編集 荒船次郎 東京大学名誉教授
江沢 洋 学習院大学名誉教授
中村孔一 明治大学教授
米沢富美子 慶應 義塾大学名誉教授
は
本 書 は,新
じ
め
に
し い数 学 的 発 展 を も取 り込 ん だ,理 学 ...
495 downloads
1700 Views
11MB Size
Report
This content was uploaded by our users and we assume good faith they have the permission to share this book. If you own the copyright to this book and it is wrongfully on our website, we offer a simple DMCA procedure to remove your content from our site. Start by pressing the button below!
Report copyright / DMCA form
編集 荒船次郎 東京大学名誉教授
江沢 洋 学習院大学名誉教授
中村孔一 明治大学教授
米沢富美子 慶應 義塾大学名誉教授
は
本 書 は,新
じ
め
に
し い数 学 的 発 展 を も取 り込 ん だ,理 学 部 や 工 学 部 の 学 部 ・大 学 院
生 レベ ル の解 析 力 学 の教 科 書 で あ る. 古 典 力 学 ・解 析 力 学 の 書 物 をあ ら た に書 く とい うか ら に は,そ れ な りの理 由 が なけ れ ば な ら な い で あ ろ う.と い うの も,世 界 中 で 現 在 出版 され て い る 力 学 の 書 物 は お び た だ しい数 に の ぼ り,日 本 語 の もの に か ぎ っ て も相 当 数 を数 え る か ら で あ る.も
ち ろ ん数 が 多 い とい う だけ で な く,質 の 面 で も,た
とえ ば 山 内
恭 彦 『一 般 力 学 』,伏 見 康 治 『古 典 力 学 』,ゴ ル ドシ ュ タ イ ン 『 古 典 力 学 』,ラ ン ダ ウ-リ フ シ ッツ 『力 学 』,な どの優 れ た 定 評 あ る書 物 も少 な くな い. しか し これ ら の 書 物 は,い ず れ も1950年 の で あ る.と る.そ
こ ろ が そ の 後30∼40年
うい うわ け で,20世
代 あ る い は そ れ 以 前 に書 か れ た も
間 に,古 典 力 学 は大 き な 変 貌 を遂 げ て い
紀 末 の 現 在 は,客 観 的 に 見 て あ らた な 力 学 書 が 登
場 して よ い 時期 に来 て い る とい え よ う. 1960年 代,つ の 学 習 は,ほ
ま り筆 者 た ちの 学 生 時 代 に は,物 理 の 学 生 に と って 解 析 力 学
とん ど も っ ぱ ら量 子 力 学 や 統 計 物 理 学 の 学 習 の た め の 助 走 の よ う
に しか 位 置づ け られ て い な か っ た.要 す る に 力 学 は,す
で に 出 来 上 が り完 結 し
発 展 の余 地 の な い学 問 で あ り,そ の 学 習 は た だ も っぱ ら,先 に 進 ん だ段 階 で 要 求 さ れ る技 能 を 身 に つ け る た め の トレー ニ ン グ で あ る と思 わ れ て い た の で あ る.し か し現 在 で は,状 況 は 大 き く変 わ っ て い る.い まや 解 析 力 学 は,そ れ 自 身 の 内容 の 面 に お い て も,数 学 的 定 式 化 の面 に お い て も,量 子 力 学 との 関 連 に お い て も,生 き た研 究 対 象 で あ り,発 展 途 上 に あ る. こ の 変 化 を促 した 大 き な要 因 の 一 つ は,1970年 達 と普 及 に あ る.コ
代 以 降 の コ ン ピュ ー タ の 発
ン ピ ュ ー タが 古 典 力学 に もた ら した もの の 第 一 は,一 般 の
力 学 系 理 論 や カ オ ス理 論 を発 展 させ た こ とに あ る.そ
して そ の 結 果,そ
れ との
対 比 で と くにハ ミル トン 力学 系 の 持 つ 構 造 安 定 性 な どの特 徴 が 浮 彫 りに され て い った の で あ る.第 二 に は,か つ てPoincareが
そ の 天才 的 直 観 力 で垣 間 見 た
積 分 不 可 能 な 系 の 存 在 とい う よ う な,古 典 力 学 の 深 層 が,コ 平 易 に 見 通 し う る よ うに な っ た こ と で あ る.こ 新 た な 展 開 や,可
ン ピ ュー タ に よ り
う した状 況 の なか で,摂 動 論 の
積 分 系 の 理 論 の 飛 躍 的 な 進 歩 が も た ら され た.こ
れ に は,
1960年 代 末 の堀 に よ る新 しい摂 動 法 の 開 発 や 戸 田格 子 の 発 見 も大 き な 契 機 に な っ て い る.ま
た,量 子 力 学 と解 析 力 学 の よ り深 い構造 的 関 連 が 明 らか に され
て きた こ と も,古 典 力 学 の発 展 に 数 え る こ とが で き る. しか し,こ の 間 の 力 学 の発 展 は,こ で は な い.も
う一 つ の 大 き な 発 展 は,Lagrange以
ら,PoincareやCartenに へ の転 換 が,お
の よ う な個 々 の新 た な テ ー マ の 開拓 だ け 来 の解 析 的 な解析 力学 か
よ り先 鞭 をつ け られ た解 析 力 学 の幾 何 学 的 な定 式化
も に数 学 者 の手 で す す め ちれ た こ とで あ る.そ の 結 果,力 学 理
論 の様 相 は大 き く変 わ りつ つ あ る.Arnoldが 語 っ て い る よ うに,い
名著 『 古 典 力 学 の 数 学 的 方 法 』で
まや 「ハ ミル トン 力 学 は 相 空 間 の 幾 何 学 で あ り,… …,
ハ ミル トン力 学 は 微 分 形 式 な しに は 理 解 で き な い 」の で あ る.い わ ゆ る 「力 学 の幾 何 学 化 」 と呼 ば れ る この 新 しい 見 方 は,最 近 の場 の 量 子 論 や 重 力論 の 視 点 に通 じ る もの で あ る. こ の よ うな 力学 理 論 の 変 貌 と発 展 に つ い て は,数 学 者 のサ イ ドか らは,こ の Arnoldの
著 書 の 翻 訳 だ け で な く,い
くつ か の 日本 語 の 書 物 も 出 さ れ て い る.
目に つ い た も の だ け を挙 げ て も,丹 羽 敏 雄 『力 学 系 』(1981),大 森 英 樹 『一 般 力 学 系 と場 の幾 何 学 』(1991),斎 藤 利 弥 『解 析 力 学 講 義 』(1991),深 谷 賢 治 『 解 析 力 学 と微 分 形 式 』(1996),伊 藤 秀 一 『常 微 分 方 程 式 と解 析 力 学 』(1998)な ど, 決 して 少 な い数 で は な い.し か し率 直 に い っ て 数 学 者 の書 い た 書物 は,物 理 屋 の もの と微 妙 に 問題 意 識 が 異 な る よ う で,力 点 の 置 き場 所 も少 しず つ 違 っ て い る だ け で な く,な に よ り も,物 理 学 科 や 工 学 部 の 諸 学 科 の学 生 や 大 学 院 生 に は とっ つ きが 悪 い.こ の こ とは数 学 者 に は な か な か 理 解 して も ら え な い よ うで あ る. 他 方 で,木 村 利 栄・ 菅 野 礼 司 『微 分 形 式 に よ る解 析 力 学 』(1988,増 補 改 訂 版 1996),大
貫 義 郎 ・吉 田春 夫 『力 学 』(1994,第2版1997)な
ど,物 理 学 者 ・天文
学 者 に よ り新 しい 立 場 で書 か れ た 良 質 の 書 物 も存在 す るが,主 題 が や や 偏 っ て い る き ら い は 否 め な い. 本 書 は,こ の30∼40年 サ イ ドか ら,で る.と
間 に な さ れ た 解 析 力 学 の 新 しい 定 式 化 を,物 理 学 の
き る だ け 広 く詳 し く,て い ね い に 展 開 し よ う と し た もの で あ
くに,状 態 空 間 ・相 空 間 上 の 力学 を,幾 何 学 的 な視 点 か らわ か りや す く
解 説 す る こ とに 主 眼 を お い た.こ れ が,筆 者 が 主 観 的 に考 え て い る,本 書 の 主 要 な 存 在 理 由 で あ る. そ の ね らい に あ わせ て本 書 で は,数 学 者 の手 に な る書 物 で は ス マ ー トに簡 潔 に 抽 象 的 に書 か れ て い る こ とで も,あ えて 泥 臭 く具 体 的 ・例 示 的 に論 じた と こ ろが 少 な くな い.数 学 は よ り一 般 的 な場 合 に た い す る議 論 を 眼 目 とす るが,物 理 学 は,一 般 論 だ け で は な く,そ の 一 般 論 を個 別 的 ケ ー ス に適 用 し,手 間 を厭 わ ず 腕 力づ くで も計 算 し きる とい うこ と を主 要 な 関 心 とす るか らで あ る. 数 学 に つ い て は,初 等 的 な解 析 学 と線 形 代 数 学 の知 識 だ け を前 提 と し,曲 面 論 か ら簡 単 な微 分 幾 何 学,テ
ン ソ ル 解 析,多
様 体 とそ の 上 で のベ ク トル 場 理
論,さ ら に は微 分 形 式 の理 論 に い た る まで,§1.2∼ §1.6に 独 立 の 節 を設 け て 一 か ち説 明 を して お い た.こ の よ うに本 書 を読 む た め に 必 要 な数 学 は ま とめ て 記 載 して あ る の で,先 第2章
を い そ ぐ読 者 は こ こ を飛 ば して,§1.1の
後,い
きな り
に移 って,必 要 に 応 じて §1.2以 降 に 立 ち返 り該 当 す る箇 所 を参 照 して
い た だ い て も よい.逆
に §1.2∼ §1.6を,新
し い物 理 数 学 の 入 門 と して 利 用 す
る こ と も可 能 で あ る.そ の程 度 に は て い ね い に書 い た つ も りで あ る. 力 学 に つ い て は,理 論 の 幾 何 学 的 定 式 化 の 解 説 に と くに 力 を い れ た.さ
ら
に,古 典 力 学 と幾 何 光 学 の ア ナ ロ ジー や 解 析 力 学 と量 子 力 学 の 関 連 とい う問 題,ま
た摂 動 論 の 発 展 につ い て,さ
らに は 正 則 で な い 拘 束 系 の正 準理 論 な どの
個 々 の テー マ に つ い て は,一 般 の 力 学 書 よ りは 詳 し く書 き込 ん だ つ も り で あ る.そ れ ら に は ま た,一 般 論 だ け で は な く,非 線 形 振 動 か ら天 体 力 学 や 原 子物 理 学,さ
ら に は加 速 器 科 学 に い た る まで の 広 い テ ー マ に わ た る 多 くの具 体 例 に
よ る 説 明 も加 え て お い た.こ れ らの 点 も,本 書 の特 徴 と して挙 げ て よ い で あ ろ う. 率 直 に い っ て 本 書 は,ボ
リュ ー ム か らい っ て も レベ ル か らい っ て も,学 生 諸
君 に と って 気 安 く簡 単 に読 め る本 で は な い とは思 うが,し か し じ っ く り とつ き
合 っ て い た だ け れ ば,筆 者 と して は そ れ に ま さ る喜 び は な い し,ま た そ れ だ け 得 る とこ ろ もあ る で あ ろ う との 自負 も も っ て い る. 執 筆 は,と
くに 明 確 に 分 担 を決 め る こ とはせ ず,互
い に 書 い て は も ち よ り,
議 論 し て 原稿 を仕 上 げ て ゆ く とい うや りか た を と っ た.原 稿 を書 く作 業 よ りも 筆 者 自 身 が学 習 す る こ と に,は
るか に 多 くの 時 間 を か け た こ とは 事 実 で あ る.
全 般 に わ た って 学 習 院 大 学 の 江 沢 洋 氏 に,ま た 第2章 以 下 の 力 学 と くに 摂 動 論 の とこ ろ は 国 立 天 文 台 の 木 下 宙 氏 に,第1章
の数 学 に つ い て は,明 治 大 学 の 故
林 喜 代 司 氏 と駿 台予 備 学 校 の 中 村徹 氏 に,そ れ ぞ れ 初 期 の 原稿 段 階 で 眼 を通 し て い た だ き多 くの 有 益 な ア ドバ イ ス を い た だ い て い る.た は,そ
だ し原 稿 そ の もの
の後 か な り書 き込 み 書 きな お し た の で,筆 者 の 思 い ち が い な ど も潜 ん で
い るか も しれ な い が,そ れ は も ち ろん 筆 者 た ち の 責 任 で あ る.林 氏 に は,完 成 し た本 書 をお 見 せ し た か っ た が,そ
れ が で きな く な っ た こ と は 大 変 残 念 で あ
る. 忙 しい な か に 原稿 を読 む労 を と って い た だ い た これ らの 方 々,そ
して,大 部
な書 物 が 忌 避 さ れ る出 版 界 に あ っ て,こ の よ う な書 物 の 出 版 を企 画 して い た だ い た朝 倉 書 店 に,こ の 場 を借 りて お 礼 を述 べ させ て い た だ き ます. 1998年7月 山
本
義
隆
中
村
孔
一
目
1 序 章―
数学 的準備
1.1 運 動 方 程 式 1.1.1
ニ ュ ー
次
1 1
トン力 学
1.1.2 拘 束 条 件 と 配 位 空 間 1.1.3 拘 束 力 と仮 想 仕 事
1.1.4 配 位 空 間 上 の 運 動 方 程 式 1.2 曲 面 上 の 拘 束 運動
1
2 5
8 12
1.2.1 曲 面 の パ ラ メ ー タ 表 示
12
1.2.2 加 速 度 ベ ク トル と運 動 方 程 式
14
1.2.3 拘 束 力 の 決 定
16
1.2.4 曲 面 上 の 運 動 方 程 式
18
1.2.5 慣 性 運 動 と 測 地 線
1.3 曲 面 上 の テ ン ソル と共 変 微 分
20
24
1.3.1 曲 面 上 の ベ ク トル
24
1.3.2 曲 面 上 の テ ン ソ ル
28
1.3.3 接 続 と平 行 移 動 1.3.4 共 変 微 分 と加 速 度
30 33
1.4 多 様 体 とベ ク ト ル 場
37
1.4.1 微 分 可 能 多 様 体
37
1.4.2 多様 体上 の 関 数 と 曲 線
39
1.4.3 方 向 微 分 と微 分 作 用 素
41
1.4.4 接 ベ ク トル と接 空 間
43
1.4.5 接 バ ン ドル とベ ク トル 場
46
1.4.6 積 分 曲線 と1径 数 変 換 群 1.4.7 引 き戻 し と微 分 写 像 1.4.8
リ ー
微
分
49 50
53
1.4.9 リー 括 弧 と リー 代 数
55
1.4.10
57
リー 群
と リー 代 数
1.4.11 1径 数 部 分 群 と指 数 写 像
1.5 双 対 空 間 と共 変 テ ン ソ ル 1.5.1 双 対 空 間 と1ベ
ク トル
60
66 66
1.5.2 反 変 ベ ク トル と共 変 ベ ク トル
67
1.5.3 共 変 テ ン ソ ル
69
1.5.4 交 代 テ ン ソ ル とpベ
ク トル
1.5.5 テ ン ソ ル の 交 代 化 と外 積 1.6 余 接 バ ン ドル と微 分 形 式 1.6.1 余 接 空間 と1ベ 1.6.2 1形 式(1次
ク トル
外 微 分 形 式)
72
73 79 79 81
1.6.3 テ ン ソ ル 場 と リー マ ン 計 量
84
1.6.4 p形 式(p次 外 微 分 形 式)
86
1.6.5 外
88
微
分
1.6.6 ポ ア ン カ レ の 補 題
90
1.6.7 微 分 形 式 の 積 分
93
1.6.8
95
ス トー ク ス の 定 理
2 ラグラ ンジ ュ形 式の力学 100 2.1 ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式
100
2.1.1 ス ク レ ロ ノ ー マ ス な 場 合
100
2.1.2 一般 的 な 場 合 へ の 拡 張
101
2.1.3 共
106
変
性
2.1.4 一 般 化 ポ テ ン シ ャ ル
109
2.1.5 ラ グ ラ ン ジ ア ン の ゲ ー ジ 変 換
111
2.2 対 称 性 と保 存 則
118
2.2.1
第1積
分
2.2.2 一 般 化 運 動 量 と そ の 保 存
118
120
2.2.3 系 の 対 称 性 と保 存 則
121
2.2.4 ハ ミル トニ ア ン と エ ネ ル ギ ー 積 分
124
2.2.5 配 位 空 間 の 簡 約 と 自 由 度 の 削 減
127
2.3 ラ グ ラ ン ジュ 方 程 式 の幾 何 学 的 表 現
144
2.3.1 基 本1形
式 と基 本2形
式
2.3.2 ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 の 座 標 系 に よ ら な い 表 現
144
2.4 擬 座 標 と ポ ア ン カ レ方 程 式
146
148
2.4.1 擬 座 標 の 導 入
148
2.4.2 ポ ア ン カ レ 方 程 式
2.5 拘 束 条 件 と拘 束 力 2.5.1 拘
束
力
2.5.2 拘 束 系 の ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 2.5.3 非 ホ ロ ノ ミ ッ ク な 拘 束
3 変
分
原
理
150
153
153
155 157
3.1 ハ ミル ト ン の 原 理
164
164
3.1.1 作 用 積 分 とハ ミ ル ト ン の 原 理
164
3.1.2 拡 大 配 位 空 間
166
3.1.3 拡 大 状 態 空 間
168
3.1.4 基 本1形
式 と作 用 積 分
169
3.1.5 作 用 積 分 の 変 分 計 算
171
3.1.6 ハ ミル ト ン の 原 理 と ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式
175
3.1.7 ラ グ ラン ジュ 方 程 式 の 拡 大 配位 空 間 上 の表 現
176
3.1.8 ラ グ ラ ン ジ ュ の 未 定 乗 数 法
178
3.2 ワ イ ス の 原 理 とネ ー ター の 定 理
182
3.2.1 ワ イ ス の 原 理 3.2.2 拡 大 配 位 空 間 の モ ー メ ン ト関 数 3.2.3 ネ ー タ ー の 定 理 の 拡 張
182 184
186
3.3 保 存 系 と最 小 作 用 の 原 理
195
3.3.1 保 存 系 と 作 用 の 導 入
195
3.3.2 最 小 作 用 の 原 理
196
3.3.3 ヤ コ ビ の 原 理
199
3.3.4 測 地 線 の 方 程 式
201
3.3.5 力 学 ・光 学 ア ナ ロ ジ ー
204
4 ハ ミル トン 形 式 の 力学
208
4.1 相 空 間 と正 準 方 程 式
208
4.1.1 ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 の 狭 さ 4.1.2 正 準 方 程 式 4.1.3 相 空 間 と 正 準1形 4.1.4
208 209
式
リー マ ン 計 量
4.1.5 拡 大 相 空 間
213 215
216
4.2 ハ ミル トニ ア ン ・ベ ク トル 場
217
4.2.1 シ ン プ レ ク テ ィ ッ ク 多 様 体
217
4.2.2 正 準 方 程 式 の 座 標 系 に よ ら な い 表 現 4.2.3 ハ
ミル
220
ト ニ ア ン ・ベ ク ト ル 場
222
4.3 力 学 系 の 考 察
224
4.3.1 力 学 系 と は
224
4.3.2 相 流 と 不 変 集 合
226
4.3.3 平 衡 解 ・周 期 解 と そ の 安 定 性
227
4.3.4 線 形 化 方 程 式
229
4.3.5 2次 元 で の 考 察
231
4.3.6 平 衡 解 の 安 定 ・不 安 定 と分 岐
233
4.3.7 リ ャ プ ノ フ 関 数
238
4.3.8 ポ ア ン カ レ写 像
4.4 正 準 力 学 系
242
255
4.4.1 正 準 方 程 式 の 線 形 化
255
4.4.2 正 準 力 学 系 の 構 造 安 定 性
256
5
4.4.3 相 流 に と も な う体 積 変 化
257
4.4.4 リ ュ ウ ヴ ィ ル の 定 理
260
4.4.5 ポ ア ン カ レ の 再 帰 定 理
261
正 準変換
267
5.1 相 空 間 上 の ハ ミ ル トン の 原 理 5.1.1 ハ ミル トン の 原 理 の 相 空 間 へ の 持 ち 上 げ
267 267
5.1.2 ル ジ ャ ン ドル 変 換
270
5.1.3 相 空 間 上 で の ハ ミル ト ン の 原 理
274
5.1.4 局 所 座 標 系 に よ ら な い 表 現
276
5.2 積 分 不 変 式 とカ ル タ ンの 原 理
279
5.2.1 相 空 間 上 の ワ イ ス の 原 理
279
5.2.2 積 分 不 変 式
280
5.2.3 カ ル タ ン の 原 理 5.2.4 第1積
分 と 自由 度 の 削 減
5.3 正 準 変 換―
母 関 数 に よ る定 義
5.3.1 正 準 変 換 と は
283
285
5.3.2 変 換 の 母 関 数
5.4.2 母 関 数 と の 関 係
292 292
295
5.4.3 正 準 変 換 で あ る た め の 十 分 条 件
296
5.4.4 正 準 変 換 群
299
5.5 正 準 不 変 式
299
5.5.1 積 分 不 変 式
299
5.5.2 ラ グ ラ ン ジ ュ 括 弧
300
5.5.3 斜
302
交
積
5.5.4 リ ュ ウ ヴ ィ ル の 定 理(再 論)
索
285 287
5.4 シ ン プ レ ク テ ィ ッ ク 写 像 5.4.1 シ ン プ レ ク テ ィ ッ ク 条 件
282
引
303
第Ⅱ巻 目次 6 ポ ア ソン括弧 6.1 1径 数 正 準 変 換 6.2 ポ ア ソ ン 括 弧 と正 準 方 程 式 6.3 ポ ア ソ ン の 定 理 6.4 ポ ア ソ ン 括 弧 と リー 代 数 6.5 相 空 間 の簡 約 7 ハ ミル トン-ヤ コ ビの 理 論 7.1 ハ ミル ト ン-ヤ
コ ビ方 程 式
7.2 ヤ コ ビ の 定 理 7.3 力 学
・光 学 ア ナ ロ ジ ー
7.4 正 準 変 換 に も とづ く考 察
8 可
積
分
系
8.1 完 全 可 積 分 系 8.2 周 期 運 動 と作 用 変 数 ・角 変 数 8.3 多 重 周 期 系 の 運 動
9 摂
動
論
9.1 定 数 変 化 法 9.2 ラ グ ラ ン ジ ュ の 摂 動 方 程 式 9.3 正 準 摂 動 法―
フ ォ ン ・ツ ァ イ ペ ル の 方 法
9.4 永 年 摂 動 と解 の 不 安 定 性 9.5 リー 変 換 に よ る摂 動 法
10 拘束 系 の正準 力 学 10.1 デ ィ ラ ッ ク の 処 方
10.2 デ ィ ラ ッ ク括 弧 と相 空 間 の 簡 約 10.3 第1種
の 拘 束 量 とゲ ー ジ変 換
11 相対 論 的力 学 11.1 ガ リレ イ の 相 対 性 原 理 11.2 ロ ー レ ン ツ 変 換
11.3 相対 論 的運動 方程 式 11.4 相対 論 的解析 力学
例
一
覧
6.2.1 ハ ミル トニ ア ン と時 間移 動 6.2.2 運 動 量 と空間 移 動 6.2.3 線 形 系 と して の 調 和 振 動 子 6.2.4 角 運 動 量 と空 間 回転 6.3.1 2次 元 調 和 振 動 子― 固有値 問題 と し ての 扱 い 6.3.2 ケプ ラー 問題 と調 和 振 動 子 の 関 係 6.4.1 2次 元等 方 調 和 振 動 子 の 対称 性 6.4.2 ケプ ラー 運 動 の対 称 性
2.2.3 ケプ ラー 運 動 2.2.4 軸 対 称 な こ ま(ラ グ ラ ン ジュ の こ ま)の
7.2.1 7.3.1 7.3.2 7.4.1
運動 2.2.5 ベ ー タ トロ ン振 動 と弱 集 束
7.4.2 フ ッ ク型 ポ テ ン シ ャ ル と遠 心 力 ポ テ ン シ ャ ル の合 成
2.3.1 2.4.1 2.5.1 2.5.2
電磁場 剛体の 円筒 上 平面上
中 の荷 電粒 子 の 運 動 方 程 式 回転 に た い す る オ イ ラー 方 程 式 を転 が る 円 筒 を転 が る コイ ンの 運 動
調 和 振 動 子 とハ ミル トン の 主 関 数 一 様 な重 力 の も とで の放 物 運 動 ラザ フ ォー ド散 乱 減 衰 振 動 のHJ方 程 式 に よ る解
8.1.1 8.1.2 8.1.3 8.2.1 8.2.2
中心 力 ポ テ ンシ ャ ル の も とで の 平 面 運 動 中心 力 の場 の 中 で の粒 子 の 運 動 ケプ ラー 運 動 とケ プ ラ ー の 軌 道 要 素 井 戸 型 ポ テ ンシ ャ ル と断 熱 定 理 調 和 振 動 子 と作 用変 数 ・角 変 数
3.2.3 ケ プ ラ ー 運動 の対 称 性 と レ ン ツ ・ベ ク ト ル
8.2.3 8.2.4 8.3.1 8.3.2
ベ ー タ トロ ン振 動 の 断 熱 減 衰 モー ス ・ポ テ ン シ ャ ル の も と で の運 動 2次 元 ケ プ ラー 問題 と縮 退 マ グ ネ トロ ン内 の 電 子 の 運 動
3.3.1 2次 元 ケ プ ラ ー 問題 とヤ コ ビ の 原理
8.3.3 2次 元調 和振 動 子 と縮 退
4.3.1 剛 体 の 自由 回 転(オ イ ラー の こ ま) 4.3.2 加 速 器 の ビー ム 集 束 機 構― 強集束 4.4.1 ハ ミル トニ ア ン ・フ ロー と くま で 型分 岐 の一 例
9.1.1 ダ フ ィ ン振動 子 と定 数 変 化 法 9.2.1 地球 の偏 平性 の 人工 衛 星 の 運 動 へ の影 響
3.1.1 ダ フ ィ ン振 動 子 3.2.1 ガ リレ イ変 換 と保 存 則 3.2.2 N次 元 等 方 調 和 振 動 子 と隠 れ た 対 称 性
5.3.1 正 準変 換 の例1― 5.3.2 正 準変 換 の例2― 5.3.3 正 準変 換 の例3―
極座標への変換 ガ リレ イ変 換 ゲ ー ジ変 換
5.3.4 正 準変 換 の例4― 5.3.5 正 準 変 換 の例5―
系の時間的発展 減衰振動
9.2.2 9.2.3 9.3.1 9.3.2 9.5.1
水 星 の近 日点 移 動― 他 惑 星 に よ る摂 動 水 星 の 近 日点 移 動― 一 般 相 対 論 の効 果 ダ フ ィ ン振 動 子 と正 準 摂 動 法 ゼ ー マ ン効 果 の 古典 模 型 フ ァ ン ・デ ル ・ポ ル 方 程 式
10.1.1 外 的 な拘 束の あ る場 合 10.3.1 ゲー ジ 自 由度 とゲー ジ 固 定 10.3.2 拡 大 相 空 間の 正 準 形 式 11.4.1 ゾ ン マー フ ェ ル トの 原 子模 型
1 序章―
数学的準備
1.1 運 動 方 程 式
1.1.1 ニ ュ ー トン 力学 古典 物 理 学 は物 質 と場 の 二 元 論 よ りな っ て い る.つ 理 的 存 在 と見 な さ れ て い る.実 際,ニ
ま り物 質 と場 は別 種 の物
ュ ー トン 力 学 で は,力 の 作 用 の も とで の
物 質 的 物 体 の 運 動 が 論 じ られ る が,そ の さ い に 作 用 す る力 自体 の 法 則 は,通 常 は 力 学 の外 に あ る場 の 古 典 論 で 扱 わ れ るべ き もの とな っ て い るの で あ る. そ れ ゆ え ニ ュー トン力 学 の課 題 は,与 測 す る こ と(力 → 運 動),お る こ と(運 動 → 力),と
え られ た力 の も とで の 物 体 の運 動 を予
よ び物 体 の 運 動 か ら働 い て い る力 の性 質 を推 論 す
い う両 方 向 に 設 定 され て き た.事 実,力 学 は 歴 史 的 に
は ケ プ ラー の 法 則 で 表 さ れ る惑 星 の 運 動 か ら万 有 引 力 を帰 納 す る こ と(運 動 → 力)か
ら 出 発 し た が,そ の 最 初 の 成 功 は,逆 に そ の 万 有 引 力 を既 知 と して
運 動 方 程 式 か らハ レー 彗 星 の再 帰 を予 言 す る こ と(力 → 運 動)で
あ っ た.
力 学 の 課 題 の この 二 方 向性 は,力 学 の 原 理 で あ る運 動 方 程 式 の論 理 的 地位 を 曖 昧 な もの に して い る.そ れ は 次 の 事 情 で あ る. 3次 元 ユ ー ク リッ ド空 間R3内
のN個
Oを 定 め,α 番 目 の 質 点(質 量mα)の ニ ュ ー トンの 運 動 方 程 式(Newton's
の 質 点 の 運 動 を考 え る.R3内
に原点
位 置 をQα と す る.各 質 点 の 運 動 は
equation
of motion)と
呼 ば れ る方 程 式
(1.1.1) に 支 配 さ れ て い る.こ ト ル,Fαtotalは
こ にrα(t)=OQα
は α番 目 の 質 点 の 時 刻tで
そ の 質 点 に 働 くす べ て の 力 の 和(合
力)を
表 す.と
の位 置 ベ ク ころで この
運 動 方 程 式 は,あ
る と きは 与 え られ た 力 か ら運 動 を予 測 し決 定 す る因 果 方 程 式
と考 え ら れ,ま た あ る と きは 観 察 され た 運 動 か ら力 の 関数 形 を決 定 す る い わ ば 力 の 定 義 式 と も見 な さ れ,そ
して 現実 に は しば しば 同 時 に そ の両 者 で あ る.
運 動 方 程 式 の こ の 両 義 性 は,ニ
ュー ト ン 力 学 が 「物 質(物 質 的 物 体)」 と
「場 」 を別 種 の 実 在 と見 な し,場 につ い て の 法 則 は 力 学 の外 に 与 え ら れ た もの と して 扱 い,そ
し て場 の個 別 物 体 へ の 作 用 を 「力 」 とい う抽 象 概 念 に ま とめ あ
げ た こ との結 果 で あ る.つ
ま り,各 物 体 は 与 え られ た場 か ら個 別 的 に 力 を受 け
る と考 え ら れ て い る.そ れ ゆ え ま た ニ ュ ー トン 力 学 で は,個 々 の 粒 子(物 体) の それ ぞ れ は,た
とえ そ れ らの 間 の相 互 作 用 が 考 慮 され る場 合 で も,基 本 的 に
は 別 個 の 力学 的 対 象 と見 な され て い るの で あ る. この 物 質 と場 の 二 元 論 お よ び個 別 粒 子(物 体)そ れ 自体 を個 々 に 力 学 的 対 象 と し て扱 うニ ュ ー トン 力 学 の 一 面 性 と限 定 性 は,現 在 で は 場 の 量 子 論 に お い て 物 質 と場 の両 者 を量 子 化 す る とい う方 向 で の 解 決 が追 究 され て い る.場 の量 子 論 で は,個 々 の 粒 子 で は な く粒 子 系 が 単 一 の 対 象 と して 扱 わ れ,さ
ら に そ の粒
子 系 と場 が と もに 同 レベ ル の 量 子 化 され た場 と見 な され,同 種 の 基礎 方 程 式 で 統 一 的 に 扱 わ れ る の で あ る. そ して,場 の 量 子 論 へ の こ の移 行 を可 能 と した の が,ラ
グ ラ ン ジュ 形 式 お よ
び ハ ミル トン形 式 の解 析 力 学 な の で あ る.す な わ ち,解 析 力 学 に お いて は じめ て,第1に,質 に,有
点 系(物 体 系)全 体 が 単 一 の 力 学 的 対 象 と し て 扱 わ れ,第2
限 自由 度 の 物 質 の 力 学 と無 限 自由 度 の場 の 力 学 が 同 一 の数 学 的 枠 組 み で
記 述 さ れ,そ
して 第3に,個
別 粒 子 に 働 く力 とい う概 念 を必 ず し も必 要 と し な
い,そ の よ う な力 学 の 定 式 化 に 成 功 したの で あ る.し たが っ て 以 下 の 解 析 力 学 の 考 察 は,つ ね に こ の 方 向 を 目指 して 進 め られ て ゆ くこ とに な る.
1.1.2 拘 束 条 件 と配 位 空 間 そ の 第一 歩 と して,質 点 系(物 体 系)の 全 体 的 な 運 動 をひ と ま とめ に 表 現 す る こ とか ら始 め る. ま ず,N個 N個
の 質 点 系 全 体 の 運 動 を記 述 す るた め に 各 質 点 の 運 動 空 間R3の
の 直 積
全 体 の 配 置 を こ のR3Nの1点
を 導 入 す る.そ
し て こ れ を用 い て,質
点
で 表 し,こ
のxを
質 点 系 の 座 標 な い し 単 に 系 の 座 標 と い お う.
さ て,す
べ て の 力Fαtotalが 既 知 で あ る な ら ば,つ
ま り
(1.1.2) の 関 数 形 が あ ら か じ め 与 え ら れ て い る な ら ば(xはxの (1.1.1)のN個
導 関数dx/dt),
の 方 程 式 は しか るべ き初 期 条 件 と あ わ せ て 系 の 時 間 的 発 展 を
与 え る微 分 方 程 式 と解 釈 で き る.質 点 が 既 存 の 重 力 場 や 電 場 ・磁 場 か ら力 を受 け て 運 動 し て い る と見 な し う る場 合,あ
るい は 質 点 同士 が 重 力 や クー ロ ン力 と
い っ た 既 知 の 相 互 作 用 に よ り影 響 を及 ぼ し合 って い る場 合 な どが そ うで あ る. しか し,巨 視 的 物 体 は そ れ 以 外 に 他 の物 体 との 直 接 的 接 触 な どに よ って も力 を受 け る.そ れ らの 巨視 的 な 力,つ
ま り面 の抗 力 や 棒 の 張 力 な ど は,原 理 的 に
は分 子 間 力 の 合 力 で あ る け れ ど も,分 子 間 力 そ の も の の 関数 形 が 厳 密 に知 られ て い る わ け で は な い し,だ い い ち,巨 視 的 物 体 を構 成 す る1023個 に もお よぶ 分 子 間 力 の 合 力 を求 め る こ とは 事 実 上 不 可 能 で あ る.実 際,そ の 合 力 の 関 数 形 が 近 似 的 に で あ れ知 られ て い るの は,弾 性 ば ね に お け る フ ッ クの 法 則 の よ う な きわ め て 限 られ た ケ ー ス だ け で しか な い. した が って,い か,変
くつ か の物 体 が 事 実 上 伸 縮 し な い棒 につ な が れ て運 動 す る と
形 しな い 面 に 接 し て 運 動 す る と い っ た 場 合,棒
の張力 や面 の抗 力 な ど
は,現 実 に は 問題 を解 い て初 め て わか る 未知 量 と し て扱 わ れ る.つ
ま り,こ れ
らの 力 に よ り,諸 物 体 の 相 互 的 位 置 関 係 に あ る制 約 が 課 せ られ る こ とに な るの だ が,こ の 場 合 は 力 そ の もの で は な く,そ の結 果 と して の質 点 の 座 標 間 の 特 定 の 関係 だ け が 与 え られ て い る の で あ る. も と よ り巨視 的 力 学 で い う とこ ろの 物 体 な る もの 自体 が,そ の よ うな 扱 い の 上 に 成 立 して い る.た
とえ ば 剛体 とは,お び た だ し い数 の分 子 か らな る複雑 な
系 を,分 子 間 の相 互 作 用 を分 子 間 力 その もの に よ っ て で は な く分 子 間 距 離 が 一 定 とい う力 の 効 果 に よ っ て表 し,そ の こ とで構 成 粒 子 間 の相 対 運 動 を凍 結 させ る こ とで得 られ た理 想 化 概 念 な の で あ る. 一 般 的 に い う な ら ば,N個
の 物 体 が あ る相 互 作 用 を し て い る と き,相 互 作
用 そ の もの の 詳 細 は わ か ら な い け れ ど も,そ の 結 果 と して そ の 物 体 系 の座 標 成 分(x1,x2,…,x3N)が
あ る関 係 を取 り結 ぶ こ との み が 知 られ て い る,と い う こ
と で あ る.そ す)と
の 関 係 を 拘 束 条 件(constraint
conditions,「
束 縛 条 件 」 と も訳
い う.
と くに そ の 関 係 が
(1.1.3) と い う 形 で 表 さ れ る 場 合 を ホ ロ ノ ミ ッ ク な 拘 束(holonomic う(そ
う で な い 場 合,つ
る とか,あ
constraints)と
ま り 非 ホ ロ ノ ミ ッ ク な 拘 束 は,条
件 が 不 等 式 で表 され
る い は 座 標 の 微 分 の 間 の 積 分 不 可 能 な 関 係 で 与 え ら れ る 場 合 で,こ
れ ら に つ い て は 後 述).な
お 拘 束 条 件(1.1.3)で
を レ オ ノ ー マ ス(rheonomous),そ (scleronomous)と
い う.本
時 間tを
陽 に 含 む と きの 拘 束
うで ない ときの拘 束 をス ク レ ロノーマ ス
節 で は ス ク レ ロ ノ ー マ ス な 場 合 に 話 を 限 る.
拘 束 条 件(1.1.3)か
ら 次 の こ とが い え る.
R3N内
満 た す す べ て の 点 と そ の 近 傍 で 行 列(∂fs/∂xi)の
の(1.1.3)を
ク がk(≦p),す す る.こ
い
な わ ち 少 な く と も1個
の と きx={xi}の3N個
に よ れ ばn=3N-k個
のk×k小
行 列 の 行 列 式 が0で
の 成 分 は す べ て が 独 立 で は な く,陰
の 独 立 な パ ラ メ ー タ(q1,q2,…,qn)を ,す
ラ ン ない と
関数 定 理
用 い て,局
所 的 に
なわ ち
(1.1.4) とパ ラ メ ト ラ イ ズ さ れ る.幾
何 学 的 に 表 現 す れ ば,拘
す 点 の 集 合 n次
は,R3Nに
元 超 曲 面 を 形 成 し,系
こ の 超 曲 面Nは n個
の 運 動 は こ のNの
配 位 空 間(configuration
space)と
coordinate)と
を 構 成 す る す べ て の 質 点 の 位 置)と
う し て 配 位 空 間 の 導 入 に よ り,系
*1 座 標 成 分qiの
添 字iを
呼 ば れ る.そ
して こ の
学 的 に は 局 所 座 標,物
呼 ば れ る*1.そ
位 空 間 上 の 点 の 位 置 と そ の 移 動 と し て,q={qi}お れ る.こ
埋 め 込 ま れ た
の 少 な く と もあ る領 域 で の 系 の
位 置 を 特 定 す る の に 必 要 十 分 な パ ラ メ ー タ で あ り,数 的 に は 一 般 化 座 標(generalized
満 た
上 に 限 定 さ れ る の で あ る.
の パ ラ メ ー タq=(q1,q2,…,qn)が,N上
時 刻 の 配 位(系
束 条 件(1.1.3)を
理
して 系 の あ る
系 の 時 間 的 発 展 は,こ
の配
よび そ の 時 間 的 変 化 で 表 さ
の 全 体 と して の 統 一 的 な記 述 と把 握
右 下 で な く右 上 に 書 くの は
,こ
の 段 階 で は 便 宜 上 で あ る が,後
に 右 上 に つ け る 添 字 と右 下 に つ け る 添 字 の 区 別 が 意 味 を も っ て く る(§1.3.1参 照).な お, パ ラ メ ー タ{qi}の 選 び 方 は 自由 で,角 度 な ど を 用 い る こ と も可 能 ゆ え,一 般 化 座 標 の 成 分 qiが 長 さ の 次 元 を もつ と は 限 ら な い.
に 向 け て の 第 一 歩 が 踏 み 出 さ れ た こ と に な る. な お,パ
ラ メ ー タqの
り も あ る た め で あ る.し
選 び 方 が 一 通 り で な い の は,局 か しnの
値,す
選 び 方 に よ ら な い.そ
れ ゆ え こ のnは
(degree
い わ れ る.
of freedom)と
さ て,運
動 空 間 が 超 曲 面N上
直 す な ら ば,各
標 系 の
系 に 固 有 の 量 で あ り,系
の 自 由度
に 限 定 さ れ て い る と い う こ と は,物
理 的 に見
質 点 に は そ の 質 点 をN上
る と い う こ と で あ る.そ
所 座標 の選 択が何 通
な わ ち 配 位 空 間 の 次 元 は,座
に 拘 束 す るた め の 強 制 力 が働 い て い
れ ゆ え こ の と き 運 動 方 程 式(1.1.1)は
(1.1.5) の 形 を とる.こ
こ にFα は その 関 数 形(1.1.2)が
あ らか じめ 与 え られ て い る 力
(力 の 場)の 合 力 で あ る の に た い して,Fα'は 系 をN上
に 拘 束 す る強 制 力 で あ
り,問 題 を解 い て 初 め て 求 ま る未 知 数 で あ る.以 下 で は,Fα (applied force), Fα'を 拘 束 力(constraint (1.1.1)のFαtotalはFα
force,な
を加 え られ た 力
い し 「束 縛 力 」)と い う.
とFα'の 和 で あ る.こ の よ う に地 位 の 異 な る2種 類 の
力 が 混 在 して い る こ との な か に,ニ
ュー トンの 運 動 方程 式 の 先 述 の両 義 性 が 見
て とれ る.要 す る に 方程 式(1.1.5)は,一
方 で は 未 知 関 数 と して の拘 束 力 を
と もな い,他 方 で は運 動 を決 定 す る に は過 剰 な座 標 を含 ん で い るの で あ る. そ こ で ま ず,拘 束 力 を運 動 方程 式 か ら消 去 す る た め,そ
の性 質 を調べ る.
1.1.3 拘 束 力 と仮 想 仕 事 多 くの 場 合,系 た い して,拘
の 与 え られ た瞬 間 に お け る拘 束 条 件 を破 らな い 無 限小 変位 に
束 力 は 系 全 体 と して 見 る な らば 仕 事 を しな い.
た と え ば 質 点 系 の 剛体 的 拘 束 や 伸 縮 しな い 糸 に よ る拘 束 の 場 合 が そ うで あ る.両 端 に物 体 をつ け て滑 車 に 吊 る した 糸 の 場 合,糸
が 一 方 の物 体 に す る仕 事
は 他 方 の 物 体 か ら され る仕 事 に 等 し く,そ れ ゆ え糸 の 張 力 が 系 全 体 に す る仕 事 の 和 は0で
あ る.あ る い は また物 体 が 滑 らか な面 上 に 拘 束 され て い る場 合,法
線 方 向 を向 い た 抗 力 は,面 の接 線 方 向 に しか 動 くこ との で きな い物 体 に た い し て 仕 事 を し な い.さ
らに は摩 擦 に よ り物 体 が 面 上 をすべ らず に転 が る場 合,接
点 は瞬 間 的 回転 中 心 で あ り瞬 間 的 に静 止 して い るか ら,こ の 摩 擦 力 はや は り仕
事 を しな い.他 方,物 体 が 動 摩 擦 に抗 して 面 上 を すべ る と きに は,垂 直 抗 力 を 拘 束 力 に,面 に 平 行 な 摩 擦力 成 分 を加 え られ た 力 に 割 り振 れ ば,こ の 場 合 もや は り拘 束 力 は 仕 事 を し な い. こ こ で与 え ら れ た 瞬 間 の 拘 束 条件 を破 ら な い 系 の 変位 とは,系 が 自由 に運 動 で き る超 曲 面Nを
そ の 瞬 間 に 固定 した と きの そ の 超 曲面 上 で の 変 位 の こ とで
あ るか ら,一 般 化 座 標 の 時 間 的 変位 を含 ま な い 無 限 小 変 位 δq={δqi}を 用 い て (た だ し と表 さ れ る*2.こ
(1.1.6)
)
の よ う な 無 限 小 変 位 を仮 想 変 位(virtual
displacements),ま
た こ の 表 示 を 仮 想 変 位 の パ ラ メ ー タ 表 示 と い う. こ の 仮 想 変 位 を 用 い れ ば,上
に 述 べ た 拘 束 力{Fα'}の
性質 は
(1.1.7) と 表 さ れ る*3.す
な わ ち 幾 何 学 的 に い い 表 せ ば,拘
曲 面Nと
直 交 し て い る.こ
(ideal)と
呼 び,以
束 力 の 集 合F'={Fα'}は
の よ う な 拘 束 を 滑 ら か(smooth)な
超
い し理 想 的
下 で は と くに 断 ら な い か ぎ り拘 束 は 滑 ら か と す る.
そ こ で ま ず 静 力 学 の 場 合 に つ い て 考 え て み よ う. 系 が 釣 り合 い に あ れ ば
(1.1.8) で あ る.仮 tual work)と
想 変 位 に た い し て 加 え ら れ た 力{Fα}の い い,拘
束 が 滑 ら か で あ れ ば,そ
す る 仕 事 を 仮 想 仕 事(vir
の仕事 は
(1.1.9) と な る. 系 が 釣 り合 い に な い と き に は,と
くに静 止 状 態 か ら微 小 時 間 に 現 実 に行 う運
動 を 仮 想 変 位 と し て と る こ と が で き る.そ
*2 以 下 断 り が な け れ ば
,上
の と き に は δrα=rα δtと し て よ く,
付 き 同 一 添 字 な い し下 付 き 同 一 添 字 の 量 が 分 母 分 子 に 分 か れ て
書 か れ て い る 場 合,ま た は 上 付 き と下 付 き に 同 一 の 添 字 が 登 場 す る 場 合,そ の 同 一 添 字i に つ い て1か らnま で の 和 を と る い わ ゆ る ア イ ン シ ュ タ イ ン の 規 約 に し た が う.な お そ の よ う な 同 一 添 字 は,上 下 を 同 時 に 別 の 文 字 で 入 れ か え て よ い か ら,ダ ミー(み せ か け)と い わ れ る. *3 本 書 で は ,R3やR3Nの ベ ク トル はaやbやxの よ う に ボ ー ル ド ・タ イ プ(太 字)で 表 し,そ の 内積(ユ ー ク リ ッ ド内 積)をa・bな い し(a・b)で 表 記 す る.な お(1.1.7)式 の Σαは α に つ い て1か
らNま
で の 和.
加 え ら れ た 力 の す る仮 想 仕 事 は
(1.1.10) と な る(二
つ 目 の 等 号 は(1.1.7)を
こ の 結 果(1.1.9),(1.1.10)は,「
系 が 釣 り合 う た め の 必 要 十 分 条 件 は 加 え
ら れ た 力 の す る 仮 想 仕 事 が0で
あ る 」 と ま と め ら れ る.こ
し て の 仮 想 仕 事 の 原 理(principle こ の 仮 想 仕 事 の 原 理 は,一
使 う).
of virtual
work)に
れ が静力学 の原理 と
他 な ら な い*4.
般 化 座 標 を用 い れ ば
(1.1.11) と 表 さ れ る.こ
こ にq={qi}は
す べ て 独 立 で あ る か ら,釣
り合 い の 条 件 を
(1.1.12) と 表 し て も よ い*5.こ を 一 般 化 力(generalized 限 ら な い か ら,一 さ ら に 力Fα
のF={Fi}は force)と
既 知 の 加 え ら れ た 力 だ け で 表 さ れ,こ
れ
い う(一 般 化 座 標 は 長 さ の 次 元 を も つ と は
般 化 力 も 力 の 次 元 を も つ と は 限 ら な い).
が ポ テ ン シ ャ ルUか
ら 導 か れ る と き に は,こ
の 釣 り合 い の 条
件 は
(1.1.13) す な わ ち釣 り合 い は系 の ポ テ ン シ ャ ル が極 値(一 般 に は停 留 値)を る(∂/∂rα は ∇α=(∂/∂xα,∂/∂yα,∂/∂zα)を 表 す).こ
と る点 で あ
う して 多 数 個 の物 体 か らな
る系 の 静 力 学 を,単 一 の 関 数 で表 現 され る単 一 の 原理 で とら え る こ とに成 功 し た. 解 析 力 学 は,動 力 学 に お い て もこ の 方 向,す な わ ち 単 一 の 関 数 で 表 さ れ る単 一 の 原理 か ら運 動 を決 定 す る こ と を 目指 す もの で あ る.
*4 厳 密 に い う な ら ば
,仮 想 仕 事 の 原 理(1.1.9)は 仮 想 変 位 が 可 逆 的,つ ま り あ る δrの 変 位 が 可 能 な ら ば-δrの 変 位 も 可 能 と な る場 合 に 成 り立 つ.そ う で な い と き,つ ま り運 動 可 能 領 域 の 端 で 変 位 が 一 方 向 に しか 許 さ れ な い 場 合 は,釣
ば よ い. *5 A:=Bな
い しB=:Aは
「BでAを
り合 い の 条 件 は δW≦0で
定 義 す る 」 と い う記 号
.
あれ
1.1.4
配位 空間上の運動方程 式
動 力 学 に お い て も,拘
束 が 滑 ら か で あ れ ば(1.1.7)が
べ て の δqiが 独 立 で あ る か ら,こ
成 り立 ち,さ
らに す
れ よ り拘 束 力 は
(1.1.14) を 満 た す.拘
束 力 の こ の 著 し い 性 質 を 用 い れ ば,運
動 方 程 式 か ら拘 束 力 を 消 去
す る こ と が で き る. 実 際,運
動 方 程 式(1.1.5)の
ユ ー ク リ ッ ド内 積)を
両 辺 と3次
作 り,さ
元 ベ ク トル ∂irαと の 内 積(R3で
ら に α で 和 を と る と,i=1,2,…,nに
の
た い して
(1.1.15) が 得 ら れ,こ
れ に は も は や 拘 束 力 が 含 ま れ て い な い.こ
化 座 標q=(q1,q2,…,qn)の
み で 表 し て,独
本 節 で は 拘 束 が 時 間 に よ ら な い(ス る の で,(1.1.4)よ
立 なqに
こ で さ ら に 左 辺 を一 般
つ い て の 方 程 式 を 導 く.
ク レ ロ ノ ー マ ス な)場
合 に 話 を限 っ て い
り質 点 α の 速 度 ・加 速 度 は
(1.1.16) (1.1.17) と 表 さ れ る.そ 拘 束 力Fα'を
し て こ れ ら を(1.1.15)に
代 入 し て,ひ
と ま ず の 目 的 で あ る,
含 ま な い 自由 度 の 数 だ け の 方 程 式
(1.1.18) が 得 られ る. こ の 方 程 式 を さ らに 書 き 直 す た め に,配 位 空 間Nの
幾 何 学 的 構 造 を調 べ て
み よ う.こ の 系 で は全 運 動 エ ネ ル ギー と し て,非 負 の 量
(1.1.19) が 定 義 さ れ て い る.そ
こで
(1.1.20)
とお く.そ して こ れ をn次
元 の 配 位 空 間Nを
動 エ ネ ル ギ ー と考 え れ ば, 見 なす こ とが で き る.こ
動 く質 量1の 仮 想 的 な質 点 の 運
を,そ の 質 点 がdt間
にN内
で 動 く距 離 と
う して 配 位 空 間Nに
(1.1.21) で 定 義 され る 計 量 を導 入 す る こ とが で き る.こ こ に
(1.1.22) こ れ ら(ds)2と{mij}は こ の 量{mij}は
§1.6.3で
一 般 に はqの
述 べ る 計 量 テ ン ソ ル と そ の 成 分 に あ た る.
関 数 でN上
の 点 ご と に 値 が 異 な る.
こ こ で さ ら に 次 の 量 を 定 義 す る:
(1.1.23) 明 ら か にCijk=Cikjで
あ り,ま
たmijの
定 義(1.1.22)よ
同 様 に
り
が 成 り 立 つ.そ
れ ゆ え(1.1.23)
で 定 義 され た 量 は
(1.1.24) の よ う に 表 さ れ る.こ symbols
の 量{Cijk}を
of the first kind)と
第1種
ク リ ス トッ フ ェ ル 記 号(Christoffel
い う.
こ れ ら の 諸 量 を 用 い れ ば,系
の 運 動 エ ネ ル ギ ー(1.1.19)は
(た だ し 他 方,運 Nの
動 方 程 式(1.1.18)は,既
(1.1.25)
),
知 の 一 般 化 力 と一 般 化 座 標qと
配位 空 間
幾 何 学 的 構 造 に 由 来 す る量 の み を用 い て,次 の よ うに 表 され る:
(1.1.26) と く に 力Fα
が 保 存 力 で,ポ
テ ン シ ャ ルU(r1,r2,…,rN)か
ら 導 か れ る 場 合,
一般化 力 の成分 は
(1.1.27)
とな り,上 の 運 動 方程 式 は次 の よ うに も表 され る:
(1.1.28) あ る い は 次 の よ う に 書 き 直 す こ と も で き る. い まdet(mij)≠0な 有 す る.た
ら ば,行
列(mij)はmijmjk=δikと
な る 逆 行 列(mij)を
だ し
(1.1.29) で あ り,こ
の δikを ク ロ ネ ッ カ ー の デ ル タ(Kronecker's
ロ ネ ッ カ ー の デ ル タ の 数 学 的 性 質 に つ い て は,p.29お 参 照 の こ と).そ
delta)と よ びp.78の
い う(ク 例1.5.2を
こ で この 逆 行 列 を 用 い て 量
(1.1.30) を 定 義 し,こ
れ を 第2種
の 両 辺 にmsiを に よ り,運
ク リス トッ フ ェ ル 記 号 と呼 ぶ.こ
か け てiに
つ い て 和 を と り,そ
れ を 用 い れ ば(1.1.26)
の 後 にsをiと
置 きか え るこ と
動 方 程 式 の も う一 つ の 表 現
(1.1.31) が 得 ら れ る. 以 上 に よ り,独
立 な 一 般 化 座 標qの
み で 表 さ れ,し
運 動 方 程 式(1.1.26),(1.1.28),(1.1.31)が
か も拘 束 力 を含 ま な い
得 ら れ た.こ
れ に よ り配 位 空 間
で の 系 の 運 動 が 決 定 さ れ る. 例1.1.1
球 面振 子
一 端 が 原 点Oに
固 定 さ れ た 長 さlの 軽 くて 変 形 し な い棒 の 他 端 に 結 び 付 け られ,
重 力 を受 け て い る 質 量mの 張 力 をSと
お も りの 運 動 方 程 式 は,お
も りに 働 く重 力 をmg,棒
の
して
(1.1.32) 棒 の 長 さ が 一 定 とい う こ とは,物
で 与 え られ,棒 は 張 力Sは
理 的に は張力 の ポテ ン シャルが
が 少 し で も伸 縮 す る と無 限 大 の 力 で 戻 さ れ る こ と で あ る が,実
際に
未 知 の 拘 束 力 と して 扱 わ れ, 拘 束 条 件:│r│-l=0
の も と で 運 動 方 程 式 を解 く こ とに よ り,r(t)と
(1.1.33)
と もに 決 定 さ れ る.
つ ま り こ の 場 合,こ
の 拘 束 条 件 に よ り 自 由 度 は2に
減 り,R3内
の この 式 で決定 さ
れ る2次 元 球 面 が 配 位 空 間 に な っ て い る.そ れ ゆ え こ の 振 子 を球 面 振 子(spherical pendulum)と
い う.こ
の 場 合,張
方 を 向 きS=-Sr/lと い.す
力Sは,そ
表 さ れ,し
の 大 き さ が 不 明 で あ る が,つ
ね に棒 の
た が っ て つ ね に こ の 球 面 に 垂 直 で,仕
事 を しな
な わ ち 拘 束 は 滑 らか で あ る.
そ こ で,は
じめ か ら こ の2次
うに す る.球
面 上 の お も りの 位 置 は,球
で指 定 され る.こ
の(θ,φ)を
元 配 位 空 間 だ け で 考 え る本 文 の や り方 で は,次 面 の 余 緯 度 θ と経 度 φの2個
一 般 化 座 標 に採 る と,お
のよ
の パ ラ メー タ
も り の位 置 の デ カ ル ト座 標 成
分は
(1.1.34) と書 け(図2.1.2参 ギー は(θ,φ)を
照,鉛
直 上 向 き をz軸
の 正 方 向 に と る),お
も りの 運 動 エ ネ ル
用 いて
(1.1.35) と表 さ れ る.こ
れ よ り(θ,φ)=(q1,q2)と
し て4個
のmijは
(1.1.36) ま た8個
の ク リス トッ フ ェ ル 記 号 は
(1.1.37) と求 ま る.そ
して こ れ ら と重 力 の ポ テ ン シ ャ ル ・エ ネ ル ギ ー
(1.1.38) を あ わ せ て,運
動 方 程 式(1.1.28)は,こ
の場合
(1.1.39) と表 さ れ る.運 動 方 程 式 は 自由 度 の 数 だ け で あ り,こ の や り方 で は 拘 束 力 と して の 棒 の 張 力 は ど こ に も現 れ な い. な お ,得
ら れ た こ の(1.1.39)が
か れ る も の と 同 じ で あ る こ と は,次 分 の そ れ ぞ れ に(1.1.34)を
確 か に ニ ュ ー トン の 運 動 方 程 式(1.1.32)か
ら導
の よ う に 直 接 に 示 さ れ る.(1.1.32)のx,y,z成
代 入 し(符 号 を変 え る こ と に よ り)
(a) (b) (c) こ れ ら よ り
の操作 で
(1.1.40) さ ら に
で
(1.1.41) で
ま た
(1.1.42) (1.1.41),(1.1.42)は(1.1.39)の2式 方,(1.1.40)は 大 き さSを
に 他 な ら ず,こ
の2式
加 速 度(θ や φ に 比 例 す る 項)を 含 ま ず,こ
が 運 動 を 決 定 す る.他 れ は 運 動 か ら拘 束 力 の
決 定 す る 方 程 式 で あ る.
1.2 曲 面 上 の 拘 束 運 動*1
1.2.1
曲面のパ ラメータ表示
前 節 で 導 い た 拘 束 運 動 の 方 程 式(1.1.26),(1.1.28),(1.1.31)の
幾何 学 的
意 味 を 明 ら か に す る.た
何学 的 ・
だ し,数
式 の 迷 路 に は ま り こ む の を 避 け,幾
直 観 的 イ メー ジ を 明 瞭 に す る た め,一 す な わ ち 滑 ら か な2次
個 の 拘 束 条 件 に し た が う1質
点 の 運 動,
元 曲 面 上 に 拘 束 さ れ た 運 動 に つ い て 述 べ る.前
球 面 振 子(例1.1.1)は
そ の 一 例 で あ る.
質 点 の 運 動 空 間R3内
の2次
元 曲 面N上
の 点 は,パ
節 に見 た
ラ メー タ表 示 で
(1.2.1) と な る.た
と え ば半 径aの
球 面 上 の 点 は余 緯 度 θ と経 度 φ に よ り
(1.2.2) な お 以 下 で は 上 式(1.2.1)を
簡 単に
ない し の よ う に 記 す.こ
れ は(q1,q2)平
す こ と が で き る(図1.2.1).rの
面 の あ る 領 域Dか 各 成 分 はD上
か つ 必 要 な だ け 微 分 可 能 な 関 数 で あ り,さ
の ラ ン ク がD上
で2と
*1 先 を い そ ぐ読 者 は
ら 曲 面Nへ
の 写 像 と見 な
で 定 義 さ れ た(q1,q2)の
連続
ら に こ れ ら の 関 数 の ヤ コ ビ行 列
す る(∂i:=∂/∂qi).
,第1章
の こ の 後(§1.2∼
§1.6)を
う じ て §1.2∼ §1.6の 該 当 箇 所 を参 照 し て も よ い.
飛 ば し て 第2章
に 進 み,必
要 にお
図1.2.1 曲 面 とそ の 座 標
こ こ でq1を
固 定 しq2を
q1-曲 線 と 呼 ぼ う.同
変 化 さ せ れ ばN上
様 にq2を
q2-曲 線 と 呼 ぶ.q1とq2の 1点 が 決 ま り,逆 のq2の
固 定 しq1を
にN上
θ と経 度 φ で 指 定 さ れ,し
午 線)の
あ る か ら,こ
れ を
の 曲 線 の 交 点 と して 線 のq1の
値 とq2-曲
座 標 と す る こ とが で き る.た 網 の 目 で 覆 わ れ,そ
た が っ て(θ,φ)が
線
とえ ば
の 上 の 点 は余 緯 度
球 面 の 座 標 系 を 与 え る.
元 ベ ク トル
はq1-曲 ラ ン ク が2で
で こ の2本
の 各 点 は そ の 点 で 交 わ るq1-曲
球 面 は 等 緯 度 線 と 等 経 度 線(子
の3次
の 曲 線 が 決 ま る.こ
変 化 させ るこ とで決 ま る曲 線 を
値 を 決 め れ ばN上
値 で 表 さ れ る か ら(q1,q2)をNの
そ してR3内
で1本
はq2-曲
線 の 接 ベ ク トル で あ る.し の 二 つ の 接 ベ ク トル は1次
線 の 接 ベ ク ト ル,
か も上 の ヤ コ ビ行 列 の 独 立 で あ り,し
たがって
∂1rと ∂2rが 曲 面 上 の 各 点 で 接 平 面 を 張 る. た だ し1組
の(q1,q2)でNの
え ば 球 面 の 場 合,北 一 意 的 に 決 ま らず
す べ て の 部 分 が 表 さ れ る と は 限 ら な い.た
極 と南 極 で は 無 数 の 子 午 線 が 集 中 す る の で そ こ で は 経 度 は ,そ
の 点 で 上 の ヤ コ ビ 行 列 の ラ ン ク は1に
場 合,座
標 系 が(q1,q2)で
の で,他
の 部 分 を 含 む 曲 面 片 で は 別 の 座 標 系(q1,q2)を
表 さ れ る の はNの
あ る 部 分(曲
な る.そ
の よ うな
面 片)に
限 られ る
使 い,こ
う し てN
を そ れ ぞ れ 座 標 系 を も つ 何 枚 か の 曲 面 片 で 覆 え ば よ い(図1.2.1).た の さ い,異 φ:D→Dが
と
な る 座 標 系 が 重 な る と こ ろ で は,そ 定 め ら れ て い る とす る.
だ しそ
れ ら の 座 標 系 を つ な ぐ座 標 変 換
この曲面上 の線素 は
(1.2.3) で 表 さ れ る(本
節 で は 和 の 規 約 は1, 2に つ い て の 和 を 表 す).こ
こに量
(1.2.4) を 曲 面(1.2.1)の 形 式(1.2.3)を
第1基
本 量(first
曲 面 の 第1基
本 形 式(first
の 括 弧 内 は 質 点 の 質 量 をmと と し た と き と の 対 比,ま
fundamental
quantities),ま
fundamental
し た と き の,前
form)と
た 上 の2次 い う(上
式
節 で 定 義 し た(1.1.22)でN=1
た こ こ で のdsは(1.1.21)のdsと
は
の
関 係 に あ る). しか る に ∂1rと
∂2rが1次
独 立 で あ るか ら
(× は ユ ー ク リ ッ ド外 積) と な り,行
列(gij)は
こ の 量 も 第1基
1.2.2
逆 を も つ の で,そ
の 逆 行 列 を(gij)で
表 す.
本 量 と い わ れ る.
加 速 度 ベ ク トル と運 動 方 程 式
さ て 質 点 が 曲 面 上 を 運 動 す る と き,そ て ゆ くか ら,そ
の 軌 道 はR3で
の 座 標 成 分(q1,q2)は
時 々 刻 々変 化 し
の 位 置 ベ ク トル
(1.2.5) に よ り表 さ れ る.こ
れ は簡 単 に な い し
の よ う に も記 され る.こ れ は 曲 面 上 の 曲 線 の パ ラ メー タ表 示 で あ る. この 曲線 に そ っ た運 動 のR3空
間での速度 は
(1.2.6) で あ る が,∂ir(i=1,2)は 度 は つ ね に 曲 面Nに 同様 に加 速 度 は
点rに 接 し て い る.
お け る 曲 面 の 接 ベ ク トル で あ る か ら,こ
の速
(1.2.7) とな る.右 辺 第1項
は速 度 と同様 に 曲 面Nに
て は,一 般 に 曲 面 上 の 点 で のベ ク トル(3次
接 し て い る.他 方 第2項
につ い
元 ベ ク トル)は 曲 面 に 接 す る成 分
と曲 面 に 垂 直 な 成 分 に分 解 され る の で,点rに
お け る 曲面 の 単位 法 ベ ク トル
(1.2.8) を用 い て
(1.2.9) の よ うに 展 開 され る.こ の右 辺 の 第2項
の係数 は
(1.2.10) ま た 第1項
の 係 数 Γijkは,(1.2.9)式
と ∂nrと の 内 積 を と っ て
(1.2.11) を 満 た し て い る.こ
の 左 辺 の 量 を Γnjkと
表 す と,こ
れ ら の Γijk,Γnjkは,前
節
で 定 義 し た ク リ ス ト ッ フ ェ ル 記 号(1.123),(1.1.30)と
(1.2.12) の よ う な 関 係 に あ り,や な お こ の{Γnjk}と{Cnjk}の 用 い て(1.1.24)を
は り第1種
・第2種
関 係,お
ク リ ス ト ッ フ ェ ル 記 号 と呼 ば れ る.
よ び(1.2.4)の{gjk}と{mjk}の
書 き 直 す と,Γijkに
関係 を
つ い て も同 様 の表 現
(1.2.13) が 得 ら れ る. こ れ ら の 記 号 を 用 い れ ば 加 速 度(1.2.7)は,(1.2.9)よ
り
(1.2.14) し た が ってR3内
で の運 動 方 程 式mr=Fは
(1.2.15) こ こ でFは
質 点 に 働 い て い る す べ て の 力 の 和((1.1.1)のFtotal)で
の 方 程 式 は,力Fを
曲 面 に 平 行 な 成 分FTと
垂 直 な 成 分FNに
あ り,こ
分解 し
(1.2.16a)
(1.2.16b) と分 け る こ と が で き る. 前 者(1.2.16a)が,与 す る.そ
の 両 辺 と ∂lrの 内 積 を 作 れ ば
ま た は(gnlを
か け てlで
と な る.(1.1.7)の ば,こ
え ら れ た力 の も とで 質 点 が 曲 面 上 で と る運 動 を決 定
和 を と り,
条 件 よ りFTは
れ は(1.1.26)(1.1.31)に
1.2.3
拘 束 力 を 含 ま ず,{Clij}と{mij}で
書 き直 せ
他 な ら な い.
拘束 力の決定
後 者(1.2.16b)は,前 部 分 で あ り,こ 曲 面N上
の 書 き か え を し て)
節 で は拘 束 力 を消 去 す る と い う 目的 か ら消 去 さ れ た
こ で は そ の 意 味 を よ り明 確 に す る た め に,次
の 任 意 の1点r=r(q10,q20)=r0に
着 目 し,曲
の よ う に 考 え る.
面上 の関数
(た だ し )) を 考 え る(eN0は 上 で 点r0の
点r0で
の 単 位 法 ベ ク トル).内
積 ∂ir・eN=0で
あ る か ら,N
近 くの 点
で は,(1.2.10)を
考 慮す れば
(1.2.17) と な る.図1.2.2よ ら 曲 面N上
り 明 ら か な よ う に こ の 量 はr0で
の 点r(q)ま
で の 高 さ で あ る.{hjk}を
の 曲 面 の 接 平 面(TN)0か
曲 面 の 第2基
本 量,ま
た
(1.2.18)
図1.2.2 曲面 の接 平 面 と 法線 ベ ク トル
を 曲 面 の 第2基 さ てr0で
本 形 式(second
の 質 点 の 速 度r=υ
fundamental
form)と
い う.
と 法 ベ ク トルeN0を
含 む 平 面(NN)0を
考 え,
軌 道 を こ の 平 面 に 射 影 し た 曲 線 の 曲 率 半 径 を ρNと す る. い ま 質 点 が 微 小 時 間dt=ε す る と,r0で
τ の 間 にr0=r(q0)か
の 質 点 の 速 さ を υ=│r│と
し て,図
らr(q0+ε
ξ)ま で 動 い た と
よ り
(1.2.19) の 関 係 が 得 ら れ る.他 (1.2.19)を(1.2.17)と よ り,r0で
方,r0で
の 速 度 成 分 は
比 べ て
で あ る か ら, と な る.さ
ら に(1.2.14)
の加 速 度 の 法 線 成 分 は
(1.2.20) と表 さ れ る(eNの 点r0はN上
向 きが 図 と逆 な ら右 辺 に-(マ
イ ナ ス)が つ く).も ち ろ ん
で あ れ ば 任 意 で あ る か ら,こ の 式 は 曲 面 上 の ど の 点 で も成 り立
つ. し たが っ て,一 般 に運 動 方 程 式 の 曲 面 に 垂 直 な成 分(1.2.16b)は
(1.2.21)
と 簡 単 な 形 に な る(例1.1.1で ゆ え,(1.1.40)の
は,
で,つ
左 辺 は 確 か にmυ2/ρNと
な る).こ
ね に ρN=l
れは質点 が与 え られ た曲
面 上 で ど の よ うに 動 こ う と も曲 面 か ら離 れ る こ とは で き な い とい う条 件 だ け か ら得 ら れ る 式 で,運
動 を決 定 す る 式 で は な く,逆
(面 の 垂 直 抗 力FN)を
に 拘 束 条 件 と運 動 か ら 拘 束 力
決 定 す る 式 と考 え る べ き で あ る.
1.2.4 曲 面 上 の 運 動 方 程 式 他 方,質
点 の 曲 面 上 で の運 動 を調 べ る ため に は,パ
ラ メー タ と して 時 間tの
か わ りに軌 道 経 路 の 長 さ
(1.2.22) を 使 う ほ う が 便 利 で あ る.こ べ て の 点 で υ≠0な
こ で は υ=ds/dtは
ら ばs=s(t)か
任 意 の 点 で の 速 さ で あ り,す
ら 逆 にt=t(s)が
決 ま る の で,軌
道 上 の点
は
(1.2.23) で 表 さ れ る.こ
の と きr(s)に
お け る 軌 道 の 接 線 ベ ク トル は
(1.2.24) で あ り,こ で 表 す).そ
れ は 単 位 ベ ク トル で あ る(以 こ でr(s)に
下,sに
お い て 曲 面 に 接 し,か
よ る 微 分 演 算 を'(ダ つeTに
ッ シ ュ)
直 交 す る 単 位 ベ ク トル
(1.2.25) を と る.そ
う す れ ば 法 ベ ク トル はeN=eT×eGと
各 点 で 右 手 直 交 系 を作 る(も こ の よ う に す れ ば,速
表 さ れ,(eT,eG,eN)が
軌道 の
ち ろ ん 軌 道 上 の 点 ご と に 異 な る).
度 はr=υeTで
あ る か ら,加
速度は
(1.2.26) と 表 さ れ る(第2項 使 っ た).し
は 任 意 の 関 数fに
か る にeT・eT=1で
か ら,eT'はeTに
あ り,こ
た い し てdf/dt=υdf/dsで れ をsで
あ る こ とを
微 分 す る と2eT・eT'=0と
な る
直 交 して い る こ とが わ か り
(1.2.27)
す な わ ち,加 速 度 は 次 の 簡 単 な和 で 表 さ れ る:
(1.2.28) こ こ で 前 段 の 結 果(1.2.20)を
使 うと
(1.2.29) と な り,こ
の κNを 曲 面 上 の 曲 線 の 法 曲 率(normal
半 径 と い う.平
た くい え ば,κNは
を 表 現 し て い る.こ
の 曲 率 は,曲
法 曲率
曲 面 自体 の 湾 曲 に そ っ た 軌 道 の 曲 が り 具 合 面NがR3の
立 場 で 見 た と き に の み 意 味 を も ち,曲 に へ ば りつ い て 生 き て い る2次
curvature),ρNを
中 に埋 め 込 ま れ て い る と い う
面 内 だ け で 見 る 立 場 で は(つ
元 生 物 に は)理
ま り曲 面 上
解 で き な い量 で あ る.
ま っ た く同様 に 考 え る と
(1.2.30) は,軌
道 を 接 平 面TNに
射 影 し て 得 ら れ る 曲 線 の 曲 率 で あ り,し た が っ て そ
の 逆 数 が そ の 曲率 半 径 で あ る.実 際,軌
道 を点r0=r(S0)で
の 接 平 面(TN)0に
射 影 して得 られ る曲 線 は
と表 さ れ るか ら(添 字0はr0で
の 値),こ
の 曲 線r(s)の
曲率 円 の 半 径 を ρGと
す れ ば,前 段 と同様 に考 えて
(1.2.31) こ こ にr0は
任 意 で あ る か ら,一
曲 率(geodesic 合 を 与 え,そ
curvature)と
般 に い う.測
れ ゆ え 曲 面 内 の2次
以 上 よ り,R3内
が 成 り立 つ.こ
の κGを 測 地 的
地 的 曲 率 は 曲 面 内 で の 軌 道 の 曲 が り具
元 生 物 に も理 解(測
定)で
き る 量 で あ る.
で の 運 動 方 程 式mr=Fは
(1.2.32) あ る い は 成 分 に分 解 して
(1.2.33)
(1.2.34) (1.2.35) と表 され る.第1式
は加 え られ た力 に よ る軌 道 方 向 の加 速 を与 え,第2式
面 内 で の 軌 道 の 曲 げ を与 え る.他 方,第3式
は曲
に よ り,運 動 と 曲 面 の 曲 が りか
ら,質 点 に 働 い て い る拘 束 力(曲 面 か らの 垂 直 抗 力)が 決 定 され る.軌 道 曲面 にへ ば りつ い た2次 元 生 物 に とっ て は,は
1.2.5
慣 性 運 動 と測 地 線
と くに,拘 る.こ
じめ の二 つ の 式 だ け が 意 味 を もつ.
束 力 を 別 と し て,曲
の と き,は
面 内 で は 力 が 働 い て い な い場 合 の 運 動 を考 え
じめ の 二 つ の 方 程 式(1.2.33),(1.2.34)よ
り
υ=一 定 か つ
(1.2.36)
測 地 曲 率 κGが0と い う こ とは 接 平 面 に 射 影 した 曲 線 が 曲 が ら な い と い う こ と で あ るか ら,質 点 は(質 点 を曲 面 に拘 束 す る力 を の ぞ い て)曲 面 内 で 力 が 働 か な け れ ば 曲 面 上 を一 定 の速 さ で,(曲 面 自 身が もつ 曲 が り を の ぞ い て)い わ ば 「ま っす ぐ」 に 進 む.慣 性 の 法 則(law
of inertia)の 曲 面 上 で の 実 現,す
なわ
ち慣 性 運 動 で あ る. こ こ で 測 地 的 曲率 が0に
な る条 件 は
と書 き直 され る.そ の よ うな 曲 線 と して,方 程 式
(1.2.37) の 解 曲 線 を と くに 測 地 線(geodesic
curve),ま
た この方 程 式 を測地 線の 方程
式 とい う.こ の 測 地 線 が 曲 面 上 で の 自由運 動(慣 性 運 動)の 軌 跡 を与 え る. 測 地 線 は,以 下 に 示 す よ うに 局 所 的 最 短 曲 線 で あ る,つ に近 い任 意 の2点
ま りそ の 線 上 の 十 分
を結 ぶ 曲 線 の う ち で最 も短 い 曲 線 で あ る.し たが っ て,曲 面
上 の 自 由運 動 で は,質 点 は あ る点 か らい ま一 つ の 点 ま で そ の2点
を結 ぶ最 短 距
離 で移 動 す る(一 般 に は 距 離 が停 留 値 に な る経 路 を と る).こ の こ とは 光 学 に お け る フ ェ ル マ ー の 原 理 と同様 の 原 理 が 力 学 に お い て も成 り立 つ こ と を示 唆 し て い る.質 点 の 運 動 と光 の伝 播 との この ア ナ ロ ジー は きわ め て 重 要 で,以 下 で
本 書 の 全 体 を 通 して よ り詳 し く述 べ ら れ る. 測 地 線 が 局 所 的 最 短 曲 線 で あ る こ と は 次 の よ う に 示 さ れ る*2. 曲 線Cを ら にCの
と り,そ
のCに
各 点 を 通 りCに
そ っ て 測 っ た 長 さ を 表 す パ ラ メ ー タ を η と し,さ 直 交 す る 測 地 線Gの
か ら 測 っ た 長 さ を ξ と す る.(ξ,η)が 標 系 に と る こ と が で き る.こ
族 を 描 き,そ
あ ま り大 き くな い 範 囲 で は,(ξ,η)を
),
こ こ で ξ は 測 地 線 に そ っ た 長 さ で あ る か ら,測 .ま
た が っ て
た こ れ を η で 微 分 し て
測 地 線 で あ る か ら κG=0,よ
こ れ は 曲 面 に 垂 直,他
{G}と
地 線 の 接 ベ ク トルrξ は 単 位 ベ .し
を ξで微 分 した もの は
と こ ろ がGが
∂ξgξ η=0.ゆ
座
の とき (た だ し
ク トル で あ り
れ ら の 測 地 線 のC
直 交 し て い る か ら
か る にC(ξ=0の ,し
曲 線)は
な り, な わ ち
測地 線 族
たが って任 意 の ξに たい
な け れ ば な ら な い.
す な わ ち こ の 座 標 系 で は,計
の 形 を と る.そ
ξ=κNeNと
方rη は 曲 面 の 接 ベ ク ト ル ゆ え,rξ ξ・rη=0す
え にgξ ηは ξ に よ ら な い.し
し てgξ η(ξ,η)=0で
っ て(1.2.27)はrξ
れ ゆ え 図1.2.3の
量 は
測 地 線 上 に あ る2点PQを
結ぶ 任 意 の曲線 の
図1.2.3
*2 証 明 は 小 林 昭 七 逆,つ
『曲 線 と 曲 面 の 微 分 幾 何 』(裳 華 房1977)
ま り任 意 の2点
こ と は 後 に §3.3.4で
を 結 ぶ 曲 線 の う ち で,そ 示 す.
Ch .3, §6に 倣 っ た.な
お この
の 長 さが停 留 値 に な る もの が測 地 線 で あ る
長 さ は(2点PQが(ξ,η)を
座 標 とす る 曲 面 片 の 内部 に あ るか ぎ りで)
(1.2.38) この 式 の右 辺 は測 地 線 に そ っ て測 っ たPQ間
の 長 さ で あ るか ら,測 地 線 は 局 所
的 最 短 曲 線 で あ る. ここで 「 局 所 的 」 とい うの は,次 の 例 の よ う な事 情 を指 して い る. 地 球 の 表 面 を 半 径aの
球 面 と考 え,(1.2.2)の
位 置 を指 定 す る.球 面 上 の 線 素(第1基 ゆ え,あ
るい は(1.1.36)よ
り,第1基
よ う に余 緯度 θ と経 度 φで
本 形 式)は 本量 は
(1.2.39a) (1.2.39b) ま た ク リ ス ト ッ フ ェ ル 記 号 は,(1.2.12),(1.2.13),あ
る い は(1.1.37)よ 他 は0
り
(1.2.40a)
他 は0.
(1.2.40b)
し た が っ て 地 球 上 の 測 地 線 の 方 程 式(1.2.37)は
(1.2.41) 測 地 線 に そ っ て θ=θ(φ)と
す る と
し た が っ て(1.2.41)は
こ の 方 程 式 の 解 は,極(θ=0,θ=π)を
の ぞ け ば,φ=const.(子
で あ る.
午 線)ま
とす る と,後
たは
者の解 は
こ れ は 地 球 の 中 心 を 通 る 平 面 と 地 球 表 面 の 交 線 す な わ ち 大 円 の 方 程 式 で あ る. 実 際,こ
の 式 を 満 た す 地 表 上 の 点r=(asinθcosφ,asinθsinφ,acosθ)は,
定 ベ ク ト ルn=(sinθ0cosφ0,sinθ0sinφ0,cosθ0)と 平 面 上 に あ る.
直 交 し,地
球 の 中 心 を含 む
と こ ろ で 大 円 上 の2点PQを 球 上 でPQを
考 え る と,PQを
結 ぶ 大 円 の 短 い 方 の 弧 は,地
結 ぶ 他 の す べ て の 曲 線 よ り短 い が,PQを
(地 球 の 裏 側 を 通 る 弧)は
最 短 曲 線 で は な い.そ
結 ぶ大 円の長 い方の弧
の 意 味 で,測
地 線 が最 短 曲 線
で あ る の は 局 所 的 と い わ れ る. 例1.2.1
円錐 振 子
球 面 振 子 の 運 動 方 程 式(1.1.39)は つ.た
を満 た す.こ
(倒 立)の 他 に,g0で
は,eT(軌
が っ て,お
で あ
れ ゆ えeG=eN×eTは
も ち ろ ん 球 の 中 心(原 点O)方
も りに 働 い て い る合 力F=SeN+mgに
と書 き 直 さ れ る.こ な わ ち,運
図1.2.4a
の 第1式
緯度
向 を向 く
子 午 線 に そ っ た θの 増 す 向 き の ベ ク トル .し
り,(1.1.42),(1.1.41),(1.1.40)は
わ か る.す
考 え よ う.
道 接 線 方 向 の 単 位 ベ ク トル)は,等
線 に そ っ た φ の 増 す 向 き の ベ ク トル,eNは ベ ク トル,そ
も りは 水 平 面 内 で 等 緯 度
さ υ=lω sinα の 等 速 円 運 動 を行 う(図1.2.4a).
こ の 運 動 に つ い て,方 程 式(1.2.33),(1.2.34),(1.2.35)を 図 のCが
立),θ0=π
と な る運 動 状 態 が 可 能 で あ
れ は 頂 角 αの 円 錐 振 子(conical
線 に そ っ て 半 径l sinα,速
い う解 を も
れ よ り θ0=0(直
そ れ ぞ れ
と 第3式
が(1.2.33),(1.2.35)で
あ る こ と は,見
れば
動 方 程 式 の 軌 道 に そ っ た 成 分 と,曲 面 に 垂 直 な 成 分 で あ る.
円錐 振 子 の 軌 道
た
た い して
図1.2.4b
第2式
に つ い て は,次
お も り の 位 置Qで Q点
の よ う に考 え れ ば よ い.
の 球 の 接 平 面(TN)Q上
を通 る 大 円(eNとeTが
な り,他 方,お (TN)Qに
で は 直 線Lと
も りの 軌 道 で あ る 水 平 面 上 の 半 径l sinα の 円Cは,そ
た い して α だ け 傾 い て い る か ら,(TN)Qに
短 径
の 楕 円C'に
径 は
射 影 さ れ れ ば,長
な る.そ
は(1.2.34)に
他 な らず,運
1.3
1.3.1
の水 平 面 が 径a=l
して こ の 楕 円 の 点Qで
で あ り,こ の 逆 数 が 測 地 曲 率1/ρGで あ る.し
の 第2式
sinα, の 曲率 半
た が っ て,上
動 方 程 式 の 曲 面 内 の 軌 道 に 垂 直 な成 分 で あ る.
曲 面 上 の テ ン ソル と共 変 微 分
曲 面 上 の ベ ク トル
前 節 で は,質 部 分 空 間(埋 R3の
へ の 軌 道 の 射 影 を考 え る(図1.2.4b).
張 る 平 面 と球 面 の 交 線)C0は,(TN)Q上
点 の 運 動 す る2次 め 込 ま れ た 曲 面)と
ベ ク トル と し て 導 入 し,そ
垂 直 な 成 分 に 分 解 し,曲
元 曲 面Nを3次
元 ユ ー ク リ ッ ド空 間R3の
し て 捉 え た.そ の 上 で,そ
れ ゆ え加 速 度 や 力 を 最 初 は
れ ら を曲 面 に 接 す る成 分 と曲 面 に
面 上 で は 前 者 の 成 分 だ け が 理 解 可 能 な 意 味 を も ち,後
者 の 成 分 は 曲 面 の 外 の 空 間 か ら 見 な け れ ば 意 味 を も た な い と 区 別 し た. しか し は じめ か ら 曲 面 上 だ け で 考 察 す る な ら ば,つ や
ま り曲 面 の
「外 」 の 次 元 な る もの を知 ら な い 立 場 で 考 察 す る な ら ば,前
方 は 不 可 能 に な る.本
節 で も,2次
「外 」 の 世 界
節 の よ う な行 き
元 曲 面 に 話 を 限 る け れ ど も,曲
面上 だけで
考 察 す る と い う立 場 か ら前 節 の 結 果 を 捉 え 直 す. 曲 面N上
の 点 は,一
般 に 何 通 り も の 座 標 で 表 す こ と が で き る.す
座 標 変 換 =(q1,q2)で
に よ っ て 同 一 の 点Qが,あ 表 さ れ,他
の 座 標 系 で はq=(q1
下 で は こ の 変 換 に お い て,関 で,か
つ ヤ コ ビ 行 列 式 が
,q2)で
数qi=φi(q1,q2)が
な わ ち,
る 座 標 系 ではq
表 さ れ る(図1.2.1).以
連 続 で必 要 なだけ 微 分可能 で あ る とす る.
さて 一 般 に 力 学 に お け る ほ とん どの 物 理 量 は座 標 と速 度 や 加 速 度 の 関 数 で あ り,物
理 法 則 は そ の よ う な 物 理 量 の 関 係 で あ る.し
た が っ て そ の 具 体 的 ・個 別
的 表 現 の た め に は 特 定 の 座 標 系 を 用 い な け れ ば な ら な い.し 意 味 そ の も の は,使
か し法 則 の 物 理 的
用 す る 座 標 系 に よ っ て 変 化 し て は な ら な い.そ
座 標 変 換 に さ い し て 法 則 の 形 が 変 わ っ て は い け な い,い
の ためには
いか え れ ば 法 則 を表す
等 式 の 両 辺 や 各 項 は,座 標 変 換 の さ い に 同 じ よ うに 変 換 され な け れ ば な ら な い.こ の こ とは あ る関 係 が 物 理 法 則 で あ る ため に満 た され な け れ ば な ら な い大 前提 で あ り,こ の 要 請 を物 理 法 則 の共 変 性(covariance)と
い う.
こ の 共 変 性 を数 学 的 に よ り明 確 に 表 す ため に,座 標 変 換 に と も な う各 種 の 物 理 量 の 変 換 性 を調 べ よ う. た とえ ば 曲 面 が あ る陸 地 を表 して い る と し,陸 上 の 各 点 で 温度 や 電 位 が 決 ま る とい う物 理 法 則 が 意 味 を もつ た め に は,温 度 分 布 や 電 位 分 布 を表 す 関 数 は ど の座 標 系 を用 い て も同 一 の 地 点 で 同 一 の値 を と らな け れ ば な ら な い.す
なわち
(1.3.1) と変 換 され な け れ ば な らな い.こ のf(q)の な い 量 を 曲 面 上 の ス カ ラ ー(scalar)と
よ うに 座 標 変 換 に よ り値 の変 わ ら
い う.
つ ぎに 曲 面 上 の 曲 線 に そ っ た質 点 の速 度 を考 え る.速 度 が 物 理 的 に 意 味 を も つ ため に は 曲 面N上 り と して,3次
だ け で定 義 で き る もの で な け れ ば な ら な い.そ
元 空 間R3で
の手 がか
の速度
(1.3.2) を 考 え る.こ (q1,q2)に
の υ(r)は 確 か に 曲 面 に 垂 直 な 成 分 を も た ず,曲
お け る 接 平 面(TN)Q上
ベ ク トルrがR3の
の ベ ク トル で あ る(図1.3.1).そ
ベ ク トル で あ る とい う こ と を忘 れ て,ベ
図1.3.1
面 上 の 点Q= こ で,位
ク トル の 組
曲面 の 接 平 面 とそ の 基 底
置
(1.3.3) を接 平 面(TN)Qの
一 組 の 基 底 ベ ク トル を表 す 単 な る記 号 と見 る.そ
うす れ ば
(1.3.4) は 点Qで
の 速 度 υQの その 基 底 に 関 す る成 分 と解 釈 で き る.
こ の と き座 標 変 換
に た い し て こ の 基 底 と成 分 は,
そ れ ぞれ
(1.3.5) (1.3.6) の よ うに 変 換 され る と して よ い.そ
うす れ ば 速 度 そ の もの は
(1.3.7) の よ う に 表 さ れ,使
用 す る 座 標 系 に よ ら な い 意 味 を もつ.こ
こで
(1.3.8) で あ る こ と を 使 っ た. そ こ で,座 (1.3.6)と
標 変 換
に た い し て,速
度 成 分 の変 換則
同 一 の変 換 則
(1.3.9) に し た が う 成 分 か ら な る 一 組 の 量(A1,A2)を vector),Aiを
そ の 成 分 と い う.た
反 変 ベ ク トル(contravariant
とえば 座 標 成 分 の微 分 は
(1.3.10) の よ うに変 換 され るか ら,(dq1,dq2)は
反 変 ベ ク トル で あ る.
この よ うに して 定 義 さ れ るベ ク トル は 通 常 のユ ー ク リッ ド空 間 で 導 入 され る 起 点 と先 端 を結 ぶ 矢 線 ベ ク トル の よ うな 空 間 の2点 で 決 ま る対 象 と異 な り,曲 面 の 各 点 ご とに 決 ま る対 象 で あ る.そ
して 曲 面 の 同一 の 点 で の反 変 ベ ク トルの
和 や ス カ ラー 倍 は 反 変 ベ ク トル で あ り,し たが っ て 曲 面 上 の 各 点 で の 接 平 面 の
そ れ ぞ れ が ベ ク トル 空 間 に な って い る(以 下 で は,上 は,と
くに 断 りが な い か ぎ り 「点Qに
字Qを
省 略 す る).
に述 べ た よ う な 変 換 則
お け る変 換 則 」 を表 す も の と して,添
次 に 距 離(曲 線 上 の 線 素 の長 さ)は 座 標 変 換 で変 わ らな い量 で あ るか ら (1.3.11) を満 た す.し
た が って 第1基 本 量 の 変 換 則 は
(1.3.12) で な け れ ば な ら な い.当 な わ ちgij=ei・ejか そ こ で,任
然 の こ と な が ら,こ
れ は 前 節 で の 定 義(1.2.4a)す
ら導 か れ る変 換 則 と一 致 し て い る.
意 の 反 変 ベ ク トル(B1,B2)に
た い して (1.3.13)
で 定 義 さ れ る 一 組 の 量 を 考 え る.こ
の量 の成分の変換 則は
(1.3.14) (1.3.15) で 与 え ら れ る(関
係(1.3.8)を
使 う).そ
こ で 成 分 が これ と同 様 の変 換 則 に し
た が う一 組 の 量 を 曲 面 上 の 共 変 ベ ク トル(covariant ば ス カ ラ ー 関 数f(q)=f(q)の
の よ り に 変 換 さ れ る の で,共
勾 配
vector)と は,そ
い う.た
とえ
の成分 が
変 ベ ク トル で あ る*1.
そ して一 般 に (1.3.16) はgijの
定 義 か ら わ か る よ う に 座 標 変 換 に よ り 値 を 変 え な い ス カ ラ ー で あ り,
こ れ を ベ ク ト ルA=AieiとB=Bieiと A・Bで
表 す.ま
た
の 内 積(inner を ベ ク トルAの
product)と 長 さ,さ
い い,
らに
*1 ここ で 慧 眼で 注 意深 い読 者 は ,そ れ で は 「 共 変 ベ ク トル の 基 底 は何 か?」 な い し 「 共変 ベ ク トル の張 る空 間 は何 か?」 と問 わ れ るか も しれ な い.そ れ は重 要 な問 い だ が,そ の 点 に 関 して は後 節(§1.5.2)で 説明 す る.こ こ では共 変ベ ク トル につ いて は,そ の変 換 則 に だ け に 注 目 して も らい たい.
(1.3.17) で 決 ま る 角 度 θ をベ ク トルAとBの
な す 角 度 と い う.ベ
ク トル の 長 さ も角 度
も ス カ ラ ー で あ る. さ て,前
節 で 座 標 系(q1,q2)に
(つ ま りgijgjk=δik)を
お い て,行
導 入 し た.そ
列(gij)の
の 変 換 則 は,定
逆 行 列 の 要 素 と し てgij 義(1.2.4b)か
ら簡 単 に
見 て とれ る よ うに
(1.3.18) で な け れ ば な ら な い.こ の とき変 換 され た座 標 系 に お い て も
(1.3.19) と な り,行
列(gij)は
や は り行 列(gij)の
共 変 ベ ク トル(B1,B2)か
ら こ のgijを
逆 行 列 に な っ て い る. 用 い て 作 ら れ る量 (1.3.20)
は,そ
の 変 換 則 か ら わ か る よ う に 反 変 ベ ク トル で あ る.
こ の よ う に 反 変 ベ ク トル と共 変 ベ ク トル を 添 字 の 上 付 き ・下 付 き で 区 別 し て い る.そ
し て 第1基
座 標(q1,q2)そ
本 量{gmn}お
れ 自 身 は,反
よ び{gij}は
添 字 の 上 げ 下 げ の 機 能 を もつ .
変 ・共 変 の ど ち ら の 変 換 則 に も し た が わ ず,ベ
トル で は な い.し
か し そ の 微 分(dq1,dq2)が
で あ る か ら,qの
成 分 の 添 字 を 上 付 き で 記 し て い る の で あ る.
ク
す で に 見 た よ うに 反 変 ベ ク トル
1.3.2 曲 面 上 の テ ン ソル こ こ で もい ち い ち断 ら な い が,曲 面 上 の 点Qで トル を考 え る.そ
の 反 変 ベ ク トル と共 変 ベ ク
して これ らの 反 変 お よ び共 変 ベ ク トル成 分 の 積 と同一 の 変 換
則 に し た が う もの の組,す
な わ ち 変 換
に と も な っ て,そ の 成分 が
(1.3.21) の よ う に 変 換 さ れ る も の の 組T={Tij…kl…}をp階 (tensor)と
い う.ス
カ ラ ー は0階
テ ン ソ ル,ベ
反 変q階 ク トル は1階
共 変 テ ン ソル テ ン ソ ル で あ る.
と く に 上 に 見 た(gij)は2階
共 変 テ ン ソ ル,(gij)は2階
こ れ ら は 計 量 テ ン ソ ル(metric う に,(δij)は1階 1.5.2参
照,こ
反 変1階
tensor)と
反 変 テ ン ソ ル で あ り,
呼 ば れ る.ま
共 変 テ ン ソ ル(簡
た 直 接 確 か め られ る よ
単 に 混 合 テ ン ソ ル)で
こ で は ま だ 共 変 ベ ク トル に つ い て は,そ
は 語 っ て い な い の で,テ
あ る(例
の 属 す る 空 間 につ い て
ン ソ ル も そ の 変 換 則 だ け で 定 義 さ れ て い る).
こ の よ う に テ ン ソ ル 成 分 は 上 付 き や 下 付 き の 添 字 を もつ が,添 だ か ら と い っ て テ ン ソ ル 成 分 と は 限 ら な い.た る 偏 導 関 数 は テ ン ソ ル 成 分 で は な い.変
字 が付 い た 量
と え ば ベ ク トル 成 分 のqiに
換 則(1.3.6)を
よ
微 分す れば
と な る か ら で あ る. ま た ク リ ス トッ フ ェ ル 記 号 も テ ン ソ ル 成 分 で は な い.そ 倒 だ が 次 の よ う に す れ ば 求 ま る.共 式(ダ
ミー 添 字ijlmをjkmnで
さ らに この 式 でmnlを
の 変 換 則 は,少
変 計 量 テ ン ソ ル の 変 換 則(1.3.12)の
置 き か え た も の)をqlで
し面 第2
微 分 して
循 環 的 に 回せ ば
を書 き下 す こ とが
で き る.こ
う して 得 ら れ た 後 の2式
の和 か ら先 の 式 を引 き,2で
と な り,こ
う して ク リス トッフ ェル 記 号 の変 換 則
割 れば
(1.3.22) あ る い は,両
辺 にgpl=gab(∂aqp)(∂bql)を
か け てlで
和 を と り
(1.3.23) が得 られ る.こ れ らは テ ン ソ ル 成 分 の 変 換 則 で は な い. 以上 が 曲 面 上 で の テ ン ソ ル の定 義 と説 明 で あ る. 同 じ形 の テ ン ソ ル の 和 や 差 を そ の 成 分 の 和 や 差 で 定 義 す る.そ た もの は,明
らか に 同 じ形 の テ ン ソル で あ る.そ
う して得 られ
して こ の よ うに 座 標 変 換 に さ
い して 決 まっ た 変 換 則 に した が っ て 変 換 され る量 は,曲 面 上 で定 義 可 能 な 量, 使 用 す る座 標 系 に よ ら な い意 味 を もつ 量 で あ り,こ の よ うな 量 を幾 何 学 的対 象 (geometrical
objects)と
い う.そ れ に た い し て,た
と え ばq1q2と
かq1+q2
の よ う な量 は ス カ ラー で もベ ク トル で もテ ン ソル で もな く,特 定 の 座 標 系 で し か 意 味 を もた な い 量 で あ り,そ れ ゆ え幾 何 学 的 対 象 で は な い. とす る な らば,物 理 法 則 は使 用 して い る座 標 系 に よ らず 同 じ形 で表 現 され な け れ ば な らな い とい う共 変 性 の 要 請 は,物 理 量 は幾 何 学 的 対 象 で あ り,物 理 法 則 は それ らの 幾 何 学 的 対 象 の あ い だ の 関 係 で あ り,そ れ ゆ え 同型 の テ ン ソル 量 の あ い だ の 関 係 を与 え る もの で なけ れ ば な ら な い とい い 直 す こ とが で き る.実 際,物 理 法 則 に お け る等 号 は 同 型 の テ ン ソル の あ い だ に しか 成 り立 た な い. と くに 重 要 な こ とは,曲 面 上 で定 義 され た テ ン ソル の 変 換 係 数 に現 れ る
や な ど はす べ て 座 標 の 関数 で あ るか ら,曲 面 上 の 異 な る点 のベ ク トル や テ ン ソル は 異 な る変 換 則 に支 配 され て い る とい う こ とで あ る.そ の た め,ス 別 と して,異
カ ラー 量 は
な る点 のベ ク トルや テ ン ソ ル を足 し た り引 い た りす る こ とは意 味
が な い.こ れ が 通 常 の ユ ー ク リ ッ ド空 間 に お け るベ ク トルや テ ン ソル との決 定 的 な違 い で あ る.
1.3.3 接 続 と平 行 移 動 以上 の 議 論 をふ ま えて,曲 面 上 の 曲 線 に そ っ た加 速 度 を考 え る. 速 度 に つ い て は,3次
元 空 間 で の 速 度 υ=r=qiei(1.3.2),(1.3.4)が
曲
面 に垂 直 な成 分 を も た な いか ら,そ れ をそ の ま ま2次 元 曲 面 上 での 速 度 と して 定 義 す る こ とが で き た. 他 方,曲 面 上 だ け で 考 え る と きに は,加 速 度 を単 純 に 速 度 υの 変 化 率
(1.3.24) で 定 義 す る こ とは で き な い.と い うの も
と
は 異 な る点 で
のベ ク トル(曲 面 上 の 異 な る点 に 生 え て い るベ ク トル)で あ り,上 に 述 べ た よ うに 引 き算 が 意 味 を もた な い か らで あ る.ス カ ラー 関 数 の 偏 導 関数 がベ ク トル
の 成 分 に な る の に,ベ
ク トル 成 分 の 偏 導 関 数 が テ ン ソル 成 分 を与 え な い の は,
この た め で あ る(こ の よ うに,こ
こで は ベ ク トル が 曲 面 上 の どの 点 で の 接 空 間
の ベ ク トル か が 重 要 に な るの で,煩 わ し い け れ ど もベ ク トル が生 え て い る点 を 添 字 で 明 記 す る). そ こ で 加 速 度 を定 義 す る た め に,座 表 さ れ る点Q'で
標 が
の 速 度 ベ ク トル
座 標 がq=(q1,q2)の
点Qに
で を,ひ
平 行 移 動(parallel
と ま ず何 らか の 手 段 で
displacement)し
た ベ ク トル
を作 り,そ れ と υ(q(t))Qの 差 を考 え る.通 常 の ユ ー ク リッ ド空 間 で は,空 間 は 均 質 で あ るか ら,平 行 移 動 は単 にベ ク トル の 始 点 を移 す だ け で よ く,ベ ク トル の 成 分 は変 わ ら な い と して よか っ た.し か しそ の よ うな 単 純 な 平 行 移 動 を 曲 面N上
で見 れ ば,各
点 ご とに 基 底 ベ ク トル が 異 な る か ら,移 動
す れ ば 一 般 に 成 分 も変 化 す るで あ ろ う.そ の 上,そ
の よ うに 単 純 に移 さ れ た ベ
ク トル は,一 般 に は 曲面 の外 に 突 き出 て し ま う(曲 面 に 垂 直 な成 分 を もつ)の で,曲 面 上 だ け で考 察 す る立 場 で は は な は だ 都 合 が悪 い. そ の た め,Q'点
で の任 意 の 接 ベ ク トル
を 無 限 小 区 間 離 れ たQ点 の1次
まで
だ け 平 行 移 動 す れ ば,Δq
ま で とっ た とき そ の成 分 が
(1.3.25) の よ う に 変 化 す る と考 え る(多 に 点Q=qか
らQ'=q+Δqの
く の テ キ ス ト で は,「 平 行 移 動 」 を 本 書 と は 逆 向 き に 定 義 し て い る.そ
の と き に は 係 数Xijkの
符 号 が 逆 に な る こ と に 注 意). 一 般 に,曲
面 上 の2点QとQ'の
そ し てQとQ'が
十 分 接 近 し て い る と き,一
の ベ ク トル の 対 応 づ け(写 び つ け る から で あ る.と の 成 分(w1,w2)に fine
connection)と
と い う.
そ れ ぞ れ の 接 平 面 は,異
像)を
方 の 空 間 の ベ ク トル と他 方 の 空 間
接 続(connection)と
い う.異
く に 上 記 の 平 行 移 動 に よ る 写 像
つ い て 線 形 変 換 で あ る か ら,こ 呼 び,Xijkを
な る 空 間 で あ る.
な る空 間 を結 は,w
の 接 続 を ア フ ィ ン 接 続(af
そ の 接 続 係 数(coefficients
of connection)
上 の
「平 行 移 動 」 に よ っ て 得 ら れ た
が 確 か に 接 平 面(TN)Qで
の ベ ク トル で あ る た め に は,(1.3.25)の
右 辺 の 成 分 がwi(q)と
の 反 変 ベ ク トル 成 分 の 変 換 則(1.3.9)に
し た が わ ね ば な ら な い.そ
は も ち ろ ん,第2式
の[
同 様 にQ点
の ため に
]の か か る 項 が そ の 条 件 を満 た せ ば よ い.す
とな れ ば よ い.こ れ よ りその ため の 必要 十 分 条 件 と して,接
で
なわち
続 係 数 の 次 の変 換
則 が 得 られ る:
(1.3.26) こ れ が ク リ ス ト ッ フ ェ ル 記 号 の 変 換 則(1.3.23)と さ れ た い.こ
れ よ り
が 得 ら れ る.こ
の 式 は,Xpjk-Xpkjが
混 合 テ ン ソル の 成 分 で あ る こ と を示 し
て い る.し
た が っ て あ る 座 標 系 でXpjk-Xpkjが
で も0,つ
ま り あ る 座 標 系 でXpjkがjkに
移 っ て も や は り対 称 で あ る.そ 実 際 に は,こ さ らに
同 じ もの で あ る こ と に注 意
こ で,以
す べ て0な
ら ば,ど
関 し て 対 称 で あ れ ば,ど 下 で はXpjk=Xpkjと
の座標 系 の座 標 系 に
仮 定 す る*2.
れ だ け で は 「平 行 移 動 」 の 仕 方 は 一 義 的 に 決 ま ら な い.そ
こで
「平 行 移 動 」 に よ りベ ク トル の 長 さ が 不 変 に 保 た れ る と い う条 件
(1.3.27) *2 こ の 仮 定 の 意 味 に つ い て は な ど を参 照 の こ と.
,た
とえば 内 山龍 雄
『一 般 相 対 性 理 論 』(裳 華 房 1978)
p. 71
を 課 す.こ
の 式 でΔqの1次
ま で と っ てΔqkの
い 項 を落 とせ ば(wiな
ど は す べ て 点Qで
こ こ でgljXlki=Xjkiと
書 き直 し,さ
係 数 を 比 べ る と,両
辺 で等 し
の 値 で あ る と し て)
ら にijkを
循 環 させ た 式 を書 くと
(a) (b) (c) と な り,上
の 仮 定 よ りXpjk=Xpkjで
して(b)+(c)-(a)を
作 れ ば,接
あ る か らXpjk=Xpkjと
な るこ とに注 意
続係数
(1.3.28) (1.3.29) が 得 られ る.こ
れ は ク リ ス ト ッ フ ェ ル 記 号 で あ る か ら,確
す べ き 変 換 則(1.3.26)を (Levi-Civita
満 足 し て い る.そ
connection)な
か に接 続 係 数 が満 た
し て こ の 接 続 を レ ビ-チ ビ タ 接 続
い し リ ー マ ン 接 続(Riemann
connection)と
い
う.
1.3.4
共 変 微 分 と加 速 度
こ う し て 定 義 さ れ た 平 行 移 動 を 用 い れ ば,ベ
ク トルw=wieiの
点Qで
の微
小 変化 は
(1.3.30) と な り,こ
の
(1.3.31) はベ ク トル 成 分 の 共 変 的 な微 分 量 で あ り,そ の 微 分 係 数
(1.3.32) を 共 変 微 分(covariant
derivative)と
い う.す
で に 述 べ た よ うに 反 変 ベ ク ト
ル 成 分 の 単 な る 導 関 数 ∂jwiは テ ン ソ ル 成 分 で は な い け れ ど も,共 ン ソ ル 成 分 で あ る.
変微分 は テ
こ れ を 用 い れ ば,Q点 度 を υ=(q1,q2)と
で の 軌 道 経 路 に そ っ た 接 ベ ク トルwの
変 化 率 は,速
して
(1.3.33) で 定 義 さ れ る.こ れ をベ ク トルwの
υに よ る 共 変 微 分 と い う(∇ υwの よ うな
書 き方 もす る). と くに
と
す る こ とに よ り,曲 面 上 で の加 速 度 は
(1.3.34) と 表 さ れ る.こ
れ は,前
く らべ る な ら ば,3次 き,曲
節 で 求 め たR3空
間 で の 加 速 度 の 表 式(1.2.14)と
元 加 速 度 ベ ク ト ル の う ち,曲
面 に垂 直 な 成 分 を 取 り除
面 に 接 す る 成 分 だ け を 残 し た も の に 他 な ら な い.し
ク トル の レ ビ-チ ビ タ 接 続 に よ る 平 行 移 動 と は,い
見
た が っ て 曲面 上 の ベ
わ ばR3内
で そ の ま ま平 行
移 動 し た ベ ク ト ル の 曲 面 に 垂 直 な 成 分 を 切 り 捨 て た も の と い え る(図 1.3.2). そ し て 運 動 方 程 式 の 曲 面 に 接 す る 成 分(1.2.16a)は,簡
単 に
(1.3.35) とな り,と
くに 曲面 上 の 自由 運 動 は
図1.3.2
ベ ク トルの 平 行 移 動
(1.3.36) で 表 さ れ る.も
ち ろ ん 成 分 で 表 せ ば,(1.3.35)は(1.1.26)に
こ う し て 方 程 式(1.2.16a)お
一 致 す る.
よ び(1.1.26),(1.1.31)な
どが 座 標 変 換 に
よ ら な い 共 変 性 を もつ こ と が 示 さ れ た. な お,パ
ラ メ ー タ を経 路 長sに
とれ ば
(1.3.37) と し て,測
地 線 の 方 程 式(1.2.37)は
(1.3.38) と表 さ れ る.し
た が っ て,あ
る 曲 線 が 測 地 線 で あ れ ば,あ
そ の 曲 線 に そ っ て 平 行 移 動 させ る と,移
る 点 の 接 ベ ク トル を
動 し た 先 の 点 で の 接 ベ ク トル に な る こ
と が わ か る. 次 節 で は,以
上 の2次
元 曲 面 上 で の 運 動 に つ い て の 議 論 を,一
般 の 多様 体 上
の 運 動 の 記 述 へ と広 げ て ゆ くた め の 数 学 的 道 具 立 て に つ い て 述 べ る. 例1.3.1 R3内
球 面 上 の ベ ク トル の 平 行 移 動 と接 続
部 の2次
元 曲 面 と して,(1.2.2)で
表 さ れ る 球 面 を考 え る.点Q(θ,φ)で
の
接 ベ ク トル と し て
を と る.eθ は子 午 線 に そ っ た θが 増 す 向 きの ベ ク トル,eφ 増 す 向 き の ベ ク トル で,両
者 は 直 交 し て い る.そ
は 等 緯 度 線 に そ っ た φが
し て こ れ ら は と も に,球
図1.3.3
面 に垂 直
な ベ ク トル
に 直 交 して い る(図1.3.3).Qで
の 接 平 面(TN)Q上
の 任 意 の ベ ク トル は,eθ,eφ の1
次 結 合 で 表 さ れ る(eθ,eφ は 単 位 ベ ク トル で は な い). Qか
ら無 限 小 離 れ た 点
で の こ れ ら の 接 ベ ク トル は,Δ θ,Δφ の
2次 以 上 を無 視 して
こ れ らは と も に,Qで
の 接 平 面(TN)Qに
直 交 す るerに
外 に 突 き 出 て い る.し
た が っ て,点Q'で
の 接 ベ ク トル
をQ点
比 例 し た 項 を 含 み,(TN)Qの
に 接 続 す るた め に は,eθ',eφ'の そ れ ぞ れ か らQ点
の 接 平 面 と直 交 す る部 分 を
取 り除 い た
で も っ てeθ',eφ'を
置 き か え て,平
とす れ ば よ い(wiはQ点 (1.3.25)式
行 移 動 し た ベ ク トル を
で の 値,i,jの2重
で 定 め られ た 接 続 係 数 は,こ
添 字 は θ,φで 和 を と る).す
の場 合
他 は0 と な る.こ
れ ら を(1.2.40b)と
が 直 接 に 示 さ れ る.
見 くらべ て
な わ ち,
1.4 多 様 体 と ベ ク トル 場
1.4.1 微 分 可 能 多様 体 前 節 で論 じた 曲 面 概 念 の 自 然 な拡 張 と し て微 分 可 能 多 様 体(differentiable manifold)を
定 義す る.力 学 を 多次 元 の 配位 空 間や 相 空 間 に お け る点 の 運 動 と
して論 じる た め に は,こ の 拡 張 は不 可 欠 で あ る. 言 葉 の 説 明 は 後 ま わ しに して,は
じめ にm次
与 え る.Mは
次 の2条
(ⅰ) Mは
ハ ウ ス ドル フ 空 間 で,そ
リッ ド空 間Rmの
元 微 分 可 能 多様 体Mの
定義 を
件 を満 た す 点 の 集 合 で あ る:
開 集 合Vへ
(U,φ)を 座 標 近 傍,U上
の 各 点 の 開 近 傍Uか
の 同 相 写 像 φ:U→Vが
らm次
元ユー ク
あ る.こ
こ で組
の 点QとV⊂Rmの
座 標 との φ に よ る対 応 づ け
を局 所 座 標 系,V⊂Rmで
の 座 標(q1,q2,…,qm)を
局 所 座 標 とい う. (ⅱ) 二 つ の 座 標 近 傍(Uα,φ α)と(Uβ,φβ)が重 な りあ う と こ ろ で は,そ 中 の点
で表 さ れ るが,そ
は二 通 りの 座 標 系
の さ い 写像
で 与 え られ る座 標 変 換
(1.4.1a) を φ
と表 し た と き(図1.4.1),
図1.4.1
多様 体 と 局所座標
の
関数
(1.4.1b) が 何 回 で も微 分 可 能 で あ る. 説 明 を少 し加 え て お こ う.点Qの ハ ウ ス ドル フ空 間(Hausdorff の2個
開 近 傍 とはQを
space)と
含 む 開 集合 の こ とで あ り,
は,位 相 空 間 で あ っ て そ の 上 の 任 意
の異 な る点 を そ れ ぞ れ 共 通 部 分 を もた な い別 々 の 開 近 傍 に属 させ る こ と
が で き る もの を い う.実 際 に は 力 学 で 扱 う空 間(配 位 空 間,状
態 空 間,相 空 間
な ど)は す べ て こ の条 件 を満 た して い るか ら,あ ま り気 に しな くて よい. 写像 φ:U→Vが
同 相 写 像(homeomorphism)と
は,φ が 全 単 射 で,さ
らに φお よ び逆 写像 φ-1が連 続 の 場 合 をい う*1. そ の 場 合 は,Rmの
開 集 合V上
の 座 標 を φ-1でM上
り,座 標 系(q1,q2,…,qm)がU⊂M上 と もで き る.つ よ る像 がUに の 点Qを
に 引 き戻 す こ とに よ
に じ か に 書 き込 まれ て い る と考 え る こ
ま りqi=const.(i=1,2,…,m)と
い うRmの
平 面 族 の φ-1に
曲面 族 の メ ッ シ ュ と して じか に 書 き込 ま れ て い る と考 え,U上
そ のm枚
の 曲面 の 交 点 と見 な し簡 単 に(q1,q2,…,qm)で
表 し て もか
まわ な い. 条 件(ⅱ)は,異
な る座 標 近 傍 が 重 な っ て い る と こ ろ で は,そ
換 が 滑 らか に な る こ と を要 求 して い る.条 件(ⅱ)で 可 能 で あ る こ と を要 求 し て い るが,一 と もで き る.そ の 場 合 に は,そ と呼 ぶ.本
書 で はrが
般 に はr回
の間の座 標変
関 数 φkが 何 回 で も微 分
微 分 可 能 だ け を要 求 す る こ
れ で 定 義 され る 多様 体 をr回
微分 可 能 多様 体
無 限 大 の 場 合 の み を考 え る の で,以 下 で は 単 に 多様 体
な い し微 分 可 能 多様 体 とい う言葉 で,無 限 回微分 可 能 多様 体 を意 味 す る. 結 局m次
元 微 分 可 能 多様 体 とは,何 枚 もの ス ムー ズ に 重 な る近 傍 で 覆 わ れ,
ど の 点 で も そ の 点 の ま わ りに局 所 座 標 系(q1,q2,…,qm)が
書 き込 め,し
たが っ
て 局 所 的 に は ユ ー ク リッ ド空 間 の よ うに 扱 う こ とが で き る空 間(連 続 的 な 点 の 集 合)の
こ とで あ る.
*1 写 像 φ が 全 単 射(bijection)と も い い,Uの
す べ て の 点 がVの
は
,上 へ の1対1写 像(one-to-one, onto mapping)と す べ て の 点 と1対1に 対 応 す る こ と で あ る.し た が っ て
φ に は 逆 写 像 φ-1が 考 え ら れ る.な
お,上
へ の 写 像 を 全 射,1対1写
像 を 単 射 と い う.
1.4.2 多様 体 上 の 関 数 と曲 線 多様 体Mの
あ る部 分 に 何 枚 もの 近 傍 が 重 な り,し た が っ て そ の上 の 点 が 何
通 り もの座 標 で表 され る とき,前 節 の 曲 面 論 の場 合 と同様 に,そ れ らの す べ て の座 標 系 に 共 通 した 性 質 だ け を 多 様 体Mの 次 元 が そ う で あ る(Mの
次 元 をdim Mで
性 質 とい う.た と え ば,多 様 体 の 表 す).ま
た そ れ らの 座 標 系 の あ い だ
の 座 標 変 換 に よ っ て変 わ ら な い対 象 だ け が 幾 何 学 的 対 象 で あ る. 面 倒 な 議 論 を して い る よ うだ が,こ
うす る こ と に よ っ て は じめ て,解 析 力 学
で 導 入 され る状 態 空 間 や 相 空 間 の よ う な直 接 に は 実 空 間 に結 び つ か な い抽 象 的 空 間 上 の 幾 何 学 的 対 象(た 空 間Rmに ば,こ
とえば 曲 線 や 関 数 や ベ ク トル な ど)を ユ ー ク リ ッ ド
ひ き移 し て解 析 的 に 扱 え る よ う に な る の で あ る.さ
らに い う な ら
うす る こ とで,力 学 法 則 は 使 用 す る座 標 系 に よ らな い 意 味 を も た ね ば な
ら な い とい う共 変 性の 要 請 を,直 接 的 に 表 現 し検 証 す る こ とが 可 能 とな る. 多様 体M(dim
M=m)か
ら 多様 体N(dim
N=n)へ
の写 像
(1.4.2a) を 考 え る(図1.4.2).(Ua,φa),(Uβ',ψ Φが
「滑 ら か 」 と か
β)は そ れ ぞ れ の 座 標 近 傍 で あ る.写
「微 分 可 能 」 と い う の は,そ
像
の局所座標 表示
(1.4.2b) が
「滑 ら か 」 と か
「微 分 可 能 」 の こ と を い う.ま
Φ-1が 微 分 可 能 の と き,Φ
た Φが全 単射 で Φ お よび
を 微 分 同 相 写 像(diffeomorphism)と
い う.以
図1.4.2 多 様 体 間 の写 像 と そ の 座 標 表示
下
で は写 像 につ い て 必 要 な だ け の微 分 可 能 性 は仮 定 し,そ の こ と をい ち い ち断 ら な い. と くにNが1次 と き,Φ
をfと
元 空 間R(以
下R1をRと
記 す)で
ψ=id.(恒 等 写 像)の
記 して,写 像
(1.4.3) をM上
の 関 数(function)と
い う(図1.4.3).M上
つ ず つ 対 応 づ け る 写 像 の こ と で あ り,そ
の す べ て の 点 に 実 数 を一
の連 続 性 や 微 分 可 能 性 は局 所 座 標 表 示
に つ い て い う.
図1.4.3
な お 関数fの
多様 体 上 の関数
局 所 座 標 表 示 は,数 学 的 に律 義 に 書 け ばQ∈Uに
た い して
(1.4.4a) とす べ きで あ ろ うが,φ (q1,q2,…,qm)が
が 同 相 写 像 な らば,先 述 の よ うにU上
に局所 座標 系
じか に 書 き込 ま れ て い る と して よい か ら,簡 単 に
(1.4.4b) と記 して もか ま わ な い.と い う よ り,物 理 学 で は む しろ これ が 普 通 で あ る. 逆 に,Mが1次
元 空 間RでUが
そ の 開 区 間
.の と き
(1.4.5) をN上
の 曲 線(curve)と
い う(こ
の 場 合 Φ をcで
記 し た).日
常 用 語 で は
「曲 線 」 と は,写
像 の 結 果 得 ら れ る 点 の 連 な り な い し 動 点 の 軌 跡 を 指 す が,数
学用語 としての
「曲 線 」 は 写 像 そ の も の を指 し て い る.し
ら な く て も よ く,曲 とが あ る.そ
か しそ れ ほ ど こ だ わ
線 と し て 動 点 の 軌 跡 を イ メ ー ジ し た ほ うが わ か りや す い こ
し て(1.4.5)を
簡単 に
「曲 線c(t)」
と表 記 す る こ と も 多 い.
1.4.3 方 向 微 分 と微 分 作 用 素 次 に 多様 体 上 で の 速 度 ベ ク トル と接 空 間 を定 義 す るた め に,方 向 微 分 の概 念 を導 入 す る.前 節 ま で の 曲 面 論 で は,曲 面 の 接 平 面 は 曲 面 上 の 曲 線 に そ っ た動 点 の 速 度 ベ ク トル の 張 る空 間 と して 与 え られ た.こ こ で も 同様 にM上
の曲線
(1.4.6) と そ の上 の 動 点 の 速 度 を手 が か りに す る.I=(-a,a)はR(t軸)上
の区 間で
あ る. こ こ で局 所 座 標 系 に よ ら な い 形 で 速 度 を導 入 す る た め の 巧 妙 な 手 段 と して, この 曲 線 とM上
の関数
(1.4.7) の合成写像
(1.4.8) を考 え る(図1.4.4).こ
れ は1変 数tの
単 な る実 数 値 関 数 で あ るか ら,そ の
導 関 数 は解 析 学 で定 義 済 み で あ り,し か もMの
座 標 系 に よ らな い.そ こ で対 応
(1.4.9a) を,関
数fの
点Q=c(τ)(た
向 微 分(directional
だ し-anで
は Λp(V)={0}と
す る.
1.5.5
テ ン ソル の 交 代 化 と外積
任 意 の テ ン ソ ル か ら 交 代 テ ン ソ ル を 作 る こ と を 交 代 化(alternization)と う.2階
テ ン ソ ル で は,交
と す れ ば よ く,A2を
代 化は
交 代 化 作 用 素(alternizer)と
ル の テ ン ソル 積 の 場 合
い
い う.と
く に τが1ベ
ク ト
(1.5.40) 一 般 にp階
テ ン ソ ル に た いす る交 代 化 作 用 素 は
た だ し π=p個 と 書 く こ と が で き る.こ と り,sgn(π)は
(1.5.41)
の 置換= こ に 和 はp個
そ の 置 換 の 符 号,つ
換 の と き-1の
値 を と る.た
の 数1∼pの
置 換 πの す べ て に た い して
ま り そ の 置 換 が 偶 置 換 の と き+1,奇
だ しp=0とp=1に
た い し て はAp=1と
置
す る.
これ を用 い れ ば
τが0階
テ ン ソ ル の と き A0τ=τ
τが1階
テ ン ソ ル の と き A1τ=τ
τがp階
テ ン ソ ル の と き Apτ=ωp
と な る.す
は 0ベ
ク トル(ス
カ ラ ー),
は 1ベ
ク トル(共
変 ベ ク トル),
は pベ
ク トル
な わ ち 高 階 テ ン ソ ル を 交 代 化 す る こ と に よ り高 次(共
が 得 ら れ る.と
く に
変)ベ
の 形 の と き は(1.5.40)と
ク トル 同様 に
(1.5.42) と 表 さ れ る. 次 に,pベ
ク トル の 外 積(exterior
は じ め に,2個
の1ベ
product)を
次 の よ う に 定 義 す る.
ク トル の 外 積 を
(1.5.43) で 定 義 す る(∧
を 「外 積 記 号 」 と い う).明
の た め 外 積 は 交 代 積(alternating
product)と
ら か に も い わ れ る.ま
で あ り,そ た
が 成 り 立 つ.し 称 の 写 像(す
た が っ て ω ∧ σ はVの な わ ち2ベ
は,n(n-1)/2個
ク ト ル)で
ベ ク トル の 対 か ら 実 数 へ の 双 線 形 ・歪 対 あ る.逆
に 任 意 の2ベ
ク ト ル(1.5.38)
の 外 積 εi∧εjを用 い て
(1.5.44) と 展 開 で き る. り,{εi∧ εj}が2ベ
で あ る か ら,こ ク トル の 空 間 Λ2(V)の
ま っ た く同 様 に,p個
の1ベ
の展 開 は 一 意的 で あ
基 底 に な っ て い る.
ク トル の 外 積 を
(1.5.45) で定 義 す る(p!の このp個 つ の1ベ
因 子 を付 け な い で 定 義 す る テ キ ス トもあ るの で 注 意).
の 外 積 は2個
の 場 合 を そ の ま ま 拡 張 した もの で あ るか ら,ど の 二
ク トル を入 れ か え て も符 号 が 変 わ り,し た が って
で あ り,線 形 性 と歪 対 称 性 は 次 の よ うに 示 され る:
(1.5.46a)
(1.5.46b)
し た が っ て がpベ
はpベ
ク トル の 空 間 Λp(V)の
ク ト ル で あ り,他
基 底 と な り,す
べ て のpベ
方 ク トル は 一 意 的 に
(1.5.47) の 形 に展 開 さ れ る(Σ
は
以 上 の外 積 の定 義 を一 般 化 してpベ を
の 範 囲 の和). ク トル(ωp)とqベ
ク トル(σq)の 外 積
(1.5.48) で 定 義 す る(右 和).こ
辺 は1,2,…,p,p+1,…,p+qの
す べ て の 置 換 πに つ い て の
れ が す べ て の υ(i)につ い て 線 形 で,か
つ 任 意 の υ(i)と υ(j)の入 れ か え で
符 号 を 変 え る こ と は ほ と ん ど 自 明 で あ る.上
式 は交 代 化 作 用 素 を用 いれ ば
(1.5.49) と表 す こ と も で き る.こ 例1.5.1
れ だ け の 準 備 を し て,次
節 で 微 分 形 式 の 説 明 に 入 る.
応 力 テ ンソル
3次 元 ユ ー ク リ ッ ド空 間 の ベ ク トル に つ い て の 基 本 的 な知 識 は 既 知 と す る.つ
まり
そ こ で の ベ ク トル は,正
れ ら
の 間 に 内 積(ユ
規 直 交 基 底(ex,ey,ez)を
ー ク リ ッ ド内 積)a・b=aibiが
るベ ク トル 空 間 をR3と
記 そ う((ax,ay,az)は
上 下 の 区 別 な くi=x,y,zに
用 い てa=aieiと
定 義 さ れ る.こ ベ ク トルaの
表 さ れ,そ
の よ うな ベ ク トル の 張 成 分 で あ り,同 一 添 字 は
つ い て 和 を と る).
と くに
と表 さ れ る(ey,ezも
り,こ れ が 正 規 直 交(orthonormal)の
同 様).そ
意 味 で あ る.こ
れ ゆ え,
であ
の基底 の変 換
(1.5.50) を考 え る.こ
の 新 し い 基 底(ex',ey',ez')が
や は り正 規 直 交 で あ る た め に は
(1.5.51) 他 方,こ
の 変 換 に よ りベ ク ト ルaの
a=aiei=ai'ei'ゆ
え,成
成 分 が(ax',ay',az')に
変 換 さ れ た と す れ ば,
分 の変換 則 は
(1.5.52) こ の と き す な わ ち,内
で あ る か ら,内 積 は 上 の 変 換 に た い し て 不 変, 積 は ス カ ラ ー 量 で あ る.
し た が っ て,こ
の ユ ー ク リ ッ ド内 積 をb∈R3に
線 形 写 像 と見 な す こ とが で き る.そ
よ っ てa∈R3を
れ ゆ え こ の 場 合 は,R3自
実 数 に対応づ け る
体 がR3の
双 対 空間 で
あ り,共 変 ベ ク トル と反 変 ベ ク トル の 区別 は な く,添 字 も 上 下 の 区 別 を す る 必 要 は な い.ニ
ュ ー トン力 学 に 出 て くる 速 度 や 加 速 度 や 力 は,こ
力 を 加 え た と き形 の 崩 れ な い物 体 で は,内
の よ う なベ ク トル で あ る.
部 に ひ ず み が 生 じ た と き,物 体 の 各 部
分 は 接 し て い る 面 を通 し て た が い に 力 を及 ぼ し あ っ て い る.こ 力 を応 力(stress)と
い う.物 体 内 の1点Pか
行 に 微 小 な 距 離PA,PB,PCを を考 え る(図1.5.1).面PBC,PCA,PABを
と り,PABCが
の 単 位 面 積 あ た りの
ら直 交 基 底ex,ey,ezの
そ れ ぞれ に 平
作 る 微 小 な 四 面 体(以 通 して 外 か ら物 体Kに
下,物
体K)
働 く応 力 を そ れ
図1.5.1
ぞれ
お よ び,面ABCを
とす る.こ
通 し て 外 か ら物 体Kに
れ ら は す べ てR3の
く応 力 のy成 △ABCの
働 く応 力 を
ベ ク トル で あ る.た
と え ば τxyはexに
垂 直 な 面 に働
分 を表 す. 面 積 をS,ま
と す る.α,β,γ
外 向 き法 線 ベ ク トル を
は 法 線 ベ ク ト ルnとex,ey,ezの
△PCA,△PABの
ま た,物 体Kの
た 面ABCの
面 積 は,そ
体 積 をV,平
な す 角 で あ る.こ
の と き,△PBC,
れ ぞれ
均 密 度 を ρ,加 速 度 を α,重 力 の よ う な 体 積 力 をVf
とす る と,そ の 運 動 方 程 式 は
そ こ で,面ABCを
通 し て 物 体Kが
外 部 に 及 ぼ す 単 位 面 積 あ た り の 力 をT(n)と
る と,作 用 ・反 作 用 の 法 則 よ りST(n)=-STで
物 体Kを
十 分 小 さ く と る と,S→0の
と表 され る.そ
あ り,上 式 を考 慮 す れ ば
極 限 でV/S→0ゆ
え,結 局
.そ
こ で い ま
の 成 分 は
別 の 単 位 ベ ク トル とす る と,mとT(n)の して 働 く応 力 のm方
向成 分
す
内 積,す
な わ ち各 点 でnに
を 垂 直 な面 を通
は,基
準 系 の と り方 に よ ら な い ス カ ラー 量 で あ る.
す な わ ち,変
換 則 に だ け 着 目す れ ば,一
般 に ベ ク トルa∈R3,b∈R3に
た い して
は ス カ ラー で あ り,し た が っ て 線 形 写 像
は2階
テ ン ソ ル で あ る.物 理 で は,こ
の τ=(τij)を応 力 テ ン ソ ル(stress
い っ て い る.弾 性 体 内 部 に 働 く応 力 を 決 め る に は,作 点 を通 る 面 ま で 指 定 し な け れ ば な らず,そ
tensor)と
用 点 の 位 置 だ け で は な くそ の
の た め 応 力 を 表 す の に,ベ
ク トル 場 で は
な くテ ン ソ ル 場 が 必 要 に な る の で あ る. ち な み に 「テ ン ソ ル」 の 語 源 は,「 緊 張 」 を 意 味 す るtension(ラ に あ る.物
理 用 語 と し て のtensionは
つ ま り 「テ ン ソ ル 」 は,元
英 語 で は 「張 力 」,仏 語 で は 「応 力 」 を 表 す.
来 は 「応 力 テ ン ソ ル 」の た め に 作 ら れ た 概 念 な の で あ る.
例1.5.2
ク ロ ネ ッ カ ー の デ ル タ と エ デ ィ ン トンの イ プ シ ロ ン
例1.5.1で
見 たR3の
二 つ の ベ ク トルu,υ
テ ン 語 でtensio)
正 規 直 交 系 を 考 え る(共 変 ・反 変 の 区 別 を し な い). の ユ ー ク リ ッ ド内 積 を
と書 く と,こ れ は,ク
ロ
ネ ッ カ ー の デ ル タ({δij})に よ る 二 つ の ベ ク トル の ス カ ラー へ の 双 線 形 写 像 と見 な し う るか ら,ク
ロ ネ ッ カー の デ ル タ を2階
テ ン ソ ル と 考 え る こ とが で き る.
こ の こ とは 次 の よ う に し て も示 され る.直 交 系 の 間 の座 標 変 換 の 行 列C=(Cij)は
(1.5.53)
(単位行 列) を 満 た す.こ
れ を(1.5.25)と
に 確 か に な っ て い る(こ 同 様 に,エ
見 く ら べ る と,こ
こ で は 上 下 の 区 別 な く,同
デ ィ ン ト ン の イ プ シ ロ ン(Eddington's
の 式 は2階
テ ン ソ ル{δij}の
一 添 字 は1∼3の epsilon)と
変換 則
和 を と る). 呼 ば れ る次 の 量 を定
義 す る: (i,j,k)が(1,2,3)の
偶 順 列,
(i,j,k)が(1,2,3)の
奇 順 列,
(1.5.54)
そ れ 以 外, す な わ ち,
そ の 他 は0で
座 標 系 の 変 換 行 列 は(1.5.53)を
あ る.
満 たす ゆ え
(1.5.55) 二 つ の 正 規 直 交 系 は,det と い う.det
あ る い は,列
Cを
C=1の
とき
「同 じ 向 き 」,det
直接 書 くと
を 入れか えれば行 列 式の 符号 が変 わ るか ら
C=-1の
と き 「逆 の 向 き 」
(1.5.56) 二 つ の ベ ク ト ルu,υ
∈R3に
た い し て,ベ
ク トル 積(vector
product)
(1.5.57) を定 義 す る.そ
の 変 換 則 は,ベ
こ こ で(1.5.56)の (det
ク トル 成 分 の 変 換 則ul'=uiCilを
両 辺 にCrjCskを
C)εijkCrjCsk=Cliεlrsが
か け てj,kで
得 ら れ,こ
用 いて
和 を と り,(1.5.53)を
れ を 用 い れ ば,上
使 う と
式 は
(1.5.58) さ ら に,u,υ,wに
た い す る ベ ク トル3重
積(vector
triple
product)
(1.5.59) を定 義 す る.ベ
ク トル 成 分 の 変 換 則 よ り,変 換 さ れ た系 で の こ の値 は
(1.5.60) (1.5.56),(1.5.58),(1.5.60)は,そ の 変 換 則 で あ る.こ 変 換 則 にdet 換 で は,そ
れ ぞ れ れ ら は 通 常 の3階
テ ン ソ ル,ベ
Cが か か っ て い る の で,
れ ぞ れ3階
テ ン ソ ル,ベ
は,向
ク トル,ス
な お,こ
ス カ ラ ー(pseudoscalar)と
余 接 空 間 と1ベ
前 節 の 議 論 に お い て,ベ Mの
点Qに
い う.
ク トル ク トル 空 間Vと
space)と
し て と くにm次
と っ た と き に,そ い い(T*M)Qと
記 す.
お け る 一 つ の 接 ベ ク トル を υQと し た と き,M上
関 数fのQで
の 方 向 微 分 は,Q点
を 通 り,Qで
元微 分 可 能 多様 体
れ に た い す る双 対 空 間 を
さ て 点Qに
任 意 の 曲 線 を
れ ら を区別 して 添字
余 接 バ ン ドル と 微 分 形 式
お け る 接 空 間(TM)Qを
余 接 空 間(cotangent
きを
れ に お う じて δや εの 添 字 も上 下 に 分 け れ ば よい.
1.6
1.6.1
き を変 え な い 座 標 変
テ ン ソ ル(pseudotensor),
こ で は 反 変 成 分 と共 変 成 分 を 区 別 し な か っ た が,そ
を上 下 に 分 け る と き は,そ
カ ラー の
カ ラー の よ う に 振 る舞 うが,向
変 え る変 換 で は符 号 が 変 わ る.そ れ ゆ え これ ら を順 に,擬 擬 ベ ク トル(pseudovector),擬
ク トル,ス
の任 意 の 実 数 値
の 接 ベ ク ト ル が υQに 一 致 す る
と して
(1.6.1)
で 表 さ れ る(§1.4.3の(1.4.9b)).こ
の 右 辺 は 実 数 で あ る.そ
ル υQと 実 数 υQ[f]の こ の 対 応 を(TM)Qか
らRへ
こ で,ベ
ク ト
の 写像 とみ な し
(1.6.2a) な い し簡 単 に
(1.6.2b) と 表 す.こ
の 写 像 は 明 ち か に υQに つ い て 線 形 で あ る か ら,(df)Qは(TM)Qの
双 対 空 間(T*M)Qの
元,す
な わ ち1ベ
ク トル で あ る.
局 所 座 標 表 示
,お
さ れ る 双 対 基 底{εiQ}を
使 え ば,上
式 は(1.4.18)に
よ び
で定 義
よ り
(1.6.3) と 表 さ れ る(dim こ で υQは(TM)Qの
M=mに
と っ て い る の でiは1∼mに
つ い て 和 を と る).こ
ベ ク トル で あ れ ば 任 意 で あ る か ら,写
像 についての等式
(1.6.4) が 成 り 立 つ.こ
れ を 関 数fの
(∂f/∂qi)Qを 成 分 と す る1ベ
ク トル(共
の ス カ ラ ー 関 数 の あ る 点Qで 値 が 決 ま る 量 で あ り,ベ あ る か ら,そ
ク トル(反
れ 自 体 は1ベ
の 微 分(differential)と
い う.こ
変 ベ ク トル)で
ま り 空 間M上
の 微 分 と は,変
表 さ れ る(df)Qが
あ る.つ
れ は
化 の 方 向 υQを 特 定 し て は じ め て
変 ベ ク トル)に
ク トル(共
ル 量 で あ る こ との 認 識 が,微 (1.6.4)で
点Qで
ス カ ラー を対 応 させ る 量 で
変 ベ ク トル)な
の で あ る.微
分がベ ク ト
分 形 式 の 理 論 の 一 つ の 鍵 に な っ て い る. 確 か に 共 変 ベ ク トル で あ る こ と は,座
標変 換
に と も な う成 分 の 変 換 則
が1ベ
ク トル の 成 分 の 変 換 則(1.5.19b)に
ら れ る.こ
の こ と は(df)Qが(1.6.2)に
な っ て い る こ とか ら直 接 に 確 か め よ り座 標 系 に よ ら な い で 定 義 さ れ た
も の で あ る か ら 当 然 で あ る. と く に 関 数fと (1.6.4)は
し て 座 標 関 数qi(点Qにqiを
対 応 づ け る 関 数)を
と る と,
と な り,こ
う して 得 られ る
(1.6.5) を余 接 空 間(T*M)Qの
自 然 基 底 とい う.こ
の と き(1.5.4),(1.5.5)は
(1.6.6) (1.6.7) ま た こ の 自 然 基 底 を 使 え ば,1ベ
ク トル(1.6.4)は
(1.6.8) と表 さ れ,逆
に(T*M)Qの
任 意 の1ベ
ク トル は
(た だ し の 形 に 展 開 さ れ る.こ ベ ク トル(反
れ は(1.5.7)と
変 ベ ク トル)
ル)
(1.6.9)
)
同 じ も の で あ る. と1ベ
ク ト ル(共
変 ベ ク ト
か ら得 ら れ る 実 数
(1.6.10) は,§1.5.2で
定 義 さ れ た ωQと υQの 双 対 内 積 で あ り
(1.6.11) の よ う に 表 さ れ る.と
く に
で あ り,こ
の 記 法 を使 え ば
の よ う に 表 さ れ る.
1.6.2
1形 式(1次
多様 体M上
外 微 分 形 式)
の す べ て の 点 の 余 接 空 間(T*M)Qの
和 集合
(1.6.12) を余 接 バ ン ドル(cotangent の す べ て の1ベ で あ る.余 い(§1.4.5と
bundle)と
ク トル の 集 合 で あ り,そ
い う.M上
れ 自体dimT*M=2dimMの
接 空 間 と余 接 バ ン ドル の 関 係 は,接 そ こ で の 脚 注6参
そ し て 多 様 体M上
の す べ て の 点 の 余 接 空 間上 多様 体
空 間 と接 バ ン ドル の 関 係 に 等 し
照).
の 各 点Qに(T*M)Qの
元 ωQを 一 つ ず つ 対 応 さ せ る対 応
(1.6.13)
をM上
の1形
式(1form,な
ば,1形
式 ω は 点Qで
の 関 数 で あ り,1形
い し1次(外)微
の そ の 値 が1ベ
式 と1ベ
分 形 式)と
ク トル(共
い う.平
変 ベ ク トル)ωQに
た くい え な るM上
ク トル の 概 念 的 区 別 は ベ ク トル 場 と(反 変)ベ
ク
トル の 区 別 に 対 応 し て い る. さ て1形
式 ω お よ び σ に た い し て,a∈Rと
し て,和
と実 数 倍
(1.6.14) が 定 義 され,こ
の和 と実 数 倍 に関 して1形
ま た,fをMの
各 点Qでf(Q)の
式 の 集 合 はベ ク トル 空 間 をな す.
値 を と る関 数 とす る と
(1.6.15) に よ り 関 数 と1形
式 の 積 が 定 義 さ れ る.
座 標 近 傍(U,φ)を
と り,そ
の と る 値 が ωQ=ωiQ(dqi)Qと 値 を と るU上
の 上 で1形
表 さ れ る と す る.そ
の 関 数 ωiのm個
底 を 与 え るm個
の1形
を考 えれ ば,1形
式 ω を 考 え た と き に,点Q∈Uで
の 組,お
こ でU上
よ び 各 点Qで
の 各 点Qで
ω ωiQの
その点の余接 空間 の基
式
式 ω はU上
で
(1.6.16) と 表 す こ と が で き る.こ た と え ば1ベ
ク トル(df)Qは
か ら,点Qに(df)Qを
は,同
れ を1形
式 の 局 所 座 標 表 示,ωiを 局 所 座 標 表 示 で は(1.6.8)の
対 応 づ け る1形
そ の 成 分 と い う. よ うに表 され る
式
じ局 所 座 標 表 示 で
(1.6.17) と表 さ れ る.こ さ ら に1形
の1形
式 を 関 数fの
式 ω=ωidqiと
=ωiQυiQの
全 微 分(total
differential)と
ベ ク ト ル 場 υ=υi∂iが あ る と き,U上
い う. の 各 点 で
値 を とる 関数
(1.6.18) を定 義 す る と,関 数 関 係 と して 等 式
(1.6.19) が 成 り立 つ.こ
れ を 「ベ ク トル 場 υに1形
と い う.つ ま り多様 体 の 各 点 で1ベ を与 え る関 数 を,1形
式 ωを作用 させ て得 られ る関数 」
ク トル の(反 変)ベ
ク トル に た い す る作 用
式 とベ ク トル 場 を使 っ て 同 じ形 に 書 くこ とが で き るの で
あ る.実 際 こ の書 き方 を用 い れ ば,関 数 関 係 と して次 の 諸 式 が 成 り立 つ:
(1.6.20) こ の 第3式
の 右 辺 はM上
関 数 を 表 す.と
の 各 点Qでfの
く に υ=c=qi∂iの
υQに よ る 方 向 微 分 υQ[f]を 与 え る
場 合,関
数
(1.6.21) を パ ラ メ ー タtに
関 す る 全 導 関 数(total
derivative)と
い う.
1形 式 の こ の よ う な 操 作 主 義 的 意 味 を 強 調 す る た め に,● 白)を
表 し て,ω
を ω[●]な
とは ●(ブ ラ ン ク)にM上
い しと
も 記 す.要
で ブ ラ ン ク(空
す る にM上
の ベ ク トル 場 を入 れ れ ば,M上
の1形
式
の各 点で双対 内積
を値 とす る実 数 値 関 数 が 出 て くるマ シー ン と思 え ば よい. な お1形
式 が 局 所 座 標 の 変 換
い 意 味 を もつ た め に は,す
に よ らな
なわ ち
(1.6.22a) を 満 た す た め に は,ωiとdqiは (1.5.19ab)に
各 点 で1ベ
ク トル の 成 分 お よ び 基 底 の 変 換 則
し た が わ な け れ ば な ら な い か ら,各
点 で
お よ び を満 た さ な け れ ば な らな い.言
い か え れ ば,2個
うな 関 係 が あ る とき に は そ の2個 お い て1形
(1.6.22b) の1形
式 の成 分 の 間 に こ の よ
の1形 式 は 同 じ もの な の で あ る.そ の 意 味 に
式 は 座 標 の選 び 方 に よ らな い 幾 何 学 的 対 象 で あ り,ベ ク トル 場 と と
もに,力 学 を共 変 的 に記 述 す る ため に 必 要 不 可 欠 な 道 具 とな る. (1.6.22)は
正 確 に書 け ば 次 の よ うに な る.
写 像
に た い し て,T*N上
の1形
式
の 引 き戻 し φ*ω を
(1.6.23a) で 定 義 す る(2形 り,座
式 以 上 も 同 様).こ
れ は 関 数 の 引 き 戻 し(1.4.42)の
標 を 用 い れ ば((1.4.44)とp.51脚
注9参
拡張 であ
照)
こ こ に υ は任 意 で あ る か ら
と くに
(1.6.23b) が 得 られ る.結 局,「 引 き戻 し」 とは写 像 後 の座 標 成 分{pj}を 写 像 前 の座 標 成 分{qi}で 表 す こ とに 他 な らな い.な お,MとNが の 場 合 や 写 像 φに よ って 空 間MとNが
同 じ空 間 で φが 座 標 変 換
同 一 視 さ れ る場 合 に は,(1.6.22)の
よ うに φ*を 省 略 す る こ とが 多 い.
1.6.3 テ ン ソル 場 と リー マ ン計 量 上 の 議 論 と 同様 に して,Mの
各 点Qで(共
変)テ
ン ソ ル τQが定 義 で き る.
そ の 張 る 空 間 が てMの
各 点Qに
をM上
のp階
空 間
のp階
テ ン ソ ル 場 と い う.つ
座 標 近 傍(U,φ)に 場 τが 点Qに
で あ る.そ
ら,関 数 τはU上
で
な わ ち τのQに
はUの の 点Qで
の テ ン ソ ル 値 関 数 で あ る.
基 底 を{(dqi)Q}と
お い て と る テ ン ソ ル,す
と表 さ れ る とす る.成 分
テ ン ソ ル を一 つ ず つ 対 応 させ る対 応
ま り τはM上
お い て(T*M)Qの
し
各 点Qご
し た と き,テ
ン ソル
お け る値 が
とに 決 ま る実 数 で あ るか
の 値 と考 え て よ く,そ の と きテ ン ソ ル場
(1.6.24) と 表 す こ と が で き る(Σ
はi1,i2,…,ipの
そ れ ぞ れ に つ い て の1∼mの
和).
本 書 の 目 的 に と っ て は 一 般 の 高 階 テ ン ソ ル 場 は あ ま り必 要 が な い の で,こ で は 計 量 テ ン ソ ル 場(リ
ー マ ン 計 量)に
2階 対 称 テ ン ソ ル 場 と は,任 を い う.そ
し てM上
正 定 値 の と き,つ
の2階
意 の 点Qに
お け る 値 τQが対 称 テ ン ソ ル の も の
対 称 テ ン ソ ル 場g:Q〓gQがM上
ま り任 意 の0で
こ
つ い て だ け 触 れ て お く.
の 各 点Qで
な い ベ ク トルuQ∈(TM)Qに
た い して
(1.6.25) の と き,こ
の テ ン ソ ル 場gをM上
ル と い う.局
の リ ー マ ン計 量,テ
所 座 標 表 示 で は,リ
ン ソ ルgQを
計量 テ ンソ
ー マ ン計 量 は
(1.6.26) と 表 さ れ る.曲
面 の 場 合 の 第1基 本 形 式(1.2.3)を
一 般 化 し た も の で あ る.
そ し て リー マ ン 計 量 を も つ 多様 体 を リー マ ン 多 様 体 な い し リ ー マ ン 空 間 とい う. リー マ ン 多 様 体 で はMの
各 点 で の接 空 間 に 内 積
(1.6.27) が 定 義 され る.こ れ は 局 所 座 標 表 示 で表 せ ば
(1.6.28) ま た リー マ ン 多 様 体 で は,(反
変)ベ
ク トル 場u=ui∂iを
計 量 テ ン ソル 場
を用 い て (● は ブ ラ ン ク)
の よ うに 双 対 空 間 に 写 像 す る こ とに よ っ て,1形
(1.6.29)
式
(1.6.30) が 得 られ る.こ れ は 計 量 テ ン ソル に よ る添 字 の上 げ 下 げ に 対 応 して い る.こ の よ うに リー マ ン 多様 体 で は,計 量 テ ン ソル を介 し て ベ ク トル(反 変 ベ ク トル) と1ベ ク トル(共 変 ベ ク トル),さ
ら に ま たベ ク トル 場 と1形 式 が1対1に
対
応 して い るの で,接 空 間 と余 接 空 間 は 同型 で あ る.そ の た め た とえ ば上 で 定 義 した2個 の 反 変 ベ ク トル の 内積
(1.6.31) は,1ベ
ク ト ル
とベ ク トルvQの
双対 内積
(1.6.32)
と 同 じ も の に な る.な
お
の よ う な表 現 も便 利 で あ る.gは
対 称 テ ン ソ ル ゆ え,こ れ ら の 式 でuと
υの
順 序 を 入 れ か え て も よい. ま た リー マ ン 多様 体 で は,曲 線 の 接 ベ ク トル
の長 さは
(1.6.33) し た が っ て,曲
線
の 長 さ が,計
量 テ ン ソ ルgを
使 って
(1.6.34) と表 さ れ る. §1.1∼ §1.3で 論 じ た 曲 面 は リー マ ン 多 様 体 で あ り,そ 結 果 を 先 取 り し て い る.と
くに §1.1の{mij}お
よ び §1.2で
1基 本 量 は 計 量 テ ン ソ ル の 成 分 に 他 な ら な い.そ 部 分,適
こでの議論 は本節 の 用 いた 曲面の 第
し て 力 学 で 扱 う 多 様 体 は,大
当 に 計 量 を 導 入 す る こ と で リー マ ン 多 様 体 に す る こ と が で き る.と
う の も,k個
の 拘 束 条 件 の あ るN個
内 に 埋 め 込 ま れ た(3N-k)次
の 質 点 の 系 の 配 位 空 間 は,R3N次
元 超 曲 面 で あ り,当
然 こ れ はR3Nに
い
元空 間
備 わってい
た 計 量 を 引 き 継 い で い る か ら で あ る.
1.6.4 p形 式(p次
外微 分 形 式)
一 般 の 高 階 テ ン ソル 場 は あ ま り必 要 な い け れ ど も,高 階 の 交代 テ ン ソ ル場 は 高 次微 分 形 式 と して 重 要 で あ る. Mの
各 点Qでpベ
す る.そ こ でMの
ク トル が 定 義 さ れ,そ 各 点Qにpベ
の 集 合 の 空 間 Λp((TM)Q)が
ク トル(ωp)Qを 一 つ ずつ 対 応 させ る対 応
(1.6.35)
た だ し が 考 え られ る.こ 座 標 近 傍(U,φ)を ク トル は,局
れ をp形
式(な
い しp次
と っ た と き,p形
所座 標表示 で
存在
微 分 形 式)と
式 ωpがQに
い う.
お い て 値 と し て と るpベ
と 表 さ れ る(Σ'は は 点Qで
の 範 囲 で の 和).こ
決 ま る実 数 で あ るか ら,関 数
の 値 と考 え て よ い.し た が ってp形
式 は,U上
の展 開 係 数 の 点Qで
で
(1.6.36) と表 され る.こ れ がp形
式 の局 所 座 標 表 示 で あ る.
外 積 の性 質 よ り,pベ
ク トル の 基 底 とp個 の(反 変)ベ
ク トル の 関係 と して
(1.6.37)
が 成 り立 つ((1.5.46b)参 の 表 記 法(1.6.18)に
照).そ な ら い,Mの
こ で,1形
式 の ベ ク トル 場 に た い す る 作 用
各 点Qで
(1.6.38)
を値 とす る 関数 を
(1.6.39) で 表 す.こ Mの
の 表 記 法 で は,p形
各 点Qでpベ
式 ωpとp個
ク トル(ωp)Qお
の ベ ク ト ル 場u(i)の
よ び 反 変 ベ ク トル(u(i))Qを
そ れ ぞ れ を,
値 に と る関 数 で
あ る と考 え れ ば よ い.
2形 式 の 場 合 に具 体 的 に い う と,こ
うで あ る.局 所 座 標 表 示 で は2形 式 は
(Σ'はi<jに 他 方,反 (1.6.20)を
変
ベ
ク
ト ル 場
はu=ui∂i,υ=υi∂iの
(1.6.40)
つ い て の 和), よ う に 表
さ れ
る.そ
こ で
使 い
(1.6.41)
と して,こ の 右 辺 をM上
の 関 数 と見 なせ ば よ い の で あ る.
こ の 表 記 法 を さ ら に拡 大 す れ ば,●
で ブ ラ ン クを 表 して,2形
式から
(1.6.42) (1.6.43) と す る こ と に よ り,右
辺 で 表 さ れ る1形
は,●(ブ
一 つ の ベ ク トル 場 を 入 れ れ ば1形
ラ ン ク)に
式 が 得 ら れ る.こ
こで も
式 が,二
つ の ベ ク トル
場 を 入 れ れ ば 実 数 値 関 数 が 得 ら れ る マ シ ー ン で あ る*1. 再 三 い う こ と に な る が,M上 関 係 を値 とす る 関 数 と し て,p形 す こ とが で き る.し
の 各 点 で のpベ
ク トル や 反 変 ベ ク ト ル の 間 の
式 や ベ ク トル 場 の 間 の 関 係 を 同 じ 形 に 書 き 下
た が っ て た と え ば 各 点Qでpベ
積 ωpQ∧ ωqQを 値 と す る 関 数 と し て,p形
ク トル とqベ
式 とq形
ク トル の 外
式の外積
(1.6.44) を 定 義 で き る の で あ る.
1.6.5
外
微
分
す で に 見 た よ う に,ス 得 ら れ た.こ
カ ラ ー 関 数(0階
テ ン ソ ル)の
の 操 作 を 次 の よ う に 一 般 化 し て,p形
る.こ
のp+1形
式 を 外 微 分(exterior
M上
の ス カ ラ ー 関 数fに
式 か らp+1形
derivative)と
た い す る 外 微 分 を,そ
全 微 分 に よ り1形
式 が
式 が 得 られ
い う.
の全微 分
(1.6.45) で 定 義 す る.次
に1形
式 ω=fidqiの
外微分 を
(1.6.46)
*1 な お,も
っ と 一 般 的 に はの
よ う な ベ ク ト ル 場 υ とn次
微 分 形 式 ωnの 積 を数 学 で は 内 部 積(interior product)と い う.こ れ は,数 学 の テ キ ス ト で は な い しiυωnな い しi(υ)ωnの よ う に 表 記 さ れ て い る こ と が 多 い が,「 マ シ ー ン 」 と い う よ う な 操 作 主 義 的 な 見 方 を す る 場 合 に は,本
書 の よ う な 表 記 法 が 便 利 に 思 わ れ る.
で 定 義 す る.こ
こ に ∧ は 外 積 記 号,Σ'はi<jに
こ の 定 義 が 意 味 を もつ た め に は,外 な け れ ば な ら な い が,そ い ま,二
微 分 が 局 所 座 標 系 に よ ら な い こ とを示 さ
の た め に は 次 の よ う に す れ ば よ い.
つ の 座 標 系(q1,q2,…,qm)お
と 表 さ れ る とす る.こ
つ い て の 和 を 表 す.
よ び(q1,q2,…,qm)で
の と きdf=dfは
ほ とん ど 自 明,第2式
では
で な け れ ば な らな い か ら
最 後 の 等 号 で はdqk∧dqiがkiに つ い て 対 称 だ か ら 第2項
つ い て 反 対 称,偏
が 消 え る こ と を使 っ た.し
導 関 数(∂k∂iqj)がkiに たが って
す な わ ち,外 微 分 は 座 標 系 に よ ら な い. 上 の 定 義 を さ らに 拡 張 して,p形
(Σ'は
式
の 範 囲 で の和)に た い す る外 微 分 を
(1.6.47) で 定 義 す る.こ
れ が 局 所 座 標 系 に よ ら な い こ と の 証 明 は,上
と同様 に で き る の
で 省 略 す る.こ
の よ う に,M上
の 外 微 分 はM上
の(p+1)形
式 を 与 え る.た
例 と し て,R3(3次
にp形
だ し,ス
式 が 与 え ら れ る と,そ カ ラ ー 関 数 は0次
元 ユ ー ク リ ッ ド空 間)で
微 分 形 式 と見 な す.
の デ カ ル ト座 標(x,y,z)を
た 場 合 を挙 げ て お こ う: 例1
ス カ ラ ー 関 数(0形
i.e.
式)
;
(た だ しdr=(dx,dy,dz)).
(1.6.48)
用 い
例2 1形 式
(ただ しdS=(dy∧dz,dz∧dx,dx∧dy)).
i.e.
(1.6.49) 例3 2形 式
(た だ しdV=dx∧dy∧dz).
i.e.
こ れ ら の 例 か ら わ か る よ う に,外 勾 配(gradient)や
微 分 は3次
回 転(rotation)や
(1.6.50)
元 ベ ク トル 解 析 で よ く知 ら れ た
発 散(divergence)の
演 算 を 統 合 し一 般
化 し た も の な の で あ る.
1.6.6 ポ ア ン カ レの 補 題 外 微 分 の 定 義 よ り,以 下 の 公 式 が 導 か れ る:
(1.6.51)
(ⅰ)
(1.6.52)
(ⅱ) (ⅲ)
(1.6.53)
(ⅳ)
(1.6.54)
こ こ で ωp,σpはp形 (ⅰ),
(ⅱ)は
ス カ ラ ー 関 数 で あ る.
ほ と ん ど 自 明.な
と き,d(fg)=gdf+fdgと (ⅲ)は
式,fは
な る が,こ
次 の よ う に 示 さ れ る:
ま た(ⅳ)は,外
を考 慮す れば
お(ⅱ)はp=0,ωp=g(ス
積の線形性
カ ラ ー 関 数)の
れ は 「ラ イ プ ニ ッ ツ の 規 則 」 に他 な ら な い.
の場 合 に つ い て 証 明す れ ば 十 分 で あ る.こ の と き
こ こ で1形
式 ど う し の 外 積 で は
順 送 り にdqipの
と な る こ と を 使 っ て,dgを
後 ま で も っ て ゆ け ば(ⅳ)が
ツ の 規 則 」 の 拡 張 で あ る が,-(マ さ ら に,(ⅲ)を
得 ら れ る.(ⅳ)は
イ ナ ス)の
拡 張 し た も の と し て,任
「ラ イ プ ニ ッ
べ き乗 が つ く こ と に 注 意.
意 の 微 分 形 式 ω に た い して
(1.6.55a) が 成 り 立 つ.一 form),そ
般 に 微 分 形 式 Ω が Ω=dω
し てdΩ=0と
用 語 を 用 い れ ば,こ Ω=dω(Ω
と 書 け る と き Ω を 完 全 形 式(exact
な る 微 分 形 式 を 閉 形 式(closed
form)と
い う.こ
の
の命題 は が 完 全 形 式)⇒dΩ=0(Ω
が 閉 形 式)
(1.6.55b)
を主 張 す る もの で あ る.証 明 は 以 下 の とお り: こ れ も
の 場 合 につ い て 示 せ ば 十分 で あ る. (外 微 分 の 定 義(1.6.47)),
さ らに(ⅳ)を
用 いれば
しか る に外 微 分 の 定 義 に 照 らせ ば りd(df)=0で
,ま た(ⅲ)よ
あ るか ら,結 局d(dω)=0.
先 に 挙 げ たR3で
の例 に つ い て,こ
■
の 命 題 を具 体 的 に記 して お こ う:
(1.6.56) (1.6.57) もち ろん こ れ らは3次 元 ベ ク トル 解 析 で 周 知 の公 式
を 表 して い る. こ の 命 題(1.6.55)の
逆 を ポ ア ン カ レ の 補 題(Poincare's
lemma)と
い う,
す なわ ち dΩ=0(Ω
が 閉 形 式)⇒
Ω=dω(Ω
が 成 り立 つ こ とで あ る.そ の 意 味 は,Ω
が 完 全 形 式)
が 閉 形 式 で あ れ ば,あ
(1.6.58)
る ωが存 在 し
Ω=dω
と書 くこ とが で き る とい う こ と で あ る*2.
ポア ン カ レの 補 題 は 厳 密 に は局 所 的 に しか 成 り立 た な い(局 所 的 と い う意 味 は 後 で示 す).し
か し,力 学 で実 際 に扱 う 多様 体 で は た い が い大 域 的 に も成 り
立 つ と し て 問 題 は な い.こ 示 して お こ う.Ω
な ら ば,あ
が1形 式 で Ω=Eidqiの
る 関 数Φ
主 張 で あ る.R3上
こ で は Ω が1形 式 の 場 合 に つ い て,証
が 存 在 し Ω=dΦ,す
形 の と き,ポ ア ン カ レの 補 題 は
な わ ちEi=∂iΦ
で は
保 存 場 で あ る 条 件 で,Φ
明 の概略 を
と表 さ れ る と い う
と い う こ と で,こ が ポ テ ン シ ャ ル を 表 す.し
れ はEが
た が って 証 明 は
(1.6.59) が 成 り立 つ と きに ば よ い.こ
とな る関 数 Φ を作 れ る こ と を示せ
こ に各Eiは
の 関数 で あ る.そ の ため に は
(1.6.60) と と れ ば よ い.実
以 下,同
際,こ
うす れ ば
様 に す れ ば す べ て のiに
の た め に は 積 分(1.6.60)が の 補 題 が 成 り立 つ の は,す
た い し て ∂iΦ=Ei(q)が
存 在 し な け れ ば な ら な い.そ べ て のEiが
示 さ れ る.た れ ゆ え,ポ
だ しそ ア ンカレ
積 分 可 能 な 範 囲 に 限 ら れ る(こ
の点 は
節 末 で 再 び 触 れ る). *2 多 くの 数 学 書 で は(1 る け れ ど も,H.
.6.58)を
Flanders『
「ポ ア ン カ レ の 補 題 」,(1.6.55)を
微 分 形 式 の 理 論 』 岩 堀 長 慶 訳(岩
分 ・位 相 幾 何 』(岩 波 書 店1996),木 ウ ヒ ル1988増 補 改 訂 版1996)で
「そ の 逆 」 と し て い
波 書 店1967),和
達三樹
『微
村 利 栄 ・菅 野 礼 司 『微 分 形 式 に よ る解 析 力 学 』(マ グ ロ は(1.6.55)を 「ポ ア ン カ レ の 補 題 」 と 呼 ん で い る.
1.6.7
微分 形式の積 分
曲 線
に そ っ た1形
接 ベ ク トル 場 をc=qi∂i(た
式 ω1の 積 分 は,c=q(τ)の
だ しqi=dqi/dτ)と
して
(1.6.61a) で 定 義 さ れ る.こ cに
れ を 線 積 分 と い う.右
よ る 引 き 戻 しc*ω1を
辺 は 通 常 の 積 分 で あ る.な
お こ れ は,
用 いて
(1.6.61b) と考 え て も よ い.こ
れ が パ ラ メ ー タ τの 選 び 方 に よ ら な い こ と は,τ=τ(σ)
(た だ しdτ/dσ>0)に
よ り積 分 変 数 を σ に 変 換 し て 直 接 確 か め れ ば よ い.
同 様 に,2形
式 ω2の 曲 面 上 で の 積 分 は,曲
う に パ ラ メ ー タ 表 示 し,ξ=const.の
面N上
の 点 をP=q(ξ,η)の
曲 線 の 接 ベ ク トル と η=const.の
よ
曲線 の
接 ベ ク トル を そ れ ぞ れ
(1.6.62) と して,次 式 で定 義 され る:
(1.6.63) これ を面 積 分 とい う.こ こ にSはN上 積 分 領 域S上
の 積 分 領 域,Sは
パ ラ メー タ(ξ,η)が
で と る範 囲 で,右 辺 は通 常 の 重積 分,は
(1.6.64) と な る 関 数 で あ る((1.6.41)参 り,ま
た
照).た
だ し
で あ
は ヤ コ ビ行 列 式 を 表 す.
し た が っ て 面 積 分(1.6.63)は
次 の よ う に 書 き 直 さ れ る:
(1.6.65) こ れ は 数 学 的 に 丁 寧 に い う と,次 曲 面N上
の 点 をq(x,y)の
を 対 応 づ け る 写 像 φ:R2→Nを き戻 し
の よ う に な る.
よ う に パ ラ メ ー タ 表 示 し,平 考 え(図1.6.1),1形
面(x,y)と 式dqiの
曲 面N
φ に よ る引
図1.6.2
図1.6.1
(1.6.66) をR2上
で の微 分 形 式 と見 な す.こ
う して ω2自 体 をR2上
に 引 き戻 せ ば
(1.6.67) と な る(Σ'はi<jに
つ い て の 和,図1.6.2参
関 係
照).最
後 の 等 号 は,外
を 使 っ た.通
省 略 さ れ る 場 合 が 多 い が,こ
こ で は1形
と を は っ き り さ せ る た め に,φ*を し た が っ て,こ
微 分 の
常 は 左 辺 の φ*が
式{dqi}と{dx,dy}の
空間が異 なるこ
省 略 し な い で お い た.
れ よ り微 分 形 式 の 積 分 ど う し の 関 係
(1.6.68) が 得ら れ る(S=φ-1(S)と よ い.(1.6.65)で
す る).こ
れ を 面 積 分 の も う一 つ の 定 義 と考 え て も
の 面 積 分 の 定 義 は,こ
の(1.6.68)式
ぞ れ 積 分 パ ラ メ ー タ ξ,ηで 形 式 的 に 置 き か え,微 dξdη と 読 み か え た も の に な っ て い る.い コ ビ 行 列 式 が 出 て く る の で,曲
の 右 辺 でx,yを
分 形 式dx∧dyを
そ れ
面積 要素
ず れ にせ よ被 積 分 関 数 に 自動 的 にヤ
面 の 座 標 を(ξ,η)に
変 換 した と き
と な り,面
積 分 は 積 分 パ ラ メ ー タ の 選 び 方 に よ ら な い 値 を もつ.
な お,パ
ラ メ ー タ(ξ,η)が 正 し く曲 面 を 座 標 づ け る た め に は
で な け れ ば な らな い(≠0で
あ れ ば よ い が,そ
うで あ れ ば つ ね に 正 か つ ね に 負
で あ り,つ ね に 負 とな る場 合 は ξ と ηを 置 きか え れ ば よ い).し た が っ て,座 標 変 換 が 問 題 な くな され る ため に は,変 換 の ヤ コ ビ行 列 式 もつ ね に
で な け れ ば な らな い.い つ で も こ うな る よ う にN全 ど うか はNの
性 質 に よ る.こ
体 で 局 所 座 標 を とれ るか
う な る よ う に局 所 座 標 が とれ る と き,曲 面Nは
向 きづ け られ て い る とい う. 一 般 的 に は次 の よ うに い う. 二 つ の 座 標 近 傍 こ ろ で,ヤ
が 重 なって い る と
コ ビ行 列 式 が
の と き,二 つ の 座 標 近 傍 は 同 じ向 き で あ る とい う.さ ら に 多 様 体Mを
覆 い尽
くす 座 標 近 傍 系 を う ま く とる こ とに よ り,ど の 座 標 近 傍 も重 な っ て い る もの ど う し で は 同 じ 向 きに す る こ とが で き る と き,Mは able)と
向 き づ けが 可 能(orient
い う.
向 きづ け が 可 能 な 多様 体 の領 域Aで
の 積 分(Σ'は
のp形
式
の 和)は 次 の よ うに定 義 され る:
(1.6.69) こ こ にAは
パ ラ メー タ
が 積 分 領 域A上
で と る範 囲,ま
た
で あ る.
1.6.8
ス トー ク ス の 定 理
向 き づ け の 可 能 な 多 様 体Mの ∂D(そ
れ 自 体(n-1)次
で あ る か らDに ξ2,…,ξn-1)にDの
中 のn次
元 多 様 体)を
元 部 分 多 様 体 の 領 域Dと
考 え る.こ
た い し て も正 の 向 き を 決 め る.そ
の と きDも
そ の境 界
向 きづ け が 可 能
し て ∂Dの 座 標 近 傍(V;ξ1,
外 に 向 か う 座 標 軸 ξ0を 付 け 加 え た と き(ξ0,ξ1,ξ2,…,
ξn-1)がDの
正 の 向 きに な る な らば,境 界 ∂Dは 正 の 向 き で あ る と決 め る.た
と えばDが3次 Dの
元 空 間 内 の2次 元 平 面 上 の 閉 曲線 ∂Dで 囲 まれ た領 域 の 場 合,
座 標 を右 手 系 に と る な らば,境
界 に そ って つ ね に 内側 を左 に 見 て 回 る 向
きが ∂Dの 正 の 向 きで あ る(図1.6.3)*3.
図1.6.3 領 域 の 境 界 と向 き
n次 元 の 領 域Dと
境 界 ∂Dに 向 きの つ け られ る と き,任 意 の(n-1)次
微分
形 式 ω に た い して
(1.6.70) が 成 り 立 つ.こ
れ を ス トー ク ス の 定 理(Stokes'
理 解 の 便 宜 の た め に,証 例1
Dが
曲 線c(1次
theorem)と
い う.
明 に 先 立 っ て い くつ か の 例 を 挙 げ て お く: 元)で
∂Dが 曲 線 の 両 端A,B(0次
元)の
場 合,
(1.6.71) こ れ は 微 積 分 法 の 基 本 定 理(fundamental
theorem
of calculus)に
他 な らな
い.
例2 DがR2平
面 上 の 閉 曲 線 ∂Sで 囲 まれ た 領 域Sで
が っ て
,し た
の場 合,
(1.6.72) こ れ は,(x,y)そ
の も の を積 分 パ ラ メ ー タ に と っ て 通 常 の 積 分 に 書 き 直 せ ば
(1.6.73) *3 n次 元 多様 体 の 領 域Dに
た い して 「Dの 外 に向 か う」 とい うこ と を正 確 に 定 義 す る た
め に は,少 し うる さい 議 論が 必 要 で あ るが,込 み 入 った議 論 は数 学 書 に ゆ だね,こ 直観 的に 理 解 して も ら って よ い.
こで は
と な り,よ
く知 ら れ た2次
他 な ら な い.あ 例3
元 平 面 で の グ リ ー ン の 定 理(Green's
theorem)に
ら た め て 証 明 す る に は 及 ば な い で あ ろ う.
DがR3内
の 曲 面 上 の 閉 曲 線 ∂Sで 囲 ま れ た 領 域Sで
の 場 合,(1.6.49)す
な わ ちdω=(rot
F)・dsを
使 え ば,
(1.6.74) これ は3次 元 空 間 で の 通 常 の ス トー ク スの 定 理 を与 え る. 例4 DがR3内
の 閉 曲面 ∂Vで 囲 ま れ た体 積 領 域Vで
の 場 合,(1.6.50)す
な わ ち
を使 え ば
(1.6.75) こ れ は3次
元 空 間 の ガ ウ ス の 定 理(Gauss'
theorem)を
さ て 一 般 的 な ス トー ク ス の 定 理(1.6.70)に は 高 次 元 多 様 体 内 に 埋 め 込 ま れ た2次 で あ る か ら,そ 多 様 体Mの 域Sが
戻 る.実
際 に後 に 本 書 で 使 うの
元 曲 面 上 で の1形
式 の 線積 分 の場 合 だ け
の 場 合 に 限 っ た 証 明 を 与 え る. 中 の2次
あ る と き,∂Sに
元 曲 面N上 そ っ た1形
の 閉 曲 線 ∂Sと そ れ に 囲 ま れ たN上 式 の 線 積 分 を考 え る.N上
域 の 局 所 座 標 をq=(q1,q2,…,qm)と
と る(座
を 分 割 し て 後 で 足 し 合 わ せ ば よ い か ら,簡 き1形
与 え る.
のSを
の領 含 む領
標 近 傍 が 一 つ で 済 ま な け れ ばS
単 に 一 つ で 足 り る とす る).こ
の と
式は (iは1∼mの
和 を と る)
(1.6.76)
で 表 さ れ る. 他 方,2次
元 曲 面Nの
れ る か ら,(x,y)平
面R2か
を 考 え る と,(1.6.66)を
上 の 点 は パ ラ メ ー タ(x,y)に らNへ
の 写 像 φ を 考 え,φ
よ りパ ラ メ ー タ 表 示 さ に よ る ω の 引 き戻 し
使 い
(1.6.77)
他 方(1.6.67)よ
に た い して
り
した が って
(1.6.78) す な わ ち,外 微 分 を と って か ら引 き戻 して も,引 き戻 して か ら外 微 分 を と って も結 果 は 変 わ らな い*4.そ こ で ω のS上 るR2上
の 領 域 をSと
と な り,こ
う し て2次
元 曲 面 上 で の ス トー ク ス の 定 理 が 証 明 さ れ た.こ
リー ン の 定 理(1.6.72),そ
使 っ た 書 き 直 し,(3)は2次 し て(4)は(1.6.77)に
の等号 元 の グ
よ る 書 き 直 し,(5)は
あ る.
最 後 に 次 の 指 摘 を し て お こ う.上 あ れ ば,そ
対 応す
して
で,(1)は(1.6.68),(2)は(1.6.78)を
(1.6.61b)で
で の 面 積 分 を考 え る と,Sに
の 議 論 で,曲
の 領 域 内 の 任 意 の2点QとPを
を 考 え る と(図1.6.4),Sをcで
面Nの
あ る 領 域 でdω=0で
通 る 任 意 の 閉 曲 線c=c1+(-c2)
囲 ま れ た領 域 と して
図1.6.4
*4 この こ とは微 分 形 式 の外 微 分 が座 標 に よ ら な い こ と(座 標 変 換 に た い して 不 変 で あ るこ と)を 表 して い る.(1.6.78)は2次 式 に た い して も成 り立つ.
元 曲面 上 で証 明 した け れ ど も,n次
元曲面上の微分形
と な る.こ の こ とはQを
固定 した と き,PQを
結 ぶ 任 意 の 曲 線lに
たい し
(1.6.79) と い う点Pの1価
関 数 Φ が 決 ま り,そ れ ゆ え これ を用 い て
(1.6.80) と書 け る こ とを示 して い る.こ れ が ポ ア ン カ レの 補 題 で あ る.た だ しこ の証 明 よ り明 ら か な よ うに,こ
の 結 論 は 内部 にdω ≠0と な る点 を含 ま な い 単 連 結 な
領 域 に た い し て の み 成 り立 つ.そ
の 意 味 で,ポ ア ン カ レ の補 題 が 成 り立 つ の は
局 所 的 と以 前 に 断 っ た の で あ る. 以 上 で,必 要 最 小 限 の 数 学 の 準 備 が で きた.こ れ 以 上 の こ とは 必 要 に 応 じて 場 所 場 所 で 触 れ る こ とに し,次 章 か ら解 析 力 学 を体 系 的 に述 べ る.
2 ラ グ ラ ン ジ ュ形 式 の 力 学
2.1 ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式
2.1.1
ス ク レ ロ ノー マ ス な場 合
§1.1で
は,拘
束 力 を 消 去 す る こ と に よ り,一
数 だ け の 方 程 式(1.1.26),
(1.1.28),
(1.1.31)を
程 式 は 実 用 上 は 扱 い や す い も の で は な く,理 り,必
般 化 座 標 で 表 さ れ た 自 由度 の 導 い た.し
論 的 に 見 て も窮 屈 な とこ ろが あ
ず し も満 足 の ゆ く も の で は な い.
実 用 上 は,自
由 度 がnの
と き,n(n+1)/2個
の 計 量 テ ン ソ ル 成 分{mij}お
び さ ら に 多 く の ク リ ス ト ッ フ ェ ル 記 号{Cijk}を
す べ て 求 め る こ と は,nが
ほ ど大 き く な く と も 相 当 に 面 倒 な 計 算 を 必 要 と す る.実 由 度2の
か し こ れ らの 方
球 面 振 子 の 場 合 で さ え,計
し か し{mij}や{Cijk}が
際,例1.1.1で
よ それ
見た 自
算 は か な り 煩 わ し い.
す べ て 求 ま り運 動 方 程 式 が 書 き 下 さ れ た と し て も,
そ の か ぎ りで は そ の 方 程 式 は 配 位 空 間 の 特 定 の 局 所 座 標 系 で の 表 現 で しか な く,現
実 の 問 題 を解 く た め に は,座
一般論 としては
,そ
標 変 換 が 必 要 に な る 場 合 も 多 い.な
の 形 が ど の 座 標 系 に 移 っ て も 変 わ ら な い,す
な わ ち 方程 式
が 共 変 性 を も つ と い う こ と は,す
で に §1.3で 確 か め ら れ て い る.と
実 に 方 程 式(1.1.26),
(1.1.31)に
(1.1.28),
る 座 標 系 へ の 変 換 に と も な うmijやCijkの な い.し
るほ ど
は い え現
座 標 変 換 を 施 す た め に は,異
な
変換 則 が わか って いなけ れば な ら
か し計 量 テ ン ソ ル成 分 や ク リス トッフ ェ ル 記 号 の 変 換 を具 体 的 な場 合
に 実 行 す る こ と は,一
般 的 な 変 換 則 を 示 す の に 比 べ て 格 段 に 面 倒 で あ る.
そ の う え 理 論 的 な 観 点 で は,§1.1の ク レ ロ ノ ー マ ス な)場
議 論 は 拘 束 が 時 間 に 陽 に よ ら な い(ス
合 に 限 ら れ て い る か ら,方
程 式(1.1.26),
(1.1.28),
(1.1.31)も
座 標 変 換 もそ の 範 囲 に 限 られ て い る とい う狭 さが あ る.
それ に た い して,拘
束 が 時 間 に よ る(レ オ ノー マ ス な)場 合 に も拡 張 で き,
そ の 広 い範 囲 の 座 標 変 換 が 可 能 で,し か も座 標 変 換 が 簡 単 に実 行 可 能 で,そ の 座 標 変 換 に た い す る共 変 性 が 見 や す く,そ の 意 味 で理 論 的 に も実 用 上 も優 れ て い る運 動 方 程 式 が,単
一 の ス カ ラー 関 数 だ け を扱 う ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 で あ
る. 本 節 で は ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 を導 入 し,そ の 一 般 的性 質 を調 べ る. 手 始 め に,方 程 式(1.1.26)を
次 の よ うに 変 形 して み よ う.そ の左 辺 は
(2.1.1) の よ う に 書 き 直 さ れ る.(た て 扱 う.ま
だ し偏 微 分 演 算 の さ い にqiとqiを
た 本 節 で はi,j,kの2重
添 字 は1∼nの
独 立変数 と し
和 を と る.)し
たが って運
動 エ ネ ル ギー の総 和
(2.1.2) を 用 い て,方
程 式(1.1.26)は
(2.1.3) と表 さ れ る.こ
2.1.2
れ を ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式(Lagrange
equations)と
い う.
一般 的な場合 への拡張
た だ し こ こ ま で の 議 論 は,拘
束 が ス ク レ ロ ノー マ ス な 場 合 に し か 成 り立 た な
い.し
.1.3)は,実
か し 得 ら れ た 方 程 式(2
は 以 下 に 示 す よ う に,拘
束 が レオ
ノ ー マ ス な 場 合 に も通 用 す る の で あ る. 拘 束 が 時 間 に よ り(1.1.3)で
表 さ れ る 場 合 は,位
置 ベ ク トル は
(2.1.4) と表 され る.こ の 場 合,局
所 座 標 がq={qi}で
表 され る超 曲 面(配 位 空 間)
は 時 間 と と も に変 化 す る の で,た {Fα'}がNと
と え 拘 束 が 滑 らか で各 瞬 間 に 拘 束 力 の 全 体
直 交 して い て も,系 の 時 間 的 発 展 に と もな う無 限小 変 位 た だ し
(2.1.5)
は 必 ず し も拘 束 力 と直 交 して い る とは 限 ら な い.し か し この 場 合 も,系 の その 瞬 間 の 拘 束 条 件 を破 らな い無 限小 変 位(仮 想 変 位)
(2.1.6) は そ の 瞬 間 に 固 定 さ れ た 超 曲 面N上 の 全 体 と 直 交 し て い る.し
で の 変 位 で あ る か ら,そ
の瞬間 の拘束 力
た が っ て{δrα}に た い し て は(1.1.7)が
成 り立
つ:
(2.1.7) た と え ば 動 く滑 ら か な 斜 面 に そ っ た 質 点 の 運 動 を 考 え れ ば よ い(図2.1.1).
図2.1.1 動 く斜 面 にそ った 質点 の 運 動drと 仮 想 変 位 δr
こ こ で ニ ュ ー トン の 運 動 方 程 式 を 用 い て 拘 束 力 をFα'=mαrα-Fα 書 き 直 せ ば,(2.1.7)よ
の よ うに
り
(2.1.8) が 得 ら れ る.こ
れ が ダ ラ ン ベ ー ル の 原 理(d'Alembert's
principle)で
あ る.
こ の 式 は 静 力 学 に お け る つ り あ い の 条 件 と し て の 仮 想 仕 事 の 原 理(1.1.11) に お い てFα
をFα-mαrα
え ら れ た 力(Fα)と
で 置 き か え た も の で あ り,そ
慣 性 力(-mαrα)で
の 意 味 は しば しば
「加
物 体 が つ り あ う 」 と 説 明 さ れ て い る.
し か し そ の 本 質 的 内 容 は 拘 束 力 の す る仮 想 仕 事 が0に
な る と い う点 に あ り,そ
の こ と を未 知 の拘 束 力 を含 まな い 形 で表 し た もの で あ る. 実 際,た
とえ ば例1.1.1で
見 た球 面 振 子 の 場 合,ニ
(た だ し デ カ ル ト座 標 でg=(0,0,-g))に 束 条 件│r│=lで
お い て,拘
ュ ー トン の運 動 方 程 式
束 力 で あ る 張 力Sは,拘
表 さ れ る 球 面 に つ ね に 直 交 し て お り,し
件 を 破 ら な い 仮 想 変 位 δrに た い し て δr・S=0,す
たが って この拘 束条
な わ ちSは
仕 事 を し な い.
これ よ り
が 得 ら れ,極
座 標(1.1.34)を
用 い て 書 き直 せ ば
こ の 式 で δθ, δφ が 独 立 ゆ え,そ ち に 方 程 式(1.1.39)が 同 様 に(2.1.8)式 れ のiに
つ い て0で
れ ぞ れ の 係 数 を0と
お く こ と に よ っ て,た
だ
得 ら れ る. で は す べ て のqiが
独 立 で あ る か ら,δqiの
な け れ ば な ら な い.す
な わ ち す べ て のiに
係数 が それ ぞ た い して
(2.1.9) あ る い は 少 し変 形 して
(2.1.10) が 成 り立 つ.こ
こ で(2.1.5)よ
り得 ら れ る 関 係
(2.1.11) お よび
(2.1.12) に 注 意 す る と,(2.1.10)の
左辺 は
と 変 形 で き る.し
た が っ て こ の 場 合 も,運
動エネ ルギー
(2.1.13) を 用 い れ ば,(2.1.10)の の 右 辺 は(1.1.12)で
左 辺 は(2.1.3)の
左 辺 と 同 一 に な る.他
定 義 し た 一 般 化 力 の 成 分Fiで
時 間 に よ る 場 合 も(2.1.3)と 力 が ポ テ ン シ ャ ルUか
あ る か ら,結
方(2.1.10) 局,拘
束が
ま っ た く同 形 の 方 程 式 が 得 ら れ る. ら導 か れ
(2.1.14) と表 され る と きに は,一 般 化 力 の 成 分 は
(2.1.15) と 書 け る か ら,方
程 式(2.1.10)は
(2.1.16) と表 さ れ る.こ
れ は さ らに
(2.1.17) で定 義 され る単 一 の 関数 を用 い て
(2.1.18) と ま と め ら れ る.こ
の 一 組 の 方 程 式(2.1.16)な
と 同 様 に ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 と い い,ま rangian)な
い し(2.1.18)を
た 関 数Lを
も,(2.1.3)
ラ グ ラ ン ジ ア ン(Lag
い し ラ グ ラ ン ジ ュ 関 数 と い う.
な お 以 下 で は,演
算記号
(2.1.19) を 用 い て,ラ
グ ラ ン ジ ュ 方 程 式(2.1.18)を
簡 単 に
(2.1.20)
と記 す. こ の 方程 式 は単 一 の ス カ ラー 関 数 で表 さ れ るの で,取 扱 い が きわ め て 簡 単 で あ り,実 用 上 の 観 点 か らは 以 前 の 方 程 式(1.1.26)に る.実 際,力
比べ て格段 に優 れ て い
が ポ テ ン シ ャ ル か ら導 か れ る場 合,運 動 エ ネ ル ギーTと
シ ャ ル ・エ ネ ル ギーUを あ とはL=T-Uに
一 般 化 座 標qと
一 般 化 速 度qの
ポテ ン
関 数 と して 表 せ ば,
た い す る ラ グ ラ ン ジュ 方 程 式 を 機械 的 に 書 き下 す だ け で,
必 要 な運 動 方 程 式 が 自動 的 に得 られ るの で あ る.個 々 の物 体 に 働 く力や 拘 束 条 件 を考 慮 す る必 要 は ま っ た くな い.以 下 で は と くに 断 らな い か ぎ り,ラ グ ラ ン ジ ア ン が 必要 な だ け微 分 可 能 な場 合 の み を考 え る. 拘 束 の あ る系 の 配 位 は配 位 空 間N上
の1点
ン ドルTNを
space)と
とは,N上
力 学 で は状 態 空 間(state の す べ て の 点Qに
の 状 態 はTN上
の1点 はqか
ア ン はTN上
で指 示 さ れ る.そ い う.す
お け る接 空 間TNQの
で指 示 さ れ る.い
まNの
して(q,q)が
接バ
な わ ち状 態 空 間TN
直和 空 間 で あ る.そ 局 所 座 標 をq={qi}と
ら 自然 に 導 か れ るTNの
の 関 数 で あ る.そ
してNの
して 系 す れ ば,
局 所 座 標 で あ り,ラ グ ラ ン ジ 系 の 状 態 を表 す.系
の 状 態 とい
うの は 次 の よ う な意 味 で あ る. ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式(2.1.18)は
(2.1.21) と表 さ れ る.ラ
グ ラ ン ジ ア ン の ヘ ス 行 列
で あ る と き,ラ
グ ラ ン ジ ア ンLは
が
(2.1.22) 正 則(regular)と
い わ れ,上
式 を
(2.1.23) の形 に 解 くこ とが で き る.こ の 式 の右 辺 は(q,q)の 件 と して状 態 空 間上 の1点(qとqの
関 数 で あ るか ら,初 期 条
初 期 値)を 指 定 す れ ば,そ
の 後 の(そ れ
以 前 の)状 態 空 間上 の 位 置 は 一 意 的 に決 定 され る.そ の 意 味 で,正 則 な ラ グ ラ ン ジ ア ン で は 古 典 力 学 的 因 果 律 は 満 た され て い る の で あ り,(q,q)の
セ ット
を系 の状 態 と い う. ラ グ ラ ン ジ ュ方 程 式 に よ り決 定 され る状 態 空 間 上 の 点 の運 動 と して 系 の 変 化
を論 じる 力 学 を,本 書 で は ラ グ ラ ンジ ュ形 式 の 力 学 と呼 ぶ.
2.1.3 共
変
性
ま た局 所 座 標 系(使 用 す る一 般 化 座 標)の 変 換 に た い す る ラ グ ラ ン ジュ 方 程 式 の 共 変 性 も,次 の よ うに 一般 的 か つ 直 接 的 に確 か め られ る. 本 節 で は 配位 空 間 を決 定 した 拘 束 条件 が 時 間 に よ る と して い るか ら,座 標 変 換 も時 間tを パ ラ メー タ と して 含 ん で よ い.そ こ で い ま配 位 空 間 の座 標 変 換
(2.1.24) を考 え,こ れ が 微 分 同相 写 像 で あ る と して,逆 変 換 を
(2.1.25) で 表 す.こ
の1対1写
像 を 点 変 換(point
こ の 変 換 よ りq={qi}の
transformation)と
い う.
変 換 則 お よび それ に付 随 す る関 係
(2.1.26) が 自 然 に 導 か れ る.逆 と 書 く.ま
変 換(2.1.25)の
ヤ コ ビ行 列 を,
た こ の 変 換 は 同 一 の 点 を 異 な る座 標 系 で 見 る も の で あ る か ら,ス
ラ ー 関 数 の 値 は 変 わ ら な い.そ
カ
こで これ に と もな っ て変 換 され た ラ グ ラ ン ジア
ンは
(2.1.27) で 定 義 さ れ る.こ
れ よ り
(2.1.28) す な わ ちEi[L]はN上
の座 標 変 換 に た い して 共 変 ベ ク トル の成 分 と し て変 換
され る. した が って,変
換 φ が正 則 す な わ ち
であれば
(2.1.29) す な わ ち ラ グ ラ ン ジ ュ方 程 式 は 点 変 換 に た い して共 変 的 で あ り,配 位 空 間 の 座 標 変 換 に さ い して 形 を変 え な い.さ
らに ヘ ス行 列 の 変 換 則 は
で あ るか ら,変 換 が 正 則 で あ れ ば
(2.1.30) す な わ ち,ラ グ ラ ン ジ ア ン の正 則 性 は座 標 系 の 選 択 に よ ら な い. した が っ て また,正 則 な写 像 で 結 びつ く一 般 化 座 標 の 組 は,方 程 式 を解 くさ い の 難 易 とい う実 用 上 の優 劣 をの ぞ い て,互
い に対 等 で あ る.そ れ ゆ え 現 実 の
問 題 で は,問 題 ご と に積 分 に有 利 な座 標 系 に 移 れ ば よ い.の み な らず,そ の さ い の 座 標 変 換 は,単 一 の ス カ ラー 関 数 で あ る ラ グ ラ ン ジア ン に た い して だ け で 済 む.こ
の 点 に ラ グ ラ ン ジ ュ 方程 式 の実 用 上 の 大 きな メ リ ッ トが あ る.
た と えば3次
元 ユ ー ク リ ッ ド空 間R3で
の質 点 の運 動 を デ カ ル ト座 標 で考 え
る と,ラ グ ラ ン ジア ン は
(2.1.31) で あ り,こ れ に た い す る ラ グ ラ ン ジ ュ方 程 式 を作 れ ば ニ ュー トン の運 動 方 程 式
が 得 ら れ る.こ
こ で 図2.1.2の
よ う に3次
方 程 式 を こ の 極 座 標 で 表 す こ と を考 え る.変
元 極 座 標(r,θ,φ)を
導 入 し,運
動
換 式 は 次 の と お り:
(2.1.32) θ は 天 頂 角,φ
は 方位 角 で あ る.そ の さ い ニ ュ ー トン の 運 動 方 程 式 の 各 成 分 を
直 接 的 に極 座 標 に 変 換 す る の は か な り手 間 が か か る.そ れ に 比 べ て(2.1.31) の ラ グ ラ ン ジ ア ン 自体 を書 き直 す の は は るか に 楽 で あ る.R3の
線要素 を
図2.1.2 3次 元 デ カ ル ト 座 標 と極 座 標
の よ う に2通
りで 表 す だ け で よ い.そ
うす れ ば す ぐさ ま運 動 エ ネ ル ギ ー
(2.1.33) と,そ れ に と もな い ラ グ ラ ン ジ ア ン の局 所 座 標 表 示
(2.1.34) を得 る こ とが で き,後 は これ に た い す る ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 を 書 き下 せ ば よ い.こ
う して簡 単 に 方 程 式
(2.1.35)
が 得 ら れ る.こ
れ は 極 座 標 で 表 し た 運 動 方 程 式 で あ る.
こ の 例 で と く にr=l=const.と とす れ ば,例1.1.1に
い う 拘 束 条 件 を 課 し,さ
ら に
見 た 球 面 振 子 の 運 動 方 程 式(1.1.39)に
な る*1.mijや
Cijkを 使 う 計 算 に 比 べ て ど れ く ら い 簡 単 か が 感 得 で き よ う. そ の う え,上
の 座 標 変 換(2.1.24)は
時 間tを
含 ん で も よ く,し
た が って ラ
グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 は 任 意 の 動 い て い る 座 標 系 に お い て も成 り立 つ の で あ る. た と え ば2次
*1 そ の 場 合
元 ユ ー ク リ ッ ド空 間 で の 運 動 を,回
転座標 系
,一 般 化 座 標 は θ,φ の み で,Lは(2.1.34)でr=l,r=0と る.こ の 扱 い で は 自 由 度 は2に な り,(2.1.35)の 第1式 は 存 在 し な い.拘 い は,例10.1.1参 照.
お い た もの で あ 束 系 と して の扱
(2.1.36) で見 る.こ の 式 を 時 間tで 微 分 し,ω に 比 例 す る項 を移 項 す れ ば
(2.1.37) したが っ て 運 動 エ ネ ル ギー は
(2.1.38) こ れ に た い す る ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 は,変 (2.1.18)で
与 え ら れ る.そ
換 に 時 間 を含 ま な い と き と同 じ形 の
れ を 書 き 下 し,結
果 を 適 当 に 移 項 ・整 理 す れ ば,
(2.1.39) が 得 ら れ る.こ い る.右 gal
辺 第2項
force)で,い
れ は ニ ュ ー トン の 運 動 方 程 式 の 回 転 座 標 系 で の 表 現 に 一 致 し て が コ リ オ リ カ(Coriolis
force),第3項
ず れ も座 標 系 が 回 転 し て い る(加
見 か け 上 の 力 と し て の 慣 性 力(inertial
force)で
座 標 変 換 や 加 速 度 系(非
め に 生 じた
回 転 座 標 系 で 表 せ ば,慣
性
慣 性 系)へ
ま りニ ュ ー トン の 運 動 方 程 式 は 時 間 を 含 む の 変 換 で は 一 般 に は 形 を 変 え る.し
グ ラ ン ジ ュ 方 程 式Ei[L]=0は,こ り,任
速 度 を も つ)た
あ る.
こ の よ う に ニ ュ ー ト ン の 運 動 方 程 式mr=Fを 力 を 付 け 加 え な け れ ば な ら な い.つ
が 遠 心 力(centrifu
か しラ
の よ うな広 い変 換 に た い して も共 変 的 で あ
意 に 動 く座 標 系 に 移 っ て も 形 を 変 え ず に 成 り 立 つ の で あ る.こ
れ は
ニ ュ ー トン の 運 動 方 程 式 と の 決 定 的 な 違 い で あ る .
2.1.4
一 般 化 ポ テ ン シ ャル
こ こ ま で は,運 と き に,ラ
動 エ ネ ル ギ ー と速 度 に 依 存 し な い ポ テ ン シ ャ ル が 与 え ら れ た
グ ラ ン ジ ア ン を(2.1.17)で
式 で 表 さ れ る こ と を 示 し て き た.こ
作 る と運 動 方 程 式 が ラ グ ラ ン ジュ 方 程 こ で は よ り広 い 範 囲 の 力 に た い し て,逆
に
運 動 方 程 式 が ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 と して 表 され る よ うに ラ グ ラ ン ジ ア ン を作 る 方 法 を考 え る. 力 が 速 度 に よ る 場 合 で も,一
般 化 力 の 成 分 が 関 数U(q,q,t)を
用 いて
(2.1.40) と表 さ れ る 場 合 に は,ラ
グ ラ ン ジ ュ 方 程 式(2.1.18)は
の よ う な 関 数U(q,q,t)を
そ の ま ま 成 り 立 つ.こ
一 般 化 ポ テ ン シ ャ ル(genealized
potential)と
い
う. た と えば 上 に 見 た 回転 座 標 系 で の 運 動 の 場 合
(2.1.41) とす れ ば,回
転 系 で 働 く力 の 成 分 は(2.1.40)に
こ のU'を
代 入 して
(F'η も 同 様) と導 か れ る(F'ξ
は 一 般 化 力 の ξ 成 分 を 表 す).そ
し て は(2.1.39)と
同 じ も の が 得 ら れ る.す
ン シ ャ ル を 与 え る.こ な お,こ
のU'の
第3項
な わ ち こ の 場 合U'が
一般 化 ポ テ
を 遠 心 力 ポ テ ン シ ャ ル と い う.
の 例 か ら わ か る よ う に,ラ
ジ ア ン だ け が 問 題 な の で あ っ て,そ
して ラ グ ラ ン ジ ュ方 程 式 と
グ ラ ン ジュ 形 式 の 力学 で は実 は ラ グ ラ ン の 運 動 エ ネ ル ギ ー と ポ テ ン シ ャ ル ・エ ネ ル
ギ ー へ の 分 割 は 必 ず し も 一 意 的 に は 決 ま ら な い. 力 が 速 度 に 依 存 す る い ま ひ と つ の 例 と し て,電 (質 量m,電
荷e)の
運 動 を 考 え る.運
磁 場(E,B)中
で の荷 電 粒 子
動方 程式 は
(2.1.42) 右 辺 は ロ ー レ ン ツ カ(Lorentz
force)で
あ る*2.
ス カ ラ ー ・ポ テ ン シ ャ ル を Φ(r,t),ベ て,電
場Eと
ク トル ・ポ テ ン シ ャ ル をA(r,t)と
し
磁 束 密 度Bは
(2.1.43) で 表 さ れ る(B=∇ はrに と,お
×Aは
擬 ベ ク ト ル,υ
×Bは
ベ ク トル).演
作 用 し な い の で 等 式 よ び Φ(r,t)がrに
(Φ も 同 様), れ ば よ い.SI単
位 で は,ロ
が 成 り立つ こ
よ ら な い こ と を使 え ば,上
*2 本 書 は ガ ウ ス単 位 系 を用 い て い る
算 子 ∇=∂/∂r
.SI単
位 系('を
の運動方程式 は
つ け る)に
(Aも 同 様), ー レ ン ツ 力 はe'(E'+υ ×B'),ま
す る に は の置 きか えをす た(2.1.43)は
と書 き直 さ れ る.し たが っ て電 磁 場 中 の荷 電粒 子 の 運 動 に た い す る一 般 化 ポ テ ン シ ャ ル とラ グ ラ ン ジ ア ン は
(2.1.44)
(2.1.45) で 与 え られ る.
2.1.5 ラ グ ラ ン ジ ア ンの ゲ ー ジ変 換 な お,系
の運 動 を決 定 す る の は ラ グ ラ ン ジュ 方 程 式 で あ るが,所 与 の 運 動 方
程 式 を与 え る ラ グ ラ ン ジ ア ン は,必 ず し も一 意 的 に は決 ま らな い. い ま,ラ
グ ラ ン ジ ア ンLと
が
の 意 味 で 同 一 の ラ グ ラ ン ジ ュ方 程 式 を与 え る とす る.こ こ で は 方 程 式 と して 同 一
,し た が っ て任 意 の 初 期 条 件 に た い して 同一 の解 を与 え る こ とを要 求 して い
るの で あ るか ら,そ の ため に は恒 等 的 に
す なわ ち
を,す
べ て のiに
た い し て 満 た さ な け れ ば な ら な い.こ
を 含 ん で い な い こ と に 注 意 す れ ば,こ kに
た い し て
の 形 を し て い る.こ
の 式 が 成 り立 つ た め に は,す
で な け れ ば な らず,し
れ よ り
こ でLもL'も{qk} べ て のiと
たが って Ω は一般 に
と な り,Ω が 満 た す べ き上 記 の 条 件 式 に代 入 して
しか る に一 般 化 座 標{qi}の
間 に は 拘 束 条 件 が な い か ら,こ の た め に は かつ
と な ら な け れ ば な ら ず,し
と な る 関 数 Λ(q,t)が
た が っ て ポ ア ン カ レ の 補 題(§1.6.6)よ
存 在 す る.そ
し て,こ
り
れ を 用 い て Ω とL'は
(2.1.46) と 表 さ れ る.逆 Ei[L']=Ei[L]が
に Ω が こ の 形 を し て い れ ば,Λ 成 り立 つ.す
な わ ち,ラ
が どの よ う な関 数 で あ って も
グ ラ ン ジ ア ン は(q,
t)の 任 意 の 関 数
の 全 導 関 数 だ け 不 定 で あ る. こ の 変 換
を ラ グ ラ ン ジ ア ン の ゲ ー ジ 変 換(gauge
transformation)と 変 で あ る.そ
い う.ラ
グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 は こ の ゲ ー ジ 変 換 に た い して 不
の 意 味 でLとL'は
等 価 な ラ グ ラ ン ジ ア ン と い わ れ る.
電 磁 場 中 の 荷 電 粒 子 の ラ グ ラ ン ジ ア ン(2.1.45)の け ば,ラ
場 合,Λ=(e/c)xと
お
グ ラ ン ジ ア ンの ゲ ー ジ変 換 は
(2.1.47) と表 され る.そ れ ゆ え この 変 換 は,電 磁 ポ テ ン シ ャル の 変 換
(2.1.48) と 考 え る こ と も で き る.こ は(2.1.43)に
の 変 換 に よ り電 磁 場(E,B)自
体 が変 わ らない こ と
直 接 代 入 す る こ と に よ り簡 単 に 見 て と れ る.電
の こ の 変 換(2.1.48)を
電 磁 場 の ゲ ー ジ 変 換 と い う.
磁 ポ テ ン シャ ル
例2.1.1
ラー モア の定理
一 様 で 弱 い 磁 場B=(0,0,B)の
中 で の 荷 電 粒 子(m,e)の
ル ・ポ テ ン シ ャ ル はA=B×r/2,し
運 動 を 考 え る.ベ
ク ト
たが って ポテ ンシャル は
(2.1.49) で 与 え られ る(U0は
磁 場 に よ る以 外 の 力 の ポ テ ン シ ャ ル).こ
運 動 量 ベ ク トル(擬 ベ ク トル)で あ る.こ の 回転 系 で 見 る.(2.1.36),(2.1.37)を
と 表 さ れ る か ら,回
の 運 動 をBに 使 え ばMの
こ に
平 行 なz軸
は角
ま わ りの 角 速 度 ω
第3成 分 は
転 系 で の ポ テ ン シ ャ ル と し て は(2.1.41)を
使 っ て
(2.1.50) が 得 られ る.し
た が っ て と くに 角 速 度
で 回転 して い る座 標 系 で 見 る な ら ば,こ
と な り,磁 場 が 弱 くてB2の
の ポテ ンシ ャルは
項 を 無 視 で き る近 似 で は磁 場 の 影 響 は 消 去 さ れ,粒
磁 場 が 働 い て い な い か の よ う に 振 る 舞 う.こ rem)と
(2.1.51)
ラー モア角速 度)
(電 子 では
れ を ラー モ ア の 定 理(Larmor's
子は theo
い う.回 転 系 で 見 た ロー レ ン ツ力
(2.1.51)の
場 合,コ
が,
リ オ リ力2mω(η,-ξ,0)に
よ っ てBの1次
の項 ま で打 ち 消 さ
れ る の で あ る.
例2.1.2
剛体 の回 転の 方程 式
剛 体 は,そ
の 中 の 任 意 の2点
間 の 距 離 が 時 間 に よ ら ず 一 定 の 物 体 と定 義 さ れ る.
平 た く い え ば ど れ だ け 力 を 加 え て も変 形 し な い 物 体 を指 す.も は 存 在 し な い 数 学 的 抽 象 で あ るが,現 か ぎ りで,そ
ち ろん これ は現 実 に
実 の物体 が 十分 に 堅 くその 変 形 が 無視 しう る
の 記 述 に と っ て有 効 な 概 念 で あ る.
剛 体 を相 互 の 配 置 を変 化 させ な い 質 点mα い る場 合 を考 え る.い トル をrα とす れ ば,剛
の 集 合 と見 な し,そ の1点
が 固定 されて
ま そ の 固 定 点 を 原 点 とす る座 標 系 を と り,質 点mα
の位 置ベ ク
体 の 原 点 ま わ りの 角 運 動 量 は
(連 続質 量分布 では そ れ ゆ えmα に 働 く外 力 をFα,ま
),
(2.1.52)
た 剛 体 内 の 他 の 質 点mβ か ら の 力 をfαβと して
(2.1.53) 左 辺 は 力 の モ ー メ ン トの 和 で あ る.こ
こに,粒
子 間 の 力 に つ い て は,作
法 則 の他 に 中心 力 で あ る と仮 定 す れ ば,
と な る こ と を使 っ た.す
用 ・反 作 用 の
が 成 り立 つ の で
な わ ち 固 定 点 の ま わ りの 剛 体 の 回 転 は,そ
の 点 の ま わ りの
外 力 の モ ー メ ン トだ け で決 定 され る(力 の モ ー メ ン トは擬 ベ ク トル で あ る). 剛 体 が 任 意 の 運 動 を して い る と き に も,次 の よ う に 考 え れ ば 同 様 に 扱 え る. 空 間 に 固 定 し た 座 標 系 で 見 た と き の 剛 体 の 重 心(質
量 中 心)の 位 置 ベ ク トル をR,
重 心 か らmα ま で ベ ク トル をrα とす る な ら ば
(2.1.54) で あ り,そ れ ゆ え 剛体 の 全 運 動 量 と その 変 化 は
(2.1.55) (2.1.56) で 表 さ れ る.作
用 ・反 作 用 の 法 則 よ り
ゆ え,こ れ は
(2.1.57) とな り,し た が っ て重 心 の 運 動(並
進 運 動)は,す
べ て の 質 量 とす べ て の 外 力 の 作 用
点 が 重 心 に 集 中 し た と き の 質 点 の 運 動 と同 一 で あ り,重 心 の ま わ りの 剛 体 の 回 転 と ま っ た く無 関 係 に 決 定 さ れ る. 他 方,剛 る.こ
体 の 重 心 ま わ りの 回 転 を 重 心 に 原 点 を持 ち重 心 と と も に 動 く座 標 系 で 見
の と き重 心 が 加 速 度Aを
質 点 に は 慣 性 力-mαAが でmα
もつ な らば,こ
の 座 標 系 は 非 慣 性 系 で あ る か ら,各
働 く もの と し な け れ ば な ら な い が,こ
の 位 置 ベ ク トル はrα で あ るか ら(2.1.54)が
成 り立 ち,角
の場 合 は重 心 が原 点 運動 量 の方程 式は
(2.1.58) と な り,上 の(2.1.53)式
と同 一 の 式 が 得 ら れ る.つ
ま り任 意 に 運 動 して い る 剛 体 で
も,重 心 に た い して は あ た か も固 定 点 で あ る か の よ うに 扱 って よ い. こ の よ う に 重 心 に 着 目す れ ば,重
心 の 運 動 と重 心 ま わ り の 回 転 運 動 を ま っ た く別
個 に 扱 う こ とが で き る.ち な み に こ の 剛 体 の 運 動 エ ネ ル ギー は
(2.1.59) と な り,や
は り重 心 運 動 と重 心 ま わ りの 回 転 運 動 の 和 に 分 離 さ れ る.
そ こ で 以 下 で は,固
定 点 の ま わ りの 剛 体 の 回 転 運 動,な
い し任 意 に 運 動 し て い る
剛 体 の 重 心 ま わ り の 回転 運 動 を,固 定 点 な い し 重 心 を 原 点 とす る 座 標 系 を 用 い て 同
一 に 論 じ る こ とに す る . こ の と き原 点 か ら各 質 点 ま で の 距 離 は 一 定 で あ る か ら
で あ り,し た が っ て あ る ベ ク トル ωαが あ り,各 質 点 の 速 度 ベ ク トル を
と表 す こ とが で き る.さ
ら に 原 点 か ら 見 た任 意 の2点
間 の角 度 も一 定 ゆ え
で あ るか ら,ど
の 質 点mα の 速 度 も す べ て の 質 点 に 共 通 な ω を使 っ て
と表 さ れ る.そ
こ で と く にr=κ
(2.1.60) し て は υ=ω ×r=0で
ω と い う点(κ は 定 数)を
あ る か ち,ω
考 え る と,そ
の 向 き は 回 転 軸 に 一 致 し て い る.さ
の な す 角 が α≠0で あ る 任 意 の 点 に た い し て│υ│=│ω×r│=│ω││r│sinで す な わ ち│ω│は 回転 角 速 度 の 大 き さ で あ り,結 局,ω
の点 に た い ら にrと
ω
あ る か ら, が剛体 の 回
転 角 速 度 ベ ク トル で あ る こ とが わ か る(図2.1.3).
図2.1.3 角 速 度 ベ ク トル と剛 体 内 の 点 の 速 度
こ の ω を使 えば,角
運 動 量は
(2.1.61) と書 き直 され る.こ
れは テ ンソル
(2.1.62)
と角 速 度 ベ ク トルω=t(ωx,ωy,ωz)を
用 い て(テ
ン ソ ルIに
掛 け られ る ときに は ω
は 縦 ベ ク トル を表 す もの と し て),縦 ベ ク トル で
(2.1.63) と表 さ れ る.こ ルIを
の テ ン ソ ルIを
慣 性 テ ン ソ ル(inertial
tensor)と
い う(慣 性 テ ン ソ
単 位 行 列 と混 同 しな い よ う).
他 方,こ
の 剛 体 の 回転 の 運 動 エ ネ ル ギー は 同様 に
(2.1.64) と表 さ れ る(tω は ω を転 置 し た横 ベ ク トル). 上 の 慣 性 テ ン ソ ル の 成 分 表 示 で は,固 る 座 標 系 は 任 意 で あ る.し 量 で あ るか ら,と
くに 剛 体 に 固 定 さ れ た(剛 体 と と も に 回転 す る)座 標 系 で 表 し た と
き を別 に す れ ば,一 る.そ
定 点 を 原 点 に と っ て い る こ と以 外 は 使 用 す
か し こ の テ ン ソ ル 成 分{Iij}は 剛 体 内 の 質 量 分 布 で 決 ま る
般 の座 標 系 では 剛体 の運 動 と ともに この テ ン ソル成 分 は変 化 す
こで 以 下 で は 剛 体 に 固定 さ れ た座 標 系 で考 え る.
そ の と き,こ
の 行 列(Iij)は 各 成 分 が 一 定 の 対 称 行 列 で あ り,対 角 化 可 能 で,そ
固 有 値(A,B,C)が
対 角 成 分 に な る.固 有 値(A,B,C)が
の
す べ て 異 な る と き に は,対
応 す る 固有 ベ ク トル は 直 交 し,そ の 固有 ベ ク トル の 方 向 を 剛 体 の 慣 性 主 軸(princi pal axis
of inertia),そ
inertia)と
し て(A,B,C)を
い う(A,B,Cに
主 慣 性 モ ー メ ン ト(principal
moment
等 し い も の が あ る と き(縮 退 し て い る と き)も,三
固 有 ベ ク トル を す べ て 直 交 す る よ うに 選 ぶ こ とが で き る の で,以
of つの
下 の議論 は変 わ ら
な い). そ こ で 剛 体 に 固 定 さ れ た 座 標 系 の(x,y,z)軸 す る.そ
うす れ ば,角
を こ の 慣 性 主 軸 の 方 向 に と る こ とに
運動 量 は
(2.1.65) 運動 エ ネル ギー は
(2.1.66) で 表 され る(な お(A,B,C)の
そ れ ぞ れ を,(x,y,z)の
各 軸 ま わ りの 主 慣 性 モ ー メン
トで あ る と い う こ と を は っ き り させ る た め に(Ix,Iy,Iz)と 剛 体 の 各 瞬 間 の 配 位 は,剛
体 固 定 系(慣 性 主 軸 の 方 向 を 向 い た(x,y,z)軸)が
と原 点 を共 有 す る 空 間 固 定 系((X,Y,Z)軸 表 さ れ る.す
な わ ち 図2.1.4の
ら にz軸
それ
とす る)に た い して 各 瞬 間 に と る 方 向 で
よ う に 空 間 系 のZ軸
の ま わ りの 角 φの 回 転 でX・Y
軸 が ξ・Y'軸 に 移 り,ξ 軸 の ま わ りの 角 θの 回 転 でZ軸 η軸 に 移 り,さ
記 す こ と も 多 い).
が 剛 体 系 のz軸
の ま わ り の 角 ψ の 回 転 で ξ・η軸 がx・y軸
こ の 三 つ の 角(φ,θ,ψ)で 剛 体 の 配 位 は指 定 され る.こ
にY'軸
が
に 移 る とす れ ば,
れ ら の 角 の と り う る範 囲 は
図2.1.4
オ イラ ー角 の 定 義 (X,Y,Z)は
空 間 固定 系
(x,y,z)は 剛 体 固 定 系
(2.1.67) で あ る(た だ し θ=0と
θ=π で は φ と ψ は 一 意 的 に は 決 ま ら な い).こ
の 組 を オ イ ラ ー 角(Eulerian
angles)と
い う*3.
空 間 系 か ら 剛 体 系 へ の 回転 は 要 す る に3次 を表 す 配 位 空 間 は3次
の三 つ の角
元 空 間 の 回 転 で あ るか ら,剛
体 の 回転
元 回 転 群 の 要 素 が 作 る 空 間 で あ る と い っ て も よ い.そ
して オ
イ ラー 角(φ,θ,ψ)は そ の 空 間 の 局 所 座 標 系 で あ る(「 局 所 」 と い うの は,θ=0の
点
と θ=π の 点 が 除 か れ て い るか ら で あ る). こ の オ イ ラー 角 を用 い れ ば,剛
で 表 さ れ る.こ
は そ れ ぞ れZ軸
こ にex,ey,ezは
体 の 回転 角 速 度 ω は,図
そ れ ぞ れx,y,z軸
よ り明 ら か な よ う に
方 向 の 単 位 ベ ク トル,他
方 向 と ξ 軸 方 向 の 単 位 ベ ク トル で あ る.こ
方
れ よ り,回 転 角 速 度 ω の
剛 体 系 で の 成 分 は 次 の よ う に 表 され る:
(2.1.68a) (2.1.68b) (2.1.68c) 以 上 よ り,剛 体 に 働 く外 力 の ポ テ ン シ ャ ル をU(φ,θ,ψ)と
す れ ば,そ
の ラグ ラ ン
ジア ンは
(2.1.69) *3 オ イ ラ ー 角 は 1959新
,本
版1983),
書 の と り方(H. Goldstein『 古 典 力 学 』 野 間 進 ・瀬 川 富 士 訳(吉 岡 書 店 L. D. Landau and E. M. Lifshitz『 力 学 増 訂 第3版 』 広 重 徹 ・水 戸 巌 訳
(東 京 図 書1974))の
他 に,2回
学 』(岩 波 書 店1941増 岡 書 店1989))が
目 の 回 転 をY'軸
訂 第3版1959),
あ る の で 注 意.
の ま わ り に と る 流 儀(山
J.J. Sakurai『
内恭 彦
『一 般 力
現 代 の 量 子 力 学 』 桜 井 明 夫 訳(吉
で 与 え ら れ る.そ を 与 え る.ラ
し て これ に た い す る ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 が,剛
グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 は,用
に す る こ とな く扱 え るの で,こ
体 の 回転 の方 程 式
い て い る 座 標 系 が 運 動 し て い る か ど うか を 気
の よ う な 場 合 き わ め て 有 効 で あ る.
運 動 方 程 式 を角 速 度 ベ ク トル の 成 分 で 表 す ため に は,次
の よ うに す れ ば よ い.
上 の ラ グ ラ ン ジ ア ン に た いす る ラ グ ラ ン ジ ュ方 程 式 の 第3成 分 は
とな る.こ
こ でz軸
ま わ りの 微 小 角 度 δψの 回 転 に と も な う変 化 と し て δψ の1次
で とれ ば
と な り,こ ば,こ
ま
で あ るか ら
こ に
が 力 の デ カ ル ト成 分 で あ る こ と を 考 慮 す れ
の 量 は 力 の モ ー メ ン トのz成
分 で あ る.そ
れゆ え上式 は ωの成 分 を用 いて
(2.1.70) と表 さ れ る. x,y,zに
つ い て 完 全 に 対 称 で あ る か ら,第1成
ま っ た く同 様 の 式(例2.4.1,
(2.4.33)式
い て の オ イ ラ ー 方 程 式(Euler
equation)と
の 直 接 的 な 導 き方 は例2.4.1で
述 べ る.
2.2
2.2.1
第1積
分 に つ い て も 第2成
い う.こ の 方 程 式 の ラ グ ラ ン ジ ア ンか ら
対 称 性 と保 存 則
分
力 学 の 問 題 を 解 く こ と は,つ
ま る と こ ろ 系 の 状 態 の 時 々 刻 々 の 変 動 を 知 る,
つ ま り与 え ら れ た 初 期 条 件 の も と で の 運 動 方 程 式(ラ q={qi(t)}を
求 め,状
解
の 点 の 軌 跡 を 経 路(path)と
か した とえ この よ う な意 味 で の 運 動 の 厳 密 な 時 間 的 追 跡 が 不 可 能 で
あ っ て も,経
路 が 状 態 空 間 の どの 部 分 空 間 に 限 定 され る のか が わ か る だ け で も
運 動 に つ い て 重 要 な 情 報 が 得 ら れ,運 う.少
グ ラ ン ジ ュ 方 程 式)の
態 空 間 上 で の 系 の位 置 を表 す 点 が 時 間 と と もに どの よ う
に 動 い て ゆ くの か を 決 定 す る こ と と い え よ う.そ い う.し
分 につ い て も
参 照)が 得 られ る.こ れ を剛 体 の 回 転 に つ
動 の か な りの 特 徴 が 明 ら か に な る で あ ろ
な く と も 自 由 度 の 少 な い よ り簡 単 な 問 題 に 還 元 さ れ た こ と に な り,目
的
に よ っ て は そ れ だ け で 十分 な場 合 もあ る. こ の よ う な 限 定 は数 学 的 に は,系 程 式Ei[L]=0を
満 た す(q,q)に
の運 動 に そ っ て,す
なわち ラグランジュ方
た い して,関 係
(2.2.1) が 成 り立 つ とい う形 で与 え られ る.こ の よ う な 関係 を求 め る た め に は,運 動 方 程 式 を用 い て
(2.2.2) とい う形 の 式 を作 り出 せ ば よ い.力
学 で は こ の 保 存 量I(q,q,t)を
第1積
分
(first integral)と
い う.運 動 方 程 式 が2階 の 微 分 方 程 式 で あ る の に ひ きか え,
式(2.2.1)は1階
の 微 分 方 程 式 を与 え,そ の 意 味 で す で に 一 度 積 分 され た も
の に な って い るか ら で あ る.そ 一 つ の(1価
な)第1積
して こ の(2.2.1)の
関 係 を保 存 則 とい う.
分 は状 態 空 間 内 の 一 つ の 超 曲 面 を決 定 し,第1積
分
が 複 数 個 存 在 す る と き,運 動 は それ らで 決 ま る複 数 個 の 超 曲面 の 交 わ りよ りな る部 分 空 間 に 限 定 さ れ る.つ ま りそ の部 分 空 間上 の 点 を初 期 条 件 とす る経 路 は そ の部 分 空 間 か ら 出 る こ とは な い.そ れ れ ば,経
して この よ うな 関 係 が 十 分 な数 だ け得 ら
路 は 一 意 的 に決 定 され る.し た が っ て,力 学 の 問題 を解 くこ と は,
必 要 な 数 だ け の 第1積 分 を求 め る こ とで あ る とい って もよ い. もち ろん 現 実 に ど の よ うに して,ま
た どれ だ け 第1積 分 が作 られ るか は,与
え られ た 問 題 自体 の 性 質 だ け で は な く,用 い る座 標 系 に も左 右 され る.も っ と も簡 単 に 見 て 取 れ る例 と して,ラ 分qnを をn番
グ ラ ン ジア ンLが
一 般 化 座 標 のn番
目の成
陽 に 含 ま な い 場 合 を考 え る(座 標 成 分 の順 序 づ け は任 意 だ か ら,そ れ 目に と る).そ の とき,こ の座 標 成 分 に対 応 す る ラ グ ラ ン ジ ュ方 程 式 は
(2.2.3) と な り,こ
れ よ り た だ ち に 一 つ の 第1積
分
(2.2.4) が 得 られ る.定 数 αnは初 期 条 件 か ら決 定 さ れ る.
2.2.2 一 般 化 運 動 量 とそ の保 存 この 式(2.2.4)の
左 辺 の偏 導 関 数 は,一 般 に―
で な い とき に も―
解 析 力 学 に お い て き わ め て 基 本 的 で 重 要 な 役 割 を果 た す
の で,と
保 存 量 で あ る と き もそ う
くに
(2.2.5) と 表 し,こ
のpiを
(generalized
一 般 化 座 標 成 分qiに
momentum)と
共 役(conjugate)な
一 般 化 運 動 量
呼 ぶ*1.
3次 元 ユ ー ク リ ッ ド空 間 に お け る1質 き の ラ グ ラ ン ジ ア ン(2.1.31)に
点 の 運 動 を デ カ ル ト座 標 で 記 述 し た と
お い て は,こ
の一 般 化 運 動 量
(2.2.6) は 初 等 力 学 の 運 動 量 と 一 致 す る(以 のmrを
線 運 動 量(linear
下 で は,一
momentum)と
ン ジ ア ン を極 座 標 で 表 せ ば(2.1.34)の
般 化 運 動 量 と 区 別 す る た め,こ
呼 ぶ).し
か し この 同 じ系 の ラ グ ラ
よ う に な り,方
位 角 φ に共 役 な 一 般 化
運動量 は
(2.2.7) と な る.こ
れ は 角 運 動 量(angular
ま た,ベ
ク トル ・ポ テ ン シ ャ ル がAで
m,電
荷e)の
が っ てrに
運 動 の 場 合,ラ
momentum)のz成
分 で あ る.
表 さ れ る 電 磁 場 中 で の 荷 電 粒 子(質
グ ラ ン ジ ア ン は(2.1.45)で
与 え ら れ る.し
量 た
共 役 な一 般 化 運 動 量 は
(2.2.8) と な り,こ
れ は 通 常 の 線 運 動 量 と は 一 致 し な い.こ
の よ う に,一
般 化運動量の
形 や 次 元 や 初 等 力 学 的 な 意 味 は 用 い る座 標 系 に よ っ て 異 な る の み な ら ず,相 作 用 や 力 の 場 の 種 類 に よ っ て も異 な る.し
か し一 般 化 運 動 量 は,そ
互
う い っ た個
別 的 ・具 体 的 な 例 に お け る 意 味 上 ・表 現 上 の 相 違 を 越 え る 重 要 性 を もつ. そ し て 上 述 の 保 存 則(2.2.4)は,ラ *1 一般 化 運 動 量piはqとqの
グ ラ ン ジ ア ン に 陽 に含 まれ な い座 標 成
関数 で あ るか ら ,以 下 で は そ の こ と を と くに 明示 し た い と き に は,こ の よ うにpi(q,q)と 書 い た り,pLiと 添字Lを つ け た り,あ るい は,も っ と は っ き りpi=φi(q,q)の よ うに 書 く.
分 に共 役 な一 般 化 運 動 量 が 第1積 分 で あ る こ と を表 し て い る.ラ グ ラ ン ジア ン に含 ま れ な い この よ う な座 標 を循 環 座 標(cyclic
coordinate)と
い う(そ の 命
お い て,座 標 成 分xが
ポ テ ン シャル
名 の 由来 は §8.2.1で 述 べ る). た と え ば ラ グ ラ ン ジ ア ン(2.1.31)に U(r)に px=mxは U(r)が
陽 に 含 まれ な い と きxは 循 環 座 標 で あ り,そ れ と共 役 な線 運 動 量 成 分 保 存 され る.ま た ラ グ ラ ン ジ ア ン(2.1.34)に
お いてポ テン シャル
方 位 角 φ を 含 ま な い と き φは 循 環 座 標 で あ り,共 役 な 角 運 動 量 成 分 は保 存 さ れ る.
もち ろ ん,循 環 座 標 が 複 数 個 あ れ ば 同様 の保 存 量 が 循 環 座 標 の 数 だ け得 られ る.た だ し循 環 座 標 の 数 は座 標 系 の 選 び 方 に よ って 異 な る.た
とえば ポテ ン
シ ャ ル が 回 転 対 称 で あ っ て も,デ カ ル ト座 標 系 を使 え ば循 環 座 標 は な い.し か しラ グ ラ ン ジュ 方 程 式 は任 意 の 点 変 換 に た い して 共 変 的 で あ るか ら,問 題 を解 く とい う立 場 か らは,で
き るだ け 多 くの 座 標 が循 環 座 標 に な る よ うに座 標 系 を
選 ぶ の が望 ま しい.
2.2.3 系 の 対 称 性 と保 存 則 循 環 座 標 で あ る こ との 意 味 を い ま少 し考 え て み よ う.qnの もqnは
変 わ ら な いか ら,qnが
原 点 をず らして
循 環 座 標 で あれ ば ラ グ ラ ン ジ ア ンは 変 換 (2.2.9)
に た い して 不 変 で あ る.こ の と き,そ の ラ グ ラ ン ジ ア ン で 表 され る系 は,そ 変 換(つ
ま りそ の 方 向 へ の移 動)に 関 して対 称 性 を もつ とい う.た
ラ ン ジ ア ン がxを
陽 に含 ま な い と き に は,系
対 称 性 を もつ.同 様 に,ラ
はx方
の
とえ ば ラ グ
向へ の平行移 動 に関 して
グラ ン ジ ア ン が 方 位 角 φ を含 ま な い と き に は,系
は 第3軸 の ま わ りの 回 転 に 関 して 対 称 性 を もつ.そ
し て そ の い ず れ の 場 合 も,
そ の そ れ ぞ れ の 座 標 に 共 役 な 運 動 量 が 保 存 され て い る. とす れ ば保 存 則 の 存 在 は,変 換 に た い す る ラ グ ラ ン ジ ア ンの 不 変 性,つ 系 の対 称 性 と密 接 に 関 係 して い る こ とが 予 想 され る.実 際,た ジ ア ン(2.1.31)
(2.1.34)に
お い て,ポ
テ ン シ ャ ル がr=│r│の
まり
とえ ば ラ グ ラ ン み の 関 数 で方
向 に まっ た くよ らな い とす る.こ の と き系 は どの 軸 の ま わ りの 回転 に 関 して も 対 称 性 を も ち,し た が っ てz軸
の か わ りにx,yの
各 軸 の ま わ りの 回 転 角 を方
位 角 と と る こ と で,上 の 角 運 動 量 のz成
分 の保 存 の議論 が すべ ての軸 にた い
して 適 用 さ れ る.そ れ ゆ え こ の 場 合,循 環 座 標 に共 役 な 運 動 量 で は な い け れ ど も
(2.2.10a) (2.2.10b) の そ れ ぞ れ が(2.2.7)以
外 に 第1積
分 と な る.し
たが ってまた
(2.2.11) も第1積 分 で あ る. こ の よ うに,第1積
分 が 存 在 す るか ど うか は,本 来 的 に は 循 環 座 標 の有 無 に
よ るの で は な く,系 の 対 称 性 の有 無 に よ る.循 環 座 標 の 存 在 は 対 称 性 の特 別 な あ らわ れ で あ る が,た
と え循 環 座 標 が な く と も系 は 対 称 性 を も ち う る の で あ
る. こ の 対 称 性 と保 存 則 の 関 係 は 次 の よ うに一 般 的 に証 明 され る. 配 位 空 間N上
の 点Q=qに,連
続 な パ ラ メー タ λ∈Rを
もち,恒
等変換 と
連 続 的 に つ な が っ て い る変 換
(2.2.12a)
(た だ し ) を施 した と き,こ れ に よ り配 位 空 間 上 に 点Qを こ の 曲 線 の 点Qで
の 接 ベ ク トル は,N上
を 用 い,
始 点 とす る 曲 線 が 描 か れ る.
の 任 意 の 関数hの
方 向微 分
と して
(2.2.13) と表 さ れ る.さ で,N上
らに こ こ で 点QをN上
の す べ て の 点 に く ま な く動 か す こ と
の ベ ク トル 場
(2.2.14) が得 られ る. そ して この 配 位 空 間N上
の変 換(2.2.12)か
ら状 態 空 間TN上
の変換
(2.2.12b) お よ び,状 態 空 間 上 のベ ク トル 場
(2.2.15) が 自 然 に 導 か れ る.し
た が っ て 配 位 空 間 の 変 換(2.2.12a)に
ン ジ ア ン の 変 化 率 は,uλ
と もな う ラ グ ラ
の 積 分 曲線 に そ っ た 方 向微 分
(2.2.16) で 表 さ れ,こ れ よ り次 の恒 等 式 が 得 られ る:
(2.2.17) さて,系
が 変 換 Φ に関 して対 称 性 を も ち,し た が っ て 変 換 Φ が 状 態 空 間上
に 導 く変 換 Φ に た い して ラ グ ラ ン ジ ア ン が 不 変 に保 た れ る,す な わ ち
(2.2.18) が 成 り立 つ と す る*2.こ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式E[L]=0を
の と き(2.2.17)よ
り 運 動 の 経 路 に そ っ て,つ
満 た す(q,q)に
ま りラ
た い して 関 数
(2.2.19) は 一 定 で あ る.こ と い う*3.ま
の 関 数F(q,q)を
モ ー メ ン ト 関 数(momentum
function)
とめ る と
系 が 配 位 空 間 上 の 変 換 Φ に 関 し て 対 称 性 を も ち,そ
れ ゆ え そ こ か ら 自然
に 導 か れ る状 態 空 間 上 の 変 換 Φ に た い して ラ グ ラ ン ジ ア ン が 不 変 に保 た れ る と き,対
応 す る モ ー メ ン ト関 数 は 第1積
分 で あ る.
こ の 命 題 を ネ ー タ ー の 定 理(Noether's
theorem)と
で あ り,
ー タ ー の 定 理 で は,恒
*2 一般 の 点 変 換
ゆ え,ネ
(逆変 換Q〓q=φ(Q))に
い う.Φ(λ=0;q)=id. 等 変 換 の近 く
と も な い ラ グ ラ ン ジア ン は
に変 換 され る((2.1.24)∼(2.1.27)). と くに す な わ ち の とき,ラ グ ラ ン ジア ン は この 変 換 に た い して 不 変(invariant)と い わ れ る. *3 モ ー メ ン ト関 数F(q ,q)は モー メ ン ト写 像(momentum map)と もい わ れ る.そ の わ け はp. 347脚 注4参 照.
(無 限小 変 換)で
の不 変 性 だ け か ら保 存 量 が 得 られ て い るの で あ る.
ネ ー ター の 定 理 は さ らに 一 般 的 な 形 に 拡 張 で き る.そ の 点 に つ い て は 後 節 (§3.2)で あ ら た め て 論 ず る こ とに し,こ こ で は 二 つ の例 を挙 げ て お く. 3次 元 ユ ー ク リ ッ ド空 間 内 の 質 点 系 の 運 動 で,系 が 単 位 ベ ク トルnの
方向の
平 行 移 動 に 関 して 対 称 性 を もつ とす る.こ の 対 称 変 換 は
(2.2.20) (た だ しrα=(x1α,x2α,x3α),α mx2α,mx3α)と
し て,モ
は 粒 子 番 号)で
あ る.そ
れ ゆ えpα=(mx1α,
ー メ ン ト関 数 は
(2.2.21) とな り,こ れ が 第1積 分 とな る.こ れ は 全 線 運 動 量P=Σ に他 な らな い.も
同様 に,質
向成 分
ち ろ ん 系 が どの 方 向 の平 行 移 動 に 関 して も対 称 で あ れ ば,運
動 量 の すべ て の成 分 が 保 存 す る.た ン シ ャ ル がU(│r
αpαのn方
とえ ば 中 心 力 に よ る2体 相 互 作 用 で,ポ テ
1-r2│)で 表 さ れ る場 合(後 述 例2.2.2)で
点 系 が 単 位 ベ ク トルnの
あ る.
方 向 を 向 い た軸 の ま わ りに 回 転 対 称 と
す る.こ の 対 称 変 換 Φ を微 小 回転 角 θの場 合 に θの1次
まで 表 す と
こ れ は 成 分 で 表 して
(2.2.22) と な る.そ
れ ゆ え こ の 場 合 の モ ー メ ン ト関 数 は
(2.2.23) とな り({εijk}は エ デ ィ ン トン の ε),こ れ は全 角 運 動 量M=Σ
αrα ×pα のn
方 向 成 分 に他 な ら な い(角 運 動 量 は 擬 ベ ク トル で あ る).も ち ろ ん 系 が 完 全 に 回転 対 称 で あ れ ば,nは
任 意 で あ るか ら,そ の と きに は角 運 動 量 の す べ て の 成
分 が 保 存 す る(対 称 性 と保 存 則 の 関 係 に つ い て,群 論 を 用 い た 議 論 は §6.3, §6.4で 論 ず る).
2.2.4 ハ ミル トニ ア ン とエ ネル ギ ー 積 分 空 間 の 平行 移 動 に 関 す る対 称 性 か ら運 動 量 の 保 存 が 導 か れ る.「 時 間 の 平 行 移 動 」 に 関 す る対 称 性 か ら得 られ る保 存 則 は,次 の よ うに考 えれ ば よい.
恒 等式
(2.2.24) が 成 り立 つ の で
(2.2.25) と こ ろで 時 間 の平 行 移 動
(2.2.26) に 関 す る 対 称 性 と は,物 え 初 期 値q(t0),q(t0)が
理 的 に は 拘 束 条 件 や 外 力 が 時 間 に 陽 に よ ら ず,そ 同 一 で あ れ ば,系
の 運 動 を す る こ と で あ り,数
動 開 始 時 刻t0に
学 的 に は ラ グ ラ ン ジ ア ン がtを
と い う こ と で あ る.そ り ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式Ei[L]=0を 右 辺 は0,し
は,運
れ ゆ
よ ら ず,同
陽 に 含 まな い
れ ゆ え こ の と き 運 動 の 経 路 に そ っ て,つ 満 た す(q,q)に
た い し て,(2.2.25)式
た が っ て 上 式 の 左 辺 括 弧 内 は 一 定.こ
う し て 第1積
一
ま の
分
(2.2.27) が 得 ら れ る.一
般 に こ の 関 数,つ
ま り
(2.2.28) を ハ ミ ル トニ ア ン(Hamiltonian)と Lがtに き,HLが
陽 に よ ら ず,し 第1積
名 づ け る*4.
た が っ て ハ ミル トニ ア ンHLもtに
分 に な る と い う の が(2.2.27)の
陽 に よらな い と
主 張 で あ る.こ
の 場 合 を保
存 系 と い う. 一 般 に 系 の 運 動 エ ネ ル ギ ー は(2.1.13)す
*4 厳 密 に い え ば q=ψ(q,p,t)を
,ハ
なわ ち
ミ ル トニ ア ン と は,HL(q,q,t)のqに(2.2.5)を
代 入 し た,(q,p,t)を
解 い て得 られ る
変 数 とす る関数
を 指 す(§4.1.2(4.1.14)式).本 書 で は 用 い て い る変 数 の こ の 違 い を 添 字Lで 表 す が, ど ち ら もハ ミ ル トニ ア ン と呼 ぶ.な お 時 間(t)を 座 標 の 第0成 分q0と 扱 う拡 大 配 位 空 間 で 見 れ ば,q0=tと ハ ミル トニ ア ン の 符 号 を 変 え た も のp0=-HLの 関 係 が 一 般 化 座 標 と一 般 化 運 動 量 の 関 係 と 同 様 の 共 役 関 係 に あ り,そ れ ゆ えHLの 保 存(2.2.27)は,前 節の運 動 量 の 保 存 と 同 様,ネ
ー タ ー の 定 理 か ら も 導 か れ る(§3.1.4,
§3.2.2参
照).
の 形 を し て い る.し
た が っ て ポ テ ン シ ャ ルUがqを
含 ま な け れ ば,対
応す る
ハ ミ ル トニ ア ン は
(2.2.29) と な る.た
と え ば 運 動 エ ネ ル ギ ー が(2.1.38)で
ラ ン ジ ア ン に た い し て は,ハ
与 え られ る 回転 座 標 系 の ラ グ
ミル トニ ア ン は
(2.2.30) と表 さ れ る.{}内
の 第2項
回 転 系 で 見 た と き の 第1積 (Jacobi
integral)と
ま た,系
は 遠 心 力 ポ テ ン シ ャ ル に 相 当 す る.こ
の よ うな
分 と し て の ハ ミル トニ ア ン を と くに ヤ コ ビ 積 分
い う.
の 運 動 エ ネ ル ギ ー がqの2次
シ ャ ル ・エ ネ ル ギ ー がqを
同 次 式(bi=0,c=0)で
含 ま な い 場 合,ハ
か つ ポテ ン
ミ ル トニ ア ン は
(2.2.31) と な り,こ の 第1積
れ は 初 等 力 学 で 馴 染 み の 全 力 学 的 エ ネ ル ギ ー に 一 致 す る.こ
分 と し て の ハ ミ ル トニ ア ン を,エ
呼 ぶ こ と も あ る.そ た だ し,ラ
し て 関 係HL=Cを
グ ラ ン ジ ア ンL=T-Uが
う条 件 を 満 た し て い る だ け でTが た と えTがqの2次
ネ ル ギ ー 積 分(energy
の場 合
integral)と
エ ネ ル ギ ー 保 存 則 と い う. 正 しい 運 動 方 程 式 を 与 え る もの とい 系 の 運 動 エ ネ ル ギ ー と解 釈 で き な い 場 合 は,
同 次 式 で あ っ た と し て も,ハ
ミ ル トニ ア ン は 必 ず し も 系
の 全 エ ネ ル ギ ー に は な ら な い. た と え ば2次
元 等 方 性 調 和 振 動 子 で は,二
つ の ラ グ ラ ン ジア ン
(2.2.32) (2.2.33) の い ず れ に た い して も,ラ グ ラン ジ ュ方 程 式 を作 れ ば正 しい 運 動 方 程 式
(2.2.34) が 得 られ る.そ の か ぎ りで は この 二 つ の ラ グ ラ ン ジ ア ンは 等 価 で あ る.し か し こ の そ れ ぞ れ に た いす るハ ミル トニ ア ン は
(2.2.35) (2.2.36) と な り,前 い.も
者 は 確 か に 系 の 全 エ ネ ル ギ ー で あ る が,後
ち ろ ん い ず れ の ラ グ ラ ン ジ ア ン に もtが
陽 に 含 ま れ な い た め,ど
こ の 系 の 保 存 量 で あ る こ とに は 変 わ りは な い.H2Lの の 結 果 か は 後 節(例3.2.2,例6.4.1)で な お,ラ
ち らも
保 存 が どの よ うな 対 称 性
見 る.
グ ラ ン ジ ア ン(2.1.45)で
含 ま れ る が,ハ
者 は エ ネ ル ギー で は な
は,ポ
テ ン シ ャ ル 項 にrの1次
の項 が
ミ ル トニ ア ン は
(2.2.37) とな り,運 動 エ ネ ル ギ ー と静 電 エ ネ ル ギー の和 の 形 を して い るの で,こ
の場 合
の ハ ミル トニ ア ン は エ ネ ル ギー 積 分 で あ る(磁 場 は仕 事 を しな い か ら エ ネ ル ギ ー に 寄 与 し な い).
2.2.5 配 位 空 間 の 簡 約 と 自由 度 の 削 減 循 環 座 標 に 共 役 な 一 般 化 運 動 量 は 第1積 分 で あ り,そ の よ う な第1積 分 が 存 在 す れ ば運 動 空 間 は状 態 空 間 の 部 分 空 間 に 限 定 さ れ る.そ れ ゆ え 自由 度n(状 態 空 間2n次
元)の 系 に お い て ラ グ ラ ン ジ ア ン にqnが
系 の 運 動 は 状 態 空 間 内 のpn(q,q)=αnで
陽 に 含 ま れ な い と き,
定 め られ る(2n-1)次
限定 され る.し か し実 は この と き,系 は(2n-2)次
元超 曲面上 に
元 状 態 空 間上 の 運 動 に還 元
さ れ る の で あ る.(な お,系 の もつ 対 称 性 の 結 果 と し て あ る モー メ ン ト関 数 が 第1積 分 と し て得 られ た と き,そ の モ ー メ ン ト関 数 が あ る循 環 座 標 成 分 に共 役 な一 般 化 運 動 量 とな る よ うに局 所 座 標 系 を選 ぶ こ とが で き る.し たが っ て 以 下 の議 論 は,第1積
分 と して モー メン ト関 数 が一 つ 得 られ る場 合 な らば,は
じめ
か ら循 環 座 標 が 含 ま れ て い る場 合 で な く と もあ て は ま る.) い ま ラ グ ラ ン ジ ア ンが 正 則,つ (2.2.4)を
ま り
とす る.こ の と き
逆 に解 い て循 環 座 標 に対 応 す る一 般 化 速 度 成 分 を
(2.2.38) と 表 す こ と が で き る.そ
こ で,こ
れ を 用 い て も と の ラ グ ラ ン ジ ア ン か らqnを
完全 に消去 した関数
(2.2.39) を考 え る((q)nはqか
が 導 か れ る(こ を表 し,そ
ら 第n成
こ に[…]*は
分 を 除 い た も の).こ
の 関 数 に た い して
内 部 の 微 分 演 算 の 後 にqnに
の と き[∂L/∂qn]*=αn).し
ψnを 代 入 し た も の
たがって
(2.2.40) が 得 ら れ る(表
現 αnψnはnに
つ い て の 和 を 表 さ な い).そ
れ ゆ え関 数
(2.2.41) を定 義 す る な らば,こ れ も ラ グ ラ ン ジ ュ 方程 式 を満 た す,す
なわち
(2.2.42) こ こ で,も
と の 配 位 空 間 でqnの
し て 得 ら れ る 空 間,数 わ る こ と の で き るN上 間,す
学 的 に い う な ら ば 変 換 の 点 を 同 値 と し て,こ
な わ ちN'=N/∼,お
そ のTN'上
の 同 値 関 係 でNを
割 った商空
考 え る.そ
の と き,
ラ グ ラ ン ジ ア ン とす る ラ グ ラ ン ジ ュ 方 程 式 で
れ ゆ え 系 は,Rを
間,(q1,q2,…,qn-1)を
に よ り移 り変
よ び そ の 接 バ ン ド ルTN'を
で の 系 の 運 動 はRを
決 定 さ れ る.そ
値 だ け が 異 な る二 つ の 点 を 同 一 の 点 とみ な
ラ グ ラ ン ジ ア ン,N'を(n-1)次
元 配位 空
そ の 一 般 化 座 標 とす る 力 学 系 に 還 元 さ れ た こ と に な
る*5. こ の よ う に し て 対 称 性 を も つ 系 の 配 位 空 間 を,第1積 な い 空 間 に 置 き か え る こ と が で き る.こ (reduction),そ
し て こ のRを
ア ン(modified
Lagrangian)と
の 自由度 の 削 減 を配位 空 間 の簡 約
ラ ウ シ ア ン(Routhian)な い う(上
分 の数 だけ次元数の少
に 定 義 し たRの
い し修 正 ラ グ ラ ンジ 符 号 を変 え た もの を
ラ ウ シ ア ン と い っ て い る教 科 書 も 多 い). そ し て こ の ラ ウ シ ア ン に た い す る(n-1)個 *5 この 意味 で ,循 環 座 標 は 無視 し うる座 標(ignorable
の ラ グラ ンジュ方程 式が解 かれ
coordinate)と
もいわ れ る.
た な ら ば,そ
の 解qi(t)(i=1,…,n-1)を(2.2.38)に
が 得 ら れ,qn(t)は
そ こ か ら 単 な る 積 分 で 求 ま る の で あ る.
こ う し て 循 環 座 標 を 一 つ 含 む 系 は,ラ も つ(n-1)自
代 入 す る こ と でqn(t)
由 度 の 系 に 還 元 さ れ る.し
ウ シ ア ンRを
た が っ て すべ て の 座 標 が 循 環 座 標 に
な る よ う な 座 標 系 を 見 い だ す こ とが で き た な ら ば,問 に な る.つ
ラ グ ラ ン ジ ア ン と して
題 は お の ず と解 け た こ と
ま り 力 学 の 問 題 を解 く こ と は す べ て の 座 標 成 分 を循 環 座 標 と す る 座
標 変 換 を 見 い だ す こ と で あ る と い う こ と も で き る.こ
の ア プ ロー チ は正 準 方 程
式 か ら 正 準 変 換 論 へ と発 展 す る 解 析 力 学 の 一 つ の 指 導 原 理 で あ り,ハ ーヤ コ ビ 方 程 式 に お い て 達 成 さ れ る が ,そ 例2.2.1
ミル トン
れ に つ い て は 後 章 で 論 ず る.
軸対 称 な電磁 場 中の荷 電粒 子の運 動
こ の 場 合,対
称 軸 をz軸
Φ(ρ,z),A=(0,Aφ(ρ,z),0)と
とす る 円 筒 座 標(ρ,φ,z)を 用 い る と 電 磁 ポ テ ン シ ャ ル は な り,荷 電 粒 子(m,e)の
ラ グラ ンジア ンは
(2.2.43) で 与 え られ る.こ
の と き φ が 循 環 座 標 で あ り,z軸
ま わ りの 角 運 動 量 成 分
(2.2.44) が 第1積
分 を 与 え る.こ
の 場 合 は 角 運 動 量 に 電 磁 的 な 項 が 含 ま れ て い る.そ
のため
磁 場 が 時 間 と と も に な い し粒 子 の 軌 道 に そ っ て 空 間 的 に 増 加 す れ ば 力 学 的 角 運 動 量 mρ2φ が 減 少 す る.興 味 深 い事 実 で あ る. そ し て こ のM3の
保 存 を用 い れ ば,ラ
ウシア ンは
(2.2.45) と表 さ れ る.3次
元 空 間 中 の 運 動 の(ρ,z)平
シ ャ ル Aφ=0な
面 へ の 射 影 は,ρ 方 向 の 運 動 に ポ テ ン
が 余 分 に加 わ っ た2次 元 平 面 上 で の 運 動 と等 価 で あ る. ら こ の 項 は 遠 心 力 ポ テ ン シ ャ ル を与 え る.
例2.2.2
中心 力 に よ る2体 相 互 作 用
中心 力 に よ り相 互 作 用 をす る2物 体(m1,m2)の
系 の ラグラ ンジ アンは
(2.2.46) 配 位 空 間 はN=R3×R3で ル の 場 合 は,R3×R3か
重心座 標
あ る(Uは ら│r1-r2│=0と
中 心 力 ポ テ ン シ ャ ル,ニ な る 点 を 除 く).こ
,相 対座標
ュ ー ト ン ・ポ テ ン シ ャ
こ で
(2.2.47)
を使 っ て 書 き直 す と,
と し て,簡
単 な計算 で
換算 質量 (2.2.48)
た だ し が 得 られ る.配 位 空 間 の 次 元 は6,状 明 らか にRCM=(X,Y,Z)の
態 空 間 の 次 元 は12で
あ る.
各 成 分 が 循 環 座 標 で あ り,そ れ に 共 役 な 一 般 化 運 動 量
(2.2.49)
定 ベ ク トル が 第1積
分 を 与 え る.こ れ を運 動 量 積 分 とい う.も
う一 度 積 分 して
定 ベ ク トル.
これ を重 心 積 分 とい う.こ の6個
の 関 係 で,状
運 動 量 積 分 と重 心 積 分 の 存在(す
(α は 任 意 の3次 ア ン の 不 変 性 の 結 果 で あ る.そ るN内
こ で,こ
張 ら れ る3次
る.
動 量 保 存 則 と重 心 定 理)は,平
行移 動
元 定 ベ ク トル)に た い す る ラ グ ラ ン ジ
の 平 行 移 動 で相 互 に 移 り変 わ る こ と の で き
の 点 を 同 値 と し,こ の 同値 関 係 でNを
結 局N'はr=r2-r1で
態 空 間 の 次 元 が6減
な わ ち,運
割 っ た 商 空 間N/∼=N'を
元 空 間 で,こ
考 え る.
の空 間が簡 約 され た配位 空 間 で
あ り,こ の 簡 約 さ れ た 系 の ラ グ ラ ン ジ ア ン と して 上 のLに
た いす るラ ウシア ン
(2.2.50) を導 入 で き る(こ こ で は ラ ウ シ ア ン をL'で の も と で の 質 量mの1質
表 す).こ
点 の 運 動 に 還 元 さ れ る.つ
対 称 性 に よ り,配 位 空 間 の 次 元 が3,状
う し て 系 は ポ テ ン シ ャ ルU(γ) ま り3方 向 の 平 行 移 動 に 関 す る
態 空 間 の 次 元 が6減
っ た こ と に な る.
こ の と き系 は 球 対 称 で あ るか ら,角 運 動 量 ベ ク トル
(2.2.51) が 保 存 す る.こ 実 際,Mの
れ は3個
の 保 存 則 に 見 え る が,独
定 義 よ りr・M=0,r・M=0で
使 う とr・M=0が
得 られ,Mの2成
立 な の は こ の う ち の2個
で あ る.
あ る か ら,こ の 前 者 をtで 微 分 し 後 者 を 分 が 保 存 す れ ば 残 りの 成 分 も必 ず 保 存 す る こ と
が わ か る(こ れ は §6.3.3に 述 べ る ポ ア ソ ン の 定 理 の 特 別 な場 合 で あ る). そ こ でMの2成 の 保 存 を考 え,こ
分 の か わ りに,Mの
第3成
分M3とMの
大 き さM=│M│の
二つ
れ ら の 保 存 か ら何 が 導 か れ る か を 調 べ て み よ う.
そ の た め に まず,極
座 標(2.1.32)を
用 い て,L'を
(2.2.52) と表 す.(2.2.50)式
の 定 数 項
は,一
般 性 を 失 う こ と な くRCM=0と
座 標 系(重 心 系)に 移 る こ とが 可 能 ゆ え,捨
て る こ とが で き る.
極 座 標 で 表 し た 二 つ の 保 存 量 は,(2.2.7)お
よ び(2.2.11)す
なる
なわ ち
(2.2.53)
(2.2.54) 角 運 動 量M=mr×rはrとrの るか ら,M3/Mが
張 る 平 面 つ ま り軌 道 平 面 に 垂 直 な ベ ク トル で あ
一 定 と は,こ
の 軌 道 平 面 と(x,y)平
と を 意 味 し て い る(図2.2.1).iを
面 の な す 角iが
軌 道 面 傾 斜 角(inclination)と
定 数 で あ るこ
呼 ぶ.こ
のとき
(2.2.55) ま た こ れ を 使 っ て(2.2.54)を
と な る.iが 角 を
書 き直 せ ば
一 定 の と き,(x,y)平
ψと す れ ば,図
面 と軌 道 面 の 交 線ON(節
よ り
線)か
らr=OPま
での
す なわち
(2.2.56) で あ るか ら,こ
の2式
を 使 っ て 上 式 の 分 母 ・分 子 を 書 き直 す と,簡 単 な 計 算 で (2.2.57)
が 得 ら れ る(ψ>0と
し た).し
他 方,節
経 度 を Ω とす れ ば,Ω
線ONの
たが って
さ ら に 座 標 変 換 node)と
い う.こ
と ψ に よ りrの
を施 す.こ
方 向 を 指 示 で き る の で,
の Ω を昇 交 点 経 度(longitude
の座標 系 では
図2.2.1 惑 星運 動 の 軌 道 と軌 道 要 素
of
こ れ を上 式 と見 く らべ て
(2.2.58) こ の こ と は 軌 道 面 が 不 動,つ る.そ
して,こ
ま りベ ク トルMの
向 きが 一 定 と い う こ と を 示 し て い
の 座 標 系 で は ラ グ ラ ン ジ ア ン(2.2.52)は
(2.2.59) 結 局,M3とMの
二 つ の 保 存 か らベ ク トルMの3成
に な る.M3とMの
保 存 は,Z軸
分 の保 存 が導 き出 され た こ と
まわ りの 回 転 と定 ベ ク トルMの
す る対 称 性 の 結 果 で あ る か ら,そ
の 回 転 で 結 び つ く点,つ
ま わ りの 回 転 に 関
ま りrが
同 一 で Ω(な い
し φ)と ψが 異 な る 点 を 同 値 と して 得 られ る 同 値 関 係 で あ ら た め てN'を 間,す
な わ ち 座 標 をrと
す る実 軸
る.そ
して そ こ で の ラ グ ラ ン ジア ン,つ
割 った商 空
が さ らに簡 約 され た 配位 空 間 に な ま りL'に
たいす る ラウ シア ンは
(2.2.60) で与 え られ る.こ
う して 最 終 的 に 問題 は,ポ
テ ンシャ ル
(2.2.61) の も と で の1次
元配位 空 間
上 の 運 動 に還 元 さ れ た こ と に な り,こ れ は
求 積 法 で 解 く こ と が で き る.右 実 効 ポ テ ン シ ャ ル(effective
辺 第2項
potential)と
対 称 性 か ら,配 位 空 間 の 次 元 が2減 し た が って 運 動 は,状
い う.こ
こ で も2方
のU*を
向 の 軸 ま わ りの 回 転
っ た こ とに な る.
態 空 間TN"で
上の 運 動 に な るが,L"はtを
は 遠 心 力 ポ テ ン シ ャ ル で あ り,こ
考 え れ ば 次 元 が4減
陽 に 含 ま な い か ら,さ
っ た2次
元 平 面(r,r
らにエ ネル ギー積分
(2.2.62) を も ち,系
は状 態 空 間TN"=(r,r)
て ポ テ ン シ ャ ルU(r)
の こ の 式 で 決 ま る 曲 線 上 を 運 動 す る.し
たが っ
が 与 え ら れ て い る な らば,r=r(t)は
(2.2.63) を 積 分 す る こ と に よ り 求 ま り,得 ψ(t)も
ら れ たr(t)を(2.2.57)に
代 入 す る こ と で ψ=
決 定 さ れ る.
な お(2.2.57)式
よ り得 ら れ る
(2.2.64) を使 って 上 式 を書 き直 せ ば,軌
道 の方程 式
(2.2.65) が 得 ら れ る.こ
れは
(2.2.66) と 書 い た ほ うが 便 利 な こ とが 多 い.こ
の 方 程 式 か ら 軌 道 形r=r(ψ)は
決 定 さ れ,こ
う し て 軌 道 平 面 上 の 運 動 は 完 全 に 解 くこ と が で き る. な お(2.2.57)式
は
(2.2.67) と 書 く こ と が で き る.こ ケ プ ラ ー の 第2法
例2.2.3
こ にhは
則(Kepler's
面 積 速 度(areal
second
law)に
velocity)で
あ り,そ
の 保 存 は,
他 な ら な い.
ケ プ ラー運動
い ま 前 の例 で 見 た 中 心 力 ポ テ ン シ ャ ル が
(2.2.68) を 満 た し,か (2.2.61)が Eに
つ あ る 領 域 でU(r)