関 節 は 弛緩 す る.こ れ らの変 化 は 当然 ス ポ ー ツ能 力 に は 少 なか らず 影 響 を与 え る は ず で あ る.
d.体
重 の変化
妊 娠 全 期 間 を通 して の 体 重 増 加 は通 常 8∼10kgく
ら い で あ り,著
しい体 重増 加 で
は各 種 の 産 科 異 常 が み ち れ る.妊 娠 初 期 で は つ わ りな どに よ り一 時 的 に体 重 減 少 が み られ る が,そ
の後 は 次 第 に増 加 す る.一 般 に妊 娠
後 半 期 で は 週 平 均300∼400g,1ヵ 1200∼1600g程
月で
度 の 増 加 が 望 ま し い.正
常
妊 娠 に お け る体 重 増 加 の 各 因 子 を 図19.3に 示 した. 19.2 妊 婦 の 運 動 処 方 妊 婦 に ス ポ ー ツ を許 可 す る際,ど を どの 程 度 の 強 さで,ど
んな運動
の くらい の 時 間行 う 図19.2
の が よ いか を指 示 す る こ とは大 切 で あ る.妊 婦 ス ポ ー ツ の ガ イ ドラ イ ン に 関 し て は1985 年ACOG(ア
メ リ カ産 婦 人 科 学 会)が
はじ
非 妊 時Aの
妊婦 の姿勢
姿 勢 は,妊
娠後半期
に妊娠子宮の重量が 矢印の方 向に か か り,平 衡 を と る た め にBの 姿 勢 と な る.
図19.3 (Hytten
め て 発 表 し,1994年
and
正 常 妊 娠 に お け る体 重 増 加 の 因 子 Leitch3)よ
り改 変,荒
木,1981よ
り)2)
に一 部 を 改 訂 して い る.わ が 国 で も平 成7年
に 日本 母 性 保
護 産 婦 人科 医 会 が 「妊 娠 中 の ス ポ ー ツ 」 と題 した研 修 ノー ト(No.53)を て い る3).こ の 研 修 ノー トは,今
作成 し
日わ が 国 で普 及 して い る妊 婦 ス ポー ツ を安 全 か
つ 効 果 的 に行 うた め の 指 導 書 とな っ て い る.
a.運
動の種類
妊 婦 に と って 好 ま しい ス ポー ツ の条 件 とは,母 児 に と って 安 全 で あ る こ と,運 動 効 果 が 得 られ る こ と,楽 し く継 続 で き るこ とな どで あ り,そ の た め に は 全 身 運 動,有
酸 素 運 動,楽
しい 運 動 で なけ れ ば な ら な い.表19.1に
表19.1 妊 娠 中 の 運動
妊 婦 に適 し た ス ポ
一 ツ な らび に不 適 な ス ポー ツ をあ げ る.
b.運
動 強 度
妊 娠 中 に 激 しい ス ポー ツ を行 えば,運 動 筋 へ 血 液 が 集 中 し,子 宮 へ の 血 流 量 が 減 少 し,胎 児 が 酸 素 不 足 に な る危 険 が 考 え られ る.そ の た め,ど の くらい まで の 強 さな ら安 全 か に つ い て い くつ か の 動 物 実 験 が行 わ れ て い る.そ の 結 果,母 とっ て 安 全 とい え る運 動 強 度 は最 大 酸 素 摂 取 量 の50∼60%,母 130∼140く
ら い と さ れ て い た(1985年
のACOGの
体 心 拍 数 で毎 分
ガ イ ド ラ イ ン)4).し か し,
そ の 後 の研 究 で は 必 ず し も この 範 囲 に 限 る こ とは な い と さ れ,1994年 の ガ イ ドラ イ ン では,こ
児に
の 心 拍 数 の 項 目は 取 り除 か れ,最
のACOG
も望 ま しい 強 度 は 妊 婦
が 不 安 な く,心 地 よ くス ポ ー ツが で き る 範 囲 で よ い と され た.
c.実
施 条 件
今 日,わ が 国 で 広 く行 わ れ て い る妊 婦 ス ポ ー ツ の 実 施 条 件 を表19.2に
示 す.
対 象 は す べ て 正 常 経 過 を と って い る妊 婦 と して い る.
d.中
止 の条件
一 た ん,ス
ポー ツ をは じめ て も,途 中 で 中止 しな け れ ば な らな い こ とは 希 で は
な い.中 止 の 理 由 は主 に 流 早 産 徴 候(子 降 気 味)や 妊 娠 中毒 症(高 宮 内 胎 児発 育 遅 延)な
血 圧,タ
宮 収 縮,性 器 出血,子
ン パ ク尿,む
くみ),胎
どの 産 科 異 常 の 出現 に よ る(表19.3).妊
テ ィ ビ クス で の 調 査 で は 約7%が
中 止 して い る.
表19.2 妊 婦 スポー ツ 実 施 条 件
宮 口開 大,児 頭 下 盤 異 常,IUGR(子 婦 水泳や マ タニ
表19.3
e.実
妊 婦 ス ポー ツ 中 止 の条 件
施 上 の留 意 点
① メ デ ィ カル チ ェ ッ ク: わ が 国 の妊 婦 ス ポ ー ツ が今 日広 く普 及 した理 由 の1 つ は 実 施 希 望 者 に メデ ィ カ ル チ ェ ッ クを徹 底 した こ とが あ げ ちれ る.こ れ に よ っ てハ イ リス ク妊 婦 を除 外 で き,安 全 に実 施 で きた た め で あ る(表19.4). メデ ィ カ ル チ ェ ッ クは 妊 娠 初 期(12∼16週)の 診)を 行 い,さ
ら に 妊 娠 中期(28∼30週)に
運 動 開 始 時 に 問 診 と診 察(内 再 度 診 察 し,流 産 早 産 の 危 険 の 有
無 や 妊 娠 中毒 症 な どの 合 併 症 の発 症 を チ ェ ッ ク して い る.ま た,実 施 当 日の メデ ィ カ ル チ ェ ッ ク も大切 で,当 な ど を 申告 させ,同
日の体 調 の 良 し悪 し,子 宮 収 縮 の 有 無
時 に 血 圧,脈
胎 動 の状 態
拍,浮 腫 の 有 無 な ど をチ ェ ッ ク して い る.少 し
で も気 分 が 悪 い と訴 え た際 は運 動 は 中止 させ る. ② 危 険 因 子: 妊 婦 ス ポー ツ で と くに注 意 を要 す るの は 体 温 の 上 昇 で あ る.一 般 に ヒ トで も動 物(ヒ
ツ ジ)で
も妊 娠 中,安 静 時 で は 胎 児(仔)体
温 は 母体
(胎)体 温 よ り0.5℃ ほ ど高 い が,母 体 運 動 時 に は 母 体 体 温 は 上 昇 し,こ の 母 児 間 の 温 度 差 は 減 少 し,や が て 逆 転 す る.そ の結 果,胎
盤 や 胎 児 で の ガ ス交 換 や 物
質 代 謝 に 影 響 を与 え,動 物 実 験 で は 中 枢 神 経 系 の 先 天 異 常 が 発 生 して い る5,6).
表19.4 妊娠運動の禁忌
た だ し,ヒ
トで は この よ うな報 告 は な い.さ
らに,母 体 体 温 の 上 昇 は子 宮 筋 中 の
エ ピネ フ リン(子 宮 筋 の 弛緩 作 用 が あ る)量 を 減 少 させ,子
宮収 縮 を お こ し,流
早 産 を誘 発 す る危 険 が あ る.こ の よ う に,妊 婦 中 の ス ポー ツ で は 常 に母 体 体 温 の 上 昇 に 注 意 し,高 温 多湿 下 で の 運 動 は 避 け,水 分 を十 分 に と り脱 水 を 防 ぐこ と を 心 が け る よ うに す る. 19.3 妊 婦 ス ポ ー ツ の 効 果 妊 婦 ス ポー ツ の効 果 の 判 定 は容 易
表19.5
妊 婦 ス ポー ツ の効 果
で な い.こ れ ま で の 経 験 か ら期 待 で き る効 果 と して は,体 重 の コ ン トロ ー ル(肥
満 の 予 防) ,体
力 の 維 持,
妊 娠 中 の 不 快 な微 症 状 の 軽 快,分
娩
時 間 の 短 縮 傾 向,妊 娠 中の ス トレ ス 解 消,マ
タニ テ ィー ブ ル ー の予 防 な
どが 認 め ちれ て い る(表19.5).な お,妊 婦 ス ポー ツ の リス クにつ い て は,ほ
とん ど報 告 が ない.そ
の理 由
は対 象 が 正 常 妊 婦 で あ る こ と,異 常 が あ れ ば途 中 で 中 止 させ て い る ため と思 わ れ る. 19.4 将 来 へ の 展 望 今 日行 わ れ て い る妊 婦 ス ポー ツ は,す べ て健 康 妊 婦 を対 象 と して い るが,今 は合 併 症 を有 す る妊 婦,た 待 さ れ て い る.と
とえ ば糖 尿 病,軽 症 高 血圧,心
後
身症 な どへ の 応 用 が期
くに 糖 尿 病 合 併 妊 婦 へ の 効 果 につ い て はす で に 多数 の 報 告 が あ
り,た とえ ばPetersonら7)は19人
の妊 娠 糖 尿 病 妊 婦 を二 つ の グル ー プ に 分 け,
一 方 は6週 間 の 食事 療 法 の み と し,他 方 は 食事 療 法 に加 え て6週 間,週3回,毎 回20分 の アー ム エ ル ゴ メ ー ター に よ る運 動 を行 わ せ て,こ の 両 者 の 糖 代 謝 を比 較 した.結 果 は 表19.6の
よ うに,食 事 と運 動 群 の 方 が 明 らか に有 効 で あ っ た と
報 告 して い る.こ の よ うな合 併 症 を有 す る妊 婦 に は ウ オー キ ン グ,自 転 車 エ ル ゴ メー ター,水
中歩 行 な ど軽 い運 動 をす す め て い る.
〔 伊 藤博 之〕
表19.6 糖 尿病妊 婦におけ る運動効果
(Peterson JL, et al.:1989)7)
参
考
文
献
1) 寺 島 芳 輝 他 編:女 2) 3)
荒 木
勤,宮
性 の ス ポ ー ツ 医 学,p.108,中
内 雅 光,後
藤 正 紀:産
日 本 母 性 保 護 産 婦 人 科 医 会 編:妊
外 医 学 社,1989.
婦 人 科 の 実 際,30(10);1543,1981. 娠 中 の ス ポ ー ツ.日
本 母 性 保 護 産 婦 人 科 医 会 研 修 ノー
ト,No.
53,p.42:1995. 4) American
Collage
exercise 5) Smith 6)
of
Obstetricians
and
Gynecologists(AGOG):Technical
Bulletin
on
in pregnancy.1985. D. W.,
Milier P.,
et al:Hyperthermia
et al:Meternal
as
a possible
hyperthermia
as
teratogenic
a possible
cause
agent.
J. Pediat,92:878,1978.
of anencephaly.
Lancet,1:519
1978. 7) Peterson levels
J. L., et al:Randomized in gestaional
diabetes.
trial Am
J.
of diet plus
Obstet
cardiovascular
Gynecol,161:415.
conditioning
on
glucose
Ⅴ 生涯 にわたる体 力づ くり
20 家庭 ででき る体 力づ くり
運 動 は,そ
の生 理 的 効 果 か ら,持 久 力 を 高め るエ ア ロ ビ ク ス,筋 肉 を強 くす る
レ ジ ス タ ンス,体
の 柔 軟 性 を高 め る ス トレ ッ チ ン グ の3つ
1).生 涯 に わ た っ て体 力 を保 持 す るに は,1つ の3つ
に分 け られ る(図20
.
の 運 動 だ け を行 うの で は な く,こ
の運 動 をバ ラ ン ス よ く,し か も定 期 的 に 継 続 して行 う こ とが た いせ つ で あ
る. 運 動 を継 続 す る に は,家 庭 で も運 動 す る習 慣 を つ け る と よい.家 庭 で は ひ と り で運 動 を行 う こ とが ほ とん ど で あ る.こ の とき注 意 す る こ とは,運 動 を安 全 で効 果 的 に 行 う とい うこ とで あ る. 20.1 エ ア ロ ビ ク ス エ ア ロ ビ クス は 心 臓 や 肺 な どの 呼 吸 循 環 器 系 に 大 きな 負 担 を か け な い で,し か も そ の 能 力 を 向上 させ る効 果 が あ る.そ の他 の効 果 と して,血 圧 の 改善,全
図20.1
体 力 づ く りの ため の3つ
の 運動1)
身持
久 力(ス
タ ミナ)の
向上,体
脂 肪 燃 焼 の 活 性 な どが あ げ られ る.
エ ア ロ ビ クス に は ウ ォ ー キ ン グ,ジ が,家
ョギ ン グ,サ イ ク リン グ,水 泳 な どが あ る
庭 で簡 単 に,し か も安 全 で効 果 的 に行 うこ とが で き る運 動 は ウォ ー キ ン グ
で あ る.
a.正
しい ウ ォー キ ング の 姿 勢
正 しい ウ ォー キ ン グ姿 勢 の要 点 は 図20.2に
示 した 通 りで あ る.
① 上 体 を ま っ す ぐに して 歩 く. ② か か とか ら着 地 す る. ③ つ ま 先 で しっ か り蹴 り出す. ④ 腕 は 大 き く振 る.
b.ウ
ォー キ ン グ の 運 動 量
ウ ォ ー キ ン グに よ っ て エ ア ロ ビ ク ス効 果 を得 る に は,体 力 や 健 康 状 態,お トレー ニ ン グ の 目的 な ど を配 慮 して,強 度.時 あ る.エ め,体
よび
間 ・頻 度 を選 択 す る こ とが重 要 で
ア ロ ビ クス と し て ウ ォー キ ン グ を行 う と き に は,軽
め の 運 動 量 か ら始
力 の 向 上 に合 わせ て ゆ っ く りと運 動 量 を増や して い くこ とで あ る.決
して
急 い で 運 動 量 を増 や さな い こ とで あ る.こ こ で は 目的 別 の適 正 運 動 量 の 目安 を紹 介 す る. ①
全 身 持 久 力(ス
タ ミナ)の 向 上 の た め の 運 動 量
図20.2 正 し い ウ ォー キ ン グ姿 勢
全 身 持 久 力,す 強 度 で,15分
な わ ち ス タ ミナ を 向上 させ た い と きに は,ま ず 最 大 の60%の
間 の ウ ォ ー キ ン グ を週3∼6回
身持 久 力 は 向上 して くる.さ ン グ時 間 は15分
間,頻
行 う.こ れ を1,2ヶ
月 続 け る と全
らに 全 身持 久 力 を向 上 させ た い と き に は,ウ
度 は 週 に3∼6回
の ま ま,強 度 を70%,80%と
ォー キ
徐 々に高
め て い く. ② 健 康 づ く りの た め の ウ ォー キ ン グ 高 血 圧,高 脂 血 症,糖 尿 病 な ど の予 防 の た め に ウ ォー キ ン グ を行 う と き は,全 身 持 久 力 を 高 め る場 合 よ り も低 め の 強 度 で,長 果 的 で あ る.ウ ォ ー キ ン グ 時 間 は30分,頻 ら始 め,次
い時 間 ウ ォ ー キ ン グ を行 うのが 効
度 は 週3∼6回
と し,強 度 は50%か
第 に 上 げ る よ うに す る.
③ ウ ェ イ トコ ン トロー ル の た め の ウ ォー キ ン グ ウ ェ イ トコ ン トロー ル の 第 一 歩 は体 脂 肪 を減 らす こ とで あ る.そ の た め に は, 運 動 強 度 が最 大 の50∼60%の 運 動 強 度 が 最 大 の60%以
軽 め の 強 度 で20分
以 上 歩 きつ づ け る こ とで あ る.
下 の と き に は脂 肪 と炭 水 化 物 は ほ ぼ 半 々 で エ ネ ル ギー
を 出 す が,運 動 強 度 が60%を
こ え る と脂 肪 の 燃 焼 が 低 下 し,炭 水 化 物 の 燃 焼 が
高 ま る.し たが っ て,体 脂 肪 を燃 や して ウ ェ イ トコ ン トロー ル す る と きに は,軽 め の 強 度 で 長 時 間 の ウ ォー キ ン グが 効 果 的 で あ る.
c.ウ
ォー キ ン グ の 強 度 推 定 法
と こ ろ で,ウ ォ ー キ ン グは最 大 の50%と に 述 べ たが,こ
の よ うな 強 度 は,ウ
か60%と
い う よ うな 強 度 で行 う よ う
ォ ー キ ン グ 中 の脈 拍 数 か ら推 定 で き る.
運 動 中 の 脈 拍 数 を 数 え る.こ れ を次 式 で 計 算 す る と最 大 の 何%で
ウォー キ ン
グ を行 っ て い るの か を知 る こ とが で き る.
脈拍数/
運 動 強 度(%)=
〈例 〉20歳
(220− 年 齢)
×100
の 人 が ウ ォー キ ン グ を行 っ て い る と き に 脈 拍 数 を調 べ た ら120拍
この と き,こ の 人 は最 大 の 何%の
で あ っ た.
強 度 で ウ ォー キ ン グ を行 っ て い た こ と に な る
か.
運 動 強度(%)= す な わ ち,こ る.
の 人 は 最 大 の60%の
120/ (220−20)
×100=60%
強 度 で ウ ォ ー キ ン グ を行 って い る こ と が 推 定 で き
20.2 レ ジ ス ク ン ス レ ジ ス タ ン ス は,筋
肉 に 抵 抗 を加 え て運 動 を行 うこ とに よ り筋 力 を 強化 す る ト
レー ニ ン グ で あ る.レ ジ ス タ ン ス に は,ダ
ンベ ルや バ ー ベ ル な どの 器 具 を利 用 す
る方 法 と,自 分 の 体 を利 用 す る方 法 とが あ る.こ こで は,家 庭 で簡 単 に行 うこ と が で き るア イ ソ メ トリ クス 法 を紹 介 す る3).
a.ア
イ ソ メ トリク ス
ア イ ソ メ ト リクス は,筋
肉 の長 さ を変 えず に筋 力 を発 揮 し て,筋 力 を強 化 させ
る トレー ニ ン グ方 法 で あ る.こ の トレー ニ ン グ方 法 は,特 別 な器 具 を必 要 と しな い し,ど こで で も一 人 で 手 軽 に行 え る利 点 が あ る.さ
らに,運 動 時 間 が 短 く,し
か も少 な い 回 数 で 筋 力 を強 化 させ る と い う利 点 もあ る.主 な 筋 肉 の トレー ニ ン グ 方 法 を紹 介 す る. ① 首 の横 の 筋 力 強 化(図20.3) 左 手 の平 を左 側 の側 頭 部 に 当 て る.手 で 頭 を押 す と きに,頭 す よ うに す る.7秒
間,全
で こ の 手 を押 し返
力 で手 と頭 で 押 し合 う.次 に,右 手 の 平 を右 側 頭 部 に
当 て て,同 様 の 運 動 を行 う. ② 首 の 後 の 筋 力 強 化(図20.4) 両 手 の 指 を 組 ん で,手 の 平 を後 頭 部 に 当 て る.頭 を わず か に 前傾 させ た状 態 で 両 手 で頭 を 押 す と同 時 に,頭 で 両 手 を押 し返 す よ うに す る.7秒
間,全
力で両 手
と頭 で 押 し合 う. ③ 肩 ・胸 の筋 力 強 化(図20.5) 胸 の 前 で 両 手 の 平 を合 わせ て,7秒
間,全
力 で お互 い の 手 を押 し合 う.
④ 肩 ・腕 の 筋 力 強 化(図20.6) 胸 の 前 で タ オ ル の 両 端 を もつ.両 間,両
手 は肩 幅 よ り少 し広 め に 開 く.全 力 で,7秒
手 で タ オ ル を左 右 に 引 くよ うに す る.
⑤ 背 部 ・腎 部 の筋 力 強 化(図20.7) うつ 伏 せ に な り,右 腕 は 前 方 へ 伸 ば し,左 腕 は まげ て 手 の 甲 を顎 の下 に 置 く. 右 腕 と左 脚 を床 か ら上 げ て,7秒
間 保 持 す る.次 に,左 腕 と右 脚 を上 げ て 同様 の
運 動 を行 う.顎 は手 か ら離 さ な い よ うに す る.
図20.3
首 の横の 筋 肉を強化 す るア イソメ トリ
図20.4
クス
図20.5
肩.胸
の筋 力を強化す るア イ
ソ メ トリ ク ス
図20.7
図20.6
首の 後 の筋 肉 を強化 す るア イ ソ メ ト リク ス
肩・ 腕 の 筋 力 を強 化 す る ア イ ソ メ トリ クス
背部 ・臀部 の 筋 力 を強 化 す るア イ ソ メ ト リ クス
図20.8
腹 部 の 筋 力 を強 化 す るア イ ソ メト リク ス
図20.9
腹 部 の 筋 力 を強化 す るア イ ソ メ ト リク ス
図20.10
上 腕 の 筋 力 を強 化 す る ア イ ソ メ ト リク ス
図20.11
大腿 の筋力 を強化 す るア イソメ トリ クス
図20.12
大 腿 の 筋 力 を強 化 す る ア イ ソ メ ト リク ス
図20.13
下腿 の筋力 を強化 す るア イソメ トリ クス
⑥ 腹 部 の筋 力 強 化(図20.8) 両 膝 を90度
に 曲 げ て,仰
向 け に 寝 る.両 手 を 前 に 突 き 出 す よ うに して 上 体 を
床 か ら上 げ る.同 時 に,両 足 を床 か ら離 す.こ
の 姿 勢 を7秒 間 保 持 す る.
⑦ 腹 部 の筋 力 強 化(図20.9) 両 膝 と腰 を90度
に 曲 げ て,仰
向 け に 寝 る.膝 の あ た りに タ オ ル を当 て,両 端
を もつ.両 膝 を胸 の方 に 引 き寄 せ る と きに,両 手 で タ オ ル を 押 す.7秒
間全 力で
押 し合 う. ⑧ 上 腕 の 後 部 の筋 力強 化(図20.10) 右 腕 の 手 の 平 を 上 に して,肘
を90度
に 曲 げ る.右 手 首 の 下 に左 手 を 当 て る.
右 腕 を伸 ば す と 同 時 に,左 腕 で 右 腕 を押 す.7秒
間,全
力 で 押 し合 う.次 に,腕
を入 れ 替 え て 同 様 の運 動 を行 う. ⑨ 大 腿 の筋 力 強 化(図20.11) 右 足 を床 か ち離 して,左 足 だ け で立 つ.手 け て も よ い.左 足 の 膝 を100度 に,足
は バ ラ ン ス を とる た め に 壁 な どに つ
ほ ど に 曲 げ る.そ の 姿 勢 を7秒 間 保 持 す る.次
を 入 れ 替 え て 同様 の 運 動 を行 う.
⑩ 大 腿 の 筋 力 強 化(図20.12) 両 足 の 裏 に タ オ ル を 回 して,両 端 を手 で もつ.膝
と腰 を90度
曲 げ る よ うに す
る.こ の状 態 か ら タオ ル を離 さ な い で両 膝 を伸 ば す よ うに す る.全 力 で7秒 間, この 姿 勢 を保 持 す る. ⑪ 下 腿 の 筋 力 強 化(図20.13) 両 か か と を上 げ て,爪 先 立 ち姿 勢 を と る.こ の姿 勢 を7秒 間保 持 す る. 20.3 ス ト レ ッ チ ン グ 体 を 柔 軟 に し て,関 う の が よ い.ス し て,そ 2∼3回
節 が 大 き く動 く よ う に す る た め に は,ス
ト レ ッ チ ン グ は,筋
の 状 態 を10∼20秒 く り 返 す.安
ら に,で
み を感 じな い程 度 ま で伸 ば
ほ ど 保 持 す る 運 動 で あ る.1つ
全 に ス ト レ ッ チ ン グ を 行 う た め に,は
み を 感 じ る ま で 伸 ば し た り,他 る.さ
肉 を ゆ っ く り,痛
トレ ッチ ン グ を行
の ス トレ ッチ ン グ を ず み を つ け た り,痛
人 に 押 し て も ら っ た り引 い て も ら わ な い よ う に す
き る だ け リ ラ ッ ク ス し て 行 う,呼
吸 も 自然 に行 う よ う にす る こ と
も た い せ つ で あ る. ス ト レ ッ チ ン グ に は さ ま ざ ま な 方 法 が あ る が,こ
こ で は 基 本 的 な ス トレ ッ チ を
① 首 の ス トレ ッチ ン グ
③ 肩 の ス トレ ッチ ン グ(1)
② 体 側 の ス トレ ッチ ン グ
④ 肩 の ス トレ ッチ ン グ(2)
⑤ 背 ・腰 の ス トレ ッチ ン グ
⑥ ふ くら は ぎの ス トレ ッチ ン グ
⑦ 太 も も後 面 の ス トレ ッチ ン グ
⑧ 全 身 の ス トレ ッチ ン グ
図20.14
部 位 別 の 基 本 的 な ス トレ ッチ ン グ
紹 介 す る(図20.14)5). ① 首 の ス トレ ッチ ング 両 手 を組 ん で 後 頭 部 に 当 て,頭
を前 に傾 け る.そ の姿 勢 を保 つ.
② 体 側 の ス トレ ッチ ング 頭 の上 で 両 手 を組 ん で,上 体 を左 に倒 す.そ
の姿 勢 を保 持 す る.反 対側 も同様
に行 う. ③ 肩 の ス トレ ッチ ング(1) 右 腕 を首 の 前 に もっ て き て,そ の肘 に 左 手 を 当 て る.左 手 を体 の 方 へ 引 き寄 せ て,右
の肩 を伸 ば す,反
対 側 も同様 に行 う.
④ 肩 の ス トレ ッ チ ング(2) 右 腕 を頭 の 後 ろ に も って い き,肘 を曲 げ る.右 肘 に左 手 を当 て る.右 肘 を左 肩 の 方 へ 引 く.そ の 姿 勢 を保 持 する.反 ⑤ 背.腰
対 側 も同様 に行 う.
の ス トレ ッチ ン グ
か が み こ ん だ 姿 勢 で 両 膝 の 間 に体 を埋 め る.背 中 をで き るだ け丸 く して,腰
も
低 く保 つ. ⑥ ふ くらは ぎの ス トレ ッ チ ング 壁 に両 手 をつ い て 足 を前 後 に 開 き,前 の 足 の膝 を 曲 げ て 腰 を前 方 へ 押 し出 して い く.両 足 と も,つ
ま先 は ま っす ぐ前 に 向 け,足
の裏 は 床 に つ け て お く.反 対 側
も 同様 に行 う. ⑦ 太 も もの 後 面 の ス トレ ッ チ ング 仰 向 け に 寝 て 左 膝 を抱 え て胸 の 方へ 引 き寄 せ る.右 脚 は 伸 ば した ま ま に して お く.背 中 は床 に つ け た ま ま に す る.そ の 姿 勢 を保 持 す る.反 対 側 も同 様 に行 う. ⑧ 全 身 の運 動 仰 向 け に寝 て,両 す.全
脚 は ま っ す ぐに して つ ま先 ま で伸 ば す.両
身 を よ く伸 ば して,そ
手 は頭上 に伸 ば
の姿 勢 を保 持 す る.
〔 湯浅 景元 〕
参考文献 1) 湯浅 景 元 監修:ダ 2) 湯浅 景 元:筋
イ エ ッ トウ ォ ー キ ン グ,p.12-13,女
子栄 養 大 学 出版 部,1998.
肉 ― 筋 肉 の構 造 ・役 割 と筋 出 力 の メ カニ ズム,p.151-212,山
海 堂,1998.
21 スポーツを利用 した体 力づ くり
ス ポー ツ に は,国
民 が 生 涯 に わ た り健 康 で明 る く充実 し た生 活 を送 る た め に 日
常 的 に 実 施 す る 「生 涯 ス ポー ツ」 が あ る.大 学 生 時 代 か ら ス ポー ツ に 親 しみ,生 涯 に わ た っ て健 康 を維 持 す る ため の 運 動 習 慣 を養 う こ とが 望 まれ る.
21.1 体 力 づ く り を 目指 したス ポ ー ツ の 習慣 化 生 涯 学 習 で 何 を 学 び た い か を調 査 した 結 果 が 紹 介 さ れ て い る2).20歳 代 か ち 60歳 以 上 の 人 た ち の 中 で 健 康 の た め に ス ポ ー ツ を行 い た い と答 え て い る人 は 60%に
達 し て い る.単
に長 生 き す る だ け で は な く,健 康 で 長 生 き し,余 暇 時 間
を充 実 した もの に した い,と
い う個 人 的 願 いが 多 くの 人 た ち に 浸透 して い る.活
動 的 な生 活 を送 る ため に は,生 涯 に わ た って 体 力 を維 持 す る 必要 が あ る.そ の た め の 方 法 の1つ に ス ポー ツ の実 施 が あ る. ス ポー ツ に は体 力 の 向上,精 る(表21.1).若
神 的 ス トレ スの 解 消,社
い 頃 か ら ス ポー ツ に親 しみ,スポー
会 参 加 とい った 効 果 が あ
ツ を 習 慣 化 す る こ と も体 力
づ く りに 役 立 つ.
21.2 生 涯 にわ た る体 力 づ く りの た め の ス ポー ツ 多 くの ス ポ ー ツ は,勝 敗 を重 視 しな い で,楽 を 目的 に す れ ば,か
しみ な が ら体 力づ く りを行 う こ と
な りの 高 齢 まで行 うこ とが で き る.こ こ で は,主
な生 涯 ス ポ
ー ツ の 実 践 方 法 に つ い て紹 介 す る.
a.生
涯 ス ポ ー ツ の 種 類 と実 践 方 法
い ろ い ろ な種 類 の 生 涯 ス ポ ー ツ が 紹 介 され て い る2).そ れ ぞれ の ス ポ ー ツ の特 徴 や 方 法 を簡 単 に ま とめ て み よ う.
表21.1
1)サ
い ろ い ろ な ス ポー ツ の特 性(波
多 野,1979年
よ り一部 改 変)
ッ カ ー
サ ッ カ ー は,常
に ジ ョ ギ ン グ で 体 を移 動 さ せ,自
全 力 で 走 っ て,キ
ッ ク す る.有
ッ シ ュ と キ ッ ク)を
酸 素 運 動(ジ
分 の と こ ろ に ボー ル が 来 た ら
ョ ギ ン グ)と
合 体 さ せ た 運 動 を行 う こ とが で き る.ま
ル す る と き に は バ ラ ン ス を と ら な け れ ば な ら な い の で,神 も で き る.た グ,レ
だ し,サ
ジ ス タ ン ス,ス
筋 力 トレ ー ニ ン グ(ダ た,ボ
ー ル を ドリブ
経 系 を活 性 化 す る こ と
ッ カ ー の 運 動 量 は か な り 高 い の で,日
ご ろ か ら ジ ョギ ン
トレ ッ チ ン グ と い っ た 基 本 的 な ト レ ー ニ ン グ を 行 っ て お く
こ と が 必 要 で あ る. 2)ゴ
ル
ゴ ル フ は,1ラ
フ ウ ン ド回 る と お よ そ6kmを
と し て の 効 果 が 期 待 で き る.キ
歩 く こ と に な る の で,有
酸素 運動
ャ デ ィ ー や カ ー ト を 利 用 し な い で 回 れ ば,8kg
ほ ど あ る バ ッ グ を 自 分 で か つ い で 歩 く こ と に な る の で,運
動 量 は さ ら に 増 し て,
持 久 力 の 向 上 や 肥 満 予 防 な ど に効 果 的 に な る. コー ス に 出 るの で は な く,練 習 場 で テ ィー シ ョ ッ トの 練 習 を30分 行 っ た と き に は120∼150kcalの 100∼110拍/分
エ ネ ル ギ ー を 消 費 す る.し
か し,心 拍 数 は 平 均 す る と
で あ り,有 酸 素 運 動 と して は 強 度 が 低 い.し
で テ ィ ー シ ョ ッ トを 行 う と き に は,テ
た が っ て,練 習 場
ィ ー シ ョ ッ トの 練 習 を 終 え た あ と に
15∼20分 ほ ど の ジ ョ ギ ン グ を併 用 す れ ば持 久 力 を 向上 させ る こ とが で きる. ゴ ル フ は 軽 い運 動 で安 全 だ と思 わ れ が ち で あ るが,ゴ
ル フ場 や ゴル フ練 習 場 で
の 死 亡 事 故 例 が 多 く報 告 さ れ て い る1).そ の 原 因 の 多 くが 心 不 全 や 心 筋 梗 塞 とい っ た心 臓 循 環 器 系 に あ る.こ の よ うな 事 故 を防 ぐに は,ゴ
ル フ を行 う前 に は十 分
に ウ ォー ミン グア ップ を行 って お くこ と,プ レー 中 に 十 分 な水 分 を補 給 す る こ と な どが 必 要 で あ る. 3)テ
ニ
テニ ス は,サ
ス ッ カー,バ
ス ケ ッ トボ ー ル,野 球 な どの よ うに相 手 との 接 触 が な
い の で,ケ ガ をす る こ とは 比較 的 少 な い. 中 級 ク ラ ス の 人 同士 が ス トロー クで ボー ル を打 ち合 う と,心 拍 数 は150拍/分 以 上 に達 す る こ と もあ る.こ れ は,全
身持 久 力 を 高 め る の に は 十 分 な 強 度 で あ
る.し か し,技倆 が 低 い 人 の場 合 に は ボー ル を打 ち合 う こ とが む ず か し く,運 動 量 も あ ま り上 が ら な い.ス
トレ ス解 消 や 社 交 に は効 果 的 か も しれ な い が,体
力を
高 め る ほ どに 強 度 を上 げ る こ とが で きな い.こ の よ う な場 合 に は,テ ニ スの 熟練 者 と未 熟 練 者 を組 み 合 わせ て ペ ア を つ く り,ダ ブ ル ス を行 う よ うに す れ ば よ い. 4)水
泳
水 泳 は,全 身 の 筋 肉や 呼 吸循 環 器 系 を活 動 させ るの で,体 力 づ く りに は 適 した 運 動 の1つ
だ と考 え られ て い る.体 力づ く りに水 泳 を利 用 す る場 合 に は,心 拍 数
が115∼140拍/分
くらい に な る強 度 で,1回20分
以 上,週2回
行 うの を 目安 に
す る と よい と考 え られ て い る.こ の 強 度 は,「 や や きつ い 」 ∼ 「きつ い」 と感 じ る程 度 で あ る. 泳 ぐこ とが で き な い 人 は,水 の プ ー ル で,水
中 で ウ ォ ー キ ン グ を行 えば よ い.腰
くら いの 深 さ
中 を ウ ォー キ ン グ す る の で あ る.こ の と き心 拍 数 は140拍/分
(「や や きつ い」 ∼ 「きつ い 」 と感 じ る程 度 の 強 度)を
維 持 し,20分
間 ウォー キ
ン グ を行 う.こ れ に よ っ て,全 身 持 久 力 を高 め る こ とが で き る. また,水
中 で い くつ か の エ クサ サ イ ズ を行 うこ とに よ り筋 力 を強 化 させ る こ と
も で き る3). ① 肩 の 筋 力強 化(図21.1):両
膝 を屈 曲 して,肩
まで 水 に漬 か る.そ の 姿 勢
を保 持 し て,両 肘 を90度 に 曲 げ る.ラ ン ニ ン グ の よ うな 腕 振 りを水 中 で 力 強 く 行 う.10回
×3セ ッ トく り返 す.
② 腹 部 の 筋 力強 化(図21.2):背
をプ ー ル 壁 に つ け て 立 ち,上 半 身 が 動 か な
い よ うに 両 腕 で 固 定 す る.両 脚 をそ ろ え て 立 っ た 状 態 か ら,腰 が90度 ま で 両 脚 を上 げ た ら,下 ろす.こ
の よ う な両 脚 の 上 げ 下 ろ し を10回
に曲が る ×3セ ッ ト
行 う. ③ 背 部 ・智 部 の筋 力 強 化(図21.3):プ
ー ル 壁 に 向 い て 立 ち,両 手 で プ ー ル
壁 を もっ て 上 体 を固 定 す る.両 脚 を そ ろ え て立 っ た姿 勢 か ら,一 方 の脚 を膝 を伸 ば して 後 ろへ 上 げ た ら,下 ろ す.脚 の 上 げ 下 ろ し を10回 方 法 で 反 対 の脚 で 運 動 を行 う.左 右 それ ぞれ3セ ④ 大 腿 の 筋 力 強 化(図21.4):背
く り返 す.次 に 同 様 の
ッ ト行 う.
をプ ー ル 壁 に つ け て 立 ち,上 半 身 が 動 か な
い よ うに 両 腕 で 固 定 す る.両 膝 を曲 げ て,肩
まで水 中 に漬 か る よ うにす る.こ の
姿 勢 か ら,両 膝 が 完 全 に伸 び る まで 両 脚 を 同 時 に も ち上 げ た ら,下 ろす.脚 げ 下 ろ し を10回
く り返 す.休 み を は さん で3セ
⑤ 下 肢 の 筋 力 強 化(図21.5):肩
ッ ト行 う.
まで 水 に 漬 か る ま で両 膝 を 曲 げ た ら,全 力
で真 上 に ジ ャ ン プ す る.こ の ジャ ンプ を休 み をは さん で10回 5)サ
の上
く り返 す.
イ ク リ ング
サ イ ク リン グは,サ
ドル に体 重 をか け る の で,膝
な どに 大 き な負 担 が か か らな
い で運 動 で き る と い う利 点 が あ る.そ の ため に,肥 満 の 人 で も運 動 を長 時 間 続 け る こ とが で き る. サ イ ク リン グは,自 転 車 を利 用 す る の で,ウ で は な い.し
ォー キ ン グ や ジ ョギ ン グ ほ ど手 軽
か し,サ イ ク リン グ を行 うこ とに よ り,楽 しみ なが ら心 肺 機 能 を強
化 で き る し,自 然 の 中 を 自転 車 で 走 る こ と に よ り ス トレ ス を解 消 す る効 果 もあ る. 6) フ ラ イ ング デ ィス ク プ ラ ス チ ッ ク製 の 円盤(フ
ラ イ ン グ デ ィ ス ク)を 投 げ るス ポー ツ で あ る.フ
イ ン グ デ ィ ス クの 持 ち方 に は い ろ い ろ な 方 法 が あ る(図21.6).適 投 げ 方 で,飛
距 離 や 正 確 性 を楽 しむ ス ポー ツ で あ る7).
ラ
当な持 ち方 と
図21.1
肩 の 筋 力 を強 化 す る水
図21.2 腹 部 の 筋 力 を 強 化 す る 図21.3
中運 動
図21.4
水 中運 動
大 腿 の 筋 力 を強 化 す る水 中運 動
図21.6
背 部 ・腎部 の 筋 力 を 強 化 す る水 中運 動
図21.5 下肢の筋力 を強化す る水 中運動
フ ラ イ ン グ デ ィ ス クの持 ち方
7)グ
ラ ウ ン ドゴ ル フ
ル ー ル の 基 本 は ゴ ル フ と同 じ で あ る.目
標 の ホ ー ル ポ ス トに 少 な い 打 数
で ボ ー ル を 入 れ た 方 が 勝 ち と な る.直 径6cmの
ボ ー ル を木 製 の ス テ ィ ッ ク
で 打 ち な が ら プ レ ー す る(図21.7). 庭 な どで手軽 に で き るス ポー ツで あ る.コ
ー ス は 自 分 た ち で 適 当 に つ くれ
ば よ い(図21.8). 図21.7
グ ラ ウ ン ドゴ ル フ
ボ ー ル を 押 し 出 し た り,か と き は2打
と 数 え る,ホ
は合 計 打数 か ら3打 差 し 引 い て 計 算 す る,紛 失 ボ ー ル は1打
き寄 せ た
ール インワン
を与 え る な どの ルー
ル が あ るが,自 分 た ちで 適 当 に ル ー ル を決 め て楽 しむ こ と も よい. 8) パ ー ク ゴ ル フ ゴル フ と同 様 に で き る だ け 少 な い打 数 で ボ ー ル を ホー ル に 入 れ る こ と を競 うス ポー ツ で あ る.普 通 の ゴ ル フ と異 な っ て,パ ー ク ゴル フ で は1本 の クラ ブ だ け を
図21.8
グラ ン ドゴル フ の コー スの例
使 用 す る.パ
ー ク ゴ ル フ の ク ラ ブ の 形 は,
ゴ ル フ の ウ ッ ドの 先 を 平 ら に し た よ う で あ る.ク
ラ ブ の 打球 面 に は傾 斜角 度 が つ い て
い な い の で,ボ
ー ル を 高 く打 ち 上 げ る こ と
は で き な い.ま
た,ボ
い る の で,ホ る.ホ
ー ル の 直 径 は20cmを
で あ り,普
図21.9
パ ドル テ ニ ス の ラ ケ ッ ト
ー ル ま で の 距 離 は 短 くで き
1ラ ウ ン ドは18ホ
9)
ー ル も大 き くで きて
標 準 に し て い る.
ー ル,パ
ー66が
基 本 で あ る.1ホ
ー ル の 距 離 は20∼100m
通 の ゴ ル フ よ り も狭 い 場 所 で 楽 し む こ とが で き る.
パ ドル テ ニ ス
ラ ケ ッ ト は,パ
ドル と い う 卓 球 よ り も大 き く,テ
す る(図21.9).コ
ニ ス よ り も小 さ な も の を使 用
ー トは テ ニ ス コ ー トの 半 分 で あ る.バ
用 す る こ と も で き る.ボ サ ー ブ は1回
ド ミ ン ト ン コ ー トを 使
ー ル は 公 式 テ ニ ス に 似 た 専 用 ボ ー ル を使 用 す る.
し か で き な い が,腰
よ り高 い 打 点 で 打 つ こ と は で き な い.サ
は,ラ
イ ン 後 方 で あ れ ば バ ウ ン ド させ て も,ノ
し,ど
ち ら の 打 ち 方 を す る に せ よ,セ
ーブ
ー バ ウ ン ドで 打 っ て も よ い.た
だ
ッ ト中 は そ の 打 ち 方 を変 え て は い け な い.
4ポ イ ン ト先 取 し た 方 が 勝 ち に な る が,得
点 の 数 え 方 は 硬 式 テ ニ ス と同 じ で あ
る. 10) イ ン デ ィ ア カ ゲ ー ム は バ ト ミ ン ト ン コー トで,バ
ト ミ ン トン の ネ ッ トを 利 用 し て 行 う.大
な 羽 を素 手 で 打 ち 合 っ て 得 点 を競 う ス ポ ー ツ で あ る.ル ル に 準 じ て い る.1チ 回 だ け 打 つ.変 11) ダ
で ゲ ー ム を 行 う.サ
化 球 は 認 め ら れ な い.1セ
ー
直 径46cmの ー ツ であ る
ー ム4名
制 バ レー ボー
ー ビ ス は ア ン ダ ー ハ ン ドで1
ッ トで15点
先 取 し た 方 が 勝 ち と な る.
ツ 的(ダ
.的
ー ル は6人
き
ー ツ ボ ー ド)に3本
の 矢 を 投 げ て,得
は ス ロ ー イ ン グ ラ イ ン か ら237cm離
点 を競 い合 う ス ポ
れ た 壁 に,床
か ら173cm
の 高 さ の と こ ろ に と りつ け る. 最 初 に 矢 を1本
ず つ 投 げ て,中
は も う一 度 投 げ る.3本 た と き は 無 効 に な る.ダ に 刺 さ る と20点,20の
の 矢 を1本
心 に 近 く投 げ た 方 が 先 攻 とす る.も ず つ 投 げ て 交 代 す る.ボ
ー ツ ボ ー ド に は 数 字 が 表 示 さ れ て い る.20の ダ ブ ル に 刺 さ る と40点,20の
し同 じとき
ー ドに 刺 さ ら な か っ シ ングル
ト リプ ル に 刺 さ る と60点
に な る.中 心 の 円 に刺 さ る と,シ ン グ ル ブ ル で は25点,ダ
ブ ル ブ ル で は50点
と
な る. 一 般 的 な ゲ ー ム の方 法 は,持
ち点 をあ らか じめ 決 め て お き,刺 さ っ た得 点 を差
し引 き な が ら早 く0点 に な っ た方 が 勝 ち とな る もの で あ る.
〔 湯浅 景元 〕
参 考文献 1) 吉 原
紳:ゴ
ル フ場 ・ゴル フ練 習 場 に お け る安 全 対 策 の 実 態(坂
の か― 運 動 中 の 突 然 死 を防 ぐに は―),メ
本 静 男 編:スポ
2) エ イ ジ ン グ総 合 研 究 セ ン ター:高
齢 社 会 の 基礎 知 識,中
3) 馬 場 哲 雄,一
涯 ス ポー ツ の さ ま ざ ま,一 橋 出 版,1997.
番 ヶ瀬 康 子 監 修:生
4) J.A.ク ラ セ ベ ッ ク,D.C.グ 大修 館 書 店,1993.
ラ イ ム ズ;柴
ー ツ で なぜ 死 ぬ
トロ ポ リタ ン,1995.
田 義 晴,神
央 法 規 出 版,1993.
戸 周監 訳:楽
し い ウ ォー ター エ クサ サ イ ズ,
索 ア
行
RPE 132 ア イ シ ン グ 117 ア イ ソ メ トリ ク ス 73,187 active recovery 115 ア ジ リテ ィデ ィ ス ク 62 ア スパ ル テ ー ム 128 ア セ トア ル デ ヒ ド 12 圧 痛 テ ス ト 136 圧 迫 骨 折 172 ア ミ ノ酸 80,83,109 ア ル コー ル 12,94,156 ア ン モ ニ ア 137 異化 過 程 84 1日 あ た り推 奨 許 容 量 86 一過 性 の疲 労 104
引
塩 分 123,125
ク レア チ ン リ ン酸 88
黄 体 164 黄 体 化 ホ ル モ ン 162
月 経 異 常 107,166,167 月 経 困 難 症 164,165 月 経 周 期 162,163,165,166, 167
黄 体 ホ ル モ ン 163,165 オー バ ー ス ピー ド トレー ニ ン グ 65 オー バ ー トレ ー ニ ン グ 130 オ リゴ糖 127 温 熱 療 法 118 力
行
カー フ ・レイ ズ22,73 活動 代 謝 量 70,73 カ テ コー ル ア ミ ン 137
飲 酒 12,156
果 糖 105 下 半 身 肥 満 68 カ フ ェ イ ン 95 過 負荷 の 原理 19
イ ン ス リ ン 109 イ ン ス リ ン様 成 長 因 子 85 イ ン タ ー バ ル ・ト レ ー ニ ン グ 42
体 ほ ぐ し 48 カ ル シ ウ ム 90,105,107 カ ル シ トニ ン 29,90 間 質 液 122
イ ン デ ィ ア カ 199
関 節 可動 範 囲 148 関 節 柔 軟性 137
ウ ェ イ トコ ン トロー ル 186 ウ ォ ー キ ン グ 185,186 腕 立 て 伏 臥 腕 屈 伸 25 運 動 強 度 179 運 動 習 慣 12 運 動神経 系の反射機 能遅 延 148
基 礎 代 謝 量 70,72 喫 煙 13,151,175 希 発 月経 166 脚 部 の運 動 73 逆 流 防 止 作 用 176 休 養 114,119
運 動 性 貧 血 106,169,171 運 動 性 無 月 経 107 運 動 療 法 71
筋 持 久 力 35 筋 柔 軟 性 137 ― の低 下 148
エ ア ロ ビ ク ス 184
筋 肉量 72 筋力 4
栄 養 78 栄 養 素 78 ADH 123 エ ス トロゲ ン 163
クエ ン 酸 105 下 り坂 走 65 グ ッ ドモー ニ ン グ ・エ ッ クサ サ
SPF 144 エ ネ ル ギー 供 給 76 エ ネ ル ギ ー 源 96 エ ネ ル ギ ー 消 費 量 70,98 エ ピ ネ フ リ ン 181 FSH 162 エ ラ ス チ ン 141 LH
163
イ ズ 24 ク ラ イ オ セ ラ ピー 154 グ ラ ウ ン ドゴ ル フ 196 グ リコ ー ゲ ン 108 グ リ コ ー ゲ ン ・ロ ー デ ィ ン グ 100 クー リン グダ ウ ン 115 グ ル コ ー ス 127
月 経 前 症 候 群 165 血 漿 122 欠 食 11 血 中 ア ル コー ル 濃 度 156 ケ トス テ ロ イ ド 133 ケ ラ チ ノサ イ ト 140 牽 引 トレー ニ ン グ 65 健 康 障 害 68 健 康状態 7 膠 原 線 維 141 抗 酸 化 剤 98 高 糖 質 食 100 抗 利 尿 ホ ル モ ン 123 呼 吸機 能 176 骨 塩量 90,172 骨 格 筋 19 骨 格 の 配 列 異 常 148 骨 芽 細 胞 28 骨 粗鬆 症 27,107,172 骨 密 度 30,109 個別性の原則 5 コラ ー ゲ ン 141 コル チ ゾ ー ル 137 ゴル フ 194 コ レ ステ ロ ー ル 80,110 コン デ ィシ ョニ ン グ 131 コン デ ィ シ ョ ン 131 コン トロー ル テ ス ト 137 サ
行
サ ー キ ッ ト ・ トレー ニ ン グ 40 サ イ ク リン グ 196 最 終 生 産 物 阻 害 86 最 大 骨塩 量 173 最 大 酸素 摂 取 量 36 細 胞 外 液 122 細 胞 内 液 122 サ ウナ スー ツ 127 サ ッカ ー 194 サ プ リ メン ト 109 サ ン ス ク リー ン剤 143 サ ン タ ン 143
サ ンバ ー ン 142
生 活 習 慣 病 91 生 活 パ ター ン 7
DIT DXA法
GnRH 162,163 シ ー ク ェ ン ス ・ト レ ー ニ ン グ
性 腺 刺 激 ホ ル モ ン放 出 ホ ル モ ン 162 成 長 因子 85 成 長 ホ ルモ ン 3,85
低 血 糖 109 低 糖質 食 100 テ ー ピ ン グ 153 テ ス トステ ロ ン 133,137
静 的 ス トレ ッチ ン グ 116 性 ホ ル モ ン 33 清 涼 飲 料 水 127 世 界 保 健機 構 85 積 極 的 休 息 115
鉄 不 足 108 鉄 分 126 テ ニ ス 195
40 色 素 細 胞 140 持 脂 視 脂 循 生 脂
久 力 3,35,95 質 79,107 床 下 部 123 肪 76 環 血 液 量 176 涯 ス ポー ツ 193 溶 性 ビ タ ミン 81
上 半 身 肥 満 68 消 費 エ ネ ル ギー 量 70 ジ ョギ ン グ 40
赤血 球破 壊 170 摂 取 エ ネ ル ギー 量 70 セ ル フ チ ェ ッ ク 136 線 維 芽 細 胞 141 全 身 運 動 178
食事 78 食事 制 限 71 食事 誘 発 生 体 熱 産 生 110 食 事 療 法 71 食 生 活 11
全 身持 久 力 35,40,46,185 漸進性 の原則 5 全 面性 の 原 則 5
食 物 繊 維 95,110 初 経 162 女 性 ホ ル モ ン 29,107,173,174 暑 熱順 化 125
速 筋 線維 19
身 長 2 伸 張 反射 117 浸 透 圧 受 容 器 123 真 皮 141
体 液 122 体 温 125 ― の 上 昇 180
水 泳 195
体重 3 体 重 増 加 177 体力 2
水 分 123 水 分 摂 取 101 水 溶 性 ビ タ ミ ン 81 ス ク ワ ッ ト 20 ス ク ワ ッ ト ・ジャ ンプ 21 ス タテ ィッ ク ス トレ ッチ ン グ 116 ス タ ミナ 95 ス タ ンデ ィ ン グ ・バ ッ ク ・キ ッ ク 22 ス タ ンデ ィ ン グ ・プ レ ス 25 ス タ ンデ ィ ン グ ・レ ッ グ ・レ イ ズ 21 ステ ビア 抽 出物 127 ス トレー トア ー ム ・レ イ ズ ・ア ン ド ・ダ ウ ン 25 ス ト レ ッ チ ン グ 46,48,116, 150,184,190 ス ポ ー ツ 飲 料 127 ス ポ ー ツ 性 貧 血 98 ス ポ ー ツ トレー ニ ン グ 167 ス ポー ツ の 習 慣 化 193
続 発性 無 月経 166
夕
体 脂 肪 70,166 休 脂 肪 率 67,69,111
体 力 づ くり 184,193 体 力 トレー ニ ン グ 4 ダウ ン ヒルスプ リン テ ィ ン グ 65 脱 水 101,123 た ば こ 157 WHO 86 タ ンパ タ ンパ タ ンパ タン パ
糖 質 76,79,108 糖 新 生 109 動 的 ス トレ ッチ ン グ 116 糖 尿病 合併 妊 婦 181 トー イ ン グ 65 ド ッ トド リル マ ッ ト トレ ー ニ ン グ 64 トラ ン ク ・カ ー ル 23 トラ ン ク ・ツ イ ス ト 23 トレー ニ ン グ 足 底 の 感 覚 を 高 め る― 151 協調 性 を高 め る― ― の 原則 5
行
ダー ツ 199
ク合 成 84 ク質 80,83,93,107 ク質 代 謝 84 ク分 解 84
弾 力 線 維 141 遅 筋 線維 19 窒 素 バ ラ ン ス 84 中 枢神 経 系 の先 天 異 常 180 中 枢性 疲 労 97 超 回復 114,138 長 時 間運 動 96 調 整 力 46
110 30
152
トレー ニ ン グ効 果 36,37 ナ
行
ニ コ チ ン 13,158 二 次 チ ェ ッ ク 136,137 乳 酸 137 乳 糖 92 尿 検 査 137 妊 婦 ス ポー ツ ―の ガ イ ドラ イ ン 177 ―
―の 効 果 181 の 実 施 条 件 179 ―の 中 止 の 条 件 179 ―の リ ス ク 181
熱 け い れ ん 126 熱 失神 126 熱 射病 126 熱 中症 126 熱疲 労 126 熱放 散 125 ノン レム 睡 眠 119 ハ
行
パ ー ク ゴル フ 198 パ ー トナ ー ス ト レ ッ チ ン グ 116 ハ イ イ ン パ ク ト ・ トレー ニ ン グ
33
背 部 の 運 動 73 破 骨 細 胞 28 発 汗 124 発 が ん物 質 158 パ ドル テ ニ ス 199 バ リス テ ィ ッ ク ス トレ ッチ ン グ 116 反 応時 間 56 反 復 性 の 原 則 5 PA
145
フ ェ イ ン ト動 作 56
無 月 経 166,167
不 感 蒸散 123 副 甲状 腺 ホ ル モ ン 29,90 副 腎皮 質 ホ ル モ ン 87,175
無 効 発 汗 125
腹 部 の運 動 72 ブ ドウ糖127 プ ラ イマ リチ ェ ッ ク 136
メ デ ィ カ ル チ ェ ッ ク 180
フ ラ イ ン グ デ ィ ス ク 196 フ ラ ク トー ス 127 プ ロ ゲ ス テ ロ ン 163 プ ロ テ イ ンパ ウ ダ ー 109
免 疫 グ ロ ブ リ ン 137
BMI法 68 BCAA 97 ビ タ ミン 81,107
プ ロ ポー シ ョン 17
― ビタ ビタ ビタ ビタ
ペ ア ー ・ス トレ ッチ ン グ 53
の種 類 82 ミンK 93,174 ミンC 105 ミンD 92,93,174 ミンB群 87,104
ヒ ドロ キ シ コル チ コ ステ ロ イ ド 133 肥 満 67,69 日焼 け どめ 143 標 準 体 重 68 表 皮 140 疲 労 113 疲 労 骨 折 32,33 疲 労 困 憊 96 貧 血 106,108,169 敏 捷 性 56
分 岐 鎖 ア ミノ酸 84,97,105
メ カ ニ カ ル ス ト レ ス 29
メ フ ニ ン 140 メ ラ ノ サ イ ト 140
モ デ リ ン グ 28 ヤ
行
有 効 発 汗 125 有 酸 素 運 動 178
閉 経 173 ヘ マ トク リッ ト値 169 ヘ モ グ ロ ビ ン 169 ヘ モ グ ロ ビ ン濃 度 111
UVA
141
UVC
141
UVB
141 ラ
行
ラ イ フ ス タ イル 7
防 衛 体 力 46 母 体 心 拍 数 179 骨 の リ モデ リン グ 91 POMS 132 保 養 119,121 マ
行
ラ ダ ー ト レ ー ニ ン グ 58 卵 胞
163,164
卵 胞 刺 激 ホ ル モ ン 162
リ モ デ リ ン グ 28 リ ラ キ シ ン 177
マ ー カ ー コ ー ン トレ ー ニ ン グ
レ ジ ス タ ン ス 184,187
62 マ ッサ ー ジ 117
レ ジ ス タ ン ス ・ト レ ー ニ ン グ 34,187 レ ッ グ ・カ ー ル 21
フ ィ ー ドバ ッ ク 163 フ ィ ー ドバ ッ ク シ ス テ ム 162 フ ィ ッ トネ ス テ ス ト 137
ミニ ハ ー ドル トレー ニ ン グ 60 ミネ ラ ル 81,107
レ ペ テ ィ シ ョ ン ・ 卜Lー 42 レ ム 睡 眠 119
ニ ン グ
編 者略 歴 湯 浅 景 元(ゆ
あさ ・か げ もと)
1947年 愛知 県に生 まれ る 1971年 中京大 学体育 学部卒 業 1975年 東京教 育大学 大学院修 士課程修 了 現 在 中京大 学体育 学部.教 授 青 木 純 一 郎(あ
お き ・じゅん い ちろ う)
1938年 東京に 生 まれる 1961年 東京教育 大学体 育学部 卒業 1969年 東 京教育 大学 大学院修 士課程修 了 現 在 順 天堂大 学 スポー ツ健 康科学 部 ・教授 福 永 哲 夫(ふ
くなが.て つ お)
1941年 徳 島県 に生 まれ る 1969年 徳 島大学 学芸学 部卒業 1971年 東京大学 大学院博 士課 程修 了 現 在 早稲 田大 学人 間科 学部 ・教授 東 京大学 名誉教授
体 力 づ く りの た め の ス ポ ー ツ科 学 2001年4月10日
定価 は カバーに 表示
初 版 第1刷
2004年4月1日
第3刷
編
者 湯 青
浅 木
景 純
福
永
発行 者 朝
倉
発行 所 会 株社 式 朝
倉
元 一
郎
哲
夫
邦
造 書
店
東京 都新 宿 区 新小 川 町6-29 郵 便 番 号162-8707 電 話 03(3260)0141 FAX 03(3260)0180 http://www.asakura.co.jp
〈 検 印省 略 〉 C2001 ISBN
〈 無 断 複 写.転 4-254-69036-3
載 を禁 ず 〉 C 3075
シナ ノ ・渡 辺 製 本 Printed
in Japan