7 応用化学シリーズ
電気化学の基礎と応用 美浦 佐藤 神谷 奥山 縄舟 湯浅 …………
隆 祐一 信行 優 秀美 真 [著]
朝倉書店
応用 化学 シ リーズ代 表 佐 々 木 義 典 前千葉大学工学部物質工学科教授
第7...
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7 応用化学シリーズ
電気化学の基礎と応用 美浦 佐藤 神谷 奥山 縄舟 湯浅 …………
隆 祐一 信行 優 秀美 真 [著]
朝倉書店
応用 化学 シ リーズ代 表 佐 々 木 義 典 前千葉大学工学部物質工学科教授
第7巻 執 筆者 美
浦
隆 慶應義塾大学理工学部応用化学科教授
佐
藤
祐
一 神奈川大学工学部応用化学科教授
神
谷
信
行 横浜国立大学大学院工学研究院教授
奥
山
縄
舟
湯
浅
優 秀
小山工業高等専門学校物質工学科教授
美 甲南大学理工学部機能分子化学科教授 真 東京理科大学理工学部工業化学科教授 (執筆 順)
『応 用 化 学 シ リ ー ズ 』 発刊 に あ た って
こ の 応 用 化 学 シ リー ズ は,大 学 理 工 系 学 部2年
・3年 次 学 生 を対 象 に,
専 門 課 程 の 教 科書・ 参 考 書 と し て企 画 され た. 教 育 改 革 の 大 綱 化 を 受 け,大 学 の 学 科 再 編 成 が 全 国 規 模 で行 わ れ て い る. 大 学 独 自 の 方 針 に よ っ て,応 れ ば,応
用 化 学 科 と,た
用 化 学 科 をそ の ま ま 存 続 させ て い る大 学 も あ
とえ ば 応 用 物 理 系 学 科 を合 併 し,新
し く物 質 工 学
科 と して 発 足 させ た 大 学 も あ る.応 用 化 学 と応 用 物 理 を 融 合 さ せ 境 界 領 域 を究 明 す る効 果 をね ら っ た もの で,こ
れ か らの 理 工 系 の 流 れ を象 徴 す る も
の の よ う で も あ る.し か し,応 用 化 学 とい う分 野 は,学 科 の 名 称 が どの よ うに 変 わ ろ う と も,そ の 重 要 性 は 変 わ らな い の で あ る.そ れ ど こ ろか,新 し い特 性 を も っ た 化 合 物 や 材 料 が 創 製 さ れ,ま
す ます 期 待 さ れ る分 野 に な
りつ つ あ る. 学 生 諸 君 は,そ
れ ぞ れ の 専 攻 す る分 野 を究 め る た め に,そ
の土台 であ る
学 問 の 本 質 と,こ れ を 基 盤 に 開 発 さ れ た 技 術 な ら び に そ の 背 景 を理 解 す る こ と が 肝 要 で あ る.目
ま ぐる し く変 遷 す る時 代 で は あ る が,ど
の よ うな 場
合 で も最 善 をつ く し,可 能 な 限 り専 門 を確 か な も の と し,そ の 上 に 理 工 学 的 セ ン ス を 身 に つ け る こ とが 大 切 で あ る. 本 シ リー ズ は,こ
の よ う な理 念 に 立 脚 し て 編 纂,ま
執 筆 者 は 教 育 経 験 が 豊 富 で,か
とめ られ た.各 巻 の
つ 研 究 者 と して 第 一 線 で 活 躍 して お られ る
専 門 家 で あ る.高 度 な 内容 を わ か りや す く解 説 し,系 統 的 に 把 握 で き る よ うに 幾 度 とな く討 論 を 重 ね,こ
こ に刊 行 す る に 至 っ た.
本 シ リー ズが 専 門 課 程 修 得 の役 割 を果 た し,学 生 一 人 ひ と りが 志 を 高 く も っ て 進 ま れ る こ と を希 望 す る もの で あ る. 本 シ リー ズ 刊 行 に 際 し,朝 倉 書 店 編 集 部 の ご尽 力 に 謝 意 を表 す る次 第 で あ る. 2000年9月 シ リー ズ代 表 佐 々 木 義 典
は
じ
め
に
本 書 の企 画 を引 き受 けて か ら,随 分 と長 い 時 間 を費 や して し ま った.こ と え に小 生 の 遅 筆 に よ る もの で,言
れ はひ
い訳 に な るが,電 気 化 学 の教 科 書 が多 数 新 刊
され る 中 で 基 礎 事 項 の解 説 に特 色 を追 究 しす ぎ て し まっ た. 本 書 の構 成 や 執 筆 陣 に関 し て は,共 著 者 の 佐 藤 祐 一 先 生 か ら も ア ドバ イ ス し て い た だ き,幅 広 い 応 用 分 野 を網 羅 した 教 科 書 と して刊 行 す る こ とが で きた. 今 日,電 気 化 学 が 主役 をつ とめ る 注 目分 野 は きわ め て 多岐 に わ た っ て い る.エ ネ ル ギ ー デ バ イ ス と して の 高 性 能 二 次 電 池,燃 料 電 池,電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ, 電 気 エ ネ ル ギ ー の ア シス トな しで は 起 こ りえ な い各 種 電 解 反 応,金 属 腐 食 現 象 の 解 明 と防 止,界 面 反 応 の 特 徴 を活 か した 各 種 表 面 処 理,生 体 内 で の電 気 化 学 的 現 象,各 種 化 学 セ ン サ な どが あ る. この よ う に,電 気 化 学 とそ の 応 用 分 野 が 重 要 性 を増 しつ つ あ る今 日,若 い学 生 諸 君 や 電 気 化 学 を初 め て学 ぶ 非 化 学 系 の方 々 に と って,本 書 が い さ さか で もお役 に立 て る こ とを願 っ て や ま な い.
最 後 に,企 画 の段 階か らお世 話 くだ さった朝倉 書店編集部 の方々 に深謝 の意 を 表 す る.
2003年10月 執筆 者 を代表 して 美 浦
隆
目
次
1. 電 気 化 学 の 基 礎
〔美 浦
隆 〕 1
1.1 電 気 化 学 系 の 全 体 像
1
1.1.1 電 気 化 学 系 を構 成 す る2つ の電 極 系
1
1.1.2 電 極 系 の構 成 要 素:電
子 伝 導 体 とイ オ ン伝 導 体
1.1.3 電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ:2つ 1.1.4 電 気 化 学 セル:2つ
2
の誘電性界面
2
の反応性界面
3
1.1.5 電 気 化 学 系 の定 常 動 電 と非 定 常 動 電
5
1.2 電 気 化 学 系 の 熱 力 学
5
1.2.1 化 学 熱 力 学 の あ ら ま し
5
1.2.2 電 気 化 学 系 へ の拡 張:電 気 化 学 熱 力 学
8
1.3 誘 電 性 界 面 付 近 の静 電 状 態
10
1.3.1 電 気 二 重 層:界 面 両 側 に対 立 す る正 負 の 過 剰 電 荷
11
1.3.2 電 子伝 導 体 側 の過 剰 電 荷
11
1.3.3 イ オ ン伝 導 体 側 の 過 剰 電 荷
12
1.3.4 電 極 系 の 静 電 位 差 とそ の変 化
14
1.4 反 応 性 界 面 の 静 電 状 態 1.4.1 界 面 を横 切 る電 荷 担 体 の動 的 平 衡:交
16 換電流密 度
16
1.4.2 標 準 水 素 電 極 系 の 基 準 設 置
17
1.4.3 相 対 電 極 電 位 に 関 す る ネ ル ンス トの式
18
1.4.4 ネ ル ン ス トの式 の 意 味
19
1.4.5 空 間電 荷 層 の影 響
20
1.5 伝 導 体 内部 で の動 電 現 象 1.5.1 電 荷 担 体 の運 動 方 程 式 と移 動 度 1.5.2 ア イ ン シ ュ タ イ ンの 関 係 式 と電 気 伝 導 率 1.5.3 電 気伝 導 経 路 の 抵 抗 とジ ュー ル熱 1.6 誘 電 性 界 面 付 近 で の 動 電 現 象
21 21
22 23 24
1.6.1
分 極 性 電 流 の 通 過:過
剰 空間電荷 量の増減
1.6.2
誘 電 分 極 の 限 界:分
1.6.3
分 極 性 電 流 と非 分 極 性 電 流 の 特 徴
24
極 性 界 面 の 降伏
25 26
1.7 反 応 性 界 面 で の 動 電 現 象
26
1.7.1
移 動 電 荷 量 と化 学 種 の 物 質 量 変 化:フ
1.7.2
反 応 関 与 物 質 お よ び電 荷 の 定 常 輸 送
1.7.3
過 電 圧 と三 電 極 法
33
1.7.4
電 子移 動 過 電 圧
34
1.7.5
濃 度過 電 圧
2. 電
池
ァラ デ ー の 法 則
27
35
〔 佐 藤 祐 一 〕 37
2.1 電 池 の 始 ま り
2.1.1
バ グ ダ ッ ド電 池(ホ
2.1.2
ボ ル タ の 電 池 以 降 の歴 史
2.2 電 池 の 構 成,エ
27
37
ー ヤ ッ ト ・ラ ッ プ ア 電 池)
ネ ル ギ ー 密 度 と容 量 密 度
2.3 実 用 化 さ れ て い る 主 な 電 池
37 39 41 43
2.3.1
一 次 電 池
44
2.3.2
二 次 電 池
51
2.3.3
燃 料 電 池
3. 電
58
解
〔 神 谷 信 行 〕 63
3.1 電 解 科 学 の 基 礎 事 項
64
3.1.1
理 論 電 気 量原 単 位
64
3.1.2
理論分解 電圧
66
3.1.3
電極反応速 度
3.2 電 解 プ ロ セ ス,電
解 リア ク タ ー の 特 徴
3.3 水 溶 液 電 解 電
68 72
75
3.3.1
水
解
3.3.2
食 塩 電 解
76
3.3.3
省エ ネルギー型食塩電解 法
78
3.4 溶 融 塩 電 解 工 業
75
78
3.4.1
溶 融 塩 電 解 の概 要
78
3.4.2
ア ル ミニ ウ ム 電 解
79
3.4.3
マ グ ネ シ ウ ム製 錬
80
3.4.4
ナ ト リウ ム製 造
81
3.4.5
有 機 化 合 物 の 電 解 フ ッ素 化
81
3.5 金 属 の 電 解 採 取 ・電 解 精 錬
81
3.5.1
電 解 採 取
81
3.5.2
電 解 精 錬
82
3.6 そ の 他 の 工 業 電 解 プ ロ セ ス
84
3.6.1
電 解 に よ る無 機 化 合 物 の製 造
84
3.6.2
電 解 に よ る有 機 化 合 物 の 製 造
84
3.6.3
表 面 処 理,寸
法加工工業
3.6.4
電 気 浸 透,電
気 透析
4. 金
属
の
腐 食
85 86
〔 奥 山
優 〕 87
4.1 腐 食 の 原 理
87
4.1.1
水 溶 液 腐 食 の2つ
4.1.2
腐 食 電 位
90
4.1.3
電 位-pH図
4.1.4
腐 食 電 位 と腐 食 電 流
92
4.1.5
不
94
4.1.6
環 境 に よ る影 響
働
の タイ プ
87
態
90
96
4.2 局 部 腐 食 と形 態
99
4.2.1
粒 界 腐 食
100
4.2.2
孔
食
100
4.2.3
隙 間 腐 食
101
4.2.4
応 力腐食割 れ
4.2.5
流 動 腐 食
4.2.6
接 触 腐 食
4.2.7
選 択 腐 食
4.3 電 気 化 学 防 食 法
102 102 102 103
103
4.3.1
腐 食 環 境 の調 整
4.3.2
犠牲 アノー ド
4.3.3
カ ソ ー ド防 食
105
4.3.4
イ ンヒビター
105
5. 電 気 化 学 を 基 礎 と す る 表 面 処 理
104
104
〔縄 舟 秀 美 〕 106
5.1 湿 式 め っ き 法 5.1.1
湿 式 め っ き の 目 的 と金 属 の 特 性
5.1.2
め っ き の 目 的 と標 準 電 極 電 位 と の 関 係
5.1.3
電 気 め っ き と無 電 解 め っ き の 原 理
5.1.4
湿 式 銅 め っ き の先 端 分 野 にお け る応 用 例
106
110
電 着塗装 の特徴
5.2.2
カ チ オ ン電 着 塗 装 の 原 理
バ リ ア 型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜
5.3.2
ポ ー ラ ス 型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜
5.3.3
ポ ー ラ ス 型 ア ノ ー ド酸 化 皮 膜 の 電 解 着 色
6. 生 物 電 気 化 学 と化 学 セ ン サ 6.1 生 体 系 に お け る 電 気 的 現 象
121
122 122
5.3 ア ノ ー ド酸 化 5.3.1
111
115
5.2 電 着 塗 装 5.2.1
107
123
124
125 125
〔湯 浅
真 〕 127 128
6.1.1
細 胞 と膜 電 位
128
6.1.2
神 経 細 胞 と活 動 電 位
129
6.1.3
生体 表面で の電気的現 象
131
6.2 生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換 6.2.1
生 体 系 で の エ ネ ル ギ ー 変 換 と は?
6.2.2
呼 吸 と呼 吸 鎖 電 子 伝 達 系
6.2.3
光 合 成 と光 合 成 電 子 伝 達 系
132 132 135 137
6.3 生 物 電 気 化 学 の 応 用 6.3.1
生 物電 気化学計測
6.3.2
生 物 電 気 化 学 的 な サ イ ボ ー グ テ ク ノ ロ ジー
140 140
143
6.3.3
生 物 電 池
6.4 化 学 セ ン サ
付
146
148
6.4.1
セ ン サ と は?
148
6.4.2
イ オ ン セ ンサ
150
6.4.3
ガ スセンサ
152
6.4.4
バ イ オ セ ンサ
154
録
156
参 考 文 献
164
索
引
166
1 電気化学の基礎
基 礎 現 象 の 解 明 を省 い た 応 用,そ
れ は ま さ し く砂 上 の 楼 閣 で あ る.ま ず この 章
で は,電 気 化 学 の 基 礎 概 念 ・事 項 を し っ か り と把 握 して も らお う.わ ず か40ペ ー ジ程 度 に 多 くの エ ッセ ン ス を盛 り込 む の は至 難 で あ った が ,大 学1年
修了程度
の化 学 ・物 理 学 ・数 学 をべ ー ス に,電 気 化 学 系 に登 場 す る い ろ い ろ な現 象 を真 正 面 か ら記 述 した つ も りで あ る.ま た,本 質 的 な理 解 を深 め るた め,既 存 の 教 科 書 で は省 か れ て い る 内容 も あ え て記 述 した の で,す で に他 書 を通 読 さ れ た 方 は違 和 感 を覚 え るか も知 れ な い.な ベ ル で あ るの で,手
お,以 下 で や や小 さ な活 字 を使 用 し た項 はや や 高 レ
に お え な い と感 じる 方 は,と
りあ え ず と ば して読 ん で いた だ
い て も よい.
1.1 電 気 化 学 系 の 全 体 像
まず は,異 な る電 気 の運 び 屋―
電 子 とイ オ ン―
が 協力 しな が ら電 気 を運 ぶ
世 界 に ご案 内 し よ う.電 気 化 学 で 最 も重 要 な 現 場 は電 子 とイ オ ンの 接 点― 系―
電極
で あ り,そ の 接 点 を通過 す る電 流 に は2種 類 が あ る.
1.1.1 電 気 化 学 系 を構 成 す る2つ の電 極 系 電 気 化 学 が 対 象 とす る 系 は,一 般 に 電 子 伝 導 相HL│イ
オ ン伝 導 相BL‖ イ オ ン伝 導 相BR│電
と表 記 され る.以 下 で は,電 子 伝 導 相H│イ 系,2つ
オ ン伝 導 相Bの
子 伝 導 相HR 組 み 合 わ せ を電 極
の 電 極 系 が 対 に な っ た も の を電 気 化 学 系 と呼 ぶ.
イオ ン伝 導 体 ど う し の 界 面‖ の 存 在 は電 気 化 学 系 の 必 要 条 件 で は な い が,‖ が 複 数 存 在 した り,通 過 イ オ ン選 択 性 な どの 機 能 を果 た す 応 用例 も少 な くな い.イ
図1.2 電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ の等 価 回 路
図1.1 電 気 二重 層 キ ャパ シ タの誘 電 分 極
オ ンが 界 面‖ を通 過 す る非 平 衡 現 象 に 関 して は,他 書1,2)を参 照 され た い.
1.1.2 電 極 系 の 構 成 要 素:電 子 伝 導 体 とイ オ ン伝 導 体 電 荷 担 体(=長
距 離 移 動 可 能 な荷 電 粒 子.電 子 や イ オ ン)が 電 場 に よ り移 動 す
る現 象 を電 気 泳 動 と呼 ぶ(1.5.1項).原 自 由 電 子,あ 子,イ
子 核 の 束 縛 を逃 れ て 相 空 間 を 移 動 で き る
る位 置 か ら隣 接 位 置 へ 次 々 に移 動 で き る イ オ ン が 担 体 と な る.電
オ ンが 担 体 の伝 導 体 を そ れ ぞ れ電 子 伝 導 体,イ
使 い(=混
オ ン伝 導 体 と呼 ぶ が,両 刀
合 伝 導 体)も 電 池 活 物 質 や 金 属 腐 食 な どの 舞 台 で 登 場 す る(1.7.2.d).
い ず れ に して も,電 気 化 学 系 の 取 り扱 い は,電 荷 担 体 の 明 確 な 区別 か ら出 発 す る. 液 体 イ オ ン伝 導 体 の1種 で あ る電 解 質 溶 液 は,こ れ まで 多 くの電 気 化 学 書 で 詳 述 され て きた が,そ
の イ オ ン伝 導 は も と も と物 理 現 象 で あ る.
1.1.3 電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ:2つ 電 気 化 学 系 に 電 流(=以
の誘電性 界面
下 無 指 定 な ら,直 流)が 通 過 す る と き,左 右 の電 極 系
で は誘 電 分 極 また は化 学 変 化 が 起 こる.前 者 の 典 型 例 は,新 エ ネル ギ ー貯 蔵 デ バ イ ス と して注 目 され る図1.1の 電 気 二 重 層 キ ャ パ シ タ で,担 体 が 界 面 を実 際 に横 切 る こ とな く,み か け 上 の 充 電 ・放 電 電 流 が 通 過 す る. 誘 電 分 極 とは,電 場 中 で 正 電 荷 と負 電 荷 の 重 心 が ず れ る現 象 で,極 性 分 子 が整 列 す る配 向分 極,イ
オ ンが 変 位 す る イ オ ン分極,原
子 や イ オ ン に束 縛 さ れ た電 子
が 変 位 す る電 子 分 極 な どが あ る.電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ で は2つ の誘 電 性 界 面 で それ ぞ れ 過 剰 電 荷 が 集 積 す る.電 解 液 の 中 央部 は イ オ ン伝 導 性 で,電 荷 輸 送 に は 寄 与 す るが,誘
電 分 極 しな い.つ
ま り,2つ
の キ ャパ シ タ要 素(=誘
電 性界 面)
図1.3 直 接 電 子 移 動:均
一系
酸化還元反応
図1.4 電 極 を 介 した電 子 移 動:電
衝 突 時 の み 電 子 移 動 が 可 能.
での酸化還元反応
気 化 学 セル
を イオ ン伝 導 経 路 で 結 ん だ 図1.2の 等 価 回 路 で 表 せ る.正 常 な充 電 に 際 して,両 電 極 近 傍 に発 生 す る過 剰 電 荷 が 異 符 号 等 量 の た め,通 常 の キ ャパ シ タ(電 解 コ ン デ ンサ を含 め な い)の 延 長 線 で 「電 解 質 溶 液=誘
電体 」 と誤 解 され や す い が,誘
電 分 極 に 関 わ る電 解 質 溶 液 は 両 電 極 界 面 近 傍 に 限 られ る(1.6.1項).
1.1.4 電 気 化 学 セ ル:2つ
の反応性 界面
a. 均 一 系 の 酸 化 還 元 反 応 一 方,電
流 が 通 過 す る と酸 化 と還 元 の 化 学 変 化 が 起 こ る 電気 化 学 系 が あ り,電
気 化 学 セ ル と呼 ぶ.ま
ず,水 溶 液 中 の イ オ ン種 間 の 電 子 移 動 を例 に,酸 化 還 元 反
応 を説 明 す る.FeCl2とCoCl3水
溶 液 を混 合 す る と,
Fe2++Co3+→Fe3++Co2+
(1.1)
の 変 化 が 自発 的 に起 こ る(図1.3)が,こ 還 元:Co3++e−
れ は レ ドッ ク ス(Redox)反
→Co2+
(1.2)
酸 化:Fe2+→Fe3++e− で,1個
の電 子 がFe2+か
応
らCo3+へ
(1.3) 移 動 す る こ とに他 な らな い.
電 子 は通 常 の 溶 液 中 で不 安 定 な た め,長 距 離 ジ ャ ンプ は不 能 で,電 子 移 動 は ド ナ ーFe2+と
ア ク セ プ タ ーCo3+が
衝 突 し た と き だ け起 こ る.衝 突 の 場 所 は 特 定
され な い の で,均 一 系 の 酸 化 還 元 反 応 と呼 ぶ.電 子 が 自 然 に移 動 す る変 化 で も, 均 一 系 反 応 経 路 の場 合 は,電 子 移 動 の 駆 動 力 を外 部 回路 で 利 用 で きな い.
b. 電 気 化 学 セ ル の 酸 化 還 元 反 応 電 気 化 学 セ ル(図1.4)で
は,Fe2+→Co3+の
電 極A→
導 線L→
電 極Aを
ア ノー ド,還 元 が 起 こ る 電 極Cを
お よびCは,電
電 極C→Co3+と
直 接 電 子 移 動 で は な く,Fe2+→
電 子 移 動 経 路 が 指 定 さ れ る.酸 化 が 起 こ る カ ソー ド と呼 ぶ.電
子 の 経 路A,L
子 伝 導 体 で な けれ ば な らな い.こ の セ ル は
A│FeCl2(aq),FeCl2(aq)‖CoCl2(aq),CoCl2(aq)│C と表 記 さ れ,Lの
(1.4)
途 中 に 電 気 的 負 荷 を は さ め ば,電 子 移 動 の駆 動 力 を 直 接 利 用
し,セ ル に電 気 仕 事 を さ せ る こ とが で き る. セ ル 全 体 の 変 化 は式(1.1)で 電 極Aへ
表 せ る が,左 側 の 溶 液 中 の 電 気 的 中性 条 件 は,
流 出 し た電 子 と等 電 荷 量 の ア ニ オ ンの 流 入(ま
を 要 求 す る.同 様 に 右 側 で は,電 極Cか の 流 出(ま
た は カ チ オ ンの 流 入)が
た は カ チ オ ンの 流 出)
ら流 入 した 電 子 と等 電 荷 量 の ア ニ オ ン
必 要 とな る.隔 膜Dが
も し カ チ オ ンの 移 動
を許 す と,前 述 の均 一 系 反 応 も起 こ っ て し ま う. こ の セ ル は2つ の反 応 性 界 面 を 含 む が,そ る.電 気 回路 図 を描 く人,見 「電 流10Aで
の等 価 回路 は電 池 記 号 た だ1つ
であ
る人 が,電 池 を ブ ラ ッ ク ボ ッ ク ス 化 す るた め だ が,
端 子 電 圧 が0.2V変
化.だ
か ら内 部 抵 抗 は0.02Ω 」 とい う木 を 見
て 森 を見 ず の議 論 が 続 く.本 章 で は セ ル の 開 回路 電 圧,閉
回路 電 圧 の 支 配 因 子 を
明 ら か に す る.セ ル の 開 回路 電 圧 は電 気 化 学 系 の 熱 力 学(1.2.2項)で
議論 され
る. c. 電 子 の 自然 流 と逆 流 導 線Lが
切 れ た ら,A→Cの
回路 の静 電 状 態(=電
電 子 移 動 は 不 能 で,反 応 も停 止 す る.し か し開
荷 静 止 の 状 態)で
Cの 間 で 電 子 は 往 復 で き る.つ
も,Fe2+/Fe3+対
とA,Co2+/Co3+対
と
ま り電 子 移 動 の 平 衡 が 両 界 面 で 成 り立 ち,A-C
間 に は電 子 の位 置 エ ネ ル ギ ー の 差 が 開 回路 状 態 で 存 在 す る. 図1.4の よ う にA-C間 を用 い,A-C間
を導 線 で 結 べ ば,電 子 は 自発 移 動 す る.し か し外部 電 源
に静 電 状 態 以 上 の 電 位 差 を与 えれ ば,電 子 の 不 自然 な逆 流 も可
能 で あ る.こ の と き電 子 は逆 方 向 に移 動 し,化 学 変 化 の 方 向 も反 転 す る.電 気 エ ネル ギ ー を外 部 か ら投 入 す る電 子 逆 流 の典 型 例 は,電 気 分 解 で あ る.電 気 屋 さん が 描 く電 解 槽 の 等 価 回路 は抵 抗1本
だ ろ うが,外 部 電 源 か ら見 た 電 解 槽 の等 価 抵
抗 は非 線 形 で,無 限 大 に 発 散 した り,経 時 変 化 もす る.
1.1.5 電 気 化 学 系 の 定 常 動 電 と非 定 常 動 電 以 上 の よ うに,電 気 化 学 系 内 の動 電(= 電 荷 が 動 く.物 理 学 のcharges
in motion)
現 象 に は電 子 と イオ ンの伝 導 が 同 時 に 関与 す る.電 極 系 界 面 で起 こ るの が,誘 電 分 極 か 酸 化 還 元 変 化 か が 分 岐 点 で,後 者 は重 要 な応 用 分 野 に つ なが る. 動 電 現 象 の考 察 に は定 常(=時
間 に依 存
しな い)と
非 定 常 との区別 が重 要 で あ る
(図1.5).蓄
積 過 剰 電 荷量 に 上 限 が あ る電
図1.5 定 常 電 流 と非 定 常 電 流
気 二 重 層 キ ャ パ シ タ で は,充 電 ・放 電 に よ らず,有
限 の定 常 電 流 を維 持 で き な い.一 方,電 気 化 学 セ ル で は,定 常 的 な反 応
物 搬 入 と生 成 物 搬 出が 両 極 界 面 の 局 所 的 な 反 応 場 で と も に可 能 な ら,有 限 の定 常 電 流 が 通 過 す る.
1.2 電 気 化 学 系 の 熱 力 学
電 気 化 学 系 内 で 起 こ る状 態 変 化 が 誘 電 分 極 で あ っ て も酸 化 還 元 反 応 で あ っ て も,電 気 的 な仕 事 を外 部 回路 と必 ず や り と りす る.こ の 節 で は,電 気 的 な仕 事 が 関 与 しな い 化 学 熱 力 学 を まず復 習 して か ら,電 気 化 学 系 へ の 拡 張 を考 え よ う.熱 力 学 が嫌 い な 方 も,こ の節 を と ば し て し まっ た ら先 へ 進 め な い.い わ ば必 修 項 目 で あ る.
1.2.1 化 学 熱 力 学 の あ ら ま し a. 系 と外 界,系
の状態変化
熱 力 学 で は考 察 対 象 の物 質 群 を系 と 呼 び,系
の 状 態 変 化 に伴 っ て 周 囲 の 外
界 か ら系 へ 移 動 す る 熱 量qと,系
が
外 界 に対 して な す 力 学 的 仕事量wの 関 係 を議 論 す る.今,図1.6の
状 態変
化 を考 え る.化 学 反 応 式 で表 せ ば,
図1.6 状 態変化経路 に依 存す る熱量 と仕事量
(1.5) で,変 化 前 はH2(g)1mol,O2(g)0.5molが 1molで
別 々 に存 在 し,変 化 後 はH2O(l)
T,圧
あ る.化 学 結 合状 態 と分 子 集 合 状 態 だ けで は な く,系 の 物 理 変 数 の 温 度 力Pも
指 定 す る必 要 が あ り,こ の例 で は変 化 前 後 と も298K,1atmで
あ
る. b. エ ネ ル ギ ー保 存 則:内 部 エ ネ ル ギ ー増 加 量,吸 系 の 内 部 エ ネ ル ギ ーUは 化 のΔUは
熱 量,外 界 に な す仕 事 量
化 学 的 ・物 理 的 状 態 で 定 ま る.多
くの 場 合,化
学変
変 化 前 後 の化 学 結 合 エ ネ ル ギ ー の 差 に ほ ぼ等 しい.熱 力 学 第 一 法 則
ΔU=q−w
(1.6)
は エ ネ ル ギ ー 保 存 を表 し,系 が 外 界 か ら吸 う熱 量qと との 差 が 内 部 エ ネ ル ギ ー 増 加ΔUに
等 しい.ΔUは
後 の 状 態 で 一 義 的 に定 ま るの で,(q−w)も
系 が 外 界 に な す 仕 事 量w 変 化 経 路 に は よ らず 変 化 前
変 化 経 路 に よ ら な い が,qとwそ
の もの は経 路 に依 存 す る. c. 仕 事 に対 す る制 限 条 件:変 化 前 後 の 状 態 で 決 ま る仕 事 量 と熱 量 そ こで 第1制
限 条件 と して,系
体 積 仕 事 量 と呼 ぶ)wPVが,仕
の体 積 膨 張 で外 界 に なす 力 学 的 仕 事 量(以
事wの
全量 に 等 しい
w=wPV とす る.wPVは
(1.7)
外 界 の 圧 力Pextに
さか らっ て 系 が膨 張 す る体 積 仕 事
wPV=∫PextdV
で 表 現 で き,Vは さ ら に第2制 事wPVが
(1.8)
系 の 体 積 で あ る. 限 条 件 とし て,体 積Vが
ゼ ロ だ か ら,式(1.6)を
変 化 前 後 で 等 しい とす れ ば,唯 一 の 仕
書 き直 せ ば,
ΔU=qV とな る.qVを でVが
(1.9)
等 容 反 応 熱 と呼 ぶ が,等 容 と はV一
等 し い こ とを 規 定 す る.qVはΔUと
的 に決 ま る(吸 熱 が正,放 別 の 第2制
下,
定 の 経 路 で は な く,変 化 前 後
同様,変
化 前後 の系 の状態 で一 義
熱 が 負 の定 義 に再 度 注 意).
限 条 件 と し て,圧 力Pが
状 態 変 化 前 後 で 等 しい と し,系 の圧 力P
をPextで 置 き換 え る と,式(1.6)は qP=ΔU+PΔV≡
ΔH
(1.10)
と な る.変 化 前 後 の 系 の 状 態 でΔUも 化 に 固 有 な熱 量 で,新 た な 状 態 関 数(=エ
ΔVも
る.P=Pextは
力 学 的 平 衡 条 件 で,wPV最
定 ま るた め,等 圧 反 応 熱qPは
ン タ ル ピ ー)の 変 化 ΔHが
変
定 義 され
大 の可 逆 的 体 積 変 化 を規 定 す る.た
え ば爆 発 の よ う に不 可 逆 的 体 積 変 化 過 程 を含 む な ら,qP=ΔHの
と
関 係 は成立 し
な い. d. 可 逆 的 状 態 変 化 に お け る吸 熱 量 熱 と仕 事 の授 受 に 関 す る 外 界 との平 衡 を 保 ちつ つ,逆 行 可 能 な微 小 ス テ ップ を 重 ね,無 限 長 時 間 で 初 期 状 態 か ら最 終 状 態 に 至 る仮 想 的 な 変 化 経 路 を,可 逆 経 路 と呼 ぶ.可 逆 経 路 で の 熱量qrevも
変 化 前 後 の状 態 で 一 義 的 に定 ま る.
ボ ー ル が 坂 道 を落 下 す る よ うな 有 限 速 度 の 自発 的 変 化 で は,不 可 逆 な 熱 が 系 内 で 発 生 す る.そ の一 例 は分 子 ・原 子 の 移 動 に伴 う摩 擦 熱 で あ る.こ の た め,自 発 的 な不 可 逆 変 化 経 路 で 系 が 外 界 か ら受 け取 る熱 量qirrevは,必
ず
qrev>qlrrev
(1.11)
とな る.こ の不 等 式 は不 可 逆 過 程 の定 義 を与 え,系 が 外 界 へ 放 出 す る熱 量 は 可 逆 過 程 で 最 少 とな る こ とを 示 す. e. 化 学 的 経 路 で の 状 態 変 化 の 自発 性 wPVの みが 関 与 す る 自発 的 不 可 逆 変 化 の 条 件 は,変 化 前 後 でVま しい 状 態 変 化 に対 し,そ れ ぞ れ 式(1.9),(1.10)よ
た はPが
等
り
qrev>qV=ΔU
(1.12)
qrev>qP=ΔH
(1.13)
で 表 現 で き る. こ こで,[エ
ネ ル ギ ー][絶 対 温 度]−1次 元 を もつ エ ン トロ ピ ーS (1.14)
を新 状 態 量 と して 定 義 す る.Sは
エ ネ ル ギ ー で は な く,エ ネ ル ギ ー の 質 を表 し,
系 が 乱 雑 化 す るほ ど増 加 す る.変 化 前 後 の 温 度 がTで
等 しい と き,qrevは
qrev≡TΔS で表 され,ΔSは PとTが
(1.15)
系 の エ ン トロ ピー 変 化 で あ る.
前 後 で 同 一な ら 自発 的状 態 変 化 の条 件 は,式(1.13),(1.15)よ
Δ G≡ ΔH−TΔS0), 発 熱 す る(ΔH0な
変 化 が 自 発 的 で,ΔG=0な
ら ば2つ の状 態 が そ のP,T下
ら逆 方 向 の
で 平 衡 に あ る.
f. 系 が 開 い て い る場 合 の ギ ブズ 自由 エ ネ ル ギ ー 変 化 仕 事 や 熱 に加 え,外 界 との 間 で物 質 の 往 来 も許 す 系 を 開 い た 系 と呼 ぶ.こ 合,た
の場
と えば 新 た に加 わ る物 質 が 先在 物 質 群 に混 合 す るか,単 独 で新 相 をつ くる
か の 問 題 が生 じ る.詳 細 は省 くが,開
い た 系 の 状 態 変 化 の ΔGは,生
成 系 と反
応 系 物 質 群 の 化 学 ポ テ ン シ ャル μ の 総 和 差 (1.17) で,ν は各 物 質 の化 学 量 論 係 数 で あ る.各 物 質 の化 学 ポ テ ン シ ャル は, (1.18) で表 せ,μ1° は標 準 化 学 ポ テ ン シ ャ ル,a1は 単 独 相 を つ くる と き1)で
活 量(=
熱 力 学 的 な無 次 元 化 濃 度.
あ る.任 意 の化 学 変 化 に対 す る ΔGは
(1.19) (1.20)
と書 け る.以 上 が 化 学 熱 力 学 の概 略 だ が,w=wPVの
制 限 条 件 に 注 意 され た い.
1.2.2 電 気 化 学 系 へ の拡 張:電 気 化 学 熱 力 学 a. 電 気 仕 事 の 関 与 電 気 化 学 的 状 態 変 化 で は電 気 仕 事 も関 与 し,w=wPVは は 電 気 仕 事 量:welecがwPVに
適 用 さ れ な い.以 下 で
加 わ る場 合 に限 定 し,電 気 化 学 熱 力 学 な る新 語 で 注
意 を喚 起 す る.な お 光 電 気 化 学 も一 重 要 分 野 だ が,こ
こで は光 エ ネ ル ギー の 関 与
を 除 外 す る.さ てwelecが 加 わ れ ば,系 が外 界 に な す仕 事 量wは w=wPV+welec
(1.21)
と な り,エ ネ ル ギ ー 保 存 則 か ら系 の 吸 熱 量qも Δ S,ΔVで
定 義 され たΔH,ΔGは
時 に,ΔHは b.電
変 わ る.経 路 に よ ら な いΔU,
経 路 に 独 立 だ が,w=wPVの
等 圧 反 応 熱 を意 味 せ ず,ΔGの
制 限 解 除 と同
符 号 も変 化 の 自発 性 を判 定 しな い.
気化 学的経 路での可逆的状態変化
可 逆 的 状 態 変 化 の 条 件 は電 気 化 学 経 路 で もq=qrevだ
か ら,変 化 前 後 が 等 圧 の
場 合,welec,revは 式(1.6)よ
り (1.22)
を 満 た す.qrevはqの
最 大 値 で,ΔUとPΔVは
welec,revは必 然 的 にwelecの 最 大 値 とな る.つ の最 大 値 で,前
経 路 に 依 存 し な い た め,
ま り,右 辺(
)内 はwPVとwelec
後 が 等 圧 かつ 等 温 で あ る電 気化 学 経 路 の状 態 変 化 に対 して , (1.23)
と書 き直 せ る.前 後 が 等 圧 か つ 等 温 の 状 態 変 化 に 対 し,化 学 経 路 の 場 合 ΔGは そ の符 号 しか 意 味 を もた な い が,電 気 化 学 経 路 で は ―ΔGがwelec
,maxに 等 し い.
以 上 の誘 導 過 程 の 「電 気 的 」 仕 事 は 本 質 的 制 限 で は な く,前 後 が 等 圧 か つ等 温 の 状 態 変 化 で な し うる 「非体 積 」 仕 事 の 最 多 量 を―ΔGは
表 し て い る.
c. 電 気 化 学 的 経 路 で の 状 態 変 化 の 自発 性 自発 過 程 の 条 件 は 電 気 化 学 経 路 で もq0の
状 態 変 化 は0<welec<welec,rev,放
熱 量−q>−TΔSな
ら 自発 進 行 す る(典 型 例 は可 逆 電 圧 以 下 で放 電 す る電 池) .−ΔG−TΔSさ
え満 た せ ば 自発 的 で,−welec>−welec
入 さ れ る(典 型 例 は 可 逆 電 圧 以 上 で の 電 気 分 解).電 発 過 程 の 放 熱 量 は最 少 値−TΔS(決
して−ΔHで
状 態変化
,rev>0の 電 気 仕 事 が 投
気 仕 事 の 方 向 に よ らず,自
は な い)よ
り多 い.
d. 電 気 仕 事 量 の 表 記 welecは[電
圧 ×電 荷 貴]ま
た は[電 圧 ×電 流 ×時 間]で
表 せ る.電 気 化 学 系
は2つ の 電 極 系 で構 成 され る の で,電 圧 は左 側 基 準,電 流 は系 内 を左 → 右 と約 束 し,混 乱 を防 止 す る.実 測 さ れ る電 気 化 学 系 の 電 圧Uは,左 由電 子 の フ ェル ミエ ネル ギ ーEFの
右 の電極相 中 の 自
差, (1.24)
で あ る.電 磁 気 学 で は 「電 流 は高 電 位 → 低 電 位 」 と表 現 す る の で,負
の素 電荷
−eを もつ 電 子 の 位 置 エ ネル ギ ーEFの 高 低 と電 位 の 高低 は逆 転 す る. 電 気 化 学 系 は 外 部 電 圧Uextに 系 の 電 圧UでUextを
さか ら っ て電 気 仕 事 を な す(wPVと
類 似)が,
置 き換 え られ れ ば,電 気 仕 事 量 を (1.25)
で 表 せ,Qは
状 態 変 化 の 完 了 ま で に 移 動 す る全 電 荷 量 で あ る.
e. 電 気 化 学 セ ル の 熱 力 学 電 気 化 学 セル の 場 合,電 荷 移 動 方 向 の約 束 は 左側 電 極 系 で 酸化 反 応,右 側 電 極 系 で 還 元 反 応 を 意 味 し(左 右 逆 に書 け ば,セ ル 反 応 が 逆 転:−ΔGとUrevの 号 も反 転),外
部 回 路 の 電 子 移 動 は左 → 右 で あ る.−ΔG>0の
場 合,こ の 電 子 移
動 は 自発 的 で 電 気 仕事 を な す の で,EF,L>EF,RでU>0で 電 荷 量Qは 出 し2H+に
あ る.
反 応 関 与 化 学 種 の 物 質 量 変 化 に 関 係 し,た と え ばH2は2e− 酸 化 さ れ る の で,1molあ
[素 電 荷 × ア ボ ガ ド ロ 数]に mol(i)−1で,状
た り2Fで
等 しい.つ
符
あ る.Fは
ま り,あ る 化 学 種iの1molあ
態 変 化 を 表 す と きのQはnFで,nはiの
を放
ファラ デー定 数 で た り,
反 応 電 子 数 で あ る.
した が っ て,電 気 化 学 セ ル が な し う る電 気 仕 事 量 の 最 大 値welec,revは, (1.26) で 表 せ る が,nFの dQ=const.(全
電 荷 移 動 が 完 了 す る ま で 可 逆 電 圧Urevが
一 定,d(−
ΔG)/
化 学 種 が 単 独 相 を形 成)の 場 合 に は,
nFUrcv=−ΔG
(1.27)
と簡 単 に な る. さ て 「電 位 」 の 用 語 が,電 気 化 学 の 大 き な 混 乱 要 因 で あ る.端 的 な例 を 示 そ う.金 属M1│金
属M2の
接 触 が 平 衡 状 態 に あ れ ば,界 面 を横 切 る電 流 は ゼ ロで,
自由 電 子 の往 来 は均 衡 す る.つ
ま り,M1,M2に
位 置 エ ネ ル ギ ー は両 側 で 等 し い.と ネ ル ギ ー(=仕
事 関 数)が
電 位 差 はな く,自 由 電 子 の 平 均
ころ が,M1とM2で
自 由 電 子 を束 縛 す る エ
異 な る の で,
[全 位 置 エ ネ ル ギ ー]=−[束 と分 離 す れ ば,静 電 位 差(=接
縛 エ ネ ル ギ ー]+[静
触 電 位 差)が
電 的 位 置 エ ネ ル ギ ー]
あ る と表 現 され る.電 子 や イ オ ン の
荷 電 粒 子 集 団 を 扱 う電 気 化 学 で も,そ れ らの 位 置 エ ネ ル ギ ー を化 学 的項 と静 電 的 項 に 分 離 し て議 論 され る.し か し静 電 位 と は,媒 質 と相 互 作 用 しな い仮 想 点 電 荷 に対 して 定 義 さ れ る概 念 上 の 物 理 量 で,相 が 異 な る2点 間 の 静 電 位 差 は 実 測 で き な い.本 章 で は静 電 位 を電 位 と は呼 ば な い こ と にす る.
1.3 誘 電 性 界 面 付 近 の 静 電 状 態
電 子 伝 導 体 と イ オ ン伝 導 体 を接 触 させ た ら,そ の 界 面 は どの よ うな 自然 状 態 に
落 ち 着 くか を考 え よ う.こ の 節 で は,界 面 を横 切 る 電 子 の 移 動 が 許 され な い場 合,つ
ま り自 然 状 態 が電 子 移 動 の 平 衡 で規 定 され な い場 合 を取 り上 げ る.結 論 を
先 に示 す と,電 子 伝導 体 表 面 に対 す る各 イ オ ンの 個 性(た 集 ま りや す い)に
とえ ば ア ニ オ ン の 方 が
よ っ て,界 面 近 傍 の イ オ ン伝 導 体 は 電 気 的 中性 を失 い,過 剰 な
電 荷 を も つ.電 子 伝 導 体 側 で は表 面 付 近 に これ と等 量 で 異 符 号 の過 剰 電 荷 が 対 立 し,界 面 全 体 と し て は電 気 的 に中 性 で あ る.こ の よ うに,最
も 自然 な状 態 で は,
対 立 過 剰 電 荷 量 が 一 般 に ゼ ロで は な い.ま た これ と同 時 に,電 極 系両 側 の 静 電 位 差 を考 え る に は,対 立 過 剰 電 荷 が 界 面 の垂 線 方 向 に どの よ う に分 布 す るか が 重 要 で あ る.
1.3.1 電 気 二 重 層:界
面 両側 に対 立 す る正 負 の 過 剰 電 荷
た と え ば2つ の 白金 電 極 を硫 酸 水 溶 液 に浸 し,左 右 対 称 な電 気 化 学 系 Pt│H2SO4(aq)│Pt を準 備 す る と,同
(1.28)
じ状 態 に あ る両 端 の 白 金 間 に 電 位 差 は な い.し
か し,白 金│溶
液 界 面 に は正 負 の 過 剰 電 荷 が 非 クー ロ ン 的作 用 で 自然 に 対 立 し,そ こ に静 電 位 勾 配 が 生 まれ る.ま た 界 面 で 反 応 が 起 こる場 合,電
子移 動や関与化学種輸 送が過剰
電 荷 の 分 布 領 域 で 行 わ れ る た め,現 象 が 複 雑 化 す る.
1.3.2 電 子 伝 導 体 側 の 過 剰 電 荷 周 期 的 格 子 の 末 端 表 面 原 子 だ け に 許 さ れ る 特 殊 な 電 子 状 態 が 結 晶 に は存 在 す る.こ の 表 面 電 子 状 態 の二 次 元 密 度 が 高 けれ ば,す べ て の 過 剰 電 荷 は表 面 原 子 層 に 収 容 され て 内部 へ 拡 が らず,表 面 電 子 状 態 の 占有 ・非 占 有 だ け で過 剰 電 荷 量 を 議 論 で き る(=帯
電 し た金 属 で も内 部 に電 場 は な い).一 方,電
子 状 態(三
次元)
密 度 が 低 い半 導 体 で は,表 面 電 子 状 態 密 度 も低 く,過 剰 電荷 の一 部 は内 部 へ 拡 が る.ポ ア ソ ン方 程 式 に よ れ ば,電 荷 が 分 布 す る領 域(=空
間 電 荷 層)の 静 電 位 φ
は一 様 で は な い. 電 子 伝 導 体 の過 剰 電 荷 二 次元 密 度σEを,半
導体 も含 め て 一 般 に表 す と,
σE=σS+σSC
(1.29)
で,σSは 表 面 電 子 状 態 中,σSCは 空 間 電 荷 層 中 の 過 剰 電 荷 で あ る.表 面 と内 部 の 静 電 位 差(φS− φE)と σEの関 係 は一 般 に 複 雑 で あ る.例 外 は金 属 や 高 表 面 電 子 状 態 密 度 の 半 導 体 で,φS=φEの
ま ま σEが自在 に 変 化 す る.
図1.7 金 属 結 晶│電 解 質 溶 液 界 面 の イ オ ン種 と溶 媒 双 極 子 (イ メ ー ジ図)
1.3.3 イ オ ン伝 導体 側 の 過 剰 電 荷 界 面 に集 積 す る過 剰 イ オ ン に は各 種 の微 視 的 モ デル が あ るが,直 接 的 な観 察 例 は 知 らな い.液 体 誘 電 体 を電 場 中 で 冷 却 し,電 場 配 向 の ま ま分 子 を凍 結 す る と, 両 面 が 正 負 に帯 電 した 固 体(エ るが,こ
レ ク トレ ッ トと呼 ぶ.永 久 磁 石 に類 似)が 得 られ
れ が 今 後 の ヒ ン トとな るで あ ろ う.
金 属 結 晶│電 解 質 溶 液 界 面 の モ デ ル を 図1.7に 描 い た.① ② 完 全 脱 溶 媒 和 イ オ ン(=特
異 吸 着 イ オ ン),③
完 全 溶 媒 和 イ オ ン,
部 分 脱 溶 媒 和 イ オ ン,④
溶媒
和 に参 加 し な い溶 媒 分 子,が 表 面 付 近 に存 在 す る可 能 性 が あ り,表 面 と接 しな い イ オ ン の 過 不 足 も過 剰 電 荷 量 に関 与 す る.図1.8の ンの 最 近 接 面 を界 面 に 平 行 な面Hと
シ ュ テル ンモ デル で は,イ オ
す る.
a. 空 間 電 荷 に対 す るポ ア ソ ン‐ボ ル ツ マ ン方 程 式 電極 相 表 面 か らイオ ン伝 導体 内部 へ 向か う座 標 をx,過 せ ば,ポ ア ソ ン方程 式 は
剰 電荷 三 次元 密度 を ρ1で表
(1.30) で,ε0は 真 空 の誘電 率,ε は媒 質 の比 誘 電率 で あ る.面Hの
座標 をxH,過 剰 電荷 ゼ ロ
のバ ル クの座標 をx1と す る と,過 剰電荷 の二 次元密 度 σ1は (1.31) で表 せ る. 簡単 の た め,+1価 カ チオ ン と−1価 ア ニオ ンの電 解質 を仮定 す る と,カ チオ ン密 度 N+と アニオ ン密度N− の不均衡 で 生 じる ρ1は,
図1.8 シ ュ テル ン の電 気 二 重 層 モ デ ル 1:溶
媒 配 向 分 極領 域,2:空
二 重 層),3:バ
間 電 荷 領 域(拡
散
ル ク(過 剰 電 荷 密 度 ゼ ロ).
ρ1=e(N+−N−) で あ る.静
電 位
(1.32)
φ が 高 い ほ ど カ チ オ ン は い に く く,ア
ニ オ ン は い や す い が,バ
ル クの
静 電 位 を φ1と し て ボ ル ツ マ ン 分 布 則 を 適 用 す れ ば, (1.33)
(1.34) と 書 け,N1は
バ ル ク に お け るN+,N−
で あ る.ρ1と
ソ ン 方 程 式 と 組 み 合 わ せ れ ば よ い.そ
φ の 関 係 を 表 す これ らの 式 を ポ ア
の ポ ア ソ ン‐ ボ ル ツ マ ン 方 程 式 の 解3)を
著者 が書
き 換 え る と, (1.35)
(1.36) で,uHは
静 電 位 差(φH−
φ1)を
無 次 元 化 す る.電
と 分 母 に ア ボ ガ ド ロ 数 を か け る とRT/F)は,25℃ つ ま り,25℃
に お け るkTは
こ こ で│uH│≪1の
約25meV(25−25で
気 化 学 で よ く 登 場 す るkT/e(分 で 約25mVの
子
電 位 差 に 相 当 す る.
覚 え や す い)の
エ ネ ル ギ ー で あ る.
と き,式(1.35)は (1.37)
と 近 似 で き る.ε0/F・m−1=ε0/C2・J−1・m−1=8.85×10−12,k/J・K−1=1.38×10−23,e/C =1
.62×10−19で
あ り,ε1=80(水
1mol・dm−3),T/K=298の1−1型
の 概 略 値)と
す れ ば,N1/cm−3=6.0×1020(=濃
電 解 質 水 溶 液 に 対 し て,こ
μC・cm−2(=3.6×1013e・cm−2=3.6×10−3e・A−2)と
度
の 式 右 辺 の 平 方 根 は5.9
見 積 ら れ る.
b. 空 間 電 荷 層 の 厚 さ 面Hで
の 静 電 位 勾 配 の ま ま,ど れ だ け溶 液 内 部 へ 進 め ば φ1の静 電 位 に達 す るか を 示
す デ バ イ 長 さLddは,空
間 電 荷 層 の 重 要 なパ ラ メ ー タ で, (1.38)
と定 義 され る.一 方,電
束 線 に 関 す る ガ ウ ス の 定 理 を 適 用 す れ ば, (1.39)
が 得 ら れ,こ
れ らの 式 か ら (1.40)
(1.41) が 導 け る.近
似 式(1.41)は│uH│≪1,│φH−
型 電 解 質 の 密 度N1の
φ1│≪(kT/e)の
平 方 根 に 逆 比 例 す る が,uHに
場 合 に 適 用 さ れ,1−1
は依 存 し な い.こ
表 厚 さ を同 様 に 見 積 る と,濃 度1mol・dm−3でLdd/nm=30と
の空間電 荷層 の代
な る.
c. 固 定 電 荷 と分 布 電 荷 面Hは
ヘ ル ム ホ ル ツ 面 と通 常 呼 ば れ る が,こ
の 面 上 の 過 剰 電 荷 二 次 元 密 度 σHを も し
別 扱 い に す れ ば, (1.42) と書 き直 さ れ,吸
着 の よ う な 非 電 磁 気 学 的 要 因 で 集 積 す る イ オ ン の 過 剰 電 荷 量 も σHに
含 め ら れ る.右 辺 第2項
の 空 間 分 布 電 荷 が 無 視 で きれ ば σ1〓σHで,σHは
電 子 状 態 中 の 過 剰 電 荷 量 に相 当 す る.x>xHの double
layer)と
い の で,注
呼 ば れ,後
電極 相 の表 面
空 間 電 荷 領 域 は 拡 散 二 重 層(diffused
に 登 場 す る 拡 散 層(diffusion
layer)と
きわ め て 紛 らわ し
意 を 要 す る.
1.3.4 電 極 系 の 静 電 位 差 と そ の 変 化 電 極 系 界 面 両 側 の 電 気 的 中 性 条 件 は,も
ちろん
σE=− σ1 で あ る.電
(1.43)
極 相 表 面(平
面 と す る)Sと
面H間
電 荷 の み で 過 剰 真 電 荷 が 存 在 し な い と仮 定 し,ガ
の 領 域(0<x<xH)に
は,分
極
ウ ス の 定 理 を 再 度 適 用 す れ ば, (1.44)
と な る.つ
ま り,こ
の 領 域 を 平 行 平 板 キ ャ パ シ タ と み な す も の で,水
溶 液で水 の
図1.9 電 極 系 の 静 電 位 差 の配 分 #:イ
オ ン伝 導 体 側 の 空 間 電 荷 層(拡
*:電
子 伝 導 体 側 の 空 間 電 荷 層.
散 二重 層),
(a):#な
し,*な
し
(b):#あ
り,*な
し
(c):#な
し,*あ
り (d):#あ
り,*あ
り
比 誘 電 率 をそ の ま ま代 入 す るな らば,ε1/−=78.54(298K)で 界 面 両 側 の 静 電 位 φの 変 化 を一 般 化 し,図1.9に
あ る.
示 した.φ が 非 直 線 的 に 変 化
す る両 側 の 空 間 電 荷 層 は,電 子 担 体 や イ オ ンの バ ル ク密 度 が 高 い と圧 縮 され,界 面 は(a)の
よ う にS−Hの
平 行 板 キ ャパ シ タ に近 づ く.
電 子 伝 導 相 バ ル ク とイ オ ン伝 導相 バ ル ク との 静 電 位 差
(1.45) は絶 対 電 極 電 位 と呼 ば れ る こ とが あ る.し か し このgは,組 で の 静 電 位 差 で,直
接 的 に 実 測 で きな い.静 電 位 差gの
成 が 異 な る二 相 間
絶 対 値 は 不 可 測 だ が,
そ の変 化 量 Δg=−Δ(φS− φE)+Δ(φH− φⅠ) は測 定 ・設 定 で き る.図1.10の
(1.46)
よ う に,電 極 相 が 金 属 の 場 合 は 右 辺 第1項
半 導 体 の場 合 は(か な り注 意 を要 す るが)第2項
を,
を無 視 す るの が 一 般 的 で あ る.
電 極 系界 面 の 微 分 静 電 容 量Cは (1.47) で,2つ
の キ ャパ シ タCE,CIの
直 列 接 続 に あ た る.上 述 の近 似 はCE≫CI(金
属
図1.10 電 極 系 の 静 電 位 差 変 化 の配 分 (b):金
電 極),CE≪CI(半
属 電 極 の典 型例,(c):半
導 体 電 極)と
等 価 で,Δgと
導 体 電 極 の典 型 例
σ の変 化 に 際 して,静 電 容 量 が
小 さ く分 極 しや す い 側 で 大 きな 静 電 位 差 が 発 生 す る.
1.4 反 応 性 界 面 の 静 電 状 態
電 子 伝 導 体│イ オ ン伝 導 体 界 面 を横 切 る電 子 移 動 が 可 能 な ら ば,界 面 の 自然 状 態 は電 子 移 動 の 平 衡 条 件 で規 定 され る.電 子 ピ ッチ ャ ー(還 元 体)と 電 子 キ ャ ッ チ ャー(酸 化 体)の 種 類 に よ って,電
―つ ま りレ ドッ ク ス対 が 何 か―
とそ れ ら の人 口 密度
子 伝 導 体 中 の 自 由電 子 の 平 均 エ ネ ル ギ ー が 決 ま る.平 衡 状 態 で や り
と り され る電 子 の 流 束 が 交 換 電 流 密 度 に対 応 す る.「 酸 化 体 ・還 元 体 の 少 な く と も一 方 は イ オ ン」 と 「電 子 は遠 投 が きか な い の で,界 面 直 近 の 酸 化 体 ・還 元 体 濃 度 が 考 察 対 象 」 の2点
は,是 非 読 み落 と さな い で ほ し い.
1.4.1 界 面 を横 切 る電 荷 担 体 の 動 的 平 衡:交 セ ル(1.1.4項)の
電 極A│Fe2+/3+,電
換電 流密度
極C│Co2+/3+の
ような電 子 ノ ンブ ロ ッ
キ ン グ界 面 を考 え よ う.均 一 系 の場 合 と 同 様 の 理 由 で,Fe2+やFe3+がAの 面 に接 近 した と き だ け電 子 が 移 動 し,遠 投 は で き な い.図1.11の 授 受 に参 加 で き るFe2+,Fe3+の
表
よ う に,電 子
整 列 面 を電 極 面 と呼 び,電 極 相 表 面 と区 別 す る.
両 方 向 の 電 子 移 動 速 度 がi0で 等 し く,正 味 の 電 子 流 束 が ゼ ロ の 平 衡 状 態 を図 1.12に 示 す.i0は
交 換 電 流 密 度 と呼 ば れ,電 子 移 動 速 度 を単 位 界 面積 あ た りの 電
流 値 で 表 した もの だ が,そ
の 大 き さ は 動 電 現 象 の 容 易 さ(1.7.4項)と
外 乱 に対
図1.11 電極 面 の概 念
図1.12電
電 子 移 動 に 参 加 可 能 なR,O
子 移 動 の 平 衡 と交 換 電流密度
の 整 列 面.
す る 電 極 系 の 安 定 度 を 示 す.i0の 大 きい 電 極 系 は,平 衡 か らわ ず か に ず れ た だ け で か な りの反 応 電 流 を生 じ る.1万
人 の乗 客輸 送 が ロ ー カ ル 線 よ り東 海 道 新 幹 線
に とっ てず っ と楽 で あ るの と似 て い る. 酸 化,還
元 方 向 の電 流 密 度i+,i− は,そ れ ぞ れ i+=k+NempNFe2+
(1.48)
i−=k−NocpNFe3+
(1.49)
で 近 似 で き,NempとNocpは 密 度,NFe2+とNFe3+は たk+,h−
電 極 相 表 面 で の空 電 子 状 態 と占有 電 子 状 態 の二 次 元
電 極 面 で の 電 子 ドナ ー とア ク セ プ タ ー の 二 次 元 密 度,ま
は速 度 定 数 で あ る.こ れ は各 電 子 状 態 の エ ネ ル ギ ー分 布 を 考 慮 しな い
近 似 で,詳 細 は他 書4)に ゆず るが,通
常 の電 極 系 界 面 で の 電 子 移 動 は 等 エ ネ ル ギ
ー の 占 有 ・非 占有 状 態 間 で 起 こ り,電 磁 波 の 出入 りを伴 わ な い. 電 極 相 を 金 属 に 限 定 す る と き,NcmpやNocpは
定 数 と さ れ る.ま た 電 極 相 が 半
導 体 の と き は,そ の表 面 ば か りで は な く,ト ン ネ ル 効 果 で 内 部 と行 う電 子 遠 投 授 受 も考 慮 す べ き場 合 が あ る.
1.4.2 標 準 水 素 電 極 系 の 基 準 設 置 セ ル 起 電 力 の 基 準 とな る 左 側 電 極 系 に は,標 準 状 態 の 水 素 電 極 系(安 電 極 相 がH2分 standard
圧1atmの
hydrogen
これ を 左 側,任
気 相 とH+イ
定 な 白金
オ ン活 量 が1の
水 溶 液 相 とに 接 した 系.
electrodeの 頭 文 字 か ら略 称SHE)が
国 際 的 標 準 と され る.
意 の可 逆 電 極 系 を右 側 に お き,た と え ば
(1.50) の セ ル を 構 築 し,実
測 され る可 逆 起 電 力 (1.51)
か ら,任
意 電 極 系 電 極 相Cの
式(1.50)の
フ ェ ル ミ準 位EF,cをEF,Pt基
反 応 を 移 動 電 子 数n=2で
準 で 定 め る.
記 述 す る と,
ア ノ ー ド反 応:H2→2H++2e− カ ソ ー ド反 応:2Fe3++2e−
(1.52)
→2Fe2+
(1.53)
全 反 応:H2+2Fe3+→2H++2Fe2+ で,そ
の−⊿Gは1.2.1.fか
(1.54)
ら (1.55) (1.56)
で 表 さ れ る.α1は
化 学 種iの
活 量,μ1゜ は 標 準 化 学 ポ テ ン シ ャ ル,−⊿G゜
自 由 エ ネ ル ギ ー 減 少 で あ る.標
は標 準
準 水 素 電 極 の 定 義 を も と に 書 き 直 せ ば, (1.57)
で,μH+゜
と μH2゜は と も に ゼ ロ と さ ら に 約 束 す る と,−⊿Gは (1.58)
と な り,右
側 電 極 系 の 酸 化 体 ・還 元 体 の 種 類 と活 量 だ け で 表 現 で き る.
セ ル 反 応 の −⊿Gを1molの る 可 逆 起 電 力Urcvに
電 子 に 対 す る 電 位 差 に 換 算 し た も の が,実
測 され
等 し くな る (1.59)
に は,イ
オ ン 伝 導 体 間 の 界 面‖ に 静 電 位 差 が あ っ て は な ら ず,Urcvの
計測 機器
が 十 分 に 大 き い 入 力 抵 抗 を も つ こ と も必 要 で あ る.
1.4.3 相 対 電 極 電 位 に 関 す る ネ ル ン ス トの 式 さ て,右
側 の 電 極 系 で の 還 元 反 応 を よ り一 般 的 に カ ソ ー ド反 応:xO+ne−
と 書 け ば,移
動 電 子nmolに
→yR 対 す る −⊿Gは
(1.60)
(1.61) で 表 さ れ る.左
側 にSHEを
お い た セ ル のUrevを,右
側 電極 系の可逆電極電位 (1.62)
と定 義 す る と,上
の式 か ら (1.63)
(1.64) が 導 か れ,Erevは 呼 ば れ るE゜
酸 化 体 と還 元 体 の 活 量ao,aRの
はao=aR=1の
関 数 と な る.標
と き のErevで,電
準電極電位 と
極 系 の 固 有 値 で あ る(付
録A参
照). 標 準 水 素 電 極 は 取 り扱 い や 維 持 が 容 易 で は な い た め,実 基 準 電 極 系(参
照 電 極 と も 呼 ぶ.付
録B参
照)を
際 の 測 定 に は他 の 第 二
用 い る こ と が 多 い.
1.4.4 ネ ル ン ス トの 式 の 意 味 式(1.63)は
熱 力 学 的 に 導 か れ た が,図1.13の
よ う に,電
子 を 収 容 し た い 酸 化 体O
が 増 え,電
子 を 放 出 し た い還 元 体Rが
減 る と,電 子 移 動 平 衡 を保 つ に は 電 極 相 のEFを
下 げ,Oへ
の 電 子 供 給 を 抑 制 し てRか
ら の 電 子 収 納 を促 進 す る必 要 が あ る.EF低
下 は
Erev上 昇 と等 価 で あ る. 他 書5)で す で に 指 摘 さ れ た が,電
子 伝 導 体 中 の 自 由 電 子 と 同 様 に,R/Oレ
系 中 に保 持 さ れ る反 応 関 与 電 子 に 対 して もフ ェル ミ-デ ィ ラ ッ ク 統 計
図1.13 電極面上 での酸化体 ○/還元体○ 濃度比 による電極相EFの 変 化
ドックス
(1.65)
が 成 り立 っ こ と を,ネ
ル ンス トの 式 は 示 し て い る.こ
状 態 を 電 子 が 占 有 す る確 率 で,f(EF)=0.5で の 分 母 は,kTで
は な くRTと
簡 単 の た め,RとOの 態,Oは
電 子n個
し,電
こで,f(E)は
あ る.エ
子1molに
つ い て 表 記 し て い る.
化 学 量 論 係 数 は い ず れ も1と
が 空 で あ る 状 態 と考 え る.電
占有 状 態 の 密 度 がnaRに
エ ネ ル ギ ーEの
ネ ル ギ ー を 無 次 元 化 す るexp項
し,Rは
電 子n個
を所 有 す る状
子 の 全 状 態 密 度 がn(ao+aR)に,電
子
正 比 例 す る な ら ば, (1.66)
と書 け,こ
れ を 式(1.65)に
代 入 す れ ば, (1.67) (1.68)
を 得 る.ao=aRの
と き のEFをEF゜
と お い て,Eを
消 去 す る と, (1.69)
と な り,ao/aR(近
似 的 にO/R濃
度 比)に
に 対 す る 電 位 変 化 に換 算 す れ ば,ネ
よ るEFの
変 化 を表 す.こ
ル ン ス トの 式(1.63)と
れ をnmolの
電子
同 形 に な る.
1.4.5 空 間 電 荷 層 の 影 響 電 子 移 動 に 関 わ る の は,電 極 相 表 面 近 傍 のRやOに ら の 存 在 位 置 を ヘ ル ム ホ ル ツ面H上 は 面H上 R,Oの
の 値 で,バ
と仮 定 す れ ば,ネ
限 定 さ れ る.し た が っ て,そ
れ
ル ン ス トの 式 中 の 活 量 比aO/aR
ル ク に お け る値 で は な い.
少 な く と も一 方 は イ オ ン種 で,か
位 が バ ル ク φ1と面H上〓
つ 同 価 数 イ オ ンで は あ り得 な い た め,静
で 異 な る場 合 に は,ao/aRも
と え ばRが+2価,Oは+3価
の カ チ オ ン で,そ
バ ル ク と面H上
電
で 異 な る.た
れ らの 活 量 が (1.70) (1.71)
の 関 係 に した が う な らば(=電
気 化 学 ポ テ ン シ ャル の 仮 定), (1.72)
が 導 か れ るが,両
辺 の(3−2)は
荷領 域 が 拡 が る 場 合 も,〓
移 動 電 子 数nに で 決 ま るEFに
ao.I/aR,Iか ら形 式 的 に算 出 さ れ るEFに い る.つ
一 般 化 さ れ る.面Hの 静 電 位 差(φH−
等 し く な る こ とを,式(1.69),(1.72)は
ま り,拡 散 二 重 層 の 存 在 はEFやErevに
影 響 しな い が,ao
外側 に空間 電
φI)Fを 加 味 す れ ば, 示 して
,H/aR,Hを 変 化 させi0
に は影 響 す る.電 極 相側 に空 間電荷 領域 が存 在 す る場 合 も,ま った く同様 で あ る.
1.5 伝 導 体 内 部 で の 動 電 現 象
い よ い よ電 荷 が 一 方 向 に移 動 す る現 象 を述 べ よ う.こ の 節 で は,電 子 伝 導体 や イ オ ン伝 導 体 の 内 部 にお け る電 荷 担 体 の移 動 現 象 を ま と め た.元 来 は100%物 学 の ジ ャ ン ル で あ ろ うが,電
理
気 化 学 に とっ て も重 要 な事 項 を含 ん で い る.
1.5.1 電 荷 担 体 の 運 動 方 程 式 と移 動 度 ビル 屋 上 か らパ チ ン コ玉 を落 とせ ば,空 気 抵 抗 力 は ほ ぼ 無 視 で き,地 面 ま で の 大 半 は等 加 速 度 落 下 す る.質 量mと
半 径 γ の比(m/γ)が
小 さ い ピ ン ポ ン玉 な
ら,空 気 抵 抗 力 の た め 大 半 は等 速 度 落 下 す る.電 場 中 で の 電 子 や イ オ ン の運 動 は ピ ンポ ン玉 落 下 に類 似 で,位 置 に よ らな い 一様 な電 場 が 伝 導体 に印 加 され る と, 電 荷 担 体 は最 初 加 速 され る が,周 囲 か らの 抵 抗 力 が 増 加 す る と等 速 度 運 動 に入 る. 重 力 場 の 影 響 を無 視 し,x軸 電zeの
方 向 の一 様 な電 場 強 度 をVと
し て,質 量m,荷
坦 体 粒 子 の 運 動 方程 式 を書 け ば, (1.73)
で あ る.左 辺 第1項
は 電場 か ら受 け る駆 動 力,第2項
は速 度 に 正 比 例 して 媒 質 か
ら受 け る抵 抗 力 だ が,速 度 が 上 昇 し て こ れ らが つ り あ う と,加 速 度 は ゼ ロ と な り,等 速 度 の 定 常 運 動 に 至 る.こ の とき,坦 体 の 定 常 速 度 は (1.74) で 表 せ,V,zと
抵 抗 力 の 係 数Yで
決 ま る.定 常 速 度 をVで
割 る と,
(1.75) で 泳 動 の 移 動 度(=ド
リ フ ト移 動 度)uが
流 体 中 の イ オ ン に 対 す る 係 数Yは,流 Y=6π で 表 さ れ,ス
定 義 で き る. 体 を か き わ け て 進 む 球 モ デ ル か ら,
ηγ トー ク ス 式 と 呼 ぶ(π:円
(1.76) 周 率).流
体 の 粘 性 率 η が 高 い ほ ど,イ
オ ン半 径rが
大 き い ほ ど移 動 度uは
低 下 す る.固 体 中 を泳 動 す る 自 由電 子 や イ
オ ン の場 合 は,構 成 原 子 や 他 イ オ ン との 衝 突 で 高 速 度 ほ ど跳 ね 返 され や す くな る.ま た 高 温 ほ ど格 子 振 動 が 激 しい の で,自 由 電 子 の移 動 度 は低 下 す る. 2階 常 微 分 方 程 式(1.73)を
時 間tで1回
積 分 し,初 速 度 を ゼ ロ とお く と, (1.77)
を得 る.exp項
を無 次 元 化 す る非 定 常 運 動 の 時 定 数 τは, (1.78)
で,こ
の時 定 数 以 内 に電 場 自体 が 変動 す れ ば,定 常 運 動 に至 らず,オ
ームの法則
も適 用 で きな い.水 溶 液 中 の イ オ ン伝 導 に対 す る オ ー ム の 法 則 の上 限 周 波 数(= 1/τ)を,便
覧 デ ー タ か ら見 積 も られ た い.mは[エ
ネ ル ギ ー][速 度]−2次 元 で
あ る.
1.5.2 ア イ ン シ ュ タ イ ンの関 係 式 と電 気 伝 導 率 電 流 はゼ ロ だ が,荷 す る場 合,静
電zeを
もつ 担 体 の 密 度Nと
静 電 位 φがx軸
電 位 置 エ ネ ル ギ ー に 関 す る ボル ツ マ ン則 で 密 度Nを
方向 に変化
表 せ れ ば, (1.79)
で,N0は
φ=0の 基 準 点 で の 担 体 密 度 で あ る.Nの
勾配 (1.80)
は,無 次 元 化 静 電 位zeφ/kTの
勾 配 とNの
積 に 等 し い.担 体 が 濃 度 勾 配 で 拡 散
す る際 に運 ぶ 電 流 密 度idiffは,フ ィ ック の第 一 法 則 か ら (1.81) で 表 せ,Dは
そ の(自 己)拡 散 係 数 で あ る.こ れ らの 式 か ら, (1.82)
を得 る.一 方,担 体 が 静 電 位 勾 配 で泳 動 す る際 の電 流 密 度imlgは (1.83)
だ か ら,idiff+imlg=0で
電 流 ゼ ロ の と き,ア
イ ン シ ュ タ イ ン の 関係 式 (1.84)
が 導 け る.こ
の 式 は,φ
とN(厳
密 に は 化 学 ポ テ ン シ ャ ル)が
場 で,担
体 の 静 止 条 件 を 規 定 す る.z=+1の
cm−3)で
存 在 す る な ら,電
と も に変 化 す る
担 体 が1mol・dm−3(密
位 勾 配+25mV・dm−1が
度6×1020
濃 度 勾 配−1mo1・dm−4と
つ
り あ う(25℃). 電 荷z1e,移
動 度u1の
担 体iが
密 度N1で
共 存 す る と き,伝
導 率κ は 一 般 に (1.85)
で表 され る.こ れ は各 担 体 の 独 立 泳 動 の仮 定(=電 シ ュの イ オ ン独 立 移 動 則)を
含 む が,電
解 質 溶 液 の場 合,コ
ール ラウ
気 伝 導 や 拡 散 な どの 不 可 逆 輸 送 現 象 で
は,各 流 束 の相 関 関 係 も議 論 の 対 象 とな る(た
とえ ば,文 献6)参 照).
1.5.3 電 気 伝 導 経 路 の 抵 抗 とジ ュー ル 熱 伝 導 率 κの 電 気 伝 導 体 が 電 流 通 過 断 面積A,距
離Lの
形状 を もつ な ら, (1.86)
で,そ
の 電 気 抵 抗Rを
簡 単 に表 せ る.し か し電 解 液 の 伝 導 経 路 でAが
は む し ろ例 外 で あ る.Aが
一 定 で な く と も通 過 距 離 の 関 数 で 表 せ れ ば(同 心 二
重 円筒 面 間,異 面 積 の 平 行 平 面 間 な ど),Rを オ ー ム の 法 則 に よれ ば,抵 抗Rの 端 に電 圧IRが りI2Rの
一定 なの
積 分 で 求 め られ る.
経 路 に電 流Iで
電 荷 を移 動 させ る に は,両
必 要 で,電 気 伝 導 の た め に貴 重 な 電 気 エ ネ ル ギ ー が 単 位 時 間 あ た
ジ ュ ー ル 熱 に変 わ る.IかRを
小 さ くす れ ば,こ
ジ ュ ー ル 熱qJは 電 気 化 学 系 が 放 出 す る不 可 逆 熱(1.2.2.c)の
の損 失 を抑 制 で き る. 一 部 に す ぎ な いが,
そ の 発 生 速 度 は各 伝 導 経 路iの 抵 抗 をRiと す る と, (1.87) で 表 せ る.qJ抑
制 の た め にIを
と え ば,ソ ー ダ電 解 槽 でIを50%に
小 さ くす る と,工 業 上 は経 済 的 損 失 を生 む.た
約50%に
な り,NaOH1tあ
す る と,単 位 時 間 あ た りのNaOH生
産量も
た りの 人 件 費 や プ ラ ン ト償 却 費 は 約2倍
に増 加 す
る.不 可 逆 的 な 放 出熱 の抑 制 や 有 効 利 用(一 部 の燃 料 電 池 で は温 水 併 給 で実 施)
は,高 電 力 料 金 のわ が 国 にお け る電 気 化 学 工 業 で は と くに重 要 で あ る.
1.6 誘 電 性 界 面 付 近 で の 動 電 現 象
この節 で は,電 子 移 動 反 応 が 起 こ り得 な い界 面 に通 過 す る電 流 を考 え よ う.こ の 種 の 電荷 輸 送 は,界 面 で 対 立 す る 過剰 電 荷 の 変 化 を必 然 的 に もた らす.「 過 剰 電 荷 量 の 上 限 に よ り定 常 電 流 は ゼ ロ」 と 「過 剰 電 荷 量 の 制 限 を オ ーバ ー す れ ば, 電 子 移 動 を伴 う破 壊 現 象 が 起 こ る」 の2点 が キ ー ポ イ ン トで あ る.
1.6.1分
極 性 電 流 の通 過:過
剰 空 間 電 荷 量 の増 減
誘 電 性 界 面 に通 過 す る電 流 は,自 然 浸 漬 状 態 で先 在 す る界 面 過 剰 電 荷 量 を増 減 させ,図1.14の
よ う な誘 電 分 極 を引 き起 こす.単 位 面 積 あ た りCの
微分 静電容
量 を もつ 界 面 に,一 定 電 流 密 度iを 与 え た とき の応 答 は,式(1.47)か
ら (1.88)
で 表 せ,C一
定 の範 囲 内 で は,絶 対 静 電 位 差g(≡
的 に変 化 す る.不 可 測 なgを
φE−φI)が 時 間tに 対 し直 線
可 測 な 相対 電 極 電 位Eで
置 き換 え る と,
E−Epzc=g と書 け るが,左
(1.89)
辺 のEpzcは
え る無 電 荷 電 位(potential 1)自 然浸 漬 状態 電極表面に正電荷
charge)で,静
of
zero
電容量や界面 張力 な
どの 測 定 で実 験 的 に 決 定 で きる. 自然 浸 漬 電 位Espか
2)分 極 途 中状 態 非帯電.Epzc
σ=0を 与
電 位Eに
ら別 の あ る電 極
保 持 す る と,分 極 性 電 流 密
度は
3)外 部 分 極状 態 電極表面に負電荷
(1.90) の よ う に,時 間tに 対 し て指 数 関 数 的
図1.14 金 属│電 解 質 溶 液 界 面 に お け る誘 電 分極 過程 の一 例(電 〓 :溶 媒 双 極子,*:空 重 層).
流 方 向 ←)
間 電荷 領 域(拡
散二
に 減 少 す る.こ
こで,Rは
こ の電 極
系 の等 価 直 列 抵 抗 で,CRは
非 定常電
流 の 時 定 数 に あ た る.次
項 に 述 べ る 理 由 か ら,誘
電 性 界 面 に お け る動 電 現 象 は す
べ て 非 定 常 的 な も の と し て 取 り扱 うべ き で あ る .
1.6.2 誘 電 分 極 の 限 界:分 静 電 容 量Cの
極 性 界 面 の 降伏
通 常 の キ ャ パ シ タ を 電 圧Uま
電 体 に蓄 え られ た 静 電 エ ネ ル ギ ーEPolは,そ
で 充 電 し た と き,分 極 電 荷QPolと
誘
れ ぞれ (1.91) (1.92)
で 表 され るが,U,Qpol,Epolに 分 子,不
は上 限 が あ る.図1
電 子 な だ れ),絶 シ タ 内 部 にEpolが
放 出 さ れ,不
可 逆 的 な構 造 変 化 を 招 く. も上 限 が あ り,本 来 は 誘 電 性 の 電 極 系 界 面 が,非
極 性 電 流 の 通 過 を許 し始 め る.図1.16の の 界 面 に つ い て 独 立 で,負
極 表 面 の 蓄 積 電 子 が 電 解 液 側 へ しみ 出 し た り,電 子
元 ・酸 化 が 起 こ る.「 正 極 付 近 の 集 積 ア ニ オ ン が 酸 化 さ れ,負 還 元 さ れ る 」 とは 限 ら ず,そ
れ 以 外 の 化 学 種(溶
図1.15 誘 電 体 結 晶 の 降 伏:電 子 点 の価 電 子,○:正
分
よ う に,過 剰 電 荷 の 集 積 を 妨 げ る こ の 降 伏 現
が 枯 渇 した 正 極 表 面 に 電 解 液 側 か ら電 子 が し み 入 っ た り して,電
●:格
電 体 の 構 成 原 子,
れ らが 玉 つ き移 動 し(=
縁 破 壊 の 電 子 電 流 が 通 過 す る.両 極 の 蓄 積 電 荷 の 中 和 に際 し て キ ャパ
電 気 二 重 層 キ ャパ シ タ のEpolに
象 は2つ
.15の よ うに,誘
可 動 イ オ ンが 強 電 場 に 耐 え きれ ず 電 子 を 放 出 し て,そ
子 なだ れ 電 流 孔
電 子 と正 孔 の対 は ね ず み 算 式 に増 加.
解 液 中の 化 学種 の還
極 付 近 の 集 積 カ チ オ ンが
媒 な ど)が 対 象 で も よ い が,電
図1.16 分 極 性 界 面 の 降 伏: 還元電流 の とき 負 に帯 電 した 電 極 相 表 面 か ら 電 子 が 飛 び 出 し,何
らか の化
学 種(過 剰 な カ チ オ ン と は限 ら な い)を 還 元.
解液 中
央 部 に は電 子 電流 で は な くイ オ ン電流 が通過 す る.
1.6.3 分 極 性 電 流 と非 分 極 性 電 流 の特 徴 以 上 の よ う に,電 極 系界 面 で の動 電 現 象 で は,対 立 過 剰 電 荷 量 を増 減 さ せ る誘 電 分 極 性 電 流 と,反 応 を伴 う非 分 極 性 電 流 との 明 確 な 区 別 が 必 要 で あ る.重 要 な 点 は,①
界 面 が 誘 電 性 を保 つ 限 り非 分 極 性 電 流 は通 過 し な い が,反
は分 極 性 電 流 も一 部 通 過 す る,② ず,イ
オ ン もあ り う る,③
極 系 が と もに 非 分 極 性,と
応性界 面 で
非 分極 性 界 面 を横 切 る 坦 体 は 電 子 に 限 定 さ れ
実 用 は さ て お き電 荷 輸 送 だ け を 考 え る と,左 右 の電 も に分 極 性 で あ る 必 要 は な い.
「非 」 が 逆 に つ くが,誘 電 分 極 性 電 流 を非 フ ァ ラ デ ー 電 流(in−F),非 分 極 性 電 流 を フ ァ ラ デ ー 電 流(iF)と
も呼 ぶ.誘
電 性 界 面 で の 過剰 電 荷 量 に は上 限値 が あ る た め,図1.17の
模式 図 の よ うに通 過
す るin−Fの 定 常 値 は ゼ ロ で,時 間 依 存 性 の 非 定 常 成 分 だ け か らな る.一 方,反 応 性 界 面 で はin−Fの ほ か にiFも 通 過 で き,反 応 が 定 常 的 に進 行 可 能 な らiFは 有 限 の 定 常 値 を も つ(iF=非 +定 常 成 分).主
定常成分
要応 用 分野 の電解 槽 や
電 池 な どは,左 右 と も に定 常 進 行 可 能 な 反 応 性 界 面 で 構 成 さ れ る.
図1.17 電 極 系 を通 過 す る非 フ ァ ラ デ ー電 流(in−F)と
フ ァ ラデ ー 電 流(iF)
1.7 反 応 性 界 面 で の 動 電 現 象
つ い に電 気 化 学 の メ イ ンテ ー マ にた ど りつ い た.電 子 移 動 反 応 が 起 こる反 応 性 界 面 で の 通 過 電 流 に対 して は,電 荷 収 支 の み な らず 反 応 関与 物 質 の 収 支 も考 慮 す る必 要 が あ る.反 応 に 関 与 す る の は,一 般 に 電 子 とイ オ ン と非 イ オ ン で あ り, 「電 子 は伝 導 電 子,イ る泳 動(電
オ ン は伝 導 イ オ ン」 と は限 ら な い.物 質 輸 送 の 駆 動 力 で あ
子 とイ オ ン の み),拡
散,対 流(流 体 相 中 の み)の 働 き を,1.7.2項 で
注 意 深 く読 み取 って ほ しい. な お この 節 で は,時 間tも 考 慮 す べ き非 定 常 な輸 送 現 象 を割 愛 した.
1.7.1 移 動 電 荷 量 と化 学 種 の 物 質 量 変 化:フ 反 応 性 界 面 を通 過 す る電 荷 量Qと
ァラ デ ー の 法 則
関 与 化 学 種 の物 質 量 変 化⊿Mと
が正 比例 す
る とい う フ ァ ラ デ ー の法 則 は
(1.93) と書 け る.こ
こで フ ァ ラ デ ー 定 数Fは1molの
mol(e−)−1),ま
たnは
その 物 質1molあ
この 式 は フ ァ ラ デ ー電 流(定 して 成 立 し,電 流Iが
電 子 が もつ 電 荷 量(=96.5kC・
た りに移 動 す る電 子 のmol数
で あ る.
常 で な くて も よ い)を 時 間tで 積 分 した 電 荷 量 に対
非 フ ァ ラデ ー 成 分 を含 む場 合 に は適 用 で き な い.
1.7.2 反応 関 与 物 質 お よ び 電 荷 の 定 常 輸 送 電 極 系 で の 反 応 の進 行 に は,伝 導 電 子 → 反 応 電 子 ⇒ 反 応 関 与 イ オ ン→ 伝 導 イ オ ン(ま た は そ の 逆)の 電 荷 リレ ー と同 時 に,リ 関 与 非 イ オ ン種 も含 め た物 質 輸 送)も 図1.18に 描 い た が,こ
レー ラ ンナ ー のや り く り(=反
応
要 求 され る.最 も 単純 な反 応 の 進 行 過 程 を
れ は反 応 性 界 面 へ の 反 応 物 の 搬 入,電 子 移 動,反 応 性 界
面 か らの生 成 物 の搬 出 の 素 過 程 か らな る.一 般 に は,電 子 移 動 に先 行 また は後 続 す る化 学 反 応 や 吸 着 ・脱 着 な どの 過 程 も含 まれ る.界 面 電 子 移 動 に あ た る矢 印 ⇒ の 議 論 は後 回 し とし,こ
こで は そ れ以 外 の 輸 送 現 象 を 述 べ る.
関 与 物 質 の 輸 送 場 は反 応 性 界 面 に接 す べ きだ が,非
イ オ ン種 の輸 送 場 だ け は,
電 子 伝 導 相 や イ オ ン伝 導 相 に 限 らず 第3 の相 で も よい.つ 立 な気 相,液
ま り,両 伝 導 相 と は独
相,固 相 を含 ん だ 三 相 界 面
1)は じめ
2)反 応 物 の移 動
の 電 極 系 もあ りう る.関 与 物 質 の輸 送 が 遅 れ,時
間 と と もに反 応 場 で 反 応 物 が 不
3)電 子 の移 動
足 し,生 成 物 が 蓄 積 さ れ る と,反 応 の 進 行 が 阻 害 され る.時 間 を考 慮 す べ き非 定
4)生 成物の移動
常 輸 送 現 象 は 除 外 し,以 下 で は定 常 輸 送 を考 え る.ま た,関 与 物 質 濃 度 に勾 配 が 生 じ る領 域 を輸 送 層 と定 義 す る.
5)お わ り
図1.18 最 も単 純 な電 極 反 応 の 進 行(素
過 程)
電 子 移 動 に先 行 ・後 続 す る化 学 反 応 過 程 な し.
なお 反 応 電 子,反
応 関 与 イ オ ンが 唯 一
の 電 荷 担 体 で もあ る場 合 に は,そ れ ぞれ 反 応 電 子 と伝 導電 子,反 応 関 与 イオ ン と 伝 導 イオ ン の 区別 は不 要 とな る.反 応 関 与 物 質 群 の輸 送 駆 動 力 は一 般 に拡 散 と泳 動 で あ るが,各 物 質 の移 動 が 互 い に独 立 な 限 り,非 イ オ ン種 の輸 送 に 静 電 位 勾 配 図1.19p型
半導体電極相への伝導帯電子
(少 数 電 荷 担 体)の
注入(係
は関 係 しな い.
数b》1)
a. 反 応 関 与 電 子 の 輸 送 層 半 導 体 電 気 化 学 を 詳 述 す る紙 数 の 余 裕 は な い が,半 子 帯 正 孔h+が 費 が,そ
区 別 さ れ る.こ
反 応 を 図1.19に %,左
れ ら電 荷 担 体 間 の 熱 的 平 衡 を 乱 す よ う な 担 体 の 生 成 や 消
の 表 面 で 進 行 す る場 合 に,以
p型 半 導 体(内
端 面PEで
e−,PEで
部 でh+の 描 い た.表
合 が 起 こ る.実
下 の考 察 が 必 要 とな る.
輸 率 が1)表
面 で,伝
面 の 輸 送 層 右 端 面SEで
はh+が100%の
右 向 き に100h+の
導 体 中 で は 伝 導 帯 電 子e− と価 電
導 帯 へ 少 数 担 体e− が 注 入 され る酸 化 は,非 平 衡 な 高 濃 度 に あ るe− が100
電 荷 を 輸 送 す る.単 位 時 間 あ た りSEで
左 向 き に100
定 常 流 束 が あ れ ば,輸 送 層 内 で は100(e−+h+)の
電 子再 結
在 粒 子 の 電 子 が 消 滅 す る の で は な く,表 面 で 注 入 さ れ た 非 平 衡e− は,
寿 命τe−が つ き る と低 エ ネ ル ギ ー 安 定 状 態(=h+)に
遷 移 し,電 荷 輸 送 は 継 続 さ れ る.
h+の 右 移 動 はe− の 左 移 動 に相 当 す る. SEで 注 入 さ れ たe− の 平 均 拡 散 距 離Le− は,そ
の 拡 散 係 数 をDe− とす る と, (1.94)
で 表 せ る.左 向 き の 位 置 座 標 をxと
し,x=Le−
で のe− 濃 度Ce− を ゼ ロ と近 似 す れ ば,
輸送 層 内 での平 均濃 度 は (1.95) と書 け,Ce−,0はSEで
のe− の 定 常 濃 度 で あ る.さ
うe− の 拡 散 流 束 が,定
常 反 応 電 流 密 度iに
ら に,フ
ィ ッ ク の 第 一 法 則 に した が
相 当 す る な ら ば, (1.96)
とな る.Ce−,0はiに さ い ほ ど,そ
正 比 例 す る が,再
結 合 速 度 が 低 くて τe− が 長 い ほ ど,ま たDe− が 小
の 比 例 係 数 が 小 さ くな る.以
上 と は 逆 に,e− が 表 面 か ら引 き 抜 か れ る還
元 反 応 の 場 合 は読 者 の 課 題 とす る. b. 反 応 関 与 化 学 種 の 輸 送 層 今,還 の反応 を
元 体Rl,酸
化 体Okの
化 学 量 論 係 数 を そ れ ぞ れvi,vkと
し,電
極 系で
(1.97) と 書 く.上
述 の よ う に,Rl,Okの
な く と も1つ
は イ オ ン 種 で,イ
う ち少 オ ン伝 導 相
に 存 在 す る.非
イ オ ン 種 は イ オ ン 伝 導 相,
電 子 伝 導 相,別
の 第 三 相 の いず れ に存 在 し
て も よ い.各 す れ ば,電
化 学 種 の 荷 電 数 をzl,zkと
荷収 支条件 は 図1.20 輸送 層内での反応物欠乏 と 生成物 蓄積
(1.98)
で 表 せ る.イ オ ン伝 導 相 に は反 応 非 関 与 イ オ ン も一 般 に共 存 す るが,定 常 状 態 の 輸 送 層 で は,非 関与 イ オ ン は静 止 し,関 与 イ オ ン種 の みが 電 荷 を輸 送 す る. 反 応 場 に 流 入 す るRlの 流 束 を〓Rl,反 応 場 か ら流 出 す るOkの れ ば,定 常 電 流 密 度(酸 化 方 向 を正 と定 義)iに
流 束 を〓Okと す
お け る物 質 収 支 条件 か ら,
(1.99) が 成 り立 ち,全 化 学 種 に要 求 さ れ る定 常 流 束 は1移 動 電 子 あ た り, (1.100) とな る.こ れ らの 物 質 輸 送 の駆 動 力 は濃 度 勾 配 に よ る拡 散 で,輸 送 層 内 の 静 電 位 勾 配 が小 さ け れ ば,イ 生 成 物Okが
オ ン種 の輸 送 に対 す る泳 動 の寄 与 も無 視 で き る.
図1.20の 輸 送 層 内 を一 次 元 的(非
イ オ ン種 な ら電 流 と無 関 係 な方
向 で よい)に 拡 散 す る と き,フ ィ ッ ク の第 一 法 則 で〓Okを 表 現 す れ ば, (1.101) とな り,GOk,Hは DOkはOkの
反 応 面 で のOk濃
拡 散 係 数,LOkはOkの
度,COk,lは
輸 送 層 外 側 で のOkバ
ル ク濃 度,
拡 散距 離 で あ る.電 流 密 度 が 高 い ほ ど,生 成
物 が 蓄 積 され てCOk,Hは 上 昇 し,反 応 が それ だ け 阻 害 さ れ る の で,定 常 進 行 に よ り多 くの 駆 動 力(一 般 に濃 度 過 電 圧 と呼 ば れ る)を 必 要 とす る.こ れ は,輸 送 層 内 に静 電 位 勾 配 が 生 じ る もの で は な い.化 学 種 濃 度 に は上 限 が あ り,液 相 輸 送 場 で はOkを
含 む沈 殿,固
相 輸 送 場 で はOkを
含 む 別 固 相 が 生 成 す る可 能 性 が あ る.
新 固相 の 出 現 に際 して は 結 晶 核 の生 成 と生 長 が 必 要 で あ る. 逆 に 反 応 物R1の 流 束 を表 現 す れ ば, (1.102) と な り,電 流 密 度 が 高 い ほ どCRl,Hは 低 下 し,反 応 物 が 欠 乏 す るの で,反 応 の 定 常 進 行 に よ り多 くの駆 動 力 を要 す る.CRl,Hが 下 限値 ぜ ロ ま で低 下 す る と, (1.103) と な り,拡 散 支 配 の 限 界 電 流 密 度iLに 達 す る.iL以
下の電流密度で は (1.104)
が 成 立 し,(i/iL)《1な
らばCRl.H〓CRl,lで,Rlの
輸 送 の 不 可 逆 性 は消滅 す る.
輸 送 場 が 流 体 の 場 合,物 質 輸 送 は対 流 で 促 進 され る.と 流 動 を行 う と,拡 散 層 の 厚 さLoi,LRlが
くに,強 制 的 に撹 拌 や
減 少 し,流 束 が 増加 す る.
c. 対 流 の 関 与:銅 電 解 精 製 槽 図1.21の
よ う な単 純 な電 気 化 学 セ ル ― 銅 の 電 解 精 製 槽― は (1.105)
で 表 せ る.Cu(A)で
粗 銅 をCu2+イ
オ ン に 酸 化,Cu(C)表
面 上 でCu2+を
銅に
還 元 す る の で,左 右 の 電 極 系 で 同 一 反 応 が 逆 に起 こる特 異 例 で あ る.銅 よ り酸 化 さ れ に くい不 純 物 は(A)を もの は(C)で
囲 む布 袋 に粉 体 で 回 収 され,銅
よ り酸 化 さ れ や す い
析 出せ ず 電 解 液 中 に イ オ ン と して蓄 積 され る.(C)に
図1.21 銅 の 電 解 精 製 槽 に お け る 電荷 と物 質 の 定 常 輸送 バ ル ク の イ オ ン伝 導 はH2SO4の み に よ り,H+の 輸 率 を0.8と し た.下 の 枠 内 は対 流 の 輸 送 で,電 荷 は 運 ば な い.両 と拡 散 の 駆 動 力 が つ りあ い,Cu2+以
極 近 傍 の 輸 送 層 内 で は泳 動
外 は み か け上 動 か な い.
純 銅薄板 を
準 備 す れ ば,精 製 され た 厚 板(=電
気 銅)が
得 られ る.
イ オ ン伝 導 体 の 硫 酸 銅 ・硫 酸 混 合 水 溶 液 中 の イ オ ン は,濃 度 勾 配 に よ る拡 散 と 静 電位 勾 配 に よ る泳 動 で動 き,対 流 も一 部 関与 す る.電 極 や 容 器 の 表 面 近 傍 で は 流体 の 運 動 が 制 限 され るた め,自 で は反 応 に関 与 す るCu2+の 反 応 無 関 係 電 解 質(=支
由 に対 流 で きな い.電 極 表 面 近 傍 の 輸 送 層 領 域
み が 電 荷 を輸 送 し,H+やSO42−
で,イ オ ン電 流 の100%を
持 電 解 質 と も呼 ぶ.こ
(C)付
近 で はH+が
(A)か
ら運 ば れ たCu2+は
担 う場 合,(A)付
の 場 合 は 硫 酸)が
近 で はH+が
増 加 ・SO42−が 減 少 す る.(A)付 電 解 質CuSO4と
囲 のSO42− と と も に電 解 質H2SO4と
十分 高濃度
減 少 ・SO42−が 増 加, 近 に 泳 動 し たSO42− と
し て,(C)付
して,そ
は 動 か な い.
近 に泳 動 したH+は
周
れ ぞ れ 反 対 極 側 へ 対 流 で 輸 送 され
る.対 流 は全 化 学 種 濃 度 を均 一 化 し,電 解 質 も輸 送 す るが,電 荷 を運 ぶ こ と はな い.現 実 の対 流 は よ り ミ ク ロ な空 間領 域 で起 こる. 電 荷 輸 送 は 両 極 の 輸 送 層 中 で はCu2+が,バ
ル ク で はH+とSO42−
応 関 与 イ オ ン種 と伝 導 イ オ ン とが 同 一 で あ る必 要 は な い.ま
が 行 い,反
たCu2+は
輸送 層中
で は拡 散 で,バ ル ク で は対 流 で運 ば れ,無 関 係 電 解 質 が 静 電 位 勾 配 を小 さ くし て い る の で,泳 動 の 寄 与 は少 な い.輸 送 層 の 厚 さ は 流体 力 学 で 決 ま るが,水 度 の粘 性 率 の 液 体 が 壁 に 対 し静 止 す る場 合,数 え に くい 固体 電 解 質,毛
と同 程
十 μmと さ れ る.対 流 自体 が 考
細 管 間 隙 中 の 電 解 液,高 粘 度 電 解 液(電
解 液 をゲ ル 状 に
し て液 漏 れ 防 止 を 図 る電 池 もあ る)な ど,対 流 が抑 制 され る 系 も多 い.固 体 電 解 質 も含 め て イ オ ン伝 導 率 の正 しい 測 定 に は,か な りの 基 礎 知 識 を要 す る. d. 混合 伝 導 体 中 の 輸 送 層 反 応関 与 イオ ンを収 容可 能 な電 極 相 は,混 合 伝導(=電
子伝 導+イ オ ン伝導)体 とみ
なすべ きで あ る.そ こで,電 極 系 の構 成 を新 た に 純 電 子伝 導相〓 混 合伝 導相│イ オ ン伝 導相 とすれ ば,界 面〓 はイ オ ンの通 過,界 面│は 電 子の 通過 を許 さ ない.以 下 で は,+z価 カチオ ンが│か ら挿入 され る単純 な還元 反応 (1.106) を例 にあ げ,混 合 伝 導 性ホ ス トTが 相 変化 を起 こさず,Mz+とe− す る意 味 で は な い)す る濃 度範 囲 に限定 す る.T内
を溶 解(液 相 に限定
の 電 荷 収 支 か ら,│で 挿 入 され る
Mz+と 同電荷 量 のe− が〓 で 流入 す るはずで あ るが,Tが
変 化 す るた め厳 密 な 定常状 態
は想定 しに くい.準 定常輸 送 を図1.22で 考 え る と,両 端 面 の制 限 か らMz+はPⅠ %,PEで0%,ま
たe− はPEで100%,PIで0%の
電荷 輸 送 を担 う.Mz+とe−
で100 が50%
ず つ 電 荷 輸 送 を 担 う面 を等 寄 与 面Rと
定義
す る. MZ+進
行 方 向(=電
と り,坦 体iの
流 方 向)にx座
濃 度 をC1,拡
に は 成 分 拡 散 係 数)を 表 す.各
標 を
散 係 数(厳
密
、Dl,移 動 度 をulで
担 体 の 流 束 は 泳 動 項 と拡 散 項 か ら
な る が,左
向 き[Mz+全
[e−全 流 束]と
流 束]と
の 和 が,任
右 向 き
意 の位 置 で この
還 元 反 応 の 電 流 密 度 一iに 相 当 す る か ら, 図1.22 混合伝 導体中の電荷 と物質の 準定常輸 送 M*の 化学拡散 は等寄与面Rか ら左 向き と右 向き.
(1.107) と書 け る.こ
こ で,ア
イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係 式 を 用 い てD1を(m1kT/z1e)で
書 き換
え,成 分 伝 導 率 σ1と輸 率tlを (1.108) (1.109) で 定 義 して,整
理 す る と,任 意 の 点 で の 静 電 位 勾 配 (1.110)
が 得 られ る.な
お,固
体 電 気 化 学 や イ オ ニ ク ス の 分 野 で は,化
学 ポ テ ン シ ャル μ を用
いた 表記 (1.111) (1.112) が 一 般 的 で あ る. 式(1.110),(1.112)右
辺 の 第1項
他 はMz+とze−
下M*対
の 対(以
は 混 合 伝 導 の オ ー ム 降 下 を 与 え る 静 電 位 勾 配 で, と呼 ぶ)の
荷 を輸 送 し な い化 学 拡 散 で は,zDが 勾 配 が 要 求 さ れ る.第2項 zCMz+)が
化 学 拡 散(付
大 き い 坦 体 を減 速,小
はMz+の
録C参
照)に
由 来 す る.電
さ い 坦 体 を加 速 す る 静 電 位
先 行 拡 散 を 抑 え る 静 電 位 勾 配 で,uMz+∝(tMz+/
低 く電 子 性 が 優 勢 な伝 導 体 で は消 滅 す る.同
様 に第3項
は,イ オ ン性 が 優 勢
な 伝 導 体 で は 無 視 で き る. 面R左
側 で は[e− 泳 動 流 束]>[Mz+泳
動 流 束]で,M*対
は 左 へ 化 学 拡 散,面R右
側 で は[e− 泳 動 流 束]
り左,te−0
(1.117)
ηc=Erev,c−Ec>0 と定 義 す る.セ (Ec−EA)で
ル の 開 回 路 電 圧Urevは(Erev,C−Erev,A)だ
(1.118) が,閉
回 路 電 圧Uは
は な く, ±(U−Urev)=ηA+ηc+IΣRi
(1.119)
W:作
用電極
C:対 R:参 D1:隔
極 照電極 膜
D2:隔 膜 P;直 流電 源or負
荷
図1.23 三電 極 法 に よ る単 極 過 電 圧 の 測 定
に し た が い,複 は 伝 導 部iの
号 の 正 は 電 気 仕 事 投 入 時,負
抵 抗 で,(Urev−U)/Iが
は 電 気 仕 事 放 出 時 に 適 用 さ れ る.Rl
電 池 の 「内 部 抵 抗 」 の 正 体 で あ る.
オ ー ム 降 下 の 影 響 を 排 除 し て ηA,ηCを 評 価 す る に は,図1.23の い る.作
用 電 極Wと
照 電 極R(電
対 極Cの
流 経 路 外)を
要 な ら 隔 膜D1,D2を 導 体 の 先 端 をW極
間 に 電 流 計A経
基 準 に,W極
お き,各
由 で 電 流 を 流 し,可
の 電 位 変 化 を 電 圧 計Vで
溶 液 間 の 自 由 混 合 を 防 ぐ.R極
近 傍 へ 導 か な い と,オ
三電極 法 を用 逆状 態 の参
計 測 す る.必
に 接 す るイ オ ン伝
ー ム 降 下 の 影 響 を受 け る.
1.7.4 電 子 移 動 過 電 圧 レ ド ッ ク ス 系R/Oの が,あ
る 電 流 密 度iで
差 が 必 要 で,こ
種 類 と 電 極 面H上
の(aO,H/aR,H)比
電 子 に 界 面 を 横 切 らせ る に は,電
れ を 電 子 移 動 過 電 圧 ηctと呼 ぶ.ηctとiと
でEF,revは
決 まる
極 相 のEFとEF,revに
の 関 係 は 一 般 に 図1.24
で 表 現 で き る. (1.120)
(1.121)
(1.122)
(1.123) a++a−=1 こ こ で,i0は
交 換 電 流 密 度,i+とi−
段
(1.124) は そ れ ぞ れ 電 極 相 へ の 電 子 移 動(anodic),
図1.24 電子移動 過電圧 と電流密度 の関係
電 極 相 か ら の 電 子 移 動(cathodic)の 移 動 係 数 で あ る.基
部 分 電 流 密 度,ま
本 式(1.120)は
バ ト ラ ー-フ
た α+と α−は 各 方 向 の
ォ ル マ ー の 式 と呼 ば れ,電
動 反 応 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を 考 慮 し て 導 か れ る(付
録D参
子移
照).式(1.121)は (1.125)
の 場 合,ま
た タ ー フ ェ ル 式 と 呼 ば れ る 式(1.122),(1.123)は,そ
れぞれ (1.126)
の 場 合 に つ い て,式(1.120)を
1.7.5濃
度
過
近 似 し た も の で あ る.
電 圧
物 質 輸 送 は 速 い と み な せ る 場 合 の 式(1.120)は,aR,Hやao,Hが i0に 含 ん で い る.し CR,HとCo,Hが =φ1で
か し 物 質 輸 送 が 速 く な い 場 合 に は(濃
各 平 衡 値(CR,HO,Co,HO)か
不 変 と仮 定 し, 度 表 記 に 直 す が),
ら 変 化 す る.1.4.5項
で 述 べ た が,φH
拡 散 二 重 層 の 存 在 が 無 視 で き る 場 合 に 限 り,CR,HOやGo,HOは
ル ク 濃 度 に 等 し い.こ
それ ら の バ
の 式 を よ り一 般 的 に 書 き 直 せ ば, (1.127)
と な る.物
質 輸 送 が 非 定 常 な らCR,HやCo,Hは
は 複 雑 に な る.さ
ら に 厳 密 に は,電
れ ら と 同 じ と は 限 らず,電 れ る 可 能 性 も あ る.
経 時 的 に 変 化 し,一
子 移 動 過 程 で の 反 応 物,生
般 的 取 り扱 い
成物が全反 応の そ
子 移 動 に先 行 また は後 続 す る化 学 反 応 過 程 な どが 含 ま
i0》│i│で,電 子 移 動 が ほ と ん ど可 逆 的 とみ な せ る な ら,可 逆 電 極 電 位 に関 す る ネ ル ン ス トの 式 か ら過 電 圧 を,
(1.128) と書 け,こ れ を濃 度 過 電 圧 と呼 ぶ.R/Oレ 本 の参 照 電 極 を電 極 面Hと
ド ック ス対 に対 して 可 逆 電 位 を示 す2
バ ル ク に お け ば,原 理 上 ηconcを実 測 可 能 だ が,電
を さ え ぎ ら な い微 小 参 照 電 極 を 古 典 的 技 術 で電 極 面Hに
流
セ ッ トす るの は難 しい.
2 電
電 池 は携 帯 電 話,ノ
池
ー ト型 パ ソ コ ン,ビ デ オ カ メ ラ,自 動 車,時
計,そ
の他数
え切 れ な い ほ ど広 い分 野 で 使 わ れ て お り,も し も電 池 が な くな れ ば,た ち まち こ の文 明 社 会 は 機 能 しな くな っ て し ま うで あ ろ う.電 池 は太 陽 電 池 の よ うに物 理 現 象 に基 づ く電 池 と化 学 反 応 に基 づ く化 学電 池 に分 け られ る.こ の 章 で は後 者 の 化 学 電 池 に つ い て 学 ぶ.化 学 電 池 は一 次 電 池,二
次電 池,燃 料 電 池 に分 け られ る.
一次 電 池 は使 い切 りの 電 池,二 次 電 池 は容 量 が な くな る と充 電 す る こ とに よ り 再 使 用 で きる 電 池 で,い ず れ もわ れ わ れ の 生 活 に な くて は な らな い 必 需 品 とな っ て い る.化 学 電 池(以 後 単 に電 池 と呼 ぶ)を 反 応 物 質(活 物 質)の る と,わ が 国 で は10種
類 ほ ど の 電 池 が 流 布 し て お り(表2.1),世
種 類 で分 類 す 界 で 最 も研
究 ・技 術 レ ベ ル が 高 く,多 種 類 の電 池 を使 用 して い る国 で もあ る.そ れ らの 具体 的 内 容 に つ い て は後 述 す る. 燃 料 電 池 は,外 部 か ら反 応 物 質 で あ る水 素 と酸 素 を あ た か も燃 料 の よ うに連 続 的 に供 給 して 発 電 す る 一種 の 直 流 発 電 機 と も い え よ う.反 応 生 成 物 が 水 で あ り, 環 境 汚 染 防 止 の 観 点 か らク リー ンエ ネ ル ギ ー と し て大 き な 期 待 が 寄 せ られ て お り,実 用 化 に 向 け て活 発 な 研 究 開 発 が続 け られ て い る.
2.1電
2.1.1バ
グ ダ ッ ド電 池(ホ
池 の 始 ま り
ー ヤ ッ ト ・ラ ッ プア 電 池)1)
イ ラ ク博 物 館 の ドイ ツ人 考 古 学 者,W.Konigが,1932年,イ ヤ ッ ト ・ラ ッ プ ア(Khujut 遺 跡(パ
Rapu'a)と
呼 ばれ る小 さな丘 に あ る 古 代 ペ ル シ ャ の
ル チ ア ン 時 代,BClC∼ADlC)か
た(図2.1).こ
の つ ぼ に は,お
ラ ク東 方 の ホ ー
よ そ10cmの
ら,小 さ な花 瓶 状 の つ ぼ を 発 掘 し 薄 い銅 製 の 円筒 が 封 入 され て お り,
.
パ イ ラ ル構 造)は
**有 機 溶 媒 に加 えて 使 用
*円 筒形(ス
大 電 流充 放 電 可 能 .
表2.1 実 用電 池 の種 類 と用途
図2.1 バ グダ ッ ド電 池(ホ
ー ヤ ッ ト ・ラ ッブ ア 電 池)(文
献1)を 一 部 改 変)
液 漏 れ が な い よ う に 円筒 の つ な ぎ 目 は 鉛-ス ズ 合 金 で 封 じ られ て い た .円 筒 上 部 の ア ス フ ァル トを貫 い て 鉄 棒 が 挿 入 され て お り,電 解 液 に は 何 を用 い た か定 か で な い が,金,銀
め っ き をす るた め に用 い られ た 電 池 で は な い か と考 え られ て い
る.ま た,同 様 の つ ぼ や 銅 筒,鉄 棒 が い くつ も発 見 され た とい う.ア メ リカ の 技 師 が この つ ぼ の 複 製 品 を つ く り,硫 酸 銅 の 溶 液 を筒 内 に満 た して,豆 電 球 をつ な い だ と こ ろ,光 が と も っ た とい う.鉄 0.8Vぐ
と銅 の 組 み 合 わ せ で あ るか ら,起 電 力 は
らい し か得 られ な い はず で あ り,も し,こ れ を金 め っ きや銀 め っ き の 電
源 と して 用 い た とす れ ば,直 列 につ な い で 使 用 した こ とで あ ろ う.こ の 電 池 はバ グ ダ ッ ド電 池,ま
た は ホ ー ヤ ッ ト ・ラ ップ ア 電 池 と呼 ば れ て い る.今
日で もバ グ
ダ ッ ドで は,金 物 細 工 師 が 起 源 の は っ き りし な い電 池 を用 い た め っ き浴 を用 い て い る とい う.
2.1.2 ボ ル タ の 電 池 以 降 の 歴 史 今 日の 電 池 に連 な っ て い る,起 源 の は っ き り した 最 初 の 電 池 は,1800年,イ タ リー のA.Voltaに
よ っ て発 明 さ れ た 電 池 で あ ろ う.食 塩 水 で 濡 ら し た 草 や 紙
や 革 を使 い,こ れ を サ ン ドイ ッチ の よ う に2種 類 の 金 属 で は さみ,何 層 に も積 み 重 ね て発 電 させ た こ とか ら ボル タ の 電 堆(pile:同 の)と
い わ れ て い る.こ の 電 堆 を用 い,水
わ れ た.1834年
種 同形 の もの を積 み 重 ね た も
の電 気 分 解 や 金 属 カ リ ウム の 単 離 が 行
に は フ ァ ラデ ー の法 則 が 見 出 され た.1836年,J
.F.Danielが
ボ
ル タ の電 池 を改 良 して,多 孔 質 の 隔壁 を用 い る こ とに よ り,硫 酸 銅 溶 液 と希 硫 酸 が す ぐに は 混 じ らな い よ う に し,よ り長 時 間 放 電 が 可 能 な 電 池 と した.電 池 か ら 得 られ る安 定 し た 直 流 電 流 に よ っ て,電 磁 誘 導 現 象 が 発 見 され,発 (1840)へ
と連 な っ て い る.今
電 機 の発明
日 の電 気 エ ネ ル ギ ー に支 え られ た 高 度 情 報 化 社 会
もボ ル タ の 電 池 に 端 を発 して い る とい っ て も過 言 で は な い.そ の 後,1866年, G.Leclancheが
二 酸 化 マ ン ガ ン を正 極 に,亜 鉛 を 負 極,電
ウ ム溶 液 を用 い た電 池 を つ くっ た.こ れ が,今 あ る.さ
解 液 に 塩 化 ア ンモ ニ
日の マ ンガ ン乾 電 池 の は じ ま りで
ら に1888年,C.GassnerやHellesensは
ル クラ ン シ ェ電 池 を改 良 し
て,携 帯 に 便 利 な構 造 の 電 池 を つ く った.わ
が 国 で も,1885(明
治18)年,屋
井 先 蔵 が ル ク ラ ン シ ェ電 池 を改 良 して 乾 電 池 を つ く り,屋 井 乾 電 池 合 資 会 社 を設 立 した.こ の 乾 電 池 は故 障 が 多 く,最 大 の難 関 は正 極 か ら電 解 液 が しみ 出 る こ と に よ る金 属 の 腐 食 で あ っ た が,1889年,正
極 の炭 素 棒 を パ ラ フ ィ ン で 煮 る こ と
を 思 い つ き,一 応 の 完 成 を み た.
マ ンガ ン乾電 池 の発 明者― 屋井先 蔵 屋 井 先 蔵 は 明 治 維 新 の5年
前,越
後 長 岡 藩 士 の 家 に 生 ま れ た.11歳
の と きに没
落 した 家 名 を 上 げ よ う と上 京 し時 計 屋 の 丁 稚 に な っ た が 新 潟 な ま りを 笑 わ れ た り, 小 さ な不 手 際 で 食 事 を 抜 か れ た り と苦 労 した.寝 た 箱 に寝 な が ら,彼
は 発 明 家 を 夢 見,発
気 で 制 御 す る装 置 の 特 許 を と っ た.電 刻 を示 す よ う に す れ ば,鉄
小 便 も続 い た とい う.わ
らを入れ
明 に 情 熱 を燃 や し,多 数 の 時 計 の 時 刻 を電 流 に よ っ て,100個,200個
の時計 が同 一時
道 の 車 両 衝 突 の 危 険 は防 げ る し,時 計 の 正 確 さ を尊 ぶ 郵
便 局 な どで も大 い に 役 立 つ と見 込 ん だ の だ ろ う.こ
の 「連 続 時 計 」 の 発 明 は1891
年 に 専 売 特 許 を認 め られ,わ
が 国 の 電 気 に 関 す る特 許 第1号
時 計 の 電 源 は 湿 式 電 池 で,維
持 が わ ず らわ し く,冬 に は凍 結 の 恐 れ も あ り,売 れ な
か っ た.こ
で あ る.し
か し,こ の
う し た 体 験 が 携 帯 に 便 利 な 乾 電 池 の 発 明 へ と 向 か わ せ た の だ ろ う.1885
年 に特 許 を と っ て い れ ば,乾 電 池 発 明 の名 誉 は 彼 の もの に な っ て い た で あ ろ うが, す ぐ に 特 許 を と ら な か っ た の は,一 と い う.職 人 気 質 ゆ え,も れ な い.事
実,当
説 に 貧 乏 で 特 許 の 申請 料 に も事 欠 い て い た た め
っ と改 良 し て か ら,特 許 を 申請 し よ う と考 え た の か も し
初 の 電 池 は 欠 陥 が 多 く,故 障 が 続 出 した.最
品 が し み 出 し,金 具 を 腐 食 す る こ と だ っ た.1889年,偶 フ ィ ン で 煮 る こ と を 思 い つ き,こ 新 潟 日報,2002.8.9付
け に よ る)
然,正
大 の 難 関 は正 極 に 薬 極 の 炭素 棒 をパ ラ
こ に 乾 電 池 は 一 応 の 完 成 をみ た.(文
献2)お よ び
一 方,充 1860年
電 す る こ と に よ っ て 繰 り 返 し 使 用 可 能 な 二 次 電 池 は,G.Planteが
鉛 電 池 を,Edison(1901)とJungner(1902)が
ル ・鉄,酸
そ れ ぞれ 酸 化 ニ ッ ケ
化 ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ ウ ム 電 池 を 発 明 し て い る.ま
さ れ て い る 燃 料 電 池 も,そ い た が,実
用 化 は1960年
た,現
の 原 理 は す で に1839年W.Groveに
在,最
も注 目
よ っ て 示 され て
代 の ジ ェ ミニ や ア ポ ロ計 画 に お け る人 工 衛 星 電 源 と し
て 使 用 さ れ る ま で 待 た な け れ ば な ら な か っ た.
2.2
電 池 の 構 成,エ
電 池 反 応 は 必 ず2つ
の 半 反 応,す
ネ ル ギ ー 密 度 と容 量 密 度
な わ ち 負 極 で 進 行 す る 酸 化 反 応 と正 極 で 進 行
す る 還 元 反 応 の 組 み 合 わ せ か ら な る酸 化 還 元 反 応 で あ る.半 次 の よ う に 表 し てn1とn2の つ くれ ば,こ
反 応1と
最 小 公 倍 数 を 用 い て 電 子(e−)を
れ が 電 池 反 応 武(2.3)で
半 反 応2を
含 ま な い 反応 式 を
あ る.
O1+n1e−=R1
(2.1)
O2+n2e−=R2
(2.2)
n2× 式(2.1)−n1× こ こ に,O,Rは
式(2.2):n2O1+n1R2=n2R1+n1O2
酸 化 体,還
え ら れ,式(2.3)の
元 体 を 表 す.反
応 に 関 わ る 電 子 数 はn=n1×n2で
電 池 反 応 に 対 す る 電 池 の 起 電 力Uは
衡 電 位 の 差,U=E1e−E2eで
(2.3)
与 え ら れ る.ま
与
式(2.1),(2.2)の
た,E1e,E2eは
平
次 式 で 与 え ら れ る. (2.4) (2.5)
た だ し,E1°,E2°
は 式(2.1),(2.2)の
還 元 体 の 活 量 で あ る.電
池 に は 固 有 の 表 記 法 が あ り,左
で あ る.電
池 の 起 電 力Uは
が っ て,還
元 反 応 式(2.1)が
O2+n2e−)が 正 極 活 物 質,負
M1,M2は す.以
標 準 酸 化 還 元 電 位,aoは
必 ず 正 で あ る か ら,上 正 極 で,式(2.2)の
負 極 で 進 行 し,電
酸 化 体,aRは
極 を負 極 に す るの が 約 束
記 で はE1e>E2eで
あ り,し
た
逆 反 応 で あ る 酸 化 反 応(R2=
池 表 記 は 以 下 の よ う に な る.O1,R2は
そ れ ぞ れ,
極 活 物 質 と呼 ば れ る.
出 力 端 子(集
電 体)で,〓
は セ パ レ ー タ 部(液−
上 を ダ ニ エ ル 電 池 に 当 て は め て み よ う.ダ Cu2++Zn=Cu+Zn2+
液 接 触 界 面)を
ニ エ ル 電 池 の電 池 反 応 は (2.6)
示
半 反 応 と電 極 電 位 は (2.7) (2.8) 式(2.6)−
式(2.7)よ
り,電
池反応 は (2.9)
た だ し,そ
れ ぞ れ の 活 量 は 等 し い と し た(αcu2+=aZn2+).E°(cu2+/Cu)(0.337
>E°(zn2+/zn)(−0.763V)で
あ る か ら,半
反 応 は そ れ ぞ れ 以 下 の よ う で あ る.
正 極=Cu2++2e−=Cu
(2.10)
負 極:Zn=Zn2++2e− ま た,電
V)
(2.11)
池 表 記 は 下 記 の よ う に な る. (−)Zn│Zn2+〓Cu2+│Cu(+)
電 池 は,活
物 質 の 反 応 に 伴 う ギ ブ ズ 自 由 エ ネ ル ギ ー 変 化(⊿G)を
直接電 気エ
ネ ル ギ ー に 変 換 す る 装 置 で あ り,電 池 反 応 の 最 大 エ ネ ル ギ ー と 次 式 の 関 係 が あ る. ⊿G=−NFU こ の よ う に,化
(2.12)
学 電 池 に は 物 理 電 池 の よ う に 半 永 久 的 に 使 え る 電 池 は 存 在 せ ず,
そ の 電 池 系 特 有 の エ ネ ル ギ ー 密 度 が 存 在 す る.F=96485C・mol−1=(96485C/ 3600s)h=26.8Ah・mol−1と の 単 位 で 表 す.こ
お い て,nFU=26.8×n×UをWh(Watt
れ を 注 目 す る 電 池 反 応 に 関 与 す る 反 応 物 質(活
(単 体 の 場 合 は 原 子 量)の
和 で 割 っ た も の を 理 論 質 量(重
(Wh・g−1,Wh・kg−1)と
い い,体
(Wh・cm−3,Wh・dm−3)と
た は 密 度)の
化 還 元 系 の 標 準 電 位 を 用 い てU°
電 子数nは2で る か ら,エ
の質 量 は考
常,簡
物 質Pbの
単 の た め にUの
体 的に理
代 わ りに 酸
の値 を用 い て エ ネ ル ギ ー 密 度 を 計
は2.077Vで
あ り,反
原 子 量 は207.2,PbO2の
応 に関与 す る
式 量 は239.2で
あ
ネ ル ギ ー 密 度 は26.8×2×2.077÷(207.2+239.2)=0.245Wh・g−1=
245Wh・kg−1と
な る.た
だ し,硫
酸 の 質 量 は 無 視 し た.表2.2に
論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度 を 示 し た.こ 液,セ
ネル ギ ー密 度
小 さ い ほ ど大 き くな る.具
を 計 算 し,こ
述 す る 鉛 蓄 電 池 のU°
あ る.活
式 量
論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度 は 反 応 電 子 数 と起 電 力 が 大 き
っ 活 物 質 の 式 量(ま
と え ば,後
量)エ
池 反 応 に 水 が 関 与 す る 場 合,水
論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度 を 計 算 し て み よ う.通
算 す る.た
物 質)の
積 量 で割 っ た も の を体 積 エ ネ ル ギ ー 密 度
い う.電
慮 し な い の が 通 例 で あ る.理 い ほ ど,か
hour)
パ レ ー タ,集
の 値 に は,電
主 な 電 池 系 の理
池 構 成 材 料 で あ る 容 器,電
電 体 等 の 質 量 が 含 ま れ て お ら ず,ま
解
た活 物質 の利 用効 率 も
表2.2 代 表 的 な電 池 系 の起 電 力 と理 論 質 量 エ ネ ル ギ ー 密 度3)
100%で
は な い の で,実
程 度 で あ る.電
際 の電 池 の エ ネ ル ギ ー 密 度 は 理 論 値 の 数 分 の1か
池 技 術 と は,取
ら1/10
り出 し可 能 なエ ネ ル ギ ー を い か に 理 論 エ ネ ル ギ ー
に 近 づ け る か と い う こ と に な ろ う. ま た,エ
ネ ル ギ ー 密 度 と と も に 電 池 の 重 要 な 特 性 の1つ
ペ ア ・ア ワ ー(Ah)で 量,3600Cに
表 さ れ る .1Ahは1Aの電
相 当 す る.そ
し て,容
う.単
体 の 活 物 質 の 理 論 的 な 容 量,お
化 学 反 応 に 基 づ い て 計 算 で き る.た 活 物 質MnO21mol(86.95g)あ で,容
よ び 容 量 密 度 は,そ
た り,2F取
ら び に体 積 あ た り に換 い
れ ぞ れ の活 物 質 の電 気
と え ば 後 述 す る マ ン ガ ン 乾 電 池 の 場 合,正
極
電 気 量 を取 り出 す こ とが で き る の
な り,MnO2の
86.95g=0.308Ah・g−1=308Ah・kg−1と 1mol(65.4g)あ
した と きの電 気
よ び 体 積 容 量 密 度(Ah・dm−3)と
た り1Fの
量 は96485÷3600=26.8Ahと
流 を1h流
量 を 重 量 あ た り,な
算 し た も の を 重 量 容 量 密 度(Ah・kg−1),お
で あ る容 量 は通 常 ア ン
な る.他 り 出 せ る の で,容
質 量 容 量 密 度 は26.8Ah÷ 方,負
極 活 物 質 のZnで
量 は53.8Ahと
な り,容
は, 量 密
度 は53.8Ah÷65.4g=0.820Ah・g−1=820Ah・kg−1と
な る.マ
は2molのMnO2と1molのZnが
の 容 量 密 度 は53 .8Ah÷
反 応 す る の で,そ
(86.95×2+65.4)g=0.224Ah・g−1=224Ah・kg−1で
2.3
ン ガ ン乾 電 池 で
あ る.
実 用 化 さ れ て い る主 な電 池
上 に 述 べ た よ う に 電 池 は2つ
の 酸 化 還 元 反 応 の 組 み 合 わ せ で あ る か ら,理
に は 数 え 切 れ な い ほ ど た く さ ん の 電 池 系 が 可 能 で あ る.し
か し,そ
論的
れ らが 実 用 化
さ れ る た め に は,①
エ ネ ル ギ ー 密 度 が 大 き い,②
サ イ ク ル 寿 命 が 長 い(二 い,⑤
安 全 で,か
次 電 池 の 場 合),④
つ 信 頼 性 が 高 い,⑥
価 で ど こ で も 入 手 可 能,な
大 電 流 放 電 が 可 能,③
自 己 放 電 が 少 な く,保
充放 電
存寿 命が 長
毒 性 の あ る物 質 を使 用 し て い な い,⑦
ど の 条 件 が 必 要 で あ る.そ
の た め,こ
安
れ らの 厳 し い条
件 を同 時 に 満 た す こ との で き る活 物 質 の 組 み合 わ せ は 非 常 に 限 られ た もの に な る (表2.1).次
に 具 体 的 に い くつ か の 電 池 に つ い て 述 べ よ う.
2.3.1 一
次
電
池
a. マ ン ガ ン 乾 電 池 1866年,フ
ラ ン ス のG.Leclancheは
液 が こ ぼ れ ず,持
ち 運 び の 容 易 な よ う にNH4Cl水
ぜ て 電 解 液 と し た 電 池 を 発 明 し た.現 は,国
正 極 にMnO2,負
用 い,電
解
溶 液 をの こ ぎ り くず な ど に混
在 も大 量 に使 用 さ れ て い るマ ン ガ ン乾 電 池
内 市 販 品 で は 電 解 質 こ そ ほ と ん どZnCl2に
こ れ と 同 じ シ ス テ ム で,公
極 にZnを
称 電 圧 は1.5Vで
変 わ っ た も の の,本
質 的 には
そ の 電 池 構 成 は 次 の よ う に表 さ れ
る. (−)Zn│ZnCl2,(NH4Cl),H2O│MnO2│C(+) 電池 の電極反応 は 正 極:8MnO2+8H20+8e−=8MnOOH+80H−
(2.13)
負 極:4Zn+ZnCl2+80H−=ZnCi2・4Zn(OH)2+8e−
(2.14)
電 池:8MnO2+4Zn+ZnCl2+8H20=8MnOOH+ZnCl2・4Zn(OH)2 (2.15) こ の 電 池 で は 水 も反 応 物 質 で あ り,電 池 反 応 が 進 む に つ れ て消 費 され,い わ ば 電 池 系 が 乾 い た 状 態 に な る.こ の た め,NH4Clが 頃,電
電 解 質 と し て 用 い られ て い た
池 を 機 器 内 に放 置 す る と頻 発 し た 液 漏 れ もZnCl2に
こ らな くな っ た.ま た,封
置 き換 わ っ て か ら起
口技 術 の進 歩 も液 漏 れ 防 止 に 大 き く寄 与 して い る.た
だ し,新 品 と旧 品 を混 用 した り,複 数 個 の う ち,1個
の 正 負 を逆 に装 填 し た よ う
な場 合 に は,そ の 電 池 が 原 因 と な っ て,過 放 電(旧 品)や
充 電(逆 装 填)が 起 こ
り,ガ ス発 生 等 に連 な り,液 漏 れ の起 こ る こ とが あ る.外 国 で は い ま だNH4Cl を主 電 解 質 とす る電 池 も製 造 され て い る.そ の 場 合 の電 極 反 応 は以 下 の よ うで あ る.
図2.2 マ ン ガ ン乾 電 池 の構 造
正 極:2MnO2+2H2O+2e−=2MnOOH+2OH−
負 極:Zn+2NH4Cl=Zn(NHI3)2Cl2+2H++2e
(2.17)
電 池:2MnO2+Zn+2NH4Cl=Zn(NH3)2Cl2+2MnOOH
(2.18)
電 池 形 状 は親 し まれ て い るR20(単1形)か 6F22と
(2.16)
呼 称 さ れ る9Vの
で の円筒形 と
角 形 に分 け られ る.か つ て は測 定 機 器 電 源 と して 大 型
の 角 形 電 池 が 存 在 した が,エ 形(図2.2)で
らR1(単5形)ま
レ ク トロニ ク ス技 術 の 進 歩 に よ りな くな っ た.円 筒
は 負 極 物 質 で あ る金 属Zn自
身 が 円 筒 缶 と して 容 器 も兼 ね て い る
点 が マ ン ガ ン乾 電 池 の今 日の 発 展 を促 し,位 置 づ けた 大 き な技 術 革 新 とい っ て も よ い.Zn缶
の 内 側 に は セパ レ ー タ と して の 薄 い ク ラ フ ト紙 お よび 缶 底 に は底 紙
を介 在 させ て お り(ペ ー パ ー ラ イ ン ド方 式),ク る.こ
の ク ラ フ ト紙 の 内 側 に はMnO2粉
ク の 混 合 物 をZnCl2電
ラ フ ト紙 に は糊 剤 を塗 布 して あ
末 と導 電 剤 と し て の ア セ チ レ ン ブ ラ ッ
解 液 で 練 り固 め て 成 形 した 正 極 合 剤 を 挿 入 し て お り,中
央 に は集 電 体 と し て炭 素 棒 を 打 ち込 み,上 端 が 正 極 端 子 とな っ て い る.電 池 の 容 量 はMnO2量
で 定 ま る.合 剤 上 部 に は つ ば紙 を介 して,乾 燥 お よび 漏 液 防 止 の た
め の ワ ック ス を 流 し,Zn缶
の 開 口 部 は プ ラ ス チ ッ ク製 の ふ た で 封 口 して あ る.
素 電 池 は塩 化 ビニ ル 製 収 縮 チ ュー ブで 被 覆 し,電 解 液 の 蒸 発 お よび 漏 液 を 防 ぐ. 炭 素 棒 上 端 に は メ タル キ ャ ッ プ を は め て,正 極 端 子 と し,負 極Zn缶
の 外 側 の底
に 金属 製 底 板 を 当 て 負 極 端 子 とす る.さ 能,耐
らに金 属 製 外 装 で 覆 っ て長 期 間 の 貯 蔵 性
漏 液 性 を 向上 させ て い る.
MnO2に
は,天 然 二酸 化 マ ンガ ン,合 成 二 酸 化 マ ンガ ン,電 解 二 酸 化 マ ンガ ン
が あ るが,高
性 能 品 に は 電 解 二 酸 化 マ ン ガ ンが 用 い られ,よ
種 々 の 割 合 の 混 合 物 が 用 い られ て い る.負 極 のZn缶 量 のPbを
加 え て 展 延 性 を増 大 させ,六
押 し出 す 衝 撃 法 で 製 造 さ れ る.Znの
り安 価 な 製 品 に は
は 純Znで
は脆 い の で,少
角板 状 の ペ レ ッ トと した の ち,加 圧 して
腐 食 を 防 ぐた め,か つ て は缶 の 内 壁 はHg
に よ りア マ ル ガ ム 化 され て い た が,高 純 度 材 料 と腐食 抑 制 剤 の使 用 に よ り,今 で は 無 水 銀 化 が 実現 し て い る.性 能,形 状 等 はJIS規 用 途 と し て は 灯 火 器 具,カ ジオ,玩 具,時 計,石
格 で 規 定 さ れ て い る.
セ ッ トテ ー プ レコ ー ダ,ラ
ジ カ セ,ト
ランジスタラ
油 ス トー ブ点 火 用 な どで,わ れ わ れ の 生 活 に深 く入 り込 ん
で い る.安 価 で信 頼 性 の 高 い この 電 池 は今 後 も永 く愛 用 され よ う. b. ア ル カ リ ・マ ン ガ ン電 池 この 電 池 の正 極,負 濃 厚KOH溶
極 の 活 物 質 は マ ンガ ン乾 電 池 と同 じで あ るが,電 解 液 の み
液 を 用 い る こ と に よ り,大 電 流 特 性 お よ び低 温 特 性 を 向 上 さ せ,
大 容 量 化 を 図 っ た 点 に特 長 が あ る.音 響 機 器 をは じ め とす る マ イ ク ロ モ ー タ駆 動 用 の 大 電 流 用 途 の ニ ー ズ に適 合 し て い るの で,需 要 が 伸 び て お り,最 近 国 内 で は マ ン ガ ン系 乾 電 池 生 産 量 の50%以
上 を 占 め て い る.ア ル カ リマ ン ガ ン電 池 の 形
状 はマ ン ガ ン乾 電 池 と互 換 性 の あ る 円筒 形(R20-R1形)と お よ び 酸 化 銀 電 池 と互 換 性 の あ る ボ タ ン形 で,JISで
角 形(6LR61形), は 前 二 者 を ア ル カ リ乾 電
池,後 者 を ア ル カ リボ タ ン電 池 と呼 称 して い る.電 池 構 成 は 以 下 の よ うに 示 され る. (−)Zn│KOH(ZnO飽
和),H2O│MnO2(C)(+)
電極反応 は 正極:2MnO2+2H20+2e−=2MnOUH+2OH−
E°=0.12V (2.19)
負極:Zn+40H−=[Zn(OH)4]2−+2e−
E°=−1.33V (2.20)
電 池:2MnOz+Zn+2HzO十20H−=2MnOOH+[Zn(OH)4]2− U°=1.45V(2.21)
図2.3 アル カ リ乾 電 池 の 構 造
こ こ で 注 意 し な け れ ば な ら な い の は,式(2.20)のE°
は 還 元 反 応,す
応 式 で 電 子 を左 側 に 書 い た 場 合(一 般 式:O+ne-=R)に
なわ ち反
対 応 す る値 で あ る こ
とで あ る.以 降 の電 池 の 負 極 のE° に つ い て も同様 で あ る. 円 筒 形 電 池 の 外 形 寸 法 は マ ン ガ ン乾 電 池 と同一 で 互 換 性 が あ るが,大 容 量 で 大 電 流 を取 り出 す た め の 工 夫 の 結 果,そ 2.3).内 外 面 と もNiめ
の 内 部 構 造 は か な り異 な っ て い る(図
っ き した 鉄 製 缶 に 円筒 状 に 成 型 した 正 極 合 剤 を内 壁 に 密
着 させ て挿 入 し,内 部 空 間 部 に セパ レー タ を兼 ね た ビ ニ ロ ン,レ ー ヨ ン製 不 織 布 の袋 を入 れ,こ れ に 負 極 活 物 質 で あ る ゲ ル 状Znを
充 填 後,ナ
イ ロ ン,ポ
リエ チ
レ ン ま た は ポ リプ ロ ピ レ ン な どの プ ラ ス チ ック 製 の 正,負 極 の 絶 縁 を兼 ね た 封 口 板 で 封 口す る.電 解 液 の ク リー プ 防止 の た め封 口面 に シ ー ラ ン トを塗 布 す る.集 電 体 と し て黄 銅 製 また は ス ズ め っ き した 鉄 製 の釘 を封 口板 の 中 央 か らZn部 か っ て 挿 入 す る.こ の ま ま で は マ ンガ ン乾 電 池 と正 負 極 が 逆 な の で,封
に向
口後 上 下
を 逆 転 し,正 極 端 子 をつ け,プ ラ ス チ ッ ク製 の外 装 を す る こ とに よ り,外 観 は マ ン ガ ン乾 電 池 と同 様 に し て い る. Znの 腐 食 に基 づ く水 素 ガ ス の 発 生 は不 純 物 の 影 響 を敏 感 に受 け る の で,正 極
作 用 物 質 で あ るMnO2に MnO2に
は 高 純 度 の γ型 電 解MnO2が
使 用 さ れ て い る.こ
の
導 電 剤 と して 高純 度 黒 鉛 と電 解 液 お よび バ イ ン ダ を加 え混 練 し,正 極 合
剤 とす る.本 電 池 の特 長 で あ る大 電 流 特 性 を 可 能 とす る た め に 負極 活 物 質 に は 粉 末Zn(粒
度 分 布40∼200メ
ッ シ ュ)を 用 い,表 面 積 を広 く して い る.Znの
に よ る水 素 ガ ス発 生 を抑 制 す る た め に,か
腐食
つ て こ の電 池 に は電 池 質 量 あた り1.5
%も の 水 銀 が 使 わ れ て い た.使 用 済 み 電 池 の廃 棄 に よ る水 銀 汚 染 防 止 の 観 点 か ら,多 Biな
くの 検 討 が な され た結 果,水 どの 金 属 とZnと
銀 に代 わ っ て 水 素 過 電 圧 の大 き いGa,Ⅰn,
の 合 金 が 用 い ら れ る よ う に な り,1991年
無 水 銀 化 が 実 現 した.電 解 液 に は35%前
後 のKOH水
溶 液 を使 用 し,こ れ にZn
の腐 食 に よ る水 素 発 生 を抑 制 す るた め に,飽 和 近 く までZnOを この溶 液 にZn粒
子 を分 散 させ,ゲ
ル 化 剤(カ
世 界 に 先 駆 け,
溶 解 し て い る.
ル ボ キ シ メ チ ル セ ル ロ ー ス,ポ
ア ク リル 酸 ナ ト リウム な ど)を 加 え,ゲ ル 化 してZn粒
子 の沈 殿 を防 い で い る.
本 電 池 の特 長 は,①
ン ガ ン乾 電 池 の2∼3倍,
図2.3),③
大 電 流 放 電 可 能,②
大 容 量(マ
リ
低 温 特 性 に優 れ て い る こ と,で あ る.
用 途 はマ ン ガ ン乾 電 池 と同様 で あ る が,と
くに大 電 流 を必 要 とす る モ ー タ駆 動
機 器 に威 力 を発 揮 す る.ボ タ ン形 電 池 は酸 化 銀 電 池 に比 べ,動 作 時 間 は短 い もの の 安 価 な た め,小 型 時 計 を は じめ とす る電 子 機 器 に今 後 も汎 用 され よ う. c. 空 気 亜 鉛 電 池 正 極 活 物 質 に空 気 中 の 酸 素,負 極 活 物 質 に 金 属 を用 い る電 池 系 を総 称 して 空 気 電 池 とい う.金 属 と してZn,Alな 時 に は,た の1種
どが 用 い られ て い る.反 応 物 質 と し て,作 動
え ず 外 部 か ら空 気 を 取 り入 れ て い る こ とか ら,燃 料 電 池(2.3.3項)
と も い え よ う.こ こで は空 気 亜 鉛 電 池 に つ い て述 べ る.
空 気 中 の 酸 素 を正 極 活 物 質,Znを NH4Cl,ZnCl2を
負 極 活 物 質 と し て 用 い,電 解 液 と し て は
用 い る弱 酸 性 系 電 池 とKOHを
用 い る アル カ リ系電 池 が あ る.
後 者 は さ ら に注 水 式 の大 型 電 池 とボ タ ン形 電 池 に 分 け られ る.流 布 し て い る の は ボ タ ン形 で あ る の で,こ れ につ い て述 べ る.こ の ボ タ ン形 電 池 は補 聴 器 用 電 源 と して 使 わ れ て い た酸 化 水 銀 電 池 が 環 境 汚 染 防 止 の 観 点 か ら製 造 中止 に な っ た こ と か ら,そ の代 替 電 池 と して 急 速 に普 及 す る よ うに な った.そ (−)Zn(Hg)│KOH(ZnO飽 電 極 反 応 は以 下 の よ うで あ る.
和),H20│C(触
の電 池 構 成 は
媒),O2(−)
正 極:O2+2H20+4e−=4OH−
負 極:2Zn+8OH−=2[Zn(OH)4]2−+4e−
電 池:O2+2Zn+2H20+80H−=2[Zn(OH)4]2−
E°=0.401V
(2.22)
E°=一1.33V
(2.23)
U°=1.731V (2.24)
電 池構 造 は図2.4の
よ うで あ る.容 器 底 に 空 気 取 り入 れ 口 が1∼2個
保 存 時 に は空 気 を 通 しに くい シー ル テ ー プ で 覆 わ れ,使 質 は ア ル カ リ乾 電 池 と同 様 に ゲ ル状Znで 困 難 で,Hgア
マ ル ガ ム化Znが
レ ー タ下 部 に は空 気 極(正
あ い て お り,
用 時 に はが す.負 極 活 物
あ る.た だ し,今 の と こ ろ無 水 銀 化 は
使 わ れ て い る.正 極 活 物 質 充 填 部 が な く,セ パ
極)が
設 け られ,こ の 空 気 極 下 部 に撥 水 性 の 多 孔 性 フ
ッ素 樹 脂 膜 が 存 在 し,正 極 に 酸 素 を送 る と と も に電 解 液 の 流 出 を防 い で い る.拡 散 層 に は不 織 布 が 用 い られ,空
気 孔 か ら流 入 した 酸 素 を空 気 極 全 体 に行 き わ た ら
せ る役 目 をす る. この 電 池 の ポ イ ン トは空 気 極 に あ り,Niネ
ッ トに触 媒 層 を圧 着 し,空 気 孔 に
面 した 側 に は 多 孔 性 フ ッ素 樹 脂 膜 が 圧 着 さ れ て い る.酸 素 還 元 触 媒 と して はPt が 最 良 で あ るが,高 価 な た めMn酸
化 物 な どが 活 性 炭 や カ ー ボ ン ブ ラ ッ ク と混
合 して 用 い られ て い る.こ の ボ タ ン電 池 の 特 長 は,①
あ らか じ め 正 極 物 質 を充
填 す る必 要 が な く,そ の ス ペ ー ス まで 負 極 活 物 質 を充填 で き るの で,エ 密 度 が 高 い(200∼330mWh・g−1,700∼1000mWh・cm−3),② ∼1 .3Vと
ネル ギー
放 電 電 圧 が1.2
平 坦 で あ る こ と,で あ る.
この 電 池 は 開封 後,空
気 中 の炭 酸 ガ スの 吸 収 に よ り劣 化 す るの で,長 期 使 用 が
困難 で あ り,短 期 間 で使 い 切 る補 聴 器 や ペ ー ジ ャ(ポ ケ ッ トベ ル)用 電 源 な ど に 最 適 で あ る.
図2.4 ボ タ ン 形 空気 亜 鉛 電 池 の 構 造
d. リ チ ウ ム 電 池 リチ ウ ム電 池 とは,負 極 活 物 質 と して 金 属 リチ ウム を,電 解 液 に非 水 溶 媒 を使 用 す る電 池 の総 称 で,3Vと
い う水 溶 液 系 で は不 可 能 だ っ た 高 電 圧 を実 現 した.
正 極 活 物 質 に はMnO2,(CF)x(フ じ め,さ
ッ化 黒 鉛),SOCl2(塩
化 チ オ ニ ル)な
どを は
まざ ま な物 質 が 使 用 され て い る.前 二 者 は わ が 国 で発 明 され た.リ チ ウ
ム 電 池 の 特 長 は, ① 作 動 電 圧 が3Vと
高 い.
② エ ネ ル ギ ー 密 度 が 高 い. ③ 作 動 温 度 範 囲 が 広 い.電 池 種 に よ っ て は−55∼+85℃
で 作 動.
④ 自 己 放 電 速 度 が 遅 く,保 存 特 性 に 優 れ る.放 電 電 流 が 小 さ い 場 合 に は 5∼10年 作 動 が可 能. ⑤ 耐 漏 液 性 に優 れ る. これ らの 水 溶 液 系 電 池 に な い 利 点 を生 か し,多 わ れ て い る.こ
こで は,最
くの エ レ ク トロニ ク ス機 器 に使
も生 産 量 の 多 い二 酸 化 マ ン ガ ン リチ ウム 電 池 に つ い て
述 べ る. 正 極 活 物 質 に は高 温 で 脱 水 処 理 した 電 解MnO2に
導 電 剤 と して 黒 鉛,バ
ダ と し て フ ッ素 を加 え た合 剤 を粉 末 成 型 した もの,ま
イン
た は 合 剤 に粘 着 剤 を加 え て
ス ラ リー状 に して 金 属 製 芯 体 に塗 布 した もの を,電 解 液 に は プ ロ ピ レ ンカ ー ボ ネ ー ト(PC)を
主 体 と す る有 機 溶 媒 にLiCl 4を 加 え て 使 用 す る.一 般 に 有 機 電 解
液 の 導 電 率 は 水 溶 液 に比 べ て1∼2桁 コ イ ン形(図2.5),も
低 い の で,電 池 の 抵 抗 を下 げ る手 段 と して,
し くは渦 巻 き状 円 筒 形(図2.6)と
して 電 極 間 距 離 を短 く
して い る.セ パ レ ー タ に は ポ リプ ロ ピ レ ン な どの高 分 子 材 料 か らな る不 織 布,微 多 孔 膜,ま
た は そ れ ら を張 り合 わ せ た有 機 電 解 液 に不 溶 な二 層 セ パ レー タが 用 い
られ る.電 池 電 圧 は3Vで,電
池 反 応 は次 式 で 示 され る.
正 極:Li++Mn(Ⅳ)O2+e−=Mn(Ⅲ)O2(Li+)
(2.25)
負 極:Li=Li++e−
(2.26)
電 池:Li+Mn(Ⅳ)O2=Mn(Ⅲ)O2(Li+) 正 極 で はMnO2の たLi+が
(2.27)
還 元 が 起 こ る と と も に,負
電 解 液 中 を 拡 散 した 後,MnO2に
形 電 池 の 用 途 は メ モ リバ ッ ク ア ッ プ 用,電
極 で 金 属Liが
放 電 した 結 果 生 じ
固 相 拡 散 に よ り侵 入 し て く る.コ 卓,カ
メ ラ,デ
ジ タ ル ウ ォ ッ チ,体
イ ン 温
図2.5 コイ ン形 二 酸 化 マ ン ガ ン リチ ウ ム電 池 の 構 造
図2.6 円 筒 形 二 酸 化 マ ン ガ ン リチ ウム 電 池 の 構 造
計,薄
型 ラ ジオ な ど,円 筒 型 電 池 の 用 途 は 自 動 巻 き 上 げ カ メ ラ,デ
ラ,水 道,ガ
ジ タル カメ
ス,電 力 メ ー タ,通 信 機 器,計 測 機 器,各 種 メモ リバ ッ ク ア ッ プ 用
な どで あ る.
2.3.2 二
次
電
池
a. 鉛 二 次 電 池 鉛 蓄 電 池 と もい わ れ る こ の電 池 は 発 明 後140年
後 の 今 も使 わ れ て お り,安 価 で
信 頼 性 の 高 い電 池 で あ る.毒 性 の 高 い 鉛 が 正,負 極 活 物 質 と して使 わ れ て い る欠
点 は あ るが,環 境 汚 染 防 止 と資 源 の 有 効 活 用 の観 点 か ら,早 け られ,今
で は廃 電 池 の 回 収 率 は95%を
に多 い が,据
くか ら回 収 が 呼 び か
越 え て い る.用 途 は 自 動 車 用 が 圧 倒 的
え置 き型 と して ビル な どに設 置 され,無 停 電 電 源 と して 目 に見 えな
い と こ ろ で 活 躍 して い る.電 解 槽 の構 造 か ら,開 放 式 と密 閉 式(図2.7)に
分け
られ る.電 池 反 応 は 次 の よ うで あ る. 正 極:
放電 充電 (2.28)
負 極:
放電 充電
電 池:
(2.29)
放電 充電 (2.30)
この 電 池 の 特 長 は 水 の 分 解 電 圧 が1.23Vで
あ る こ と を考 え る と起 電 力 が 異 常
に 高 い とい う点 に あ り,理 論 的 に は 存 在 しえ な い電 池 で あ る.負 極 活 物 質 で あ る Pbの
電 位 は−0.355Vで
あ り,水 素 発 生 反 応(2H++2e−=H2,E°=0V)の
E° よ り負 に あ り,次 の 反 応 に よ り 自己 溶 解 し,水 素 を発 生 し て も よ い は ず で あ る. Pb+2H++SO42−=H2+PbSO4 U°=0.355V
(2.31)
し か し,こ の よ う な 反 応 は起 こ り に く く,鉛 蓄 電 池 が 存 在 し う る の は,Pbの 水 素 過 電圧 が きわ め て大 きい た めで あ る.一 次 電 池 の と こ ろ で 述 べ な か っ た が,Pbの
他 にZn,Hgが
同様 の 性 質 を
もち,こ れ らの 金 属 上 に お け る水 素 発 生 反 応 の 速 度(交
換 反 応 電 流 密 度)はPt
の そ れ に比 べ,1/106∼1/108と 遅 く,そ の た めPb負
きわ め て
極 は 式(2.31)の
よ う な 反 応 に よ り自 己 溶 解 す る こ と も な い.ま
た,正
極 のPbO2の
電位 は式
図2.7 シ ー ル形 鉛 蓄 電 池 の 概 略 構 造
(2.28)に 示 す よ う に,1.685Vで
酸 性 溶 液 中 で の 水 の 酸 化 を 起 こす 電 位(O2
+4H++4e−=2H2O,U°=1.23V)よ
り十 分 正 に あ り,強 い 酸 化 剤 と し て作 用
し,理 論 的 に は次 の 反 応 が 起 こ り,酸 素 を発 生 して もよ い はず で あ る. 2PbO2+4H++2SO42−=2PbSO4+O2+2H2O
U°=0 .455V (2.32)
しか し,酸 性 溶 液 中 のPbO2は に貴 電 位 に あ っ て もPbO2自
酸 素 発 生 の 過 電 圧 が と くに 大 き く,こ の よ う
身 の 安 定 性 は保 た れ て お り,PbのH2発
生過 電圧
が 大 きい とい う双 方 の効 果 が加 わ っ て,水 溶 液 系 電 池 と し て異 常 に 高 い 電 圧 を保 持 で き るの で あ る. b. ニ ッケ ル ・水 素 二 次 電 池 こ の 電 池 は,正 極 に ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ ウ ム 二 次 電 池 と 同 じ ニ ッ ケ ル 酸 化 物 (NiOOH)を,負
極 に 水 素 吸 蔵 合 金 を,電 解 液 に は 濃 厚 ア ル カ リ溶 液 を用 い て,
環 境 へ の受 け入 れ が 容 易 な よ うに ニ ッケ ル ・カ ド ミウ ム二 次 電 池 との 置 き換 え を 目標 に して 実 用 化 さ れ た.し た が っ て,公 称 電 圧 は1.2Vで
ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ
ウ ム 二 次 電 池 と同 じで互 換 が 容 易 で あ り,充 放 電 サ イ クル 寿 命 が 永 く,か つ容 量 は1.3∼2倍
もあ る優 れ た電 池 で あ る.水 素 吸 蔵 合 金 は 熱,水
て,水 素 の 吸 蔵 ・放 出 が 可 能 な合 金 で,約2質
量%も
素 圧,電 位 に よ っ
の 水 素 を吸 蔵 す る こ とが で
き る.こ の 電 池 は,電 位 を変 え る こ とに よ って 水 素 の 吸 蔵 ・放 出 が 可 能 な こ とを 利 用 した もの で,TiNi系
やLaNi5系
合 金 の 検 討 か ら始 ま っ た.合 金 が 水 素 の 吸
蔵 ・放 出 を繰 り返 す た び に起 こ る膨 張 ・収 縮 の た め に微 粉 化 す る,電 解 液 との接 触 に よ る合 金 の 腐 食 な ど の た め 充 放 電 サ イ クル 寿 命 が 短 い とい う問 題 は,Mm (NiCoMnAl)5系
合 金(た
と え ばMmNi3.8Co0.5Mn0.4Al0.3,Mm:ミ
ッシ ュ メ タ
ル,希 土 類 元 素 の 混 合 物)を 用 い る こ とに よ っ て 克 服 され,世 界 に先 駆 け,1990 年 わ が 国 で 実 用 化 され た.電 池 反 応 は次 の よ うに 示 され る. 正 極:
負 極:
電 池:
こ こで,Mは
充電 放電
充電 放 電
充電 放電
水 素 吸 蔵 合 金,MHabは
(2.33)
(2.34)
(2.35)
水 素 が 合 金 に 吸 蔵 さ れ た状 態 を 示 す.
図2.8 円 筒 形 ニ ッケ ル ・水 素 二 次電 池 の構 造
こ の よ う に,電 池 反 応 は正 極 負 極 間 の 水 素 の移 動 だ け で あ り,電 解 液 の 消 耗 が な い の で,高 信 頼 性 が 期 待 で き る.電 池 形 状 と して,円 筒 形(図2.8)と 在 し,携 帯 電 話,ス は,こ
角形 が存
テ レオ ヘ ッ ド フ ォ ン な どに使 用 され て い る.注 目す べ き こ と
の 電 池 の単1形
が組 電 池 化 され,ハ
イ ブ リ ッ ド車 電 源 と して ガ ソ リン車 に
搭 載 され,環 境 浄化 に寄 与 し始 め た こ とで あ る. c. リチ ウム イ オ ン二 次 電 池 金 属 リチ ウ ム を 負極 活物 質 と して二 次 電 池 化 で きれ ば,理 想 的 な高 エ ネル ギ ー 密 度 電 池 とな るが,充 電 時 にで き る樹 枝 状 リチ ウ ム に よ る内 部 短 絡,電 解 液 と リ チ ウム の反 応 に よ る充 放 電 効 率 の低 下 な ど に よ り,い まだ 実 現 して い な い.こ よ う な状 況 下 で,カ
ー ボ ン を負 極 材 料 と して,リ
の
チ ウム を そ の結 晶 中 に取 り込 む
こ とに よ り,上 記 の 問 題 を解 決 し,正 極 に非 晶 質 五 酸 化 バ ナ ジ ウ ム(V2O5)を 用 い た コ イ ン形 電 池 が1989年 形 電 池 が1991年 携 帯 電 話,ノ
に,コ バ ル ト酸 リチ ウ ム(LiCoO2)を
に い ず れ もわ が 国 に お い て 実 用 化 され た.と
用い た円筒
くに後 者 の 電 池 は
ー ト型 パ ソコ ン,ビ デオ カ メ ラ な どの電 源 と して,そ
の生 産 量 が 急
増 し て い る.こ の 電 池 は,充 電 状 態 で も負 極 内 で リチ ウ ム が イ オ ン と して 存 在 し,充 放 電 に際 し て,リ チ ウ ム イ オ ンが 正 極 と負 極 の 間 を往 復 す る こ とか ら,"リ チ ウ ム イ オ ン二 次 電 池",あ
る い は単 に"リ
チ ウ ム イ オ ン電 池"と
い わ れ て い る.
メ モ リー 効 果 ニ ッ ケ ル ・カ ド ミ ウ ム 二 次 電 池 や ニ ッ ケ ル ・水 素 二 次 電 池 に は メ モ リー 効 果 とい う奇 妙 な現 象 の あ る こ とが 知 ら れ て い る.こ
れ は,電
池 を 完 全 に 放 電 し き る こ とな
く浅 い 放 電 と充 電 と を繰 り返 し て い る と放 電 電 圧 が 低 下 し,本 来 の 容 量 を 取 り出 せ な くな る現 象 で,当
初 そ の 原 因 は 負 極 の カ ド ミウ ム に あ る と され,負
極 が 水素 吸合
金 に置 き換 わ っ た ニ ッ ケ ル ・水 素 二 次 電 池 で は 起 こ ら な くな る とい わ れ た こ と も あ っ た.し
か し,や
は りニ ッ ケ ル ・水 素 二 次 電 池 に も現 れ る(図2
電 の 繰 り返 し は,結 か ら β-NiOOHに
.9).浅
い放 電 と充
局 過 充 電 と な る こ とで あ り,充 電 に よ り,通 常 は β-Ni(OH)2 酸 化 さ れ る べ き と こ ろ,さ
平 均 酸 化 数=3.7)が NiOOHは,β-NiOOHよ
ら に 酸 化 の 進 ん だ γ-NiOOH(Niの
生 成 す る た め で あ る こ と が わ か っ て き て い る.こ の γり抵 抗 が 大 き く,そ の標 準 酸 化 還 元 電 位 も低 い た め,そ
の 生 成 に よ り放 電 電 圧 が 低 下 す るわ け で あ る.そ
して,こ
の メ モ リー 効 果 は 強 制 的
に 完 全 に 放 電 し て は 充 電 す る こ と を 数 回 繰 り返 す と消 滅 し,正 常 状 態 に 復 帰 す る 場 合 が 多 い.し
か し,こ
の 電 池 を使 用 す る機 器 に は,普 通,強
制 放電機 能 はつい てい
な い か ら,電 池 が 壊 れ た もの と して 破 棄 さ れ る こ とが 多 い .こ れ を起 こ ら な い よ う に す る こ とが 大 き な 課 題 で あ る.
図2.9 単4形
ニ ッケ ル ・水 素 電 池 の放 電 曲 線
(250mA,30℃) A:正
常 電 池 の 放 電 曲 線,B:浅
を300サ
い 放 電 と充 電
イ ク ル 実 施 後 の 放 電 曲線.
この 電 池 の充 放 電 反 応 は 図2.10の
よ う に示 さ れ,充 電 に 際 し て は, LiCoO2を
形 成 して い た リチ ウム イ オ ンが コバ ル ト酸 化 物 か ら抜 け 出 し,電 解 液 中 を通 っ て カ ー ボ ン内 に挿 入(イ が,下
ン タ ー カ レ ー シ ョ ン)さ れ,放
記 の よ う に進 行 し,平 均 作 動 電 圧 は3.6∼3
電 に際 して はその逆 反応
.7Vと
現 行 電 池 で は最 も高 い
値 を示 す. 正 極:
充電 放電
負 極:
(2.36) 放電 充電
電 池:
(2.37)
充電 放電
(2.38)
コバ ル トは 資 源 的 に量 が 少 な く,価 格 変 動 が激 し い とい う欠 点 が あ るた め,安 価 で か つ 高 容 量 の 代 替 物 質 が 精 力 的 に探 索 され て い る.一 部 で よ り安 価 な マ ンガ ン酸 リ チ ウ ム(LiMn2O4)が とLiMn2O4か
らMnが
使 用 され 始 め た が,若 干 容 量 が 少 な く,高 温 に な る
溶 解 し,性 能 が劣 化 す る欠 点 が あ る.そ の た め 安 価 で,
高 容 量 の正 極 活 物 質 が探 索 され て い る. 負極 材 料 で あ る カ ー ボ ン は そ の 出発 物 質 や 炭 素 化 プ ロ セ ス な どに よ って さ ま ざ まな 結 晶 構 造,微 細 構 造 を とる こ とが知 られ て お り,ど の よ うな カ ー ボ ン を採 用 す るか に よっ て,そ の 充 放 電 容 量,サ
イ クル 寿 命 が大 き く変 化 す る.結 晶 化 度 の
高 い 黒 鉛 は 炭 素 原 子 が 六 角 網 平 面 状 に 結 合 した 層 が積 層 した 構 造 を示 して お り, リチ ウ ム イ オ ン は そ の 層 間 に取 り込 まれ て 層 間 化 合 物 を形 成 す る.炭 素6個 して リチ ウ ム1個
に対
が配 位 した状 態 の と き,最 も吸 蔵 量 が 多 くな り,372mAh・g-1
図2.10
リチ ウ ム イ オ ン二 次電 池 の 充 放 電
とい う理 論 容 量 とな る.こ れ を上 回 る可 能 性 の あ る非 晶 質 炭 素 や 結 晶 構 造 の異 な る炭 素 の探 索 研 究 が 活 発 に行 わ れ て い る.炭 素 材 料 よ り,数 倍 高容 量 が 期 待 で き るス ズ,シ
リコ ン な ど を負 極 活 物 質 に 用 い る研 究 が 活 発 に続 け られ て い る.
電解 液 に は,た
と え ば,6フ
ン カ ー ボ ネ ー ト(EC)と
ッ化 リ ン酸 リチ ウ ム(LiPF6)を
ジエ チ ル カ ー ボ ネ ー ト(DEC)の
溶解 したエ チ レ
混 合 溶 媒 が 用 い られ て
い る.大 型 化 され た と きの い っ そ う の安 全 性 を求 め,難 燃 性 溶 媒 の合 成 研 究 も行 わ れ て い る. 電 池 構 造 例 を図2.11に 示 す.正 極 お よび 負 極 材 料 粉 体 を 溶 剤 や バ イ ン ダ(ポ リフ ッ化 ビニ リ デ ン な ど),必 要 に応 じ導 電 剤 を 加 え て ペ ー ス ト状 に した もの を 前 者 は ア ル ミニ ウム 箔 に,後 者 は銅 箔 に塗 布 した 後,セ
パ レー タ(ポ
リエ チ レ ン
の微 孔 性 フ ィル ム)を 介 して三 者 を 渦 巻 き状 に巻 く こ とに よ って 円筒 状 と し,電 解 液 と と もに電 池 容 器 に封 入 さ れ て い る.ま た,楕
円状 に巻 い た もの を角 形 容 器
に充 填 した 電 池 も生 産 され て い る.こ の電 池 は電 圧 が4 .5Vを
超 え る と電 解 液 の
分 解 が 起 こ る可 能 性 が あ り,ガ ス発 生 に よ り電 池 内 圧 が 上 昇 し危 険 で あ る.そ で,充 電 器 の 故 障,誤
用 に よ る過 充 電,過
放 電,あ
る い は組 電 池 に お け るバ ラ ン
ス の 崩 れ で 容 量 の少 な く な った 不 良 電 池 に過 充 電,過 し な い よ う に,安 い る.ユ
こ
放 電 が な され た 場 合 も破 裂
全 機 構 が組 み 込 ま れ て
ー ザ ー の 要 求 に合 わ せ て 製 造 さ
れ る の で 電 池 寸 法 は さ ま ざ ま で あ る.容 量700∼1650mAhの 池(直 mm)と
数種 類 の 円筒 形 電
径14.8∼18.8mm,高
さ50∼65
容 量500∼1600mAhの
角形 電 池
(厚 さ5.4∼14.8mm,幅28.7∼34.2 mm,高
さ47.1∼67.9mm)が
て い る.最
近 は,ゲ
製 造 され
ル 状 ポ リマ ー 電 解 質
を 使 用 す る 薄 型 電 池(厚 も量 産 さ れ て お り,携
さ4mm以
帯 電 話 や ノ ー ト型
パ ソ コ ン に 搭 載 さ れ て い る.放 形 状 に は,放
電 曲線 の
電 に つ れ 電 圧 が な だ らか に
低 下 し て い く タ イ プ と,平 し,放
下)
坦 な ま ま進 行
電 末 期 で 急 に低 下 す るタ イ プが あ
図2.11 円 筒形 リチ ウム イ オ ン二 次 電 池 の 構 造
るが,こ
れ は負 極 材 料 で あ る炭 素 の 種 類 に依 存 す る.
ハ イ ブ リッ ド車,電
気 自動 車 用,あ
る い は据 え置 き型 電 源 と して の大 型 リチ ウ
ム イ オ ン電 池 の 開 発 研 究 も行 わ れ て い る.
2.3.3 燃
料
電
池
火 力 発 電 所 や 自動 車 で の 化 石 燃 料 の 大 量 消 費 に よ り放 出 され る二 酸 化 炭 素,あ るい は硫 黄 酸 化 物 や 窒 素 酸 化 物 に よ る地球 規 模 の 環 境 汚 染 が 深 刻 な 問題 とな って い る.わ が 国 で は,電
力 と運 輸 の 両 部 門 で 放 出 され る二 酸 化 炭 素 量 が 全 体 の50
%を 占 め て お り,低 公 害 の新 しい発 電 装 置 や輸 送 用 動 力 源 の 早 急 な実 現 が 強 く望 まれ て い る.こ の よ うな観 点 か ら,最 も期 待 され て い る エ ネ ル ギ ー源 の1つ が 燃 料 電 池 で あ る.図2.12に 右 側 か ら空 気(酸
よ り,そ の 原 理 を説 明 す る と,左 側 か ら燃 料 の 水 素 を,
素)を 入 れ て や る と,そ れ ぞ れ 電 極 に付 与 さ れ た 触 媒 の作 用 で
次 の 反 応 が 進 行 し,負 極 か ら放 出 され た 電 子 は外 部 回路(負 荷)を
通 っ て,正 極
に 流 れ る.こ の間 で 電 球 を点 灯 した り,電 子 機 器 を作 動 させ た りす るわ けで あ る. 正 極:1/2O2+2H++2e-→H2O
E°=1.229V
(2.39)
負 極:H2→2H++2e-
E°=0V
(2.40)
電 池:H2+1/2O2=H2O
U°=1.229V
図2.12 燃 料 電 池 の 原理
(2.41)
全 体 と して,水 素 が燃 焼 し て水 が で き る反 応 で あ り,水 素(燃
料)が 供 給 され
て い る 間 は 発 電 が 持 続 す る.充 電 が で きな い こ とか ら,一 次 電 池 の1種 で もあ る.実 際 の 起 電 力 は 燃 料 の種 類 に よ っ て若 干 異 な るが,た
か だ か1V程
度で あ
る か ら,大 電 圧 を得 るた め に は,単 セ ル を数 百 セ ル積 層 す る. こ こで 燃 料 電 池 の エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 に つ いて 考 え る.す で に 述 べ た よ うに, 電 池 は熱 機 関 を用 い ず 反 応 物 質 の化 学 エ ネ ル ギー を直 接 電 気 エ ネ ル ギ ー に変 換 す る シ ス テ ム で あ る か ら,原 理 的 に は,ΔG° を す べ て 電 気 エ ネ ル ギ ー に 変 換 で き る.一 方,物 質 の 燃 焼 に よっ て 得 られ る エ ネ ル ギ ー,ΔH°(エ
ン タ ル ピ ー変 化)
は ΔG° との 間 に次 の 関係 が あ る. ΔG°=ΔH°-TΔS° こ こ に,Tは
(2.42)
絶 対 温 度,ΔS° は エ ン トロ ピー 変 化 で あ る.最 大 エ ネ ル ギ ー 変 換
効 率 εは ε=ΔG°/ΔH°=(ΔH°-TΔS°)ΔH° で 示 され,TΔS°
(2.43)
の み が 変 換 時 に お け る損 失 分 とな る.燃 料 電 池 を25℃ で 作 動 さ
せ る とす る と式(2.41)に -237.1kJ・mol-1(H2Oが
対 す る ΔH° と ΔG° の 値 は そ れ ぞれ-285.8kJ・mol-1, 液 体 の 場 合)な
の で,ε は83%も
燃 料 電 池 は電 解 質 の種 類 に よ っ て分 類 され,い
の 高 効 率 とな る.
くつ か の 燃 料 電 池 類 が 存 在 す
る. a. 固 体 高 分 子 電 解 質型 燃 料 電 池 電 気 自動 車 駆 動 用 電 源 と して 最 も注 目 さ れ て い る のが,小 出 力 密 度 が 期 待 で き る高 分 子電 解 質 型 燃 料 電 池(polymer PEFC)で
型 軽 量 で 高効 率 ・高 electrolyte fuel cell,
あ る.最 近,世 界 の 主 要 自動 車 メ ー カ ー が 一 斉 に 開 発 に着 手 し た た
め,産 業 界 全 体 を 巻 き込 ん だ 開 発 競 争 が 全 世 界 的 に始 まっ て い る.こ の 電 池 は, 水 素 イ オ ン の み を 透 過 す る フ ッ素 系 イ オ ン交 換 性 高 分 子 膜 を 電 解 質 に 用 い, 60∼100℃ の比 較 的 低 温 で 作動 す る.反 応 式 は式(2.39)∼(2.41)で 用 のPEFCの
性 能 と して は,0.7A・cm-2で
り,こ れ を200∼300セ
単 セ ル 電 圧0.7∼0.8Vが
あ る.自 動 車 目標 で あ
ル 積 層 し,ス タ ッ ク とす る.水 素 を高 圧 タ ン ク,水 素 吸
蔵合 金 や液 体 水 素 タ ン ク に貯 蔵 して 用 い る方 式 とメ タ ノ ー ル な どの液 体 燃 料 を車 上 で 水 素 に 改 質 して供 給 す る方 式 が 検 討 さ れ て い る.前 者 で は,か な り高 性 能 化 が進 ん で い るが,コ
ス ト,水 素 充 填 ス タ ン ドの イ ン フ ラ整 備 や 走 行 可 能 距 離 な ど
の 点 で 実 用 的 に問 題 が あ る.後 者 は,ガ ソ リ ン車 並 み の 利 便 性 を有 す るが,改 質
器 の 小 型 化,メ
タ ノ ー ル な どの 燃 料 の 分 解 時 に発 生 す るCOをppmレ
除 去 す る こ と,始 動 時 間 の短 縮 な どの 解 決 が 必 要 で あ る.Ptは
ベ ル まで
優 れた負極 触媒
で あ る が,わ
ず か 数ppmのCOが
混 在 す る と失 活 し,電 圧 低 下 が 生 じ る.現 在
は,Pt-Ru合
金 に よ り100ppm程
度 のCOが
安 価 な 耐CO被
許 容 さ れ る よ う に な っ た が,よ
毒 触 媒 の 開発 が 待 た れ る.正 極 触 媒 はPtが
り
主 流 で 発 電 効 率 は50
%以 上 の 高効 率 を実 現 して い るが,新 触 媒 の 発 見 に よ る さ ら な る大 幅 効 率 向 上 や Pt使 用 量 低 減 の 余 地 が あ る.わ が 国 で は2002年
末,世 界 に先 駆 け 国産 の 燃 料 電
池 車 が 実 用 化 され た.た だ し,価 格 は い まだ 非 常 に 高 く,寿 命 を は じめ,解 決 す べ き点 は 多 い が,こ
れ らが 克服 され,安 価 な 燃 料 電 池 車 の 普 及 が 待 た れ る.さ
ら
に,燃 料 電 池 の 改 善 も さ る こ とな が ら,安 価 な 水 素 製 造 技 術 の 開 発 が 必 要 で あ る.将 来 的 に は太 陽 光 発 電 や 風 力 発 電 で 発 電 した電 力 で,水
の電 気 分 解 を行 い,
得 られ た水 素 ガ ス で燃 料 電 池 を作 動 させ る時 代 が 来 る と思 わ れ る.ま た,電 力 の 得 られ る給 湯 シ ス テ ム と して 都 市 ガ ス やLPGを
燃 料 とす る家 庭 用 燃 料 電 池 の 開
発 も進 め られ て い る. b. ア ル カ リ型 燃 料 電 池 電 解 液 にKOH水
溶 液 を用 い,100℃
以 下 の 低 温 で作 動 させ る.純 水 素,純
素 を用 い る高 エ ネル ギ ー 密度 電 源 と して,ア の電 源 に採 用 され,実
酸
メ リカ の ア ポ ロ宇 宙 船(1968∼1972)
用 化 され た.電 解 液 が 二 酸 化 炭 素 に よ り劣 化 す るの で,一
般 商 用 電 源 と して は二 酸 化 炭 素 を多 量 に 含 む ガ ス,た
と え ば天 然 ガ ス な どの 化 石
燃 料 を水 蒸 気 改 質 した粗 製 水 素 を そ の ま ま燃 料 に 用 い る発 電 シ ス テ ム に は 不 適 で あ り,燃 料 と して純 水 素 と純 酸 素 が で き る特 殊 用 途 に 限 られ て い る.電 池 反 応 は 正 極:1/2O2+H2O+2e−=2OH− 負 極:H2+2OH−=2H2O+2e−
電 池:H2+1/2O2=H2O
E°=0.401V
(2.44)
E°=−0.828V
(2.45)
U°=1.229V
(2.46)
c. リ ン酸 型 燃 料 電 池 高 濃 度 の リン酸 水 溶 液 を電 解 液 と して 用 い,正 極 に は天 然 ガ ス や メ タ ノー ル を 改 質 す る こ と に よ っ て得 られ る水 素 を,負 極 に は 空 気 を用 い,約200℃
で発 電 を
行 う.燃 料 を脱 硫 後 改 質 器 で 次 の反 応 に よ り,水 素 が 主 成 分 の ガ ス に 改 質 す る. CH4+H2O=CO+3H2
(2.47)
CH3OH+CO=CO+2H2 この と き生 成 す るCOは CO2に
(2.48)
電 極 の触 媒 を被 毒 す る の で,変
成器 で 次 の反 応 に よ り
変 換 す る. CO+H2O=CO2+H2
(2.49)
出 力 電 圧 は1セ ル あ た り0.6∼0.8Vと 転 さ れ(図2.13),実
低 い の で,直 列 に 数 百 セ ル を 積 層 して 運
用 化 が始 ま っ た.発 電 に よ るエ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 は40%程
度 で あ るが,燃 料 の 改 質 時 に発 生 す る熱 も暖 房 や 給 湯 に利 用 す る と全 エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 は50∼80%に
達 す る.
d. 溶 融 炭 酸 塩 型 燃 料 電 池 次 世 代 の 電 池 と して 開 発 が 進 め られ て い る この 電 池 は,電 解 と してLi2CO3, K2CO3の
共 晶 塩 を用 い,650℃
め に,γ-LiAlO2が
の 溶 融 状 態 で 作 動 す る.こ の 流 体 を 安 定 化 す るた
混 合 さ れ て い る.そ の 反 応 は
正 極:CO2+1/2O2+2e−=CO32−
負 極:H2+CO32−=H2O+CO2+2e−
(2.50)
電 池:H2+1/2O2=H2O
(2.51)
(2.52)
通 常 の 燃 料 電 池 の よ う に プ ロ トン の 移 動 で は な く,CO32− が 移 動 す る の で あ る が,全
反 応 は 同 じで あ る.こ の電 池 と後 述 の 固 体 酸 化 物 型 燃 料 電 池 は リ ン酸 型 燃
料 電 池 よ り高 効 率 が期 待 され て い る.そ れ は,高 温 作 動 の た め 酸 素 還 元 反 応 の過 電 圧 が よ り小 さ くな り,出 力 時 の 電 圧 を 高 く保 持 で きる た め で あ る.溶 融 炭 酸 塩
図2.13
リン酸 型 燃 料 電 池 の 単 セ ル の 構 成 これ を 数 百 セ ル 積 層 す る.
型 で は 単 セ ル あ た り,150mA・cm−2,0.8V以
上 を 目標 とし て い る.
e. 固 体 酸 化 物 型 燃 料 電 池 この 電 池 は 酸 化 物 イ オ ン(O2−)伝
導 性 固 体 電 解 質 を用 い,1000℃
させ る.電 解 質 と して は,安 定 化 ジル コニ ア が 主 流 で,ZrO2に
付 近で作動
カル シアや イ ッ
トリア な どを添 加 し て焼 成 した 焼 結 体 が 用 い られ る.電 池 反 応 は 正 極:1/2O2+2e−=O2− 負 極:O2−+H2=H2O+2e−
(2.53)
(2.54)
電 池:1/2O2+H2=H2O
電 極 材 料 と して,高 で安 定 な物 質,負
(2.55)
い 電 子 伝 導 性 を もつ必 要 が あ り,正 極 に は高 温 酸 化 雰 囲 気
極 に は水 素 お よび 還 元 性 雰 囲 気 に 強 い材 料 を用 い る必 要 が あ
る.前 者 に 試 用 さ れ て い る の はLaCoO3やLaMnO3を ト型 酸 化 物,後
主 体 と した ペ ロ ブ ス カ イ
者 に は 多 孔 性 ニ ッケ ル ま た はニ ッケ ル ‐安 定 化 ジ ル コニ ア サ ー メ
ッ トの 使 用 が 考 え られ て い るが,こ
れ は正 極 材 料 に比 べ て 技 術 的 問 題 が 少 な いた
め で あ る.い ず れ も,電 池 の昇 降 温 時 に固体 電 解 質 と電極 界 面 に剥 離 が起 こ るの を 防 ぐた め,固 体 電 解 質 と同 程 度 の熱 膨 張 率 を有 して い る必 要 が あ る.固 体 酸 化 物 型 燃 料 電 池 で は,小 型 化 お よび低 温 化 の 開 発 が 活 発 に 行 わ れ て い る. 以 上,代 表 的 な一 次,二 次 お よ び燃 料 電 池 に つ い て 簡 単 に述 べ た が,他 くの 電 池 が あ る.そ れ らの 詳 細 は他 の専 門 書 を見 て欲 し い4−6).
に も多
3 電
解
大 学 入 試 問 題 で しば し ば食 塩 水 の電 気 分 解 が 取 り上 げ られ る.高 校 の 化 学 で は 食 塩 水 の 電 気 分 解 でH2,NaOH,Cl2が
生 成 す る と教 え て お り,こ れ を頭 に 入
れ て お か な い と大 学 入 試 で 失 敗 す る.工 業 電 解 で は高 度 な電 解 技 術 を使 っ て い る の で 確 か に こ の通 りで あ るが,身 近 に あ る電 極 を使 っ て実 験 して み る と陽極 か ら 発 生 す る ガ ス に は か な り多 くの酸 素 が 混 じ っ て い る こ とに 驚 く.Pt電 5%く
ら い の食 塩 水 の 電解 で は酸 素 が50%も
極 を使 い,
生 成 す る こ とが あ る.塩 素 は大 変 危
険 な物 質 で あ る の で,中 学,高 校 の化 学 の 授 業 で 演 示 さ れ る こ とは少 な い し,分 析 す る に は そ れ な りの 準 備 が 必 要 で あ る.し た が っ て,こ の 事 実 を知 る余 地 も な い か も知 れ な い が,理 論 は ど うか,ど
う し て こ うな る の か を知 っ て お く こ と は と
て も重 要 で あ る. 最 近,か
な り濃 い 食 塩 水 を電 気 分 解 し て もH2とO2し
か 発 生 し な い電 極 が 開
発 され て お り,こ れ が 工 業 化 さ れ る こ と に な る と ます ます 複 雑 に な る.食 塩 水 の 電 気 分 解 で は理 論 的 に は水 の 電 気 分 解 でH2とO2が い とい うの が 正 解 だ が,な ぜCl2が 発 生 し,NaOHも
発 生 して,NaOHは
で きな
生 成 す る の だ ろ うか.
硫 酸 水 溶 液 を電 気 分 解 す る と理 論 的 に は水 素 と酸 素 が 発 生 す る のが 当 た り前 で あ る.し か し,少 し条 件 を変 え て 実験 す る とオ ゾ ンや 過 硫 酸 を生 じ る.こ れ も そ れ ほ ど特 別 な条 件 下 で 行 っ て い るわ けで は な い.電 解 で オ ゾ ンや 過 硫 酸 をつ くる 装 置 は す で に実 用 化 され て い る. 電 気 化 学 反 応 で物 質 が 生 産 さ れ る とき に は どの 場 合 に も当 て は ま る こ とだ が, 2つ の た い へ ん重 要 な フ ァ ク タ ーが あ る こ とを知 っ て お か な くて は な らな い.す な わ ち,理 論 で は ど うか とい う,電 流 を流 さな い と きの 値 を論 じ る平 衡 論 と,電 流 を流 して 実 際 に物 質 を生 産 す る と きの 電 極 触 媒 作 用,電
極 反 応 速 度 を論 じ る速
度 論 の2つ で あ る.高 校 の化 学 で は これ を 区別 し て詳 し く教 え る こ と は難 しす ぎ
図3.1 い ろ い ろ な物質 の酸 化 還 元 電 位 とpHの
関係
る の で,工 業 的 に行 わ れ て い る事 実 だ け を教 え る こ とに な る. 図3.1に 電 解 に 関 係 した,い す.図3.1で
ろ い ろ な 物 質 の 酸 化 還 元 電 位 とpHの
は多 くの 反 応 が酸 性 条 件 下 で進 む こ とを 示 し て い るが,ア
条 件 下 で はH+の
代 わ りにH2Oが
反 応 し,OH−
が 生 成 す る.E−pHの
関係 を示 ル カ リ性 関 係 は同
じで あ る. この よ うな背 景 か ら この章 で は電 解 科 学 の 基 礎 事 項 と して フ ァ ラ デ ー の 法 則 か ら導 か れ る理 論 電 気 量,平 衡 論 に よ る電 極 電 位,理 論 電 解 電 圧,速 媒 の 理 論 を述 べ た後,実
度 論,電
極触
際 に 工 業 電 解 で生 産 され て い る実 例 を述 べ る.
3.1 電 解 科 学 の 基 礎 事 項
3.1.1 理 論 電 気 量 原 単 位 一 般 にn個
の 電 子 が 関 与 す る反 応 で,xmolの
場 合 の,反 応 に 関与 す る電 気 量Qは Q=nFx
物 質 が 生 成 あ る い は消 滅 す る
次 の よ うに表 され る. (3.1)
こ こで, Q:流
れ た 電 気 量:(=電
流 ×時 間)
n:反
応 に関 与 した 電 子 数
F:フ
ァ ラ デ ー定 数=96487C・mol−1
x:生
成 あ る い は消 費 した 物 質 の モ ル 数
す な わ ち,電
気 化 学 反 応 で は流 れ る電 気 量 は 反 応 に 関 与 す る 物 質 の 量 に比 例
し,単 位 電 気 量 に関 係 す るの は,物 質 の 種 類 で は な く,反 応 に関 与 す る電 子 数 と 物 質 の 数(モ
ル 数)で
あ る.こ れ を フ ァ ラデ ーの(電
気 分 解 の)法 則 と呼 ぶ.
実 用 的 に は物 質 の 量 は個 数 で は な く,質 量(重 量)mで この場 合 は物 質 の 原 子 量,分
子 量,式 量Mと
表 され る こ とが 多 い.
電 気 量が 関 係 す る こ とに な る.
m=(1/F)(M/n)Q 単 位 質 量,す 位Q°
なわ ちm=1の
(3.2) と き,電 解 に 必 要 な 理 論 電 気 量 を理 論 電 気 量 原 単
で 表 す こ と に す る と,式(3.2)か
ら
表3.1 無機工業電解で生産 される物 質 とその理論電気量原単位
Q°:=(n/M)F
(3.3)
が 得 られ る.無 機 工 業 電 解 で生 産 さ れ るい くつ か の物 質 の理 論 電 気 量 原 単 位 を表 3.1に 示 す. 式(3.3)か
ら明 らか な よ う に原 子 量(式 量)の
小 さ な物 質 の 理 論 電 気 量 原 単
位 は大 き く,単 位 質 量 あた り,た く さん の 電 気 エ ネ ル ギ ー を蓄 え て い る と考 え る こ とが で き る.電 池 にお い て は この原 単 位 が 大 き い もの ほ ど,容 量 の大 きな電 池 を つ くる こ とが で き る.
3.1.2 理 論 分 解 電 圧 フ ァ ラ デ ー の 法 則 は電 気化 学 反 応 に関 与 す る化 学 物 質 の量 と電 気 量 の 関係 を表 して い る が,こ まず,水
こ で は電 解 に お け る エ ネ ル ギ ー の 相 互 変 換 を取 り扱 う.
の 分 解 反 応 を電 解 で 行 う と きの必 要 な 電 圧 を考 え る.
H2O(l)→H2(g)+1/2O2(g)
(3.4)
水 素 と酸 素 の 燃 焼 熱286kJ・mol−1を
水 に与 え れ ば水 が 分 解 す る だ ろ う と,や
か ん の 水 を熱 し て も水 は決 し て水 素 と酸 素 に分 解 し な い.し 圧 を加 え る と水 は分 解 す る.1.23Vは
水 と水 素,酸
か し,1.23Vの
電
素 の もつ ポ テ ン シ ャ ル の 違
い を示 し,こ の エ ネ ル ギ ー は電 気 エ ネ ル ギ ー や 仕 事 で まか な う こ とが で き る.実 際 に は 過 電 圧 や 液 抵 抗 に相 当 した余 計 な電 圧 が 必 要 で あ るが,熱
を加 えて も起 こ
ら な い 反 応 を わ ず か な電 圧 で可 能 に す るの は電 解 の 大 きな特 長 で あ る. 熱 エ ネ ル ギ ー をエ ン タル ピ ー 変 化(ΔH°),電 (ΔG°)で 表 す こ と にす る と水 の反 応 式(3.4)は
気 や仕事 の部分 をギ ブズ 関数 次 の よ う に表 さ れ る.
(3.5) こ こ で,ΔS°
は エ ン ト ロ ピ ー 変 化 を 表 し,TΔS°
エ ネ ル ギ ー で あ る .ΔH°,ΔS°
は エ ン トロ ピ ー 変 化 に 伴 う 熱
は 温 度 に 対 し て あ ま り大 き く 変 化 し な い が,
ΔG° は 温 度 の 影 響 を 受 け る. ΔG° は 電 気 エ ネ ル ギ ー に 等 し い が,電
気 エ ネ ル ギ ー は(電
気 量)×(電
圧)で
表 さ れ る の で, ΔG°=(電
気 量)×(電
=(nF)×(U°)
圧) (3.6)
こ こ で,U°
は 標 準 状 態 に お け る理 論 分 解
電 圧 を 示 す.n,Fは 数,フ
反 応 に 関与 した 電 子
ァ ラ デ ー 定 数 を 表 す.水
298Kに
の電 解 で は
お け る 理 論 分 解 電 圧 は237000/(2×
96487)=1.23Vと 次 に,水
な る.
の 分 解,水
素 ‐酸 素 の 反 応 に お け
る ΔG° と 温 度 の 関 係 を 図3.2に
示 す。 図 に
は ΔH° と ΔG° の 関 係 が 示 さ れ て い る が, そ れ ぞ れ 熱 エ ネ ル ギ ー,電 え る と,そ
気 エ ネ ル ギ ー と考
れ ぞ れ が 温 度 と と もに ど う変 化 す
図3.2 水 の 分 解 に お け る熱 エ ネ ル ギー と 電気エ ネルギーの関係
る か が わ か る.
1気 圧 の も とで は水 は100℃ を超 え る と蒸 気 に な り,高 温 域 で の 様 子 を 見 る に は 水 を水 蒸 気(H2O(g))と
して 取 り扱 う方 が わ か りや す い.液 体 と気 体 で はエ
ネ ル ギ ー の 値 は異 な る が,概 念 と して は同 じで あ るの で,こ (気体)と
の 図 中 で は水 を蒸 気
し て考 えて い る.
ポ イ ン トー ΔH° と ΔG° の 違 い ― 水 素 と酸 素 が 反 応 し て 水 が 生 成 す る 際286kJ・mol−1の 池 で 反 応 さ せ る と237kJ・mol−1の
熱 が 出 る.一
方,燃
料電
電 気 エ ネ ル ギ ー が 出 る.電 気 の場 合 は237kJに
相 当 し た 電 気 を加 え れ ば 水 分 解 が 起 こ る の に,熱
の場 合 は286kJの
熱 を加 えよ う
と し て も反 応 が 進 ま な い の は な ぜ だ ろ う. ΔG° は電 気 な ど の 仕 事 を表 す 一 方,反 し て い る.ΔG°−RT
ln Kと
応 が 自発 的 に 進 む か ど うか の 指 標 を も示
い う 熱 力 学 の 関 係 式 が 示 す よ う に,水
水 素 と酸 素 を 生 成 す る反 応 は ΔG°=237kJか い,あ
る い は進 ま な い こ とが わ か る.そ
らK=10−42を
れ で もTΔS°
与 え,と
が分 解 して
て も進 み に く
に 相 当 した 熱 を 外 部 か ら取
り入 れ て い る の で10−42分 だ け は 反 応 が 進 む と考 え る こ と も で き る が,図3.2で 温 度 を上 げ て い く に した が っ てTΔS° う に な る の で,ΔG°
の 部 分 が 大 き くな り,熱
を 多 く吸 収 す る よ
は 小 さ くな る こ と を 示 して い る.
反 応 が 起 こ れ ば必 ず ΔH° に相 当 し た 反 応 熱 の 出 入 りが 生 じ,こ っ て も ほ ぼ 同 じ値 を と る.ΔG°>0の ま な い が,電 を1atmで
は
と き は,K