運 動 と栄養と食品 伏 木 亨[編 集] 下 村 吉 治 林 達 也 豊 田 太 郎 井 上 和 生 松 村 成 暢 石 原 健 吾 吉 田 宗 弘 水野谷 航 柴 草 哲 朗 森 谷 敏 夫 永 井 成 美...
151 downloads
329 Views
8MB Size
Report
This content was uploaded by our users and we assume good faith they have the permission to share this book. If you own the copyright to this book and it is wrongfully on our website, we offer a simple DMCA procedure to remove your content from our site. Start by pressing the button below!
Report copyright / DMCA form
運 動 と栄養と食品 伏 木 亨[編 集] 下 村 吉 治 林 達 也 豊 田 太 郎 井 上 和 生 松 村 成 暢 石 原 健 吾 吉 田 宗 弘 水野谷 航 柴 草 哲 朗 森 谷 敏 夫 永 井 成 美[著]
朝倉書店
執
下
村
林
筆
者(執 筆順)
吉
治 名古屋工業大学大学院工学研究科 物質工学専攻
達
也 京都大学大学院人間 ・環境学研究科 共生人間学専攻
豊
田
太
郎 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
井
上
和
生 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
松
村
成
暢 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
石
原
健
吾 椙山女学園大学生活科学部 食品栄養学科
吉
田
宗
弘 関西大学工学部生物工学科
水 野 谷
航 九州大学大学院農学研究院 生物機能科学部門
柴
草
哲
朗 京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻
森
谷
敏
夫 京都大学大学院人間 ・環境学研究科 共生人間学専攻
永
井
成
美 岡山県立大学保健福祉学部栄養学科
は じめ に
朝 倉 書 店 『ス ポ ー ツ と栄 養 と食 品 』 が 出 版 さ れ て10年
に な る.本 書 は そ の い
わ ば 姉 妹 編 で あ る.こ の 間,栄 養 学 や 食 品科 学 分 野 に お い て 運 動 ・ス ポ ー ツ に対 す る理 解 は 飛 躍 的 に 進 んだ.運 動 能 力 に影 響 を 与 え る 食 品 成 分 の 開 発 も しば し ば 関 連 学 会 の 話 題 に な っ て い る.ま た,運 動 ・食 品 と 自律 神 経,運 な どの 研 究 分 野 も登 場 した.食
動 ・食 品 と疲労
品 分 野 の 関係 者 の み な らず 一 般 人 まで が 食 品 と運
動 や ス ポ ー ツ の 科 学 の 関 わ り合 い に興 味 をい だ く よ う に な っ た の で あ る. 食 品 や 栄 養 の 分 野 にお い て 運 動 の科 学 に興 味 を もつ 研 究者 が ご く少 数 で あ った 時 代,栄
養 学 が 注 目 した の は運 動 に よ るエ ネ ル ギ ー 代 謝 の ダ イ ナ ミ ック な動 きで
あ っ た.食
品 成 分 を摂 取 して も,生 体 の 恒 常 性 維 持 の 厚 い壁 に は ば まれ,代
謝状
態 が 顕 著 に動 くこ とは ほ と ん ど な か っ た.栄 養 学 の 研 究 者 に とっ て,運 動 が い と も容 易 に生 態 の 恒 常 性 維 持 を突 き破 る こ と は驚 きで あ っ た.そ れ ほ ど,運 動 とい う の は 人 間 や 動 物 に とっ て切 迫 した 緊急 事 態 で あ る こ と を,栄 養 学 の 研 究 者 は は じめ て 知 っ た の で あ る. 運 動 の 本 質 が 敵 と戦 い 生 命 を維 持 す る 機 能 で あ る こ と を考 え る と,顕 著 な代 謝 変 化 を伴 う こ とは 至 極 当 然 で あ っ た.運 動 や ス ポ ー ツ は現 代 人 の 生 活 の 中 で,異 常 事 態 で は な く,当 た り前 の 行 動 と して 定 着 して い る.代 謝 の研 究 者 に と っ て非 常 に魅 力 的 な生 理 的 条 件 な の で あ る. しか も,運 動 に よ っ て エ ネ ル ギ ーが 消 費 され る こ と は,現 代 人 に とっ て 福 音 と も い うべ き こ とで あ る.生 活 習 慣 病 の増 加 が 懸 念 され る今 日,期 待 され る健 康 科 学 の 中 心 は食 と運 動 で あ る.食 事 はエ ネ ル ギ ー の 摂 取,運 動 や ス ポ ー ツ はエ ネ ル ギ ー の 消 費 の そ れ ぞ れ 代 表 的 な行 動 で あ る.生 活 習 慣 病 の リス ク を 高 め る肥 満 や 脂 肪 代 謝 の 齪 齬 は,エ
ネ ル ギ ー の 摂 取 と消 費 の 両 方 を捉 え る こ とに よっ て 正 しい
理 解 と対 策 が 可 能 に な る.新
しい 栄 養 科 学 や 健 康 科 学 は,食 事 と運 動 の 有 機 的 な
関 係 を包 含 す る もの で な くて は な ら ない. 現 代 栄 養 学 や食 品 科 学 と運 動 ・ス ポ ー ツ の 科 学 の 共 通 の課 題 の 一 つ が,本 書 の
取 り上 げ る 内 容 で あ る.さ
ら に運 動 や食 事 が 大 き な影 響 を 与 え る 自律 神 経 の 活 動
を も本 書 は カバ ー して い る.10年
の 歳 月 を 経 て,『 ス ポ ー ツ と栄 養 と食 品 』 は,
こ の 分 野 の 関 係 者 の 今 日的 な 要 望 に 的確 に応 え るた め に 内 容 を一 新 した.運 動 と 食 物 摂 取 が 同 じ次 元 で 取 り扱 わ れ る こ と を想 定 して い る.『 ス ポ ー ツ と 栄 養 と食 品』 が この 分 野 の 入 門 書 的性 格 を もつ と した ら,本 書 は そ の ア ドバ ンス 版 で あ る とい え るか も し れ な い. 本 書 の著 者 に は,若 い 研 究 者 を積 極 的 に リ クル ー トした.先 端 の現 場 の 科 学 を 少 しで も表 現 し た か っ た か らで あ る.元 気 の よい 研 究 者 らで あ る の で老 練 な文 章 表 現 とは い え な い が,そ の ダ イナ ミッ ク な 動 き を感 じ取 っ て い た だ け れ ば 幸 い で あ る.こ れ らの 内 容 は 遠 か らず 食 品 ・栄 養 分 野 の 重 要 な トピ ッ ク ス とな る も の で あ る と編 者 は 確 信 して い る. 本 書 の企 画 ・編 集 に 多 大 な尽 力 を い た だ い た 朝 倉 書 店 の方 が た に こ の 場 を借 り て 感 謝 した い.
2006年10月 編
者 伏 木
亨
目
1.運
次
動 とア ミ ノ酸 ・タ ンパ ク 質
〔 下 村 吉 治 〕 1
1.1 ア ミ ノ酸 代 謝 へ の 運 動 の影 響
2
1.2 分 岐鎖 ア ミノ 酸(BCAA)代
7
謝 と運 動
1.3 グ ル コー ス‐ア ラ ニ ン回 路
11
1.4 中枢 性 疲 労 と ア ミノ酸
11
1.5 筋 タ ンパ ク 質 合 成 とア ミ ノ酸
12
1.6 体 づ く りの た め の タ ンパ ク 質 ・ア ミノ酸 摂取
2.運
動 と筋 肉 へ の 糖 吸 収 機 構
15
〔林 達 也 ・豊 田太 郎 〕19
2.1 運 動 時 の骨 格 筋 エ ネ ル ギ ー 産 生 に お け る糖 代 謝 の役 割
19
2.2 GLUT4の
21
トラ ン ス ロ ケ ー シ ョン と糖 輸 送 促 進
2.3 筋 収 縮 が 糖 輸 送 を促 進 す る メ カ ニ ズ ム 2.4 運 動 に よ る イ ンス リ ン感 受 性(イ
ンス リ ン依 存 性 糖 輸 送)の
2.5 イ ンス リ ン作 用 調 節 と食 品 成 分 2.6 糖 尿 病 の 運 動 療 法
3.運
23
動 における疲労感発 生の メカニズム
亢 進
30 33 37
〔井 上 和 生 ・松 村 成 暢 〕 43
3.1 現 代 社 会 と疲 労
43
3.2 運 動 と疲 労
44
3.3 脳 内 サ イ トカ イ ンの 役 割
46
3.4 疲 労 感 とエ ネ ル ギ ー 代 謝
48
3.5 発 熱 と疲 労
4.筋
肉増強 の メカニズム
4.1 筋 肉 の 遺 伝 子 発 現
50
〔井 上 和 生 〕 54 54
4.2 骨 格 筋 に対 す る トレー ニ ング の 影 響
58
4.3 食 品 成 分 と筋 肉増 強
5.エ
62
ネ ル ギ ー代 謝 と食 品
〔石 原 健 吾 〕65
5.1 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 源 に な る栄 養 素
65
5.2 栄 養 素 が 利 用 さ れ る 割 合 は運 動 中 に変 化 す る
66
5.3 運 動 能 力 を低 下 させ る 要 因
69
5.4 運 動 強 度 の 指 標
70
5.5 運 動 能 力 の 指 標
71
5.6 有 酸 素 運 動 能 力 を高 め る 栄 養 摂 取 の 方 法
73
5.7 運 動 前 の 食 事
73
5.8 運 動 中 の 栄 養 補 給
75
5.9 運 動 後 の 栄 養 補 給
77
5.10 ダ イエ ッ トと運 動
78
5.11 特 殊 な食 品成 分 と持 久 運 動 能 力
6.運
79
動 と ミネ ラ ル
〔吉 田宗 弘 〕81
6.1 筋 肉 と ミネ ラル
81
6.2 エ ネ ル ギ ー 産 生 と ミネ ラ ル
85
6.3 骨 代 謝 と ミネ ラル
88
6.4 発 汗 と ミネ ラル
91
6.5 運 動 性 貧 血
93
6.6 ミネ ラ ルサ プ リメ ン トの 意義
7.運
97
動 時 に お け る 各臓 器 の エ ネ ル ギ ー代 謝 へ の 寄 与
〔 水 野 谷 航 ・柴 草 哲 朗 〕 100
7.1 エ ネ ル ギ ー代 謝 調 節 機 構 につ い て の こ れ まで の 諸 説
100
7.2 運 動 時 にお け る各 臓 器 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 応 答
107
7.3 中枢 神 経 系 に よる エ ネ ル ギ ー代 謝 調 節 制 御 機 構
113
7.4 中枢 神 経 系 に よる運 動 時 のエ ネ ル ギ ー代 謝 調 節 機 構
119
8.運
動
と 食 品
〔森 谷 敏 夫 ・永 井 成 美 〕 124
8.1 自律 神 経 とは
124
8.2 自律 神 経 活 動 測 定 法
126
8.3 肥 満 ・糖 尿 病 と 自律 神 経
135
8.4 運 動 と 自律 神 経 活 動
137
8.5 自律 神 経 に 及 ぼ す 運 動 の 効 果
140
8.6 食 品 成 分 と 自律 神 経
145
索
157
引
1.運
運 動 は,エ
動 とア ミノ酸 ・タ ンパ ク質
ネ ル ギ ー 代 謝 を著 し く亢 進 す る た め,主
る炭 水 化 物 と脂 肪 の 酸 化 分 解 が促 進 さ れ る.さ
な体 内 の エ ネル ギ ー源 で あ
らに,運 動 時 に は 身体 の 主 要 構 成
成 分 で あ る タ ンパ ク質 も分 解 され,生 成 され た ア ミ ノ酸 もあ る程 度 の エ ネ ル ギ ー 源 とな る.こ の よ う に運 動 は体 内 の 種 々 の 代 謝 を促 進 す るが,特 臓 器 で あ る骨 格 筋 で はそ の代 謝 変 動 が 大 きい.一
に運 動 の 中心 的
方,運 動 に よる刺 激 は,エ ネ ル
ギ ー基 質 の 分 解 ば か りで な く,運 動 後 に は タ ンパ ク質 合 成 を促 進 す る作 用 も もた らす.や
は り,こ の 運 動 の作 用 は 骨 格 筋 で 大 き く,運 動 に よる 筋 肉 づ く りの作 用
と して 知 られ て い る. 骨 格 筋 は,水 る.さ
分 が80%を
占 め,残
りは ほ とん ど タ ンパ ク 質 か ら成 り立 っ て い
らに,骨 格 筋 は体 重 の35∼40%を
の 貯 蔵 庫 で あ る と い え る.ウ り,筋 肉が 肥 大 し,筋
占 め る の で,全
身 に お け る タ ンパ ク 質
ェ イ ト トレー ニ ング の よ うな運 動 トレ ー ニ ング に よ
タ ンパ ク量 も増 え る こ とは 良 く知 られ た事 実 で あ り,こ の
現 象 は,運 動 に よ り筋 肉 の タ ンパ ク 質 と ア ミノ酸 代 謝 に大 き な影 響 が 及 ん だ 結 果 で あ る. ヒ トの タ ンパ ク質 を構 成 す る ア ミ ノ酸 は20種 の 必 須 ア ミノ酸(体
類 あ り,そ の う ち9種 類 が 成 人
内 で 合 成 で き な い ア ミノ 酸)で
あ る(表1.1).し
た が っ て,
運 動 に よ り筋 肉 づ く りを す る場 合 に は,十 分 な 必 須 ア ミノ酸 を摂 取 す る 必 要 が あ る.食
物 中 の タ ン パ ク 質 を構 成 す る 必 須 ア ミ ノ 酸 の 中 で,分
(branched-chain
amino
の 占 め る 割 合 は40∼50%と
acids,BCAA:バ
約35%と
高 い.し
リ ン,ロ イ シ ン,イ ソ ロ イ シ ンの 総 称)
きわ め て 高 く,ヒ
た が っ て,筋
岐鎖 ア ミノ 酸
トの筋 タ ンパ ク質 中 の そ の割 合 も
肉 づ く りに 果 た すBCAAの
役 割 は 大 き く,逆
に,運 動 中 に分 解 す る 量 もか な りあ る と考 え られ て い る. 本 章 で は,筋
肉 に お け る ア ミ ノ 酸 代 謝 に対 す る 運 動 の 影 響 をBCAAを
中心 に
表1.1
タ ンパ ク質 を構 成 す る主 要 な ア ミノ酸
*筋 肉 で 酸化 され る ア ミノ酸
述 べ,肝
臓 の そ の 代 謝 に対 す る影 響 に つ い て も言 及 す る.さ
らに,体 づ く りの た
め の タ ンパ ク質 ・ア ミノ酸 の 摂 取 法 を最 後 に考 察 す る.
1.1 ア ミ ノ 酸 代 謝 へ の 運 動 の 影 響 a. 運 動 に よ る ア ン モ ニ ア お よび 尿 素 生 成 の 促 進 生 体 内 の ア ミノ 酸 の 起 源 は,食 物 中 の タ ンパ ク質 と組 織 を形 成 す る 内 因性 の タ ンパ ク 質 で あ る.い ず れ の タ ンパ ク 質 もア ミ ノ酸 に ま で分 解 され た の ち,体 内 で タ ンパ ク質 合 成 に再 利 用 さ れ るか,も ウ糖)お
よ び脂 肪 に変 換 され る か,ま
し くは さ ら に分 解 され て グ ル コ ース(ブ
ド
た は 完 全 酸 化 さ れ て 炭 酸 ガス と水 に な る
(図1.1). ア ミノ酸 の 分 解 で は,そ の 炭 素 骨 格 とア ミ ノ基 は別 々 の 代 謝 経 路 に よ り処 理 さ れ る.す な わ ち,炭
素 骨 格 は他 の 物 質 に変 換 され た り完 全 酸 化 さ れ る が,ア
基 は転 移 反 応 を受 け た 後,最 終 的 に ア ンモ ニ ア を生 成 す る(図1.1).ア
ミノ
ンモ ニ ア
は 肝 臓 で さ ら に尿 素 に 変 換 さ れ,尿 中 へ 排 泄 され る. 1) ア ン モ ニ ア の 生 成 と その 作 用 ア 濃 度 は30∼40μmol/lで
ヒ トの安 静 な状 態 で は,血
中 の ア ンモ ニ
あ る が,運 動 を 持 続 す る と,筋 肉 に お い て ア ンモ ニ ア
生 成 が 高 ま り血 中 の ア ンモ ニ ア 濃 度 は上 昇 す る.そ の 上 昇 の 度 合 い は,ヒ 件(ト
レー ニ ン グ を どの 程 度 して い るか,運 動 前 の 筋 グ リコ ー ゲ ン量,運
トの 条 動の タ
図1.1 ア ミ ノ酸 ・タ ンパ ク 質代 謝 に お け る尿 素 生 成
イ プ な ど)に
よ り異 な るが,100μmol/l以
この ア ンモ ニ ア の 由 来 は,ア
ミノ酸 の 分 解 に よっ て も発 生 す る が,主
ヌ ク レオ チ ドサ イ ク ル(図1.2)に リ ン酸(AMP)か
上 に も達 す る こ とが 報 告 さ れ て い る.
お い てAMPデ
ア ミナ ー ゼ に よ りア デ ノ シ ン1‐
ら イ ノ シ ン1‐ リ ン酸(IMP)が
ア ンモ ニ ア で あ る と考 え られ て い る.プ る ア ミノ基 の 主 要 な 供 給 源 はBCAAで
生 成 され る と きに 遊 離 され る
リ ンヌ ク レ オチ ドサ イ ク ル に取 り込 まれ
あ る(図1.2).
ア ンモ ニ ア と疲 労 の 関係 は まだ 十 分 に わ か って い な い が,ア 次 の 理 由 に よ り疲 労 を促 進 す る と考 え られ る.一 つ は,ア に対 す る作 用 で,脳
ンモ ニ アの 蓄 積 は
ンモ ニ ア の 脳 ・神 経 系
内 に ア ンモ ニ アが 蓄 積 す る と,グ ル タ ミ ンを 生 成 し て グ ル タ
ミ ン酸 を 減 少 させ る.グ ミ ノ酪 酸(GABA)の
にはプ リン
ル タ ミ ン酸 は,神 経 細 胞 の 活 性 の 調 節 物 質 で あ る γ‐ア
生 成 に必 要 で あ る た め,そ の 減 少 はGABAの
減 少 を引 き起
こ し,神 経 系 の 機 能 低 下 を もた ら して 中 枢 性 疲 労 の 原 因 とな る と考 え られ る.他 の 一 つ は,筋 肉 に対 す る作 用 で,筋 肉 に ア ンモ ニ ア が 蓄 積 す る と,解 糖 系 の ホ ス ホ フ ル ク トキ ナ ー ゼ が 活 性 化 され 解 糖 が 進 み 乳 酸 の 生 成 が 促 進 され る(図1.2). さ ら に,ア
ンモ ニ ア は ク エ ン酸 回 路 の 成 分 で あ る α‐ケ トグ ル タ ル 酸 に結 合 し グ
ル タ ミ ン酸 に な る こ と に よ り,ク エ ン酸 回路 の 回 転 を 阻 害 す る.こ れ らの 理 由 に よ り,ア ンモ ニ ア は筋 肉 で の疲 労 も促 進 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る が,先 た よ う に,ア
ンモ ニ ア の影 響 に つ い て は不 明 な 部 分 が 多 い.
に も述 べ
図1.2 筋 肉 の プ リ ンヌ ク レ オチ ドサ イ ク ル に お け る ア ンモ ニ ア の 生 成 ATP:ア
デ ノ シ ン3− リ ン酸,ADP:ア
デ ノ シ ン2−リ ン酸,AMP:ア
デ ノ シ ン1− リ ン酸,IMP:
イ ノ シ ン1− リ ン酸 は 促 進 を意 味 す る.
2) 尿 素 の 生 成 80∼90%が
ヒ トは摂 取 した 窒 素 の95%を
尿 素 で あ る.尿
尿 中 に排 泄 し,尿 中窒 素 の
素 は肝 臓 に お い て 生 成 さ れ る が,グ
ル タ ミ ン酸 が 尿
素 生 成 の た め の 窒 素 供 給 に 中 心 的 な役 割 を果 た して い る(図1.1).肝
臓 で生 成 さ
れ た 尿 素 は血 液 を介 して腎 臓 に運 搬 され るの で,運 動 に よ り タ ンパ ク質 お よび ア ミノ 酸 の 分 解 が 進 む と血 中 の 尿 素 濃 度 が 高 くな る.図1 運 動 の 持 続 時 間 の 関 係 を示 した.こ
.31)に 血 中 の 尿 素 濃 度 と
の 図 か らす る と,運 動 時 間 が 長 くなれ ば な る
図1.3 ヒ トの 血 中尿 素 レベ ル と走 運動 時 間 の 関係1)
ほ ど血 中 の尿 素 濃 度 も上 昇 し,タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 の分 解 が 亢 進 す る こ とが わ か る.逆
に,1時
間 以 内 の 短 時 間 の 運 動 で は そ の 分 解 は き わ め て 少 な い とい え
る.し か し,運 動 中 の ロ イ シ ンの 分 解 を追 跡 した 研 究 に よれ ば,血
中 の 尿 素 レベ
ルが 上 昇 し な い う ち に も ロ イ シ ンの 分 解 は促 進 され る こ と が 明 らか に さ れ て お り,運 動 中 の ア ミノ酸 分 解 量 は 考 え られ て い る よ りも大 きい よ うで あ る. b. ア ミノ 酸 の 炭 素 骨 格 の 分 解 と運 動 タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 か らの エ ネ ル ギ ー 供 給 が,ヒ
トの 運 動 中 の エ ネ ル ギ ー 代
謝 の どれ ほ ど を 占 め るか は 報 告 に よ りか な り異 な る.血 中 の 尿 素 濃 度 お よ び 窒 素 の排 泄 か ら計 算 され た値 は,3%か
ら18%の
間 に あ る1).し か し,上 述 の よ う に
血 中 尿 素 レベ ル が 上 昇 しな い う ち に も ロ イ シ ンの 分 解 は促 進 さ れ る こ と よ り,タ ンパ ク質 が エ ネ ル ギ ー代 謝 に 貢 献 す る 割 合 は こ の値 よ り も高 い 可 能 性 は あ る が, お そ ら く10%前
後 の エ ネ ル ギ ー が タ ンパ ク 質 ・ア ミノ 酸 か ら供 給 さ れ る とい っ
て も よい で あ ろ う. ア ミ ノ酸 の 炭 素 骨 格 は 直 接 の エ ネ ル ギ ー 源 に な る が,す 1.4に 示 す よ う に ピル ビ ン酸,ア
セ チ ルCoAも
換 され 代 謝 され る.し た が っ て,多
べ て の ア ミ ノ酸 は 図
し くは クエ ン酸 回 路 の 中 間 体 に 変
くの ア ミ ノ酸 は最 終 的 に クエ ン酸 回 路 で分 解
図1.4 ア ミノ 酸 の 炭 素 骨 格 の代 謝 *必 須 ア ミノ酸
さ れ る と考 え られ る. ヒ トの 筋 肉 に お い て 酸 化 さ れ る ア ミノ 酸 は,ア ア ラ ニ ン と三 つ のBCAAの6種
ス パ ラ ギ ン酸,グ
ル タ ミ ン酸,
類 で あ り,こ れ らの 中 で も,BCAAが
ミ ノ酸 で あ る こ とが 報 告 され て い る(表1.1参
主 要 なア
照).
c. 血 中 ア ミノ酸 組 成 に対 す る 運 動 の 影 響 運 動 は ヒ トの 血 中 ア ミノ酸 組 成 に影 響 す る2).短 時 間 の 低 強 度 の 運 動 で は,ア ラ ニ ンや グ ル タ ミ ン濃 度 が 増 加 す る が,高 強 度 の 短 時 間運 動 で は そ れ らの ア ミノ 酸 濃 度 は さ ら に 上 昇 す る が,グ
ル タ ミ ン酸 濃 度 は減 少 傾 向 に あ る.1時
間以 上 の
持 久 的 運 動 で は ア ラ ニ ン は増 加 傾 向 に あ る が,グ
ル タ ミ ンやBCAAは
逆 に減少
す る こ とが 報 告 さ れ て い る. d. 炭 水 化 物 摂 取 とタ ンパ ク質 ・ア ミノ 酸 分 解 組 織 の 主 要 構 成 成 分 で あ る タ ンパ ク 質 が,運 割 合 を 占 め る と は考 え られ な い.あ
動 中 の エ ネ ル ギ ー 源 と して多 くの
く まで も,主 要 なエ ネ ル ギ ー 源 は炭 水 化 物 と
脂 肪 で あ る.し か し,運 動 中 の タ ンパ ク質 の 分 解 が,炭 水 化 物 摂 取 に よ り影 響 さ れ る こ とが 明 らか に さ れ て い る.す な わ ち,十 分 な 炭 水 化 物 を摂 取 して 運 動 した 場 合 に は,摂 取 し な い で 運 動 した 場 合 よ りも,運 動 中 お よ び そ の 後 の 回復 期 の 血 中 尿 素 濃 度 が 高 くな り,尿 中 や 汗 中 に排 泄 さ れ る尿 素 量 もか な り多 くな る.し た が っ て,炭 水 化 物 の 摂 取 は,運 動 に よ る タ ンパ ク 質 ・ア ミノ酸 分 解 を左 右 す る 一 つ の 要 素 で あ る.こ
の こ とは,グ
リ コ ー ゲ ンの 蓄 積 が 不 十 分 な 状 態 で 運 動 す る
と,運 動 に よ る タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 分 解 が 増 大 す る こ と を意 味 して い る.
1.2 分 岐 鎖 ア ミ ノ 酸(BCAA)代 BCAAは,前
謝 と運 動
述 の よ う に食 物 タ ンパ ク質 お よび 筋 タ ンパ ク質 に多 く含 まれ る必
須 ア ミノ 酸 で あ る.運 動 とア ミノ 酸 の 関係 で は,ア
ミ ノ基 の 輸 送 の役 割 で グ ル タ
ミ ン酸 とア ラニ ンが 重 要 で あ る が,運 動 に よ る タ ンパ ク質 の 分 解 や合 成 に対 す る 作 用 に 関 して はBCAAが した が っ て,BCAAに
中 心 的 な ア ミ ノ酸 で あ り,そ れ に 対 す る 関 心 が 高 い. 関 す る研 究 は多 く行 わ れ て い る が,他 の ア ミノ酸 に関 して
は あ ま り情 報 が な い の が 現 状 で あ る. a. BCAAの BCAAの
代 謝系 とその調節
代 謝 は,す べ て ミ トコ ン ドリ ア 内 で行 わ れ,最
応 まで は 三 つ のBCAA(バ 触 媒 さ れ,そ (図1.5).第1ス
リ ン,ロ イ シ ン,イ
初 と第2ス
テ ッ プの 反
ソ ロ イ シ ン)に 共 通 の酵 素 に よ り
れ 以 降 の 分 解 は そ れ ぞ れ の ア ミ ノ酸 の 独 自 の 経 路 に よ り行 わ れ る テ ッ プ は可 逆 的 な ア ミノ基 の 転 移 反 応 で あ り,BCAAア
転 移 酵 素 に よ り触 媒 さ れ る.第2ス
テ ッ プ は 不 可 逆 的 な酸 化 的 脱 炭 酸 反 応 で あ
り,分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 に よ り触 媒 され る.こ の 第2ス 反 応 がBCAAの
ミ ノ基
分 解 を律 速 して お り,三 つ のBCAAの
分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の活 性 は,酵 リ ン酸 化 に よ り調 節 さ れ て い る.す な わ ち,そ
テ ッ プの
分 解 を調 節 す る. 素 タ ンパ ク質 の リ ン酸 化 ・脱
の 酵 素 は特 異 的 なキ ナ ー ゼ(分 岐
図1.5 KIC:α
‐ケ ト イ ソ カ プ ロ ン 酸,KMV:α
分 岐 鎖 ア ミ ノ酸 の 代 謝 系 ‐ケ ト‐β‐メ チ ル バ レ リ ン 酸,KIV:α
鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 キ ナ ー ゼ)に ホ ス フ ァ タ ー ゼ(分
‐ケ ト イ ソ バ レ リ ン 酸
よ る リ ン酸 化 に よ り活 性 を失 い,特 異 的 な
岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 ホ ス フ ァ ター ゼ)に
化 に よ り活 性 化 さ れ る.し
よ る 脱 リ ン酸
た が って,生 理 的 条 件 の 変 化 に対 応 して,酵 素 活 性 を
速 や か に 調 節 す る こ とが で き る.分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 は,そ
の構
造 と活 性 調 節 機 構 に お い て グ ル コー ス 代 謝 の 調 節 酵 素 で あ る ピ ル ビ ン酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 に きわ め て よ く類 似 して い る. b. 運 動 に よ る 筋 肉 中 のBCAA代
謝 の促 進
ラ ッ トに お け る 研 究 に お い て,運
動 に よ り筋 肉 で の タ ンパ ク 質 分 解 が 促 進 さ
れ,筋
肉 中 のBCAA濃
度 は 高 ま る こ とが 認 め られ た(図1.6)3).安
静 の状 態で
は,筋 肉 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 は ほ と ん どが リ ン酸 化 さ れ た 不 活 性 型 で 存 在 す るが,運
動 に よ り筋 肉 中 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の 活
性 は か な り上 昇 す る(図1.7).し
た が っ て,筋
肉 で のBCAAの
分 解 は 亢 進 し,
図1.6 運動 に よ る 筋 肉 の 分 岐 鎖 ア ミ ノ酸 濃 度 の上 昇3) ラ ッ トの 安 静 時 も し く は2時 間 走 行 運 動(速 度:30 m/min)を 値 は7匹
負荷 した後 の骨 格 筋 中 の分 岐 鎖 ア ミノ酸 濃 度. の ラ ッ トの平 均 値 ±SE.
図1.7 運 動 に よ る ラ ッ ト骨 格 筋 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の 活性 化3) ラ ッ トの安 静 時 も し くは2時 間 走行 運 動(速
度:30m/min)
を負 荷 した後 の骨 格 筋 中 の酵 素 の 活性 型 の 割 合.値 の ラ ッ トの 平 均 値 ±SE. ・総 酵 素 量 は運 動 に よ り影 響 さ れ な い .
は7匹
・本 デ ー タ に お け る安 静 時 の 酵 素 複 合 体 活 性 は約15%で あ る が,こ
こで 使 用 さ れ た ラ ッ トは あ る 程 度 の 食 事 制
限 を さ れ て お り,食 事 制 限 を し な い 安 静 ラ ッ トで は, 約5%と
きわ め て 低 い こ とが 明 らか に さ れ て い る.
そ れ は筋 肉 で直 接 エ ネ ル ギ ー 源 と して利 用 され る と考 え られ る.全 身 に お け る筋 肉量 を 考 慮 す る と,そ のBCAAの
分 解 量 は有 意 な も の で あ ろ う.
運 動 に よ る筋 肉 で の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の活 性 化 の メ カ ニ ズ ム は次 の よ う に考 え られ る:(1)運
動 に よ る タ ンパ ク 質 分 解 の促 進 に よ り,筋 肉 中
のBCAA濃
度 が 上 昇 す る,(2)筋
肉 で は,BCAAア
い た め分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 濃 度 も上 昇 す る,(3)分
岐 鎖 α‐ケ ト酸 の 中 で ロ イ シ ンか
ら生 成 さ れ る ケ ト酸(α ‐ケ トイ ソ カ プ ロ ン酸)は 剤 で あ る の で,キ
特異 的 キナーゼ の強力 な阻害
ナ ー ゼ 活 性 が 阻 害 され て 活 性 型 の 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素
複 合 体 が 増 加 す る,(4)蓄 参 照).最
ミノ 基 転 移 酵 素 の 活 性 が 高
積 した 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 の 分 解 が 促 進 さ れ る(図1.5
近 の研 究 に お い て,実
際 に運 動 に よ りキ ナ ー ゼ 活 性 が 低 下 し,分 岐 鎖
α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 が 活 性 化 さ れ る こ とが 確 認 さ れ た4). c. 運 動 に よ る肝 臓 中 のBCAA代
謝 の促進
運 動 に よ り,肝 臓 や 腸 な どの 内 臓 の タ ンパ ク 質分 解 も亢 進 す る こ とが わ か っ て い る.事
実,運
動 に よ り肝 臓 中 のBCAA濃
研 究 に お い て観 察 され た(図1.8).ラ
度 は 上 昇 す る こ とが ラ ッ トに お け る
ッ ト肝 臓 で は,BCAAア
ほ と ん ど発 現 して い な い た め そ の 活 性 は きわ め て 低 い.し BCAAを
直 接 分 解 で き な い と考 え ら れ て い る.逆
複 合 体 の 活 性 は き わ め て 高 い の で,肝
ミノ 基 転 移 酵 素 は た が っ て,肝
臓 では
に分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素
臓 で はBCAAか
ら ア ミノ基 転 移 に よ り生
成 され た 分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 は た だ ち に分 解 され る.ま
た,血 液 を 介 して 肝 臓 に 輸
送 され た α‐ケ ト酸 も速 や か に分 解 され る.そ の 反 映 と して,肝 臓 中 の 分 岐 鎖 α‐ ケ ト酸 濃 度 は,血 μmol/g組 織;血
液 中 や 筋 肉 中 の 濃 度 と比 べ て か な り低 い(肝
液,0.033μmol/ml;筋
肉,0.025μmol/g組
図1.8 運 動 に よる 肝 臓 の 分 岐 鎖 ア ミノ酸 濃 度 の 上 昇3) ラ ッ トの 安 静 時 も し くは2時 度:30m/min)を
岐 鎖 ア ミノ 酸 濃 度.値 均 値 ±SE.
間走 行 運 動(速
負 荷 し た 後 の 肝 臓 中 の分 は7匹
の ラ ッ トの 平
織).肝
臓,<0.002 臓 は糖 新 生
を活 発 に行 う臓 器 で あ るの で,お そ ら くイ ソ ロイ シ ンや バ リ ンの 糖 原 性 ア ミ ノ酸 は,グ ル コー ス を生 成 す るの に利 用 され る と考 え られ る. た だ し,ヒ
トの 肝 臓 で は,分
肝 臓 の1%以
下 とか な り低 い の で,BCAAと
発 で は な い よ うで あ る.ヒ
岐 鎖 α‐ケ ト酸 脱 水 素 酵 素 複 合 体 の活 性 は ラ ッ ト
トで は,筋
分 岐 鎖 α‐ケ ト酸 の 代 謝 は あ ま り活
肉 がBCAA代
謝の 中心的臓 器 であ る よう
で あ る が,ま だ 不 明 な 点 が 多 い.
1.3 グ ル コ ー ス ‐ア ラ ニ ン 回 路 運 動 中 も し くは絶 食 中 で は肝 臓 の グ リ コー ゲ ンが 著 し く減 少 す る.こ の 場 合, 血 糖 維 持 の た め に肝 臓 で 活 発 に糖 新 生 が 行 わ れ る.も
し糖 新 生 を抑 制 す る と,運
動 の持 続 能 力 が 低 下 す る こ とが 明 らか に さ れ て い る. 糖 新 生 の 基 質 と し て は 先 に 述 べ た よ う に イ ソ ロ イ シ ンや バ リ ン も考 え られ る が,ア
ラニ ンが 重 要 な 基 質 で あ る こ とが 明 らか に さ れ て い る.筋 肉 で ピル ビ ン酸
に ア ミ ノ基 が 転 移 され て 生 成 され た ア ラ ニ ンが 肝 臓 で グ ル コー ス に変 換 され,そ の グ ル コ ー ス は筋 肉 で 再 び 利 用 され る グ ル コ ー ス‐ア ラニ ン回 路 が 成 り立 っ て い る(図1.9).こ
の 回 路 の 中 で,BCAAは
ピ ル ビ ン酸 へ の ア ミノ基 の 主 要 な 供 給 源
で あ る. 実 際 に,ヒ
トに お い て運 動 中 の 各 臓 器 へ の 血 中 の ア ミノ酸 の 取 り込 み と放 出 を
み た 研 究 が あ る5).こ れ に よ る と,内 臓 で は ア ラニ ンを よ く取 り込 み,BCAAを 放 出 し,筋 肉 で は そ の 逆 の 関係 に あ る こ とが 明 らか に され て い る.
1.4 中 枢 性 疲 労 と ア ミ ノ 酸 中枢 性 疲 労 の 一 つ の メ カ ニ ズ ム と して,脳 内 にお け る トリプ トフ ァ ンか らの セ ロ トニ ン合 成 の 増 加 が 考 え られ て い る.し た が っ て,血 中 か ら脳 内 に トリ プ トフ ァ ンの 輸 送 が 促 進 され る と,中 枢 性 疲 労 が 高 ま る と考 え られ る. 脳 内 に トリ プ トフ ァ ンが 輸 送 さ れ る 場 合 に は,血 rier)を 通 過 しな け れ ば な ら な い.血 性 ア ミノ 酸 輸 送 体)はBCAAの
度 が 低 下 す る と,脳
bar
液 ‐脳 関 門 の トリ プ トフ ァ ン の 輸 送 体(中
そ れ と共 通 で あ る た め,そ
通 過 す る 際 に競 合 す る(図1.10).し す るBCAA濃
液 脳 関 門(blood-brain
れ ら は そ の ゲ ー トを
た が っ て,血 中 の トリ プ トフ ァ ン濃 度 に対 内 に トリ プ トフ ァ ンの 取 り込 み が 増 加 して,
図1.9 肝 臓 と骨 格 筋 の 間 の グ ル コー ス‐ア ラ ニ ン回 路: 分 岐 鎖 ア ミノ酸 との 関 係
中枢 性 疲 労 が 促 進 され る と考 え られ る.し た が っ て,BCAA摂 軽 減 す る 可 能 性 が 考 え られ る.実 際 に,BCAAを
取 は 中枢 性 疲 労 を
運 動 前 に摂 取 す る こ とに よ り,
運 動 中 の 主 観 的 運 動 強 度 を低 下 す る こ とが 報 告 され て い る6). 1日 の タ ンパ ク質 の 摂 取 量 を,Og,75g,150gの3段 トリ プ トフ ァ ン とBCAA濃
階 に調 節 して,血
度 の 比 率 を測 定 した 結 果 で は,タ
ンパ ク 質 の 摂 取 量
に応 じて そ の 比 率 が 低 下 す る こ と が 報 告 さ れ て い る(図1.11)7).こ 中枢 性 疲 労 の 予 防 ・回復 に タ ンパ ク 質(BCAA)の して い る.運
動 に よ りBCAAの
中の
の 所 見 は,
摂 取 が 有 効 で あ る こ とを示 唆
分 解 が 高 ま る の で,十
分 な タ ンパ ク 質(BCAA)
の 摂 取 は,中 枢 性 疲 労 の予 防 も し くは 回 復 に効 果 的 で あ る可 能 性 が 高 い.
1.5 筋 タ ン パ ク 質 合 成 と ア ミ ノ 酸 a. BCAAと
筋 タ ンパ ク質 合 成
必 須 ア ミノ 酸 で あ る こ と と タ ンパ ク 質 中 の 含 量 が 高 い こ と よ り,タ ンパ ク 質 合
図1.10 脳 内へ の トリ プ トフ ァ ン と分 岐鎖 ア ミノ酸 輸 送 の 競 合
図1.11
タ ンパ ク質 を0g,75g,も
し く は150g含
む食 餌 を5日
間摂
取 した ヒ トの 血 清 ト リプ トフ ァ ン濃 度(A),お よ び トリプ ト フ ァ ン濃 度 と主 な 中 性 ア ミ ノ酸 濃 度 の 比 率(B)の 日内 変 動7) T+P+L+I+V:ト
リ プ トフ ァ ン+フ
ソ ロ イ シ ン+バ
成 に は 十 分 なBCAAの ば か りで は な く,BCAAの
ェ ニ ル ア ラ ニ ン+ロ
確 保 が 重 要 で あ る こ とが わ か る で あ ろ う.し か し,そ れ 生理 作 用 と して 次 の こ とが 証 明 され て い る.(1)ロ
シ ンは 筋 タ ンパ ク質 の 分 解 を抑 制 す る.(2)ロ 進 す る.(3)〓
イ シ ン+イ
リ ン.
イ シ ンは筋 タ ンパ ク 質 の 合 成 を促
臓 か らの イ ンス リ ン分 泌 を促 進 す る.(4)イ
ン パ ク 質 合 成 作 用 を増 大 す る.こ
れ らのBCAAの
イ
ンス リ ンに よ る筋 タ
作 用 の 中 で も,ロ イ シ ン に よ
る タ ンパ ク質 合 成 促 進 作 用 は特 に注 目 され て お り,そ の 作 用 は タ ンパ ク 質合 成 の 過 程 に お け る メ ッセ ン ジ ャ ーRNA(mRNA)か る こ とが 明 らか に さ れ た.し
ら の タ ンパ ク質 の 翻 訳 を促 進 す
たが っ て,ロ
イ シ ンは タ ンパ ク質 合 成 の た め の 成 分
と して ばか りで な く,タ ンパ ク質 代 謝 を調 節 す る 因子 と して も重 要 な役 割 を果 た して い る とい え る. b. 運 動 に よ る 筋 タ ン パ ク 質 分 解 お よび 筋 損傷 に対 す るBCAAの 運 動 中 に は 筋 タ ンパ ク の 分 解 が 亢 進 し,筋 肉 で のBCAAの
効果
分解 が促進 す るこ
とは これ ま で に述 べ て きた 通 りで あ る.で は,運 動 直 前 にBCAAを
投 与 す る と,
筋 肉 で の タ ンパ ク質 代 謝 は どの よ う に影 響 され るか は興 味 あ る と こ ろ で あ る. こ の研 究 を ヒ トに お い て 行 っ た報 告8)が あ る.実 験 で は,健 康 な 成 人 男性(年 齢18∼30歳)に,運 (合 計77mg/kg体
動 の45分 重)経
と20分 前 にBCAAを38.5mg/kg体
口 投 与 す る か,も
重 ず つ2回
し くは コ ン トロ ー ル と して プ ラセ ボ
を 同様 に投 与 した の ち,片 足 で エ ル ゴ メ ー ター を1時 間 こ ぐ運 動 を負 荷 した.投 与 したBCAAは500mg入 mg,イ
りの カ プ セ ル で,ロ
ソ ロ イ シ ン を130mg含
70∼75%で
あ っ た.こ
の 実 験 の 結 果(表1.2)8)に
か し,BCAA投
ア ミノ 酸 量 は減 少 し た.特 BCAAが
リ ン を150
む もの で あ っ た.運 動 の 強 度 は,最 大 強 度 の 約
と に よ り,動 脈 血 中 と筋 中 のBCAA濃 生 成 が 増 加 した.し
イ シ ン を220mg,バ
よ る と,BCAAを
投 与す る こ
度 が 上 昇 し,筋 肉 に お け る ア ンモ ニ ア の 与 に よ り,筋 肉 か ら遊 離(放
に,BCAAの
放 出 は 減 少 した.す
出)さ
な わ ち,投
れる必須 与 した
筋 肉 中 で 分 解 され る こ と に よ り,筋 タ ンパ ク 質 の 分 解 が 抑 制 され た と考
え られ る.し
た が っ て,こ
の 結 果 は,投
与 し たBCAAに
表1.2 運 動 前 の分 岐鎖 ア ミノ 酸(BCAA)投
5人 の 平 均 値 ±SE.
よ る 運 動 中 の筋 タ ンパ
与 の 影響8)
ク質 分 解 の 抑 制 効 果 を示 す もの で あ る. 強 い負 荷 の 運 動(特 ら れ て お り,そ (CK)を
に エ キ セ ン トリ ッ ク運 動)は,筋
の 結 果,筋
細 胞 中 に 豊 富 に 存 在 す る酵 素 ク レ ア チ ンキ ナ ー ゼ
血 中 に放 出 す る た め,血
運 動 前 にBCAAも
肉 を損 傷 す る こ とが 認 め
中 のCK活
性 が 上 昇 す る こ とが 知 られ て い る.
し く は そ れ を主 成 分 とす る ア ミノ 酸 サ プ リメ ン トを投 与 す る
と,運 動 後 に 起 こ る 血 中CK活
性 の 上 昇 を抑 制 で きる こ と が 報 告 され て い る.ま
た,運 動 前 の4∼5gのBCAA摂
取 は 運 動 の 翌 日以 降 に発 生 す る筋 肉 痛 を軽 減 す
る こ と も認 め られ た9).こ れ らの所 見 よ り,運 動 前 のBCAA摂
取 は運 動 に よ る筋
肉損 傷 を軽 減 し,さ ら に筋 損 傷 の 回 復 を促 進 す る可 能 性 が 考 え られ る.
1.6 体 づ く り の た め の タ ン パ ク 質 ・ア ミ ノ 酸 摂 取 a. タ ンパ ク 質 摂 取 量 一 般 成 人 の タ ンパ ク質 所 要 量 は,1.08g/kg体 あ れ ば,1日
約65gの
重 で あ る.体 重60kgの
ヒ トで
タ ンパ ク 質 が 必 要 で あ る.
激 し く運 動 す る ア ス リー トの 場 合 で は,ど れ ほ どの タ ンパ ク質 を1日 に摂 取 す れ ば よい の か.こ の 問 に対 して,ア ス リー トの タ ンパ ク質 所 要 量 を増 加 す る こ と は慎 重 にす べ きで あ る とす る意 見 もあ るが,こ
れ まで に述 べ て き た通 り,運 動 に
よ りア ミ ノ酸 の 分 解 は 亢 進 しエ ネ ル ギ ー 源 と して利 用 され,運 動 後 に は タ ンパ ク 質 の 合 成 が 増 大 す る.さ
ら に,多
くの 研 究 に お い て,運 動 に よ り タ ンパ ク質 の 必
要 量 が 増 大 す る結 果 が 出 て い る.し た が っ て,ア ス リー トは 一 般 の ヒ トよ り も タ ンパ ク質 を多 く摂 取 す べ きで あ る.一 般 的 に摂 取 さ れ る食 物 中 タ ンパ ク質 の 利 用 効 率(生 g/kg体
物 価)な
どを 考 慮 す る と,ア
ス リ ー トの タ ンパ ク 質 所 要 量 は1.8∼2.O
重 で あ る とす る 報 告 もあ る.一 般 的 な 言 い 方 をす れ ば,ア
ス リー トは一
般 の ヒ トよ り も1.5∼2倍 の タ ンパ ク質 を摂 取 す る こ とが 勧 め られ よ う. b. ア ミノ 酸 ・タ ンパ ク質 の 摂 取 タ イ ミン グ 運 動 との 関 係 で ど の 時 点 で 筋 タ ンパ ク 質 が 合 成 され るか に 関 して は,ラ
ッ トお
よ び ヒ トにお い て 多 くの研 究 が 行 わ れ た が,そ の 結 果 は いず れ もだ い た い 同 様 で あ る.す
な わ ち,運 動 中 は タ ンパ ク 質 の 分 解 が 亢 進 し,合 成 は低 下 す る.一 方,
運 動 後 で は 逆 に タ ン パ ク質 の合 成 が 亢 進 し,少 な く と も24時 が 保 た れ る こ とが 確 認 され て い る.ヒ
間ほ どはその状態
トにお け る タ ンパ ク 質 合 成 に対 す る運 動 の
表1.3 運 動 中 と運 動 後 の 人筋 肉 に お け る タ ンパ ク質合 成
効 果 の 報 告 を 表1.3に ま と め た. 運 動 に よ り タ ンパ ク質 合 成 が 増 大 す る 時 点 で タ ンパ ク質 ・ア ミノ 酸 を摂 取 す る 必 要 性 が 高 い こ とが 推 察 さ れ る.運 動 後 の タ ンパ ク 質 摂 取 の タ イ ミ ン グ の 重 要 性 を検 討 す る 目的 で,イ
ヌ を用 い て,運 動 直 後 も し く は運 動 終 了2時 間 後 に ア ミ ノ
酸 と グル コ ー ス の 混 合 液 を投 与 して,筋 検 討 され た10).そ の 結 果,ど
タ ンパ ク 質合 成 に効 果 的 な タ イ ミ ン グが
ち らの タ イ ミ ング で 混 合 液 を投 与 して も タ ンパ ク 質
合 成 は増 大 す る が,運 動 直 後 に投 与 した 方 が そ の上 昇 す る レベ ル は 高 か っ た. こ の イ ヌ に お け る所 見 は,そ の 後 に 行 わ れ た ヒ トに お け る い くつ か の研 究 にお い て確 認 さ れ た.す
な わ ち,被 験 者(30∼33歳)に60分
間 の 自転 車 エ ル ゴ メー
タ に よ る 運 動 を負 荷 した 直 後 に タ ンパ ク 質 サ プ リ メ ン ト(組 成:タ g,糖
質8g,脂
肪3g)を
摂 取 させ た 場 合 と,3時
肉 の タ ンパ ク 質 合 成 率 を比 較 した とこ ろ,タ
ンパ ク 質10
間後 に 摂 取 させ た場 合 で,筋
ンパ ク質 合 成 率 は運 動 直 後 摂 取 の 方
が 有 意 に 高 か っ た11).さ ら に,高 齢 被 験 者(約74歳)に,週3回
の レ ジス タ ン
ス トレー ニ ン グ を負 荷 し,そ の トレ ー ニ ン グの 直 後 も し くは2時 間 後 に タ ンパ ク 質 サ プ リ メ ン ト(組 成:タ ンパ ク質10g,糖 プ ロ グ ラ ム を12週
間継 続 した と こ ろ,ト
質7g,脂
肪3g)を
摂 取 させ,こ
の
レ ー ニ ン グ直 後 の サ プ リ メ ン ト摂 取 の
方 が 筋 力 と筋 肉量 の両 者 と も に よ り増 大 して い た12). 一 方,被 験 者 に45∼50分
の レジ ス タ ンス 運 動 を負 荷 し,そ の 直 前 も し くは 直
後 に ア ミノ 酸 サ プ リ メ ン ト(組 成:必 須 ア ミ ノ酸 混 合6g,シ
ョ糖35g)を
摂取
させ る方 法 で,運 動 後 の 筋 タ ンパ ク質 合 成 率 を検 討 した と こ ろ,運 動 直 後 よ りも 運 動 直 前 の 摂 取 に お い て タ ンパ ク 質 合 成 率 が 高 か っ た こ とが 明 ら か に され た13).
図1.12 運 動 との 関 係 に お け る タ ンパ ク質 ・ア ミ ノ酸 サ プ リ メ ン トの摂 取 タ イ ミ ン グ ア ミ ノ酸 サ プ リメ ン トの 中 で も,特 にBCAAを 中心 と し た サ プ リ メ ン トが 有 効 で あ る と考 え ら れ る.
こ れ ら の 所 見 を ま と め る と,運 も,運
動 後 時 間 を あ け て タ ンパ ク 質 を 摂 取 す る よ り
動 直 後 の 摂 取 の 方 が 筋 タ ン パ ク 質 合 成 率 が よ り 上 昇 し,筋
加 す る よ う で あ る.一
方,レ
ジ ス タ ン ス 運 動 直 前 の ア ミ ノ 酸 摂 取 で は,運
の 摂 取 よ り も 筋 タ ン パ ク 質 合 成 率 が 高 か っ た の で,レ 運 動 直 前 の 摂 取 は 効 果 的 で あ る 可 能 性 が 高 い.結 質
・ ア ミ ノ 酸 の 摂 取 は 効 果 的 で あ り,レ
ア ミ ノ 酸(特
にBCAA)を
ジス タ ンス
た は 食 事)を
ジス タ ンス 運 動 の 場 合 に は
論 と し て,運
動 直 後 の タ ンパ ク の 直 前 に
摂 取 す る と そ れ 以 上 の 効 果 が 得 ら れ る 可 能 性 が あ る. 後 に 技 術 練 習 を 行 い,そ
ト レ ー ニ ン グ を 行 う こ と が 多 い.レ
グ 直 前 に は ア ミ ノ 酸(BCAA)食 品(ま
動 直 後
ジ ス タ ン ス 運 動 の 場 合 に は,そ
実 際 の ス ポ ー ツ ト レ ー ニ ン グ で は,午 (夕 方)レ
力 と筋 肉 量 も 増
品 を 摂 取 し,ト
れ に 引 き続 き
ジ ス タ ン ス トレ ー ニ ン
レー ニ ング 直 後 に タ ンパ ク質 食
摂 取 す る こ とが 筋 肉づ く りに 最 も効 果 的 な処 方 で あ る と考 え
ら れ る(図1.12). 引 用 文 1) Poortmans 2) Rennie
M
Shepherd
JR
(1988) Protein metabolism.Medicine
(1996)
and Sport Science,27,164-193
Influence of exercise on protein and amino
JT eds. Handbook
of Physiology,
Multiple Systems, Oxford University Press, New 3) Shimomura
献
Section
acid metabolism.
12:Exercise:Regulation
In: Rowell LB and Integration
and of
York,996-1035
Y, et al. (1990) Activation of branched-chain
α-keto acid dehydrogenase
complex
by
exercise:effect of high-fat diet intake.J Appl Physiol,68,161-165 4) Xu M, et al. (2001) by exercise. Biochem
Mechanism
of activation of branched-chain
Biophys Res Commun,287,752-756
α-keto acid dehydrogenase
complex
5) Ahlborg
G,et
al.(1974)Substrate
turnover
during
prolonged
exercise
in man.J
a solution
of branched-chain
Clin Invest,53,1080-
1090 6)
Blomstrand ceived
E,et
exertion
al.(1997)Influence during
7) Wurtman
RJ(1983)Behavioural
8)
DA,et
MacLean
ating protein 9)
Shimomura
of ingesting
exercise.Acta
Physiol
Y,et
acids
on
per
while
attenu
effects of nutrients.Lancet,1145-1147
al.(1994)Branched-chain
breakdown
amino
Scand,159,41-49
during
amino
exercise.Am
al.(2006)Nutraceutical
acids
augment
ammonia
metabolism
J Physiol,267,E1010-E1022 effects of branched-chain
amino
acids on
skeletal
muscle.J
Nutr,136,529S-532S 10)
Okamura
K,et
ery on protein 11)
Levenhagen
DK,et
leg glucose 12)
Esmarck with
and B,et
resistance
13) Tipton muscle
al.(1997)Effect kinetics
KD,et
of amino
in dogs.Am
al.(2001)Postexercise
protein
homeostasis.Am
al.(2001)Timing training
exercise.
nutrient
of postexercise
of amino Am
glucose
administration
during
postexercise
recov
intake
timing
in humans
is critical to recovery
of
J Physiol,280,E982-E993
in elderly humans.J
al.(2001)Timing
to resistance
acid and
J Physiol,272,E1023-E1030
protein
intake
is important
for muscle
hypertrophy
Physiol,535,301-311 acid-carbohydrate
J Physiol,281,E197-E206
ingestion
alters anabolic
response
of
2.運
動 と筋 肉へ の糖吸収機 構
2.1 運 動 時 の 骨 格 筋 エ ネ ル ギ ー 産 生 に お け る糖 代 謝 の 役 割 運 動 す な わ ち 骨 格 筋 の 収 縮 ・弛 緩 の 繰 り返 し に は,ア (adenosine のATPを
5′-triphosphate,ATP)が 消 費 す る こ と に な る.筋
デ ノ シ ン 三 リ ン酸
必 要 で あ り,運 動 時 に は安 静 時 よ り も大 量 肉 の収 縮 ・弛 緩 とい っ た 機械 的 な動 きは,筋
細 胞 中 の ミ オ シ ンATPaseがATPをADPに
分解 す る こ とで 起 こ る.ま た,筋 収
縮 に先 立 っ て 筋 小 胞 体 に 蓄 え られ て い たCa2+は 細 胞 質 に 放 出 さ れ る.こ のCa2+ を,筋
小 胞 体 へ 再 吸 収 す る過 程 に もATPは
胞 で は,消 費 したATPを
利 用 さ れ る.運 動 中 や 運 動 後 の 筋 細
補 充 す る た め 糖(主
酸)・ ア ミノ 酸 を原 料 と してATPを
に グ ル コ ー ス)・ 脂 質(主
産 生 す る 機 構 が 活 性 化 す る.
グ ル コー ス ・脂 肪 酸 ・ア ミ ノ酸 か ら,ATPを よ うに な る.グ
に脂肪
産 生 す る 経 路 は お お よそ 図2.1の
ル コ ー ス は,細 胞 質 に あ る解 糖 系 を経 る こ とでATPやNADHを
産 生 す る.解 糖 系 の 代 謝 産 物 で あ る ピ ル ビ ン酸 は ミ トコ ン ドリ ア 内 に あ るTCA 回 路 に 入 っ て さ ら に代 謝 さ れ る.こ 肪 酸 や ア ミノ酸 の代 謝 産 物 もTCA回 成 す る.こ のNADH,FADH2の
の と きNADH,FADH2が
合 成 され る.こ
化 的 リン 酸 化(oxidative 代 謝 で は ス ク シ ニ ルCoAか を 介 す る こ とで もATPは
濃度勾
成 酵 素 を通 過 して 戻 る と き,
のNADH,FADH2か
phosphorylation)と
生
トコ ン ド リア 内 に あ る 電 子 伝 達
トコ ン ドリ ア の 内 膜 を は さん でH+の
配 が で き る.内 膜 の外 部 か ら内 部 へ とH+がATP合 こ れ と共 役 してATPが
た,脂
路 で さ ら に代 謝 され,NADH,FADH2を
もつ 電 子 が,ミ
系 を経 て 酸 素 に 渡 さ れ る 過 程 で,ミ
生 成 す る.ま
い う.さ
ら のATP合 ら に,TCA回
ら コハ ク酸 を生 成 す る過 程 でGTPが
成 を酸
路 にお ける
生 成 さ れ,こ
れ
生 成 す る.
通 常 の 運 動 で は 主 に糖 ・脂 質 がATP合
成 に用 い られ,ア
ミノ酸 の 占 め る割 合
は 少 な い と考 え られ て い る.安 静 時 や 低 強 度 の 運 動 で はATPの
産 生 に糖 ・脂 質
図2.1 ATPの
産生経路
が 利 用 され,運 動 強 度 の増 大 と と もに糖 の 占 め る割 合 が増 大 す る.運 動 開 始 か ら の 数 分 間 あ る い は 激 しい 運 動 で は,嫌 気 的代 謝 に よ るATP合
成 の 占め る 割 合 が
多 い.運 動 時 間 が 長 く な る に つ れ,好
成 の 割 合 が増 大 す
気 的代 謝 に よ るATP合
る. グ ル コ ー ス か ら も脂 肪 酸 か ら も酸 化 的 リ ン酸 化 を 介 してATPが グ ル コ ー ス か らは 解 糖 を 介 して もATPが
産 生 さ れ,こ
合 成 さ れ る た め 基 質準 位 の リ ン酸 化(substrate-level れ る.解 糖 に よるATP産 コ ー ス を基 質 と してATP産 と(2)酸
れ は 基 質 か ら直 接ATPが phosphorylation)と
生 は酸 化 的 リ ン酸 化 に よ るATP産 生 す る こ との 特 徴 は,解
産 生 され る.
も呼 ば
生 よ り も速 い.グ
糖 系 の(1)速
いATP産
ル 生
素 を 必 要 と しな い 点 に あ る.
収 縮 した骨 格 筋 で利 用 さ れ る グ ル コー ス の 由 来 は,肝 臓 か ら血 流 を介 して 骨 格 筋 へ と供 給 され た もの や,筋 細 胞 内 にあ る グ ル コー ス の貯 蔵 形 態 で あ る グ リ コ ー ゲ ンが 分 解 され た もの で あ る.運 動 後 数 時 間 は骨 格 筋 の糖 取 り込 み速 度 が 増 大 す る.運 動 に よっ て 減 少 した グ リ コー ゲ ン は こ の と き骨 格 筋 に再 蓄 積 さ れ る.
2.2 GLUT4の
トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン と 糖 輸 送 促 進
a. 糖 輸 送 担 体 筋 細 胞 へ の グ ル コ ー ス の 供 給 に 関 して,糖 (glucose transport)と
が 細 胞 膜 を 通 過 す る過 程 を糖 輸 送
い う.グ ル コ ー ス は 低 分 子 で あ るが,親 水 性 で あ る た め疎
水 性 の細 胞 膜 を そ の ま まで は透 過 す る こ とが で きな い.グ る糖 輸 送 担 体(glucose
transporter)を
ル コー ス は細 胞 膜 に あ
介 して細 胞 内 に流 入 す る.筋 細 胞 に 限 ら
ず ほ とん どす べ て の 組 織 で糖 輸 送 担 体 は 発 現 し て お り,構 造 や機 能 か ら二つ の グ ル ー プ に大 別 され る1). 一 つ は,濃
度 勾 配 に 従 っ た糖 輸 送(促
進 拡 散)を
呼 ば れ る タ ンパ ク 質 で あ る.こ れ は 図2.2の にN末
端 やC末
端 が あ る構 造 を して い る.現
行 う糖 輸 送 担 体 でGLUTと
よ うな 細 胞 膜 を12回
貫 通 し細 胞 内
在 同 定 さ れ て い るGLUTを
に示 し た.哺 乳 類 の 骨 格 筋 に はGLUT1,3,4,5,8,10,11,12のmRNAあ
表2.1 るいは タ
ンパ ク質 の 存 在 が 報 告 され て い る.運 動 に よ っ て 骨 格 筋 の糖 輸 送 が 増 大 す る仕 組 み に はGLUT4が
関 与 す る.こ の仕 組 み につ い て は 後 で 詳 し く述 べ る.
も う一 つ の グ ル ー プ はATPaseを ば れ る.SGLTは
有 す るNa+依
存 性 の 糖 輸 送 担 体 でSGLTと
呼
濃 度勾 配 に逆 らっ た 糖 輸 送 を 行 う こ とが で き,小 腸 に お い て 消
化 し た食 物 由 来 の糖 が 吸 収 さ れ る と きや,腎 臓 に お い て 原 尿 中 に排 出 され た 糖 が 再 吸 収 さ れ る と き に関 与 す る. b. GLUT4の
トラ ン ス ロ ケ ー シ ョ ン
運 動 は,筋 細 胞 の糖 輸 送 速 度 を増 大 させ る.こ れ に はGLUT4が
関係 す る こ と
が わ か っ て い る.基 礎 状 態 に お い て 大 部 分 のGLUT4はGLUT4小
胞(GLUT4-
containing vesicle)と
して細 胞 内 部 に存 在 し糖 輸 送 に は 関 与 しな い.筋 肉 が 収 縮
図2.2 細 胞 膜 中のGLUTの
概観
表2.1
(引用 文献1よ
GLUTフ
ァ ミ リー の 特 徴
り改 変)
し た りイ ンス リ ンの 刺 激 を 受 け た りす る と,GLUT4は い はT管)へ tion)と
移 動 す る.こ のGLUT4の
い う.細 胞 表 面 上 のGLUT4が
細 胞 表 面(筋
細 胞膜 あ る
移 動 を トラ ン ス ロケ ー シ ョ ン(transloca増 加 す る こ とで,よ
り多 くの グ ル コ ー ス
が 間質 か ら細 胞 内 に流 入 す る(図2.3). 筋 収 縮 や イ ンス リ ンな どの 刺 激 を受 け た 骨 格 筋 で 糖 輸 送 速 度 が 増 大 す る主 な 理 由 は,細 胞 膜 上 のGLUT4分
子 数 が 増 加 して 最 大 輸 送 速 度(Vmax)が
とで あ る.糖 輸 送 速 度 の 増 大 に はGLUT4そ
増加 す る こ
の もの の 構 造 が 変 化 し て,GLUT4
1
分 子 当 た りの 輸 送 速 度 の亢 進(輸 送 比 活 性 の 亢 進)が 寄 与 す る可 能 性 も考 え られ る.し
か し,ラ
ッ ト骨 格 筋 を用 い た 研 究 か ら,細 胞 表 面 のGLUT4分
送 速 度 は 緊密 に 相 関 す る こ とや2),グ
子 数 と糖 輸
ル コ ー ス に対 す る基 質 親 和 性(Km)は
変化
しな い こ とか ら3,4),仮に輸 送 比 活 性 の 亢 進 が 生 じて い る と して もそ の役 割 は大 き くな い も の と考 え られ る. 活 動 筋 で は筋 血 流 が 増 加 して,筋 細 胞 へ の酸 素 や エ ネ ル ギ ー基 質 の 供 給 が 促 進 さ れ る.酸 素 に 関 して は,血 液 中 か ら筋 組 織 へ の 拡 散 に よ っ て酸 素 供 給 が 行 わ れ る た め,血 流 は きわ め て重 要 な 役 割 を 有 す る.一 方,骨 格 筋 が グ ル コ ー ス を 代 謝
図2.3 IRS:イ
骨 格 筋 のGLUT4ト
ン ス リ ン 受 容 体 基 質(insulin
protein
kinase,
kinase,
AMPKK:AMPK
Cr:ク
レ ア チ ン,
ラ ンス ロ ケ ー シ ョ ン機 構
receptor CrP:ク
substrate),CaMK:Ca2+/calmodulin-dependent
レ ア チ ン リ ン 酸,
AMPK:5′-AMP-activated
protein
kinase
し利 用 す る 場 合,虚
血 や 阻血 の な い 通 常 の状 況 で は血 流 が 制 限 因子 とは な らず,
グ ル コー ス が 細 胞 膜 を通 過 して 細 胞 内 に取 り込 まれ る 糖 輸 送 過 程 が 律 速 段 階 と な る と考 え られ て い る5,6). 筋 収 縮 に伴 う糖 輸 送 速 度 の 増 大 は 収 縮 終 了 後 も数 時 間 持 続 す る.こ れ まで に詳 細 な 検 討 は行 わ れ て い な い が,収 縮 の 強 度 や 時 間 に よ っ て,糖 輸 送 の持 続 時 間や 程 度 が 規 定 され る こ とが 予 想 さ れ る.筆 者 らが,単 離 した ラ ッ ト骨 格 筋 を用 い て 行 っ た 検 討 で は,緩 52%の
衝 液 中 で10分
間 の 電 気 刺 激 に よ る筋 収 縮 終 了60分
後 に,
糖 輸 送 活 性 の残 存 を認 め て い る7).
2.3 筋 収 縮 が 糖 輸 送 を 促 進 す る メ カ ニ ズ ム a. 筋 収 縮 は筋 細 胞 内 の代 謝 変 化 を感 知 して 糖 輸 送 を促 進 す る 運 動 を行 っ た と き,糖 輸 送 が促 進 す る の は実 際 に収 縮 を行 っ た筋 で あ る.収 縮 して い な い筋(非
活 動 筋)で
は糖 輸 送 速 度 を増 大 させ る こ と は不 要 で あ り,実 際
に糖 輸 送 は促 進 さ れ な い.し
た が っ て,活 動 筋 に の み惹 起 され て,非 活 動 筋 に は
惹 起 され な い 糖 取 り込 み 速 度 増 大 の メ カニ ズ ムが 存 在 す る こ と に な る.筋 の 収 縮
は イ ン ス リ ン な どの 液 性 因 子 や 神 経 性 調 節 を 介 す る こ とな しにGLUT4の
トラ ン
ス ロ ケ ー シ ョ ン を惹 起 す る こ とが で きる.こ れ は 骨 格 筋 を単 離 して 緩 衝 液 中 で 電 気 刺 激 に よ っ て 収 縮 させ る と,筋 が 緩 衝 液 中 の 糖 を 取 り込 む こ とで 確 認 さ れ て い る8).後 述 す る イ ン ス リン 依 存 的 糖 輸 送 促 進 と区 別 さ れ,筋 収 縮 に よ る糖 輸 送 促 進 は イ ン ス リ ン非 依 存 的 糖 輸 送 促 進 と呼 ば れ る. 筋 収 縮 に と も な う筋 細 胞 の変 化 は 多 様 で あ り,収 縮 時 の筋 細 胞 は,細 胞 内 エ ネ ル ギ ー状 態 に 関 連 す る物 質(AMP,ATP,ク ど)やCa2+濃
度,pH,酸
レ ア チ ン リ ン酸 ,グ
化 還 元 状 態 の 変 化,細
リ コー ゲ ン な
胞 壁 や 細 胞 骨 格 の 収 縮 と伸 張 な
ど多 様 な代 謝 的,機 械 的刺 激 に さ ら され て い る.こ れ らの い ず れ もがGLUT4の トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンを 生 じ る細 胞 内 シグ ナ ル伝 達 カス ケ ー ドの 起 点 と な る 可 能 性 が あ り,こ れ ま で に 多 くの 仮 説 が 提 唱 され て き た.こ な,細
胞 内 の エ ネ ル ギ ー状 態 の 変 化 やCa2+濃
こ で は,現
時点 で有力
度 の 変 化 を起 点 とす る カ ス ケ ー ド
お よ び,最 近 報 告 され た酸 化 還 元 状 態 の 関与 につ い て紹 介 す る. b. エ ネ ル ギ ー状 態 の 変 化 と糖 輸 送 促 進 1) エ ネ ル ギ ー 状 態 の低 下 と5′-AMP-activated 動 に よ っ て 消 費 され たATPはADPと late kinase)に
よ っ てAMPへ
示 した.ATPや
運
な り,こ れ が ア デ ニル 酸 キ ナ ー ゼ(adeny
と変 え られ る.ま
生 に ク レ ア チ ン リ ン酸 が 使 用 され,ク
protein kinase活 性 化
た,運 動 初 期 に は迅 速 なATP再
レア チ ンが 生 成 す る.こ の 様 子 を 図2 .4に
ク レア チ ン リ ン酸 の 減 少,AMPや
ク レ ア チ ンの 増 大 は,エ
ギ ー 状 態 低 下 の指 標 と な る.
図2.4 筋 収 縮 は高 エ ネ ル ギ ー リ ン酸 化 合 物 を消 費す る
ネル
筋 収 縮 が 引 き 起 こ す 糖 輸 送 の 促 進 はATPや す る9)こ と か ら,筋
細胞 の
ク レ ア チ ン リ ン酸 の 減 少 量 と 相 関
「エ ネ ル ギ ー セ ン サ ー 」 と し て 働 く分 子 が 糖 輸 送 速 度
の 増 強 に 関 与 す る こ とが 想 定 さ れ て い た.こ を 備 え て い る 分 子 と し て5′-AMP-activated
の エ ネ ル ギ ー セ ンサ ー と して の性 質 protein kinase(AMPK)が
注 目 さ れ,
多 く の 研 究 者 に よ っ て 筋 収 縮 に よ る 糖 輸 送 促 進 と の 関 与 が 示 さ れ て き た. AMPKは
そ の 名 称 の 由 来 と な っ たAMPに
少 の 指 標 で あ るAMP:ATP比
の 上 昇,ク
と も な っ て 活 性 化 さ れ る10).AMPの 性 化 す る.さ
る 構 造 変 化 は 直 接AMPKを く し,脱
結 合 は ア ロ ス テ リ ッ ク な 作 用 でAMPKを kinase(AMPKK)に
リ ン 酸 化 に よ っ て もAMPKは
解 離 す る こ と でAMPK活
ネ ル ギ ー減
レ ア チ ン:ク レ ア チ ン リ ン酸 比 の 上 昇 に
ら に 上 流 分 子 で あ るAMPK
ッ ト(Thr172)の やAMPが
よ っ て だ け で は な く,エ
活
よる αサブユ ニ
活 性 化 す る11).逆
性 は 低 下 す る.AMPが
に,脱
リ ン酸 化
結 合 す る こ とで 生 じ
活 性 化 す る だ け で な く,AMPKを
リ ン酸 化 さ れ や す
リ ン 酸 化 さ れ に く くす る.
一 般 的 に,AMPKの
活 性 化 と 糖 輸 送 促 進 に は 強 い 関 連 が 認 め ら れ る.AMPK
活 性 化 剤 で あ る5-aminoimidazole-4-carboxamide-1-β-D-ribonucleoside (AICAR)を GLUT4量
ラ ッ ト骨 格 筋 に 作 用 さ せ る とAMPK活 が 増 加 し,糖
い 強 度,長 し,こ
性 化 とと もに細 胞膜 上 の
輸 送 が 促 進 す る12,13).ま た,ラ
ッ ト骨 格 筋 の 検 討 で,高
時 間 の 運 動 や 高 い 張 力 を 発 揮 す る 運 動 ほ どAMPKが
の 活 性 化 と と も に 糖 輸 送 が 促 進 す る7,14).逆 に,ラ
十 分 な 食 事 を 与 え,グ supercompensated 制 さ れ る15).ま
ッ トを 運 動 させ た 後 に
リ コ ー ゲ ン を 前 値 以 上 に 蓄 積 さ せ た 骨 格 筋(glycogen-
muscle)で た,筋
は,筋
収 縮 に よ るAMPK活
収 縮 以 外 に も,低
酸 素,浸
性 化 と糖 輸 送 促 進 が 抑
透 圧,酸
化 的 リ ン酸化 阻害 剤 な
ど に よ っ て 筋 細 胞 の エ ネ ル ギ ー 状 態 を 低 下 さ せ て も,AMPK活 輸 送 促 進 が 観 察 さ れ る16).さ のAMPK活
ら に,kinase-dead
AMPKは
強 制 発 現 させ て 骨 格 筋
格 筋 に は α サ ブ ユ ニ ッ トが2種
久 運 動 レベ ル の 運 動(50∼70%Vo2max)を60分
むAMPK(AMPKα2)の
収 縮 に よ
抑 制 さ れ る17).
α ・β ・γ サ ブ ユ ニ ッ トか ら な る 三 量 体 で,そ
ニ ッ トに 存 在 す る.骨 る.持
AMPKを
性 化 と と も に糖
性 を 抑 制 し た ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス の 骨 格 筋 で は,筋
る 糖 輸 送 促 進 が 対 照 マ ウ ス の60∼70%に
よ り 強 く活 性 化
み が 活 性 化 さ れ る が18),自
の触 媒 部 位 は αサ ブユ
類(α1,α2)発
現 して い
間 行 っ た 場 合 で は α2を 含 転 車 運 動 を30秒
間全 力 で 行
っ た 場 合 α1を 含 むAMPK(AMPKα1)が と か ら,AMPKは
あ わ せ て 活 性 化 さ れ る19).こ
運 動 強 度 の 増 加 に 伴 っ て ま ずAMPKα2が
上 が る とAMPKα1も
く,AMP濃
活 性 化 さ れ,強
活 性 化 さ れ る と考 え ら れ て い る.AMPKα2を
化 さ せ る 機 序 の 一 つ と し て,AMPKα2はAMPKα1に
比 べ てAMP依
は 異 な る 性 質 が 観 察 さ れ て い る が,薬
度が
優 先 的 に活 性 存性 が大 き
度 の 上 昇 に 鋭 敏 に 応 答 す る こ と が 考 え ら れ て い る20).こ
AMPKα1とAMPKα2で
れ らの こ
の よ うに
理刺激 や遺伝子操
作 に よ っ て 片 方 の ア イ ソ フ ォ ー ム の み が 活 性 化 す る 条 件 を 用 い た 検 討 か ら7,21∼24), い ず れ の ア イ ソ フ ォ ー ム も 糖 輸 送 促 進 に 関 与 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る. 2) AMPKの
上流
が 示 唆 さ れ て い る.運 る.LKB1遺
AMPKの
上 流 で あ るAMPKKは
複数種 類存在 す るこ と
動 時 の 糖 輸 送 促 進 と 関 連 が 深 い も の にLKB1複
伝 子 はSTK11と
も い い,も
と も とPeutz-Jeghers症
合体 が あ
候群 におい てそ
の 変 異 が 発 見 さ れ て い た こ と か ら 癌 抑 制 遺 伝 子 と 考 え ら れ て い た.LKB1遺 の 変 異 を も つPeutz-Jeghers症 あ る.し
か し,ラ
候 群 の 症 状 はAMPKの
機 能 と無 関係 な表 現 型 で
ッ ト肝 臓 か ら 精 製 し たAMPKKの
解 析 か ら,LKB1がAMPKK
で あ る こ と が 明 ら か に な っ た25).LKB1もAMPKと ニ ン(Thr)キ
ナ ー ゼ で あ り,三
tor protein)とMO25(mouse せ26),LKB1を
伝子
同 様 に セ リ ン(Ser)・
ス レオ
量 体 を 形 成 す る.STRAD(Ste20-related
protein 25)と
の 複 合 体 形 成 はLKB1活
細 胞 質 内 へ 局 在 化 さ せ る27).LKB1複
adap 性 を増 大 さ
合 体 は 常 に 活 性 型 で あ り,
骨 格 筋 が 収 縮 し た と き に 活 性 が 増 加 す る わ け で は な い と 考 え ら れ て い る28).筋 収 縮 時 にLKB1の AMPK自
作 用 に よ っ て よ り多 く のAMPKが
身 の 構 造 変 化 に よ る もの と推 察 さ れ て い る28).筋
AMPがAMPKと
結 合 す る こ と で,AMPKが
は 細 胞 内 で リ ン 酸 化 さ れ てAMPの と 考 え ら れ て い る.LKB1を AICAR刺
リ ン 酸 化 さ れ 活 性 化 す る の は,
のLKB1を
リ ン 酸 化 さ れ や す く な る.AICAR
類 似 物 質 と な る こ と でAMPKを
有 し な い 細 胞 へLKB1を
激 に 応 答 し てAMPKが 欠 失 し た マ ウ ス で は,筋
収 縮 に よっ て 増 大 した
導 入 す る こ と に よ っ て,
リ ン 酸 化 さ れ る よ う に な る25).さ 収 縮 やAICARに
活性 化す る
よ るAMPKの
らに 骨 格 筋 中 活性化が抑 制
さ れ る29). 筋 収 縮 時 の 糖 輸 送 促 進 へ の 関 与 は 不 明 で あ る が,別 calmodulin-dependent AMPKの
protein
kinase
酵 母 に お け る ホ モ ロ グ で あ るSNF1を
のAMPKKと
kinase(CaMKK)が
し てCa2+/ あ る.ま
ず,
リ ン 酸 化 す る 酵 素 と し てPaklp,
Tos3pやElmlpが
同 定 さ れ た.こ
れ らの 哺 乳 類 に お け る ホ モ ロ グ の 中 で 最 も配
列 が 類 似 して い る キ ナ ーゼ がCaMKKで い てCaMKKが
精 製 したAMPKを
あ る.1995年
に は,in
し,肝 臓 か ら粗 精 製 され たAMPKK(後
にLKB1と
判 明)がCaM非
り,酵 素 の性 質 が 異 な る こ とか らin vivoのAMPKKで の 後,LKB1を LKB1以
欠 失 し た 細 胞 で もAMPKの
外 のAMPKKの
り,Ca2+やcalmodulin依
依 存的 であ
は な い とさ れ て い た.そ
リ ン酸 化 が 引 き起 こ され る こ と か ら
存 在 が 示 唆 さ れ,2005年
こ とが 示 さ れ た31).CaMKKに
vitroの 検 討 に お
リ ン酸 化 す る こ とが 確 認 さ れ て い た30).し か
よ るAMPKの
に な っ て 再 びAMPKKで
リ ン酸 化 はAMP非
ある
依 存 的に起 こ
存 的 で あ る こ とか ら32),次 に 紹 介 す る カ ル シ ウ ム シ グ
ナ ル との ク ロ ス リ ン クが 予 想 され る. c. カ ル シ ウ ム 濃 度 の 変 化 と糖 輸 送 促 進 1) 筋 収 縮 ‐弛 緩 サ イ ク ル と細 胞 内 の カル シ ウ ム 濃 度
筋 収 縮 は神 経 か らの
興 奮 が 筋 細 胞 膜 の脱 分 極 を 引 き起 こす こ とか ら始 ま る.細 胞 膜 の興 奮 は 横 行 小 管 (transverse tubule,T管)を
経 由 して 筋 細 胞 の 細 胞 質 に存 在 す る筋 小 胞 体(sar
coplasmic
伝 達 され る.SRに
reticulum,SR)に
はCa2+が
蓄 え られ てお り,興 奮
が 伝 わ る とCa2+を 細 胞 質 内 に放 出 す る.細 胞 質 内Ca2+濃
度 の 上 昇 は トロ ポ ミオ
シ ン上 に あ る トロ ポ ミ ンに 結 合 し,結 果 と して トロ ポ ミ ン の構 造 を変 化 させ る. も と も と トロ ポ ミ ン は ア クチ ン-ミ オ シ ンの 結 合 を抑 制 して い る が,ト の 構 造 が 変 化 す る こ とで 抑 制 が 解 除 され,ア
クチ ンーミ オ シ ン の 結 合 が 開 始,す
な わ ち筋 収 縮 が 開 始 す る.こ の よ う に,筋 収 縮 は筋 細 胞 内 のCa2+濃 よ っ て 起 こ る.SRに た め,細
あ るCa2+-ATPaseは
常 に,Ca2+をSRに
胞 内 に 広 が っ たCa2+は や が てSRに
ロポ ミン
度 の上 昇 に
能 動 輸 送 して い る
回収 さ れ る.
2) カ ル シ ウ ム 濃 度 の 変 化 に よ る糖 輸 送 促 進 の メ カ ニ ズ ム
前 述 した よ う に
筋 収 縮 ‐弛 緩 サ イ ク ル に お い て細 胞 内 カ ル シ ウ ム 濃 度 は ダ イ ナ ミ ッ ク に変 化 す る た め,こ
れ が 筋 収 縮 に よ る糖 輸 送 促 進 の 起 点 で あ る 可 能 性 は 古 くか ら検 討 され て
きた.筋
小 胞 体 か らのCa2+の
を用 い て,ラ
放 出 を 誘 導 す る 薬 物W-7や
ッ ト骨 格 筋 の 細 胞 内Ca2+の
カ フ ェ イ ン(caffeine)
増 加 を生 じ させ る と,そ れ に 伴 っ て 糖
輸 送 速 度 が 増 大 す る33).さ ら に,W-7に
よ る糖 輸 送 促 進 は,筋
Ca2+放 出 を 阻 害 す る薬 剤 で あ るdantroleneや9-aminoacridineに る33).ま た,AMPK活
性 化 剤 で あ るAICARと
小 胞 体 か らの よ っ て抑 制 され
カ フ ェ イ ンで 同 時 に 筋 を刺 激 した
場 合,そ
れ ぞ れ の 単 独 刺 激 よ りも糖 輸 送 速 度 が 増 大 す る(加 算 効 果)34).こ れ ら
の こ と は糖 輸 送 促 進 に 関 与 す る 経 路 と して,AMPKを
介 す る経 路 以 外 にCa2+を
介 した経 路 が 存 在 す る こ と を示 唆 す る. Ca2+濃 度 変 化 を 感 知 し て 糖 輸 送 促 進 を 誘 導 す る 分 子 メ カ ニ ズ ム に 関 し て, Ca2+感 受 性protein し な が ら,PKC阻
kinase
C(PKC)の
関与 の 可 能 性 が 検 討 され て きた.し
害 剤 の 種 類 に よ っ て 得 られ る 結 果 が 異 な る な ど14)確立 し た 見
解 は得 られ て い な い.一 方,近 年,Ca2+/calmodulin-dependent Ⅱ(CaMK で,KN62が
か
Ⅱ)が 注 目 さ れ る よ う に な り,CaMK阻 イ ンス リ ンやAICARに
protein kinase
害 剤(KN62)を
用 いた検 討
よ る骨 格 筋 糖 輸 送 を阻 害 し な い 条 件 で,カ
フ ェ イ ン に よ る糖 輸 送 を完 全 に抑 制 す る こ とや 筋 収 縮 に よ る糖 輸 送 も約50%抑 制 す る こ とが 報 告 さ れ て お り34),CaMKを
介 した 経 路 の 関 与 が 示 唆 され る.
d. 細胞 以 内 の 酸 化 還 元 状 態 の 変 化 と糖 輸 送促 進 1) 酸 化 ス トレス とは (活 性 酸 素 種,活
運 動 時 に 限 らず 安 静 時 に お い て も筋 細 胞 は 酸 化 物 質
性 窒 素 種)を
生 成 す る が(表2.2),安
静 時は 内因性の抗 酸化 物
質 に よっ て 酸 化 還 元 状 態 が 維 持 さ れ て い る.筋 収 縮 は酸 化 物 質 の 生 成 を促 進 し, 酸 化 反 応 を促 進 す る物 質(prooxidant)と
抗 酸 化 物 質 の バ ラ ンス を酸 化 側 へ と傾
け る.こ れ を酸 化 ス トレス と い う35). ミ トコ ン ド リア の電 子伝 達 系 は 酸 化 物 質 の 主 要 な発 生 源 で あ る と考 え ら れ て い る36).酸 素 が 使 わ れ る 際,一 部 の 酸 素 は 反 応 の 途 中 で 反 応 複 合 体 か ら放 出 さ れ る (図2.5).こ
の と き,酸 素 はス ー パ ー オ キ シ ドア ニ オ ン(O2・-)の
これ は 強 力 な酸 化 物 質 で あ る.前 述 の とお り筋 収 縮 は多 くのATPを 表2.2 活性酸素種と活性窒素種
形 を して お り, 消 費 しADP
図2.5 ミ トコ ン ドリ ア の 呼 吸鎖 に お け る 電 子伝 達 体 の 配 列 とス ー パ ー オ キ サ イ ドの 生 成
を 産 生 す る.酸 化 的 リ ン酸 化 に よ るATP産 る.こ
れ を呼 吸 調 節(respiratory
生 速 度 はADP濃
control)と
度 によって調節 され
い い,ADP濃
度 の増 大 は酸 化 的 リ
ン酸 化 を促 進 す る.こ の ため 筋 収 縮 は酸 化 的 リ ン酸 化 の速 度 を増 大,つ
ま り電 子
を供 与 さ れ る 酸 素 の 量 を増 大 さ せ,結 果 と してO2・-の 生 成 量 を増 大 させ る37).ま た,骨 格 筋 に は 他 の 活 性 酸 素 種 発 生 源 と して 細 胞 質 のNAD(P)H
oxidase38),細
胞 内 に浸 潤 して くる 食 細 胞 や39),キ サ ンチ ン オ キ シ ダー ゼ を有 す る上 皮 組 織 な ど が 考 え ら れ て い る40).骨 格 筋 に は2種 ronal NOS,endothelial る ため,こ
NOS)が
類 の 一 酸 化 窒 素(NO)合
成 酵 素(neu
発 現 して お り,運 動 時 に はNOの
産 生が増大す
れ も活 性 窒 素 種 と して 酸 化 ス トレス に関 与 す る とい え る41).
2) 酸 化 ス トレ ス に よ る骨 格 筋 糖 輸 送 促 進
骨 格 筋 は,収 縮 が起 こ る た び に
酸 化 物 質 の 生 成 を促 進 し て酸 化 還 元 状 態 のバ ラ ンス を変 化 させ る た め,こ の 変 化 を シ グ ナ ル と し て利 用 す る 組 織 と考 え られ る.ま
た,酸 化 物 質 はATPの
産生機
構 か ら発 生 す る た め,酸 化 ス トレス はエ ネ ル ギ ー 代 謝 を調 節 す る と考 え られ る. 1990年 に はH2O2を
含 む 緩 衝 液 中 で,ラ
ッ ト単 離 骨 格 筋 を処 理 す る と筋 の 糖 輸
送 速 度 が 増 大 す る こ とが 報 告 さ れ た42).こ の と きH2O2は
イ ンス リ ン様 の 作 用 を
もつ と だ け 考 え られ て お り,糖 輸 送 促 進 の 機 序 は 検 討 さ れ て い な か っ た.そ 後,活
性 窒 素 種 で あ るNOを
prusside(SNP)も H2O2に
供 給 す る 試 薬(NO
donor)で
あ るsodium
の
nitro
単 離 骨 格 筋 の糖 輸 送 を促 進 す る こ とが 報 告 さ れ た22).ま た,
よ る糖 輸 送 促 進 は抗 酸 化 剤 で あ るN-ア
セ チ ル シ ス テ イ ン に よ って 抑 制 さ
れ た23).こ れ ら の報 告 は酸 化 ス トレ ス が 骨 格 筋 に お い て 糖 輸 送 を促 進 す る こ と を
示 唆 す る. 酸 化 ス トレス に よ る糖 輸 送 促 進 に はAMPKが い る.SNPやH2O2はAMPKα1を
下 を伴 っ て い な い22,23).一方,AMPKα2は ス は 細 胞 内AMP量 AMPKを
関 与 して い る こ とが 示 唆 さ れ て
活 性 化 し,こ の 活 性 化 は エ ネ ル ギ ー状 態 の低
の 増 大,す
活 性 化 され ない こ とか ら,酸 化 ス トレ
な わ ち エ ネ ル ギ ー 状 態 の 低 下 とは 異 な る経 路 で
活 性 化 す る と考 え ら れ る.何
が 酸 化 ス トレ ス を感 知 し て い るか は 明 ら
か で は な い が,酸 化 ス トレス に よ るAMPKα1の 化 を 伴 う こ と か ら,AMPKα1の
活 性 化 はAMPKKに
よ る リ ン酸
上 流 に は 酸 化 ス トレス セ ンサ ー が 存 在 す る こ と
が 示 唆 され る.
2.4 運 動 に よ る イ ン ス リ ン 感 受 性(イ
ン ス リ ン 依 存 性 糖 輸 送)の
亢進
a. イ ン ス リン に よ る糖 輸 送 促 進 イ ン ス リ ン は〓 臓 のB細 チ ド(A鎖,B鎖)が ず,プ
胞 で 産 生 され るペ プ チ ドホ ル モ ンで あ る.2本
二 硫 化 結 合(S-S結
合)で
つ な が っ た構 造 を して い る.ま
レプ ロ イ ンス リ ンが つ く られ,小 胞 体 へ 移 動 す る と きに,ペ
が 切 り離 され て プ ロ イ ンス リ ンに な る.さ
めCペ
ンス リ ン とCペ
泌 顆 粒 中 に は イ ン ス リ ン とCペ
プ チ ドは 同 時 に 放 出 され る.こ
プ チ ドは 内 因 性 の イ ンス リ ン濃 度 の 指 標 と な る.血
ス リ ン は ヒ トで は約5分 (Tyr)キ
で 半 減 す る.イ
ナ ー ゼ で あ り,α
プ チ ドの 一 部
らに 分泌 顆 粒 に て プ ロ イ ンス リ ンか ら
Cペ プ チ ドが 切 り離 さ れ イ ンス リ ンに な る.分 プ チ ドが 等 し く存 在 し,イ
のペ プ
のた
中 に放 出 さ れ た イ ン
ン ス リ ン受 容 体 は 膜 貫 通 型 チ ロ シ ン
と β の サ ブ ユ ニ ッ トか らな る ヘ テ ロ 四 量 体 で あ る.
イ ンス リ ン受 容 体 に結 合 した イ ンス リ ンは 受 容 体 ご と細 胞 質 内 に 入 り込 み,イ
ン
ス リ ンプ ロ テ ア ー ゼ に よっ て分 解 され る.イ
ンス リ ン受 容 体 は 全 身 に普 遍 的 に存
在 す るが,分
肝 臓 や 腎 臓 で分 解 され る.
泌 され た イ ンス リ ンの 約80%は
イ ンス リ ン の生 理 作 用 は臓 器(脂 な るが,こ
れ を列 挙 す る と,糖
合 成 の 促 進,タ 化,グ
の他)に
よ って 異
・ア ミノ酸 ・K+の 取 り込 み の促 進,タ
肪 組 織,骨
格 筋,肝 臓,そ
ンパ ク 質
ンパ ク質 分 解 の抑 制,解 糖 系 酵 素 ・グ リ コ ー ゲ ン合 成酵 素 の 活 性
リ コ ー ゲ ン ホ ス ホ リ ラ ー ゼ や 糖 新 生 酵 素 の 抑 制,脂
合 成 の 促 進 な どが あ げ られ る.骨 格 筋 に お け る 作 用 は,糖
質 合 成 酵 素 のmRNA
K+・ ケ トン体 の 取 り込 み促 進,グ
輸 送 ・ア ミ ノ 酸 ・
リ コ ー ゲ ン合 成 ・タ ンパ ク 質 合 成 の 促 進,タ
ンパ ク質 分 解 の 抑 制 が あ げ られ る. イ ンス リ ン依 存 的糖 輸 送 促 進 の シ グ ナ ル は次 の よ うに伝 わ る(図2.3).イ リ ンが イ ンス リ ン受 容 体 の 細 胞 外 の 部 位 に結 合 す る と,イ 質 側 にあ るTyrキ
ンス
ンス リ ン受 容 体 の 細 胞
ナ ー ゼ が 活 性 化 す る.活 性 化 した 受 容 体 は 自身 のTyr残
基を
リ ン酸 化 し さ ら に活 性 化 す る.こ の よ う に して活 性 化 し た イ ンス リ ン受 容 体 は イ ン ス リン 受 容 体 基 質1(IRS-1)を
リ ン酸 化 す る.リ
ナ ー ゼ(phosphatidyl-inositol-3′-kinase)が る.PI3キ
ン酸 化 したIRS-1にPI3キ
結 合 して,PI3キ
ナーゼが活性 化す
ナ ー ゼ 以 後 の 経 路 は明 らか で は な い が,細 胞 膜 を構 成 す る リ ン脂 質 か
ら のphosphatidyl-inositol-3′,4′,5′-triphosphateの生 成,PDK(3′-phosphoinositide-dependent
kinase)の
活 性 化,Aktの
活 性 化 とい う経 路 が 考 え られ て い る.
イ ンス リ ン刺 激 は 最 終 的 に は細 胞 膜 上 のGLUT4量
を増 大 させ,糖
輸 送 を促 進 す
る. b. 運 動 と イ ン ス リ ン感 受 性 筋 収 縮 は イ ン ス リ ン非 依 存 的 に 糖 輸 送 を促 進 す る だ け で な く,さ ら に イ ン ス リ ン依 存 的 な糖 輸 送 促 進 を増 強 す る(イ ス リ ン感 受 性 と は,あ す43).ま た,イ う.ヒ
ン ス リ ン感 受 性 の 亢 進)作
用 が あ る.イ
ン
る濃 度 の イ ン ス リ ンが 引 き起 こ す 生 理 作 用 の 程 度 を 表
ンス リ ン に よ る 生 理 作 用 の 最 大 値 を特 に イ ンス リ ン 反 応 性 とい
トの イ ンス リ ン感 受 性 の 評 価 方 法 は 多種 多 様 で あ る.た
とえ ば,全
イ ンス リ ン状 態 に お い た と きの 糖 取 り込 み 速 度 を評 価 す る 方 法(高 常 血 糖 ク ラ ン プ法),グ ン濃 度 か らの 算 出(ミ
身を高
イ ン ス リ ン正
ル コー ス を静 注 した 際 の グ ル コ ー ス の 消 失 率 と イ ンス リ ニ マ ル モ デ ル法),空
腹 時 血 中 イ ンス リ ン濃 度,経
荷 試験 時 の 血 糖 値 と血 中 イ ンス リ ン値 か ら算 出 した値,イ
口糖 負
ンス リ ン を静 注 した 際
の血 糖 の 低 下 の 仕 方 な どが あ る.ヒ
トに お け る研 究 か ら運 動 に よ る全 身 の イ ンス
リ ン感 受 性 の亢 進 は64%Vo2max,60分
間 程 度 の 有 酸 素 運 動 を行 っ た 後 少 な くと
も2日 間 持 続 す る44). 単 離 骨 格 筋 の糖輸 送 に 関 し て,イ よる糖 輸 送 で評 価 さ れ る.ラ
ンス リ ン感 受 性 は 最 大 下 の イ ン ス リ ン刺 激 に
ッ トを用 い た 検 討 か ら,イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 は
運 動 終 了 後 数 時 間 を経 て か ら認 め られ る こ とか ら45),運 動 中 の 骨 格 筋 に お け る糖 輸 送 速 度 増 加 とは 区別 され る.こ の イ ンス リ ン感 受性 の 亢 進 も イ ンス リ ン非 依 存 的糖 輸 送 促 進 と同 様 に,運 動 を行 っ た 筋 に 限 られ る現 象 で あ り,そ の本 態 は イ ン
ス リ ン刺 激 に 対 して よ り多 くのGLUT4が のGLUT4が
トラ ン ス ロケ ー シ ョン して細 胞 表 面 上
増 加 す る こ とで あ る46).し か し な が ら,筋 収 縮 とい う刺 激 が イ ンス
リ ン シ グ ナ ル伝 達 経 路 の どの ポ イ ン トに作 用 して い る の か は明 らか で な い.運 動 後 数 時 間 を経 て イ ンス リ ン感 受 性 亢 進 が 認 め られ る状 況 下 で 採 取 した 骨 格 筋 に お け る検 討 で,イ
ンス リ ン受 容 体 か らAktま
で の シ グ ナ ル が 増 大 され て い な い こ と
(ラ ッ ト46,47),ヒト48,49)),運動 が イ ンス リ ン感 受 性 を亢 進 させ る だ け で な く低 酸 素 やH2O2刺
激 に よ る糖 輸 送 も促 進 す る こ と(ラ ッ ト42))か ら,GLUT4ト
ランス
ロ ケ ー シ ョ ン機 構 そ の もの あ る い は そ の 近 傍 に作 用 す る可 能性 が 考 え られ る . 一 方,ラ
ッ トを実 際 に運 動 させ た場 合 や 麻 酔 下 の ラ ッ トを電 気 刺 激 す る こ とで
筋 収 縮 を起 こ した場 合 と異 な り,骨 格 筋 を単 離 して 電 解 質緩 衝 液 中 で 収 縮 させ る とイ ン ス リ ン感 受 性 の 亢 進 が 起 こ ら な い42).し か し,電 解 質 緩 衝 液 中 に血 清 を添 加 して お く と イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 が 認 め られ る50).こ の こ とは,筋 収 縮 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 亢 進 に,血 清 に含 まれ る何 らか の液 性 因 子 が 関 与 す る可 能性 を示 す.そ
の 因 子 は,ト
ら分 子 量1万
リプ シ ン処 理 に よ っ て失 活 す る こ とや,限 外 濾 過 実 験 か
以 上 の 分 子 が 示 唆 され る こ とか ら,何 らか の タ ンパ ク質 で あ る こ と
が 推 定 さ れ て い る50).ま た,タ
ンパ ク 質 合 成 阻 害 剤 で あ るcycloheximideを
作用
させ て も,筋 収 縮 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 は 阻害 され な い こ とか ら,筋 細 胞 内 の タ ンパ ク質 の合 成 は 関 与 して い な い こ とが 示 唆 さ れ る. 運 動 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 は筋 グ リ コ ー ゲ ンが 多 く消 費 され る よ うな 運 動 ほ ど長 時 間持 続 し,運 動 後 の 炭 水 化 物 の 摂 取 に よ って 早 期 に低 下 す る.こ の こ と は グ リ コ ー ゲ ンが イ ンス リ ン感 受 性 の 制 御 に 直接 関 与 す る可 能 性 を示 す.し か し,両 者 は 必 ず し も相 関 せ ず47,51),グ リ コー ゲ ン 自体 が イ ンス リ ン感 受性 制 御 の 中 心 的 役 割 を担 う可 能 性 は否 定 的 で あ る.ま た,グ
リ コー ゲ ン量 と相 関 す る糖
代 謝 産 物 が イ ンス リ ン感 受 性 を規 定 す る 可 能 性 も考 え られ,そ の 観 点 か らUDPN-acetylhexosamineに
関 して の 検 討 が 行 わ れ た が,両
者 の 関 係 に は解 離 が 認 め
られ る52). Fisherら
は,ラ
ッ ト摘 出 筋 を血 清 の存 在 下 でAICARに
よ っ て刺 激 す る と,筋
収 縮 刺 激 と 同 様 に イ ンス リ ン感 受 性 が 亢 進 す る こ と を報 告 し,運 動 時 のAMPK 活 性 化 が 関与 す る可 能 性 を明 らか に した47).同 様 の処 置 を初 代 ヒ ト筋 細 胞 に 施 し て もイ ンス リ ン感 受 性 亢 進 が 惹 起 され な い こ とか ら53),幼 弱 筋 細 胞 と成 熟 筋 細 胞
に お け る何 らか の 差 異 が イ ンス リ ン感 受 性 亢 進 の 有 無 を決 定 して い る こ と が示 唆 さ れ る. Kimら
は,ラ
ッ ト単 離 筋 を 用 い て,さ
受 性 の 関 係 を調 べ た検 討 か ら,グ
ま ざ ま な 条 件 の 筋 収 縮 とイ ン ス リ ン感
リ コ ー ゲ ン の 減 少 やAMPK活
性 化 を 惹 起 して
もイ ンス リ ン感 受 性 亢 進 を認 め な い 場 合 が あ る こ とを 報 告 し て い る54).さ らに 近 年,Geigerら はp38MAPKの 活 性 化 剤anisomycinが 血 清 の非 存 在 下 で,グ リ コ ー ゲ ンの 減 少 を 伴 わ ず に イ ンス リ ン感 受 性 を亢 進 す る こ と を報 告 した55).し か し,p38MAPKの
阻 害 剤 で あ るSB-202190は
を 阻 害 し な い こ とか ら,anisomycinに
筋 収 縮 に よ る イ ンス リ ン感 受 性 亢 進
よ るp38MAPK以
外 の 何 らか の シ グ ナ ル
が イ ンス リ ン感 受 性 に 関 与 す る こ と を示 唆 す る.筋 収 縮 に よる イ ンス リ ン感 受 性 の 亢 進 に は そ の 制 御 に 関与 す る生 理 的 因 子 が 複 数 あ り,そ れ らの 因 子 の複 合 的 な 絡 み 合 い の 中 で 成 立 して い る可 能 性 が 高 い と考 え られ る.
2.5 イ ン ス リ ン 作 用 調 節 と 食 品 成 分 a. イ ン ス リ ン の分 泌 調 節 ヒ トに お い て 血 中 の グル コ ー ス 濃 度(血 糖)が のB細
胞 は イ ンス リ ン を分 泌 す る.ま
た イ ンス リ ンが 分 泌 され,続
約80mg/dlを
超 え る と,〓 臓
ず 急 峻 な応 答 と してB細
胞 中 に蓄 え ら れ
い て新 た に合 成 され た イ ンス リ ンが 分 泌 さ れ る.グ
ル コ ー ス に 応 答 した イ ン ス リ ン 分 泌 は 以 下 の よ う に し て 起 こ る(図2.6). GLUT2を
介 してB細
はATP感
受 性K+チ
胞 に 流 入 した グ ル コ ー ス がATP産 ャ ネ ル を 閉 じ る た め,細
る.脱 分 極 はCa2+を 細 胞 質 内へ 流 入 さ せ,こ
生 に使 用 さ れ る.ATP
胞 内 にK+が 蓄 積 し て 脱 分 極 が 起 こ の 細 胞 質 内Ca2+濃
度の増加 が イ ン
ス リ ン分 泌 を促 進 す る. グ ル コ ー ス に 限 らず,B細 分 泌 を促 進 す る.た な ど),β-ケ が,消
胞 で 代 謝 さ れ てATPを
と え ば,マ
ト酸 な どが あ る.つ
ンノ ー ス,フ
産 生 す る 基 質 は イ ンス リ ン
ル ク トー ス,ア
ミノ 酸(Leu,Arg
ま り,食 事 中 の 炭 水 化 物 ・脂 質 ・タ ンパ ク 質
化 ・吸 収 され る と,い ず れ もが イ ン ス リ ン の 分 泌 を促 進 す る こ と に な る.
実 際,炭
水 化 物 ・脂 質 ・タ ンパ ク質 いず れ を経 口 摂 取 し て も,イ
ンス リ ン の 分 泌
は促 進 す る. 上 述 した グ ル コー ス 濃 度 の 上 昇 か らイ ンス リ ン分 泌 ま で の経 路 の 途 中 を刺 激 す
図2.6 血 中 グ ル コ ー ス 濃 度 の増 加 に応 答 し て 〓 臓 のB細
胞が
イ ンス リ ンを分泌 す る経 路
る こ とで も,イ
ンス リ ンは分 泌 され る.経 口摂 取 で 血 糖 降 下 作 用 の あ る ス ルホ ニ
ル ウ レア剤 は,ATP感 促 進 す る.B細
受 性K+チ
胞 のcAMPを
ャ ネ ル を 閉 じ させ る こ とで,イ
増 大 させ る刺 激(β-ア
ゴ ン,ホ ス ホ ジエ ス テ ラ ー ゼ 阻 害剤)も 胞 質 内Ca2+濃
ンス リ ン分 泌 を
ド レナ リ ン作 用 薬,グ
ルカ
イ ンス リ ン分 泌 を促 進 す る.こ れ は,細
度 の 増 加 を介 して い る と考 え られ て い る.カ テ コ ラ ミ ンは α2受 容
体 を介 して イ ンス リ ン分 泌 を阻 害 し,β 受 容 体 を 介 して イ ンス リ ン分 泌 を促 進 す る.ま た,そ
の 他,交
感 神 経 系 や 消 化 管 ホ ル モ ンに よ っ て も イ ン ス リ ン分 泌 は 調
節 され て い る. b. グ ル コ ー ス ・ア ミノ 酸 ・脂 肪 酸 と骨格 筋 イ ン ス リ ン作 用 グル コー ス,ア
ミ ノ酸,脂 肪 酸 あ るい は トリグ リセ ロ ー ル の 血 中濃 度 は 運 動 や
食 事 に応 答 して 上 下 す る もの で あ る が,こ れ らの い ず れ か を 高 値 に維 持 し続 け た 場 合(1∼3時
間)に
は末 梢 組 織,特
が 示 さ れ て い る56∼58).一方,数
に骨 格 筋 で イ ンス リ ン作 用 が 減 弱 す る こ と
週 間 以 上 の食 事 成 分 に 関 して,こ
れ らの 割 合 を
推 奨 され る量 よ り高 値 に した もの を摂 取 し続 け た場 合 に,イ
ンス リ ン感 受 性 が 低
下 す る か は現 在 の と こ ろ知 見 が 不 足 して い る59).以 下 に,食
品の基本成分 である
グ ル コ ー ス,ア
中濃 度 上 昇 が,イ
ミ ノ酸,脂
肪 酸 の急 性 的 な(1∼3時
間)血
ン
ス リ ンの糖 代 謝 に 対 す る作 用 を 減 弱 させ る こ とを 紹 介 す る. 1) グ ル コ ー ス
高 グ ル コー ス に よ る イ ンス リ ン感 受 性 の低 下 は糖 毒 性 と呼
ば れ る 高 血 糖 の 弊 害 の一 つ で あ る.単 離 筋 や 下 肢 筋 の還 流 系 な ど,多
くの 動 物 モ
デ ル の 検 討 か ら3時 間 以 上 の 高 血 糖 状 態60∼62)が,イ ンス リ ン に よる 全 身 の 糖 利 用 あ る い は骨 格 筋 の糖 輸 送 を 減 弱 させ る こ とが 示 さ れ て い る.ヒ り,た
とえ ば1型 糖 尿 病(〓B細
こ る糖 尿 病)の
トで も同 様 で あ
胞 の破 壊 に よ る イ ンス リ ンの 欠 乏 の た め に起
患 者 を 用 い た実 験 で は24時
間 の 高 血 糖 状 態 が,イ
ンス リンに よ
る 糖 利 用 を減 少 させ る こ とを 報 告 して い る63). 高 グ ル コ ー ス に よ る骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 の 低 下 は,筋 を正 常 グル コ ー ス 濃 度 下 に お くこ とで 回復 す る こ とが 示 唆 さ れ て い る56).2型 糖 尿 病(イ
ンス リ ン
の 作 用 不 足 に よ っ て起 こる糖 尿 病)患 者 の骨 格 筋 で は健 常 人 に比 べ て イ ンス リ ン 刺 激 に よ る糖 輸 送 は減 弱 して い る.こ
の 筋 肉 を4mMグ
ル コ ー ス 存 在 下 で2時
間 処 理 す る と,健 常 人 と同程 度 まで 糖 輸 送 活 性 が 回復 す る. 約3時
間 の 高 グ ル コ ー ス暴 露 だ けで は ラ ッ ト単 離 骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 低
下 が 起 こ らな い51).し か し,イ ン ス リ ン存 在 下 の 高 グ ル コー ス 下 で は イ ンス リ ン 感 受 性 低 下 が 起 こ る こ とか ら,細 胞 内 に過 剰 に流 入 した グ ル コ ー ス が 何 らか の作 用 を して い る こ とが 示 唆 され る.高 序 と して,グ と,ΡKCの
グ ル コ ー ス に よる イ ン ス リ ン感 受 性 低 下 の機
リ コ ー ゲ ンの 蓄 積 がGLUT4の
トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンを 阻 害 す る こ
活 性 化 が イ ン ス リ ン シ グナ ル伝 達 を阻 害 す る こ と,取
り込 まれ た糖
の 代 謝 産 物 の 一 つ で あ る ヘ キ ソサ ミ ンの 蓄積 が 糖 輸 送 を 阻害 す る こ とな どが 想 定 さ れ て い るが,い
ず れ の経 路 も解 離 が 認 め られ て い る51).一 方,mRNA合
害 剤 で あ るactinomycin
Dや
成 の阻
タ ンパ ク 質 合 成 の 阻害 剤 で あ るcycloheximideが
高
グ ル コー ス に よ る イ ンス リ ン感 受 性 の低 下 を 抑 制 す る こ とか ら,何 らか の タ ンパ ク質 の発 現 が 関 与 す る もの と考 え られ る. 2) ア ミノ 酸
ア ミノ酸 は〓 臓 のB細
胞 に作 用 して イ ン ス リ ン分 泌 を促 進
し,肝 臓 に お い て グ ル コー ス へ 新 生 さ れ る基 質 とな る.ま 検 討 か ら ア ミ ノ酸 は,イ
た,培 養 細 胞 を用 い た
ンス リ ンに よ る糖 輸 送 を 阻 害 し64),糖 輸 送 に関 わ る イ ン
ス リ ン シ グ ナ ル を減 弱 させ る65).こ の よ う に糖 代 謝 調 節 にお け る ア ミノ酸 の 関与 が 示 唆 され る こ と か ら,ア 検 討 さ れ た.2002年
ミノ酸 の血 中濃 度 増 加 が グ ル コ ー ス 代 謝 に影 響 す るか
にKrebsら
は,イ
ンス リ ン,グ ル カ ゴ ン,成 長 ホ ル モ ン,
コ ル チ ゾ ル を一 定 に保 っ た状 態 で,ヒ の2倍
濃 度 に維 持 した57).60分
糖 取 り込 み 率 が 約25%減 し た.細 胞 内 のG6P濃
トの 静 脈 に ア ミノ酸 を 直接 注 入 して 対 照 群
間 の ア ミノ 酸 投 与 で 高 イ ンス リ ン下 で の 全 身 の
少 し,骨 格 筋 内 のG6P(glucose-6-phosphate)も
減少
度 減 少 は 基 質 酸 化 の 競 合 が 起 こ る よ り先 に,糖 輸 送 過 程
が 阻 害 さ れ る こ と を示 唆 す る. ヒ トへ の ア ミノ 酸 の 静 脈 投 与 は,イ
ンス リ ン刺 激 に よ る骨 格 筋 のIRS-1
associ
ated PI3キ ナ ー ゼ の 活 性 を低 下 させ る こ とが 示 され て い る66).ア ミノ 酸 の投 与 に よっ てIRS-1のSer636/639の
リ ン酸 化 が 増 大 して い る こ とや,S6
kinase 1が 活
性 化 し て い る こ とか ら,こ れ らが イ ンス リ ン シ グ ナ ル の 阻 害 に 関与 す る こ とが示 唆 され る.し か し,こ の と きPI3キ
ナ ー ゼ の 下 流 で あ るAktは
イ ンス リ ンに対 し
て正 常 に応 答 して い る と い う矛 盾 が あ り,糖 輸 送 の 阻害 は まだ 明 らか に さ れ て い な い シ グナ ルが 原 因 で あ る と思 わ れ る. 3) 脂
質
イ ンス リ ン抵 抗 性 と肥 満 や 血 中脂 質 濃 度 に は しば しば 相 関が み
られ る67,68).この た め 脂 質 あ る い は脂 肪 酸 の 血 中濃 度 の上 昇 が 直 接 全 身 の 糖 質 利 用 や 骨 格 筋 の糖 輸 送 段 階 を抑 制 す る と考 え られ て い る.静 脈 に トリ グ リセ ロ ー ル とLPL(lipoprotein
lipase)活 性 化 作 用 を もつ ヘ パ リ ン を ヒ トに投 与 して,生 理
食 塩 水 を投 与 した 対 照 群 に比 べ 血 中 トリ グ リセ ロー ル濃 度 を8倍,血
中遊離脂肪
酸 濃 度 を10倍 に した 検 討 が あ る58).血 中 脂 質濃 度 の 上 昇 を保 ち 続 け る と,約1.5 時 間 で 筋G6P含 LPLは
量 が,約3時
間 以 上 で 全 身 の糖 質 利 用 が 低 下 し始 め る.な お,
トリグ リセ ロ ー ル を脂 肪 酸 と グ リ セ ロ ー ル に 加 水 分 解 す る 酵 素 で あ る.
脂 肪 酸 が イ ンス リ ン感 受 性 を 阻 害 す る メ カ ニ ズ ム の 解 明 は ア ミ ノ酸 の場 合 と ほ ぼ 同 様 の 状 況 で あ る.従 来 は 基 質 酸 化 の 競 合 が 考 え られ て い た が,G6Pの
減少
が示 唆 す る よ うに糖 輸 送 過 程 あ る い は 流 入 した グ ル コー ス の リ ン酸 化 過 程 が 原 因 の よ う で あ る.脂 質 の 注 入 は骨 格 筋 のIRS-1 させ るが,PI3キ
associated PI3キ ナ ー ゼ 活 性 を低 下
ナ ー ゼ の 下 流 で あ る は ず のAkt活
高 脂 肪 食 を 食 べ 続 け る と,イ
性 を変 化 させ な い69).
ン ス リ ン感 受 性 が 低 下 す る こ とが 想 定 され て い
る.し か し高 脂 肪 食 が 身 体 の 脂 肪 含 量 の 増 加 と独 立 して イ ンス リ ン感 受 性 を低 下 させ る か は,い
ま だ 十 分 な証 明 が な さ れ て い ない.た
だ し,高 脂 肪 食 の 摂 取 は カ
ロ リー摂 取 過 多 に 陥 りや く,肥 満 と並 行 して イ ンス リ ン感 受 性 を低 下 す る危 険性 が 高 い とい え る.
食 品 中 の 脂 肪 酸 は,飽 和 脂 肪 酸,一 ンス 脂 肪 酸,n-3脂
価 不 飽 和 脂 肪 酸,多 価 不 飽 和 脂 肪 酸,ト
ラ
肪 酸 に分 け られ る.食 事 由 来 の脂 肪 酸 が イ ンス リ ン感 受 性 を
低 下 させ る か は,単 純 に高 脂 肪 食 とい う だ け で な く,脂 肪 酸 の 種 類 を も区 別 した 検 討 が 必 要 で あ る.こ の 観 点 に お い て 高 飽 和 脂 肪 酸 食 と高 一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 食 を 健 常 者 に3ヵ 月 間摂 取 させ た場 合 の イ ンス リ ン感 受 性 を比 較 した検 討 が あ る.高 一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 食 は総 脂 肪 摂 取 量 が37%以 下 の 場 合 に 限 り,イ ン ス リ ン感 受 性 を改 善 した70).し か し一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 が 糖 尿 病 患 者 にお い て 絶 食 時 の 血 糖 値 や,長
期 的 な 血 糖 コ ン トロ ー ル の 指 標 で あ るHbA1cを
改 善 す る こ と は現 在 の と
こ ろ 示 され て い な い.
2.6 糖 尿 病 の 運 動 療 法 運 動 は糖 尿 病 治 療 の う えで も重 要 な位 置 を 占 め,食 事 療 法 ・薬 物 療 法 と並 ん で 糖 尿 病 治 療 の 三 本 柱 の 一 つ と され て い る.運 動 に よ る血 糖 降 下 作 用 は これ ま で に 紹 介 した,収
縮 した骨 格 筋 で 糖 取 り込 み が促 進 す る こ と を利 用 して い る.一 つ は
運 動 終 了 後 数 時 間 まで 続 く イ ンス リ ン非 依 存 的糖 輸 送 促 進 で あ る.も
う一 つ は,
運 動 後 数 時 間 を経 て 認 め られ る イ ンス リ ン感 受性 の 充 進 で あ る.こ れ らの 二 つ の メ カ ニ ズ ム は,糖 下)や
尿 病 患 者 に お け る イ ン ス リ ン抵 抗 性(イ
ン ス リ ン感 受 性 の低
イ ンス リ ン分泌 不 全 に拮 抗 す る作 用 を有 し,糖 代 謝 を数 時 間 か ら数 日間 に
わ た っ て活 性 化 す る.さ
らに,運 動 トレー ニ ング はGLUT4量,筋
肉 量 を増 加 さ
せ る こ とで も糖 取 り込 み 能 力 を 増 大 させ る.こ の よ う な 運動 刺 激 に 対 す る骨 格 筋 の 応 答 は,糖 尿 病 の予 防 お よ び 治 療 の た め に 有 効 な 手 段 で あ る と考 え られ る. 運 動 に よ る血 糖 降 下 作 用 は,イ る.肥
ン ス リ ン抵 抗 性 状 態 の 骨 格 筋 で も正 常 に起 こ
満 ・高 イ ン ス リ ン血 症 を特 徴 とす る イ ン ス リ ン抵 抗 性 モ デ ル 動 物 で あ る
Obese Zuckerラ るGLUT4の
ッ トは,骨 格 筋 のGLUT4総
量 に変 化 は な い が,イ
ンス リ ンに よ
トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンが 顕 著 に低 下 し て い る.し か し,こ の 動 物 で
も筋 収 縮 に よ るGLUT4の る71).ま た,3週
トラ ンス ロ ケ ー シ ョ ンや 糖 取 り込 み は正 常 に 惹 起 さ れ
間 の 高 脂 肪 食 負 荷 に よ っ て イ ンス リ ン抵 抗 性 を誘 導 した ラ ッ ト
に お い て も運 動 に よ る糖 輸 送 は正 常 に 促 進 し72),運 動 後 の イ ン ス リ ン感 受 性 も亢 進 す る73).こ れ らの知 見 と符 合 す る よ う に,イ 病 患 者 で も運 動 に よ っ てGLUT4は
ンス リ ン抵 抗 性 を呈 す る2型 糖 尿
トラ ンス ロケ ー シ ョ ンす る こ とが 示 唆 さ れ て
お り74),運 動 後 は全 身 の 糖 取 り込 み 速 度 が 増 大 す る75). 運 動 の 繰 り返 し(運 動 トレー ニ ン グ)はGLUT4の
総 量 を増 加 させ,こ
れ も運
動 の 急 性 効 果 と同 様 に イ ンス リ ン抵 抗 性 状 態 に あ る骨 格 筋 で も起 こ る76,77).骨格 筋 中 のGLUT4量
は 骨 格 筋 の糖 取 り込 み 能 力 と相 関 して い る こ とが 示 唆 され て い
る78,79).GLUT4はDNA上 (転 写),こ
の 遺 伝 子 を鋳 型 と し て,GLUT4mRNAが
れ を も と にGLUT4タ
運 動(約70%Vo2max,1時 GLUT4のmRNAの
合成 され
ンパ ク 質 が 合 成 さ れ る(翻 訳).単
間)を
回 の 自転 車
行 う と 運 動 直 後 や 運 動 終 了 か ら3時
増 大 が80),運 動 終 了 か ら8時 間 後 に はGLUT4の
間後 に
タ ンパ ク質
量 が 増 大 す る こ とが 報 告 され て い る81).ト レー ニ ン グす る こ とで,GLUT4量 増 加 が 蓄積 し て糖 輸 送 を増 大 させ る もの と思 わ れ る.一 方,運 休 止 す る とGLUT4量
動 ト レー ニ ン グ を
は6日 間 で 減 少 す る82).し た が っ てGLUT4量
に維 持 す る た め に は,1週
の
を 高 レベ ル
間 に2回 以 上 運 動 す る こ とが 望 ま しい と考 え られ る.
骨 格 筋 量 が低 下 して い る 高 齢 者 に お い て は,筋 肉 量 を増 加 す る よ う な運 動 トレ ー ニ ン グ も糖 代 謝 改 善 に 有 効 で あ る .高 齢 者 で は 安 静 時 の エ ネ ルギ ー 消 費量 が 減 少 して お り,こ れ に は 除 脂 肪 体 重 の 減 少 が 起 因 す る83).骨 格 筋 量 の 増 大 は安 静 時 や 運 動 時 の 消 費 エ ネ ル ギ ー 量 を増 大 させ る た め,全 身 の 糖 取 り込 み 量 が 増 大 す る も の と考 え られ る.実 際,高 齢 糖 尿 病 患 者 を対 象 と して 高 強 度 筋 力 トレ ー ニ ン グ を行 う と,除 脂 肪 体 重 が 増 大 し,HbA1cが
改 善 す る こ とが 報 告 さ れ て い る84,85).
運 動 に よ る 骨 格 筋 糖 輸 送 促 進 の メ カ ニ ズ ム 解 明 は,AMPKの て 大 き く前 進 した.し
関与 が 確 認 さ れ
か し な が ら,現 在 の と こ ろ 骨 格 筋AMPKの
て 明 らか な も の は 脂 肪 酸 酸 化 に 関 与 す る ア セ チ ルCoAカ
標的分 子 とし
ル ボ キ シ ラー ゼ の み で
あ り,糖
輸 送 促 進 に 関 わ る 標 的 分 子 は 同 定 さ れ て い な い.つ
GLUT4を
結 ぶ 分 子 機 構 は ブ ラ ッ ク ボ ッ ク ス とい っ て よい 状 況 で あ る.AMPKの
上 流 分 子 につ い て も,た AMPKの
ま り,AMPKと
と え ば 運 動 や 酸 化 ス トレス が どの よ うな 分 子 を解 し て
リ ン酸 化 を生 じ る の か,そ
の 経 路 は 依 然 不 明 で あ る.運 動 は 糖 輸 送 を
促 進 す る だ け で な く,骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 を亢 進 させ る.2型
糖尿病 患者
の 骨 格 筋 が イ ンス リ ン抵 抗 性 を示 す こ と も よ く知 られ た 事 実 で あ る.さ
ら に,イ
ン ス リ ン感 受性 は糖 ・脂 質 ・ア ミノ 酸 の 影 響 を受 け る.し か し なが ら,骨 格 筋 の イ ンス リ ン感 受 性 が どの よ う な メ カ ニ ズ ム で調 節 さ れ る の か そ の 全 貌 の解 明 ま で
に は 多
糖
く の 研 究 が 必
の エ
ネ ル ギ ー 基
な い 機 能 で 代 病 」 明 す
る
て 有 用
要 で
あ る.
質
し て の 利
と
用
は ヒ
あ る.そ
の 調
節 異 常
は,2型
の 発 病 や 進
行 に 深
く 関 与
す
こ
と は,「
で あ
現 代 病
り,今
後
」
の 研
る 糖
IS,et al.(2003)Glucose
proteins.Br 2) Lund
代 謝
R,et
muscle.Am
P,et
JM,et
gen
Am
and
K,et
with
al.(1982)Glucose
during
exercise.Eur
DG,et
EJ,et
14)
T,et
15)
17)
18)
点 か
families
of glucose Natl
and
transporter
Acad
ら き わ め
of sugar
transport
GLUT4
in skeletal
Sci USA,92,5817-5821
contraction
in skeletal
that glucose
Biol
on
glucose
transport
in rat
muscle:effects
of insulin
and
transport
is rate-limiting
for glyco
Chem,268,16113-16115
for insulin-mediated
kinase
glucose
activity and
glucose
permeability.X.Changes frog
muscle.J
uptake
in relation Occup
uptake
into
perfused
rat
uptake
in rat skeletal
muscle.
kinase
Biol
in permeability
to 3-methylglu-
Chem,240,3493-3500
to metabolic
state in perfused
rat hind
limb
at
Physiol,48,163-176
of the AMP-activated
in skeletal
protein
muscle.Embo
AMP-activated/SNF1
kinase
provides
a novel
mech
J,17,1688-1699
protein
al.(1999)5′AMP-activated
al.(1998)Evidence
Ihlemann
al.(1999)Effect
J,et
kinase
subfamily:metabolic
sensors
of
protein
kinase
activation
causes
GLUT4
transloca
for 5′AMP-activated
protein
kinase
mediation
of the
effect of mus
transport.Diabetes,47,1369-1373 of tension
on
contraction-induced
glucose
transport
in rat skeletal
J Physiol,277,E208-214
Kawanaka
K,et
Hayashi
T,et
protein
kinase
cose
る 観
し 活 性 化 す
Rev Biochem,67,821-855
on glucose
Mu
を 解
muscle.Diabetes,48,1667-1671
al.(2000)Mechanisms
supercompensated 16)
mice
Physiol
regulation
cle contraction
muscle.Am
of isolated
J Appl
al.(1998)The
Kurth-Kraczek
Hayashi
ぐ 経 路
transport
muscle.J
of tissue
of creatine
cell?Annu
tion in skeletal 13)
な
SGLT):expanded
translocation
protein
al.(1998)Dual
the eukaryotic 12)
を つ
Metab,280,E677-684
contraction
for the control
Hardie
「現
that of insulin.Proc
steps
al.(1965)Studies
M,et
anism
う
献
and
transgenic
in skeletal
PM,et
10) Ponticos
11)
from
glycolysis
Endocrinol
JO,et
rest and
と い
J Physiol,250,E100-102
associated
9) Walker
文
of 2-deoxyglucose
N, et al.(2001)AMP-activated
cose
群
を 適 正 化
of effects of insulin
al.(1986)Rate-limiting
J Physiol
8) Holloszy
リ ッ ク 症 候 代 謝
き
J Physiol,249,C226-232
al.(1993)Evidence
hindlimb.Am 7) Musi
メ
タ ボ
と の で
J Physiol,268,C30-35
deposition
6) Kubo
distinct from
al.(1995)Kinetics
contractions.Am 5) Ren
用
stimulates
a mechanism
al.(1985)Dissociation
epitrochlearis 4) Hansen
こ
さ れ る.
transporters(GLUT
al.(1995)Contraction
through
3) Nesher
た め に 欠 か す
J Nutr,89,3-9
S,et
muscle
病 や
き る 」
品 ‐運 動 ‐骨 格 筋 糖
が 期 待
引
1) Wood
「生
糖 尿
る.食
に お け
究 成 果
ト が
muscles
al.(2000)Metabolic as a unifying
J,et al.(2001)A transport
Fujii N,et
rats.Am
stress
coupling
and
impaired
GLUT-4
J Physiol Endocrinol altered
glucose
translocation
in glycogen-
Metab,279,E1311-1318
transport:activation
of AMP-activated
mechanism.Diabetes,49,527-531
role for AMP-activated
in skeletal
al.(2000)Exercise
activity in human
underlying
of exercised
muscle.Mol induces
skeletal muscle.Biochem
protein
kinase
in contraction-and
hypoxia-regulated
glu
Cell,7,1085-1094 isoform-specific Biophys
Res
increase
in 5′AMP-activated
Commun,273,1150-1155
protein
kinase
19) Chen
ZP,
lase and 20)
et al.(2000)AMPK NO
synthase
Salt I, et al.(1998)AMP-activated localization,
21)
Vavvas
in contracting
of complexes
protein
containing
Higaki
in skeletal
muscle.J
the insulin and
23) Toyoda
kinase:greater
the alpha2
AMP
isoform.
muscle:acetyl-CoA
dependence
Biochem
changes
oxide
contraction
increases
pathways
T, et al.(2004)Possible
in oxidative
skeletal
carboxy
Metab,279,E1202-1206 , and preferential
J,334(Pt
in acetyl-CoA
nuclear
1),177-187
carboxylase
and
5′-AMP-activat
Biol Chem,272,13255-13261
Y, et al.(2001)Nitric
from
human
J Physiol Endocrinol
D, et al.(1997)Contraction-induced
ed kinase 22)
signaling
phosphorylation.Am
glucose
in rat skeletal
involvement
stress-stimulated
glucose
uptake
through
muscle.
Diabetes,50,241-247
of the alphal
transport
isoform
in skeletal
a mechanism
that
of 5′AMP-activated
muscle.
Am
J Physiol
is distinct
protein
Endocrinol
kinase
Metab,287,
E166-173 24) Jorgensen
25)
et al.(2004)Knockout
abolishes
induced
glucose
Hawley
SA,
MO25 26)
SB,
isoform
uptake
Baas
AF,
SFRAD.
are upstream
Embo
J, et activate
28) Sakamoto
cose 30)
Hawley
localize LKB1
during
SA,
anisms.J
32)
Am
activates
and
kinase
kinase
not contraction-
kinase
LKB1
STRAD
alpha/beta
cascade.J
Biol,2,28
by
the STE20-like
and
pseudoki-
STRADalpha/beta
enhancing
their ability to
J,22,5102-5114
AMPK-related
J Physiol
kinases
Endocrinol
in skeletal
in skeletal
Metab,287, muscle
muscle:effects
of
E310-317
prevents
AMPK
activation
and
glu
J,24,1810-1820 activates
the
the calmodulin-dependent
AMP-activated
protein
protein
kinase
I cascade,
kinase
cascade,
via three
and
independent
Ca2+ mech
Biol Chem,270,27186-27191
kinase
Hawley
kinases.
Ca2+/calmodulin-dependent
J Biol
protein
DC,
Am
protein
kinase.
JH, et al.(1991)Calcium of contraction.
kinase
kinases
are AMP-activated
kinase
kinase-beta
is an alternative
upstream
Cell Metab,2,9-19
stimulates
J Physiol,260,
et al.(2004)A
protein
Chem,280,29060-29066
SA, et al.(2005)Calmodulin-dependent for AMP-activated
34) Wright
suppressor,
protein
with
Embo
of LKB1 Embo
et a1.(1995)5'-AMP
protein
dent
interact
of LKB1
contraction.
RL, et al.(2005)The
kinase
protein
but
tumor
suppressor
in the cytoplasm.
and AICAR.
Hurley
33) Youn
of the tumour
K, et al.(2005)Deficiency
uptake
the LKB1
in the AMP-activated
al.(2003)MO25alpha/beta and
/calmodulin
31)
kinases
K, et al.(2004)Activity
Sakamoto
5′-AMP-activated
J,22,3062-3072
contraction,phenformin, 29)
but not alphal
Biol Chem,279,1070-1079
between
et al.(2003)Activation
27) Boudeau bind,
in skeletal muscle.J
et al.(2003)Complexes
alpha/beta
nase
of the alpha2
5-aminoimidazole-4-carboxamide-1-beta-4-ribofuranoside
glucose
transport
in skeletal
muscle
by
a pathway
indepen
glucose
transport.
C555-561
role for calcium/calmodulin
kinase
in insulin
stimulated
Life Sci,74,815-825 35) Ji LL, et al.(1998)
36)
N
Oxidative
tems.
Ann
Y Acad
Nohl
H, et al.(1986)The
stress
and
aging.
Role
of exercise
and
its influences
on antioxidant
sys
Sci,854,102-117 mitochondrialsite
of superoxide
formation.
Biochem
nitrogen
species
Biophys
Res
Commun,
138,533-539 37)
Reid
MB,
et al.(2002)Generation
muscle:potential 38) Javesghani dase 39)
Lapointe
BM,
Linder
N,
41)
Kobzik
Ann
N
Y Acad
of neutrophil
et al.(1999)Cellular
oxygen
J Respir
and
Crit Care
expression
Appl
of a superoxide-generating
oxide
of xanthine
in skeletal
NAD(P)H
oxi
inflammation
is linked
to secondary
Physiol,92,1995-2004 oxidoreductase
Invest,79,967-974
L, et al.(1994)Nitric
skeletal
Med,165,412-418
contraction-induced
invasion.J
in contracting
Sci,959,108-116
characterization
muscles.Am
et al.(2002)Lengthening
but devoid
sues. Lab
of reactive
on aging.
et al.(2002)Molecular
in the ventilatory
damage 40)
D,
impact
muscle.
Nature,372,546-548
protein
in normal
human
tis
42)
Cartee
GD,
various 43)
et al.(1990)Exercise
stimuli. Am
Kahn
CR(1978)Insulin
distinction. 44)
45)
46)
KJ,
et al.(1988)Effect
Am
J Physiol,254,
Wallberg-Henriksson
muscle 47)
49)
et al.(1998)Increased
J Physiol
factor. Am
J Physiol,266,
Biol
57)
Al-Khalili
necessary
and
responsiveness
to insulin
in
muscle:interaction
between
mediates
enhanced
insulin
sensitivity
of
of AMP
kinase E18-23
enhances
glucose
transport
to
signaling
sensitivity of muscle
in human
skeletal
muscle:time
course
and
effect of
signaling
and
insulin
sensitivity
after exercise
in human
skeletal
increase
of glucose-induced
Metab,287,
rats.Am
PC,
in muscle
requires
pro
translocation
in glycogen-super-
E907-912
AICAR-induced
increase
and
insulin
5′AMP-activated
AMPK
activation
in insulin-stimulated
glucose
J Physiol
JR, et al.(1994)Effects with
NIDDM:in
of p38
Endocrinol
patients
sensitivity:relationship
protein
et al,(2005)Activation
M,
for a
in primary uptake.
human
Am
J Physiol
E553-557
Zierath
Krebs
sensitivity:requirement
resistance
GLUT-4
J Physiol,276,
serum-and
to subsequent
J, et al.(2004)Postcontraction
Geiger
insulin
insulin
insulin-stimulated
of exercised
not lead
concentration,
in muscle
E186-192
L, et al.(2004)Prior does
humans. 58)
unresponsiveness:a
Chem,276,20101-20107
muscles
port to insulin. Am 56)
by
Physiol,85,1218-1222
Metab,282,
K, et al.(1999)Decreased
Endocrinol
55)
insulin
into rat skeletal
translocation
Appl
K, et al.(2001)Development
Kawanaka
Kim
on
transport
J, et al.(1994)Contraction-induced
Kawanaka
gen
Endocrinol
JF, et al.(2000)Insulin
myocytes
54)
sensitivity
to activation
Diabetes,49,325-331
compensated 53)
exercise
GLUT-4
after exercise.J
JF, et al.(1997)Insulin
tein synthesis.J 52)
and
transport
Diabetes,46,1775-1781
Wojtaszewski
serum 51)
transport
Wojtaszewski
Gao
glucose
Physiol,65,909-913
JS, et al.(2002)Activation
muscle. 50)
insensitivity,
H, et al.(1988)Glucose
PA,
exercise.
insulin
of physical
insulin. J Appl
glucose
Fisher
of muscle
E248-259
and
insulin. Am 48)
resistance,
humans.
Hansen
susceptibility
E390-393
Metabolism,27,1893-1902
Mikines
exercise
increases
J Physiol,258,
kinase
MAP
kinase
Metab,288,
et al.(2002)Mechanism
enhances
contraction Appl
protocol,
glyco
sensitivity
Physiol,96,575-583 of muscle
glucose
trans-
E782-788
of glycaemia
vitro reversal
with
phosphorylation.J
on
glucose
of muscular
transport
in isolated
of amino
insulin resistance. acid-induced
skeletal
muscle
from
Diabetologia,37,270-277
skeletal
muscle
insulin
resistance
in
Diabetes,51,599-605
Roden
M,
et al.(1996)Mechanism
of free
fatty acid-induced
insulin
resistance
in humans.
J Clin
Invest,97,2859-2865 59)
Franz
MJ,
et al.(2004)Nutrition
principles
and
recommendations
in diabetes.
Diabetes
Care
27 Suppl,
1,S36-46 60)
61)
Richter
EA,
uptake.
Biochem
Hager
SR,
et al.(1988)Glucose-induced insulin
resistance
of skeletal-muscle
glucose
transport
and
J,252,733-737
et al.(1991)Insulin
resistance
in normal
rats infused
with
glucose
for 72 h. Am
J Physiol,
260,E353-362 62)
Kurowski
TG,
et at.(1999)Hyperglycemia
phosphatidylinositol 63) Yki-Jarvinen
H,
3-kinase
inhibits
in rat skeletal
muscle.
et al.(1987)Hyperglycemia
insulin
activation
of Akt/protein
kinase
B but not
Diabetes,48,658-663
decreases
glucose
uptake
in type
I diabetes.
Diabetes,
36,892-896 64) Traxinger glucose 65) Patti ME,
RR,
et al.(1989)Role
transport
system.J
Biol
et al.(1998)Bidirectional
of amino
acids
in modulating
glucose-induced
desensitization
of the
Chem,264,20910-20916 modulation
of insulin
action
by
amino
acids. J Clin
Invest,101,
1519-1529 66)
67)
Tremblay
F, et al.(2005)Overactivation
increased
amino
Reaven
GM,
et al.(1988)Measurement
in patients 68)
with
McGarry
of S6 kinase
1 as a cause
of human
insulin resistance
during
acid availability. Diabetes,54,2674-2684
NIDDM.
of plasma
glucose,
free fatty acid, lactate, and
insulin
for 24 h
Diabetes,37,1020-1024
JD(1992)What
if Minkowski
had
been
ageusic?An
alternative
angle
on
diabetes.
Science,
258,766-770 69)
Kruszynska
YT,
et al.(2002)Fatty
but unchanged 70)
Vessby
Akt
King
PA,
Zucker 72)
men
M,
J Physiol,264,
ND,
or a single
cose
suppression
and
JW,
human 75) Martin
Etgen
78)
fat impairs
insulin
sensitiv
glucose
transporter
translocation
in obese
during
and
after exercise
is normal
in insulin-resis
of long-chain
with
type
induces
2 diabetes.
and muscle
in rats is ameliorated
relationship
fatty acyl-CoA.
exercise
subjects
insulin resistance
of exercise:parallel
between
by acute
insulin
dietary
stimulation
of glu
Diabetes,46,2022-2028
GLUT4
translocation
in skeletal
muscle
of normal
Diabetes,48,1192-1197 metabolism
during
exercise
in NIDDM
patients. Am
J
E583-590
GJ
Jr., et al.(1997)Exercise
recruitment
of GLUT-4
training
to the cell surface.
F, et al.(1994)Physical
NIDDM.
uptake
muscle
bout
IK, et al.(1995)Splanchnic
Physiol,269,
77) Dela
and
for monounsaturated
Diabetologia,44,312-319
insulin, promotes
glucose
et al.(1999)Acute
subjects
activation
R447-452
et al.(1997)Diet-induced
uptake
PI3K
E 167-172
lipid withdrawal
74) Kennedy
unlike
J Physiol,265,
et al.(1993)Muscle
tant rats. Am
76)
Am
Study.
muscle
Metab,87,226-234
saturated
KANWU
et al.(1993)Exercise,
Kusunoki
73) Oakes
dietary
and women:The
rat muscle.
insulin resistance:decreased
Clin Endocrinol
B, et a1.(2001)Substituting
ity in healthy 71)
acid-nduced
phosphorylation.J
training
Am
reverses
insulin
J Physiol,272,
increases
muscle
resistance
in muscle
by
enhanced
E864-869 GLUT4
protein
and
mRNA
in patients
with
Diabetes,43,862-865
Lund
S, et al.(1997)Effect
skeletal
muscle
as
of insulin
measured
by
the
on
GLUT4
exofacial
cell surface bis-mannose
content
and
turnover
photolabeling
rate in human
technique.
Diabetes,46,
1965-1969 79) Koranyi
LI, et al.(1991)Level
stimulated 80) Kraniou skeletal 81) Greiwe dent 82)
whole Y,
body
disposal
et al.(2000)Effects
muscle.
J Appl
of exercise
JS, et al.(2000)Exercise
Vukovich
MD,
runners.
induces signaling.
J Appl
transporter
protein
correlates
with
insulin-
on
GLUT-4
and
glycogenin
gene
expression
in human
of fat-free
lipase
and
GLUT-4
protein
in muscle
indepen
Physiol,89,176-181
in insulin
action
and
GLUT-4
with
6 days
of inactivity
in
in humans
is
Physiol,80,240-244
A, et al.(2003)The
to the loss
glucose
Diabetologia,34,763-765
lipoprotein
J Appl
et al.(1996)Changes
83) Bosy-Westphal
muscle
in man.
Physiol,88,794‐796
of adrenergic-receptor
endurance
due
of skeletal
glucose
mass
age-related and
decline
to alterations
in resting
energy
in its metabolically
active
expenditure components.
J Nutr,133,
2356-2362 84)
85)
Dunstan
DW,
patients
with
Castaneda glycemic
et al.(2002)High-intensity type 2 diabetes.
Diabetes
C, et al.(2002)A control
in older
resistance
randomized adults
with
training
improves
glycemic
control
in older
Care,25,1729-1736
type
controlled 2 diabetes.
trial of resistance Diabetes
exercise
Care,25,2335-2341
training
to improve
3.運
動 にお ける疲労感発生 の メカニズ ム
3.1 現 代 社 会 と疲 労 現 代 の 日本 で は長 期 に わ た っ て疲 労 を 感 じ て い る 人 が 非 常 に多 い(就 労 人 口 の 約6割)と
い う調 査 結 果 が 明 らか とな り,抗 疲 労 あ る い は 疲 労 か らの 早 期 回復 を
は か る処 方 の 開発 が 社 会 的 急 務 とな っ て い る.疲 労 か らの 回 復 を望 む 多 くの 人 の 要 求 に応 え て,さ
ま ざ まな 疲 労 回復 法 が 謳 われ 多 種 類 の 栄 養 ドリ ン ク な どが市 販
され て い るが,実
際 の効 果 につ い て は科 学 的 証 拠 が示 され て い な い もの が ほ とん
どで あ る.そ れ ゆ え疲 労 が 生 じる機 構 を 科 学 的 に解 明 し,実 際 に抗 疲 労 ・疲 労 回 復 機 能 を もっ た 食 品 な ど を開 発 す る基 礎 を 整 備 す る こ とが 必 要 で あ る. これ まで 肉体 的 な疲 労 の 生 成 す る機 構 に つ い て は骨 格 筋 の 疲 労 を中 心 に詳 し く 調 べ られ て きた.こ
れ に 対 し精 神 的 な疲 労 の 生 成,あ
る い は 疲 労 を感 じる機 構 の
解 明 は そ の 重 要 性 は認 識 され て い る もの の 実 際 の研 究 は まだ 少 な い.中 枢 に お い て どの よ う な機 構 で 疲 労 感 が 生 成 さ れ る の か 詳 し くは解 明 され て い な い.疲 労 は 疾 病 とは 異 な り休 息 を取 る こ と に よ り回復 で き る.こ の た め 他 の病 気 と比 べ て研 究 が お ろ そ か に され て きた 面 は否 め な い.ま た 疲 労 は さ ま ざ ま な様 相 を もつ た め に疲 労 度 を評 価 す る た め の コ ン セ ンサ ス の 得 られ た指 標 の 確 立 が 遅 れ て い る こ と も研 究 の 進 展 に影 響 して い る と考 え られ る. ヒ トは さ ま ざ ま な状 況 で 疲 労 を感 じる.運 動 は も ち ろ ん の こ と,た と え ば病 気 の と き に も著 しい 疲 労 に 見 舞 わ れ る.こ の ほか に も た とえ ば 引 っ越 し に よ り住 ん で い る と こ ろが 変 わ る とか 職 場 が 変 わ る,上 司 が 変 わ る な どと い っ た 環 境 ・社 会 的 な変 化 が あ っ た 場 合 に も疲 労 を感 じる こ とが あ る.ま た,そ
の と きの 精 神 状 態
に よっ て も疲 労 を感 じや す か っ た り感 じに くか っ た りす る こ とを経 験 す る.こ の よ うに 一 口 に疲 労 とい っ て も さ ま ざ まな状 況 で 惹 起 さ れ る た め,疲 労 の 指 標 とな る物 質 の 特 定 や 疲 労 の 評 価 方 法 の 確 立 の た め 体 系 的 な検 討 が 必 要 で あ ろ う.本 章
に お い て 疲 労 とは心 身 の 消 耗 に伴 う さ ま ざ まな 様 態 をす べ て含 め た生 理 的 な 状 態 を 指 し,疲 労 感 とは そ の う ち の 主観 的 に知 覚 され る部 分,疲
れ た と い う感 じ を表
す こ と とす る.疲 労 感 は 中 枢 性 疲 労 とほ ぼ 同 じ意 味 だ と考 え られ る.
3.2 運 動 と 疲 労 娯 楽,あ
る い は競 技 と して 運 動 を行 うの は ヒ トの み で あ る.霊 長 類,あ
るい は
動 物 の 子 ど も は遊 び と して 運 動 す る が,競 技 は行 わ な い.普 通 動 物 の 行 う運 動 は 捕 食,お
よび そ れ とは逆 に 敵 か らの逃 亡 の た め に 行 う もの,あ
る い は トリの 渡 り
に代 表 さ れ る よ う な移 動 で あ ろ う. 個 体 の運 動 能 力 を超 え た 負 荷 の運 動 を 行 っ て い れ ば,た っ て 運 動 を 続 行 す る こ と が で きな い.こ る.た
とえ ば す ぐに息 が あ が
れ は 一 種 の 肉 体 的 限界 に よ る疲 労 で あ
と え 低 強 度 の 運 動 で あ っ て も運 動 を 始 め て しば ら くす る と'疲 労'を
じ,そ し て,間
も な く運 動 をや め る,も
以 外 の 動 物 で も同 様 に反 応 す るが,こ
し くは運 動 強 度 を さ らに弱 くす る.ヒ
感 ト
れ は で き る だ け エ ネ ルギ ー の 消 費 や 肉体 の
消 耗 を抑 制 し,本 当 の 危 機 に対 して 体 力 を 温 存 す る 反応 とい え る.も
し,疲 労 を
感 じな けれ ば動 物 は 動 け な くな る ま で,す な わ ち 肉体 の 限 界 に至 る まで,極 端 な 場 合 に は死 ぬ まで 動 き続 け る か も しれ な い.疲 労 を 感 じる こ と とは 身 体 の 消 耗 を 検 知 し,そ れ以 上 の 身 体 の消 耗 を防 ぐた め の 防 御 反応 の 一 環 と して作 動 す る警 告 信 号 で は な いか と考 え られ る. こ の よ う な警 告 を 無 視 す る と大 き な痛 手 を負 う こ とに な るの は 当然 の 結 果 な の で あ る が,ヒ
トの場 合,た
とえ ば仕 事 に対 す る 責 任 感,あ
る い は充 実 感 ゆ え に疲
労 感 を無 視 して し ま う場 合 が 多 々 あ る.こ れ に よ り慢 性 疲 労 や,極 端 な場 合 過 労 死 を招 く こ と さ え あ り,い まや 社 会 問 題 に もな りつ つ あ る. 運 動 に よ る疲 労 感 の 原 因 物 質 と して い ま だ に 乳 酸 を あ げ て い る例 を み る.乳 酸 は あ る一 定 強 度 以 上 の 運 動 負 荷 を与 え た と きに,好 気 的 な エ ネ ルギ ー 産 生 が 間 に 合 わ な く な る こ とで 生 成 し,や が て 収 縮 を 行 っ て い る骨 格 筋 内 に 蓄 積 し始 め る. こ れ に よ り筋 肉 中 のpHが
低 下 し そ の パ フ ォー マ ンス が 低 下 す る とい う こ とか ら
乳 酸 と骨 格 筋 疲 労 が 関 連 づ け られ て い る.骨 格 筋 の 能 力 以 上 の 運 動 は血 液 中 の 乳 酸 の 上 昇 とい う形 で脳 に検 知 され,疲
労 感 を生 成 させ る と信 じ られ て きた.乳 酸
は確 か に筋 肉疲 労 の指 標 に な り うる が は た して 本 当 に乳 酸 が 疲 労 感 を引 き起 こす
の だ ろ うか.近 年,神 経 細 胞 に隣 接 す る グ リ ア細 胞 が 自身 の もつ グ リ コー ゲ ン を 分 解 して乳 酸 の 形 で 神 経 細 胞 に供 給 して い る こ とが 明 らか とな っ て きた.血
中の
グ ル コー ス の供 給 が 間 に 合 わ な い と き,神 経 細 胞 は乳 酸 を エ ネ ル ギ ー 源 と す る. ま た 乳 酸 は神 経細 胞 に とっ て グ ル コー ス よ りも利 用 しや す い エ ネ ル ギ ー 源 で あ る こ とが わ か っ て きて い る.こ の こ とか ら,乳 酸 は骨 格 筋(末 梢 組 織)で
の疲労 の
原 因 とす る こ と は正 しい が,こ れ が 疲 労 感 を引 き起 こす 物 質 で あ る とは 考 え に く い.
運 動 時 の 疲 労 感 生 成 機 構 と して よ く知 られ て い る 説 にNewsholmeら
のセ ロ ト
ニ ン仮 説 が あ る.長 時 間 の 持 久 的運 動 を行 う とエ ネ ル ギ ー 源 と して 遊 離 脂 肪 酸 が 動 員 され る.遊 離 脂 肪 酸 は血 中 で の輸 送 キ ャ リ ア と して 血 清 ア ル ブ ミ ン を使 う. 血 清 ア ル ブ ミ ン は ア ミ ノ酸 の 一 種 の ト リプ トフ ァ ンの キ ャ リ ア で もあ る.し
か
し,遊 離 脂 肪 酸 が 大 量 に動 員 さ れ る こ とで ア ル ブ ミ ン を 占有 し,ト リ プ トフ ァ ン が 追 い 出 され,結
果 と して 結 合 して い な い 遊 離 の トリ プ トフ ァ ン濃 度 が 増 大 す
る. ト リプ トフ ァ ン は神 経 伝 達 物 質 の一 種 で あ る セ ロ トニ ン前 駆 体 で もあ る.脳 内 で の セ ロ トニ ンの 合 成 は基 質 の 供 給 が律 速 段 階 に な っ て お り,遊 離 の トリ プ トフ ァ ンが 増 加 す る こ とで 脳 内 に流 入 す る量 が 増 え,セ る.こ
ロ トニ ン の 合 成 量 が 増 大 す
れ に よ りセ ロ トニ ン作 動 性 神 経 の 活 動 が 上 昇 し,疲 労 感 を生 成 す る,と い
うの が 彼 らの 説 で あ る. ま た 持 久 運 動 で は 骨 格 筋 で の エ ネ ル ギ ー 源 と して 分 枝 鎖 ア ミ ノ酸 も利 用 され る.分 枝 鎖 ア ミノ酸 は特 異 的 な輸 送 タ ンパ ク質 に よ って 脳 内 に 取 り込 ま れ るが, 同 じ輸 送 タ ンパ ク質 を トリ プ トフ ァ ン も利 用 して い る.運 動 に よっ て 分 枝 鎖 ア ミ ノ 酸 の血 中濃度 が 減 少 す る と脳 内 に流 入 す る トリプ トフ ァ ンの量 が 相 対 的 に増 大 す る こ と も上 で 述 べ た よ うな セ ロ トニ ン合 成 が 増 加 す る条 件 と一 致 す る. 脳 内 の トリ プ トフ ァ ン流 入 を抑 制 す る こ とで 疲 労 感 が 抑 制 され る こ とや,セ
ロ
トニ ン作 動 性 神 経 の活 動 を薬 物 で変 化 させ る こ とで 持 久 運 動 の成 績 が 変 わ る こ と な どか ら,こ の 仮 説 は妥 当 で あ る と考 え られ て きた. しか し、セ ロ トニ ン の合 成 が 増 大 す る よ うな 脂 肪 酸 濃 度 の増 大 や 分 枝 鎖 ア ミ ノ 酸 濃 度 の低 下 が み られ る よ う な状 況 はマ ラ ソ ンの よ う なか な り長 時 間 の 運 動 を要 す る もの で あ り,わ れ わ れ が 日常 的 に感 じて い る,肉 体 的 な消 耗 の あ ま りな い 疲
労 感 と は異 な る も の と考 え られ る.ま た,う
つ 病 患 者 や慢 性 疲 労 症 候 群 患 者 は意
欲 の 低 下 や 強 い 疲 労 感 を訴 え る が,こ れ ら疾 患 の 治 療 に脳 内 の セ ロ トニ ン濃 度 を 高 め るセ ロ トニ ン トラ ン ス ポ ー タ ーの 選 択 的 阻 害 剤(serotonin inhibitor, SSRI)が
よ く使 わ れ て い る こ とか ら,セ
を 引 き起 こ して い る と考 え られ る.セ
specific reuptake
ロ トニ ンの 低 下 が む しろ 疲 労
ロ トニ ンだ けで は少 な くと も疲 労 時 の 意 欲
の低 下 は説 明 で き な い 。 渡 辺 らは脳 血 流 量 の 変 化 を測 定 す る こ と で健 常 人 が 疲 労 を感 じて い る と き に活 動 が 亢 進 す る脳 部 位 を眼 窩 前 頭 や 下 前 頭 葉,前
帯 状 回 と報 告 して い る3).今 後 疲
労 感 の 発 生 に 関 与 す る分 子 的 背 景 と,脳 活 動 の 可 視 化 な ど を含 め た神 経 生 理 学 的 手 法 を統 合 し,疲 労 感 の 生 成 機 構 を解 明 し て い く必 要 が あ る と思 わ れ る.
3.3 脳 内 サ イ トカ イ ンの 役 割 脳 の(物
質 的)活
動 は,脳 が浸 っ て い る環 境 で あ る脳 脊 髄 液 に あ る程 度 反 映 さ
れ る.脳 脊 髄 液 と は頭 蓋 骨 と脊 椎 に よ っ て 保 護 され た 脳 と脊 髄 が 浸 っ て い る液 で,ク
ッ シ ョ ンの 役 割 をす る だ け で な く栄 養 素 な ど の 物 質 を運 ぶ 役 割 を して い
る.筆 者 らは 疲 労 感 を生 成 す る物 質 が 脳 で 産 生 され,疲
労 が 起 こ る 条件 で,そ
の
物 質 が 脳 に 対 し て作 用 す る と と も に 一部 が 脳 脊 髄 液 中 に漏 れ 出 て くる と仮 定 し た.そ れ ゆ え,想
定 した よ う な活 性 が 存 在 す る な ら ば,疲 労 した動 物 の脳 脊 髄 液
を疲 労 して い な い動 物 に投 与 す る と,そ の動 物 に 疲 労 感 が 生 じる は ず で あ る.そ こ で,強 制 遊 泳 運 動 に よ り疲 労 させ た ラ ッ トの 脳 脊 髄 液 を 採 取 して これ を安 静 に 保 ち 肉体 的 な 疲 労 の ない マ ウ ス に投 与 し た と ころ,疲 労 した と きの よ う に動 か な くな り,オ ー プ ン フ ィー ル ドに お け る 自発 行 動 量 の 減 少 が み られ た(図3.1).こ の結 果 よ り,運 動 に よ り疲 労 させ た ラ ッ トの 脳 脊 髄 液 中 に は 、自発 行 動 量 を減 少 させ る物 質 が 存 在 す る こ とが 明 らか とな っ た.さ
ら に淡 水 産 腔 腸 動 物 で あ る ヒ ド
ラ を 用 い たバ イ オ ア ッセ イ に よ り,疲 労 した ラ ッ トの脳 脊 髄 液 中 で増 加 して い る 物 質 はTGF-β(transforming
growth
した ラ ッ トの 脳 脊 髄 液 か ら抗TGF-β 行 動 量 を低 下 させ る 活 性 が 失 わ れ,精
factor-β)で あ る こ とが 示 唆 さ れ た.疲 労 抗 体 を用 い てTGF-β 製 したTGF-β
存 的 に 自発 行 動 量 の低 下 が 見 られ た(図3.2).オ
を 除 去 す る と,自 発
を脳 内 に投 与 す る と用 量 依
ー プ ン フ ィー ル ドで の 自発 行 動
に は探 索 行 動 が 含 まれ るが,純 粋 に 自発 的 な 運 動 の み を 測 定 で きる,ホ ー ム ケ ー
図3.1 疲 労 ラ ッ ト脳 脊 髄 液 の脳 内投 与 が マ ウス 自発 行 動 量に及ぼす影響 遊 泳 運 動 に よ り疲 労 させ た ラ ッ トの脳 脊 髄 液 を マ ウ ス に 脳 内投 与 し,そ の 自 発 行 動 量 を測 定 した.対 照 群 に は 運 動 して い ない安 静 ラ ッ ト脳 脊 髄 液 を投 与 した.*:p<0.05, **:p<0 .01 (引 用 文 献1よ
図3.2 TGF-β
脳 内投 与 が マ ウ ス 自 発 行
動 量 に 及 ぼす 影 響 を マ ウ ス に 脳 内投 与 し,そ
TGF-β
り改 変)
発 行 動 量 を測 定 し た.60分
(引用 文 献1よ
の自
間 の 自発 行
TGF-β
を マ ウ ス に 脳 内 投 与 し,そ の 自発
運 動 量 を測 定 し た.測 定 時 間3時 間 に お い て マ ウス が 走 行 した量 を 回 転 か ご の 回転 数 カ ウ ン トで 示 し た.対
照 群 に はTGF-β
を
溶解 す る の に用 い た溶 媒 の み を投 与 した. り改 変)
(引 用 文献1よ
ジ に 回転 カ ゴ を設 置 した 装 置 で 自発 運 動 量(回 TGF-β
脳 内 投 与 が 回転 か ご に お け
るマ ウス 自発 運 動 量 に及 ぼ す 影 響
動 量 の 積 算 値 を 示 し た.対 照群には TGF-β を溶 解 す る の に用 い た 溶 媒 の み を投 与 し た.
図3.3 TGF-β
り改 変)
転 か ご の 回 転 数)を
投 与 に よ りそ の 減 少 が み られ た(図3.3).こ
測 定 す る と,
れ らの結 果 よ りTGF-β
がお
そ ら く疲 労 感 を生 成 す る こ と に よ り,運 動 負 荷 に よ る 自発 行 動 量 の 減 少 に 関 与 す る こ とが 明 らか とな っ た.
TGF-β
は も と も と細 胞 の 表 現 型 を トラ ンス フ ォー ム し,増 殖 させ る 活 性 と し
て 発 見 され た.そ
の 後 の 研 究 の 進 展 に よ りTGF-β
は 非 常 に さ ま ざ ま な作 用 を も
つ サ イ トカ イ ンの 一 つ と して 認 識 さ れ て お り,細 胞 の 成 長 ,分 化,機
能 の亢進 ま
た は そ の 逆 の抑 制 に も働 く多 機 能 性 を 示 す こ とが 明 らか と な っ て い る.こ の よ う な機 能 の一 環 と してTGF-β て い る.TGF-β
は,傷 害 や 炎 症 に伴 う組 織 の 損 傷 の 修 復 に も 関与 し
は脳 内 で も広 く発 現 が み られ,ニ
マ イ ク ロ グ リ ア な どで 発 現 が み られ る.そ て い る と考 え ら れ て い るが,こ
ュ ー ロ ン や ア ス トロ サ イ ト,
して 脳 内 で も上 記 の よ うな 機 能 を も っ
れ に加 え て疲 労 感 を発 生 させ る役 割 を も っ て い る
こ とが 筆 者 らの研 究 に よ り示 さ れ た.な ぜTGF-β 響 を 与 え る 働 き を もつ よ う に な っ た の か,そ
が こ の よ う な動 物 の行 動 に影
の 進 化 的 要 因 は 不 明 で あ る.し
か
し,疲 労 感 の役 割 の 一 つ と して,進 行 中の 運 動 を 止 め,運 動 に よ り消 耗 した 組 織 の 修 復 に 適 した 環 境 を整 え る 目的 が あ る とす れ ば,TGF-β
が 疲 労 感 を発 生 させ
る機 能 を もっ て い る と い う こ とは あ る 意 味 当 然 な の か も しれ な い.
3.4 疲 労 感 と エ ネ ル ギ ー 代 謝 疲 れ た とい う感 覚 は,身 体 が エ ネ ル ギ ー を使 い果 た し動 け な くな って し ま うの を避 け る た め の 防 御 機 構 で あ る と考 え られ る.つ 生 させ,自
ま り脳 内TGF-β
は疲 労 感 を 発
発 行 動 を抑 制 す る こ と に よ り,そ れ 以 上 の末 梢 組 織 で の エ ネ ル ギ ー 消
費 を抑 え,回 復 を促 して い る の で あ ろ う.し か した と え疲 労 を感 じて も,運 動 を や め る こ とが 個 体 の 維 持 に直 接 危 機 を もた らす 場 合 が あ る.た
と え ば,わ れ わ れ
が 泳 い で い る と き,疲 れ た とい っ て 泳 ぐの を や め て しま え ば お ぼ れ 死 ぬ か も しれ な い.野 生 動 物 が 捕 食 者 か ら逃 亡 して い る と き も同 様 で あ る.こ の よ うな 状 況 で は,で
き る だ け 長 時 間運 動 を続 け て い られ る よ うに 身 体 の 代 謝 を変 動 させ る必 要
が あ る. 運 動 を始 め て初 期 の 段 階 は糖 質 が 主 に エ ネ ル ギ ー源 と し て使 用 され,徐
々 に脂
肪 酸 を用 い る割 合 が 高 くな っ て くる.糖 質 は 脂 肪 と比 較 して 貯 蔵 量 の 少 な い エ ネ ル ギ ー 源 で あ り,か つ,脳
の 主 要 なエ ネ ル ギ ー 源 で あ る.グ
リ コ ー ゲ ンは体 内 の
糖 質 の貯 蔵 形 態 で あ る が,筋
肉 に蓄 え られ て い る グ リ コー ゲ ンが 枯 渇 す る と円 滑
な筋 収 縮 に 支 障 を きた す.マ
ラ ソ ン に お い て 競 技 場 の最 後 の 直 線 ま で 勝 負 が もつ
れ た と き,爆 発 的 な ス プ リ ン トで 先 に ゴ ー ル す るた め に グ リ コ ー ゲ ンは 温 存 し な
くて は な らな い.野
生 動 物 で も最 後 の 瞬 間 に 敵 か ら逃 げ お お せ る た め に瞬 発 的運
動 の エ ネ ル ギ ー 源 で あ る グ リ コー ゲ ン を残 して お く必 要 が あ る.そ の た め 糖 質 主 体 か ら脂 肪 酸 主 体 へ とエ ネ ル ギ ー 基 質 の利 用 割合 を変 化 させ る こ と は長 時 間 運動 を行 わ ね ば な ら な い と き に は特 に重 要 に な っ て くる.運 動 に よ り疲 労 を感 じ始 め る 頃 に は体 内 の エ ネ ル ギ ー が あ る程 度 消 費 され てい るが,こ
の 時点で運動 をやめ
る こ とが で き な い の で あ れ ば,持 久 運 動 に備 え てエ ネ ル ギ ー 代 謝 を脂 肪 酸 代 謝優 位 に 変 化 させ る 方 が 合 理 的 で あ る.TGF-β な っ て い る が,単
は脳 内 で疲 労 感 を引 き起 こ す 一 因 と
に 疲 労 感 を 生 成 す る だ け で は な く代 謝 に も影 響 を与 え て い る か
ど うか 興 味 が も た れ た. TGF-β
を 脳 内 に投 与 す る と,体 内 で エ ネ ル ギ ー 基 質 と して 何 が 酸 化 さ れ て い
るか と い う代 謝 状 態 の 指 標 とな る呼 吸 交 換 比(呼 は低 下 す る 傾 向 が み られ た(図3.4).ま
た,こ
吸 商)の
値 が 少 な く と も1時 間
の と き糖 質 燃 焼 量 に変 化 は み られ
なか っ た が,脂 肪 酸 燃 焼 量 の 有 意 な増 加 が み られ た(図3.5).酸 は み られ な か っ た こ とか ら,TGF-β 変 化 せ ず,脂
の脳 内 投 与 に よ っ て,エ
素消費量 に変化 ネルギ ー消費量 は
肪 酸 の 燃 焼 す る割 合 が 高 くな る こ とが 明 らか と な っ た.TGF-β
図3.4 TGF-β 脳 内投 与 が ラ ッ ト呼 吸 商 に 及 ぼ す影響 TGF-β
を ラ ッ ト脳 内 に 投 与 した と き そ の 呼 吸
商 の 変 化 を を測 定 し た.対
照 群 に はTGF-β
溶 解 す る の に 用 い た 溶 媒 の み を投 与 した.**: p<0.01 (引用 文 献2よ
り改 変)
を
を
図3.5 TGF-β
脳 内 投 与 が ラ ッ ト脂 質 酸 化 に
及ぼす影響 図3.4と 同 様 の 条 件 で,ラ
ッ トが エ ネ ル ギ ー
基 質 と し て脂 質 を 用 い る 量 の 変 化 を示 し た. *:p<0 .05,**:p<0.01 (引 用 文 献2よ
り改 変)
投 与 した と き に み られ る これ らの 代 謝 変 化 は 持 久 運 動 を行 っ た と き,あ るい は そ の 後 の 代 謝 の 状 態 と 同 様 で あ り,TGF-β
の 運 動 時 の 代 謝 調 節 へ の 関 与 を 強 く示
唆 す る もの で あ る.脳 内TGF-β
に よ る脂 肪 酸 利 用 割 合 の 増 加 は持 久 運 動 に 適 し
た代 謝 状 態 にす る た め な の か,そ
れ と も運 動 終 了 後 の 身体 の 回 復 や 修 復 の た め な
の か は 不 明 で あ る が,TGF-β
は 疲 労 を引 き起 こ す よ うな 状 況 に 心 身 と も に 対 応
させ る 方 向 に はた らい て い る よ うで あ る.
3.5 発 熱 と疲 労 風 邪 を ひ く と疲 労 感 が 生 じる.こ の ほ か に も発 熱,寒
気,眠 気,食
欲 低 下,関
節 痛 な ど さ ま ざ まな 症 状 が 現 れ る.こ の よ う な症 状 は 誰 に と っ て もあ ま り好 ま し い も の で は な い.し か し,こ れ に よ り動 物 は 初 期 に は体 調 の 異 変 を認 識 し,完 全 に 感 染 が確 立 して し ま っ た と きに は 活 動 を休 止 し て 回復 を期 す こ とに な る.こ れ らの 症 状 は い ず れ も身体 に と っ て不 利 な反 応 と思 わ れ る が,必 ず し もそ う と は い え な い.た
と え ば感 染 時 の 食 欲 低 下 に つ い て す ら何 らか の 利 点 が あ る よ う に思 わ
れ る.実 験 的 に感 染 症 を引 き起 こ した マ ウス に 健 康 な マ ウ ス と同 カ ロ リー の 食 餌 を摂 取 させ る とそ の 死 亡 率 が 有 意 に増 加 して し ま う こ とか ら,食 欲 を低 下 させ 食 餌 摂 取 を抑 制 す る 反 応 に は 感染 症 に対 して 有 利 と な る何 らか の 機 能 が あ る こ と を
示 唆 し て い る.ま た 発 熱 に は ウ イ ル ス や バ ク テ リア の 増 殖 を抑 制 し,免 疫 細 胞 を 活 性 化,増
殖 さ せ る 目的 が あ る.寒
ぎ,(感 染 防 御 的)発
気 を 感 じる こ と に は 体 熱 の 余 計 な放 散 を 防
熱 状 態 を効 率 良 く維 持 す る た め の 行 動 を 引 き起 こす 意 味 が
あ るの か も しれ ない.感
染 時 の 疲 労 感 は運 動 時 の 疲 労 以 上 に動 く こ とが 不 利 に な
る とい う こ と を知 らせ る もの だ と考 え られ る.痛 み や 発 熱 は生 体 に何 らか の 不 具 合 が あ る こ と を知 らせ,そ
の 原 因 に 対 処 す る 反応 を引 き起 こす もの で あ り,そ の
よ う な意 味 で 疲 労 感 も同 様 の 警 告 信 号 で あ る と見 な され る.生 体 防 御 反 応 と し て の 発 熱 は 遮 断 す る方 が 感 染 の 除 去 を 遅 らせ て し ま う.し か し過 剰 な反 応 は 身 体 に と っ て大 き なス ト レス と な って しま うた め,痛 み,発 熱,疲 労 感 と も不 必 要 な部 分 に 関 して は コ ン トロ ー ル が 必 要 な こ と は い う まで も ない. 風 邪 の よ う な全 身 に お よぶ 感 染 症 で は,単 球 や マ ク ロ フ ァー ジが 活 性 化 され サ イ トカ イ ンが 分 泌 さ れ る.こ
の血 中 に放 出 され た サ イ トカ イ ンが 脳 に作 用 す る こ
と に よ り,動 物 の 行 動 量 や 摂 食 量,体 に な っ て い る.ヒ
温 な どに 大 きな影 響 を与 え る こ とが 明 らか
トに お い て も同 様 で 癌 な どの 治 療 目的 で サ イ トカ イ ン を投 与 す
る と副 作 用 と して発 熱,食
欲 低 下,頭
痛,疲
労 感 な どの症 状 が み られ る.つ
まり
感 染 症 に よ る疲 労 感 とサ イ トカ イ ン と の 関 連 が 強 く示 唆 さ れ て い る. 運 動 に よ る 疲 労 感 生 成 時 のTGF-β TGF-β
の働 き か ら,感 染 に よ る疲 労 感 に も同 様 に
が 関 与 して い る か も しれ な い と 考 え られ た.そ
して合 成 二 本 鎖RNAで
こ で疑 似 的 感 染 モ デ ル と
あ るpolyinosinic-polycytidylic acid(Poly-I:C)を
ラッ
トの腹 腔 内 に投 与 す る こ と で 感染 様 症 状 を 引 き起 こ し,感 染 に よ り引 き起 こ され る疲 労 感 とTGF-β 鎖RNAが
との 関 連 に つ い て 検 討 した.ウ
大 量 に合 成 され,こ
イ ル ス が 増 殖 す る際 に は二 本
れ に よ り体 内 の免 疫 系 が 活 性 化 さ れ,一
防 御 反 応 が 引 き起 こ され る.こ の た め,Poly-Ⅰ:Cを
連の感染
投 与す る とウイルス感染 と
同様 の 症 状 が 引 き起 こ さ れ る こ と を利 用 した 。 Poly-I:Cを (図3.6).ラ
腹 腔 内 に投 与 す る とラ ッ トの 行 動 量 は激 減 す る の が 観 察 さ れ る ッ トは うず く ま っ て動 か な くな り,餌 も ほ とん ど食 べ な い.こ
の症 状 に 対 応 す る よ う に脳 脊 髄 液 中 のTGF-β
れら
濃 度 の 増 加 が 見 ら れ た(図3.7).
ラ ッ トの 自発 行 動 減 少 に先 立 っ て脳 脊 髄 液 中 でTGF-β
濃 度 が 上 が る こ と は,こ
の サ イ トカ イ ンが 感 染 時 の疲 労 様 行 動 の 発 現 に も関 与 して い る こ と を示 唆 す るデ ー タ と考 え られ る .
図3.6 Poly I:C腹
腔 内 投 与 が ラ ッ ト自発 行 動 量 に 及 ぼ す 影 響
Poly Ⅰ:Cを 生 理 食 塩 水 に 溶 解 し ラ ッ ト腹 腔 内 に投 与 した と き の 自発 行 動 量 の 変 化 を示 した.対
照 群 に は生 理 食 塩 水 の み を
投 与 した.
図3.7
Poly I:C腹
腔 内投与 が 脳脊 髄 液 中
TGF-β 濃 度 に 及 ぼ す 影 響 ラ ッ ト腹 腔 内 にPoly I:Cを 投 与 し た と きの 脳 脊 髄 液 中TGF-β