C.シ
ュ ミッ ト
政治的なものの概念 田 中 浩 / 原 田 武雄 訳
未來社
C.シ
ュ ミッ ト
政治的なものの概念 田 中浩 / 原 田 武雄 訳
未來 社
政 治 的 な も の の概 念
凡
例
一 、 本 訳 書 は 、 CarlSchm i tt, Der Begri ff des Poli tisc hen,Duncker & Hum blot . M 〓nchen. 1932. の
全 訳 で あ る 。 こ の 一九 三 二 年 版 は 、 一九 六 三 年 に 同 じ 出 版 社 よ り 再 刊 さ れ た の で 、 こ れ も 参 照 し た 。
二、 一九 三 二年 版 と 六 三 年 版 の間 には 、 内 容 上 の変 化 は ま った く な いが 、 パ ラグ ラ フ の 切り 方 、 註 のナ ン
バ ー の つけ た 方 に若 干 の異 動 が み ら れ る。 本 訳書 で は こ の点 に つい て は 、読 者 の便 宜 を 考 え て 、 入手 し や す い六 三 年 版 によ った。 三 、 訳 文 中 の ︹ ︺ の部 分 は 、 訳 者 の挿 入し た も の で あ る。
的 な ば あ いに決 定 力 を も つ状 態 であ って、 し た が って 、多 く の考 え う る 個 人 的 お よび 集 合 的 状
家 と は 、 そ の語 義 お よび 歴史 的 発 生 から す る な ら ば 、 国 民 の特 別 な 状態 であ り 、 し か も 、 決 定
し ま う こ と にな る か ら 、 単 純 で基 本 的 な 論 述 に ふ さ わ し い出 発 点 に は な り え な い の であ る 。 国
い。 こ れ ら の定 義 や表 象 は す べて 、 よ け いな 判 断 ・意 味 づ け ・説 明 ・解 釈 を先 走 って行 な って
あ る いは そ れど こ ろ か ﹁手続 き の基 本 的 系 列 ﹂ な のか は、 そ の ま ま に し てお いて さ し つか え な
制 度 な のか 、 利 益 社 会 な の か 共 同 社会 な のか 、 経 営 体 な の か巣 箱 ︹のな か の蜜 蜂 集 団︺ な のか 、
念 規 定 は 必要 で な い。 国 家 と は 、本 質 的 に は な に か 、 機 械 な の か、 有 機 体 な のか 、 人 格 な のか
概 念規 定 で は な いが 、 こ こ で いま政 治 的 な も の の本 質 を 問 題 と す るば あ いに は、 そ のよ う な概
と いう 語 を ︺、 さ し あ た って ︹他 の語 で︺ おき か え た に すぎ な い の であ って、 国 家 に つ い て の
に よ れば 、 あ る ま と ま った地 域 内 に組 織 さ れ た 国 民 の政 治 的 状 態 で あ る。 ただ し こ れ は ︹国 家
国 家 と いう概 念 は 、 政 治 的 なも のと いう 概 念 を前 提 と し て いる 。 国 家 は、 こん に ち的 用 語 法
1
態 に く ら べ て絶 対 の状 態 な の であ る。 こ れ以 上 は さ し あ た って いえ な い。 上記 の表 象 のす べて
の標 識︱ ︱ 状 態 に せ よ 国 民 に せよ ︱ ︱ は、 さら に、 政 治 的 な も のと いう 標 識 を 加 え て意 味 を も
つ ので あ って、 政 治 的 な も の の本 質 が誤 解 さ れ る と 理解 で き な く な る の であ る 。
政 治 的 な も の に つ いて の明 確 な定 義 は ほ と ん ど み あ た ら な い。 た いて いは、 こ の語 は、 た ん
に 消 極 的 に 、 さ ま ざ ま な他 の概 念 と対 置 さ せ て︱ ︱ た と え ば 、 政 治 と 経 済 、 政 治 と道 徳 、 政 治
と 法 律 、 さ ら に は法 のう ち で も 、政 治 と私 法 な ど のよ う に︱ ︱ 用 いら れ る。 こ のよう な消 極 的
で 、 多 く は ま た 論 争 的 な対 置 によ って も 、 文 脈 な いし 具 体 的 状 況 し だ いで、 十 分明 確 な も のを
特 色 づ け ら れ る け れ ど も 、 そ れ で は ま だ特 殊 性 の規 定 が な ん ら な さ れ て いな い。 一般 に 、 ﹁政
治 的 ﹂ とは 、な ん ら か の意 味 で 、﹁国 家 的 ﹂と同 一視 さ れ、 あ る いは 少 なく とも 国 家 に関 連 づ け
られ る 。 そ のば あ い、 国 家 と は 、政 治 的 な も の であ る と さ れ、 政 治 的 な も のと は 、 国家 的 な も の であ る と さ れ る。 こ れ は、 明 ら か に 不満 足 な 循 環 論 法 で あ る。
の対 置 は、 と かく 、 私 法 と 公 法 と の対 置 と混 同 さ れ が ち で あ る 。 た と え ば 、 ブ ル ン
チ ュリ ﹃一般 国 法 学 ︵一︶﹄ ︵一八六八年︶、 二 一九 ペー ジ 。 ﹁所 有 は 私 法 概 念 で あ って、 政 治 概 念 で
法と政治と ︵1 ︶
は な い。﹂ こ の対 置 の政 治 的 意 味 は 、 と く に、 一九 二 五年 お よ び 一九 二六 年 に、 以 前 の ドイ ツ を 支
配 した 諸 侯 家 の財 産 の没 収 に か んす る論 議 の さ いに あ ら わ れ た 。例 と し て 、 デ ィー ト リ ヒ議 員 の演
は 、 こ こ で は 、 そ も そ も 私 法 問 題 が 重 要 な ので は な く 、 た だ 政 治 問 題 が 重 要 な のだ 、と 考 え るも の
説 の次 の文 章 ︵一九 二五年 一二月 二日、国会本会議報告、 四七 一七︶を あげ よ う 。 ﹁す な わ ち 、 わ れ わ れ
で あ る 。﹂ ︵ 社 会 民 主 党 員 お よ び 左 翼 席 から 、﹁そ の 通 り !﹂ の声 ︶。
た い て いは、国 家 権 力 と し て で て く る 。 た と えば 、マ ック ス ・ヴ ェー バー で は 、 ﹁国 家 間 で あ れ 、 国
︵2 ︶ ﹁権 力 ﹂ の概 念 を 、決 定 的 な 指 標 と し て用 いる 政治 的 な も の の定 義 に お いて も 、 こ の権 力 は 、
家 内 部 で の国 家 に 包 括 さ れ る 人 間 集 団 間 で あ れ 、 権 力 に参 加 しよ う と す る努 力 な いし は 権力 の 分配
に 影響 を 与 え よ う と す る 努 力 ﹂ あ る いは 、 ﹁政 治 的 団 体 し た が って こん にち で は 国 家 を 指導 し ま た
は そ れ に 影響 を 与 え る こ と ﹂ ︵ ﹃職業として の政治﹄第 二版、 一九 二六年、七 ページ︶。 あ る いは ﹁政 治 の
す る 活 動 で あ る 。﹂ ︵ ﹃新秩序ドイ ツの議会と政府﹄ 一九 一八年、五 一ページ︶。H ・ト リ ー ペル は いう 。﹁つ
本 質 は 、 のち に も 、 し ば し ば 強 調 せざ る を え な いよ う に、 闘 争 であ り 、同 志 と自 発的 追 随者 を 徴 募
い二、 三 〇年 ま え ま で は 、 政 治 と は 、 国 家 そ のも の の理 論 であ る と 解 さ れ て い た ⋮ ⋮ 。 た と え ば 、
バイ ツは 、諸 国 家 の歴 史 的 発 展 一般 な ら び に現 在 の国 家 の状 態 や 必 要 を 顧 慮 し て の国 家 状 況 の科 学
的 論 究 を政 治 と 呼 ん で いる 。﹂ ︵ ﹃国法学と政治﹄ 一九 二七年、 一六ページ︶。 ト リ ー ペ ルは 次 いで 、 十 分
な す じ の通 る根 拠 を ふ ま え て 、 ゲ ルバ ー −ラ ー バ ント 派 の自 称 非 政治 的 な ﹁純 ﹂ 法 律 学 的 な 考 察 法
お よび 戦 後 期 に お け る そ の継 承 展 開 の試 み ︵ ケ ルゼ ン︶ を 批 判 し て い る。 ただ し 、ト リ ー ペ ル は 、
こ の よ う な ﹁非 政 治 的 純 粋 性 ﹂ の仮 装 が も つ純 政 治 的 意 味 を 、ま だ 見抜 いて は いな い。 か れ が 、 政
治 的 即 国 家 的 と いう 等 式 に固 執 し て いる から であ る。 実 際 に は 、 以下 に し ば しば 示 さ れ る よ う に 、
敵 対 者 を政 治 的 と 呼 び 、 自 己 を 非 政 治 的 ︵こ こ では 、科 学 的 、 公 正 、 客 観 的 、 不 偏 不党 等 々 の意︶
で あ る と 称 す る こ と は 、 典 型 的 な 、 と り わ け 強 度 な 政 治 行 為 の形 態 な の で あ る。
法 律 の専 門 書 に は 、 政 治 的 と いう こ と の、 こ の よう な ︹他 の語 に よ る︺ お き か え が多 く みら
れ る が 、 そ れ ら のお き か え は、 論 争 的 ・政 治 的 意 味 を も つも ので な いか ぎ り は 、個 々 の事例 の
法 律 的 な いし行 政 的 処 理 と いう 実 務 上 ・技 術 上 の観 点 か ら のみ 理解 でき る の であ る 。 そ のさ い、
そ れ ら は 、 既 存 の国 家 を当 然 の こ と と し て前 提 し 、 そ の枠 のな か で 運 用 さ れ る こ と に よ って有
意 味 な も のと な る の であ る。 た と えば 、 結 社 法 に お け る ﹁政 治 結 社﹂ あ る いは ﹁政 治集 会﹂ と
いう 概 念 に つ いて の判 例 ・学 説 が そ の例 であ り 、 さ ら に は、 フ ラ ン ス行 政 法 の実 務 が 、 政治 的
動機 ︵ "mobi l epol i t i que"︶ と いう概 念 を 立 て よ う と し 、 そ れ に よ って、 ﹁政 治 的 ﹂な統 治 行 為
︵"act esdegouvernement "︶ を 、 ﹁非 政 治 的 ﹂な行 政 行 為 か ら区 別 し て 、行 政 裁 判 上 の制 約 か ら はず そう と し て いる こ と も 、 そ の例 であ る。
︵3︶ 一九 〇 八 年 四月 一九 日 の ドイ ツ国 結 社法 、第 三 条 一項 に よ れ ば 、政 治 結 社 と は 、 ﹁政治 問 題 に
あ る効 果 を お よ ぼ す こ とを 目 的 と す る す べて の結 社 ﹂ で あ る 。 そ のば あ い、 政治 問題 と は 、 実 際 上
は 、 通 例 、 国 家 組 織 の維 持 な い し変 更 、 ま た は 国 家 な いし 国 家 に組 み こま れ て いる 公 共 的 ・法 的 団
体 の機 能 に影 響 を お よ ぼ す こ と に 関 係 す る 問 題 の こと と さ れ る。 こ の よう な 、 ま た は類 似 の い いか
え で は 、 政 治 問 題 、 国 家 問 題 、 公 共 問 題 の区 別 が つ かな いの で あ る 。 一九 〇 六年 ま で は ︵一九〇 六
年 二月 一二日、宮廷裁判所 ヨウ ハウ の三 一巻 c、 三二︱ 三四 ページ︶、 プ ロイ セ ン の実務 は 、 一八五 〇 年 三
あ ら ゆ る 行 為 を 、 宗 教 的 祈 祷 時 間 で すら 、 公 共 問 題 に対 す る働 き か け、 な いし は 公 共 問 題 の論 議 と
月 一三 日 の 命 令 ︵法令集 二七七 ページ︶ にも と づ いて 、 社 団 法 人性 を も た な い教 会 的 ・宗 教 的 結 社 の
し て 扱 った 。 こ う し た 実 務 の発 展 に か ん し て は 、 H ・ゲ フ ケ ン ﹃プ ロイ セ ン法 によ る 公 共問 題 、 政
治 的 対 象 お よ び 政 治 結 社﹄ ︵E ・フリード べルク のた めの記 念論集、 一九 〇八年、 二八七ページ以下︶参 照 。
裁 判 所 が 、 宗 教 的 ・文 化 的 ・社会 的 そ の 他 の問 題 を 、非 国 家 的 な も のと し て認 め る こ と のう ち に は 、
特 定 の集 団 お よ び 組 織 が影 響 を 与 え ま た 利 害 関 係 を 有 す る領 域 と し て、 こ こ で特 定領 域 のこ と が ら
が 、 国 家 お よ び 国 家 の支 配 か ら はず さ れ ると いう こ と の、 き わ め て重 要 な 、 む し ろ 決 定 的 な 徴 憑 が
立 す る 、 と いう こ と で あ る 。 さ ら に 、も し も 、 国家 理 論 ・法 律 学 ・ 一般 的 用 語 法 が 、 政 治 的 即 国 家
存 在 す る ので あ る。 一九 世 紀 の表 現 法 に お い て は 、 ﹁社会 ﹂ は 、 独 立 のも の と し て 、 ﹁国 家 ﹂ と 対
的 と いう こ と に 固 執 す る な ら ば 、 す べ て の非 国 家 的 な も の 、 し た が って 、す べて の ﹁ 社 会 的 な も の﹂
は 、 そ れ故 に非 政 治 的 であ る と いう 、 ︵論 理 上 不 可 能 な 、 し か し 実 際 上 は い か にも 不 可 避 的 に み え
る ︶ 結 論 が で る こ と にな る 。 こ れ は 一面 、 残 基 と 派 生 体 に かん す る V ・パ レ ー ト の学 説 ︵ ﹃一般社会
学 概論﹄、 フラ ンス語版、 一九 一七年および 一九 一九年、 I、 四五〇ページ 以下、II、七 八五 ページ以下︶ に 対
す る 一連 の、 と く に 具象 的 な 例 証 を 含 む 、素 朴 な誤 り で あ る し 、 一面 ま た 、 こ の誤 り と ほ と ん ど 区
て 有 効 でも っとも 効 果 的 な 戦 術 手 段 な ので あ る 。
別 し が た く 結 合 し て 、既 成 の国 家 お よ び そ の よう な秩 序 と の内 政 上 の闘 争 に お け る 、 実 用 上 き わ め
別 は す べ て 、 ﹁政 治 的 便 宜 ﹂ の問 題 に すぎ な い。 ま た 、 R ・ア リ ベ ー ル ﹃行 政 の裁 判 によ る統 制 ﹄、
︵4 ︶ ジ ェズ ﹃行 政法 の 一般 原 理 ﹄ I 、第 三版 、 一九 二五 年 、 三 九 二 ペー ジ 。 か れ に いわ せ れば 、区
パ リ 、 一九 二 六 年 、 七 〇 ペー ジ以 下 。 そ の他 の文 献 は 、 ス メ ント ﹃立 憲 国 家 に お け る政 治 権力 お よ
﹃立憲 制 と憲 法 ﹄、 一〇 三 、 一三 三 、 一五 四各 ペー ジ 、 お よび 、 公 法 国 際 機 関 刊 行 の報 告 、 一九 三
び 国 家 形 態 の 問 題 ﹄ ︵カー ルのため の記念論集、チ ュー ビンゲ ン、 一九 二三年、 一六ページ︶ 。 さ ら に は、
〇 年 。 ま た そ の な か のR ・ラウ ン およ び P ・ド ゥ エ の報 告 。 ド ゥ エの報 告 ︵一一ページ︶か ら 、著 者
︵ ﹁統 治 行 為 論 の 当代 に お け る
は 、 こ こ で設 定 し た 政 治 的 な も の の徴 標 ︵ 友 ・敵 結 束 への 志 向性 ︶ に と って と く に興 味 深 い、 す ぐ れ て政 治 的 な 統 治 行 為 の定 義 を借 用 し た 。 こ の定 義 は 、 ド ゥフ ー ル
﹁統 治 行 為 を構 成 す る も の はな に か 、 こ れ が 著 者 の追 求 す る 目 標 であ る。 みず から の内 部 ま た は 外
す ぐ れ た 理論 家 ﹂︶ が 、 ﹃応 用 行 政 法概 論 ﹄ 第 五 巻 、 一二 八 ペー ジ で 設 定 した も の で あ る 。す な わ ち 、
部 の 、表 面化 し た ま た は 隠 れた 、現 在 のま た は 未 来 の敵 に 対 し て 、 社 会 を 防 衛 す る と いう 目 的 で の
のである。 ﹂ ﹁ 統 治 行 為 ﹂ と ﹁単 純 行 政行 為 ﹂ と の区 別 は 、 一八五 一年 六月 に 、 フ ラ ン ス国 民 議 会
行 為 を 、 そ れ 自 体 と し て 、ま た は 統 治 と いう 形 に人 格 化 し て と ら え た ば あ いに 、 こ れ が 統 治 行 為 な
で 共 和 国 大統 領 の議 会 に対 す る 責 任 が 論 じ ら れ 、大 統 領 が 本 来 政 治 的 な責 任 す な わ ち 統 治 行 為 に対
﹃憲 法 ﹄ 第 七 版 、 I 、 二 三 四 ペー ジ参 照 の こと 。同 様 の 区 別 は 、行 政 官 庁 は 、 非 政 治 的 業 務 と いう
す る責 任 を みず か ら 負 お う と し た と き 、 さ ら に広 い意 味 を も つ こ と に な った 。 エ スメ ン −ネ ザ ー ル
﹁行 政 官 庁 ﹂ の権 限 に つ い て の 論議 の さ い に みら れ る 。 シ ュテ ィー ル ・ソ ム ロ
意 味 で 、 ﹁日 常 的 ﹂ 業 務 の み を 処 理 し う る の か いな か 、 と いう 問 題 に か ら ん で 、プ ロイ セ ン憲 法 第 五九条 二項による
﹃公法 叢 書 ﹄ 第 九 巻 ︵一九 二五年︶、 二 三 三 ペー ジ 、 L ・バ ルデ ケ ル ﹃プ ロイ セ ン憲 法 註 解 ﹄ 第 二版 、
一九 二 八年 、 一六七 ペー ジ お よび 一九 二五 年 一 一月 二 一日 、 ド イ ツ国 国 事裁 判 所 の判 決 ︵大審院民事
判 例集 一一二巻付録五 ページ︶を 参 照 せ よ 。 こ こ で は し か し 、結 局 の と こ ろ 、日 常 的 ︵ 非政治的︶業務
とそ の他 の ︵ 政治的︶業務 と の区別を断念 して いる。日常的業務 ︵すなわち行 政︶ と政治と いう対
置 にもとづ いたも のとしては 、A ・シ ェフレの論文 ﹁政治 の科学 的概念 につ いて﹂ ︵ 全国家学雑誌、五 三巻、 一八九七年︶があ り、 また、 K ・マン ハイ ム ﹃イデオ ロギ ーと ユートピ ア﹄、ボ ン、 一九 二九
は、固定化 した政治であり、政治 は生成する法律 ︵ な いしは法︶ である、前者 は静力学 で、後 者は
年 、七 一ペー ジ以下 は、こ の対置 を、﹁定位的 出発点﹂と して受 け継 いで いる。法律 ︵ な いしは法︶ 動力学 である等 々と いう よう な区 別もこれと同様 である。
法 実 務 の 必要 に対 応 し よ う と す る こ の よう な規 定 は 、 要 す る に、 国 家 内 部 で の、 そ の法 実 務
に お い て生 じ る諸 事 実 を区 分 す る た め の実 務 的 な方 便 を 求 め て いる に す ぎ な いの であ って、 政
治 的 な も の に つ いて の 一般 的 な 定 義 な ど を目 指 す も の では な い。 し た が って、 国 家 お よび 国 家
の諸 機 構 が自 明 で あ り 確 固 た る も のと し て 前 提 さ れう る かぎ り 、 そ れ ら の規 定 は 、 国 家 あ る い
は 国家 的 な も の と関 連 づ け れば こ と足 り る ので あ る。 ま た ﹁国 家 ﹂ への関 連 づ け な いし還 元以
外 のな にも のを も含 ま ぬ よう な政 治 的 な も の の 一般 的 な概 念規 定 も 、 理解 し う る も ので あ る し 、
ま た、 国 家 が現 実 に、 明 確 な 一義 的 に規 定 さ れ た 存 在 で あ って 、非 国家 的 な 、 ま さ に そ れ故 に
﹁非 政 治 的 な﹂ 諸 集 団 、 諸 業 務 と 対 立 し て いる か ぎ り は、 す な わ ち 、 国 家 が政 治 的 な も のを専
有 し て いる か ぎ り は、 学 問 的 に 正 当 でも あ る 。 国 家 が 、 ︵一八世 紀 のよ う に︶ ﹁社 会 ﹂ を対 抗者
と し て認 め て いな か った か 、 あ る い は少 く と も ︵ド イ ツ の 一九 世紀 か ら 二〇 世 紀 にわ た って の
よ う に︶、 ﹁社会 ﹂ の上 位 に 、 安 定 し た区 別 で き る権 力 と し て存 在 し て いた ば あ いには 、 そ う だ った ので あ る 。
こ れ に反 し 、 国 家 と 社 会 と が滲 透 し あう のに 応 じ て 、 国 家 的 =政 治 的 と いう 等 置 は 正 し さ を
失 な い、誤 った 方 向 に 導 く も の と な る。 す な わ ち 、 民 主 的 に組 織 さ れ た 共 同 社 会 にお いて 必然
的 に 生 じ る よ う に 、 す べて こ れま で は国 家 的 な問 題 が 、社 会 的 な も のと な り 、 逆 に、 す べて こ
れ ま で は ﹁た ん に﹂ 社 会 的 な問 題 が、 国 家 的 な も のと な る の であ る 。 そ のば あ いには 、 こ れま
で は ﹁中 立 的 な﹂ 領 域 ︱︱ 宗 教 、 文 化 、 教 養 、経 済 ︱ ︱ が 、非 国 家 的 、非 政 治 的 と いう 意 味 で、
﹁中 立﹂ で あ る こ と を や め てし ま う 。 重 要 な 諸 領 域 のこ のよう な中 性 化 、非 政 治 化 に 対 す る論
争 的 な対 立概 念 と し て 、 いか な る 領 域 に対 し て も無 関 心 で な く 、 潜 在 的 には 、 す べて の領 域 を
掌 握 す る、 国 家 と 社 会 と の同 一性 と し て の全 体 国 家 が 登 場 す る 。 そ こ で は、 し た が って、 あ ら
ゆ る こ と が 、少 く と も 可 能 性 と し て は、 政 治 的 な ので あ り 、 国 家 を 引 き あ いにだ す こと で は も
は や、 ﹁政 治 的 な も の﹂ の特 殊 な区 別 指 標 を基 礎 づ け る こ と が不 可 能 と な る の であ る。
そ の発 展 は 、 一八世 紀 の絶 対 主 義 国 家 に は じ ま り 、 一九 世 紀 の中 立的 ︵ 非 干 渉 主義 的︶ 国 家 を 経 て、 二
七 八︱ 九 ペー ジ を 参 照 せよ 。 民 主 主 義 は 、 自 由 主 義 的 一九 世 紀 に 典 型 的 な 区別 お よび 非 政 治 化 のす べ て を
〇 世 紀 の 全 体 主 義 国 家 へと向 かう 。 カ ー ル ・シ ュミ ット ﹃憲 法 の番 人 ﹄、 チ ュービ ンゲ ン、 一九 三 一年 、
揚 棄 し 、 国 家 対 社 会 ︵すな わ ち 政 治 的 対 社 会 的 ︶ と いう 対 立 と と も に、 一九 世 紀 の状 況 に対 応 す る そ の対
置 お よび 分 離 を 除 去 し な け れ ば な ら な い。 すな わ ち 、 宗 教 的 ︵ 宗 派 的 ︶ 対 政治 的 、 文 化 的 対 政 治 的 、経 済
的 対 政治 的 、 法 的 対 政 治 的 、 科 学 的 対 政 治 的 そ の 他数 多 く の、 ど こま でも 抗争 的 な 、 し た が って そ れ自 身
も ま た 政 治 的 であ る 諸 対 立 を 。 一九 世 紀 の深 遠 な 思 想 家 た ち は 、 こ の こ と を 早 く か ら 見 抜 い て いた 。 ヤ ー
コプ ・ブ ル ク ハルト の 世界 史 的諸 考 察 ︵ほぼ 一八七〇年 ごろ︶ に は 、 民 主 主 義 に つ いて 次 のよ う な文 章 が み
ら れ る 。 ﹁民 主 主 義 、 す な わ ち 何 千 と いう 種 々 の源泉 か ら 合 流 し て き た 、 そ の信 奉 者 層 の点 で き わ め て多
様 な 世界 観 。 た だ し 、次 の 一点 に お い ては 一貫 し て いる 。 す な わ ち 、 こ の 世 界 観 にと っては 、個 人 の 上位
に あ る 国 家 の権 力 は 、 いく ら 大 き く ても 決 し て 大 き す ぎ な い の であ って 、 そ れ は 、 国 家 と 社会 と の 間 の境
界 を 消 し 去 り 、 社 会 が 、 お そ ら く は 、 実 行 し な いこ と を す べ て国 家 に 要 求 し 、 し かも 、す べ て を絶 えず 論
議 可 能 か つ変 更 可 能 の も のと し て 留 保 す る こ と を 欲 し 、 最 後 に個 々 の身 分 階 層 にと って 、 労 働 と 生 存 と に
対 す る 固 有 の権 利 の回 復 を 要 求 す る の であ る 。 ﹂ 民 主 主 義 と 自 由 主 義 的 立 憲 国 家 の内 的 矛 盾 を も 、 ブ ル ク
ハル ト は 、 み ご と に指 摘 し て いる 。 ﹁し た が って 、 国 家 は 、 一方 で は す べて の党 派 の文 化 理念 の実 現 か つ
で あ る べし と さ れ る のだ !
国 家 は 可能 な す べて を な し 能 う べき で 、 た だ し そ れ以 上 は な に ひ と つ許 さ れ
表 現 で あ る べし と さ れ 、他 方 で は た ん に 、市 民 生 活 の可 視 的 な 衣 裳 で あ って、 た だ こ の た め に のみ 、 万 能
る べき で な い。 す な わ ち 、 国 家 は 、 そ の既 成 の形 態 を 、 いか な る 危機 に対 し ても 防 衛 し て は な ら な い。 ︱
︱ そ し て 、 と ど の つま り は 、人 び と は 、 な に よ り も ま た 、 国 家 の 権力 行 使 に 参 与 し た が る ので あ る 。 こ う
し て 、 国 家 形 態 は 、 いよ いよ 論 議 を 呼 ぶも の と な り 、 権 力 のひ ろが り は いよ いよ 拡 大 す る の で あ る 。﹂ ︵ク
ドイ ツ の 国 家 理 論 は 、 は じ め は ま だ ︵ヘー ゲ ル の国 家 哲 学 体系 の影 響 下 に︶、 国 家 が 社会 に 対 し て 質 的
レ ーネ ル版、 一三 三、 一三五、 一九七 ページ︶。
に 異 な る も ので あ り 、 一段 高 いも ので あ る 、 と いう 考 え に 固 執 し て いた 。 社 会 の 上位 に た つ国 家 は 、 普 遍
のとされた、
︵ 文 化 お よび 経 済 に 対 し て︶ 中 立的 な 国家 の攻 撃 的 否 定 と いう 意 味 ︱︱ に お いて 全 体 的 と は
的 と 呼 ぶ こ と は で き ても 、 こ ん に ち の意 味 ︱︱ すな わ ち 、経 済 お よ び そ の権 利 が、 そ れ 自 体非 政 治 的 な も
いる 国 家 と 社会 と の質 的 差 異 は 、 一八 四 八年 以 降 、 そ れ ま で の明 瞭 さ を 失 な って いく 。 ドイ ツ の 国家 理 論
呼 べ な いも の であ った。 し か し 、 ロレ ン ツ ・フ ォ ン ・シ ュタ イ ンや ル ド ル フ ・グ ナ イ スト が な お 固 執 し て
の発 展 は 、 わ た く し の論 文 ﹃フ ー ゴ ー ・プ ロイ ス、 そ の国 家 概 念 と ド イ ツ の国 家 理論 に お け る位 置 ﹄ ︵チ ュ
ー ビ ンゲ ン、 一九三〇年︶ に そ の大筋 が 示 さ れて いる が 、 各 種 の制 限 、 留 保 、 妥 協 のも と に 、 結 局 の と こ ろ
こ の途 上 で の国 民 的 ・自 由 主 義 的 中 間 段 階 と し て 興 味 深 いの は 、 A ・ヘー ネ ル に み ら れ る も ので あ る 。
は 、 国 家 と 社 会 と の民 主 主 義 的 同 一化 へ向 かう 歴 史 的 展 開 に従 って いく の で あ る 。
か れは 、︵ ﹃ドイ ツ国法学研究﹄II、 一八八八年、 二 一九 ページ、﹃ドイ ツ国 法学﹄I 、 一八九 二年、 一一〇 ページ、 にお
いて︶ ﹁国 家 概 念 を 人 間 社会 一般 の概 念 へ普 遍化 す る こと は 、 明白 な 誤 り ﹂ で あ ると の べて いる 。 かれ は 、
殊 な 社会 組 織 ﹂ と み る。 そ の 共 通 目 的 は 、 な る ほ ど 、 ﹁普 遍 的 ﹂ で あ る が 、 そ れ は 、 社 会 的 に有 効 な諸 意
国 家 と いう も のを 、 他 の 社会 諸 組 織 に付 け 加 わ る 、 ただ し 、 ﹁そ れ ら の上位 に 立 ち 、 そ れ ら を ま と め る特
あ る 。 国 家 が 少 な く とも 潜 在 的 に、 人 間 の 社会 的 目 的 のす べて を 、 みず か ら の目 的 と も す る のだ 、 と いう
志 力 の抑 制 や 調 整 と いう 特 殊 な 任 務 に お い て の み 、 す な わ ち ﹁法 ﹂ と いう 特 殊 な 機 能 に お いて の み な ので
意 見 さ え も 、 ヘー ネ ル は 、 は っき り 誤 り で あ る と す る 。 か れ に いわ せ れ ば 、 国 家 は 、し た が って 、 普 遍 的
﹃ドイツ団体法論﹄ 第 一巻は、 一八六 八年にでた︶ 。 な ぜ な ら 、 そ こ で は 、 国家 が 他 の諸 団体 と 本 質 的 に等 し い
で は あ る け れ ど 、 決 し て 全 体 的 で は な い の で あ る。 決 定 的 な展 開 は、 ギ ー ル ケ の 団 体 理 論 で あ る ︵かれ の
る べ き であ る と さ れ 、後 者 が 、 あ る と き は 強 く 、 あ る と き は 弱 く 指 摘 さ れは した 。 だ が 要 す る に、 こ れは 、
団 体 と し て と ら え ら れ て い る から で あ る。 な る ほ ど 国家 に は 、 団 体 的 要 素 のほ か に 、 支 配 的 要 素 も 含 ま れ
った の で あ る。 そ の 延 長線 を ひ いた のは 、 ド イ ツで は 、 フー ゴ ー ・プ ロイ スと K ・ボ ル ツ ェ ンド ル フ であ
国 家 の団 体 理論 で あ って 、 支 配 理論 で は な か った のだ か ら 、 民 主 主 義 的 ︹指 向 の︺ 一貫 性 は 否 定 で きな か
り 、他 方 イ ング ラ ンド で は 、多 元 論 へと 発 展 し た ︵これ については 二八ページ ︹ 六三年版では四 一ページ ・本訳書
ルド ル フ ・ス メ ント の国 家 統 合 の理 論 は 、著 者 に いわ せ れば 、他 の教 訓 は 別 と して 、 社会 が も は や 、既 存
三 八ページ︺︶。
国 家 のな か に、 ︵ た とえ ば ︶ ド イ ツ市 民 社会 が 一九 世 紀 の君 主 国 家 に統 合 さ れ た よ う には 統 合 しき れず 、社
会 が みず から を国 家 に編 成 し な け れ ば な ら な い、 と いう 政 治 状 況 に 対 応 す るも の で あ る。 こ の状 況 が 、 全
の中 の 一文 章 に 対 す る スメ ン ト の註 訳 ︵ ﹃立憲制と憲法﹄、 一九二八年、九七ページ、註2︶ に 、 も っと も 明 白 に
体 国 家 を 要求 す る と いう こ と は 、 モ ンテ スキ ュー と ヘー ゲ ル に かん す る H ・ト レ シ ャの論 文 ︵一九 一八年︶
あ ら わ れ て いる 。 す な わ ち 、 ヘー ゲ ル の 権力 分 立論 に つ いて 、 ﹁民族 団体 のも つす べて の活 力 を 、 国 家 全
体 のた め に獲 得 し よ う と いう 一般 目 的 の た め に 、 す べて の 社会 的領 域 を 国 家 に よ って 強 く 滲 透 す る こと ﹂
合概 念 そ のも の﹂ で あ る 、 と 評 す る 。 実 際 に は 、 こ れ は 、 全 体 国 家 であ り 、 絶 対 的 に非 政 治 的 な も のを 、
を 意 味 す る、 と の べ て いる のに 対 し て 、 スメ ント は 、 こ れ は 、 憲 法 に かん す る スメ ン ト の著 書 に いう ﹁統
も は や な に ひ と つ認 め ず 、 一九 世 紀 の非 政 治 化 を排 除 しな け れば な らず 、と く に 、国 家 に拘 束 さ れ な い ︵ 非
政 治 的 な︶ 経 済 お よ び 経 済 に拘 束 さ れな い国 家 、 と いう 公 理 に終 止符 をう つも のな の で あ る 。
2
政 治 的 な も のと いう 概 念規 定 は 、 と く に政 治 的 な諸 範 疇 を み いだ し確 定 す る こと に よ って獲
得 さ れ う る。 す な わ ち 、政 治 的 な も の に は、 そ れ に特 有 の標 識︱ ︱ 人 間 の思 考 や 行 動 の さ まざ
ま な 、 相 対 的 に独 立 し た 領 域 、 と く に道 徳 的 、美 的 、経 済 的 な も の に対 し て独 自 の仕 方 で作 用
す る︱ ︱ が あ る の であ る 。 し た が って、 政 治 的 な も のは 、 特 有 の意 味 で、 政 治 的 な行 動 が す べ
て そ こ に帰 着 し う る よ う な 、 そ れ に 固有 の究 極 的 な 区 別 のな か に求 め ら れ な け れば な ら な い。
道 徳 的 な も の の領 域 に お いて は 、究 極 的 区 別 と は 、 善 と 悪 と で あ り 、美 的 な も のに お い て は美
と醜 、経 済 的 な も の に お いて は利 と 害 、 た と え ば 採 算 が と れ る 、 と れ な い、 であ る と し よう 。
そ のさ い問 題 な の は、 こ のよ う な 他 の諸 区 別 と 、 同 種 で も類 似 で も な いが 、 し かも そ れ ら に依
存 せ ず に 独 立 で あ って 、 さ ら に そ れ 自 身 た だ ち に 分明 で あ る よう な特 殊 な 区 別 が、 政 治 的 な も
の の単 純 な標 識 と し て 存 在 す る か どう か、 ま た そ れ は ど う いう 点 な の か、 と いう こ と で あ る 。
政 治 的 な 行 動 や動 機 の基 因 と 考 え ら れ る、 特 殊 政 治 的 な区 別 と は、 友 と敵 と いう 区 別 で あ る 。
こ の区 別 は、 標 識 と いう意 味 で の概 念 規 定 を 提 供 す る も の であ って、 あま す と こ ろ の な い定 義
な いし は内 容 を 示 す も のと し て の概 念 規 定 で は な い。 そ れ が他 の諸 標 識 か ら導 き だ さ れ る も の
で はな いと いう かぎ り に お いて、 政 治 的 な も のに と って、 こ の区 別 は、 道 徳 的 な も のに お け る
善 と悪 、美 的 な も の に おけ る美 と醜 な ど 、他 の対 立 に みら れ る 、相 対 的 に独 立 し た諸 標 識 に対
応 す る も のな ので あ る 。 いず れ に せ よ 、 こ の区 別 は 、 固 有 の新 し い領 域 と いう意 味 にお いて で
は な く 、 そ れ が 上 述 の諸 対 立 のひ と つな いし いく つか にも とづ く も のと考 え る こ と が でき ず 、
ま た そ れ ら に 帰 着 さ せう る も ので も な い、 と いう そ の あ り方 に お い て、 独 立 的 な の で あ る。 善
悪 の対 立 が 、 そ のま ま無 造 作 に 、美 ・醜 なり 、 利 ・害 な り の対 立 と 同 一視 さ れず 、 ま た た だ ち
にそ のよ う な 対 立 に 還 元 す る こと を 許 さ れ な いも ので あ る と す れば 、 友 ・敵 の対 立 は そ れ に お
と ら ず 、 上記 諸 対 立 と と り ち がえ 混 同 し て は な ら な いも の な の で あ る 。友 ・敵 の区 別 は 、 結 合
な いし 分 離 、 連 合 な いし 離 反 の、 も っと も 強 度 な ば あ いを あ ら わ す と いう 意 味 を も ち、 上 記 道
徳 的 、 美 的 、 経 済 的 そ の他 のあ ら ゆ る区 別 が 、 そ れと 同 時 に適 用 さ れ な け れば な ら な い、 な ど
と いう こ と な し に 、 理論 的 に も 実 践 的 にも 存 立し う る の で あ る 。 政 治 上 の敵 が道 徳 的 に悪 で あ
る 必要 は な く 、美 的 に醜 悪 で あ る 必要 は な い。 経 済 上 の競 争者 と し て登 場 す る と は かぎ らず 、
敵 と取 引 き す る の が有 利 だ と 思 わ れ る こ と さ え 、 お そ らく は あ り う る 。 敵 と は 、 他 者 ・異 質 者
に ほ か な ら ず 、 そ の本 質 は 、 と く に 強 い意 味 で、 存 在 的 に 、他 者 ・異質 者 であ る と いう こ と だ
け で足 り る 。 し た が って 、極 端 な ば あ いには 、 敵 と の衝 突 が 起 こ り う る の であ って、 こ の衝 突
は 、 あ ら か じ め定 め ら れ た 一般 的 規 定 に よ って も 、 ま た ﹁局 外 に あり ﹂、 し た が って ﹁不 偏 不 党 であ る﹂ 第 三者 の判 定 に よ っても 、 決 着 の つく も の では な い。
正 し い認 識 お よ び 理 解 の可 能 性 、 そ し て そ れ に と も な ってま た、 干渉 し判 定 す る資 格 は 、 こ
のば あ い、存 在 的 に 関 与 し 参 加 す る こ と に よ ってし か え ら れ な いか ら で あ る 。衝 突 と いう 極 端
な 事 例 は 、 当 事 者 自 身 が相 互間 で 決着 を つけ る し かな い。 つま り 、 具体 的 に 存在 す る 衝 突 事 例
に お いて 、 他者 と し て のあ り方 が 、 自 己流 の、 存 在 の否 定 を意 味 す る か 否 か 、 し た が って、 自
己 流 の、存 在 に応 じ た 生活 様 式 を守 る た め に、 そ れ に抵 抗 し そ れ と 闘 かう か否 か は、 当 事 者 の
そ れ ぞ れ が 、 自 分 で決 定 す る し か な いの であ る。 現 実 の心 理 に お いては 、 敵 はと か く悪 で あ り 、
醜 悪 であ る と さ れ る が 、 そ れ は お よ そ、 区 別 ・結 束 と いう も の が、 そ し て な か で も も っと も 強
力 ・強 烈 であ る政 治 的 な区 別 ・結 束 は も ち ろ ん のこ と 、 あ ら ゆ る利 用 しう る他 の区 別 を 、 味 方
に ひ き 入 れ る から な の であ る 。 だ か らと い って、 そ れ は 、 こ の よう な対 立 の独 立 性 に いさ さ か
の変 更 を加 え る も ので は な い。 し た が ってま た 、 逆 に こう も いえ る。 す な わ ち 、道 徳 的 に悪 で
あ り 、 審 美 的 に 醜 悪 であ り 、 経 済 的 に害 で あ る も の が、 だ か ら と い って 敵 で あ る 必要 は な い。
道 徳 的 に善 で あ り 、 審 美 的 に美 で あり 、 経 済 的 に益 で あ る も のが 、 そ れ だ け で 、特 殊 な 語義 に
お け る友 、 つま り 政 治 的 な 意 味 で の友 と は な ら な いの で あ る 。友 ・敵 と い った よ う な 特 殊 な 対
立 を、 他 の諸 区 別 か ら 分 離 し 、 独 立的 な も の と し て と ら え る こ と が で き る と いう 、 こ の可能 性
のな か に す でに 、 政 治 的 な も の の存 在 と し て の事実 性 、 独 立 性 が あ ら わ れ て いる の であ る 。
3
友 ・敵 概 念 は 、 隠 喩 や 象 徴 と し て で は な く、 具 体 的 ・存 在 論 的 な意 味 にお いて 解 釈 す べき で
あ る。 す な わ ち 、 経 済 的 ・道 徳 的 そ の他 の諸 観 念 を 混 入 さ せ て弱 め ては な ら ず 、 いわん や 私 的
な個 人 主義 的 な 意 味 で、 心 理 的 に 、個 人 的 な 感情 な いし 性 向 の表 現 と解 し て は な ら な い。 友 ・
敵概 念 は 、 規 範 的 な対 立 で は な く 、 ﹁純 粋 に 精 神 的 な ﹂ 対 立 で も な い。自 由 主義 は、 そ れ に特
徴 的 な ︵8で詳述す るが︶、 精 神 と 経 済 と の ジ レ ン マ に お いて 、 敵 を 、 取 引 の面 か ら は 競 争 相 手
に、 精 神 の面 から は論 争 相 手 に、 解 消 し よう と す る。 も と よ り 、経 済 的 な も の の領 域 には 、 敵
な る も のは 存 在 せず 、 競 争 相 手 のみ が存 在 す る ので あ り 、 ま た道 徳 化 し 倫 理 化 し つく さ れ た 世
界 に お い ては 、 お そら く は、 論 争 相 手 のみ が存 在 す る だ け で あ ろ う 。 し かし 、諸 国 民 が 、 いぜ
ん と し て 現実 に友 ・敵 のグ ループ を 形 成 し て いる のは け し か ら ん と考 え る か いな か 、 あ る いは
そ こ に 、 未 開 時 代 の先 祖 返 り的 な残 滓 を認 め る か いな か 、 あ る いは 、 ︹友 ・敵 の︺区 別 は 、 い
つ の日 か 地 上 から 消 滅 す る も の と期 待 す る か いな か 、 あ る いは 、 教 育 的 根 拠 から 、 お よ そ 敵 な
る も のは も は や存 在 し な い、 と いう ふり を よ そ おう の が よ いこ と で 正 し いこ と か も し れ ぬ、 な
ど と いう こ と は す べて 、 こ こ で は問 題 にな ら な い。 こ こ で問 題 な のは 、 擬制 や規 範 で は な く 、
こ の ︹友 ・敵 ︺ 区 別 の存在 と し て の現 実 性 と 現 実 的 可 能 性 な の で あ る。 そ の期 待 や 教育 的努 力
に共鳴 し よ う と し ま いと 、 諸 国 民 は 、 友 ・敵 の対 立 に し た が って 結 束 す る ので あ り 、 こ の対 立
は、 こ ん に ち な お 、 現 実 に存 在 す る し 、 ま た 政 治 的 に存 在 す る す べ て の国 民 にと って現 実 的 可
能 性 と し て与 え ら れ て いるも の であ る、 と いう こ と は 、道 理 上 否 定 でき な いの であ る。
し た が って 、 敵 と は 、競 争 相 手 と か相 手 一般 で は な い。 ま た 反 感 を いだ き 、 に く ん で いる私
的 な 相 手 でも な い。 敵 と は た だ 少 な く と も、 と き と し て、 す な わち 現 実 的 可 能 性 と し て、 抗 争
し て いる人 間 の総 体 ︱︱ 他 の同 類 の総 体 と対 立 し て いる︱ ︱ な ので あ る 。 敵 に は、 公的 な 敵 し
か いな い。 な ぜ な ら 、 こ のよ う な 人 間 の総 体 に、 と く に全 国 民 に 関 係 す るも のは す べて 、 公 的
に な る か ら で あ る 。 敵 と は 公敵 で あ って 、 ひ ろ い意 味 に お け る 私 仇 で は な い。 ポ レミ オ ス ︹戦
敵 ︺ で あ って 、 エ ヒ ト ロ ス ︹私 仇 ︺ で は な い。 ド イ ツ語 に は 、 他 の 諸 国 語 同 様 、 私 的 な ﹁敵 ﹂
と 政 治 的 な ﹁敵 ﹂ と の区 別 が な い の で 、 多 く の 誤 解 や す り か え の 生 じ る 可 能 性 が あ る 。 よ く 引
用 さ れ る 章 句 、 ﹁な ん じ ら の 敵 を 愛 せ ﹂ ︵マタ イ伝 、 第 五 章 、 四 四節 、 ル カ伝 、 第 六 章 、 二七 節 ︶ は 、
︹ラ テ ン語 で は ︺ ﹁な ん じ ら の i ni mi c i ︹私 仇 ら ︺ を 愛 せ ﹂ ︹ギ リ シ ア 語 で は ︺、 ﹁な ん じ ら の エ
ヒ ト ロ ス す べ て を 愛 せ ﹂ で あ っ て ︹ラ テ ン語 の ︺、 ﹁な ん じ ら の host es ︹公 敵 ら ︺ を 愛 せ ﹂ で は
な い。 す な わ ち、 政 治 的 な 敵 に つ いて は ふ れ て いな い の であ る。 数 千 年 に わ た る キリ スト教 徒
と 回 教 徒 と の闘 争 に お い ても 、 いか な る キ リ スト教 徒 であ れ、 サ ラ セ ン人 や ト ル コ人 を 愛 す る
が ゆ え に、 ヨー ロ ッパ を 防衛 す る のを や め て 、 そ れ を 回 教 徒 に ゆだ ね な け れば な ら な い、 な ど
と考 え た こ と は決 し てな か った の で あ る。 政 治 的 な 意 味 に おけ る敵 と は 、個 人 的 に に く む 必要
は な いも の で あ り 、 私 的 領 域 に お いて は じ め て 、 ﹁敵 ﹂、 す な わ ち、 自 己 の反 対 者 を愛 す る と い
う こと も 意 味 を も つ の であ る。 さ き の聖書 の章 句 は 、 た とえ ば 善 悪 や美 醜 の対 立 を 放 棄 す る こ
と を 意 味 し な い のと 同 様 に、 いや は る か に そ れ 以 上 に、 政 治 的 な対 立 に は ふ れ て いな いの で あ
る 。 と く に そ れ は 、 自 国 民 の敵 を愛 し 、自 国 民 に さ から って敵 を支 持 せ よ 、 な ど と の べて いる も ので は な い の であ る。
︵5︶ プ ラ ト ン の ﹃国 家 ﹄ 第 五 巻 、 一六章 、四 七 〇 ペー ジ では 、ポ レ ミ オ ス ︵戦 敵 ︶と エ ヒト ロス ︹ 私
仇 ︺ と の対 立 が 、 き わ め て強 調 さ れ て いる が 、た だ し そ れ は 、ポ レ モ ス ︵戦 争 ︶と ス タ シ ス ︵暴動 ・
︵ ﹁生 来 の敵 ﹂ で あ る ︶ 蛮 族 た ちと の 戦 い の みが 真 の戦 争 な ので あ り 、これ に対 し 、ギ リ シ ア 人 同 士
一揆 ・反 乱 ・内 乱︶ と いう 別 の対 立 と 結 び つけ ら れて いる。 プ ラ ト ンに と って は 、 ギ リ シ ア 人 と
の戦 いは 、 か れ に と って ス タ シ ス ︵ 哲 学 全集 、 第 八〇 巻 、 二 〇 八 ペー ジ のオ ット ー ・ア ペル ト の訳
で は ﹁不 和﹂︶ な ので あ る 。 こ こ に は 、 国 民 が お のれ 自 身 に 対 し て 戦 争 す る こと は あ り えず 、 ﹁内
るも の で は な い、 と いう 思 想 が は た ら いて いる 。 ︱︱ ホ ス テ ィ ス の概 念 に つ いて は 、 ふ つう 、 学 説
乱 ﹂ は ただ 自 己 侵 食 を 意 味 す る の み で 、 た と え ば 、 新 し い国 家 、 いわ ん や 国 民 の形 成 な ど を 意 味 す
の他 の 用 例 と と も に フ ォ ル セ リ ニ の全 ラ テ ン文 献 辞 典 III 、 三 二 〇 ペー ジ お よ び 五 一 一ペー ジ にで て
彙 纂 の な か のポ ンポ ニウ ス の文 章 ︵五〇、 一六、 一 一八︶ が引 用 さ れ る。 も っと も 明 晰 な定 義 は 、 そ
い る。 す な わ ち 、 ホ ス テ ィ ス と は 、 わ れ わ れ が 公的 に戦 う 相 手 で あ り 、 ⋮ ⋮わ れ わ れ が 私 的 な 敵 意
ス であ り 、 わ れ わ れ と 戦 う も の が ホ ステ ィ ス であ る 、 と いう よ う に 区 別 す る こ とが で き よ う 。
を いだ く相 手 で あ る イ ニミ ク ス と こ の 点 で 異 な る、 す な わ ち 、 わ れ わ れ を にく むも の は 、 イ ニミ ク
政 治 的 な 対 立 は 、 も っと も 強 度 な 、 も っ と も 極 端 な 対 立 で あ る 。 い か な る 具 体 的 な 対 立 も 、
そ れ が 極 点 と し て の友 ・敵 結 束 に 近 づ け ば 近 づ く ほ ど 、 ま す ま す 政 治 的 な も の と な る の で あ る 。
国 家 は 組 織 さ れ た政 治 単 位 と し て、 全 体 と し て は 、 そ れ 自 身 に と って 、友 ・敵 を 区 別 す る が、
そ の国 家 の内 部 で は 、 こ れ に加 え て、 第 一義 的 に 政 治 的 な 区 別 のほ か に 、 し か も こ の区 別 に守
ら れ て、 ﹁政 治 的﹂ と いう 数 多 く の 二次 的 な概 念 が生 じ て く る 。 ま ず第 一に、 上 述 1 で あ つか
った、 政 治 的 即 国 家 的 と いう 等 置 に も と づ い て。 こ の等 置 のあ ら わ れ と し て、 た と えば 、 ﹁国
家 政 治 的﹂ 態 度 を、 党 派 政 治 的 態 度 に対 置 す る こ と、 国 家 自体 の宗 教 政 策 、 学 校 政 策 、地 方 自
治 政 策 、 社 会 政 策 等 々 の語 が 用 いら れう る こ と が あ る 。 た だ し こ のば あ いに も︱︱ 国 家 と いう 、
あ ら ゆ る 対 立を 包 み こ む 政 治 的 統 一の存 在 に よ って、 相 対 化 さ れ て は いる が 、︱︱ 国家 内 部 に
お け る 対 立 と敵 対 と が 、 つ ね に、 政 治 的 な も のと いう 概 念 を構 成 し て いる の であ る。 最 後 に、
そ れ が さ ら に 弱 め ら れ 、 寄 生的 な いし 戯 画 的 存 在 にま で ゆ が め ら れ た ﹁政 治 ﹂ の諸 形 態 が で て
く る。 す な わ ち 、 本 来 の友 ・敵 結 束 が変 じ て、 わず か に な ん ら か の敵 対 的 契 機 のみ を を と ど め
た も の で あ って 、 あ ら ゆ る種 類 の駈 け 引 き ・術 策 と か 、競 合 ・陰謀 と か の形 を と り 、 奇 妙 き わ
ま る取 引 き ・商 略 を、 ﹁政 治 ﹂ と 呼 ぶ の が そ れ で あ る 。 だ が、 具 体 的 な対 立 と の関 連 と いう こ
と の な か に 、 政 治 的 関 係 の本 質 が ふ くま れ て いる 、 と いう こ と は 、 ﹁危 急 のば あ い﹂ と いう 意
識 が ま った く な いよう な 場 面 に お いて す ら 、 通 例 の語 法 が そ れ を 表 現 し て いる ので あ る 。
︵6︶ たとえば、 ﹁社会 政策﹂な るも のは、政治的 に無視 できな い階級が、 その ﹁社会的 な﹂諸 要求
を か かげ て以 後 、 は じ め て 存 在 す る の で あ る 。 過 去 にお いて 、貧 者 ・困 窮 者 に ほ ど こ した 救 済 事業
は 、 社 会 政策 の問 題 と は 考 え ら れず 、 ま た そ う 呼 ば れ も し な か った 。 同 様 に 、 教 会 政 策 は 、 教会 な
る も の が 政 治 的 に 無 視 で き な い対 抗 者 と し て 存 在 し た と こ ろ に の み存 在 した の であ る 。
簡 単 に 確 認 で き る ふ た つ の 現 象 に よ っ て 、 こ の こ と は ま っ た く 明 白 と な る 。 第 一に 、 す べ て
の政 治 的 な概 念 、 表象 、 用 語 は、 抗 争 的 な意 味 を も つ こと 、 そ れ ら は 、 具体 的 な 対 立 関 係 を と
ら え て お り 、 結 局 は 、 ︵戦 争 な いし革 命 の形 を と って あら わ れ る︶ 友 ・敵 結 束 で あ る よう な具
体 的状 況 と 結 び つ い て いて、 こ の状 況 が 、 消 滅 す ると き に は 、 す べて無 内 容 な 、 幽 霊 じ み た
抽 象 と 化 す る も の で あ る。 国家 ・共 和 制 ・社 会 ・階 級 さ ら に は主 権 ・法 治 国 家 ・絶対 王 政 ・独
裁 ・構 想 ・中 立 国 ・全 体 主 義 国 家 等 々 の語 は 、 そ れ が具 体 的 に 、 な にを さし 、 な に と 戦 い、 な
にを 否 定 し 、 な に を 反 駁 し よう とす る のか 、 を 知 ら な く て は、 理解 し が た い ので あ る 。 こ の抗
争 的 性 格 は 、 な に よ り も ま た、 ﹁政 治 的 ﹂ と いう 語 自 体 の用 法 に強 く で て いる。 す な わ ち、 敵
を ︵世 事 に う と く 、 具 体 性 を欠 く と いう 意 味 で︶ ﹁非 政 治 的 ﹂ と 呼 ぶば あ いに せよ 、 逆 に、 敵
を 、 ﹁政 治 的 ﹂ であ る と し て失 格 さ せ告 発 し よう と す る ば あ いに せ よ、 つま り 、 自 分 の ほう は
︵純粋 に 現 実 的 、 純 粋 に学 問 的 、 純 粋 に道 徳 的 、 純 粋 に 法 律 的 、純 粋 に 美 的 、 純 粋 に経 済 的 で
あ る と いう 意 味 で、 も し く は 同 様 な 抗 争 的 純 粋 性 を 根 拠 にし て︶、 ﹁非 政 治 的 ﹂ であ ると し て 、
敵 の上 位 に 立 とう と す る ば あ いに せ よ、 同 じ こ と であ る が 。 第 二 に 、国 家内 部 に おけ る時 事 的
論 争 の語 法 で は 、 ﹁政 治 的 ﹂ と は、 こ ん にち し ば し ば 、 ﹁党 派 政 略 的 ﹂ と 同 義 に用 いら れ る。
す な わ ち、 あ ら ゆ る 政 治 的 決 定 の も つ不可 避 的 な ﹁主 観 性 ﹂ ︱ ︱ そ れ は 、 あ ら ゆ る政 治 的 態 度
に内 在 す る友 ・敵 区 別 の反 映 に すぎ な いが︱︱ は 、 こ のば あ い、党 派 政 略 的 官 職 争 いや利 権 政
策 と いう み じ め な 形 態 や限 界 と な って あ ら わ れ 、 そ こ か ら 生 じ て く る ﹁非 政 治 化 ﹂ 要 求 も 、 た
ん に党 派 的 政治 性 等 々 の克 服 し か意 味 し な い の であ る。 政 治 的 即 党 派 政 策 的 と いう 等 置 が可 能
な の は 、 あ ら ゆ る 国 内 政 治 的 党 派 や そ の対 立 を 相 対 化 す る 包 括 的 統 一 ︵﹁国 家 ﹂︶ と いう 考 え方
が そ の力 を 失 な い、 そ の結 果 、 他 国 家 と の対 外 政 治 的 な 共通 の対 立 よ り も、 国 家 内 部 の対 立 の
ほ う が よ り 大 き な 強 度 を保 有 す る ば あ いであ る。 も し も 、 国家 内 部 にお いて、 党 派 政 治 的 対 立
が ま った く 政 治 的 対 立 そ のも のに な ってし ま う な らば 、 そ のと き 、 ﹁国 内 政 治 的 な﹂ 傾 向 は 、
最 高 度 に 達 す る。 す な わ ち 、対 外 政 治 上 の で は な く 、 国内 的 な 友 ・敵 結 束 が、 武 装 対 決 に と っ
て のき め手 と な る。 こ と政 治 であ る かぎ り は 、 つね に存 在 せざ るを え な い闘 争 の現 実 的可 能 性
が 、 こ の よう な ﹁国 内 政治 優 位 ﹂ のば あ いに は、 論 理 必然 的 に、 も は や組 織 化 さ れ た諸 国 民 単
位 ︵国 家 な いし帝 国 ︶ 間 の戦 争 で は な く 、内 乱 と な って あ ら わ れ る ので あ る 。
︵7 ︶ た と え ば 、 マキ ァベ リ は 、 君 主 国 でな い国家 を す べて 共 和 国 と呼 ぶ 。 か れ は 、 こ れ に よ って、
こ ん にち に いた るま で の 定 義 を規 定 し た の で あ る 。 リ ヒ ャル ト ・ト ー マは 、 民 主 政 を 、非 特 権 国 家
と 定 義 し 、 こ れ に よ って 、 民 主 政 で な いも の す べ て が特 権 国 家 と し て 説 明 さ れ て い る。
念 形 成 の本 質 的 な 抗 争 性 は つね に 認 め ら れ る 。 用 語 問 題 は し た が って 、 高度 に政 治 的 な 問 題 とな る 。
︵8 ︶ こ のば あ いも 、 抗 争 的 性 格 の数 多 く の種 類 や 段 階 が 可 能 で あ る が 、 し か し 政 治 的 造 語 な いし 概
す な わ ち 、 語 な いし 表 現 は 、 同 時 に 、 敵 対 的 論 議 の反 映 ・信 号 ・標 識 ・武 器 で あ り う る の で あ る 。
﹁私 法 の法 制 度 ﹂ の研 究 ︵チ ュービ ンゲ ン、 一九 二九年 、九七 ページ︶ のな か で 、 家 主 に対 し 借 家 人 の
た と え ば 、 第 二イ ンタ ー ナ シ ョナ ル の社 会 主 義 者 カ ー ル ・レ ンナ ー は 、 学 問 的 にき わ め て 重 要 な
支 払 う べき 家 賃 を ﹁貢 納 ﹂ と 呼 ん で いる 。 た い て い の ドイ ツ の 法 学 者 、 裁 判 官 、 弁 護 士は こう いう
呼び 方 を 、 私 法 関 係 の許 し が た い ﹁政 治 化 ﹂ で あ る と し て 、 ま た ﹁純 法 律 学 的 ﹂ ﹁純 法 学 的 ﹂ ﹁純
科 学 的 ﹂論 究 の障 害 と し て 拒 否 す る こと で あ ろう 。 なぜ な ら 、 か れ ら に と って 、 問 題 は、 ﹁実 定 法
的 に﹂ 決 定 さ れ て おり 、 こ の な か に 含 ま れ て いる 国 家 の 政 治 的 決 定 は 、 かれ ら に よ って承 認 さ れ て
いる か ら で あ る。 逆 に 、第 二 イ ンタ ー ナ シ ョナ ル の多 数 の 社会 主 義 者 た ち は 、 武 装 し た フ ラ ン スが 、
武装 解 除 さ れ た ド イ ツ から 強 制 す る 支 払 いを 、 ﹁貢 納 ﹂ と は 呼ば ず 、 た ん に ﹁賠 償 ﹂ と いう こ と を
重 視 す る 。 ﹁賠 償 ﹂ は ﹁貢納 ﹂ よ り も 法 律 学 的 で、 法 的 で 、 平 和 的 で 、 非 抗 争 的 で 、 非 政 治 的 で あ
るよ う に みえ る 。 し かし 、 よく 考 え れば 、 ﹁賠 償 ﹂ は 、 い っそう 強度 に抗 争 的 であ り 、し た が って 、
に利 用 し て 、 う ち 負 かさ れ た敵 を 、強 制 的 支 払 いに よ って、同 時 に 、法 的 お よ び 道 徳 的 な 失 格 者 た ら
ま た 政治 的 で あ る 。 な ぜ な ら 、 こ の 語 は 、 法 律 学 的 な 、 いや 道 徳 的 で さ え あ る無 価 値 判 断 を 政 治 的
し め よ う と す る も のだ か ら で あ る 。 こ ん に ち で は 、 ﹁貢 納 ﹂ と いう べき か 、 ﹁賠 償 ﹂ と いう べき か
の問 題 は 、 ド イ ツで は 国 内 的 対 立 のテ ー マと 化 し て いる。 過 去 の数 世 紀 に お いて は 、 ド イ ツ皇 帝
︵ハンガ リ ー 王 ︶ と ト ル コの大 君 と の間 に 、皇 帝 が ト ル コ人 に 支 払 わ な け れ ば な ら な いの は 、 ﹁年
賦 ﹂ であ る か ﹁貢 納 ﹂ で あ る か と いう 、 あ る 意 味 で は 、う え と 逆 の 論争 が あ った 。 こ こ で は 、債 務
者 は 、 自 分 の払 う の は貢 納 では な く 、 ﹁年 賦 ﹂ だ と いう こ と を 重 視 し 、 こ れ に 対 し 債権 者 は 、 そ れ
ら が ﹁貢 納 ﹂ であ る こと を重 視 し た の であ る 。 当 時 に お いて は 、 用 語 は 、 少 な く と も 、 キ リ ス ト 教
念 も お そら く は 、 ま だ こ ん に ち と 同程 度 には 政 治 的 な 強 制 用 具 と 化 し て いな か った 。 し か し な が ら 、
徒 と ト ル コ人 と の関 係 に お いては 、 表 面 上 こ ん にち よ り 開 放 的 か つ即 物 的 で あ って 、法 律 学的 諸 概
こ の論 争 に言 及 し たボ ダ ンは ︵﹃ 国家論 六巻﹄第 二版、一五八〇年、七八四ページ︶、 た いて いのば あ い ﹁ 年
の免 除 を 買 いと る た め に 、 も っぱ ら支 払 わ れ て いる、 と付 記 して い る。
賦 ﹂ と いえ ど も 、 他 の敵 に 対 し て で は なく 、 な によ り も 保 護 者 自 身 に対 し て みず か ら を 守 り 、侵 攻
︹製 造 ︺ 技 術 の 歴 史 的 発 展 に よ っ て 生 じ た あ ら ゆ
と いう の は 、 敵 と いう 概 念 に は 、 闘 争 が 現 実 に 偶 発 す る 可 能 性 が 含 ま れ て い る か ら で あ る 。 こ こ で 闘 争 と いう ば あ い は 、 戦 争 技 術 や 武 器
る 偶 然 的 な変 化 は 度 外 視 す る 。戦 争 と は、 組 織 さ れた 政 治 単 位 間 の武装 闘 争 で あり 、 内 乱 は 組
織 化 さ れ た 単 位 内 部 の 武 装 闘 争 ︵そ う な れ ば 組 織 化 さ れ た 単 位 と い う こ と 自 体 が 問 題 と な る ︶
で あ る 。 武 器 と いう 概 念 に と っ て本 質 的 な の は 、 人 間 を 物 理 的 に 殺 り く す る 手 段 だ 、 と いう こ
と で あ る 。 こ こ で は 、 闘 争 と いう 語 は 、 敵 と いう 語 と ま った く 同 様 に 、 そ の本 来 の 存 在 様 式 の
意 味 に お い て 解 さ れ な け れ ば な ら な い 。 闘 争 と は 、 競 合 で は な く 、 ﹁純 精 神 的 な ﹂ 論 議 の 戦 い
で は な く、 さ ら に は 、 そも そ も 人 生全 体 が ﹁戦 い﹂ で あ り 、 各 人 す べて が ﹁戦 士﹂ な の であ る
か ら、 結 局 だ れ も が 、 な ん ら か の形 で つね に行 な って いる よう な象 徴 的 な ﹁格 闘 ﹂ で も な い。
友 ・敵 ・闘 争 と いう 諸 概 念 が現 実 的 な意 味 を も つ のは 、 そ れら が と く に 、物 理的 殺 り く の現 実
的 可 能 性 と か か わ り 、 そ の か か わ り を も ち 続 け る こと に よ って で あ る。 戦 争 は敵 対 よ り 生 じ る 。
敵 対 と は 、 他者 の存 在 そ の も の の否 定 だ か ら であ る 。 戦 争 は、 敵 対 のも っと も極 端 な 実 現 に ほ
か な ら な い。 戦 争 は な に も 日常 的 ・通 常 的 な も の であ る 必要 は な いし 、 ま た 理 想 的 な も の、 望
ま し いも のと 感 じ ら れ る 必要 も な いが 、 た だ 、 敵 と いう 概 念 が意 味 を も ち続 け る か ぎ り は 、 戦 争 が現 実 的 可 能 性 と し て存 在 し続 け な け れば な ら な いの で あ る 。
し た が って 、 た と え ば 、 政 治 的 な あ り 方 と は 、 血な ま ぐ さ い戦 争 に ほ か な らず 、 政 治 的 な行
動 はす べて 、 軍 事 的 戦 闘 行 為 な ので あ る と か 、 いかな る国 民 も他 のす べ て の国 民 に対 し て常 時 、
友 か敵 か の二者 択 一を 迫 ら れ て いて 、戦 争 を 回 避 す る こと が か な らず し も政 治 的 に正 し いこ と
で は あ り え な いと か いう よう な こ と で は 決 し てな い。 こ こ で の べた 政治 的 な も の の定 義 は、 好
戦 的 ・軍 国 主義 的 な いし 帝 国 主義 的 で も な け れ ば 、 ま た平 和 主義 的 で も な い。 そ れは さら に、
戦 争 で の勝 利 や 革 命 の成 功 を、 ﹁社 会 的 理 想 ﹂ と し て か かげ よ う と いう 試 み でも な い。 な ぜ な
ら 、 戦 争 に し ろ革 命 に し ろ 、 ﹁社 会 的 な も の﹂ で も な け れば ﹁理想 的 な も の﹂ で も な いか ら で
あ る。 軍 事 的 戦 闘 そ のも のは 、 そ れ自 体 と し て み れば 、 た い て いは ま ち がえ て引 用 さ れ る ク ラ
ウ ゼ ビ ッ ツ の有 名 な 文 句 の よう に、 ﹁別 の手 段 を も ってす る 政 治 の継 続 ﹂ で は な く、 戦 争 と し
て の、独 自 の戦 略 的 ・戦 術 的 そ の他 の規 則 や 視 点 を も つも の で あ って 、 た だ 、 こ れ ら の規 則 ・
視 点 は す べて、 だ れ が敵 な のか 、 と いう 政治 的 決 定 がす で に な さ れ て いる と いう こ と を 、 前 提
と す る も のな の であ る。 戦 争 に お い ては 、 敵 同 士 は た いて い公然 と敵 同 士 と し て、 通 例 はさ ら
に ﹁制 服 ﹂ と いう 目 印 し さ え おび て対 立 す る の で あ って、 し た が って 、 友 ・敵 の区 別 は も はや 、
戦 う 兵 士 が ︹個 々 に︺ 解 決 し な け れ ば な ら な いよ う な 政 治 問 題 で は な く な る 。 ﹁政 治 家 は、 戦
いに か け ては 、 兵 士 よ り も訓 練 を積 ん で いる 。 政 治 家 は生 涯戦 い続 け る が 、 兵 士 の ほう は例 外
的 に のみ 戦 う のだ から ﹂ と いう 、 イ ギ リ ス の 一外 交 官 の こ とば は 、 こ の意 味 で 正 し い。 戦 争 は
決 し て、 政 治 の目 標 ・目的 で は な く 、 ま し て そ の内 容 で は な いが 、 た だ 戦 争 は 、 現 実 可 能 性 と
し て つ ね に 存 在 す る 前 提 な の で あ っ て 、 こ の 前 提 が 、 人 間 の行 動 ・思 考 を 独 特 な 仕 方 で 規 定 し 、 そ の こと を通 じ て 、 と く に 政 治 的 な 態 度 を生 み だ す ので あ る 。
間 の 共同 体 ﹂ こ そ 、 ﹁社 会 的 理想 ﹂ で あ る と いう 命 題 に対 し て 、エー リ ヒ ・カ ウ フ マ ン ︵﹃国際法 の本
︵9 ︶ ルー ド ル フ ・シ ュタ ムラ ー の新 カ ント 主 義 を基 礎 と す る命 題 、 す な わ ち 、 ﹁自 由 に意 志 す る 人
質 と現行条項﹄、 一九 一 一年、 一四 六ページ︶は次 のよ う に の べ て いる 。 ﹁自由 に 意 志 す る 人 間 の共 同 体 で
は な く 、 戦争 の勝 利 こそ が 社会 の 理想 で あ る 。 上 述 の最 高 目 標 ︵世 界史 への国 家 の関 与 と世 界 史 の
な か で の自 己 主 張︶ に いた る究 極 の手 段 と し て の戦 争 勝 利 が 。﹂ こ の提 言 は 、 ﹁ 社 会 的 理想 ﹂ と いう
典 型的 に 新 カ ント 主 義 的 自 由 主義 的 な 表 象 を と り い れ、 こ の表 象 に と っては 、 戦 争 と いう も のが 、
た と え 勝 ち いく さ で あ って も 、 ま った く 計 算 に 入 れ が た い、 相 容 れ ぬも の で あ る に も か か わ ら ず 、
こ れ を ﹁戦 争 の勝 利 ﹂ の 表 象 と 結 び つけ て いる 。後 者 は 、 ヘー ゲ ル的 ・ラ ンケ 的 歴史 哲 学 に 根 ざ す
も の で あ って、 こ の な か に は 逆 に、 ﹁社 会 的 理 想 ﹂ のは いる 場 所 はな い ので あ る 。 こ のよ う に し て 、
こ の 第 一印 象 で は目 ざ ま し い反 対 命 題 は 、矛 盾 す る 二部 分 に分 解 す る 。 ま た 強 烈 な 対 比 のも つ修 辞
的 印象 性 を も って し て も 、 こ の構 造 的 不 統 一を お お う こと は で き な いし 、 思 想 的 裂 傷 を いや す こ と はできな いのである。
手 段 を 介 入 さ せ て の政 治 的 交渉 の継 続 に ほ か な ら な い﹂ と 。 戦 争 は 、 か れ にと っては 、 ﹁ 政 治 のた
︵10 ︶ ク ラ ウ ゼビ ッツ ︵﹃ 戦争 論﹄ 第三部、 ベルリ ン、一八三 四年、 一四〇 ページ︶は いう 。 ﹁戦 争 と は 、他 の
ん な る 道 具 ﹂ な の で あ る 。 事 実 そ の通 り で あ る け れ ど も 、 し か し 政 治 の本 質 の認 識 に と って の 戦 争
って は 、戦 争 は多 く の道 具 のう ち の ひ と つな ど で は なく 、友 ・敵 結 束 の ﹁最 後 の 切札 ﹂ な ので あ る 。
の 意 味 は 、 こ こ で は ま だ つく さ れ て いな い。 つ いで な が ら 、 よ く 考 察 す れ ば 、 ク ラ ウ ゼビ ッツ に あ
戦 争 は 、 そ れ自 身 の ﹁文 法 ﹂ ︵す な わ ち 軍 事 的 ・技 術 的 特 殊 法 則︶ を も ち はす る が 、 そ の ﹁頭 脳 ﹂
は 、 いぜ ん と し て 政 治 な の であ って 、 戦 争 ﹁独 自 の論 理﹂ は 存 在 し な い。 つま り戦 争 は 、 そ の論 理
にす る の が 一四 一ペー ジ の文 章 で あ る 。 ﹁戦 争 が 政 治 に 属 す る ば あ い に は 、戦 争 は 政 治 の性 格 を お
を 、 友 ・敵 と いう 概 念 から の み獲 得 し う る ので あ って、 こ のあ ら ゆ る 政 治 的 な も の の核 心 を 明 ら か
こ れが 高 じ て い って 、 戦 争 が絶 対 的 形 態 に 到 達 す る と いう こ と も あ り う る 。 ﹂ こ れ以 外 の数 多 く の
び る こと にな る 。 政 治 が 大 規 模 と なり 強 力 に な れ ば た ちま ち 、 戦 争 も ま た そ のよ う に な る わ けだ し 、
文 章 も 、 すぐ れ て 政 治 的 な 考 慮 と いう も のが す べて 、 い か に 強 く 前 述 の政 治 的 二範 疇 を基 礎 と す る
ージ以下︶、 さ ら に は H ・ロート フ ェル ス ﹃カ ー ル ・フ ォ ン ・ク ラ ウ ゼ ビ ッツ の ﹃政 治 と 戦 争 ﹄ ︵ベ
も の で あ る か 、 を 証 明 し て いる 。 と く に た と え ば 、 連 合戦 線 と 同 盟 に か んす る詳 述 ︵前掲書 一三五ペ
ルリ ン、 一九 二〇年 、 一九 八、 二〇 二各 ページ︶ を参 照 のこ と 。
だ か ら と い っ て 、 友 ・敵 の 区 別 と いう 標 識 は 、 特 定 の 一国 民 が 、 永 久 に 他 の 特 定 の 一国 民 の
友 ま た は敵 で な け れば なら な いだ と か 、 あ る いは中 立 と いう こ と が不 可 能 で あ り 、 ま た は 政 治
的 に 無 意 味 で し か あ り え な い だ と か を 、 意 味 す る わ け で は 決 し て な い。 た だ 、 中 立 と い う 概 念
は 、 政 治 的 な 概 念 が す べ て そ う で あ る よ う に 、 こ れ ま た 友 ・敵 結 束 の現 実 的 可 能 性 と い う 究 極
的 な 前 提 の も と に 成 り 立 つ も の で あ っ て 、 か り に 地 球 上 が 中 立 ば か り に な って いる と す れ ば 、
そ の と き は し た が って、 戦 争ば か り か中 立 そ の も のも ま た 存 在 し な く な って いる こ と で あ ろ う 。
そ れ は 、 そ も そも 闘 争 と いう こ と の現 実 的 可 能 性 が消 滅 す るば あ い、 闘 争 回 避 の政 策 を も ふ く
め て 、 い かな る政 治 も 存在 し な く な って いる のと ま ったく 同 じ で あ る 。 か ん じ ん な のは 、 ど こ
ま で も 、 現 実 的 闘 争 と いう 、 こ の決 定 的 事 態 の可 能 性 で あ り 、 ま た 現 に こ の事 態 で あ る か いな
か に つ いて の判 定 な の であ る。
こ の事 態 が、 た ん に 例 外 的 に 生 じ る と いう こ と は 、 そ の規 定 的 性 格 を 消 し 去 る の では な く 、
む し ろ そ れ を確 証 す る も の で あ る。 戦 争 が 、 こ ん にち も は や以 前 ほ ど数 多 く 、 ま た 日 常 的 で は
な いに し て も 、戦 争 は 、 数 的 瀕 度 や 日常 性 の点 で減 少 し た と同 じ だ け 、 いや 恐 ら く は そ れ をう
わ ま わ って 、圧 倒 的 ・全 体 的 な重 み を増 し てき て いる。 こ ん に ち も な お 、戦 争 と いう 事 態 は、
﹁危 急 事 態 ﹂ な の であ る。 こ のば あ いに も そ の他 のば あ いに も 、例 外 的 事 態 こそ が、 と く に 決
定 的 な 、 こ と の核 心 を 明 ら か に す る 意義 を も つ、 と いう こ と が でき る 。 な ぜ なら 、 現 実 の闘争
に お いて こ そ 、 友 ・敵 と いう政 治 的 結 束 の究 極 的 帰 結 が露 呈 す る から で あ る。 こ の究 極 的 な可 能 性 か ら 、 人 間 生 活 は 、 す ぐ れ て政 治 的 な緊 張 を獲 得 す る の で あ る 。
こ のよ う な 闘 争 の可 能 性 が残 らず 除 去 さ れ 消 滅 し た 世 界 、 最 終 的 に平 和 に な った 地 球 と いう
も のは 、 友 ・敵 区 別 の存在 し な い世 界 、 し た が って、 政 治 の な い世 界 で あ る と いえ よう 。 そ の
世 界 に も 、 お そら く は た いそ う 興 味 深 い、 さ まざ ま な 対 立 や 対 比、 あ ら ゆ る 種 類 の競 争 や策 謀
が 存 在 し う る こ と で あ ろう 。 し か し 、重 要 な こ と には 、 そ れ を 根拠 と し て、 人 間 た ち が 生命 を
捧 げ る よ う 要 求 さ れ 、 血を 流 し 、他 の人 び と を 殺 り く せ よ と 強 制 さ れ う る よう な対 立 は 、 そ の
世 界 には 存 在 し え な い であ ろ う 。 こ のば あ いで も 、 こ のよ う な 政 治 な し の世 界 を 、 理 想 状 態 と
し て招 来 し よう と望 む か いな か は、 政 治 的 な も の の概 念 規 定 にと って は問 題 で な い。 政 治 的 な
も の と いう 現 象 は 、 た だ 友 ・敵 結 束 の現 実 的 可能 性 と 関 連 づ け る こ と に よ って のみ 理 解 さ れ る
も の で あ り、 そ こ から 政 治 的 な も のに対 す る 、 ど のよ う な 宗 教 的 ・道 徳 的 ・美 的 ・経 済 的 評 価 が で て く る か は 、 ど う で も よ いこ と な の であ る。
究 極 的 な 政 治 的 手段 と し て の戦 争 は 、 す べて の政 治 的概 念 の基 礎 に、 こ の友 ・敵 区 別 の可 能
性 が 存 在 す る こ と を露 呈 す るも の で あ る。 し た が って 、戦 争 は 、 こ の区 別 が、 人類 のあ いだ に
現 実 に存 在 す る かぎ り 、 あ る いはは 少 く と も現 実 的 に 可能 であ る かぎ り に お いて の み意 味 を も
つ。 こ れ に反 し 、﹁純 ﹂ 宗 教 的 、﹁純 ﹂ 道 徳 的 、﹁純 ﹂ 法 律 的 、 ﹁純 ﹂ 経 済 的 な 動 機 から 遂 行 さ れ
る戦 争 な ど と いう も の は矛 盾 で あ る 。 こ れ ら の人 間 生 活 の諸 領 域 の特 殊 的 な対 立 から は 、 友 ・
敵 結 束 は、 そ れ ゆ え に ま た戦 争 は 、 ひ き だ せな いの で あ る。 戦 争 と いう も のは 、 敬 虔 な も ので
も 、 道 徳 的価 値 のあ る も ので も 、 ま た採 算 のと れ る も の で も あ る 必要 がな い。 こん に ち で は 、
お そ ら く は 、 戦 争 は、 上記 のど れ でも な いの で あ る。 こ の簡 単 な 認 識 が混 乱 さ せら れ る のは 、
多 く は次 の事 情 に よ る。 す な わ ち 、 宗 教 的 、 道 徳 的 そ の他 の諸 対 立 が 、 政 治 的 対 立 に高 ま り う
る も の で あ る こ と 、 そ し て 、 友 ・敵 と いう 決 定 的 な 闘 争 結 束 を 招 来 し う る も の であ る こと 、 に
よ って で あ る。 た だ し 、 こ の闘 争 結 束 に ま で す す む ば あ いには 、 そ の準 拠 と な る 対 立 は 、 も は
や 、 純 宗 教 的 ・純 道 徳 的 な いし 純経 済 的 な も ので は な く 、 政 治 的 な 対 立 な の で あ る。 そ のば あ
い、 問 題 は ど こ ま で も、 そ のよ う な 友 ・敵 結 束 が 、 現 実 的 可 能 性 な いし は現 実 性 と し て存 在 す
る か いな か で あ って、 い かな る 人 間 的 動 機 が そ れ を呼 び 起 こ す のに十 分 強力 で あ る か、 と いう こ と は問 題 で は な い。
な にも のと いえ ど も 、政 治 的 な も の のこ の帰 結 を ま ぬが れる こと は でき な い。 かり に、 戦 争
に 対 す る 平 和 主 義 的 反 対 が強 力 に な り 、 そ のた め、 平 和 主義 者 が非 平 和 主 義 者 を 相 手 にし て、
戦 争 に、 ﹁戦 争 に反 対 す る戦 争﹂ に か り た て ら れ る ほ ど にな り う る と す れば 、 そ れ は、 人 び と
を 、 友 ・敵 に結 束 さ せ る のに十 分 な ほ ど 強力 な の であ る から 、 現 実 に政 治 的 な力 を も って いる、
と いう こ と が そ れ に よ って 証明 さ れ る で あ ろ う 。 戦 争 を 阻 止し よう と す る意 志 が強 固 で あ って、
戦 争 そ のも のを さ え、 も は や辞 さ ぬ ほ ど で あ れ ば 、 そ の意 志 は 、 ま さ に、 政 治 的 な動 機 と化 し
て いる の であ る。 つま り そ れ は 、 た と え極 端 な ば あ いと し てだ け で あ る に も せ よ 、戦 争 を 肯定
し 、 さ ら には 戦 争 の意 義 を さ え 認 め て いる の であ る。 現 在 で は、 こ れ が と く に有 望 な戦 争 是 認
の方 法 で あ る よ う に 思 わ れ る 。 戦 争 は そ のば あ い、 そ のた び ごと に、 ﹁人 類 の最 終 究 極 戦 争﹂
と いう 形 で 展開 さ れ る 。 そ の よう な戦 争 は 、政 治 的 な も のを 越 え で て、 敵 を 同時 に 、 道徳 的 そ
の他 の諸 範 疇 に お いても 蔑 視 し 、 た ん に撃 退 す る だ け でな く 、 は っき り 抹 殺 せざ るを え な い非
人 間的 怪 物 に仕 立 て あげ ず に は いな い。 そ れ ゆ え 、 も はや た ん に、 自 国 の域 内 に追 い返 さ れ る
べき敵 な ど と いう も の で は な い。 だ か ら 必然 的 に、 と く に激 烈 で非 人 間 的 な 戦 争 な の で あ る。
こ のよ う な 戦 争 の可 能 性 に お い てこ そ 、 戦 争 が現 実 的 可 能 性 と し て 、 こ ん に ち な お 存 在 し 、 そ
し てた だ こ の こ と だ け が 、 友 ・敵 の区 別 にと って、 ま た政 治 的 な も の の認識 にと って重 要 な の だ と いう こ と が 、 と く に 明 瞭 に示 さ れ る の で あ る。
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いか な る 宗 教 的 ・道 徳 的 ・経 済 的 ・人 種 的 そ の他 の対 立 も、 そ れ が実 際 上 、 人 間 を 友 ・敵 の
両 グ ルー プ に 分 け てし まう ほ ど に 強 力 であ る ば あ いに は、 政 治 的 対 立 に転 化 し てし ま う 。 政 治
的 な も のは 、 闘 争 自 体 に あ る の では な く︱︱ 闘 争 は そ れ自 体 独 自 の技 術 的 ・心 理 的 ・軍 事 的 な
法 則 を も つ ︱︱、上 述 のご と く 、こ の現 実 的 可 能 性 によ って規 定 さ れ た行 動 に 、ま た そ れ に よ っ
て 規 定 さ れ た自 己 の状 況 の明 瞭 な認 識 に 、さ ら に は、 友 ・敵 を 正 し く区 別 す る と いう 課 題 に あ
る の であ る。 あ る宗 教 団 体 が宗 教 団 体 と し て戦 う ば あ い、 そ れ が他 の宗 教 団 体 の成 員 に対 す る
も の であ れ、 ま た それ 以 外 の戦 争 で あ れ 、 そ れ は 、宗 教 団 体 で あ る こ と を越 え て 、政 治 的 な単
位 な の であ る 。 そ れ が 上記 の決 定 的 事 象 に対 し、 た ん に消 極 的意 味 に お いて作 用 す る 可能 性 し
か も た な いば あ いでも 、 す な わ ち、 みず か ら の成 員 に禁 令 を布 く こ と に よ って戦 争 を 阻 止 し う
る 、 つま り 相 手 のも つ敵 と し て の性 格 を決 定 的 に否 定 しう るば あ いで も 、 そ れ は 政治 的勢 力 な
の で あ る 。 同 じ こと は 、 経 済 的 基 盤 にも とづ く人 間 の結 合 、 た と え ば産 業 コ ン ツ ェル ンや 労働
組 合 に つ いて も いえ る 。 マル ク ス主 義 的 意 味 で の ﹁階 級 ﹂ さ え も 、 そ れ が、 こ の決定 的 段階 に
到 達 す る ば あ い、 す な わ ち、 そ れ が階 級 ﹁闘 争 ﹂ を真 剣 に行 な い、 相 手階 級 を実 際 の敵 と し て
扱 って、 国家 対 国 家 であ れ 、 一国 家 内 部 の内 乱 で あ れ、 そ れ と戦 う ば あ いに は 、 純粋 に経 済 的
な も ので あ る こ と を や め て政 治 的勢 力 と な る の で あ る。 こ のば あ い、現 実 の闘争 は 、 必然 的 に、
も は や 経 済 法則 にし た が って 展 開 さ れ る ので は な く ︱ ︱ も っと も 狭義 の技 術 的 な 意 味 で の闘
争 方 法 と な ら ん で︱ ︱ 、 そ の政 治 的 な 必然 性 や指 向 性 、連 合 ・妥 協 等 々を も つ の であ る 。 一国
内 部 で のプ ロレ タ リ ア が政 治 権 力 を 握 る と いうば あ い、 そ こ に は ま さ に プ ロレタ リ ア の国 家 が
成 立 し て い る の で あ って 、 そ れ は た と え ば 、 国 民 国 家 ・司祭 国家 ・商 人 国 家 ・軍 人 国 家 ・官 僚
国 家 そ の他 の いか な る政 治 的 単 位 の範 疇 に おと らず 、 ひ と つ の政 治 的 組 織 で あ る。 も し も 、プ
ロレタ リ ア とブ ルジ ョ アと の対 立 に も とづ いて 、全 人類 を 、 プ ロレ タ リ ア諸 国 家 とブ ルジ ョア
諸 国 家 と いう友 ・敵 に分 類 す る こ と が で き 、 そ れ 以 外 のあ ら ゆ る友 ・敵 結 束 が そ れ に 吸収 さ れ
て しま う と す れ ば 、 は じ め は 、見 掛 け 上 ﹁純 粋 に ﹂ 経 済 的 であ った こ れ ら の概 念 が獲 得 す る に
いた った政 治 性 が 、 こ こ に完 全 な 現実 性 と な って あ ら わ れ る ので あ る 。 一国 民内 部 にお け る 一
階 級 な いし そ の他 の集 団 の も つ政 治 的 な力 が 、 た だ 対 外 的 に遂 行 さ れ る す べ て の戦 争 を 阻 止し
う る と いう にと どま って 、 そ れ自 身 が 、 国 家 権 力 を握 り、 主体 的 に 友 ・敵 を 区 別 し 、 必要 と あ
れ ば 戦 争 を 遂 行 す る 、 と いう 能 力 な いし は意 志 を も つま で には いた ら な いの であ れば 、 そ のば あ い政 治 的 単位 は崩 壊 し て いる ので あ る 。
政 治 的 な も のは 、 人 間 生活 の実 に さ ま ざ ま な 分 野 か ら、 つま り宗 教 的 ・経 済 的 ・道 徳 的 そ の
他 の諸 対 立 か ら 、 そ の力 を う け と る こと が で き る。 そ れ は 、 な ん ら そ れ独 自 の領 域 を あ ら わ す
も ので な く 、 ただ 人間 の連 合 ま たは 分 離 の強 度 を あ ら わ す にす ぎ ず 、 こ のば あ い、 そ の動 機 は 、
宗 教 的 ・国 民 的 ︵人 種 的 意 味 で あ れ ・文 化 的 意 味 であ れ︶ ・経 済 的 そ の他 のも ので あ ってか ま
わ な いし 、 ま た 、 時 代 が異 な る に 応 じ て、 さ ま ざ ま な結 合 ・分離 を 生 じ さ せ る も のな の で あ る。
現 実 の友 ・敵 結 束 は 、存 在 的 に 強 力 か つ決 定 的 な も の で あ る か ら 、非 政 治 的 な 対 立 も 、 そ れ が
こ の結 束 を 生 じ さ せ る と た ん に、 そ れま で の ﹁純 ﹂ 宗 教 的 ・ ﹁純 ﹂ 経 済 的 ・ ﹁純 ﹂ 文 化 的 な標
識 や 動 機 は後 退 さ せ ら れ 、 いま や 政 治 的 と化 し た状 況 か ら く る 、 ま った く新 し い、独 特 の、 そ
し て ﹁純 ﹂ 宗 教 的 ・ ﹁純 ﹂ 経 済 的 等 々 の ﹁純 粋 な ﹂ 出 発 点 から み れば 、 と き に ひ ど く 矛 盾 す る
﹁不 合 理 な﹂ 諸 条 件 、 諸 帰 結 に支 配 さ れ る こ と に な る 。 いず れ に せ よ、 重 大 事態 を ふ ま え て の
結 束 だ け が 、政 治 的 な の で あ る。 そ の結束 は 、 そ れゆ え 、 つね に決 定 的 な 人間 の結束 であ る し 、
し た が って 、政 治 的 単 位 は 、 お よ そ そ れ が存 在 す る か ぎ り は つね に 、 決定 的 単位 な の であ って、
か つ、 例 外 的 事 態 を も 含 め、 決 定 的 事態 に つ いて の決 定 権 を 、概 念 上 必 然 的 に つね に 握 って い な く て は な ら な い、 と いう 意 味 に お いて ﹁主権 を も つ﹂ 単 位 な ので あ る 。
﹁主権 ﹂ と いう 語 は 、 ﹁単 位 ﹂ と いう 語 と 同 様 に、 こ こ で は 深 い意味 を も つ。 両 方 とも 、 あ
る政 治 的 単 位 に 属 す る各 人 の生活 のす べ てが 、 政 治 的 な も のに よ って規 定 さ れ、 そ の命 令 をう
け な け れば な ら な いと か、 あ る いは 、 あ る 中 央 集 権 的 組 織 が 、 あ ら ゆ る 他 の組 織 な いし団 体 を
絶 滅 し な け れ ば な ら な いと か を 、意 味 す るも の で は決 し て な い。 経 済 的 な顧 慮 が 、経 済 的 に 中
立 を標 傍 す る国 の政 府 の欲 す る す べて の こ と よ り も な お 強 力 で あ る、 と いう こ と も あ り う るし 、
同 様 に ま た 、 宗 派 的 に 中 立 を 標 榜 す る国 の権 力 が 、 宗 教 的 確 信 の た め に頭 を押 え ら れ る 、 と い
う こと も け っこ う あ り う る 。 問 題 と な る のは、 つね に た だ 〓 藤 事 例 な ので あ る 。経 済 的 ・文 化
的 な いし 宗 教 的 な対 抗勢 力 が、 重 大 事 態 に つ いて の判 定 を 主 体 的 に定 め う る ほ ど 強力 であ るば
あ いに は、 そ れ ら勢 力 は ま さ に、 政 治 的 単 位 の新 し い実体 と 化 し て いる ので あ る 。 そ の勢 力 が
も し、 みず か ら の利 益 や 原 理 に反 し決 意 さ れ た戦 争 を 阻 止 でき る ほ ど に 強力 で な いと す る なら
ば 、 そ れ は 、政 治 的 な も のと し て の決 定 的 段階 に 到 達 し て いな い、 と いう こ と を 示 す も の で あ
る。 みず か ら の利 益 や 原 理 に反 す る戦 争 を 、 た と え 国 家 の指 導 部 が行 な お う と し ても 、 そ れ を
阻 止す る だ け の力 は あ る け れ ど も、 他 方 みず か ら 主 体 的 に、 みず か ら の決定 によ って、 戦 争 を
き めら れ る ほ ど に は 強 力 でな い、 と す る な ら ば 、 そ こ には 、 も は や 統 一的 な 政 治勢 力 は存 在 し
な い ので あ る 。 事 情 は ど の よう で あ ろ う と も 、 政 治 的 単 位 と は 、現 実 の敵 と 現 実 に戦 う と いう
危 急 のば あ い の可 能 性 を ふ ま え て いる の であ る から 、 必然 的 に 、友 ・敵 結 束 にと って決 定 的 な
単 位 な ので あ って、 そ の意 味 で ︵な ん ら か の専 制 主義 的 な意 味 に お い て では な く ︶、 主 権 を も
つ単 位 な の であ るし 、 も し そ う でな け れば 、 そ も そ も 政治 的 単 位 は 存 在 しな いの で あ る 。
国 家 内 部 に お け る経 済 的 諸 団 体 に ど れ ほ ど 大 き な政 治 的 意 味 が生 じ る も の か に気 づ き、 と く
に 労働 組 合 が成 長 し て、 そ の有 す る経 済 的 権 力 手 段 、 す な わち スト ライ キ に対 し て、 国 家 の法
律 が か な り 無 力 で あ る こと に気 づ いた と き 、国 家 の死 滅 と 終 結 と いう こ と が、 少 々早 ま って 唱
え ら れ た ので あ る 。 こ れ が本 式 の教 説 と し て は じ め て で てき た のは 、著 者 の知 る か ぎ り で は 、
一九 〇 六年 お よ び 一九 〇 七 年 以 来 の、 フ ラ ン ス の サ ンジ カ リ スト に お いて で あ る 。 こ れ に関 連
す る国 家 理論 家 た ち のう ち で、 も っと も著 名 な のは デ ュギ ィで あ る 。 か れ は 、 一九 〇 一年 以 降 、
主 権 概 念 と 国 家 人 格 の観 念 を論 破 し よう と試 み、 無 批 判 的 な国 家 形 而 上 学 や 、 結 局 は 、 君 主絶
対 主 義 の 世 界 の残 渣 に すぎ な い国 家 人 格 説 に対 し 、 いく たび か適 切 な論 難 を 加 え て いる が、 や
はり 本 質 的 に は、 主権 思想 のも つ本 来 の政 治 的 意 味 を つか み そ こね て いる。 同 様 の こ と は 、 や
や お く れ て 、 ア ング ロサ ク ス ン諸 国 に生 じ た 、 G ・D ・H ・コー ルや ハロ ルド ・J ・ラ スキ の、
いわ ゆ る多 元 的 国 家 論 に つ いて も いえ る 。 か れら の多 元論 の実 体 は 、 国 家 と いう 主 権 的 単 位 、
す な わ ち 、 政 治 的 な 単 位 を否 定 し て、 個 々人 が多 数 の異 な った 社 会 的 結 合 ・連 携 の な か で 生 き
る も ので あ る こと を 、 く り 返 し 強 調 す る 点 に あ る。 た と え ば 、 個 々人 は、 宗 教 団 体 の、国 家 の、
労 働 組 合 の、 家 族 の、 スポ ー ツ ク ラブ の、 そ の他 多 く の ﹁諸 団 体 ﹂ の成 員 で あ って 、 そ れら は 、
そ れ ぞ れ のば あ いご と に 、 異 な った 強 さ で個 人 を規 定 し 、 ﹁誠 実 義 務 ・忠誠 義 務 の多 元 性 ﹂ と
いう 形 で拘 束 し てお り 、 こ れ ら の団体 の ど れ ひ と つと し て 、 そ れ が 、 無条 件 で 決 定 的 か つ主 権
的 であ る と は いえ な いの で あ る 。 む し ろ 種 々 の ﹁諸 団体 ﹂ は 、 そ れ ぞれ 別 の領 域 で、 も っと も
強 力 で あ る こ と を実 証 し う る も ので あ り 、 忠 誠 ・誠 実義 務 同 士 の〓 藤 は 、 そ れ ぞ れ のば あ いご
と に決 着 を つけ る よ り ほ か な いの で ある 。 た とえ ば 、 あ る労 働 組 合 の 一員 が、 組 合 と し て は今
後 教 会 へは通 わ な いと いう 指 令 が で て いる にも か か わ らず 、 教 会 へ通 い、他 方 、 労 働 組 合 を脱
︵11︶ ﹁こ の 巨 大 な も の ⋮ ⋮歴 史 の な か で かく も 巨大 な 地位 を 確 保 し て き た 、 こ の幻 想 的 で 驚 く べき
退 せ よ 、 と いう 教 会 か ら だ さ れ た要 求 に も同 様 に し た が わ な い、 と いう 事例 も考 え う る であ ろ う。
﹃社会主義 運動﹄、 一九〇七年 一〇月、三 一四ページ︶。 レ オ ン ・デ ュギ ィは 、 こ の部 分 を 、 か れ の講 演集
存 在 の死 。 す な わ ち 、国 家 は 死 ん だ ﹂ ︵ ジ ョルジ ュ ・ソレルから、 そ の理念をうけ ついで いるE ・ベー ルの
︵﹃ 社 会法、個人 の権利および国家 の変形﹄初版、 一九 〇八年︶ に引 用 し て いる。 か れ は 、 ﹁主権 を も ち 、
めた 。 デ ュギ ィ著 ﹃国 家 ﹄ ︵ パリ、 一九〇 一年︶ では 、 主 権 概 念 の 批判 は す で に 同 じ であ る にも か か
人 格 的 な も の と み な さ れ る 国家 が 死 ん だ 、 あ る いは 死 に瀕 し て いる﹂ ︵一五〇ページ︶ と いう に と ど
わら ず 、 こ の よう な 文 章 は ま だ みあ た ら な い。 こ ん に ち の国 家 に かん す る こ のよ う な サ ンジ カリ ス
ト的 診 断 の 興 味 深 い他 の事 例 は 、 エ スメ ン ﹃憲 法 ﹄ ︵ ネザー ルによる第七版︶ 、 一九 二 一年 、 一、 五 五
ペー ジ 以下 、 お よ び 、 な か んず く 、 マク シ ム ・ル ロア のと く に興 味 深 い著 書 ﹃公権 力 の変 形 ﹄ 一九
〇 七 年 を 参 照 せよ 。 サ ンジ カ リ スト 的 学 説 は 、 そ の 国家 の診 断 に か ん し て も 、 マ ル ク ス主 義 的 構 成
と 区 別 さ れ る。 マル ク ス 主 義 者 に と って 、国 家 は 、 死 滅 し あ る いは 死 に瀕 し て は おら ず 、 そ れ は む
の も の で あ り 、 さ し 当 た り な お 現 実 的 な の で あ る。 国 家 は 、 ソヴ ィ エト国 家 に お い て、 ま さ に 、 マ
し ろ、 階 級 の な い、 そ し て そ れ と とも に はじ め て国 家 のな く な る 社 会 への実 現 の手 段 と し て 不 可 欠
ル ク ス 主義 教 説 に よ って 、 新 た な エネ ルギ ー と新 た な 生命 を 獲 得 し た ので あ る 。
︵12 ︶ コー ル の提 説 の概 観 的 な 、 でき の よ い総 括 は 、 ︵か れ自 身 の ま と め で ︶ ア リ ス ト テ レ ス 学 徒 協
﹁国 家 は 他 の種 類 の 人間 の諸 団 体 と本 質 的 に 同 じ﹂ で あ る 。 ラ スキ の著 作 のな か で は 、 ﹃主 権 問 題
会 公 報 、 一六巻 ︵一九 一六年︶、 三 一〇 ︱ 三 二五 ペー ジ に印 刷 さ れ て いる 。 中 心的 提 説 は こ こ で も 、
の研 究 ﹄ 一九 一七年 、﹃近代 国 家 に お け る権 威 ﹄ 一九 一九 年 、﹃主権 の基 礎 ﹄ 一九 二 一年 を あげ て お
こ う 。さ ら に ﹃政 治 学 大 綱 ﹄ 一九 二 五年 、 ﹁法 と 国 家 ﹂ ︵公法雑 誌、第 一〇巻、 一九三〇年、 一︱ 二五 ペー
ジ︶参 照 。 こ れ以 外 の文 献 は 、 ク ン ・フ ァン ・シ ャオ の ﹃政 治 的多 元 論 ﹄、 ロンド ン、 一九 二 七年 を
四年、 二五 一ページ以下︶お よ び ﹃政 治 学 に お け る実 用 主 義 的 反 乱 ﹄ ニ ュー ヨ ーク 、 一九 二 八年 、 ま
参 照 せ よ。 こ の多 元 論 の批 判 と し ては 、W ・Y ・ エリ オ ット ︵ ﹃アメリカ政治学年報﹄第 一八巻、 一九 二
た 、 カ ー ル ・シ ュミ ット の ﹁国 家 倫 理学 と多 元 論 的 国 家 ﹂ ︵﹃ カ ント研究﹄第 三五巻 、 一九三〇年、 二八
︱ 四二ページ︶参 照 。こ ん にち の ド イ ツ国 家 の多 元 論 的 分 裂 お よ び 議 会 の多 元 論 的 体 系 の展 示 場 へ の
ジ以 下 を参 照 の こと 。
発 展 に かん し て は 、 カー ル ・シ ュミ ット の ﹃憲 法 の番 人 ﹄ チ ュービ ンゲ ン、 一九 三 一年 、 七 三 ペー
こ の事 例 でと く に注 意 を ひ く のは 、 宗 教 団 体 と 職 業 組 合 と の並 置 で あ って 、 こ れは 、 両者 が
と も に 国家 と 対 立 す る こ と か ら 、教 会 と 労働 組 合 と の同 盟 にま で発 展 し う る ので あ る 。 こ の並
置 は 、 ア ング ロサ ク ス ン諸 国 に起 こ った多 元 論 の特 徴 で 、 そ の理 論 的 出 発 点 と な った も のは 、
ギ ー ル ケ の 団 体 理論 と な ら ん で、 と く に、 J ・ネ ヴ ィ ル ・フ ィギ スの ﹃現 代国 家 に おけ る教
会 ﹄ と 題 す る著 書 ︵一九 一三年︶で あ った 。 ラ ス キ がな ん ど も く り 返 し言 及 し てお り 、 明 ら か に
か れ に強 い感 銘 を 与 え た歴 史 的 事 象 は 、 ビ ス マル ク が、 カ ト リ ッ ク教 会 と 社 会 主 義 者 と に 同時
に 立 ち 向 か い、 ど ち ら も 不成 功 に 終 わ った そ の政 策 で あ る。 ロー マ教 会 に対 す る ﹁文 化 闘 争 ﹂
に お いて 、 ビ ス マ ルク帝 国 と いう 不 敗 の力 を も つ国家 で さ え も 、 絶 対 的 に 主権 的 で あ り全 能 で
あ る わ け で はな い、 と いう こと が実 証 さ れ た ので あ る 。 同 様 に、 こ の国 家 は 、社 会 主義 的 労 働
者 階 級 に対 す る戦 いに も 勝 てな か った。 す な わ ち 、 経 済 の領 域 で 、 ﹁罷 業 権 ﹂ のも つ力 を労 働 組 合 の手 から 奪 いと る こ と が で き な か った の で あ る 。
ー ジ で 次 のよ う に 、 す な わ ち 、 そ の 法 史 的 研 究 が 、 同様 に多 元 論 者 に影 響 を 及 ぼ し て いる メイ ト ラ
︵13 ︶ フ ィギ ス ﹃現 代 国 家 に おけ る教 会 ﹄ ︵ロンド ン、 一九 一三年︶参 照 。 こ れ は つ いで な が ら 二四 九 ペ
ンド が 、 ギ ー ル ケ の ﹃ド イ ツ団 体 法 ﹄ ︵上述 一三 ページ 、︹六三年版 二五ページ。本 訳書 一三ページ︺ 参照︶
に つ いて 、 こ れ は 、 ﹁ 自 分 が か つ て読 んだ う ち の最 大 の書 で あ る﹂ と の べて いる こ とを 伝 え て いる 。
す な わ ち 、 教 会 と 国 家 、 つま り 教 皇 と皇 帝 、 も っと 正 確 に は 、 聖 職 者 身 分 と 世 俗 的 身 分 と の間 の中
に反 し 、 こ ん に ち で は 、 こ こ で対 抗 し て いる の は 二 つ の社 会 で あ る 、 と 。 わ た く し の考 え では 、 こ
世 的 抗 争 は 、 二 つ の ﹁社 会 ﹂ の闘 争 で は な く 、 同 一の 社 会 的単 位 内 部 で の内 乱 で あ った のだ 。 こ れ
れ は 正 し い。 な ぜ な ら 、教 会 分 裂 以 前 の時 期 に お いて は 、 教 皇 と 皇 帝 と の関 係 は な お 、 教皇 が 権 威
を 、 皇 帝 が 権 力 をも つ、 し た が って 、 同 一単 位 内 部 に お け る ︹役 割 の︺ 配 分 が成 り 立 つ、 と いう 公
式 化 が 可 能 で あ った のに 対 し 、 一二世 紀 以降 、 カ ト リ ック 学 説 は 、教 会 と 国家 と は 二 つ の社 会 であ
り 、 し か も さ ら に 、 両 者 と も ﹁完 全 社会 ﹂ で あ る ︵そ れ ぞ れ が みず から の領 域 に お いて 主 権 を も ち 、
の教 会 の みが ﹁完 全 社 会 ﹂ と し て認 め ら れ る のに 対 し 、 国 家 の側 で は 、 こ ん に ち ︵ 無 数 で は な いに
自 足 的 で あ る︶ と いう こと を 固執 し て いる ので あ る 。 そ のさ い、教 会 の側 で は も ち ろん 、た だ 一つ
し て も ︶、 複 数 の ﹁完 全 社 会 ﹂ が み ら れ 、 そ の ﹁完 全 性 ﹂ が そ の数 の多 さ の故 に 疑 問 と な って いる
の であ る。 カ ト リ ック 学 説 の きわ め て明 解 な 概 括 は 、 パウ ル ・シ モ ンが 、 論 文 ﹁国 家 と教 会 ﹂ ︵ ﹃ド
ス ン的 多 元 論 に特 徴 的 な教 会 と 労 働 組 合 と の並 置 は 、 カ ト リ ック 理論 で は も ち ろ ん考 え ら れ な い。
イ ツ民族﹄ ハンブ ルグ、 一九 三 一年 、八月号、五七 六︱ 五九 六ページ︶に お いて の べて い る。 ア ング ロサ ク
同 様 に 、 カ ト リ ック教 会 が 、 労 働 組 合 −イ ンタ ナ シ ョナ ル と 本 質 的 に同 じ も の と し て 扱 わ れ る こと
た ん に 労 働 組 合 の た め の ﹁か く れ み の﹂ に役 立 って いる の であ る。 つ いで な が ら 、 カ ト リ ック の側
を 認 め る はず も な か ろう 。 事 実 、 教 会 は 、 エリ オ ット の適 切 な 評 言 の よう に 、 ラ スキ に と って は 、
に も 、 ま た 上 記 多 元論 者 の側 に も 、 残 念 な が ら 双 方 の理 論 お よび そ の相 互 関 係 に つ い て の明 解 か つ 徹 底 的 な 論 究 は み ら れ な い。
こ の評 価 は 、 大部 分 当 た って いる。 事実 、 国 家 の ﹁全 能 ﹂ と いう よう な い い回 し は 、往 々に
し て、 神 の全 能 と いう 神 学 的 公 式 の表 面 的 世 俗 化 にす ぎ な い の で あり 、 一九 世紀 ド イ ツ国 家 の
﹁人格 ﹂ 説 にし て も 、 一面 で ﹁絶 対 ﹂ 君 主 と いう 人格 に対 す る対 抗 提 言 で あ り 、 ま た 一面 で は 、
君 主 主 権 か人 民 主権 か と いう ジ レ ン マを避 け る た め、 国 家 と いう ﹁よ り高 い第 三者 ﹂ へ逃 げ 込
も う と す る も のな ので あ る 。 だ が こ ん な こ と で は ま だ 、 いか な る ﹁社 会 的単 位 ﹂ ︵こ こ では さ
し 当 たり ﹁社 会 的 ﹂ と いう 不 正 確 で融 通 のき く 概 念 を 借 用 し て お く︶ が 、 〓 藤 事 例 に決 着 を つ
け 、 友 ・敵 と いう 決 定 的 結 束 を規 定 す る のか 、 と いう 問 題 に は 答 え ら れ て いな い。 教 会 であ れ、
労 働 組 合 で あ れ 、 さ ら に は両 者 の同 盟 で あ れ 、 ビ ス マル ク治 下 のド イ ツ帝 国 が 戦 争 を 行 な おう
とし たば あ い、 そ れ を 禁 止 な いし 阻 止 は し な か った で あ ろ う 。 も ち ろ ん、 ビ ス マ ルク は 、教 皇
に向 か っ て宣 戦 す る こ と は で き な か った が 、 そ れ は た だ 、教 皇 自 身 が 、 も はや ﹁交 戦 権 ﹂ を も
た な か った から にす ぎ な い。 社 会 主 義 労 働 組 合 も ま た 、 ﹁交 戦 相 手 ﹂ とし て登 場 し よ う な ど と
は考 え も し な か った。 いず れ に せ よ、 当 時 の ド イ ツ政 府 が 、 重 大 事 態 に か ん し て判 定 を 下 す さ
い、 みず から 政 治 的 な 敵 と な り 、 こ の概 念 の あ ら ゆ る 帰 結 を 身 に こう む る こ と な し に、 そ の判
定 に 反 抗 し え た、 も し く は 反 抗 の意 志 を も ち え た よ う な 、 いか な る機 関 も考 え え な か った で あ
ろう 。 事 実 、 教 会 も 労 働 組 合 も内 乱 を 起 こ そ う と は し な か った ので あ る 。 こ の こと は、 主権 お
よび 単 位 に つ いて の理 性 的 な概 念 を基 礎 づ け る の に十 分 で あ る 。 政 治 的 単 位 と は、 そ れ が ど の
よう な力 か ら 最 終 的 な 心 理 的動 機 を 獲 得 す る か に関 係 な く 、 ま さ に そ の本 質 上 、決 定 的 単位 な
の で あ る。 そ れ は 存 在 す る か存 在 し な いか 、 いず れ か で あ る 。 も し 存 在 す る の で あ れば 、 そ れ は 最 高 の単 位 、 す な わ ち 決定 的 事 態 にお いて決 定 す る 単 位 な の で あ る。
︵14︶ ラ スキ は 、 イ ギ リ ス の カ ト リ ック 教 徒 と グ ラ ッド ス ト ー ンと の対 決 に言 及 し て いる ので 、 こ こ
﹃ バチ カン教令とそ の服従義 務にと って の意味﹄に ついて︶か ら 次 の文 章 を 引用 し よ う 。 ﹁教 皇 お よ び そ の
で 後年 の 枢 機 卿 ニ ュー マ ンが 、 ノー フ ォー ク 公 に あ てた 書 簡 ︵一八七四年、グラ ッド スト ーンの著書
同 盟 者 た ち に対 し て 、 イ タ リ アを 援 助 す る た め 、 イ ギ リ スが 装 甲 艦 を 派 遣 し よ う と 考 え るも の と仮
定 し よ う 。 そ のば あ いき っと 、 イ ギ リ スの カ ト リ ック 教 徒 は 、 こ のこ と に つ い て、 は な はだ し く憤
激 し 、 戦 争 開 始前 か ら も う 教 皇 に味 方 し 、 憲 法 で 認 めら れ たあ ら ゆ る 手 段 を 戦 争 阻 止 のた め に 用 い
る こと であ ろう 。 だ が し かし 、 い った ん 戦 争 が 勃 発 し た ば あ い、 か れ ら の行 動 様 式 が 、戦 争終 結 の
た め に祈 り か つ努 力 す る 以 外 に あ りう る と 、 だ れ が 信 じ よ う 。 か れ ら が 裏 切り 的 な な ん ら か の行 為 に踏 み 切り う る な ど と、 いか な る 根 拠 から 主張 で き る で あ ろう か 。 ﹂
国 家 が 単 位 で あ り 、 し か も 決 定 的 な単 位 で あ る のは 、 そ の政 治 的 な 性 格 にも と づ く。 多 元 的
理 論 は 、 社 会 的 諸 団 体 の連 合 に よ って単 位 と な る国 家 の国 家 理 論 であ るか 、 さ も な け れ ば 、 た
ん に国 家 の解 消 ・否 定 の 理論 に し か す ぎ な い。 も し も そ の理論 が 、 国 家 の単 一性 に異 論 を 唱 え 、
国 家 を ﹁政 治 団 体 ﹂ と し て 、他 のた とえ ば 、 宗 教 的 ・経 済 的 諸 団 体 と 同 列 に お く ので あ れば 、
そ れ は な に よ り も ま ず 、政 治 的 な も の の特 殊 的 内 容 いか ん の問 いに答 え な け れば な ら な い。 し
か し 、 ラ スキ の数 多 い著 書 の いず れ にも 、 国 家 ・政 治 ・主権 お よ び ﹁政 府 ﹂ に つ いて は た えず
言 及 し な が ら も、 政 治 的 な も の の明 確 な定 義 は み いだ せ な い の であ る。 国 家 は、 他 の諸 団体 と
競 合 す る 一団 体 に あ っさ り と変 容 し 、 そ の内 部 お よび 外部 に存 在 す る他 の いく つか の利 益 社 会
と 同 位 ・同 列 の、 一利 益 社 会 と な って いる。 こ れ が 、 こ の国 家 理論 の ﹁多 元 論 ﹂ で あ って、 そ
の鋭 い批 判 は あげ て 、 従 来 の国 家 の過 大 評 価 に 、 そ の ﹁主 権 ﹂ と ﹁人格 性﹂ に 、 そ の最 高 単 位
の ﹁専 有 ﹂ に向 け ら れ て いる 一方 、 で は政 治 的 単 位 と は そ も そ も いか な る も の であ る べき か に
つ いては 不 分明 のま ま な の で あ る。 こ の単 位 は 、 と き に旧 来 の自 由 主義 的 な 流儀 で、 本 質 的 に
経 済 的 な も のに よ って規 定 さ れ る利 益 社 会 の たん な る奉 仕 者 のよ う に みえ る か と 思 えば 、 他 方
で は、 多 元 的 に特 殊 な 利 益 社 会 す な わ ち 他 の諸 団 体 と同 列 の 一団体 のよ う でも あり 、 つ いに は
社 会 的 諸 団体 の連 合 の産 物 な いし は 諸 団 体 の 一種 の 上位 団 体 のよ う に も みえ る の で あ る 。 と こ
ろ で、 な に よ り も ま ず 解 明 さ れ な け れ ば な ら な いの は 、 いか な る 理 由 から 、 人 間 が、 宗 教 的 ・
文化 的 ・経 済 的 そ の他 の諸 団体 のほ か に なお 政 治 的 な団 体 、 す な わ ち ﹁統 治 団 体 ﹂ を構 成 す る
のか 、 ま た 、 こ の政 治 的 団体 の も つ特 殊 政 治 的 な意 味 と は な ん であ る のか 、 で あ る 。 こ こに は、
確 実 で明 晰 な 思 考 過 程 のす じ 道 は認 めら れ な い ので あ って、 究 極 の、 包 括 的 な 、 ま った く 一元
論 的 ︱ 普 遍 的 であ って、 決 し て多 元 論 的 でな い概 念 と し て 、 コー ル のば あ いに は ﹁社 会﹂、 ラ
ス キ のば あ い には ﹁人 類 ﹂ が 登 場 す る の で あ る。
こ の多 元 的 国 家 理論 は 、第 一に そ れ自 体 が多 元論 的 であ る 。 す な わ ち、 そ こ に は 、 統 一的 中
心 が な く 、 そ の思 考 上 の契 機 を 、 実 に さ まざ ま な観 念 領 域 ︵宗 教 ・経 済 ・自 由 主義 ・社会 主義
等 々︶ か ら え て いる 。多 元 的 国 家 理論 は 、 あ ら ゆ る 国 家論 の中 心概 念 、 す な わ ち 政治 的 な も の
を 無 視 し 、 諸 団 体 と いう多 元 論 か ら連 合 的 に構 成 さ れ た 政 治 的 単 位 へと いき つく 可能 性 を す ら
論 じ て いな い。 多 元 的 国 家 理論 は、 自 由 な個 人 お よ び 個 人 の自 由 な諸 団体 への奉 仕 に お いて、
あ の団 体 こ の 団体 と次 々 に くり だ す こ と よ り ほ か には 、 結 局 は な に も し て お らず 、 そ のさ い、
問 題 や〓 藤 が す べ て、 個 人 の 立場 か ら 決定 さ れ る の であ る か ら 、多 元 的 国家 理論 は 、 ま った く
自 由 主義 的個 人 主 義 の枠 を脱 し て いな い ので あ る 。 実 際 に は 、 政治 的 ﹁利 益 社 会 ﹂ と か 政 治 的
﹁団 体 ﹂ と か は 存 在 し な い。 存 在 す る のは た だ 、 政 治 的 単 位 で あ り 、 政 治 的 ﹁共 同 体 ﹂ な の で
あ る。 た ん に利 益 社 会 ・団 体 的 な も のを 越 え て決 定 的 な単 位 、 す な わ ち特 殊 的 に異 な る も の、
他 の諸 団 体 に対 し て決 定 的 な も の、 を 作 り だ す の は、 友 ・敵 結 束 の現 実 的 可 能 性 が あ れば 足 り
る ので あ る 。 こ の ︹決定 的 な︺ 単 位 自体 が、 たま た ま 欠落 す る ば あ いには 、 政 治 的 な も の自 体
も 欠 落 す る の であ る。 政 治 的 な も の の本 質 が認 識 さ れず 注 目 さ れ な いか ぎ り に お いて の み 、 政
︵ 後
治 的 ﹁団 体 ﹂ を 多 元 論 的 に 、 宗 教 的 ・文 化 的 ・経 済 的 そ の 他 の 諸 団 体 と 並 置 し 、 そ れ ら と 競 合
さ せ る 、 と いう こ と が 可 能 な の で あ る 。 も っと も 、 政 治 的 な も の と い う 概 念 か ら は 、 以 下
述 6︶ で 示 さ れ る は ず だ が 、 多 元 論 的 帰 結 が で て く る の で は あ る が 、 し か し 、 同 一の 政 治 的 単
位 の 内 部 で 決 定 的 な 友 ・敵 結 束 に 代 わ っ て 多 元 論 が 登 場 し う る と い う よ う な 意 味 で は な く 、 そ
の ば あ い に は 、 統 一性 と 同 時 に 政 治 的 な も の自 体 も ま た 破 壊 さ れ て い る こ と で あ ろ う 。
う。 ﹂ E ・レ ーデ ラ ー ﹁社 会 科 学 論叢 ﹂ 三 九 号 ︵一九 一五年︶ 、 三 四九 ペー ジ 。
︵15︶ ﹁動 員 令 が で る と 同 時 に、 そ の 日ま で 存 在 し た利 益 社 会 が 、 共 同 体 に かわ る と い って よ か ろ
5
本 質 的 に政 治 的 な 単位 と し て の国 家 に は、 交 戦 権 が あ る 。 す な わ ち 、 現 実 の事 態 のな か で、
みず か ら の 決定 に よ って 敵 を 定 め、 そ れと 戦 う 現 実 的 可 能 性 で あ る 。 いか な る 技 術 的 手 段 で戦
いが行 な わ れ る か 、 いか な る 軍 隊 組 織 が現 に あ る か、 戦 争 に勝 つ成 算 がど のく ら い大 き いか は、
政 治 的 に 一体 で あ る 国 民 が 、 みず から の存 在 と独 立 のた め に 戦 う 用 意 があ り 、 そ の さ い、 自 己
の 独 立 と 自 由 と が いかな る点 に あ る の かを 、 みず か ら の決定 に よ って定 め る かぎ り にお いて は
重 要 で はな い。 軍 事 技 術 の発 達 の いき つく と こ ろ 、 お そ ら く は 、 そ の 工業 力 が成 算 のあ る戦 争
遂 行 を 可能 にす る少 数 の国 家 が残 る のみ で あ って 、 そ れ よ り 弱 小 の諸 国 は 、 誤 り のな い同 盟 政
策 に よ って 、 みず か ら の独 立 を 維 持 す る こ と に成 功 し な いかぎ り 、 みず か らす す ん で、 あ る い
は や む を えず 、 交 戦 権 を放 棄 す る こと にな る よ う に思 わ れ る。 こ の よう な展 開 は、 お よ そ戦 争
や 国家 や政 治 が な く な ってし ま った こ とを 示 す も の で は な い。 人 間 の歴 史 や発 展 の数 か ぎ り な
い変 化 ・変 革 のひ と つひ と つが、 政 治 的 結 束 の新 し い形 態 、 新 し い次 元 を作 り だ し 、 既存 の政
治 組織 を 破 壊 し 、 対 外 戦 争 ・内 乱 を誘 発 し 、組 織 化 さ れ た政 治 的 単位 の数 を増 し た り 減 じ た り し てき た の であ る。
決 定 的 な 政 治 的 単 位 と し て の国 家 は 、 途 方 も な い権 限 を 一手 に集 中 し て いる。 す な わ ち、 戦
争 を遂 行 し 、 か つそ れ に よ って公 然 と 人 間 の生 命 を意 のま ま に す る可 能 性 で あ る 。 なぜ な ら 、
交 戦 権 は、 こ のよ う な 自 由 に処 理す る権 能 を 含 ん で いる か ら で あ る 。 そ れ は 、自 国 民 に対 し て
は 死 の覚 悟 を 、 ま た 殺 人 の覚 悟 を要 求 す る と と も に、 敵 方 に 立 つ人 び と を 殺 り く す る と いう 、
二 重 の可 能 性 を意 味 す る 。 と こ ろ で、 正 常 な 国 家 の機 能 は 、 な に よ り も 、 国 家 お よ び そ の領 土
の内 部 に お いて 、 完 全 な 平 和 を も た ら し 、 ﹁平 静 ・安 全 ・秩 序﹂ を 確 立 し 、 そ れ に よ って 正常
な 状 態 を作 り だ す こ と な の で あ って 、 す べて の規 範 が正 常 な状 態 を 前 提 と し 、 逆 に、 完 全 に異
常 な状 態 に は 、 いか な る規 範 も適 用 さ れ え な いの であ る か ら 、 こ の正 常 な 状 態 は 、 お よ そ法 規 範 が妥 当 し う る た め の前 提 な の であ る 。
こ の国 家内 部 にお け る平 和 の不 可 欠 性 から の結 論 と し て 、危 機 的 状 況 にさ いし て、 政 治 的 単
位 と し て の国家 が存 続 す る かぎ り 、 そ れ は 、 主 体 的 に ﹁内 敵 ﹂ を も 決 定 す る、 と いう こ と が で
て く る。 そ れ ゆ え 、 ギ リ シ ア 共和 国 の国 法 が 、 内 敵 宣 言 と し て 、 ま た ロー マの国 法 が内 敵 宣言
と し て認 め て いた も の が、 な ん ら か の形 で 、 あ ら ゆ る国 家 に存 在 す る の であ る。 追 放 と か破 門
と か人 権 剥 奪 と か法 的 保 護 の停 止 と か 、 要 す る に国 内 的 対 敵 宣言 のさ ま ざ ま の形 ︱ ︱ 苛 酷 な 、
あ る いは 穏 び ん な 、 直 接 適 用 さ れ 、 あ る いは 特 別 法 に も とづ いて 法 律 の形 で効 力 を 発 す る 、 む
き だ し の、 あ る いは 一般 的 表 現 のかげ に 隠 さ れた ︱ ︱ が存 在 す る の であ る。 こ の内 敵 宣言 は 、
国 家 の敵 と 宣 告 さ れ た相 手 の出 方 次 第 で 、 内 乱 のき ざ し︱ ︱ す な わ ち、 内 部 的 に平 和 で あ り 、
領 土内 がま とま って 、外 部 か ら の浸 透 を 許 さ な い、組 織 化 さ れた 政 治 的 単 位 と し て の国家 が崩
壊 す る きざ し ︱ ︱ と な る 。次 いで は 、 内 乱 に よ って、 こ の単位 の将 来 の運 命 が決 す る で あ ろ う 。
こ のこ と は 、 立憲 的 ブ ルジ ョア 法 治 国 家 に と って 、憲 法 に よ る 国 家 の諸 制 約 に も か か わ ら ず 、
す べ て の 他 の諸 国 家 に と っ て と 同 様 、 い や む し ろ そ れ 以 上 に 、 当 然 の こ と と し て 当 て は ま る の
で あ る 。 な ぜ な ら 、 ロ レ ン ツ ・フ ォ ン ・シ ュタ イ ン の いう よ う に 、 ﹁立 憲 国 家 ﹂ に お い て は 、
憲 法 が ﹁社 会 的 秩 序 の 表 現 で あ り 、 公 民 的 社 会 の 存 在 そ の も の な の で あ る か ら 、 し た が っ て 、
憲 法 が 侵 害 さ れ る ば あ い、 戦 い は 、 憲 法 や 諸 法 の 枠 外 で 、 つま り 武 器 の 暴 力 で 、 決 着 を つ け な く ては な ら な い﹂ から で あ る。
ギ リ シ ア史 に お いて は 、 デ モ フ ァ ント ス の 人 民 決議 が も っと も 有 名 な実 例 と いえ よ う 。 ア テ ナ イ 国 民 が 、
四 〇 〇 人 の追 放 後 、紀 元 前 四 一〇 年 に議 決 し た こ の 人 民 決議 は 、 ア テ ナ イ の民 主 政 を解 体 し よ う と 企 て た
いて は 、 ブ ソ ル ト ・ス ボボ ダ の ﹃ギ リ シ ア の国 家 学 ﹄ 第 三 版 、 一九 二〇 年 、 二 三 一、 五 三 二各 ペー ジを 参
ひ と り ひ と り に つい て 、 ﹁アテ ナ イ 人 の敵 で あ る﹂ こ と を 宣 言 し た も の で あ る 。 他 の 事 例 お よ び 文 献 に つ
照 せ よ 。 スパ ル タ の監 督 官 た ち が 、 国 家 内 部 で暮 し て いる 奴 隷 たち に対 し て 、毎 年 、 宣 戦 布 告 を し た こ と
に ついて は 、同書 六 七 〇 ぺー ジ を 参 照 の こ と 。ロー マ の国 法 にお け る内 敵 宣言 に つ いて は 、モ ム ゼ ンの ﹃ロ
ー マの国 法 ﹄ 第 三巻 、 一二 四 〇 ペー ジ 以 下 。 人権 剥 奪 に つ いて は 、 同 上 お よび 第 二 巻 七 三 五 ペー ジ 以 下 。
法 外 放 置 等 に つ いて は 、 ド イ ツ法 制 史 の著 名 な諸 教科 書 のほ か 、 と く に、 Ed ・ア イ ヒ マ ンの ﹃中 世期 の帝
コバ ン党 員 お よび 公 安 委 員 会 が 行 な った数 多 く の法 律 保 護 の停 止 宣 言 の実 例 が みら れ る。 と り た て て あ げ
国 法 にお け る追 放 お よび 破 門 ﹄ ︵一九〇九年︶を 参 照 せよ 。 オ ー ラ ー ル の ﹃フラ ン ス革 命 史 ﹄ の な か に 、ジ ャ
る べ きも の と し て 、 E ・フリ ーゼ ン ハー ン の ﹃政 治 的 誓 言 ﹄、 一九 二 八年 、 一六 ペー ジ に引 用 さ れ て いる 公
安 委 員 会 報 が あ る。 す な わ ち 、 ﹁フ ラ ン ス 人民 が そ の意 志 を 表 明 し た以 上 、 そ れ に 反 対 の者 は す べ て主 権
外 の存 在 であ り 、 主 権 外 に あ る者 は す べ て敵 で あ る ⋮ ⋮。 人 民 と そ の敵 と の間 に は も は や 、 剣 以 外 にな ん
の共 通 点 も な い。 ﹂ 法 外 放 置 はま た、 特 定 の 宗 教 な いし 党 派 の成 員 に は 、平 和 的 な いし 合 法 的 な考 え 方 が欠
如 し て い ると み な さ れ る 、 と いう ふう に し て行 な わ れ る こ と も あ る。 こ れ に つ いて は 、 邪 教 徒 や 異 端者 の
政 治 史 に無 数 の実 例 が みら れ 、 こ れ に関 し て は 、 ニ コラ ス ・デ ・ベ ル ヌ ル ス の次 の議 論 ︵﹃ひとつの、および
異な った宗教 に ついて﹄ 一六四六年︶ が 特 徴 的 で あ る 。 ﹁邪 教 徒 は 、 平 和 的 で あ る ば あ い にも 、 国 家 内 に許 容
ス ﹁ 教 会と国家﹂、 ベルギー文献学 ・歴史学報 、第 五巻、 一九 二七年、第 二 ・三号より引用︶ 。
し ては な ら な い。 な ぜ な ら 邪 教 徒 の よ う な 人 間 は 、と う て い平 和 的 で あり え な い のだ か ら ﹂ ︵H ・J ・エリ ア
内 敵 宣 言 の弱 ま った形 態 は、 数 多 く 種 々雑 多 であ る。 す な わ ち 没 収 、 本 国 追 放 、 結 社 ・集 会 の禁 止 、 公
国 の政 治 的 ・社 会 的 発 展 の 叙 述 中 に みら れ る ︵ ﹃フラ ンスにおける社会運動 の歴史﹄第 一巻 、﹃社会 の概念﹄、G ・
職 追 放 等 々 。 ︱︱ さ き に引 用 し た ロレ ツ ・フ ォ ン ・シ ュタ イ ン の文 章 は、 フ ラ ン ス に お け る 復 古 と 七 月 王
サ ロモ ン版、 四九 四ペー ジ︶ 。
刑 の 判 決 の形 で 、 人 間 の 生 死 を 意 の ま ま に す る 権 限 、 す な わ ち 生 殺 与 奪 の 権 は 、 政 治 的 単 位
︹他 の 団 体
の 内 部 に 存 在 す る そ の 他 の 団 体 、 た と え ば 家 族 な いし 家 長 に も 帰 属 す る こ と が あ る け れ ど も 、
交 戦 権 な いし内 敵 宣言 の権 能 は 、政 治 的 単位 が 政 治 的 単 位 と し て存 在 す る か ぎ り 、
に ︺ 帰 属 す る こ と は な い。 家 族 間 な い し 氏 族 間 の 血 讐 権 で さ え 、 お よ そ 政 治 的 単 位 が 存 続 す べ
き であ るな ら 、 少 な く と も 戦 争 期 間 中 は停 止 さ れ な け れ ば な ら な いで あ ろう 。 政 治 的 単 位 のも
つ こ の よう な帰 結 を 否 定 し よう と す る 人間 の団体 が あ ると す れば 、 そ れ は 、 政治 的 団 体 で は あ
るま い。 な ぜ な ら 、 そ の団 体 は 、 だ れ を 敵 と みな し 、 敵 と し て扱 う か を 決 定 的 に判 定 す る可 能
性 を放 棄 す る こ と に な る で あ ろ う か ら 。 人 間 の物 理的 生命 を支 配 す る こ の権 力 に よ って 、政 治
的 共 同体 は 、 他 の あ ら ゆ る種 類 の共 同 体 な いし利 益社 会 よ り も 上 位 に 立 つ。 さ ら に ま た 、 共 同
体 の内 部 に は、 二次 的 な 政 治 性 を も つ下 位 組 織 が 、 固有 の、 な いし は委 託 さ れ た 権 限 を も ち、
せま い範 囲 の集 団 の成 員 に 局 限 さ れ た 生殺 与 奪 の権 を さ え も って存 続 し う る の であ る 。
宗 教 的 共 同体 た と え ば 教 会 は 、 そ の成 員 に向 か って、 みず か ら の信 仰 のた め に死 ぬ こ と 、 ま
た殉 教 死 に 耐 え る こ と を要 求 す る こ と は でき る。 し か し 、 そ れ は 、 あく ま で成 員 自 身 の魂 の救
い のた め であ って、 現 世 に あ る 権 力 機 構 とし て の教 会 共 同 体 の た め で は な い。 そ う で な か った
ら 、 教 会 は 、 政 治 的 単 位 と 化 し てし まう 。 そ の聖戦 や 十 字 軍 が、 他 の戦 争 と 同様 に 、 敵 決 定 に
も と づ く 行 動 と化 す る の であ る。 経 済 的 に規 定 さ れ る 利 益 社 会 す な わ ち 、 そ の体 制 、 つま り 予
測 し う る機 能 発揮 が 、 経 済 的 範 疇 の枠 内 で進 行 す る 利 益 社 会 に お いて は 、 そ の いか な る 成 員 も、
円 滑 な機 能 発揮 のた め に生 命 を捧 げ よ な ど と は 、 ど の よう な観 点 か ら し ても要 求 さ れえ な い。
経 済 的 合 目 的 性 に よ って 、 こ の よう な要 求 を 理由 づ け る こ と は 、 と く に自 由 主 義 的 経 済 制 度 の
個 人 主 義 的 原 理 と いう も の に対 す る矛 盾 で あ ろ う し 、 ま た 自 律 的 な も のと さ れ て いる 経 済 の諸
規 範 な いし 諸 理 想 から は、 決 し て 正 当化 で き な い であ ろう 。 個 々人 は 、 自 己 の欲 す る いか な る
も の のた め に でも 、 進 ん で 死 ぬか も し れ な い。 こ れ は、 個 人 主義 的 ・自 由 主義 的 な利 益 社 会 に
お け る あら ゆ る本 質 的 な も のと 同 様 に、 あく ま で 、﹁個 人 の問 題 ﹂、 す な わ ち当 人 の自 由 な制 約
さ れ な い決 意 ︱ ︱ 自 由 に決 意 す る当 人自 身 以 外 のだ れ にも か か わ る こ と のな い︱ ︱ に も と づ く こ と が ら な の であ る。
経 済 的 に機 能 す る利 益 社 会 は 、 経 済 的 競 争 で の敗 者 や失 敗 者 、 さ ら には ﹁邪 魔 者 ﹂ を 、 そ の
進 行 か ら は じ き だ し 、 か れら を 非 暴 力 的 な、 ﹁平 和 的 な ﹂ や り 方 で無 害 化 し て し ま う 手 段 、 具
体 的 に いえば 、 自 発 的 に順 応 し な いば あ い、 か れ ら を 餓 死 さ せ て し ま う と いう 手 段 、 に は こ と
欠 か な い。 純 粋 に文 化 的 な いし 文明 的 な 社 会 体 制 に は、 望 ま し く な い危害 な いし は 望 ま しく な
い増 殖 を 除 去 す る た め に 、 ﹁社 会 的 指 標 ﹂ が つね に備 わ って いよ う 。 し か しな がら 、 ど のよ う
な 計 画 ・理想 ・規 範 ・合 目 的 性 も 、 他 人 の肉 体 的 生 命 を 意 のま ま にす る権 利 を 与 え た り は し な
い。 人 間 に向 か って 、 人 間 を 殺 せ、 みず か ら も 死 を 覚 悟 せ よ、 そ れ に よ って残 存 者 の商 工業 の
繁 栄 と 子孫 の消費 力 の増 大 を は か れ 、 と本 気 で要 求 す る な ど は 、 恐 ろ し いこ と で あ り 狂 気 のさ
た で あ る 。 ︹一方 で︺ 戦 争 を 人 殺 し であ る と の ろ いな がら 、 し か も 人 間 に向 か って、 戦 争 し ろ、
戦 って 殺 せ 、 みず から も死 ね 、 そ れ によ って ﹁二度 と再 び 戦 争 が 起 こら な い﹂ よ う にす る のだ 、
と要 求 す る の は、 明 ら か な 欺 瞞 であ る 。 戦 争 ・死 を覚 悟 し て の戦 い ・敵 側 に 立 つ人間 の肉 体 的
殺 り く 、 こ の す べて に は な ん ら の規 範 的 意 義 も な く 、 あ る のは ただ 存 在 的意 義 に すぎ な い。 そ
れも 、 現 実 の敵 に対 す る 現 実 の戦 いと いう 状 況 の現実 にお いて で あ り、 な ん ら か の理 想 ・計 画
・規 範 に お いて で は な い。 いか な る合 理 的 な 目 的 、 い か に正 当 な規 範 、 いか に 理 想 的 な計 画 、
いか に美 し い社会 理 念 、 いか な る正 統性 ・合 法 性 と いえ ど も、 そ のた め に 人 間 が 殺 り く し 合 う
こ と を正 当 化 す る こと は で き な い。 人 間 の生 命 の こ の よう な肉 体 的 抹 殺 が 、 自 己 の存 在 形 態 の
存 在 的 維 持 のた め に、 そ の形 態 の同 じ く 存 在 的 否 定 に対 し て行 な わ れ る の でな いかぎ り 、 そ れ
は ま さ に 、 正 当 化 さ れ え な い の であ る 。 ま た 、 倫 理的 ・法 的 規範 を も ってし ても 、 戦 争 を 理 由
づ け る こ と は でき な い。 こ こ で いう よ う な存 在 的 意 味 に お い て、 現 実 に敵 が存 在 す る な らば 、
や む を え ず 肉 体 的 に敵 を 防 ぎ 、 敵 と 戦 う こ と に意 義 が あ る が 、 そ れは ただ 、 政 治 的 に意 義 が あ る に す ぎ な い。
正義 が戦 争 の概 念 と 相 容 れ な いも ので あ る こと は、 グ ロチ ウ ス以 来 一般 に認 め ら れ て いる。
正 戦 を要 求 す る ︹論 理︺ 構 造 は 、 そ れ自 体 が、 通 常 さ ら に政 治 的 な 目 的 に奉 仕 す るも の で あ る 。
政 治 的 に 統 合 さ れ た国 民 に対 し て、 公 正 な 理 由 に も とづ い て の み戦 争 せ よと 要 求 す る こ と は 、
つま り は 、 そ れ が、 た だ 現 実 の敵 に対 し て の み戦 争 を せ よ と いう 意 味 の こと で あ る と す れ ば 、
ま った く 自 明 の こ と な ので あ る し 、 さ も なけ れば 、 そ の背 後 には 、 交 戦 権 の行 使 を他 者 の手 に
ゆ だ ね、 正 義 の規 範 を 発 見 し て お いて、 そ の内 容 や適 用 は 、 個 々 の事 例 に お いて 、 国家 自 身 で
は な く 、 な ん ら か の第 三者 が決 定 す る、 す な わ ち 、第 三者 が敵 を定 め る よう に し よ う と いう 政
治 的 要 求 が ひ そ ん で いる の であ る。 国 民 が政 治 的 な も の の領 域 内 に存 在 す る かぎ り は 、 も っと
も 端 的 な事 例 に か ん し てだ け で は あ る が︱ ︱ し か も現 に こ の事 例 で あ る か いな か は 、 国 民 自 身
が決 定 す る ので あ る が︱ ︱ 友 ・敵 の区 別 を 国 民 自 身 が定 め な け れ ば な ら な い。 こ の点 に、 国 民
が、 政 治 的 な も のと し て存 在 す る こ と の本 質 があ る。 こ の区 別 を す る能 力 な いし は意 志 を欠 く
とき 、 国 民 は 政 治 的 な存 在 で あ る こ と を や め てし ま う。 み ず か ら の敵 がだ れな の か、 だ れ に対
し て自 分 は戦 って よ い のか に つ い て、 も し も 他 者 の指 示 を 受 け る と いう の で あ れば 、 そ れ は も
は や 、政 治 的 に自 由 な国 民 で は な く 、 他 の政 治 体 制 に 編 入 さ れ従 属 さ せら れ て いる ので あ る 。
戦 争 と いう も のの意 義 は 、 そ れ が 理想 や 法 的 規範 のた め に で は な く、 現 実 の敵 に対 し て行 な わ
れ る と いう 点 に あ る 。 友 ・敵 と いう こ の範 疇 の 不 明 確 化 は す べ て 、 な ん ら か の 抽 象 化 と か 諸 規 範 と か の 混 合 に よ って説 明 さ れ る の であ る。
い。﹂ 中 世 の ス コラ哲 学 で は 、異 教 徒 に 対 す る 戦 争 は 正戦 で あ る と さ れた ︵ す なわち、 戦 争であ っ
︵16︶ ﹃戦 争 と 平 和 の法 ﹄ 第 一巻 ・第 一章 ・第 二項 ﹁わ た く し は ︵ 戦 争 の︶ 定 義 に は 正 義 を 含 め な
て、﹁ 執 行 ﹂ で も ﹁平 和 的 措 置 ﹂ で も ﹁制 裁 ﹂ で も な か った ︶。
政 治 的 存 在 と し て の国 民 は そ れ ゆ え 、 ば あ い に よ って は 、 みず か ら の危 険 に お いて、 みず か
ら の 決 定 に よ って 、 友 ・敵 を 区 別 す る こ と を 避 け る わ け に は い か な い 。 国 民 は 、 一九 二 八 年 の
ケ ロ ッグ 条 約 に みら れ る よ う に 、 国 際 紛 争 の解 決 手段 と し て の戦 争 を 断 罪 し 、 ﹁国 家 的 政 策 の
道 具 ﹂ と し て の戦 争 を放 棄 す る むね 、 厳 粛 に 宣言 す る こ と は でき る。 だ が、 こ れ に よ って、 国
際 的 政 策 の道 具 と し て の戦 争 を 放 棄 した わけ で も な いし 、 ︵そし て国 際 的 政 策 のた めに 利 用 さ
れ る戦 争 は 、 た ん に国 家 的 政 策 のた め に の み利 用 さ れ る 戦 争 より も な お始 末 の悪 い こ と も あ
る 、︶ ま た戦 争 そ のも の を ﹁断 罪 し﹂ あ る いは ﹁追 放 し﹂ て し ま った の で も な い。 第 一に、 こ
のよ う な 宣 言 は 、 ま った く 、 明 言 さ れ て いる いな いに か か わ らず 自 明 のこ と で あ る 特 定 の諸 留
保 ︱︱ た と えば 、 みず から の国 家 と し て の存 立 や 自衛 と いう 留 保 、 現 行 諸 条 約 の留 保 、 自 由 か
つ独 立 的 に 存 在 し 続 け る 権 利 の留 保 等 々︱ ︱ の も と に 成 立 し て い る の で あ る 。 第 二 に 、 こ れ ら
諸 留 保 は 、 そ の 論 理 構 造 か ら い っ て 、 た ん に 規 範 の例 外 を な す も の で は な く 、 そ も そ も 、 は じ
め て、 規 範 に対 し て 具体 的 内 容 を 付 与 す る の で あ る。 義 務 に対 し て例 外 を留 保 す る付 随 的 な 制
限 であ る ので は な く 、 規 範 と な る留 保 な ので あ って、 これ なく し て は 、義 務 が無 内 容 な の であ
る 。 第 三 に 、 独 立 国 家 が 存 在 す る か ぎ り 、 こ の 国 家 は 、 み ず か ら の 独 立 性 に よ っ て 、 現 に ︵自
衛 、 敵 の攻 撃 、 ケ ロ ッグ 条 約 自 体 を 含 め て 現 行 条 約 の 侵 犯 等 々 の︶ こ の よ う な 留 保 の 事 態 で あ
る か い な か を 、 独 自 に 判 定 す る の で あ る 。 最 後 に 、 第 四 点 と し て 、 ﹁戦 争 を 追 放 す る ﹂ こ と は 、
そ も そ も 不 可 能 で あ る 。 追 放 で き る の は た だ 、 特 定 の 人 び と 、 国 民 ・国 家 ・階 級 ・宗 教 等 々 で
あ っ て 、 こ れ ら は 、 ﹁追 放 ﹂ に よ って 敵 で あ る と 宣 言 さ れ る の で あ る 。 こ の よ う に 、厳 粛 な ﹁戦
争 追 放 ﹂ も 、 友 ・敵 区 別 を 解 消 す る も の で は な く 、 国 際 的 な 敵 宣 言 と い う 新 た な 可 能 性 に よ っ て 、 友 ・敵 区 別 に 新 し い内 容 と 新 し い 生 命 を 与 え る も の な の で あ る 。
︵17︶ 公式 の 独 語 訳 文 ︵ 帝国法 律公報、 一九 二九年、II、九七 ペー ジ︶ に は 、 ﹁国際 紛 争 の解 決 手 段 と し て
の戦 争 を 断 罪 す る﹂ と あ る が 、 米 ・英 語 本 文 では 、 断 罪 に 、 condem n、仏 語 本 文 で は 、condam ner
を 用 いて いる 。 一九 二九 年 八 月 二七 日 のケ ロ ッグ 条 約 の 正 文 は 、 き わ め て重 大 な 留 保 つき で ︱ ︱ イ
の領 域 の安 寧 と 保 全等 々、 フラ ン スは 自 衛 ・国際 連 盟 規 約 ・ロカ ル ノ条 約 お よび 中 立条 約 、 と く に
ギ リ スは 、 国 家 的 名誉 ・自 衛 ・国 際 連 盟 規 約 お よび ロカ ル ノ ︹条 約 ︺、 エジプ ト や パ レ スチ ナ な ど
ま た ケ ロッグ 条 約 そ のも の の厳 守 、 ポ ー ラ ン ド は 、自 衛 ・ケ ロ ッグ 条 約 そ のも の の厳 守 ・国 際 連 盟
規 約 ︱ ︱ 正 文 集 ﹃国 際 連 盟 と 平 和 確 保 の政 治 的 課 題 ﹄ ︵ トイブ ナ、歴史教育 のため の資料集 IV、 一三、ラ
イプ チヒ、 一九三〇年︶ に転 刷 さ れ て いる 。 留 保 に つい て の 一般 的 法 律 学 的 問 題 は 、 条 約 の神 聖 さ や
いな い。 従 来 欠 け て いる 科 学 的 な 扱 い の き わ め て 注 目 す べき き ざ し は 、 カ ー ル ・ビ ル フ ィ ンガ ー
条 約 は 遵 守 さ る べ きも の と の命 題 が 詳 細 に論 じ ら れ て いる と こ ろ で さえ 、ま だ 体 系 的 に扱 わ れ て は
﹃政 治 的 権 利 に か ん す る考 察 ﹄ ︵外国公法雑誌 、第 一巻、五七 ページ以下 、 ベルリ ン、 一九 二九年︶ に み ら
ロ ッグ 条 約 が 戦 争 を 禁 止 す る も の でな く 、 ︹む し ろ ︺ 是 認 す るも の で あ る 点 に つ いて は 、 ボ ル ヒ ャ
れ る 。 平 和 化 さ れ た 人 類 の 一般 的 問 題 に つ いて は 、 あ と の 6 で の本 文 に お け る 詳 述 参 照 の こ と。 ケ
ル ト ﹁ケ ロ ッグ 条 約 は 戦 争 を 是 認 す る ﹂ ︵外国公報雑 誌、 一九 二九年、 一二六ページ以下︶お よび ア ル ツ
ー ル ・ベー グ ナ ﹃法 学 入 門 ﹄ II ︵ ゲ シ ェン文 庫 一〇四 八︶ 、 一〇 九 ペー ジ 以 下 参 照 の こ と 。
友 ・敵 区 別 が な く な れば 、 政 治 的 生 活 がそ も そ も な く な る の であ る。 政 治 的 な も のと し て存
在 す る国 民 に と って、 こ の宿 命 的 な 区 別 を 、 誓 約 的 宣 言 に よ って免 か れ る自 由 な ど あ り は し な
い。 国 民 の 一部 分 が、 いか な る敵 も も は や 認 め な いと 宣言 す る こと は、 事 態 に よ って は 、 敵 に
加 担 し 、敵 を 助 け ると いう こ と な の であ って、 こ の宣 言 に よ っても し か し、 友 ・敵 の区 別 が 解
消 す る わ け で は な い。 あ る 国 家 の市 民 た ち が、 自 分 た ち は 、個 人 的 に は 、 いか な る敵 も も た な
いと 主 張 す る こと は、 こ の問 題 と な ん の か か わ り も な い。 な ぜ なら 、 個 人 に は 、 政 治 上 の敵 が
いな いか ら であ る 。 こ の よう な宣 言 に よ って 表 明 さ れう る のは 、 た か だ か、 自 分 が生 活 上所 属
し て いる政 治 的 な 全 体 集 団 か ら離 脱 し て、 た だ 個 人 と し て のみ 生 き た いと ね がう 、 と いう こ と
な ので あ る 。 さ ら に、 個 々 の国 民 が 、 全 世 界 に対 し友 好 宣言 を し 、 あ る いは みず か ら 進 ん で武
装 解 除 す る こと に よ って 、友 ・敵 区 別 を 除 去 で き る と考 え る こ と は 誤 ま り で あ ろ う。 こ の よう
な 方 法 で、 世 界 が非 政 治 化 し 、 純 道 徳 性 ・純 合 法 性 ・純 経 済 性 の状 態 に移 行 し た り す るも の で
は な い。 も し も 、 一国 民 が、 政 治 的 生存 の労 苦 と 危 険 と を 恐 れ る な ら 、 そ のと き ま さ に、 こ の
労 苦 を 肩 代 わ り し てく れる 他 の国 民 が現 わ れ る で あ ろ う 。 後 者 は 、前 者 の ﹁外 敵 に対 す る保 護 ﹂
を 引 き受 け 、 そ れ と と も に政 治 的 支 配 を も 引 き 受 け る。 こ のば あ い には 、 保 護 と服 従 と いう永 遠 の連 関 に よ って、 保 護 者 が敵 を定 める こと に な る ので あ る 。
国 人 に か んす る 法 律 によ る特 権 付 与 ・組 織 的 隔 離 ・治 外 法権 ・滞 在 許 可 およ び 認可 ・居留 外 人 立法
︵18︶ このばあ い、こ のよう な非 公共的 な、政治的 に無関 心な孤立存在を、なんら かの仕 方で、 ︵ 外
への努 力
︵ ブ ルジ ョワ の 定 義︶ に つ い ては 、 下 記 五 〇 ペー ジ ︹六三年版 六二ページ、本 訳書 七六 ページ︺
そ の他 な んら か に よ って︶ 規 制 す る こ と は 、 政 治 的 共 同 体 の問 題 であ る 。危 険 の な い非 政 治 的 生 存
の ヘー ゲ ル の こ と ば を 参 照 の こ と。
こ の原 理 にも と づ く のは 、 領 主 と家 臣 、首 領 と 従 者 、 平 民 庇 護 貴 族 と被 保 護 平 民 と いう 封 建 的 な秩 序 関
係 だ け で は な い。 そ れ は ただ 、 こ の原 理 を 、 と く に明 瞭 に あ ら わ に 露 呈 さ せ、 お お いかく さ な いだ け のこ
と で あ って 、 保 護 と 服 従 と いう 連 関 な し には 、 い か な る 上 下 関 係 、 い かな る合 理的 な 正統 性 ・合 法 性 も 存
︹ 根 本 命 題 ︺ で あ って 、 こ の命 題 を 体 系 的 に自 覚 し な い国 家 理 論 は、 不 十 分 な 断 片 に し か す ぎ な い。 ホ ッ
在 し な い ので あ る。 保 護 す る が ゆ え に拘 束 す、 と いう こ と は 、 国 家 にと って の、 わ れ 思 う ゆ え に わ れ 在 り
ブ ズ は ︵一六五 一年 の英 語版末 尾三九 六ページ︶ 、 ﹁リ ヴ ァイ ア サ ン﹂ の本 来 の目 的 は 、 ﹁保 護 と 服 従 と の相 互 関
係 ﹂ を 、 人 び と に再 認 識 さ せ る こ と で あ って、 人 間 の本 性 から も 、 神 法 か ら も 、 そ の確 固 た る遵 守 が要 求
ホ ッブ ズ が こ の真 理 を体 験 し た の は、 内 乱 の苦 し い時 代 にお い て で あ り 、 そ れ と いう のも 当時 は 、安 穏
さ れる、と のべている。
無 事 の時 代 にあ って は 、と か く 政 治 的 現 実 に 対 し て 、目 を お お う た め に 利 用 さ れ た 、あ ら ゆ る合 法 主 義 的 ・
上 に 保 護 を 与 え る力 が あ る と す れば 、 そ のと き 国 家 は 、 せ いぜ い、 こ れ ら 諸 党 派 の附 属 物 と化 し、 個 々 の
規 範 主義 的 幻 想 が消 え 失 せ た か ら な の で あ る。 国 家 内 部 に 組 織 さ れ た党 派 が 、 そ の成 員 に 対 し て、 国家 以
市 民 ひ と り ひ と り が 、 だ れ に 服 従 す べき か を き ち っと 承 知 す る こ と に な る 。 こ のこ と は、 上 記 ︵4︶ で扱
った ﹁ 多 元 的 国 家 論 ﹂ の裏 づ け と な り う る の で あ る 。 対 外 政 治 的 ・国際 的 関 係 に お いて 、 こ の保 護 ︱ 服 従
の 原 理 の基 本 的 な正 し さ は 、 い っそ う 明 瞭 に 露 呈 す る 。 国 際 法 上 の保 護 国 、 盟 主 的 国 家 連 合 な いし 同 盟 国
家 、 種 々 の保 護 条 約 、 保 障 条 約 な ど は、 そ こ に そ のも っとも 単 純 な 公式 を み いだ す の で あ る 。
無 防 備 の 国 民 に は 友 し か 存 在 し な い、 と 考 え る の は 、 馬 鹿 げ た こ と で あ ろ う し 、 無 抵 抗 と い
う こと に よ って 敵 が 心 を 動 か さ れ る か も し れ な いと考 え る のは 、 ず さ ん き わ ま る 胸算 用 であ ろ
う 。 人 び と が、 あ ら ゆ る 美 的 な いし経 済 的 な 生産 性 を 断 念 す る こ と に よ って 、 世界 を 、 た と え
ば 純 道 徳 性 の状 態 に移 行 さ せ う る な ど と いう こ と は 、 だ れ ひ と り 可能 だ と は 思 う ま い。 し か し、
は る か に そ れ 以 上 に、 一国 民 が 、 あ ら ゆ る 政 治 的 決 定 を放 棄 す る こ と に よ って、 人 類 の純 道 徳
的 な いし 純 経 済 的 な状 態 を 招 来 す る こ と な ど は あ り え な いので あ る 。 一国 民 が、 政 治 的 な も の
の領 域 に踏 み と ど ま る 力 な いし は意 志 を失 う こ と によ って、 政 治 的 な も のが 、 こ の世 か ら 消 え
失 せ る わ け で は な い。 た だ 、 いく じ のな い 一国 民 が消 え 失 せ る だ け に す ぎ な い ので あ る 。
6
政 治 的 な も のと いう 概 念 徴 標 か ら は 、 諸 国 家 世 界 の多 元 論 が 生 ま れる 。 政 治 的 単 位 は、 敵 の
現 実 的 可能 性 を 前 提 と し 、 と 同 時 に、 共 存 す る他 の政 治 的 単 位 を 前 提 と す る。 し た が って 、 お
よ そ 国 家 が存 在 す る か ぎ り は 、 つね に、 複 数 の諸 国家 が 地 上 に存 在 す る の で あ って 、全 地 球 ・
全 人 類 を 包 括 す る 世 界 ﹁国 家 ﹂ な ど は あ り え な い。 政 治 的 な世 界 は多 元体 な ので あ って 、 単 一
体 で はな い ので あ る 。 そ の かぎ り に お い て、 国 家 理論 は す べて 、 さ き に ︵4 で︶ 論 じ た 国 家 内
的 多 元 論 と別 の意 味 で はあ る が、 多 元論 的 で あ る 。 政 治 的 単 位 は、 本 質 上 、全 人類 ・全 地 球 を
包 括 す る単 位 と いう 意 味 で の単 一的 な も ので は あ り え な い。 も し も地 上 のさ まざ ま な 民 族 ・宗
教 ・階 級 そ の他 の人 間 集 団 がす べて 一体 と な り 、 相 互 間 の闘 争 が事 実 上 も 理論 上 も 不 可能 と な
る なら ば 、 さ ら に ま た 全 地 球 を お お う帝 国 の内 部 にお いて も、 内 乱 が将 来 に わ た り 事 実 上 二度
と ふ た たび 、 そ の可 能 性 す ら考 え ら れ な く な る な ら ば 、 す な わ ち友 ・敵 区 別 が た ん な る偶 発 性
に お いて す ら 消 失 す る ば あ いに は、 そ こ に存 在 す るも の は ただ 、政 治 的 に無 色 の世 界 観 ・文 化
・文明 ・経 済 ・道 徳 ・法 ・芸 術 ・娯 楽 等 々に す ぎ ず 、 政 治 も国 家 も そ こ には 存 在 し な いの で あ
る 。地 球 ・人類 の こ の よう な状 態 が 果 し て到 来 す る の か、 ま た い つ到来 す る のか 、 わ たく し は
知 ら な い。 当 面 、 そう いう 状 態 は存 在 し な いの で あ る。 そ れ を 現存 す る か の よう に考 え る と い
う のは 不誠 実 な 虚 構 で あ ろ う し 、 ま た 、 こん に ち で は 、 大 国 間 の戦 争 が、 と も す れば ﹁世界 戦
争 ﹂ に 発 展 す る の で あ る か ら 、 し た が って、 こ の戦 争 の終 結 が ﹁世 界 平 和 ﹂ を意 味 し 、 同時 に 、
完 全 で 最 終 的 な非 政 治 化 と いう 牧 歌 的 な 最 終 状 態 を意 味 す る に ち が いな い、 と思 う こ と は 、 一 挙 に つ いえ 去 る錯 誤 と いう も の であ ろう 。
人 類 そ のも のは戦 争 を な し え な い。 人 類 は 、少 な く と も 地 球 と いう 惑 星 上 に 、 敵 を も た な い
か ら で あ る。 人類 と いう概 念 は 、敵 と いう概 念 と 相容 れ な い。 敵 も 人 間 で あ る こ と を や める わ
け で は な く 、 こ の点 で な ん ら特 別 な 区 別 は な いから で あ る 。 戦 争 が人 類 の名 にお いて な さ れ る
と いう こ と は 、 こ の単 純 な 真 理 とな んら 矛 盾 す る も の で は な く、 た だ と く に強 い政 治 的 な意 味
を も つに す ぎ な い。 一国 家 が、 人 類 の名 にお いて みず から の政 治 的 な敵 と戦 う のは、 人類 の戦
争 で あ る ので は な く 、 特 定 の 一国 家 が、 そ の戦 争 相 手 に対 し普 遍的 概 念 を占 取 し よ う と し、
︵相 手 を 犠 牲 にす る こ と に よ って︶ みず から を普 遍 的 概 念 と同 一化 し よ う と す る戦 争 な ので あ
っ て、平 和 ・正義 ・進 歩 ・文 明 な ど を、 みず か ら の手 に取 り こ も う と し て、 こ れ ら を敵 の手 か
ら 剥 奪 し 、 そ れら の概 念 を利 用 す る のと似 て いる。 ﹁人類 ﹂ は 、 帝 国 主義 的 膨脹 にと って 、 と
く に 有 用 なイ デ オ ロギ ー的 な道 具 で あ り、 そ の人 倫 的 ・人道 的 形 態 にお い て、 経 済 的 帝 国 主 義
のた め の特 別 な器 で あ る。 こ の点 に か ん し て は 、 プ ルー ド ン の表 現 にな る次 の こと ば が、 当 然
の修 正 を 加 え て当 て は ま る 。 す な わ ち 、 人 類 を 口 にす る者 は、 欺 こう とす るも の で あ る。 ﹁人
類 ﹂ の名 を か かげ 、 人 間性 を引 き 合 いに だ し 、 こ の語 を 私 物 化 す る こ と、 こ れら はす べて、 い
やし く も か か る高 尚 な 名 目 は な ん ら か の帰 結 を と も な わず に は か かげ え な いの で あ る か ら し て、
敵 か ら 人 間 と し て の性 質 を 剥 奪 し 、 敵 を非 合 法 ・非 人 間 と宣 告 し、 そ れ に よ って戦 争 を 、極 端
に非 人 間 的 な も の にま で押 し す す め よう と いう 、 恐 ろ し い主張 を 表明 す る も のに ほ か な ら な い。
し か し な が ら 、 人 類 と いう 非 政 治 的 な名 目 の、 こ の高 度 に政 治 的 な利 用 法 を 別 と す れ ば 、 人 類
そ のも の の いか な る戦 争 も存 在 し な い。 人 類 は 、 政 治 的 概 念 で は な く 、 ま た いか な る政 治 的 単
位 ・共 同 体 も 、 いか な る状 況 も 、 人 類 に は対 応 し え な い ので あ る 。 一八世 紀 の人 道 的 人類 概 念
は 、 当 時 存 続 し た貴 族 的 ・封 建 的 な いし身 分 階 層 的 秩 序 お よ び そ の諸 特 権 の攻 撃 的 否 認 であ っ
た 。 自 然 法 的 お よ び 自 由 主 義 的 ・個 人 主義 的 教義 に お け る人 類 と は 、普 遍 的 な 、 つま り 地 上 の
全 人間 を 包 括 す る 、 社 会 的 理想 構 造 な ので あ って、 闘 争 の現 実 的 可能 性 が 排 除 さ れ、 いか な る
友 ・敵 結 束 も 不 可 能 と な った と き に は じ め て、 現 実 の存 在 と な る よう な個 々人 相 互 の関 係 の体
系 な ので あ る 。 そ の と き 、 こ の普 遍 的 社 会 の内 部 に は 、 政 治 的 単 位 と し て の いか な る国 民 も 、
さ ら には 闘 争 す る いか な る階 級 、 敵 対 す る いか な る 集 団 も 、 も は や存 在 し な いであ ろう 。
こ と 。 プ ー フ ェンド ル フ ︵ ﹃自然法と万民法 につ いて﹄ 第 八章、第 六節 、第五項︶は 、 特 定 の民 族 が ﹁自
︵19︶ 戦争 の ﹁追放﹂ にかんしては、 上記 三八 ページ ︹六三年版五二ページ、本訳書五七ページ︺参 照 の
の こ とば を 引 用 し 賛 成 し て いる 。 事 実 、北 ア メ リ カ のイ ンデ ィア ンは 、 実 際 に絶 滅 さ れ た の で あ る 。
然 自 身 に よ って追 放 ﹂ さ れ る。 た と えば 、 イ ンデ ィ ア ン は 人肉 を 食 う と の理 由 で 、 と いう ベ イ コ ン
で 、 こ の よ う に 追 放 さ れ る の に 十 分 で あ る 。 そ れば か り か 、 お そ ら く 、 将 来 い つか は 、 一国 民 が 負
文 明 が進 み 、道 徳 性 が 高 ま った ば あ いは 、 お そ ら く 、 人 肉 を 食 う よ り も も っと無 害 な こ と が ら だ け
債 を 支払 いえ な い、 と いう こ と だ け で十 分 とさ れ さ え す る で あ ろう 。
諸 国 民 同 盟 と いう 理 念 は 、 諸 国 民 同 盟 が抗 争 的対 立 概 念 と し て 君 主 同 盟 に対 置 さ れ え た かぎ
り に お いて は 、 明白 か つ明 確 な も ので あ った 。 す な わ ち、 ド イ ツ語 の "V〓l kerbund" は 、 こ
の よう な も のと し て 一八世 紀 に形 成 さ れ た ので あ る。 君 主 政 のも つ政 治 的 意 義 の消 滅 と と も に 、
こ の抗 争 的 意 味 は 失 わ れ る。 ﹁諸 国 民 同 盟 ﹂ は さ ら に、 一国 家 な いし 国 家 連 合 体 が、 他 の諸 国
家 に対 し て振 り かざ す帝 国 主義 のイ デ オ ロギ ー的 道 具 で も あ り え よ う 。 そ のば あ いに は 、 さ き
に ﹁人 類 ﹂ と いう 語 の政 治 的 な 用 法 に か んし て の べた こ と のす べて が、 こ の語 に当 て は ま る の
で あ る。 そ れば か り で な く 、 全 人 類 を包 括 す る国 際 連 盟 の樹 立 は、 け っき ょく ま た 、 ﹁人 類 ﹂
と呼 ば れ る普 遍 的 社 会 と いう 非 政 治 的 な 理想 状 態 を組 織 し よう とす る 、 こ ん に ち ま で のと こ ろ
も ち ろ ん は な は だ 不 確 かな 傾 向 に対 応 す る も ので あ り え よ う 。 そ れ ゆ え 、 こ のよ う な 国 際 連 盟
に対 し て は 、 ﹁普 遍 的 な ﹂ も のと な る べき だ 、 す な わ ち、 地 上 の全 国 家 がそ の成 員 と な ら な け
れば な ら な い、 と いう 要 請 が、 ほ と ん ど つね に、 か なり 無 批 判 にな さ れ る。 し か し な が ら 、普
遍 的 で あ る こと は 、 完 全 な非 政 治 性 を 、 し た が って な に よ り も ま ず 第 一に、 徹 底 し た無 国 家 性 を 意 味 す る は ず の も ので あ ろ う 。
こ の観 点 か ら す る と き 、 一九 一九 年 に、 パ リ平 和 条 約 に も と づ い て作 ら れ たジ ュネ ーブ 機 構
︱ ︱ ド イ ツ で は そ れ を ﹁国際 連 盟 ﹂ と 呼 んで いる が、 そ の 公式 の仏 語 お よび 英 語 の名 称 ︵Soci
〓t〓des Nati ons,LeagueofNati ons︶ に 従 え ば 、 ﹁諸 国 家 社 会 ﹂ と あ ら わ す ほ う が適 当 な も
の︱ ︱は 、 矛 盾 だ ら け の構 成 物 で あ る よ う に みえ る。 す な わ ち そ れ は 、諸 国 家 間 の組 織 で あ っ
て 、諸 国 家 そ のも のを前 提 と し 、 そ れら の相 互関 係 の 一部 を 規 制 す るば かり か、 諸 国 家 の政 治
的 な 存 在 を 保 証 し さ え す る ので ある 。 そ れ は、 普 遍的 組 織 でな いば かり か、 実 は 、国 際 的組 織
で す ら な い。 す な わ ち 、 国 際 的 と いう 語 を 、少 な く と も ド イ ツ語 の用 法 と し て 正確 か つま っと
う に用 いて、 諸 国 家 間 的 と いう 語 と区 別 し 、 そ れ と の対 比 に お いて 国際 的 な 運 動 を あ ら わ す も
のと し て留 保 す る 、 つま り、 た と え ば 第 三 イ ン タ ナ シ ョナ ル のよ う に、 諸 国 家 の境 界 を越 え 、
そ れ ら の囲 壁 を 突 き 破 って 、現 存 諸 国 家 のも つ従 来 の領 土 的 閉 鎖 性 ・不 透 過 性 ・不 滲 透性 を 否
認 す る 運 動 を あ ら わ す も のと し て留 保 す る な らば 、 そ の意 味 で の国 際 的 組 織 で す ら な い ので あ
る 。 こ こ に た ち ま ち 、 国 際 的 と 諸 国 家 間 的 と いう基 本 的 対 立 、 つま り非 政 治 化 さ れ た 普 遍 的 社
会 と 、 こ ん に ち の国 家 的 境 界 の現 状 そ のま ま の諸 国 家 間 的 保 障 と いう 対 立 が 現 出 す る の で あ っ
て 、 ﹁国 際 連 盟﹂ の科 学 的 論 究 が ど う し て こ の点 を 素 通 り し 、 さ ら に は 、 混 乱 を い っそ う助 長
す る よう な こ と が でき た の か 、 ま った く も って 理解 し が た いこ と で あ る。 ジ ュネ ー ブ の国際 連
盟 は 、 そ れ が 国 家 を 解 消 さ せ な いと同 様 に 、戦 争 の可能 性 を解 消 し は し な い。 そ れ は 、 戦 争 の
新 た な 可能 性 を 導 入 し、 戦 争 を許 容 し 、 連 合 し て の戦 争 を促 進 し 、 か つそ れ が 一定 の戦 争 を合
法 化 し 是 認 す る こ と に よ って 、戦 争 に対 す る 一連 の歯 止 め を 除 去 す る の で ある 。 こ ん に ち ま で
のあ り 方 で は、 そ れ は 、 状 況次 第 でき わ め て役 に 立 つ交 渉 の場 であ り 、 国 際 連 盟 理事 会 お よび
国 際 連 盟 総 会 の名 の も と に 、 技 術 的 事 務 局 で あ る事 務 総 長 と 結 合 し て開 か れ る外 交 官 会 議 の組
織 な の であ る。 そ れ は 、 わ た く し が、 他 の著 書 で指 摘 し た よ う に、 同 盟 で は あ り う る か も 知 れ
な いが 、 連 盟 で は あ り え な い。 そ の ︹組 織 の︺ な か で、 人 類 と いう 真 の概 念 が な お有 効 性 を 発
揮 す る の は 、 そ の本 来 の活 動 が、 人道 的 ・非 政 治 的 な 領 域 に あ り 、 そ れ が 少 な く と も 諸 国 家 間
の管 理 共同 体 と し て、 普 遍性 へ の ﹁傾 向﹂ を も つか ぎ り に お いて な ので あ る が 、 そ の現 実 の体
質 に て ら し 、 ま た こ の いわ ゆ る ﹁連 盟 ﹂ の内 部 にす ら残 って いる 戦 争 の可 能 性 に てら し て いう
な らば 、 こ の ﹁傾 向 ﹂ す ら実 は 、 た ん に理 想 的 要 請 で あ る に す ぎ な い。 と こ ろ で、 普 遍的 で な
い国際 連 盟 と は、 も ち ろ ん 、 そ れ が潜 在 的 な いし顕 在 的 な 同 盟 、 す なわ ち連 合 を意 味 す る ば あ
いに の み、 政 治 的 な意 味 を も ちう る の で あ る。 こ れ に よ って交 戦 権 は除 去 さ れ た ので は な く 、
多 か れ 少 な か れ、 全 面 的 にか 部 分 的 に か、 ﹁連 盟﹂ に移 譲 さ れ た こと に な る で あ ろう 。 こ れ に
反 し 、 具 体 的 に存 在 す る 普 遍 的 な 人類 組 織 と し て の国 際 連 盟 のば あ いに は、 第 一に 、 あ ら ゆ る
既存 の人 間 集 団 か ら交 戦 権 を 実 質 的 に奪 い去 り 、 第 二 に は 、 し か も みず か ら 交 戦 権 を引 き受 け
た り は し な い、 と いう 困 難 な 作業 を 果 さ なけ れば な る ま い。 な ぜ な ら 、 そう で な いと、 普 遍 性
・人 類 ・非 政 治 的 社 会 な ど 、 つま り 本 質 的 特 徴 のす べて が 、 ま た 脱 落 す る こ と に な って し ま う
﹃国 際 連 盟 に つ いて の中 心 問 題 ﹄、 ベ ル リ ン、 一九 二 六年 。
であ ろ う か ら。 ︵20 ︶
﹁世 界 国 家﹂ が 、 全 地 球 ・全 人類 を 包 括 す る ば あ いに は、 そ れ は し た が って政 治 的 単 位 で は
な く、 た ん に 慣 用 上 から 国 家 と呼 ば れ る に す ぎ な い。 ま た も し実 際 に 、 た ん に経 済 的 な、 ま た
交 通 技 術 的 な 単 位 を 基 礎 と し て全 人類 ・全 地 球 が統 一さ れ る の であ れば 、 そ れは まだ 、 まず 第
一に 、 た と え ば 同 じ ア パ ー ト の居 住者 や 、 同 じ ガ ス会 社 に加 入 し た ガ ス利 用 者 や、 同 じ バ ス の
旅 客 が 、 社 会 的 ﹁単 位 ﹂ で あ る と いう の と同 様 な意 味 で の ﹁社 会 的 単 位 ﹂ で あ る に す ぎ な い。
こ の単 位 が、 た ん に 経 済 的 お よび 交 通 技 術 的 な も のに 留 ま る かぎ り は、 そ れ は 、 敵 を も た な い
ゆ え に、 経 済 党 ・交 通 党 にま で高 ま る こ と す ら 不 可 能 であ ろう 。 そ れ が 、 こ の範 囲 を 越 え て な
お、 文 化 的 ・世 界観 的 そ の他 な ん で あ れ 、 ﹁高 次 の﹂ 単 位 、 た だ し 同時 に あ く ま で非 政 治 的 な
単 位 を 形 成 し よ う と し た ば あ いに は 、 そ れ は 、 倫 理と 経 済 と いう 両 極 間 に中 立点 を さ ぐ る 消費
︱ 生産 組 合 で あ る で あ ろ う 。 国 家 も 王 国 も 帝 国 も 、 共和 政 も 君 主 政 も 、 貴 族 政 も 民 主政 も 、保
護 も 服 従 も 、 そ れ と は 無 縁 な の で あ って、 そ れ は お よ そ い かな る政 治 的 性 格 を も 捨 て 去 った も の であ る で あ ろ う 。
と こ ろ で、 こ の地 球 ぐ る み の経 済 的 ・技 術 的 集 中 と 結び つく 恐 ろ し い権 力 が、 いか な る 人び
と の手 に帰 す る で あ ろ う か 、 と いう こと が、 当 然 問 題 と さ れ な け れ ば な ら な い。 そ の さ いに は
万 事 が ま さ に ﹁お のず と は こび ﹂、物 ご と は ﹁お のず と管 理 さ れ る で あ ろ う﹂、 ま た そ のさ い人
び と は 、 絶 対 に ﹁自 由 ﹂ な のだ から 、 人 間 の人 間 に対 す る 支 配 な ど不 必要 に な って いる で あ ろ
う 、 な ど と期 待 す る こ と に よ って は 、 こ の問 題 は 、 決 し て片 づ け 去 る わ け に いか な い。 人 び と
が 、 な に を す る 自 由 を う る か が 、 ま さ に 問 題 と な る から で あ る。 こ れ に対 し て は 、楽 観 的 な 推
測 で 答 え る こ と も 、 悲 観 的 な推 測 で 答 え る こ と も 可 能 で あ る け れ ど も 、 こ れ は 結 局 す べ て、 人 間 学 的 信 仰 告 白 に帰 着 す る も のな の であ る 。
7
す べて の国家 理 論 お よび 政 治 理念 は 、 そ の人 間 学 を 吟 味 し 、 そ れ ら が意 識 的 に で あ れ 、 無 自
覚 的 に であ れ、 ﹁本 性 悪 な る ﹂ 人 間 を 前 提 と し て いる か 、 ﹁本 性 善 な る﹂ 人 間 を前 提 と し て いる
か 、 に よ って分 類 す る こ と が でき よ う 。 こ の区 別 は、 ま った く総 括 的 な も ので あ って、 特 殊 的
に道 徳 的 な いし 倫 理 的 な 意 味 にと る べき で は な い。 か ん じ ん な こ と は 、 そ の後 の あら ゆ る政 治
的 考 量 の前 提 と し て 、 人 間 と いう も の を問 題視 す る か し な いか な の で あり 、 人 間 が ﹁危 険 な﹂
存 在 で あ る か いな か 、 危 な っか し い存 在 で あ る か 、 そ れ と も 無 害 で危 な く な い存 在 な のか 、 と いう問 に対 す る 解 答 な の で あ る 。
こ の人 間 学 的 な善 悪 の区 別 の、 無 数 の変 容 ・変 形 を 、 こ こ で 一々論 じ る こ と は で き な い。 ﹁悪 ﹂ は 、 腐
敗 ・弱 さ ・怯 懦 ・愚 鈍 と し て 、 あ る いは ま た ﹁ 粗 野 ﹂・衝 動 性 ・野 性 ・非 合 理性 等 々 と し て あ ら わ れ 、 ﹁ 善﹂
は 、 こ れ に対 応 し て変 形 さ れ 、 合 理 性 ・完 全 性 ・従 順 性 ・教 育 可 能 性 ・好 ま し い平 和 性 等 々と し て あ ら わ
︵ た と え ば 、 オ オ カ ミ と ヒ ツ ジ の寓 話 に おけ る ﹁攻 撃 ﹂ の 問 題 、 ラ ・フ ォ
れう る。 動 物 の寓 話 は 、 ほ と んど す べて 現 実 的 な 政 治 状 況 と関 連づ け ら れ る の で あ る が 、 こ れ ら 動 物 の寓
ン テ ー ヌ の ペ スト の責 任 ︱︱ こ れ は む ろ ん ロバ に帰 す る ︱︱ に つ いて の寓 話 に お け る責 任 の問 題 、 動 物 会
話 の顕 著 に 政 治 的 な解 釈 可能 性
手 段 だ と い い 立 て る か を 列 挙 す る 一九 二 八年 一〇 月 のチ ャー チ ル の選 挙演 説 に お け る 軍 備 撤 廃 、 小 さ な魚
議 の寓 話 に お け る諸 国 家 間 で の裁 判 権 、 い か にす べ て の動 物 が そ れ ぞ れ の歯 ・爪 ・角 を 平 和 維 持 に役 立 つ
を 食 う 大 き な 魚 等 々︶ は 、 一 七 世 紀 の国 家 哲 学 者 た ち ︵ ホ ッブ ズ ・ス ピ ノ ザ ・プ ー フ ェン ド ル フ︶ が 、諸
国 家 が 混 在 す る ﹁自 然 状 態 ﹂ と 名 づ け た も のと 、 政 治 的 人 間 学 と の 直接 の関 連 か ら 説 明 が つく も の で あ る 。
・不 安 ・対 抗 心︶ に 動 かさ れ る動 物 と 同 じ く 、 ﹁悪 ﹂ な の で あ る 。 し たが って 、 わ れ わ れ の考 察 に と って
前 者 は 、 不 断 の危 険 ・脅 迫 の状 態 で あ って 、 そ こ で の行 動 主 体 は 、 ま さ に そ のゆ え に、 衝 動 ︵ 飢 え ・情 欲
は 、 デ ィル タ イ ︵ 著作集 II、 一九 一四年、 三 一ページ︶に みら れ る次 の よ う な 異 議 は 、 必 ず しも 必要 で な い。
て いる よ う に 思 わ れ る ⋮ ⋮ 。 か れ が い た る と こ ろ で 表 現 し よ う と し て い る の は 、 む し ろ た だ 次 の点 な の で
す な わ ち 、 ﹁マキ ァベ リ に よ れ ば 、 人 間 は 、 本 性 悪 な る も ので は な い。 いく つか の箇 所 が こ れ を 裏 書 き し
あ る 。 す な わち 、 人 間 は 、 対 抗 す る力 が 働 か な いかぎ り は 、 欲 望 に ひ きず ら れ て悪 へ向 かう と いう 、 さ か
ら いえ な い傾 向 を も つ。 人 間 の本 性 の中 核 は 、 動物 性 ・衝 動 ・感 情 な ので あ り 、 と く に愛 情 と 恐 怖 と で あ
る 。 諸 感 情 の活 動 に か ん す る マキ ァベ リ の心 理 学 的 考 察 は 無 尽蔵 で あ る 。 ⋮ ⋮ わ れ わ れ人 間 の本 性 のこ の
よ う な 基 調 か ら し て 、 か れ は す べ て の政 治 的 生 活 の基 本 法 則 を 導 き だ す ﹂ と 。 Ed ・シ ュプ ラ ンガ ー が 、 そ
の著 ﹃諸 生活 形態 ﹄ のな か の ﹁権 力 的 人 間 ﹂ の章 で、 ﹁政治 家 に と って は 、 も とよ り 人間 学 が 関 心 の前 面
にく る﹂ と の べて いる のは 、 き わ め て 適 切 であ る。 ただ わ た く し は 、 シ ュプ ラ ンガ ー は 、 こ の関 心 を あ ま
り に も 技 術 的 に、 人 間 の ﹁衝 動 機 構 ﹂ の たく み な扱 い方 に つ いて の関 心 と み な し て いる よ う に思 わ れ る。
思 想 ・観 察 が た っぷり 盛 ら れ た こ の章 の、 こ れ に 続 く 詳 述 にお い ては 、 特 殊 的 に 政治 的 な諸 現 象 お よび 政
治 的 な も の の全 存 在 性 が 、 事実 ま た 、 し ば し ば 圧 倒 的 具 象 性 を も ってく り 返 し 認 め ら れ る ので あ る 。 たと
え ば 、 ﹁権 力 タイ プ の威 厳 は 、 そ の影 響 領 域 に比 例 し て増 大 す る よう に み え る ﹂ と いう 文 句 は 、 政 治 的 な
も の の領 域 に根 ざ し、 し た が って 政 治 的 に の み理 解 さ れう る現 象 に つ いて いわ れ 、 し か も 、 政 治 的 なも の
の応 用 例 と し て い わ れ て いる ので あ る 。 量 よ り質 への変 化 と いう ヘー ゲ ル の命 題 も ま た 、 政 治 的 思 考 と し
と し て の位 置 づ け は 、 決 定 的 な 集 合 お よ び 離 散 の基 準 と な る隔 り の強 度 に よ って 規 定 さ れ る 、 と いう 命 題
て の み理 解 さ れ る ︵四九ページ ︹六三年版六 二ページ、本訳書 七六ページ︺ の ヘーゲ ルに ついて の記述参照 のこと︶。
大 規 模 な 政 治的 人 間学 に 思 い切 って 手 を つけ た最 初 の現 代 哲 学 者 と し て のH ・プ レ スナ ー ︵ ﹃権力と人間 の本
か か わ り を も た な い政 治 は な い 、 と正 し く のべ て いる 。 か れ は と く に、 哲 学 お よび 人間 学 が 、 と く に 全 体
性﹄ ベルリン、 一九三 一年、 のな かで︶は 、 政 治 と か か わり を も た な い哲 学 ・人 間 学 は な く 、 ま た 逆 に哲 学 と
に か か わ る 学 問 と し て 、特 定 の ﹁領 域 ﹂ に か か わ る いか な る 専 門 科 学 とも ち が って 、 人 生 の ﹁ 非 合理的な﹂
た り を お く 存 在 ﹂ であ って、 そ の本 質 は ど こ ま で も 規 定 し え ず 、 究 明 し え ず 、 ﹁未 解 答 の問 い﹂ な のであ
諸 決 定 と 相 殺 さ れ るも の で は あ り え な いこ と を み ぬ い て いる 。プ レ ス ナ ー に と って 人 間 は 、 ﹁第 一義 的 に隔
の大 胆 な 現 実 肉 迫 ・即 事性 を も った 動 的 ﹁未 解 決 ﹂ は 、 危 険 や 危 険 なも のと の積 極 的 な か か わ り のゆ え に
る 。 か の素 朴 な ﹁善 ﹂ ・ ﹁悪 ﹂ の区 別 に も と づ く 政 治 的 人間 学 の単 純 な 用 語 に 翻 訳 す る な ら ば プ レ スナ ー
ェも 同 様
﹁悪 ﹂ の側 に属 し 、 結 局 は
︵ ブ ルク ハル ト の有 名 な 、 た だ し 一義 的 に 分 明 で は な い用 語 によ れ
だ け で も 、 善 よ りは ﹁悪 ﹂ に 近 い立 場 で あ る と いえ よ う 。 こ れ と符 節 を 合 わ せ て 、 ヘー ゲ ルお よ び ニー チ
ば ︶ ﹁権 力 ﹂ そ の も の が 悪 な ので あ る 。
と く に、 いわ ゆ る権 力 主義 的 理論 と無 政 府 主義 的 理論 と の対 立 が、 上記 公式 に 還 元 さ れ ると
いう こ と は、 わ た く し が し ば しば 指 摘 し た と こ ろ で あ る 。 人 間 を こ ん な ふう に ﹁善 ﹂ で あ る と
前 提 す る 理論 や論 理 構 成 の 一部 に は 、真 に 無 政 府 主 義 的 で は な く 、自 由 主義 的 で あ って、 国 家
の介 入 に対 し て抗 争 的 な 立場 に 立 つも のが あ る。 露 骨 な無 政 府 主義 にあ っては 、 ﹁天 性 の善 ﹂
を信 じ る こ と と 、 国 家 の過激 な 否 認 と が 、 いか に密 接 に関 連 す る か は 、 一目 瞭 然 で あ って 、 一
方 は他 方 か ら導 きだ さ れ 、 両者 は 互 いに支 え 合 って いる ので あ る 。 こ れ に反 し、 自 由 主義 者 に
と って は 、 人 間 の善 性 は 、 そ れ を 援 用 し て国 家 を ﹁社 会 ﹂ に奉 仕 さ せ る ひ と つ の論 拠 以 上 のな
に も のを も 意 味 せず 、 し た が って た だ、 ﹁社 会﹂ が そ れ自 体 のう ち に秩 序 を も ち 、 国 家 と はた
だ 、 不 信 の念 を も って規 制 さ れ、 厳 密 な範 囲 内 に 局 限 さ れ る べき従 属物 な のだ 、 と いう こ と を
会 ︵soci ety︶ は 、 わ れ わ れ の合 理 的 に規 制 さ れ た諸 要 求 の所産 で あ り 、 国 家
意 味 す る に す ぎ な い。 こ の点 に か ん し ては 、 古 典 的 な定 式 化 が 、 ト マス ・ペイ ンに み ら れ る 。 す なわち、社
︵governmen t ︶ は 、 わ れ わ れ の悪 徳 の所産 で あ る 、 と 。 国 家 を敵 視 す る 過 激 主義 は 、 人 間 の本
性 が 、 徹 底 的 に善 で あ る こ と を 信 じ る度 合 いに応 じ て増 大 す る の で あ る。 市 民 的 自 由 主義 は 、
か つ て 一度 も政 治 的 な 意 味 で 過 激 な も ので あ った こ と は な い。 し か し な が ら、 そ の国 家 の否
定 ・政 治 的 な も の の否 定 ・そ の中 立 化 ・非 政 治 化 お よび 自 由 宣言 が 、 同 様 にま た 一定 の政 治 的
意 味 を も ち、 一定 の状 況 のな か で 一定 の国 家 お よび そ の政 治 権 力 に対 し て抗 争 的 立場 に 立 つも
の であ る こ と は 、 いう ま でも な い。 ただ し そ れら は、 本 来 的 に は国 家 理論 でも 政 治 理 念 でも な
いので あ る。 自 由 主義 は 、 た し か に 、国 家 を根 本 的 に否 定 は し な か った が、 他 方 ま た、 な んら
積 極 的 な国 家 理論 も 、独 自 の国 家 形態 も み いだ さず 、 た だ た ん に 、政 治 的 なも のを 、 倫 理的 な
も のに よ って拘 束 し 、経 済 的 な も のに 従属 さ せ よ う と試 み た に すぎ な か った。 自 由 主義 が作 り
だ し た のは 、 ﹁権 力 ﹂ の配 分 と均 衡 の理論 、 す な わ ち国 家 の抑 制 ・制 御 の体 系 で あ って、 こ れ
︵21︶ ﹃政 治 神 学﹄、 一九 二 二年 、 五〇 ペ ージ 以 下 、 ﹃独 裁 ﹄ 一九 二 一年 、 九 ペー ジ、 一〇 九 ペ ー ジ、
は 、 国 家 理論 と か 政 治 的 構 成 原 理と か 呼 ぶ こ と の でき な いも の であ る 。
一 一二 ペ ー ジ 以 下 、 一二三 ペー ジ 、 一四 八 ペー ジ 。
な いよう な す べて の制度 は ⋮ ⋮ ︵正 し く な い︶﹂ と いう 、 バブ ー フ の人 民 ト リ ビ ュー ン の定 式 化 は 、
︵22︶ ﹃独 裁 ﹄、前 記 一 一四 ペー ジ 参 照 の こと 。 ﹁民 衆 を善 な る も の 、行 政 官 を 腐敗 す る も のと前 提 し
自 由 主 義 的 に で は な く 、 支 配 者 と 被 支 配 者 と の民 主的 一体性 と いう 意 味 で いわ れ て いる 。
し た が って、 残 る と こ ろ は 、真 の政 治 理 論 と は 、 す べて、 人 間 を ﹁悪 な るも の﹂ と 前 提 す る 、
す な わ ち問 題 を は ら ま ぬも のと し てで は 決 し てな く 、 ﹁危 険 な ﹂ か つ動 的 な 存 在 と し て みな す
も の で あ る 、 と いう 奇 妙 な 、 そ し て多 く の人 び と にか な ら ず や 不 安 を 覚 え さ せ る確 認 な の で あ
る 。 す ぐ れ て 政 治 的 な 思 想 家 の だ れ に つ い て み て も 、 こ の 確 認 の内 容 は 、 容 易 に 裏 づ け ら れ る 。
種 類 ・等 級 ・歴 史 的 意 義 の 点 で い か に 異 な ろ う と も 、 こ れ ら 政 治 思 想 家 は 、 人 間 の 本 性 を 問 題
的 な も の と し て と ら え る と いう 点 で は 一致 し て い る の で あ っ て 、 そ れ は 、 か れ ら が す ぐ れ て 政
治 的 な 思 想 家 と し て の実 を 示 す 度 合 い に 比 例 す る の で あ る 。 こ こ で は 、 マ キ ァ ベ リ 、 ホ ッ ブ ズ 、
ボシ ュ エ、 フ ィ ヒ テ ︵か れ に つ い て は 、 人 間 的 理 想 主 義 を 忘 れ る 瞬 間 か ら ︶、 ド ゥ ・メ ー ス ト
ル 、 ド ノ ソ ・ コ ル テ ス 、 H ・テ ー ヌ の名 を あ げ る だ け で 十 分 で あ る 。 さ ら に は ヘー ゲ ル 。 も ち ろ ん か れ は、 こ の点 でも と き と し て 両面 的性 格 を 示 す の で あ る が。
に も か か わ らず 、 ヘー ゲ ルが 、 い か な るば あ いに も 、 最 大 の意 味 に お いて 政 治 的 で あ る こと に変 わ り は
な い。 か れ の著 作 のう ち 、 当 時 の現 実 的 事 件 に か か わ るも の︱︱ と く にな に よ り も ﹃ドイ ツ 国 憲 法﹄ と い
う 若 い こ ろ の天 才 的 著 書 ︱ ︱ は 、 精 神 は す べ て現 在 の精 神 で あ り 、 現 在 す る の であ って 、奇 矯 な 表現 のな
か に も 、 ロ マンチ ック な い い のが れ の な か にも み つけ えず 求 め え な い のだ 、 と いう 哲 学 的 真 理 の明 白 な 記
録 、 そ れ ぞ れ の 一時 的 な 正 し さ な いし 誤 ま り を 貫 いて そ の奥 に つね に読 みと れ る記 録 に ほ か な ら な い。 こ
つく る こと を 許 さ な い、 哲 学 の真 正さ な の で あ る 。 か れ の具 体 的 思 考 の弁 証 法 も ま た 、 と く に 政 治 的 な も
れ が ヘー ゲ ル の ﹁こ こ が ロー ド スだ ﹂ で あ り 、 ﹁ 非 政 治 的 純 粋 性 ﹂ ・純 粋 な非 政治 性 に お いて 知 的 捕 獲 網 を
﹁事 物 領 域 ﹂ か ら 出 発 し ても 、 ︹ や が て は︺ 政 治 的 な も のと いう 地 点 に 、 し た が って ま た 、 人 間 結 束 の質
の で あ る 。 し ば し ば 引 用 さ れ る 量 より 質 への転 化 と いう 命 題 は 、 ま ったく 政 治 的 な意 味 を も ち 、 い か な る
的 に新 た な強 度 に 到 達 し て し ま う のだ 、 と いう 認識 の表 現 な ので あ る。 こ の命 題 が本 来 的 に 適 用 さ れ る 事
例 は 、 一九 世紀 に お いて は 、 経 済 的 なも の と か か わ って いる 。 す な わ ち 、 ﹁自 立 的 な﹂、 いわ ゆ る 政 治 的 に
﹁即 物 的 し で あ った も の の こう い った 政 治 化 が 遂 行 さ れ た わけ で あ る 。 こ のば あ い、 た と え ば 、 経 済的 な
中 立 の領 域 で あ る ﹁ 経 済 ﹂ に お い て 、不 断 に こ の よ う な 転 化 が 、 つま り 、 そ れ ま で は非 政 治 的 で あ り 、 純
所 有 は 、 一定 の分 量 に達 し た と た ん 、 明 ら か に ﹁社 会 的 な ﹂ ︵ 正 し く は 政 治 的 な︶ 権 力 と 化 し た 。 財 産 が
力 と 化 し 、 は じ めは ただ 経 済 的 動 機 か ら の階 級 対 立が 、 敵 対 す る 集 団 間 の階 級 闘 争 と 化 し た の で あ る 。 ヘ
ー ゲ ル に は ま た、 ブ ル ジ ョア の最 初 の抗 争 的 政 治 的 な 定義 も み ら れ る 。 す なわ ち 、私 人 と いう 、 非 政 治 的
で 危 険 を と も な わ な い領 域 を 去 る こと を 欲 し な い人間 、 所 有 や 私 的 所 有 の 公正 さ に お いて は 、 個 人 とし て
全 体 と 対 抗 す る 人間 、 みず か ら の政 治 的 無 為 の代 償 を 平 穏 と 収 益 と いう 成 果 の な か に 、 な に より も ﹁そ の
が れ て い た いと 欲 す る 人 間 、 がそ の 定義 で あ る ︵﹃自然 法 の科学的な扱 い方﹄、 一八〇 二年、ラ ッソン版 、三 八三 ペ
享 受 の完 全 な 確 実 性 のな か に 発 見 す る﹂ 人間 、 そ の結 果 、 勇 敢 さ を捨 て去 り 、 非 業 の死 と いう 危 険 を ま ぬ
ー ジ、グ ロクネ ル版I、 四九九 ページ︶ 。 最 後 に ま た へー ゲ ル は 、他 の 近代 哲 学 者 が た い て いは 避 け て いる 、敵
﹁民 族 と いう 永 遠 な も の﹂ に お け る ﹁絶 対 的 生 ﹂ の立 場 から の︶ 異 相 で
の 定義 を も た て て い る。 す な わ ち 敵 と は 、 そ の生 き た 全 体 性 に お いて 異 質 な否 定 さ る べき 存 在 で あ り 、 人
あ る 。 ﹁敵 と は こ の よ う な 異 相 で あり 、 こ の異 相 は 、 互 い に関 連 づ け れば 、 同 時 に 諸 対 立 の存 在 に対 す る
倫 的な ︵ 道 徳 的 な意 味 で で な く 、
反 対 物 と し て あ り 、 敵 の否 定 と し て あ る 。 そ し て 双 方 の側 に同 様 に 成 り 立 つこ の否 定 が 、 闘 争 の危 険 な の
こ こ には 、個 体 が 登 場 す るゆ え に 、 民族 に か ん し て いえ ば 、 そ れ は 、 個 人 が 死 の危 険 に お も む く こ と な の
で あ る 。 人倫 上 、 こ の敵 に な り うる の は 、 民族 の敵 だ け で あ り 、 敵 自 身 も 一民 族 で あ るば あ い に かぎ る 。
で ある 。 ﹂ ﹁こ の戦 争 は 、 家 族 対 家 族 の戦 争 で は な く 、 民 族 対 民 族 の 戦 争 で あ り 、 し たが って 、憎 悪 そ のも
の は 、 無 差 別 な も のと な り 、 あ らゆ る個 人性 を離 れ 去 って いる 。﹂ い つ ごろ ま で ヘー ゲ ル の精 神 が 現 実 に
ベ ルリ ン に君 臨 し た か は問 題 で あ る 。 いず れ に せ よ 、 一八 四 〇 年 以 後 、 プ ロイ セ ンで支 配 的 と な った傾 向
は 、 ﹁保 守 的 な﹂ 国 家 哲 学 ︱ ︱ し か も 、 フリ ー ド リ ヒ ・ユリ ウ ス ・シ ュタ ー ル の︱ ︱ を 受 け 入れ る ほう を
スク ワで か れ の弁 証 法 的 方 法 は、 新 し い具 体 的 な 敵 概 念 、 す な わ ち 階級 敵 の 概 念 に お いて 、 そ の具 体 的 な
選 んだ 。 そ の間 ヘー ゲ ル は 、 カ ー ル ・マルク スを 越 え て レ ー ニ ン へ、 モ スク ワ へと 向 か った の で あ る。 モ
こ の闘 争 の ﹁武 器 ﹂ へと 転 化 さ せ た 。 ヘー ゲ ル のこ の現 実 性 は、 ゲ オ ル ク ・ル カ ー チ ︵﹃ 歴史 と級階意 識﹄ 一
力 を 実 証 し 、 弁 証 法 そ れ自 身 を 、 合 法 性 と非 合 法 性 、 国 家 さ ら に は敵 と の妥 協 な ど 他 のす べ てと 同 様 に、
九 二三年、﹃レー ニン﹄ 一九 二四年︶ に も っと も 強 烈 に躍 動 し て い る 。 ル カ ー チは 、 レ ー ニン の発 言 ︱︱ ヘー
ゲ ル の発 言 な ら ば 、 階 級 と いう 個 所 は、 闘 争 す る 民族 と いう 政 治 的 単 位 と変 わ った こ と で あ ろ う が ︱ ︱ を
引 用 し て も いる 。 す な わ ち、 ﹁レ ー ニ ンは いう 。 政 治 と いう 話 を 、 と き に欺 瞞 に も ひ と し い、 いや し い策
な ので あ る ﹂ と。
謀 と 解 す る 連 中 は 、 われ わ れ の き わ め て 断 固 た る 拒 否 を 覚 悟 し な け れば な ら な い。 階 級 は 欺 かれ え な いも
こ の問 題 は 、 ﹁楽 観 論 ﹂ な いし ﹁悲 観 論 ﹂ に か ん す る 心 理学 的 註解 で片 づ け ら れ る も ので は
な い。 同 様 にま た無 政 府 主義 的 に 、 こ れ を 逆 に し て 、 人 間 を 悪 と みな す よ う な 人 び と の みが 悪
な の であ る、 と 論 じ る こ と に よ って も片 づ き は し な い。 こ の論 法 を 進 める な ら ば 、 人 間 を善 と
み なす 人び と、 つま り は 無政 府 主義 者 のみ が 、 な ん ら か の形 で悪 な る 人 び と を 支 配 し制 御 す る
資 格 を も つ こと と なり 、 こ こ で 問 題 は ふ た た び ま た 振 り だ し に も ど る ので あ る 。 わ れわ れ は む
し ろ、 人 間 の思 考 の さ まざ ま な 領 域 にお い て、 ﹁人 間 学 的 ﹂ 前 提 が いか に は な は だ し く 異 な る
か に注 目 し な け れ ば な ら な い。 教 育 学者 は 、 方 法 論 上 必然 的 に、 人 間 を 教 育 可能 な 可 塑 的 な も
の と考 え る であ ろう 。 私 法 学 者 は 、 ﹁善 な り と みな さ れ る個 人﹂ と いう 命 題 を 出 発 点 と す る。
神 学者 が 、 も し も 人間 を 、罪 深 い、 救 済 を 必要 とす る も のと考 え ず 、 救 済 さ れ た者 を救 済 さ れ
な い者 から 、 神 に 選ば れ た 者 を 選 ば れな い者 か ら、 も は や区 別 し な いな ら ば 、 か れ は神 学 者 で
あ る こ と を や め て し ま う 。 こ れ に 対 し 、 道 徳 学 者 は 、善 悪 の選 択 の自 由 を 前 提 にす る ので あ る 。
と こ ろ で 、 政 治 的 な も の の領 域 は 、 結 局 のと こ ろ、 敵 の現実 的 可能 性 に よ って規 定 さ れ る ので
あ る か ら 、 政 治 的 な観 念 な いし 思 考 過 程 は 、 人 間 学 的 ﹁楽 観 論 ﹂ を 出 発 点 とし た ので は 、 ぐ あ
いが 悪 い。 そ ん な こ と を す れ ば 、 そ れら は 、 敵 の可 能 性 を 捨 て去 ると と も に、 す べ て の特 殊 的 に 政 治 的 な 帰 結 を も捨 て 去 る こと にな る で あ ろ う。
︵23︶ 自 由 主 義 者 ブ ル ンチ ュリ ︵現代国家論、第 三部、﹃科学とし ての政治学﹄、 シ ュツ ットガルト、 一八七 六
いで な が ら 、 ︹シ ュタ ー ル の︺ 党 派 理論 は 、法 学 を 全 然 論 じ て いな い︶ は 、 人間 の悪 を 出 発 点 と す
年、 五五〇ページ︶は 、 シ ュタ ー ル の党 派 理 論 に対 し、 次 の点 を 強 調 し て い る 。 す な わ ち 、 法 学 ︵つ
る ので は な く 、 ﹁法 律 家 の黄 金 則 で あ る 、善 な り と み な さ れ る す べ て の者 ﹂ を 出 発 点 と す る も の で
あ る が 、 こ れ に対 し 、 シ ュタ ー ル は 、神 学 者 風 に 、 人 間 の罪 深 さ を 、 か れ の思考 連 鎖 の発 端 に お い
て いる 、 と 。 ブ ル ンチ ュリ に と って、 法 学 は、 も と より 民 法 学 な の で あ る ︵上記註 1参 照のこと︶。 法
律 家 の黄 金 則 は 、 立証 責 任 の規 制 と いう 点 に意 味 が あ る 。 つ い でな が ら 、 そ の前 提 と な って いる の
は 、国 家 の存 立 で あ って 、 国家 が 安 定 し た 秩 序 、 危 険 に対 し て守 ら れ た 秩序 に よ って 、﹁人 倫 性 の
ある。
外 的諸 条 件﹂ を 作 り あげ 、 そ の枠 内 で 人 間 が ﹁善 ﹂ で あ り う る よう な 正常 な状 況 を 作 り だ し た の で
︵24︶ 神 学 が 道 徳 神 学 とな る度 合 い に応 じ て 、 選択 の 自 由 と いう こ の観 点 が 強 調 さ れ、 人間 の徹 底 的
な 罪 深 さ の論 は影 が う す れ る 。 ﹁人 間 は 自 由 で あ り 選 択 能 力 を 与 え ら れ て い る。 し たが って、 本 性
版I V、 I 一〇九九 ページ︶。
善 な るも の でも 、 本 性 悪 な る も の で も な い 。 ﹂ イ レ ネ ー ウ ス ﹃反 異 端論 ﹄ ︵ 第四巻、三七章 、ミ ィニ ュ
政 治 理論 と 神 学 的 罪 業 論 と の関 連 は、 ボ シ ュエ、 メ ー スト ル、 ボ ナ ー ル、 ド ノ ソ ・コ ルテ ス、
F ・J ・シ ュター ルた ち にと く に顕 著 に で て おり 、 ま た数 多 く の他 の人び と に も同 様 に 強 く 影
響 し て いる が、 こ れ は 上記 の論 理 必然 的 な思 考 前 提 の類 似 性 か ら説 明 の つく も の であ る 。 現 世
と人 間 と の罪 深 さ と いう神 学 の根本 教 義 は︱︱ 神 学 が いま だ た ん な る 規 範 的道 徳 論 な いし 教 育
学 に なり 果 て ぬ かぎ り 、 ま た教 義 が 、 いま だ た ん な る ︹教 会︺ 規 律 にな り 果 て ぬか ぎ り は︱ ︱
友 ・敵 区 別 と ま った く 同様 に、 人 間 の分 類 へ、 ﹁差 別 ﹂ へと 行 き つく の であ って、 一般 的 人 間
概 念 と いう無 差別 的 楽 観論 を 不 可能 にす る の であ る。 も と より 、 善 な る世 界 の、 善 な る 人間 た
ち の あ いだ で は 、平 和 ・安 全 ・万 人 の万 人 と の調和 の みが 支 配 す る。 聖 職 者 や 神 学 者 は、 こ こ
で は政 治 学 者 ・政 治 家 とま った く同 様 に 、 無 用 の存 在 であ る 。 原罪 の否 定 が、 社 会 心 理学 的 ・
個 人 心 理 学 的 に いか な る意 味 を も つかは 、 ト レ ルチ ︵か れ の ﹃キ リ スト教 会 の社 会 理論 ﹄ に お
い て︶ や セイ エー ル ︵ロ マ ン主 義 ・ロ マ ン派 に か ん す る多 く の 公刊 物 に お いて︶ が 、数 多 く の
分 派 ・異 端 者 ・ロ マ ン派 ・無 政 府 主義 者 ら の例 を 引 いて指 摘 し た と こ ろ であ る 。 神 学 と 政 治 学
と の思 考 前 提 の方 法 論 的 関 連 は 、 こ のよ う に明 白 であ る。 た だ 、 神 学 の援 用 が 、 し ば しば 政 治
的 概 念 を 混 乱 さ せ る こ と に な る のは 、 そ れ が通 常 、区 別 を 道徳 神 学 的 なも の へとず ら し 、 な い
し は 少 な く と も そ れ と 混 同 し 、 そし てし か も た いて いは 、 規 範 的 擬 制 論 さ ら に は教 育 的 ・実 用
的 便 宜 主 義 さ え も が 、 存 在 論 的 対 立 の認 識 を 曇 ら せ てし ま う から で あ る。 マキ ァべリ 、 ホ ッブ
ズ ︱︱ と き に は フ ィ ヒ テ も︱︱ のよ う な 政 治 理 論 家 は、 か れ の ﹁悲観 論﹂ によ って、 実 は た だ、
友 ・敵 区 別 の現 実 的 実 在 性 な いし 可 能 性 を 前 提 とし て いる に すぎ な い。 し た が って、 偉 大 な 、
そ し て真 に体 系 的 な政 治 思 想 家 ホ ッブ ズ に あ って は 、 ﹁悲観 論 的 ﹂ 人 間 観 も、 さ ら に は 、 ま さ
し く 双 方 の側 に存 在 す る 真 ・善 ・正 義 の確 信 が最 悪 の敵 対 関 係 を 作 り だ す のだ と いう 、 か れ の
正 し い認 識 も 、 つ いに は ま た、 万 人 の万 人 に対 す る ﹁闘 争 ﹂ も、 ︹いず れ も︺ 臆病 で取 り 乱 し
た 空 想 の産 物 と し て では なく 、 ま た 、自 由 な ﹁競 争 ﹂ を 基 盤 と す る市 民 社 会 の哲 学 ︵ テ ニエス︶
と し て だけ で は な く 、 ︹ま さ に︺ 特 殊 に政 治 的 な 思 想体 系 の基 本 前 提 と し て解 す べき も のな の で ある。
こ れ ら の政 治 思 想 家 は 、 あ り う べき 敵 の具 体 的 実 在 性 を つね に念 頭 に置 いて いるゆ え 、 と き
に は 、 安全 を欲 す る 人び と を驚 愕 さ せる よう な、 一種 の現 実 主義 を 説 く こと にな る。 人間 の自
然 的特 性 いか ん の問 題 に は 決 着 を つけ よう と し な いで も 、 一般 に人 間 は、 少 なく と も 調 子 が ま
ず ま ず であ る か 、 む し ろ 好 調 であ る かぎ り は 、 お び や か さ れ る こと のな い平 穏 と いう 幻 想 を 愛
す るも の で あ り 、 ﹁悲 観 論 者 ﹂ を許 容 し な い、 と い ってよ い。 そ れ ゆ え 、 あ る明 解 な 政 治 理論
の政 治 的 反 対 者 に し て み れば 、 政 治 的 な現 象 や真 理 の明 解 な認 識 ・記 述 を 、 な ん ら か の自 立的
な 事 実 領 域 の名 のも と に、 非 道 徳 的 ・非 経 済 的 ・非 科 学 的 と き め つけ 、 ま た な によ り も︱ ︱ こ
れ こそ が政 治 的 に 重 要 な 点 な のだ か ら︱ ︱打 ち破 る べき 悪 魔 的 所 業 と し て 法外 放 置 を 宣 告 す る こ と が容 易 に な し う る ので あ る 。
マキ ァベリは、こう いう運命 に見 舞われた。かれがもしも マキ ァベリ ストで あ ったならば 、 君主論では
なく、む しろ感動的な詩句を つづ った書物を書 いた ことであろうに。現実 には 、 マキ ァベリは、 ち ょうど
て いた のと 同 様 に 、防 衛 す る 立 場 にあ った。 イ デ オ ロギ ー 的 防 衛 と いう 状 況 は 、 一九 世 紀 初 頭 の ド イ ツ に
か れ の祖 国 イ タ リ ア が 、 一六世 紀 に 、 ド イ ツ人 ・フラ ン ス 人 ・ス ペイ ン人 ・ト ル コ人 ら の侵 入 に さら さ れ
お いて 、 フラ ンス 人 の革 命 的 お よ び ナポ レ オ ン的 侵 入 の時 期 に再 現 さ れ た。 ドイ ツ国 民 に と って 、 人 道 主
義 的 イ デ オ ロギ ー と と も に 拡 張 しく る敵 に対 し て の防 衛 が急 務 で あ った こ の時 期 に、 フ ィヒ テ と ヘー ゲ ル が 、 マキ ァベ リ を ふ た た び 栄 光 の座 に つけ た の で あ った。
最 悪 の混 乱 が生 じ る のは 、 法 と か平 和 と か の概 念 が、 こ のよう に政 治 的 に利 用 さ れ る と き 、
つ ま り 、 明 解 な 政 治 的 思 考 を 妨 げ 、 自 己 の政 治 的 努 力 を 合 法 化 し 、 相 手 を 無 資 格 ・不 道 徳 の 立
も っと も安 全 に は、 な ん ら か の重 大 な 政 治 的 決 定 に守 ら れ て 、 つま り た と え ば 、 あ る安 定
場 に お と し め る た め に 利 用 さ れ る と き で あ る 。 法 は 、 私 法 ・公 法 の別 な く 、 法 そ の も の と し て
︱ ︱
し た国 家 制 度 の枠 内 で︱︱ 相 対 的 に 独 立 し た 固 有 の領 域 を も つ。 た だ し 、 人 間 の生 活 ・思 考 の
ど の領 域 も そ う であ る よ う に 、 他 の領 域 の支 援 のた め に も反 駁 の た め にも 利 用 さ れ う る ので あ
る 。 法 や道 徳 を 、 こ の よう に利 用 す る こと の政 治 的 意 義 に 注 目 し 、 そ し て と く に、 法 ﹁な る も
の﹂ の ﹁支 配 ﹂ と か、 さ ら に は 至 上 性 と か いう い い方 に対 し て、 つね に いく つか の立 ち 入 った
疑 問 を 提 起 す る こ と は 、政 治 的 思 考 の 立場 か ら す れ ば 、 自 明 の こ と な ので あ って 、 不 法 でも 不
道 徳 で も な い。 す な わ ち 、第 一に は 、 こ こ で いう ﹁法﹂ が 今 後 と も適 用 さ れ る べき 現行 の実 定
法 ・立 法 手 続 を き 指 す も の か い な か 、 で あ り 、 も し も 、 そ れ を 指 す の な ら 、 ﹁法 の 支 配 ﹂ と は 、
す な わ ち 特 定 の 現 状 の ま ま の 正 当 化 の こ と に ほ か な ら ず 、 政 治 的 権 力 な いし 経 済 的 利 益 が 、 こ
の 法 の な か で 安 定 し て いる す べ て の 人 び と が 、 こ う し た 現 状 の 保 持 に関 心 を 寄 せ る も の で あ る こ と は 、 いう ま で も な い。
第 二 に 、 法 を 引 き 合 い に だ す こ と の 意 味 は 、 現 状 の ま ま の法 に 対 し て 、 一段 高 い、 も し く は
よ り 正 し き 法 、 い わ ゆ る 自 然 法 な いし 理 性 法 が 対 置 さ れ る 、 と いう こ と で も あ り え よ う 。 そ の
ば あ い 、 こ の よ う な 法 の ﹁支 配 ﹂ と か 至 上 性 は 、 よ り 高 い法 を 引 き 合 い に だ す こ と が で き 、 か
つ そ の 内 容 が な ん で あ り 、 ど の よ う に し て 、 だ れ に よ って そ れ が 適 用 さ れ る べき で あ る か を 決
定 す る ︹立 場 に あ る ︺ 人 び と の支 配 で あ り 至 上 性 な の で あ る 、 と い う こ と は 、 政 治 学 者 に と っ
て 自 明 の こ と で あ る 。 政 治 的 思 考 の こ の単 純 な 帰 結 を 、 他 の だ れ よ り も 明 解 に 、 ホ ッ ブ ズ が 深
い確 信 を も っ て 引 き だ し 、 ま た 、 法 の 至 上 性 と いう こ と は 、 法 規 範 を 定 め 、 執 行 す る 人 び と の
至 上 性 を 意 味 す る に す ぎ ず 、 ﹁ 一段 高 い 秩 序 ﹂ の支 配 と いう こ と は 、 も し も そ れ が 、 特 定 の 人
び と が 、 こ の よ り 高 い秩 序 に も と づ い て ﹁ 一段 低 い秩 序 ﹂ の 人 び と を 支 配 し よ う と 欲 す る の だ 、
と いう 政 治 的 意 味 を も た な い と す れ ば 、 無 内 容 な 成 句 に な り 果 て る 、 と い う こ と を 、 く り 返 し
強 調 し た の で あ っ た 。 こ う い う 政 治 的 思 考 は 、 こ の ば あ い 、 そ の領 域 の 独 立 性 お よ び 閉 鎖 性 の
た め 、 ま っ た く 否 定 す る こ と が で き な い。 な ぜ な ら 、 ﹁法 ﹂ ・ ﹁人 類 ﹂ ・ ﹁秩 序 ﹂ ・ ﹁平 和 ﹂ と い
う 名 の も と に 、 他 の具 体 的 人 間 集 団 と 戦 う 、 具 体 的 な 人 間 集 団 が 、 つ ね に 存 在 す る か ら で あ っ
︹反 文 化 的 ・反 社 会 的 な 極 端 な 禁 欲 主 義 ︺ と か の非 難 を う け た と し て も 、 そ れ を た だ 、 具 体
て 、 政 治 現 象 の観 察 者 は 、 一貫 し て 自 分 の 政 治 的 思 考 を 固 守 す る ば あ い、 不 道 徳 と か キ ニク 主 義
的 に 闘 争 す る 人び と の政 治 的 手 段 と し て、 つね に 認識 す る こと が でき る か ら で あ る。
し た が っ て 、 政 治 的 思 考 お よ び 政 治 的 本 能 は 、 理 論 的 に も 実 際 的 に も 、 友 ・敵 を 区 別 す る 能
力 に よ っ て実 証 さ れ る。 重 大 な 政治 の ク ライ マ ック スは 同時 に 、敵 が 具 体 的 な 明 瞭 さ で 敵 と し て認 識 さ れ る 時 点 な ので あ る 。
近 代 に か ん し て 、 わ た く し は 、 こ の よう な 敵 対 関 係 の強 力 な発 現 ︱︱ 一八 世 紀 の た し か に 過 小 評 価 し え
な い、 は れ ん ち な や つを た た き つぶ せ よ りも 強 力 な 、 シ ュタイ ン男 爵 お よび ク ラ イ スト の フラ ン ス人 に対
には 、 ブ ル ジ ョア お よ び 西 欧 資 本 主 義 に対 す る レ ー ニン の せ ん 滅 的 な 文 句 よ り さ え なお 強 力 な そ れ ︱︱ を 、
す る憎 悪 、 ﹁か れ ら を 打 ち 殺 せ、 最 後 の審 判 は 、 き みら に 理由 を 問 いは し な い﹂ よ り も な お 強 力 な 、 さ ら
教 皇 派 の ス ペイ ンに 対 す る ク ロムウ エル の闘 争 に みる 。 一六五 六年 九 月 一七 日 の演 説 ︵カーライ ル版、第三
巻 、 一九 〇 二年 、 二六 七 ペー ジ 以 下 ︶ で 、 か れ は い う 。 そ れ ゆ え に 、 第 一に わ た く し が い わ な け れ ば な ら な い
こ と は 、 自 然 の 第 一課 で あ る こ の こ と 、 す な わ ち 、 存 在 と 自 己 保 存 で あ る 。 ⋮ ⋮ こ の ﹃と り も な お さ ず わ
れ ら の 国 民 的 存 在 ﹄ の 維 持 と いう こ と が 第 一に 、 そ れ を 否 定 し よ う と 試 み 、 こ う し て そ れ を 存 在 さ せ な く
Being and Preser vation., The conser
し よ う と す る 人 び と と の 関 連 に お い て 、考 察 さ れ な け れ ば な ら な い 。﹂ ("The firstthin g therefo re, thatI of Nat ure :
Being " i s firstto beview ed w ith respect t o those w ho seek
shall sp eak to, is Tha t, thati s the fir st l esson vat ion of t hat "nam ely our Nat ional
(the Enem i es to th e very
B eing︺ な い し 国 民 的 存 在
︹N at ionalBeing︺ と
Bei ng ofthese Nations) を 眺 め て み よ う で は な い か
make i t no t to be. ") だ か ら 、 わ れ わ れ は 、 わ れ わ れ の 敵 、 こ れ ら の 諸 国 民 の 存 在 そ
のも のに 対 す る 敵 ど も
to undo i t,and so
︵ク ロ ム ウ エ ル は 、 く り 返 し 、 こ の 存 在 そ の も の ︹Very
いう 語 を 用 い 、 さ て さ ら に 続 け る ︶。 ﹁も ち ろ ん 、 き み ら の 大 敵 は 実 に ス ペ イ ン 人 で あ る 。 か れ は 天 性 の 敵 。
か れ は 本 性 的 にそ う で あり 、 本 性 的 に 徹 頭 徹 尾 そ う な ので ある 。 かれ の内 部 に 、 お よ そ あ ら ゆ る神 の み わ
S pani ard,H e i sa
n atural enem y. He i s natu
ざ に 対 し て存 在 す る敵 性 のゆ え に 。 お よ そ き みた ち の内 に あ る 、 あ る いは あ り う る 、 あ ら ゆ る 神 のみ わざ に 対 し て 。﹂ ("W hy, truly you r great Enem y i s the
Whatsoever i s of God w hich is i n you ; or W hi ch m ay be in you.") つ い で ク ロ ム ウ エ
rally so; he is nat ur al ly so t hroughout-by re ason of that enm i ty t hatisinhim agai nstw hat soever
ル は く り 返 す 。 ス ペ イ ン 人 は き み ら の 敵 だ 。 か れ ら の 敵 性 は 神 に よ っ て 、 か れ の 内 に 入 れ ら れ て い る (en
is of God.
(acci dental enem y) と 思 う 者 は 、 神 の 書 ・神 の み わ ざ を
mi ty i s putintohim by God)。 か れ は ﹁天 性 の 敵 ・神 意 に も と づ く 敵 ﹂ ("the naturalenem y,the pro
知 ら な い 者 で あ る 。 神 は い い た も う た 。 わ れ は な ん じ の末 と か れ ら の 末 と の 間 に 敵 意 を う え ん と す ︵創 世
vi denti al en em y") で あ る 。 か れ を 偶 発 的 な 敵
記第三章 一五節︶と。 フラ ンスとは和を講じう るが、 ス ペイ ンとは不可能 である。 なぜな らそれは教皇 派 の
国家で あ って、教皇は、みず からの欲す る期間だ けし か平 和を守りはしな いのだ から。 ︵ 英文 をそ のまま引 用した個 所は、他 国語ではとう てい正確 には再 現しがた い。︶
こ れ は 逆 に も いえ る。 す な わ ち 、 国 際 政 治 ・国 内 政 治 の区 別 な く 、 政 治 史 上 いた ると こ ろ に
お いて、 こ の ︹友 ・敵 の︺ 区 別 を な し え ず 、 な いし はな し た が ら な い こと が 、 政 治 的 終 末 の徴
候 と し て あ ら わ れ る。 ロシ ア に お いては 、 没 落 し て いく諸 階 級 が 、革 命 のま え に、 ロシ ア農 民
を、 善 良 ・勇 敢 か つキ リ スト教 的 な 帝 政 農 民 で あ る、 と美 化 し た 。 混 乱 期 の ヨ ー ロ ッパ に お い
ては 、 相 対 主 義 的 なブ ルジ ョア階 級 が 、 あ り と あら ゆ る外 国 文 化 を 、 みず から の美 的 消 費 の対
象 に し た て よう と試 みた 。 一七 八九 年 の革 命 のま え に は 、 フ ラ ン ス の貴 族 社 会 が、 ﹁天 性 善 な
る 人 間﹂ を 夢 想 し 、 感 動的 な ま で に有 徳 な民 衆 を夢 想 し た 。 ト ク ヴ ィ ルが 、 ﹃旧 体 制 ﹄ の叙 述
のな か ︵二二八ページ︶ で、 こ の状 況 を 描 写 し て いる が、 そ の文章 の底 流 を な す 緊 張 は 、 か れ
自 身 にあ って は、 す ぐ れ て政 治 的 な 情 熱 に 由来 す る も の であ る。 す な わ ち、 人 び と は 、革 命 の
匂 いさ え かぎ つけ て いな か った 。 一七 九 三年 が 、 も う 足 も と にき て いた と いう のに 、 こ れ ら 特
権 者 た ち が 安 心し き って、 な ん の疑 念 も いだ かず 、 民 衆 の善 良 さ 、 お と な し さ 、 純 朴 さ を 口 に
し て い た さ ま は 、 み る も 奇 妙 で あ る ︱︱
8
﹁こ っけ い で 恐 ろ し い 情 景 ﹂ で あ る 、 と 。
前 世 紀 の自 由 主 義 に よ って 、 す べて の政 治 的 表 象 は 、独 特 な 、 か つ体 系 的 な 形 で改 変 さ れ変
質 さ せら れ た。 歴 史 的 現 実 と し て、 自 由 主 義 が、 政 治 的 な も の から の が れら れ な いと いう こ と
は、お よ そ な ん ら か の重 要 な 人 間 の活 動 と 同 様 で あ って 、自 由 主 義 に よ る ︵教 養 ・経 済 な ど の︶
中 立化 ・非 政 治 化 も ま た、 政 治 的 な意 味 を も つ。 いか な る 国 々 の自 由 主義 者 た ち も 、他 の人 び
と と同 様 に 、 政治 を 行 な った の で あ って 、 た と え ば 、 国 民 ︱ 自 由 主義 者 ・社 会︱ 自 由 主義 者 ・
自 由︱ 保 守 主 義 者 ・自 由︱ カ ト リ ッ ク主義 者 等 々と し て、 各 種 各 様 に非 自 由 主義 的 な 要 素 ・理
念 と 結び つ いて いる。 と り わ け 、 本 質 的 に政 治 的 で あ る が ゆ え に ま った く非 自 由 主 義 的 な、 そ
れ ど こ ろ か全 体 主義 国 家 に さ え 道 を 開 こう と いう 民 主 主義 諸 勢 力 と 、 か れら 自 由 主 義 者 は結 び
つ いた の であ る。 と こ ろ で 、 問 題 は 、個 人 主 義 的 自 由 主義 と いう 、 純 粋 な 論 理 一貫 し た概 念 か
ら 、 す ぐ れ て政 治 的 な 理 念 が獲 得 さ れう る か いな か で あ って、 こ れ は、 否 定 的 に答 え ら れ な け
れば な ら な い。 な ぜ なら 、 いか な る論 理 一貫 し た個 人 主 義 に も、 政 治 的 な も のの否 定 ︹と いう
要 素 ︺ が含 ま れ て おり 、 こ れ は 、 あ り と あ ら ゆ る 政 治 権 力 ・国 家 形 態 に対 す る不 信 の政 治 的 実
践 へと 連 な り は し て も 、 決 し て 、 独 自 の積 極 的 な 国 家 理論 ・政 治 理論 へ いき つく も の で は な い
か ら であ る。 し た が って 、 国 家 ・教 会 そ の他 に よ る個 人自 由 の制約 に対 す る 抗 争 的 対 立物 と し
て の自 由 主 義 的 政 策 は 、 商 業 政 策 ・教 会 お よび 学 校 政 策 ・文 化 政 策 とし て は存 在 す る が、 し か
し 、 自 由 主義 的 政 策 そ のも のと し て は存 在 し な い ので あ って、 つね に ただ 、 政 策 の自 由 主義 的
批 判 で あ る に す ぎ な い。 自 由 主 義 の体 系 的 理論 は 、 ほ と ん ど国 家 権 力 に対 す る国 内 政 治 的 闘 争
に の み か か わ り 、 個 人 自 由 と私 有 財 産 と を守 る た め に、 こ の国 家 権 力 を 抑制 ・統 御 す るた め の、
そ し て 国家 を ﹁中 立 物 ﹂ と し 、国 家 の諸 制度 を ﹁安 全 弁 ﹂ と す る た め の、 さ ら に いえ ば 、 民 主
政 に は 君 主 政 を 、 君 主 政 に は 民 主 政 を 対 置 し ﹁均 衡 さ せ る﹂ た め の、 一連 の方 法 を提 供 す る。
こ の姿 勢 が、 危 機 ︱︱ と く に 一八四 八年 ︱︱ に さ いし て 、 矛 盾 に満 ち た態 度 と な って あ ら わ れ 、
た と え ば 、 ロレ ン ツ ・フ ォ ン ・シ ュタイ ン、 カ ー ル ・マ ル ク ス、 F r ・ユリ ウ ス ・シ ュタ ー ル、
ド ノ ソ ・コ ルテ スら のよ う な 、 す べて の す ぐ れ た観 察 者 を し て、 こ こ に な ん ら か の政 治 原 理 な いし 思 想 的 一貫 性 を み いだ す こ と を断 念 せ し めた ので あ る 。
伝 統 的 か つ封 建 的 自 由 主 義 で あ る。 す な わ ち 、 社会 心 理 学 的 に いえ ば 、 市 民 階 級 が、 当 時 の封 建 的
︵25︶ 結 合 の例 は 、 容 易 に追 加 で き よう 。 一八〇 〇年 か ら 一八 三 〇 年 にか け て のド イ ツ ロマ ン派 は、
伝 統 的 政 治 権 力 を 排 除す る だ け の力 を も た ず 、 し た が って、 後 者 と のあ いだ に 、 の ち に な って 本 質
的 に民 主的 な 民 族 主 義 や 、 ま た 社 会 主 義 と 結 び つ いた ば あ いと 同 様 な結 び つき を 求 め よ う と し た 近
な い。 ロ マ ン派 が 、 いか な る政 治 理論 も も ちえ ず 、 つね に 支 配 的 な 政 治 的 エネ ルギ ー に適 応 す る究
代 市 民 運動 な ので あ る 。 論 理 一貫 した 市 民 的 自 由 主義 か ら は 、 ま さ に い かな る政 治 理論 も 獲 得 で き
う と し な い歴 史 家 は 、 こ の 明 々 白 々 の関 連 を 無 視 せざ る を えな いの で あ る 。 典 型的 に 自 由 主 義 的 な
極 の理 由 は こ れ で あ る。 G ・フ ォ ン ・ベ ロウ のよ う に、 つね にた だ ﹁保 守 的 ﹂ ロ マ ン派 し か 認 め よ
ン ・コン ス タ ン の三 名 で あ る。
議 会 主 義 の文 学 的 三 大鼓 吹 者 は 、 典 型 的 ロ マン派 で あ る 、 バ ー ク 、 シ ャト ー ブ リ ア ン、バ ンジ ャマ
︵第 二版、 一九 二六年、 一三ページ以下︶ お よび F ・テ ニ エ ス の論 文
﹁民 主 主 義 と 議 会 主 義 ﹂ ︵シ ュモラ
︵26︶ 自 由 主 義 と 民 主 主 義 と の対 比 に つ いて は 、 カ ー ル ・シ ュミ ット ﹃現 代 議 会 主 義 の精 神 史 的 地 位 ﹄
ー の年鑑、第五 一巻 、 一九 二七年四月、 一七三 ページ以下︶参 照 のこ と 。 テ ニ エス は 、自 由 主 義 と 民 主 主
レ の き わ め て 興 味 深 い 論 文 を 参 照 せ よ。 民 主主 義 と 全体 国 家 と の関 連 に つ いて は 上 述 一 一ペー ジ
義 と の峻 別 を 、 同 様 に 認 め て いる 。 さ ら に、 雑 誌 ﹃高 地 ﹄ ︵一九 二四年 一一月︶所 収 のH ・ヘー フ ェ
︹六三年版 二四 ページ、本訳書 一〇ページ︺参 照 の こ と 。
自 由 主義 的 思考 は 、 き わ め て体 系 的 な し か た で、 国 家 お よ び政 治 を 回 避 な いし は 無視 す る 。
そ し て、 そ の代 り に 、 二 つの異 質 の領 域 、 す な わ ち 倫 理 と経 済 、 精 神 と商 売 、 教 養 と財 産 と い
う 典 型 的 な、 そ し て つね にく り 返 し あ ら わ れ る 両極 のあ いだ を 動 揺 す る の で あ る。 国 家 お よ び
政 治 に対 す る 批判 的 不 信 は、 ど こ ま で も個 人 こ そ が 出 発 点 で あり 終 着 点 で あ る と いう 、体 系 の
諸 原 理 か ら 容 易 に説 明 さ れ る。 政 治 的 単位 は 、 ば あ いに よ って、 生命 の犠 牲 を要 求 せざ る を え
な いが、 自 由 主義 的 思 考 の個 人 主義 に と っては 、 こ の要 請 は決 し て充 足 さ れず 、 ま た 理 由 づ け
る こ と が で き な い。 個 人自 身 以外 の他 者 に 、 こ の個 人 の肉 体 的 生 命 の支 配 権 を 認 め る よう な個
人 主義 と は 、 自 由 人自 身 以外 の他 者 が 、 自 由 の内 容 お よび 基 準 を 決 定 す る よう な自 由主 義 的 自
由 と いう の とま った く 同 様 に 、 無 意 味 な空 語 に すぎ な い であ ろう 。 個 人 そ のも の に と って は 、
当 人 が個 人 的 に そ れ を の ぞま ぬ かぎ り 、 生死 を 賭 け て戦 わな け れば な ら な いよ う な 敵 は 存 在 し
な いの で あ る。 いず れ に せ よ、 当 人 の意 志 に反 し て 、個 人 に闘 争 を強 いる こ と は 、私 的 個 人 の
立場 か ら み て 、 不 自 由 で あり 暴 力 で あ る 。 暴 力 と 不 自 由 に対 し て は 、 あ ら ゆ る 自 由 主義 的 情 熱
が反 撥 す る 。 原 理 的 に無 制 限 で あ る個 人 的 自 由 、 私 有 財 産 お よ び 自 由 競 争 に対 す る 、 いか な る
侵 害 、 いか な る危 険 も 、 ﹁暴 力 ﹂ と 呼 ば れ る の で あ り 、 そ れ 自体 と し て悪 な の で あ る。 こ のよ
う な 自 由 主 義 が、 国 家 お よび 政 治 に対 し て わず か に 認 める 価 値 は、 自 由 の諸 条 件 を確 保 し 、自 由 の妨 害 を 排 除 す る と いう 一点 に局 限 さ れ る ので あ る 。
こ のよ う に し て、非 軍 事 的 ・非 政 治 的 諸 概 念 の全 体 系 に到 達 す る ので あ る が 、驚 く べき 一貫
性 を も ち 、 か つこ ん に ち ヨー ロ ッパ に お いて 、後 退 は あ る に し て も 、 いぜ ん他 の いか な る体 系
に よ って も 取 って代 わ ら れ て いな い、 こ の自 由 主 義 的 思 考 の体 系性 を 示 す た めに 、 こ こ で 上記
概 念 の いく つ かを 数 え あげ て お き た い。 そ のさ い つね に留 意 す べき は 、 これ ら 自 由 主 義 的 諸 概
念 が 、 典 型 的 に、 倫 理 ︵﹁精 神 性 ﹂︶ と 経 済 ︵商 売 ︶ と のあ いだ を 動 く も の で あ って、 こ の両極
的 側 面 か ら 、 ﹁侵 略 的 暴力 ﹂ の領 域 と し て の政 治 的 な も のを 消 去 し よう と努 め る、 と いう こ と
で あ る 。 こ のば あ い、 ﹁法 治 ﹂ 国 家 、 す な わ ち ﹁私 法﹂ 国 家 と いう 概 念 が、 て こ の役 目 を 果 し 、
私 有 財 産 の概 念 が全 球 体 の中 心 を 構 成 し、 そ の両極 ︱︱ 倫 理と 経 済 ︱ ︱ は た だ 、 こ の中 心 の対
立 的 放 射 にす ぎ な い の であ る。 倫 理 的情 熱 と物 質 的 ・経 済 的 即 物 性 は、 典 型 的 に 自 由 主義 的 な
言 説 のす べて に お いて結 合 し て お り 、 あ ら ゆ る 政 治 的 概 念 を変 容 さ せ てし ま う 。 た とえ ば 、 闘
争 と いう 政 治 的概 念 は 、 自 由 主 義 的 思考 に あ っては 、 経 済 的 側 面 で競 合 に 、 他 方 ﹁精 神 的 ﹂ 側
面 で討 議 に化 し て し ま う 。 ﹁戦 争 ﹂ と ﹁平和 ﹂ と いう 異 な った 両状 況 の明 瞭 な 区 別 に代 わ って、
永 遠 の競 合 と 永 遠 の討 議 と いう 動力 学 が 登 場 す る。 国 家 は 社 会 と変 じ 、 し かも 、 一方 の倫 理 的
・精 神 的 側 面 では 、 ﹁人類 ﹂ と いう 、 イ デ オ ロギ ー的 ・人 道 的 表象 と 化 し 、 他 方 で は、 統 一的
な 生産 お よ び 交 通 体 系 と いう 、経 済 的 ・技 術 的 単 位 と化 す る ので あ る 。 闘 争 の状 況 に お いて現
前 す る、 完 全 に自 明 な 、 敵 を 防 ぐ と いう 意 志 は 、 合 理 的 に構 成 さ れ た社 会 的 理想 な いし計 画 と
化 し 、 ひ と つの傾 向 な いし経 済 的 打 算 と 化 す る。 政 治 的 に統 一さ れ た国 民 は変 じ て、 一方 で は 、
文 化 的 関 心 をも つ公衆 と な り 、 他 方 で は、 あ る いは 従業 員 ・労 働 者 あ る いは消 費 者 大 衆 と な る 。
支 配 と 権 力 と は 、精 神 的 極 で は、 宣 伝 と大 衆 暗 示 に 、経 済 的 極 で は、 ﹁制 御 ﹂ と変 ず る の であ る。
こ れ ら の解 体 ︹現 象 ︺ はす べて 、 き わ めて 確 実 に、 国 家 お よび 政 治 を 、 一方 で は個 人 主 義 的
な 、 し た が って私 法 的 な道 徳 に 、他 方 で は 経 済 的 な 諸 範 疇 に従 属 さ せ 、 そ の独 自 の意 味 を 奪 い
去 る こ と を 目 指 し て いる 。 き わ め て奇 妙 な こと に、 自 由 主義 は 、 政 治 的 な も の の外 部 で、 人 間
生 活 のさ ま ざ ま な領 域 に お け る ﹁自 律 ﹂ を いか に も自 明 のこ と と し て承 認 す るば かり か 、 いよ
いよ 誇 張 し て そ れ を特 殊 化 し 、 さ ら には 完 全 に孤 立化 さ え す る に いた る ので あ る 。 芸 術 が 自 由
の 娘 で あ り 、 美 的 価 値 判 断 が 絶 対 自 律 的 で あり 、 芸術 的 天 才 が 至 上 のも ので あ る こ と は 、 自 由
主義 にと って は自 明 のこ と であ ると 思 わ れ る。 いや 、 いく つか の国 々に あ って は 、 そ も そ も 、
芸 術 のも つこ の自 律 的 自 由 が 、 道 学 者 的 ﹁道 義 の使 徒 ﹂ に よ って脅 や か さ れ た と き に か ぎ って、
真 の自 由 主義 的 情 熱 は高 ま った ので あ る 。 逆 に道 徳 は 、 形 而 上 学 お よび宗 教 に対 し、 科 学 は、
宗 教 ・芸術 ・道 徳 等 々に 対 し 自律 化 し た 。 た だ し 、 自律 的諸 領 域 のな か で、 き わ だ って重 要 な
こ と は 、経 済 的 な も の の諸 規 範 ・諸 法 則 の自 立 性 が 、 絶 対 確 実 に貫 か れた こ と で あ る 。 生 産 と
消 費 、価 格 構 成 と市 場 がそ れ ぞ れ独 自 の領 域 を も ち、 倫 理 学 に よ っても 美 学 によ っても 、 ま た
宗 教 に よ っても 、 ま し て いわ んや 政 治 に よ っても 導 か れえ な いも ので あ る こと は 、 こ の自 由 主
義 時 代 の、 真 に論 議 の余 地 のな い、 疑 う べか らざ る数 少 な い教 義 の ひ と つと み な さ れ た ので あ
る。 格 別 の情 熱 を こ め て、 政 治 的 諸 見 地 か ら す べて の妥 当 性 を奪 い去 り 、政 治 的 諸 見 地 を 、道
徳 ・法 ・経 済 の諸 規範 ・諸 ﹁秩 序﹂ に従 属 さ せ た こ と は 、 そ れ だ け に い っそ う興 味 深 い。前 述
のよ う に 、 政 治 的 存 在 の具 体 的 現 実 にお いて は 、 な ん ら 抽 象 的 な諸 秩 序 ・規 範 系 列 が支 配 し て
いる ので は な く 、 つね にた だ 具 体 的 な諸 個 人 な いし諸 団体 が 、 他 の具体 的諸 個 人 な いし諸 団体
を支 配 す る の であ る から 、 こ のば あ いに も も ちろ ん、 政 治 的 に み れば 、 道徳 ・法 ・経 済 ・ ﹁規 範 ﹂ の ﹁支 配 ﹂ は 、 つね に た だ 具体 的 な政 治 的 意 味 を も つ ので あ る。
注 意 ︵一九 二七年版 のま ま︶。 ベ ルサ イ ユ条 約 のイ デ オ ロギ ー 的 構 造 は 、 倫 理 的 情 熱 と 経 済 的 打 算 と いう こ
の両 極 性 に ま さ に対 応 し て いる。 第 二 三 一条 に お いて 、 ド イ ツ国 は、 す べて の戦 争 に よ る被 害 お よび 損 失
いる。 ﹁ 併 合﹂ と いう よ う な 政 治 的 諸 概 念 は 避 け て あ る 。 エリ ザ ス ・ロー ト リ ンゲ ン の割 譲 は 、 ﹁併 合 の廃
に 対 す る ﹁責 任 ﹂ を 認 め る よう 強 いら れ 、 こ れ に よ って 法 的 お よ び 道 徳 的 価 値 判 断 の基 礎 が 作 り だ さ れ て
止﹂、 すな わ ち 不 正 の復 原 であ る。 ポ ー ラ ンド お よ び デ ン マー ク領 の割 譲 は 、民 族 自 決 主 義 と いう 理想 的 要
る 。 こ の 理 想 主 義 の経 済 的 対 極 を形 作 る のが 賠 償 、 す な わ ち敗 者 か ら の永 続 的 か つ無 制 限 の経 済 的 搾 取 で
求 に奉 仕 す る も の で あ る 。 諸 植 民 地 の奪 取 は 、 第 二 二条 に お い て 、 無私 的 人 道 性 の所 産 と 宣 言 さ れ さ え す
に くり 返 し 新 ら た な 、 ﹁真 の﹂ 平 和条 約 が 必 要 と な った の で あ る 。 一九 二 四年 八月 の ロン ド ン議 定書 ︵ド
あ る。 結 果 と し て 、 こ のよ う な条 約 は 、 ﹁平 和 ﹂ な ど と いう 政治 的 概 念 を ま る きり 実 現 し え ず 、 そ の た め
ー ズ案 ︶、 一九 二五 年 一〇 月 の ロカ ル ノ 条 約 、 一九 二 六年 九 月 の 国際 連 盟 加 入 な ど 、 一連 の動 き は いま だ に 完 結 し て いな い。
そ も そ も の はじ め か ら 、自 由 主義 的 思 考 は 、 国 家 お よび 政治 に 対 し て、 ﹁暴 力 ﹂ で あ る と い
う 非 難 を 突 き つけ た。 こ れ は 、 も し も 偉 大 な 形 而 上学 的 構 造 お よ び 歴 史 解 釈 と いう 関 連 が 、 こ
の非 難 に い っそ う 広 い展望 と 、 い っそ う 強 い説 得 力 と を付 与 し な か った と し たら 、 政 治 的 闘 争
の さ い の多 く の無 力 な罵 言 のひ と つ にし かす ぎ な か った で あ ろ う 。 啓 蒙 さ れ た 一八世 紀 は 、 人
類 の高 ま る 進 歩 と いう 明 瞭 単 純 な路 線 を 目 前 に み て いた 。 進歩 は な に よ り も、 人類 の知 的 ・道
徳 的 完全 化 で あ る べき だ と さ れ 、路 線 は 、 二 つ の点 のあ いだ を 走 り 、 狂 信 から 精 神 の自 由 ・自
立 へ、 独 断 か ら 批 判 へ、 迷 信 か ら 啓 蒙 へ、 闇 から 光 へと向 か った 。 も っと も 、 続 く 一九 世 紀 に
は 、 そ の前 半 に、 き わ め て重 要 な 三項 の構 成 が登 場 す る。 と く に ヘー ゲ ルの弁 証 法 的 段 階 系 列
︵た と え ば 自 然 的 共 同体 ︱市 民 社 会 ︱ 国 家 ︶ お よび コ ント の有 名 な 三 段 階 法 則 ︵神 学 から 形 而
上 学 を へて実 証 的科 学 に いた る ︶ が そ れ で あ る。 た だ し 、 三項 形 式 は 、 二項 対 置 の も つよ う な
論 争 的 爆 撃 力 に欠 け る 。 し た が って、 休 止 ・倦 怠 ・復 古 の試 み の時 期 が 過 ぎ 、 闘 争 が再 開 さ れ
る や た だ ち に、 す ぐ ま た 単 純 な 二項 対 置 が勝 利 を え た 。 決 し て戦 闘 的 な ふん い気 で な か った ド
イ ツに お いてす ら 、 一九 世 紀 後半 に は 、 た と えば ︵O ・ギ ー ルケ の︶ 支 配 と 団 体 と か、 ︵F ・
テ ニ エス の︶ 共同 社 会 と 利 益 社 会 と か の 二元 論 が、 ヘー ゲ ル の三 項 形 式 にと って代 わ った ので ある。
も っと も 顕 著 で 、 歴 史 的 に も っと も 影 響 力 の あ った 事 例 は 、 カ ー ル ・ マ ル ク ス に よ っ て 定 式
化 さ れ た 、 ブ ル ジ ョア と プ ロ レ タ リ ア と の 対 置 で あ って 、 こ れ は 、 地 上 の 多 く の ブ ル ジ ョア ジ
ー を た だ ひ と つに ま と めあげ 、 同 じ く 多 く のプ ロ レタ リ ア ー ト も た だ ひ と つにま と め あげ 、 こ
う し て 強 大 な 友 ・敵 結 束 を 作 り だ す こ と に よ っ て 、 世 界 史 上 の す べ て の 闘 争 を 、 人 類 の最 後 の
敵 に対 す る た だ ひ と つ の 最 終 的 な 闘 争 に 集 約 し よ う と す る も の で あ る 。 と こ ろ で 、 そ の説 得 力
は 、 一九 世 紀 に と っ て ま ず 第 一に は 、 次 の 点 に あ った 。 す な わ ち 、 そ れ は 、 自 由 主 義 的 ・ブ ル
ジ ョア的 な敵 を、 経 済 的 な も の の領 域 に追 いこ ん だ こ と 、 そ し て こ の領 域 で 、 いわば 敵 自 身 の
領 土 で 、敵 自身 の武 器 で、 敵 を 追 いつ めた こ と であ る 。 こ れは 、経 済 的 な も の への転 回 が ﹁産
業 社 会﹂ の勝 利 で 決定 さ れ て いた から し て、 不 可 避 の こと であ った 。 こ の勝 利 の時 点 と し ては 、
イ ング ラ ンド がナ ポ レ オ ンの軍 国 主 義 的 帝 国 主 義 と戦 って勝 った 一八 一四年 を そ れ と考 え て よ
いし 、 そ のも っと も 単 純 か つ明 解 な 理論 と し ては 、 人 類 の歴 史 を軍 国 主義 的 ・封 建 的 社 会 か ら
産 業 的 ・商 業 的 社 会 への発 展 と み る 、 H ・ス ペ ンサ ー の歴史 解 釈 が 、 ま た そ の最 初 の、 し か し
す で に完 全 な記 録 的 表 明 と し て は 、 一九 世紀 の自 由 主義 的全 精 神性 の創 始者 で あ る バ ンジ ャ マ
ン ・コン スタ ンが 一八 一四年 に 公刊 し た ﹁征 服力 の精 神﹂ と 題 す る論 文 が あ げ ら れ よ う 。
こ こ で 決定 的 な こ と は 、 一八世 紀 に お い てま だ 主 と し て、 人 道 的 ・道 徳 的 か つ知 的 であ った、
す な わ ち ﹁精 神的 ﹂ で あ った 進 歩 の信 念 が 、 一九 世 紀 の経 済 的 ・産 業 的 ・技 術 的 発 展 と 結 び つ
いた こ と で あ る 。 ﹁経 済 ﹂ が みず から を 、 こ の実 際 はき わ め て複 雑 な も の の担 い手 で あ る と感
じ た 。経 済 、商 業 と産 業 、 技 術 的 改 良 、 自 由 と 合 理化 な ど が 、同 盟 者 で あ る と さ れ た。 し か も、
封建 性 ・反 動 ・警 察 国 家 に対 す る経 済 の攻 撃 的 突 進 にも か か わ らず 、 な お か つ本 質 的 に は 、 闘
争 的 暴 力 と対 立 す る 平 和 的 な も のと みな さ れ た の で あ る。 か く て 、 一九世 紀 に と って特 徴 的 な
次 のよ う な 区 分 が 生 じ る 。
独 裁 と し て の 対 議 会 主 義 と し て の
国 家 ・戦 争 ・政 治 と結 び つ いた 対 経 済 ・産 業 ・技 術 と結 び つ いた 封 建 主 義 ・反 動 ・暴 力 対 自 由 ・進 歩 ・理性
す ぐ まえ に あげ た 、 一八 二四年 のバ ンジ ャ マ ン ・コ ン スタ ン の著 書 に は 、 す で に こ れ ら の対
置 お よび そ の可 能 な 組 合 わ せ の、 完全 な リ スト が みら れ る 。 そ こに は 、 わ れ わ れ の時 代 は 、 戦
争 が 必然 的 に こ れ に先 行 せざ る を え な か った と 同 様 に 、 必 然 的 に戦 争 の時 代 に と って 代 わ ら ざ
gr 〓) と
る を え な い時代 な のだ 、 と あ る 。 そ し て、 両 時 代 の特 徴 づ け が そ れ に続 く 。 す な わ ち、 わ れわ
れ の時 代 が 、 生 活 の資 料 を 、平 和 的 な話 合 いに よ って 獲 得 し よ う ( obteni r de r g 〓〓
す る のに 対 し 、 ま え の時 代 は、 戦 争 と暴 力 に よ って そ うす る。 後 者 が、 ﹁野 蛮 な 衝 動 ﹂ で あ る
と す れ ば 、 前 者 は、 ﹁文明 的 な 打算 ﹂ で あ る 。戦 争 や 暴力 的侵 略 は 、商 業 ・産 業 が わ れ わ れ に
も た ら す 気 楽 さ 、 快 適 さ を作 り だ し え な いか ら し て 、戦 争 に も は や な ん の利 点 も な く 、勝 ち い
く さ も 、 勝 者 に と って さ え割 に 合 わ ぬも のと な る 。 そ れ に 加 え て、 現 代 の戦 争技 術 の途方 も な
い発 達 ︵コン スタ ンは 、 こ こ で と く に、 ナポ レ オ ンの軍 隊 の技 術 的優 位 の主 因 であ った 大 砲 を
あ げ る ︶ は 、 か つて戦 争 に お い て、 英 雄 的 ・栄 誉 的 で あ った す べ て のも の、個 人 的 な 勇 気 や戦
う 喜 び を 無 意 味 化 し て し ま った 。 し たが って、 戦 争 は 、 コ ン スタ ン の結 論 に よ れば 、 こん に ち
で は 、 いか な る利 点 も 、 いか な る魅 力 も 失 った ので あ る 。 人 間 は も は や 、 打 算 に よ っても 情 熱
に よ っても 、 そ れ に打 ち こ む べく 誘 わ れ る こ と が な い。 か つて は 、 好 戦 民 族 が商 業 民 族 を 征 服 し た が、 こ ん に ち で は そ の逆 な の で あ る。
他 方 、 経 済 ・自 由 ・技 術 ・倫 理 ・議 会 主義 と いう 、 き わ め て複 雑 な結 合 体 は、 そ の敵 で あ る
絶 対 主義 国 家 お よ び 封 建 貴 族 政 の残 り か す を と っく に撃 破 し 、 そ の結 果 と し て、 いか な る 現 実
的 意 義 を も失 った 。 いま や 新 し い集 合 ・連 合 が こ れ に と って代 わ る。 経 済 は も は や 、 そ れ 自体
が自 由 で は な い。 技 術 は快 適 さ に奉 仕 す る だ け で な く 、 ま った く同 程度 に危 険 な 武 器 ・道 具 の
生 産 に奉 仕 す る。 そ の進 歩 は 、 そ れ 自体 と し て、 一八世 紀 に進 歩 と考 え ら れ た 人 道 的 ・道 徳 的
完 全 化 を 招 来 す る も ので は な い。 技 術 的 合 理 化 は 、経 済 的 合 理 化 の反 対 でも あ り う る。 にも か
か わ らず 、 ヨ ー ロ ッパ の精 神 的 ふん い気 は 、 こ ん に ち に いた る ま で 、 一九 世 紀 の こ の歴 史 解 釈
に 充 ち 満 ち て いて 、少 な く と も 、 つ い先 ご ろ ま で 、 そ の諸 定 式 ・諸 概 念 が、 む か し の敵 の死 滅
後 も な お 生 き 続 け そ う な勢 いを保 って いた ので あ る 。
こ れ に か ん す る 最 良 の 事例 は 、最 近 数 十 年 で は 、 フラ ン ツ ・オ ッ ペ ン ハイ マー の諸 提 題 であ る 。 オ ッペ
ン ハイ マー は 目 標 とし て 、 ﹁国 家 の 絶 滅 ﹂ を か かげ る。 か れ の自 由 主 義 は 、 国 家 を 武 装 し た 給 仕 と し てさ
え 、 も は や 認 めな い ほ ど に過 激 で あ る 。 さ て 、 か れ は さ っそ く 、 価 値 判 断 およ び 感 情 的 反 応 を含 んだ 定 義
づ け を 手 段 とし て 、 こ の ﹁根 絶 ﹂ を 押 し進 め る。 す な わ ち 、 国 家 の概 念 は 、 ﹁政 治 的 手 段 ﹂ に よ って 、 ︵本
質 的 に非 政 治 的 な︶ 社 会 の概 念 は 、 ﹁経 済 的 手段 ﹂ に よ って 規 定 さ れ る、 と す る。 と こ ろ で 、 こ の 政 治 的
手 段 およ び 経 済 的 手 段 を 定 義 す る述 語 は 、 倫 理 ・経 済 の両 極 を 動 揺 し つ つ政治 ・国家 に 反対 す る あ の情 熱
の、 特 徴 的 な い いか え に す ぎ な い のだ し、 ド イ ツ 一九 世紀 に お け る 国 家 対 社 会 、 政 治 対 経 済 の抗 争 関 係 を
反 映 す る 、 明 ら か に抗 争 的 な 対 置 で あ る に すぎ な い。 経 済 的 な 手 段 と は交 換 で あ り 、 そ れ は 給 付 と 反 対 給
付 と の相 互 性 で あ って 、 し た が って 、 相 互 性 ・平 等 ・正 義 ・平 和 さ ら に は ﹁協 調 ・親 密 ・正 義 と いう 団 体
ら ゆ る 種 類 の強 奪 ・侵 略 ・犯 罪 で あ る 。 国 家 と 社 会 と の関 係 のピ ラ ミ ッド 的 価 値 体 系 は 、 いぜ ん と し て維
精 神﹂ そ のも の に ほ かな ら な い。 こ れ に 対 し 、 政 治 的 な 手 段 と は 、 ﹁侵 略 的 ・経 済 外 的 暴 力 ﹂ であ り 、あ
持 さ れ る が 、 ヘー ゲ ル に よ って 体 系 化 さ れ た ド イ ツ 一九 世紀 の 国 家 観 が 、 ﹁利 己 的 な ﹂ 社 会 と いう ﹁動 物
界 ﹂ の上 に 高 々 と 、道 義 と客 観 的 理 性 の王 国 と し て の国 家 を構 築 し た のに 対 し 、 いま や 、 価 値 体 系 は逆 転
し 、 平 和 的 正 義 の領 域 と し て の社 会 が 、 暴 力 的 不 道 徳 の領 域 と な り 下 が る 国 家 よ り も 、 かぎ り なく 上 位 に
た つので あ る。 役 割 は 入 れ か わ ったが 、 神 化 は も と の ま ま で あ る 。 し か し な が ら 、善 で あり 正義 で あ り平
和 的 な 、 一言 で いえば 好 ま し いも の であ る交 換 を 、 粗 野 で強 奪 的 で 犯 罪 的 な 政 治 と対 置 す る と いう ふ う に 、
単 純 に 道 徳 的 欠 格 事 項 によ って定 義 づ け る のは 、 本 来 や はり 許 さ れ な いこ と で あ る し 、 道 徳 的 に も 心 理 的
に も 、 ま し て や 科 学 的 に も 、 正 し い こと では な い。 こ の論 法 で いく な らば 、逆 に 政 治 を 名誉 な 闘 争 の領 域
と し 、経 済 のほ う は 欺 瞞 の世 界と し て定 義 す る こ と も ま った く 同 様 に 可 能 で あ ろ う 。 な ぜ な ら 、 結 局 のと
こ ろ 、 政 治 的 な も のと 強 奪 ・暴 力 と の結 び つき は 、 経 済 的 な も の と 策 略 ・欺 瞞 と の結 び つき 以 上 に 、 本 質
的 な も ので は な いか ら であ る。 交 換 と瞞 着 と は 、 しば し ば 密 接 に関 連 す る 。 経 済 的 基 盤 に た つ人間 支 配 は 、
に こそ 、 ま さ に 恐 ろ し い欺 瞞 と し て あ ら わ れざ る を え な い の で あ る。 交 換 の概 念 は 、 契 約 者 の 一方 が 損 失
そ れ が い かな る政 治 的 責 任 も 政 治 的 明 白 さ も 回 避 す る こ と に よ って、 非 政 治 的 で あり 続 け る と いう ば あ い
を こう むり 、 相 互 契 約 の体 系 が つい に は最 悪 の搾 取 ・抑 圧 の体 系 に 変 じ る と いう こ と を 、 概 念 的 に 排 除 す
るも の では 決 し て な い。 こ のよ う な 状 況 下 で は 、 被 搾 取 者 ・被 抑 圧 者 が 、 も し も 抵 抗 す る と な れ ば 、 そ の
抵 抗 が経 済 的 手 段 に よ って は なさ れえ な いこ と は 明 白 で あ る 。 そ のさ い、 経 済 的 権 力 の保 有 者 が 、 そ の権
と も 、 同 様 に 自 明 のこ と で あ る 。 そ の結 果 生じ る のは ただ 、交 換 と 相 互 契 約 に も と づ き 、 本 来 は平 和 的 で
力 的 地位 を ﹁ 経 済 外 的 ﹂ に 変 更 し よ う と す る あ ら ゆ る 試 み を 、 暴 力 ・犯 罪 と 呼 ん で 阻 止し よ う と は か る こ
公 正 な 社 会 と いう 理 想 構 造 の崩 壊 で あ る 。 契 約 の神 聖 性 、 ま た契 約 は奉 仕 なり と いう 命 題 は 、 残 念 な が ら 、
高 利 貸 人 ・恐 喝 取 財 者 も ま た引 き 合 いに だ す ので あ る 。 交 換 の領 域 に は 、 そ れ なり の 狭 い限 界 が あ り 、 そ
れ 独 自 の分 野 が あ って 、 あ ら ゆ る も のが 交 換 価 値 を も つわ け で は な い。 た と え ば 、 政 治 的 自 由 と か 政 治 的
独 立と か には 、 た と え 賄 賂 の額 は いか に高 か ろ う と 、 公正 な対 価 は 存 在 し な い ので あ る 。
学叢書 五六、 一九 二六年、三 八四 ページ︶ のま と め を 参 照 せ よ。
︵27︶ F ・ザ ンデ ル ﹃社会 と 国 家 ︱ フラ ン ツ ・オ ッペ ン ハイ マー の 社会 理 論 に か ん す る 研究 ﹄ ︵ 社会科
結 局 は す べて、 ただ 倫 理 ・経 済 の両極 を め ぐ る だ け の、 こ のよ う な 定義 や論 理構 成 を も って
し ては 、 国 家 ・政 治 を根 絶 す る こ と は で きず 、 世界 を非 政治 化 す る こと も でき は し な い。 ︹む
し ろ︺ 経 済 的 な対 立 が政 治 的 な も のと な り 、 ﹁経 済 的 な 権 力 的 地 位 ﹂ の概 念 が生 じ え た と いう
こ と が 、経 済 か ら出 発 し て も 、 他 のど ん な 分 野 から でも と 同 様 に、 政 治 的 な も の と いう 点 に到
達 し う る のだ 、 と いう こと を 示 し て いる にす ぎ な い。 よ く引 用 さ れ る ワ ルタ ー ・ラ ー テ ナ ウ の、
こん に ち で は 、 政 治 で はな く経 済 が運 命 的 な のだ 、 と いう こ と ば は 、 こ の印象 か ら 生 ま れ た も
の であ る 。 よ り 正 確 に は、 こう いう べき で あ ろ う 。 す な わ ち 、 政 治 は いぜ ん と し て運 命 的 な の
だ が、 た だ、 経 済 が政 治 的 な も のと な り 、 そ れゆ え に ﹁運 命 的 ﹂ と な る と いう 事 態 が 生じ た の
で あ る、 と。 し た が って、 経 済 的優 越 に よ って獲 得 さ れた 政 治 的 地 位 が、 ︵ヨゼ フ ・シ ュムペ
ー タ ー が 、 一九 一九 年 にそ の著 ﹃帝 国 主 義 の社 会 学 ﹄で の べ た よ う に ︶﹁本 質 的 に非 好 戦 的 ﹂ で
あ る な ど と信 じ る こと も 誤 まり であ った。 本 質 的 に、 し か も自 由 主義 イ デ オ ロギ ー の本質 から
し て 、非 好 戦 的 な のは 、 た だ そ の用 語 だ け な ので あ る 。 経 済 的 な 基 盤 にた つ帝 国 主義 は、 もと
より 、 た と えば 信 用 の停 止 ・原 料 封 鎖 ・他 国 の本 位制 の攪 乱 等 々 の経 済 的 権 力 手 段 を 妨 げ ら れ
る こ と な く使 用 で き 、 ま た そ れ によ って切 り 抜 け て いけ る よう な状 態 を、 地 上 に招 来 し よう と
努 め る で あ ろ う 。 そ し て、 も し も 、 あ る民 族 な いし 他 の人 間 集 団 が 、 こ の ﹁平 和 的 ﹂ 手段 の作
用 か ら のが れ よ う と す れば 、 帝 国 主義 は 、 そ れ を ﹁経 済 外 的 暴 力 ﹂ で あ る と み な す こ と であ ろ
う 。帝 国 主義 は ま た 、 さら に き び し い、 し か し いぜ ん と し て ﹁経 済 的﹂ であ る がゆ え に ︵用 語
の上 で は ︶ 非 政 治 的 な 、本 質 的 に平 和 的 な強 制 手 段 、 た と え ば ジ ュネ ー ブ の国 際 連 盟 が、 国 際
連 盟 規 約 第 一六条 ︵一九 二 一年 、第 二回国際連盟総会決議第 一四号︶ の実 施 上 の ﹁準 拠 ﹂ に あげ て
いる、 非 戦 闘 員 に 対 す る 食 糧 輸 送 の抑 止 や飢 餓 封 鎖 の よう な強 制 手 段 を用 いる で あ ろ う 。 さ ら
に帝 国 主 義 は な お 、 暴 力 的 な肉 体 的 殺 り く の技 術 的 諸 手 段 、 す な わ ち 、 資 本 と 知 性 と を 動 員 し
た結 果 、 いま だ か つて な いほ ど有 用 な も のと な り 、 いざ と な れ ば実 際 に用 いら れも す る 、 技 術
的 に完 全 な 現 代 的 武 器 を手 中 に 収 め て いる。 こ のよう な 手 段 を 用 いる に つ いては 、 じ つは、 本
質 的 に平 和 主 義 的 な用 語 が 作 り だ さ れ る の で あ って 、 そ こ に は も は や 戦 争 と いう 語 は な く 、 た
だ 執 行 ・批 准 ・処 罰 ・平 和 化 ・契 約 の保 護 ・国 際 警 察 ・平 和確 保 の措 置 だ け と な る。 対 抗 者 は
も は や 敵 と は呼 ば れず 、 そ の代 わり に、 平 和 破 壊者 ・平 和 攪 乱 者 とし て、 法外 放 置 さ れ 、非 人
間 視 さ れ る。 ま た 、 経 済 的 権 力 地 位 の維 持 な いし 拡 張 の た め に行 な わ れ る戦 争 は 、 宣 伝 の力 で
﹁十 字 軍 ﹂ と さ れ 、 ﹁人 類 の最 終 戦 争﹂ に仕 立 てら れざ るを え な い。 倫 理 ・経 済 の両 極 性 が、
こ れ を要 求 す る の で あ る。 こ の両極 性 に は 、 た し か に驚 く ほ ど の体 系 性 ・ 一貫 性 が みら れ は す
る が、 し か し 、 こ の いわ ゆ る非 政治 的 な 、 さ ら に は 一見 反 政 治 的 で さ え あ る体 系 は、 既 成 の友
・敵 結 束 に 奉 仕 す る か、 さ も な け れ ば新 た な 友 ・敵 結 束 に いき つく も のな ので あ って 、政 治 的 な も の の帰 結 か ら の が れ る こ と な ど 不 可能 な の で あ る。
カ ー ル ・ シ ュ ミ ッ ト の ﹁友 ・敵 ﹂ 理 論
1
田
中
浩
カ ー ル ・シ ュ ミ ッ ト は 、 戦 前 の 日 本 で は 、 ナ チ ス の 御 用 理 論 家 と し て 、 つ と に 喧 伝 さ れ た 政
治 学 者 で あ る。 戦 後 二五 年 た った こ ん にち 、 わ れ わ れ が、 か れ の代 表 的 著 作 ﹃政 治 的 なも の の
概 念 ﹄ ︵一九 二七年︶ と いう 小論 を 、 こ こ に改 め て訳 出 し た のは 、 も ち ろ ん、 シ ュミ ット の名 か
ら連 想 さ れ る 過 去 の フ ァシズ ム の亡 霊 を よび さ ま そ う が た め で は な い。 む し ろ そ の逆 な ので あ る。
現 代 は 、 ﹁民 主 主 義 の危 機 ﹂、 ﹁近 代 国 家 の危 機 ﹂、 ﹁議 会 主義 の危 機 ﹂ の時 代 と いわ れ る。 し
か し 、 こ れら の危 機 意 識 は 、 な にも いま に は じ ま った こ と で は な く 、 一九 世 紀 後 半 以 来 、 す で
に、 多 く の思 想 家 や 社会 科 学 者 た ち によ って、 再 三 再 四指 摘 さ れ て き た と こ ろ で あ る 。 社 会 主
義 ・共 産 主義 ・ア ナ ー キ ズ ム ・フ ァシズ ム ・社 会 民 主 主義 等 々が 、 か か る 現 代 社 会 の危 機 の 回
避 策= 救 済 策 と し て 登場 し てき た の であ る。 し た が って、 現 代 民 主 主義 の危 機 の問 題 を 考 究 す
る に あ た って は 、 当然 に 一九 世 紀 以 来 の民 主 主義 の危 機 を め ぐ る 思 想 的 ・理 論 的 諸 問 題 にま で 遡 って考 察 す る 必要 が あ る だ ろ う 。
シ ュミ ット は 、 一九 世 紀 か ら 二〇 世 紀 に かけ て の政 治 ・法 ・経 済 ・社 会 思 想 な ど に か ん し
て 、多 方 面 にわ た る研 究 と考 察 を 行 な い、 民 主 主 義 の危 機 の原 因 を め ぐ る諸 問 題 を あ く こ と な
く 追 求 し た 。 し た が って 、 か れ が 最後 に 到 達 し た危 機 回避 の処 方 箋 = フ ァ シズ ム の立 場 に は賛
成 でき な いにし ても 、か れ の ︿政 治 の概 念﹀、 ︿憲 法論 ﹀、 ︿独 裁 論 ﹀、 ︿国 家 論 ﹀、 ︿議 会 主義 論 ﹀、
︿法 学 的 思 惟 に つ いて の考 察 ﹀、 ︿一九 世 紀 思 想 の批 判 的 分 析﹀ を通 じ て の、 自 由 主義 的 民 主 主
義 批判 の作 業 は 、 き わ め て論 争 的 ・挑 戦 的 性 格 を も つも の で あ り、 か つ フ ァ シズ ム理 論 の精 神
原 理 を 理 解 す る 上 で の反 面 教 師 的役 割 を 果 す も のと し て、 そ のど れ 一つを と って み ても 検 討 す る に十 分 に値 いす る興 味 深 い問 題 性 を 含 ん で いる も の と考 え る 。
も っと も 、 現 在 に いた る ま で そ の理 論 的 活 動 を 精 力 的 に続 け て いる か れ の全 理 論 に つ いて、
一定 の歴 史 的 ・理 論 的 評 価 を 加 え る た め に は 、 少 な く と も 一八 、 九 世 紀 以来 の全 ヨー ロ ッパ の
思 想 、 と く にド イ ツ の政 治 思 想 や法 思 想 の系 譜 、 ま た ワイ マー ル共 和 体 制 から ヒ ト ラ ー の第 三
帝 国 時 代 に至 る政 治 的 ・経 済 的 ・社 会 的 ・思 想 的 状 況 の総 体 分 析 、 さら に、 第 二次 大 戦 後 のヴ
ェト ナ ム戦 争 を含 む国 際 政 治 の全 状 況 の分 析 を通 じ て は じ め て な し お お せ る こ と で あ って 、 こ の点 に つ いて は別 の機 会 に譲 る ほ か な い。
こ こ で は ただ 、 か れ の ﹃政 治 的 な も の の概 念﹄ の中 心 テ ー マで あ る ﹁友 ・敵 ﹂ 理論 を め ぐ る 問 題 点 に つ いて 二 、 三 の べる に と ど ま る 。
ベ ルリ ン大 学 、 ス トラ スブ ルグ 大 学 に お い て法 律 学 、 国 法 学 を 修 め、 一九 一〇年 に、 ﹁責 任 お よび
︵1︶ シ ュミ ット は 、 一八 八 八年 七月 一 一日 、 ウ ェス ト フ ァー レ ンのプ レ ッテ ンベ ルグ に 生 ま れ た。
責 任 の種 類 に関 し て、 そ の術 語 学的 研 究 ﹂ ︵ 〓be rSch ul d und Sc hul da rt en.Ei ne t ermi nol og i s ch e
Unt er suc hung︶ と いう 論 文 を書 いて学 位 を え た 。 一九 一六年 ス ト ラ スブ ルグ 大 学 の 私講 師 、 一九
二 一年 に は、 グ ラ イ フ ス ワ ル ト大 学 教 授 、 一九 二 二年 に は ボ ン大 学教 授 、 二 八 年 に は ベ ル リ ン商 科
大 学 教 授 、 三三 年 一月 に は ケ ル ン大 学 教 授 、 同年 七 月 に は スト ラ スブ ルグ 大 学 教授 、 同年 一〇 月 に
は ベ ルリ ン大 学 教 授 を 歴 任。 そ の間 、 教 職 の外 に、 プ ロシ ァ参 事 会議 員 を兼 任 し た り 、 ド イ ツ法 律
学 会 、 ドイ ツ法 曹 新 聞 を 主宰 す る な ど、 戦 前 ドイ ツ に お け る 代 表 的 政 治 学 者 、 国 法 学 者 と し て 活躍
し た。 第 二次 大 戦 後 、 一九 四 五年 九月 から 四 七年 五 月 ま で ア メ リ カ の拘 置 所 に 拘禁 さ れ て いた が 、
釈 放 後 は プ レ ッテ ンベ ルグ に在 住 し て いる。 六 〇年 代 に 入 って 、 か れ の著 作 が 続 々 復 刊 さ れ 、 一九
五 九 年 の 七 〇歳 の時 に は 、 ハン ス ・バ ア リ オ ン、 エル ン スト ・フ ォル スト ホ ッフ、 ヴ ェル ナ ー ・ヴ
エー バー な ど の編 集 によ る シ ュミ ット の憲 法 論 や 政 治 理論 を 扱 った 論 文 が 、献 呈 さ れ ( Fes t s chri f t
f〓r CarlSchmi t t )、 ま た 、 一九 六 八年 には 八〇 歳 の 誕 生を 祝 し て、 ハン ス ・バ ア リ オ ンら に よ る
ィ ットが 、 ﹁カ ー ル ・シ ュミ ット の機 会 原 因 論 的 決 定 論 ﹂ と か ﹁ヴ ェー バ ー と シ ュミ ット ﹂ ︵いず
祝賀論文集 ( Epi r rhosi s:Fes t gabe f 〓rCar lSchm i t t ) 二巻 が だ さ れ て いる 。 さ ら に カ ー ル ・レ ヴ
れも 、 拙 訳 近 刊 予 定 の ﹃政 治 神 学 ﹄ に 付 録 と し て 収 録 予 定 ︶ と いう論 文 を書 いて いる し、 Geo rge
Schwabが The Chal l enge of t he Exce pt i on (-An I nt ro duct i on t ot he Pol i t i c alI deasofCar l
ん と し て、 か れ の理 論 が 注 目 さ れ て いる こ と が推 測 さ れ る 。 な お か れ の経 歴 の 部分 に つい て は、 堀
Schm i t tbet we en 1921 and1936-) と いう 研究 を 一九 七 〇年 にだ し て い ると ころ を みる と 、 いぜ
真 琴 氏 の ﹁カ ー ル ・シ ュミ ット の 思想 及び 著 作 ﹂ ︵ ﹃国家 ・議 会 ・法 律 ﹄ 堀 真 琴 ・青 山 道 夫 訳 、 金 體
主義 大 系 ︵4︶、 白 揚 社 、 昭 和 一四年 所 収 ︶ お よび 前 記 シ ュワ ーブ の著 書 を参 照し た。
時 期 に、 日本 の政 治 学 者 の間 で 登 場 し て いる ︵ こ の点 に つ いて は 蝋 山 政 道 ﹃日本 に お け る 近 代 政 治
︵2︶ シ ュミ ット の政 治 理 論 は 、 は じ め 、大 正末 年 か ら 昭 和 一〇年 代 に か け て の ﹁政 治 概 念 論 争﹂ の
学 の発 達 ﹄ 実業 之 日 本 社 、 昭 和 二四 年 、 な お 同書 は 昭 和 四 三年 に 、 ぺり か ん社 よ り 復 刊 さ れ て いる
が 、 原 田 鋼 氏 の解 説 を も 参 照 さ れ た い。 そ のほ か ﹃日本 に お け る 政 治 学 の過 去 と将 来 ﹄ 政 治 学 会 年
一二 巻 の中 に 、 ﹃国 家 ・議 会 ・法 律 ﹄ と いう 表 題 で 、 堀 ・青 山 両 氏 に よ って 訳 出 さ れ て いる 。参 考
報 、 岩 波 書 店 、 昭 和 二五 年 ︶。 つ いで 、 か れ の著 作 の いく つか は 、 昭 和 一四 年 に 、 全 體 主 義 大 系 全
ま で に 収録 さ れ て いる 著 書 論 文 名 を あげ て お く と 、 ﹃現 代 議 会 主 義 の精 神 史 的 地 位 ﹄ ︵一九 二三年 ︶、
﹃国家 ・運 動 ・国 民﹄ ︵一九 三 三 年︶、 ﹃法 学 的 思 惟 の三 箇 の定 型 に つ いて ﹄ ︵一九 三 四 年︶、﹃法 治 国
家 に 関 す る 論 争 の意 義 ﹄ ︵一九 三 五 年︶ の四 篇 で あ る 。 最 初 の 一篇 は 、 ﹃政 治 的 ロ マ ン主 義 ﹄ ︵一九
一九 年 ︶、 ﹃独 裁 ﹄ ︵一九 二 一年 ︶、 ﹃政 治 神 学 ﹄ ︵一九 二 二年 ︶、 ﹃政 治 的 な も のの 概 念 ﹄ ︵一九 二 七年 ︶
たち が 、 全 体 主 義 に ど う いう姿 勢 を と ら れ て い た かは わか ら な いが 、 こ の大 系 の辞 が 、 全体 主 義 を
な ど と だ い た い 同 じ 時期 の論 稿 で あ る が、 後 の 三篇 は、 ナ チ ス政 権 成 立 後 のも のに 属 す る 。 訳 者
二〇 世 紀 に おけ る 一つ の巨 大 な る 思想 の潮 流 と し て、 ま た現 代 の矛 盾 の解 決 と し て現 わ れた 世 界 史
的 意 義 を も つも のと の べて いる 以 上、 客 観的 に は、 シ ュミ ット の思 想 や 理 論 が、 当時 の 日本 の全 体
主 義 的 風 潮 の中 で 一定 の役 割 を 果 し た こ と は否 定 で き な いで あろ う 。 ま た 廿 世紀 思想 ︵全 一 一巻 、
ン、 ロー ゼ ン ベ ル クな ど とと も にシ ュミ ット に つ いて 黒 田覚 氏 の論 稿 が あ る。 ま た 、 照和 一七年 に
河 出 書房 、 昭和 一四年 ︶ と いう 全 集 の第 八 巻 に ﹁全体 主義 ﹂ がお さ めら れ て お り、 そ の中 に シ ュパ
い る が、 ラ レ ン ツは 、 シ ュミ ット の第 三 期 の思 想 = ﹁具 体 的 秩序 及 び 形 成 の 思想 ﹂ の影 響 を 受 け
有 斐 閣 よ り カ ー ル ・ラ レ ンツ著 、 大 西 芳 雄 ・伊 藤満 氏 の 共 訳 で ﹃現 代 ド イ ツ法 哲 学 ﹄ が 翻 訳 さ れ て
て 、 さ ら に そ れ を 発 展 さ せ て いる 。 こ の 思想 が、 ナ チ ス法 律 学 の重 要 な 文 献 の 一つで あ った こ と は
﹃政 治 の本 質 ﹄ ︵三笠 書 房 ︶ と いう 表 題 で 、ヴ ェー バ ー の ﹃職 業 とし て の政 治 ﹄ と 合 わ せ て翻 訳 さ
いう ま で も な い。 な お ﹃政 治 的 な も の の概 念﹄ に つ いて は 、昭 和 一四年 に 、清 水幾 太郎 氏 に よ って 、
れ て いる 。
Begri f fdesPol i t i sc hen) は 、 最 初 、 一九 二 七年
M 〓nchenund
Lei pzi g よ り 出版
八月 に、 Hei del berger Archi vf 〓r So zi al wi ss ens chaft n u d Sozi al pol i t i k, d B .58, Hef tI(S.1
︵ 3 ︶ シ ュミ ット の ﹃政 治 的 な も の の概 念﹄ ( De r
3 3) に掲 載 さ れ、 つい で、 一九 三 二年 に、 Duncker& Humbl o t ,
さ れ た。 翌 三 三年 に、 第 三版 が だ さ れ たが 、 こ の版 は、 ナ チ スが 政 権 を と った時 期 に発 行 さ れ た た
め か、 三 二 年版 の ︵一︶ の部 分 が省 略 さ れ て い たり 、 内 容 的 に も か な り の修 正 が加 え ら れ て いる 。 清 水
に 、 こ の ﹃政 治 的 な も の の 概 念 ﹄ が Duncker&Hum bl ot よ り 再 刊 さ れ 、そ の 際 に は 、 一九 三 二 年 版
訳 は 、 こ の 三 三 年 版 に よ っ た も の と 思 わ れ る が 、 戦 後 の 一九 六 三 年 に 、 シ ュミ ット の 他 の著 作 と 共
シ ュ ミ ット の 主 な 著 書 、 論 文 に は 次 の よ う な も の が あ る 。 こ の 場 合 に も 戦 前 の も の
︵一九 三 七
が 用 い ら れ て い る 。 し た が っ て 、 今 回 わ れ わ れ が 訳 出 す る ば あ い に も 、 一九 三 二 年 版 を 使 用 し た 。 ︵4 ︶
訳 の あ るも の。 und Schu da lrten.Ei ne
Urte il.
Ei ne
Unter suchung zum
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temrinolog sc ihe
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年 ま で ︶ に 関 し て は 既 出 、 堀 真 琴 氏 の ﹁カ ー ル ・シ ュ ミ ッ ト の 思 想 及 び 著 作 ﹂ を 参 照 し た 。 * は 邦
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Kernfrage
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Rheinlande
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der
Diktatur
Erinnerungsgabe
Soziologie
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Der
Die
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Begriff
Volksentscheid *Der
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leben,
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Werden
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Staatsgef〓ge
Nationalsozialismus
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diskriminierenden der
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der
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V〓lkerrecht
Grossraumordnung, im
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Erfahrungen
gesamteurop〓ischer
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V〓lkerrechtliche Der
Cort〓s
Captivitate
Donoso Ex
des
Verfassungsrechtliche *Theorie
ン の理論 』 一九 六 三年 ( 『政 治的 人 間 』 編 集 ・解 説 永 井 陽 之 助 、 平 凡 社 、 昭 和 四 三年 )。 田中 浩 ・原
(5) 戦 後 日本 で、 シ ュミ ット の著 作 のう ち 新 しく 翻 訳 さ れた も のと し て は 、 新 田 邦 夫 訳 『パ ル チ ザ
田 武 雄 共 訳 ﹃政 治 神 学 ﹄ ︵﹃未 来 ﹄ 昭 和 四 四 年 一二月 ︱ 昭和 四 五年 三 月 、 三 九 号 ︱ 四 二号 ︶、 大 久 保 和 郎 訳 ﹃政治 的 ロ マ ン主義 ﹄ ︵みす ず 書 房 、 一九 七 〇 年︶ が あ る 。
2
戦 後 日本 に お いて は 、 そ の民 主 化、 近 代 化 と いう 課 題 の下 に、 当 然 のこ と な が ら、 ド イ ツ的 思 想 に代 わ って、 英 米 系 の民 主 主義 理論 が急 速 に導 入 さ れた 。
英 米 系 の国 家 ・社 会 観 は 、 国 家 や 統治 機 関 を、 人 び と の自 由 ・生 命 ・安 全 を守 る た め の 必要
悪 ・手 段 と し て捉 え る。 こ の思 考 様 式 は、 た と えば イギ リ ス にお いて は 、市 民革 命期 の ホ ッブ
ズ 、 ロ ック に は じま り 、 ベ ンサ ム、 ミ ル、 ス ペ ンサ ー 、グ リ ー ン、 ラ ス キな ど 、 二〇 世紀 の多
元 的 国 家 論 者 に至 るま で 一貫 し て、 そ の政 治 思 想 の基 調 を な し て いる政 治 哲 学 的 原 理 で あ る 。 こ の政 治 哲 学 の特 質 を さら に具 体 的 に の べれ ば次 の諸 点 に あ る 。
︵ ︶ 一ま ず 第 一に 、 こ の政 治 思 想 は、 徹 底 し た個 人 主義 の立場 を と る。 こ こ には 、 戦 前 の日 本 に
み ら れ た よう な統 治 者 = 天 皇 の神 聖 不 可侵 性 、 し た が って天 皇 を国 家 と 同 一視 す る 思 考 や 全体
を 個 に優 先 さ せ る ド イ ツ的 思 考 はま った く み ら れ な い。 英 米 系 の国 家 ・社 会観 で は 、 国 家 や政
府 の設 立以 前 か ら 自 然 権 を有 す る自 由 ・平 等 の個 々人 が、 自 己 の自然 権 を よ り よ く 守 る た め
に、 自 発 的 な 同意 に よ って政 治 社 会 を形 成 し た ︵社 会 契 約 ︶ と いう考 え が す べ て の政 治 原 理 の
論 理的 前 提 と さ れ て いる 。 し た が って 、 あ く ま でも 個 人 や集 団 が 、 国 家= 全 体 に優 先 す る ので
あ って、 国 家 に対 す る忠 誠 如 何 は 、 ラ スキ も の べ て いる よ う に 、 国 家 が ど の程 度 個 人 や集 団 の 利 益 を充 足 し て く れ る か に よ って 決 定 さ れ る、 と いう こ と に な る 。
︵二︶次 に、 こ の個 人 主義 的 政 治 哲 学 は 、 当 然 な こ と な が ら 、 同 質 的 な個 人 と いう 考 え を基 礎 に
し て 成 り 立 って いる 。 こ のば あ い、 人 間 は 、合 理的 ・理 性 的 人 間 と し て 捉 え ら れ て いる。 イ ギ
リ ス人 と し て は珍 し く ペ シ ミ ス テ ィ ック な政 治 哲 学 の立 場 を と る ホ ッブ ズ と いえ ど も 、 人 間 の
理 性 を 最 後 の拠 り 所 と し 、 そ こ か ら時 計 のよ う に 正 確 な秩 序 あ る平 和 な 国 家 や 政 治 社 会 の実 現
を構 想 し て いた ので あ る。 ベ ンサ ム の ﹁最 大 多 数 の最 大 幸 福 ﹂ の原 理 、 ス ペ ンサ ー の ﹁優 級 的
社 会有 機体 ﹂ の 理論 等 々も、 人 間 を 理 性 的 ・合 理的 人 間 と し て捉 え て いなけ れば 、 そ も そ も 個 人 主義 的政 治 理 論 は成 り 立 ち え な い ので あ る 。
︵三︶こ こか ら、 第 三 の命 題 が 導 出 さ れる 。 こ の政 治 哲 学 に内 在 す る支 配 = 被 支 配 の利 益 の調 和
可 能 性 と いう 信 念 で あ る 。 こ の調 和 観 は 、 さ ら に 、 近 代 の発 明 で あ る議 会制 度 そ の他 の諸 制 度
や 民 主 的 な ルー ルが確 立 さ れ て いれ ば 万 事 う ま く いく と いう 楽 天 的 な 制 度 信 仰 を と かく 生 みだ
し や す い。 た と え ば 、 議 会 は 、 ﹁公 開 ﹂ と ﹁討 議 ﹂ に よ って 、全 国 民 の多 種多 様 な 利 害 を 合 理
﹁法 の支 配 ﹂ と いう 観 念 に つ いて いえ
的 に調 和 し う る場 と さ れ 、 し た が って、 近 代 民 主 主義 の歩 みは 近 代 議 会 制 の発 展 と同 一視 さ れ る ほど にな った 。 ま た 、 英 米 系政 治 哲 学 の根 幹 をな す
ば 、 市 民 革 命後 も 、 先 進 諸 国 以 外 で は な お ﹁人 の支 配 ﹂ す る状 況 が根 強 く み ら れ た後 進諸 国 に
お いて、 ﹁法 の支 配 ﹂ の確 立 が目 的 化 さ れ た こ と は 、 きわ め て当 然 な こ と で あ った 。 普 通 選 挙
に よ る ﹁代 議 制 ﹂ に基 づ く ﹁法 の支 配 ﹂ の確 立 と いう 信 念 は近 代以 後 の自 由 と 民 主 主 義 を 求 め る 全 人 類 の目標 と な った 。
︵四︶ そ こ で 、 こ の英 米 系 政 治 哲 学 に お いて は 、 原 理的 に は 、 日 常 不 断 の ﹁権 利 の た め の闘 争 ﹂
の重 視 が前 提 と さ れ て いる。 そ れ は 、 永 遠 に求 め て や ま な い人 類 の理 想 状 態 を措 定 し 、 理 想 と
現 実 と の緊 張 関 係 に お いて無 限 の闘争 を 喚 起 す る こ と に な る 。 こ こ に合 理的 支 配 の貫 徹 を求 め る英 米 型政 治 理 論 の実 践 面 に お け る 奥 深 い強 み が存 在 す る 。
と こ ろ で 、 英 米 系 国 家 理論 は 、 そ れが 封 建 的 ・絶 対 主義 的 な 専 制 支 配 を打 倒 し 、合 理 的 ・理
性 的 ・民 主 的 な 統 治 の ルー ルや 制 度 を 確 立し て いく時 期 、 ま た社 会 が比 較 的 安 定 し て いる 時 期
や 国 々に お いて は、 き わ め て 有 用 な 理論 で あ りう る 。 し か し 、 こ の 理論 は 、諸 々 の矛 盾 が 一挙
に噴 出 す るよ う な 例 外 状 況 や緊 急 あ る いは急 迫 事 態 を想 定 し て いな い︱︱ も っと も人 間 社 会 に
お い て は、 個 人 で あ れ集 団 で あ れ 、 かか る例 外 状 況 に 滅多 に 遭 遇 し な いも ので あ る が︱︱ と い う 弱 点 を も って い る。
例 外 状 況 に お い て は 、 既 存 のあ ら ゆ る 民 主 的 な慣 行 ・ルー ル、 適 法 な る手 続 き は 、 次 々 に
無 視 さ れ破 壊 さ れ て いく 。 そ の最 も極 端 な ケ ー スが 、戦 争 の時 期 で あ り 、戦 争 こ そ 、権 力 把 持
者 が 、自 己 の権 力 を 強 化集 中 す る絶 好 の機 会 な ので あ る 。対 外 的 危 機 を次 々に醸 生 し つ つま た
社 会 的 不 安 を 巧 み に利 用 し つ つ、 権 力集 中 を は か った好 箇 の歴 史的 事 例 は ナ チ ス ・ド イ ツ の場
合 で あ り 、 ま た 昭 和 六 年頃 か ら 敗 戦 に いた る日 本 に お いて、 ﹁非 常 時﹂ と いう言 葉 に よ って 、
天 皇制 フ ァ シズ ムが 急 速 に強 化 さ れ て い ったこ と は 、 いま さら 指 摘 す るま でも な いで あ ろ う 。
こう いう 例 外 状 況 は 、 た ん に戦 争 の時期 ば かり で な く 、内 乱 そ の他 社 会 的 不 安 の時 期 や 、社 会
諸 集 団 間 あ る いは集 団 内 部 に おけ る紛 争 ・衝 突 と いう 形 で も発 生 す る。 こ う いう 状 況 に な る
と 、 支 配 層 や優 勢 な る集 団 の意 志 や決 定 が 、国 家 ・社 会 全 体 の意 志 ・決定 とし て貫 徹 さ れ、 そ
れ に反 対 す る集 団 や個 人 の批 判 や意 志 は 、 ま った く 圧殺 さ れ て し まう 。 こ の場 合 、 反 対 意 見 に
対 し て、 物 理的 ・暴 力 的 手 段 によ る 抑 圧 が な さ れ る こ と は いう ま で も な いが、 た ん に そ れだ け
で は な く 、 従来 の制 度 や ルー ルに内在 す る 欠 陥 に つ いて の原 理 的 ・理論 的 否定 が徹 底 的 に行 な
わ れ る。 戦 前 の 日本 や ワ イ マー ル体 制 下 のド イ ツに お いて 、反 動 的 ・保 守 的 理論 家 た ち が、 よ
う や く 芽 生 え つ つあ った個 人 主義 、自 由 主義 、 民 主 主義 、議 会 主義 等 々に対 し て、 社 会 主義 者
顔 負 け のき び し い批 判 ・攻撃 を加 え 、 危機 の回 避 策= 救 済 策 と し て 、全 体 主義 、超 国 家 主 義 、 フ ァシズ ム等 々を対 置 さ せ た のは ま さ に そ のた め で あ った 。
英 米 型自 由 主義 的 国 家 ・社 会 理論 の最 大 の弱 点 は 、 国 家 や 権力 の本 質 を 、 と こ と んま で突 き
つめ て リ ア ルに 把 え え な い、 と いう点 に あ る 。 なぜ な ら 、 こ の理論 に は、 国 家 の権 力 を統 治 に
変 え 、 国 民 の統 治 に対 す る か か わ り方 いか ん に よ って は 、権 力 の濫用 を制 限 で き、 支 配 = 被 支
配 の利 益 の調 和 が可 能 で あ る 、 と いう楽 観 論 が 根底 に お いて あ る か ら で あ る。
こ う し た 支 配 =被 支 配 の利 益 の調 和 と いうブ ルジ ョア政 治 思 想 のも と で、 一九 世 紀 以 来 、 帝
国 主 義戦 争 、 植 民 地 解 放 闘 争 、内 乱 そ の他 の社 会 的 危機 と いう 例 外 状 況 が 次 々 に発 生し た。 自
由 主義 的 国 家 社 会 観 は大 衆 民 主 主義 時 代 の到 来 に お いて 、福 祉国 家 や修 正資 本 主義 への理論 的
転 換 を試 み た に も か か わ らず 、 国 内 に お け る社 会的 諸 矛 盾 を解 決 で き な い のみ か 、 ま す ま す そ
の矛 盾 を激 化 さ せ 、対 外 的 に は 、第 一次 世界 大 戦 と いう 帝 国 主義 戦 争 を も 誘 発 し た 。 こ う いう
状 況 の下 で 、 一九 世 紀 の政治 思 想 で あ る 自 由 主義 的 国 家 ・社 会 観 に対 し て 、 そ の方 向性 や 政 治
的 立場 は 、 ま った く 逆 で あ った け れど も 、 ︽社 会 主義 ・共産 主義 ︾ ︽全体 主 義 ・フ ァシズ ム︾ 等
々、 左右 両翼 か ら の批 判 が 対 置 さ れ た の であ った。 こ れら の 理論 は、 いず れ も、 ブ ルジ ョア 民
主 主 義 に対 し て、 そ の歴 史 的 な あ る いは 第 一義 的 な使 命 は終 わ った、 と いう 死 刑 宜 言 を下 し た ので あ る 。
し た が って、 シ ュミ ット が、 一九 二〇 年 代 に、 ﹁政 治 的 な も の﹂ と は な に か、 と いう 問 題 を
問 う た と き に は、 か れ は 、 た ん に、 政 治 にか んす る抽 象 的 な概 念規 定 を 問 題 に し て いた ので は
なく 、 実 は、 一九 世 紀 以来 の国 家 論 、 主 権 論 、 議 会 主 義 、 法思 想 、 いな 人間 論 の深 み に ま で か か わ る全 問 題 状 況 を 念 頭 にお いて いたも のと いえ よう 。
︵水 田 洋 ・田 中 浩 訳
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World at W ar, New
・岡 義 達 ・高 木 誠 訳 ﹃大 衆 国 家 と 独 裁 ﹄ み す ず 書 房 、 昭 和 三 五 年 ︶ 参 照 。
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﹃増 補 版 現 代 政 治 の 思 想 と 行 動 ﹄ 未 来 社 、 一九 六 四 年 、 参 照 。
Y ork , 1942. ︵岩 永 健 吉 郎 ︵7 ︶ 丸 山 真 男
3
﹃政 治 的 な も の の概 念﹄ と いう著 作 にお いて 、 シ ュミ ット が 意 図 し た こ と は 、 自由 主義 的国
家観 や議 会 主 義 等 々 の 、英 米 系 の民 主 主義 理論 を 批判 し 、 強 力 な る 国 家 の復 権 を は かる こと に
あ った 、 と 思 わ れ る。 か れ は す で に 、 ﹃政 治 的 ロ マ ン主義 ﹄ ︵一九 一九年︶、 ﹃独 裁 ﹄ ︵一九 二 一
年︶、 ﹃政 治 神 学 ﹄ ︵一九二二年︶、 ﹃現 代 議 会 主義 の精 神 史 的 地 位 ﹄ ︵一九二三年︶ 等 々 の著 書 ・論
文 に お い て、 ワ イ マー ル共 和制 下 の議会 主義 や 、 複 数 政 党 制 によ る政 治 的 ・社 会 的 混 乱 や不 統
一を 、自 由 主義 的 国家 ・社 会観 批判 と いう 形 で追 求 し 、 新 し い政 治 神 学 =現 代 の独 裁 と いう観
念 や強 力 な る 国家 主 権 の確 立 が必 要 で ある こと を 主 張 し て い た。 し た が って、 か れ の ﹃政 治 的
な も の の概 念 ﹄ と いう問 題提 起 も 、 こ の延 長 線 上 に お いて考 え ら れ な け れば な ら な い。
シ ュミ ット は 、﹁政 治 的 な も の﹂の究 極 的 な 識 別 徴 標 を 、 ﹁友 か敵 か ﹂す な わ ち ﹁友 ・敵 ︵F e
ind und Fr eund︶関 係﹂ と し て捉 え る 。道 徳 に お いて は善 ・悪 が 、 美 的 には 美 ・醜 が、 経 済
に お いて は利 ・害 ︵も う か る か も う か ら な いか ︶ が 、 そ れ ぞ れ 固 有 の識 別 徴 標 で あ る よう に 、 政 治 に固 有 の識 別 徴 標 は、 ﹁友 ・敵 ﹂ 関 係 だ 、 と いう わ け で あ る。
わ れ わ れ の社 会 には 、 さ ま ざ ま な 形 に おけ る 対 立 や 衝 突 が あ る。 し かし 、 か か る対 立 ・衝 突
が 、 た だ ち に政 治 的 対 立と よ べ る わけ で はな い。 シ ュミ ット に よ れば 、 一つの共 同 体 ︵世 界 、
国 家 、集 団 等 々︶ の中 で、 あ る問 題 を めぐ って、 対 立 ・衝 突 が 生 じ 、 そ れ が エス カ レ ー ト し て
紛 争 にま で発 展 し 、 そ の過 程 で 、 A ・B 二 つ の集 団 が形 成 さ れ 、 こ の二 つ の集 団 の結 束 が ま す
ます 強 まり 、存 在 的 に 相 手 を 否 定 す る ほ ど に な る ま で対 立 が激 化 し た と き に 、 つま り 両者 の矛
盾 が いわ ば敵 対 矛 盾 に ま で 発 展 し 、 物 理 的 に 殺 り く し て で も敵 対者 を せ ん滅 し よ う と いう 状態 が 生 じ た と き に 、 友 ・敵 関 係 す な わ ち政 治 的 対 立 が 生 じ た 、 と みる 。
そ のも っと も典 型的 な例 が 、 国際 間 に おけ る戦 争 であ り 、 国 内 的 に は内 戦 で あ る。 戦 争 や内
戦 は 、例 外 状 況 で あ る が 、 こ の状 況 の中 で、 国 家 の構 成 員 に対 し 、 生 命 を 国家 に投 げ だ し 敵 を
殺 り く せ よ 、 と 命 じ る こ と が で き る の は 、国 家 だ け で あ って 、 他 の い かな る集 団 に お い ても 、
こ のよ う な こと は命 じ る こ と は でき な い。 国 家 に 主権 が あ る 、 と いわ れ る のは ま さ に こ の た め
で あ る 。 こ こ から 、 シ ュミ ット 政 治 理論 にお け る社 会 に対 す る 国 家 の優 位 の主 張 、 社 会 と国 家
を 二元 的 に分 離 さ せ て 、社 会 の国 家 に対 す る優 位 を と く多 元的 国 家 論 に対 す る 批 判 が導 出 さ れ る。
シ ュミ ット に よ れば 、 自 由 主 義 的 国 家 ・社 会 観 や議 会 主 義 は 、 敵 を 競 争 相 手 にあ る いは取 引
相 手 、 ま た は討 論 相 手 に変 え て あ いま いにし て し ま い、問 題 の決 定 を 先 へ先 へと延 ば し て し ま
う 。 つま り 、 自 由 主義 的 ・法 治 主 義 的 国 家 論 で は 、国 家 は ﹁中 性 国 家 ﹂ に転 化 し て しま い、敵 を 決 定 し え な い、 と いう わ け で あ る 。
こ こ か ら さら に 、 か れ の自 由 主 義 的 国 家 論 の 主権 理論 に 対 す る 批 判 が生 ま れ る。 主権 論 こ そ
国 家 論 の根 本 問 題 で あ る か ら 、 か れ は こ れ を無 視 し て通 り 過 ぎ る わけ に は いか な い ので あ る 。
シ ュミ ット は、 自 由 主義 的 国 家 論 や多 元 的 国 家 論 で は 、 主 権 の意 義 を真 に 理解 し て いな い、
と考 え る 。 何 故 な ら 、 主 権 と は 国 家 の最 終 的 な意 思 で あ る 、 と い って み て も そ れ は無 意 味 な 定
義 で あ る か ら で あ る 。 た と え ば 、 自 由 主 義 的 民 主 国 家 に お いて、 国 民 が国 家 の最 終 的意 思 決 定
者 と いう 意 味 で、 国 民 主 権 と か 人 民 主権 と か いう 言 葉 が 使 用 さ れ る が、 こ れ が抽 象 的 な 意味 に
お いて な ら ば そう いう こ と は いえ る か も知 れ な いが 、実 質 的 な 意 味 に お いて は ま った く 無 意 味
で あ る こと は き わ め て明 白 で あ ろう 。
主 権 者 と は 、 シ ュミ ット に よ れば 、例 外 状 況 に お いて 決 定 を下 す も の、 を いう の であ る 。 主
権 論 争 の核 心 は 、 公 共 な いし国 家 の利 益 、 公 共 の安 全 お よび 秩序 、 公共 の福 祉等 々 がど こに存
す る か に つ いて の決定 を、 紛 争 時 に だ れ が下 す か 、 と いう こ とな の であ る 。 こ の点 で、 シ ュミ
ット は 、 ボ ダ ンや ホ ッブズ の主 権論 を高 く評 価 す る 。 す な わ ち 、 ボダ ンが 主権 論 の近 代 に お け
る定 措者 と いわ れ る のは、 ﹁主権 と は国 家 の絶対 的 か つ永 久 的 権力 ﹂ と いう かれ の定義 より も、
﹁急 迫 事 態 に お いて は、 主 権者 は自 然 法 に よ って受 け て いる 拘束 力 を解 消 でき る﹂ と いう ﹁決
定 の要 素 を 主権 概 念 に も ち 込 んだ 点 にあ る﹂ と いう ので あ る。 ま た ホ ッブズ は、 ﹁真 理 が で は
な く、 権 威 が 法 を作 る﹂ と の べ た こと に よ って、 決 定 主 義 の古 典 的代 表者 とさ れ て いる ので あ
る。 こ の ﹁例 外 状 況 ﹂ と ﹁決 定 ﹂ と いう概 念 を 、 主 権 理論 にお い て結 合 さ せ たと こ ろに 、 シ ュ ミ ット政 治 理論 の特 異 な位 置 が あ る。
国 家= 主権 者 は、 国 家 の敵 を 決定 で き なく ては な ら な い。自 由 主義 的 な多 元 主義 に お い て
は 、 国家 の敵 を決 定 でき な い。 シ ュミ ット の ﹁友 ・敵﹂ 理論 は、 こう し て 、 ワイ マー ル共和 体
制下 の自 由 主義 的 国 家 観 や議 会 主義 に対 し て 、 秩 序 の把 持 者 、 秩 序 の決定 者 と し て の国 家 の優
位 の理論 を導 出 し 、 結 果 的 には 、 ワイ マー ル体 制 の思想 的 ・制 度 的 基 盤 を掘 り く ず す役 割 を果
す こ と にな る の で あ る。
み す ず 書 房 、 昭 和 三 八 年 、 一八 、 四 六 ペ ー ジ ︶
︵1 ︶ Franz Neum ann,Behemoth.O.U .P. 1942. ︵岡 本 友 孝 、 小 野 英 祐 、 加 藤 英 一訳 ﹃ビ ヒ モ ス ﹄
中 浩 ・原 田 武 雄 訳
﹃政 治 神 学 ﹄、 ﹃未 来 ﹄ 三 九 号 、 二 ペ ー ジ ︶
︵2 ︶ C. c S hm it t, Poli tische Theologi e,Zw ei te A usg abe,M 〓nchenund Leip zig.1934.S.11.︵田
﹃未 来 ﹄ 四 〇 号 、 一八 ペ ー ジ ︶
︵邦 訳 ﹃未 来 ﹄ 三 九 号 、 三 、 四 ペ ー ジ ︶
︵邦 訳
︵3 ︶ C.Schm itt,a.a.O.,SS.13-4 ︵4 ︶ C .Schm i tt.a. a.O.,S.44
4
さ て 、 こ れ ま で 、 シ ュミ ッ ト の ﹁友 ・敵 ﹂ 理 論 に つ い て 、 ご く 簡 単 に の べ て き た が 、 最 後 に 、 こ の 理 論 に か か わ る 二 、 三 の問 題 点 に つ い て ふ れ て お き た い。
︵一︶ ﹁政 治 と は な に か ﹂ に つ い て は 、 政 治 学 者 の数 ほ ど そ の 定 義 は さ ま ざ ま で あ り 、 政 治 を 妥
協 の 技 術 と し て 捉 え て も 、 そ れ が 間 違 い で あ る と は い え な いで あ ろ う 。 し か し 、 シ ュミ ッ ト
が 、 政 治 の本 質 を 、 ﹁友 ・敵 ﹂ 関 係 で 捉 え た こ と は 、 そ れ 自 体 き わ め て 興 味 あ る 問 題 で あ る 。
﹁敵 は だ れ か ﹂ と いう こ と
な ぜ な ら 、 一九 世 紀 中 葉 以 降 の 資 本 主 義 対 社 会 主 義 と いう 状 況 の 出 現 に さ いし 、 マ ル ク ス 、 レ ー ニ ン、 ホ ー ・チ ・ミ ン 、 毛 沢 東 な ど 革 命 の 指 導 者 た ち は す べ て 、
を そ の 革 命 論 の基 礎 に 置 い て い た か ら で あ る 。 マ ル ク ス は 、 ブ ル ジ ョア ジ ー と プ ロ レ タ リ ア ー
ト と いう 、 永 遠 か つ絶 対 的 に和 解 で き な い友 ・敵 関 係 を 、最 初 に措 定 し た 理論 家 であ った 。 革
命 状 況 は、 例 外 状 況 で あ る か ら 、 こ の点 で 、例 外 状 況 にお け る ﹁友 ・敵 ﹂ 関 係 を 思 考 し た シ ュ
ミ ット は、 社 会 主義 者 や 共産 主義 者 と形 式 的 に は同 じ発 想 を し て いた こ と に な る し、 シ ュミ ッ
ト が、 か れ の理論 構 成 に あ た り 、 一八 四 八年 の革 命 や 一九 一七年 の ロ シア革 命 か ら 、多 大 の影
響 を受 け て いた こ と は 容 易 に想 像 で き る 。 し か し 、 か れ は 、 一九 二七 年 に ﹃政 治 的 な も の の概
念﹄ を書 いた 時 点 で は 、 政 治 の本 質 は 、 友 ・敵 関 係 にあ り 、 敵 を 決 定 でき る 強 力 な 国 家 や 主 権
者 が 心 要 であ る、 と いう こ と を指 摘 し て いるだ け で あ って、 敵 はだ れ で あり 、 そ の敵 を 決 定 で
き る 国 家 の主 体 は 、 いか な る階 層 ・集 団 ・個 人 で あ る か に つ いて は な ん ら触 れ て いな い。 か れ
が意 識 的 に そう し た のか ど う か は わ か ら な いが 、 当面 の敵 は 、 ワイ マー ル共和 制 下 の自 由 主義
者 、民 主 主義 者 だ った のだ ろ う か。 し か し 、 か れ ほ ど の政 治 学 者 が 、 こ の時 点 で 、 ド イ ツ国 家
に と って の真 の敵 は 、 社 会 主 義 者 や 共産 主 義 者 で ある と いう こ と に果 し て気 づ い て いな か った
か ど う か は き わ め て疑 わし い。 と も かく か れ は、 こ の著 作 に お いて は、 レ ー ヴ ィ ット も批 判 し
て いる よ う に、何 ら か の決 定 が 必要 で あ る 、 と いう こ と を 抽 象 的 に の べ て いる にす ぎ な いの で
あ る 。 だ が 、 か れは 、 こ の著 作 のわず か 六年 後 の 一九 三 三 年 に、 いわ ゆ る ﹁授 権 法 ﹂ が 制 定 さ
れ た 時 点 で書 か れ た ﹃国 家 ・運動 ・国 民﹄ ︵一九三三年︶ な る 著 書 の中 で は、 ワ イ マー ル共和 体
制 を 否 定 し 、 ナ チ ス 、具 体 的 に は ヒト ラ ー を 決 定者 と し 、 国 家 の敵 は 共産 党 で あ る、 と明 確 に
の べ て いる ので あ る 。 こ う し て 、 か れ は 、 ヒト ラー 政 権 が次 々 に議 会 制 度 や複 数 政 党 制 な ど を
破 壊 し て いく 政 治 的 決定 を全 面 的 に支 持 し 、 フ ァシズ ム の御 用 理論 家 と し て の全 貌 を 明 ら か に し て い った の であ る 。
︵ 二︶ 第 二次 大 戦後 、 か れ は、 いぜ ん とし て、 次 々 に意 欲的 な著 作 活 動 を 続 け て いる が 、 と く
に、 か れ の最 近 作 ﹃パ ルチザ ン の理論 ﹄ ︵一九六三年︶ は 、戦 前 の ﹃政 治 的 な も の の概 念 ﹄ に お
﹁友 ・敵 ﹂ 関 係 を 国 家 間
け る ﹁友 ・敵 ﹂ 理論 を、 第 二次 大 戦 後 の ﹁革 命 の時 代﹂ と いう 新 し い状 況 に即 応 し て発 展 さ せ た も の と い わ れ て い る 。 こ の著 作 に お い て 、 シ ュ ミ ッ ト は 、 か つ て 、
の戦 争 や 一国 内 の内 戦 と いう 国 家 の枠 付 け で のみ 考 え てき た こ と の不 十 分 さ を自 己批 判 し 、 絶
滅 兵 器 ︵核 兵 器 ︶ の出 現 と恒 久 的 革 命 の時 代 を 迎 え て、 階 級 敵 と いう 真 に絶 対 的 な友 ・敵 関係
が 現 わ れた とし て、 か れ の最 初 の ﹁友 ・敵 ﹂ 理論 を補 足 し て いる ので あ る 。 し か し 、 政 治 の世
界 にお いて は、 つね に友 ・敵 関係 が あ る 、 と いう こと を指 摘 す るだ け で は 、 そ れ は実 は な にも
い わな いの に等 し いので あ る 。 偉 大 な革 命 指 導 者 と かれ の違 いは 、 前 者 が 、 敵 は だ れ で あ り 友
は だ れ で あ る か を識 別 し て、 革 命 を達 成 す る た め に、 そ の組 織 論 や戦 略 ・戦 術 論 を 具 体 的 に組
では 、 わ れ わ れ は、 か れ の ﹁友 ・敵 ﹂ 理論 か ら 、 こ ん に ち 、 な に を学 ぶ こ と が で き る
み立 てる 点 にあ る ので あ る。 ︵三︶
か。 戦 後 の 日本 は、 幸 運 にも 、 戦 争 や 内 乱 と いう 危 急 状 態 を 経 験 し て いな い。 朝 鮮戦 争 は 、 日
本 人 の大 部 分 の意 識 に と って は、 戦 後 日本 経 済 の復 興 と繁 栄 に大 きく 寄 与 し た 対 岸 の火 事 で あ
った し 、 ベト ナ ム戦 争 も 、 し ょせ ん は遠 い他 国 の空 の悲 惨 な で き ご と と し か受 け と ら れ て いな
い、 と い っても 決 し て 言 い過 ぎ では な いで あ ろ う 。 核戦 争 や 軍事 基 地 の存 在 に よ る危 険 性 が 叫
ば れ ては いるが 、 果 し てど れ ほど 日本 人 に真 の意 味 で の緊 迫 感 を 与 え て いる だ ろ う か 。 し か も
戦 後 民 主 主義 は 、十 分 に 開花 定 着 し な いま ま に 、早 く も そ れ に対 す る国 民 の失 望 感 はま す ま す
広 く深 く 進 行 し て いる 。 こ う いう 不安 定 な 状 況下 で 、 も し も 日本 が戦 争 に巻 き込 ま れ る と いう
よ う な 異 常 事 態 が 現 出 し た な ら ば 、 日 本 にお いて 、 こ れ ま で 不 十 分 な り と も築 か れ て き た基 本
的 人 権 の尊 重 の観 念 や 民 主 的 な諸 制度 を維 持 す る こ と はは たし て可 能 な のだ ろう か。 こ の意 味
で 、 シ ュミ ットが 、 例 外 状 況 に お いて は 、 国家 は 、 既 存 の法 体 系 や慣 行 ・ルー ルを徹 底 的 に
破 壊 し つく し てし ま う こ と を リ ア ルにえ がき だ し て い る こ と は は な はだ 興 味 深 い 。 わ れ わ れ
は 、 例 外 状 況 や戦 争状態にたちい
た った とき の現 実 政 治 に おけ るす さま じいほどの 権 力 状 況
を、 か れ の 「友 ・敵 」 理論から学 びとること によって、 日 常 不 断 に、権利のための 闘 争 や 平 和
1961.
Schmitt,
Schmitt,
S.
Die
O.,
S.
65.(
堀 真 琴 訳 、
Lage
堀 真 琴 訳 、
1963.
des
SS.
SS.
heutigen
C.
W.
Lowith,
Kohlhammer
Dritte
Auflage
Verlag,
Gesammelte
一二 三 ペ
一三 九 ペ ー ジ )
一〇 三 ―
新 田 邦 夫 訳 、 一三 五 ―
20―23.
新 田 邦 夫 訳 、
20―23.
Parlamentarismus.
Schmitt.(Karl Existenz――.
52―58.(
一九 六 三 年 版 の 序 文pp.
11―37.(
九 六 三 年 版 の 序 文pp.
一六 〇 ペ ー ジ 。
von
一〇 三 ペ ー ジ )
一 一三 ペ ー ジ )
geistesgeschichtliche
a.
71.( a.
一四 九 ―
geschichtlichen
Dezisionismus
・国 民 』
der
・運 動
照 。
Kritik
L〓with,Der Okkasionelle
93―126)参 『国 家
1963.
Politischen一
des
Partisanen.
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Begriff
Partisanen.
Politischenの des
Begriff
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の確 保 の た め の闘いを一つ一つ 積 み重 ね て いく こ と の 必要 性 をいま ほ ど痛感 す る こと は な いの である。
C.
Berlin.
(1) C.
(2) (3) Karl
SS.
Abhandlungen――Zur 1960, (4) 青 山 道 夫 訳
Theorie
ッ ト のDer
Schmitt,
(5) シ ュミ
Schmitt,
ュ ミ ッ ト のDer
ジ )
(6) C.
(7) シ
Theorie
(8) C.
[訳 者 略 歴] 田 中 浩 (た なか ひ ろ し) 1926年 佐 賀 県 生 ま れ。 東 京 文 理 科 大 学 哲 学 科 卒 業 。 政 治 学 ・ 政 治 思 想 史専 攻 、法 学 博 士 。 一 橋 大 学 名 誉 教 授 。 東 京 教 育 大 学 、静 岡 大 学 、一 橋 大 学 、 大 東 文 化 大 学 教 授 、 立 命 館 大 学 客 員 教 授 を経 て 、現 在 聖 学 院 大 学 大 学 院 教 授 。 著 書 に 『ホ ッブ ズ 研 究 序 説 』 (御 茶 の 水 書 房 )、 『長 谷 川 如 是 閑研 究 序 説 』 (未 來 社 )、 『国 家 と個 人』 『近 代 日本 と 自 由主 義 』 (岩 波 書 店 )、 『日本 リベ ラ リズ ム の 系 譜 』 (朝 日新 聞社 )、 『戦後 日本 政治 史』 (講 談社 )、 『20世紀 とい う時 代 』 『第 三 の 開 国 は 可能 か』 『ヨー ロ ッパ 知 の 巨 人 た ち』 (NHK出 版 )。 訳 書 に 、 ホ ッブ ズ 『リ ヴ ァ イア サ ン』、 ミル 『代 議 制 統 治 論 』 ( 共 訳 、河 出書 房新 社 )、 ウ ィ リア ムズ 『帝 国主 義 と知 識 人 』、 ホ ッ ブズ
『哲 学 者 と 法
学 徒 との 対 話 』 (共 訳 、 岩 波 書 店 )、 ミル トン 『イ ン グラ ン ド 宗 教 革 命 論 』、 ピア ソ ン 『曲 が り角 に きた 福 祉 国家 』、 タ ック 『トマ ス ・ホ ッブ ズ 』 (共 訳 、 未 來社 )。 そ の 他 未 來 社 よ り 、 ホ ッ ブズ 、 シ ュ ミッ ト、 ミル ト ンの 著作 ・研 究書 の 翻 訳 な ど 多数。 原 田 武 雄 (は ら だ た け お ) 1926年 長 野 県 生 まれ 。 名 古 屋 大 学 名誉教 授 。主 な訳書 に 、シュ ミ ッ ト 『政 治 的 な もの の概 念 』 『政 治 神 学 』 『大統 領 の独 裁 』 『合 法性 と正 当性 』 (共 訳 、 未 來 社 ) な ど。 政 治 的 な もの の概 念 1970年12月25日 2008年12月15日
初 版 第1刷 発 行 第28刷 発 行
定価 ( 本 体1300円 著
者
訳
者
+税)
カ ー ル ・シ ュ ミ ッ ト
田
中
原
田
武
雄
発行者 西
谷
能
英
発行所 株式会社
未
浩
來
社
〒112-0002 東 京 都 文 京 区 小 石 川3-7-2 電 話 ・代 表 03(3814)5521 振
替
00170-3-87385
URL:http://www.miraisha.co.jp/ Email:
[email protected] ス キ ル プ リ ネ ッ ト ・萩 原 印 刷 ・五 十 嵐 製 本 ISBN978-4-624-30012-8
C0031